特許第6114571号(P6114571)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6114571
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】流水設備用の抗菌器具
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/50 20060101AFI20170403BHJP
   A01N 25/34 20060101ALI20170403BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20170403BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
   C02F1/50 550C
   A01N25/34 Z
   A01P3/00
   A01N59/16 A
   C02F1/50 510A
   C02F1/50 531T
   C02F1/50 532D
   C02F1/50 532H
   C02F1/50 532C
   C02F1/50 532J
   C02F1/50 532E
   C02F1/50 532L
   C02F1/50 540E
   C02F1/50 520P
   C02F1/50 520J
   C02F1/50 520K
   C02F1/50 540D
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-33326(P2013-33326)
(22)【出願日】2013年2月22日
(65)【公開番号】特開2014-159022(P2014-159022A)
(43)【公開日】2014年9月4日
【審査請求日】2016年2月18日
(31)【優先権主張番号】特願2013-10649(P2013-10649)
(32)【優先日】2013年1月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000169499
【氏名又は名称】高砂熱学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100123098
【弁理士】
【氏名又は名称】今堀 克彦
(72)【発明者】
【氏名】荒川 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀人
【審査官】 金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−035983(JP,A)
【文献】 実開昭57−111389(JP,U)
【文献】 特開昭61−021782(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/090764(WO,A1)
【文献】 特開昭63−039692(JP,A)
【文献】 特開2001−170648(JP,A)
【文献】 特開2007−126478(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3162883(JP,U)
【文献】 特開昭57−075185(JP,A)
【文献】 実開昭48−094072(JP,U)
【文献】 実開昭62−114690(JP,U)
【文献】 特開2013−013845(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0294379(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0089473(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/50
C02F 1/00
A61L 2/00− 2/28
A61L 11/00−12/14
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水の流路に設置して微生物の増殖を抑制する流水設備用の抗菌器具であって、
水に接触すると溶解する抗菌性物質を固化した固体の抗菌剤と、
前記固体の抗菌剤を封入した抗菌剤封入容器と、
なくとも一部が前記抗菌性物質を透過可能な透過膜で形成された抗菌剤透過容器と、を備え、
前記透過膜は前記抗菌性物質と反応し得る保湿剤又は柔軟剤を含み、
前記抗菌剤封入容器は前記抗菌剤透過容器に封入され、前記抗菌性物質と反応し得る保湿剤及び柔軟剤を含まず、かつ外力によりまたは水に接触することにより崩壊するように形成された、
流水設備用の抗菌器具。
【請求項2】
前記抗菌剤封入容器が水に接触することにより崩壊する水溶性の成分で形成された、請求項1に記載の流水設備用の抗菌器具。
【請求項3】
前記水溶性の成分が、シリカ、アルミナまたはゼオライトを含む無機成分を主成分としたもの;ポリエチレンオキシド;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;ヒアルロン酸;アルギン酸;カラギーナン;カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースフタレート、酢酸セルロース、プロピオン酸酢酸セルロースまたはフタル酸酢酸セルロースを含むセルロース誘導体;プルラン;ペクチン;デンプン並びにヒドロキシエチルデンプンおよびナトリウムデンプングリコレートを含むデンプン誘導体;デキストリン;キトサンおよびその誘導体;卵白;カゼイン;ゼラチン;並びにコラーゲン、のいずれか、またはそれらの組合せもしくは混合物である、請求項2に記載の流水設備用の抗菌器具。
【請求項4】
前記抗菌剤封入容器が少なくとも7〜35℃の水に溶解する成分で形成された請求項2または3に記載の流水設備用の抗菌器具。
【請求項5】
前記抗菌剤封入容器を形成する成分の分子量が前記透過膜の分画分子量以下である、請求項2から4の何れか一項に記載の流水設備用の抗菌器具。
