(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、製造現場の構造などの理由から、加熱炉2を鉛直方向に配置できない場合がある。この場合、加熱炉2は、
図2に示されるように、通常、水平方向に配置される。
図2Aに示される装置は、
図1に示される装置に対して、一対のロール1で形成された積層体14の搬送方向を鉛直下方から水平方向に変えるロール4をさらに有する点、加熱炉2が水平に配置されている点、および、冷却槽3に代えて噴霧式冷却器5を有する点、で異なる。噴霧式冷却器5は、積層体14に冷却液を噴霧して積層体14を冷却する装置であり、例えばスプレーノズルやカーテンノズルなどである。
図2Aに示される装置では、積層体14を急冷することができず、樹脂層の樹脂の結晶化を十分に抑制することができないことがある。
【0006】
図2Bに示される装置は、
図2Aに示される装置に対して、噴霧式冷却器5に代えて、冷却槽3と、搬送ロール6とを有している点で異なる。搬送ロール6は、冷却槽3内の冷却液に一部浸されるように配置されており、加熱炉2から搬出された積層体14の鋼箔11に当接して積層体14を冷却槽3内へ搬送する。
図2Bで示される装置では、積層体14が冷却液の温度へ急冷されるので、樹脂層の樹脂の結晶化を十分に抑制することが可能である。
【0007】
ところで、積層体を加熱、急冷すると、積層体は、その材料の熱的特性に応じて膨張、収縮する。たとえば、幅が320mmの樹脂被覆されたオーステナイト系ステンレス鋼箔は、搬送ロール6に当接したときの幅W
0は320mmであるが、搬送ロール6に当接する直前の(180℃に加熱されているときの)鋼箔の幅W
1は、320.89mmである。一方、積層体には、搬送ロール6によって搬送するために、適度な張力が掛けられている。このため、ステンレス鋼箔が急冷によって収縮したときに、積層体の搬送方向には収縮せず、搬送ロール6の軸方向(積層体の幅方向)に主に収縮する。このため、
図3に示されるように、積層体の搬送方向に沿う折れシワ7が発生することがある。このように、加熱炉2を水平方向に配置した場合には、樹脂の結晶化を抑制すると、樹脂被覆鋼箔に折れシワが生じることがあるという問題がある。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、樹脂被覆鋼箔を製造するにあたり、加熱炉が水平方向に配置される場合であっても、樹脂層の樹脂の結晶化を抑制し、かつ折れシワを発生しない方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、加熱された積層体が搬送ロールに当接するまでに樹脂層を特定の温度まで冷却しておくことによって、積層体を急冷しても上記の折れシワが発生しないことを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の樹脂被覆鋼箔の製造方法に関する。
[1] 鋼箔および樹脂層を有する樹脂被覆鋼箔を製造する方法であって、前記鋼箔と、樹脂を含有し、前記鋼箔の表面に形成された樹脂材料層と、を有し、前記樹脂の融点以上の温度に加熱されている積層体の、温度がT
1である前記樹脂材料層を冷却する第一の工程と、第一の工程で冷却されて前記樹脂材料層の温度がT
2となった前記積層体の鋼箔を回転する搬送ロールの周面に当接させて前記積層体を冷却槽中の温度T
3の冷却液中に搬送する第二の工程と、を含み、T
1は、前記樹脂の融点以上の温度であり、T
2とT
3との差は、120℃以下である、樹脂被覆鋼箔の製造方法。
[2] 第一の工程において、前記樹脂材料層上に冷却液を流して前記樹脂材料層を冷却する、[1]に記載の樹脂被覆鋼箔の製造方法。
[3] 前記搬送ロールは、前記冷却槽中の前記冷却液に一部浸されるように配置されている、[1]または[2]に記載の樹脂被覆鋼箔の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、樹脂の結晶化が抑制された樹脂層を有し、かつ折れシワを有さない樹脂被覆鋼箔を製造することができる。よって、本発明によれば、その後に成形加工を施しても微細なクラックが発生することがない樹脂被覆鋼箔を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る樹脂被覆鋼箔の製造方法は、積層体を冷却する第一および第二の工程を含む。
