【文献】
飯島 泰藏,3.行列論II,情報解析学,日本,株式会社朝倉書店,1988年 3月15日,初版,第1刷,41〜67頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一台以上の送電装置と、前記送電装置から磁界により非接触でエネルギーを受電する一台以上の受電装置とを備え、前記送電装置と前記受電装置の合計が三台以上である非接触給電システムであって、
少なくとも一台の送電装置及び少なくとも一台の受電装置を含む、少なくとも三台の各送電装置及び各受電装置は、
前記各送電装置及び前記各受電装置のアンテナ間のインピーダンスに関するインピーダンス情報に基づいて決定された電流または電圧を、前記各送電装置及び前記各受電装置で同期させて、前記アンテナに供給する電源を備える非接触給電システム。
前記電源が供給する電流または電圧は、前記固有ベクトルXが規格化された規格化固有ベクトルを基準として予め決められた範囲のベクトルに、左から前記行列Cを乗じて得た行列の対応する成分に比例する請求項3に記載の非接触給電システム。
前記規格化固有ベクトルを基準として予め決められた範囲のベクトルと前記規格化固有ベクトルの差のベクトルの大きさの二乗は2−√2以下である請求項4に記載の非接触給電システム。
前記各送電装置及び各受電装置が備える電源はそれぞれ行列CXの成分のうち該電源が対応する成分に比例する電流または電圧を前記アンテナに供給する請求項3から5のいずれか一項に記載の非接触給電システム。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<第1の実施形態>
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、第1の実施形態における非接触給電システム1の構成を示す概略ブロック図である。非接触給電システム1は、送電システム10と、受電システム20とを備える。非接触給電システム1は、送電システム10から受電システム20へエネルギーを伝送させる。
【0025】
送電システム10は、第1の送電装置11と、第2の送電装置12と、同期信号生成部
13を備える。以下、第1の送電装置11、第2の送電装置12それぞれを親機ともいう。第1の送電装置11は、電源111と、アンテナ112とを備える。第1の送電装置11は、電源111とアンテナ112とが接続された回路である。電源111は、一例として電流源であり、電流I[1]を生成し、生成した電流をアンテナ112に供給する。アンテナ112は、電源111から供給された電流で周囲に磁界を発生させる。アンテナ112は例えばインダクタであり、そのインダクタンスはLである。
【0026】
第2の送電装置12は、電源121と、アンテナ122とを備える。第2の送電装置12は、電源121とアンテナ122とが接続された回路である。電源121は、一例として電流源であり、電流I[2]を生成し、生成した電流をアンテナ122に供給する。アンテナ122は、電源121から供給された電流で周囲に磁界を発生させる。アンテナ122は例えばインダクタであり、そのインダクタンスはLである。
【0027】
同期信号生成部13は、例えば第1の同期信号と該第1の同期信号よりも90度遅れた第2の同期信号を生成する。そして、同期信号生成部13は、生成した第1の同期信号を電源111と後述する電源121に出力する。また、同期信号生成部13は、生成した第2の同期信号を電源211と後述する電源221に出力する。同図では、同期信号生成部13から各電源への信号線は実線で示されているが、この第1の同期信号及び第2の同期信号の伝送は有線でも無線でもよい。
送電システム10の電源111と電源121は、同期信号生成部13から入力された第1の同期信号に同期した電流を生成する。受電システム20の電源211と電源221は、同期信号生成部13から入力された第2の同期信号に同期した電流を生成する。これにより、受電システム20の電源211と電源221の電流の位相は、送電システム10の電源111と電源121の電流の位相より90度遅れる。
【0028】
受電システム20は、第1の受電装置21と、第2の受電装置22とを備える。以下、第1の受電装置21、第2の受電装置22それぞれを子機ともいう。第1の受電装置21は、電源211と、アンテナ212とを備える。第1の受電装置21は、電源211とアンテナ212とが接続された回路である。アンテナ212は、第1の送電装置11が備えるアンテナ112が発生する磁界により誘導される電流を電源211へ供給する。また、アンテナ212は、第2の送電装置12が備えるアンテナ122が発生する磁界により誘導される電流を電源211へ供給する。アンテナ212は例えばインダクタであり、そのインダクタンスはLである。
電源211は、アンテナ212から供給された電流を受け取る。電源211は、一例として電流源であり、アンテナ212から供給された電流を用いて電流I[3]を生成する。電源211は、例えば生成した電流I[3]を不図示の負荷に供給する。
【0029】
第2の受電装置22は、電源221と、アンテナ222とを備える。第1の受電装置21は、電源221とアンテナ222とが接続された回路である。アンテナ222は、第1の送電装置11が備えるアンテナ112が発生する磁界により誘導された電圧下でその電圧に仕事をさせる方向に電流を流すことにより、電源211は電力を吸収する。アンテナ222は例えばインダクタであり、そのインダクタンスはLである。
電源221は、一例として電流源であり、アンテナ222の両端にかかる電圧から電流I[4]を生成する。
【0030】
ここで、全ての電源の周波数は、一例として50kHzである。全てのアンテナのインダクタンスLは一例として157μHで、xy面において直径が480mmの巻き線で、その巻き数が10である。ここで、y軸は図面に対して垂直な軸であり、図面を含む平面がy=0の平面である。全てのアンテナの巻き線の中心のy座標は一例として0である。全てのアンテナは、一例として左周りに巻かれた巻き線であり、巻き線の外側の端がプラス端子、巻き線の内側の端がマイナス端子である。これにより、全ての電流源の電流がプラスになったときに、全てのアンテナに同じ向きに電流が流れる。
また、全てのアンテナの組で相互インダクタンスは一例として4×4の実対称行列Mで表すことができる。である。具体的には、アンテナ112とアンテナ122の相互インダクタンスはM[1,2]である。アンテナ112とアンテナ212の相互インダクタンスはM[1,3]である。アンテナ112とアンテナ222の相互インダクタンスはM[1,4]である。アンテナ122とアンテナ212の相互インダクタンスはM[2,4]である。アンテナ122とアンテナ222の相互インダクタンスはM[3,4]である。
