特許第6114724号(P6114724)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6114724
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】重荷重用空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/03 20060101AFI20170403BHJP
【FI】
   B60C11/03 300B
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-171956(P2014-171956)
(22)【出願日】2014年8月26日
(65)【公開番号】特開2016-43895(P2016-43895A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2015年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】前原 敦史
【審査官】 増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/084988(WO,A1)
【文献】 特開2000−238512(JP,A)
【文献】 特開2013−086726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/03
B60C 11/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部に、タイヤ周方向に連続してのびる複数本の主溝と、前記主溝の間を連通する複数本の横溝とが設けられることにより、複数のブロックが区分された重荷重用空気入りタイヤであって、
前記主溝は、タイヤ赤道の両側をジグザグ状にのびる一対のクラウン主溝と、前記各クラウン主溝のタイヤ軸方向外側をジグザグ状にのびるショルダー主溝とを含み、
前記横溝は、いずれもタイヤ軸方向に対して傾斜しており、かつ、
前記クラウン主溝の間に、踏面が略六角形状をなすクラウンブロックを区分する複数本のクラウン横溝と、
前記クラウン主溝と前記ショルダー主溝との間に、踏面が略六角形状をなすミドルブロックを区分する複数本のミドル横溝と、
前記ショルダー主溝とトレッド端との間に、ショルダーブロックを区分する複数本のショルダー横溝とを含み、
前記ミドル横溝の傾斜角度は、前記クラウン横溝の傾斜角度よりも小さく、かつ、前記ショルダー横溝の傾斜角度よりも大きく、
下記式を充足することを特徴とする重荷重用空気入りタイヤ。
2.0≦(S1/2+S2)/S3≦2.5
但し、S1は、前記クラウンブロックの踏面の面積であり、S2は、前記ミドルブロックの踏面の面積であり、S3は、前記ショルダーブロックの踏面の面積である。
【請求項2】
前記クラウン主溝の溝幅は、前記ショルダー主溝の溝幅より小さい請求項1に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記クラウンブロックのタイヤ軸方向の最大幅は、前記ミドルブロックのタイヤ軸方向の最大幅よりも大きい請求項1又は2に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記クラウン横溝は、前記ミドル横溝と異なる向きに傾斜している請求項1乃至3のいずれかに記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記クラウン横溝の前記傾斜角度は、40度未満である請求項1乃至4のいずれかに記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記ショルダー横溝の前記傾斜角度は、20度未満である請求項1乃至5のいずれかに記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記ミドル横溝の前記傾斜角度と前記ショルダー横溝の前記傾斜角度の差は、前記クラウン横溝の前記傾斜角度と前記ミドル横溝の前記傾斜角度の差よりも大きい請求項1乃至6のいずれかに記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記クラウン横溝の溝幅は、5mm以上の範囲であり、
