(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
A.スパークプラグの構成および製造方法:
図1は、本発明の実施形態としてのスパークプラグ90の部分断面図である。ここで、説明の便宜上、スパークプラグ90のうち図中上側を後端側BS、図中下側を先端側FSとする。スパークプラグ90は、軸線CL方向に沿って延びる軸孔12を有する絶縁体としての絶縁碍子10と、軸孔12内に少なくとも一部が配置された中心電極20と、絶縁碍子10の外周を取り囲む主体部品50と、主体部品50の先端側端面に取り付けられた接地電極30と、を備える。ここで、主体部品50は、従来技術の「筒状取付具」および一般的な従来のスパークプラグに用いられる「主体金具」に相当する部材である。
【0016】
中心電極20は、先端側に位置し接地電極30との間で火花ギャップを形成する第1電極21と、第1電極21よりも後端側に位置し外部回路に接続される端子金具としての第2電極22とを備える。第1電極21と第2電極22は共に、軸孔12内で保持されている。また、第1電極21と第2電極22は共に、軸線CL方向に沿って延びる。軸孔12内において、第1電極21と第2電極22との間(隙間)には、抵抗体60が配置されている。抵抗体60は、例えば、主成分であるガラスの粒子と、ガラス以外のセラミックの粒子と、導電性材料(例えば、銀、銅、銅等)とを含む組成物によって形成されている。第1電極21と第2電極22との隙間に抵抗体60が充填されることで、両電極21,22は電気的に接続されている。ここで、第1電極21の先端と第2電極の後端との間の抵抗値(すなわち、抵抗体60の抵抗値)は、1kΩ以下であることが好ましく、500Ω以下であることが更に好ましく、100Ω以下であることがより一層好ましい。抵抗値は、テスターを用いて計測する。
【0017】
絶縁碍子10は、主体部品50によって保持されている。絶縁碍子10は、アルミナを始めとするセラミックス材料を焼成して形成されている。絶縁碍子10のうち、スパークプラグ90の軸線CL方向中央には他の部分よりも外径を大きくした中央胴部19が形成されている。中央胴部19よりも後端側BSには、第2電極22と主体部品50との間を絶縁する後端側胴部18が形成されている。後端側胴部18の後端側外周には、凹凸状のコルゲーション14が形成されている。また、後端側胴部18の先端側外周には後述する樹脂部54との密着性を向上させるための凹凸(筋状の溝)15が形成されている。中央胴部19よりも先端側FSには、後端側胴部18よりも外径が小さい先端側胴部17が形成され、先端側胴部17の更に先端側FSには、先端側胴部17よりも小さい外径であり、かつ、先端側FSへ向かうほど外径が小さくなる先端部13が形成されている。
【0018】
接地電極30は、基端部が主体部品50に取り付けられ、先端部が第1電極21と対向するように屈曲している。第1電極21の先端部23と接地電極30との間で、火花を発生させる火花ギャップを形成する。先端部23は、絶縁碍子10から先端側FSに露出する部分である。例えば、第2電極22に2万〜3万ボルトの高電圧が印加されると、第1電極21と接地電極30との間に形成された火花ギャップに火花が発生する。ここで、スパークプラグ90のうち、先端部23と、絶縁碍子10のうち主体部品50から先端側FSに突出する突出部11とからなる部分を発火部29とも呼ぶ。
【0019】