【請求項6】
水の流路に設置して微生物の増殖を抑制する流水設備用の抗菌器具であって、
水に接触すると溶解する抗菌性物質を固化した固体の抗菌剤と、
前記固体の抗菌剤を封入した抗菌剤封入容器と、
前記抗菌剤封入容器を封入した抗菌剤透過容器と、を備え、
前記抗菌剤封入容器は外力によりまたは水に接触することにより崩壊するように形成され、
前記抗菌剤透過容器は、全体が前記抗菌性物質を透過可能な透過膜により形成した透過膜袋であって、
前記透過膜袋は、袋内に浸透した水が前記固体の抗菌剤に接触することにより水中に溶解した前記抗菌性物質であって、前記流水設備用の抗菌器具を設置する箇所を流れる水の水量に応じた所定量の抗菌性物質が、前記透過膜袋の膜を透過可能なように、水量および前記抗菌性物質の溶解度に応じて決定された透過係数および表面積を有する、流水設備用の抗菌器具。
【請求項7】
前記抗菌剤透過容器を包んで外部から保護する樹脂製あるいは金属製のメッシュ袋を更に備える、
請求項1から6の何れか一項に記載の流水設備用の抗菌器具。
【請求項8】
前記抗菌剤透過容器内に、前記流水設備用の抗菌器具の水による浮き上がりを抑制する錘を更に備える、
請求項1から7の何れか一項に記載の流水設備用の抗菌器具。
【請求項9】
ワイヤの一端にクリップを設けた、前記流水設備用の抗菌器具を前記流水設備の流路の所望の位置に留める留め具を更に備える、
請求項1から8の何れか一項に記載の流水設備用の抗菌器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水の流路を有する流水設備用の抗菌器具に関する。
【背景技術】
【0002】
配管の他に水受皿やドレンを生成する熱交換器などの器具を備える空調機器では、凝縮水を回収する空調ドレン系がある。また、各種プラントの建屋内等には、床の溜まり水を回収する床ドレン系がある。このような、水が存在する系内は、各種の微生物が繁殖しやすい環境にある。微生物が繁殖しやすい環境にあるものとしては、このような各種のドレン系の他に、例えば、水耕栽培を行う設備の流水路や冷却塔の流水路、各種の雑用水が流れる排水路等がある。水耕栽培を行う設備では、栽培する植物の育成を助けるために各種の養分を追加することが行われるため、栽培槽などで細菌等の微生物が繁殖しやすい環境にある。本願では、このように水の流路を有し、微生物が繁殖しやすい環境にある設備を、以下、単に「流水設備」という。
【0003】
このような流水設備の微生物の繁殖に関し建築設備について言えば、例えば、建築物における衛生的環境の確保に関する法律(昭和45年公布。本願では、以下、建築物衛生法という)では、事務所や店舗など、この法律で定義している特定建築物において、建物内を衛生的・快適に使用できるように空気環境および給排水衛生について、建築物環境衛生基準に従って維持管理を行うように規定している。医療施設は現在、特定建築物には含まれないが、平成20年2月に、厚生労働省より各自治体宛てに、管下の医療機関に対し、建築物衛生法およびそれに基づく「建築物における維持管理マニュアル」を維持管理業務の参考とするよう周知させる旨の事務連絡があった。医療施設は、基本的に身体的弱者が利用するため、施設の環境が利用者の健康に及ぼす影響についても一層の配慮が必要と考えられるため、医療施設においても建築物衛生法に準じた維持管理が今後重要となることが考えられる。
【0004】
例えば、空調ドレン系に着目してみると、空気中の水分を凝縮する空調機器の熱交換器や結露水を受けるドレンパン、ドレン配管といった空調ドレン系は、夏場の除湿期において、ドレン水の発生により湿潤環境となるため、微生物の良繁殖環境となる。そのため、ドレンパン内やドレン配管内部に微生物スライムが発生し、ドレン管を閉塞することでドレン水の漏水事故が引き起こされることがある。
【0005】
そこで、空調ドレン系の微生物汚染に起因する健康への影響やスライムによるドレン水漏水事故を防止するために、例えば、ドレンパンに抗菌剤を設置する技術がある。ドレンパンに設置するタイプの抗菌剤には、固形の抗菌剤が抗菌性物質を徐々に溶出するタイプのもの(例えば、特許文献1)や、抗菌性物質を含んだ溶液が一定流量で随時ドレンパンに注入される機構を持つタイプのものがある。固形の抗菌剤は、例えば、容器類に包装された状態で使用される(例えば、特許文献2−3)。
【0006】
従来の固形型抗菌剤は、抗菌性物質を所定の割合で含有する固体物質からなり、固体物質自体が抗菌性物質とともに徐々に溶解することで、流水設備の配管を流れる水に抗菌性物質を溶出することを原理としている。よって、固形型抗菌剤は、溶出が進むにつれて小さくなり、表面積が縮小していく。固形型抗菌剤の溶解速度は、表面積に依存するため、従来の固形型抗菌剤は、表面積が縮小するにつれて抗菌性物質の溶出速度が減衰する特性がある。したがって、従来の固形型抗菌剤は、設置後の時間経過により抗菌性物質の溶出濃度が減衰してしまい、効果が1シーズン持続しないという問題点がある。また、1シーズンの間、抗菌性物質の溶出を持続させるために、溶出濃度の減衰を見込んで固形抗菌剤
の量を予め増しておくという方策も考えられるが、シーズン終期に至るまでの全ての期間において必要以上に抗菌性物質が溶出することとなり、不経済であった。
【0007】
一方、抗菌性物質を含んだ溶液を一定流量で随時ドレンパンなどに注入する溶液型の抗菌剤注入器は、水量の多少によらず、注入孔先端に水が接触している限り、一定の抗菌剤溶液が注入される機構であるため、水が少ない場合、抗菌剤溶液が必要以上に消耗し、不経済であった。
【0008】
本出願人は、このような問題に鑑みて、その解決手段として「水の流路に設置して微生物の増殖を抑制する流水設備用の抗菌器具であって、水に接触すると溶解する抗菌性物質を固化した固体の抗菌剤と、前記固体の抗菌剤を封入した、前記抗菌性物質を透過可能な透過膜袋と、を備え、前記透過膜袋は、袋内に浸透した水が前記固体の抗菌剤に接触することにより水中に溶解した前記抗菌性物質であって、前記流水設備用の抗菌器具を設置する箇所を流れる水の水量に応じた所定量の抗菌性物質が、前記透過膜袋の膜を透過可能なように、水量および前記抗菌性物質の溶解度に応じて決定された透過係数および表面積を有する、流水設備用の抗菌器具。」を示した(特許文献9)。
