特許第6114747号(P6114747)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6114747-アッセイ実行用デバイス 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6114747
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】アッセイ実行用デバイス
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/08 20060101AFI20170403BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20170403BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20170403BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
   G01N35/08 A
   G01N33/543 521
   G01N37/00 101
   C12M1/34 F
【請求項の数】23
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-524401(P2014-524401)
(86)(22)【出願日】2012年8月10日
(65)【公表番号】特表2014-527169(P2014-527169A)
(43)【公表日】2014年10月9日
(86)【国際出願番号】EP2012065697
(87)【国際公開番号】WO2013024031
(87)【国際公開日】20130221
【審査請求日】2015年6月30日
(31)【優先権主張番号】1113992.0
(32)【優先日】2011年8月12日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】503183868
【氏名又は名称】モレキュラー・ビジョン・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ホフマン, オリバー
(72)【発明者】
【氏名】ラトル, シモン
【審査官】 渡邊 吉喜
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−031102(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0213821(US,A1)
【文献】 国際公開第2009/139246(WO,A1)
【文献】 特表2009−536313(JP,A)
【文献】 特表平06−509424(JP,A)
【文献】 国際公開第01/086249(WO,A1)
【文献】 特表2004−506189(JP,A)
【文献】 特表2010−539503(JP,A)
【文献】 特表2008−544282(JP,A)
【文献】 特表2008−532005(JP,A)
【文献】 特表2006−520898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N35/00−37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アッセイ実行用デバイスであって、
入口と、
出口と、
前記入口と前記出口との間に延在するチャネルと、
前記チャネルの長さ方向に沿った位置に各々配置される2つ若しくはそれ以上の検出ゾーンと、
2つ若しくはそれ以上の試薬堆積物とを備え、
前記試薬堆積物の各々は、フロー制御試薬からなり、前記フロー制御試薬の各々は、前記チャネルの長さ方向に沿って離散的な位置で前記チャネル内に各々配置され、前記チャネルを通して流体が流れることによって取り込まれることで少なくともチャネルの1つの領域内に当該流体の流量を増加又は減少させる、親水性、水溶性かつ/又は酵素分解性であり、ここにおいて、試薬の取り込みは、流体による試薬の再水和又は溶解によって、あるいは流体内の酵素による試薬の消化によって達成され、
2つ若しくはそれ以上の試薬堆積物は、2つ若しくはそれ以上の検出ゾーンの間のチャネル内に配置される遅延試薬であるフロー制御試薬からなる第1の試薬堆積物、及び2つ若しくはそれ以上の検出ゾーンのうちの1つと出口との間のチャネル内に配置される遅延試薬であるフロー制御試薬からなる第2の試薬堆積物からなり、
前記遅延試薬の各々は、前記流体のフロー特性を変化させることによって、該遅延試薬の試薬堆積物の下流の流体の流量を減少させることを特徴とする
デバイス。
【請求項2】
前記チャネルが、5mm未満の少なくとも1つの寸法を有することを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記デバイスは、さらに追加の試薬堆積物を有し、1つ若しくはそれ以上の追加の試薬堆積物はフロー制御試薬から構成され、
前記フロー制御試薬は遅延試薬又は加速試薬であり、前記遅延試薬は、前記チャネルの前記少なくとも一部分内の流体の前記流量を減少させる試薬であり、前記加速試薬は、前記マイクロ流体チャネルの少なくとも一部分内の流体の前記流量を増加させる試薬であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項4】
前記遅延試薬が、流体の粘性及び/又は密度を増大させることによって前記チャネル内の前記流体の流量を減少させる試薬であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
前記遅延試薬が粘性増強剤であることを特徴とする請求項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記粘性増強剤が親水性ポリマーであることを特徴とする請求項に記載のデバイス。
【請求項7】
前記遅延試薬が、
(a)セルロース誘導体類ポリペプチド類、タンパク質類ポリエチレンオキシドポリマー類並びに多糖類からなる群から選択される親水性ポリマー、
(b)シクロデキストリン、
(c)単糖又は二糖オリゴ糖又はポリペプチド、或いはこれらの任意の混合物、
であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項8】
前記デバイスは、前記チャネルを通って流れる流体の前記流量を、前記流体の流路を塞ぐことなく、前記流体のフロー特性を変化させることによって減少させるように配置された遅延試薬を含む試薬堆積物を含むことを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項9】