【0031】
親機と子機の位置関係は一例として以下の通りである。親機のアンテナと子機のアンテナ間のz方向の距離は、0.5mである。親機同士のアンテナ間のx方向の距離、及び子機同士のアンテナ間のx方向の距離は0.5mである。親機のアンテナと子機のアンテナ間のx方向の位置の違いはx
1[m]である。
【0032】
続いて、送電装置の送電エネルギーを一定にした場合に受電装置に最大のエネルギーが供給される条件、すなわち伝送効率が最大になる条件について説明する。ここでは、送電装置がN台(Nは正の整数)、受電装置がM台(Mは正の整数)ある場合を想定する。
k番目(kは正の整数)の送電装置の電源が放出するエネルギーPower[k]は、次の式(1)で表される。
【0034】
ここで、I[k]はk番目の送電装置の電源が生成する電流である。電流I
*[k]は、電流I[k]の複素共役である。E[k]はk番目の送電装置の電源が生成する電圧である。ベクトルからk番目の成分を抽出する行列をP[k]とする。ここで行列P[k]はk行k列の成分のみが1で他の成分は0の行列である。ここで、式(1)は、行列P[k]を用いて、次の式(2)で表される。
【0036】
ここで、上付きの符号〜は転置を表す。符号〜が上に付されたP[k]は、行列P[k]を転置した行列でありP[k]
〜と表す。以降、転置は上付きの符号〜で表す。同様に、符号〜が上に付されたI
*は、行列(列ベクトル)I
*を転置した行列(行ベクトル)でありI
*〜と表す。符号〜が上に付されたIは、行列(列ベクトル)Iを転置した行列(行ベクトル)である。アドミッタンス行列Yは、対角成分がアンテナの自己アドミッタンスを表し、非対角成分がアンテナ間の相互アドミッタンスを表す行列である。アドミッタンス行列Yのn行n列成分は、n番目のアンテナの自己アドミッタンスである。また、アドミッタンス行列Yのn行m列成分は、n番目のアンテナとm番目のアンテナの相互アドミッタンスである。
符号〜が上に付された行列Yは、行列Yを転置した行列である。符号〜が上に付された行列Y
*は、行列Y
*を転置した行列である。ここで、行列Y
*は、行列Yの複素共役である。行列(列ベクトル)E
*は、行列(列ベクトル)Eの複素共役である。
式(2)の最右辺の括弧内の第二項はスカラーであるから、転置しても値を不変である。そこで、式(2)の最右辺の括弧内の第二項を転置すると、式(2)は次の式(3)で表される。
【0038】
ここで、最右辺に含まれる行列Sの成分S[k]は、次の式(4)で定義される。
【0040】
ここで、行列E
*の上に符号〜が付された行列をE
*〜と表すと、E
*〜S[n]Eは、n番目の送電装置の電源が放出するエネルギーを表すから、子機が受電するエネルギーは次の式(5)で表される。
【0042】
ここで、式(5)の右辺ので、E
*〜とEに挟まれた部分を行列Bとすると、行列
Bは、次の式(6)で表される。
【0044】
次に、行列Bのn行m列成分をB[n,m]とすると、B[n,m]は次の値を取る。
(1)n、mがともに子機を表すときは、B[n,m]=Re[Y[n,m]]である。
(2)n、mがともに親機を表すときは、B[n,m]=0である。
(3)nが親機を、mが子機を表すときは、B[n,m]=Y[n,m]/2である。ここで、Y[n,m]は、アドミッタンス行列Yのn行m列の成分である。
(4)nが子機を、mが親機を表すときは、B[n,m]=Y[n,m]
*/2である。ここで、Y[n,m]
*は、アドミッタンス行列Yの複素共役の行列Y
*のn行m列成分である。
【0045】
上記の例では、B[n,m]がアドミッタンス行列Yを参照して決められたが、これに限らずインピーダンス行列を参照して決められてもよい。ここで、インピーダンス行列はアドミッタンス行列Yの逆行列である。インピーダンス行列は、対角成分がアンテナの自己インピーダンスを表し、非対角成分がアンテナ間の相互インピーダンスを表す行列である。
インピーダンス行列の場合も同様である。Y[n,m]=Y[m,n]であるので、B[m,n]=B[n,m]
*である。よって、行列Bはエルミート行列になり実数の固有値を持つ。後述するように固有値は、λが固有値であれば、−λも固有値である。
【0046】
λの固有値に対する固有ベクトルが [I
p〜,I
c〜]
〜(ここで、上付きの符号〜は転置を表す)であれば−λの固有値に対する固有ベクトルは[I
p〜,−I
c〜]
〜である。この二つのベクトルは異なる固有値の固有ベクトルであるので直交する。したがって、I
p〜*I
p―I
c〜*I
c=0が成り立つ。よって、I
p〜*I
p=I
c〜*I
cが成り立つ。したがって、次の式(7)が成り立つ。
【0048】
このため、次の式(8)が成り立つとすると、式(9)が成り立つ。
【0051】
以上より、アンテナ間のアドミッタンス行列Yのn行m列の成分(n,mは整数)をY[n,m](Y[n,m]は
複素数であり、Y[n,m]=Y[m,n])とする。また、上述したように、行列Bを(Np+Nc)×(Np+Nc)次元のエルミート行列とし(但し、Npは送電装置の数、Ncは受電装置の数)、nが送電装置かつmが受電装置を表すとき行列Bのn行m列の成分B[n,m]=Y[n,m]/2とし、nが送電装置かつmが受電装置を表すとき成分B[n,m]=Y
*[n,m]/2=Y
*[m,n]/2とし(*は複素共役を表す)、n及びmが受電装置を表すとき成分B[n,m]=Re[Y[n,m]]とし、n及びmが送電装置を表す時は成分B[n,m]=0とする。
その場合に、送電装置の送電エネルギーを一定にした場合に受電装置に最大のエネルギーが供給されるようにするには、各電源は以下のように動作する。各電源は、行列Cの二乗C
2をエルミート行列とし、行列DをD=(C
−1)
〜BC
−1(ここで、〜は転置を表す)と定義する。このとき、行列Dの固有値λは、各アンテナに流れる電流の絶対値の二乗の和が、インピーダンス行列またはアドミッタンス行列を行列Aとすると行列Aの二乗A
2のときのエネルギーを示すので、最大固有値がアンテナに流れる電流の絶対値の二乗の和の最大値となる。各アンテナの抵抗rが、最大固有値より十分に小さいとき、損失はr×電流の二乗和である。よって、各電源は最大固有値の規格化された固有ベクトルに比例した電流を生成することにより、最大のエネルギー伝送効率を得ることができる。よって、各電源は、行列Dの最大固有値に対応する固有ベクトルをXとするとき、CXに含まれる成分であって各電源に対応する成分に比例する電流または電圧をアンテナに供給する。
【0052】