【0009】
特許文献9の発明によれば、所定条件で抗菌性物質を固化した固体の抗菌剤を、抗菌性物質を透過可能な透過膜袋に封入することで、透過膜袋内の水中の抗菌性物質の濃度は膜外に比べて比較的高い状態を保ち、その濃度が飽和し或いは飽和濃度に近づくと、抗菌性物質は溶解を停止し或いは溶解速度が小さくなるため、必要以上の溶解の進行は抑制される。水量に応じて抗菌剤の溶出速度が自己調整されるため、抗菌剤の無駄な消費がなく、微生物の増殖を抑制する効果を持つ必要十分な濃度で抗菌剤物質を一定の期間、安定的に継続して溶出させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−151414号公報
【特許文献2】国際公開第2007/141978号
【特許文献3】特開2008−214131号公報
【特許文献4】特開2003−292345号公報
【特許文献5】特公平7−63701号公報
【特許文献6】特表2007−505702号公報
【特許文献7】特表2011−522695号公報
【特許文献8】特開2004−143081号公報
【特許文献9】特開2013−013845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、本出願人が特許文献9の発明にしたがってフィールドテストをしたところ、前述の固体抗菌剤と透過膜袋が接触して保管中に前者の性状が変質するとの課題を見出した。すなわち、抗菌剤と透過膜袋に塗布された保湿剤・柔軟剤との組み合わせによっては、保管中に抗菌剤と透過膜袋の保湿剤・柔軟剤とが反応し、抗菌剤が他の物質に変化する場合がある。例えば、抗菌剤に炭酸銀を用い、保湿剤としてグリセリンが塗布された膜を用いた場合、炭酸銀はグリセリンと反応して他の銀化合物へ変化、劣化する。この反応は塗布された状態の保湿剤・柔軟剤との直接の接触のみならず、気化した保湿剤・柔軟剤との接触によっても生じ得る。抗菌剤の溶解度は物質により(例えば炭酸銀と酸化銀とで)異なる。透過膜袋は、溶解した抗菌性物質が所定量透過可能なように、抗菌剤の溶解度に応じて表面積等の仕様が決定されているので、袋内の抗菌剤が変化すると、膜から透過する抗菌性物質の量が変化し、流水中の抗菌性物質濃度が所望の値にならない。流水中の抗菌
性物質濃度が所定の濃度より低下すると微生物が増殖し、逆に上昇すると抗菌効果持続期間が想定よりも短縮される。上記問題の解決策としては、保管期限までに反応する抗菌剤の質量を予測して、予め抗菌剤の量を増して透過膜袋内へ封入する方策が考えられるが、コストアップとなり不経済である。
このような問題に鑑み、本発明は、保管時における抗菌剤の変化や劣化を防止し、使用時に抗菌剤が水に溶解する、抗菌器具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本願で開示する発明は、保管時において抗菌剤と透過膜とを直接接触させないようその間に仕切りを設けることとし、具体的には、前記固体の抗菌剤を封入した抗菌剤封入容器を、少なくとも一部が前記抗菌性物質を透過可能な透過膜で形成した抗菌剤透過容器に封入することにした。
【0013】
詳細には、本発明は、水の流路に設置して微生物の増殖を抑制する流水設備用の抗菌器具であって、水に接触すると溶解する抗菌性物質を固化した固体の抗菌剤と、前記固体の抗菌剤を封入した抗菌剤封入容器と、前記抗菌剤封入容器を封入し、少なくとも一部が前記抗菌性物質を透過可能な透過膜で形成された抗菌剤透過容器と、を備え、前記抗菌剤封入容器は外力によりまたは水に接触することにより崩壊するように形成する。なお、ここで「崩壊」とは、前記抗菌剤封入容器の気密性及び/又は液密性が失われることを意味する。
【0014】
上記流水設備用の抗菌器具であれば、保管中に抗菌剤と抗菌剤透過容器の透過膜に塗布された保湿剤・柔軟剤とが反応することを防止できるので、抗菌剤が他の物質に変化することがない。そして、上記流水設備用の抗菌器具の抗菌剤封入容器を外力により崩壊するように形成した場合は、流水設備用の抗菌器具の外側から機械的な力を加えるなどして抗菌剤封入容器を破壊した後に、抗菌器具を流水設備の水が流れる流路(以下、単に「流路」という)に設置すると、抗菌剤透過容器の中に透過膜の部分から水が浸透して、抗菌剤が水に接触し、抗菌剤を構成する抗菌性物質が溶解して水中に溶出する。また、抗菌剤封入容器を水に接触することにより崩壊するように形成した場合は、抗菌器具を流路に設置すると、抗菌剤透過容器の中に透過膜の部分から水が浸透して、抗菌剤封入容器が水と接触して崩壊し、抗菌剤封入容器の中に封入されていた抗菌剤が水に接触して抗菌性物質が溶解して水中に溶出する。なお、本発明の抗菌器具は、これを流路に設置してから2〜3日程度以内に抗菌性物質が流路内の水中に溶出することが好ましい。
【0015】
また、抗菌性物質が膜内で溶解する速度に対して膜外へ溶出する速度が小さいため、抗菌剤透過容器内の水中の抗菌性物質の濃度は抗菌剤透過容器外に比べて比較的高い状態に保たれる。抗菌剤透過容器の内部で水中に溶解した抗菌性物質の濃度は、固体の抗菌剤が残存する限り、抗菌剤透過容器外の水に比べて高い濃度に保たれるものの、抗菌性物質の濃度が飽和し或いは飽和濃度に近づくと、抗菌剤を構成する抗菌性物質は溶解を停止し或いは溶解速度が小さくなるため、必要以上の溶解の進行は抑制される。
【0016】
なお、上記流水設備用の抗菌器具は、抗菌剤封入容器を水に接触することにより崩壊するように形成した場合は、前記抗菌剤封入容器が、水溶性の成分で形成されることが好ましい。そのような水溶性の成分としては、シリカ、アルミナ、ゼオライトなどの無機成分を主成分としたもの、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒアルロン酸、アルギン酸、カラギーナン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースフタレート、酢酸セルロース、プロピオン酸酢酸セルロース、フタル酸酢酸セルロースなどのセルロース誘導体、プルラン、ペクチン、デンプンおよびヒドロキシエチルデンプン、ナトリウムデンプングリコレートなど
