特許第6115100号(P6115100)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6115100
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】光硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/28 20060101AFI20170410BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20170410BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20170410BHJP
   B32B 27/16 20060101ALI20170410BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20170410BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20170410BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20170410BHJP
   C08F 290/14 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   C08F220/28
   C09D4/02
   B32B27/30 A
   B32B27/16 101
   C09D7/12
   C09D5/00 Z
   C08F290/06
   C08F290/14
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-256975(P2012-256975)
(22)【出願日】2012年11月23日
(65)【公開番号】特開2014-105223(P2014-105223A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年7月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】特許業務法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】柳田 哲
【審査官】 松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−102564(JP,A)
【文献】 特開2009−230800(JP,A)
【文献】 特開2008−173856(JP,A)
【文献】 特開2011−093957(JP,A)
【文献】 特開2004−005005(JP,A)
【文献】 特開2005−023194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/00 − 220/70
C08F 290/00 − 290/14
CA/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(A)、(C)、(D)及び(E):
成分(A)(但し、以下の成分(C)及び(D)を除く)
多官能アクリレート系モノマー;
成分(C)
2以上の(メタ)アクリロキシ基を有するイソシアヌル酸誘導体;
成分(D)
3以上の(メタ)アクリロキシ基を有するカプロラクトンオリゴマー誘導体; 及び
成分(E)
光重合開始剤
を含有する光硬化性組成物。
【請求項2】
環状オレフィン系樹脂からなる基材フィルムと、その少なくとも片面に形成された保護コート層とからなる保護コート層付フィルムの当該保護コート層を形成するための保護コート層形成用組成物である請求項1記載の光硬化性組成物。
【請求項3】
成分(A)の含有量が5〜40質量%であり、成分(C)の含有量が5〜40質量%であり、成分(D)の含有量が10〜80質量%であり、成分(E)の含有量が1〜10質量%である請求項1又は2記載の光硬化性組成物。
【請求項4】
更に、成分(B)
成分(B):ウレタンアクリレートオリゴマーおよびポリエステルアクリレートオリゴマーのいずれか
を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の光硬化性組成物。
【請求項5】
成分(B)の含有量が10〜30質量%であり、成分(A)と成分(B)との合計含有量が40質量%以下である請求項4記載の光硬化性組成物。
