特許第6114754号(P6114754)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本パワーグラファイト株式会社の特許一覧

特許6114754負極炭素材料製造装置及び該装置を用いる負極炭素材料の製造方法
<>
  • 特許6114754-負極炭素材料製造装置及び該装置を用いる負極炭素材料の製造方法 図000002
  • 特許6114754-負極炭素材料製造装置及び該装置を用いる負極炭素材料の製造方法 図000003
  • 特許6114754-負極炭素材料製造装置及び該装置を用いる負極炭素材料の製造方法 図000004
  • 特許6114754-負極炭素材料製造装置及び該装置を用いる負極炭素材料の製造方法 図000005
  • 特許6114754-負極炭素材料製造装置及び該装置を用いる負極炭素材料の製造方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6114754
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】負極炭素材料製造装置及び該装置を用いる負極炭素材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20170403BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20170403BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
   H01M4/587
   C01B31/02 101B
   H01M4/36 C
   H01M4/36 D
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-533032(P2014-533032)
(86)(22)【出願日】2013年8月27日
(86)【国際出願番号】JP2013072924
(87)【国際公開番号】WO2014034689
(87)【国際公開日】20140306
【審査請求日】2016年4月12日
(31)【優先権主張番号】特願2012-188213(P2012-188213)
(32)【優先日】2012年8月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】510089258
【氏名又は名称】日本パワーグラファイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100163120
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 嘉弘
(72)【発明者】
【氏名】梅野 達夫
(72)【発明者】
【氏名】綱分 忠則
(72)【発明者】
【氏名】岡部 真也
(72)【発明者】
【氏名】尾家 士郎
(72)【発明者】
【氏名】住友 十五
(72)【発明者】
【氏名】中野 茂吉
【審査官】 藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/094114(WO,A1)
【文献】 特開2001−202961(JP,A)
【文献】 特開2000−106182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/587
C01B 32/05
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理炉内で炭素粒子を流動させながら前記炭素粒子を熱処理するバッチ式のリチウムイオン二次電池用負極炭素材料製造装置であって、
炭素粒子を内部に供給する炭素粒子供給口及び内部から負極炭素材料を取り出す負極炭素材料取出口を備える熱処理炉と、
前記熱処理炉の負極炭素材料取出口と開閉弁を介して気密に接続されるとともに、冷却手段を備えてなる冷却槽と、
を有するリチウムイオン二次電池用負極炭素材料製造装置。
【請求項2】
前記熱処理炉が焼成炉又は化学蒸着炉である請求項1に記載の負極炭素材料製造装置。
【請求項3】
前記炭素粒子供給口に、炭素粒子を予め加熱する手段を備える予熱槽が開閉弁を介して接続されてなる請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極炭素材料製造装置。
【請求項4】
熱処理炉内に炭素粒子を供給する炭素粒子供給工程と、
前記熱処理炉内で前記炭素粒子を流動させながら、650℃以上で熱処理して負極炭素材料を得る熱処理工程と、
熱処理工程で得られた負極炭素材料を前記熱処理炉内から開閉弁を介して冷却槽に移送する負極炭素材料移送工程と、
を順次繰り返す負極炭素材料のバッチ式の製造方法であって、
