特許第6114551号(P6114551)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6114551
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】分布型火災監視システム
(51)【国際特許分類】
   G08B 17/00 20060101AFI20170403BHJP
   G08B 25/00 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
   G08B17/00 C
   G08B25/00 510A
【請求項の数】11
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2012-280531(P2012-280531)
(22)【出願日】2012年12月25日
(65)【公開番号】特開2014-126878(P2014-126878A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年9月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003403
【氏名又は名称】ホーチキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079359
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 進
(72)【発明者】
【氏名】松熊 秀成
【審査官】 吉村 伊佐雄
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−518305(JP,A)
【文献】 特開平09−288779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08B17/00
19/00−31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の監視領域を仮想的に分割した複数の監視区画毎に配置され、前記監視区画の所定の観測値を観測する複数の観測手段と、
前記複数の観測手段が観測した前記複数の監視区画の観測値に基づいて前記監視領域の火災を判断する監視手段と、
を備えた分布型火災監視システムに於いて、
前記監視手段は、縦横2区画となる合計4区画を有し、各区画を空き区画とした補間マトリクスを設定すると共に、前記補間マトリクスの空き区画の観測値を残り3区画の観測値から推定する演算式を設定し、前記複数の監視区画の何れかに観測値が得られない空き区画がある場合、前記補間マトリクスの空き区画を前記監視領域の空き区画に対応させて、当該空き区画の周囲3区画の観測値を取得し、当該周囲3区画の観測値に基づいて前記対応する演算式から前記監視領域の空き区画の観測値を推定することを特徴とする分布型火災監視システム。
【請求項2】
請求項記載の分布型火災監視システムに於いて、
前記補間マトリクスの4区画を、所定区画を起点に所定方向回りに第1区画、第2区画、第3区画及び第4区画とし、且つそれぞれの観測値を第1観測値、第2観測値、第3観測値及び第4観測値とした場合、
第1区画を空き区画として第1観測値を推定する演算式は、第3観測値から隣接する第4観測値へ向かう変化値を第2観測値に加算して第1推定値を求めると共に、第3観測値から隣接する第2観測値に向かう変化値を第4観測値に加算して第2推定値を求め、前記第1推定値と第2推定値の平均により前記第1観測値を推定することを特徴とする分布型火災監視システム。
【請求項3】
請求項記載の分布型火災監視システムに於いて、前記監視手段は、
前記監視領域の空き区画が少なくとも縦横3区画となる合計9区画の外周に添った区画を除く中央に位置する場合、前記補間マトリクスを90度ずつ回転した4種類の補間マトリクスの空き区画を、前記監視領域の空き区画に対応させて当該空き区画の周囲3区画の観測値を取得し、当該周囲3区画の観測値に基づいて前記演算式から算出した値の平均により前記空き区画の観測値を推定することを特徴とする分布型火災監視システム。
【請求項4】
請求項記載の分布型火災監視システムに於いて、前記監視手段は、
前記監視領域の空き区画がコーナ区画の場合、前記補間マトリクスを90度ずつ回転した4種類の補間マトリクスの内の対応する1種類の補間マトリクスの空き区画を、前記監視領域のコーナ空き区画に対応させて当該空き区画の周囲3区画の観測値を取得し、当該周囲3区画の観測値に基づいて前記演算式から前記コーナ空き区画の観測値を推定することを特徴とする分布型火災監視システム。
【請求項5】
請求項記載の分布型火災監視システムに於いて、前記監視手段は、
前記監視領域の空き区画が、監視領域のコーナを除く外周に沿って位置する場合、前記補間マトリクスを90度ずつ回転した4種類の補間マトリクスの内の対応する2種類の補間マトリクスの空き区画を、前記監視領域の外周空き区画に対応させて当該外周空き区画の周囲3区画の観測値を取得し、当該周囲3区画の観測値に基づいて前記演算式から算出した値の平均により前記外周空き区画の観測値を推定することを特徴とする分布型火災監視システム。
【請求項6】
所定の監視領域を仮想的に分割した複数の監視区画毎に配置され、前記監視区画の所定の観測値を観測する複数の観測手段と、
前記複数の観測手段が観測した前記複数の監視区画の観測値に基づいて前記監視領域の火災を判断する監視手段と、
を備えた分布型火災監視システムに於いて、
前記監視手段は、前記複数の監視区画の観測値を、多段階に設定した複数の閾値に基づいて、観測値が高くなるほど大きな値をもつ観測ラベル値に変換して、当該観測ラベル値の総和を算出し、当該観測ラベル値の総和が所定の火災判断閾値以上の場合に火災を判断して火災検知信号を出力し、前記複数の監視区画の何れかに前記観測ラベル値が得られない空き区画がある場合、当該空き区画の周囲に位置する複数の監視区画の観測ラベル値に基づいて、前記空き区画の観測ラベル値を推定することを特徴とする分布型火災監視システム。
【請求項7】
所定の監視領域を仮想的に分割した複数の監視区画毎に配置され、前記監視区画の所定の観測値を観測する複数の観測手段と、
前記複数の観測手段が観測した前記複数の監視区画の観測値に基づいて前記監視領域の火災を判断する監視手段と、
を備えた分布型火災監視システムに於いて、
前記監視手段は、前記複数の監視区画の観測値を、多段階に設定した複数の閾値観測値に基づいて、観測値が高くなるほど大きな値をもつ観測ラベル値に変換して、当該観測ラベル値の総和を算出し、当該観測ラベル値の総和が所定の第1火災判断閾値以上の場合に火災の予兆を検知して火災予報信号を出力し、前記観測ラベル値の総和が前記第1火災判断閾値より高い所定の第2火災判断閾値以上の場合に火災を検知して火災検知信号を出力し、前記複数の監視区画の何れかに前記観測ラベル値が得られない空き区画がある場合、当該空き区画の周囲に位置する複数の監視区画の観測ラベル値に基づいて、前記空き区画の観測ラベル値を推定することを特徴とする分布型火災監視システム。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の分布型火災監視システムに於いて、前記監視手段は、前記複数の観測値から変換した前記観測ラベル値の内の少なくとも1つが所定の最大ラベル値の場合、前記観測ラベル値の総和に基づく火災判断を行うことなく、火災を判断して火災検知信号を出力することを特徴とする分布型火災監視システム。
【請求項9】
請求項1、6又は7の何れかに記載の分布型火災監視システムに於いて、前記空き区画は、前記観測手段に障害が発生した区画、又は前記観測手段を配置していない区画であることを特徴とする分布型火災監視システム。
【請求項10】
請求項1、6又は7の何れかに記載の分布型火災監視システムに於いて、前記複数の観測手段は、前記観測値として前記監視区画の温度又は煙濃度を観測することを特徴とする分布型火災監視システム。
【請求項11】
請求項1、6又は7の何れかに記載の分布型火災監視システムに於いて、前記監視手段は、火災受信機から引き出された伝送路に接続され、火災を判断した場合に火災検知信号を前記火災受信機へ送信して火災警報を出力させることを特徴とする分布型火災監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、監視領域に配置した複数の観測点の温度や煙濃度を観測して火災を監視する分布型火災監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、分布型の火災監視システムとしては、空気管式の差動分布型感知器を使用した火災報知設備が知られ、倉庫や体育館といった大空間の火災監視に使用されている。空気管式の差動分布型火災感知器は、感知器本体から外径2ミリメートル程度の銅管を使用した空気管を監視領域に張り巡らし、火災が発生した場合には、火災による熱を受けた空気管内の空気の膨張により感知器本体のダイヤフラムを変位し、これにより接点を閉じることで発報信号を受信機に送信して火災警報を出力する。
【0003】
また、倉庫や体育館といった大空間の火災監視には、火災による煙を検知する光電式分離型の煙感知器を用いた火災報知設備も知られている。光電式分離型の煙感知器は、監視空間を挟んで発光部と受光部を、光軸を合せて分離配置し、発光部からの光が火災による煙により減衰することから、これを受光部で受光し、所定の減光量が得られた場合に火災を検知し、発報信号を受信機に送信して火災警報を出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−281068号公報
【特許文献2】特開2010−218586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の空気管式の差動分布型感知器を使用した火災報知設備にあっては、監視領域に空気管を張り巡らす設置作業が大変であり、また施工の際には監視領域に張り巡らした空気管の空気漏れがないことを確認する必要があり、もし空気漏れが起きていた場合には、その場所を探して対処する作業が大変になるという問題がある。
【0006】
また光電式分離型の煙感知器を用いた火災報知設備にあっては、発光部と受光部を結ぶ光軸が通過している大空間を部分的に監視しており、設置の際の光軸を合せる作業が大変であり、また長期間設置している間に、建物の歪み等により光軸がずれる場合があり、定期点検の際に光軸合せの再調整を必要とし、維持管理の手間も大きい場合がある。更に、光軸から離れた場所で火災が発生した場合には、火災による煙が拡散して受光部で火災を検知する減光量が得られるまでに時間がかかる場合もある。
【0007】
