(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6114543
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】捲回素子搬送器具
(51)【国際特許分類】
H01M 10/04 20060101AFI20170403BHJP
H01M 10/0587 20100101ALI20170403BHJP
H01M 6/02 20060101ALI20170403BHJP
H01G 13/00 20130101ALI20170403BHJP
【FI】
H01M10/04 W
H01M10/0587
H01M6/02 A
H01G13/00 371Z
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-273739(P2012-273739)
(22)【出願日】2012年12月14日
(65)【公開番号】特開2014-120281(P2014-120281A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000140845
【氏名又は名称】株式会社皆藤製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100094248
【弁理士】
【氏名又は名称】楠本 高義
(74)【代理人】
【識別番号】100185454
【弁理士】
【氏名又は名称】三雲 悟志
(74)【代理人】
【識別番号】100129207
【弁理士】
【氏名又は名称】中越 貴宣
(72)【発明者】
【氏名】樋口 剛
【審査官】
小川 知宏
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−086625(JP,A)
【文献】
特開2009−093901(JP,A)
【文献】
特開平11−176463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/04
H01G 13/00
H01M 6/02
H01M 10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の正電極、帯状の負電極及び帯状のセパレーターを捲回して形成され中空部を有する捲回素子を、搬送するための捲回素子搬送器具であり、
先端及び後端を有し、互いの最外殻幅が該後端から該先端へいくに従って大きくなり、前記捲回素子の前記中空部へ該捲回素子の中心軸方向に挿入される複数本のピンと、
複数本の前記ピンの後端を連結する連結体と、
を備え、
複数の前記ピンは、弾性体から成り、複数本の該ピンが互いに離隔又は接近する方向に弾性変形可能に構成され、
前記連結体は、前記捲回素子の後端が当接される側面を有する捲回素子搬送器具。
【請求項2】
前記ピンを2本備え、
前記捲回素子の前記中空部に挿入された2本の前記ピンが前記捲回素子の内周面を弾性的に押圧し、該捲回素子の前記後端が前記連結体の前記側面に当接した状態で、該捲回素子の内周面に固定される請求項1に記載する捲回素子搬送器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状の正電極、帯状の負電極及び帯状のセパレーターを捲回して形成され中空部を有する捲回素子を、搬送するための捲回素子搬送器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、帯状の正電極、帯状の負電極及び帯状のセパレーターを巻芯に巻き取り、巻き取った捲回素子を電解液に浸漬し、セパレーターと正電極及び負電極との間に電解液を浸み込ませて電池を製造することが行われている。
図5において、符号120は、原反112、114、116及び118から送られた帯状の正電極100、帯状の第一セパレーター102、帯状の負電極104及び帯状の第二セパレーター106を巻芯108へ捲回していく捲回装置である。この捲回装置120は、同図に示すように、位置S1において、正電極100等を捲回し、位置S2においてテープ124を貼着して捲回素子109を製造し、位置S3において巻芯108を抜き出して捲回素子109を取り出す。なお、捲回装置に関して、種々発明され、本願出願人によって出願されている(特許文献1〜7参照。)。
【0003】
巻芯108は、
図6(a)に示すように、図示しない回転治具に固定される固定部111と、帯状の正電極100、帯状の第一セパレーター102、帯状の負電極104及び第二セパレーター106を捲回する外周面121を有する巻芯体部122と、第一セパレーター102及び第二セパレーター106の先端付近部を挿入する隙間113と、を備えて構成されている。この巻芯108は、固定治具に固定され、捲回装置120の位置S1において、