負極炭素材料移送工程の後に行われる炭素粒子供給工程が、温度が650℃以上の前記熱処理炉内に炭素粒子を供給することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極炭素材料の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理工程が、熱処理炉内で炭素粒子を流動させながら、前記炭素粒子を800〜1200℃で焼成する焼成工程である請求項4に記載のリチウムイオン二次電池用負極炭素材料の製造方法。
【請求項6】
前記熱処理工程が、熱処理炉内で炭素粒子を流動させながら、前記炭素粒子の表面に炭素蒸着原料を接触させるとともに、前記炭素蒸着原料を650〜1200℃で熱分解して、前記炭素粒子の表面に熱分解炭素を蒸着させる化学蒸着処理工程である請求項4に記載のリチウムイオン二次電池用負極炭素材料の製造方法。
【請求項7】
炭素粒子供給工程で熱処理炉内に供給される炭素粒子が、予め100〜1200℃に加熱されている炭素粒子である請求項4に記載のリチウムイオン二次電池用負極炭素材料の製造方法。
【請求項8】
前記炭素粒子が、
フェノール樹脂、ナフタリンスルホン酸樹脂、ポリ塩化ビニリデン、カルボキシルメチルセルロース、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ギルソナイトコークス;
石油系メソフェーズピッチ、石炭系メソフェーズピッチ、前石油系メソフェーズピッチを300〜500℃で焼成した石油コークス、及び前記石炭系メソフェーズピッチを300〜500℃で焼成した石炭ピッチコークス
天然黒鉛、人造黒鉛;
の何れかである請求項4に記載のリチウムイオン二次電池用負極炭素材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極炭素材料の製造装置及び該装置を用いる負極炭素材料の製造方法に関する。詳しくは、粉砕、分級処理されたカーボン系前駆体を焼成して成る負極炭素材料を製造する装置、及び該装置を用いる負極炭素材料の製造方法に関する。また、炭素粒子と、該炭素粒子の表面に化学蒸着法(CVD法)によって析出する熱分解炭素と、から成る負極炭素材料を製造する装置、及び該装置を用いる負極炭素材料の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、高容量で高電圧の二次電池としてカメラやパソコン、電気自動車等に広く用いられている。リチウムイオン二次電池の負極を構成する負極炭素材料は、リチウムイオン二次電池の性能を左右する。リチウムイオン二次電池の負極炭素材料としては、カーボン系の負極炭素材料や黒鉛系の負極炭素材料が知られている。
【0003】
カーボン系の負極炭素材料は、ハードカーボン系とソフトカーボン系とに分類される。ハードカーボン系負極材は、フェノール樹脂、ナフタリンスルホン酸樹脂、ポリ塩化ビニリデン、カルボキシルメチルセルロース、ポリアクリロニトリル樹脂等を粉砕、分級、焼成して得られる。ソフトカーボン系負極材は、ポリ塩化ビニル、ギルソナイトコークス、石油系又は石炭系メソフェーズピッチ及び同ピッチを300〜500℃で焼成(か焼処理)した石油コークス、石炭ピッチコークス等を粉砕、分級、焼成して得られる。
【0004】
黒鉛系の負極炭素材料としては、黒鉛粒子の表面にCVD法によって熱分解炭素を蒸着させて表面積を低減したリチウムイオン二次電池用負極炭素材料が知られている(特許文献1)。また、上記のようにして得られるカーボン系の負極炭素材料の表面にCVD法によって熱分解炭素を蒸着させて表面積を低減したカーボン系の負極炭素材料も知られている。
【0005】
図5は、従来の化学蒸着炉を使用した負極炭素材料製造装置の一例を示す構成図である。図5中、900は従来の負極炭素材料製造装置であり、筒状の化学蒸着炉91には、黒鉛粒子供給口97と負極炭素材料取出口99とが形成されている。化学蒸着炉91内には、モーター95によって駆動される撹拌羽根93が設けられており、これによって化学蒸着炉91内が撹拌される。化学蒸着炉91には、炭素蒸着原料を不活性ガスとともに化学蒸着炉91内に供給する炭素蒸着原料供給口a、不活性ガスを化学蒸着炉91内に供給する不活性ガス供給口b、化学蒸着炉91内のガスを炉外に排出するガス排出口cが設けられている。化学蒸着炉91には、化学蒸着炉91内を加熱するヒーターが設けられている(不図示)。負極炭素材料取出口99は、開閉弁101を介して容器103と接続されている。
【0006】
この負極炭素材料製造装置を用いて、次のように負極炭素材料が製造されている。先ず、化学蒸着炉91内に黒鉛粒子が供給される。化学蒸着炉91内に供給された黒鉛粒子は、不活性ガス供給口bから供給される不活性ガスの上昇気流及び撹拌羽根93による撹拌によって、化学蒸着炉91内で流動状態となりながら、不図示のヒーターによって加熱される。化学蒸着炉91内の温度が650〜1200℃になったら、炭素蒸着原料供給口aから化学蒸着炉91内に炭素蒸着原料が供給される。化学蒸着炉91内に供給された炭素蒸着原料は、黒鉛粒子の表面と接触するとともに熱分解して黒鉛粒子の表面に蒸着する。これにより、熱分解炭素が表面に蒸着された黒鉛粒子、即ち負極炭素材料が得られる。