前記チャネルがチャネル表面によって画定され、少なくとも1つの試薬堆積物が1つ以上のチャネル表面上の試薬層を含み、前記試薬層は前記チャネルの全断面に亘っては延在しないことを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項10】
前記試薬堆積物は、前記チャネルの前記断面の少なくとも一部に亘って延在する3次元プラグの形態の遅延試薬を含むことを特徴とする請求項4乃至8のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項11】
前記加速試薬が、前記マイクロ流体チャネル内の前記流体の流量を増加させる試薬であることを特徴とする請求項に記載のデバイス。
【請求項12】
前記加速試薬が前記流体の表面張力を低下させることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項13】
前記加速試薬が一つの界面活性剤又は複数の界面活性剤の混合物を含むことを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項14】
前記加速試薬が、ポリオキシエチレンソルビタンエステル類ノニルフェノールエトキシレート又は第2級アルコールエトキシレート類オクチルフェノールエトキシレート類ポリオキシエチレン脂肪族エーテル類或いはこれらの混合物から選択される界面活性剤であることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項15】
前記チャネルが実質的に直線状であることを特徴とする請求項1乃至1のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項16】
前記検出ゾーンの内の1つが基準検出ゾーンであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項17】
前記デバイスが、前記入口、前記出口、前記チャネル及び前記検出ゾーンが形成されるモノリシック基板と、シールとを含むことを特徴とする請求項1乃至1のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項18】
前記デバイスが受動デバイスであることを特徴とする請求項1乃至1のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項19】
前記デバイスが光源と光検出器とを追加的に含むことを特徴とする請求項1乃至1のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項20】
請求項1に記載のデバイスを制作するプロセスであって、前記プロセスは、
(a)入口、出口、前記入口と前記出口との間に延在するチャネル、及び前記チャネルの長さ方向に沿った位置に配置される2つ若しくはそれ以上の検出ゾーンを画定する射出成形基板を提供する工程と、
(b)2つ若しくはそれ以上の検出ゾーンの間のチャネル内に遅延試薬を堆積させることで第1の試薬堆積物を形成し、2つ若しくはそれ以上の検出ゾーンのうちの1つと出口との間のチャネル内に遅延試薬を堆積させることで、第2の試薬堆積物を形成する工程と、
(c)溶媒蒸発を行うために前記デバイスを乾燥させる工程と
を備え、
前記遅延試薬の各々は、前記流体のフロー特性を変化させることによって該遅延試薬の試薬堆積物の下流の流体の流量を減少させることを特徴とするプロセス。
【請求項21】
前記プロセスが、更に、
(d)前記2つ若しくは2つ以上の検出ゾーンと前記入口との間の前記チャネル内の位置において検出抗体を堆積させる工程と、
(e)その上に捕捉抗体が固定化された固体担体を提供する工程と、
(f)前記固体担体を前記2つ若しくは2つ以上の検出ゾーン内に移動する工程と、
を備えることを特徴とする請求項2に記載のプロセス。
【請求項22】
前記固体担体が、ビーズ、バッフル、細管、スカフォールド又はロッドを含むことを特徴とする請求項20乃至に記載のプロセス。
【請求項23】
更に、前記基板にシールを提供する工程を含むことを特徴とする請求項2、2又は2に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に1つ以上の画定された領域に配置されたフロー制御試薬からなる試薬堆積物を備えたチャネルを有する液状サンプル内の分析物を検出するアッセイ実行用デバイス、及びこのようなデバイスの製作方法に関する。特に、本発明はマイクロ流体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体デバイス内の流体のフローの正確な制御は、マイクロ流体デバイス内において、アッセイ、例えば診断用イムノアッセイ、を実施する能力を得るための鍵である。流体のフローは、作動的な又は受動的なマイクロ流体を用いて達成される。作動的なマイクロ流体は、外部動力源又はポンプを用いて流体のフローを制御する。受動的なマイクロ流体では、流体のフローは、外部から加える力ではなく、マイクロ流体デバイスそのものの設計によってコード化され、流体のフローは毛管力によって生じる。受動的なマイクロ流体デバイスは、自律毛管系と呼ばれ、それらのパワー消費量の少なさ、可搬性及び無駄な容積の少なさのために、魅力的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
マイクロ流体チャネル内で行われるアッセイの性能の最適化は、アッセイの種々の段階に対するタイミングの制御に依存している。多くの場合、これは、充填するための制御された期間を有する遅延ループ等の構造的遅延要素の組み込みによって達成される。このようなアプローチは、例えば、チャネル設計の複雑さ、及びそれに付随する、チャネルの均一なシーリングの達成の難しさから生じる性能のばらつき、一定のエリア内に配置される試験数の制約、遅延ループによって占有されるスペースによるもの、断面積の小さな相対的に長いチャネルに関連付けられる高い流動抵抗及び粘性抗力、並びにチャネル長に沿った試薬の除去の効率の悪さを招くような設計に特徴付けられる、高い表面積:容積比等の数多くの不利な点を有する。
【0004】
従って、上述したもの等の問題を克服するべく単純化された構造設計を有するが、内部で行われるアッセイの最適化を可能とするのに十分な程度に流体のフローを制御することができるデバイスを提供することが望まれる。