図6(b)に示すように、最初に隙間113に第一セパレーター102及び第二セパレーター106の先端付近部が挿入され、第一セパレーター102に正電極100が積層され、第一セパレーター102及び第二セパレーター106間に負電極104が積層される。その後、巻芯108は、複数回手動で回転させさられ、第一セパレーター102等が捲回され、これにより、正電極100及び第一セパレーター102等に摩擦力が付与され、その後回転治具の回転駆動によって捲回素子109が製造される。
【0004】
巻芯108を抜き出して製造された捲回素子109は、
図7(a)に示すように、中空部126を有する。また、捲回装置120の位置S1において、巻芯108に第一セパレーター102及び第二セパレーター106の先端付近部130が挿入された後に正電極100が積層され、第一セパレーター102及び第二セパレーター106間に負電極104が積層されて、正電極100等が捲回されたため、第一セパレーター102及び第二セパレーター106の先端付近部130は中空部126内に突出し、先端132は保持されない状態で内周面(中空部126の内周面)128に接触又は離隔している。しかし、第一セパレーター102及び第二セパレーター106の先端132は固定されていないため、捲回素子109の搬送時に、振動又は揺動等によって、捲回素子109の巻き形状が先端132側から崩れていき、
図7(b)に示すように、先端付近部130が捲回素子109の中心軸C方向にずれ、中空部126よりも突出して変形する場合があった。この場合には、捲回素子109として、外観上好ましくなく、商品価値が低下するという不具合が生じた。また、捲回素子109の巻き形状が先端132側から崩れていくことにより、正電極100と負電極104とが短絡する恐れが生じた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−043540号公報
【特許文献2】特開2009−093901号公報
【特許文献3】特開2009−256022号公報
【特許文献4】特開2009−272245号公報
【特許文献5】特開2011−161557号公報
【特許文献6】特開2011−184132号公報
【特許文献7】国際公開第2009/019781号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、セパレーターの先端付近部が捲回素子の中空部から突出して変形することなく捲回素子を搬送できる捲回素子搬送器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の捲回素子搬送器具は、帯状の正電極、帯状の負電極及び帯状のセパレーターを捲回して形成され中空部を有する捲回素子を、搬送するための捲回素子搬送器具であり、
先端及び後端を有し、互いの最外殻幅が該後端から該先端へいくに従って大きくなり、前記捲回素子の前記中空部へ該捲回素子の中心軸方向に挿入される複数本のピンと、複数本の前記ピンの後端を連結する連結体と、を備え、
複数の前記ピンは、弾性体から成り、複数
本の該ピンが互いに離隔又は接近する方向に弾性変形可能
に構成され、
前記連結体は、前記捲回素子の後端が当接される側面を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の捲回素子搬送器具は、前記捲回素子搬送器具において、
前記ピンを2本備え、前記捲回素子の前記中空部に挿入された複数本の前記2本のピンが前記捲回素子の内周面を弾性的に押圧し、該捲回素子の前記後端が前記連結体の前記側面に当接した状態で、該捲回素子の内周面に固定され表面を鏡面加工した金属又は表面にテフロン(登録商標)コ−ティングした金属であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の捲回素子搬送器具によれば、捲回素子に取り付けて捲回素子を搬送する時に、捲回素子の中空部へ挿入された複数のピンが捲回素子の内周面を弾性的に押圧した状態で、該捲回素子に取り付けられているため、搬送時の振動等により捲回素子の巻き形状がセパレーターの先端側から崩れてセパレーターの先端付近部が捲回素子の中空部から中心軸方向にずれるのを極力防止することができる。このため、捲回素子が変形することなく捲回素子を搬送でき、捲回素子として、外観上好ましく、商品価値が低下することがない。また、捲回素子の巻き形状がセパレーターの先端側から崩れるのを防止し、正電極と負電極とが短絡する恐れが生じることもない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る捲回素子搬送器具の構成を示す図であり、同図(a)は側面図であり、同図(b)は斜視図である。
【
図2】
図1の捲回素子搬送器具の使用状態を示す斜視図である。
【
図3】
図1の捲回素子搬送器具の使用状態を示す図であり、同図(a)は側面図であり、同図(b)はA−A線切断部断面図である。