化学蒸着炉91の内部は、黒鉛粒子や負極炭素材料の急激な酸化を防ぐため、不活性ガス供給口bから供給される不活性ガスによって非酸化性雰囲気となっている。上記化学蒸着処理によって化学蒸着炉91内に生成する負極炭素材料は、酸素含有雰囲気下でも酸化されない温度になるまで化学蒸着炉91内の非酸化性雰囲気下で冷却される。そのため、化学蒸着炉91から負極炭素材料を取り出した後における化学蒸着炉91内の温度は500℃以下に低下している。
【0007】
この従来の負極炭素材料製造装置900を用いて負極炭素材料を複数バッチ製造する場合、化学蒸着炉91内に黒鉛粒子を供給する際における化学蒸着炉91内の温度は低くなっている。そのため、化学蒸着処理を開始できる温度まで炉内の温度を回復(昇温)させなければならない。
なお、カーボン系前駆体粒子を焼成する場合は、化学蒸着炉91に付設した炭素蒸着原料供給口aからの炭素蒸着原料の供給は不要であり、不活性ガス供給口bから供給される不活性ガスの供給のみで焼成処理される。前記焼成処理されたカーボンは、化学蒸着炉を用いて黒鉛粒子同様に熱分解炭素で化学蒸着して負極炭素材料を得ることができる。化学蒸着炉を使用すると焼成処理と化学蒸着処理を同時にすることも可能である。
【0008】
上記冷却及び昇温の工程を有するため、負極炭素材料の製造工程において、化学蒸着炉及び焼成炉の使用時間は長い。そのため、生産効率が悪い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3597099号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、負極炭素材料を製造する際に、焼成炉や化学蒸着炉等の熱処理炉が、熱処理(焼成又は化学蒸着処理)以外の工程(冷却及び昇温)に用いられる時間を短縮して、負極炭素材料を効率的に製造する負極炭素材料製造装置、及び該装置を用いる負極炭素材料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討を行った結果、冷却手段を備えてなる冷却槽を熱処理炉と気密に接続することにより、熱処理炉を高温で保持し、負極炭素材料を効率的に製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
上記課題を解決する本発明は、以下に記載するものである。
【0013】
〔1〕 熱処理炉内で炭素粒子(黒鉛粒子又はカーボン系前駆体粒子)を流動させながら前記炭素粒子を熱処理する(焼成する又は化学蒸着処理する)リチウムイオン二次電池用負極炭素材料製造装置であって、
炭素粒子を内部に供給する炭素粒子供給口及び内部から負極炭素材料を取り出す負極炭素材料取出口を備える熱処理炉(焼成炉又は化学蒸着炉)と、
前記熱処理炉の負極炭素材料取出口と気密に接続されるとともに、冷却手段を備えてなる冷却槽と、
を有するリチウムイオン二次電池用負極炭素材料製造装置。
【0014】
〔2〕 前記熱処理炉が焼成炉又は化学蒸着炉である〔1〕に記載の負極炭素材料製造装置。
【0015】
〔3〕 前記炭素粒子供給口に、炭素粒子を予め加熱する手段を備える予熱槽が接続されてなる〔1〕に記載のリチウムイオン二次電池用負極炭素材料製造装置。
【0016】
〔4〕 熱処理炉内に炭素粒子(黒鉛粒子又はカーボン系前駆体粒子)を供給する炭素粒子供給工程と、
前記熱処理炉内で前記炭素粒子を流動させながら、650℃以上で熱処理(焼成又は化学蒸着処理)して負極炭素材料を得る熱処理工程と、
熱処理工程で得られた負極炭素材料を前記熱処理炉(焼成炉又は化学蒸着炉)内から冷却槽に移送する負極炭素材料移送工程と、
を順次繰り返す負極炭素材料の製造方法であって、
負極炭素材料移送工程の後に行われる炭素粒子供給工程が、温度が650℃以上の前記熱処理炉内に炭素粒子を供給することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極炭素材料の製造方法。
【0017】
〔5〕 前記熱処理工程が、熱処理炉内で炭素粒子(カーボン系前駆体粒子)を流動させながら、前記炭素粒子を800〜1200℃に加熱する焼成工程である〔4〕に記載のリチウムイオン二次電池用負極炭素材料の製造方法。
【0018】
〔6〕 前記熱処理工程が、熱処理炉内で炭素粒子(黒鉛粒子又はカーボン系前駆体粒子)を流動させながら、前記炭素粒子の表面に炭素蒸着原料を接触させるとともに、前記炭素蒸着原料を650〜1200℃で熱分解して、前記炭素粒子の表面に熱分解炭素を蒸着させる化学蒸着処理工程である〔4〕に記載のリチウムイオン二次電池用負極炭素材料の製造方法。
【0019】