【0014】
[第一の工程]
上記第一の工程では、樹脂の融点以上の温度に加熱されている積層体の、温度T
1の樹脂材料層を冷却する。
【0015】
上記積層体は、鋼箔と樹脂材料層とを有する。鋼箔は、厚さ200μm以下の鋼板である。鋼箔の材料の例には、冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板、Zn−Al合金めっき鋼板、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板およびステンレス鋼板が含まれる。ステンレス鋼板は、オーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系のいずれのステンレス鋼板であってもよい。耐食性の観点から、鋼箔は、各種めっき鋼板またはステンレス鋼板であることが好ましい。鋼箔の厚さは、強度、加工性および製造コストの観点から、15μm以上であることが好ましい。
【0016】
鋼箔には、耐食性および樹脂層との密着性を向上させる観点から、その表面に化成処理皮膜が形成されていてもよい。化成処理の種類は、特に限定されない。化成処理の例には、クロメート処理(クロム酸系)、クロムフリー処理(シラン系、有機チタン系、有機アルミ系など)、リン酸塩処理(リン酸クロム、リン酸亜鉛など)が含まれる。
【0017】
化成処理によって形成される化成処理皮膜の付着量は、耐食性および樹脂層との密着性の向上に有効な範囲内であれば特に限定されない。たとえば、クロメート皮膜の場合、全Cr換算付着量が5〜100mg/m
2となるように付着量を調整すればよい。また、クロムフリー皮膜の場合、Ti−Mo複合皮膜では10〜500mg/m
2、フルオロアシッド系皮膜ではフッ素換算付着量または総金属元素換算付着量が3〜100mg/m
2の範囲内となるように付着量を調整すればよい。また、リン酸塩皮膜の場合、5〜500mg/m
2となるように付着量を調整すればよい。
【0018】
化成処理皮膜は、公知の方法で形成されうる。たとえば、ロールコート法、スピンコート法、スプレー法などの方法により鋼箔の表面に化成処理液を塗布し、水洗せずに乾燥させればよい。乾燥温度および乾燥時間は、水分を蒸発させることができれば特に限定されない。生産性の観点からは、乾燥温度は到達温度で60〜150℃の範囲内が好ましく、乾燥時間は2〜10秒の範囲内が好ましい。なお、到達温度は、加熱された鋼箔が到達する温度のうち、最も高い温度である。
【0019】
上記樹脂材料層は、鋼箔の表面に形成されており、樹脂を含有する。樹脂材料層に含有される樹脂は一種でも二種以上でもよい。また樹脂材料層は、単層でも複層でもよい。樹脂材料層が複数種の樹脂を含む場合の樹脂の融点は、樹脂材料層中の樹脂のうち、最も高い融点を有する樹脂の融点である。樹脂の種類の例には、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタラートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、ナイロン6やナイロン66などのポリアミド、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂、アクリル樹脂およびこれらの酸変性された樹脂、などの結晶性樹脂が含まれる。
【0020】
酸変性された樹脂は、上記の樹脂に酸性基が導入された樹脂である。酸性基は、例えば不飽和カルボン酸またはその無水物によるグラフト変性や、不飽和カルボン酸をモノマーに含むラジカル重合などによって樹脂に導入されうる。上記不飽和カルボン酸の例には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、シトラコン酸およびイタコン酸が含まれる。酸変性された樹脂は、鋼箔と樹脂層との密着性を高める観点から好ましく用いられる。