【請求項6】
環状オレフィン系樹脂からなる基材フィルムと、その少なくとも片面に形成された保護コート層とからなる保護コート層付フィルムであって、該保護コート層が、請求項1〜5のいずれかに記載の光硬化性組成物の光硬化物層である保護コート層付フィルム。
【請求項7】
基材フィルムの厚さが、25〜200μmであり、保護コート層の厚さが0.5〜8μmである請求項6記載の保護コート層付フィルム。
【請求項8】
請求項6又は7記載の保護コート層付フィルムの少なくとも片面に透明電極が形成されているタッチパネル用保護コート層付フィルム。
【請求項9】
画像表示素子と少なくとも請求項8のタッチパネル用保護コート層付フィルムとが積層された画像表示・入力装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン系樹脂からなる基材フィルムとその少なくとも片面に積層された保護コート層とからなる保護コート層付フィルムの当該保護コート層を形成するために特に適した光硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タッチパネル用電極フィルムのベースフィルム材料の一例として、ポリメタクリレートフィルムやポリエステルフィルム等の透明な基材フィルムに、ポリウレタンアクリレート系光硬化物層等をハードコート層として設けたハードコート層付フィルムが使用されていた。ところが、ポリメタクリレートフィルムやポリエステルフィルムは、吸湿性が高く、また熱変形し易いという特性を有しているため、近年では、高透明性、低吸湿性、屈折率安定性に優れた環状オレフィン系樹脂フィルムを、ハードコート層付フィルムの基材フィルムとして適用することが提案されている(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特願2012−66477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、環状オレフィン系樹脂フィルムは、透明性や吸湿性等の特性の点で好ましいものではあるが、柔軟性が十分とはいえず、また、表面硬度が比較的低いために、耐擦過性が低く、傷が付きやすいという欠点を有する。従って、環状オレフィン系樹脂フィルムに、従来と同様のハードコート層を設けることが行われている。しかし、環状オレフィン系樹脂フィルムを基材フィルムとして使用するハードコート層付フィルムを、曲げ試験に付した場合、ハードコート層はもとより環状オレフィン系樹脂フィルム表面にもクラックが生ずるという問題があった。また、このようなハードコート層付フィルムに対しては、カールし難い性質や、応力緩和性と寸法安定性と間に良好なバランスを実現する破断伸度範囲、更に、ハードコート層と環状オレフィン系樹脂フィルムとの間に良好な密着性を実現することが求められている。
【0005】
本発明の目的は、以上の従来の技術の課題を解決することであり、基材フィルムである環状オレフィン系樹脂フィルムにコート層が積層されたコート層付フィルムに対して曲げ試験を行っても、実用上問題となるクラックが発生せず、また、コート層付フィルム自体がカールし難く、良好な破断伸度を示し、良好な密着性を示すようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、従来のポリエステルフィルムやポリメタクリレートフィルムに比べ環状オレフィン系樹脂フィルムが、柔軟性に乏しく且つ傷が付き易いという特性に鑑み、環状オレフィン系樹脂フィルムに積層すべき保護コート層として、従来に比べ柔軟ではあるが耐擦過性には優れている層を形成することにより本願発明の目的が達成され得るという仮定の下、多官能アクリレート系モノマーと、2以上の(メタ)アクリロイル基を有するイソシアヌル酸誘導体と、3以上の(メタ)アクリロイル基を有するカプロラクトンオリゴマー誘導体と、光重合開始剤とを含有する特定配合の光硬化性組成物の光硬化樹脂層を保護コート層として環状オレフィン系樹脂フィルムに積層することにより、上述の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は、以下の成分(A)、(C)、(D)及び(E):
成分(A)
多官能アクリレート系モノマー;
成分(C)
2以上の(メタ)アクリロキシ基を有するイソシアヌル酸誘導体;
成分(D)
3以上の(メタ)アクリロキシ基を有するカプロラクトンオリゴマー誘導体; 及び
