【実施例】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例について説明する。
【0025】
[システム構成]
以下では、本実施例に係る音響機器の実施例を、図面を参照して説明する。
【0026】
図1は、本実施例に係る音響機器を備えたオーディオシステム100の構成を示すブロック図である。
【0027】
図1において、本オーディオシステム100には、DVD(Digital Video Disc又はDigital Versatile Disc)やBD(Blu-ray Disc)プレーヤ等の音源1から複数チャンネルの信号伝送路を通じてデジタルオーディオ信号SFL、SFR、SC、SSL、SSR、SWF、SSBL及びSSBRが供給される信号処理回路2と、測定用信号発生器3とが設けられている。
【0028】
なお、本オーディオシステムは複数チャンネルの信号伝送路を含むが、以下の説明では各チャンネルをそれぞれ「FLチャンネル」、「FRチャンネル」などと表現することがある。また、信号及び構成要素の表現において複数チャンネルの全てについて言及する時は参照符号の添え字を省略する場合がある。また、個別チャンネルの信号及び構成要素に言及する時はチャンネルを特定する添え字を参照符号に付す。例えば、「デジタルオーディオ信号S」と言った場合は全チャンネルのデジタルオーディオ信号SFL〜SSBRを意味し、「デジタルオーディオ信号SFL」と言った場合はFLチャンネルのみのデジタルオーディオ信号を意味するものとする。
【0029】
更に、オーディオシステム100は、信号処理回路2によりチャンネル毎に信号処理されたデジタル出力DFL〜DSBRをアナログ信号に変換するD/A変換器4FL〜4SBRと、これらのD/A変換器4FL〜4SBRから出力される各アナログオーディオ信号を増幅する増幅器5FL〜5SBRとを備えている。これらの増幅器5で増幅した各アナログオーディオ信号SPFL〜SPSBRを、
図6に例示するようなリスニングルーム7等に配置された複数チャンネルのスピーカ6FL〜6SBRに供給して鳴動させるようになっている。
【0030】
また、オーディオシステム100は、受聴位置RVにおける再生音を集音するマイクロホン8と、マイクロホン8から出力される集音信号SMを増幅する増幅器9と、増幅器9の出力をデジタルの集音データDMに変換して信号処理回路2に供給するA/D変換器10とを備えている。
【0031】
ここで、オーディオシステム100は、オーディオ周波数帯域のほぼ全域にわたって再生可能な周波数特性を有する全帯域型のスピーカ6FL、6FR、6C、6SL、6SR、6SBL及び6SBRと、所謂重低音だけを再生するための周波数特性を有する低域再生専用のスピーカ6WFを鳴動させることで、受聴位置RVにおける受聴者に対して臨場感のある音場空間を提供する。
【0032】
各スピーカの配置としては、例えば、
図6に示すように、ITU−R勧告(ITU-R BS775-1)に基づき、受聴位置RVの前方に、左右2チャンネルのフロントスピーカ6FL、6FRとセンタースピーカ6Cを配置する。また、受聴位置RVの後方に、左右2チャンネルのサラウンドスピーカ6SL、6SRを配置し、更にその後方に、左右2チャンネルのサラウンドスピーカ6SBL、6SBRを配置する。加えて、任意の位置に低域再生専用のサブウーハ6WFを配置する。オーディオシステム100に備えられた音響機器は、周波数特性、各チャンネルの信号レベル及び信号到達遅延特性を補正したアナログオーディオ信号SPFL〜SPSBRをこれら8個のスピーカ6FL〜6SBRに供給して鳴動させることで、臨場感のある音場空間を実現する。
【0033】
なお、上記のようなオーディオシステム100では、FLチャンネルとFRチャンネルとの組み合わせ、SLチャンネルとSRチャンネルとの組み合わせ、SBLチャンネルとSBRチャンネルとの組み合わせが、本発明における「左右チャンネル」の一例に相当する。他方で、CチャンネルとFL及びFRチャンネルとの組み合わせや、FL及びFRチャンネルとSL及びSRチャンネルとの組み合わせや、SL及びSRチャンネルとSBL及びSBRチャンネルとの組み合わせなどが、本発明における「前後チャンネル」の一例に相当する。
【0034】
