特許第6115018号(P6115018)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6115018
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】薄膜印刷方法および薄膜印刷装置
(51)【国際特許分類】
   B41F 17/14 20060101AFI20170410BHJP
   B41F 3/81 20060101ALI20170410BHJP
   B41F 5/00 20060101ALI20170410BHJP
   B41M 1/02 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   B41F17/14 E
   B41F3/81
   B41F5/00
   B41M1/02
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-80916(P2012-80916)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-208826(P2013-208826A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大薗 哲郎
【審査官】 亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−201127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 17/14
B41F 3/81
B41F 5/00
B41M 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜の印刷方法であって、印刷パターンが形成された凸版を外周部に具備するシリンダー状の版胴、前記凸版にインキを供給するアニロックスロール、アニロックスロールにインキを供給するインキ供給手段、アニロックスロール上の余剰インキを掻き落とすドクターロール、及び、前記凸版上のインキが転写される被印刷物を載置する位置決め定盤を具備する印刷装置を用いて、
前記インキ供給手段からアニロックスロールにインキを供給し、供給されたインキをドクターロールによりドクタリングする工程(1)と、アニロックスロール上のドクタリングされたインキを凸版上に供給した後、前記凸版上のインキを被印刷物に転写する工程(2)と、を時間間隔をおいてこの順に行う薄膜の印刷方法であって、工程(1)と、工程(2)における動作速度が異なり、かつ前記工程(1)のドクタリング速度を150mm/s、前記工程(2)の印刷速度を100mm/sでそれぞれ独立に設定することを特徴とする薄膜印刷方法。
【請求項2】
前記工程(1)から工程(2)に至るまでの時間間隔を任意に選択することを特徴とする請求項1に記載の薄膜印刷方法。
【請求項3】
薄膜の印刷装置であって、印刷パターンが形成された凸版を外周部に具備するシリンダー状の版胴、前記凸版にインキを供給するアニロックスロール、アニロックスロールにインキを供給するインキ供給手段、アニロックスロール上の余剰インキを掻き落とすドクターロール、及び、前記凸版上のインキが転写される被印刷物を載置する位置決め定盤を具備し、
前記インキ供給手段からアニロックスロールにインキを供給し、供給されたインキをドクターロールによりドクタリングする工程(1)と、アニロックスロール上のドクタリングされたインキを凸版上に供給した後、前記凸版上のインキを被印刷物に転写する工程(2)と、を時間間隔をおいてこの順に行う薄膜の印刷装置であって、工程(1)と、工程(2)における動作速度を前記工程(1)のドクタリング速度を150mm/s、前記工程(2)の印刷速度を100mm/sでそれぞれ独立に設定できるようにしたことを特徴とする薄膜印刷装置。
【請求項4】
前記工程(1)から工程(2)に至るまでの時間間隔を任意に設定できるようにしたことを特徴とする請求項3に記載の薄膜印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜の印刷方法および薄膜の印刷装置に関し、特に各種機能性薄膜を高品質に印刷することができる印刷方法および印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微細薄膜パターン形成において、量産性に優れ、製造コストを低く抑えることが可能である公知の印刷方式を利用する試みが検討されている。特にディスプレイ分野では、画面の大型化、コストの低減化に対応するため、有機半導体や導電材料などに代表される機能性薄膜を印刷方式によってパターン形成する検討が進められている。
【0003】
具体的な印刷方式としてはオフセット印刷法、グラビア印刷法、グラビアオフセット印刷法、凸版印刷法などが検討されている。
【0004】
これら各種印刷手法の中で特に樹脂凸版印刷法は、樹脂からなる凸版と、アニロックスロールと呼ばれる表面に細かい凹部(セル)が形成されたインキ供給ロールと、溶剤乾燥型のインキとを用いた印刷方式であり、フレキソ印刷法として従来から包装材などの印刷物に広く使用されている。この樹脂凸版印刷は、膜厚0.01〜0.2μm程度の薄膜パターンの形成に特に適している。