【
図4】同図(a)は、本発明の捲回素子搬送器具の他の実施形態を示す側面図であり、同図(b)は、本発明の捲回素子搬送器具の更に他の実施形態を示す側面図である。
【
図6】従来の巻芯を示す図であり、同図(a)は側面図であり、同図(b)は正面図である。
【
図7】従来の課題を説明するための図であり、同図(a)は通常の捲回素子を示す斜視図であり、同図(b)は不具合が生じた捲回素子を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る捲回素子搬送器具の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1〜
図3において、符号10は、本発明に係る捲回素子搬送器具である。
【0012】
本発明に係る捲回素子搬送器具10は、帯状の正電極、帯状の第一セパレーター、帯状の負電極及び帯状の第二セパレーターを捲回して形成された
図2及び
図3に示す捲回素子22を、搬送するための器具である。捲回素子搬送器具10は、
図1に示すように、先端24及び後端26を有し、後端26から先端24へいくに従って互いに僅かに離隔し、互いの最外殻幅Wが該後端26から先端24へいくに従って大きくなる2本のピン28と、2本のピン28の後端26を連結する連結体30と、を備えている。2本のピン28及び連結体30は弾性体から成り、2本のピン28が互いに離隔又は接近する方向に弾性変形する。
【0013】
2本のピン28及び連結体30の材質としては、ステンレス等の金属、表面を鏡面加工した金属、表面にテフロン(登録商標)コーティングした金属、又は樹脂等から選択され、弾性を有するものである。
【0014】
弾性を有するステンレスとしては、C、Cr、Niを含有し、フェライト+マルテンサイトの複相組織において旧オーステナイト平均粒径が微細である微細複相組織を有する高強度複相ステンレス鋼板が考えられる。また、C、Si、Mn、Ni、Cr、Cu、Mo、Nを含み、加工誘起マルテンサイト相が残留オーステナイト相中に混在した2相組織を有するオーステナイト系ステンレス鋼板が考えられる。
【0015】
但し、2本のピン28は、接触する内周面32が第一セパレーター16から構成され内周面32の裏側は第二セパレーター18から構成されているため、第一セパレーター16又は第二セパレーター18との間で静電気が生じて、捲回素子22から抜く時に静電気の磁力によりピン28が第一セパレーター16又は第二セパレーター18を引っ張り出すことがないように、第一セパレーター16又は第二セパレーター18との間で静電気が生じ難い材質から構成されることが好ましい。
【0016】
第一セパレーター16及び第二セパレーター18の材質は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを原料とする多孔性シート、不織布、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン、ポリイミド、又はアラミド樹脂から選ばれるため、2本のピン28は、これらの材質との間で静電気が生じ難い金属であることが好ましい。例えば、表面を鏡面加工した金属又は表面にテフロン(登録商標)コーティングした金属であって、第一セパレーター16及び第二セパレーター18との間の摩擦力が少ない金属が好ましい。
【0017】
また、2本のピン28及び連結体30は、捲回素子22から受ける反力に耐え得る強度を有し、且つ、捲回素子22の中空部20へ挿入されたピン28が捲回素子22の内周面32を弾性的に押圧した状態が維持される強度を有する金属であることが好ましい。
【0018】
ピン28と連結体30とは、一体であっても別体であってもよいが、強度の点では一体成形することが好ましい。ピン28と連結体30とが別体の場合には、連結体30にピン28を螺入等して取り付けることにより組み立てる。
【0019】
2本のピン28の先端24における
図1(a)に示す最外殻幅W1は、捲回素子22の内周面(中空部20の内周面)32の
図2に示す直径D(巻芯の外周の直径)よりも大きく、2本のピン28の後端26における
図1(a)に示す最外殻幅W2は、直径Dよりも小さく構成される。すなわち、捲回素子搬送器具10は、巻芯の寸法に対応した寸法に構成される。W1とW2との差は、10mm以下であることが好ましく、特には2mm以下であることが好ましい。
【0020】
このような構成の捲回素子搬送器具10の作用及び効果について、以下に説明する。
【0021】
図5に示す捲回装置120等によって製造された捲回素子22は、巻芯を抜き出して製造されたため、
図2に示すように、中空部20を有している。また、巻芯に2枚のセパレーターの先端付近部36が挿入された後に正電極が積層され、2枚のセパレーター間に負電極が積層されて、正電極等が捲回されたため、2枚のセパレーターの先端付近部36は中空部20内に突出し、2枚のセパレーターの先端34は保持されていない。