信号処理回路2は、デジタルシグナルプロセッサ(Digital Signal Processor:DSP)等で形成されており、
図2に示すように、大別して信号処理部20と、係数演算部30とから構成される。信号処理部20は、DVD、BD、その他の各種音楽ソースを再生する音源1から複数チャンネルのデジタルオーディオ信号を受け取り、各チャンネル毎に周波数特性補正、レベル補正及び遅延特性補正を施してデジタル出力信号DFL〜DSBRを出力する。係数演算部30は、マイクロホン8で集音された信号をデジタルの集音データDMとして受け取り、周波数特性補正、レベル補正及び遅延特性補正のための係数信号SF1〜SF8、SG1〜SG8、SDL1〜SDL8をそれぞれ生成して信号処理部20へ供給する。マイクロホン8からの集音データDMに基づいて信号処理部20が適切な周波数特性補正、レベル補正及び遅延特性補正を行うことにより、各スピーカ6から最適な信号が出力される。
【0035】
信号処理部20は、
図3に示すようにグラフィックイコライザGEQと、チャンネル間アッテネータATG1〜ATG8と、遅延回路DLY1〜DLY8とを備えている。一方、係数演算部30は、
図4に示すように、システムコントローラMPUと、周波数特性補正部11と、チャンネル間レベル補正部12と、遅延特性補正部13と、周波数特性補正方式選択部14とを備えている。周波数特性補正部11、チャンネル間レベル補正部12、遅延特性補正部13及び周波数特性補正方式選択部14はDSPにて形成される。
【0036】
周波数特性補正部11がグラフィックイコライザGEQの各チャンネルに対応するイコライザEQ1〜EQ8の周波数特性を調整し、チャンネル間レベル補正部12がチャンネル間アッテネータATG1〜ATG8の減衰率を調整し、遅延特性補正部13が遅延回路DLY1〜DLY8の遅延時間を調整することで、適切な音場補正を行うように構成されている。
【0037】
ここで、各チャンネルのイコライザEQ1〜EQ5、EQ7及びEQ8は、それぞれ複数の帯域毎に周波数特性補正を行うように構成されている。即ち、オーディオ周波数帯域を例えば9つの帯域(各帯域の中心周波数をf1〜f9とする。)に分割し、帯域毎にイコライザEQの係数を決定して周波数特性補正を行う。なお、イコライザEQ6は、低域の周波数特性を調整するように構成されている。
【0038】
オーディオシステム100は、動作モードとして自動音場補正モードと音源信号再生モードの2つのモードを有する。自動音場補正モードは、音源1からの信号再生に先だって行われる調整モードであり、システム100の設置された環境について自動音場補正を行う。その後、音源信号再生モードでDVDなどの音源1からの音響信号が再生される。本発明は、主として自動音場補正モードにおける補正処理に関するものである。
【0039】
図3を参照すると、FLチャンネルのイコライザEQ1には、音源1からのデジタルオーディオ信号SFLの入力をオン/オフ制御するスイッチ素子SW12と、測定用信号発生器3からの測定用信号DNの入力をオン/オフ制御するスイッチ素子SW11が接続され、スイッチ素子SW11はスイッチ素子SWNを介して測定用信号発生器3に接続されている。
【0040】
スイッチ素子SW11、SW12、SWNは、
図4に示すマイクロプロセッサで形成されたシステムコントローラMPUによって制御され、音源信号再生時には、スイッチ素子SW12がオン(導通)、スイッチ素子SW11とSWNがオフ(非導通)となり、音場補正時には、スイッチ素子SW12がオフ、スイッチ素子SW11とSWNがオンとなる。
【0041】
また、イコライザEQ1の出力接点には、チャンネル間アッテネータATG1が接続され、チャンネル間アッテネータATG1の出力接点には遅延回路DLY1が接続されている。そして、遅延回路DLY1の出力DFLが、
図1中のD/A変換器4FLに供給される。
【0042】
他のチャンネルもFLチャンネルと同様の構成となっており、スイッチ素子SW11に相当するスイッチ素子SW21〜SW81と、スイッチ素子SW12に相当するスイッチ素子SW22〜SW82が設けられている。そして、これらのスイッチ素子SW21〜SW82に続いて、イコライザEQ2〜EQ8と、チャンネル間アッテネータATG2〜ATG8と、遅延回路DLY2〜DLY8が備えられ、遅延回路DLY2〜DLY8の出力DFR〜DSBRが
