(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
斜面に立設され、斜面上方に一端を固定した吊りロープで支持された支柱と、斜面にポケットを形成するように斜面を覆って前記支柱に吊り下げられた第1の網状体と、この第1の網状体の上端から斜面側に、当該第1の網状体の斜面側の面に接触させることの無いように離間させて、上端が前記支柱に支持され、下部は斜面に固定されて張設された第2の網状体とから構成されてなり、支柱の上端にロープ支持金具が設けられ、前記ロープ支持金具の斜面下方側に設けられた孔を介して前記第1の網状体を吊り下げるための縦ロープを、前記ロープ支持金具の斜面上方側に設けられた孔を介して前記第2の網状体を張設するためのバックステーロープを、それぞれ支持するように構成したことを特徴とする落石防護装置。
第2の網状体は、高強度のロープを円形に曲げたリングロープが多数結合されて一条をなすリング列が平行に多数並べられ、隣りあうリング列を結合して形成された多数条からなるネットユニットを隣り合う者同士を結合して形成されたものである請求項1記載の落石防護装置。
斜面に立設した複数本の支柱を斜面上方に一端を固定した吊りロープで支持するとともに、支柱の頂部に吊り下げた第1の網状体によって斜面にポケットが形成されるように当該斜面を覆い、更に前記第1の網状体の斜面側に、当該第1の網状体の斜面側の面に接触させることの無いように離間させて、上端を前記支柱を介して支持し、下部は斜面に固定して第2の網状体を張設する落石防護工法であって、支柱の上端にロープ支持金具を設け、前記ロープ支持金具の斜面下方側に設けられた孔を介して前記第1の網状体を吊り下げるための縦ロープを、前記ロープ支持金具の斜面上方側に設けられた孔を介して前記第2の網状体を張設するためのバックステーロープを、それぞれ支持することを特徴とする落石防護工法。
第2の網状体は、高強度のロープを円形に曲げたリングロープが多数結合されて一条をなすリング列を平行に多数並べ、隣りあうリング列を結合して多数条からなるネットユニットを形成し、更にネットユニットの複数を隣り合う者同士結合して形成したものが用いられる請求項4記載の落石防護工法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記したポケット式落石防護装置は、落石防護網によって落石の衝撃を受け止めるものであるから、網自体に十分な強度が要求される。このような耐衝撃性を確保する手段としては、従前は網体の堅牢性のみに頼っていたもので、堅牢性確保のコストが嵩み高価になる問題を抱えている。
【0005】
また、経年変化などにより金網などが劣化したり、施工当時と現在では安定計算方法が異なってきたりするなどの要因で、本来有するべき強度を有していないような現場が近年では多く見られるようになっている。そして、このような現場をすべて改善するためには、従来の手法を踏襲すると、既存のものを撤去して新たな落石防護網を設置しなければならず、非常に煩雑でしかも高コストになる。
【0006】
ところで、ロープ(ワイヤー素材)をリング状に形成したリングロープの多数を結合して網状に構成した網状体は以下のような優れた特性を備える。
即ち、落石による衝撃を受けると、各リング部材が他のリング部材との結合箇所で斜面から遠ざかる外方へ引っ張られ、例えば結合箇所が周方向で4か所であれば、リング部材は矩形に変形し、このようにリング部材を変形させる力が吸収ネルギーとなり、支柱間のリング式ネットにおける全リング部材の変形はきわめて大きなエネルギー吸収を果たす。また、直接的衝撃を受けたリング部材から、その周辺リング部材への力の伝達が均一に行われ、リングロープからなる網状体全体でのエネルギー吸収がきわめて円滑に行われる(特許文献3)。
【0007】
そこで本発明は、既存のポケット式落石防護装置・工法に好適に適用でき、想定され得る落石被害を効果的に防ぐことができるものでありながら、施工性に富み、また、廉価に施工でき、加えて、落石防護網を設置した既存の斜面等にも簡単に適用できる新しい落石防護装置および工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために本発明に係る落石防護装置は、斜面に立設され、斜面上方に一端を固定した吊りロープで支持された支柱と、斜面にポケットを形成するように斜面を覆って前記支柱に吊り下げられた第1の網状体と、この第1の網状体の上端から斜面側に、当該第1の網状体の斜面側の面に接触させることの無いように離間させて、上端が前記支柱に支持され、下部は斜面に固定されて張設された第2の網状体とから構成されてな
