特許第6114844号(P6114844)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6114844
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】レーザアークハイブリッド溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/348 20140101AFI20170403BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20170403BHJP
   B23K 9/16 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
   B23K26/348
   B23K26/00 M
   B23K9/16 K
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-11608(P2016-11608)
(22)【出願日】2016年1月25日
(62)【分割の表示】特願2011-211139(P2011-211139)の分割
【原出願日】2011年9月27日
(65)【公開番号】特開2016-104496(P2016-104496A)
(43)【公開日】2016年6月9日
【審査請求日】2016年1月26日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 平成23年4月20日〜22日 社団法人溶接学会主催の「平成23年度春季全国大会」において発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】000198318
【氏名又は名称】株式会社IHI検査計測
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】猪瀬 幸太郎
(72)【発明者】
【氏名】杉野 友洋
(72)【発明者】
【氏名】阿部 大輔
(72)【発明者】
【氏名】松本 直幸
(72)【発明者】
【氏名】大脇 桂
(72)【発明者】
【氏名】川口 勲
【審査官】 青木 正博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−336982(JP,A)
【文献】 特開2010−064096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00−26/70
B23K 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーク溶接とレーザ溶接とを合わせて金属部材同士の溶接接合を行うレーザアークハイブリッド溶接方法であって、
アーク溶接とレーザ溶接との入熱比を可変させ、該可変させた入熱比となるようアーク溶接条件とレーザ溶接条件とを設定して溶接を行うことで前記金属部材同士間の溶接後の変形角度を制御することを特徴とするレーザアークハイブリッド溶接方法。
【請求項2】
前記金属部材は板厚が6〜9mmの一対の鋼板であり、これら一対の鋼板同士を突き合わせて溶接接合することを特徴とする、請求項1記載のレーザアークハイブリッド溶接方法。
【請求項3】
前記一対の鋼板同士を、総入熱に対するアーク溶接の入熱の比率が0.3〜0.5となる入熱比にアーク溶接条件とレーザ溶接条件とを設定して、溶接接合することを特徴とする、請求項2記載のレーザアークハイブリッド溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザアークハイブリッド溶接方法に係り、詳しくは、金属板の突合わせ溶接をレーザアークハイブリッド溶接で行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
造船、橋梁等の鋼構造物の分野では、鋼板の端縁同士を突き合わせて複数の鋼板を一体化させる突合わせ溶接が多用されており、これにより大型の鋼構造物を製造可能である。
近年、レーザ溶接とアーク溶接とを組み合わせて行う溶接としてレーザアークハイブリッド溶接が開発されており、レーザアークハイブリッド溶接を上記突合わせ溶接に適用することも考えられている(特許文献1、2参照)。
【0003】
レーザアークハイブリッド溶接を突合わせ溶接に適用すると、アーク溶接単独で溶接を行った場合に比べ、溶接継手部を中心に鋼板同士が折れ曲がる現象、即ち所謂溶接角変形の発生を予測することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−224130号公報
【特許文献2】特開2007−920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、レーザアークハイブリッド溶接では、レーザ溶接及びアーク溶接の入熱条件については、作業者の経験則に基づき決定されることが多い。
しかしながら、このように作業者の経験則に基づいてレーザ溶接及びアーク溶接の入熱条件を決定してレーザアークハイブリッド溶接を行う場合、作業者によって溶接結果にばらつきが生じることがあり、たとえレーザアークハイブリッド溶接であっても上述の如き溶接角変形の変形量を予測することができず、溶接品質が安定しない可能性がある。
