特許第6114785号(P6114785)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6114785溶接部外観と溶接強度に優れた溶融Zn系めっき鋼板のアーク溶接方法、および溶接部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6114785
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】溶接部外観と溶接強度に優れた溶融Zn系めっき鋼板のアーク溶接方法、および溶接部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/23 20060101AFI20170403BHJP
   B23K 9/173 20060101ALI20170403BHJP
   B23K 9/16 20060101ALI20170403BHJP
   B23K 9/095 20060101ALI20170403BHJP
   C22C 18/04 20060101ALI20170403BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20170403BHJP
   C23C 2/40 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
   B23K9/23 K
   B23K9/173 C
   B23K9/16 J
   B23K9/095 501A
   C22C18/04
   C23C2/06
   C23C2/40
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-154570(P2015-154570)
(22)【出願日】2015年8月4日
(65)【公開番号】特開2016-221575(P2016-221575A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2016年8月22日
(31)【優先権主張番号】特願2015-109292(P2015-109292)
(32)【優先日】2015年5月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】714003416
【氏名又は名称】日新製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】細見 和昭
(72)【発明者】
【氏名】延時 智和
(72)【発明者】
【氏名】仲子 武文
【審査官】 篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−329682(JP,A)
【文献】 特開2014−133259(JP,A)
【文献】 特開2014−131809(JP,A)
【文献】 特開2013−198935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/23
B23K 9/095
B23K 9/16
B23K 9/173
C22C 18/04
C23C 2/06
C23C 2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき層の組成が、Znを主成分とし、質量%でAl:1.0〜22.0%を含有する溶融Zn系めっき鋼板同士を接合する溶融Zn系めっき鋼板のアーク溶接方法であって、
前記溶融Zn系めっき鋼板の片面あたりの付着量Wが15〜250g/mで、
平均溶接電流が100〜350Aであり、平均溶接電圧が20〜35Vであり、溶接電流の電流波形がピーク電流とベース電流を1〜50msのパルス周期で繰り返すパルス電流波形であるアーク溶接を行い、
前記アーク溶接は、シールドガスとしてAr−CO混合ガスを用いて行われ、
前記溶融Zn系めっき鋼板のめっき層の組成が、さらに質量%でMg:0.05〜10.0%、Ti:0.002〜0.10%、B:0.001〜0.05%、Si:0〜2.0%、Fe:0〜2.5%からなる群から選ばれる1あるいは2以上を含有する、溶融Zn系めっき鋼板のアーク溶接方法。
【請求項2】