り、支柱の上端にロープ支持金具が設けられ、前記ロープ支持金具の斜面下方側に設けられた孔を介して前記第1の網状体を吊り下げるための縦ロープを、前記ロープ支持金具の斜面上方側に設けられた孔を介して前記第2の網状体を張設するためのバックステーロープを、それぞれ支持するように構成する、という手段を採用する。
【0009】
第1の網状体を谷側に張設するとともに、第2の網状体を前記第1の網状体の斜面側に、当該第1の網状体の斜面側の面に接触させることの無いように離間させて張設することにより、第1の網状体は、従来からあるポケット式の落石防護装置、工法を活用しつつ、第2の網状体を用いることで、大きな落石による衝撃を先ずこの第2の網状体で的確に吸収し、第1の網状体にこの大きな落石の落下エネルギーが伝達するのを上手く低減または阻止し、その後、落石をこの第2の網状体に沿って安全な斜面下へと誘導させる。
【0010】
また、第1の網状体を張設するために斜面に立設した支柱に第2の網状体を張架するから、例えば既存のポケット式の落石防護装置・工法に採用される支柱を転用でき、新設、既存にかかわらず、大掛かりな装置や器具を必要とせず、簡単な施工を可能にする。
【0011】
以上の落石防護装置において、請求項2に記載のように、第2の網状体は、高強度のロープを円形に曲げたリングロープが多数結合されて一条をなすリング列が平行に多数並べられ、隣りあうリング列を結合して形成された多数条からなるネットユニットを隣り合う者同士を結合して形成されるものが望ましい。
その特有の変位挙動によって優れた落石エネルギーの吸収性を有し、落石の落下エネルギーの効果的な低減または阻止を可能にするからである。
つまり、リングロープを変形させる力が落石の衝撃を吸収するエネルギーとなり、極めて大きなエネルギー吸収を果たし、併せて直接的衝撃を受けたリングロープから、その周辺のリングロープへの力の伝達が均一に行われ、ネット全体でのエネルギー吸収がきわめて円滑に行われ、第1の網状体への大きな落石の衝撃が伝播するのを上手く低減または阻止できるからである。
【0012】
また、請求項3に記載のように、本発明に係る落石防護装置は、
前記バックステーロープの両端を地山に固定するアンカーと、下部を固定するエンドロープと、このエンドロープの両端を地山に固定するエンドアンカーを備えていることが望ましい。
第2の網状体を第1の網状体よりも斜面側に離間して張設するにあたって、上端並びに下部をバックステーロープとエンドロープに固定し、このバックステーロープとエンドロープを夫々アンカーで地山に固定する手段を採用したので、大掛かりな装置や器具を必要とせず、簡単な施工を可能にするからである。
【0013】
更に、バックステーロープの中間は前記各支柱の上端に設けられた取り付け金具に支えられるのが望ましい。
この取り付け金具を介してバックステーロープが支持されるので、第2の網状体の簡便な張設が可能になる。
【0014】
また、取り付け金具は、バックステーロープ支持用のジョイントピンと、このジョイントピンによって取り付け片に着脱自在に取り付けられる平板からなり、前記ジョイントピンは前記支柱の上端に設けた取り付け片の斜面側にある前記吊りロープ挿通用の挿通孔に挿通固定されるとともに、軸芯部にはバックステーロープを挿通する貫通孔を備え、前記平板は前記ジョイントピンによって取り付け片に着脱自在で、且つ、谷側部位を回動自在に支持され、斜面側には前記吊りロープのシャックルを支持する支持ピンを備えてなるのが望ましい。
第1の網状体を斜面に張設するための既存の構造に、バックステーロープのジョイントピンとこのジョイントピンを介して吊りロープの支持のための平板を回動自在に設けるだけの簡単な仕様変更で、第2の網状体を張設でき、大掛かりな装置や器具を必要とせず、簡単に施工できる。したがって、また、既設のポケット式の落石防護装置・工法にも簡便に適用でき、既に設けられた落石防護網を撤去して新たなものを再構築する場合に比べて、作業効率の大幅な改善と大幅なコストダウンを図ることができる。
【0015】