図1中のD/A変換器4FR〜4SBRに供給される。
【0043】
更に、各チャンネル間アッテネータATG1〜ATG8は、チャンネル間レベル補正部12からの調整信号SG1〜SG8に従って0dBからマイナス側の範囲で減衰率を変化させる。また、各チャンネルの遅延回路DLY1〜DLY8は、位相特性補正部13からの調整信号SDL1〜SDL8に従って入力信号の遅延時間を変化させる。
【0044】
図5は、
図4に示す周波数特性補正方式選択部14、周波数特性補正部11、チャンネル間レベル補正部12及び遅延特性補正部13の構成を示すブロック図である。
【0045】
周波数特性補正方式選択部14は、全チャンネルの周波数特性の分析結果から周波数特性補正方式を決定する機能を有する。
図5(A)に示すように、周波数特性補正方式選択部14は、バンドパスフィルタ14a、係数テーブル14b、補正方式決定部14c、及びメモリ14dを備えて構成される。なお、周波数特性補正方式選択部14は、本発明における「周波数特性比較部」、「周波数特性補正方式選択部」及び「周波数特性補正部」の一例に相当する。
【0046】
バンドパスフィルタ14aは、イコライザEQ1〜EQ8に設定されている9個の帯域を通過させる複数の狭帯域デジタルフィルタで構成されており、A/D変換器10からの集音データDMを周波数f1〜f9と中心とする9つの周波数帯域に弁別することにより、各周波数帯域のレベルを示すデータ[PxJ]を補正方式決定部14cに供給する。「x」はチャンネル番号1〜8、「J」は周波数帯域番号1〜9を表す(以下同様とする)。なお、バンドパスフィルタ14aの周波数弁別特性は、係数テーブル14bに予め記憶されているフィルタ係数データによって設定される。
【0047】
補正方式決定部14cは、バンドパスフィルタ14aから各チャンネル毎にデータ[PxJ]を受け取り、一時的にメモリ14dに記憶する。補正方式決定部14cは、全てのチャンネルのデータ[PxJ]がメモリ14dに記憶された状態にて、左右および前後のチャンネル間のデータ[PxJ]の比較を行い、その結果から周波数特性補正方式を決定する。そして、補正方式決定部14cは、決定した周波数特性補正方式に対応する補正方式設定信号STを周波数特性補正部11に供給する。
【0048】
周波数特性補正部11は、各チャンネルの周波数特性を所望の特性となるように調整する機能を有する。
図5(B)に示すように、周波数特性補正部11は、バンドパスフィルタ11a、係数テーブル11b、利得演算部11c、係数決定部11d、及び係数テーブル11eを備えて構成される。
【0049】
バンドパスフィルタ11aは、イコライザEQ1〜EQ8に設定されている9個の帯域を通過させる複数の狭帯域デジタルフィルタで構成されており、A/D変換器10からの集音データDMを周波数f1〜f9と中心とする9つの周波数帯域に弁別することにより、各周波数帯域のレベルを示すデータ[PxJ]を利得演算部11cに供給する。なお、バンドパスフィルタ11aの周波数弁別特性は、係数テーブル11bに予め記憶されているフィルタ係数データによって設定される。
【0050】
利得演算部11cは、上記した周波数特性補正方式選択部14から供給された補正方式設定信号STと、帯域毎のレベルを示すデータ[PxJ]とに基づいて、自動音場補正時のイコライザEQ1〜EQ8の利得(ゲイン)を周波数帯域毎に演算し、演算した利得データ[GxJ]を係数決定部11dに供給する。即ち、予め既知となっているイコライザEQ1〜EQ8の伝達関数にデータ[PxJ]を適用することで、イコライザEQ1〜EQ8の周波数帯域毎の利得(ゲイン)を逆算する。
【0051】
係数決定部11dは、
図4に示すシステムコントローラMPUの制御下でイコライザEQ1〜EQ8の周波数特性を調節するためのフィルタ係数調整信号SF1〜SF8を生成する。係数決定部11dは、利得演算部11cから供給される周波数帯域毎の利得データ[GxJ]によって係数テーブル11eからイコライザEQ1〜EQ8の周波数特性を調節するためのフィルタ係数データを読み出し、このフィルタ係数データのフィルタ係数調整信号SF1〜SF8によりイコライザEQ1〜EQ8の周波数特性を調節する。
【0052】