【0005】
これらの問題は、化学的手段によって行われる流体充填の制御によって、特に、流れる流体先頭部によって接触されると流体の流量を減少又は増加させる試薬の堆積物をデバイス内の流体の流路内に組み込むことによって、克服することができることが見いだされた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様によれば、アッセイ実行用デバイスであって、
入口と、
出口と、
入口と出口との間に延在するチャネルと、
チャネルの長さに沿った位置に配置される少なくとも1つの検出ゾーンと、
フロー制御試薬を含むチャネル内における少なくとも1つの試薬堆積物とを備え、
この試薬堆積物は、チャネルを通って流れる流体の流量を増加又は減少させ且つ流体によるフロー制御試薬の取り込みを行うデバイスが提供される。
【0007】
一実施形態では、チャネルが、5mm未満の少なくとも1つの寸法を有する。
【0008】
本発明の実施形態によっては、チャネルが実質的に直線状である。
【0009】
流体は水性流体(aqueous fluid)である。流体は、未知量の検出対象分析物、及び追加的に、その中に溶解した1つ以上の追加の成分を含む流体サンプルであってよい。本発明の一実施形態では、試薬堆積物が、流体によってフロー制御試薬の取り込みを行うように配置され、そこでは、試薬の取り込みは、流体による試薬の再水和又は溶解によって、或いは流体内の酵素による試薬の消化によって、達成される。従って、フロー制御試薬は、親水性、水溶性及び/又は酵素分解性であってよい。
【0010】
本発明の一実施形態では、流体によって行われるフロー制御試薬の取り込みによって流体の流動特性のバルク変化が引き起こされる。このバルク変化は流体の粘性又は表面張力のバルク変化であってよい。流体の流動特性のこのバルク変化は、チャネル内の流体の流量を減少させる効果又は増加させる効果のいずれかの効果を有する。
【0011】
各試薬堆積物はチャネル内の離散的な所定の位置に存在してもよい。従って、試薬堆積物は、好ましくは、チャネルの長さに沿った離散的な位置に配置されるが、チャネルの全長に沿っては延在しない(チャネルの長さの少なくとも一部は試薬堆積物を有しない)。好ましくは、デバイスが2つ以上の試薬堆積物を含む場合には、各試薬堆積物は離散的な位置にあり、他の一つの試薬堆積物とは接触しない。アッセイ実行のための流体の導入によるデバイスの使用に先立って、各試薬堆積物は、好ましくは、フロー制御試薬及び、任意ではあるが追加の成分(溶媒を実質的に含まない)を含む乾燥試薬堆積物である。
【0012】
本発明の一実施形態では、フロー制御試薬が遅延試薬又は加速試薬であり、そこでは、遅延試薬は、チャネルの少なくとも一部分内の流体の流量を減少させる試薬であり、加速試薬は、チャネルの少なくとも一部分内の流体の流量を増加させる試薬である。実施形態によっては、デバイスが、チャネル内の分離した所定の位置に各々が独立して配置される2つ以上の試薬堆積物を含む。実施形態によっては、デバイスが、遅延試薬を含む2つ以上の試薬堆積物と、追加的に、加速試薬を含む少なくとも1つの試薬堆積物とを含む。他の実施形態では、デバイスが、好ましくは、遅延試薬を含む少なくとも1つの試薬堆積物と、加速試薬を含む試薬堆積物とを含む。試薬堆積物(単数又は複数)は、単一のチャネルを通る流体の流量の制御を可能にし、チャネル内の高速及び低速の流体のフローのゾーンを画定する。これにより、流体サンプルの十分な滞留時間を与えるべくチャネル内に遅延ループ等の構造的機能を組み込む必要がなく、単一のチャネル内部で1つ又は複数のアッセイを首尾よく実行することが可能になる。例えば、本発明に係る試薬堆積物を組み込んだ単一のチャネルを有するデバイスを用いて、サンプル内の複数の分析物の試験を実行することができる。構造的機能を利用して流体のフローを制御するデバイスと比べて、製造の複雑さ及びコストが低減され、性能が向上される。従って、本発明の一実施形態では、チャネルが実質的に直線状である。
【0013】
本発明の一実施形態では、遅延試薬が、流体の粘性及び/又は密度を増大させることによってチャネル内の流体の流量を減少させる試薬である。従って、遅延試薬は粘性増強剤、例えば親水性ポリマー又はシクロデキストリン、であってよい。好適な親水性ポリマーとしては、セルロース誘導体類(メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロース等)、ポリペプチド類、タンパク質類(ゼラチン、アルブミン及びグロブリン等)、ポリエチレンオキシドポリマー類(POLYOX(商標))、並びに多糖類(デキストラン、グリコーゲン、キサンタンガム、アルギン酸塩類(例えばアルギン酸ナトリウム)、ヒアルロン酸塩類、ペクチン、キトサン、アガロース及びアミロース等)が挙げられる。更に使用し得る遅延試薬としては、単糖類及び二糖類(グルコース、マンノース、ガラクトース、アルトース(altose)、スクロース、ラクトース、トレハロース及びマルトース等)、オリゴ糖類並びにポリペプチド類が挙げられる。これらの遅延試薬は、流体のフローの先頭部の密度及び/又は粘性を増大させることによって作用する。本発明の一実施形態では、遅延試薬がセルロース誘導体、例えばメチルセルロースである。
【0014】
本発明を用いることによって、流体の流路を塞ぐ物理的障壁を設けることなく、チャネルを通る流体の流量を減速させることが可能となる。流体のフローは、フローの完全な塞がりが存在する状態を引き起こすことなく遅延させることができる。(例えば、チャネルの全断面(幅及び深さ)を密閉することによって)流路を塞ぐ障壁の存在とは対照的に、本発明に係るフローの遅延は、試薬堆積物によって達成することができ、この場合、堆積物は流体の流路を塞がない。流体のフローの完全な塞がりを回避しつつ流体のフローの減速を達成することは、デバイスにおけるアッセイの性能にとって有利である。
【0015】
従って、本発明の実施形態によっては、、デバイスは、流体の流路を塞ぐことなく、流体の流動特性を変化させることによってチャネルを通って流れる流体の流量を減少させるように配置された遅延試薬を含む試薬堆積物を含む。
【0016】
実施形態によっては、少なくとも1つの試薬堆積物が、1つ以上のチャネル表面上の試薬の層(又は膜)として設けられる。その層は表面上のコーティングとして存在するが、流路を塞がない。層はチャネルの全断面にわたっては延在しない。好ましくは、、堆積物が配置されるチャネルの位置において、堆積物はチャネルの断面積の≦50%、≦25%、又は≦10%にわたって延在する。実施形態によっては、、堆積物が配置されるチャネルの位置において、堆積物がチャネル表面の全横寸法を覆う。好ましくは、堆積物は、堆積物の位置でチャネルの基部の全幅を覆う、チャネルの基部上の層として設けられる。全横寸法(例えば幅)を覆う堆積物は、試薬堆積物の通過による流体の迂回を回避して、流体のフローの一貫した制御を達成することをを助ける。