〔7〕 炭素粒子供給工程で熱処理炉内に供給される炭素粒子が、予め100〜1200℃に加熱されている炭素粒子である〔4〕に記載のリチウムイオン二次電池用負極炭素材料の製造方法。
【0020】
〔8〕前記炭素粒子が、
フェノール樹脂、ナフタリンスルホン酸樹脂、ポリ塩化ビニリデン、カルボキシルメチルセルロース、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ギルソナイトコークス;
石油系メソフェーズピッチ、石炭系メソフェーズピッチ、及び前記メソフェーズピッチを300〜500℃で焼成した石油コークス、石炭ピッチコークス;
天然黒鉛、人造黒鉛;
の何れかである〔4〕に記載のリチウムイオン二次電池用負極炭素材料の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の負極炭素材料製造装置は、熱処理後、熱処理炉内で生成された負極炭素材料を直ちに冷却槽に移送することができる。そのため、熱処理炉内を高温に保持することができる。その結果、負極炭素材料を連続的に製造する場合、従来のように熱処理炉内を冷却するのに要する時間並びに2バッチ目以降の製造において熱処理炉を昇温するのに要する時間及びエネルギーを削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の負極炭素材料製造装置の一例を示す構成図である。
図2図2は、本発明の負極炭素材料製造装置の他の構成例を示す構成図である。
図3図3は、本発明の負極炭素材料製造装置のさらに他の構成例を示す構成図である。
図4図4は、本発明及び従来の製造方法によって負極炭素材料を製造する際の熱処理炉内部の温度変化の一例を示すグラフである。
図5図5は、従来の負極炭素材料製造装置の一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(1)負極炭素材料製造装置
本発明の負極炭素材料製造装置は、熱処理炉と冷却槽とから構成される。熱処理炉は、炭素粒子を熱処理炉内に供給する炭素粒子供給口と、熱処理炉内から負極炭素材料を取り出す負極炭素材料取出口と、を備えて構成される。熱処理炉の負極炭素材料取出口は、冷却槽と気密に接続されている。冷却槽の内部の容量は、熱処理炉内で1バッチ当りに処理される炭素粒子の容量と同一以上であり、1〜5倍であることが好ましい。
【0024】
図1は、本発明の負極炭素材料製造装置の一例を示す構成図である。図1中、100は本発明の負極炭素材料製造装置であり、筒状の熱処理炉11の上部には、炭素粒子供給口17が、下部には負極炭素材料取出口19が形成されている。熱処理炉11内には、熱処理炉11の上部に取付けられたモーター15によって駆動される撹拌羽根13が設けられており、これによって熱処理炉11内が撹拌される。熱処理炉11の底部には、不活性ガスを熱処理炉11内に供給する不活性ガス供給口bが形成されている。熱処理炉11の上部には、熱処理炉11内のガスを炉外に排出するガス排出口cが形成されている。熱処理炉11には、熱処理炉11内を所定の温度に加熱する手段であるヒーターが、熱処理炉11の外周に沿って設けられている(不図示)。
【0025】
負極炭素材料取出口19は、開閉弁21を介して冷却槽23と気密に接続されている。冷却槽23の外周部及び底壁部には、冷媒によって冷却槽23の内部を冷却する冷却ジャケットが冷却手段として備えられている。冷却槽23内には、モーター27によって駆動される撹拌羽根25が設けられており、これによって冷却槽23内が撹拌される。冷却槽23の底部には負極炭素材料の取出口29が形成されている。28は取出口29を開閉する取出口バルブである。dは、冷却槽23内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給口である。
【0026】
図2は、本発明の負極炭素材料製造装置の他の構成例を示す構成図である。この負極炭素材料製造装置は、図1の熱処理炉が化学蒸着炉で構成されている。図1と同様の構成には、図1と同じ符号を付してその説明を省略する。図2中、200は本発明の負極炭素材料製造装置であり、筒状の化学蒸着炉211の底部には、炭素蒸着原料を化学蒸着炉211内に供給する炭素蒸着原料供給口aと、不活性ガスを化学蒸着炉211内に供給する不活性ガス供給口bとが形成されている。なお、炭素蒸着原料供給口aと不活性ガス供給口bとは同一であってもよい。
【0027】
図3は、本発明の負極炭素材料製造装置のさらに他の構成例を示す構成図である。図1と同様の構成には、図1と同じ符号を付してその説明を省略する。図3中、300は、本発明の負極炭素材料製造装置であり、31は予熱槽である。予熱槽31の外壁には、その内部を加温するヒーターが設けられている(不図示)。eは予熱槽31内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給口である。予熱槽31の底部には、供給管32の一端が気密に接続され、他端は開閉弁33を介して、炭素粒子供給口17と気密に接続されている。