成分(E)
光重合開始剤
を含有する光硬化性組成物を提供する。この光硬化性組成物は、環状オレフィン系樹脂からなる基材フィルムと、その少なくとも片面に形成された保護コート層とからなる保護コート層付フィルムの当該保護コート層を形成するための保護コート層形成用組成物として特に有用である。
【0008】
また、本発明は、環状オレフィン系樹脂からなる基材フィルムと、その少なくとも片面に形成された保護コート層とからなる保護コート層付フィルムであって、該保護コート層が、上述の成分(A)、(C)、(D)及び(E)を含有する光硬化性組成物の光硬化物層である保護コート層付フィルムを提供する。また、本発明は、この保護コート層付フィルムの少なくとも片面に透明電極が形成されているタッチパネル用保護コート層付フィルムを提供する。更に、本発明は、少なくともこのタッチパネル用保護コート層付フィルムと画像表示素子とが積層された画像表示・入力装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の光硬化性組成物は、成分(A)として多官能アクリレート系モノマー、成分(C)として2以上の(メタ)アクリロキシ基を有するイソシアヌル酸誘導体、成分(D)として3以上の(メタ)アクリロキシ基を有するカプロラクトンオリゴマー誘導体、及び成分(E)として光重合開始剤を含有する。このため、この光硬化性組成物の光硬化物層を保護コート層として、環状オレフィン系樹脂からなる基材フィルム上に積層して得た保護コート層付フィルムは、保護コート層を外側にして直径約数mm程度の棒に沿って180度折り曲げ試験を行っても、実用上問題のあるクラックが、保護コート層の最表面だけでなく、保護コート層側の環状オレフィン系樹脂からなる基材フィルム表面にも発生せず、また、保護コート層付フィルム自体がカールし難く、良好な破断伸度を示し、良好な密着性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の保護コート層付フィルムの断面図である。
図2図2は、本発明のタッチパネル用保護コート層付フィルムの断面図である。
図3図3は、本発明のタッチパネル用保護コート層付フィルムの断面図である。
図4図4は、曲げ試験の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の光硬化性組成物を具体的に説明する。
【0012】
本発明の光硬化性組成物は、環状オレフィン系樹脂からなる基材フィルムと、その少なくとも片面に形成された保護コート層とからなる保護コート層付フィルムの当該保護コート層を形成するための保護コート層形成用組成物として特に有用であり、以下の成分(A)、(C)、(D)及び(E)を含有する。以下、成分毎に詳細に説明する。
【0013】
<成分(A)>
成分(A)は多官能アクリレート系モノマーであり、環状オレフィン系樹脂との密着性や光硬化性組成物自体の反応性を向上させるためのものである。このような多官能アクリレートモノマーは、分子内に2以上、好ましくは3以上のアクリレート残基又はメタクリレート残基(以下、(メタ)アクリレート残基)を有する重合性化合物であり、接着剤などの分野で用いられている多官能アクリレート系モノマーから適宜選択して使用することができる。多官能アクリレート系モノマーの具体例としては、ビスフェノールF―EO変性ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA−EO変性ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。中でも、ペンタエリスリトールトリアクリレートを密着性、反応性、架橋性、表面硬度などの点から好ましく使用することができる。市場で入手可能な具体例としては、東亞合成(株)の商品名「M305」、新中村化学(株)の商品名「TMM−3L」等で特定されるものを挙げることができる。
【0014】
成分(A)の光硬化性組成物中の含有量は、少なすぎると密着性、反応性、架橋性、表面硬度などの特性が劣化する傾向があり、多すぎると屈曲性、カールなどの特性が劣化する傾向があるので、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは5〜40質量%、更に好ましくは5〜20質量%である。
【0015】
<成分(B)>