のその誘導体、デキストリン、キトサンおよびその誘導体、卵白、カゼイン、ゼラチン、およびコラーゲン、のいずれかの材質を挙げることができ、またはそれらの組合せもしくは混合物であってもよい。
【0017】
また、上記流水設備用の抗菌器具は、前記抗菌剤封入容器が少なくとも7〜35℃の水に溶解する成分で形成されたものであってもよい。一般事務所など人を対象とした空調を行う場合、空調機器への冷水供給温度は7℃以上であり、夏場の天井裏や機械室内に設置されている空調機の周囲温度は35℃程度まで上昇する可能性があるが、抗菌器具が上記のように構成されていれば、上記設備のドレン水中に設置しても抗菌剤封入容器が容易に崩壊することができる。なお、ここで「溶解する」とは、7〜35℃の水に接触して6時間以内に該成分が溶解して、抗菌剤封入容器の気密性及び/又は液密性が失われて崩壊することを意味する。
【0018】
また、上記流水設備用の抗菌器具は、前記抗菌剤封入容器を形成する成分の分子量が前記透過膜の分画分子量以下であってもよい。上記抗菌器具がこのように構成されていれば、溶解した抗菌剤封入容器を形成する成分が抗菌剤透過容器内に残存することなく抗菌剤透過容器外に溶出し、抗菌剤が溶解した抗菌剤封入容器を形成する成分と反応して抗菌剤の成分が変化する恐れがない。
【0019】
また、上記流水設備用の抗菌器具は、抗菌剤透過容器の全体が透過膜により形成した透過膜袋であって、前記透過膜袋は、袋内に浸透した水が前記固体の抗菌剤に接触することにより水中に溶解した前記抗菌性物質であって、前記流水設備用の抗菌器具を設置する箇所を流れる水の水量に応じた所定量の抗菌性物質が、前記透過膜袋の膜を透過可能なように、水量および前記抗菌性物質の溶解度に応じて決定された透過係数および表面積を有するものであってもよい。
【0020】
水が流れる流路のうち上記流水設備用の抗菌器具が設置された箇所よりも下流側の流路を流れる水には、透過膜袋を透過した抗菌性物質が流れる。抗菌器具の透過係数および表面積が上記のように決定されていれば、膜の両側の濃度を一定にしようとする浸透圧の原理により、透過膜袋の外部の水中の抗菌性物質の濃度が低いときは単位時間あたりの溶出量が多く、透過膜袋の外部の水中の抗菌性物質の濃度が高いときは単位時間あたりの溶出量が少なくなる。また、透過膜袋の外部の抗菌剤物質の濃度が膜内の抗菌性物質の濃度と等しくなる(即ち、飽和濃度に達する)と、抗菌剤物質の透過は自動的に停止する。よって、水量が想定よりも少ない場合、ドレン水中の抗菌性物質の濃度が高くなって自動的に溶出量が抑制されるため、固体の抗菌剤が必要以上に消費されることが無い。すなわち、上記流水設備用の抗菌器具がこのように構成されていれば、水量に応じて抗菌剤の溶出速度が自己調整されるため、抗菌剤の無駄な消費がなく、微生物の増殖を抑制する効果を持つ必要十分な濃度で抗菌剤物質を一定の期間、安定的に継続して溶出させることができる。よって、従来よりも経済的かつ長期に渡り、水が流れる流路のスライムの原因となる細菌や真菌による微生物汚染を確実に抑制することができる。
【0021】
なお、上記流水設備用の抗菌器具は、前記抗菌剤透過容器を包んで外部から保護する樹脂製あるいは金属製のメッシュ袋を更に備えるものであってもよい。上記流水設備用の抗菌器具がこのように構成されていれば、デリケートな透過膜袋が容易に損傷することが無い。
【0022】
また、上記流水設備用の抗菌器具は、前記抗菌剤透過容器内に、前記抗菌器具の水による浮き上がりを抑制する錘を更に備えるものであってもよい。上記流水設備用の抗菌器具がこのように構成されていれば、透過膜袋がドレン水によって浮き上がり、所望の抗菌剤物質が透過しなくなることが起き難い。
【0023】
また、上記流水設備用の抗菌器具は、ワイヤの一端にクリップを設けた、前記抗菌器具を前記流水設備の流路の所望の位置に留める留め具を更に備えるものであってもよい。留め具を設けておけば、使用済みの流水設備用の抗菌器具を回収しやすいし、抗菌剤の供給に適した所望の位置に留めておくことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、水が流れる流路に、抗菌性物質を流水の微生物の増殖を抑制する効果を持つ濃度で無駄なく一定の期間供給可能で、且つ保管時において抗菌性物資の変化や劣化を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】抗菌器具の外観図である。
図2】抗菌器具の内部構造図である。
図3】抗菌剤封入容器の外観図である。
図4】サンプルA〜Cを60℃恒温槽で保管した際の、各サンプルの二酸化炭素ガス発生量を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本願発明の実施形態について説明する。下記実施形態は、本願発明の一態様を示したものであり、本願発明の技術的範囲を下記の実施形態に限定するものではない。
【0027】
<実施形態>
本実施形態に係る抗菌器具(本願でいう「流水設備用の抗菌器具」の一態様である)の外観を図1に示す。この抗菌器具1は、空調機器のドレンパンやドレン配管系等の空調ドレン系におけるスライムやカビの発生などの微生物汚染を抑制することを目的としたものであり、例えば、ドレンパンの排水口近くに器具本体2が留まるように、器具本体2に取り付けたワイヤ3のクリップ4をドレンパンの縁等に引っ掛ける。ワイヤ3やクリップ4の材質は特に指定はしないが、例えば、耐食性に優れる樹脂材あるいはSUS材を用いることが望ましい。クリップ4で引っ掛けておけば、使用済みの抗菌器具1を回収しやすいし、抗菌剤の供給に適した所望の位置に留めておくことができる。なお、この抗菌器具1は、ドレン水が流れる流水設備のみならず、例えば、ウドンコ菌などの病害が懸念される水耕栽培用の流水路や冷却塔の流水路、各種の雑用水が流れる排水路といった、微生物の繁殖が懸念される各種の流水設備に適用することができる。