主体部品50は、絶縁碍子10の後端側胴部18の一部から先端部13に亘る部位を包囲して、絶縁碍子10を保持する円筒状の部品である。主体部品50は、金属によって形成された金属部55と、絶縁性の樹脂によって形成された樹脂部54とを有する。主体部品50は、後端側BSから先端側FSへと順に、工具係合部56と、シール部57と、取付ねじ部58と、を備える。主体部品50の工具係合部56には、スパークプラグ90をエンジンヘッドEHに取り付ける工具(図示しない)が係合する。工具係合部56は、軸線CL方向と直交する断面(直交断面)における外形形状が軸線CL方向に沿って略同一である。本実施形態では、工具係合部56は、直交断面における外形形状が六角形であり、いずれの直交断面においても外形形状は略同一である。このように、樹脂部54によって形成された工具係合部56の直交断面における外形形状を略同一にすることで、工具等によって外力が工具係合部56に加えられた場合でも、応力集中(最大応力値)を低減できる。これにより、工具係合部56が破損する可能性を低減できる。
【0020】
主体部品50の取付ねじ部58は、エンジンヘッドEHの取付ねじ孔80に螺合するねじ山を有する。主体部品50のシール部57は、取付ねじ部58の根元に鍔状に形成されている。シール部57とエンジンヘッドEHとの間には、板体を折り曲げて形成した環状のガスケット62が嵌挿される。
【0021】
シール部57の先端側FS端面は、内燃機関に取り付けた場合に内燃機関のエンジンヘッドEHと直接または間接に接する座面51を形成する。本実施形態では、ガスケット62を介して、座面51はエンジンヘッドEHと間接に接する。また、シール部57のうち、後述する金属部55によって構成された部分の外周には、後述する樹脂部54との密着性を向上させるための凹凸(筋状の溝)55pが形成されている。
【0022】
主体部品50は、低炭素鋼等の金属によって形成された金属部55と、ポリエチレン(PE)を主成分とする絶縁性の樹脂によって形成された樹脂部54とを有する。本実施形態では、樹脂部54は、PEとガラスファイバー(GF)とを混合した樹脂によって形成されている。樹脂部54と金属部55とは接続され、樹脂部54は金属部55よりも後端側BSに配置されている。
【0023】
また、主体部品50のうち、座面51よりも先端側FSを主体部品先端部52と呼び、座面51よりも後端側BSを主体部品後端部53とも呼ぶ。主体部品先端部52は、金属部55によって形成されている。主体部品後端部53は、金属部55と樹脂部54とによって形成されている。詳細には、主体部品後端部53を形成する工具係合部56は樹脂部54で形成されている。主体部品後端部53のうちシール部57は、金属部55と樹脂部54とから形成されている。すなわち、主体部品後端部53の最後端59(主体部品50の最後端59)は、樹脂部54によって構成されている。なお、本実施形態では、工具係合部56が樹脂部54によって構成されていることから、工具係合部56を工具樹脂部分56とも呼ぶ。
【0024】
樹脂部54によって形成される工具係合部56は、ビガット軟化温度が125℃以上であることが好ましい。ビガット軟化温度は、JIS K7206(熱可塑性プラスチックのビガット軟化温度試験方法)に基づいて算出される。ここで、絶縁碍子10のうち樹脂部54の後端59(最後端59)に位置する部分を第1部分10fとした場合、第1部分10fと金属部55との樹脂部54の外表面を通る最短距離Dtは5mm以上であることが好ましい。また、樹脂部54の耐電圧は10kV/mm以上であることが好ましい。最短距離Dtと耐電圧の好ましい理由については後述する。なお、樹脂部54の耐電圧は、公知の手法によって算出できる。具体的には、樹脂部54と同じ材料を用いてΦ40mm、厚み5mmのテストピースを作成し、JIS C2110に記載の電極を用いてテストピースを挟む。そして、絶縁油にテストピース及び電極を浸漬させて1kV/1秒の昇圧速度で電圧を印加し、絶縁破壊が生じた時の電圧値をテストピースの厚みで除する。これにより、テストピースの耐電圧を算出し、算出した耐電圧をテストピースと同じ材料を用いて作成した樹脂部54の耐電圧とする。
【0025】
