【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様によれば、アッセイ実行用デバイスであって、
入口と、
出口と、
入口と出口との間に延在するチャネルと、
チャネルの長さに沿った位置に配置される少なくとも1つの検出ゾーンと、
フロー制御試薬を含むチャネル内における少なくとも1つの試薬堆積物とを備え、
この試薬堆積物は、チャネルを通って流れる流体の流量を増加又は減少させ且つ流体によるフロー制御試薬の取り込みを行うデバイスが提供される。
【0007】
一実施形態では、チャネルが、5mm未満の少なくとも1つの寸法を有する。
【0008】
本発明の実施形態によっては、チャネルが実質的に直線状である。
【0009】
流体は水性流体(aqueous fluid)である。流体は、未知量の検出対象分析物、及び追加的に、その中に溶解した1つ以上の追加の成分を含む流体サンプルであってよい。本発明の一実施形態では、試薬堆積物が、流体によってフロー制御試薬の取り込みを行うように配置され、そこでは、試薬の取り込みは、流体による試薬の再水和又は溶解によって、或いは流体内の酵素による試薬の消化によって、達成される。従って、フロー制御試薬は、親水性、水溶性及び/又は酵素分解性であってよい。
【0010】
本発明の一実施形態では、流体によって行われるフロー制御試薬の取り込みによって流体の流動特性のバルク変化が引き起こされる。このバルク変化は流体の粘性又は表面張力のバルク変化であってよい。流体の流動特性のこのバルク変化は、チャネル内の流体の流量を減少させる効果又は増加させる効果のいずれかの効果を有する。
【0011】
各試薬堆積物はチャネル内の離散的な所定の位置に存在してもよい。従って、試薬堆積物は、好ましくは、チャネルの長さに沿った離散的な位置に配置されるが、チャネルの全長に沿っては延在しない(チャネルの長さの少なくとも一部は試薬堆積物を有しない)。好ましくは、デバイスが2つ以上の試薬堆積物を含む場合には、各試薬堆積物は離散的な位置にあり、他の一つの試薬堆積物とは接触しない。アッセイ実行のための流体の導入によるデバイスの使用に先立って、各試薬堆積物は、好ましくは、フロー制御試薬及び、任意ではあるが追加の成分(溶媒を実質的に含まない)を含む乾燥試薬堆積物である。
【0012】
本発明の一実施形態では、フロー制御試薬が遅延試薬又は加速試薬であり、そこでは、遅延試薬は、チャネルの少なくとも一部分内の流体の流量を減少させる試薬であり、加速試薬は、チャネルの少なくとも一部分内の流体の流量を増加させる試薬である。実施形態によっては、デバイスが、チャネル内の分離した所定の位置に各々が独立して配置される2つ以上の試薬堆積物を含む。実施形態によっては、デバイスが、遅延試薬を含む2つ以上の試薬堆積物と、追加的に、加速試薬を含む少なくとも1つの試薬堆積物とを含む。他の実施形態では、デバイスが、好ましくは、遅延試薬を含む少なくとも1つの試薬堆積物と、加速試薬を含む試薬堆積物とを含む。試薬堆積物(単数又は複数)は、単一のチャネルを通る流体の流量の制御を可能にし、チャネル内の高速及び低速の流体のフローのゾーンを画定する。これにより、流体サンプルの十分な滞留時間を与えるべくチャネル内に遅延ループ等の構造的機能を組み込む必要がなく、単一のチャネル内部で1つ又は複数のアッセイを首尾よく実行することが可能になる。例えば、本発明に係る試薬堆積物を組み込んだ単一のチャネルを有するデバイスを用いて、サンプル内の複数の分析物の試験を実行することができる。構造的機能を利用して流体のフローを制御するデバイスと比べて、製造の複雑さ及びコストが低減され、性能が向上される。従って、本発明の一実施形態では、チャネルが実質的に直線状である。
【0013】
