特許第6114619号(P6114619)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6114619
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】ゴム物品補強用鋼線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 1/16 20060101AFI20170403BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20170403BHJP
   C21D 8/06 20060101ALI20170403BHJP
   B60C 9/00 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
   B21B1/16 M
   C22C38/00 301Y
   C21D8/06 A
   B60C9/00 J
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-83147(P2013-83147)
(22)【出願日】2013年4月11日
(65)【公開番号】特開2014-205157(P2014-205157A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2016年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100161458
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 淳郎
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】尾花 直彦
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−091614(JP,A)
【文献】 特開平11−217779(JP,A)
【文献】 特開2009−249763(JP,A)
【文献】 特開2008−184643(JP,A)
【文献】 特開平10−080716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00−11/00
B60C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素を0.70〜0.90質量%含有し、直径Dが0.40〜0.90mm、引張強さTS(N/mmが、直径Dとの関係で次式:
TS≧1620−3920×logD
(式中、Dは線材の直径(mm、logは常用対数を示す。)
で表される関係を満足する高炭素鋼線材に圧延加工を施して、横断面において厚みが0.18〜0.34mm、幅が厚みの2.5〜5.0倍である扁平形状を有するゴム物品補強用鋼線を製造する方法において、
前記圧延加工を、直径120mm以下のロールを用いた冷間圧延加工により行い、かつ、
該冷間圧延の、各パスの圧下率を15%以下とし、
各パスの圧下率を(直前のパスの圧下率−1.0%)以上とし、
各ロールスタンドの入口側の線材に鋼線破断強力の3〜20%の逆張力を付加する、
ことを特徴とするゴム物品補強用鋼線の製造方法。
【請求項2】
前記圧延加工を、直径40〜120mmである一対のロールを含む単数又は複数のロールスタンドにて、各パスの圧下率5〜15%、トータル圧下率45〜65%で行う請求項記載のゴム物品補強用鋼線の製造方法。
【請求項3】
前記ゴム物品補強用鋼線が、引張試験時の破断までの伸びが3.0%以上である請求項又は記載のゴム物品補強用鋼線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム物品補強用鋼線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム物品補強用鋼線は、ゴム物品としての例えばタイヤやホースを補強するために用いられる。タイヤに用いられる場合に、ゴム物品補強用鋼線は、複数の素線を撚り合わせて又は撚らずに引き揃えてスチールコードとしたものを、タイヤの構成部材であるベルトやカーカスに埋設されてタイヤを補強している。
【0003】
