特許第6114633号(P6114633)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6114633
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】手術用保持具
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/56 20060101AFI20170403BHJP
   A61B 90/00 20160101ALI20170403BHJP
【FI】
   A61B17/56
   A61B90/00
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-113302(P2013-113302)
(22)【出願日】2013年5月29日
(65)【公開番号】特開2014-230663(P2014-230663A)
(43)【公開日】2014年12月11日
【審査請求日】2016年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】513135819
【氏名又は名称】小室 元
(73)【特許権者】
【識別番号】310004600
【氏名又は名称】株式会社坂本設計技術開発研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】小室 元
(72)【発明者】
【氏名】坂本 喜晴
(72)【発明者】
【氏名】湯田坂 和紀
【審査官】 吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2010/0100046(US,A1)
【文献】 特開2000−083982(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/044400(WO,A1)
【文献】 独国特許出願公開第4438568(DE,A1)
【文献】 米国特許第3762401(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/56
A61B 90/00
A61G 13/00
A61M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
手の手術に用いられる手術用保持具であって、
親指の手のひら側の部分に当接する第1当接部と、小指の手のひら側の部分に当接する第2当接部と、
人差し指、中指、及び薬指のうち少なくとも一つの指の手のひら側の部分に当接する第3当接部と、
人差し指、中指、及び薬指のうち少なくとも一つの指の手の甲側の部分又は手の甲に当接すると共に、前記第1当接部と前記第2当接部とを連結する第1連結部と、
前記第3当接部と前記第1当接部又は前記第2当接部とを連結する第2連結部と、を備えることを特徴とする手術用保持具。
【請求項2】
前記第1当接部及び第2当接部が折り曲げ部を有する請求項1に記載の手術用保持具。
【請求項3】
前記第3当接部が、前記中指の手のひら側の部分に当接する第1中指当接部と該中指の両側部に当接する第2中指当接部とで構成される請求項1又は2に記載の手術用保持具。
【請求項4】
前記第1乃至前記第3当接部、前記第1連結部、及び前記第2連結部が一本のアルミ材で構成された請求項1〜3のいずれか1項に記載の手術用保持具。
【請求項5】
前記手術として、手関節から手指に及ぶ手掌側の手術に用いられる請求項1〜4のいずれか1項に記載の手術用保持具。
【請求項6】
前記手掌側の手術として、腱鞘炎手術、手根管症候群手術、及びデュプイトレン拘縮手術の少なくとも一の手術に用いられる請求項5に記載の手術用保持具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腱鞘炎手術や手根管症候群手術等の手の外科に用いられる手術用保持具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
長年にわたって指を使い続けてきた中高年や、ペンなどを握り続けたり、スポーツでラケットを持ち続けたりするなど指を酷使していると、腱と腱鞘とが擦れ合って炎症が起こることがある。このような炎症によって腱鞘が腫れて厚くなり、腱がスムーズに動かなくなることを腱鞘炎と呼んでいる。
【0003】
手の外科で扱う数多い疾患の中で、腱鞘炎に次いで多く見られる疾患が手根管症候群である。手のひら付け根に、骨と靭帯に囲まれた手根管というトンネルのような部分がある。この手根管に9本の腱と1本の神経(正中神経)がはしっている。上記の手根管症候群とは、腱鞘炎などで腱周囲の滑膜が腫れて上記正中神経が圧迫され、その結果指が痺れたり、痛みが生じ、指を動かし難くなるこという。
【0004】
上記のような腱鞘炎手術や手根管症候群手術などの手の外科には十分な知識と経験、高い治療技術を要求されるが、手術後の後療法が適切になされないと期待する機能の回復を実現することはできない。そこで、例えば特許文献1には、後療法において重要視される術後の浮腫と疼痛の抑制方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/044400号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
初期の手根管症候群については、ステロイド剤と局所麻酔薬との混合液を手根管内に注射したり、ビタミン剤の内服が効果的である。しかし、数回の上記注射を行っても効果が得られなかったり、筋の萎縮が進行してしまうと、手術治療の対象となる。
【0007】