図2は、本実施形態のスパークプラグ90の製造工程を説明するための図である。まず、部材準備工程を行う(ステップS10)。部材準備工程は、絶縁碍子10と、第1電極21と、第2電極22とを準備する工程である。次に、部材組付工程を行う(ステップS12)。部材組付工程は、絶縁碍子10の軸孔12内に第1電極21を配置し、次に抵抗体60を軸孔12内に配置し、次いで第2電極22を軸孔12内に配置した後に、抵抗体60を加熱圧縮することで組付体100を作成する工程である。これにより、各部材10,21,22,60が一体となる。次いで、主体部品50の金属部55を準備する(金属部準備工程:ステップS14)。金属部55には、屈曲する前の接地電極30が接合されている。なお、金属部準備工程は、ステップS10やステップS12の前に行っても良い。次いで、準備した金属部55をステップS12によって作成した組付体100の所定の位置に配置し、次いで樹脂部54をモールド成形によって作成する(樹脂部形成工程:ステップS16)。これにより、金属部55と樹脂部54とを備える主体部品50が形成される。次に、接地電極30を屈曲させ火花ギャップを形成する(火花ギャップ形成工程:ステップS18)。これにより、スパークプラグ90が作成できる。
【0026】
図3は、後述する評価試験に用いた比較例としてのスパークプラグ90tの部分断面図である。スパークプラグ90tは、従来のスパークプラグであり主体部品50tが金属のみによって形成されている。また、スパークプラグ90tは、主体部品50tの工具係合部56tより後端側には薄肉の加締部59tが設けられている。また、シール部57tと工具係合部56tとの間には、加締部59tと同様に薄肉の圧縮変形部99tが設けられている。工具係合部56tから加締部59tにかけての主体部品50tの内周面と絶縁碍子10の後端側胴部18の外周面との間には、環状の第1の線パッキン84と環状の第2の線パッキン86とが介在している。第1の線パッキン84と第2の線パッキン86との間には、タルク(滑石)82が充填されている。その他の構成については、本実施形態のスパークプラグ90(
図1)と同一であるため、同一の構成については同一符号を付すと共に説明を省略する。
【0027】
B.フラッシュオーバー評価試験および第1の強度評価:
図4は、フラッシュオーバー評価および第1の強度評価の結果を示す図である。スパークプラグであるサンプルNo.1〜No.3を用いて、フラッシュオーバー評価試験及び第1の強度評価を行った。サンプルNo.1は、
図3に示すスパークプラグ90tであり、サンプルNo.2は、本実施形態のスパークプラグ90(
図1)であり、サンプルNo.3は、スパークプラグ90の主体部品50を全て絶縁性の樹脂(本実施形態の樹脂部54と同一材料)によって形成したスパークプラグである。
【0028】
サンプルNo.1〜No.3はJIS B 8031規格に基づくM14HEX16一般型プラグであり、詳細は以下の通りである。
・取付ねじ部58の径:14mm
・工具係合部56,56tのHEX(六角部の対辺の距離):16mm
・ねじリーチ(取付ねじ部58の軸線CL方向の長さ):19mm
また、サンプルNo.1〜No.3には、コルゲーション14(
図1,
図3)が形成されている。また、本実施形態のサンプルNo.2の樹脂部54(
図1)は、PEが70重量%、ガラスファイバーが30重量%の樹脂材料を用いて形成した。
【0029】
<フラッシュオーバー評価方法>
(i)第2電極22にゴム部材(コイルブーツ)を被せない状態で図示しないケーブルを接続し、第1電極21と接地電極30との間に高電圧を印加した場合のフラッシュオーバーが発生する電圧(フラッシュオーバー電圧)を測定した。また、第1電極21の先端部13と接地電極30の先端部13と対向する部分は絶縁油に浸漬させ、また、接地電極30は第1電極21の先端部13から離れるように変形させる(すなわち、接地電極30を起こす)、又は、接地電極30を取り除くことで火花放電の発生を防止している。
