(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6114555
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29D 30/30 20060101AFI20170403BHJP
B60C 9/04 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
B29D30/30
B60C9/04 A
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-1269(P2013-1269)
(22)【出願日】2013年1月8日
(65)【公開番号】特開2014-133316(P2014-133316A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2015年10月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】黒木 武
(72)【発明者】
【氏名】津川 知大
【審査官】
小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−097936(JP,A)
【文献】
特開2011−225152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D 30/30
B60C 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーカスコードが平行に引き揃えられたコード配列体がトッピングゴムにより被覆されかつ両側辺が平行な1次プライを用い、この1次プライを前記側辺に交わる向きに裁断して得た裁断片の前記側辺側の端部を順次重ね合わせて1次継ぎすることにより2次プライを形成する2次プライ形成工程と、
前記2次プライをドラム上で周方向に一周巻きし、その周方向の両端部の間を重ね合わせて2次継ぎすることにより円筒状のカーカスプライを形成するカーカスプライ形成工程とを含み、
前記2次プライ形成工程又は前記カーカスプライ形成工程は、重ね合わされたプライの継ぎ部分上に凹溝形成型を押し付けて、前記継ぎ部分の一方の表面にカーカスコードに沿ってのびる複数の凹溝が形成された溝付き継ぎ部分を形成する凹溝形成ステップを含み、
前記溝付き継ぎ部分は、前記凹溝のうち、両外側に配される凹溝間の溝中心間距離Lが、前記溝付き継ぎ部分の巾Wjの1.0倍以下であり、
前記凹溝の溝深さHaは、前記1次プライの厚さTbの0.2〜1.0倍の範囲であることを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記凹溝のピッチ間隔Pcは、前記カーカスコードのピッチ間隔Pdの0.5〜1.5倍の範囲であることを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記溝中心間距離Lは、前記溝付き継ぎ部分の巾Wjの0.5倍以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーカスプライの継ぎ部分での剛性差を減じて、この継ぎ部分に起因する外観品質の低下を抑制する空気入りタイヤの製造方
法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤのカーカスプライaは、従来、
図6に示すように、カーカスコードa1が平行に引き揃えられたコード配列体を、トッピングゴムにより被覆してなる両側辺cが平行な長尺の1次プライdを原反として形成される。
【0003】
詳しくは、前記1次プライdを、前記側辺cに交わる向きに裁断するとともに、各裁断片d1の前記側辺c側の端部de間を順次連結(1次継ぎj1)することにより長尺な2次プライfを形成する。そしてこの2次プライfをドラムD上で周方向に一周巻きし、その周方向の両端部fe間を互いに連結(2次継ぎj2)することにより円筒状のカーカスプライaを形成している。
【0004】
他方、
図7に示すように、前記1次継ぎj1、及び2次継ぎj2では、通常、前記端部de、de間、及び端部fe、fe間を互いに重ね合わせて接合する所謂オーバラップジョイントが採用されている。この時、接合強度を十分確保するため、継ぎ部分Jの重なり巾jwは、例えば4〜8mm程度に設定されている。
【0005】