ゴム物品補強用鋼線は、一般に、線材に伸線とこれに引き続く熱処理とを一回又は複数回行い、この熱処理のうちの最終熱処理によって均一で微細なパーライト組織を得た後、ブラスめっきを形成する工程を含む製造方法によって製造される。具体的に例えばスチールコード用の鋼線を製造するときには、一般に直径5.5mm程度の線材に直径1.2〜3.0mm程度にまで一回又は熱処理を挟む二回の乾式伸線を行った後、パーライト組織を得るための熱処理を施し、その後、ブラスめっき処理をしてから湿式の最終伸線を行って所望の鋼線が得られる。
【0004】
タイヤは、軽量化及び軽量化のための部材の薄肉化が求められている。このため、タイヤに用いられるゴム物品補強用鋼線に関して、高強力化により強度を維持しながら径を小さくした鋼線や、コード本数を低減した撚線の鋼線又は無撚りの鋼線や、横断面が扁平形状の鋼線等が研究されている。これらの鋼線のうち、横断面が扁平形状の鋼線に関して、丸線の線材に圧延等の塑性加工を施して製造された鋼線であって、一対の平面とこれらの平面の端部に接続する凸面とによりトラック形状になる扁平な横断面における、平面間の短径と曲面の曲率半径とを、所定の関係を満たすようにすることで、鋼線とゴムとの接着界面における局所的に応力集中を回避して耐セバレーション性を向上させた鋼線がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−001170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
横断面が扁平形状を有する鋼線は、圧延加工などにより製造される。しかしながら、扁平形状にするための圧延を行った鋼線は、必ずしも機械的特性がタイヤ補強用として特性を満足しない場合があった。
【0007】
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、強度と延性に優れた断面扁平形状の鋼線の有利な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のゴム物品補強用鋼線の製造方法は、炭素を0.70〜0.90質量%含有し、直径Dが0.40〜0.90mm、引張強さTS(N/mm)が、直径Dとの関係で次式:TS≧1620−3920×logD(式中、Dは線材の直径(mm、logは常用対数を示す。)で表される関係を満足する高炭素鋼線材に圧延加工を施して、横断面において厚みが0.18〜0.34mm、幅が厚みの2.5〜5.0倍である扁平形状を有するゴム物品補強用鋼線を製造する方法において、前記圧延加工を、直径120mm以下のロールを用いた冷間圧延加工により行い、かつ、該冷間圧延の、各パスの圧下率を15%以下とし、各パスの圧下率を(直前のパスの圧下率−1.0%)以上とし、各ロールスタンドの入口側の線材に鋼線破断強力の3〜20%の逆張力を付加する、ことを特徴とする。
【0011】
本発明のゴム物品補強用鋼線の製造方法は、前記圧延加工を、直径40〜120mmである一対のロールを含む単数又は複数のロールスタンドにて、各パスの圧下率5〜15%、トータル圧下率45〜65%で行うことが好ましく、また、前記ゴム物品補強用鋼線が、引張試験時の破断までの伸びが3.0%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の条件で圧延加工を行って製造することにより、機械的特性、特に高い強度と優れた延性を併せ持つ扁平形状の鋼線を得ることができ、タイヤ等のゴム物品に適用したときに、優れた補強効果と耐久性とが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のゴム物品補強用鋼線の一例の横断面図である。
図2】本発明の高炭素鋼線材の一例の横断面図である。
図3】本発明のゴム物品補強用鋼線を製造する圧延の模式図である。
図4】実施例及び比較例のパススケジュールを示すグラフである。
図5】真直性の評価方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のゴム物品補強用鋼線、その製造方法及びゴム物品補強用鋼線を用いたタイヤについて、より具体的に説明する。
【0016】
本発明のゴム物品補強用鋼線は、扁平形状を有するものである。図1に示す、本発明のゴム物品補強用鋼線1(以下、単に「鋼線1」ともいう。)の横断面の一例では、円形を直径方向に押しつぶして厚みT、幅Wのトラック形状を有している。本発明は、この扁平形状にするための加工プロセスに特徴を有している。より具体的には、直径120mm以下のロールを用いた冷間圧延加工により行い、かつ、該冷間圧延の、各パスの圧下率を15%以下とし、各パスの圧下率を(直前のパスの圧下率−1.0%)以上とし、各パスでの加工前に鋼線破断強力の3〜20%の逆張力を付加する。