(ii)市場のエンジンで発生する可能性がある最大電圧35kV以上でもフラッシュオーバーが発生しないサンプルの評価を「○」とした。また、最大電圧35kV未満でフラッシュオーバーが発生したサンプルの評価を「×」とした。
【0030】
<第1の強度評価方法>
(i)サンプルNo.1〜No.3のそれぞれについて、所定のプラグレンチを用いて工具係合部56、56tを介してサンプルを所定のアルミニウム製の治具(ブッシュ)に締め付けていき、工具係合部56,56tが破断したときの締め付けトルクを測定した。
(ii)M14HEX一般型プラグのJIS規格である締め付けトルクが60N・m以上のサンプルの評価を「○」とした。
また、フラッシュオーバー評価及び強度評価が共に「○」のサンプルを総合評価「○」とした。
【0031】
図4に示すように、本実施形態のスパークプラグ90(サンプルNo.2)は、総合評価が「○」となり、フラッシュオーバーが発生する可能性を低減できると共に主体部品50の強度低下を抑制できた。
【0032】
C.第2の強度評価:
図5は、第2の強度評価の結果を示す図である。第2の強度評価は、サンプルNo.2のうち樹脂部54(
図1)のビガット軟化温度が異なるサンプルを用いて行った。異なるビガット軟化温度の樹脂部54は、樹脂部54の組成を変更することで作成した。具体的には、樹脂部54を組成(PEとガラスファイバーの比)のガラスファイバーの割合を大きくすることでビガット軟化温度を上げた。第2の強度評価に用いたサンプルは、ビガット軟化温度が80℃、100℃、125℃、150℃、200℃である。
【0033】
<第2の強度評価方法>
(i)ビガット軟化温度が異なるサンプルについて、樹脂部54(詳細には、工具係合部56)の温度(係合部温度)を変化させて、所定のプラグレンチを用いて工具係合部56を介してサンプルを所定のアルミニウムの治具(ブッシュ)に対して締め付け、取り外しを行った。締め付けトルクは40N・mである。
(ii)工具係合部56が破損した時の係合部温度が150℃以上のサンプルの評価を「◎」と、150℃未満のサンプルの評価を「○」とした。
【0034】
図5に示すように、サンプルNo.2のうち、工具係合部56のビガット軟化温度が125℃以上のサンプルは評価が「◎」であり、工具係合部56の強度の低下を更に抑制できた。これにより、工具係合部56のビガット軟化温度を125℃以上とした場合、主体部品50が破損する可能性を低減できる。
【0035】
D.最短距離Dtの評価試験:
図6は、第1部分10fと金属部55との樹脂部54の外表面を通る最短距離Dt(
図1)の第1の評価試験の結果を示す図である。
図7は、最短距離Dtの第2の評価試験の結果を示す図である。スパークプラグであるサンプルNo.1b,No.2ba,No.2bb,No.2bcを用いて最短距離Dt(
図1)の第1と第2の評価試験を行った。サンプルNo.1bは、
図3に示すスパークプラグ90tであり、サンプルNo.2ba,No.2bb,No.2bcは本実施形態のスパークプラグ90(
図1)である。各サンプルはJIS B 8031規格に基づくM12HEX14ロングリーチとしてのスパークプラグであり詳細は以下の通りである。
・取付ねじ部58の径:12mm
・工具係合部56,56tのHEX(六角部の対辺の距離):14mm
・ねじリーチ(取付ねじ部58の軸線CL方向の長さ):26.5mm
また、サンプルNo.1b,No.2ba,No.2bb,No.2bcには、コルゲーション14(
図1,
図3)が形成されている。
【0036】
また、サンプルNo.2baの樹脂部54の常温(20℃)における耐電圧は5kV/mmであり、サンプルNo.2bbの樹脂部54の常温における耐電圧は10kV/mmであり、サンプルNo.2bcの樹脂部54の常温における耐電圧は15kV/mmである。耐電圧は、樹脂部54の組成(PEの種類を表すグレード、樹脂部54の密度)を変更することで調整した。また、サンプルNo.2ba,No.2bb,No.2bcは、ビガット軟化温度が125℃である。