【0028】
本発明の負極炭素材料製造装置の熱処理炉は、従来公知の焼成炉や化学蒸着炉を用いることができる。冷却槽は、水等の冷媒によって槽内を冷却する冷却ジャケットを備え、槽内を非酸化性雰囲気下で冷却することのできる容器であればどのようなものでも用いることができる。冷却槽は撹拌装置を備えることが好ましい。冷却槽としては、例えば円筒状容器内でブレードが高速回転するヘンシェルミキサーを用いて構成することができる。予熱槽は、非酸化性雰囲気下で加熱撹拌することのできる容器であればどのようなものでも用いることができる。非酸化性雰囲気を形成する不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスが例示される。
【0029】
(2)負極炭素材料の製造方法
本発明の負極炭素材料製造装置100を用いて、負極炭素材料を2バッチ以上連続して製造する方法を以下の2通りについて説明する。
【0030】
(2−1)カーボン系の負極炭素材料の製造
本発明の負極炭素材料製造装置100を用いて、カーボン系前駆体粒子を焼成するカーボン系の負極炭素材料を製造する方法について以下に説明する。
【0031】
この製造方法は、熱処理炉(焼成炉)内にカーボン系前駆体粒子を供給する供給工程と、
前記熱処理炉内で前記カーボン系前駆体粒子を流動させながら、800〜1200℃に加熱することにより、前記カーボン系前駆体粒子を焼成して負極炭素材料を得る熱処理工程と、
熱処理工程で得られた負極炭素材料を前記熱処理炉内から冷却槽に移送する負極炭素材料移送工程と、
を順次繰り返す負極炭素材料の製造方法であって、
負極炭素材料移送工程の後に行われるカーボン系前駆体粒子供給工程が、温度が650℃以上の前記熱処理炉内にカーボン系前駆体粒子を供給することを特徴とする。
【0032】
先ず、熱処理炉11内にカーボン系前駆体粒子が供給される。2バッチ目以降の製造では、後述のカーボン系前駆体粒子供給工程により熱処理炉11内にカーボン系前駆体粒子が供給される。
【0033】
カーボン系前駆体粒子としては、ハードカーボン系前駆体粒子とソフトカーボン系前駆体粒子とが例示される。ハードカーボン系前駆体粒子としては、フェノール樹脂、ナフタリンスルホン酸樹脂、ポリ塩化ビニリデン、カルボキシルメチルセルロース、ポリアクリロニトリル樹脂等を粉砕、分級した粒子が例示される。ソフトカーボン系前駆体粒子としては、ポリ塩化ビニル、ギルソナイトコークス、石油系又は石炭系メソフェーズピッチ及び同ピッチを300〜500℃で焼成(か焼処理)した石油コークス、石炭ピッチコークス等を粉砕、分級した粒子が例示される。カーボン系前駆体粒子の粒子径は、1〜100μmが好ましく、5〜20μmがより好ましく、5〜10μmが特に好ましい。
【0034】
〔昇温工程及び熱処理工程〕
熱処理炉11内に供給されたカーボン系前駆体粒子は、攪拌羽根13による撹拌、及び不活性ガス供給口bから供給されてガス排出口cから排出される不活性ガスの上昇気流によって、熱処理炉11内を流動状態で滞留する。この状態を保ちながら、ヒーター(不図示)によって800〜1200℃に加熱され、焼成される。これにより、カーボン系の負極炭素材料(以下、単に「負極炭素材料」ともいう)が得られる。この際、熱処理炉11内は不活性ガス供給口bから供給される不活性ガスによって非酸化性雰囲気となっている。
【0035】
熱処理温度は、800〜1200℃であり、950〜1200℃が好ましい。熱処理時間は、特に限定されないが、通常は昇温後1〜5時間である。熱処理炉としては、従来公知の加熱炉を用いることもできるし、後述の化学蒸着炉を用いることもできる。圧力は、特に限定されないが、通常は大気圧である。熱処理の間、開閉弁21は閉じられている。
【0036】
〔負極炭素材料移送工程〕
熱処理工程で得られた負極炭素材料は、温度800〜1200℃の前記熱処理炉11から冷却槽23に移送される。即ち、開閉弁21が開かれて、負極炭素材料は開閉弁21を介して冷却槽23に移送させられる。移送は自然落下や公知の粉体移送機を用いて行われる。移送完了後、開閉弁21は閉じられる。
【0037】
〔冷却工程〕
冷却槽23内に移送された負極炭素材料は、冷却槽23内で100℃以下まで冷却される。即ち、冷却槽23に移送された負極炭素材料は、撹拌羽根25によって撹拌されながら、冷却槽23の冷却ジャケット内を流れる冷媒と熱交換されて冷却される。冷却槽23内の負極炭素材料の温度が100℃以下になったら、取出口29から冷却槽23外に取り出される。冷却槽23内の負極炭素材料は、酸化を防止するため、約100℃になるまでは非酸化性雰囲気下で冷却されることが好ましい。
【0038】
〔カーボン系前駆体粒子供給工程〕