しかしながら前記オーバラップジョイントでは、継ぎ部分Jとそれ以外の部分との間の剛性差が過大となる。そのため内圧充填時、サイドウォール部において、前記継ぎ部分Jでの膨張が抑えられ、この継ぎ部分Jが帯状に凹む所謂デントと呼ばれる外観不良を招くという問題がある。
【0006】
なお前記デントを改善するため、前記重なり巾jwを例えば1〜2mmに減じることが望まれている。しかしこの場合、前記重なり巾jwの管理が難しく、場合によっては、接合強度不足となって、カーカスプライaをシェーピングする際に、前記継ぎ部分Jが外れて開いてしまうという新たな問題を招く。
【0007】
又下記の特許文献1、2には、各端部の端面間を互いに突き合わせて接合する所謂ジッパージョイントが提案されている。このジッパージョイントでは、重なり部自体が形成されないため優れたデント抑制効果が発揮される。しかしながら、ジッパージョイントの場合、オーバラップジョイントに比して装置が複雑かつ高価となり、しかも接合に長い時間を要するなど生産性を損ねるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−70902号公報
【特許文献2】特開2001−105508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこ
で、本発明は、オーバラップジョイントの前記利点(装置が構造簡易かつ低価であり、かつ接合時間が短い)を維持しながら、しかも継ぎ部分での接合強度を十分に確保しながら、デントを抑制して外観品質を向上しうる空気入りタイヤの製造方
法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のうち請求項1記載の発明は、カーカスコードが平行に引き揃えられたコード配列体がトッピングゴムにより被覆されかつ両側辺が平行な1次プライを用い、この1次プライを前記側辺に交わる向きに裁断して得た裁断片の前記側辺側の端部を順次重ね合わせて1次継ぎすることにより2次プライを形成する2次プライ形成工程と、前記2次プライをドラム上で周方向に一周巻きし、その周方向の両端部の間を重ね合わせて2次継ぎすることにより円筒状のカーカスプライを形成するカーカスプライ形成工程とを含み、
前記2次プライ形成工程又は前記カーカスプライ形成工程は、重ね合わされたプライの継ぎ部分上に凹溝形成型を押し付けて、前記継ぎ部分の一方の表面にカーカスコードに沿ってのびる複数の凹溝が形成された溝付き継ぎ部分
を形成する凹溝形成ステップを含み、前記溝付き継ぎ部分は、前記凹溝のうち、両外側に配される凹溝間の溝中心間距離L
が、前記溝付き継ぎ部分の巾Wjの1.0倍以下
であり、前記凹溝の溝深さHaは、前記1次プライの厚さTbの0.2〜1.0倍の範囲であることを特徴としている。
【0011】
また請求項2では、前記凹溝のピッチ間隔Pcは、前記カーカスコードのピッチ間隔Pdの0.5〜1.5倍の範囲であることを特徴としている。
【0012】
また請求項3では、前記溝中心間距離Lは、前記溝付き継ぎ部分の巾Wjの0.5倍以上であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明は叙上の如く、1次継ぎ及び2次継ぎの継ぎ部分を、それぞれ端部間を互いに重ね合わせて接合するオーバラップジョイントで形成している。従って、オーバラップジョイントが有する利点、即ちジョイントのための装置が構造簡易かつ低価であり、しかも接合時間が短いという利点を維持しうる。
【0015】
又前記継ぎ部分のうちの少なくとも1つの継ぎ部分を、溝付き継ぎ部分として形成している。前記溝付き継ぎ部分は、継ぎ部分の一方の表面に、カーカスコードに沿ってのびる複数の凹溝を具える。この凹溝は、前記継ぎ部分の重なり巾を確保しながら、継ぎ部分の剛性を減じることができる。即ち、接合強度を維持して継ぎ部分の目開きを防止しながら、デントを抑制して外観品質を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の製造方法によって形成された空気入りタイヤの一実施例を示す断面図である。
【
図2】2次プライ形成工程を説明する概念図である。
【
図3】カーカスプライ形成工程を説明する概念図である。
【
図5】(A)、(B)は凹溝形成ステップを説明する概念図である。
【
図6】カーカスプライの形成方法を説明する概念図である。
【
図7】1次継ぎ及び2次継ぎにおける従来の継ぎ部分を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1は、本発明の製造方法によって形成された空気入りタイヤ1の一例を示す断面図であって、前記空気入りタイヤ1は、トレッド部2からサイドウォール部3をへてビード部4のビードコア5に至るカーカス6を具える。