【0037】
サンプルNo.2ba,No.2bb,No.2bcのそれぞれについて、最短距離Dt(
図1)を2〜20mmの範囲で変更して以下に述べる最短距離Dtの評価試験を行った。
【0038】
<最短距離Dtの第1の評価試験方法>
(i)第2電極22にゴム部材(コイルブーツ)を被せない状態で図示しないケーブルを接続し、第1電極21と接地電極30との間に高電圧を印加した場合のフラッシュオーバーが発生する電圧(フラッシュオーバー電圧)を測定した。なお、第1電極21の先端部13と接地電極30の先端部13と対向する部分は、絶縁油に浸漬させ、また、接地電極30は第1電極21の先端部13から離れるように変形させる(すなわち、接地電極30を起こす)、又は、接地電極30を取り除くことで火花放電の発生を防止している。
(ii)市場のエンジンで発生する可能性がある最大電圧35kV以上でもフラッシュオーバーが発生しないサンプルの評価を「○」とし、一般的なコイルの供給電圧である40kV以上でもフラッシュオーバーが発生しないサンプルの評価を「◎」とした。
【0039】
図6に示すように、本実施形態のスパークプラグであるサンプルNo.2ba,No.2bb,No.2bcは、最短距離Dtが2〜20mmのいずれにおいても評価が「○」以上であり、フラッシュオーバーが発生する可能性を低減できた。また、サンプルNo.2ba,No.2bb,No.2bcのそれぞれについて、最短距離Dtが5mm以上であるサンプルについては評価が「◎」であり、フラッシュオーバーが発生する可能性を更に低減できた。
【0040】
<最短距離Dtの第2の評価試験方法>
(i)第2電極22にゴム部材(コイルブーツ)を被せない状態で図示しないケーブルを接続し、第1の評価試験においてフラッシュオーバーが発生した電圧(フラッシュオーバー電圧)よりも1kV低い電圧(所定電圧)を第1電極21と接地電極30との間に印加した。また、所定電圧を500回又は2000回の回数印加し(すなわち、電圧の印加のON/OFFを繰り返す)、目視で樹脂部54が破壊(貫通)しているか否かを確認した。すなわち、500回の電圧を印加した後に、樹脂部54に破壊が発生していない場合は、残りの1500回(合計2000回)の電圧を印加し、その後に樹脂部54に破壊が発生しているか否かを確認した。なお、第1電極21の先端部13と接地電極30の先端部13と対向する部分は絶縁油に浸漬させ、また、接地電極30は第1電極21の先端部13から離れるように変形させる(すなわち、接地電極30を起こす)、又は、接地電極30を取り除くことで火花放電の発生を防止している。
(ii)第1の評価試験において樹脂部54に貫通箇所(絶縁破壊箇所)が発生した場合は評価を「×」とし、500回の電圧印加によって樹脂部54に貫通箇所が発生した場合は評価を「△」とし、2000回の電圧印加によって樹脂部54に貫通箇所が発生した場合は評価を「○」とし、2000回の電圧印加後においても樹脂部54に貫通箇所が発生していない場合は評価を「◎」とした。
【0041】
図7に示すように、耐電圧が10kV/mmであるサンプルNo.2bbは最短距離Dtが2〜20mmのいずれにおいても、評価が「○」又は「◎」となった。また、耐電圧が15kV/mmであるサンプルNo.2bcは最短距離Dtが2〜20mmのいずれにおいても、評価が「◎」となった。
【0042】
図8は、最短距離Dtの総合評価結果を示す図である。総合評価は以下のように決定した。
・総合評価「△」:
図6の評価が「○」、かつ、
図7の評価が「△」
・総合評価「○」:
図6の評価が「○」又は「◎」、かつ、
図7の評価が「○」
・総合評価「◎」:
図6の評価が「○」、かつ、
図7の評価が「◎」
・総合評価「☆」:
図6の評価および
図7の評価が共に「◎」