このような問題を解決するため、本願出願人にあっては、所定の監視領域を仮想的に分割した複数の監視区画毎に温度観測チップを配置して監視区画の温度を観測して監視装置へ送信し、監視装置で複数の温度観測チップで観測した複数の監視区画の観測温度に基づいて監視領域の火災を判断し、受信機に火災検知信号を送信して火災警報を出力させる分布型火災監視システムを提案している。
【0008】
このような分布型火災監視システムによれば、倉庫や体育館といった大空間であっても、大空間の天井面または天井面に近い位置に温度観測チップを所定ピッチ間隔に配置するだけで、監視領域全域に観測点を分布配置して温度を監視装置で簡単に取得することができ、監視領域に分布した複数の観測点からスポット的に得た温度により監視領域全体の火災を早期に且つ確実に判断して火災を警報することが可能となる。
【0009】
また、温度観測チップは電池を内蔵し、無線により通信することから、監視装置との通信可能範囲であれば、それ以外の制約を受けることなく、監視領域の適宜の場所に自由に設置することができ、従来の空気管式の差動分布方感知器や光電式分離型の煙感知器を用いた場合に比べ、設置が極めて簡単であり、観測チップは小型軽量で量産に適しており、設備コストも低減できる。
【0010】
しかしながら、このような分布型火災監視システムにあっては、監視領域に配置している複数の温度観測チップの何れかで障害が発生すると、その区画の観測温度が得られなくなり、火災判断に支障を来たすことになる。
【0011】
この問題を解決するためには、観測温度が取得できなくなった区画(以下「空き区画」という)の周囲に配置している監視区画の観測温度に基づき、空き区画の観測温度を推定する方法が有効である。
【0012】
空き区画の観測温度を、空き区画の周辺の監視区画の観測温度から推定する方法としては、例えば線形補間法(1次補間法)による推定が知られている。
【0013】
図25は、線形補間法による空き区画の観測温度の推定を示した説明図である。図25(A)は、縦横3区画となる合計9区画となる監視領域の観測温度の一例であり、例えば図25(B)のように、中央に観測温度が得られない空き区画が存在した場合、その観測温度Txを周囲8区画の観測温度から線形補間法により予測する。なお、以下の説明では、温度の数値のみを示し、単位は省略する。
【0014】
線形補間法は、例えば中央で横に並んだ3区画の観測温度(70 Tx1 50)を例にとると、その右側に示すように、観測温度Txは線形補間の演算により
Tx1=50+(70−50)/2=60
として算出でき、図25(A)と同じ観測温度を推定できる。
【0015】
図25(C)(D)は図25(B)の上段と下段の横3区画の観測温度につき
(Tx2 60 50 )
(70 60 Tx3)
と空き区画を左端と右端にした場合であり、この場合にも、線形補間法により、
Tx2=70
Tx3=50
となり、図25(A)と同じ観測温度を正しく推定できる。
【0016】
図26は、図25(A)の監視領域の観測温度について、左側縦方向の3画素の観測温度につき、空き区画の位置を変えて観測温度Txを線形補間法により推定した場合であり、推定値Tx1〜Tx3は、
Tx1=60
Tx2=80
Tx3=80
となる。この推定値Txは、図25(A)の観測値
Tx1=70
Tx2=60
Tx3=60
と大きく相違しており、正しい推定ができていない。これは図25(B)〜(D)が3区画の観測値の間に線形温度変化があることで正しい観測値Txを推定できているのに対し、図26(A)〜(C)の場合には、3区画の観測値の間に線形温度変化はなく、このため推定した観測値Txの誤差が大きくなっている。
【0017】
このような線形補間による問題を解消するためには、空き区画に隣接する周辺区画の観測値の平均を求める最近傍補間法(0次補間法)の適用が考えられる。
【0018】
図25(B)〜(D)について最近傍補間法により空き領域の観測値を推定すると
Tx1=52.5
Tx2=56
Tx3=48
となり、正しい観測値は推定できない。
【0019】
また図26(A)〜(C)について最近傍補間法により空き領域の観測値を推定すると
Tx1=56
Tx2=60
Tx3=60
となり、Tx1は誤差があるが、Tx2,Tx3は正しい観測値を推定できている。
【0020】
しかし、複数の監視区画に分割した監視領域の中に観測値が得られない空き区画が発生した場合、線形補間法又は最近傍補間法による空き区画の観測値を推定では、空き区画の周囲にある監視区画の観測温度の分布状況により、推定した観測値の誤差が大きくなる場合があり、誤差の少ない観測値を温度分布の状況に影響されることなく安定的に推測できないという問題がある。
【0021】
また空き区画に隣接する区画の観測温度から温度勾配の有無を判定し、温度勾配を判定した場合は線形補間法を選択し、温度勾配を判定できない場合は最近傍補間法を選択して推定することも考えられるが、補間法を選択するための前処理が煩雑となり、また線形補完法と最近傍補間法のいずれによっても、推定した観測温度の誤差が大きくなる場合もあり、依然として解決すべき課題が残されている。
【0022】
本発明は、線形補間法と最近傍補間法を利用した新たな補間法に基づき、空き区画の観測値をその周辺区画の既知の観測値から最小限の誤差で推測可能とする分布型火災監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
(分布型火災監視システム)
本発明は、
所定の監視領域を仮想的に分割した複数の監視区画毎に配置され、監視区画の所定の観測値を観測する複数の観測手段と、
複数の観測手段観測した複数の監視区画の観測値に基づいて監視領域の火災を判断する監視手段と、
を備えた分布型火災監視システムに於いて、
警報手段は、複数の監視区画の何れかに観測値が得られない空き区画がある場合、当該空き区画の周囲に位置する複数の監視区画の観測値に基づいて、空き区画の観測値を推定することを特徴とする。
【0024】
(空き区画の観測値の推定)
監視手段は、
縦横2区画となる合計4区画を有し、各区画を空き区画とした補間マトリクスを設定すると共に、補間マトリクスの空き区画の観測値を残り3区画の観測値から推定する演算式を設定し、
補間マトリクスの空き区画を監視領域の空き区画に対応させて、当該空き区画の周囲3区画の観測値を取得し、当該周囲3区画の観測値に基づいて対応する演算式から監視領域の空き区画の観測値を推定する。
【0025】
(補間マトリクスによる推定演算式)
補間マトリクスの4区画を、所定区画を起点に所定方向回りに第1区画、第2区画、第3区画及び第4区画とし、且つそれぞれの観測値を第1観測値T1、第2観測値T2、第3観測値T3及び第4観測値T4とした場合、
第1区画を空き区画として第1観測値T1を推定する演算式は、第3観測値T3から隣接する第4観測値T4へ向かう変化値ΔT34を第2観測値T2に加算して第1推定値Tx1を求めると共に、第3観測値T3から隣接する第2観測値T2に向かう変化値ΔT32を第4観測値T4に加算して第2推定値Tx2を求め、第1推定値Tx1と第2推定値Tx2の平均により第1観測値T1を推定する。
T1=(Tx1+Tx2)/2={(T2+ΔT34)+(T4+ΔT32)}/2
【0026】
(領域中央の空き区画の観測値の推定)
監視手段は、監視領域の空き区画が少なくとも縦横3区画となる合計9区画の外周に沿った区画を除く中央に位置する場合、補間マトリクスを90度ずつ回転した4種類の補間マトリクスの空き区画を、監視領域の空き区画に対応させて当該空き区画の周囲3区画の観測値を取得し、当該周囲3区画の観測値に基づいて対応する各演算式から算出した値の平均により空き区画の観測値を推定する。
【0027】
(領域コーナの空き区画の観測値の推定)
監視手段は、監視領域の空き区画がコーナ区画の場合、補間マトリクスを90度ずつ回転した4種類の補間マトリクスの内の対応する1種類の補間マトリクスの空き区画を、監視領域のコーナ空き区画に対応させて当該空き区画の周囲3区画の観測値を取得し、当該周囲3区画の観測値に基づいて演算式からコーナ空き区画の観測値を推定する。
【0028】
(コーナを除く外周空き区画の観測値の推定)
監視手段は、監視領域の空き区画が、監視領域のコーナを除く外周に沿って位置する場合、補間マトリクスを90度ずつ回転した4種類の補間マトリクスの内の対応する2種類の補間マトリクスの空き区画を、監視領域の外周空き区画に対応させて当該外周空き区画の周囲3区画の観測値を取得し、当該周囲3区画の観測値に基づいて前記対応する各演算式から算出した値の平均により外周空き区画の観測値を推定する。
【0029】
(空き区画)
空き区画は、観測手段に障害が発生した区画、又は観測手段を配置していない区画である。
【0030】
(観測ラベル値の変換とその総和による火災判断)
監視手段は、複数の監視区画の観測値を、多段階に設定した複数の閾値に基づいて、観測値が高くなるほど大きな値をもつ観測ラベル値に変換して、当該観測ラベル値の総和を算出し、当該観測ラベル値の総和が所定の火災判断閾値以上の場合に火災を判断して火災検知信号を出力する。
【0031】
(観測ラベル値の変換とその総和による火災予兆と火災の判断)
監視手段は、複数の監視区画の観測値を、多段階に設定した複数の閾値観測値に基づいて、観測値が高くなるほど大きな値をもつ観測ラベル値に変換して、当該観測ラベル値の総和を算出し、当該観測ラベル値の総和が所定の第1火災判断閾値以上の場合に火災の予兆を検知して火災予報信号を出力し、観測ラベル値の総和が第1火災判断閾値より高い所定の第2火災判断閾値以上の場合に火災を検知して火災検知信号を出力する。
【0032】
(最大観測ラベル値による火災判断)
監視手段は複数の観測値から変換した観測ラベル値の内の少なくとも1つが所定の最大ラベル値の場合、観測ラベル値の総和に基づく火災判断を行うことなく、火災を判断して火災検知信号を出力する。
【0033】
(空き区画の観測ラベル値の推定)
監視手段は、複数の監視区画の何れかに観測ラベル値が得られない空き区画がある場合、当該空き区画の周囲に位置する複数の監視区画の観測ラベル値に基づいて、空き区画の観測ラベル値を推定する。
【0034】
(温度又は煙濃度の観測)
複数の観測手段は、観測値として監視区画の温度又は煙濃度を観測する。
【0035】
(火災受信機との連携)
監視手段は、火災受信機から引き出された伝送路に接続され、火災を判断した場合に火災検知信号を火災受信機へ送信して火災警報を出力させる。
【発明の効果】
【0036】
(基本的な効果)