【0018】
前記カーカス6は、カーカスコードをタイヤ周方向に対して例えば75゜〜90゜の角度で配列した1枚以上、本例では1枚のカーカスプライ6Aから形成される。本例のカーカスプライ6Aは、前記ビードコア5、5間に跨るトロイド状のプライ本体部6aと、その両側に連なり前記ビードコア5の廻りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返されるプライ折返し部6bとを具える。又前記プライ本体部6aとプライ折返し部6bとの間には、前記ビードコア5からタイヤ半径方向外側に先細状にのびるビード補強用のビードエーペックスゴム8が配される。前記カーカスコードとして、ポリエステル、ナイロン、レーヨン、アラミドなどの種々の有機繊維コードが好適に採用される。
【0019】
又前記カーカス6の半径方向外側かつトレッド部2の内部には、ベルト層7が配される。前記ベルト層7は、ベルトコードをタイヤ周方向に対して例えば10〜35゜の角度で配列した2枚以上、本例では2枚のベルトプライ7A、7Bから形成される。前記ベルトコードは、プライ間相互で交差し、これによりベルト剛性が高められ、トレッド部2の略全巾が強固に補強される。ベルトコードとしては、一般にスチールコードが採用されるが、例えばポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、芳香族ポリアミド等の高モジュラスの有機繊維コードも、タイヤのカテゴリーに応じて用いられる。
【0020】
本例では、高速耐久性を高める目的で、前記ベルト層7の半径方向外側にバンド層9が配される。前記バンド層9は、バンドコードを周方向に螺旋状に巻回させた1枚以上のバンドプライ(9A)から形成される。
【0021】
次に、前記空気入りタイヤ1の製造方法は、2次プライ形成工程SAとカーカスプライ形成工程SBとを含んで構成される。本明細書では、前記2次プライ形成工程SA、及びカーカスプライ形成工程SBのみを以下に説明するが、それ以外の工程は、従来のタイヤ製造方法における工程がそのまま採用されうる。
【0022】
前記2次プライ形成工程SAでは、
図2に示すように、両側辺cが平行な長尺帯状の1次プライ11が用いられる。この1次プライ11は、従来と同構造をなし、カーカスコード10が平行に引き揃えられたコード配列体を、トッピングゴムによって被覆することによって形成される。なお前記コード配列体としては、カーカスコード10を横糸(図示しない)にて織合わせた簾織状のものが好適に使用できる。又コード配列体には、ゴムトッピングに先駆けて、ゴム接着用のディッピング処理が施される。
【0023】
又、2次プライ形成工程SAでは、
(1)前記1次プライ11を、前記側辺cに交わる向きに裁断することにより、裁断片11Aを得る裁断ステップSA1と、
(2)前記裁断片11Aの側辺c側の端部11eを、順次重ね合わせて1次継ぎJ1することにより長尺帯状の2次プライ12を形成する1次継ぎステップSA2と、
を具える。
【0024】
又、前記カーカスプライ形成工程SBでは、
図3に示すように、前記2次プライ12を、ドラムD上で周方向に一周巻きし、その周方向の両端部12e、12e間を重ね合わせて2次継ぎj2することにより円筒状のカーカスプライ6Aを形成する。
【0025】
そして本発明では、前記1次継ぎj1と2次継ぎj2との継ぎ部分Jのうちの少なくとも1つの継ぎ部分Jは、溝付き継ぎ部分13として形成される。好ましくは全ての継ぎ部分Jが、溝付き継ぎ部分13として形成される。
【0026】
前記溝付き継ぎ部分13は、
図4に示すように、一方の表面にカーカスコード10に沿ってのびる複数の凹溝14が形成されている。この凹溝14の断面形状として、本例ではV字状のものが例示される。しかしこれに限定されるものではなく、矩形状、U字状のものも適宜採用しうる。
【0027】
前記凹溝14のうち、両外側に配される凹溝14、14間の溝中心間距離Lは、前記溝付き継ぎ部分13の巾Wjの1.0倍以下である。又前記凹溝14の溝深さHaは、前記1次プライ11の厚さTbの0.2〜1.0倍の範囲である。
【0028】
このような凹溝14は、溝付き継ぎ部分13の巾Wjである重なり巾を十分に確保しながら、溝付き継ぎ部分13の剛性を減じることができる。従って、接合強度を維持して溝付き継ぎ部分13の目開きを防止しながら、デントを抑制して外観品質を向上することができる。
【0029】