本発明の光硬化性組成物は、成分(A)の多官能アクリレート系モノマーに加えて、光硬化性組成物の光硬化物の表面硬度を向上させるために、必要に応じ、本発明の効果を損なわない範囲で、多官能アクリレート系オリゴマーを成分(B)として含有することができる。多官能アクリレート系オリゴマーとしては、ウレタンアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマーを挙げることができ、その分子量は好ましくは500〜10000である。市場で入手可能な具体例としては、日本合成化学工業(株)の商品名「UV7605」、東亞合成(株)の商品名「M1100」、「M1200」、「M1210」、「M1600」、「M9050」共栄社化学(株)の商品名「AH−600」、「AT−600」等で特定されるものが挙げられる。
【0016】
成分(B)の光硬化性組成物中の含有量は、多すぎると屈曲性、カールなどの特性が劣化する傾向があるので、好ましくは40質量%を超えないようにする。より好ましくは10〜30質量%以下である。なお、成分(B)を配合する場合、成分(A)との合計で40質量%を超えないようにすることが好ましい。
【0017】
<成分(C)>
成分(C)の2以上の(メタ)アクリロキシ基を有するイソシアヌル酸誘導体は、イソシアヌル酸環状構造を有し、光硬化性組成物の光硬化物の耐熱性を向上させ、カールし難くするために配合されている。このようなイソシアヌル酸誘導体としては、ビス((メタ)アクリロキシアルキル)−ヒドロキシアルキルイソシアヌル酸、トリス((メタ)アクリロキシアルキル)イソシアヌル酸等を挙げることができる。ここで、2つの(メタ)アクリロキシ基を有するイソシアヌル酸誘導体は、3つ以上の(メタ)アクリロキシ基を有するイソシアヌル酸誘導体に比べ、光硬化性組成物の光硬化の際に硬化収縮する程度が小さいので好ましく使用することできる。特に好ましくは、2つの(メタ)アクリロキシ基を有するビス(アクリロキシエチル)−ヒドロキシエチルイソシアヌル酸を使用することができる。市場で入手可能な具体例としては、東亞合成(株)の商品名「M−215」、「M−315」等で特定されるものを挙げることができる。
【0018】
成分(C)の光硬化性組成物中の含有量は、少なすぎると屈曲性、カール、密着性、耐熱性などの特性が劣化する傾向があり、多すぎると架橋性、密着性などの特性が劣化する傾向があるので、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜30質量%である。
【0019】
<成分(D)>
成分(D)の3以上の(メタ)アクリロキシ基を有するカプロラクトンオリゴマー誘導体は、光硬化性組成物の光硬化物に、良好な屈曲性や耐クラック性等を示す柔軟性を付与するために配合されている。このようなカプロラクトンオリゴマー誘導体の中でも、9個の(メタ)アクリロキシ基を有するものを好ましく使用することができる。また、成分(D)の3以上の(メタ)アクリロキシ基を有するカプロラクトンオリゴマー誘導体としては、破断伸度(オリゴマー伸度)が30〜50%となるものを好ましく使用することができる。ここで述べる破断伸度(オリゴマー伸度)とは、オリゴマー誘導体100質量部に光重合開始剤として2−ヒドロキシ−2−シクロへキシルアセトフェノンを3質量部配合した組成物を、硬化後の膜厚を60〜100μm厚みになる様に塗布、200mW/cm2、300mJ/cmという条件で光硬化させて得たオリゴマー硬化物を引張試験機(品名:テンシロン、オリエンテック(株))にて評価し、破断に至るまでの伸度(%)を示す。オリゴマー中に溶剤が含有されている場合、必要に応じて、光硬化の前後にて溶剤を揮発させた後に測定する。市場で入手可能な具体例としては、日本合成化学工業(株)の商品名「UT 5236」、「UT5237」、アルケマ社の商品名「CN929」等で特定されるものを挙げることができる。また、発明の効果を損なわない範囲で、2つの(メタ)アクリロキシ基を有するカプロラクトンオリゴマー誘導体、例えば、アルケマ社の商品名「CNUVE151」、ダイセルサイテック社の商品名「EB8402」等を、3以上の(メタ)アクリロキシ基を有するカプロラクトンオリゴマー誘導体と併用してもよい。
【0020】
成分(D)の光硬化性組成物中の含有量は、少なすぎると屈曲性、耐クラック性、カールなどの特性が劣化する傾向があり、多すぎると表面硬度、密着性などの特性が劣化する傾向があるので、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは40〜60質量%である。
【0021】
