特許第6115089号(P6115089)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6115089
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】ディスクブレーキ用パッド
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/092 20060101AFI20170410BHJP
【FI】
   F16D65/092 D
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-250097(P2012-250097)
(22)【出願日】2012年11月14日
(65)【公開番号】特開2014-98429(P2014-98429A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2015年11月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】特許業務法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹尾 祐一
(72)【発明者】
【氏名】石丸 善隆
(72)【発明者】
【氏名】加藤 幸生
(72)【発明者】
【氏名】山口 純
【審査官】 長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−275011(JP,A)
【文献】 実開平06−030541(JP,U)
【文献】 特開2008−138781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/092
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦材と、この摩擦材の裏面を支持する裏板を有していて、前記裏板が合成樹脂製であるディスクブレーキ用パッドであって、
前記裏板の中央部には、当該ディスクブレーキのパッド押動部材によって押圧される押圧部位を避けて、裏側に向けて突出し前記押圧部位に比して厚肉に形成されている厚肉部が設けられており、
前記厚肉部には、前記摩擦材側が開口する凹部が形成されていて、同凹部には前記摩擦材によって空気室が形成されているディスクブレーキ用パッド。
【請求項2】
請求項1に記載のディスクブレーキ用パッドにおいて、
前記厚肉部には、前記裏板の背面に組付けられるシムプレートがその中央孔部にて嵌合可能であり、同シムプレートのロータ周方向およびロータ径方向への移動が前記厚肉部によって規制させるように構成されていることを特徴とするディスクブレーキ用パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキ用パッドに関し、特に、摩擦材と、この摩擦材の裏面を支持する裏板を有していて、前記裏板が合成樹脂製であるディスクブレーキ用パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のディスクブレーキ用パッドは、例えば、下記特許文献1に示されていて、裏板のロータ周方向両端部に設けられている各トルク受け部が、裏側に向けて突出していて同裏板の中央部に比して厚肉に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−72848号公報
【発明の概要】
【0004】
上記した特許文献1に記載されているディスクブレーキ用パッドでは、軽量化を図るために裏板が合成樹脂製とされていて、各トルク受け部を厚肉に形成して同部位の強度アップを図っているものの、裏板の曲げ強度への配慮がなされていない。また、裏板の背面に組付けられるシムプレートについての配慮や、裏板の耐熱性についての配慮もなされていない。
【0005】
本発明は、上記した実状に鑑みてなされたものであり、
摩擦材と、この摩擦材の裏面を支持する裏板を有していて、前記裏板が合成樹脂製であるディスクブレーキ用パッドであって、
前記裏板の中央部には、当該ディスクブレーキのパッド押動部材(例えば、可動キャリパのパッド押圧爪部や、可動キャリパに組付けたピストン)によって押圧される押圧部位を避けて、裏側に向けて突出し前記押圧部位に比して厚肉に形成されている厚肉部が設けられており、
前記厚肉部には、前記摩擦材側が開口する凹部が形成されていて、同凹部には前記摩擦材によって空気室が形成されている
ことに特徴がある。
【0006】
本発明のディスクブレーキ用パッドでは、前記裏板の中央部に、当該ディスクブレーキのパッド押動部材(例えば、可動キャリパのパッド押圧爪部や、可動キャリパに組付けたピストン)によって押圧される押圧部位を避けて、裏側に向けて突出し前記押圧部位に比して厚肉に形成されている厚肉部が設けられている。このため、パッドの裏板において、当該ディスクブレーキのパッド押動部材によって押圧される押圧部位の板厚(ロータ軸方向寸法)を増大させることなく、同裏板の曲げ強度をアップさせることが可能である。したがって、当該ディスクブレーキを大型化する(ロータ軸方向寸法を増大させる)ことなく、しかも、シンプルかつ安価に実施することが可能である。
また、前記厚肉部には、前記摩擦材側が開口する凹部が形成されていて、同凹部には前記摩擦材によって空気室が形成されている。したがって、裏板の凹部と摩擦材によって形成される空気室により、裏板と摩擦材間に断熱空間が形成される。このため、同断熱空間により、摩擦材から裏板への熱伝達量を減少させることが可能であり、裏板の熱劣化を減少させることが可能であるとともに、裏板の軽量化を図ることも可能である。
【0007】