前記溶融Zn系めっき鋼板のめっき付着量W(g/m)とめっき層中のAl濃度CAl(質量%)が下記(1)式の関係を満足することを特徴とする、請求項1に記載の溶融Zn系めっき鋼板のアーク溶接方法。
0.0085W+0.87≦CAl≦22 …(1)
【請求項3】
下記(2)式で示されるブローホール占有率Brが30%以下となり、
かつ溶接ビードを中心とした縦100mm、横100mmの領域のスパッタ付着個数が20個以下となるようにアーク溶接する、請求項1または2に記載の溶融Zn系めっき鋼板のアーク溶接方法。
Br=(Σdi/L)×100 …(2)
ここで、
di:観察されたi番目のブローホールの長さ
L:溶接ビード長さ
【請求項4】
めっき層の組成が、Znを主成分とし、質量%でAl:1.0〜22.0%を含有する溶融Zn系めっき鋼板同士をアーク溶接により接合する、溶接部材の製造方法であって、
前記溶融Zn系めっき鋼板の片面あたりの付着量Wが15〜250g/mであり、
平均溶接電流が100〜350Aであり、平均溶接電圧が20〜35Vであり、溶接電流の電流波形がピーク電流とベース電流を1〜50msのパルス周期で繰り返すパルス電流波形であるアーク溶接を前記溶融Zn系めっき鋼板同士に行い、
前記アーク溶接は、シールドガスとしてAr−CO混合ガスを用いて行われ、
前記溶融Zn系めっき鋼板のめっき層の組成が、さらに質量%でMg:0.05〜10.0%、Ti:0.002〜0.10%、B:0.001〜0.05%、Si:0〜2.0%、Fe:0〜2.5%からなる群から選ばれる1あるいは2以上を含有する、溶接部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタとブローホールの発生量が少なく溶接部外観と溶接強度に優れた溶融Zn系めっき鋼板のアーク溶接方法、溶接部材の製造方法および溶接部材に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融Zn系めっき鋼板は耐食性が良好であるため建築部材や自動車部材をはじめとする広範な用途に使用されている。なかでもAl濃度が1質量%以上含む溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板は長期間にわたり優れた耐食性を維持することから、従来の溶融Znめっき鋼板に代わる材料として需要が増加している。なお、従来の溶融Znめっき鋼板におけるめっき層中のAl濃度は通常0.3質量%以下である(JIS G3302参照)。
【0003】
溶融Zn系めっき鋼板を建築部材、自動車部材等に用いる場合、アーク溶接法で組み立てられることが多い。しかし、溶融Zn系めっき鋼板をアーク溶接するとスパッタおよびピット、ブローホール(以下、特に記述しない限りブローホールはピットを含める)の発生が著しく、アーク溶接性に劣る。これは、Feの融点約1538℃に比べてZnの沸点が約906℃と低いため、アーク溶接時にZn蒸気が発生し、このZn蒸気によりアークが不安定になり、スパッタが発生する。また、Zn蒸気が抜けきらない内に溶融池が凝固するとブローホールが発生する。スパッタがめっき面に付着すると溶接部外観が低下するだけでなく、その部分が腐食の起点となるので耐食性が低下する。一方、ブローホールの発生が著しいと溶接強度が低下して問題となる。
【0004】
特に、長期耐久性が要求される部材ではめっき付着量120g/m以上の厚目付の溶融Zn系めっき鋼板が使用されるが、厚目付になるほどアーク溶接時のZn蒸気量が多くなるのでよりスパッタ、ブローホールの発生が著しくなる。
【0005】
溶融Zn系めっき鋼板のスパッタ、ブローホールを抑制する方法としてパルスアーク溶接法が提案されている。パルスアーク溶接法によれば、溶滴が小粒化してスパッタが抑制される。また、パルスアークにより溶融池が攪拌されるとともに溶融池が押し下げられて溶融池が薄くなり、Zn蒸気の離脱が促進されてブローホールが抑制される。
【0006】
例えば、特許文献1には溶接ワイヤー組成とパルス電流波形のピーク電流、ピーク時間、ベース電流を適正範囲内に制御してスパッタ、ブローホールを抑制するパルスアーク溶接法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−206984