<成分(E)>
成分(E)の光重合開始剤としては、公知の光ラジカル重合開始剤の中から適宜選択して使用することができる。たとえは、アセトフェノン系光重合開始剤、ベンジルケタール系光重合開始剤、リン系光重合開始剤等が挙げられる。具体的には、アセトフェノン系光重合開始剤として、2−ヒドロキシ−2−シクロへキシルアセトフェノン(イルガキュア(IRGACURE)184、BASFジャパン社製)、α−ヒドロキシ−α,α′−ジメチルアセトフェノン(ダロキュア(DAROCUR)1173、BASFジャパン社製)、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン(イルガキュア(IRGACURE)651、BASFジャパン社製)、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン(ダロキュア(DAROCUR)2959、BASFジャパン社製)、2−ヒドロキシ−1−{4−[2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル]−ベンジル}フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン(イルガキュア(IRGACURE)127、BASFジャパン社製)等が挙げられる。ベンジルケタール系光重合開始剤として、ベンゾフェノン、フルオレノン、ジベンゾスベロン、4−アミノベンゾフェノン、4,4′−ジアミノベンゾフェノン、4−ヒドロキシベンゾフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4′−ジクロロベンゾフェノン等が挙げられる。また、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1(イルガキュア(IRGACURE)369、チバジャパン社製)も使用することができる。リン系光重合開始剤として、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(イルガキュア(IRGACURE)819、BASFジャパン社製)、(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド(ダロキュア(DAROCURE)TPO、BASFジャパン社製)等が挙げられる。
【0022】
成分(E)の光硬化性組成物中の含有量は、少なすぎると硬度性能の低下による密着性の低下や硬度不足が生ずる傾向があり、多すぎると重合の不具合による密着性などの特性が低下する傾向があるので、好ましくは0.5〜25質量%、より好ましくは1〜10質量部である。
【0023】
本発明の光硬化性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、溶剤、レベリング剤、色相調整剤、着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、各種熱可塑性樹脂材料等の添加剤を含有することができる。また、屈折率調整および表面を意図的に粗面化するために、有機物、無機物および有機無機ハイブリットからなる微粒子を適宜添加することが可能である。
【0024】
帯電防止剤としては、例えば、導電性カーボン、無機微粒子、無機微粉末、界面活性剤、イオン性液体などを用いることができる。これらの帯電防止剤は単独、または2種以上併用してもよい。無機微粒子および無機微粉末の材料としては、例えば、導電性金属酸化物を主成分とする材料が挙げられる。導電性金属酸化物としては、例えば、酸化スズ、酸化インジウム、ATO(アンチモンドープ酸化錫)、ITO(インジウムドープ酸化錫)、アンチモン酸化亜鉛などを用いることができる。
【0025】
本発明の光硬化性組成物は、上述した成分(A)、(C)、(D)、(E)、更に(B)の他、各種添加剤を、常法に従って均一に混合することにより製造することができる。
【0026】
以上説明した本発明の光硬化性組成物は、既に説明したように、環状オレフィン系樹脂からなる基材フィルムと、その少なくとも片面に形成された保護コート層とからなる保護コート層付フィルムの当該保護コート層を形成するための保護コート層形成用組成物として特に有用である。
【0027】
ここで環状オレフィン系樹脂としては、環状オレフィン(例えば、ノルボルネン類)の開環メタセシス重合とそれに続く水素化反応により得られる、シクロオレフィンをモノマーとする主鎖に脂環構造をもつ樹脂(COP)や、環状オレフィン(例えば、ノルボルネン類)とα−オレフィン(例えばエチレン)との付加重合により得られる樹脂(COC)が挙げられる。