【0021】
樹脂材料層の厚さは、形成されるべき樹脂層の厚さに応じて、適宜に決められうる。たとえば、樹脂材料層の厚さは、各層の機能、および、得られる樹脂被覆鋼箔の加工性、の両方が十分に発現される観点から、形成されるべき樹脂層の厚さが10〜200μmとなる厚さであることが好ましい。樹脂材料層が複層の場合、各層の厚さは、上記の観点から、10〜100μmであることが好ましい。
【0022】
上記積層体は、第一の工程に際して、樹脂材料層の樹脂を鋼箔に接着すべく、樹脂の融点以上の温度に加熱されている。積層体の温度とは、例えば鋼箔の到達温度である。積層体の温度は、樹脂が鋼箔上で溶融する範囲において、適宜に決められうる。積層体の加熱は、樹脂被覆鋼箔の製造に通常用いられる加熱炉によって行うことが可能である。
【0023】
上記第一の工程では、温度がT
1である樹脂材料層が冷却される。T
1は、上記樹脂の融点以上の温度(℃)である。T
1も、樹脂が鋼箔上で溶融する範囲において、適宜に決められうる。T
1が樹脂の融点未満であると、樹脂材料層の温度が後述する温度T
2に到達するまでの間に樹脂の結晶化が始まるおそれがある。
【0024】
第一の工程における樹脂材料層の冷却方法は、後述する第二の工程を行う前に樹脂材料層の温度がT
2を下回らない範囲であれば特に限定されず、公知の冷却方法から適宜に選ばれうる。たとえば、第一の工程における樹脂材料層の冷却は、冷却ガスによる冷却であってもよいし、冷却液による冷却であってもよい。生産性、製造ラインの短縮、および、十分に速い冷却速度の維持、の観点から、冷却液による冷却であることが好ましい。冷却液は、例えば水である。第一の工程における樹脂材料層の液冷には、スプレーノズルやカーテンノズルなどの、樹脂材料層上に冷却液を供給して樹脂材料層を冷却する公知の装置を用いることが好ましい。中でも、より高い冷却能力を有することから、カーテンノズルがより好ましい。カーテンノズルは、冷却液を排出するスリット状の開口部を有するノズルであり、樹脂材料層上にカーテン状に冷却液を流す。
【0025】
第一の工程において、温度T
1は、積層体の加熱量、積層体の加熱時間、および、積層体の加熱を停止してから第一の工程における樹脂材料層の冷却を開始するまでの時間、によって適宜に調整されうる。
【0026】
第一の工程は、搬送されながら加熱される積層体を、樹脂材料層の温度がT
1となる位置で連続して冷却する工程であることが、生産性の観点から好ましい。第一の工程において、積層体を水平方向に搬送しながら上記のノズルを用いて冷却液を樹脂材料層上に供給する場合では、ノズルの角度は30度以下であることが好ましい。ノズルの角度を上記のように設定することによって、第一の工程の冷却時に、冷却液が積層体の搬送方向における後方に逆流することが防止され、樹脂材料層の過度の冷却による樹脂の結晶化が防止される。積層体の搬送方向を、積層体がより下方に搬送されるように傾斜させることも、冷却液の逆流による樹脂の結晶化を防止する観点から好ましい。なお、ノズルの角度とは、ノズルおよび積層体を側面視したときに、ノズルの軸線が積層体の表面に交差してなる角度のうち、積層体の搬送方向における後方側に形成される角度(
図5中のθ)である。
【0027】
[第二の工程]
上記第二の工程では、第一の工程で冷却された積層体の鋼箔を、回転する搬送ロールの周面に当接させて、積層体を冷却槽中の冷却液中に搬送する。これにより、積層体が冷却液の温度まで急冷される。
【0028】
積層体の鋼箔が搬送ロールの周面に当接するときの樹脂材料層の温度はT
2(℃)である。冷却液の温度をT
3(℃)とすると、T
2とT
3との差は、120℃以下である。T
2とT
3との差が120℃を超えると、鋼箔の収縮がより大きくなり、積層体に上記搬送方向に沿う折れシワが発生することがある。
【0029】
T
2は、樹脂の結晶化開始温度よりも高いことが、樹脂層における樹脂の結晶化を防止する観点から好ましい。T