前記ミドル横溝の溝幅は、前記クラウン横溝の溝幅よりも大きく、かつ、前記ショルダー横溝の溝幅よりも小さい請求項1乃至7のいずれかに記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐偏摩耗性能を向上しうる重荷重用空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1は、トレッド部に、タイヤ周方向にジグザグ状に連続してのびる複数本の主溝と、前記主溝の間を連通する複数本の横溝とが設けられることにより、複数のブロックが区分された重荷重用空気入りタイヤを提案している。各横溝は、タイヤ軸方向に対して一定の角度で傾斜している。また、各ブロックは、略六角形状の踏面を持つように区分されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−145209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のような横溝の傾斜角度が一定のタイヤでは、タイヤ赤道側での排水性の悪化や、トレッド端側での偏摩耗といった問題がある。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑みなされたもので、タイヤ赤道側での排水性を高めつつ、トレッド端側での偏摩耗を抑制しうる重荷重用空気入りタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トレッド部に、タイヤ周方向に連続してのびる複数本の主溝と、前記主溝の間を連通する複数本の横溝とが設けられることにより、複数のブロックが区分された重荷重用空気入りタイヤであって、前記主溝は、タイヤ赤道の両側をジグザグ状にのびる一対のクラウン主溝と、前記各クラウン主溝のタイヤ軸方向外側をジグザグ状にのびるショルダー主溝とを含み、前記横溝は、いずれもタイヤ軸方向に対して傾斜しており、かつ、前記クラウン主溝の間に、踏面が略六角形状をなすクラウンブロックを区分する複数本のクラウン横溝と、前記クラウン主溝と前記ショルダー主溝との間に、踏面が略六角形状をなすミドルブロックを区分する複数本のミドル横溝と、前記ショルダー主溝とトレッド端との間に、ショルダーブロックを区分する複数本のショルダー横溝とを含み、前記ミドル横溝の傾斜角度は、前記クラウン横溝の傾斜角度よりも小さく、かつ、前記ショルダー横溝の傾斜角度よりも大きいことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る前記重荷重用空気入りタイヤは、前記クラウン主溝の溝幅が、前記ショルダー主溝の溝幅より小さいのが望ましい。
【0008】
本発明に係る前記重荷重用空気入りタイヤは、前記クラウンブロックのタイヤ軸方向の最大幅が、前記ミドルブロックのタイヤ軸方向の最大幅よりも大きいのが望ましい。
【0009】
本発明に係る前記重荷重用空気入りタイヤは、前記クラウン横溝が、前記ミドル横溝と異なる向きに傾斜しているのが望ましい。
【0010】
本発明に係る前記重荷重用空気入りタイヤは、前記クラウン横溝の前記傾斜角度が、40度未満であるのが望ましい。
【0011】
本発明に係る前記重荷重用空気入りタイヤは、前記ショルダー横溝の前記傾斜角度が、20度未満であるのが望ましい。
【0012】
本発明に係る前記重荷重用空気入りタイヤは、前記ミドル横溝の前記傾斜角度と前記ショルダー横溝の前記傾斜角度の差が、前記クラウン横溝の前記傾斜角度と前記ミドル横溝の前記傾斜角度の差よりも大きいのが望ましい。
【0013】
本発明に係る前記重荷重用空気入りタイヤは、前記クラウン横溝の溝幅が、5mm以上の範囲であり、前記ミドル横溝の溝幅は、前記クラウン横溝の溝幅よりも大きく、かつ、前記ショルダー横溝の溝幅よりも小さいのが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の重荷重用空気入りタイヤは、トレッド部に、タイヤ赤道の両側をジグザグ状にのびる一対のクラウン主溝と、各クラウン主溝のタイヤ軸方向外側をジグザグ状にのびるショルダー主溝とが設けられている。さらに、トレッド部には、クラウン主溝の間に、クラウンブロックを区分する複数本のクラウン横溝と、クラウン主溝とショルダー主溝との間に、ミドルブロックを区分する複数本のミドル横溝と、ショルダー主溝とトレッド端との間に、ショルダーブロックを区分する複数本のショルダー横溝とが設けられている。クラウンブロック及びミドルブロックは、踏面が略六角形状に形成されているので、例えば、踏面が略四角形状のブロックに比して、剛性バランスに優れ、タイヤ赤道側での偏摩耗を抑制しうる。