【0028】
COPの具体例としては、日本ゼオン(株)の商品名「ZEONOR」で特定されるポリテトラシクロドデセン等が挙げられる。また、COCの具体例としては、TOPAS Advanced Polymers社の商品名「TOPAS」で特定されるエチレン・ノルボルネン・コポリマー、三井化学(株)の商品名「APEL」で特定されるエチレン・テトラシクロドデセン・コポリマー、JSR(株)の商品名「ARTON」で特定されるエチレン・テトラシクロドデセン・メタクリル酸エステル・コポリマー等を挙げることができる。これら環状オレフィン系樹脂からなるフィルムには、公知の手法により位相差機能が付与されていてもよい。
【0029】
従って、本発明の光硬化性組成物を利用し、環状オレフィン系樹脂からなる基材フィルムと、その少なくとも片面に形成された保護コート層とからなる保護コート層付フィルムであって、該保護コート層が、本発明の光硬化性組成物の光硬化物層である保護コート層付フィルムも本発明の一部である。
【0030】
図1に、このような保護コート層付フィルム3の断面図を示す。保護コート層付フィルム3は、基材フィルム1の両面に保護コート層2が積層された構造を有する。図示していないが、保護コート層2は、基材フィルム2の片面にのみ積層されていてもよい。なお、基材フィルム1の材質、保護コート層2を形成するための光硬化性組成物については、既に説明したとおりである。
【0031】
基材フィルム1の厚さは、それが適用される光学装置の種類や性能により異なるが、通常、25〜200μm、好ましくは40〜150μmであり、保護コート層2の厚さは、通常、0.5〜8μm、好ましくは0.8〜7μmである。
【0032】
なお、保護コート層付フィルム3の製造の際に行う光硬化性組成物の塗布方法や光硬化条件は、使用した光硬化性組成物の配合処方等に応じて、公知の手法や条件を適宜採用することができる。以下に保護コート層付フィルムの製造方法(塗料調整→基材フィルム前処理→塗工→乾燥・硬化)の一例を説明する。
【0033】
(塗料調製)
まず、上述した成分(A)、(C)、(D)、(E)、更に必要に応じて成分(B)の他、溶剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、酸化防止剤、シリカ微粒子粘度調整剤等の各種添加剤を、ディスパーなどの攪拌機を用いて常法に従って均一に混合することにより光硬化性組成物の塗料を調製する。この光硬化性組成物は、透光性を有することはもちろん、着色、ヘイズにより透過光の色相、透過光量が顕著に変化しないものが好ましい。
【0034】
溶剤としては、例えば使用する樹脂原料を十分溶解するものであれば、特に限定されるものではなく、公知の有機溶剤を使用することができる。有機溶剤としては、例えば、MEK、MIBK、ANON等のケトン系溶剤;IPA、n−BuOH、t−BuOH等のアルコール系溶剤;酢酸ブチル、酢酸エチル等のエステル系溶剤、グリコールエーテル系溶剤等が挙げられる。
【0035】
(基材フィルム前処理)
次に、基材フィルムと光硬化性組成物の硬化物層との密着性を向上させる目的で、基材フィルムの片面又は両面に、酸化法や凹凸化法により表面処理を施すことが好ましい。酸化法としては、例えばコロナ放電処理、グロー放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理等が挙げられる。
【0036】
(塗工)
次に、上述のようにして得られた塗料を、基材フィルム上に塗工する。塗工方法は、特に限定されるものではなく、公知の塗工方法を用いることができる。公知の塗工方法としては、例えば、公知の塗工方法としては、例えば、マイクログラビアコート法、ワイヤーバーコート法、ダイレクトグラビアコート法、ダイコート法、ディップ法、スプレーコート法、リバースロールコート法、カーテンコート法、コンマコート法、ナイフコート法、スピンコート法などが挙げられる。
【0037】
(乾燥・硬化)
次に、基材フィルム上に塗工された塗料を乾燥、硬化させることにより光硬化性組成物の硬化物層(即ち、保護コート層)を形成する。これにより、本発明の保護コート層付フィルムが得られる。
【0038】