【0005】
樹脂凸版印刷法は、キスタッチと称されるごく低印圧での印刷が可能であることから、ガラス基板や、高い圧力をかけることによって特性が破壊され易いトランジスタ回路等が形成された基板に対する印刷にも適しており、特にこのような基板を用いるディスプレイ等の電子部品のパターン形成に適した印刷方法である。
【0006】
次に、一般的な凸版印刷装置について図2を参照して説明する。
この凸版印刷装置は、図2に示すように、凸版(204)の版面にインキを供給するためのセルを有するアニロックスロール(201)と、アニロックスロールにインキを供給するインキチャンバ(208)と版下クッション(203)を介してパターン形成用の凸版(204)が装着される回転式の版胴(205)と、被印刷基板(207)が載置される基板定盤(206)と、インキを掻き落とすドクタリングを行うドクターブレード(202)を有する構成となっている。
【0007】
次に、図2の印刷機を用いた際の印刷の流れについて説明する。
まず基板定盤(206)上に被印刷基板(207)が載置された後、版胴(205)の直下まで移動する。基板定盤(206)が移動したならば、版胴(205)およびアニロックスロール(201)が基板定盤(206)の動作と同期回転する。その後アニロックスロール(201)より、凸版(204)へインキが供給される。凸版(204)へインキが供給された後速やかに凸版上のインキは被印刷基板(207)へ転写され印刷動作が終了する。
【0008】
ここで、ドクターブレード(202)はアニロックスロール(201)上に塗布されたインキのうち余剰インキを掻き落とすことによってアニロックスロールセル内に均一にインキを押し込むために、高い圧力でアニロックスロールへ押し当てられる。面同士が強い力で接触した状態で動作する為、アニロックスロール、ドクターブレードの両者が磨耗し、その削れ分がインキの中へ混入することとなる。
【0009】
アニロックスロールやドクターブレードは一般的に、金属、金属酸化物、若しくは樹脂
からなる為、これらが異物としてインキ内に混入することとなる。インキ中に混入した異物は最終的に印刷膜中に残留する。
【0010】
この異物は、従来の樹脂凸版印刷法において主な対象であった一般印刷物ならば、大きな問題とならないが、有機半導体薄膜、導電性ペーストなどを代表とする機能性薄膜の微細パターニングなどのエレクトロニクス部材向け印刷では、削れ異物が原因で製品不良となる。特に異物が金属の場合、導電することによりショートを起こすなどの不具合が発生するため、異物を低減する必要がある。
【0011】
これまで述べたように、アニロックスロール上のインキを掻き落とす手段としては主として、ドクターブレードが用いられているが、その他の手段として特許文献1に示すように、ゴムロールをドクターとして使用するドクターロール方式も使用されている。
【0012】
ドクターロール方式を用いることによって、ドクターブレード方式で発生したような異物の発生は低く抑えられることが出来るため、異物を嫌うエレクトロニクス部材向け印刷においては好適であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2001-083495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上のようにドクターロール方式を用いることによって、ドクターブレード方式で発生したような異物の発生を低く抑えることが出来る。
【0015】
しかし一方で、ドクターロール方式は、ブレード方式と比較するとドクタリング性において問題がある。それは、良好なドクタリング面が得られるドクタリング速度領域について制限がある事である。即ち、ドクターブレード方式では、ドクタリング速度に関係なく良好なドクタリング面が得られるのに対し、ドクターロール方式では、特定のドクタリング速度領域でのみ安定したドクタリング面が得られるのである。
【0016】
そのため、ドクタリング速度と印刷速度が等速である従来の印刷手法においては、適正な印刷速度と、適正なドクタリング速度が一致しない場合には、安定した印刷ができなくなるという問題があった。
【0017】
本発明が解決しようとする課題は、ドクターロール方式におけるかかる問題を解決し、異物が少ない機能性薄膜を高品質でかつムラなく印刷することが出来る薄膜印刷方法ならびに薄膜印刷装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決する為に、本発明者が鋭意研究を行った結果、インキ供給手段からアニロックスロールにインキを供給し、供給されたインキをドクターロールによりドクタリングするドクタリング工程と、前記アニロックスロール上のドクタリング面のインキを凸版上に供給した後、前記凸版上のインキを被印刷物に転写する転写印刷工程とを、それぞれ独立した工程として実施し、任意に速度を設定することによって、ドクタリング工程と転写印刷工程それぞれの要望を満たす適切な速度で行え、良好な印刷物を得ることができるようになった。