【0015】
また、各横溝は、いずれもタイヤ軸方向に対して傾斜しており、ミドル横溝の傾斜角度は、クラウン横溝の傾斜角度よりも小さく、かつ、ショルダー横溝の傾斜角度よりも大きい。従って、相対的に傾斜角度が大きいクラウン横溝は、路面との間の水をタイヤ周方向に効果的に排出して、排水性を向上しうる。また、相対的に傾斜角度が小さいショルダー横溝は、ブロックのタイヤ周方向の両端部分の剛性を高め、ヒールアンドトー摩耗等の偏摩耗を抑制しうる。さらに、傾斜角度がクラウン横溝とショルダー横溝との間にあるミドル横溝は、排水性を向上及び偏摩耗の抑制のバランスに優れる。従って、本発明のタイヤでは、タイヤ赤道側での排水性を高めつつ、トレッド端側での偏摩耗を抑制しうる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態のトレッド部の展開図である。
図2図1のタイヤ赤道C付近を含むトレッド部の左側の部分拡大図である。
図3図2のクラウンブロック付近の部分拡大図である。
図4図2のミドルブロック付近の部分拡大図である。
図5図4のミドルブロックの拡大図である。
図6図2のショルダーブロック付近の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の一形態が、図面に基づき説明される。
図1には、本実施形態の重荷重用空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」と言及される場合がある。)のトレッド部2の展開図が示されている。図2には、図1のトレッド部2のタイヤ赤道C付近を含む左側部分の拡大図が示されている。
【0018】
図1及び図2に示されるように、トレッド部2には、タイヤ周方向に連続してのびる複数本の主溝3が設けられている。
【0019】
本実施形態の主溝3は、タイヤ赤道Cの両側に配された一対のクラウン主溝4、4と、各クラウン主溝4のタイヤ軸方向外側であり、かつ、最もトレッド端Te側をのびる一対のショルダー主溝5、5とを含んでいる。
【0020】
上記主溝3により、トレッド部2には、クラウン主溝4、4間のクラウン領域7、クラウン主溝4とショルダー主溝5との間のミドル領域8、及び、ショルダー主溝5とトレッド端Teとの間のショルダー領域9が区分される。また、クラウン領域7、ミドル領域8及びショルダー領域9には、クラウン横溝11、ミドル横溝12及びショルダー横溝13が、それぞれ設けられている。これにより、トレッド部2のクラウン領域7、ミドル領域8及びショルダー領域9は、クラウンブロック15、ミドルブロック16及びショルダーブロック17にそれぞれ区分されている。
【0021】
本明細書において、前記「トレッド端」は、正規状態のタイヤに、正規荷重を負荷してキャンバー角0°で平面に接地させたときのトレッド部2の接地面の最もタイヤ軸方向外側の位置である。
【0022】
前記「正規状態」とは、タイヤが、正規リム(図示省略)にリム組みされかつ正規内圧が充填された無負荷の状態である。本明細書及び特許請求の範囲において、特に断りがない場合、タイヤの各部の寸法は、正規状態での値である。正規状態において、トレッド端Te、Te間のタイヤ軸方向距離はトレッド幅TWとして定義される。
【0023】
「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば"標準リム"、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0024】
「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、例えば、JATMAであれば"最高空気圧"、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0025】
「正規荷重」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、例えば、JATMAであれば"最大負荷能力"、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。
【0026】