2は、例えば、第一の工程における冷却開始からの経過時間によって調整することが可能である。なお、本発明に係る製造方法における樹脂の結晶化開始温度は、樹脂の種類や樹脂材料層の冷却条件などの諸条件に応じて異なるが、様々な冷却条件による示差走査熱量測定(DSC)によって測定されまたは推定されうる。
【0030】
T
3は、樹脂材料層の樹脂を固化させることができ、かつ、T
2との温度差が120℃以下になる範囲において、適宜に決められうる。たとえば、樹脂がポリプロピレンであればT
3は65℃以下であり、ポリエチレンであれば30℃以下であり、ポリエステルであれば80℃以下であり、ナイロン6などのポリアミドであれば85℃以下であり、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂であれば70℃以下であることが好ましい。T
3は、上記の樹脂の冷却に適当な冷却液を選ぶことによって実現しうる。T
3は、サーモスタットによる冷却槽での冷却液の温度調整や、冷却槽と温度調整装置との間で冷却槽中の水の循環などの、公知の方法によって調整することが可能である。
【0031】
第二の工程における積層体の搬送速度は、生産性の観点および樹脂の結晶化を抑制する観点から、速いほどよい。たとえば、第二の工程における積層体の搬送速度は、積層体が搬送ロールに当接してから冷却液中に没するまでの間の樹脂材料層の冷却速度が100℃/秒以上となる速度であることが好ましい。積層体の上記搬送速度は、搬送ロールの回転速度によって調整することが可能である。または、積層体を連続して搬送しながら樹脂被覆鋼板を連続して製造する場合では、製造ラインのライン速度によって調整することが可能である。
【0032】
搬送ロールは、その周面に鋼箔を当接させ、鋼箔の搬送方向を変える。搬送ロールは、回転駆動するロールであってもよいし、搬送される鋼箔に従動して回転するロールであってもよい。搬送ロールには、鋼箔の搬送に用いられる公知のロールを使用することができる。搬送ロールは、冷却槽中の冷却液に一部浸されるように配置されていることが好ましい。搬送ロールは、加熱された鋼箔に常に当接していることから、搬送ロールの温度は上昇しやすい。したがって、搬送ロールの温度は、搬送ロールを適宜に冷却することによって、T
3℃に維持されうる。搬送ロールの温度は、搬送ロールを十分量のT
3℃の液体に浸しながら使用するように配置することで、T
3℃に調整されうる。
【0033】
[その他の工程]
本発明に係る製造方法は、本発明の効果が得られる範囲において、前述した第一および第二の工程以外の他の工程をさらに含んでいてもよい。このような他の工程の例には、鋼箔を準備する工程、樹脂材料層を鋼箔に形成する工程、および、積層体を加熱する工程、が含まれる。
【0034】
鋼箔を準備する工程の例には、鋼箔を酸洗する工程や鋼箔の表面に化成処理皮膜を形成する工程などの公知の工程が含まれる。
【0035】
樹脂材料層を鋼箔に形成する工程は、樹脂材料層に応じた公知の方法によって行われる。たとえば、樹脂材料層は、上記樹脂のフィルムを鋼箔に貼り合わせることによって形成されうる。または、樹脂材料層は、上記樹脂の塗料を鋼箔の表面に塗布することによって形成されうる。上記塗料は、例えば加温により溶融した樹脂組成物や、溶剤に樹脂を溶解した樹脂の溶液などである。塗料の塗布方法の例には、Tダイ押し出し機、バーコーター、ロールコーターまたはスピンコーターなどで塗料を鋼箔に塗布する方法が含まれる。樹脂材料層が複層である場合では、各層を順次形成してもよいし、同時に形成してもよい。
【0036】
積層体を加熱する工程は、樹脂被覆鋼箔の製造に通常用いられる加熱炉を用いて行われる。本発明では、前述したように、搬送ロールの当接によっても折れシワが発生しないことから、積層体の急冷に搬送ロールを要する、水平に配置される加熱炉が好適に用いられる。水平に配置される加熱炉とは、加熱される積層体が水平方向に搬送されながら加熱されるように構成されている加熱炉である。積層体の加熱は、積層体に対して接触する部材によって行われてもよいし、非接触の部材によって行われてもよいし、その両方であってもよい。