本発明の分布型火災監視システムによれば、監視手段は、複数の監視区画の何れかに監視領域に配置した観測手段で観測値が得られない空き区画がある場合、当該空き区画の周囲に位置する複数の監視区画の観測値に基づいて、空き区画の観測値を推定するようにしたため、監視領域を分割した監視区画に配置した監視手段の障害などにより観測値が得られない場合であっても、空き区画の観測値の推定により全ての監視区画の観測値を常に確保することができ、監視領域に分布した複数の観測点からスポット的に得た観測値により監視領域全体の火災を早期に且つ確実に判断して火災を警報することが可能となる。
【0037】
(補間マトリクスを用いた補間計算による効果)
また監視手段は、縦横2区画となる合計4区画を有し、各区画を空き区画とした補間マトリクスを設定すると共に、補間マトリクスの空き区画の観測値を残り3区画の観測値から推定する演算式を設定し、補間マトリクスの空き区画を監視領域の空き区画に対応させて、当該空き区画の周囲3区画の観測値を取得し、当該周囲3区画の観測値に基づいて対応する演算式から空き区画の観測値を推定するようにしたため、縦横2区画の最小マトリクスを監視領域の空き区画に当て嵌めることで、簡単な補間計算により高い精度で空き区画の観測値を推定することが可能となる。
【0038】
(補間マトリクスの種類と演算式の設定による効果)
また、監視手段は、補間マトリクスを所定方向に90度ずつ回転した4種類の補間マトリクスを準備し、各補間マトリクス毎に、空き区画の観測値を推定する演算式を設定しておくことで、補間マトリクスの空き区画を監視領域の空き区画に配置して得られる残り3区画の既知の観測値を演算式に代入することで、簡単に観測値を推定することができる。
【0039】
この場合の未知の観測値を既知の観測値から推定する演算は、空き区画に隣接する縦及び横の2区画の観測値の変化値を、この2区画と同じ並び方向に位置する空き区画に隣接した区画の観測値に加算することで、空き区画の観測値を推定している。このため、空き区画に隣接する周囲の区画の温度勾配を正しく反映した観測値を高精度で推定することができる。特に、火災発生区画の観測値がピーク値を示し、そこから離れる区画ほど観測値が低下していくような温度分布は、火災に伴う典型的な温度分布であり、このような温度分布のピーク値を示す区画が空き区画となった場合の観測値の推定について、従来の線形補間法及び最近傍補間法では大きな推定誤差を生じているが、本発明にあっては、温度分布がピーク値を示す空き区画の観測値を略正確に推定することができる。
【0040】
(監視領域の空き区画の位置に応じた推定による効果)
また、監視手段は、所定方向に90度ずつ回転下4種類の補間マトリクスを準備し、監視領域における空き区画の位置を、例えば領域中央の空き区画、領域コーナの空き区画、及びコーナを除く外周空き区画に分け、4種類の補間マトリクスの中の監視領域の空き区画に対応した補間マトリクスを1又は複数選択して空き区画の観測値を推定することで、補間マトリクスを90度ずつ回転しながら監視領域の空き区画に当て嵌める煩雑な処理をなくして簡単にし、当て嵌めた補間マトリクスの演算式に基づく空き区画の観測値の推定を簡単にし、処理負担と処理時間を低減できる。
【0041】
(観測手段の故障で発生した空き区画を補間する効果)
また空き区画は、観測手段に障害が発生した区画であり、観測手段に障害が発生して観測値が観測できなくなっても、障害により発生した空き区画の観測値を推定することで、観測手段が故障しても火災監視に対する影響を大幅に低減し、観測手段の修理交換などに十分な時間的余裕をもたせることができる。
【0042】
(観測手段を配置していない空き区画を補間する効果)
また、監視領域の一部の監視区画につき観測手段を配置できない場合、この区画を空き区画としてその周囲の監視区画の観測値から空き区画の観測値を推定することで、観測手段を配置できない監視区画が存在しても、その影響を受けることなく、監視領域に分布した複数の観測点からスポット的に得た観測値により監視領域全体の火災を早期に且つ確実に判断して火災を警報することが可能となる。
【0043】
(観測ラベル値の変換による火災判断の効果)
また監視手段は、複数の監視区画の観測値を、多段階に設定した複数の閾値に基づいて、観測値が高くなるほど大きな値をもつ観測ラベル値に変換して、当該観測ラベル値の総和を算出し、当該観測ラベル値の総和が所定の閾値以上の場合に火災を判断して火災検知信号を出力するため、観測値をそのまま使用した場合に比べ、観測値を観測ラベル値に変換することで、観測ラベル値の総和として比較的小さな数値を使用することができ、火災を判断する処理が簡単になる。
【0044】
また観測値から変換した観測ラベル値は、観測値が火災に繋がる度合いを示す評価値或いは重み値を意味し、火災判断に使用する観測ラベル値の総和は、監視領域全体としての火災に繋がる度合いを示す指標となり、監視領域に分布した複数の観測点の観測結果に基づく監視領域全体としての火災判断を適切に行うことを可能とする。
【0045】
(観測ラベル値の変換による火災予兆と火災の判断)
また監視手段は、複数の監視区画の観測値を、多段階に設定した複数の閾値観測値に基づいて、観測値が高くなるほど大きな値をもつ観測ラベル値に変換して、当該観測ラベル値の総和を算出し、当該観測ラベル値の総和が所定の第1閾値以上の場合に火災の予兆を検知して火災予報信号を出力し、観測ラベル値の総和が第1閾値より高い所定の第2閾値以上の場合に火災を検知して火災検知信号を出力するため、前述した観測ラベル値への変換による効果が得られると共に、利用者は火災警報の前に出される火災予報警報により火災の兆候を早い段階で知って適切な対応とることができる。
【0046】
(最大観測ラベル値による火災判断の効果)
また監視手段は、複数の観測値から変換した観測ラベル値の内の少なくとも1つが所定の最大ラベル値の場合、観測ラベル値の総和に基づく火災判断を行うことなく、火災を判断して火災検知信号を出力するため、観測値としての温度又は煙濃度が火災を確定できるレベルに増加したことを検知し、観測ラベル値の総和に火災判断を行うことなく、直ちに火災と判断し、迅速に火災を警報させることができる。
【0047】
(観測値の総和による火災判断の効果)
一方、監視手段は、前述した観測ラベル値へ変換することなく、複数の監視区画の観測値の総和を算出し、当該観測値の総和が所定の閾値以上の場合に火災を判断して火災検知信号を出力するようにしても良く、総和は比較的大きな数値を扱うことになるが、観測ラベル値への変換が必要ない分、火災判断の処理を簡単にすることができる。
【0048】
(観測値総和による火災予兆と火災の判断の効果)
監視手段は、前述した観測ラベル値へ変換することなく、複数の監視区画の観測値の総和を算出し、当該観測値の総和が所定の第1閾値以上の場合に火災の予兆を検知して火災予報信号を出力し、観測値の総和が第1閾値より高い所定の第2閾値以上の場合に火災を検知して火災検知信号を出力するようにしても良く、総和は比較的大きな数値を扱うことになるが、同様に、観測ラベル値への変換が必要ない分、火災判断の処理を簡単にすることができる。
【0049】
(観測値による火災判断の効果)
また監視手段は、複数の観測値の少なくとも1つが所定の火災確定閾値以上の場合、観測値の総和に基づく火災判断を行うことなく、火災を判断して火災検知信号を出力するため、観測値としての温度又は煙濃度が火災を確定できるレベルに増加したことを検知し、観測値の総和に火災判断を行うことなく、直ちに火災と判断し、迅速に火災を警報させることができる。
【0050】
(空き区画の観測ラベル値の推定による効果)
監視手段は、複数の監視区画の何れかに観測ラベル値が得られない空き区画がある場合、当該空き区画の周囲に位置する複数の監視区画の観測ラベル値に基づいて、空き区画の観測ラベル値を推定するようにしたため、監視領域を分割した監視区画に配置した複数の監視手段の障害などにより観測値が得られずに観測ラベル値も得られない場合であっても、空き区画の観測ラベル値の推定により全ての監視区画の観測ラベル値を常に確保することができ、監視領域に分布した複数の観測点からスポット的に得た観測値に基づく観測ラベル値より監視領域全体の火災を早期に且つ確実に判断して火災を警報することが可能となる。これ以外の空き区画の観測ラベル値を推定することによる効果は、前述した空き区画の観測値を推定する場合の効果と基本的に同様である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】本発明による火災監視システムの概略構成を示した説明図
図2】監視領域における温度観測チップの配置を示した平面図
図3】温度観測チップの外観及び構造を示した説明図
図4】温度観測チップの機能構成の概略を示したブロック図
図5】監視装置の機能構成の概略を示したブロック図
図6】火災が発生した場合の監視領域における観測温度のラベル値の変化を示した説明図
図7】空き区画の観測値の推定に使用する補間マトリクスを示した説明図
図8】監視領域の中央に位置する空き区画の観測値の推定制御を示した説明図
図9図8に続く監視領域の中央に位置する空き区画の観測値の推定制御を示した説明図
図10】監視領域の左上コーナに位置する空き区画の観測値の推定制御を示した説明図
図11】監視領域の右上コーナに位置する空き区画の観測値の推定制御を示した説明図
図12】監視領域の左下コーナに位置する空き区画の観測値の推定制御を示した説明図
図13】監視領域の右下コーナに位置する空き区画の観測値の推定制御を示した説明図
図14】監視領域のコーナを除く上外周に位置する空き区画の観測値の推定制御を示した説明図
図15】監視領域のコーナを除く左外周に位置する空き区画の観測値の推定制御を示した説明図
図16】監視領域のコーナを除く下外周に位置する空き区画の観測値の推定制御を示した説明図
図17】監視領域のコーナを除く右外周に位置する空き区画の観測値の推定制御を示した説明図
図18】縦横9区画の監視領域の中央に位置する空き区画の観測値の推定制御を示した説明図
図19】空き区画が2つ連続した場合の観測値の推定制御を示した説明図
図20】空き区画が縦横2区画ずつ連続した場合の観測値の推定制御を示した説明図
図21】空き区画が3つ連続した場合の観測値の推定制御を示した説明図
図22】空き区画が縦3区画、横2区画ずつ連続した場合の観測値の推定制御を示した説明図
図23】煙観測チップの外観及び構造を示した説明図
図24】煙観測チップの機能構成の概略を示したブロック図
図25】線形補間法により線形温度変化を持つ並びの監視区画に位置する空き区画の観測温度を推定する処理を示した説明図
図26】線形補間法により線形温度変化のない並びの監視区画に位置する空き区画の観測温度を推定する処理を示した説明図
【発明を実施するための形態】
【0052】
[分布型火災監視システムの構成]
(システム構成の概略)