上記負極炭素材料移送工程において、熱処理炉11内の負極炭素材料がすべて冷却槽23に移送されたら、開閉弁21が閉じられ、熱処理炉11内に次バッチの製造に係る新たなカーボン系前駆体粒子が供給される。本製造方法においては、負極炭素材料移送工程とカーボン系前駆体粒子供給工程とがほぼ連続的に行われるので、カーボン系前駆体粒子を供給する際における熱処理炉11内の温度は大きく低下することがなく、650℃以上、好ましくは800〜1200℃に保たれている。このように製造されるとき、熱処理炉11内の温度が高く保たれているため、昇温工程で800〜1200℃に加熱するのに要する時間及びエネルギーが削減される。
【0039】
本製造方法において、熱処理炉11では、熱処理工程、負極炭素材料移送工程、カーボン系前駆体粒子供給工程が順次連続的に行われる。熱処理炉11内に供給されるカーボン系前駆体粒子が予め加熱されている場合には、昇温工程をさらに短縮ないし省略することができる。カーボン系前駆体粒子を予め加熱する場合は、負極炭素材料製造装置300の予熱槽31が用いられる。即ち、予熱槽31には不図示のヒーターが設けられており、このヒーターを用いて、熱処理炉11内に供給するカーボン系前駆体粒子を非酸化性雰囲気下で予め加熱しておく。これにより、熱処理炉11内における昇温工程を短縮ないし省略することができる。カーボン系前駆体粒子を予め加熱する場合、その温度は100〜1000℃であり、300〜950℃あることが好ましく、500〜800℃あることが特に好ましい。
【0040】
負極炭素材料移送工程の後に行われるカーボン系前駆体粒子供給工程は、熱処理炉の温度が低下しないうちに速やかに行われることが好ましく、650℃以上、特に800〜1000℃であるうちに行われることが好ましい。
【0041】
本発明の製造方法では、熱処理後、直ちに熱処理炉内の負極炭素材料が冷却槽に移送され、冷却槽において冷却が行われる。そのため、熱処理炉内の温度は高く保持されており、負極炭素材料を連続製造する場合、2バッチ目以降の昇温工程に要する時間が短い。これにより、従来と比較して1バッチ当りの製造に要する時間を短縮することができる。
【0042】
本発明の負極炭素材料の製造方法においては、撹拌羽根及び熱処理炉内に供給される不活性ガスの気流によって、カーボン系前駆体粒子が流動されている状態で熱処理が行われる。そのため、固定床であるトンネルキルン、シャトルキルン、プッシャーキルン、トップハットキルン、ローラーハースキルンを用いて行う従来の熱処理と比較して熱処理の効率が高い。このように流動床においてカーボン系前駆体粒子の熱処理を行う場合、その熱処理温度は800〜1200℃である。トンネルキルン、シャトルキルン、プッシャーキルン、トップハットキルン、ローラーハースキルンを用いて行う熱処理と比較して焼きムラが少なく、均一なカーボンが得られる。本発明の負極炭素材料の製造方法は、カーボン系前駆体粒子への熱の伝達が良く、品質の高いカーボンを連続的に生産可能であり、生産コストは削減される。
【0043】
(2−2)炭素蒸着原料を蒸着させた負極炭素材料の製造
本発明の負極炭素材料製造装置200を用いて、炭素粒子に炭素蒸着原料を蒸着させた負極炭素材料を製造する方法について以下に説明する。
【0044】
この製造方法は、化学蒸着炉内に炭素粒子を供給する炭素粒子供給工程と、
前記化学蒸着炉内で前記炭素粒子を流動させながら、前記炭素粒子の表面に炭素蒸着原料を接触させるとともに、前記炭素蒸着原料を650〜1200℃で熱分解して、前記炭素粒子の表面に熱分解炭素を蒸着させる化学蒸着処理工程と、
化学蒸着処理工程で得られた負極炭素材料を温度650〜1200℃の前記化学蒸着炉から冷却槽に移送する負極炭素材料移送工程と、
を順次繰り返す負極炭素材料の製造方法であって、
負極炭素材料移送工程の後に行われる炭素粒子供給工程が、温度が650〜1200℃の前記化学蒸着炉内に炭素粒子を供給することを特徴とする。
【0045】
先ず、化学蒸着炉211内に炭素粒子が供給される。2バッチ目以降の製造では、後述の炭素粒子供給工程により化学蒸着炉211内に炭素粒子が供給される。
【0046】
炭素粒子としては、前述のカーボン系負極炭素材料や黒鉛粒子が例示される。
【0047】
黒鉛粒子としては、天然黒鉛、人造黒鉛等を必要により破砕した黒鉛粒子、さらには球状に加工した黒鉛粒子、造粒した黒鉛粒子や圧密した紡錘状の黒鉛粒子が例示される。黒鉛粒子の粒子径は、1〜100μmが好ましく、5〜25μmがより好ましく、10〜20μmが特に好ましい。
【0048】
〔昇温工程〕
化学蒸着炉211内に供給された炭素粒子は、攪拌羽根13による撹拌、及び不活性ガス供給口bから供給されてガス排出口cから排出される不活性ガスの上昇気流によって、化学蒸着炉211内を流動状態で滞留する。この状態を保ちながら、ヒーター(不図示)によって650〜1200℃に加熱される。この際、化学蒸着炉211内は不活性ガス供給口bから供給される不活性ガスによって非酸化性雰囲気となっている。昇温工程が終了すると化学蒸着処理工程に移行する。
【0049】
〔化学蒸着処理工程〕