【0043】
図8に示すように、樹脂部54の耐電圧が10kV/mm以上(サンプルNo.2bb,2bc)のうち、最短距離Dtが5mm以上のサンプルは総合評価が「☆」であり、フラッシュオーバーが発生する可能性を更に低減できると共に、樹脂部54が破壊する可能性を低減できた。
【0044】
E.抵抗値の評価試験:
図9は、抵抗値の評価試験の結果を示す図である。抵抗値の評価試験に用いたサンプルは本実施形態のスパークプラグ90と、
図3に示すスパークプラグ90tである。それぞれのスパークプラグ90、90tはJIS B 8031規格に基づくM14HEX16一般型プラグであり、詳細は以下の通りである。
・取付ねじ部58の径:14mm
・工具係合部56,56tのHEX(六角部の対辺の距離):16mm
・ねじリーチ(取付ねじ部58の軸線CL方向の長さ):19mm
また、スパークプラグ90、90tにはコルゲーション14(
図1,
図3)が形成されている。
【0045】
また、抵抗値の評価試験に用いるスパークプラグ90の最短距離Dtは5mmである。さらに、スパークプラグ90,90tについて、抵抗体60の抵抗値(第2電極22の後端と第1電極21の先端との間の抵抗値)が異なるサンプルを準備した。抵抗値は100Ω、500Ω、1000Ω、3000Ω、5000Ω、10000Ω、15000Ωである。抵抗体60の組成(ガラス、ガラス以外のセラミック、及び、導電性材料の比)を変えることで抵抗値を変化させた。
【0046】
<抵抗値の評価方法>
(i)第2電極22にゴム部材(コイルブーツ)を被せない状態で図示しないケーブルを接続し、抵抗体60の抵抗値を変化させたスパークプラグ90,90tについて、第1電極21と接地電極30との間に高電圧を印加した場合のフラッシュオーバーが発生する電圧(フラッシュオーバー電圧)を測定した。なお、フラッシュオーバー電圧の測定の際には、第1電極21の先端部13と接地電極30の先端部13と対向する部分は、絶縁油に浸漬させて火花放電の発生を防止している。
(ii)向上率を以下の式(1)を用いて算出した。
【数1】
ここで、Vaは、スパークプラグ90tのフラッシュオーバー電圧であり、Vbは、スパークプラグ90のフラッシュオーバー電圧である。なお、向上率の算出に用いるスパークプラグ90,90tの抵抗体60の抵抗値は同一である。
【0047】
図9に示すように、抵抗値が1000Ω以下のスパークプラグ90は、向上率が15%以上となった。これは、抵抗値が1000Ω以下(すなわち1kΩ以下)であれば、主体部品後端部53を絶縁性の樹脂で形成された樹脂部54とすることによるフラッシュオーバー向上率が高くなることを意味する。すなわち、主体部品後端部53を絶縁性の樹脂で形成された樹脂部54とすることによる効果が高いと言える。これは、抵抗値が小さいほど電圧が上昇する昇圧スピードが速くなることで、抵抗値が小さいほどフラッシュオーバーが発生しやすいことから、主体部品後端部53を絶縁性の樹脂で形成することで、効果的にフラッシュオーバーを発生し難くする、すなわち、フラッシュオーバー電圧を上昇させることができたことによると考えられる。また、
図9に示すように、抵抗値が500Ω以下であればさらに向上率が高くなり、抵抗値が100Ωで向上率が最も高くなる。
【0048】
F.スパークプラグ90を用いた点火システム;
図10は、イオン電流検出機能を持つ点火システムの回路
図150(点火システム150)である。
図11は、火花放電の終了後に出力端子136に現れるイオン電流波形を示す図である。
図10に示す点火システム150は、例えば、特開2000−68031号公報に開示の点火システムと同様の回路を構成する。
【0049】