【0028】
抗菌器具1の内部構造を図2に示す。抗菌器具1は、図2に示すように、抗菌性物質を固化した固体の抗菌剤5を、抗菌剤封入容器としての封入容器9に密封し、抗菌剤5を封入した封入容器9をさらに所定の透過係数の透過膜からなる袋状の透過膜(以下、透過膜袋6という。本願でいう「抗菌剤透過容器」の一態様。)の内部に密封した構造になっている。抗菌剤5は、難溶性ないし微溶性の銀化合物、あるいは、難溶性ないし微溶性の抗菌性有機化合物の何れであってもよい。封入容器9は水と接触すると容易に崩壊する材質で形成されており、透過膜袋6内に浸透した水に接触して崩壊することで封入容器9内に封入されていた抗菌剤5に水が接触する構成となっている。なお、抗菌器具1を、例えば、上水のような塩素(塩化物イオン)が含まれるような水に対して適用する場合には、所望の銀イオン濃度を得ることができない可能性もあるため、抗菌剤5の成分については抗菌器具1を設置する箇所の水の性状に合わせて適宜決定する。一方、空調の凝縮水が流れる空調ドレン系では、凝縮水がそもそも空気中の水蒸気であるために塩化物イオンをほとんど含まず、このような空調ドレン系に設置する場合であれば、このような銀化合物を用いても塩化銀の発生も無く抗菌効果が持続できる。
【0029】
銀化合物としては、例えば、ヨウ化銀、臭化銀、チオシアン化銀、塩化銀、亜硫酸銀、炭酸銀、リン酸銀、酸化銀、クロム酸銀、重クロム酸銀、タングステン酸二銀(I)、亜塩素酸銀、硝酸銀、臭素酸銀、硫酸銀などを挙げることができる。また、抗菌性有機化合物としては、例えば、4−(2−ニトロブチル)モルホリン、1,3−ジモルホリノ−2−ニトロ−2−エチルプロパン、1,2−ジブロム−2,4−ジシアノブタン、ジヨードメチル−p−トリルスルホン、2,4,5,6−テトラクロルイソフタロニトリル、4−クロルフェニル−3−ヨードプロパルギルホルマール、2−(4‐チオシアノメチルチオ)ベンゾチアゾール、2−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンズイソチアゾロン−3、N−ブチル−1,2−ベンズイソチアゾロン−3、N−(フルオルジクロルメチルチオ)フタルイミド、N,N−ジメチル−N’ −(フルオルジクロルメチ
ルチオ)−N’フェニルスルファミド、N−ジクロロフルオロメチルチオ−N’,N’−ジメチル−N−p−トリスルファミド、4,4’ −(テトラメチレンジカルボニルアミ
ノ)ビス(1−デシルピリジニウム ブロマイド)、N,N’−ヘキサメチレンビス(4−カルバモイル−1−デシルピリジニウム ブロマイド)、クロルヘキシジン塩酸塩、α−ブロムシンナムアルデヒド、3−メチル−4−クロロフェノール、4−クロロ−3,5−ジメチルフェノール、p−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸エチル、p−ヒドロキシ安息香酸プロピル、p−ヒドロキシ安息香酸ブチル、2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾール、2−ベンズイミダゾリルカルバミン酸メチル、3,4,4’−トリクロロカルバニリド、4,4’−ジクロロ−3−(トリフルオロメチル)カルバニリド、2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテル、安息香酸、10,10’−オキシビスフェノキサアルシン、ビス(2−ピリジルチオ−1−オキシド)亜鉛を挙げることができる。
【0030】
透過膜袋6としては、水および金属イオンあるいは有機化合物分子が透過可能な直径1nm〜0.2μmの孔を有する多孔質膜が望ましい。このような多孔質膜としては、例えば、一般的に水処理分野等で用いられる精密ろ過膜、限外濾過膜、逆浸透膜あるいは透析膜を挙げることができる。なお、これらの透過膜の材質および微細構造の形態は問わない。よって、例えば、再生セルロース(銅アンモニア・セルロース、脱酢酸セルロースアセテート)やセルロースアセテート(セルロースジアセテート(CDA)、セルローストリアセテート(CTA)、セルロース・アセテート・ポリマーアロイ)、ポリアクリロニトリル共重合体、ポリメチルメタクリレート、エチレンビニルアルコール共重合体、芳香族ポリスルホン、芳香族ポリアミド、カーボネート・エチレンオキシド共重合体、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、芳香族ポリスルホン等を適用できる。
【0031】
透過膜袋6の表面積や、抗菌剤5の量は、抗菌器具1を設置する箇所のドレン水量や抗菌剤5を構成する物質の溶解度、透過膜袋6の透過係数にもよるが、例えば、最大総ドレン水量が6000Lの箇所に設置する場合であれば、透過膜袋6の表面積は0.0005〜0.035m2とし、抗菌剤5の有効成分の質量は約50gを上限とすることが、抗菌
器具1が占有するスペース等の観点から好ましい。
【0032】
なお、透過膜袋6の表面積を0.0005m2〜0.035m2とする場合、抗菌剤5が炭酸銀であれば、透過膜袋6を構成する透過膜の透過係数を8.68×10-10m/s〜
8.34×10-5m/sにすると、ドレン系の配管内で細菌が増殖したり、あるいは抗菌剤5が過剰に溶出して消耗が過剰に進行したりすることが無い。例えば、透過係数が7.45×10-7m/sの透過膜で透過膜袋6を構成した場合には表面積を0.0088m2
程度とし、透過係数が1.24×10-7m/sの透過膜で透過膜袋6を構成した場合には表面積を0.0248m2程度とすれば、空調ドレン用の抗菌器具として実用的に用いる
ことができる。
【0033】
また、抗菌剤5が酸化銀の場合であれば透過膜袋6を構成する透過膜の透過係数を9.