不活性ガスで希釈された炭素蒸着原料が、炭素蒸着原料供給口a又は不活性ガス供給口bから化学蒸着炉211内に供給される。内部に供給された炭素蒸着原料は、流動状態で化学蒸着炉211内を浮遊する炭素粒子の表面に接触するとともに、650〜1200℃で熱分解する。これにより、炭素粒子の表面に熱分解炭素が蒸着された炭素粒子(以下、「負極炭素材料」ともいう)が得られる。この際、化学蒸着炉211内は不活性ガス供給口bから供給される不活性ガスによって非酸化性雰囲気となっている。また、この間、開閉弁21は閉じられている。
【0050】
〔負極炭素材料移送工程〕
化学蒸着処理工程で得られた負極炭素材料は、温度650〜1200℃の前記化学蒸着炉211から冷却槽23に移送される。即ち、開閉弁21が開かれて、負極炭素材料は開閉弁21を介して冷却槽23に移送させられる。移送は自然落下や公知の粉体移送機を用いて行われる。移送完了後、開閉弁21は閉じられる。
【0051】
〔冷却工程〕
前記冷却槽23内に移送された前記負極炭素材料は、冷却槽23内で100℃以下まで冷却される。即ち、冷却槽23に移送された負極炭素材料は、撹拌羽根25によって撹拌されながら、冷却槽23の冷却ジャケット内を流れる冷媒と熱交換されて冷却される。冷却槽23内の負極炭素材料の温度が100℃以下になったら、取出口29から冷却槽23外に取り出される。冷却槽23内の負極炭素材料は、燃焼を防止するため、約100℃になるまでは非酸化性雰囲気下で冷却されることが好ましい。
【0052】
〔炭素粒子供給工程〕
化学蒸着炉211内の負極炭素材料がすべて冷却槽23に移送されたら、開閉弁21が閉じられ、化学蒸着炉211内に次バッチの製造に係る新たな炭素粒子が供給される。本製造方法においては、負極炭素材料移送工程と炭素粒子供給工程とがほぼ連続的に行われるので、炭素粒子を供給する際における化学蒸着炉211内の温度は大きく低下することがなく、650〜1200℃に保たれている。このように製造されるとき、化学蒸着炉211内の温度が650〜1200℃であるため、昇温工程で650〜1200℃に加熱するのに要する時間及びエネルギーが削減される。
【0053】
本製造方法において、化学蒸着炉211では、化学蒸着処理工程、負極炭素材料移送工程、炭素粒子供給工程が順次連続的に行われる。化学蒸着炉211内に供給される炭素粒子が予め加熱されている場合には、昇温工程をさらに短縮ないし省略することができる。炭素粒子を予め加熱する場合は、負極炭素材料製造装置300の予熱槽31が用いられる。即ち、予熱槽31には不図示のヒーターが設けられており、このヒーターを用いて、化学蒸着炉211内に供給する炭素粒子を非酸化性雰囲気下で予め加熱しておくことにより、化学蒸着炉211内における昇温工程を短縮ないし省略することができる。炭素粒子を予め加熱する場合、その温度は100〜1200℃であり、300〜1000℃あることが好ましく、500〜800℃あることが特に好ましい。
【0054】
図4は、本発明及び従来の製造方法によって、1バッチ当り約120kgの負極炭素材料を製造する際における化学蒸着炉内部の温度変化の一例を示すグラフである。図4中、実線は本発明の製造方法における化学蒸着炉内の温度変化を表し、破線は従来の製造方法における化学蒸着炉内の温度変化を表す。
【0055】
図4中、p1からq1は、従来の製造方法における昇温工程であり、非酸化性雰囲気の化学蒸着炉内で、黒鉛粒子が流動されながら約1000℃まで加熱される。q1からr1は、従来の製造方法における化学蒸着処理工程であり、非酸化性雰囲気の化学蒸着炉内で、黒鉛粒子の表面に熱分解炭素が蒸着される。r1からs1は、従来の製造方法における冷却工程であり、化学蒸着処理後の負極炭素材料が外部(酸化性雰囲気)に取り出し可能になる温度(約500℃)以下まで冷却される。s1は従来の製造方法における負極炭素材料の取り出しであり、化学蒸着炉が開放されて炉内から炉外に負極炭素材料が取り出される。この際、化学蒸着炉内の温度は約500℃である。製造に要する時間は、1バッチ当り約300分間である。
【0056】
図4中、A1からB1は、本発明の製造方法における昇温工程であり、非酸化性雰囲気の化学蒸着炉内で、黒鉛粒子が流動されながら約1000℃まで加熱される。B1からC1は、本発明の製造方法における化学蒸着処理工程であり、非酸化性雰囲気の化学蒸着炉内で、黒鉛粒子の表面に熱分解炭素が蒸着される。C1からD1は、本発明の製造方法における負極炭素材料移送工程であり、化学蒸着炉内の負極炭素材料が冷却槽に移送される。この際、化学蒸着炉内の温度は約750℃まで低下する。D1からA2は、黒鉛粒子供給工程であり、化学蒸着炉内に次バッチ(本図では2バッチ目)の製造に用いる黒鉛粒子が供給される。A2からB2は、本発明の製造方法における2バッチ目の昇温工程であり、非酸化性雰囲気の化学蒸着炉内で、黒鉛粒子が流動されながら約1000℃まで加熱される。B2からC2は、本発明の製造方法における2バッチ目の化学蒸着処理工程であり、非酸化性雰囲気の化学蒸着炉内で、黒鉛粒子の表面に熱分解炭素が蒸着される。C2からD2は、本発明の製造方法における2バッチ目の負極炭素材料移送工程であり、化学蒸着炉内の負極炭素材料が冷却槽に移送される。この際、化学蒸着炉内の温度は約750℃まで低下する。製造に要する時間は、1バッチ当り約150分間である。なお、冷却槽に移送された負極炭素材料は、冷却槽内で80℃程度まで冷却される。冷却は650℃程度までは非酸化性雰囲気下で行われる。80℃までの冷却に要する時間は約60分間である。冷却工程は、上記昇温工程及び化学蒸着処理工程と同時に進行してもよい。