【0017】
代替的な実施形態では、遅延試薬が、流体のフローに対する物理的障壁を提供することによってチャネル内の流体の流量を減少させる試薬である。試薬が流体によって取り込まれると、物理的障壁が除去され、流体のフローが再開する。実施形態によっては、遅延試薬は、試薬の取り込み時に流体のバルク流動特性の変化を生じさせること、及び試薬取り込みに先立って流体のフローに対する物理的障壁を設けることの両方によって作用することを理解される。
【0018】
従って、本発明の更なる実施形態では、試薬堆積物はチャネルの断面の少なくとも一部分を越えて延在する3次元プラグの形態の遅延試薬を含む。プラグは試薬取り込みに先立って流体のフローに対する物理的障壁を提供する。好ましくは、3次元プラグはマイクロ流体チャネルの全断面にわたって延在し、それにより、そのチャネルの断面を密閉する。
【0019】
本発明の一実施形態では、加速試薬が、例えば流体の表面張力を低下させることによって、チャネル内の流体の流量を増加させる試薬である。加速試薬は界面活性剤であってよい。好適な界面活性剤としては、以下のものに限定されるわけではないが、ポリオキシエチレンソルビタンエステル類(例えば、TWEEN(商標)界面活性剤類)、ノニルフェノールエトキシレート又は第2級アルコールエトキシレート類(例えばTERGITOL(商標)界面活性剤類)、オクチルフェノールエトキシレート類(TRITON(商標)界面活性剤類)、ポリオキシエチレン脂肪族エーテル類(例えばBRIJ界面活性剤類)、あるいはこれらの混合物が挙げられる。ある実施形態では、加速試薬がTriton X−100、又はTriton X−100とBRIJ98の混合物である。加速試薬を含む試薬堆積物は、例えば上述の層又はチャネル表面に対応する、チャネル表面上の試薬薄膜として、或いはチャネルの断面の少なくとも一部分にわたって、又は全断面にわたって延在する3次元プラグの形態で設けられてもよい。
【0020】
多くのアッセイは洗浄段階を必要とする。流体のフローが遅すぎると、洗浄は効果がなくなる。従って、加速試薬の堆積物の組み込みによって流体の流量の増加を可能にし、洗浄段階を効率よく完了することができるようになる。
【0021】
本発明の他の実施形態では、少なくとも1つの試薬堆積物が乾燥緩衝液組成物(dried buffer composition)を更に含む。乾燥緩衝液組成物は、チャネル内の流体の通過によって再水和され、流体は緩衝液組成物の成分を取り込む。デバイスの使用中に再水和されると、緩衝液組成物はチャネル表面の動的コーティングを提供し、そこへの検出抗体又は分析物の非特異的結合を最小限に抑える。これは、高感度アッセイを行う際に用いられるデバイスにとって有利である。
【0022】
乾燥緩衝液組成物は、中に可溶化されたタンパク質(例えばゼラチン、又はウシ血清アルブミン、ラクトアルブミン若しくはオボアルブミン等のアルブミン)及び界面活性剤(Tween−20又はTriton X−100等)を含む、HEPES、リン酸塩、クエン酸塩、トリス、ビストリス、酢酸塩、MOPS又はCHAPS等の緩衝水溶液を塗布し、乾燥させることによって形成されてもよい。適宜、緩衝液組成物は防腐剤(例えばProclin(登録商標)又はアジ化ナトリウム)を追加的に含む。緩衝液組成物は典型的には5.0〜9.0のpH範囲内にある。例示的な組成物は、ビストリス緩衝液、ウシ血清アルブミン(bovine serum albumin、BSA)及びポリオキシエチレンソルビタンエステル界面活性剤(例えばTween−20)を含む。BSAは、チャネル表面上に堆積し、非特異的結合に対して表面をブロックすることによって、非特異的結合を抑制する役割を果たす。BSAの取り込みは、非特異的結合を抑制するための動的不活性化段階と見なすことができる。
【0023】
デバイスが少なくとも2つの試薬堆積物を含む実施形態では、出口に最も近い検出ゾーンと出口との間、2つの検出ゾーンの間、又は入口に最も近い検出ゾーンと入口との間に、2つ以上の試薬堆積物(好ましくは各々遅延試薬を含む)が配置される。実施形態によっては、出口に最も近い検出ゾーンと出口との間に、遅延試薬を含む2つ以上の試薬堆積物が存在する。実施形態によっては、好ましくは、出口に最も近い検出ゾーンと出口との間に、加速試薬を含む試薬堆積物も存在する。
【0024】
デバイスは、2つ以上の検出ゾーンと、チャネル内において検出ゾーン同士間に配置される遅延試薬を含む試薬堆積物を含んでよい。これは、例えば、より多くのインキュベーション時間が必要とされる検出ゾーンの内の1つに、より多くの流体滞留時間を提供するために有用である。
【0025】
本発明のデバイスでは、チャネルの長さ方向に沿って少なくとも1つの検出ゾーンが位置付けられる。2つ以上の検出ゾーンの存在は、1つのサンプルに対する複数の分析物の連続試験の実行にデバイスを用いることを可能にする。一実施形態では、デバイスが第1検出ゾーン及び1つ以上の追加の検出ゾーンを画定する。第1検出ゾーンは基準測定実行用であり、1つ以上の追加の検出ゾーンは1種以上の分析物のためのプロービング用である。代替的に、全ての検出ゾーンが1種以上の分析物のためのプロービング用である。デバイスがイムノアッセイ実行用であり、第1検出ゾーンが基準測定実行用である場合には、第1検出ゾーンと1つ以上の追加の検出ゾーンとの間に検出抗体堆積物が配置され、1つ以上の追加の検出ゾーン内に捕捉抗体が配置される。本実施形態の一例では、検出抗体の堆積物と1つ以上の追加の検出ゾーンとの間に、遅延試薬を含む試薬堆積物が位置付けられる。デバイスがイムノアッセイ実行用であり、第1検出ゾーンが分析物のためのプロービング用である場合には、デバイスは、チャネル内において入口と第1検出ゾーンとの間に位置付けられる検出抗体の堆積物を含む。本実施形態の一実施例では、チャネル内部において検出抗体堆積物と第1検出ゾーンとの間に、遅延試薬を含む試薬堆積物が位置付けられる。他の実施例では、出口に最も近い検出ゾーンと出口との間に、遅延試薬を含む試薬堆積物が配置される。これらの実施形態では、1つ以上の追加の検出ゾーンが存在する場合には、追加の検出ゾーンの間に追加の遅延試薬堆積物が位置付けられる。
【0026】