乾燥条件は特に限定されるものではなく、自然乾燥であっても、乾燥温度や乾燥時間などを調整する人工的乾燥であってもよい。但し、乾燥時に塗料表面に風を当てる場合、塗膜表面に風紋が生じないようすることが好ましい。風紋が生じると塗布外観の悪化、表面性の厚みムラが生じるからである。
【0039】
なお、光硬化性組成物を硬化させる光としては紫外線の他、ガンマー線、アルファー線、電子線等のエネルギー線を適用することができる。その場合には、光重合開始剤この用いて電離線硬化組成物を適用してもよい。
【0040】
このような保護コート層付フィルムは、その少なくとも片面にITO膜や導電性有する微粒子またはナノワイヤー形状材料等を使用した透明電極を公知の手法により形成することによりタッチパネル用保護コート層付フィルムとして好ましく利用することができる。更に、このようなタッチパネル用保護コート層付フィルムを、液晶表示素子や有機EL表示素子などの画像表示素子に積層することにより、スマートフォーンやパーソナルコンピュータの画像表示・入力装置として好ましく適用することができる。
【0041】
図2及び図3にタッチパネル用保護コート層付フィルム5の一例の断面図を示す。図2では、基材フィルム1の両面に保護コート層2が形成され、更に保護コート層2の表面に、ITO等の公知の透明電極4が形成されている。図3では、保護コート層2と透明電極4との間に、公知の位相差フィルム等の光学調整層6が形成されている。これらのタッチパネル用保護コート層付フィルム5の製造は、先に説明した保護コート層付フィルム3の製造方法に準じて製造することができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0043】
実施例1〜21、比較例1〜13
表1に示す配合(単位=質量%)の成分を均一に混合することにより光硬化性組成物を調製し、以下に説明するように保護コート層付フィルムを作成した。
【0044】
(保護コート層付フィルムの作製)
得られた光硬化性組成物を、基材フィルムとしてコロナ処理が施された厚さ100μmもしくは50μmの環状オレフィン樹脂フィルム(ZEONOR、日本ゼオン(株))の両面に、光硬化後に両面に形成されたそれぞれの保護コート層の厚みが表1に示す厚さとなるように塗布し、200mW/cmで300mJ/cmという照射条件で光硬化させて保護コート層を形成することにより、図1に示す層構造の保護コート層付フィルムを得た。
【0045】
得られた保護コート層付フィルムについて、「曲げ試験」、「マルテンス硬度」、「破断伸度」、「カール特性」、「耐擦過性」及び「密着性」を以下に説明するように試験・評価した。得られた結果を表1に示す。
【0046】
なお、光硬化性組成物を構成する成分(A)〜(D)の個々の成分と光重合開始剤とを含有する組成物を用いて、図1に示す構造と同様のコート層付フィルムを作成し、同様に破断伸度を測定し、当該成分のオリゴマー伸度とした。
【0047】
<曲げ試験>
図4に示すように、保護コート層付フィルム(100mm×20mm)10の長手側を、保護コート層を外側にして、ステンレスの丸棒11に沿って架け渡しすることにより180度に曲げ、両先端を粘着テープ12で接合してループ状とし、接合部にクリップ13を掛け、その先端に300gの分銅(荷重)を装着し、10秒間保持した。その後、分銅を外し、丸棒11周辺の保護コート層表面又は保護コート層側の基材フィルム表面にクラックが生じた否かを倍率10倍の光学顕微鏡で観察し、クラックが生じたときの丸棒の直径を表1に示した。直径の数値の後の“p”は、保護コート層表面にクラックが生じたことを示し、“b”は、保護コート層側の基材フィルム表面にクラックが生じたことを示している。
【0048】
なお、この直径の数値が小さいほど、曲げに対してクラックが生じ難いことを示している。
【0049】
また、丸棒の直径を変えて同様に試験を行い、保護コート層付フィルムが破断してしまったときの丸棒の直径を表1に示した。
【0050】
<マルテンス硬度>
保護コート層付フィルム(30mm×70mm)を測定面の反対側を東亞合成(株)製アロンアルファ等を用いてスライドガラスに固定し、完全に硬化させたものを用いる。測定は任意の場所を選択し最大押し込み深さが保護コート層の平均厚みの10%以下になる様にビッカース圧子にて表面硬度を測定する。固定の為の接着剤層の影響を最小限に抑えるために、できる限り薄く形成するのが好ましい。測定はマルテンス硬化計(HM500、フィッシャーインストルメンツ(株))を測定した。得られた結果を表1に示した。実用上、保護コート層のマルテンス硬度は150N/mm以上であることが望まれる。