図1は本発明による分布型火災監視システムの概略構成を示した説明図である。図1は、n階立ての建物に設置した火災報知設備を例示しており、仕切りのない領域となる最上階のn階を監視領域Aとして本発明の分布型火災監視システムを配置し、それ以外の階は、通常の火災監視システムを配置している。1階に設置した受信機14からは各階に感知器回線(電源兼用信号線)16が引き出され、例えば1階及び2階に示すように、感知器回線16には公知の火災感知器18、例えばスポット型煙感知器を接続している。
【0053】
最上階に設置した分布型火災監視システムは、監視領域Aの天井面又は天井面に近い位置に、複数の温度観測チップ10を分散配置し、また監視領域の所定位置に監視装置12を設置し、監視装置12は受信機14からの感知器回線16に接続している。
【0054】
温度観測チップ10は、監視領域を仮想的に分割した複数の監視区画毎に配置し、監視区画の所定の観測値、例えば温度を観測する観測手段であり、また監視装置12は、複数の観測手段で観測した複数の監視区画の観測値に基づいて監視領域の火災を判断する監視手段であり、監視手段は複数の監視区画の何れかに観測値が得られない空き区画がある場合、当該空き区画の周囲に位置する複数の監視区画の観測値に基づいて、空き区画の観測値を推定する。
【0055】
なお、以下、温度観測チップ10−11〜10−33をそれぞれ区別しない場合は温度観測チップ10という。
【0056】
(温度観測チップの配置)
図2は監視領域Aにおける温度観測チップの配置を示した平面図である。図2において、監視領域Aは、点線で示すように、仮想的に例えば9区画の監視区画a11〜a33に分割し、監視区画a11〜a33の各々に温度観測チップ10−11〜10−33を配置している。
【0057】
監視区画a11〜a33の大きさは、温度観測チップ10の感知面積の範囲内とする。温度観測チップ10の感知面積は、例えば、法的な設置基準により定めた定温スポット型火災感知器の特殊感度の感知面積の35m2に相当し、感知面積35m2以内となる適宜の大きさに監視区画a11〜a33を決めれば良い。
【0058】
(温度観測チップと監視装置)
温度観測チップ10−11〜10−33は警戒区画a11〜a33の観測点の温度を観測して温度観測結果が示す温度を含んだ温度観測信号を監視装置12へ送信する。監視装置12は温度観測チップ10−11〜10−33から受信した温度観測信号の観測温度に基づき火災を判断し、火災検知信号を受信機14へ送信して火災警報を出力させる。
【0059】
監視装置12と温度観測チップ10−11〜10−33の間は所定の通信プロトコルに従った通信経路15となり、温度観測チップ10−11〜10−13はこの経路を介して監視装置12との間で、分布型火災監視システムに固有な警報グループ符号を含めた信号を送受信する。
【0060】
ここで温度観測チップ10−11〜10−33が観測する観測点の温度は、温度検出素子の検出信号に基づいて観測した温度を示す指標となる温度情報であり、これを「温度」或いは「観測温度」という。
【0061】
本実施形態の分布型火災監視システムにあっては、温度観測チップ10を複数配置し、これを1台の監視装置12に割当てて管理している。このため監視装置12に割当てた複数の温度観測チップ10は、これらを管理する監視装置12の通信範囲に配置する。監視装置12の通信範囲とは、監視装置12に割当てて管理している温度観測チップ10から送信した信号が、監視装置12で有効受信できる通信距離に入る範囲をいう。
【0062】
[温度観測チップの構成]
(温度観測チップの外観・構造)
図3図1に設けた温度観測チップの外観を示した説明図であり、図3(A)に平面を、図3(B)に内部構造の断面を、図3(C)に底面を示している。
【0063】
図3において、温度観測チップ10は例えば合成樹脂で成型した一端(図3(B)の図示下方)に開口した円盤状のカバー19と、カバー19の開口側に装着したベース20で筐体を構成し、筐体の内部に回路基板22を収納している。カバー19の表面には温度観測チップを特定する登録番号を示したシール45を必要に応じて貼っても良い。
【0064】
回路基板22とベース20の間には釦電池24を収納し、釦電池24の正極には正極端子金具32を接触し、釦電池24の回路基板22側に位置する端面の負極には、負極端子金具30を接触している。
【0065】
釦電池24はベース20の開口穴に対する電池蓋26の装着で固定している。電池蓋26は外周内側の相対した2箇所にL字形の嵌合突起を形成し、ベース20の開口に形成した嵌合切欠にL字形の嵌合突起を嵌め入れて回すことでロックできる。電池蓋26には釦電池24を着脱する際の回動操作のため硬貨等を嵌合する嵌合溝28を形成している。
【0066】
回路基板22の図示上側面には制御チップ38と通信チップ40を実装し、更にカバー19に形成したスリット(開口)42の内側には、外気が通流する位置に温度検出素子36を実装している。温度検出素子36としては観測点(感熱部)の温度に応じて例えば抵抗値が変化するサーミスタなどの適宜の温度検出素子を使用する。
【0067】
また回路基板22にはLED46を実装し、これに相対してカバー19側に透明樹脂などを用いた表示窓44を配置している。
【0068】
ベース20の表面外周には取付シート34を設ける。取付シート34はマグネットシート又は粘着シートなどであり、監視領域の天井面又は天井面に近い位置に簡単に取り付け配置することができる。
【0069】
なお、取付手段および方法は任意であり、取付シート34以外に、フックやクリップ、紐などの適宜の手段を必要に応じて設けることができる。また温度観測チップ10は監視領域の天井面又は天井面に近い位置に配置する場合、特に固定する必要はなく、例えば、脱落しないように紐で吊るすといった簡単な取り付け方で十分である。このように取付が簡単であることから、例えば温度観測チップ10に障害が起きたような場合や電池寿命が近づいたような場合、簡単に新しいものと交換ができる。
【0070】
(温度観測チップの機能構成)
図4は温度観測チップの機能構成の概略を示したブロック図である。温度観測チップ10は、温度検出素子106、温度観測制御部100、アンテナ104を接続した通信部102を備え、図3に示した釦電池24による電源供給を受けて動作する。温度観測制御部100は、図3の制御チップ38に対応し、例えばプログラムの実行により実現される機能である。ハードウェアとしてはCPU、メモリ、各種の入出力ポート等を備えたコンピュータ回路又はワイヤードロジック回路等を使用する。
【0071】
通信部102は図3通信チップ40に対応し、監視装置12との間で所定の通信プロトコルに従って信号を送受信する。この通信プロトコルは、日本国内の場合には、例えば400MHz帯の特定小電力無線局の標準規格として知られたSTD−30(小電力セキュリティシステム無線局の無線設備標準規格)又はSTD−T67(特定小電力無線局テレメータ用、テレコントロール用及びデータ伝送用無線設備の標準規格)に準拠する。この信号は、送信元を示す送信元符号、グループ符号、観測温度などのデータを適宜含んだ形式とする。
【0072】
温度検出素子106は前述したように例えばサーミスタを使用し、この場合、温度による抵抗値の変化に対応した電圧検出信号を温度観測制御部100へ出力する。
【0073】
温度観測制御部100は、監視装置12からの指示に基づいて観測点の温度を観測し、この観測温度を含む温度観測信号を送信する。即ち、温度観測制御部100は、通信部102を介して監視装置12から所定周期毎に送信される一括AD変換信号の有効受信を検知した場合に、温度検出素子106からの検出信号に基づき温度を観測し、続いて送信されてくる自分のアドレス(例えば自分の送信元符号)を指定したポーリング信号を有効受信した場合に、観測温度を含んだ温度観測信号を通信部102から監視装置12へ送信させる制御を行う。
【0074】
このように監視装置12からの指示で温度を観測して送信することで、複数の温度観測チップ10から送信する温度観測信号の衝突(伝送障害)を回避できる。また複数の温度観測チップ10における温度観測のタイミングを一致させることもできる。
【0075】
なお、温度観測制御部100は、監視装置12からの指示によらず、自発的に所定周期毎に温度を観測して観測温度を含んだ温度観測信号を送信するようにしても良い。この場合には、他の温度観測チップからの温度観測信号の送信と重複しないように、キャリアセンスを行い、キャリアのないタイミングで送信する。
【0076】
[監視装置の構成]
(監視装置の機能構成)
図5は監視装置12の機能構成の概略を示したブロック図である。図5において、監視装置12は、監視制御部200、アンテナ204を接続した通信部202及び操作表示部208を備え、図示しない電源、例えば電池電源又は受信機14から感知器回線16を介して供給された電源により動作する。
【0077】
監視制御部200は、例えばプログラムの実行により実現される機能である。ハードウェアとしてはCPU、メモリ、各種の入出力ポート等を備えたコンピュータ回路又はワイヤードロジック回路等を使用する。
【0078】
通信部202は、監視制御部200の指示を受け、温度観測チップ10−11〜10−33との間で、図4に示した温度観測チップ10の通信部102の場合と同じ通信プロトコルに従って信号を送受信する。この信号は、送信元を示す送信元符号、グループ符号、観測温度などのデータを適宜含んだ形式とする。前述の温度観測信号はこの信号に該当する。グループ符号は分布型火災監視システムに固有な符号であり、このようなグループ符号を使用することで、通信可能範囲にある他の分布型火災監視システムとの間で温度観測信号が混信することを避けることができる。
【0079】
伝送部206は受信機14からの感知器回線16を接続し、監視制御部200の指示を受け、スイッチング動作により感知器回線16に発報電流を流すことで、火災検知信号を受信機14へ送信する。また監視制御部200で障害を検知して指示を受けた場合、感知器回線16を断線状態に開放する動作により、障害検知信号を受信機14へ送信する。このため監視装置12は受信機14から見ると中継器として機能する。
【0080】
操作表示部208は、監視制御部200の指示に基づき、監視装置12に割当てた複数の温度観測チップ10を管理するために必要な各種の設定操作、例えばアドレス、通信チャネル、グループ符号等の設定操作や、設定操作に伴う表示等を行う。
【0081】
監視制御部200は、CPUのプログラム実行などにより実現する機能であり、次の制御を行う。
【0082】
(温度観測制御)
