(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記レンズスタックと前記集光レンズとの間における前記励起レーザ光の速軸の拡がり角と遅軸の拡がり角とが略一致していることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーザ装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パルスレーザ光源として、励起光が供給されることで放出光を発生させるレーザ媒質と、光吸収の飽和により光吸収率が小さくなり受動Qスイッチとして作用する可飽和吸収体とが、レーザ共振器の共振光路上に配置された構成のものが知られている。このような受動Qスイッチレーザから出力されるパルスレーザ光のエネルギーをより大きくするためには、レーザ媒質に与えられる励起光のエネルギーをより大きくするとよい。そのため、励起光源の大出力化が望まれている。例えば、励起光出射点を複数有する半導体レーザアレイが複数個積層されて成る半導体レーザアレイスタックは、励起光源として好適である。
【0005】
通常、半導体レーザとレーザ媒質との間には、励起光を平行化するためのコリメートレンズと、平行化された励起光をレーザ媒質に向けて集光する集光レンズとが配置される。励起光は、速軸方向および遅軸方向に拡がりつつ半導体レーザから出射されるので、一般的に、コリメートレンズは双方の軸方向において励起光が平行に(すなわち拡がり角がゼロに)なるように配置される。
【0006】
受動Qスイッチレーザにおいては、レーザ媒質に励起光が供給されることによってレーザ媒質が励起されて発光し、その発光強度が或る強さを超えた時点で可飽和吸収体(Qスイッチ)が働き、レーザ発振が瞬時に行われる。このとき、レーザ媒質の一部における発光強度が或る強さを超えると、他の部分における発光強度が不十分であったとしてもQスイッチが局所的に働き、レーザ発振が早々に生じてエネルギーを消費してしまうことがある。このような場合、パルスレーザ光の出力効率が低く抑えられてしまう。速軸方向のみ平行化して遅軸方向の拡がりを許容する構成では、速軸方向及び遅軸方向の光強度分布の違いによってレーザ媒質の一部を集中的に励起してしまい、上記の現象が生じてパルスレーザ光の出力効率が抑えられるという問題がある。
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、レーザ媒質の集中的な励起を低減して受動Qスイッチレーザの出力効率を高めることができるレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明によるレーザ装置は、光共振器を構成する一対の反射部と、光共振器内に配置された固体レーザ媒質
と、光共振器内において固体レーザ媒質と一方の反射部との間に配置された可飽和吸収体とを有し、光共振器の一端に励起レーザ光を受けて光共振器の他端からパルスレーザ光を出力する固体レーザデバイスと、所定方向に配列された二以上のレーザ出射点を有しており該二以上のレーザ出射点から励起レーザ光を出射する半導体レーザアレイを複数有し、複数の半導体レーザアレイが出射方向を揃えて所定方向及び出射方向と交差する積層方向に積層されて成る半導体レーザアレイスタックと、積層方向に並んで配置され、複数の半導体レーザアレイから出力される励起レーザ光の速軸方向の拡がり角を小さくするための複数のレンズを有するレンズスタックと、レンズスタックを通過した励起レーザ光を固体レーザデバイスに向けて集光する集光レンズとを備え、
集光レンズを通過した後の励起レーザ光は、固体レーザデバイスに固体レーザ媒質側から他方の反射部を介して入射し、複数の半導体レーザアレイそれぞれの二以上のレーザ出射点と複数のレンズそれぞれとの光学距離が、複数のレンズそれぞれの焦点距離と異なっており、励起レーザ光が、速軸方向及び遅軸方向に拡がりつつ集光レンズに入射することを特徴とする。
【0009】
このレーザ装置において、レンズスタックのレンズと半導体レーザアレイのレーザ出射点との光学距離は、該レンズの焦点距離と異なっている。したがって、レンズを通過した励起レーザ光は平行化されず、該光学距離がレンズの焦点距離よりも近い場合には、励起レーザ光は速軸方向に或る拡がり角を持って出射される。また、該光学距離がレンズの焦点距離よりも遠い場合には、励起レーザ光は速軸方向に狭まりつつ出射されるが、一旦収束した後、今度は速軸方向に或る拡がり角を持つ。したがって、遅軸方向において平行化されない場合、励起レーザ光は、速軸方向及び遅軸方向に或る拡がり角を持って拡がりつつ、集光レンズに入射することとなる。