また、本発明に係る落石防護工法は、請求項4に記載のように、斜面に立設した複数本の支柱を斜面上方に一端を固定した吊りロープで支持するとともに、支柱の頂部に吊り下げた第1の網状体によって斜面にポケットが形成されるように当該斜面を覆い、更に前記第1の網状体の斜面側に、当該第1の網状体の斜面側の面に接触させることの無いように離間させて、上端を前記支柱を介して支持し、下部は斜面に固定して第2の網状体を張設する
落石防護工法であって、支柱の上端にロープ支持金具を設け、前記ロープ支持金具の斜面下方側に設けられた孔を介して前記第1の網状体を吊り下げるための縦ロープを、前記ロープ支持金具の斜面上方側に設けられた孔を介して前記第2の網状体を張設するためのバックステーロープを、それぞれ支持するようにした。
【0016】
以上の落石防護工法において、請求項5に記載のように、第2の網状体として、高強度のロープを円形に曲げたリングロープが多数結合されて一条をなすリング列を平行に多数並べ、隣りあうリング列を結合して多数条からなるネットユニットを形成し、更にネットユニットの複数を隣り合う者同士結合して形成したものが用いられることによって、リングロープを変形させる力が落石の衝撃を吸収するエネルギーとなり、極めて大きなエネルギー吸収を果たし、併せて直接的衝撃を受けたリングロープから、その周辺のリングロープへの力の伝達が均一に行われ、ネット全体でのエネルギー吸収がきわめて円滑に行われ、第1の網状体への大きな落石の衝撃が伝播するのを上手く低減または阻止できるようになった。
【0017】
また、請求項6に記載のように、
前記バックステーロープの両端を地山にアンカーで固定し、下部をエンドロープに固定し、更にこのエンドロープの両端をエンドアンカーで地山に固定して張設することで、第2の網状体を第1の網状体よりも斜面側に離間して張設するにあたって、大掛かりな装置や器具を必要とせず、簡単な施工が可能になる。
【発明の効果】
【0018】
このように、本発明によれば、第1の網状体と、この第1の網状体から斜面側に間隔を置いて第2の網状体を張設し、落石が生じた際には、先ずこの第2の網状体によって、その落下衝撃エネルギーを効果的に吸収でき、その後この第2の網状体に沿って落石を安全な斜面下へと誘導できるので、第1の網状体が経年変化などにより金網などが劣化したり、施工当時と現在では安定計算方法が異なってきたりするなどの要因で、本来有するべき強度を有していないような場合であっても、想定され得る、特に大きな落石により、この第1の網状体が破れたり、損壊したりする被害を効果的に防ぐことができる。併せて、施工性に富み、また、廉価に施工でき、新設、既存にかかわらず、殊にポケット式の落石防護装置並びに工法に好適に適用できる。
【0019】
また、本発明では、例えばポケット式の防護網等で、落石の衝撃エネルギー吸収能力が不足した場合にも本発明に係る落石防護装置・工法を追加、増設することができ、落石の衝撃エネルギー吸収能力を簡単に高めることができる。また、新たな落石発生源が判明し、例えば既設ポケット式の落石防護網等では落石の衝撃エネルギー吸収に不足が発生した場合にも、本発明による装置・工法の追加増設が簡便に行える。更には、想定外の落石が発生し、例えば既設のポケット式の落石防護網等の一部が破損した場合でも、破損個所を補修するときに、本発明に係る装置・工法を一部分に適用して簡便に補強をすることができるなど、多くの利点を有する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に示す実施例を参照しながら説明する。本実施例は、主としてポケット式落石防護工法並びに装置について例示しているが、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づく種々の変更が可能である。
【0022】
図1は本発明の落石防護装置1が斜面に設置された状態を横方向から見た全体側面図、また、
図2は
図1における部分を見た正面図である。
本発明の特徴的な構成は、
図1に示すように、斜面Gの谷側に張設された第1の網状体2としての、例えば金網で形成されたポケット式落石防護網(以下単に第1の網状体と言う)と、この第1の網状体よりも斜面側で、当該第1の網状体の斜面側の面に接触させることの無いように離間させて張設した第2の網状体3としての、例えば高強度のロープをリング状に形成して成るリングロープの多数を結合したリング式ネット(以下単に第2の網状体と言う)とを用いる点にある。
【0023】