なお前記凹溝14は、
図5に示すように、1次継ぎj1或いは2次継ぎj2を行う際、継ぎ部分J上に凹溝形成型15を押し付けることで形成することができる。即ち、前記2次プライ形成工程SA、及び/又はカーカスプライ形成工程SBは、継ぎ部分J上に凹溝形成型15を押し付けて凹溝14を形成する凹溝形成ステップを含む。なお前記凹溝形成型15としては、例えば
図5(A)に示すように、外周面に凹溝形成用の凸リブ15Aを複数本突設したローラ状のもの、及び例えば
図5(B)に示すように、下面に凹溝形成用の凸リブを複数本突設した長尺状のものなど種々のものが採用できる。
【0030】
ここで、前記溝深さHaが前記厚さTbの0.2倍未満では、剛性の低減効果が過小となり、デントを十分に抑制することができなくなる。逆に1.0倍を超えると、凹溝14が下側の端部11e(又は12e)にまで達してしまうため、剛性が急激に低下する。そのため、シェーピング時、この凹溝14で目開きが発生する。このような観点から、溝深さHaの上限は前記厚さTbの0.8倍以下が好ましい。
【0031】
又両外側の凹溝14間の溝中心間距離Lが溝付き継ぎ部分の巾Wjの1.0倍を超えると、継ぎ部分13である重なり領域を越えた部分に凹溝14が形成されて剛性を著しく低下させる。そのため継ぎ部分13との剛性差がより大きくなって、デントのいっそうの悪化を招く。従って、溝中心間距離Lの上限は、溝付き継ぎ部分13の巾Wjの0.9倍以下が好ましい。又溝中心間距離Lが小さ過ぎても、剛性低下が局部的となるため、デントの抑制効果が不十分となる。従って、溝中心間距離Lの下限は、前記溝付き継ぎ部分13の巾Wjの0.5倍以上が好ましい。
【0032】
又前記溝付き継ぎ部分13では、前記凹溝14のピッチ間隔Pcは、前記カーカスコード10のピッチ間隔Pdの0.5〜1.5倍の範囲が好ましい。
【0033】
前記ピッチ間隔Pcがピッチ間隔Pdの0.5倍未満の場合、カーカスコード10上に凹溝14が形成されてしまう可能性が高まる。なお前記凹溝14は、前記凹溝形成型15の押し付けによって形成される。そのため、カーカスコード10上に凹溝14が位置する場合にも、そのカーカスコード10が左右に逃げるため、凹溝14の形成は可能であるが、各凹溝14の形成状態が不安定となって所望の効果が有効に発揮されなくなる。逆に、1.5倍を越えると、ピッチ間隔Pcが疎になりすぎ、剛性の低減効果が不十分となる。特に前記ピッチ間隔Pcがピッチ間隔Pdの0.9倍以下の場合には、カーカスコード10、10間に、1〜2本の凹溝14を確実に形成できるため、剛性の低減効果の観点から好ましい。
【0034】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0035】
1次継ぎの継ぎ部分と、2次継ぎの継ぎ部分とを、それぞれ表1の仕様の溝付き継ぎ部分にて形成したカーカスプライを用いた空気入りタイヤ(195/65R15)を試作した。そして、生タイヤ形成時のシェーピング工程におけるカーカスプライの目開きによる不良の発生の有無、及び加硫後のタイヤにおけるデントの発生状況を比較した。
【0036】
各タイヤとも、表1に記載以外は実質的に同仕様であり、共通仕様は以下の通りである。
・1次プライは、
--カーカスコードのコード構成:ポリエステル(1670dtex/2)
--カーカスコードの直径:0.68mm
--カーカスコードのピッチ間隔Pd:1.0mm
--1次プライの厚さTb:0.95mm
・溝付き継ぎ部分の巾Wj:5.0mm
・カーカスは、
--カーカスプライ数:1枚
--カーカスコード角度:90度(対タイヤ赤道)
【0037】
(1)デントの発生状況:
供試タイヤを、リム(6×15JJ)、内圧(300kPa)の条件にてドラム上で回転させ、距離測定センサにて、タイタ最大巾位置におけるデント量を測定した。そして測定結果の逆数を、比較例1を100とする指数で評価した。値が大なほどデントが少なく、外観性能に優れている。
【0038】
【表1】
【0039】
表に示すように、実施例は、オーバラップジョイントにおいて、継ぎ部分での接合強度を十分に確保し、目開きを防止しながら、デントを抑制して外観品質を向上しうるのが確認できる。
【符号の説明】
【0040】
6A カーカスプライ
10 カーカスコード
11 1次プライ
11A 裁断片
11e 端部
12 2次プライ
12e 端部
13 溝付き継ぎ部分
14 凹溝
c 側辺
D ドラム
J 継ぎ部分
j1 1次継ぎ
j2 2次継ぎ
SA 2次プライ形成工程
SB カーカスプライ形成工程