本明細書に記載されている実施形態のいずれにおいても、デバイスは、追加的に、出口に最も近い検出ゾーンと出口との間に配置される加速試薬の堆積物を含んでもよい。
【0027】
他の実施形態では、デバイスが、入口、出口、チャネル及び検出チャンバが形成されるモノリシック基板と、シールとを含む。マイクロ流体チャネルはチャネル壁によって画定される。試薬堆積物は、チャネルの長さ方向に沿って離散的な領域における1つ以上のチャネル壁上に堆積されてもよい。基板は、熱可塑性樹脂、例えばPMMA、ポリカーボネート、ポリオレフィン又はポリスチレンから形成される。基板は射出成形されてもよい。ある実施形態では、色素ドープ材料から基板が形成される。これによって、基板自体が光学フィルタの役割を果たすことが可能になる。シールは、接着剤よって密閉されたテープ又はレーザ溶接から形成されてよく、例えば、基板と同じ材料を含んでいてもよい。基板及びシールの両方のために様々な材料選定をすることができることを理解される。
【0028】
本発明の一実施形態では、デバイスがマイクロ流体デバイスである。デバイスは好ましくは受動デバイスである。
【0029】
本発明の更なる実施形態では、デバイスが光源と光検出器とを追加的に含む。実施形態では、光源が有機又は無機発光ダイオードであり、光検出器が有機又は無機光検出器である。
【0030】
第2態様では、本発明は、デバイスの製作プロセスであって、このプロセスは、
(a)入口、出口、この入口と出口との間に延在するチャネル、及びこのチャネルの長さ方向に沿った位置に配置される少なくとも1つの検出ゾーンを画定する射出成形された基板を提供する工程と、
(b)チャネル内の位置にフロー制御試薬の水溶液を塗布する工程と、
(c)溶媒蒸発を生じさせ、試薬堆積物を作り出すために乾燥させる工程と、
を含む、プロセスを提供する。
【0031】
フロー制御試薬溶液は単に水溶液であってよもいし、又は緩衝液成分(例えばビストリス緩衝液)等の追加の成分が存在してもよい。
【0032】
乾燥工程(c)は、例えば、必要に応じて真空下における加熱によって又は凍結乾燥によって、実行される。
【0033】
本発明の第2態様のプロセスでは、真空オーブン内での乾燥によって迅速な溶媒蒸発を確実にする。乾燥プロセスによって、堆積手順、特に、塗布される試薬溶液の容積に応じて、三次元試薬プラグ、又は堆積試薬の膜を得ることができる。
【0034】
本発明のプロセスの一実施形態では、以下の更なる工程からなるプロセス、
(d)、少なくとも1つの検出ゾーンと入口との間のチャネル内の位置に検出抗体を堆積させる工程と、
(e)その上に捕捉抗体が固定化された固体担体を提供する工程と、
(f)固体担体を少なくとも1つの検出ゾーン内に移動する工程と、
を含む。
【0035】
固体担体は、例えば、ビーズ、バッフル、細管、スカフォールド又はロッドであってよい。
【0036】
本発明のプロセスの一実施形態では、プロセスが、基板にシールを提供する工程を更に含む。密閉は、例えば、レーザ溶接又は基板へのシールのラミネーションによって達成される。
【0037】
本発明の第1態様の好ましい機構は第2態様にも準用される。従って、本発明の第1態様について説明した通りのデバイスの構造的特徴、並びにフロー制御試薬の種別及び組成は、本発明の第2態様にも適用される。
【0038】
以下に、添付の図面を参照して、本発明の特定の実施形態を例としてのみ説明する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明に係るデバイスの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明に係るマイクロ流体デバイスは、5mm未満、好ましくは1mm未満の少なくとも1つの寸法を有する少なくとも1本のマイクロ流体チャネルを含む。この少なくとも1つの寸法は、チャネルの長さ方向に沿った任意の位置における断面寸法(即ち、チャネル深さ又は幅)であってよい。チャネル及びデバイスのその他の寸法がこの値を超えてよいことを理解される。チャネルの断面に言及する場合、これは、流体のフロー(流体の流路)の方向に対して、及び同様に、入口と出口との間に延在するチャネルの長さに対して垂直な方向で取ったチャネルの断面を意味することを意図している。チャネルが直線状である場合には、チャネルの長さは、入口と出口との間に延びるラインに対応する。実質的に直線状のチャネルとは、好ましくは、入口と出口との間に延びるラインからずれるのが、チャネルの長さの10%を超えないものをいう。
【0041】
本発明のデバイス内のチャネルは、チャネル表面又は壁と呼ぶこともできる内面によって画定される。チャネルは、チャネルの長さに対応する、入口と出口との間の流体の流路を画定する。チャネルの長さに沿った任意の点において、チャネルは幅及び深さを有する。これはチャネルの長さ方向に沿って変化し得る。各チャネル壁は、流体の流路と垂直な壁寸法である横寸法を有する。これは、特定の壁に接する壁同士の間の寸法でもある。これらの壁の内の1つは基部と呼ばれ、この場合には、流体のフロー及び/又はチャネルの長さの方向に対して垂直な方向の基部の横寸法が幅になる。チャネルは、幅に対して垂直な断面チャネル寸法である、深さも有する。
【0042】
受動マイクロ流体デバイスとは、デバイスの構造及び組成並びに流体の組成に固有の力(即ち、毛管力及びウィッキング力)によってデバイス内の流体のフローがコード化されるマイクロ流体デバイスである。このようなデバイスでは、デバイスを通る流体のフローを生み出すために外部の力(ポンピング、電界の印加又は圧力差の印加等)を必要としない。それゆえ、本発明の受動マイクロ流体デバイスは、流体のフローを生み出すために、外部から印加される力に依存しないことが好ましい。
【0043】
本明細書において使われている文脈における流体とは、水性流体、即ち水と、適宜、検出対象分析物等の追加の成分とを含む流体である。本文脈における流体は液体を意味すると解釈される。
【0044】