即ち、係数テーブル11eには、イコライザEQ1〜EQ8の周波数特性を様々に調節するためのフィルタ係数データが予めルックアップテーブルとして記憶されており、係数決定部11dが利得データ[GxJ]に対応するフィルタ係数データを読み出し、その読み出したフィルタ係数データをフィルタ係数調整信号SF1〜SF8として各イコライザEQ1〜EQ8に供給することで、チャンネル毎に周波数特性を調整する。
【0053】
なお、上記したフィルタ係数調整信号SF(SF1〜SF8)は、イコライザEQ(EQ1〜EQ8)にて周波数特性を調整するための信号であり、「イコライザ係数」に相当する(言い換えると「イコライザ利得値」に相当する)。
【0054】
チャンネル間レベル補正部12は、各チャンネルを通じて出力される音響信号の音圧レベルを均一にする役割を有する。具体的には、測定用信号発生器3から出力される測定用信号(ピンクノイズ)DNによって各スピーカ6FL〜6SBRを個別に鳴動させたときに得られる集音データDMを順に入力し、その集音データDMに基づいて、受聴位置RVにおける各スピーカの再生音のレベルを測定する。
【0055】
チャンネル間レベル補正部12の概略構成を
図5(
C)に示す。A/D変換器10から出力される集音データDMはレベル検出部12aに入力される。なお、チャンネル間レベル補正部12は、基本的に各チャンネルの信号の全帯域に対して一律にレベルの減衰処理を行うので帯域分割は不要であり、よって
図5(
B)の周波数特性補正部11に見られるようなバンドバスフィルタを含まない。
【0056】
レベル検出部12aは集音データDMのレベルを検出し、各チャンネルについての出力オーディオ信号レベルが一定となるように利得調整を行う。具体的には、レベル検出部12aは検出した集音データのレベルと基準レベルとの差を示すレベル調整量を生成し、調整量決定部12bへ出力する。調整量決定部12bはレベル検出部12aから受け取ったレベル調整量に対応する利得調整信号SG1〜SG8を生成して各チャンネル間アッテネータATG1〜ATG8へ供給する。各チャンネル間アッテネータATG1〜ATG8は、利得調整信号SG1〜SG5に応じて各チャンネルのオーディオ信号の減衰率を調整する。このチャンネル間レベル補正部12の減衰率調整により、各チャンネル間のレベル調整(利得調整)が行われ、各チャンネルの出力オーディオ信号レベルが均一となる。
【0057】
遅延特性補正部13は、各スピーカの位置と受聴位置RVとの間の距離差に起因する信号遅延を調整する、即ち、本来同時に受聴者が聴くべき各スピーカ6からの出力信号が受聴位置RVに到達する時刻がずれることを防止する役割を有する。よって、遅延特性補正部13は、測定用信号発生器3から出力される測定用信号DNによって各スピーカ6を個別に鳴動させたときに得られる集音データDMに基づいて各チャンネルの遅延特性を測定し、その測定結果に基づいて音場空間の位相特性を補正する。
【0058】
具体的には、
図3に示すスイッチSW11〜SW82を順次切り換えることにより、測定用信号発生器3から発生された測定用信号DNを各チャンネル毎に各スピーカ6から出力し、これをマイクロホン8により集音して対応する集音データDMを生成する。測定用信号を例えばインパルスなどのパルス性信号とすると、スピーカ8からパルス性の測定用信号を出力した時刻と、それに対応するパルス信号がマイクロホン8により受信された時刻との差は、各チャンネルのスピーカ6とマイクロホン8との距離に比例することになる。よって、測定より得られた各チャンネルの遅延時間のうち、最も遅延量の大きいチャンネルの遅延時間に残りのチャンネルの遅延時間を合わせることにより、各チャンネルのスピーカ6と受聴位置RVとの距離差を吸収することができる。よって、各チャンネルのスピーカ6から発生する信号間の遅延を等しくすることができ、複数のスピーカ6から出力された時間軸上で一致する時刻の音響が同時に受聴位置RVに到達することになる。
【0059】