【0017】
本発明のゴム物品補強用鋼線は、圧延加工を、直径120mm以下のロールを用いた冷間圧延加工により行い、かつ、該冷間圧延の、各パスの圧下率を15%以下とし、各パスの圧下率を(直前のパスの圧下率−1.0%)以上とし、各パスでの加工前に鋼線破断強力の3〜20%の逆張力を付加することにより、横断面が扁平形状の鋼線1について、延性が向上した鋼線1が得られ、また、ばらつきの少ない、安定した製造ができるものである。
【0018】
圧延を施す線材は、炭素を0.70〜0.90質量%含有する高炭素鋼線材である。
線材の炭素含有量は、鋼線1の強度確保の面から0.7質量%以上が必要である。一方、炭素含有量が0.9質量%を超えると、伸線加工性や鋼線1の延性が低下する。このため、線材の炭素含有量は、0.70〜0.90質量%の範囲とする。
【0019】
図2に高炭素鋼線材2の横断面の一例を示すように、圧延加工をする直前の高炭素鋼線材2は、横断面が円形を有するものである。高炭素鋼線材2の直径Dは、0.40〜0.90mmである。この直径Dは、圧延加工が、本発明の鋼線1を得るための断面変形加工として伸線工程の後の工程で行われることから、圧延加工後に得られる鋼線1が、横断面で所望のサイズ、具体的には後述するように厚みTが0.18〜0.34mm、厚みWが厚みTの2.5〜5.0倍となるように、圧延前の高炭素鋼線材2の直径Dの下限値が0.40mmと、上限値が0.90mmとする。
【0020】
圧延前の高炭素鋼線材2の引張強度TS(N/mm)は、上記直径Dとの関係で次式:
TS≧1620−3920×logD
(式中、Dは高炭素鋼線材2の直径(mm)、logは常用対数を示す。)
で表される関係を満足することが必要である。本発明のゴム物品補強用鋼線1は、圧延加工によって横断面形状が円形からトラック形状へと変化するものの、ダイスを用いた伸線加工のように加工硬化はしないので、引張強度は圧延の前後でほとんど変化しない。また、ゴム物品を補強するために当該鋼線1に必要とされる引張強度は、鋼線1の線径に応じて定められる。したがって、高炭素鋼線材2の引張強度TSは、ゴム物品補強用鋼線1に必要とされる引張強度として定められる。高炭素鋼線材2の引張強度TSが、上記直径Dとの関係で次式:TS≧1620−3920×logDで表される関係を満足しない低強度である場合は、ゴム物品補強用鋼線1で補強されたゴム物品又はその部材、例えばタイヤのベルトプライの強度が不足する。ゴム物品は、鋼線1の単位長さ当たりの打ち込み本数を増やせば所望の強度が確保できるが、この打ち込み本数を増やすとゴム物品の軽量化、例えばタイヤの軽量化の点で不利となる。
【0021】
上述した線径、引張強さを有する高炭素鋼線材2は、線径0.40〜0.90mmの鋼線を得るための公知の方法を用いて作製することができる。例えば、炭素を0.70〜0.90質量%で含む線径5.5mm程度のロッドに、伸線加工とパテンティング処理を行った後、ゴム物品との密着性を向上させるためにブラスめっき処理を行ってから、最終伸線加工を行って作製する。
【0022】
圧延加工は、冷間圧延によって行う。温間圧延や熱間圧延では、本発明の鋼線1に求められる強度が得られない。
【0023】
圧延は、図3に示すように一対のロールr1、r2を含む単数又は複数のロールスタンドの当該ロールr1、r2間に線材2bを通して、線材2bの直径方向に加工することにより行う。一対のロールr1、r2は、一般には上下方向に並べられる。圧延の際に複数のロールスタンドを圧延方向に沿って配置して、線材2bに対して順次に圧延を行うことが、圧延一回当たりの圧下率に上限がある圧延加工を、高い作業能率で実施できることから好ましい。もっとも、複数のロールスタンドを圧延方向に一列に配置して連続的に圧延することは必須ではなく、圧延途中の線材をロールスタンドの間で巻取ってもよいし、または単数のロールスタンドにて、複数パスの圧延を行ってもよい。
【0024】
各ロールスタンドにおいて圧延を行うロールr1、r2の直径Rは、40〜120mmの範囲が好ましい。直径が40mmに満たないと、ロールr1、r2の摩耗が早く、摩耗耐久性が劣る。直径が120mmを超えると、扁平形状の鋼線1とする圧延加工が不均一となり易く、鋼線1の破断までの伸びの値が低下する。ロールr1、r2の直径Rは小さいほど均一に加工することができるので、ロールの摩耗性と加工能を勘案して上記の数値範囲でロールの直径を定める。
【0025】