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1は片面当たりめっき付着量45g/mの薄目付溶融Znめっき鋼板の実施例が開示されているのみであり、厚目付の溶融Zn系めっき鋼板のスパッタ、ブローホールの抑制方法については記載されていない。
【0009】
また、特許文献1は、めっき層中のAl濃度が通常0.3質量%以下の溶融Znめっき鋼板を溶接対象としている。Al濃度によってめっき層の融点が異なるため、めっき層中のAl濃度は、溶接時におけるめっき層の挙動に影響する。そのため、特許文献1の技術を、Al濃度が1質量%以上含む溶融Zn系めっき鋼板(例えば、溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板)にそのまま適用することができない。
【0010】
上記のように、Al濃度が1質量%以上含む溶融Zn系めっき鋼板は耐食性に優れるが、アーク溶接時にスパッタ、ブローホールが発生して溶接部外観と溶接強度が低下する。本発明はこのような現状に鑑み、溶接部外観と溶接強度に優れた、Al濃度が1質量%以上含む溶融Zn系めっき鋼板のアーク溶接方法および溶接部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らの詳細な研究の結果、Al濃度が1質量%以上含む溶融Zn系めっき鋼鈑のアーク溶接においてパルスアーク溶接法を用いて平均溶接電流、平均溶接電圧、パルス周期、めっき層中のAl濃度、めっき付着量を適正範囲内に制御することで、溶接部外観を損なうことなくスパッタとブローホールを抑制できるという知見を得て本発明を完成したものである。
【0012】
本発明に係る溶融Zn系めっき鋼板のアーク溶接方法は、めっき層の組成が、Znを主成分とし、質量%でAl:1.0〜22.0%を含有する溶融Zn系めっき鋼板同士を接合する溶融Zn系めっき鋼板のアーク溶接方法であって、前記溶融Zn系めっき鋼板の片面あたりの付着量Wが15〜250g/mで、平均溶接電流が100〜350Aであり、平均溶接電圧が20〜35Vであり、溶接電流の電流波形がピーク電流とベース電流を1〜50msのパルス周期で繰り返すパルス電流波形であるアーク溶接を行い、前記溶融Zn系めっき鋼板のめっき層の組成が、さらに質量%でMg:0.05〜10.0%、Ti:0.002〜0.10%、B:0.001〜0.05%、Si:0〜2.0%、Fe:0〜2.5%からなる群から選ばれる1あるいは2以上を含有する、溶融Zn系めっき鋼板のアーク溶接方法である。
【0013】
また、本発明の溶融Zn系めっき鋼板のアーク溶接方法は、前記溶融Zn系めっき鋼板のめっき付着量W(g/m)とめっき層中のAl濃度CAl(質量%)が下記(1)式
0.0085W+0.87≦CAl≦22 …(1)
の関係を満足することが好ましい。
【0015】
さらに、下記(2)式で示されるブローホール占有率Brが30%以下となり、かつ溶接ビードを中心とした縦100mm、横100mmの領域のスパッタ付着個数が20個以下となるようにアーク溶接する溶融Zn系めっき鋼板のアーク溶接方法である。
【0016】
Br=(Σdi/L)×100 …(2)
ここで、
di:観察されたi番目のブローホールの長さ
L:溶接ビード長さ、である。
【0017】
本発明の溶接部材の製造方法は、めっき層の組成が、Znを主成分とし、質量%でAl:1.0〜22.0%を含有する溶融Zn系めっき鋼板同士をアーク溶接により接合する、溶接部材の製造方法であって、前記溶融Zn系めっき鋼板の片面あたりの付着量Wが15〜250g/mであり、平均溶接電流が100〜350Aであり、平均溶接電圧が20〜35Vであり、溶接電流の電流波形がピーク電流とベース電流を1〜50msのパルス周期で繰り返すパルス電流波形であるアーク溶接を前記溶融Zn系めっき鋼板同士に行い、前記溶融Zn系めっき鋼板のめっき層の組成が、さらに質量%でMg:0.05〜10.0%、Ti:0.002〜0.10%、B:0.001〜0.05%、Si:0〜2.0%、Fe:0〜2.5%からなる群から選ばれる1あるいは2以上を含有する、製造方法である。
【0018】