【0037】
[製造装置]
本発明に係る製造方法は、加熱された積層体の温度T
1の樹脂材料層を冷却するための構成と、前述した搬送ロールとを有する以外は、公知の製造装置と同様の構成の製造装置によって実施されうる。このような製造装置の例には、
図4に示される装置が含まれる。
図4Aに示される装置は、加熱炉2と搬送ロール6との間の積層体の樹脂材料層に、積層体の幅方向において一様に冷却液を流すカーテンノズル8を有する以外は、
図2Bに示される製造装置と同じ構成を有する。
図4Bに示される装置は、一対のロール1およびロール4に代えて、鋼箔の表面に樹脂材料層用の塗料を塗布するロールコーター9を有し、上記のカーテンノズル8をさらに有する以外は、
図2Bに示される製造装置と同じ構成を有する。
【0038】
樹脂を冷却する場合、樹脂の結晶化開始温度は、樹脂の冷却速度が大きいほど、より低くなる傾向を有する。樹脂の結晶化開始温度が低いことは、樹脂の結晶化を抑制する観点から好ましい。したがって、上記の製造装置において、積層体の搬送方向におけるカーテンノズル8から搬送ロール6までの距離は小さいことが好ましい。当該距離は、樹脂の種類や、主にT
1とT
2との温度差によって適宜に決められうる。たとえば、カーテンノズル8から供給される冷却液が積層体と接触する位置Aから、積層体が搬送ロール6と最初に接触する位置(配置された搬送ロール6の側面視したときの頂上)Bまでの距離Dは、5〜70mmである(
図5参照)。このときの製造ライン速度(積層体の搬送速度)は、例えば5〜20m/分である。
【0039】
また、加熱炉2の出口からカーテンノズル8までの距離も、樹脂の結晶化を抑制する観点によれば小さいことが好ましい。ただし、カーテンノズル8は、必要に応じて、加熱炉2内に配置されうる。
【0040】
本発明に係る製造方法では、搬送ロールは、冷却槽中のT
3℃に調整されている冷却液に一部浸されるように好ましくは配置される。搬送ロールの周面に鋼箔が当接された積層体は、搬送ロールの回転に伴って直ちに冷却液中に導入される。すなわち、搬送ロールに当接した積層体は、冷却液によって温度T
2から温度T
3まで急冷される。一般に、樹脂の結晶化開始温度は、樹脂の融点よりも低い。そして、温度T
2は、通常、温度T
1から当該結晶化開始温度までの範囲から選ばれる。このため、第一の工程で温度T
1から冷却されて温度T
2に到達するまで、樹脂材料層中の樹脂は、結晶化を開始するには至らない。そして、第二の工程において、樹脂材料層が温度T
2から温度T
3に急冷されることにより、樹脂材料層中の樹脂は、結晶化する間もなくなく固化して樹脂層を形成する。また、積層体の上記の急冷の温度差は120℃以下である。搬送ロールに当接する積層体には、積層体を冷却液中に搬送するためにある程度の張力が掛けられており、この張力の向きである搬送方向にシワが発生しやすい。しかしながら、積層体の急冷時の温度差が120℃以下であることから、急冷に伴う鋼箔の収縮を十分に小さくすることができる。このため、搬送方向に沿う折れシワが発生しない。
【0041】
本発明によって製造される樹脂被覆鋼箔は、前述した耐食性を要する容器の内袋や二次電池の外装材(ケース)などに好適に使用されうる。これらは、プレス加工、扱き加工、絞り加工、および、熱融着による接着などの、樹脂被覆鋼箔の通常の加工法によって作製されうる。
【0042】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0043】
[樹脂被覆鋼箔1の製造]
ステンレス鋼箔(SUS304:厚さ0.1mm)の表面を脱脂洗浄した後、乾燥させ、市販の塗布型リン酸クロメート処理液(ZMR1320;日本パーカライジング株式会社)を全Cr換算付着量が25mg/m
2となるようにロールコーターで塗布した。クロメート処理液を塗布した鋼箔を到達温度が120℃になるように10秒間加熱して、化成処理皮膜を形成した。
【0044】
次いで、