なお、本実施形態では、アドミッタンス行列Yについて説明したが、インピーダンス行列を用いても、アドミッタンス行列Yの場合と同じように、行列Bを決定することができる。
【0053】
続いて、第1の実施形態において、親機のアンテナと子機のアンテナ間のx方向の位置の違いx
1が0、0.3、0.5、0.8mのときのインダクタンス行列、行列B、行列D、行列Dの固有値λ、行列Dの固有ベクトルについて説明する。なお、行列Cの二乗C
2は一例として単位行列であり、Cも単位行列である。ここで、第1の送電装置11のアンテナ112を1番目のアンテナ、第2の送電装置12のアンテナ122を2番目のアンテナ、第3の受電装置21のアンテナ212を3番目のアンテナ、第4の受電装置22のアンテナ222を4番目のアンテナという。
【0054】
なお、行列Cの二乗C
2はインピーダンス行列の実部またはアドミッタンス行列の実部であってもよい。また、行列Cの二乗C
2はインダクタンス行列であってもよい。
【0055】
<x
1=0[m]>
まず、親機のアンテナと子機のアンテナ間のx方向の位置の違いx
1が0mのときについて説明する。その場合、インダクタンス行列Lは、次の式(10)で表される。
【0057】
ここで、インダクタンス行列Lの対角成分が自己インダクタスである。例えば、インダクタンス行列Lのn行n列は、n番目のアンテナの自己インダクタスである(ここではnは1から4までの整数)。また、インダクタンス行列Lの非対角成分が対応するインダクタ間の相互インダクタンスである。例えば、インダクタンス行列Lのn行m列は、n番目のアンテナとm番目のアンテナの相互インダクタスである(ここではn及びmは1から4までの整数)。
また、行列Dは次の式(11)で表される。
【0059】
行列Dの四つの固有値λを成分とするベクトルUは次の式(12)で表される。
【0061】
行列Dの四つの大きさ1の固有ベクトルXそれぞれを列ベクトルとして、その四つの列ベクトルを成分とする行列Vは次の式(13)で表される。
【0063】
行列Dの固有値λは四つあるが、行列Dの固有値λが最大値0.669554をとるときに、送電装置から供給されるエネルギーが一定の下で、受電装置が受電するエネルギーが最大になる。行列Dの固有値λの最大値が第2列なので、それに対応する行列Dの固有ベクトルXは、式(13)の行列Vの第2列の列ベクトルである。式(13)の行列Vのn番目の行の成分は、n番目のアンテナに対応している。行列Vの第2列の列ベクトルの各行は、対応するアンテナに流す電流の比を表している。よって、I[1]:I[2]:I[3]:I[4]=0.5j:0.5j:0.5:0.5であるときに、送電装置から供給されるエネルギーが一定の下で、受電装置が受電するエネルギーが最大になる。ここで、各受電装置の電源の電流は、各送電装置の電流から90度遅れる。また、全ての電源で電流の振幅が同一で0.5である。
【0064】
この例において、第1の送電装置11の電源111は、例えば式(13)の行列Vの1行2列の0.5jに予め決められた係数Kを乗じた値の電流を流す。第2の送電装置12の電源121は、例えば式(13)の行列Vの2行2列の0.5jに係数Kを乗じた値の電流を流す。第3の受電装置21の電源211は、例えば式(13)の行列Vの3行2列の0.5に係数Kを乗じた値の電流を流す。第4の受電装置21の電源211は、例えば式(13)の行列Vの4行2列の0.5に係数Kを乗じた値の電流を流す。
【0065】
<x
1=0.3[m]>
続いて、親機のアンテナと子機のアンテナ間のx方向の位置の違いx
1が0.3mの場合について説明する。インダクタンス行列Lは、次の式(14)で表される。
【0067】
ここで、インダクタンス行列Lの対角成分が自己インダクタスである。例えば、インダクタンス行列Lのn行n列は、n番目のアンテナの自己インダクタスである(ここではnは1から4までの整数)。また、インダクタンス行列Lの非対角成分が対応するインダクタ間の相互インダクタンスである。例えば、インダクタンス行列Lのn行m列は、n番目のアンテナとm番目のアンテナの相互インダクタスである(ここではn及びmは1から4までの整数)。
また、行列Dは次の式(15)で表される。
【0069】
行列Dの四つの固有値λを成分とするベクトルUは次の式(16)で表される。
【0071】
行列Dの四つの大きさ1の固有ベクトルXを列ベクトルとして、その四つの列ベクトルを成分とする行列Vは次の式(17)で表される。
【0073】
行列Dの固有値λが最大値0.600802をとるときに、送電装置から供給されるエネルギーが一定の下で、受電装置が受電するエネルギーが最大になる。行列Dの固有値λの最大値が第2列なので、それに対応する行列Dの固有ベクトルXは、式(17)の行列Vの第2列の列ベクトルである。式(17)の行列Vのn番目の行の成分は、n番目のアンテナに対応している。第2列の列ベクトルの各行は、対応するアンテナに流す電流の比を表している。よって、I[1]:I[2]:I[3]:I[4]=0.330:0.625:−0.625j:−0.330jであるときに、送電装置から供給されるエネルギーが一定の下で、受電装置が受電するエネルギーが最大になる。ここで、各受電装置の電源の電流は、各送電装置の電流から90度遅れる。また、第1の送電装置11の電源111の振幅と第2の受電装置22の電源221の振幅は同一である。第2の送電装置12の電源121の振幅と第1の受電装置21の電源211の振幅は同一である。
【0074】
この例において、第1の送電装置11の電源111は、例えば式(17)の行列Vの1行2列の0.330に予め決められた係数Kを乗じた値の電流を流す。第2の送電装置12の電源121は、例えば式(17)の行列Vの2行2列の0.625に係数Kを乗じた値の電流を流す。第3の受電装置21の電源211は、例えば式(17)の行列Vの3行2列の−0.625jに係数Kを乗じた値の電流を流す。第4の受電装置21の電源211は、例えば式(17)の行列Vの4行2列の−0.330jに係数Kを乗じた値の電流を流す。
【0075】
<x
1=0.5[m]>
続いて、親機のアンテナと子機のアンテナ間のx方向の位置の違いx
1が0.5mの場合について説明する。インダクタンス行列Lは、次の式(18)で表される。
【0077】
ここで、インダクタンス行列Lの対角成分が自己インダクタスである。例えば、インダクタンス行列Lのn行n列は、n番目のアンテナの自己インダクタスである(ここではnは1から4までの整数)。また、インダクタンス行列Lの非対角成分が対応するインダクタ間の相互インダクタンスである。例えば、インダクタンス行列Lのn行m列は、n番目のアンテナとm番目のアンテナの相互インダクタスである(ここではn及びmは1から4までの整数)。