第1の網状体2は金属線を網状に組み合わせた金網を用いている。この金網は小径の礫等を堰き止めるために網目が細かく成形されている。例えば、織金網、亀甲金網、クリンプ金網、菱形金網、蛇篭、溶接金網など種々のものが採用されるが、以上の種類に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0024】
また、第2の網状体3はワイヤーロープを円形に曲げた多数のリングロープ4からなるリング式ネット5が使用される。リングロープ4は例えば50cm直径のものを採用している。従って、第1の網状体2の目合いよりも大きな目合いを有する。このリング式ネット5は、
図2に示す多数のリングロープ4からなるネットユニット6の結合体である。
図4(A)に示すように、複数のリングロープ4が連結されて一条のリング列7を形成し、このリング列7の何本かを左右に連結して前記ネットユニット6が形成される(
図3)。そして、このネットユニット6の端部に位置するリングロープ4を他のネットユニット6と相互に結合してリング式ネット5が得られる。このリングロープ4は、種々の材料を用いて製作することが可能で、設置場所の種々の条件なども勘案して、例えば炭素繊維やアラミド繊維樹脂や全芳香族ポリエステル樹脂等の高強度繊維、更には超高強度ポリエチレン繊維等も採用できる。
【0025】
また、一本のリング列7は、
図3、同4(A)に示すように、リングロープ4が相互に交差して連結される。そして、一例を示すと、個々のリングロープ4は、約12mm直径で、1.6mないし1.7m程度の長さの一本のワイヤーロープの両端を重ねて金具Cで覆い、それをかしめるアイロック加工によって、例えば上記したような50cm直径のリングに形成される。なお、リングロープ自体は反発性の高いものであるので、リングロープ4は簡単に形が大きく崩れることはない。このようなリングロープ4を例えば5個交差させると、2.5mの長さを有した一条のリング列7が形成される。
【0026】
前記したネットユニット6は、
図3に示すように、このようなリング列7を例えば5本平行に並べ、各リング列7のリングロープ4を隣り合うリング列7のリングロープ4と相互に連結し、2 . 5m×5mの広さとしてある。このネットユニット6は、予め工場生産されてもよく、必要に応じて現場でリング列7同士を連結した所定幅、高さのネットユニット6を形成することもできる。もちろん、リング列7も予め工場生産されることも可能である。
【0027】
尚、前記リングロープ4の直径は適用される現場の状況に応じて、例えば30cm, 40cmなど適宜の寸法のものを選択できる。また、
図4(A)に示される相互に交差するものに代えて、
図4(B)に示すように、単に縦方向に並列させ、互いの接触部を連結コイルCAによって連結してもよい。
【0028】
図1、
図2に示すように、第1の網状体2はその上縁が、斜面Gの上方のほぼ等しい高さ位置に所定間隔を置いて当該斜面Gに打ち込まれて支柱列を構成している、H形鋼で形成された支柱8の上端に一体的若しくは一体的に取り付けられた側面視で欧文字のT字型をしたロープ支持金具9(
図5参照)を介してこの支柱列に支えられている。当該支柱8は斜面の地山に埋め込まれたアンカー10上端に取り付けたべースプレート11にヒンジ12によって回動可能に支持されている。そして各支柱8には、これらの起立姿勢を維持させるために、吊りロープ13が前記ロープ支持金具9の斜面側に係合されたシャックル14(
図5参照)を介して連結されている。この吊りロープ13はこの支柱8の山側の所定位置に打ち込まれた吊りロープ用アンカー15に固定されている。更に具体的には、第1の網状体2の上部がこの支柱8上部の谷側の側面に設けたフック部材16(
図5、6参照)に直接に係止されるとともに、上縁がこの支柱間隔と等しい箇所を縦ロープ17を介して、前記ロープ支持金具9の谷側に設けられたシャックル18により吊り下げ支持されている。当該第1の網状体2の下端は、言うまでもないが、斜面Gの下端、平地G1との境目近傍まで延設して張設されている。
【0029】
前記ロープ支持金具9は、
図5,6に示すように、H形鋼を採用した支柱8のウェッブ8Aの上端に溶接により一体的に固定された左右一対の取り付け片19と、この取り付け片19の谷側と斜面側との二か所にボルト挿通孔20を備えて成る。谷側のボルト挿通孔20には前記縦ロープ17の上端を固定するシャックル18の係合ボルト18Aが挿通され、この係合ボルト18Aによって前記シャックル18を前記取り付け片19に固定する。この支柱8は、H形鋼の他にも、例えば、丸形鋼管、角形鋼管、山形鋼、I形鋼、T形鋼、みぞ形鋼、Z形鋼など各種の形態のものを採用できる。