【0010】
このように、上記のレーザ装置では、速軸方向及び遅軸方向の双方に拡がり角を有する励起レーザ光が、集光レンズに入射する。したがって、速軸方向のみ平行化され、遅軸方向には平行化されない励起レーザ光が集光レンズに入射する場合と比較して、励起レーザ光の光強度分布を均一に近づけることができる。これにより、レーザ媒質の集中的な励起を低減し、受動Qスイッチレーザの出力効率を高めることができる。
【0011】
また、レーザ装置は、上記光学距離と上記焦点距離との差が上記焦点距離の15%以上であることを特徴としてもよい。本発明者らの研究によれば、この差が焦点距離の15%以上である場合に、シングルパルス発振を好適に実現することができる。
【0012】
また、レーザ装置は、上記光学距離が上記焦点距離よりも長いことを特徴としてもよく、或いは、上記光学距離が上記焦点距離よりも短いことを特徴としてもよい。これらの何れであっても、励起レーザ光の光強度分布を均一に近づけ、レーザ媒質の集中的な励起を低減することができる。
【0013】
また、レーザ装置は、レンズスタックと集光レンズとの間における励起レーザ光の速軸の拡がり角と遅軸の拡がり角とが略一致していることを特徴としてもよい。これにより、励起レーザ光の光強度分布をより均一に近づけることができ、レーザ媒質の集中的な励起を効果的に低減することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によるレーザ装置によれば、レーザ媒質の集中的な励起を低減して受動Qスイッチレーザの出力効率を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら本発明によるレーザ装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係るレーザ装置1Aの構成を概略的に示す図である。同図に示されるように、本実施形態のレーザ装置1Aは、固体レーザデバイス10と、半導体レーザアレイスタック20と、レンズスタック30と、集光レンズ40とを備えている。
【0018】
固体レーザデバイス10は、いわゆるマイクロチップレーザである。固体レーザデバイス10は、光軸方向に並ぶ反射部11及び12と、レーザ媒質13及び可飽和吸収体14とを有しており、反射部11及び12、レーザ媒質13、並びに可飽和吸収体14は互いに一体化されている。反射部11及び12は、レーザ発振のための光共振器を構成する。反射部11および反射部12は、例えば誘電体多層膜によって構成される。固体レーザデバイス10は、光共振器の一端に励起レーザ光Leを受けて、光共振器の他端からパルスレーザ光Laを出力する。
【0019】
反射部11には、準連続発振(Quasi Continuous Wave;QCW)の励起レーザ光Leが入力される。励起レーザ光Leの波長に対して反射部11は高透過膜として機能し、反射部11はこの励起レーザ光Leを光共振器内へ向けて透過する。また、光共振器内で共振する光の波長に対して反射部11は高反射膜として機能し、反射部11は、光共振器内で共振する光の殆どを反射する。反射部11は、光軸方向におけるレーザ媒質13の一端面上に形成されている。
【0020】
反射部12は、光共振器内で共振する光の波長に対して部分反射膜として機能し、共振器内で共振する光の一部を透過させ残部を反射する。反射部12からは、光共振器内で共振した光の一部がパルスレーザ光Laとして出力される。なお、共振器内で共振する光の波長(すなわちパルスレーザ光Laの波長)における反射部12の反射率は、例えば50%である。反射部12は、光軸方向における可飽和吸収体14の一端面上に形成されている。
【0021】
固体レーザ媒質13は、光共振器内に配置されている。固体レーザ媒質13には、反射部11を透過した励起レーザ光Leが入射する。固体レーザ媒質13は、光活性物質を含有していて、励起レーザ光Leが供給されることで光活性物質が励起され、その光活性物質から放出光を発生させる。固体レーザ媒質13は、例えば、母材としてのYAG結晶中のイットリウム(Y)の一部を他の希土類元素で置換したもの(例えばNd:YAG結晶やYb:YAG結晶)から成る。固体レーザ媒質13がNd:YAG結晶から成る場合、励起レーザ光Leの波長は808nmであり、放出光の波長は1064nmである。放出光は、反射部11及び12により構成される光共振器内でレーザ発振され、同波長のパルスレーザ光Laとなる。なお、光軸方向における固体レーザ媒質13の厚さは、例えば1mm〜2mmである。