【0019】
また、ドクタリング工程と転写印刷工程間に任意の時間を置くことによって、印刷物の
品質が向上することを確認した。
【0020】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、薄膜の印刷方法であって、印刷パターンが形成された凸版を外周部に具備するシリンダー状の版胴、前記凸版にインキを供給するアニロックスロール、アニロックスロールにインキを供給するインキ供給手段、アニロックスロール上の余剰インキを掻き落とすドクターロール、及び、前記凸版上のインキが転写される被印刷物を載置する位置決め定盤を具備する印刷装置を用いて、前記インキ供給手段からアニロックスロールにインキを供給し、供給されたインキをドクターロールによりドクタリングする工程(1)と、アニロックスロール上のドクタリングされたインキを凸版上に供給した後、前記凸版上のインキを被印刷物に転写する工程(2)と、を時間間隔をおいてこの順に行う薄膜の印刷方法であって、工程(1)と、工程(2)における動作速度が異なり、かつ前記工程(1)のドクタリング速度を150mm/s、前記工程(2)の印刷速度を100mm/sでそれぞれ独立に設定することを特徴とする薄膜印刷方法である。
【0021】
また、請求項2に記載の発明は、前記工程(1)から工程(2)に至るまでの時間間隔を任意に選択することを特徴とする請求項1に記載の薄膜印刷方法である。
【0022】
また、請求項3に記載の発明は、薄膜の印刷装置であって、印刷パターンが形成された凸版を外周部に具備するシリンダー状の版胴、前記凸版にインキを供給するアニロックスロール、アニロックスロールにインキを供給するインキ供給手段、アニロックスロール上の余剰インキを掻き落とすドクターロール、及び、前記凸版上のインキが転写される被印刷物を載置する位置決め定盤を具備し、前記インキ供給手段からアニロックスロールにインキを供給し、供給されたインキをドクターロールによりドクタリングする工程(1)と、アニロックスロール上のドクタリングされたインキを凸版上に供給した後、前記凸版上のインキを被印刷物に転写する工程(2)と、を時間間隔をおいてこの順に行う薄膜の印刷装置であって、工程(1)と、工程(2)における動作速度を前記工程(1)のドクタリング速度を150mm/s、前記工程(2)の印刷速度を100mm/sでそれぞれ独立に設定できるようにしたことを特徴とする薄膜印刷装置である。
【0023】
また、請求項4に記載の発明は、前記工程(1)から工程(2)に至るまでの時間間隔を任意に設定できるようにしたことを特徴とする請求項3に記載の薄膜印刷装置である。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る薄膜印刷方法ならびに薄膜印刷装置によれば、印刷物中に異物が含まれることなく、かつムラがない均一な機能性薄膜を得ることが出来る。
【0025】
また、工程(1)から工程(2)に至るまでの時間間隔を任意に選択することにより、アニロックスロール上のインキ膜に最適な緩和時間を与えることができるため、より均一な薄膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明に係る薄膜印刷装置の構造を示した模式図である。
図2図2は、ドクターブレードを有する従来の凸版印刷装置の構造を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
本発明の実施の形態を、図1に示す薄膜印刷装置におけるアニロックスロール(101)とドクターロール(102)を有するインキ供給手段(109)を中心に説明する。図1に示す薄膜印刷装置はパターン形成用の凸版(104)が装着されるシリンダー状の版胴(105)、凸版(104)に接してインキを供給するアニロックスロール(101)、アニロックスロールへインキ供給する為のインキチャンバ(108)、アニロックスロール(101)上の余剰インキを掻き落とすドクターロール(102)、被印刷基板(107)を載置する基板定盤(106)から構成された印刷装置である。
【0029】
本発明の薄膜印刷方法に用いることが出来るアニロックスロール(101)としては、ステンレス鋼(SUS)材などで作成された芯ロール上に、酸化クロムをプラズマ溶射して形成した酸化クロム皮膜を、レーザー彫刻によってパターニングしたセラミックスロールや、芯ロール上に銅メッキを施した後、感光性樹脂を塗布し、レーザーパターニングした後に腐食処理をし、得られた凹凸パターン上にクロムメッキを施したクロムメッキロール等のいずれも用いることが出来る。
【0030】
また、アニロックスロール上に形成されるパターンとしては、ヘリカルパターン、FMパターン、ハニカムパターン、ダイヤパターンなどを用いることができるが、セル内部での液流動が期待できるAPEX社のGTTパターン、もしくはプラスクエア工学社のARTパターンなどが最も好適である。
【0031】
これらのパターンはモアレを防止する為に適宜角度を設けても良い。また、パターンが形成される密度(線数)は実際に印刷されるパターンの精細度によって決定されるが、概ね1インチ当たり700線以上であることが望ましい。