29×10-11m/s〜1.95×10-5m/sにし、抗菌剤5がリン酸銀の場合であれ
ば透過膜袋6を構成する透過膜の透過係数を3.81×10-10m/s〜4.31×10-5m/sにし、抗菌剤5が2‐オクチル‐4‐イソチアゾリン‐3‐オンであれば透過膜
袋6を構成する透過膜の透過係数を3.97×10-10m/s〜8.57×10-5m/s
とすれば、ドレン系の配管内で細菌が増殖したり、あるいは抗菌剤5が過剰に溶出して消耗が過剰に進行したりすることが無い。
【0034】
抗菌剤5が酸化銀の場合、例えば、透過係数が7.45×10-7m/sの透過膜で透過膜袋6を構成した場合には表面積を0.0018m2程度とし、透過係数が1.24×1
-7m/sの透過膜で透過膜袋6を構成した場合には表面積を0.0052m2程度とす
れば、空調ドレン用の抗菌器具として実用的に用いることができる。
【0035】
また、透過膜袋6には、抗菌器具の施工時の透過膜の破損を防ぐため透過膜に柔軟性を付与する目的で、保湿剤や柔軟剤などの有機成分が塗布されている(不図示)。保湿剤、柔軟剤の成分としては、グリセリン、プロピレングリコール、1、3−ブチレングリコール、1、2−ペンタジオール、1、2−ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ソルビトール、マルチトール、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸などのアルコール類や、ピロリドンカルボン酸、乳酸、リンゴ酸、アミノ酸などのカルボン酸類が挙げられる。
【0036】
抗菌剤と透過膜袋に塗布された保湿剤、柔軟剤の組み合わせによっては、前述の特許文献9の態様の抗菌器具では保管中に抗菌剤と透過膜袋に塗布された保湿剤、柔軟剤と接触により反応し、抗菌剤が他の物質に変化する場合がある。例えば、抗菌剤に炭酸銀を用い、保湿剤としてグリセリンが塗布された膜を用いた場合、炭酸銀はグリセリンと反応して他の銀化合物へ変化、劣化する。抗菌剤の溶解度は物質により(例えば炭酸銀と酸化銀とで)異なる。特許文献9の態様の抗菌器具では透過膜袋は、溶解した抗菌性物質が所定量透過可能なように、抗菌剤の溶解度に応じて表面積等の仕様が決定されているので、袋内の抗菌剤が変化すると、膜から透過する抗菌性物質の量が変化し、流水中の抗菌性物質濃度が所望の値にならないという問題がある。流水中の抗菌性物質濃度が所定の濃度より低下すると微生物が増殖し、逆に上昇すると抗菌効果持続期間が想定よりも短縮される。
しかしながら、本実施の形態では抗菌剤5を外力によりまたは水に接触することにより崩壊するように形成された封入容器9に封入し、それをさらに透過膜袋6に封入する構成であるため、抗菌剤5と透過膜袋6とが保管時に直接接触しない。そのため、保管時には抗菌剤と透過膜袋内に存在する保湿剤、柔軟剤などの化学物質との反応による他の物質への変化や劣化を防止することができる。したがって、本実施の形態により、保管期限までに反応する抗菌剤5の質量を予測して、予め抗菌剤5の量を増して透過膜袋6内へ封入することなく、有効性を維持できる抗菌器具を簡便かつ安価に提供することができる。
【0037】
封入容器9は、図3に示すようにボディ11とキャップ10に分割した構造である。キャップ10は一端(図3における下側)が開口しており、開口付近の内周面には複数の突起10aが周方向に並列して設けられている。ボディ11は一端(図3における上側)が開口しており、開口付近の外周面を環状に窪ませた凹部11aが設けられている。ボディ11にキャップ10を被せて、突起10aを凹部11aに嵌めることで封入容器9が封止される構成となっている。実施の形態ではこの封入容器9に抗菌剤5を所定量封入した。このような封入容器9の構造は、医薬品や食品のカプセルとして広く普及市販されており、そのため薬剤充填用の機器についても同様に普及している。封入容器9にそのような市販カプセルを用いることで、抗菌剤5の充填作業が簡単にでき、施工性に優れる。封入容器9を形成する代表的な成分としては、医薬品や食品のカプセル剤として用いられているゼラチン、プルランやヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの多糖類を用いた有機成分や、シリカ、アルミナ、ゼオライトなどの無機成分を主成分として製造されたものが挙げられる。その他、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリド
ン、ヒアルロン酸、アルギン酸、カラギーナン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースフタレート、酢酸セルロース、プロピオン酸酢酸セルロース、フタル酸酢酸セルロースなどのセルロース誘導体、デンプンおよびヒドロキシエチルデンプン、ナトリウムデンプングリコレートなどのその誘導体、デキストリン、キトサンおよびその誘導体、卵白、カゼインおよびコラーゲンも含むがそれらに限定されない。
【0038】
上記のように抗菌剤5が封入容器9に封入されているので、保管時には抗菌剤5と透過膜袋6内に存在する化学物質との接触を防止し、反応による抗菌剤の変化、劣化を防止できる。また、上記例示した封入容器9を形成する成分は水と接触すると容易に崩壊するので、上記の成分を使用することで、保管状態のまま流水路へ設置した抗菌器具1は、その透過膜袋6内に自動的に水が侵入した後、その水によって封入容器9が崩壊し、その中に封入された抗菌剤5が水に溶解し、透過膜袋6から所定量の抗菌性物質が流水中へ溶出するため、所望の抗菌効果を発揮する。