一対のロールr1、r2を備える単数又は複数のロールスタンドによる圧延のトータル圧下率(%)は、本発明では圧延前の丸線材、換言すれば横断面が円形の高炭素鋼線材2における直径をD、最終ロールスタンドの出口側の鋼線1の厚みをTとするとき、次式:
{(D−T)/D}×100
で定義される。このトータル圧下率を45〜65%の範囲とする。トータル圧下率が45%に満たないと、所望の横断面形状が得られない。また、圧延後の鋼線の厚みTとして所定の厚み(後述する0.18〜0.34mm)が得られない場合がある。トータル圧下率が65%を超えると、圧延後の鋼線1の厚みTが所定の厚みよりも薄くなり過ぎる場合があり、また、破断までの伸びが低下するおそれがある。
【0026】
各パスの圧下率(%)は、各ロールスタンドで行う圧延パスの圧下率であり、図3に示すように各ロールスタンドにおける一対のロールr1、r2の入口側の線材2bの厚みをTb、出口側の線材2aの厚みをTaとするとき、
{(Tb−Ta)/Tb}×100
で定義される。各パスの圧下率を本発明では15%以下とし、かつ、(直前のパスの圧下率−1.0%)以上とする。各パスの圧下率が15%を超えると、1パス当たりの加工が厳し過ぎて線材2aに割れが発生するおそれがある。各パスの圧下率が5%に満たないと、所望の鋼線1の厚みTを得るための圧延パス数が多くなり、生産性が劣るので、5%以上が好ましい。
【0027】
各パスの圧下率について、(直前のパスの圧下率−1.0%)以上であることは、圧延のパスシリーズを、圧延パスの後段に行くに従って、圧下率を同じ程度に維持するか、又は次第に大きくするという意味である。圧延パスの初めから終わりまでを横軸とし、各圧延パスの圧下率を縦軸としたグラフでは、フラットまたは右上がりの折れ線になる。マイナス1.0%以上というのは、直前のパスと同じ程度の圧下率で圧延する場合に、直前のパスの圧下率の1.0%低い値までは、圧延の効果が同じなので、ばらつきを許容するという意味であり、圧延パスの後段に行くに従って、圧下率を次第に小さくするという意味ではない。
【0028】
各パスの圧下率を、(直前のパスの圧下率−1.0%)以上にすることにより、延性低下を抑制する。これ以外のパスシリーズ、例えば圧延パスの初めから終わりまでを横軸とし、各圧延パスの圧下率を縦軸としたグラフにおいて、右下がりや山なりのパスシリーズでは、加工中に割れの発生又は破断伸度の低下を招く。
【0029】
各ロールスタンドの一対のロールr1、r2で圧延加工をするに当たり、ロールスタンドの入口側の線材2bに、鋼線1の破断強力の3〜20%の逆張力を付加する。逆張力は、図3の矢印Bで示すように、ロールr1、r2の出口側から入口側に向かう方向に加える力のことである。ここでいう鋼線1の破断強力とは,圧延を行う前の高炭素鋼線材2、又は圧延を行って得られた鋼線1について、引張試験を行ったときの破断時の力をいう。逆張力を付加して圧延することにより、延性の優れた鋼線1を安定して製造することができる。この逆張力が、鋼線1の破断強力の3%に満たないと、厚みや幅の寸法安定性や鋼線1の真直性が低下する。また、逆張力が20%を超えると、鋼線1に線細りが生じ、幅方向の寸法安定性が低下する。また、鋼線1の幅方向の両端部に割れが発生し易くなる。より好ましい逆張力は、鋼線1の破断強力の8〜14%の範囲である。逆張力を付加する手段は、特に限定されないが、例えば多段ロールスタンドにより圧延を行う場合には、ロールスタンド間にダンサーロールを設けて、ロールの回転数等を調整して所定の逆張力を付加することができる。
【0030】
圧延により得られた本発明のゴム物品補強用鋼線1は、横断面において厚みTが0.18〜0.34mm、厚みWが厚みTの2.5〜5.0倍である扁平形状を有しているものである。鋼線1の厚みTが0.18mmに満たないと、鋼線1の厚み寸法安定性が低下し、本発明の鋼線1をゴム物品補強のために適用するのに好ましくない。鋼線1の厚みTが0.34mmを超えると、鋼線1の曲げ剛性が高くなり、本発明の鋼線1を用いて補強したゴム物品を製造する時の取り扱い作業性が劣る。
【0031】
鋼線1の厚みWが、上記鋼線1の厚みTの2.5倍に満たないと、圧延前の高炭素鋼線材2の直径Dに近い値となって、本発明の鋼線1を用いることによる補強部材の薄肉化が十分に図れず、ひいてはゴム物品の軽量化に不利となる。鋼線1の厚みWが、上記鋼線1の厚みTの5.0倍を超えると、鋼線1の幅方向の両端部に割れが発生し易くなる。
【0032】