本発明の溶接部材は、めっき層の組成が、Znを主成分とし、質量%でAl:1.0〜22.0%を含有する溶融Zn系めっき鋼板同士が溶接されてなる溶接部材であって、前記溶融Zn系めっき鋼板の片面あたりの付着量Wが15〜250g/mであり、下記(2)式で示されるブローホール含有率Brが30%以下であり、かつ溶接ビードを中心とした縦100mm、横100mmの領域のスパッタ付着個数が20個以下であり、前記溶融Zn系めっき鋼板のめっき層の組成が、さらに質量%でMg:0.05〜10.0%、Ti:0.002〜0.10%、B:0.001〜0.05%、Si:0〜2.0%、Fe:0〜2.5%からなる群から選ばれる1あるいは2以上を含有する、溶接部材である
Br=(Σdi/L)×100 …(2)
ここで、
di:観察されたi番目のブローホールの長さ
L:溶接ビード長さ、である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、溶融Zn系めっき鋼板のアーク溶接におけるスパッタとブローホールを抑制でき、溶接部外観と溶接強度および耐食性に優れる溶接部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】パルス電流波形、パルス電圧波形を模式図的に示した図。
図2】パルスアーク溶接現象を模式図的に示した図。
図3】スパッタ付着個数の測定方法とブローホール占有率の定義を説明する図。
図4】本発明のめっき層中の適正Al濃度の下限値を示した図。
図5】Feの粘度におよぼす添加元素の影響を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1にパルスアーク溶接方法における電流波形と電圧波形を模式図的に示す。パルスアーク溶接方法はピーク電流IPとベース電流IBを交互に繰り返すアーク溶接方法で、ピーク電流IPは溶滴がスプレー移行する臨界電流以上に設定される。ピーク電流IPが臨界電流以上では、電磁力によるピンチ効果で溶接ワイヤー先端の溶滴にくびれが生じ、溶滴が小粒化してパルス周期ごとに規則正しい溶滴移行が行われ、スパッタが抑制される。それに対して、ピーク電流IPが臨界電流以下では、溶滴移行が不規則になり、溶滴が大きく成長するので溶融池と短絡してスパッタが発生する。
【0022】
図2にパルスアーク溶接方法における溶接現象を模式図的に示す。パルスアーク溶接では小粒の溶滴5が溶接ワイヤー2から溶融池3にスプレー移行するので短絡が発生せず、スパッタが抑制される。また、パルスアーク4によりアーク直下の溶融池3が押し下げられて薄くなるのでZn蒸気が排出されやすくなり、ブローホールが抑制される。
【0023】
しかし、めっき付着量が多い厚目付材になるとZn蒸気の発生量が多くなるため、パルスアーク溶接方法でも溶融池からZn蒸気が抜けきらず溶融池内に滞留してブローホールが発生しやすくなる。また、溶融池内に滞留したZn蒸気が一気に噴出してアークが乱れてスパッタが発生しやすくなる。そこで、本発明では平均溶接電流、平均溶接電圧、パルス周期を適正範囲内に制御するとともに、めっき付着量およびめっき層のAl濃度を適正に管理することにより溶融池の粘性を下げてZn蒸気の排出を促進してスパッタ、ブローホールを抑制する。
【0024】
めっき層のMg濃度を3質量%と一定にし、Al濃度を1〜22質量%と変化させた片面当りのめっき付着量15〜250g/mの溶融Zn系めっき鋼板サンプルを実験室的に作製した。なお、サンプルサイズは板厚3.2mm、幅100mm、長さ200mmとした。このサンプルを重ね代30mm、溶接ビード長さL=180mmで重ね隅肉溶接した。ここでは、平均溶接電流を100〜350A、平均溶接電圧を20〜35V、パルス周期を1〜50msの範囲で適宜設定し、パルスアーク溶接を行うことで、溶融Zn系めっき鋼板同士が接合された溶接部材を製造した。アーク溶接部のX線透過写真を撮影し、図3に模式図的に示すように、溶接ビード6の長手方向に沿ったブローホールの長さd〜dを測定して、その積算値Σdi(mm)を求め、(2)式からブローホール占有率Brを算出した。また、図3の点線で示す溶接ビード6を中心とした幅100mm、長さ100mmの領域7のスパッタ付着個数を目視で計測した。領域7は、溶接ビード6の長手方向に平行であり、その中央に溶接ビード6が位置する2辺と、溶接ビード6の長手方向に垂直な2辺で囲まれた、1辺の長さが100mmの正方形の領域である。
Br=(Σdi/L)×100 … (2)。
【0025】