【0039】
また、一般事務所など人を対象とした空調を行う場合、空調機器への冷水供給温度は7℃以上であり、夏場の天井裏や機械室内に設置されている空調機の周囲温度は35℃程度まで上昇する可能性があるため、封入容器9を形成する主成分は、少なくとも7〜35℃までの範囲のドレン水温で容易に崩壊することが好ましい。例えばヒドロキシプロピルメチルセルロースは7〜35℃の範囲の温度の水に容易の崩壊し、ゼラチンは15℃程度以下の水には崩壊しない。より具体的には、ヒドロキシプロピルメチルセルロースで形成された封入容器を12℃の水中に設置したところ、30秒程度で崩壊した。また、ゼラチンで形成された封入容器は、20℃の水中に設置した場合は60秒程度で崩壊したが、12℃の水中に設置した場合は1か月以上経過しても崩壊しなかった。
【0040】
なお、透過膜袋6を構成する多孔質膜は、一般的に厚みが薄く、物理的に脆弱である。このため、抗菌器具1は、図2に示すように、透過膜袋6を保護するために樹脂製のメッシュ、金属製のメッシュあるいはパンチングメタルといった、比較的丈夫な格子構造の材料で構成した保護用のメッシュ袋7で、透過膜袋6を包むように外部から保護している。
【0041】
なお、抗菌器具1は、ドレン水と共に流れてしまうのを防ぐため、ワイヤ3に設けたクリップ4で抗菌器具1をドレンパンの縁などに留めて使用できるようになっている。また、抗菌器具1は、透過膜袋6の内側に、耐食性に優れ且つ密度の高い材料(例えばSUS材等)からなる板状、ブロック状あるいは球状などの小片を錘8として入れることで、器具本体2がドレン水に浮いて流れるのを防いでいる。
【0042】
なお、錘8は、透過膜袋6の内側に設ける必要は無く、例えば、透過膜袋6の外側でメッシュ袋7の内側、あるいはメッシュ袋7の外側に設けることで、器具本体2がドレン水に浮かないようにしてもよい。また、ワイヤ3やクリップ4のような留め具や、錘8などは必ずしも設ける必要は無く、例えば、器具本体2は、耐水性の粘着テープなどで固定するようにしてもよい。また、器具本体2は、図1に示したような長方形である必要はなく、例えば、正方形や丸形、台形、三角形、その他あらゆる形状であってもよい。
【0043】
封入容器9の材質は、その中に抗菌剤5を必要量投入でき、その近傍に存在する化学物質の侵入を防止できれば、樹脂やガラスのような水に不溶な材質を用いても良い。このような材質の場合、抗菌器具1として流水路上へ設置する前に、抗菌器具1の外側から機械的な力を加えるなどして封入容器9を破壊するなどの封止解除作業を行えばよい。ただし、破壊した封入容器9がデリケートな透過膜を破らないよう、破壊された際にその断面が鈍角となるようにするなどの対策を検討する必要がある。
また、封入容器9の形状は、図3に示した形状である必要は無く、例えば、球体、円柱
、三角柱、円錐やその他あらゆる形状であってもよく、また継ぎ目の無い一体構造であっても良い。容易に破壊することを可能にする形状としては、例えば細長の筒状としてその中央部近傍で折ることで破壊できるようにしたり、瓢箪型のような一部が窄まった形状にして当該個所で破壊できるようにしたり、側面を薄く構成して上方から均一に押圧することで破壊できるようにしたりするとよい。さらに、透過膜内に封入する封入容器9の数量は2個以上であっても良い。
【0044】
溶解した封入容器9を形成する成分が透過膜袋6内に残存した場合、抗菌剤5の材質と封入容器9の材質との組合せによっては、抗菌剤5が溶解した封入容器9を形成する成分と反応して抗菌剤5の成分が変化することも考えられる。したがって、溶解した封入容器9を形成する成分が透過膜袋6外に溶出することを可能とするために、封入容器9の材質の分子量は透過膜袋6の透過膜の分画分子量以下とすることが好ましい。
【0045】
また、実施形態では本願における抗菌剤透過容器として、全部を透過膜により形成した透過膜袋6を用いているが、溶解した抗菌性物質が透過膜を通して外部に溶出する構成となっていればよい。例えば、樹脂やガラスなどの筒体と透過膜による蓋体とによる構成でもよい。すなわち、水に溶解せず且つ水や溶解した抗菌性物質を透過しない材質で形成した中空の容器の一部を開口し、当該開口を透過膜により封止した構成で、透過膜袋6に替えてもよい。ただし、ドレン水量から求められる抗菌剤5の投入量、抗菌剤5を構成する物質の溶解度、透過膜袋の透過係数から求められる透過膜の表面積にもよるが、空調機のドレン流路のような狭い場所への設置が求められる場合は、抗菌器具として最も小型で透過膜の表面積を大きくできる構成、すなわち全体を透過膜により形成した透過膜袋6とすることが好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>
抗菌剤として炭酸銀を使用し、透過膜としてグリセリンが塗布されたものを使用した場合、下記反応式1の炭酸銀の熱による自己分解に加えて、さらに下記反応式2によって、炭酸銀はグリセリンとの反応により、炭酸銀ではない他の物質に変化して劣化していく。その際、劣化によって消耗した炭酸銀のモル数に相当するモル数の二酸化炭素を生成する。
【0048】
本実施例で考えられる炭酸銀の分解反応
・熱による自己分解反応 :Ag2CO3 → Ag2O +CO2↑・・・反応式1
・グリセリン(GL)との化学反応:Ag2CO3 +GL → 反応生成物 +CO2
・・・反応式2
【0049】