【0051】
<破断伸度>
保護コート層付フィルム(70mm×20mm)を、引張試験器(品名:テンシロン、オリエンテック(株))を用いて、速度0.5mm/分で引張り、試料が切断(破断)したときの伸び率を求めた。得られた結果を表1に示す。実用上、保護コート層付フィルムの破断伸度は8〜30%であることが望まれる。
【0052】
<カール特性>
保護コート層付フィルム(100mm×100mm)を、保護コート層を上にして平坦な金属板に残置し、金属板から浮き上がった四隅における金属板からの高さをそれぞれ測定し、それらの平均値(カール値)を求めた。カール値が5mm未満である場合を良好「○」と評価し、5mm以上10mm未満を普通「△」と評価し、10mm以上を不良「×」と評価した。得られた結果を表1に示した。
【0053】
<耐擦過性>
保護コート層付フィルム(100mm×50mm)の保護コート層を上にして引掻試験機(品名:学振型摩擦堅牢度試験機、テスター産業(株))に取り付け、#0000のスチールウールに荷重250gを加え保護コート層表面を20回(10往復)の引掻試験を行い、傷の有無を目視観察した。傷が全く観察されない場合を良好「○」と評価し、傷が1〜10本観察された場合を普通「△」と評価し、全面に亘って無数の傷が観察された場合を不良「×」と評価した。得られた結果を表1に示した。
【0054】
<密着性(JIS K5400)>
保護コート層付フィルム(50mm×50mm)の保護コート層に対し、カッターで直線状の切れ込みを入れ、100個の碁盤目を形成した。その碁盤目に対し粘着テープ(セロハンテープ、ニチバン(株))を貼り付け、引き剥がした際に、粘着テープに転着せず、保護コート層付フィルム側に残存した碁盤目の数を数えた。その数が100個である場合を良好「○」と評価し、100個未満30個以上である場合を普通「△」と評価し、30個未満である場合を不良「×」と評価した。得られた結果を表1に示した。

【0055】
【表1】
【0056】
(考察)
表1の結果から以下のことが理解される。
(1)環状オレフィン樹脂フィルムからなる基材フィルム上に保護コート層が形成された実施例1〜21の保護コート層付フィルムは、いずれの評価項目についても実用上許容できる好ましい特性を示した。
【0057】
(2)比較例1及び4の保護コート層付フィルムの場合、成分(D)として2官能のカプロラクトンオリゴマー誘導体を約60質量%で使用したので、耐擦過性の評価が不良「×」であった。
【0058】
(3)比較例2及び5の保護コート層付フィルムの場合、成分(D)として2官能のカプロラクトンオリゴマー誘導体を約40質量%で使用したので、耐擦過性だけでなく密着性の評価が不良「×」であった。
【0059】
(4)比較例3及び6の保護コート層付フィルムの場合、成分(D)として2官能のカプロラクトンオリゴマー誘導体を約20質量%で使用したので、密着性の評価が不良「×」であった。
【0060】
(5)比較例7〜10の保護コート層付フィルムの場合、成分(D)を使用していないので、カール性の評価が不良「×」であった。
【0061】
(6)比較例9〜12の保護コート層付フィルムの場合、成分(C)を使用していないので、カール性の評価が不良「×」であった。
【0062】
(7)比較例13の保護コート層付フィルムの場合、成分(C)を使用していないので、カール性の評価が不良「×」であったことに加え、密着性の評価が不良「×」であった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の光硬化性組成物の光硬化物層を保護コート層として、環状オレフィン系樹脂からなる基材フィルム上に積層して得た保護コート層付フィルムは、保護コート層を外側にして直径約数mm程度の棒に沿って180度折り曲げ試験を行っても、実用上問題のあるクラックが、保護コート層の最表面だけでなく、保護コート層側の環状オレフィン系樹脂からなる基材フィルム表面にも発生せず、また、保護コート層付フィルム自体がカールし難く、良好な密着性を示す。従って、本発明の光硬化性組成物は保護コート層付フィルムの保護コート層の形成に有用である。
【符号の説明】
【0064】
1 基材フィルム
2 保護コート層
3 保護コート層付フィルム
4 透明電極
5 タッチパネル用保護コート層付フィルム
6 光学調整層
10 保護コート層付フィルム
11 丸棒
12 粘着テープ
13 クリップ
14 分銅
図1
図2
図3
図4