監視制御部200は、通信部202に指示し、所定周期毎に通信部202から温度観測チップ10−11〜10−33へ一括AD変換信号を送信させる制御を行い、これを受信した当温度観測チップ10−11〜10−33に温度観測動作を行わせる。続いて監視制御部200は、通信部102に指示し、温度観測チップ10−11〜10−33のアドレス、例えばそれぞれに割り当てられた識別子である送信元符号を指定したポーリング信号を通信部102から温度観測チップ10−11〜10−33へ送信させる制御を行い、当該ポーリング信号を受信した温度観測チップ10−11〜10−33から観測温度を含んだ温度観測信号を順次送信させる。
【0083】
なお、監視装置12からの指示によらず、温度観測チップ10から自発的に、所定周期毎に温度を観測して温度観測結果が示す温度を含んだ温度観測信号を送信してくるようにした場合は、前述した一括AD変換信号とポーリング信号の送信により温度を観測する制御は不要となる。
【0084】
(火災監視制御)
監視制御部200は、温度観測チップ10−11〜10−33で観測した複数の監視区画a11〜a33の観測温度に基づいて監視領域Aの火災を判断する。監視制御部200は、例えば監視区画a11〜a33の観測温度を、多段階に設定した複数の閾値に基づいて、観測温度が高くなるほど大きな値をもつ温度ラベル値に変換して温度ラベル値の総和を算出し、温度ラベル値の総和が所定の閾値以上の場合に火災を判断し、伝送部206に指示し、火災検知信号を受信機14へ送信する制御を行う。
【0085】
監視制御部200により観測温度を観測ラベル値へ変換する制御は次のように行う。まず監視制御部200は、例えば5段階に複数の閾値Tth1〜Tth5を設定している。
閾値Tth1〜Tth5は例えば次のようになる。
Tth1=50℃(低発熱)
Tth2=55℃(中発熱)
Tth3=60℃(高発熱)
Tth4=65℃(過熱)
Tth5=75℃(発火の危険性)
【0086】
この閾値Tth1〜Th5に基づく温度ラベル値への変換は次の条件により行う。
Tth1未満 温度ラベル値L=0
Tth1以上Tth2未満 温度ラベル値L=1
Tth2以上Tth3未満 温度ラベル値L=2
Tth3以上Tth4未満 温度ラベル値L=3
Tth4以上Tth5未満 温度ラベル値L=4
Tth5以上 温度ラベル値L=5
【0087】
温度ラベル値は、観測温度の火災に繋がる度合いを評価する評価値ということができる。またラベル値は、観測温度の火災に繋がる度合いを示す重み値ということもできる。このように観測温度を直接使用せず、火災に繋がる度合いを示す評価値または重み値となる温度ラベル値を使用することで、監視領域に分散配置した温度観測チップ10の複数点の観測温度に基づく火災判断の処理を、観測温度をそのまま使用した場合に比べ簡略化すると共に、火災の早期発見と非火災報の抑制を両立した適切な火災判断を可能とする。
【0088】
図2の監視領域Aの場合、監視区画は9つであることから、温度ラベル値の総和Σの最小値と最大値は
最小値ΣLmin=0
最大値ΣLmax=45
となる。このように温度ラベル値の総和ΣLは、0〜45の範囲で変化することから、この範囲に、火災を判断するための火災判断閾値ΣLthを設定する。
【0089】
例えば火災判断閾値ΣLthとして、
ΣLth=20
を設定する。
【0090】
火災判断閾値ΣLthは監視領域の状況に応じた値に調整することが可能であり、例えばΣLth=20に設定した状態で非火災報が多発するような場合は、それより高い値に設定変更する。
【0091】
ここで、監視制御部200は、複数の観測温度から変換したラベル値の内の少なくとも1つが所定の最大ラベル値L5の場合、観測ラベル値の総和ΣLに基づく火災判断を行うことなく火災を判断し、伝送部206に指示し、火災検知信号を受信機14へ送信して火災警報を出力させる。これにより急激に火災と確定できる観測温度を少なくとも1つの監視区画から観測した場合は、直ちに火災を判断し、迅速に火災警報を出力させることができる。このため監視制御部200は、観測温度から変換したラベル値が最大ラベル値L5未満の場合、前述した観測ラベル値の総和ΣLに基づく火災判断を行うことになる。
【0092】
また観測温度から変換したラベル値の総和による火災判断は、複数回に亘る観測温度から変換したラベル値の総和の変化率を求め、この変化率(上昇率)が予め定めた変化率の閾値以上となった場合に火災を判断するようにしても良い。
【0093】
なお、監視区画の観測温度を温度ラベル値に変換する多段階に設定した閾値は、前述した5段階の閾値Tth1〜5以外に、例えば3段階又は4段階、更には6段階以上と適宜に設定することもできる。この場合、多段階の閾値により変換した温度ラベル値の総和に対する火災判断閾値の設定も、段階数に対応して所定の火災判断閾値を設定する。
【0094】
また上記の実施形態にあっては、監視領域Aを9区画に分割して観測した観測温度を温度ラベル値に変換し、その総和から火災を判断しているが、監視領域Aの区画分割数が9区画以外となった場合には、その場合の区画数により温度ラベル値の総和が変化することから、総和をとる区画数に応じて所定の火災判断閾値を設定する。
【0095】
(火災復旧制御)
監視制御部200は、観測温度から変換した温度ラベル値の総和により火災を判断して火災検知信号を受信機14へ送信した後に、温度観測チップ10−11〜10−33により観測した監視区画a11〜a33の観測温度から変換した温度ラベル値の総和が火災判断閾値ΣLthを下回る状態が例えば所定時間継続した場合或いは例えば所定回数連続した場合、火災の復旧(火災検知状態が解消したこと)を検知し、伝送部206に指示し、火災検知信号の送信を停止する制御、例えば感知器回線16に流していた発報電流を停止する復旧制御を行う。
【0096】
[分布型火災監視システムの動作]
次に本発明の分布型火災監視システムによる火災監視動作を説明する。図6は監視装置12の監視制御部200が温度観測チップ10−11〜10−33から受信した観測温度から変換した1〜5の値をとる温度ラベル値を、図2の監視領域Aの各温度観測チップに配置して示した説明図である。ここで、図2の温度観測チップ10−11〜10−33の観測温度に対応したラベル値をL11〜L33とする。
【0097】
監視領域状態A1は、火災の発生がない通常監視状態であり、全ての観測温度から変換した温度ラベル値L11〜L33は0となっている。この場合、温度ラベル値の総和ΣLはΣL=0であり、火災判断閾値ΣLth=20未満であることから、火災の判断はない。
【0098】
続いて監視領域状態A2は、中央の監視区画で火災Fが発生した場合であり、火災発生区画の観測温度から変換した温度ラベル値L22がL22=1に増加している。この場合、温度ラベル値の総和ΣLはΣL=1であり、火災判断閾値ΣLth=20未満であることから、同様に、火災の検知はない。
【0099】
続いて監視領域状態A3となり、火災Fの拡大に伴い、中央の監視区画の温度ラベル値L22がL22=2に増加し、その周囲の温度ラベル値もL12,L21,L23,L32=1と増加している。この場合、温度ラベル値の総和ΣLはΣL=6であり、火災判断閾値ΣLth=20未満であることから、同様に、火災の検知はない。
【0100】
続いて監視領域状態A4となり、火災Fの拡大に伴い、中央の監視区画の温度ラベル値L22がL22=3に増加し、その周囲の温度ラベル値もL12,L21,L23,L32=2と増加している。この場合、温度ラベル値の総和ΣLはΣL=15であり、火災判断閾値ΣLth=20未満であることから、同様に、火災の検知はない。
【0101】
続いて監視領域状態A5となり、火災Fが拡大し、中央の監視区画の温度ラベル値L22がL22=4に増加し、その周囲の温度ラベル値もL11,L13,L31,L33=2及びL12,L21,L23,L32=3と増加している。この場合、温度ラベル値の総和ΣLはΣL=24に増加し、火災判断閾値ΣLth=20以上であることから火災を判断し、受信機14へ火災検知信号を送信して火災警報を出力させる。
【0102】
続いて監視領域状態A6となり、火災Fが更に拡大し、中央の監視区画の温度ラベル値L22がL22=5に増加し、その周囲の温度ラベル値もL11,L13,L31,L33=3及びL12,L21,L23,L32=4に増加している。この場合、温度ラベル値の総和ΣLはΣL=33に増加し、火災判断閾値ΣLth=20以上であることから火災判断を継続し、受信機14への火災検知信号の送信を継続する。
【0103】
[2段階の火災判断]
監視装置12の監視制御部200は、観測温度から変換した温度ラベル値の総和から火災を判断するための火災判断閾値ΣLthを、火災の予兆を判断するための第1火災判断閾値ΣLth1と、火災を判断するための第2火災判断閾値ΣLth2の2段階に設定しても良い。この場合は、例えば
ΣLth1=15
ΣLth2=20
に設定する。
【0104】
このような2段階の火災判断閾値を設定した場合、監視制御部200は、例えば図6の監視領域状態A3で温度ラベル値の総和ΣLがΣL=18となり、第1火災判断閾値ΣLth1=15に一致することから火災の予兆を判断し、受信機14に対し火災予報信号を送信して火災予報警報を出力させる。続いて図6の監視領域状態A4となり、温度ラベル値の総和ΣLはΣL=24に増加し、第2火災判断閾値ΣLth=20以上であることから火災を判断し、受信機14に対し火災検知信号を送信して火災警報を出力させる。
【0105】
監視制御部200が2段階の火災判断閾値を設定して火災を判断する場合、火災予報信号と火災検知信号を区別して受信機14へ送信する必要があり、例えば伝送部206は監視制御部200から指示により火災予報信号を送信する場合の発報電流と、火災検知信号を送信する場合の発報電流を異ならせる。
【0106】
このように監視装置12からの火災予報信号に基づき受信機14から火災予報警報が出力された場合、担当者は火災予報警報を聞いて火災の兆候を知り、監視領域へ出向いて状況を確認し、例えば機器の異状過熱などを知り、運転を止める等の対処をすることが可能になる。
【0107】
また受信機14から出力された火災予報警報に対し担当者が対処する前に火災警報が出力された場合には、監視領域Aへ出向いて状況を確認し、初期消火などにより迅速且つ適切に対処することが可能になる。
【0108】
[空き区画の観測温度の推定制御]
監視装置12の監視制御部200は、図2に示した温度観測チップ10−11〜10−33を設置した監視領域Aの中の監視区画の何れかに観測温度が得られない空き区画がある場合、当該空き区画の周囲に位置する複数の監視区画の観測温度に基づいて、空き区画の観測温度を推定する制御を行う。
【0109】
(補間マトリクス)
監視装置12の警報制御部200は、空き区画の観測温度を推定するため、図7に示す4種類の補間マトリクスM1〜M4を設定し、メモリに記憶している。補間マトリクスM1〜M4は、縦横2区画で合計4区画のマトリクスであり、補間マトリクスM1を基準マトリクスとすると、補間マトリクスM1は、図面上において、左上コーナの区画を起点に、例えば時計回りに第1区画、第2区画、第3区画及び第4区画とした場合、それぞれの観測温度として第1観測温度T1、第2観測温度T2、第3観測温度T3及び第4観測温度T4を割り当てている。なお、以下の説明は、観測温度T1〜T4とする。