また、行列Dは次の式(19)で表される。
【0079】
行列Dの四つの固有値λを成分とするベクトルUは次の式(20)で表される。
【0081】
行列Dの四つの大きさ1の固有ベクトルXそれぞれを列ベクトルとして、その四つの列ベクトルを成分とする行列Vは次の式(21)で表される。
【0083】
行列Dの固有値λが最大値0.576371をとるときに、送電装置から供給されるエネルギーが一定の下で、受電装置が受電するエネルギーが最大になる。行列Dの固有値λの最大値が第2列なので、式(21)の行列Vにおいて固有値λの最大値の列番号と同じ第2列の列ベクトルが、その固有値λの最大値に対応する行列Dの固有ベクトルXである。式(21)の行列Vのn番目の行の成分は、n番目のアンテナに対応している。第2列の列ベクトルの各行は、対応するアンテナに流す電流の比を表している。よって、I[1]:I[2]:I[3]:I[4]=0.136j:0.693j:0.693:0.136であるときに、送電装置から供給されるエネルギーが一定の下で、受電装置が受電するエネルギーが最大になる。ここで、各受電装置の電源の電流は、各送電装置の電流から90度遅れる。また、第1の送電装置11の電源111の振幅と第2の受電装置22の電源221の振幅は同一である。第2の送電装置12の電源121の振幅と第1の受電装置21の電源211の振幅は同一である。
【0084】
この例において、第1の送電装置11の電源111は、例えば式(21)の行列Vの1行2列の0.136jに予め決められた係数Kを乗じた値の電流を流す。第2の送電装置12の電源121は、例えば式(21)の行列Vの2行2列の0.693jに係数Kを乗じた値の電流を流す。第3の受電装置21の電源211は、例えば式(21)の行列Vの3行2列の0.693に係数Kを乗じた値の電流を流す。第4の受電装置21の電源211は、例えば式(21)の行列Vの4行2列の0.136に係数Kを乗じた値の電流を流す。
【0085】
<x
1=0.8[m]>
続いて、親機のアンテナと子機のアンテナ間のx方向の位置の違いx
1が0.8mの場合について説明する。インダクタンス行列Lは、次の式(22)で表される。
【0087】
ここで、インダクタンス行列Lの対角成分が自己インダクタスである。例えば、インダクタンス行列Lのn行n列は、n番目のアンテナの自己インダクタスである(ここではnは1から4までの整数)。また、インダクタンス行列Lの非対角成分が対応するアンテナ間の相互インダクタンスである。例えば、インダクタンス行列Lのn行m列は、n番目のアンテナとm番目のアンテナの相互インダクタスである(ここではn及びmは1から4までの整数)。
また、行列Dは次の式(23)で表される。
【0089】
行列Dの四つの固有値λを成分とするベクトルUは次の式(24)で表される。
【0091】
行列Dの四つの大きさ1の固有ベクトルXそれぞれを列ベクトルとして、その四つの列ベクトルを成分とする行列Vは次の式(25)で表される。
【0093】
行列Dの固有値λの最大値0.317939のときに、送電装置から供給されるエネルギーが一定の下で、受電装置が受電するエネルギーが最大になる。行列Dの固有値λの最大値が第2列なので、それに対応する行列Dの固有ベクトルXは、式(25)の行列Vの第2列の列ベクトルである。式(25)の行列Vのn番目の行の成分は、n番目のアンテナに対応している。第2列の列ベクトルの各行は、対応するアンテナに流す電流の比を表している。よって、I[1]:I[2]:I[3]:I[4]=−0.00185j:0.707104j:0.707104:−0.00185であるときに、送電装置から供給されるエネルギーが一定の下で、受電装置が受電するエネルギーが最大になる。また、第1の送電装置11の電源111の振幅と第2の受電装置22の電源221の振幅は同一である。第2の送電装置12の電源121の振幅と第1の受電装置21の電源211の振幅は同一である。
【0094】
この例において、第1の送電装置11の電源111は、例えば式(25)の行列Vの1行2列の−0.00185jに予め決められた係数Kを乗じた値の電流を流す。第2の送電装置12の電源121は、例えば式(25)の行列Vの2行2列の0.707104jに係数Kを乗じた値の電流を流す。第3の受電装置21の電源211は、例えば式(25)の行列Vの3行2列の0.707104に係数Kを乗じた値の電流を流す。第4の受電装置21の電源211は、例えば式(25)の行列Vの4行2列の−0.00185に係数Kを乗じた値の電流を流す。
【0095】
<x
1=1.0[m]>
続いて、親機のアンテナと子機のアンテナ間のx方向の位置の違いx
1が1.0mの場合について説明する。インダクタンス行列Lは、次の式(26)で表される。
【0097】
ここで、インダクタンス行列Lの対角成分が自己インダクタスである。例えば、インダクタンス行列Lのn行n列は、n番目のアンテナの自己インダクタスである(ここではnは1から4までの整数)。また、インダクタンス行列Lの非対角成分が対応するインダクタ間の相互インダクタンスである。例えば、インダクタンス行列Lのn行m列は、n番目のアンテナとm番目のアンテナの相互インダクタスである(ここではn及びmは1から4までの整数)。
また、行列Dは次の式(27)で表される。
【0099】
行列Dの四つの固有値λを成分とするベクトルUは次の式(28)で表される。
【0101】
行列Dの四つの大きさ1の固有ベクトルXそれぞれを列ベクトルとして、その四つの列ベクトルを成分とする行列Vは次の式(29)で表される。
【0103】
行列Dの固有値λの最大値0.317939のときに、送電装置から供給されるエネルギーが一定の下で、受電装置が受電するエネルギーが最大になる。行列Dの固有値λの最大値が第2列なので、それに対応する行列Dの固有ベクトルXは、式(29)の行列Vの第2列の列ベクトルである。式(29)の行列Vのn番目の行の成分は、n番目のアンテナに対応している。第2列の列ベクトルの各行は、対応するアンテナに流す電流の比を表している。よって、I[1]:I[2]:I[3]:I[4]=−0.0753j:0.703j:0.703:−0.0753であるときに、送電装置から供給されるエネルギーが一定の下で、受電装置が受電するエネルギーが最大になる。第1の送電装置11の電源111の振幅と第2の受電装置22の電源221の振幅は同一である。第2の送電装置12の電源121の振幅と第1の受電装置21の電源211の振幅は同一である。
【0104】