本発明のゴム物品補強用鋼線1は、引張試験時の破断までの伸びが3.0%以上である。この伸びが3.0%に満たないと、ゴム物品にもよるが、例えばゴム物品がタイヤである場合には、鋼線1により補強されたタイヤの耐久性の向上が必ずしも図れない。引張試験時の破断までの伸びが3.0%以上であり、横断面が扁平形状を有する鋼線1は、上述した圧延前の高炭素鋼線材2を用いて、上述した圧延を行うことによって得られる。
【0033】
本発明のゴム物品補強用鋼線1は、ゴム物品として特にタイヤに用いて好適である。本発明のゴム物品補強用鋼線1は、タイヤのベルト層の各ベルトプライに埋設されるスチールコードとして、撚らずに引き揃えて用いることができる。なお、ベルト層用のスチールコードに限られず、他のタイヤ部材のスチールコードとして、本発明のゴム物品補強用鋼線1を用いることもできる。
【実施例】
【0034】
炭素を0.80質量%含有する直径Dが0.5mm又は0.8mmの高炭素鋼線材を用意し、圧延加工を行って実施例1〜5、比較例1〜11の鋼線を製造した。圧延加工の際は、トータル圧下率及び各パスの圧下率が異なる、合計8種類のパススケジュール(パススケジュールA〜H)で行い、かつ、圧延の際の逆張力、ロールの直径を種々の値とした。パススケジュールA〜Hの各圧延パスにおける出口側の線材の厚みと圧下率とトータル圧下率を表1及び表2に示す。また、これらのパススケジュールの各パスの圧下率をグラフにして図4に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
また、各実施例及び各比較例について、圧延時のロール直径、逆張力、逆張力の、鋼線の破断強力に対する百分率、圧延により得られた扁平形状の鋼線の厚み、幅、幅の厚みに対する比、引張試験時の破断までの伸び、すなわち破断伸度、寸法安定性、ロール耐摩耗性、生産性を示す。
なお、表3及び表4における破断伸度、寸法安定性、ロール耐摩耗性、生産性の評価は、次のとおりとした。
【0038】
(破断伸度)
扁平形状の鋼線に引張試験を行って破断するまでの伸び率を示した。
【0039】
(寸法安定性)
扁平形状の鋼線の厚み及び幅を鋼線長さ100m当たり10点で測定し、その変化幅が±0.03mm以内であり、かつ、図5に示すように真直性試験として扁平形状の鋼線を400mmにカットした試料3を、平坦な場所に力学的に拘束しない開放状態で放置し、このときに円弧状を呈する当該試料3の弧の頂点から試料3の両端部を結ぶ弦までの垂線の距離Lを測定し、この距離が70mm以下であるものを○印で評価し、それ以外のものを×印で評価した。
【0040】
(ロール耐摩耗性)
扁平形状の鋼線を10万メートル圧延加工した後に、ロールの表面を検査し、鋼線通過部の摩耗深さが0.01mm以上の場合を×印とし、0.01mm未満の場合を○印とした。
【0041】
(生産性)
所定の厚み、幅を有する扁平形状の鋼線の加工に要するパス数が12パス以内である場合を○印とし、13パス以上である場合を×印とした。
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
表3及び表4から、本発明に従い圧延を行った実施例1〜5は、破断伸度に優れ、所定の扁平形状を有し、寸法安定性に優れていた。特に、実施例1及び実施例2は、各パスの圧下率が5〜15%の範囲であり、ロール径が40〜120mmの範囲であることから、生産性やロール耐摩耗性にも優れていた。
【0045】
これに対し、比較例1は、パススケジュールCで圧延した例であり、トータル圧下率が65%を超えたことから、鋼線が好適な扁平形状よりも薄くなり、破断伸度、寸法安定性が実施例よりも劣っていた。比較例2は、パススケジュールDで圧延した例であり、各パスの圧下率が15%を超えたことから、破断伸度が劣っていた。比較例3は、パススケジュールEで圧延した例であり、圧延パスシリーズが、圧延パスの後段に行くに従って圧下率が次第に小さくなっていたことから、破断伸度が劣っていた。比較例4は、パススケジュールFで圧延した例であり、トータル圧下率が45%に満たなかったことから、鋼線が好適な扁平形状よりも厚くなった。比較例5は、パススケジュールHで圧延した例であり、圧延パスシリーズが、図4に示すように山なりであったことから破断伸度が劣っていた。比較例6及び比較例9は、ロール直径が120mmを超えたことから、破断伸度が劣っていた。比較例7及び比較例10は、逆張力が大きかったことから、線細りが生じ、寸法安定性が悪かった。比較例8及び比較例11は、逆張力が小さかったことから、真直性が悪く、寸法安定性が悪かった。
【符号の説明】
【0046】
1:ゴム物品補強用鋼線
2:高炭素鋼線材
r1、r2:ロール
10:タイヤ
図1
図2
図3
図4
図5