しかしながら、手根管症候群や腱鞘炎等の外科においては、施術する医師や、患者の手の動きを拘束する複数(3〜4名)の看護師等の医療スタッフが必要である。そのため、看護師等は他の医療業務に従事することができない。看護師等の医療スタッフの人数が限られている医療現場では、このような問題が切実なものとなっている。また上記特許文献1に記載の発明は、術後の後療法に関する技術の提案であって、手根管症候群や腱鞘炎等の外科における上述の問題を解決し得るものではない。
【0008】
本発明は、以上のような従来の課題を考慮してなされたものであり、手の外科において患者の手を保持する手術用保持具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る手術用保持具は、手の手術に用いられる手術用保持具であって、
親指の手のひら側の部分に当接する第1当接部と、小指の手のひら側の部分に当接する第2当接部と、
人差し指、中指、及び薬指のうち少なくとも一つの指の手のひら側の部分に当接する第3当接部と、
人差し指、中指、及び薬指のうち少なくとも一つの指の手の甲側の部分又は手の甲に当接すると共に、前記第1当接部と前記第2当接部とを連結する第1連結部と、
前記第3当接部と前記第1当接部又は前記第2当接部とを連結する第2連結部と、を備えることを要旨とする。
【0010】
本発明において、前記第1当接部及び第2当接部は折り曲げ部を有することが好ましい。
【0011】
本発明において、前記第3当接部を、前記中指の手のひら側の部分に当接する第1中指当接部と該中指の両側部に当接する第2中指当接部とで構成することが好ましい。
【0012】
本発明において、前記第1乃至前記第3当接部、前記第1連結部、及び前記第2連結部を一本のアルミ材で構成することができる。
【0013】
本発明において、上記手術用保持具を、手関節から手指に及ぶ手掌側の手術に用いることができ、特に腱鞘炎手術、手根管症候群手術、及びデュプイトレン拘縮手術の少なくとも一の手術に有効に用いることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る手術用保持具によれば、看護師等の医療スタッフの手を借りることなく、術中又は注射時などにおいて、第3当接部により患者が人差し指、中指、及び薬指の少なくとも一つの指を折り曲げることを抑制でき、第1当接部及び第2当接部により患者が親指と小指を折り曲げることを抑制できる。したがって、医療スタッフは他の医療業務に従事することが可能となる。特に医療スタッフの人数が少ない医療現場では、本発明の手術用保持具は大変有用なものとなることが期待される。
【0015】
また、人差し指、中指、及び薬指の少なくとも一つの指を折り曲げることができるようにすれば、そのフリーな状態の指の動作によって、手掌側創内の腱の動きを見ることができ、該当部位の切開が確実に行われているかどうかの確認を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る手術用保持具を示す斜視図である。
図2図1の矢印Aの方向から見た矢視図である。
図3】(a)は患者が本発明の手術用保持具を装着した状態を手のひら側から見た図であり、(b)は患者が本発明の手術用保持具を装着した状態を手の甲側から見た図である。
図4】(a),(b)は手術用保持具の他の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る手術用保持具は、患者が手の外科又は注射などを受ける際に自身の指を手のひら側に折り曲げることを拘束し得るものである。以下、図面に示した実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0018】
図1において、本発明に係る手術用保持具1は、手の手術(腱鞘炎手術や手根管症候群手術等)に用いられる手術用保持具であって、第1当接部2、第2当接部3、第3当接部4、第1連結部5、及び第2連結部6を備えている。本発明では、第1当接部2、第2当接部3、第3当接部4、第1連結部5、及び第2連結部6を併せて一本のアルミ材で構成することができる。
【0019】
第1当接部2は、親指(拇指)の手のひら側の部分に当接する。第2当接部3は、小指の手のひら側の部分に当接する。
【0020】
また、第3当接部4は、人差し指(示指)、中指、及び薬指(環指)のうち少なくとも一つの指の手のひら側の部分に当接する。なお、図1では第3当接部4を中指の手のひら側の部分に当接させる構成で示しており、以下の説明も同様とする。
【0021】
第1連結部5は、ほぼストレート状に形成され、人差し指、中指、及び薬指のうち少なくとも一つの指の手の甲側の部分又は手の甲に当接すると共に、第1当接部2と第2当接部3とを連結する。
【0022】
また、第2連結部6は、第3当接部4と第1当接部2とを連結する。なお、第3当接部4と第1当接部2とを第2連結部6で連結する代わりに、第3当接部4と第2当接部3とを連結する構成としてもよい。
【0023】
次いで図2において、相互に交差する3方向をそれぞれX方向、Y方向、Z方向と規定する。なお、指を真っ直ぐ伸ばした状態における指先方向をY方向とする。
【0024】
第1当接部2は、第1連結部5の一端(図面右端)に連結され且つX−Z平面においてL字型の折り曲げ部2aと、この折り曲げ部2aに連結され且つX−Z平面においてL字型の折り曲げ部2bとから構成することができる。これにより、親指が当接される空間(以下、親指当接空間)K1を形成することができる。
【0025】
ここで、親指の手のひら側の部分に当接する面積を大きくするために、すなわち親指を折り曲げるという動きをより拘束するために、折り曲げ部2aと折り曲げ部2bとは、該折り曲げ部2aと折り曲げ部2bとの連結部2cと逆側の部分(同図において符号S1の部分)が離間するように連結することが好ましい。
【0026】
第2当接部3は、第1連結部5の他端(図面左端)に連結され且つX−Z平面においてL字型の折り曲げ部3aと、この折り曲げ部3aに連結され且つX−Z平面においてL字型の折り曲げ部3bとから構成することができる。これにより、小指が当接される空間(以下、小指当接空間)K2を形成することができる。