この例において、第1の送電装置11の電源111は、例えば式(29)の行列Vの1行2列の−0.0753jに予め決められた係数Kを乗じた値の電流を流す。第2の送電装置12の電源121は、例えば式(29)の行列Vの2行2列の0.703jに係数Kを乗じた値の電流を流す。第3の受電装置21の電源211は、例えば式(29)の行列Vの3行2列の0.703に係数Kを乗じた値の電流を流す。第4の受電装置21の電源211は、例えば式(29)の行列Vの4行2列の−0.0753に係数Kを乗じた値の電流を流す。
【0105】
以上、第1の実施形態における非接触給電システム1は、2台の送電装置と、該2台の送電装置から磁界により非接触でエネルギーを受電する2台の受電装置とを備える。そして、各送電装置及び各受電装置は、アンテナと、該アンテナ間のインピーダンスに関する情報であるインピーダンス情報に基づいて決定された電力をアンテナに供給する電源と、を備える。ここで、インピーダンス情報は、インピーダンス及びアドミッタンスを含む。より詳細には、上記電力は、インピーダンス情報を参照して算出された固有ベクトルに基づいて決定されている。
これにより、各電源は、アンテナ間の位置関係に応じて適切な電流または電圧をアンテナに供給することができるので、伝送効率を向上させることができる。
【0106】
更に詳細には、アンテナ間のインピーダンス行列またはアドミッタンス行列を行列Aとして行列Aのn行m列の成分(n,mは整数)をA[n,m](A[n,m]は
複素数であり、A[n,m]=A[m,n])とするとき、行列Bを(Np+Nc)×(Np+Nc)次元のエルミート行列とし(但し、Npは送電装置の数、Ncは受電装置の数)、nが送電装置かつmが受電装置を表すとき行列Bのn行m列の成分B[n,m]=A[n,m]/2とし、nが送電装置かつmが受電装置を表すとき成分B[n,m]=A×[n,m]/2=A×[m,n]/2とし、n及びmが受電装置を表すとき成分B[n,m]=Re[A[n,m]]とし、n及びmが送電装置を表すとき成分B[n,m]=0とし、行列Cの二乗C
2をエルミート行列とし、行列D=(C
−1)
〜BC
−1(ここで、〜は転置を表す)の固有ベクトルをXとするとき、各送電装置及び各受電装置が備える電源はそれぞれ行列CXの成分のうち該電源が対応する成分に比例する電流または電圧を該電源が接続されたアンテナに供給する。
これにより、各電源は、アンテナ間の位置関係に応じて適切な電流または電圧をアンテナに供給することができるので、伝送効率を向上させることができる。
【0107】
その際、各電源は、一例として行列Dの固有値のうち最大固有値に対応する規格化された固有ベクトルに比例した電流または電圧を該電源が接続されたアンテナに供給する。これにより、アンテナ間の位置関係に応じて、送電装置から供給されるエネルギーが一定の下で、受電装置のアンテナに流す電流を最大にすることができるので、伝送効率を最大にすることができる。
【0108】
なお、第1の実施形態では、一例として、非接触給電システム1は、2台の送電装置と2台の受電装置とを備えるとしたが、これに限ったものではない。非接触給電システム1は、1台または3台以上の送電装置を備えてもよい。また、非接触給電システム1は、1台または3台以上の受電装置を備えてもよい。すなわち、非接触給電システム1は、一台以上の送電装置と、一台以上の受電装置とを備えればよい。
【0109】
また、本実施形態では、電源は、行列Dの最大固有値に対応する固有ベクトルに比例する電流を生成したが、これに限らず、電源は、行列Dの最大固有値に対応する規格化された固有ベクトルから予め決められたずれ量Δだけずれたベクトルに比例する電流を生成してもよい。以下、許容される最大のズレ量Δmaxについて説明する。
f=[f
1,…,f
Np+Nc]
〜を大きさ1のベクトル、F=[F
1,…,F
Np+Nc]
〜を大きさ1の固有ベクトル(以下、規格化固有ベクトルともいう)とすると、固有ベクトルのずれ量Δは、次の式(30)で定義される。
【0111】
ここで、nはインデックスであり、Npは送電装置の数で、Ncは受電装置の数である。|f|=1、|F|=1よりこの二つのベクトルfとFは、半径1のNp+Nc次元の球体の球面上にある。固有ベクトルFが最大固有値λの固有ベクトルとするとき、ベクトルfに固有値−λの固有ベクトルF’が混入したときに、次の式(31)で定義される行列の二次形式が最も小さくなる。
【0113】
このとき、ベクトルfへの固有ベクトルF’の混入量が半分を超えた場合すなわちベクトルfがf=(1/√2)F+aF’(ここで|a|>1/√2)で表される場合、式(31)で示された行列の二次形式が0より小さくなる。ベクトルfへの固有ベクトルF’の混入量が半分の時のズレ量Δを、許容される最大のズレ量Δmaxとする。この場合、f=(√2)/2(F+F’)であるから最大のズレ量Δmaxは、|f−F|=|(1/√2)F+(1/√2)F’−F|=√(2−√2)=√0.586=0.766である。このことから、各電源が生成する電流値または電圧値は、規格化固有ベクトルFを基準として予め決められた範囲のベクトルに、左から行列Cを乗じて得た行列の各成分に比例する。規格化固有ベクトルFを基準として予め決められた範囲のベクトルと規格化固有ベクトルFの差のベクトルの大きさは、規格化固有ベクトルFの対応する成分の0.766(=√(2−√2)=√(0.586))倍以下である。換言すれば、規格化固有ベクトルを基準として予め決められた範囲のベクトルと前記規格化固有ベクトルの差のベクトルの大きさの二乗は2−√2以下である。
【0114】
<第2の実施形態>
続いて、第2の実施形態について説明する。
図2は、第2の実施形態における非接触給電システム2の構成を示す概略ブロック図である。
図1と同一の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。非接触給電システム2は、送電システム30と受電システム40とを備える。また、送電システム30と受電システム40が備える各アンテナの位置関係は第1の実施形態と同様であるので、その説明を省略する。また、各アンテナのインダクタンス及び相互インダクタンスは第1の実施形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0115】
送電システム30は、第1の送電装置31と第2の送電装置32と第1の制御部33と同期信号生成部13を備える。以下、第1の送電装置31、第2の送電装置32それぞれを親機ともいう。第1の送電装置31は、
図1に示す第1の実施形態の第1の送電装置11に比べて電圧計113が追加されたものになっている。電圧計113は、アンテナ112の両端の電圧を計測し、計測により得られた電圧を示す第1電圧情報を第1の制御部33へ出力する。