図10に示すように、バッテリ131は点火コイル134の1次側コイルに接続されている。エンジン制御コンピュータユニット(ECU)132は適切なタイミングでパルス信号をイグナイタ133に送り、点火コイル134の1次側コイルに数mSの間電流を通電させた後、遮断する。この結果、点火コイル134の2次側コイルの一端に負極性の高電圧が発生する。点火コイル134の2次側は高耐圧ケーブル135によりスパークプラグ90に接続されている。点火コイル134の2次側コイルの他端は定格数百VのツェナーダイオードZDに接続され、逆流防止用のダイオードD1を経由して接地されている。ツェナーダイオードZDに並列にコンデンサーC1が接続され、コンデンサーC1の一端は2つの抵抗R1、R2に直列に接続され接地されている。直列に接続された2つの抵抗R1、R2間には出力端子136が設けられ、イオン電流を電圧信号として検出する端子として用いられる。出力端子136は図示しないコンピュータに接続されイオン電流を解析してエンジン制御に使用される。上記の構成において、ツェナーダイオードZDとコンデンサーC1は第1電極21(
図1)に火花放電の終了直後に電圧を印加する電圧印加部を構成する。直列に接続された2つの抵抗R1、R2は電圧印加部からの電圧により第1電極21と接地電極30(
図1)との間に流れるイオン電流を検出する電流検出部を構成する。
【0050】
イグナイタ133が点火コイル134への通電を遮断すると、負極性の高電圧(十数KV〜数十KV)が印加される。この高電圧により第1電極21と接地電極30との間の火花ギャップが絶縁破壊し、略一定の火花放電電圧で火花放電が数mSの間続く。この間に矢印101で示す放電電流が流れ、コンデンサーC1にプラスの電圧が充電される。火花放電が終了すると点火コイル134に残る若干のエネルギーにより第1電極21の電圧は若干の振動波形を示した後収束する。火花放電の終了後はコンデンサーC1の電圧(例えば200〜300V)が第1電極21(
図1)に印加され、出力端子136に
図11に示すようなイオン電流波形が現れる。すなわち、
図11に示すイオン電流波形が現れた場合は、スパークプラグ90によってエンジンが正常に燃焼したことを表す。
【0051】
図12は、失火時のイオン電流波形を示す図である。
図12に示すように、エンジンが正常に燃焼していない場合(失火している場合)は、
図12に示すように、
図11のイオン電流波形よりもイオン電流が小さい波形が現れる。
【0052】
ここで、
図10に示す点火システム150において、主体部品50が全て金属で形成された従来のスパークプラグ90t(
図3)を用いた場合、工具係合部56tの最後端近傍でコロナ放電が発生することで、イオン電流波形にコロナ放電によるノイズ波が生じる場合があった。しかしながら、工具係合部56を樹脂によって形成することで、コロナ放電によるノイズ波の発生を低減できる。以下にノイズ評価試験方法およびその結果を説明する。
【0053】
図13は、点火システム150のノイズ評価試験の結果を示す図である。サンプルNo.1cは、点火システム150に比較例のスパークプラグ90t(
図3)を用いたサンプルであり、サンプルNo.2cは、点火システム150に本実施形態のスパークプラグ90(
図1)を用いたサンプルである。サンプルNo.1c,No.2cに用いたスパークプラグ90,90tはJIS B 8031規格に基づくM12HEX14ロングリーチであり、詳細は以下の通りである。
・取付ねじ部58の径:12mm
・工具係合部56,56tのHEX(六角部の対辺の距離):14mm
・ねじリーチ(取付ねじ部58の軸線CL方向の長さ):26.5mm
・発火部29(
図1)の軸線CL方向の長さ:3.0mm
・突出部11(
図1)の軸線CL方向の長さ:1.5mm
・先端部23(
図1)の軸線CL方向の長さ:1.5mm
・火花ギャップ:1.1mm
また、スパークプラグ90の最短距離Dt(
図1)は5mmである。
【0054】
<ノイズ評価試験方法>