クラウン主溝4は、タイヤ周方向に連続してジグザグ状にのびている。クラウン主溝4は、互いに逆方向に傾斜する第1傾斜部4c及び第2傾斜部4dをタイヤ周方向に交互に含んでいる。これにより、クラウン主溝4は、タイヤ赤道C側に突出する内側頂部4aと、内側頂部4aとは反対側に突出する外側頂部4bとをタイヤ周方向に交互に含んでいる。
【0027】
クラウンブロック15の望ましいブロック剛性とクラウン領域7での十分な排水性を維持するために、クラウン主溝4の第1傾斜部4c及び第2傾斜部4dのタイヤ周方向に対する角度α1は、例えば、15〜25度の範囲で定められるのが望ましい。クラウン領域7での十分な排水性を維持するために、クラウン主溝4の溝幅W1(図1に示す)は、例えば、トレッド幅TWの1.0%〜5.0%、より好ましくは1.5〜4.0%の範囲で定められるのが望ましい。
【0028】
ショルダー主溝5は、クラウン主溝4と同様、タイヤ周方向に連続してジグザグ状にのびている。即ち、ショルダー主溝5は、互いに逆方向に傾斜する第1傾斜部5c及び第2傾斜部5dをタイヤ周方向に交互に含んでいる。これにより、ショルダー主溝5は、タイヤ赤道C側に突出する内側頂部5aと、内側頂部5aとは反対側に突出する外側頂部5bとをタイヤ周方向に交互に含んでいる。
【0029】
ミドルブロック16の望ましいブロック剛性とミドル領域8乃至ショルダー領域9での排水性を維持するために、ショルダー主溝5の第1傾斜部5c及び第2傾斜部5dのそれぞれのタイヤ周方向に対する角度α2は、例えば、15〜25度の範囲で定められるのが望ましい。同様に、ミドル領域8乃至ショルダー領域9での排水性を維持するために、ショルダー主溝5の溝幅W2(図1に示す)は、例えば、トレッド幅TWの1.0%〜5.0%、より好ましくは1.5〜4.0%の範囲で定められるのが望ましい。
【0030】
より好ましい態様として、本実施形態では、ショルダー主溝5の溝幅W2は、クラウン主溝4の溝幅W1よりも大きく形成されている。この態様によれば、ミドルブロック16が、クラウンブロック15側(タイヤ赤道C側)に寄せて配置される。このため、トレッド中央部に作用する荷重は、クラウンブロック15とミドルブロック16とにバランスよく分散され、クラウンブロック15への集中を防止することができる。従って、クラウンブロック15の早期摩耗(センター摩耗)が抑制され得る。上述の作用をより有効に発揮させるために、ショルダー主溝5の溝幅W2とクラウン主溝4の溝幅W1との比W2/W1は、例えば、1.1〜3.0の範囲であるのが望ましい。
【0031】
十分な排水性を確保しつつ、上述の耐センター摩耗性能をより一層向上させるため、タイヤ赤道Cからショルダー主溝5のジグザグの振幅中心線Gまでの距離W9(図2に示す)は、トレッド半幅の50%〜75%の範囲であるのが望ましい。距離W9がトレッド半幅の50%未満の場合、クラウンブロック15及びミドルブロック16が占める面積が不足し、これらのブロックに作用する接地圧が大きくなり、耐センター摩耗性能が低下するおそれがある。逆に、距離W9がトレッド半幅の75%よりも大きい場合、クラウンブロック15及びミドルブロック16が占める面積が過度に大きくなり、タイヤ軸方向外側への排水が困難となるおそれがある。
【0032】
クラウン領域7には、複数本のクラウン横溝11が設けられている。各クラウン横溝11は、一対のクラウン主溝4の内側頂部4a、4aを直線状にのびて連通している。
【0033】
図2に示されるように、クラウン横溝11は、タイヤ軸方向に対して傾斜している。クラウン横溝11の傾斜角度β1は、後述のミドル横溝12の傾斜角度β2及びショルダー横溝13の傾斜角度β3よりも大きい。相対的に傾斜角度が大きいクラウン横溝11は、路面との間の水をタイヤ周方向に効果的に排出して、クラウン領域7での排水性を向上しうる。
【0034】
クラウン横溝11の傾斜角度β1が過度に大きい場合、クラウンブロック15のタイヤ周方向の端部分の剛性が低下し、そこに偏摩耗が生じるおそれがある。このため、クラウン横溝11の傾斜角度β1は、例えば、40度以下であるのが望ましい。傾斜角度β1が過度に小さい場合、排水性が悪化する傾向にあるだけでなく、クラウンブロック15が接地した際に生じる衝撃ノイズが大きくなるおそれもある。このような観点から、クラウン横溝11の傾斜角度β1は、例えば、10〜20度の範囲で定められるのが望ましい。クラウン領域7の排水性を確保するために、クラウン横溝11の溝幅W3は、例えば、5.0〜10.0mmの範囲で定められるのが望ましい。
【0035】
クラウン横溝11により、クラウン領域7には、踏面Sが略六角形状をなす複数個のクラウンブロック15が区分されている。