図5(D)に遅延特性補正部の構成を示す。遅延量演算部13aは集音データDMを受け取り、パルス性測定用信号と集音データとの間のパルス遅延量に基づいて、各チャンネル毎に音場環境による信号遅延量を演算する。遅延量決定部13bは遅延量演算部13aから各チャンネル毎に信号遅延量を受け取り、一時的にメモリ13cに記憶する。全てのチャンネルについての信号遅延量が演算され、メモリ13cに記憶された状態で、調整量決定部13bは最も大きい信号遅延量を有するチャンネルの再生信号が受聴位置RVに到達するのと同時に他のチャンネルの再生信号が受聴位置RVに到達するように、各チャンネルの調整量を決定し、調整信号SDL1〜SDL8を各チャンネルの遅延回路DLY1〜DLY8に供給する。各遅延回路DLY1〜DLY8は調整信号SDL1〜SDL8に応じて遅延量を調整する。こうして、各チャンネルの遅延特性の調整が行われる。
【0060】
[自動音場補正処理]
以下では、上記した構成を有する音響機器による自動音場補正の動作について具体的に説明する。
【0061】
まず、オーディオシステム100を使用する環境としては、受聴者が、例えば
図6に示したように複数のスピーカ6FL〜6SBRをリスニングルーム7等に配置し、
図1に示すようにオーディオシステム100に接続する。そして、受聴者がオーディオシステム100に備えられているリモートコントローラ(図示省略)等を操作して自動音場補正開始の指示をすると、システムコントローラMPUがこの指示に従って自動音場補正処理を実行する。
【0062】
次に、本実施例の自動音場補正における基本的な原理を説明する。
図3に示したグラフィックイコライザGEQは、例えばIIR(Infinite Impulse Response)フィルタにより実現される。IIRフィルタを用いた場合、少ない演算量とメモリで所望の周波数特性が得られる点で有利である。しかしながら、IIRフィルタは非直線位相特性を有するため、IIRフィルタ処理により信号の振幅だけでなく位相も変化してしまう。そのため、イコライザEQによる各チャンネルの周波数特性補正の副作用として生じる位相変化の状態によっては、チャンネル間で信号の位相の不一致が発生することで、正確な音場再現を実現できない場合がある。例えば、左右チャンネル間で信号の位相が一致しない場合、再生音像は左右のスピーカの中央に正しく定位しないため、受聴者は聴覚上において他の位置に音源があるように感じる傾向にある。よって、左右のスピーカの位相が合っていないと、再生音が不自然な方向から発生しているといった違和感を受聴者に与えてしまう場合がある。チャンネル間の信号の位相の不一致は、異なるイコライザ係数が適用されたチャンネル間でのみ発生するため、チャンネル間のイコライザ係数を同一にすれば回避可能であると言える。ただし、チャンネル間のイコライザ係数を同一にすると、各チャンネルに対して独立した周波数特性補正を行えなくなるため、周波数特性の補正能力は減少してしまう。
【0063】
ここで、イコライザ係数を同一に設定し位相を一致させる複数のチャンネルのグループを「同位相グループ」と呼ぶこととする。他方で、どの同位相グループにも属さないチャンネルを「独立チャンネル」と呼ぶこととする。なお、本発明における「補正グループ」は、同位相グループに属する複数のチャンネル、及び/又は独立チャンネルとしての1つのチャンネルによって構成される。
【0064】
各チャンネルの周波数特性を所望の特性と一致させることを優先するか、それともチャンネル間の位相を一致させることを優先するかは、トレードオフの関係がある。したがって、どのチャンネルの組み合わせを同位相グループとして設定するかによって、周波数特性補正処理における周波数特性と位相一致との優先関係が決まる。周波数特性補正を優先すると、所望の周波数特性と一致するチャンネルの数が増え、各チャンネルの音色がより均一になる。他方で、位相一致を優先すると、位相が一致するチャンネルの数が増え、音像定位の精度が向上する。
【0065】
次に、
図7を参照して、本実施例に係る周波数特性補正方式について具体的に説明する。
図7は、周波数特性補正方式の一例を説明するための図を示している。なお、
図7では、同位相グループを破線にて示している。
【0066】
図7(A)は、同位相グループを設定せず、全てのチャンネルを独立チャンネルとして周波数特性補正を行うための周波数特性補正方式(以下では「第1補正方式」と呼ぶ。)を示している。基本的には、第1補正方式によれば、各チャンネルで異なるイコライザ係数が設定されることとなる。この第1補正方式では、周波数特性補正を優先しているため、周波数特性の補正能力は後述する第2及び第3補正方式よりも高い。しかしながら、第1補正方式では、複数のチャンネル間で信号の位相の不一致が生じやすく、受聴者が感じる音像定位の違和感が大きくなる傾向にある。なお、第1補正方式では、各チャンネルが別々のグループに設定された補正グループが適用される。