【0116】
第2の送電装置32は、
図1に示す第1の実施形態の第2の送電装置12に比べて電圧計123が追加されたものになっている。電圧計123は、アンテナ122の両端の電圧を計測し、計測により得られた電圧を示す第2電圧情報を第1の制御部33へ出力する。
第1の制御部33は、例えば、電圧計113から入力された第1電圧情報が示す電圧と電圧計123から入力された第2電圧情報が示す電圧を参照して、電源111の電流と電源121の電流を制御する。第1の制御部33の処理の詳細は、後述する。
【0117】
受電システム40は、第1の受電装置41と第2の受電装置42と第2の制御部43とを備える。以下、第1の受電装置41、第2の受電装置42それぞれを子機ともいう。第1の受電装置41は、
図1に示す第1の実施形態の第1の受電装置21に比べて電圧計213が追加されたものになっている。電圧計213は、アンテナ212の両端の電圧を計測し、計測により得られた電圧を示す第3電圧情報を第2の制御部43へ出力する。
【0118】
第2の受電装置42は、
図1に示す第1の実施形態の第2の受電装置22に比べて電圧計223が追加されたものになっている。電圧計223は、アンテナ222の両端の電圧を計測し、計測により得られた電圧を示す第4電圧情報を第2の制御部43へ出力する。
第2の制御部43は、例えば、電圧計213から入力された第3電圧情報が示す電圧と電圧計223から入力された第4電圧情報が示す電圧を参照して、電源211の電流と電源221の電流を制御する。第2の制御部43の処理の詳細は、後述する。
【0119】
図3は、第2の実施形態における第1の制御部33の構成を示す概略ブロック図である。第1の制御部33は、第1の抽出部(抽出部)331と第1の規格化部(規格化部)332と第1の電源制御部(電源制御部)333とを備える。第1の抽出部331は、電圧計113から第1電圧情報を取得する。第1の抽出部331は、取得した第1電圧情報が示す電圧と同相の電流成分を抽出する。また、第1の抽出部331は、電圧計123から第2電圧情報を取得する。第1の抽出部331は、取得した第2電圧情報が示す電圧と同相の電流成分を抽出する。第1の抽出部331は、上記の処理を例えば、以下の処理により行う。第1の抽出部331は、例えばアンテナ112にかかる電圧とアンテナ122にかかる電圧とを成分とする電圧ベクトルを取得し、その電圧ベクトルと同相の電流成分を抽出する。
【0120】
第1の規格化部332は、第1の抽出部331が抽出した電流成分それぞれに、該電流成分に対応する電源が現在生成している電流値に正の定数を乗じた値を加える。そして、第1の規格化部332は、加えることで得た値を送電装置間で規格化する。その際、第1の規格化部332は、例えば電源111と電源121が生成する電流の二乗和が、受電システム40の電源211と電源221が生成する電流の二乗和と同じ値(例えば、0.5)になるように規格化する。
【0121】
第1の電源制御部333は、第1の規格化部332が規格化した後の電流を電源111と電源121が生成するよう電源111と電源121を制御する。その後、第1の抽出部331と第1の規格化部332と第1の電源制御部333とは上述した処理を繰り返す。このように第1制御部33は、上述した処理を繰り返すことにより、第1の規格化部332が規格化した後の電流を、第1の実施形態で説明した行列Dの最大固有値に対応する固有ベクトルに徐々に収束させることができる。但し、最初は、第1の電源制御部333は、第1の抽出部331が電流成分を抽出する前に、電源111と電源121に、それぞれに対して予め決められている初期の電流を生成するよう電源111と電源121を制御する。電源111の初期の電流は例えば0.25Aで、電源121の初期の電流は例えば−0.5Aである。
【0122】
図4は、第2の実施形態における第2の制御部43の構成を示す概略ブロック図である。第2の制御部43は、第2の抽出部(抽出部)431と第2の規格化部(規格化部)432と第2の電源制御部(電源制御部)433とを備える。
第2の抽出部431は、第1の抽出部と同様の機能を有する。第2の抽出部431は、電圧計213から第3電圧情報を取得する。第2の抽出部431は、第3電圧情報が示す電圧と同相の電流成分を抽出する。また、第2の抽出部431は、電圧計223から第4電圧情報を取得する。第2の抽出部431は、取得した第4電圧情報が示す電圧と同相の電流成分を抽出する。第2の抽出部431は、上記の処理を例えば、以下の処理により行う。第2の抽出部431は、アンテナ212にかかる電圧とアンテナ222にかかる電圧とを成分とする電圧ベクトルを取得し、その電圧ベクトルと同相の電流成分を抽出する。
【0123】
第2の規格化部432は、第2の抽出部431が抽出した電流成分それぞれに、該電流成分に対応する電源が現在生成している電流値に負の定数を乗じた値を加える。そして、第2の規格化部432は、加えることで得た値を送電装置間で規格化する。その際、第2の規格化部432は、例えば電源211と電源221が生成する電流の二乗和が、送電システム30の電源111と電源121が生成する電流の二乗和と同じ値(例えば、0.5)になるように規格化する。
【0124】
第2の電源制御部433は、第2の規格化部432が規格化した後の電流を電源211と電源221が生成するよう電源211と電源221を制御する。その後、第2の抽出部431と第2の規格化部432と第2の電源制御部433とは上述した処理を繰り返す。このように第2の制御部43は、上述した処理を繰り返すことにより、第2の規格化部432が規格化した後の電流を、第1の実施形態で説明した行列Dの最大固有値に対応する固有ベクトルに徐々に収束させることができる。但し、最初は、第2の電源制御部433は、第2の抽出部431が電流成分を抽出する前に、電源211と電源221それぞれに対して予め決められている初期の電流を生成するよう電源211と電源221を制御する。電源211の初期の電流は例えば、実行値が−1Aで電源111よりも90度遅れた電流である。電源221の初期の電流は例えば、実行値が−0.5Aで例えば電源121よりも90度遅れた電流である。
【0125】
<第1の制御部33と第2の制御部43の処理の原理>
続いて、第1の制御部33と第2の制御部43で電流値を繰り返し更新することで、更新後の電流が行列Dの最大固有値に対応する固有ベクトルに徐々に収束させることができる原理について説明する。
【0126】
送電装置及び受電装置の回路の抵抗成分が十分に小さい場合、インピーダンスの実部である抵抗成分を無視できるので、インピーダンス行列Aは次の式(32)で表される。ここで添え字pは親機を表しcは子機を表す。