上記した本発明の実施に際して、前記厚肉部には、前記裏板の背面に組付けられるシムプレートがその中央孔部にて嵌合可能であり、同シムプレートのロータ周方向およびロータ径方向への移動が前記厚肉部によって規制させるように構成されていることも可能である。この場合には、裏板の厚肉部をシムプレートのための保持部としても有効に活用することが可能であり、シムプレートのための保持部をシンプルかつ安価に構成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1ィスクブレーキ用パッドを車両用の可動キャリパ型ディスクブレーキに適用した一実施形態を概略的に示した側面図である。
図2図1に示したピストンと同ピストンによって押動されるディスクブレーキ用パッドの横断平面図である。
図3図1に示したディスクブレーキ用パッドと同パッドに組付けられるシムプレートの分解斜視図である。
図4ィスクブレーキ用パッドの他の実施形態と同パッドに組付けたシムプレートの背面図である。
図5ィスクブレーキ用パッドのその他の実施形態と同パッドに組付けたシムプレートの背面図である。
図6図2に示したディスクブレーキ用パッドにおける裏板の中央部位に設けた厚肉部に摩擦材側が開口する凹部を形成した実施形態の横断平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1図3はディスクブレーキ用パッドの一実施形態を概略的に示していて、このディスクブレーキ用パッド10(以下、実施形態では、単にパッドという)は、車両用の可動キャリパ型ディスクブレーキ100に適用されるものである。なお、図1では、当該ディスクブレーキ100の支持体である周知のマウンティング20のパッド支持部21,22と、ディスクロータ30の一部がそれぞれ仮想線にて示されている。
【0011】
図1に示したパッド(アウターパッド)10と図2に示したパッド(インナーパッド)10は、周知のようにディスクロータ30の外周部を挟むように対向配置されて使用されるものであり、摩擦材(ライニング)11と、この摩擦材11の裏面を支持する裏板12を有していて、裏板12のロータ周方向両端部(図1および図2の左右両端部)には一対のトルク受け部12a・12bが形成されている。なお、各トルク受け部12a・12bは、通称、耳部である。
【0012】
摩擦材11は、それ自体周知のものであり、制動時には、ディスクロータ30の環状被制動面に摺動可能に係合して、ディスクロータ30の回転を制動する。裏板12は、合成樹脂製(例えば、強化繊維を含む熱硬化性樹脂製)であり、各トルク受け部12a・12bは、裏側に向けて所定量突出していて、同裏板12の中央部に比して厚肉に形成されている。なお、各トルク受け部12a・12bの厚肉部は、図2に示したように、摩擦材11の背部にまで延びていて、摩擦材11と部分的に重なっている。
【0013】
ところで、この実施形態においては、図1に示したパッド(アウターパッド)10における裏板12の中央部に、円形形状の厚肉部12cが設けられている。この厚肉部12cは、当該ディスクブレーキ100の可動キャリパ50におけるパッド押圧爪部(パッド押動部材)51によって押圧される裏板12の押圧部位(図1においてパッド押圧爪部51と重なっている部位)を避けて設けられていて、裏側に向けて所要量突出し、裏板12の押圧部位に比して厚肉に形成されている。
【0014】
また、この実施形態においては、図2に示したパッド(インナーパッド)10における裏板12の中央部に、円形形状の厚肉部12cが設けられている。この厚肉部12cは、当該ディスクブレーキ100のピストン60における環状のパッド押動部(パッド押動部材)61によって押圧される裏板12の押圧部位(図2においてパッド押動部61と重なっている部位)を避けて設けられていて、裏側に向けて所要量突出し、裏板12の押圧部位に比して厚肉に形成されている。
【0015】
また、この実施形態においては、両パッド10の各トルク受け部12a・12bに、裏板12の背面に組付けられるシムプレート40と係合可能な保持部12a1、12b1が設けられている。各保持部12a1、12b1は、傾斜した直線状の段部であり、ロータ周方向にて対向するように設けられていて、各シムプレート40との係合によって各シムプレート40の厚肉部12c周りの回転を規制するように構成されている。
【0016】
各シムプレート40は、制動時のブレーキ鳴きを低減するためのものであり、ロータ周方向両端部にて各保持部12a1、12b1に係合(当接)可能に形成されていて、三つの係止爪41を有している。各係止爪41は、裏板12に設けた切欠12dまたは端面に係合するように形成されていて、シムプレート40のロータ軸方向の移動およびシムプレート40の厚肉部12c周りの回転(シムプレート40が保持部12a1、12b1に係合するまでの回転)を規制するように機能する。なお、各係止爪41の個数は、適宜設定が可能であり、一つとして実施すること或いは無くして実施することも可能である。
【0017】
また、各シムプレート40は、その中央部位に円形の中央孔部42を有していて、この中央孔部42にて、各裏板12の厚肉部12cに、厚肉部12c周りに回転可能に、かつロータ軸方向に移動可能に嵌合されている。このため、各シムプレート40のロータ周方向およびロータ径方向への移動が、各裏板12の厚肉部12cによって規制されるように構成されている。
【0018】
上記のように構成したこの実施形態の各パッド10においては、裏板12の中央部に、当該ディスクブレーキ100のパッド押動部材(可動キャリパ50の各パッド押圧爪部51またはピストン60のパッド押動部61)によって押圧される押圧部位(各パッド押圧爪部51またはピストン60のパッド押動部61と重なっている部位)を避けて、裏側に向けて突出し前記押圧部位に比して厚肉に形成されている円形の厚肉部12cが設けられている。