本発明の一実施形態では、遅延試薬が、流体の粘性及び/又は密度を増大させることによってチャネル内の流体の流量を減少させる試薬である。従って、遅延試薬は粘性増強剤、例えば親水性ポリマー又はシクロデキストリン、であってよい。好適な親水性ポリマーとしては、セルロース誘導体類(メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロース等)、ポリペプチド類、タンパク質類(ゼラチン、アルブミン及びグロブリン等)、ポリエチレンオキシドポリマー類(POLYOX(商標))、並びに多糖類(デキストラン、グリコーゲン、キサンタンガム、アルギン酸塩類(例えばアルギン酸ナトリウム)、ヒアルロン酸塩類、ペクチン、キトサン、アガロース及びアミロース等)が挙げられる。更に使用し得る遅延試薬としては、単糖類及び二糖類(グルコース、マンノース、ガラクトース、アルトース(altose)、スクロース、ラクトース、トレハロース及びマルトース等)、オリゴ糖類並びにポリペプチド類が挙げられる。これらの遅延試薬は、流体のフローの先頭部の密度及び/又は粘性を増大させることによって作用する。本発明の一実施形態では、遅延試薬がセルロース誘導体、例えばメチルセルロースである。
【0014】
本発明を用いることによって、流体の流路を塞ぐ物理的障壁を設けることなく、チャネルを通る流体の流量を減速させることが可能となる。流体のフローは、フローの完全な塞がりが存在する状態を引き起こすことなく遅延させることができる。(例えば、チャネルの全断面(幅及び深さ)を密閉することによって)流路を塞ぐ障壁の存在とは対照的に、本発明に係るフローの遅延は、試薬堆積物によって達成することができ、この場合、堆積物は流体の流路を塞がない。流体のフローの完全な塞がりを回避しつつ流体のフローの減速を達成することは、デバイスにおけるアッセイの性能にとって有利である。
【0015】
従って、本発明の実施形態によっては、、デバイスは、流体の流路を塞ぐことなく、流体の流動特性を変化させることによってチャネルを通って流れる流体の流量を減少させるように配置された遅延試薬を含む試薬堆積物を含む。
【0016】
実施形態によっては、少なくとも1つの試薬堆積物が、1つ以上のチャネル表面上の試薬の層(又は膜)として設けられる。その層は表面上のコーティングとして存在するが、流路を塞がない。層はチャネルの全断面にわたっては延在しない。好ましくは、、堆積物が配置されるチャネルの位置において、堆積物はチャネルの断面積の≦50%、≦25%、又は≦10%にわたって延在する。実施形態によっては、、堆積物が配置されるチャネルの位置において、堆積物がチャネル表面の全横寸法を覆う。好ましくは、堆積物は、堆積物の位置でチャネルの基部の全幅を覆う、チャネルの基部上の層として設けられる。全横寸法(例えば幅)を覆う堆積物は、試薬堆積物の通過による流体の迂回を回避して、流体のフローの一貫した制御を達成することをを助ける。
【0017】
代替的な実施形態では、遅延試薬が、流体のフローに対する物理的障壁を提供することによってチャネル内の流体の流量を減少させる試薬である。試薬が流体によって取り込まれると、物理的障壁が除去され、流体のフローが再開する。実施形態によっては、遅延試薬は、試薬の取り込み時に流体のバルク流動特性の変化を生じさせること、及び試薬取り込みに先立って流体のフローに対する物理的障壁を設けることの両方によって作用することを理解される。
【0018】
従って、本発明の更なる実施形態では、試薬堆積物はチャネルの断面の少なくとも一部分を越えて延在する3次元プラグの形態の遅延試薬を含む。プラグは試薬取り込みに先立って流体のフローに対する物理的障壁を提供する。好ましくは、3次元プラグはマイクロ流体チャネルの全断面にわたって延在し、それにより、そのチャネルの断面を密閉する。
【0019】
本発明の一実施形態では、加速試薬が、例えば流体の表面張力を低下させることによって、チャネル内の流体の流量を増加させる試薬である。加速試薬は界面活性剤であってよい。好適な界面活性剤としては、以下のものに限定されるわけではないが、ポリオキシエチレンソルビタンエステル類(例えば、TWEEN(商標)界面活性剤類)、ノニルフェノールエトキシレート又は第2級アルコールエトキシレート類(例えばTERGITOL(商標)界面活性剤類)、オクチルフェノールエトキシレート類(TRITON(商標)界面活性剤類)、ポリオキシエチレン脂肪族エーテル類(例えばBRIJ界面活性剤類)、あるいはこれらの混合物が挙げられる。ある実施形態では、加速試薬がTriton X−100、又はTriton X−100とBRIJ98の混合物である。加速試薬を含む試薬堆積物は、例えば上述の層又はチャネル表面に対応する、チャネル表面上の試薬薄膜として、或いはチャネルの断面の少なくとも一部分にわたって、又は全断面にわたって延在する3次元プラグの形態で設けられてもよい。