【0036】
クラウンブロック15は、ブロック中央部の剛性が大きく、かつ、踏面Sの各頂部の内角も大きい傾向にあるため、剛性バランスに優れる。従って、クラウンブロック15は、接地開始から接地終了までの間の変形が小さく抑制され、良好な転がり抵抗を示す。また、クラウンブロック15は、接地時、路面に対する各部の滑りが均一化される。これにより、クラウンブロック15には、ヒールアンドトー摩耗といった偏摩耗の発生が抑制される。
【0037】
また、各クラウンブロック15において、踏面Sの各辺(6つの辺)の長さは、他の全ての辺に対して、例えば、0.8〜1.3倍の範囲であるのが望ましい。このようなクラウンブロック15の踏面Sは、正六角形により近づき、剛性バランスがさらに高められる。このため、本実施形態のタイヤは、例えば、駆動輪として用いられた場合でも、クラウンブロック15の踏面Sと路面との間に生じる滑りが均一化され、ひいては、偏摩耗の発生が抑えられる。本実施形態では、クラウンブロック15の踏面Sの6つの辺は、互いに向き合う対向辺のペアを3組有する。各ペアにおいて、2つの辺は、互いに平行であり、かつ、同じ長さを有している。
【0038】
クラウンブロック15の最大幅W7は、例えば、トレッド幅TWの20%〜35%の範囲であるのが望ましい。また、クラウンブロック15のタイヤ周方向の剛性を高めるために、クラウンブロック15の踏面Sは、完全な正六角形ではなく、タイヤ周方向に縦長の略六角形状が望ましい。
【0039】
図3には、図2のクラウンブロック15付近の部分拡大図が示されている。図3に示されるように、本実施形態のクラウンブロック15には、その踏面Sを完全に横切るクラウン浅溝20が設けられている。このようなクラウン浅溝20は、クラウンブロック15の踏面Sを2つに分割することになるが、略六角形状の踏面Sの各「辺」については、便宜上、クラウン浅溝20を除いて、クラウン主溝4とクラウン横溝11とで区画された踏面Sの輪郭形状に基づいて定められる。
【0040】
クラウン浅溝20は、クラウン横溝11よりも小さい溝幅及び小さい溝深さを有している。クラウン浅溝20の溝幅及び溝深さは、それぞれ、クラウン横溝11の溝幅及び溝深さの例えば50%以下、好ましくは30%以下とされる。このような、クラウン浅溝20は、クラウンブロック15の剛性低下を抑制しつつ、接地時のブロックが変形しうる空間を提供し、クラウンブロック15の耐偏摩耗性能をさらに向上させる。また、クラウン浅溝20は、クラウン領域7の排水性を高めるのに役立つ。
【0041】
本実施形態のクラウン浅溝20は、例えば、クラウンブロック15の踏面Sをタイヤ周方向に二等分するように、ジグザグ状にのびている。好ましい態様では、クラウン浅溝20は、クラウン横溝11と逆向きに傾斜した中央部20aと、中央部20aに対して折れ曲がる一対の端部20b、20bとを含んでいる。クラウン浅溝20は、クラウン主溝4、4の第1傾斜部4c、4c間をのびている。
【0042】
クラウン浅溝20の中央部20aは、クラウン浅溝20の中で最も大きい長さを有している。クラウン浅溝20の中央部20aは、クラウンブロック15の踏面Sを略均等に2つのブロック小片に区分し、さらにクラウンブロック15の耐摩耗性を高めることができる。また、クラウンブロック15の踏面Sに大きなタイヤ周方向力又はタイヤ軸方向力が作用した場合、クラウン浅溝20は、例えば、その溝を閉じ、ブロック小片同士を互いに接触させて、クラウンブロック15の見かけの剛性を高めることが可能である。
【0043】
好ましい態様では、クラウン浅溝20の一対の端部20bは、クラウンブロック15の外側に向かって溝幅が拡大する拡幅部20cをさらに含んでいる。このような拡幅部20cは、クラウン領域7での排水性をより一層高めるのに役立つ。クラウン浅溝20の拡幅部20c以外の部分、即ち、中央部20a及び端部20bは、一定の幅でのびている。
【0044】
図1に示されるように、ミドル領域8は、複数本のミドル横溝12が設けられている。各ミドル横溝12は、例えば、クラウン主溝4の外側頂部4bと、ショルダー主溝5の内側頂部5aとを直線状にのびて連通している。
【0045】
図2に示されるように、ミドル横溝12は、タイヤ軸方向に対して傾斜している。ミドル横溝12の傾斜角度β2は、クラウン横溝11の傾斜角度β1よりも小さく設定されている。このような傾斜角度β2を有するミドル横溝12は、排水性を向上及び偏摩耗の抑制のバランスに優れる。