図4にブローホール占有率Br、スパッタ付着個数におよぼすめっき層中のAl濃度とめっき付着量の影響を調査した結果を示す。建築用薄板溶接接合部設計・施工マニュアル(建築用薄板溶接接合部設計・施工マニュアル編集委員会)によればブローホール占有率Brが30%以下であれば溶接強度に問題ないとされている。また、スパッタ付着個数が20個以下であればスパッタが目立たず、耐食性への影響も小さい。そこで、図4ではブローホール占有率30%以下、かつスパッタ付着個数20個以下を○で、ブローホール占有率が30%かスパッタ付着量が20個の少なくともどちらかを越える場合を●でプロットした。図4の4本の直線で囲まれた領域内ではブローホール占有率Brが30%以下、かつスパッタ付着個数が20個以下であり、めっき付着量およびAl濃度を適切に管理することによりスパッタとブローホールを抑制することができることがわかる。
【0026】
すなわち、図4に示されるように、Al濃度を1〜22質量%含むめっき層を片面当りのめっき付着量15〜250g/m有する溶融Zn系めっき鋼板を、平均溶接電流を100〜350A、平均溶接電圧を20〜35V、パルス周期を1〜50msの範囲で適宜設定したうえでパルスアーク溶接することにより、スパッタとブローホールを抑制することができる。
【0027】
なお、図4において、めっき層中のAl濃度CAl(質量%)とめっき付着量W(g/m)とが、CAl<0.0085W+0.87を満たす範囲において、ブローホール占有率が30%かスパッタ付着量が20個の少なくともどちらかを越えることが示されているが、平均溶接電流、平均溶接電圧、パルス周期以外のパルスアーク溶接条件を適宜調整することにより、ブローホール占有率30%以下、かつスパッタ付着個数20個以下に抑制することができる。すなわち、めっき付着量15〜250g/mにおいて、ブローホール占有率30%以下、かつスパッタ付着個数20個以下に抑制するために、CAl<0.0085W+0.87の範囲では、平均溶接電流、平均溶接電圧、パルス周期に加えて、これら以外の溶接速度、シールドガス組成の調整が必要であるが、0.0085W+0.87≦CAlの範囲では、平均溶接電流、平均溶接電圧、パルス周期の調整でよい。そのため、ブローホール占有率30%以下、かつスパッタ付着個数20個以下に抑制するためには、0.0085W+0.87≦CAlの範囲であることが好ましい。
【0028】
以下に本発明のパルスアーク溶接条件を詳述する。
【0029】
〔平均溶接電流〕
本発明では、図1に示すように電流波形がピーク電流とベース電流を繰り返すパルス波形であって、平均溶接電流IAを100〜350Aの範囲とすることが好ましい。本発明で、平均溶接電流IAは下記(3)式とする。
IA=((IP×TIP)+(IB×TIB))/(TIP+TIB)…(3)
ここで、
IP:ピーク電流(A)
IB:ベース電流(A)
TIP:ピーク電流期間(ms)
TIB:ベース電流期間(ms)
平均溶接電流が100A未満では入熱不足で溶融池の温度が下がって粘度が高くなり、Zn蒸気が排出されにくくなって溶融池内にZn蒸気が残存してブローホールが発生する。溶接電流は溶接ワイヤーの送給量とリンクしており、必要以上に溶接電流を大きくすると溶滴が粗大化し、溶融池と短絡してスパッタが発生するので350A以下が好ましい。
【0030】
〔平均溶接電圧〕
本発明では、平均溶接電圧EAを20〜35Vの範囲とすることが好ましい。本発明で、平均溶接電圧EAは下記(4)式とする。
EA=((EP×TEP)+(EB×TEB))/(TEP+TEB)…(4)
ここで、
EP:ピーク電圧(V)
EB:ベース電圧(V)
TEP:ピーク電圧期間(ms)
TEB:ベース電圧期間(ms)
平均溶接電圧EAが20V未満ではアーク長が短くなって溶滴と溶融池が短絡してスパッタが発生する。平均溶接電圧が35Vを超えると入熱過多で溶け落ちが発生する。
【0031】
〔パルス周期〕
パルス周期PFは1〜50msの範囲とする。1ms未満では溶滴移行が不安定になり、スパッタが発生する。一方、50msを超えるとアークが発生していない期間が長くなりすぎて溶融池の押し下げ効果が弱くなり、Zn蒸気が排出されにくくなってスパッタ、ブローホールが発生する。
【0032】
〔溶接速度〕
本発明で溶接速度は特に限定されない。溶融Zn系めっき鋼板の板厚によって適宜選択される。
【0033】
〔シールドガス〕