抗菌剤封入容器による抗菌剤劣化防止効果を以下の方法で検証した。抗菌剤封入容器として、サイズ000号のヒドロキシプロピルメチルセルロースで作成したカプセルを使用し、そのボディ部に抗菌剤として炭酸銀の粉末1.5gを入れてキャップ部を取り付ける。これを透過係数が7.5×10-7 m/sの透過膜からなる表面積0.0088 m2
の透過膜袋の中に、1gのSUS球(錘)5個とともに密封した。なお、本透過膜には保湿剤としてグリセリン0.05gが塗布されている。これを、開口率が約70%のポリエチレン樹脂製メッシュからなる保護メッシュで包装し、抗菌器具Aを作成した。また、比較系として、抗菌器具Aから抗菌剤封入容器のみを除いた(すなわちグリセリンとの接触防止対策を行っていない)抗菌器具Bを作成した。抗菌器具A、Bはそれぞれビニール袋に入れて密封し、これらをサンプルA、Bとした。さらに、ビニール袋に炭酸銀の粉末1
.5gのみを入れて密封したサンプルCを作成した。各サンプルについて炭酸銀とグリセリンの状況および炭酸銀の予想される反応をまとめたものを表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
各サンプルの二酸化炭素発生量を比較することで、グリセリンに対する本発明の抗菌剤封入容器の抗菌剤劣化防止効果が確認できる。
反応を加速させるため、サンプルA〜Cを60℃恒温槽で保管し、一定時間ごとにサンプルを取り出してその体積を測定した。各サンプルの二酸化炭素ガス体積の経時変化を図4に示す。なお、グリセリン(沸点290℃)自体は60℃環境において、二酸化炭素ガスの量と比べて体積変化がほとんど無いことを別途確認した。図4に示すように、サンプルAの二酸化炭素ガス発生量の変化はサンプルCと同様、つまりサンプルAの炭酸銀の分解は熱による自己分解反応のみであり、グリセリンとの化学反応は無いことが分かる。この結果から、抗菌剤封入容器を利用した本発明の抗菌器具は、抗菌剤と透過膜袋内の化学物質との反応による抗菌剤の劣化を防止できることが確認できた。
【0052】
<実施例2>
次に、本発明の抗菌器具の抗菌効果を検証するため、次のような試験を実施した。ドレンパンに抗菌器具を設置しない第1のファンコイルユニット(FCU)(#300、冷房能力2.5kW)と、抗菌剤封入容器を使用した本発明の抗菌器具(前記、抗菌器具A)を設置した第2のFCU(#300、冷房能力2.5kW)と、抗菌剤封入容器を使用しない抗菌器具(前記、抗菌器具B)を設置した第3のFCU(#300、冷房能力2.5kW)とを、東京地区における初夏から初秋にかけての平均的な外気除湿負荷条件となるように加湿調節した外気を供給しながら、平日昼間に10時間運転し、夜間および土日は停止とし、6ヶ月の間、同時に並列して運転した。
【0053】
なお、上記の抗菌器具Aおよび抗菌器具Bは、1シーズンの積算総ドレン水量が5000Lとなるドレンパンに設置することを想定し、1シーズンを通してドレン水中の銀イオン濃度(相対値)が常に1以上となるように設計したものである。炭酸銀粉末の質量は約130%程度の余裕ができるよう、計算上の必要量の2.3倍程度入れてある。また、5000Lというドレン水量の値は、東京地区における初夏から初秋にかけての平均的な外気除湿負荷条件における#300のFCU(冷房能力約2.5kW)の1シーズンの積算総ドレン水量に相当する。
【0054】
FCUのドレンパンは試験開始前に全て清掃し、抗菌器具A、Bを設置した時点から、各FCUのドレン水中の細菌濃度を一定期間ごとに測定した。細菌濃度は、ドレン水等に含まれる水棲細菌の増殖に適した有機栄養分の乏しいR2A培地を用いて25℃×7日間培養後、コロニー数の計数により求めた。なお、各FCUの積算総ドレン水量は、約4800Lで同等であった。各FCUのドレン水中の細菌濃度を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
上記表2から明らかなように、本発明の抗菌器具Aを設置した第2のFCUおよび抗菌剤封入容器を使用しない抗菌器具Bを設置した第3のFCUの細菌濃度は、設置後徐々に減少してやがて定量下限以下となり、ドレンパンに抗菌器具を設置しない第1のFCUに比べて4桁〜5桁以上で清浄なレベルを保った。これらの結果から、本発明の抗菌器具は、
抗菌剤封入容器を使用しない抗菌器具Bと同様、ドレン水中の細菌の増殖を継続的に抑制されることが確認できた。
【0057】
次に、上記本発明の抗菌器具Aを設置した第2のFCUと、抗菌器具Bを設置した第3のFCUのドレン水中の銀イオン濃度(相対値)を下記の表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
上記の表3に示すように、本発明の抗菌器具Aを設置した第2のFCUの銀イオン濃度は、初期から最終まで安定して1(相対値)以上を維持しており、抗菌剤封入容器を使用しない抗菌器具Bと同様の傾向を示した。
【0060】
以上より、上記実施形態に係る抗菌器具は、抗菌剤と透過膜袋内の化学物質との反応、劣化を防止でき、また6ヵ月の間、細菌の増殖に対して抑制効果のある適正濃度の銀イオンを安定的に溶出可能であり、実際にドレン水のスライムの原因となる微生物の増殖を6カ月間継続して抑制できることが確認された。
【符号の説明】
【0061】
1・・抗菌器具,2・・器具本体,3・・ワイヤ,4・・クリップ,5・・抗菌剤,6・・透過膜袋,7・・メッシュ袋,8・・錘,9・・封入容器,10・・キャップ,11・・ボディ
図1
図2
図3
図4