【0020】
多くのアッセイは洗浄段階を必要とする。流体のフローが遅すぎると、洗浄は効果がなくなる。従って、加速試薬の堆積物の組み込みによって流体の流量の増加を可能にし、洗浄段階を効率よく完了することができるようになる。
【0021】
本発明の他の実施形態では、少なくとも1つの試薬堆積物が乾燥緩衝液組成物(dried buffer composition)を更に含む。乾燥緩衝液組成物は、チャネル内の流体の通過によって再水和され、流体は緩衝液組成物の成分を取り込む。デバイスの使用中に再水和されると、緩衝液組成物はチャネル表面の動的コーティングを提供し、そこへの検出抗体又は分析物の非特異的結合を最小限に抑える。これは、高感度アッセイを行う際に用いられるデバイスにとって有利である。
【0022】
乾燥緩衝液組成物は、中に可溶化されたタンパク質(例えばゼラチン、又はウシ血清アルブミン、ラクトアルブミン若しくはオボアルブミン等のアルブミン)及び界面活性剤(Tween−20又はTriton X−100等)を含む、HEPES、リン酸塩、クエン酸塩、トリス、ビストリス、酢酸塩、MOPS又はCHAPS等の緩衝水溶液を塗布し、乾燥させることによって形成されてもよい。適宜、緩衝液組成物は防腐剤(例えばProclin(登録商標)又はアジ化ナトリウム)を追加的に含む。緩衝液組成物は典型的には5.0〜9.0のpH範囲内にある。例示的な組成物は、ビストリス緩衝液、ウシ血清アルブミン(bovine serum albumin、BSA)及びポリオキシエチレンソルビタンエステル界面活性剤(例えばTween−20)を含む。BSAは、チャネル表面上に堆積し、非特異的結合に対して表面をブロックすることによって、非特異的結合を抑制する役割を果たす。BSAの取り込みは、非特異的結合を抑制するための動的不活性化段階と見なすことができる。
【0023】
デバイスが少なくとも2つの試薬堆積物を含む実施形態では、出口に最も近い検出ゾーンと出口との間、2つの検出ゾーンの間、又は入口に最も近い検出ゾーンと入口との間に、2つ以上の試薬堆積物(好ましくは各々遅延試薬を含む)が配置される。実施形態によっては、出口に最も近い検出ゾーンと出口との間に、遅延試薬を含む2つ以上の試薬堆積物が存在する。実施形態によっては、好ましくは、出口に最も近い検出ゾーンと出口との間に、加速試薬を含む試薬堆積物も存在する。
【0024】
デバイスは、2つ以上の検出ゾーンと、チャネル内において検出ゾーン同士間に配置される遅延試薬を含む試薬堆積物を含んでよい。これは、例えば、より多くのインキュベーション時間が必要とされる検出ゾーンの内の1つに、より多くの流体滞留時間を提供するために有用である。
【0025】
本発明のデバイスでは、チャネルの長さ方向に沿って少なくとも1つの検出ゾーンが位置付けられる。2つ以上の検出ゾーンの存在は、1つのサンプルに対する複数の分析物の連続試験の実行にデバイスを用いることを可能にする。一実施形態では、デバイスが第1検出ゾーン及び1つ以上の追加の検出ゾーンを画定する。第1検出ゾーンは基準測定実行用であり、1つ以上の追加の検出ゾーンは1種以上の分析物のためのプロービング用である。代替的に、全ての検出ゾーンが1種以上の分析物のためのプロービング用である。デバイスがイムノアッセイ実行用であり、第1検出ゾーンが基準測定実行用である場合には、第1検出ゾーンと1つ以上の追加の検出ゾーンとの間に検出抗体堆積物が配置され、1つ以上の追加の検出ゾーン内に捕捉抗体が配置される。本実施形態の一例では、検出抗体の堆積物と1つ以上の追加の検出ゾーンとの間に、遅延試薬を含む試薬堆積物が位置付けられる。