【0032】
これらのパターンが形成された後、アニロックスロール(101)の表面は、ドクターロール(102)側に傷をつけるのを防止する為に研磨されることが望ましい。具体的にはアニロックスロールのパターン土手部において4μm以上の突起がなくなるよう研磨されることが望ましい。
【0033】
アニロックスロール(101)を回転する機構としては、回転速度ムラが印刷物に大きな影響を与える為、回転数を高精度に制御可能なサーボモータでダイレクトドライブを行うことが望ましい。また、必要トルクを得るために減速機構を使用する場合にはバックラッシュレスの機構を備えたギヤボックスを用いることが望ましい。
【0034】
次に、使用することが出来るドクターロール(102)としてはSUS材などで作成された芯ロールに、ニトリルゴム、シリコーンゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリロニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴムなどを巻きつけて作成したゴムロールとしてもよいし、これらのゴムローラ上に、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)熱収縮チューブを巻きつけたものなどを用いることが出来る。これらゴム材や、表面被覆材質は、インキ溶剤に対する耐性から選定される。
【0035】
これらゴムロールの表面は算術表面粗さRaが0.1μm以下、最大高さRzが1μm以下であることが望ましい。これらの条件を満たすことによって低発塵かつ、平滑なドクタリング面を得ることが出来る。
【0036】
次に、使用することが出来るドクターロール(102)の硬度としてはJIS−A硬度で30°〜70°の範囲でいずれも使用することが出来る。
【0037】
ドクターロール(102)を回転する機構としては、アニロックスロールと連れ周りと
してもよいが、より高精度に回転させたい場合は、回転数を高精度に制御可能なサーボモータを使用し、ダイレクトドライブを行うことが望ましく、アニロックスロールの回転と同期回転可能な形で制御することが出来るシステムを持つことが望ましい。
【0038】
次に、アニロックスロール(101)とドクターロール(102)の設置について説明する。ドクターロール方式ではドクターロール(102)は、アニロックスロール(101)に対し任意の圧力で押し付けられる。押し付ける圧力の範囲としては、接触部の面圧が0.3MPa〜0.7MPaとなるように設定される。この範囲にすることにより良好なドクタリング性と、異物発生を抑えることができる。
【0039】
押し付ける機構としては、繰り返し再現性があり、押し圧力を任意に設定できるエアシリンダーと直動ガイドを組み合わせた機構が望ましい。
【0040】
押し付け位置は、アニロックスロール中心線より下が望ましい。中心線より下に設置することによりドクタリングされた余剰インキが適正にインクチャンバーへ戻ることができる。
【0041】
次に本印刷装置を用いた際の実動作について説明する。
基板定盤(106)上に、ガラス基板等の被印刷基板(107)を載置した後、動作開始指示によって一連の印刷動作が開始される。
【0042】
印刷開始の指示が出たのち、まずドクタリング工程が開始される。ドクタリング工程は、まず、インキチャンバー(108)よりインキがアニロックスロール(101)上に供給され、ついで余剰インキをドクターロール(102)が掻き落とすことによって行われる。ドクタリングする際の周速はインキやドクタリング状態に応じて任意に決定する。即ち、使用するインクの粘度や、表面張力などの物性値と、実際のドクタリング状態を勘案し決定される。
【0043】
アニロックスロール(101)上のドクタリング状態は、ドクタリング中における目視確認で筋などの発生具合と、ドクタリング後乾燥させたアニロックスロール表面を観察する手法を用い、大まかに見極める。ドクタリングが良好にできる条件で実際に転写動作を行い、各種バラつき評価手段で最終的に最適なドクタリング速度を決定する。
【0044】
ドクタリング工程終了後に、転写印刷工程が行われる。このドクタリング工程と、転写印刷工程の間で任意に緩和時間を空ける。ドクタリング工程と転写印刷工程の間に時間を設けることにより、ドクタリングによって発生した筋やムラが緩和する効果が期待できる。
【0045】
実際の緩和時間としては、使用するインキの粘度によって変化するが、おおむね10秒以上で効果が顕著に確認される。一方で緩和時間を大きくとりすぎるとアニロックスロール表面が乾燥し、乾燥によるムラが新たに発生する為好ましくない。緩和時間は、溶剤の沸点や、アニロックスロールカバーの有無によって大きく異なる為、都度条件出しを行い決定する。
【0046】
次に基板定盤(106)が版胴直下に移動した後、アニロックスロール(101)より版上へインキが供給され、その後版胴回転と同期した基板定盤(106)上に置かれた被印刷基板(107)へ転写される転写印刷工程が行われる。
【0047】