【0128】
ここで、Z
ppは親機同士の相互インピーダンスで、Z
pcは親機と子機間の相互インピーダンスある。Z
pcの上に符号〜が付された記号Z
pc〜は、Z
pcの転置である。Z
ccは子機同士の相互インピーダンスである。X
ppは親機同士の相互リアクタンスである。X
ccは子機同士の相互リアクタンスである。X
pcは親機と子機間の相互リアクタンスである。ここでX
pp、X
pc、X
ccは実行列である。
このとき、行列Bは次の式(33)で表される。
【0130】
C
2が次の式(34)で表される場合のように、子機、親機間の成分が0であれば、行列Dは次の式(35)で表されるように親機同士の成分、子機同士の成分は0になる。
【0133】
行列Cが単位行列の時は、行列Dは次の式(36)で表される。
【0135】
行列Dの固有値をλとすると、次の式(37)が成り立つ。
【0137】
ここで、[I
p,I
c]
〜は行列Dの固有ベクトルである。I
pは、行列Dの固有ベクトルのうち各親機を流れる電流を成分とするベクトルである。I
cは、列Dの固有ベクトルのうち各子機を流れる電流を成分とするベクトルである。また、この式(37)を分解すると、次の式(38)で表される。
【0139】
式(37)のそれぞれの式に、当該式を転置し複素共役をとったベクトルを乗じると、次の式(39)で表される。
【0141】
式(38)の向かって左の式からベクトルI
cを算出し、算出したベクトルI
cを向かって右の式に代入する。式(38)の向かって右の式からベクトルI
pを算出し、算出したベクトルI
pを向かって左の式に代入する。すると、次の式(40)が成り立つ。
【0143】
式(40)にそれぞれ左からI
c*〜、I
p*〜を乗じると、次の式(41)が成り立つ。ここで、I
c*〜はI
c*の上に符号〜が付されたもので、I
cの複素共役I
c*を転置したベクトルである。I
p*〜はI
p*の上に符号〜が付されたもので、I
pの複素共役I
p*を転置したベクトルである。
【0145】
式(40)と式(41)より、次の式(42)が成り立つ。
【0147】
これは、行列Dの固有ベクトルに含まれる親機の電流成分の二乗和と、行列Dの固有ベクトルに含まれる子機の電流成分の二乗和が等しいことを表す。よって、第1の規格化部332による、電流の規格化処理は親機成分同士で行えることを示している。同様に、第2の規格化部432による、電流の規格化処理は子機成分同士で行えることを示している。これは親機と子機間で、規格化のために情報のやり取りが不要なことを示している。
【0148】
式(37)が成り立つと、次の式(43)が成立する。
【0150】
よって、λが固有値であれば、−λも固有値となる。すなわち、最大の絶対値を持つ固有値は±λの2つある。[I
p,I
c]
〜を0でない任意のベクトルとすると(ここで、
〜は転置を表す)、次の式(44)は、絶対値が最大の固有値がはる固有空間に収束する。
【0152】
一方αを正の数とすると、次の式(45)の固有値は最大の(α+λ)
nに漸近するので、[I
p,I
c]
〜は正の最大固有値に対応する固有ベクトルに収束する。
【0154】
そこで、次に示す
図5のフローチャートの処理で[I
p,I
c]
〜を、次の式(46)で表される行列の正の最大固有値に対応する固有ベクトルに収束させることができる。
【0156】
続いて、
図5は、第2の実施形態における第1の制御部33及び第2の制御部43の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
(ステップS101)第1の制御部33はベクトルI
pが示す電流を回路に流す。このとき、ベクトルI
pに含まれる電流は全て同位相である。
(ステップS102)ステップS101と並行して、第2の制御部43はベクトルI
cが示す電流を回路に流す。このとき、ベクトルI
cに含まれる電流は全て同位相である。またベクトルI
cに含まれる電流の位相は、ベクトルI
pに含まれる電流より90°遅れる。
(ステップS103)第1の制御部33はアンテナにかかる電圧成分からなる電圧ベクトルV
pを取得し、電圧ベクトルV
pと同相の電流成分を抽出する。
(ステップS104)ステップS103と並行して、第2の制御部43はアンテナにかかる電圧成分からなる電圧ベクトルV
cを取得し、電圧ベクトルV
cと同相の電流成分を抽出する。
(ステップS105)第1の制御部33はベクトルI
pの成分にそのベクトルI
pの成分に正の定数を乗じた値を加える。そして、第1の制御部33は、加えることで得た値を子機内で規格化する。
(ステップS106)ステップS105と並行して、第2の制御部43はベクトルI
cの成分に、そのベクトルI
cの成分に正の定数を乗じた値を加える。そして、第2の制御部43は、加えることで得た値を子機内で規格化する。
(ステップS107)第1の制御部33は、その規格化して得たベクトルの成分を次のベクトルI
pとし、ステップS101の処理に戻り、ステップS101以降の処理を繰り返す。
(ステップS108)ステップS107と並行して、第2の制御部43はその規格化して得たベクトルの成分を次のベクトルI
cとし、ステップS102の処理に戻り、ステップS102以降の処理を繰り返す。以上で、本フローチャートの説明を終了する。
【0157】
このように、非接触給電システム2は、給電をしながらステップS101以降の処理及びステップS102以降の処理を繰り替えすことで、各電源が生成する各電流値を、行列Dの最大固有値に対応する固有ベクトルの各成分に近づけることができる。これにより、送電装置間の位置関係、受電装置間の位置関係、または送電装置と受電装置との間の位置関係が時刻の経過とともに変更されたとしても、その変更に追従して各電源が生成する各電流値を更新する。その結果、非接触給電システム2は、各電源が生成する各電流値を、変更後の位置関係における行列Dの最大固有値に対応する固有ベクトルの各成分に近づけることができるので、位置関係が時刻の経過とともに変更されたとしてもエネルギーの伝送効率を向上させることができる。
【0158】
なお、非接触給電システム2は、第1の制御部33と第2の制御部43は、上述した更新処理により、各電源が生成する各電流値が、行列Dの最大固有値に対応する固有ベクトルの各成分を基準として決められた範囲(例えば、固有ベクトルの各成分±ΔI、但しΔIは予め決められた値)に収まった場合に、その電流値を各電源に流させるようにしてもよい。
【0159】
続いて、親機のアンテナと子機のアンテナ間のx方向の位置の違いx
1が0.3のときに、上述した処理で固有ベクトルを反復して求めた結果の一例を