【0030】
次に、前記第2の網状体3を張設するための取り付け金具21をはじめとする具体的な構造について、
図5, 6の記載に基づいて説明する。
この第2の網状体3を斜面Gに張設するにあたっては、上端をバックステーロープBRを介して、また下部はエンドロープERを介して第1の網状体2の斜面側の面2Aに接触させることの無いように離間させてこの第2の網状体3を第1の網状体の斜面側に張設してある。この第2の網状体の下端縁を固定しないで、エンドロープERによって下端縁からやや上方に離れた部位を地山に固定するのは、落石を斜面下方の安全な部位に誘導案内するためである。
【0031】
第1の網状体2と第2の網状体3との離間寸法は、設置場所や落石の衝撃エネルギーの大小にもよるが、支柱8への係合部位(両網状体の間隔が最も狭い箇所)でも少なくとも10cm以上が望ましく、下部(両網状体の間隔が最も広い箇所)では少なくとも50cm以上が望ましい。
【0032】
取り付け金具21は、
図5に示すように、前記支柱8の上端の前記ロープ支持金具9の斜面側に固定されるもので、谷側にボルト挿通孔22を、また、斜面側には前記吊りロープ13の係止用のシャックル14を固定するためのピン23をそれぞれ備えて前記取り付け片19を左右から挟持する一対の平板24 と、この平板24の谷側に設けられた前記ボルト挿通孔22と同軸の前記取り付け片19に設けられたボルト挿通孔20に挿通され、且つ、軸心部に軸方向に沿って一端から他端に貫通した貫通孔25を備えたジョイントピン26とから構成されている。
【0033】
前記バックステーロープBRは、
図5に示すように、前記各支柱8の上端の各取り付け金具
21の前記ジョイントピン26の貫通孔25を通って、斜面の所定の幅にわたって張架されている。このバックステーロープBRは、
図1, 2に示すように、その両端が前記支柱8の山側の所定位置に打ち込まれたバックステーアンカー27に固定されて張架されている。また、前記エンドロープERは、第2の網状体3の下部で、斜面の所定の幅にわたって張架されている。このエンドロープERは、この第2の網状体3が張設される所定の幅よりも更に左右それぞれ横外方の斜面に打ち込まれたエンドアンカー28にその両端が固定されている。
【0034】
これらバックステーロープBRとエンドロープERとの間には、
図2に示すように、斜面横幅方向に所定間隔置きにガイドローブGRが、その上端をバックステーロープBRに、下端をエンドロープERにクロスクリップ29など公知の固定金具で適宜に固定されている。そして、前記第2の網状体3を構成するネットユニット6の上端のリングロープ4がバックステーロープBRに、また下部のリングロープ4がエンドロープERにそれぞれクロスクリップ29など公知の固定金具を介して固定される。バックステーロープPR、エンドロープER、更にはガイドロープGRは共にワイヤーロープが採用されている。
なお、これらの各ロープも、リングロープ4に採用される、例えば炭素繊維やアラミド繊維樹脂や全芳香族ポリエステル樹脂等の高強度繊維、更には超高強度ポリエチレン繊維等から得られるロープを利用できる。
【0035】
次に、落石防護工法を説明する。
先ず、決定された施工場所の設計図を作成する。
次いで、この設計図に基づき現地測量及びマーキングを施す。
【0036】
次に、アンカーの設置を施す。
先ずは、岩部用アンカーを設置する。具体的には、削岩機およびコンプレッサーを使用して穿孔し、ボアホールを形成する。ボアホールに所定のセメントカプセルを挿入し、その後にアンカーボルトを押し込み、撹拌して定着させる。このアンカーボルトは、前記支柱を立設するためのアンカー10、吊りロープ用アンカー15、バックステーアンカー27である。
【0037】
また、必要に応じ、岩部用アンカーの設置と並行して土砂部用アローアンカーを設置する。ニューマチックパンチャーおよび杭打ち機などコンプレッサーを使用して、この土砂部用アローアンカーを所定深さまで打ち込む。この土砂部用アローアンカーは、本実施例では、前記エンドアンカー28、第1の網状体2を張設するために張架される横ロープ30の両端を固定する横アンカー31の2種類である。
尚、説明の便宜上、
図1には横ロープ30並びに横アンカー31の記載は省略してある。
【0038】