図4Aに示されるような装置を用いて、樹脂被覆鋼箔を製造した。まず、化成処理されたステンレス鋼箔を10m/分で搬送しながら、その表面に、膜厚30μmの無水マレイン酸変性ポリプロピレンフィルム(QE−060;三井化学東セロ株式会社、融点139℃)を積層し、次いで、無水マレイン酸変性ポリプロピレンフィルムの表面に膜厚30μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(CP−S;三井化学東セロ株式会社、融点163℃)をさらに積層し、140℃に加熱した加熱ラミネートロールで加熱圧着した。これらの樹脂フィルムの層は、樹脂材料層に相当する。その後、加熱炉において、積層体を搬送しながら、ステンレス鋼箔の到達温度が185℃になるように積層体を50秒間加熱して、ステンレス鋼箔に酸変性ポリプロピレンフィルムおよびポリプロピレンフィルムを熱溶着した。
【0045】
熱溶着後、温度T
1が181℃である樹脂材料層上にカーテンノズルから水を供給して樹脂材料層を冷却した。次いで、カーテンノズルで冷却された積層体に、積層体の樹脂材料層の温度T
2が140℃のときにステンレス鋼箔側から下記の冷却水に一部浸されている搬送ロールを当接させ、冷却槽中に収容されている、温度T
3が20℃の冷却液(水)中に搬送し、積層体を水没させて冷却し、樹脂被覆鋼箔1を得た。
【0046】
なお、本発明において、温度T
1は、カーテンノズルから供給される水と接触する位置Aにおける樹脂材料層の温度である。しかしながら、位置Aにおける樹脂材料層の温度を直接測定することは困難である。一方で、位置Aにおける樹脂材料層の温度は、カーテンノズルの直下の位置における樹脂材料層の温度とほぼ等しい。よって、本実施例では、樹脂材料層の実質的に同じ温度の部分の温度を測定してT
1としている。温度T
2は、搬送されている積層体が搬送ロールに当接したときの温度であり、温度T
3は、冷却槽に収容されている冷却液(水)の温度である。温度T
1〜T
3の測定には、データロガー(メモリハイロガー 8430;日置電機株式会社)を用いた。また、積層体が搬送ロールに当接したときから水没する間の樹脂材料層の冷却速度は、100℃/秒以上であった。
【0047】
[樹脂被覆鋼箔2〜7の製造]
T
1がそれぞれ180,182,180,179,156および155℃となるように積層体を加熱炉で加熱し、T
2をそれぞれ140,151,150,149,140および143℃とし、T
3をそれぞれ32,20,31,18,20および13℃とした以外は、樹脂被覆鋼箔1と同様にして、樹脂被覆鋼箔2〜7をそれぞれ製造した。カーテンノズルの水平方向における位置およびカーテンノズルから供給する水の温度によってT
1およびT
2をそれぞれ調整した。また、冷却槽と温度調整装置との間で冷却槽中の水を循環させることによってT
3を調整した。
【0048】
[樹脂被覆鋼箔8〜9の製造]
ポリプロピレンフィルムに代えて膜厚30μmのポリエチレンフィルム(モディック(三菱化学株式会社の登録商標) HDPE H503(三菱化学株式会社)を含有するポリエチレンフィルム、融点128℃)を用い、T
1がそれぞれ141,110℃となるように積層体を加熱炉で加熱し、T
2をそれぞれ125,100℃とし、T
3をそれぞれ20,19℃とした以外は、樹脂被覆鋼箔1と同様にして、樹脂被覆鋼箔8〜9をそれぞれ製造した。
【0049】
[樹脂被覆鋼箔10〜16の製造]
ポリプロピレンフィルムに代えて膜厚16μmのポリエステルフィルム(ルミラー(東レ株式会社の登録商標) F865;東レ株式会社、融点213℃)を用い、T
1がそれぞれ250,250,252,251,252,201および200℃となるように積層体を加熱炉で加熱し、T
2をそれぞれ180,181,180,190,191,180および180℃とし、T
3をそれぞれ61,70,55,72,59,60および54℃とした以外は、樹脂被覆鋼箔1と同様にして、樹脂被覆鋼箔10〜16をそれぞれ製造した。
【0050】
[樹脂被覆鋼箔17〜23の製造]
ポリプロピレンフィルムに代えて膜厚30μmのナイロン6フィルム(レイファン(東レフィルム加工株式会社の登録商標)NO 1401;東レ株式会社、融点267℃)を用い、T