図6を用いて説明する。
図6は、反復回数とベクトルI
pとベクトルI
cとの組の一例を示す表である。同図において、同図の例ではベクトルI
pは、電源111の電流に相当する成分、電源121の電流に相当する成分からなる。同図の例ではベクトルI
cは、電源211の電流に相当する成分、及び電源221の電流に相当する成分からなる。
【0160】
ここで、第1の実施形態で示したように、親機のアンテナと子機のアンテナ間のx方向の位置の違いx
1が0.3のときには、行列Dの最大固有値が0.60で、それに対応する固有ベクトルが[0.330365,0.625187,−0.625187j,−0.330365j]
〜である。ベクトルI
pの各成分は、それぞれ上記固有ベクトルの1列目の成分及び2列目の成分に、反復回数が増える毎に徐々に近づいている。ベクトルI
cの各成分は、それぞれ上記固有ベクトルの3列目の成分及び4列目の成分に反復回数が増える毎に徐々に近づいている。よって、上述した反復処理により、ベクトルI
pとベクトルI
cが行列Dの最大固有値に対応する固有ベクトルに収束する。ここで、初期値は[0.2,0.4,−0.8j,−0.4j]
〜であり、このベクトルと固有ベクトルとの差のベクトルの絶対値は0.79である。この値は、上述した最大のズレ量Δmax(=0.766)以下という範囲から外れている。
【0161】
以上、第2の実施形態における送電システム30は、第1の送電装置31と第2の送電装置32とを備える。第1の送電装置31は、磁界により非接触でエネルギーを供給するアンテナ112と、アンテナ112に電力を供給する電源111とを備える。また、第2の送電装置32は、磁界により非接触でエネルギーを供給するアンテナ122と、アンテナ122に電力を供給する電源121とを備える。
【0162】
また、送電システム30において、第1の抽出部331は、アンテナ112及びアンテナ122にかかる電圧と同相の電流成分を抽出する。第1の規格化部332は、第1の抽出部331が抽出した電流成分に基づく値を、第1の送電装置31と第2の送電装置32の間で規格化する。第1の電源制御部333は、第1の規格化部332が規格化した後の電流それぞれを、電源111と電源121に生成させる。送電システム30は、上述した第1の抽出部331、第1の規格化部332、第1の電源制御部333の処理を繰り返す。これにより、第1の制御部33は、規格化した後の電流を行列Dの最大固有値に対応する固有ベクトルに含まれる対応する成分に近づかせることができる。
【0163】
また、受電システム40は、第1の受電装置41と第2の受電装置42とを備える。第1の受電装置41は、磁界により非接触でエネルギーを受電するアンテナ212と、該アンテナ212が受信したエネルギーに基づいて不図示の負荷に電力を供給する電源211とを備える。また、受電システム40は、第1の受電装置41と第2の受電装置42とを備える。第2の受電装置42は、磁界により非接触でエネルギーを受電するアンテナ222と、該アンテナ222が受信したエネルギーに基づいて不図示の負荷に電力を供給する電源221とを備える。
【0164】
更に受電システム40において、第2の抽出部431は、アンテナ212とアンテナ222にかかる電圧と同相の電流成分を抽出する。第2の規格化部432は、第2の抽出部431が抽出した電流成分に基づく値を、第1の受電装置41と第2の受電装置42との間で規格化する。第2の電源制御部433は、第2の規格化部432が規格化した後の電流を電源に生成させる。受電システム40は、上述した第2の抽出部431、第2の規格化部432、第2の電源制御部433の処理を繰り返す。これにより、第2の制御部43は、規格化した後の電流を行列Dの最大固有値に対応する固有ベクトルに含まれる対応する成分に近づかせることができる。
【0165】
送電システム30と受電システム40は、同じサイクルで上述した繰り返し処理を行うことで、電源111、121、212、222の電流を行列Dの最大固有値に対応する固有ベクトルの各成分に近づかせることができる。別の観点で言えば、送電システム30と受電システム40は、電源111、121、212、222の電流の比を、行列Dの最大固有値に対応する固有ベクトルの成分の比に近づかせることができる。各電源の電流の比が、行列Dの最大固有値に対応する固有ベクトルの成分の比に近づくほどエネルギー伝送効率が向上するので、送電システム30と受電システム40は、同じサイクルで上述した繰り返し処理を行うことで、エネルギー伝送効率を徐々に向上させることができる。
【0166】
なお、第1の実施形態では、一例として、非接触給電システム2は、2台の送電装置と2台の受電装置とを備えるとしたが、これに限ったものではない。非接触給電システム1は、1台または3台以上の送電装置を備えてもよい。また、非接触給電システム2は、1台または3台以上の受電装置を備えてもよい。すなわち、非接触給電システム2は、一台以上の送電装置と一台以上の受電装置とを備えればよい。
【0167】
なお、各実施形態では、送電システム10または30が、同期信号生成部13を備えるとしたが、これに限らず、受電システム20または40が同期信号生成部13を備えてもよい。
また、第2の実施形態の第1の制御部33または第2の制御部43の各処理を実行するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、当該記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、第1の制御部33または第2の制御部43に係る上述した種々の処理を行ってもよい。
【0168】
なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものであってもよい。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、フラッシュメモリ等の書き込み可能な不揮発性メモリ、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0169】
さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory))のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【0170】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではない。各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。