【0022】
可飽和吸収体14は、光吸収の飽和により光吸収率が小さくなる性質を有する結晶体であって、レーザ共振器において受動Qスイッチとして用いられる。すなわち、可飽和吸収体14では、光強度が小さいときには光吸収率が大きく、光強度が或る値を超えると光吸収が飽和して光吸収率が急に小さくなる。このような可飽和吸収体14としては、Cr:YAG結晶などが適用され得る。可飽和吸収体14は、固体レーザ媒質13と反射部12との間に配置されている。具体的には、光軸方向における可飽和吸収体14の他端面が、同方向における固体レーザ媒質13の他端面と直に接合されている。なお、光軸方向における可飽和吸収体14の厚さは、例えば1mm〜3mmである。
【0023】
半導体レーザアレイスタック20は、励起レーザ光Leを生成する励起光源である。半導体レーザアレイスタック20は、複数の半導体レーザアレイ21が積層されて成る。また、レンズスタック30は、複数のレンズ31を有している。複数のレンズ31は、複数の半導体レーザアレイ21の積層方向に並んで配置されており、複数の半導体レーザアレイ21から出力される励起レーザ光Leの速軸(ファスト軸)方向の拡がり角を小さくする。集光レンズ40は、レンズスタック30を通過した励起レーザ光Leを速軸方向及び遅軸方向に収斂させて、固体レーザデバイス10のレーザ媒質13に向けて集光する。なお、集光レンズ40に代えて、速軸方向に集光するレンズと、遅軸方向に集光する別のレンズとが配置されてもよい。
【0024】
このレーザ装置1Aでは、まず半導体レーザアレイスタック20から出力された励起レーザ光Leの速軸方向の拡がり角が、レンズスタック30によって変化する。次に、この励起レーザ光Leは、集光レンズ40によって固体レーザデバイス10の固体レーザ媒質13へ向けて集光される。レーザ媒質13は励起レーザ光Leによって励起され、放出光を発生する。
【0025】
レーザ媒質13で発生した放出光は、可飽和吸収体14に達する。レーザ媒質13で発生する放出光のパワーが小さいときは、可飽和吸収体14の光吸収率が大きく、光共振器においてレーザ発振は起こらない。やがて、レーザ媒質13で発生する放出光のパワーが大きくなって、可飽和吸収体14における光強度が或る値を超えると、可飽和吸収体14の光吸収が飽和して光吸収率が急に小さくなる。可飽和吸収体14の光吸収率が小さくなると、レーザ媒質13で発生した放出光は、可飽和吸収体14を透過することができ、反射部11と反射部12との間で往復することでレーザ媒質13において誘導放出を生じさせる。これにより、光共振器においてレーザ発振が起こる。
【0026】
また、このようなレーザ発振が生じると直ちに、レーザ媒質13で発生する放出光のパワーが小さくなり、可飽和吸収体14の光吸収率が大きくなって、レーザ発振が終了する。以上のような動作が繰り返されることで、固体レーザデバイス10はパルス状のレーザ光Laを出力することができる。
【0027】
ここで、本実施形態の半導体レーザアレイスタック20及びレンズスタック30の構成について、詳細に説明する。
図2は、半導体レーザアレイスタック20の外観を示す斜視図である。また、
図3は、半導体レーザアレイスタック20の一部を拡大して示す側面図である。なお、理解の容易のため、
図2及び
図3にはXYZ直交座標系が併せて示されている。
【0028】
図2及び
図3に示されるように、半導体レーザアレイスタック20は、M個(Mは2以上の整数)の半導体レーザアレイ21を有している。M個の半導体レーザアレイ21それぞれは、所定方向(例えばY軸方向)に配列されたN個(Nは2以上の整数)のレーザ出射点Pを有しており、それらのレーザ出射点Pから励起レーザ光Leを出射する。また、M個の半導体レーザアレイ21は、出射方向(例えばX軸方向)を揃えて、上記所定方向及び出射方向と交差する積層方向(例えばZ軸)に積層されている。なお、隣り合う半導体レーザアレイ21の間には、放熱板22が設けられている。すなわち、半導体レーザアレイ21と放熱板22とは、上記積層方向に交互に積層されている。