アンカーの設置が完了したら、ポケット支柱8の設置に掛かる。支柱8の足元に設置した前記アンカー10にベースプレート11を取り付け、支柱本体をこのベースプレート11に対して前記ヒンジ12を介して取り付ける。また、支柱8の上端のロープ支持金具9の取り付け片19にはバックステーロープBRを通すための取り付け金具21を取り付けておく。
【0039】
次いで、前記第2の網状体3を張設するための各ロープ類、つまりはバックステーロープBR、エンドロープER、吊りロープ13を、端部には巻付クリップ33を装着し、打設終了し、所定の強度に達した前記各アンカーに接続する。バックステーロープBRは、前記支柱8に予め取り付けてある取り付け金具21のジョイントピン26の貫通孔25に通しながら張架しておく。このジョイントピン26は前記取り付け片19の反対側からナット26Aで固定される(
図5参照)。なお、吊りロープ13の他端は前記シャックル14を介して前記取り付け金具21の平板24に設けたピン23を介して支柱8に固定する。また、この吊りロープ13によって支柱8は所定の立設角度が保たれる。このシャックル14とピン23の係合は、
図5に示すように、シャックル14に挿通されたボルト14Aとナット14Bで行われる。
【0040】
次に、リング式ネット5を張設する。具体的な手順としては、先ず、バックステーロープBRにユニット化されたネットユニット6或いは設置場所に応じてリング列7等を、例えばクロスクリップ29等の固定具を用いて接合する。更に、ネットユニット6或いはリング列7同士をエックスクリップ等の固定具で順次接合し、最終的に、
図2に示す、リング式ネット5を形成する。引き続き、前記ガイドロープGR及びエンドロープERに、例えばクロスクリップ29等の固定具を用いて接合する。このような手順によって、先ず第2の網状体3であるリング式ネット5が張設される。
【0041】
このリング式ネット5の張設の後に、今度は第1の網状体2である金網の張設に取り掛かる。
この金網の張設は、通常のポケット式落石防護網の設置工法と同様である。
図2に示すように、予め斜面上下方向に適宜の間隔を置いて設置された複数本の横アンカー31にそれぞれ横ロープ30の両端を適宜に固定して、上下複数段にこれを張架する。また、前記各支柱8からは、その前記取り付け片19の谷側に設けられたボルト挿通孔20に装着されたシャックル18を介して縦ロープ17が最下段の前記横ロープ30にわたって張架される。このシャックル18は、
図5に示すように、ボルト18Aとナット18Bで固定される。したがってこれら縦・横の両ロープ17, 30によって格子が形成される。各ロープの交点はエックスクリップ32、また縦ロープ17の下端と最下段の横ロープ30は、巻付クリップ33等によって結合される。次いで、第1の網状体(金網)2をその上端縁を前記支柱8の谷側側面に固定してある前記フック部材16に適宜に結合すると共に、この第1の網状体2を縦・横のロープ17, 30に等間隔で適宜固定して第1の網状体2を張設する。
【0042】
このようにして、斜面Gに第1と第2の網状体2,3によるポケットPが形成され、また、前記第1の網状体2の斜面側に、上端から下端に至る全域にわたって当該第1の網状体2の斜面側の面2Aに接触させることの無いように離間した第2の網状体3が張設される。
【0043】
したがって、リング式ネット5を通過出来ない大きさの落石が発生するとこの落石Rは、金網からなる第1の網状体2に直接衝突することなく、先ずリング式ネット5による第2の網状体3で受け止められる。
第2の網状体3がこの落石Rによる衝撃を受けたとき、
図7(A)に示すように、衝撃力が衝撃中心からリングロープ4を伝達し外方へ均一に拡がっていき、その際に各リングロープ4が他のリングロープ4との連結箇所で外方へ引っ張られ、各リングロープ4は受ける引っ張り力に応じて変形し、リングロープ4が
図7(B)に示すように、谷側へ張り出した状態になり、その結果エネルギーが吸収される。この時、この第2の網状体3はその谷側に張設されている前記第1の網状体2に対して、上端から下端に至る全域にわたって当該第1の網状体2の斜面側の面2Aに接触させることの無いように離間して張設されているので、落石の衝撃力を直接にこの第1の網状体2に伝達せず、第2の網状体2で分散・吸収した後、この落石Rを、
図7(C)に示すように、この第2の網状体3に沿って下方へ誘導し、その下端部から第1の網状体2側へ誘導して、安全な斜面下へ排出することが可能になる。