(i)直列4気筒、1.5LのPFI(Port Fuel Injection)エンジンを回転数650rpmでアイドリングし、無負荷状態の条件下で1000サイクル(第1電極21への電圧印加を1000回)のイオン電流をサンプルNo.1c,No.2cの点火システム150を用いて検出した。1000サイクルのうち10%(100サイクル)を意図的に失火状態にし、90%(900サイクル)を燃焼状態にした。
(ii)燃焼状態900サイクルのイオン電流波形(
図11)の1サイクル毎の積分値Saの平均値Sを算出した。また失火状態100サイクルのイオン電流波形(
図12)の1サイクル毎の積分値Naの平均値Nを算出した。平均値Sを平均値Nで除した値(S/N比)を
図13の縦軸とした。
【0055】
図13に示すように、本実施形態のスパークプラグ90を用いた点火システム150は、比較例のスパークプラグ90tを用いた点火システム150よりも、S/N比が低い結果となった。すなわち、主体部品後端部53(
図1)が樹脂部54を有することで、電流検出部(
図10の2つの抵抗R1、R2)を用いたイオン電流の検出精度を向上できる。
【0056】
G.変形例:
G−1.第1変形例:
本実施形態のスパークプラグ90の工具係合部56は、全て樹脂部54によって構成されていたが、少なくとも一部が樹脂部54によって形成されていれば良い。また、工具係合部56のうち、最後端59から先端側FSに所定距離までの間は樹脂部54によって構成されていることが好ましい。工具係合部56の少なくとも一部が樹脂部54によって形成されていることで本実施形態のスパークプラグ90と同様に、主体部品の強度の低下を抑制しつつフラッシュオーバーが発生する可能性を低減できる。なお、スパークプラグ90は、第2電極22と、主体部品50のうちで第2電極22に最も近い主体部品50の最後端59との間でフラッシュオーバーが発生する確率が高いため、少なくとも最後端59を樹脂部54によって形成することがより好ましい。
【0057】
また、主体部品後端部53(
図1)のうち、軸線CL方向における一部分が内面から外面に亘って樹脂部54によって形成されていても良い。このようにしても、フラッシュオーバーが発生した場合でも、樹脂部54によって第1電極21と接地電極30との絶縁を図ることができるため両電極21,30が短絡する可能性を低減できる。
【0058】
G−2.第2変形例:
上記実施形態において、工具係合部56の直交断面における外形形状は略同一であったが、これに限定されるものではない。例えば、工具係合部56のうち一部において外形形状が小さい部分を有していても良い。
また上記実施形態において、工具係合部56の直交断面における外形形状は六角形状であったが、工具係合部56の形状はこれに限定されるものではない。例えば、Bi−HEX(変形12角)形状[ISO22977:2005(E)]等としても良い。
【0059】
G−3.第3変形例:
上記実施形態において、スパークプラグ90はガスケット51(
図1)を有していたが、ガスケット51を有していなくても良い。スパークプラグ90がガスケット51を有さない場合、シール部57の座面51が直接にエンジンヘッドEHと接する。
また、上記実施形態のスパークプラグ90はコルゲーション14(
図1)を有していたが、コルゲージョン14を有していなくても良い。
また、上記実施形態において、スパークプラグ90は軸孔12内において第1電極21と第2電極22との間に抵抗体60(
図1)を有していたが、抵抗体60に加え、軸線CL方向に抵抗体60を挟むようにシール材を配置しても良い。シール材は、例えば銅や鉄などの金属粉末とガラス粉末とを含む材料から形成される。この場合、抵抗体60と共にシール材を軸孔12内に配置し、加圧圧縮することで組付体100が作成される(
図2のステップS12)。
【0060】
本発明は、上述の実施形態や変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。