【0029】
図4は、半導体レーザアレイスタック20から出射される励起レーザ光Leの様子を示す斜視図である。理解の容易のため、
図4(a)は一つのレーザ出射点Pから出射される一本の励起レーザ光Leを示しており、
図4(b)は一つの半導体レーザアレイ21が有するN個のレーザ出射点Pから出射されるN本の励起レーザ光Leを示している。また、
図4(c)は、M個の半導体レーザアレイ21が有するN個のレーザ出射点Pから出射される(M×N)本の励起レーザ光Leを示している。レーザ装置1Aの動作の際、半導体レーザアレイスタック20からは、
図4(c)に示される(M×N)本の励起レーザ光Leが出射される。
【0030】
レーザ出射点Pから出射される励起レーザ光Leは、速軸(ファスト軸)および遅軸(スロー軸)を有し、軸方向によって拡がり角が相違する。一例では、励起レーザ光Leは速軸方向に全角40°の拡がり角を有し、遅軸方向に全角8°の拡がり角を有する。なお、半導体レーザアレイスタック20において、各レーザ出射点Pから出射される励起レーザ光Leの速軸は積層方向(Z軸方向)に沿っており、遅軸は所定方向(Y軸方向)に沿っている。また、半導体レーザアレイ21の各レーザ出射点Pの大きさは、例えば速軸方向に1μm、遅軸方向に100〜200μmである。
【0031】
図5は、レンズスタック30の外観を示す斜視図である。レンズスタック30は、所定方向(Y軸方向)に伸びる少なくともM個のレンズ31を有する。これらのレンズ31は、M個の半導体レーザアレイ21の積層方向(Z軸方向)に並んで配置されている。一例では、レンズスタック30は、シリンドリカルレンズアレイのスタックである。M個のレンズ31それぞれは、M個の半導体レーザアレイ21それぞれに対向して配置され、対向する半導体レーザアレイ21から出力される励起レーザ光Leの速軸方向の拡がり角を小さく変化させる。励起レーザ光Leは、速軸方向に関して、レンズスタック30により変化した拡がり角でもって集光レンズ40に達する。
【0032】
なお、本実施形態のレンズスタック30では、励起レーザ光Leの遅軸方向の拡がり角は殆ど変化しない。そして、レンズスタック30と集光レンズ40との間においても、遅軸方向の拡がり角を変化させるレンズは設けられていない。したがって、励起レーザ光Leは、遅軸方向に関してレーザ出射点Pから出射されたときの拡がり角を保持しつつ、集光レンズ40に達する。
【0033】
ここで、各半導体レーザアレイ21のレーザ出射点Pと、それらに対向する各レンズ31との間の光学距離について説明する。
図6は、レーザ出射点Pとレンズ31との光学距離がレンズ31の焦点距離よりも短い場合の励起レーザ光Leの様子を示す側面図である。また、
図7は、レーザ出射点Pとレンズ31との光学距離がレンズ31の焦点距離よりも長い場合の励起レーザ光Leの様子を示す側面図である。本実施形態では、
図6及び
図7に示されるように、レーザ出射点Pとレンズ31との光学距離がレンズ31の焦点距離と異なっており、レーザ出射点Pとレンズ31との光学距離は、レンズ31の焦点距離よりも短く設定されるか、或いは長く設定される。本実施形態におけるレーザ出射点Pとレンズ31との光学距離とレンズ31の焦点距離との差は有意の大きさであり、製造誤差よりも十分に大きい。典型的には、レーザ出射点Pとレンズ31との光学距離とレンズ31の焦点距離との差は、レンズ31の焦点距離の15%以上である。
【0034】
図6に示されるように、レーザ出射点Pとレンズ31との光学距離がレンズ31の焦点距離よりも短い場合、レンズ31を通過した励起レーザ光Leは、速軸方向に拡がりつつ集光レンズ40(
図1を参照)に達する。前述したように、遅軸方向については拡がり角は変化しないので、励起レーザ光Leは、速軸方向及び遅軸方向の双方に拡がりつつ集光レンズ40に入射することとなる。
【0035】
また、
図7に示されるように、レーザ出射点Pとレンズ31との光学距離がレンズ31の焦点距離よりも長い場合、励起レーザ光Leは速軸方向に狭まりつつレンズ31から出射されるが、一旦収束したのち、今度は速軸方向に拡がりつつ集光レンズ40に入射する。なお、この場合、励起レーザ光Leの収束点とレンズ31との距離は、レンズ31と集光レンズ40との距離よりも十分に短いことが好ましい。この場合においても、遅軸方向については拡がり角は変化しないので、励起レーザ光Leは、速軸方向及び遅軸方向の双方に拡がりつつ集光レンズ40に入射することとなる。