本明細書において使われている文脈における遅延試薬は、ある実施形態では、親水性ポリマー又はシクロデキストリンである。例示的な親水性ポリマーとしてはセルロース誘導体類が挙げられる。セルロース誘導体とは、セルロースから誘導される化合物であって、セルロースの結合グルコース単位の水酸基のうちの1つ以上(又は好ましくは全て)が置換基によって置き換えられている化合物であることが理解される。実施形態によっては、水酸基は−ORによって置き換えられる。ここで、Rは、例えば、置換アルキル基、好ましくは、1つ以上の水酸基又はカルボキシル基と適宜に置換されるアルキル基(例えばC1−6アルキル基)である。例示的なセルロース誘導体としては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロースが挙げられる。親水性ポリマー遅延試薬は、例えば、セルロース誘導体類(メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロース等)、ポリペプチド類、タンパク質類(ゼラチン、アルブミン及びグロブリン等)、ポリエチレンオキシドポリマー類(POLYOX(商標))、並びに多糖類(デキストラン、グリコーゲン、キサンタンガム、アルギン酸塩類(例えばアルギン酸ナトリウム)、ヒアルロン酸塩類、ペクチン、キトサン、アガロース及びアミロース等)であってもよい。
【0045】
本明細書で使用されるように、オリゴ糖は3〜20個の糖残基を含有する。遅延試薬として用いるには、11個以上の残基を含有する、より大きなオリゴ糖が好ましい。多糖類は21個以上の糖残基を含有する。ポリペプチド(タンパク質を含む)は、20個を超えるアミノ酸残基を含有することが好ましい。ポリペプチド(又はタンパク質)はグリコシル化及び/又はリン酸化されてよいことを理解されたい。一般的に、ポリマーは、21個以上のモノマー単位を含む化合物であると見なされている。
【0046】
本発明に係る例示的な加速試薬としては、BRIJ(登録商標)及びTRITON(登録商標)界面活性剤が挙げられる。当該技術分野において周知の通り、BRIJ(登録商標)界面活性剤はポリオキシエチレン脂肪族エーテルである。これらは、化学式R−[OCHCH−OHにより一般的に表わすことができる。ここで、Rはアルキル基であり、nは2以上である。実施形態によっては、RはC12−18アルキル基であってよく、nは2〜100であってよい。例えば、BRIJ98は、RがC1835であり、nが20である、ポリオキシエチレン(20)オレイルエーテルに相当する。
【0047】
当該技術分野において周知の通り、TRITON(登録商標)界面活性剤はオクチルフェノールエトキシレートであり、TERGITOL(登録商標)界面活性剤はノニルフェノールエトキシレート及び第2級アルコールエトキシレートである。フェノールエトキシレートは次の化学式により一般的に表わされる:
【0048】
【化1】
【0049】
ここで、Rはオクチル(オクチルフェノールエトキシレート)又はノニル(ノニルフェノールエトキシレート)である。xはエトキシレート反復単位を表し、2以上、例えば4〜70である。例えば、Triton X−100では、xは9〜10である。
【0050】
本明細書において使われている文脈において、検出抗体とは、例えば光学的又は電気化学的手段によって測定することができる実体により直接又は間接的にラベル付される抗体であり、捕捉抗体とは、検出ゾーン内で(例えば固体担体上に)固定化することができる抗体である。検出抗体及び捕捉抗体はどちらも検出対象分析物に結合することができる。
【0051】
概括的に言えば、未知量の分析物を含有する試験用流体サンプルが入口リザーバ内に配される。流体サンプルは、例えば、水性緩衝系類(例えばビストリス緩衝液)から尿、血清又は血漿あるいは濾過された全血に及ぶ。サンプル流体は、入口を経て、例えば毛管現象によって、チャネル内に吸い込まれる。入口リザーバ内に流体を入れると、デバイス内に小さな圧力差が誘起さる。デバイス内へのサンプル流体の導入によって生み出されるいかなる圧力差(又は静水力)も、本開示の文脈においては、外部から印加される力とは見なされない。それゆえ、デバイスが受動デバイスである場合には、好ましくは、追加的な外部からの圧力差は印加されない。サンプル流体は毛管現象によってチャネルを通過して出口に至り、ウィッキングによって、出口を通って出口リザーバ内へ流入する。チャネルに沿った1つ以上の点において、分析物検出を可能にするプロービングが行われる。これらの点は本明細書において検出ゾーンと呼ばれる。流体が1つ以上の試薬堆積物と出会うと、その流体は、試薬堆積物内に含有されたフロー制御試薬を取り込む。フロー制御試薬の選定に応じて、これは、流体のフローの遅延若しくは加速のいずれかを行うように流体のバルク流動特性の変化を生じさせ、及び/又は試薬堆積物は、フローを遅延させる物理的障壁を提供し、流体によって試薬が捕獲され、障壁を除去すると、フローは再開される。試薬堆積物の存在によって、チャネルの画定部分内における流体の滞留時間の制御が可能になる。これを用いて、例えば、抗体を用いたインキュベーションが必要とされる、及び/又は分析物検出が行われるチャネルの部分内における滞留時間を延長したり、或いは洗浄の達成が必要とされる場ではフローを加速したりすることができる。
【0052】
検出ゾーンは、マイクロ流体チャネルの離散的な部分によって画定されるチャンバである。検出ゾーンはチャネルと流体連通しており、好ましくは、検出ゾーンを画定するチャネルの部分は、チャネルの隣接部分の対応する断面寸法よりも大きな断面寸法を有する。プロービング、例えば光学プロービングは、検出ゾーン内のサンプル流体に対して実行される。一実施形態では、光源が光を検出ゾーン内に放出するために利用され、光検出器がサンプル流体内部の光学的活性物質による蛍光又はリン光等の、光放出を検出するために利用される。光学活性物質は、分析物に直接又は間接的に結合するか、或いは他の試薬への結合のために分析物と競合する光学的活性試薬であってよい。1つの検出ゾーンは、バックグランドの光の測定等の基準測定が行われる基準検出ゾーンであってもよい。
【0053】
本明細書に記載されているある実施形態では、フロー制御試薬が水溶性試薬である。本開示の文脈において、水溶性試薬とは、水中で可溶化することができる試薬である。
【0054】
溶解度は温度によって変化するが、本明細書において使われている文脈では、室温において、又は最大、水の沸点まで熱を加えた時に、ある量の試薬を液体水中に可溶化することができるならば、試薬は水溶性と見なされることを理解されたい。可溶化を助けるために加熱が用いられる場合には、室温への冷却時に試薬は溶液中に留まることができなければならない。
【0055】
本明細書に記載されている一部の実施形態では、フロー制御試薬が酵素分解性試薬である。このような実施形態では、分析物に加えて、流体は、フロー制御試薬を消化することができる酵素を含んでよい。例としては、ゼラチン、アルブミン又はグロブリン等のタンパク質フロー制御試薬(非抗体アッセイ用)と併用されるタンパク質分解酵素、或いは多糖類を消化することができる酵素、例えばデキストランと併用されるデキストラナーゼ、又はアミロース若しくはデンプンと併用されるアミラーゼ、が挙げられる。