【0027】
小指の手のひら側の部分に当接する面積を大きくするために、すなわち患者が小指を折り曲げようとするのをより拘束するために、折り曲げ部3aと折り曲げ部3bとは、該折り曲げ部3aと折り曲げ部3bとの連結部3cと逆側の部分(同図において符号S2の部分)が離間するように連結することが好ましい。
【0028】
第3当接部4は、X−Z平面においてフック状に形成することができ、中指の手のひら側の部分に当接する第1中指当接部4aと該中指の両側部に当接する第2中指当接部4bとで構成できる。このような構成によって、中指が当接される空間(以下、中指当接空間と称する)K3を形成できる。第3当接部4をフック状に形成することで、中指の手のひら側の部分(第1関節付近の部分)及び該中指の両側部に第3当接部4を当接させることができる。これにより、患者が中指を折り曲げようとするのを拘束することができる。なお、第3当接部4については、その形状がフック形状に限らず、X−Z平面においてL字型等の他の形状とすることもできる。但し、図2のように第3当接部4をフック状に形成すれば、中指当接空間K3に中指を挿通した状態で、該中指の折り曲げを拘束できるだけでなく、中指のX方向の動きをも拘束することができるので、中指が第3当接部4から外れることがない。
【0029】
図3(a)は患者が手術用保持具1を装着した状態を手のひら側から見た図であり、図3(b)は患者が手術用保持具1を装着した状態を手の甲側から見た図である。
【0030】
図3(a)において、患者は、Y方向から自身の中指を中指当接空間K3に挿通させると共に、親指を親指当接空間K1に位置させ、小指を小指当接空間K2に位置させる。これにより、患者の中指が第3当接部4に当接し、親指が第1当接部2に当接し、小指が第2当接部3に当接すると共に、図3(b)に示すように、第1連結部5に人差し指、中指、及び薬指のうち少なくとも一つの指又は手の甲が当接するようになっている。なお、第2連結部6には人差し指がその角度によって当接することがある。
【0031】
上記のように、中指が第3当接部4で拘束され、親指が第1当接部2で拘束され、小指が第2当接部3で拘束された状態において、患者が中指を折り曲げようとすると、第1連結部5が人差し指、中指、及び薬指のうち少なくとも一つの指又は手の甲を強く押圧するようになっている。そのため、患者は、少なくとも中指の第3関節を折り曲げることが著しく難しくなる。したがって、術中又は注射時などにおいて患者が中指、親指、及び小指を折り曲げることが抑制され、外科又は注射の邪魔になることがない。
【0032】
このように、本発明に係る手術用保持具1によれば、看護師等の医療スタッフの手を借りることなく、術中又は注射時などにおいて患者が中指、親指、及び小指を折り曲げることを抑制できる。したがって、医療スタッフは他の医療業務に従事することが可能となる。特に医療スタッフの人数が少ない医療現場では、本発明の手術用保持具1は大変有用なものとなることが期待される。
【0033】
なお上記では、手術用保持具1で患者の人差し指と薬指を保持しない構成としたが、人差し指及び薬指のうち少なくとも一方を保持しないことが望ましい。人差し指と薬指のどちらか一方がフリーな状態となっていることで、該フリーな指を折り曲げることができる。この折り曲げにより、手のひらの手術部位の肉が動き、該部位の切開が確実に行われているかどうかの確認ができるためである。
【0034】
本発明の手術用保持具を以下の構成としてもよい。図4(a),(b)は手術用保持具の他の例を示す斜視図である。他の例に係る手術用保持具1aは、特に親指の腱鞘炎手術等を行う際に有用なものである。なお、同図において上記実施形態における構成部と同じ構成部については同符号を付してその説明を省略する。
【0035】
図4(a),(b)において、親指の位置を人差し指側と逆側の方向(同図矢印Bの方向)に移動させるために、手術用保持具1aにおいては、第1当接部20の折り曲げ部20aの段差部21a、及び折り曲げ部20bの段差部21bを、上記図3の手術用保持具1よりも矢印Bの方向に若干移動した位置に形成することができる。このような第1当接部20に患者の親指が当接することによって、親指の位置を矢印Bの方向に若干移動させて、親指の腱鞘を張らせることができるので、腱鞘炎手術を行い易くなる。
【0036】
なお、本発明の手術用保持具1,1aのサイズとしては男性用と該男性用よりも若干小さい女性用を設定することができ、男性用又は女性用の中でも右手用と左手用とを設定することができる。上記実施形態では、右手用の手術用保持具1,1aを例示したが、左手用の手術用保持具としては、右手用の形状をY方向に係る軸を基準に対称としたものとすることができる。また、医療スタッフや患者が誤認することがないよう、右手用と左手用とで着色を異なるようにすることができる。
【0037】
また上記実施形態では、図3に示したように手術用保持具1に患者の右手を通した例を説明したが、これに限定されるものではなく、図3の状態の手術用保持具1に患者の左手を通すことも可能である。この場合、この手術用保持具1の第1当接部2に左手の小指が当接し、第2当接部3に左手の親指が当接し、第3当接部4に左手の中指が当接する。
【0038】
本発明はもとより上記実施形態によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0039】
1,1a 手術用保持具
2,20 第1当接部
2a 折り曲げ部
2b 折り曲げ部
3 第2当接部
3a 折り曲げ部
3b 折り曲げ部
4 第3当接部
5 第1連結部
6 第2連結部
20a 折り曲げ部
20b 折り曲げ部
K1 親指当接空間
K2 小指当接空間
K3 中指当接空間
図1
図2
図3
図4