【0046】
タイヤの旋回走行時、ミドルブロック16は、クラウンブロック15よりも大きな横力が作用する傾向がある。従って、ミドル横溝12の傾斜角度β2は、例えば、10〜20度の範囲で設定されるのが望ましい。これにより、ミドルブロック16の踏面Sのミドル横溝12に面した辺が、タイヤ軸方向により近づき、ミドルブロック16のタイヤ周方向両端部分での耐偏摩耗性能をさらに高めることができる。
【0047】
ミドル横溝12の溝幅W4は、クラウン横溝11と同様の範囲で定められ得る。特に好ましい態様として、本実施形態のミドル横溝12は、クラウン横溝11の溝幅W3よりも大きい溝幅W4を有している。これにより、ミドル領域での排水性が向上する一方、クラウン領域7では、小さなクラウン横溝11によってクラウン領域7の高いパターン剛性が得られ、ひいては、クラウンブロック15の耐偏摩耗性能が向上する。
【0048】
上記作用をより効果的に発現させるために、ミドル横溝12の溝幅W4とクラウン横溝11の溝幅W3との比W4/W3は、例えば、1.1〜3.0の範囲、より好ましくは、1.5〜2.5の範囲であるのが望ましい。
【0049】
ミドル横溝12により、ミドル領域8には、踏面Sが略六角形状をなす複数個のミドルブロック16が区分されている。各ミドル横溝12は、例えば、クラウン横溝11と逆向きに傾斜している。これにより、エッジ効果がバランスよく発揮される。
【0050】
踏面Sが略六角形状に形成されたミドルブロック16は、クラウンブロック15と同様、ヒールアンドトー摩耗が抑制され、ひいては、高い耐偏摩耗性能を有する。各ミドルブロック16も、踏面Sの各辺(6つの辺)の長さは、他の全ての辺に対して、例えば、0.8〜1.3倍の範囲であるのが望ましい。このようなミドルブロック16の踏面Sも、ミドルブロック16の剛性バランスがより一層高められ、優れた耐偏摩耗性能を発揮する。本実施形態では、ミドルブロック16の踏面Sの6つの辺は、互いに向き合う対向辺のペアを3組有する。各ペアにおいて、2つの辺は、互いに平行であり、かつ、同じ長さを有している。
【0051】
ミドルブロック16のタイヤ軸方向の最大幅W8は、例えば、クラウンブロック15のタイヤ軸方向の最大幅W7よりも小さいのが望ましい。このように相対的に最大幅の小さいミドルブロック16は、クラウンブロック15が負担する荷重を低減させながら、タイヤ赤道C側からタイヤ軸方向外側への排水性を確保するのに役立つ。同様に、ミドルブロック16のタイヤ周方向の剛性を高めるために、ミドルブロック16の踏面Sも、完全な正六角形ではなく、タイヤ周方向に縦長の略六角形状が望ましい。
【0052】
図4には、図2のミドルブロック16の部分拡大図が示されている。図4に示されるように、本実施形態のミドルブロック16にも、その踏面Sを完全に横切るミドル浅溝21が設けられている。このような実施形態では、ミドルブロック16の踏面Sは、ミドル浅溝21によって2つに区分されるが、ミドルブロック16の略六角形状の踏面Sの各辺については、ミドル浅溝21を除いて、クラウン主溝4、ショルダー主溝5及びミドル横溝12で区画された踏面Sの輪郭形状に基づいて定められる。
【0053】
ミドル浅溝21は、ミドル横溝12よりも小さい溝幅及び小さい溝深さを有している。ミドル浅溝21の溝幅及び溝深さは、それぞれ、ミドル横溝12の溝幅及び溝深さの例えば50%以下、好ましくは30%以下とされる。このような、ミドル浅溝21は、ミドルブロック16の剛性低下を抑制しつつ、接地時のブロックが変形しうる空間を提供し、ミドルブロック16の耐摩耗性をさらに向上させる。また、ミドル浅溝21は、ミドル領域8の排水性を高めるのに役立つ。
【0054】
本実施形態のミドル浅溝21は、例えば、ミドルブロック16の踏面Sをタイヤ周方向に二等分するように、ジグザグ状にのびている。好ましい態様では、ミドル浅溝21は、ミドル横溝12と逆向きに傾斜した中央部21aと、中央部21aに対して折れ曲がる一対の端部21b、21bとを含んでいる。ミドル浅溝21は、クラウン主溝4及びショルダー主溝5の間を連通している。
【0055】
ミドル浅溝21の中央部21aは、ミドル浅溝21の中で最も大きい長さを有している。ミドル浅溝21の中央部21aは、ミドルブロック16をバランスよく2つのブロック小片に区分して、さらにミドルブロック16の耐摩耗性を高めることができる。また、ミドルブロック16の踏面Sに大きなタイヤ周方向力又はタイヤ軸方向力が作用した場合、ミドル浅溝21は、例えば、その溝を閉じ、ブロック小片同士を互いに接触させて、ミドルブロック16の見かけの剛性を高めることが可能である。