パルスアーク溶接法では溶滴をスプレー移行させるためにAr−CO混合ガスが用いられる。本発明でもシールドガスは、Ar−CO混合ガスを用いる。Ar−30体積%COガスやAr−20体積%COガス、あるいはさらにCO濃度を下げたAr−5体積%COガス等はスパッタ抑制効果が大きいので好適である。
【0034】
〔溶融Zn系めっき鋼板〕
本発明に係る溶融Zn系めっき鋼板はめっき層の組成がZnを主成分とし、質量%でAl:1.0〜22.0%を含有し、めっき付着量Wが15〜250g/mである。
【0035】
また、めっき付着量Wとめっき層中のAl濃度CAlが下記(1)式の関係を満足することが好ましい。
【0036】
0.0085W+0.87≦CAl≦22 …(1)
ここで、
W:めっき付着量(g/m
Al:めっき層中のAl濃度(質量%)。
【0037】
前記溶融Zn系めっき鋼板のめっき層は更に質量%で、Mg:0.05〜10.0%、Ti:0.002〜0.10%、B:0.001〜0.05%、Si:0〜2.0%、Fe:0〜2.5%からなる群から選ばれる1あるいは2以上を含有することができる。
【0038】
溶融めっきの方法は特に限定されないが、一般的にはインライン焼鈍型の溶融めっき設備を使用することがコスト的に有利となる。めっき層組成は溶融めっき浴組成をほぼ反映したものとなる。以下、めっき層の成分元素について説明する。めっき層成分元素の「%」は特に断らない限り「質量%」を意味する。
【0039】
Alは、めっき鋼板の耐食性向上に有効であり、また、めっき浴においてMg酸化物系ドロスの発生を抑制する。さらに、図5に示すようにAlは微量添加でFeの粘度を下げる効果があり、アーク溶接時にめっき層中のAlは溶融池に取り込まれて溶融池の粘度を下げてZn蒸気の排出を促進してスパッタ、ブローホールを抑制する。これらの作用を十分に発揮させるためには1.0%以上のAl含有量を確保する必要があり、4.0%以上のAl含有量を確保することがより好ましい。一方、Al含有量が多くなるとめっき層の下地に脆いFe−Al合金層が成長しやすくなり、Fe−Al合金層の過剰な成長はめっき密着性の低下を招く要因となる。種々検討の結果、Al含有量は22.0%以下とすることがより好ましく、15.0%以下、あるいはさらに10.0%以下に管理しても構わない。
【0040】
Mgは、めっき層表面に均一な腐食生成物を生成させてめっき鋼板の耐食性を著しく高める作用を呈する。Mg含有量は0.05%以上とすることがより効果的であり、1.0%以上とすることがさらに好ましい。一方、めっき浴中のMg含有量が多くなるとMg酸化物系ドロスが発生し易くなり、めっき層の品質低下を招く要因となるのでMg含有量は10.0%以下の範囲とする。また、Mgは沸点が約1091℃とFeの融点よりも低く、Znと同様にアーク溶接時に蒸発してスパッタ、ブローホールの原因になると考えられるのでMg含有量は10.0%以下が望ましい。
【0041】
溶融めっき浴中にTiを含有させると、めっき層外観と耐食性を低下させる原因となるZn11Mg系相の生成、成長が抑制されるので好適である。Ti添加量が0.002%未満では抑制効果が不十分で、0.1%を越えるとめっき時にTi−Al系の析出物の生成、成長に起因しためっき層表面の外観不良を引き起こす要因となる。このため、本発明ではTi添加量を0.002〜0.1%に限定する。
【0042】
BもTiと同様にZn11Mg系相の生成、成長を抑制する効果を有する。Bの場合、添加量を0.001%以上とすることがより効果的である。ただし、Bも過剰添加するとTi−BあるいはAl−B系の析出物に起因しためっき層表面の外観不良を引き起こすのでB:0.05%以下の範囲とすることが望ましい。
【0043】
溶融めっき浴中にSiを含有させると、めっき原板表面とめっき層の界面に生成するFe−Al合金層の過剰な成長が抑制され、溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板の加工性を向上させる上で有利となる。したがって、必要に応じてSiを含有させることができる。その場合、Si含有量を0.005%以上とすることがより効果的である。ただし、過剰のSi含有は溶融めっき浴中のドロス量を増大させる要因となるので、Si含有量は2.0%以下とすることが望ましい。
【0044】