アニロックスロール(101)から版上へインキを供給する工程および、版上から被印刷基板(107)への転写工程の周速度は同一であり、その速度は任意に選択することが
できる。転写印刷速度を変化させることによって、インキ転移量の増減、線幅の増減、等の印刷諸特性を調節することができる。
【0048】
以上のように、ドクタリング速度、転写速度を任意に選択することによって、ドクタリング工程、転写印刷工程においてそれぞれ最適な速度を選択し印刷を実施することができ、所望の良質な印刷物を得ることが出来る。以下実施例に基づき、本発明に係る薄膜印刷方法および薄膜印刷装置についてさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を達成できる範囲での改良・変形等は、本発明の趣旨を逸脱するものではない。
【実施例1】
【0049】
本実施例では高分子型有機発光材料を、素ガラス上へ印刷し、そのムラおよび印刷転移量のバラつきを評価した例を示す。
【0050】
印刷装置として、図1に示した構造の印刷装置を用いた。アニロックスロールとして、面長200mm、直径80mmのクロムメッキロールを用いた。ロールに形成されるパターンは直径14.5μmの円形ドットが、35μmピッチで形成されるドットパターンである。前述のパターンはアニロックスロールの周面全面にわたり形成されている。
【0051】
本実施例で用いるドクターロールとして、直径30mmのSUS芯上に硬度JIS−A50°のウレタンゴムを巻き付け、直径50mmの円柱状に加工した。加工したウレタンゴムロール上にPFA熱収縮チューブを巻きつけた後、研磨を実施しRaが0.05μm、Rzが1μmとした。
【0052】
上記のアニロックスロールに対して、ドクターロールをニップ圧0.4MPaで押込む形で設置した。設置されたアニロックスロール及び、ドクターロールはそれぞれサーボモータで駆動されそれぞれの周速が一致するように制御される。
【0053】
次に用いる版材について説明する。厚さ0.2mmのSUS304製の鋼板の表面に反射抑制層として黒色油性染料を厚さ1.5μmになるようにダイコート法により塗工した。この積層体の表面にポリアミドを主成分とするネガ型感光性樹脂を総厚が100μmとなるように塗工し、版のベースとした。
【0054】
その後、この版材に対し、ストライプ状のパターンを有するネガパターン(有効領域開口106μm*100mm、非開口スペース392μm*100mm、総有効線数400本、サイズW200mm、L100mm)のクロムマスクを用いて50μmのプロキシミティギャップを空けて、露光を行った。露光の後、温水を掛け流しながら現像を行い、凸部高さ90μm、凸部ライン幅106μm、スペース392μmの凸版を形成した。作成した凸版を印刷装置の版胴に0.5mm厚の印刷用クッションテープを用いて貼り付けた。
【0055】
次にインキについて説明する。
高分子有機発光材料であるポリフェニレンビニレン誘導体を濃度2%になるように4−メチルアニソールに溶解させた有機発光インキを用意した。
用意したインキの粘度を測定したところ60mPa・sであり、表面張力は34mN/mであった。その後、インキを印刷装置のチャンバーへ投入した。
【0056】
以上の装置、版、発光材料インキを用いてUV/O処理を行ったソーダガラス上に印刷を行った。印刷はドクタリング速度5mm/s、印刷速度100mm/sとした。
【実施例2】
【0057】
実施例2においては、ドクタリング速度を150mm/sとし、ドクタリング工程と、転写印刷工程間に30秒の緩和時間を取った。その他は、実施例1と同様に印刷を実施した。
【0058】
<比較例1>
実施例1における印刷速度をドクタリング速度と同一の5mm/sとした以外は、実施例1と同様に印刷を実施した。
【0059】
<比較例2>
実施例2における緩和時間を設けず0秒とした以外は、実施例2と同様に印刷を実施した。
【0060】
実施例1、2、及び比較例1、2において、有機発光層が形成されたガラス基板について以下の評価を行った。
1.印刷面内における印刷転移量断面積のバラつき測定(面内5点:中央で規格化)
概ね10%以下で素子特性に影響がないバラつき範囲内となる。
2.素ガラス上印刷物のPL発光をUV光源スキャナで取り込んだ際の輝度のばらつき、
および特異的なムラの評価
概ね10%以下で素子特性に影響がないバラつき範囲内となる。
【0061】
評価結果を表1に示す。
【表1】
【0062】
表1の結果から、実施例1および2では、印刷転移量のばらつき、発光輝度のばらつきも許容範囲内であり、印刷ムラ等についても良好な結果であった。これに対して、比較例1では、転移量、発光輝度ともにばらつきが大きく、塗布ムラも生じた。また比較例2では、転移量のばらつきは、許容範囲内であったが、発光輝度のばらつきが大きく、塗布むらも観察された。
【符号の説明】
【0063】
101、201・・・アニロックスロール
102・・・ドクターロール
103、203・・・版下クッション
104、204・・・凸版
105、205・・・版胴
106、206・・・基板定盤
107、207・・・被印刷基板
108、208・・・インキチャンバ
109・・・インキ供給手段
202・・・ドクターブレード
図1
図2