【0056】
好ましい態様では、ミドル浅溝21の一対の端部21bは、ミドルブロック16の外側に向かって溝幅が拡大する拡幅部21cをさらに含んでいる。ミドル浅溝21の拡幅部21c以外の部分、即ち、中央部21a及び端部21bは、一定の溝幅でのびている。このような拡幅部21cは、ミドル領域8での排水性をより一層高めるのに役立つ。
【0057】
図5には、ミドルブロック16をさらに拡大した拡大図が示されている。図5に示されるように、ミドル浅溝21の拡幅部21cは、一方の溝縁と他方の溝縁とを有し、これらによって形成される内角γが、30〜110度であるのが望ましい。これにより、効果的な排水とミドルブロック16の剛性とがバランス良く向上され得る。
【0058】
ミドル浅溝21の拡幅部21cは、それが設けられているミドルブロック16の踏面Sの辺の略中央部に位置するのが望ましい。このような拡幅部21cは、ミドルブロック16の剛性をより一層バランス良く抑制するのに役立つ。とりわけ、ミドルブロック16の踏面Sにおいて、拡幅部21cが位置する一辺16aの両側の端点16b、16bから拡幅部21cの最大開口幅L3の中央点16cまでの長さL1は、例えば、辺16aの長さL2の0.3〜0.7倍の範囲であるのが望ましい。
【0059】
拡幅部21cの最大開口幅L3は、拡幅部21cが設けられた踏面Sの辺16aの長さL2の0.2〜0.5倍の範囲であるのが望ましい。拡幅部21cの最大開口幅L3が、前記長さL2の0.2倍未満の場合、排水性能を十分に向上できないおそれがある。逆に、最大開口幅L3が、前記長さL2の0.5倍より大きい場合、ミドルブロック16の剛性バランスを悪化させるおそれがある。
【0060】
上述の効果をより一層効果的に発揮させるため、拡幅部21cのブロック中心側の端Jから拡幅部21cが位置するミドルブロック16の踏面Sの辺16aまでの最短長さL4は、例えば、辺16aに垂直な方向のミドルブロックの幅L5の0.05〜0.2倍の範囲であるのが望ましい。
【0061】
図1及び図2に示されるように、ショルダー領域9には、複数本のショルダー横溝13が設けられている。各ショルダー横溝13は、例えば、ショルダー主溝5の外側頂部5bからタイヤ軸方向外側のトレッド端Teにのびている。
【0062】
ショルダー横溝13は、タイヤ軸方向に対して傾斜している。ショルダー横溝13の傾斜角度β3は、クラウン横溝11の傾斜角度β1及びミドル横溝12の傾斜角度β2よりも小さい。相対的に傾斜角度が小さいショルダー横溝13は、例えば、ショルダーブロック17のタイヤ周方向の両端部分の剛性を高め、ひいては、ヒールアンドトー摩耗等の偏摩耗を抑制しうる。
【0063】
上述のような観点より、各ショルダー横溝13のタイヤ軸方向に対する傾斜角度β3は、例えば、0〜20度の範囲であるのが望ましい。また、ショルダー横溝13の傾斜角度β3により、図6に示されるように、ショルダーブロック17の踏面Sのタイヤ周方向両端のコーナ部17a、17aの内角D1、D2を大きくし、コーナ部17aを起点とした偏摩耗をより一層抑制することができる。
【0064】
図2に示されるように、上述のクラウン横溝11、ミドル横溝12及びショルダー横溝13の傾斜角度β1、β2及びβ3が、β1>β2>β3を満たすように設定されることにより、タイヤ赤道C側での排水性を高めつつ、トレッド端Te側での偏摩耗を抑制しうる。このような効果をより一層高めるため、ミドル横溝12の傾斜角度β2とショルダー横溝13の傾斜角度β3の差は、クラウン横溝11の傾斜角度β1とミドル横溝12の傾斜角度β2の差よりも大きいのが望ましい。
【0065】
ショルダー横溝13の少なくとも一方(本実施形態では、両方)の溝縁24は、ショルダー主溝5から直線状にのびる第1溝縁24a、及び、第1溝縁24aとトレッド端Teとの間を円弧状にのびる第2溝縁24bを有している。第2溝縁24bは、ショルダー横溝13の溝幅をタイヤ軸方向外側に向かって拡大する向きの円弧状に形成されている。このようなショルダー横溝13は、ショルダー領域9での排水性を高めつつ、ショルダーブロック17への偏摩耗の発生を抑制するのに役立つ。なお、ショルダー横溝13の最小溝幅W5は、ミドル横溝12よりも大きく形成されており、これにより、ミドル領域8及びショルダー領域9での排水性をさらに向上させ得る。