【0036】
そして、
図6及び
図7に示された構成において、レンズスタック30と集光レンズ40との間における励起レーザ光Leの速軸の拡がり角の大きさは、遅軸の拡がり角の大きさに近いほど好ましく、遅軸の拡がり角の大きさと略一致していることが最も好ましい。
【0037】
なお、
図8は、比較例として、レーザ出射点Pとレンズ31との光学距離とレンズ31の焦点距離とが互いに等しい場合の励起レーザ光Leの様子を示す側面図である。この場合、レンズ31から出射された励起レーザ光Leは、速軸方向に平行化されて集光レンズ40に達する。通常、半導体レーザアレイに対向して設けられるレンズは、このように速軸の平行化(コリメート)を行う。しかしながら本実施形態では、上述したようにレーザ出射点Pとレンズ31との光学距離がレンズ31の焦点距離よりも短く設定されるか、或いは長く設定されるので、励起レーザ光Leは速軸方向に拡がりつつ集光レンズ40に入射する。
【0038】
以上の構成を備える本実施形態のレーザ装置1Aによって得られる効果について説明する。前述したように、このレーザ装置1Aにおいて、レンズ31と半導体レーザアレイ21のレーザ出射点Pとの光学距離は、該レンズ31の焦点距離と異なっている(デフォーカス)。したがって、レンズ31を通過した励起レーザ光Leは平行化されず、励起レーザ光Leは、速軸方向及び遅軸方向の双方に或る拡がり角を持って集光レンズ40に入射する。したがって、速軸方向のみ平行化され、遅軸方向には平行化されない励起レーザ光Leが集光レンズ40に入射する場合と比較して、励起レーザ光Leの光強度分布を均一に近づけることができる。
【0039】
図9は、レーザ媒質13の光軸方向に垂直な断面における、励起レーザ光Leの光強度分布を模式的に示す図である。
図9(a)は、レーザ出射点Pとレンズ31との光学距離とレンズ31の焦点距離とが互いに等しい場合(
図8を参照)、すなわち励起レーザ光Leが速軸方向にコリメートされて集光レンズ40に入射する場合を示している。また、
図9(b)は、本実施形態のようにレーザ出射点Pとレンズ31との光学距離とレンズ31の焦点距離とが互いに異なる場合(
図6、
図7を参照)、すなわち励起レーザ光Leが速軸方向及び遅軸方向に拡がりつつ集光レンズ40に入射する場合を示している。
【0040】
図9(a)の場合、速軸方向においてはコリメートにより励起レーザ光Leの分布範囲が狭い。他方、遅軸方向においては励起レーザ光Leが或る拡がり角でもって集光レンズ40に入射するので分布範囲が広くなる。したがって、励起レーザ光Leの分布範囲は、遅軸方向に長い楕円状となる。このような励起レーザ光Leがレーザ媒質13に照射されると、この分布範囲内に位置するレーザ媒質13が、分布範囲外のレーザ媒質13と比較して部分的に強く励起される。その結果、レーザ媒質13の該部分における発光強度が或る強さを超え、他の部分における発光強度が不十分であるにもかかわらずQスイッチが局所的に働き、レーザ発振が早々に生じてエネルギーを消費してしまう。このような場合、パルスレーザ光の出力効率が低く抑えられてしまう。
【0041】
これに対し本実施形態では、励起レーザ光Leが速軸方向及び遅軸方向の双方に或る拡がり角を持っているので、
図9(b)に示されるように、レーザ媒質13における励起レーザ光Leの光強度分布が均一に近づく。これにより、レーザ媒質13における広い領域が均一に励起され、レーザ発振開始時におけるレーザ媒質13の総発光量が高められるので、受動Qスイッチレーザ(固体レーザデバイス10)の出力効率を高めることができる。
【0042】
また、
図8に示される形態において、半導体レーザアレイスタック20の製造時に、各半導体レーザアレイ21の位置ばらつき(積層方向における半導体レーザアレイ21同士の間隔のばらつき、及び出射方向における位置ばらつき)が生じる場合がある。或いは、レンズスタック30の配置時に、各レンズ31と各半導体レーザアレイ21との距離のばらつきが生じることがある。これらの位置ばらつきや距離ばらつきが生じると、良好にコリメートされた励起レーザ光Leとそうではない励起レーザ光Leとの拡がり角の差によって集光位置にばらつきが生じ、輝度分布のムラにつながる。なお、
図10は、このような場合のレーザ媒質13における励起レーザ光Leの光強度分布を模式的に示す図であって、図中の部分A1は光強度が強い部分を示しており、図中の部分A2は光強度が弱い部分を示している。