【0006】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、溶接角変形を制御可能なレーザアークハイブリッド溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、請求項1のレーザアークハイブリッド溶接方法は、アーク溶接とレーザ溶接とを合わせて金属部材同士の溶接接合を行うレーザアークハイブリッド溶接方法であって、アーク溶接とレーザ溶接との入熱比を可変させ、該可変させた入熱比となるようアーク溶接条件とレーザ溶接条件とを設定して溶接を行うことで前記金属部材同士間の溶接後の変形角度を制御することを特徴とする。
【0008】
また、請求項2のレーザアークハイブリッド溶接方法は、請求項1において、前記金属部材は板厚が6〜9mmの一対の鋼板であり、これら一対の鋼板同士を突き合わせて溶接接合することを特徴とする。
また、請求項3のレーザアークハイブリッド溶接方法は、請求項2において、前記一対の鋼板同士を、総入熱に対するアーク溶接の入熱の比率が0.3〜0.5となる入熱比にアーク溶接条件とレーザ溶接条件とを設定して、溶接接合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1のレーザアークハイブリッド溶接方法によれば、アーク溶接とレーザ溶接との入熱比を可変させ、該可変させた入熱比となるようアーク溶接条件とレーザ溶接条件とを設定して溶接を行うことで金属部材同士間の溶接後の変形角度を制御することにより、金属部材同士間の溶接後の変形角度を上記可変させた入熱比に応じた角度にでき、溶接品質の安定化を図ることができる。
請求項2及び請求項3のレーザアークハイブリッド溶接方法によれば、上記レーザアークハイブリッド溶接を板厚が6〜9mmの一対の鋼板同士の溶接接合に適用することにより、さらには一対の鋼板同士を、総入熱に対するアーク溶接の入熱の比率が0.3〜0.5となる入熱比にアーク溶接条件とレーザ溶接条件とを設定して溶接接合することにより、金属部材同士を突き合わせた溶接継手部を中心に鋼板同士が折れ曲がる現象、即ち溶接角変形の変形量を予測し、溶接品質を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係るレーザアークハイブリッド溶接方法に適用されるレーザアークハイブリッド溶接装置を示す図である。
図2】総入熱量に対するアーク溶接による溶接部への入熱量(アーク溶接による溶接部への入熱量/総入熱量)と溶接角変形の変形角度(θ)との関係を示す図である。
図3】アーク溶接電流値(A)とレーザ出力(kW)を変化させて溶接を行った場合の溶接継手性状を溶接部の断面図として示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1には、本発明に係るレーザアークハイブリッド溶接方法に適用されるレーザアークハイブリッド溶接装置が溶接を行っている状態で示されている。
同図に示すように、レーザアークハイブリッド溶接装置1は、アーク溶接装置10とレーザ溶接装置20から構成されている。詳しくは、アーク溶接装置10は、被溶接部材S、Sの溶接部Wに対し溶接トーチ12の先端から溶接ワイヤ14が斜めに送り出されるように構成されている。一方レーザ溶接装置20は、レーザ発生装置(図示せず)から供給されるレーザビームLBがレーザ照射ヘッド22で集光されて被溶接部材S、Sの溶接部Wに照射させるよう構成されている。
【0012】
このように構成されたレーザアークハイブリッド溶接装置1では、被溶接部材S、Sは、被溶接部材S、Sの溶接部Wの連続する溶接線が溶接ワイヤ14の先端とレーザビームLBの集光点とを結ぶ線と一致するようにセットされ、図中の矢印方向に送られてアーク溶接、レーザ溶接の順に溶接が施工される。
被溶接部材S、Sは、金属部材であって、具体的には一対の鋼板(例えば、SM490鋼)であり、レーザアークハイブリッド溶接装置1は、この一対の鋼板の突合わせ溶接を行うことが可能に構成されている。
【0013】
レーザアークハイブリッド溶接装置1では、アーク溶接の溶接条件とレーザ溶接の溶接条件とが適宜設定される。ここでは、特に、溶接部での被溶接部材S、Sへの溶接入熱量が溶接継手部を中心に鋼板同士が折れ曲がる現象、即ち溶接角変形の発生に大きく影響することから、アーク溶接による溶接部への入熱量とレーザ溶接による溶接部への入熱量とが考慮される。
詳しくは、被溶接部材S、S間の溶接後の変形角度が0度となることを目標としてアーク溶接による溶接部への入熱量とレーザ溶接による溶接部への入熱量との入熱比を規定し、該規定した入熱比となるようにアーク溶接条件とレーザ溶接条件とを設定する。具体的には、アーク溶接による溶接部への入熱量とアーク溶接電流値(A)との間には一定の対応関係があり、レーザ溶接による溶接部への入熱量とレーザ出力(kW)との間にも一定の対応関係があり、入熱比が上記規定した入熱比となるようにアーク溶接電流値とレーザ出力とを適宜設定する。
【0014】