【0057】
負極炭素材料移送工程の後に行われる黒鉛粒子供給工程は、化学蒸着炉の温度が低下しないうちに速やかに行われることが好ましく、650〜1200℃であるうちに行われることが好ましい。
【0058】
本発明の製造方法では、化学蒸着処理後、直ちに化学蒸着炉内の負極炭素材料が冷却槽に移送され、冷却槽において冷却が行われる。そのため、化学蒸着炉内の温度は高く保持されており、負極炭素材料を連続製造する場合、2バッチ目以降の昇温工程に要する時間が短い。これにより、従来と比較して1バッチ当りの製造に要する時間を短縮することができる。
【0059】
本発明の負極炭素材料の製造方法のうち、化学蒸着処理工程は従来公知である。即ち、撹拌羽根及び化学蒸着炉内に供給される不活性ガスの気流によって流動されている化学蒸着炉内の炭素粒子の表面に、炭素蒸着原料が接触するとともに熱分解されて、化学蒸着炉内で流動している炭素粒子の表面に熱分解炭素が化学蒸着される。化学蒸着の処理温度は650〜1200℃とすることが好ましく、800〜1050℃とすることが特に好ましい。好適な温度は化学蒸着に用いる炭素蒸着原料によって異なる。例えば、炭素蒸着原料としてアセチレンを用いると650℃での化学蒸着が可能である。1200℃を超える場合、炭素は膜状に成長するよりもむしろ繊維状又はスス状に成長するため、表面被覆を目的とする処理には好ましくない。
【0060】
炭素蒸着原料としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ジフェニル、ナフタレン、フェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、クマロン、ピリジン、アントラセン、フェナントレン等の1環ないし3環の芳香族炭化水素及びその誘導体が例示される。また、石油系の分留油やナフサ分解タール油、石炭系のタール蒸留工程で得られるガス軽油、クレオソート油、アントラセン油を用いることもできる。さらには、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素やその誘導体であるアルコールも用いることができる。アセチレン、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブタジエン等の二重結合を有する有機化合物も用いることができる。これらは単独で又は混合物として用いることができる。中でも、化学蒸着処理時にタールを発生しないベンゼンや、トルエン、キシレン、スチレン及びこれらの誘導体が好ましい。
【0061】
化学蒸着処理において、炭素粒子の表面に蒸着される熱分解炭素は、負極炭素材料全体に対して0.2〜30質量%とすることが好ましく、3〜20質量%がより好ましく、10〜18質量%が特に好ましい。0.2質量%以上で、負極材の表面積低減効果が発現する。30質量%を超える場合は、電池特性の改良効果はほぼ飽和するとともに、粒子間の接着が顕著となり粒子の粗大化を招きやすいので好ましくない。
【0062】
本発明において非酸化性雰囲気とは、酸素濃度が5体積%未満であることをいい、酸素濃度は低いほど好ましい。非酸化性雰囲気は、主に窒素等の不活性ガスによって形成される。また、不活性ガスは、化学蒸着炉内から酸素や未反応の炭素蒸着原料を排出するのに用いられるが、同時に流動床を形成する流動化媒体として重要である。したがって、炭素源となる炭素蒸着原料は、窒素等の不活性ガスで希釈されて化学蒸着炉内に導入されてもよい。炭素蒸着原料の不活性ガスに対するモル濃度は、2〜50%が好ましく、5〜33%がより好ましい。
【符号の説明】
【0063】
100、200、300:負極炭素材料製造装置
11:熱処理炉
13:攪拌羽根
15:モーター
17:炭素粒子供給口
19:負極炭素材料取出口
21:開閉弁
23:冷却槽
25:撹拌羽根
27:モーター
28:取出口バルブ
29:取出口
31:予熱槽
32:供給管
33:開閉弁
211:化学蒸着炉
900:負極炭素材料製造装置
91:化学蒸着炉
93:撹拌羽根
95:モーター
97:炭素粒子供給口
99:負極炭素材料取出口
101:開閉弁
103:容器
a:炭素蒸着原料供給口
b:不活性ガス供給口
c:ガス排出口
d:不活性ガス供給口
e:不活性ガス供給口
図1
図2
図3
図4
図5