【0110】
基準となる補間マトリクスM1は、左上コーナの第1区画を空き区画Nとしており、空き区画Nの観測温度T1を推定する演算式は右側に取出して示すように次式で与えられる。
T1={(T2+ΔT34)+(T4+ΔT32)}/2 (1)
但し、ΔT34=T4−T3、ΔT32=T2−T3
この演算式(1)は、観測温度T3から横方向に隣接する観測温度T4へ向かう変化値ΔT34(正又は負の値)を観測温度T2に加算して空き区画Nの第1推定値Tx1を求める。
Tx1=(T2+ΔT34)
【0111】
また観測温度T3から縦方向に隣接する観測温度T2に向かう変化値ΔT32を観測温度T4に加算して空き区画Nの第2推定値Tx2を求める。
Tx1=(T4+ΔT32)
最終的に、第1推定値Tx1と第2推定値Tx2の平均により第1観測温度T1を推定する。
T1=(Tx1+Tx2)/2={(T2+ΔT34)+(T4+ΔT32)}/2
【0112】
この演算式(1)により未知の観測温度T1を既知の観測温度T2〜T4から推定する本発明の補間法は、最近傍補間法(0次補間法)と線形補間法(1次補間法)を変形して組み合わせた補間法ということができる。
【0113】
即ち、本発明の補間法は、空き区画Nに隣接する横2区画の観測温度(T3,T4)の観測温度T3から観測温度T4へ向かう変化値ΔT34を、この2区画と同じ並び方向に位置する空き区画Nに隣接した区画の観測温度T2に加算して反映することで、空き区画Nの観測温度T1としての第1推定値Tx1を推定する。
【0114】
同様に、空き区画Nの右側に隣接する縦2区画の観測温度(T2,T3)の観測温度T3から観測温度T2へ向かう温度変化ΔT32を、この2区画と同じ並び方向に位置する空き区画Nに隣接した区画の観測温度T4に加算して反映することで、空き区画Nの観測温度T1としての第2推定値Tx2を推定する。
【0115】
このような空き区画Nの観測温度T1の推定は、隣接する観測温度T2〜T4の線形変化を反映していることから、線形補間法の変形ということができる。
【0116】
そして横方向及び縦方向に推定した第1推定値Tx1と第2推定値Tx2の平均をとって最終的に空き区画Nの観測温度T1の推定を確定している。これは空き区画Nの周辺区画の観測温度の平均をとる最近傍補間法の変形ということができる。
【0117】
残りの補間マトリクスM2〜M4は、補間マトリクスM1の観測温度T1を設定した空き区画Nを中心に、補間マトリクスM1を時計回り(右回り)に90度単位で回転したマトリスクである。即ち、補間マトリクスM1を時計回りに90度回転すると補間マトリクスM2となり、補間マトリクスM1を時計回りに180度回転すると補間マトリクスM3となり、補間マトリクスM1を時計回りに270度回転すると補間マトリクスM4となる。なお、補間マトリクスM2〜M4につき、空き区画Nの観測温度T1を、残り3区画の観測温度T2〜T4から推定する演算は、前記(1)式となる。
【0118】
このように90度ずつ回転位置の異なる4種類の補間マトリクスM1〜M4を準備することで、監視領域でランダムに発生する空き区画Nに対する補間マトリクスの当て嵌め(メモリ上でのマッピング)を簡単にできるようにしている。即ち、補間マトリクスを回転せず、90度の各回転位置に対応した4種類の補間マトリクスM1〜M4を予め準備して選択的に当て嵌めることで、簡単な処理を可能とする。勿論、補間マトリクスM1のみを準備し、その回転により監視領域の空き区画に対する当て嵌め行うようにしても良い。
【0119】
(空き区画の観測温度の推定)
監視装置12監視制御部200は、図7に示した4種類の補間マトリクスM1〜M4の空き区画Nを、監視領域の空き区画Nに対応させて、当該空き区画Nの周囲3区画の観測温度を取得し、当該周囲3区画の観測温度に基づいて前記(1)式から空き区画の観測温度を推定する。
【0120】
(領域中央の空き区画の観測温度の推定)
監視装置12の監視制御部200は、監視領域Aの空き区画Nが少なくとも縦横3区画となる合計9区画の中央(図3の監視区画10−22)に位置する場合、4種類の補間マトリクスM1〜M4の空き区画Nを監視領域中央の空き区画Nに対応させて当該空き区画Nの周囲3区画の観測温度を取得し、当該周囲3区画の観測温度に基づいて前記(1)式から算出した値の平均により空き区画の観測温度を推定する。
【0121】
この領域中央の空き区画の観測温度を推定する制御を、図8及び図9を参照して説明すると次のようになる。
【0122】
図8(A)は、監視領域Aの中央の空き区画Nに、補間マトリクスM1の空き区画Nを位置合せして配置した状態(マッピングした状態)であり、この配置によりT2、T3,T4に対応した観測温度を取得する。例えば図25(A)に示した監視領域Aの観測温度を例にとると、T2=50、T3=40、T4=50を取得する。ここで、ΔT34=10、ΔT42=10であることから、前記(1)式に代入すると、
T1={(T2+ΔT34)+(T4+ΔT32)}/2
={(50+10)+(50+10)}/2=60
を推定する。
【0123】
図8(B)は、監視領域Aの中央の空き区画Nに、補間マトリクスM2の空き区画Nを位置合せして配置した状態であり、この配置により観測温度T2、T3,T4として、T2=50、T3=60、T4=70を取得する。ここでΔT34=10、ΔT32=−10であることから、前記(1)式に代入すると
T1={(T2+ΔT34)+(T4+ΔT32)}/2
={(50+10)+(70−10)}/2=60
を推定する。
【0124】
図9(C)は、監視領域Aの中央の空き区画Nに、補間マトリクスM3の空き区画Nを位置合せして配置した状態であり、この配置により観測温度T2、T3,T4として、T2=50、T3=40、T4=50を取得する。ここでΔT34=10、ΔT32=10であることから、前記(1)式に代入すると
T1={(T2+ΔT34)+(T4+ΔT32)}/2
={(50+10)+(50+10)}/2=60
を推定する。
【0125】
図9(D)は、監視領域Aの中央の空き区画Nに、補間マトリクスM4の空き区画Nを位置合せして配置した状態であり、この配置により観測温度T2、T3,T4として、T2=70、T3=60、T4=50を取得する。ここでΔT34=−10、ΔT32=10であることから、前記(1)式に代入すると
T1={(T2+ΔT34)+(T4+ΔT32)}/2
={(70−10)+(50+10)}/2=60
を推定する。
【0126】
最終的に補間マトリクスM1〜M4の配置で推定した空き区画Nの4つの観測温度T1の平均値により、空き区画Nの観測温度T1を
T1=(60+60+60+60)/4=60
として確定する。
【0127】
なお、上記の具体例では、補間マトリクスM1〜M4のいずれによっても、正しい空き区画Nの観測温度T1=60を推定できおり、何れか1つの補間マトリクスのみを用いた推定でも良いが、様々な温度分布を考慮すると、前述したように4種類の補間マトリクスM1〜M4を全て使用することで、推定による誤差を最小限に抑えることができる。また、推定による誤差に問題がない場合は、補間マトリクスM1〜M4のうちの2つ又は3つを使用した推定としても良い。
【0128】
(領域コーナの空き区画の観測温度の推定)
監視装置12の監視制御部200は、監視領域Aの空き区画Nがコーナ区画の場合、4種類の補間マトリクスM1〜M4の内の対応する1種類の補間マトリクスの空き区画Nを監視領域Aのコーナ空き区画Nに対応させて当該空き区画の周囲3区画の観測温度を取得し、当該周囲3区画の観測温度に基づいて前記(1)式からコーナ空き区画の観測温度を推定する。
【0129】
図10は監視領域の左上コーナに存在する空き区画の観測温度の推定処理を示した説明図である。この場合、監視領域Aの左上のコーナ空き区画Nに、補間マトリクスM1の空き区画Nを位置合せし、この配置により観測温度T2、T3,T4に対応した観測温度を取得する。例えば図25(A)の監視領域Aの観測温度を例にとると、T2=50、T3=60、T4=70を取得する。ここでΔT34=10、ΔT32=−10であることから、前記(1)式に代入すると
T1={(T2+ΔT34)+(T4+ΔT32)}/2
={(50+10)+(70−10)}/2=60
を推定する。
【0130】
図11は監視領域の右上コーナに存在する空き区画の観測温度の推定処理であり、この場合、監視領域Aの右上のコーナ空き区画Nに、補間マトリクスM2の空き区画Nを位置合せし、この配置により観測温度T2、T3,T4として、T2=50、T3=60、T4=50を取得する。ここでΔT34=−10、ΔT32=−10であることから、前記(1)式に代入すると
T1={(T2+ΔT34)+(T4+ΔT32)}/2
={(50−10)+(50−10)}/2=40
を推定する。
【0131】
図12は監視領域の左下コーナに存在する空き区画の観測温度の推定処理であり、この場合、監視領域Aの左下のコーナ空き区画Nに、補間マトリクスM4の空き区画Nを位置合せし、この配置により観測温度T2、T3,T4として、T2=70、T3=60、T4=50を取得する。ここでΔT34=−10、ΔT32=10であることから、前記(1)式に代入すると
T1={(T2+ΔT34)+(T4+ΔT32)}/2
={(70−10)+(50+10)}/2=60
を推定する。
【0132】
図13は監視領域の右下コーナに存在する空き区画の観測温度の推定処理であり、この場合、監視領域Aの右下のコーナ空き区画Nに、補間マトリクスM3の空き区画Nを位置合せし、この配置により観測温度T2、T3,T4として、T2=50、T3=60、T4=50を取得する。ここでΔT34=−10、ΔT32=−10であることから、前記(1)式に代入すると
T1={(T2+ΔT34)+(T4+ΔT32)}/2
={(50−10)+(50−10)}/2=40
を推定する。
【0133】
このように監視領域のコーナ空き区画の観測温度を対応する補間マトリクスM1〜M4により推定した場合、いずれについても正しい空き区画Nの観測温度を推定できている。
【0134】
(コーナを除く外周空き区画の観測温度の推定)
監視装置12の監視制御部200は、監視領域Aの空き区画Nが、監視領域Aのコーナを除く外周に沿って位置する場合、4種類の補間マトリクスM1〜M4の内の対応する2種類の補間マトリクスの空き区画Nを、監視領域Aの外周空き区画Nに対応させて当該外周空き区画の周囲3区画の観測温度を取得し、当該周囲3区画の観測温度に基づいて前記(1)式から算出した値の平均により外周空き区画の観測温度を推定する。