【0019】
このため、各パッド10の裏板12において、当該ディスクブレーキ100のパッド押動部材(可動キャリパ50の各パッド押圧爪部51またはピストン60のパッド押動部61)によって押圧される押圧部位の板厚(ロータ軸方向寸法)を増大させることなく、同裏板12の曲げ強度をアップさせることが可能である。したがって、当該ディスクブレーキ100を大型化する(ロータ軸方向寸法を増大させる)ことなく、しかも、シンプルかつ安価に実施することが可能である。
【0020】
また、この実施形態では、各裏板12の厚肉部12cに、裏板12の背面に組付けられるシムプレート40がその中央孔部42にて嵌合可能であり、同シムプレート40のロータ周方向およびロータ径方向への移動が同厚肉部12cによって規制させるように構成されている。このため、各裏板12の厚肉部12cを各シムプレート40のための保持部としても有効に活用することが可能であり、各シムプレート40のための保持部をシンプルかつ安価に構成することが可能である。
【0021】
また、上記のように構成したこの実施形態の各パッド10においては、各トルク受け部12a・12bに、各シムプレート40と係合可能で同シムプレート40の厚肉部12c周りの回転を規制する保持部12a1、12b1が設けられている。このため、この実施形態では、各トルク受け部12a・12bを有効に活用して、シムプレート40のための保持部12a1、12b1をシンプルかつ安価に構成することが可能である。
【0022】
また、この実施形態では、各シムプレート40が、裏板12の厚肉部12cに、厚肉部12c周りに回転可能に、かつロータ軸方向に移動可能に嵌合されている。このため、各シムプレート40のロータ周方向およびロータ径方向への移動が、各裏板12の厚肉部12cによって規制される。したがって、各シムプレート40の係止爪41を一つとして実施すること、或いは係止爪41を無くして実施することが可能であり、各シムプレート40自体もシンプルかつ安価に構成することが可能である。
【0023】
上記した実施形態においては、図1および図3に示したように、各裏板12の中央部に設けられている厚肉部12cの外形形状を円形として実施したが、厚肉部12cの外形形状は適宜設定が可能であり、例えば、図4に示した形状(一部を切り欠いた円形)であってもよく、図5に示した形状(ロータ周方向に長い長円形)であってもよい。なお、図4に示した実施形態においては、各シムプレート40の中央孔部42が一部を切り欠いた円形に形成され、また、図5に示した実施形態においては、各シムプレート40の中央孔部42がロータ周方向に長い長円形に形成されている。このため、何れの実施形態においても、各シムプレート40の厚肉部12c周りに回転が厚肉部12cによって規制されていおり、係止爪41を無くして実施されている。
【0024】
また、上記した実施形態においては、図2に示したように、各裏板12の中央部に設けられている厚肉部12cを中実状に構成して実施したが、図6に示したように、各裏板12の中央部に設けられている厚肉部12cを中空状に構成して実施することも可能である。図6の厚肉部12cでは、厚肉部12cに、摩擦材11側が開口する凹部12c1が形成されていて、同凹部12c1には摩擦材11によって空気室Aが形成されている。
【0025】
これにより、図6に示した実施形態では、裏板12の凹部12c1と摩擦材11によって形成される空気室Aにより、裏板12と摩擦材11間に断熱空間が形成されている。このため、同断熱空間により、摩擦材11から裏板12への熱伝達量を減少させることが可能であり、裏板12の熱劣化を減少させることが可能であるとともに、裏板12の軽量化を図ることも可能である。
【0026】
また、上記した実施形態においては、各保持部12a1、12b1を、傾斜した直線状に形成して実施したが、各保持部12a1、12b1の形状は、シムプレート40のロータ周方向両端部と係合して少なくともシムプレート40の厚肉部12c周りの回転を規制するものであればよく、適宜設定可能であり、例えば、円弧状に形成して実施することも可能である。
【0027】
また、上記した実施形態においては、各トルク受け部12a・12bを単に厚肉として実施したが、各トルク受け部12a・12bの背部に、冷却用フィンを設けて実施することも可能である。この場合には、各冷却用フィンにより、各トルク受け部12a・12b自体を補強することが可能であるとともに、各トルク受け部12a・12bの冷却効率を高めることができて、裏板12全体の熱劣化を防ぐことが可能である。なお、各冷却用フィンの長手方向は、各パッドの車両への配置や車両走行時の空気流等を考慮して、例えば、ロータ径方向またはロータ周方向であってもよく、適宜設定が可能である。
【0028】
また、上記した実施形態においては、パッド10における裏板12の通称が耳部である部位に各トルク受け部12a・12bを設定して実施したが、各トルク受け部を設定する部位は、裏板のロータ周方向両端部であればよく、裏板の通称が耳部である部位以外の部位、例えば、耳部のロータ径方向外側の部位またはロータ径方向内側の部位であってもよく、適宜設定が可能である。
【符号の説明】
【0029】
10…ディスクブレーキ用パッド、11…摩擦材、12…裏板、12a・12b…トルク受け部、12a1・12b1…保持部、12c…厚肉部、12c1…凹部、A…空気室、20…マウンティング、21,22…パッド支持部、30…ディスクロータ、40…シムプレート、41…係止爪、42…中央孔部、50…可動キャリパ、51…パッド押圧爪部(パッド押動部材)、60…ピストン、61…パッド押動部(パッド押動部材)、100…ディスクブレーキ
図1
図2
図3
図4
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