【0066】
ショルダー横溝13により、ショルダー領域9には、複数のショルダーブロック17が区分されている。
【0067】
図6には、図2のショルダーブロック17付近の部分拡大図が示されている。図6に示されるように、本実施形態のショルダーブロック17にも、その踏面Sを完全に横切るショルダー浅溝22が設けられている。本実施形態のショルダー浅溝22は、中央部22aと、中央部22aの両側から折れ曲がる一対の端部22b、22bとを含み、タイヤ軸方向にジグザグ状にのびている。また、トレッド端Te側の端部22bにのみ、ショルダーブロック17のタイヤ軸方向外側に向かって溝幅が拡大する拡幅部22cを含んでいる。
【0068】
ショルダー浅溝22の溝幅及び溝深さは、例えば、ショルダー横溝13の溝幅及び溝深さの例えば50%以下、好ましくは30%以下が望ましい。このようなショルダー浅溝22は、ショルダーブロック17の接地時の適度な変形を促して摩耗エネルギーを低減するとともに、ショルダー領域9の排水性をより一層高めるのに役立つ。
【0069】
図2に示されるように、センター摩耗をより効果的に防止するために、ショルダーブロック17の踏面Sの面積S3は、クラウンブロック15の踏面Sの面積S1よりも小さいのが望ましい。
【0070】
上述の効果をより一層効果的に発揮させるため、ショルダーブロック17の踏面Sの面積S3は、クラウンブロック15の踏面Sの面積S1、及び、ミドルブロック16の踏面Sの面積S2と、下記式を満足するのが望ましい。
S3<S1/2+S2
【0071】
即ち、一つのショルダーブロック17の踏面Sの面積S3よりも、一つのミドルブロック16の踏面Sの面積S2及び一つのクラウンブロック15の踏面Sの面積S1の1/2の和の方が大きく設定されるのが望ましい。これにより、タイヤ赤道Cの各側において、トレッド中央部に作用する荷重がクラウンブロック15及びミドルブロック16で十分に支持され、それらに作用する接地圧を低減することができる。
【0072】
同様の観点より、ショルダー領域9のランド比は、クラウン領域7のランド比よりも小さいのが望ましい。ここで、ランド比とは、各領域において、各横溝を全て埋めた仮想接地面の全面積に対する、各ブロックの踏面の全面積の割合を意味する。なお、各領域7及び9の境界を定める際、主溝と横溝との交差部では、図4に示されるように、主溝の溝縁が仮想延長される。
【0073】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明はこれらの実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0074】
図1に示される基本パターンを有し、かつ、表1の仕様に基づいたタイヤ(サイズ:11R22.5)が試作され、それらの性能がテストされた。
テスト方法は次の通りである。
【0075】
<耐偏摩耗性能>
下記の条件で、テスト車両の後輪の一方に実施例1のタイヤが装着され、他方に各試供タイヤが装着され、いずれかのタイヤの摩耗が50%となるまで走行させた後、各テストタイヤのセンターブロック及びショルダーブロックの高さが、それぞれタイヤ周上の3箇所において測定され、各ブロックについて、最大値と最小値の差が求められた。評価は、より大きい差の値の逆数であり、実施例1を100とした指数で示されている。数値が大きい程、耐偏摩耗性能に優れている。
リム:22.5×8.25
内圧:720kPa
【0076】
<ウエット性能>
各試供タイヤが全輪に装着された上記テスト車両を、5mmの水膜を有するウエットアスファルト路面で走行させ、クラッチを繋いだ瞬間から10mを通過する間のタイムが測定された。評価は、測定値の逆数であり、実施例1を100とした指数で示されている。数値が大きい程、ウエット性能に優れている。
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示されるように、各実施例のタイヤは、タイヤ赤道側での排水性を高めつつ、トレッド端側での偏摩耗を抑制しうることが確認できた。
【符号の説明】
【0079】
2 トレッド部
3 主溝
4 クラウン主溝
5 ショルダー主溝
11 クラウン横溝
12 ミドル横溝
13 ショルダー横溝
15 クラウンブロック
16 ミドルブロック
17 ショルダーブロック
β1 傾斜角度
β2 傾斜角度
β3 傾斜角度
C タイヤ赤道
S 踏面
図1
図2
図3
図4
図5
図6