【0135】
図14(A)は、監視領域Aのコーナを除く上外周に存在する空き区画Nに、補間マトリクスM1の空き区画Nを位置合せして配置した状態であり、この配置により観測温度T2、T3,T4に対応した観測温度を取得する。例えば図24(A)の監視領域Aの観測温度を例にとると、T2=40、T3=50、T4=60を取得する。ここでΔT34=10、ΔT32=−10であることから、前記(1)式に代入すると
T1={(T2+ΔT34)+(T4+ΔT32)}/2
={(40+10)+(60−10)}/2=50
を推定する。
【0136】
図14(B)は、監視領域Aのコーナを除く上外周に存在する空き区画Nに、補間マトリクスM2の空き区画Nを位置合せして配置した状態であり、この配置により観測温度T2、T3,T4として、T2=60、T3=70、T4=60を取得する。ここでΔT34=−10、ΔT32=−10であることから、前記(1)式に代入すると
T1={(T2+ΔT34)+(T4+ΔT32)}/2
={(60−10)+(60−10)}/2=50
を推定する。
【0137】
最終的に補間マトリクスM1、M2の配置で推定した空き区画Nの2つの観測温度T1の平均値により、空き区画Nの観測温度T1を
T1=(50+50)/2=50
として確定する。
【0138】
図15(A)は、監視領域Aのコーナを除く左外周に存在する空き区画Nに、補間マトリクスM4の空き区画Nを位置合せして配置した状態であり、この配置により観測温度T2、T3,T4として、T2=60、T3=50、T4=60を取得する。ここでΔT34=10、ΔT32=10であることから、前記(1)式に代入すると
T1={(T2+ΔT34)+(T4+ΔT32)}/2
={(60+10)+(60+10)}/2=70
を推定する。
【0139】
図15(B)は、監視領域Aのコーナを除く左外周に存在する空き区画Nに、補間マトリクスM1の空き区画Nを位置合せして配置した状態であり、この配置により観測温度T2、T3,T4として、T2=60、T3=50、T4=60を取得する。ここでΔT34=10、ΔT32=10であることから、前記(1)式に代入すると
T1={(T2+ΔT34)+(T4+ΔT32)}/2
={(60+10)+(60+10)}/2=70
を推定する。
【0140】
最終的に補間マトリクスM4、M1の配置で推定した空き区画Nの2つの観測温度T1の平均値により、空き区画Nの観測温度T1を
T1=(70+70)/2=70
として確定する。
【0141】
図16(A)は、監視領域Aのコーナを除く下外周に存在する空き区画Nに、補間マトリクスM4の空き区画Nを位置合せして配置した状態であり、この配置により観測温度T2、T3,T4として、T2=60、T3=50、T4=40を取得する。ここでΔT34=−10、ΔT32=10であることから、前記(1)式に代入すると
T1={(T2+ΔT34)+(T4+ΔT32)}/2
={(60−10)+(40+10)}/2=50
を推定する。
【0142】
図16(B)は、監視領域Aのコーナを除く下外周に存在する空き区画Nに、補間マトリクスM3の空き区画Nを位置合せして配置した状態であり、この配置により観測温度T2、T3,T4として、T2=60、T3=70、T4=60を取得する。ここでΔT34=−10、ΔT32=−10であることから、前記(1)式に代入すると
T1={(T2+ΔT34)+(T4+ΔT32)}/2
={(60−10)+(60−10)}/2=50
を推定する。
【0143】
最終的に補間マトリクスM3、M4の配置で推定した空き区画Nの2つの観測温度T1の平均値により、空き区画Nの観測温度T1を
T1=(50+50)/2=50
として確定する。
【0144】
図17(A)は、監視領域Aのコーナを除く右外周に存在する空き区画Nに、補間マトリクスM2の空き区画Nを位置合せして配置した状態であり、この配置により観測温度T2、T3,T4として、T2=40、T3=50、T4=60を取得する。ここでΔT34=10、ΔT32=−10であることから、前記(1)式に代入すると
T1={(T2+ΔT34)+(T4+ΔT32)}/2
={(40+10)+(60−10)}/2=50
を推定する。
【0145】
図17(B)は、監視領域Aのコーナを除く右外周に存在する空き区画Nに、補間マトリクスM3の空き区画Nを位置合せして配置した状態であり、この配置により観測温度T2、T3,T4として、T2=60、T3=50、T4=40を取得する。ここでΔT34=−10、ΔT32=10であることから、前記(1)式に代入すると
T1={(T2+ΔT34)+(T4+ΔT32)}/2
={(60−10)+(40+10)}/2=50
を推定する。
【0146】
最終的に補間マトリクスM2、M3の配置で推定した空き区画Nの2つの観測温度TT1の平均値により、空き区画Nの観測温度T1を
T1=(50+50)/2=50
として確定する。
【0147】
なお、図14乃至図17具体例では、2種の補間マトリクスのいずれによっても、正しい空き区画Nの観測温度T1を推定できおり、何れか1つの補間マトリクスのみを用いた推定でも良い。
【0148】
(縦横9区画の監視領域での空き区画観測温度の推定)
図18は、縦横9区画の合計81区画に分割して各区画に温度観測チップ10を配置した場合の本発明の監視領域Aであり、例えば中央に観測温度が得られない空き区画Nが存在した場合を示している。
【0149】
このように監視領域Aの区画数が増加した場合にも、図8及び図9に示した場合と同様に、4種類の補間マトリクスM1〜M4の空き区画Nを、監視領域Aの空き区画Nに位置合せして観測値T2〜T4を取得し、前記(1)式から推定した観測温度の総和の平均として、空き区画Nの観測温度T1を確定すればよい。
【0150】
この点は、空き区画がコーナに位置している場合、及び空き区画がコーナを除く外周に位置している場合についても、縦横3区画で合計9区画の監視領域について示した場合と同様にして、空き区画の観測温度を推定することができる。
【0151】
(連続する複数の空き区画の観測温度推定)
図19は、監視領域Aの中に観測温度が得られない複数の空き区画として、例えば連続する2つの空き区画N1,N2がある場合の、監視装置12の監視制御部200により観測温度を推定する制御を示した説明図である。この場合、空き区画N1,N2は縦方向に並んでいることから、空き区画N1には補間マトリクスM3を当て嵌めて前記(1)式により空き区画N1の観測温度を推定し、また空き区画N2には補間マトリクスM1を当て嵌めて前記(1)式により空き区画N2の観測温度を推定する。
【0152】
図20は、監視領域Aの中に観測温度が得られない複数の空き区画として、例えば縦横2区画の合計4区区画に空き区画N1〜N4がある場合の、監視装置12の監視制御部200により観測温度を推定する制御を示した説明図である。この場合、空き区画N1には補間マトリクスM3を当て嵌め、空き区画N2には補間マトリクスM4を当て嵌め、空き区画N3には補間マトリクスM1を当て嵌め、更に空き区画N4には補間マトリクスM2を当て嵌め、それぞれ前記(1)式により空き区画N1〜N4の観測温度を推定する。
【0153】
図21は、監視領域Aの中に観測煙濃度が得られない複数の空き区画として、例えば連続する3つの空き区画N1〜N3がある場合の、監視装置12の監視制御部200によりそれぞれの観測温度を推定する制御を示した説明図である。この場合、空き区画N1〜N3は縦方向に並んでいることから、上端の空き区画N1には補間マトリクスM3を当て嵌め、下端の空き区画N3には補間マトリクスM1を当て嵌め、それぞれ前記(1)式により空き区画N1、N3の観測温度を推定する。残った空き区画N2は、空き区画N1,N3に推定した観測温度を配置することで、単一の空き区画N2となり、例えば図18に示したように、補間マトリクスM1〜M4の少なくとも何れか1つを配置して前記(1)式から空き区画N2の観測温度を推定する。この観測温度を推定する制御は、空き区画が4区画以上連続する場合にも、同様に適用できる。
【0154】
図22は、監視領域Aの中に観測煙濃度が得られない複数の空き区画として、例えば縦3区画横2区画の合計お区区画に空き区画N1〜N6がある場合の、監視装置12の監視制御部200により観測温度を推定する制御を示した説明図である。この場合、空き区画N1には補間マトリクスM3を当て嵌め、空き区画N2には補間マトリクスM4を当て嵌め、空き区画N4には補間マトリクスM1を当て嵌め、更に空き区画N5には補間マトリクスM2を当て嵌め、それぞれ前記(1)式により空き区画N1、N2、N4、N5の観測温度を推定する。
【0155】
残った空き区画N3、N6は、空き区画N1、N2、N4、N5に推定した観測温度を配置することで、連続する2区画の空き区画N3、N6となり、例えば図19に示したように、補間マトリクスM1〜M4の中の対応する補間マトリクスを配置して前記(1)式から空き区画N3、N6の観測温度を推定する。この観測温度を推定する制御は、空き区画がそれ以上連続する場合にも、同様に適用できる。
【0156】
(空き区画の観測レベル値の推定)
図7乃至図22にあっては、温度観測チップ10で観測した観測温度について、観測温度が得られない空き区画の観測温度を推定する場合を例にとるものであったが、他の実施形態として、図6に示した観測温度から多段閾値を使用して変換した観測レベル値について、複数の監視区画の何れかに観測ラベル値が得られない空き区画がある場合、観測温度の場合と同様にして、空き区画の周囲に位置する複数の監視区画の観測ラベル値に基づいて、空き区画の観測ラベル値を推定するようにしてもよい。
【0157】
具体的には、図7乃至図22に示した実施形態において、観測温度を観測ラベル値と読み替えた実施形態とすれば良い。
【0158】
[煙観測チップを用いた分布型火災監視システム]
本発明の分布型火災監視システムは、図1の監視領域Aに配置した温度観測チップ10の代わりに、所定局所の煙濃度を観測する煙観測チップを配置しても良い。
(煙観測チップの外観・構造)
図23は本発明の分布型火災監視システムで使用する煙観測チップの外観を示した説明図であり、図23(A)に平面を、図23(B)に内部構造の断面を、図23(C)に底面を示している。
【0159】
図23において、煙観測チップ11は例えば合成樹脂で成型されたカバー118と、カバー118の内部に配置した本体120で構成する。カバー118の表面には煙観測チップを特定する登録番号を示したシール145を必要に応じて貼っても良い。カバー118は裏面(図23(B)の図示上方)に開口した略筒形状を有し、先端側(図23(B)の図示下方)の外周に煙流入口138を複数開口し、内部に検煙室140を形成している。