【0056】
光学的(optical)及び光(light)への言及は全て単なる例としてなされているに過ぎず、本発明は電磁スペクトルの他の部分を包含する範囲を有することを当業者は理解している。例えば、本発明に係るデバイスは、赤外線源及び/又は赤外線検出器を用いた赤外線プロービングに同等に適している。加えて、光学的検出以外の検出技法を利用することができる。
【0057】
本発明に係るマイクロ流体デバイスを用いてアッセイを実行し、流体サンプル内の分析物の検出が可能となる。幾つかの検出技法は、分析物を定量的又は定性的に分析するための特異的結合アッセイ方法に適用できる。誤解を避けるために、「分析物」は、アッセイを受ける化学種を指し、「特異的結合パートナー」は、分析物が特異的に結合することになる化学種を指す。
【0058】
利用し得る分析物及び特異的結合パートナーの例を以下に示す。いずれの場合にも、一組の一方が分析物と見なされ、他方が特異的結合パートナーと見なされる:抗原と抗体、ホルモンとホルモン受容体、ポリヌクレオチド鎖と相補ポリヌクレオチド鎖、アビジンとビオチン、プロテインAと免疫グロブリン、酵素と酵素補助因子(基質)、レクチンと特定炭水化物。
【0059】
諸実施形態は、2部位イムノメトリックアッセイとして知られているイムノアッセイの形態に関連している。このようなアッセイでは、分析物が2つの抗体の間に「挟み込まれる」。抗体の一方(検出抗体)は、例えば光学的又は電気化学的手段によって直接又は間接的に測定することができる実体でラベル付され、他方の抗体(捕捉抗体)は固体担体体上に直接又は間接的に固定化される。
【0060】
本発明は体外診断以外の分析、例えば環境、獣医学的及び食品分析、に同等に適用可能であることを当業者は理解できる。
【0061】
本発明は、不均一系又は均一系イムノアッセイ、蛍光色素結合アッセイ並びにその他のアッセイ形式に同等に適用可能であることも理解されたい。
【0062】
要約すれば、本開示は、流体の流量を制御するための遅延ループ等の構造的機能を必要とせずに、単一のチャネル内部で流体の流量を制御することができ、それによりその内部における1つのアッセイ又は複数のアッセイの実行を可能にするデバイスに関する。
【0063】
図1に、本発明のマイクロ流体デバイスの一実施形態が示されている。デバイスは、入口リザーバ101、出口リザーバ102及びマイクロ流体チャネル103を含む。これらの構造的特徴は射出成形基板100内に形成される。基板を形成するために、射出成形に適合した任意の光学的に透明な熱可塑性材料、例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリメタクリル酸メチル、又はポリオレフィン(例えば、TOPAS等の環状ポリオレフィン)を用いることができることを理解されたい。
【0064】
チャネルの長さに沿って4つの検出ゾーンが配置される。各検出ゾーンは、マイクロ流体チャネル103と物理的に相互接続してサンプル流体を受容するための空間の容積を画定する空洞を含む。第1検出ゾーン104は、バックグランドの光の測定等の基準測定を実行するために設けられている。第2、第3及び第4検出ゾーン105、106及び107は各々、ビーズ又はロッド等の、捕捉抗体が結合した固体担体を含む。図1に示される実施形態では、第2、第3及び第4検出ゾーン105、106及び107は、捕捉抗体が結合したビーズ又はロッドを含む。捕捉抗体は検出対象分析物(心臓アッセイの場合には、夫々、心臓マーカ、トロポニンI、CK−MB及びミオグロビン)に対して特異的である。捕捉抗体の種別は、サンプル内部の異なるマーカの検出を可能にするために変更し得ることを理解されたい。第1検出ゾーン104と第2検出ゾーン105との間に、検出抗体108(標識抗体)の堆積物が配置される。
【0065】
図1に示されるデバイスによって例示されている通りの本発明のデバイスは、異なる分析物を検定するために、異なる検出抗体を利用することができる。検出すべき分析物用の夫々の捕捉抗体でコーティングされた、ビーズ又はロッド等の固体担体は、第2、第3及び第4検出ゾーン105、106、107内に夫々堆積される。3つの対象の(Target)分析物(マーカ)全てのための(標識された)検出抗体が、第2検出ゾーン105の前に(分離したゾーン群、又は3つの検出抗体全ての混合物を有する1つの合同ゾーンのいずれかの中に)堆積される。次に、アッセイシーケンスは以下のよう要約される。
1.第1及び第2検出ゾーン間における検出抗体(ターゲットのマーカ用)の堆積
2.結合捕捉抗体を有する事前調製された乾燥固体担体の、第2、第3及び第4検出ゾーン内への移動
3.感圧テープによるチップの密閉
4.出口リザーバ内へのウィックの装着
5.入口リザーバ内へのサンプルの装填。この後、毛管現象が、更なるユーザ介入を必要とせず自律的に実行されるアッセイを開始する。
【0066】
遅延試薬109の堆積物は、検出抗体108と第2検出ゾーン105との間で第2検出ゾーン105に近接して配置されたプラトー(plateau)上に存在する。遅延試薬109の堆積物は、チャネル103内において、第2検出ゾーン105にすぐ近接するのではなく、検出抗体108と第2検出ゾーン105との間に配置することもできる。遅延試薬109の堆積物は、例えば、メチルセルロースのプラグである。
【0067】
図1に示される通りのマイクロ流体デバイスは、PMMAを射出成形し、サンプル入口101、出口102及びマイクロ流体チャネル103を画定する基板100を形成することによって製造される。メチルセルロースプラグは、3μLの1.0%(w/v)メチルセルロース(2.0%(w/v)溶液の場合、4,000cP)をチャネル内に堆積させ、真空オーブン内で30分間乾燥させることによって製造される。チャネルの1つの表面上における膜としてしか試薬堆積物を生じさせない従来の乾燥とは対照的に、真空下における高速乾燥を用いるこの堆積プロトコルは、密閉されると、チャネルの全断面を覆う試薬プラグ109を生じさせる。チャネルへのプラグの接着は、重要であり、射出成形プロセスの一部としてテクスチャ加工表面を設けることによって、又は射出成形後に表面に刻みをつけることによって促進される。
【0068】