【0022】
作業者は、捲回素子22及び捲回素子搬送器具10を手で把持し、
図2に示すように、2本のピン28の先端24側を弾性的に互いに接近させ、捲回素子22の中空部20に中心軸C方向に挿入する。中空部20に挿入されて手による把持を解除された2本のピン28は、弾性力により先端24側が互いに離隔し、
図3に示すように、捲回素子22に内周面32に接触し、2本のピン28が捲回素子22の内周面32を弾性的に押圧した状態で、捲回素子搬送器具10が捲回素子22に取り付けられる。この時、1本のピン28は、セパレーターの先端付近部36の中で先端34に近い部分を押圧することが好ましい。なお、捲回素子22の後端
29が連結体30の側面
31(図1(a)及び図3(a)に示す)に当接するため、
図3(a)に示すように、2本のピン28から捲
回素子22の内周面32に、中心軸Cに対して垂直方向より僅か斜め方向に付加される押圧力
F1、及び連結体30から
捲回素子22の後端29に、中心軸C方向に付加される反力
F2により、捲回素子搬送器具10は捲回素子22に固定される。
【0023】
このようにして、2本のピン28が捲回素子22の内周面32を弾性的に押圧し、捲回素子搬送器具10が捲回素子22に取り付けられた状態で、捲回素子22が搬送される。捲回素子22が搬送される時、振動又は揺動等することもあるが、2本のピン28が捲回素子22の内周面32を弾性的に押圧しているため、捲回素子22の巻き形状が先端34側から崩れて先端付近部36が捲回素子22の中空部20から中心軸C方向にずれるのを防止することができる。特に、1本のピン28が、先端付近部36の中で先端34に近い部分を押圧している場合には、先端34を留めることにより、先端付近部36が捲回素子22の中空部20から中心軸C方向にずれるのを、より防止することができる。
【0024】
このため、本発明の捲回素子搬送器具10によれば、セパレーターの先端付近部36が捲回素子22の中空部20から突出して変形することなく捲回素子22を搬送できる。これにより、捲回素子22として、外観上好ましく、商品価値が低下することがない。また、捲回素子22の巻き形状が先端34側から崩れるのを防止し、正電極と負電極とが短絡する恐れが生じることもない。
【0025】
また、捲回素子搬送器具10は、搬送する各捲回素子22毎に準備する必要があるが、2本のピン28と連結体30とから構成されるコンパクトな構成とすることにより、コストの低減を図ることができる。
【0026】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述のものには限定されない。例えば、
図4(a)に示す捲回素子搬送器具10であってもよい。この捲回素子搬送器具10は、連結体30にアース線38が設けられており、ピン28と捲回素子22の内周面32との摩擦により生じる静電気を逃がすことができる。このため、捲回素子搬送器具10を捲回素子22から抜く時に静電気の磁力によりピン28が第一セパレーター16を引っ張り出すことがない。
【0027】
また、
図4(b)に示す捲回素子搬送器具10であってもよい。この捲回素子搬送器具10は、2本のピン28の中間部に把持部材40を固定して構成してもよい。把持部材40は、各ピン28の中間部に固定されたアーム42と、各アーム42に連続する押圧部44とから構成されている。この捲回素子搬送器具10は、捲回素子22に挿入する時、2個の押圧部44を互いに接近させる方向に、2個の押圧部44を押圧し、梃の原理により、2本のピン28を互いに接近させることができる。
【0028】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、本発明は図示したものには限定されない。例えば、断面が円形状の捲回素子に取り付ける捲回素子搬送器具に限定されず、断面が楕円形状、扁平形状、矩形形状、その他の多角形形状の捲回素子に取り付ける捲回素子搬送器具であってもよい。また、本発明に係るピンは、先端から後端へいくに従って細くなり、後端側において曲がりやすく構成してもよい。また、ピンの本数は2本に限定されず、3本以上であってもよい。その他、本発明は、上述した実施形態以外の態様でも実施できる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、捲回素子が変形することなく捲回素子を搬送でき、捲回素子として、外観上好ましく、商品価値が低下することがない。また、捲回素子の巻き形状がセパレーターの先端側から崩れるのを防止し、正電極と負電極とが短絡する恐れが生じることもない。このため、捲回素子の搬送のために広く利用できる。
【符号の説明】
【0030】
10:捲回素子搬送器具
20:中空部
22:捲回素子
24:先端
26:後端
28:ピン
30:連結体
32(16):内周面
34:先端
36:先端付近部