図2を参照すると、板厚が例えば6〜9mmである一対の鋼板同士を突合わせ溶接した場合の総入熱量(例えば、600J/mm)に対するアーク溶接による溶接部への入熱量(アーク溶接による溶接部への入熱量/総入熱量)と溶接角変形の変形角度(θ)との関係が代表測定値(黒四角印)に基づき実験結果として示されている。同図では、変形角度(θ)が正の数値範囲は、一対の鋼板が溶接継手部を中心にアーク溶接装置10及びレーザ溶接装置20側に向けて折れ曲がっていることを示し、変形角度(θ)が負の数値範囲は、一対の鋼板が溶接継手部を中心にアーク溶接装置10及びレーザ溶接装置20と反対側に向けて折れ曲がっていることを示している。
【0015】
同図によれば、総入熱量に対するアーク溶接による溶接部への入熱量が0.4より大の範囲では変形角度(θ)は比例して正の数値範囲となり、0.4より小の範囲では変形角度(θ)は比例して負の数値範囲となることがわかる。そして、総入熱量に対するアーク溶接による溶接部への入熱量が0.4であるとき、変形角度(θ)は値0(即ち、0度)となることがわかる。実際には測定誤差等のばらつきがあるため、総入熱量に対するアーク溶接による溶接部への入熱量が0.4であるときに変形角度(θ)が完全に値0になるとは限らないが、総入熱量に対するアーク溶接による溶接部への入熱量が0.3〜0.5の範囲であれば、変形角度(θ)は、ほぼ値0(例えば、−0.0025〜+0.0025)となる。
【0016】
つまり、被溶接部材S、S間の溶接後の変形角度が0度となることを目標としてアーク溶接による溶接部への入熱量とレーザ溶接による溶接部への入熱量との入熱比を規定し、該規定した入熱比となるようにアーク溶接条件とレーザ溶接条件とを設定することにより、アーク溶接及びレーザ溶接の入熱条件の適正化を図り、被溶接部材S、S間の溶接後の変形角度が0度またはその近傍となるように溶接品質の安定化を図り、溶接角変形を最小限にまで低減することが可能である。特に、上記の如く、総入熱量に対するアーク溶接による溶接部への入熱量を0.3〜0.5、即ちアーク溶接による溶接部への入熱量とレーザ溶接による溶接部への入熱量との入熱比を0.3:0.7〜0.5:0.5=3:7〜1:1とすることで、板厚が例えば6〜9mmである一対の鋼板同士の突合わせ溶接において、変形角度(θ)をほぼ値0とし、溶接角変形をほぼ完全に無くすことが可能である。
【0017】
ここで、図3を参照すると、アーク溶接による溶接部への入熱量とレーザ溶接による溶接部への入熱量との入熱比を可変させ、即ちアーク溶接電流値(A)とレーザ出力(kW)を変化させて溶接を行った場合の溶接継手性状が溶接部の断面図として示されている。同図において、総入熱量に対するアーク溶接による溶接部への入熱量が0.3〜0.5、即ちアーク溶接による溶接部への入熱量とレーザ溶接による溶接部への入熱量との入熱比が3:7〜1:1となるときの溶接継手性状は、図中において実線で囲った2つの溶接継手性状の中間的な溶込み形状であることが確認された。つまり、溶接継手性状が図中において実線で囲った2つの溶接継手性状の中間的な溶込み形状になれば、溶接角変形を最小限にまで低減することが可能である。
【0018】
以上、説明したように、本発明に係るレーザアークハイブリッド溶接方法では、被溶接部材S、S間の溶接後の変形角度が0度となることを目標としてアーク溶接による溶接部への入熱量とレーザ溶接による溶接部への入熱量との入熱比を規定し、該規定した入熱比となるようにアーク溶接条件とレーザ溶接条件とを設定している。これにより、アーク溶接及びレーザ溶接の入熱条件の適正化を図り、被溶接部材S、S間の溶接後の変形角度が0度またはその近傍となるように溶接品質の安定化を図ることができ、溶接角変形を最小限にまで低減することができる。
特に、上記実施形態では、総入熱量に対するアーク溶接による溶接部への入熱量を0.3〜0.5、即ちアーク溶接による溶接部への入熱量とレーザ溶接による溶接部への入熱量との入熱比を0.3:0.7〜0.5:0.5=3:7〜1:1としているので、板厚が例えば6〜9mmである一対の鋼板同士の突合わせ溶接において、変形角度(θ)をほぼ値0とし、溶接角変形をほぼ完全に無くすことができる。
【0019】
以上で本発明に係る実施形態の説明を終えるが、実施形態は上記に限られるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
例えば、上記実施形態では、板厚が例えば6〜9mmである一対の鋼板同士の突合わせ溶接に関して説明したが、これは板厚が例えば6〜9mmの鋼板が構造物に広く使用されるからであり、鋼板の板厚は6〜9mmに限定されるものではなく、如何なる板厚の鋼板においても上記同様の効果を得ることができる。
また、上記実施形態では、被溶接部材S、Sが鋼板である場合を例に説明したが、これは特に鋼板において溶接後の変形角度が大きくなり易い傾向にあるからであり、これに限られることなく、本発明は、被溶接部材S、Sが金属部材であれば、アルミ部材その他の溶接可能な部材にも適用可能である。
【符号の説明】
【0020】
1 レーザアークハイブリッド溶接装置
10 アーク溶接装置
12 溶接トーチ
14 溶接ワイヤ
20 レーザ溶接装置
22 レーザ照射ヘッド
図1
図2
図3