1がそれぞれ280,280,281,281,280,250および251℃となるように積層体を加熱炉で加熱し、T
2をそれぞれ190,190,192,200,201,190および191℃とし、T
3をそれぞれ70,81,65,80,72,71および66℃とした以外は、樹脂被覆鋼箔1と同様にして、樹脂被覆鋼箔17〜23をそれぞれ製造した。
【0051】
[樹脂被覆鋼箔24〜30の製造]
図4Bに示されるような装置を用い、無水マレイン酸変性ポリプロピレンフィルムおよびポリプロピレンフィルムの積層に代えて、樹脂材料層の膜厚が15μmとなるように、ポリフッ化ビニリデン(カイナー(アルケマ社の登録商標)720;アルケマ社)を含有する塗料をロールコーターでステンレス鋼箔の表面に塗布し、T
1がそれぞれ190,193,191,190,192,160および161℃となるように積層体を加熱炉で加熱し、T
2をそれぞれ140,141,140,149,150,139および140℃とし、T
3をそれぞれ20,30,14,29,19,20および15℃とした以外は、樹脂被覆鋼箔1と同様にして、樹脂被覆鋼箔24〜30をそれぞれ製造した。得られた樹脂材料層の樹脂組成物の融点は170℃であった。
【0052】
[樹脂被覆鋼箔31〜37の製造]
図4Bに示されるような装置を用い、無水マレイン酸変性ポリプロピレンフィルムおよびポリプロピレンフィルムの積層に代えて、樹脂材料層の膜厚が10μmとなるように、ポリエステル(バイロン(東洋紡株式会社の登録商標)GM925;東洋紡株式会社)を含有する塗料をロールコーターでステンレス鋼箔の表面に塗布し、T
1がそれぞれ242,241,240,240,241,201および200℃となるように積層体を加熱炉で加熱し、T
2をそれぞれ180,182,180,190,190,180および181℃とし、T
3をそれぞれ61,71,50,72,65,60および53℃とした以外は、樹脂被覆鋼箔1と同様にして、樹脂被覆鋼箔31〜37をそれぞれ製造した。得られた樹脂材料層の樹脂組成物の融点は216℃であった。
【0053】
[評価]
(1.結晶化)
各積層体について、薄板成型試験機(モデル:142−20、ERICHSEN社)を用いて、樹脂層側にパンチを押し当てて以下の加工条件で深絞り加工を行い、凹部のコーナー部の樹脂層におけるクラックの発生状況を観察し、以下の評価基準で評価した。
(加工条件)
ブランク :80mm角
ビード高さ :1.5mm
ビード幅 :3mm
張り出し高さ:8mm
張り出し速度:280mm/分
パンチ :40×40×Rc10
ダイ :42×42×Rc11
シワ押さえ :30kN
(評価基準)
○:クラックが確認されなかった
×:クラックが確認された
【0054】
(2.折れシワ)
各樹脂被覆鋼箔を目視で観察し、樹脂被覆鋼箔の長手方向(搬送方向)に沿って形成された折れシワの有無を確認し、以下の基準で評価した。
○:折れシワが確認されなかった
×:折れシワが確認された
【0055】
各樹脂被覆鋼箔の製造条件および評価結果を表1および表2に示す。表中、「PP」はポリプロピレンを、「PE」はポリエチレンを、「PA」はナイロン6を、「PVdF」はポリフッ化ビニリデンを、「Polyester」はポリエステルを、それぞれ意味する。また、表中、「HL」は熱ラミネートを、「C」は塗装を、それぞれ意味する。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
ポリプロピレンを用いた樹脂被覆鋼箔1〜7について、樹脂被覆鋼箔1〜5から明らかなように、カーテンノズルによって冷却するときの樹脂材料層の温度T
1がポリプロピレンの融点以上の温度であると、樹脂層中の樹脂が結晶化していない樹脂被覆鋼箔が得られた。また、樹脂被覆鋼箔1,2,4および6から明らかなように、搬送ロール当接時の樹脂材料層の温度T
2と冷却槽中の冷却水の温度T
3との温度差が120℃以下であると、積層体の搬送方向に沿う折れシワがない樹脂被覆鋼箔が得られた。表1および表2から明らかなように、他の樹脂を用いた場合でも、上記と同じ傾向が確認された。