【0043】
これに対し本実施形態では、前述したように励起レーザ光Leが速軸方向及び遅軸方向の双方に或る拡がり角を持っているので、上述したような位置ばらつきや距離ばらつきが存在する場合であっても、レーザ媒質13における励起レーザ光Leの光強度分布を均一に近づけることができる。したがって、レーザ媒質13における広い領域を均一に励起して、固体レーザデバイス10の出力効率を高めることができる。
【0044】
なお、本実施形態では、レーザ出射点Pとレンズ31との光学距離がレンズ31の焦点距離よりも短く設定される場合(
図6)と、長く設定される場合(
図7)とが例示されている。その何れの形態であっても上記の効果を好適に奏することができるが、半導体レーザアレイスタック20とレンズスタック30との間隔が狭い場合、レンズスタック30を半導体レーザアレイスタック20に近づけることが困難となる。そのような場合には、レンズスタック30を半導体レーザアレイスタック20から遠ざけ、レーザ出射点Pとレンズ31との光学距離をレンズ31の焦点距離よりも長くするとよい。
【0045】
また、レンズ31スタックと集光レンズ40との間において、励起レーザ光Leの速軸の拡がり角と遅軸の拡がり角とは、互いに略一致していることが好ましい。これにより、励起レーザ光Leの光強度分布をより均一に近づけることができ、レーザ媒質13の集中的な励起を効果的に低減することができる。
【0046】
ここで、レーザ出射点Pとレンズ31との光学距離と、レンズ31の焦点距離との差について更に検討する。
図11は、焦点距離が300μmであるレンズスタック30を用いて実験を行った結果を示しており、レーザ出射点Pとレンズ31との光学距離とレンズ31の焦点距離との差(単位μm、光学距離が焦点距離よりも短い場合を負とする)、得られた励起レーザ光Leのエネルギー値(単位mJ)、一パルス当たりに換算したエネルギー値(単位mJ)、並びに、得られたパルス形状(シングルパルス及びダブルパルスの何れか)を示している。
【0047】
図11に示されるように、光学距離と焦点距離との差が±30μm以内である場合にはダブルパルス発振となり、一回の励起につき二つのパルスレーザ光が断続的に出力された。これに対し、光学距離と焦点距離との差が−50μm以下または50μm以上である場合にはシングルパルス発振が得られ、一回の励起につき一つのパルスレーザ光が出力された。この結果から、レーザ出射点Pとレンズ31との光学距離とレンズ31の焦点距離との差の絶対値は、該焦点距離の15%以上であることが好ましい。
【0048】
また、上記実験において、光学距離と焦点距離との差が負である場合のほうが、一パルス当たりのエネルギーが強くなり、より効果的であった。したがって、レーザ出射点Pとレンズ31との光学距離は、レンズ31の焦点距離よりも短いことがより好ましい。なお、レーザ出射点Pとレンズ31との光学距離が焦点距離よりも長い場合、励起レーザ光Leは或る程度の拡がり幅を持ってレンズ31に入射するので、励起レーザ光Leの一部はレンズ31に入射しないが、当該光学距離が焦点距離よりも短い場合には、
図6に示されるように励起レーザ光Leの拡がり幅が小さい状態でレンズ31に入射するので、ほぼすべての励起レーザ光Leがレンズ31に入射する。これにより、効率良く固体レーザデバイス10に励起レーザ光Leを入射させることができるため、一パルス当たりのエネルギーが強くなると考えられる。
【0049】
(変形例)
図12及び
図13は、上記実施形態の一変形例を示す側面図である。上記実施形態ではレンズスタック30が順方向(励起レーザ光Leを入射する側の面が平坦で、出射する側の面が曲面)に配置される場合を例示したが、本変形例では、レンズスタック30が逆方向(励起レーザ光Leを入射する側の面が曲面で、出射する側の面が平坦)に配置されている。このように、レンズスタック30の配置が順方向及び逆方向の何れであっても、上述した実施形態による効果を好適に奏することができる。また、レンズスタック30を逆方向に配置することにより、順方向に配置する場合と比較して焦点距離が長くなるため、レンズスタック30を焦点距離より近づける構成(
図12)を採用する場合には、レンズスタック30と半導体レーザアレイスタック20とが互いに接触する可能性が低減し、レンズスタック30の位置調整が容易となる。