【0044】
その結果、第1の網状体2が、たとえ経年変化などにより劣化したり、施工当時と現在では安定計算方法が異なってきたりするなどの要因で、本来有するべき強度を有していないような現場であっても、この第1の網状体2の安全性を確保できる。
【0045】
以上の説明は、新設の場合を例示したものであるが、本発明に係る落石防護工法ならびに装置は既設のポケット式の落石防護網にも適用できる。
既設のポケット式落石防護網は、
図8に示すように、支柱8の上端の取り付け片19の谷側と斜面側とのそれぞれのボルト挿通孔20に取り付けられたシャックル18を介して(吊りロープ13側は省略する)、第1の網状体2と吊りロープ13が張架されている。 この状態において、この第1の網状体2の強度を保障する必要が出た場合、
図1,2に示すように、先ずは、予め決められた位置に前記バックステーロープBRとエンドロープERのそれぞれのアンカー27, 28を、先の実施例に記載の要領で固定する。
【0046】
次いで、前記吊りロープ13と取り付け片19との結合を解除する。
尚、解除するに当たっては、支柱8の所期の起立姿勢を維持する意味からも、支柱8を前もって補足的に支持する方途を施しておく必要があることは言うまでもない。
吊りロープ13を取り付け片19から取り外した後、開放された斜面側の前記ボルト挿通孔20に前記平板24をその斜面側の挿通孔22の位置合わせをしつつ、前記ジョイントピン26を両孔20, 22に挿通し、この平板24を取り付け片19に、このジョイントピン26を中心にして上下に回動自在に取り付ける。
この平板24の取り付けが完了したら、吊りロープ13をシャックル14を介して前記ピン23に固定するとともに、バックステーロープBRをこのジョイントピン26の貫通孔25を通しながら張架し、両端をバックステーアンカー27に固定する。
以下は先に記載した実施例の手順に従って、エンドロープER、ガイドロープGRを張架し、その後、第2の網状体3を張設する。
これによって、斜面Gの既設の第1の網状体2の斜面側に、上端から下端に至る全域にわたって当該第1の網状体2の斜面側の面2Aに接触させることの無いように離間した第2の網状体3が張設される。
【0047】
このように構成された第2の網状体3は、先の実施例と同様に、落石Rの衝撃力を直接に第1の網状体2に伝達せず、この新設の第2の網状体3で分散・吸収した後、この落石Rをこの第2の網状体3に沿って下方へ誘導し、その下端部から第1の網状体2側へ誘導して、安全な斜面下へ排出することが可能になる。
その結果、第1の網状体2が、たとえ経年変化などにより劣化したり、施工当時と現在では安定計算方法が異なってきたりするなどの要因で、本来有するべき強度を有していないような現場であっても、この第1の網状体2の安全性を確保できる。
【0048】
特に、第1の網状体2よりも大きな目合いで、しかも高強度のロープからなる第2の網状体3を採用すれば、大きくて重い落石の高い落下衝撃エネルギーをこの第2の網状体3で的確に吸収して、第1の網状体2にこの大きな落石の落下衝撃エネルギーが伝達するのを上手く低減または阻止でき、その後、落石をこの第2の網状体3に沿って安全な斜面下へと誘導できる。一方で、第1の網状体2では、第2の網状体3で制止できない小さいサイズの落石もうまく制止できる
【0049】
尚、以上の構成において、図示しないが、前記取り付け金具21は、代替構造として、前記平板24を用いずに、基本的には、ジョイントピン26のみでも構成できるようにしたものである。
具体的には、ジョイントピン26を長尺にし、吊りロープ13のシャックル14をボルト14Aとナット14Bを介して、直接にこのジョイントピン26に係合する。この時、シャックル26がジョイント26から離脱しないように、
図5に示すジョイントピン26の頭部を、必要に応じて、更に大径にして、ストッパーの機能を持たせたり、あるいは、別部材で一枚若しくは二枚の当て板を前記取り付け片19に対峙させてジョイントピン26に軸支させ、この当て板と取り付け片19との間、あるいは二枚の当て板の間にシャックル14を配置する構成なども採用できる。使用部品点数を少なくできる上にコンパクト化を図れる上で有利である。長尺とは、前記ジョイントピン26の全長を、少なくとも前記吊りロープ13のシャックル14の幅を加えた寸法である。また、二枚の当て板を採用する場合には、更にこの二枚の当て板の幅分を加えた寸法である。