チャネル103が長さ49mm、幅2mm及び深さ0.2mmである、図1に示される通りの構造の例示的なデバイスにおいて、流量が評価された。4つの検出ゾーン(長さ3mm、幅2mm)内では、深さは1mmに増加する。第1検出ゾーン104と第2検出ゾーン105は11mm離れている。この区間は検出抗体及び(事前インキュベーションのための)第1遅延試薬の堆積に用いられる。第2乃至第4検出ゾーン105、106及び107は長さ2mmの通路区間によって隔てられている。第4検出ゾーン107の端部から出口102までの距離は5mmである。この区間は、ウィッキングが開始される前に特定のゾーン内における捕捉抗体への結合を確実にするための第2フロー遅延試薬ゾーンの堆積に用いられる。
【0069】
遅延試薬又は加速試薬を使用しないデバイスのための充填時間が決定された。射出成形PMMAデバイス及び界面活性剤系(ビストリス緩衝液中の0.1%(w/v)Triton−X 100、1.0%(w/v)BRIJ)を用いて、〜1分の典型的な入口−出口間充填時間が観察された。Triton X−100を除去すること、及びBRIJ98濃度を1から0.5〜0.1%(w/v)に変更することによって、充填時間は夫々3、4及び6分に延長された。しかしながら、トロポニンI、CK−MB及びミオグロビンのためのターゲットの心臓マーカアッセイを実行するには、検出ゾーン内における、検出抗体含有サンプルの事前インキュベーション、及び(固体担体に結合した)捕捉抗体への事前結合サンプル−検出抗体複合体の結合を可能にするために、〜15分の総滞留時間が必要である。アッセイが首尾よく機能することを可能にするには、入口から第2検出ゾーンまでの〜5分の滞留時間、及びそれに続く、検出ゾーン内における8分間のインキュベーションが理想的には必要である。検出ゾーン上におけるインキュベーション後は、第4検出ゾーンと出口との間のマイクロ流体チャネルの最終セグメントの迅速な充填には、非結合検出抗体を除去するための過剰なサンプルのウィッキングを開始することが必要である。
【0070】
流体のフローが第1検出ゾーン104に到達すると、基準測定が行われる。流体のフローの先頭部がメチルセルロースプラグ109に到達すると、流体サンプルはプラグをゆっくりと再水和し、メチルセルロースは流体中に溶解される。流体中へのメチルセルロースの溶解は流体のフローの先頭部における粘性を増大させ、その結果、流体のフローの下流の減速を生じさせる。
【0071】
その後、フローの先頭部は、トロポニンI、CK−MB及びミオグロビンのための夫々の捕捉抗体を保持する、第2、第3及び第4検出ゾーン105、106及び107を満たす。第4検出ゾーン107の充填後、第2遅延試薬堆積物110に到達し、再び遅延が引き起こされる。この第2の遅延が、検出ゾーン内におけるサンプルのインキュベーション時間を画定する。これは数分のオーダーのものである必要があり、心臓マーカパネルの場合には、好ましい時間は8分である。次に、最後のチャネルセグメントの充填が生じることを確実にするために、加速試薬111の堆積が提供される。最も単純化した形では、これはTriton−X 100等の界面活性剤としてもよい。この目的のために、ビストリス緩衝液中のBRIJ98含有又は非含有の1μLの0.2〜0.8%(w/v)Triton−X 100が堆積され、続いて、乾燥が行われる。フローの先頭部がこの加速ゾーン上を通過すると、フローの先頭部の界面活性剤濃度が増加し、従って、充填が促進され、ウィックまでの時間が短縮され、その結果、すすぎの開始が早められる。遅延試薬及び加速試薬はどちらも同時に堆積させ、乾燥させることができる。
【0072】
本発明のデバイスの第2実施形態では、遅延試薬を含む2つの試薬堆積物が直列に堆積された。図1に示されるデバイスアーキテクチャを参照して、第2実施形態は以下のように説明することができる。チャネル位置110及び111において1μLの2.0%(w/v)メチルセルロースを堆積させることによって、メチルセルロースの2つの試薬堆積物が製造される。堆積した溶液をチャネルの幅全体にわたって伸ばし、側壁との接触を確実にするために、特別な注意が払われる。不完全な被覆は、フローの先頭部による遅延ゾーンの完全又は部分的な迂回を招き得る。堆積した層を真空オーブン内で30分間乾燥させると、チャネルの底部のみに遅延試薬膜が形成される。膜の形成は、先に定義された実施形態に記載されている通りのプラグとは対照的に、プロトコルからの堆積、特に堆積溶液の容積、によって影響を受ける。ゾーン上を通過するフローの先頭部は、堆積した試薬のゆっくりとした溶解及び関連する粘性増強によって減速される。2つの遅延ゾーンを直列に有することによって、一部のアッセイに要求されるような長いアッセイインキュベーション時間を達成するために、制御され、再現可能な方法で遅延を増加させることができる。2つの試薬堆積物が直列に存在することによって、フローの完全停止が回避され、適切なチップ充填及びアッセイ完了が可能にされるという点で、メチルセルロース濃度がもっと高い単一の試薬堆積物を上回る利点があることが本実施形態において見出された。二重遅延ゾーンによるアプローチ、及びビストリス緩衝液中の0.1%BRIJ98によって、出口までの充填時間は〜7から11分以上に延長され、それに伴い、第4検出ゾーン内のインキュベーション時間は〜1から5分以上増加した。
【0073】
上述の実施形態におけるように、チャネルへの試薬堆積物の接着は重要であり、射出成形プロセスの一部としてテクスチャ加工チャネル表面を設けることによって、又は射出成形後にチャネル表面に刻みをつけることによって促進される。
【0074】
デバイス調製のためのプロトコル
本発明のマイクロ流体デバイスを調製するために用いることができる例示的な手順の概要は以下のとおりである。
(1)射出成形基板を提供する。
(2)フロー遅延試薬及び必要に応じて加速試薬、例えば、ビストリス緩衝液若しくは水中の、フロー遅延用の1〜3μLの1〜2%(w/v)メチルセルロース、及び加速試薬用の1μLの0.2〜0.8%(w/v)界面活性剤(Brij98又はTriton X−100)、をしかるべき位置に堆積させ、真空オーブン内において37°Cで1時間乾燥させる。
(3)しかるべき位置における検出抗体の堆積。
(4)光学的に透明なガラス又はプラスチックビーズ又はロッド上への捕捉抗体の共有結合固定化。
(5)検出ゾーン内へのビーズ又はロッドの移動。
(6)感圧接着剤を含むポリオレフィンテープを、基板の構造化されたマイクロチャネル側に装着し、続いて、圧力による活性化のためにそれをローララミネータに通す。
(7)組立デバイス使用準備完了(使用時までデシケータ又は乾燥袋内に保管)。
【0075】
本発明の実施形態は例としてのみ説明している。上述の実施形態には、なおも本発明の範囲内である変形がなされ得ることが理解される。
図1