溶融めっき浴中には、鋼板を浸漬・通過させる関係上、Feが混入しやすい。Zn−Al−Mg系めっき層中にFeが混入すると耐食性が低下するのでFe含有量は2.5%以下とすることが好ましい。
【0045】
〔めっき付着量〕
溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板のめっき付着量が少ないと、めっき面の耐食性および犠牲防食作用を長期にわたって維持するうえで不利となる。種々検討の結果、片面当たりのめっき付着量は15g/m以上とすることがより効果的である。一方、めっき付着量が250g/mを超えるとZn蒸気の発生量が多くなり過ぎ、本発明法でもスパッタ、ブローホールを抑制することが困難になるので上限を250g/mとする。
【0046】
〔ブローホール占有率、スパッタ付着個数〕
建築用薄板溶接接合部設計・施工マニュアル(建築用薄板溶接接合部設計・施工マニュアル編集委員会)によれば、図3に模式図的に示すブローホール長さの積算値Σdi(mm)の測定値から下記(2)式により算出されるブローホール占有率Brが30%以下であれば溶接強度に問題ないとされている。本発明の溶接部材は、ブローホール占有率Brが30%以下で溶接強度に優れる。
【0047】
Br=(Σdi/L)×100 …(2)
Σdi:ブローホール長さの積算値(mm)
L:溶接ビード長さ(mm)。
【0048】
図3の点線で示す、溶接ビードを中心とした幅100mm、長さ100mmの領域7のスパッタ付着個数が20個以下であればスパッタが目立たず、耐食性への影響も小さい。本発明の溶接部材はスパッタ付着個数が20個以下で溶接部外観と耐食性に優れる。
【実施例】
【0049】
板厚3.2mm、板幅1000mmの冷延鋼帯をめっき原板とし、これを溶融めっきラインに通板して溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板を製造した。
【0050】
上記めっき鋼板から幅100mm、長さ200mmのサンプルを切り出し、重ね隅肉溶接継手でパルスアーク溶接を行った。ソリッドワイヤーにはJIS Z3312 YGW12を用い、溶接速度0.4m/min、ビード長さは180mm、重ね代は30mmとした。その他の溶接条件を表1、2に示す。パルスアーク溶接後、X線透過写真を撮影し、前述の方法でブローホール占有率Brを測定した。また、目視によりスパッタ付着個数を測定した。
【0051】
表1に、本発明によるパルスアーク溶接の実施例を示す。また、表2に、めっき層中のAl濃度CAl(質量%)とめっき付着量W(g/m)とがCAl<0.0085W+0.87の範囲である参考例と、めっき層中のAl濃度が本発明の条件範囲外でパルスアーク溶接した比較例とを示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
表1のNo.1〜30に示すように、パルスアーク溶接条件、めっき層中のAl濃度が本発明の範囲内の実施例では、ブローホール占有率は30%以下、スパッタ付着個数は20以下であった。本実施例から、本発明により溶接部外観と耐食性および溶接強度に優れた溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼鈑アーク溶接部材が得られることがわかる。
【0055】
表2のNo.31〜34に示される、めっき層中のAl濃度CAl(質量%)とめっき付着量W(g/m)とがCAl<0.0085W+0.87の範囲である参考例では、スパッタおよびブローホールの発生が見られた。ただし、CAl<0.0085W+0.87を満たす範囲では、平均溶接電流、平均溶接電圧、パルス周期以外のパルスアーク溶接条件を適宜調整することにより、ブローホール占有率30%以下、かつスパッタ付着個数20個以下に抑制することができる。
【0056】
これに対し、No.35〜39の平均溶接電流、平均溶接電圧、パルス周期が本発明の範囲外の比較例ではスパッタ、ブローホールが著しく発生した。また、No.40のめっき付着量が本発明の範囲を超える比較例でもスパッタ、ブローホールが著しく発生した。
【符号の説明】
【0057】
1、1’ 溶融Zn系めっき鋼板
2 溶接ワイヤー
3 溶融池
4 パルスアーク
5 溶滴
6 溶接ビード
7 スパッタ個数を数える領域
図1
図2
図3
図4
図5