【0160】
本体120の検煙室140を臨む内部には例えば赤外LEDを用いた発光部134と例えばフォトトランジスタを用いた受光部136を、両者の光軸が検煙室140内の検煙空間の検煙点Pで交差するように斜めに配置し、また図23(A)に示すように、発光部134と受光部136は水平周りでも光軸が斜めに交差するように配置し(光軸の交点P)、これにより公知の散乱光式検煙構造を構成している。なお、このような散乱光式検煙構造以外にも、例えば化学変化を利用するもの等、適宜の検煙構造を適用することができる。
【0161】
再び図23(B)を参照するに、散乱光式検煙構造は、発光部134を間欠駆動して発生したパルス光を検煙空間に照射し、煙流入口を介して外部から検煙室140に流入した煙の粒子に光が当たって発生する散乱光を受光部136で受光して電気信号に変換し、受光散乱光量に応じた煙濃度検出信号を出力する。なお、検煙室140の、煙流入口に向かい合う側面部には、外部からの光を遮蔽しつつ外部からの煙が流通可能な、所謂ラビリンス構造を設けているが、説明を省略する。
【0162】
本体120の裏側(図23(B)の図示上方)には回路基板122を配置し、カバー118の裏面開口側は蓋部材137を装着して閉鎖している。回路基板122と蓋部材137の間には釦電池124を収納し、釦電池124の正極には正極端子金具132を接触し、釦電池124の回路基板122側に位置する端面の負極には負極端子金具130を接触している。
【0163】
釦電池124は蓋部材137の開口穴に対する電池蓋126の装着で固定する。電池蓋126は外周内側の相対した2箇所にL字形の嵌合突起を形成し、蓋部材137の開口に形成した嵌合切欠にL字形の嵌合突起を嵌め入れて回すことでロックできる。電池蓋126には釦電池124を着脱する際の回動操作のため硬貨等を嵌合する嵌合溝128を形成している。
【0164】
なお、本実施形態の釦電池の装着構造は一例であり、必要に応じて釦電池124を着脱自在(交換可能な)な適宜の構造とすることができる。
【0165】
回路基板122の図示下面側には発光部134、受光部136、制御チップ141及び通信チップ142を実装している。また回路基板122には図示しない表示用LEDを実装し、表示用LEDに相対してカバー118側に透明樹脂などを用いた表示窓144を配置している。
【0166】
蓋部材137の図示上面側の、煙観測チップ11裏面外周には取付シート133を設ける。取付シート133はマグネットシート又は粘着シートなどであり、これにより監視領域の監視区画に簡単に取り付け配置することができる。なお、取付手段および方法は任意であり、取付シート133以外に、フックやクリップ、紐などの適宜の手段を必要に応じて設けることができる。
【0167】
(煙観測チップの機能構成)
図24は煙観測チップの機能構成の概略を示したブロック図である。図24において、煙観測チップ11は、検煙部116、煙濃度観測制御部110、アンテナ114を接続した通信部112を備え、図23に示した釦電池124による電源供給を受けて動作する。煙濃度観測制御部110は、例えばプログラムの実行により実現される機能である。ハードウェアとしては図23の制御チップ141を備え、CPU、メモリ、各種の入出力ポート等を備えたコンピュータ回路又はワイヤードロジック回路等を使用する。
【0168】
通信部112は図23通信チップ142に対応し、図4の通信部102の場合と同様、監視装置12との間で信号を送受信する。
【0169】
検煙部116は図23に示した散乱光式検煙構造をもち、発光部と受光部を備えている。検煙部116には図示しない発光駆動回路を設け、煙濃度観測制御部110の指示により、所定周期で赤外LEDを用いた発光部を間欠的に発光駆動する。また検煙部116には図示しない増幅回路を設け、フォトダイオードなどの受光部で受光した散乱光の受光信号を増幅し、煙濃度検出信号を煙濃度観測制御部110へ出力する。
【0170】
煙濃度観測制御部110は例えばCPUによるプログラムの実行により実現される機能であり、煙濃度観測信号を扱う以外は図4の温度観測制御部100の場合と同様であることから、説明を省略する。
【0171】
(監視装置の機能構成)
図23及び図24の煙観測チップ11を図2の監視領域に配置した場合の図5に示した監視装置12の機能は、監視制御部200による火災監視制御が相違し、それ以外は図5の場合と同様である。
【0172】
(観測煙濃度に基づく火災監視制御)
監視制御部200は、煙観測チップ11で観測した複数の監視区画a11〜a33の観測煙濃度に基づいて監視領域Aの火災を判断する。監視制御部200は、例えば監視区画a11〜a33の観測煙濃度を、多段階に設定した複数の閾値に基づいて、観測煙濃度が高くなるほど大きな値をもつ観測ラベル値に変換して、当該観測ラベル値の総和を算出し、当該観測ラベル値の総和が所定の閾値以上の場合に火災を判断し、伝送部206に指示し、火災検知信号を受信機14へ送信する制御を行う。
【0173】
監視制御部200により観測煙濃度を煙濃度ラベル値への変換する制御は次のように行う。まず監視制御部200は、例えば5段階に複数の閾値Sth1〜Sth5を設定している。閾値Sth1〜Sth5は例えば次のようになる。
Sth1= 5.0%/m
Sth2= 7.5%/m
Sth3=10.0%/m
Sth4=12.5%/m
Sth5=15.0%/m
【0174】
この閾値Sth1〜Sh5に基づく煙濃度ラベル値への変換は次の条件により行う。
Sth1未満 煙濃度ラベル値L=0
Sth1以上Srh2未満 煙濃度ラベル値L=1
Sth2以上Srh3未満 煙濃度ラベル値L=2
Sth3以上Srh4未満 煙濃度ラベル値L=3
Sth4以上Srh5未満 煙濃度ラベル値L=4
Sth5以上 煙濃度ラベル値L=5
【0175】
煙濃度ラベル値の総和に基づく火災判断は、温度ラベル値の場合と同様であり、例えば煙濃度ラベル値の総和ΣLが火災判断閾値ΣLth、例えばΣLth=20以上の場合に火災を判断する。
【0176】
また温度ラベル値の場合と同様に、火災の予兆を判断するための第1火災判断閾値ΣLth1と、火災を判断するための第2火災判断閾値ΣLth2の2段階に設定してもよい。このため煙濃度ラベル値の総和ΣLが例えば第1火災判断閾値ΣLth1以上の場合に火災の予兆を判断し、受信機14に対し火災予報信号を送信して火災予報警報を出力させる。続いて煙濃度ラベル値の総和ΣLが第2火災判断閾値ΣLth2以上の場合に火災を判断し、受信機14に対し火災検知信号を送信して火災警報を出力させる。
【0177】
また監視制御部200は、複数の観測煙濃度から変換したラベル値の内の少なくとも1つが所定の最大ラベル値L5の場合、観測ラベル値の総和ΣLに基づく火災判断を行うことなく火災を判断し、伝送部206に指示し、火災検知信号を受信機14へ送信して火災警報を出力させる。このため監視制御部200は、観測煙濃度から変換したラベル値が最大ラベル値L5未満の場合、前述した観測ラベル値の総和ΣLに基づく火災判断を行うことになる。
【0178】
(空き領域の観測値の推定制御)
監視装置12の監視制御部200は、図2に示した複数の監視区画に設置した煙観測チップ11の何れかに観測煙濃度が得られない空き区画がある場合、当該空き区画の周囲に位置する複数の監視区画の観測煙濃度に基づいて、空き区画の観測煙濃度を推定する制御を行う。具体的には、図7乃至図22に対応した前述の実施形態において、温度観測値を観測煙濃度と読み替えた実施形態とすれば良ことから、説明を省略する。
【0179】
[本発明の変形例]
(観測チップによるラベル変換)
上記の実施形態では、監視装置が温度観測チップによる観測温度又は煙観測チップによる観測煙濃度からラベル値に変換しているが、このラベル値への変換を温度観測チップ及び煙観測チップ側で行い、変換したラベル値を監視装置へ送信するようにしても良い。これにより監視装置の火災監視制御の負担を軽減することができる。この場合、監視装置は、複数の監視区画の何れかに観測ラベル値が得られない空き区画がある場合、空き区画の周囲に位置する複数の監視区画の観測ラベル値に基づいて、空き区画の観測ラベル値を推定する。
【0180】
(観測値の総和による火災判断)
また監視装置は、温度観測チップ又は煙観測チップによる複数の監視区画の観測温度又は観測煙濃度の総和を算出し、当該総和が所定の閾値以上の場合に火災を判断して火災検知信号を出力するようにしても良い。
【0181】
この場合、観測温度又は観測煙濃度らの総和が所定の第1火災判断閾値以上の場合に火災の予兆を検知して火災予報信号を出力し、当該総和が第1火災判断閾値より高い所定の第2火災判断閾値以上の場合に火災を検知して火災検知信号を出力するようにしても良い。
【0182】
このように観測温度又は観測煙濃度のラベル値への変換を行わずに、観測温度又は観測煙濃度の総和を求めて火災を判断することで、総和を求める処理負担は増加するが、ラベル値への変換を不要し、その分の処理負担を低減できる。
【0183】
この場合にも、監視装置は、複数の観測温度の内の少なくとも1つが所定の火災確定閾値以上の場合(温度は例えば75℃以上、煙濃度は例えば15%/m以上の場合)、観測値の総和に基づく火災判断を行うことなく火災を判断し、火災検知信号を受信機へ送信して火災警報を出力させる。これにより急激に火災と確定できる観測値を少なくとも1つの監視区画から観測した場合は、直ちに火災を判断し、迅速に火災警報を出力させることができる。
【0184】
(受信機と監視装置)
また監視装置と受信機との間を伝送路で接続し、監視装置から受信機へ火災、復旧、障害などのイベントを含む電文を伝送して警報動作を行わせるようにしてもよい。この場合、監視装置から受信機へ観測チップで観測した監視領域の観測値を送信し、受信機側で監視領域の観測値を処理し、火災判断や火災拡大状況の判別表示等を行うようにしても良い。
【0185】
(通信形態)
また、上記の実施形態に於いては観測チップと監視装置の間の通信を無線とする場合を示したが、任意の一部又は全部を有線通信としても良い。
【0186】
(住宅以外の用途)
上記の実施形態はビルやオフィス用などに限らず、住宅の火災監視にも適用できる。
【0187】
(その他)
また本発明は上記の実施形態に限定されず、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【符号の説明】
【0188】
10−11〜10−33:温度観測チップ
11:煙観測チップ
12:監視装置
14:受信機
18:火災感知器
102,112,202:通信部
100:温度観測制御部
200:監視制御部
206:伝送部
208:操作表示部
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