デバイスがイムノアッセイ実行用であり、第1検出ゾーンが分析物のためのプロービング用である場合には、デバイスは、チャネル内において入口と第1検出ゾーンとの間に位置付けられる検出抗体の堆積物を含む。本実施形態の一実施例では、チャネル内部において検出抗体堆積物と第1検出ゾーンとの間に、遅延試薬を含む試薬堆積物が位置付けられる。他の実施例では、出口に最も近い検出ゾーンと出口との間に、遅延試薬を含む試薬堆積物が配置される。これらの実施形態では、1つ以上の追加の検出ゾーンが存在する場合には、追加の検出ゾーンの間に追加の遅延試薬堆積物が位置付けられる。
【0026】
本明細書に記載されている実施形態のいずれにおいても、デバイスは、追加的に、出口に最も近い検出ゾーンと出口との間に配置される加速試薬の堆積物を含んでもよい。
【0027】
他の実施形態では、デバイスが、入口、出口、チャネル及び検出チャンバが形成されるモノリシック基板と、シールとを含む。マイクロ流体チャネルはチャネル壁によって画定される。試薬堆積物は、チャネルの長さ方向に沿って離散的な領域における1つ以上のチャネル壁上に堆積されてもよい。基板は、熱可塑性樹脂、例えばPMMA、ポリカーボネート、ポリオレフィン又はポリスチレンから形成される。基板は射出成形されてもよい。ある実施形態では、色素ドープ材料から基板が形成される。これによって、基板自体が光学フィルタの役割を果たすことが可能になる。シールは、接着剤よって密閉されたテープ又はレーザ溶接から形成されてよく、例えば、基板と同じ材料を含んでいてもよい。基板及びシールの両方のために様々な材料選定をすることができることを理解される。
【0028】
本発明の一実施形態では、デバイスがマイクロ流体デバイスである。デバイスは好ましくは受動デバイスである。
【0029】
本発明の更なる実施形態では、デバイスが光源と光検出器とを追加的に含む。実施形態では、光源が有機又は無機発光ダイオードであり、光検出器が有機又は無機光検出器である。
【0030】
第2態様では、本発明は、デバイスの製作プロセスであって、このプロセスは、
(a)入口、出口、この入口と出口との間に延在するチャネル、及びこのチャネルの長さ方向に沿った位置に配置される少なくとも1つの検出ゾーンを画定する射出成形された基板を提供する工程と、
(b)チャネル内の位置にフロー制御試薬の水溶液を塗布する工程と、
(c)溶媒蒸発を生じさせ、試薬堆積物を作り出すために乾燥させる工程と、
を含む、プロセスを提供する。
【0031】
フロー制御試薬溶液は単に水溶液であってよもいし、又は緩衝液成分(例えばビストリス緩衝液)等の追加の成分が存在してもよい。
【0032】
乾燥工程(c)は、例えば、必要に応じて真空下における加熱によって又は凍結乾燥によって、実行される。
【0033】
本発明の第2態様のプロセスでは、真空オーブン内での乾燥によって迅速な溶媒蒸発を確実にする。乾燥プロセスによって、堆積手順、特に、塗布される試薬溶液の容積に応じて、三次元試薬プラグ、又は堆積試薬の膜を得ることができる。
【0034】
本発明のプロセスの一実施形態では、以下の更なる工程からなるプロセス、
(d)、少なくとも1つの検出ゾーンと入口との間のチャネル内の位置に検出抗体を堆積させる工程と、
(e)その上に捕捉抗体が固定化された固体担体を提供する工程と、
(f)固体担体を少なくとも1つの検出ゾーン内に移動する工程と、
を含む。
【0035】
固体担体は、例えば、ビーズ、バッフル、細管、スカフォールド又はロッドであってよい。
【0036】
本発明のプロセスの一実施形態では、プロセスが、基板にシールを提供する工程を更に含む。密閉は、例えば、レーザ溶接又は基板へのシールのラミネーションによって達成される。
【0037】
本発明の第1態様の好ましい機構は第2態様にも準用される。従って、本発明の第1態様について説明した通りのデバイスの構造的特徴、並びにフロー制御試薬の種別及び組成は、本発明の第2態様にも適用される。
【0038】
以下に、添付の図面を参照して、本発明の特定の実施形態を例としてのみ説明する。