【0067】
図7(B)は、左右一対のチャンネルを同位相グループに設定して周波数特性補正を行うための周波数特性補正方式(以下では「第2補正方式」と呼ぶ。)を示している。
図7(B)で示す第2補正方式の例では、FLチャンネルとFRチャンネルとで同一のイコライザ係数が設定され、SLチャンネルとSRチャンネルとで同一のイコライザ係数が設定され、SBLチャンネルとSBRチャンネルとで同一のイコライザ係数が設定されることとなる。このような第2補正方式では、周波数特性補正と位相一致とのバランスを重視しており、左右一対のチャンネル間の信号の位相の一致が確保されるため、受聴者が聴感上の音像定位の違和感を大きく感じることはない。また、左右のチャンネル間で周波数特性が大きく異なることがない限りは、周波数特性の補正能力も高い。なお、第2補正方式では、左右一対のチャンネルが同一のグループに設定され(つまりFLチャンネルとFRチャンネルとが同一のグループに設定され、SLチャンネルとSRチャンネルとが同一のグループに設定され、SBLチャンネルとSBRチャンネルとが同一のグループに設定され)、Cチャンネルのみが1つのグループに設定された補正グループが適用される。
【0068】
図7(C)は、全てのチャンネルを1つの同位相グループに設定して周波数特性補正を行うための周波数特性補正方式(以下では「第3補正方式」と呼ぶ。)を示している。第3補正方式によれば、全てのチャンネルで同一のイコライザ係数が設定されることとなる。この第3補正方式では、位相一致を優先しているため、全てのチャンネル間で信号の位相の一致は確保されるが、周波数特性の補正能力は第1及び第2補正方式よりも低い。なお、第3補正方式では、全てのチャンネルが同一のグループに設定された補正グループが適用される。
【0069】
各チャンネルの周波数特性補正とチャンネル間の位相一致とのトレードオフの関係から、以下の(1)〜(3)のように周波数特性補正方式を選択することで、それぞれの音場環境(視聴環境)に応じた最適な周波数特性補正を行うことができる。
(1)全チャンネルの周波数特性がある程度同じである音場環境では、位相一致優先の第3補正方式にて周波数特性補正を行う。
(2)左右チャンネルの周波数特性のみがある程度同じである音場環境では、周波数特性補正優先と位相一致優先とのバランス重視の第2補正方式にて周波数特性補正を行う。
(3)(1)及び(2)以外の音場環境では、周波数特性補正優先の第1補正方式にて周波数特性補正を行う。
【0070】
(1)の全チャンネルの周波数特性がある程度同じである音場環境において、第2補正方式にて周波数特性補正を行う場合を考える。この場合、全チャンネルの周波数特性はある程度同じであるが完全には同じでないため、周波数特性補正の結果として前後のチャンネル間でイコライザ係数が異なるものとなり位相の不一致が発生する。この位相の不一致により、全チャンネルの周波数特性がある程度同じであるという音場環境の本来の素性の良さを損ねる可能性がある。そのため、このような音場環境では、第2補正方式を用いるのは適切でないと言える。
【0071】
(3)の(1)及び(2)以外の音場環境に該当する左右チャンネルの周波数特性が異なる音場環境において、第2補正方式にて周波数特性補正を行う場合を考える。この場合、周波数特性が異なる左右チャンネルに対して左右一対チャンネルを同位相グループとする周波数特性補正を行うため、周波数特性の補正能力は低くなる。よって、左右一対チャンネル間で位相が一致することによる音像定位の精度の向上よりも、左右チャンネルの音色の不一致の違和感の方が目立つことになる。そのため、このような音場環境では、第2補正方式を用いるのは適切でないと言える。
【0072】
次に、
図8を参照して、上記した周波数特性補正方式の選択などを含む自動音場補正処理の概要について説明する。
図8は、自動音場補正処理のメイン処理を示すフローチャートである。当該処理は、信号処理回路2内の係数演算部30によって実行される。
【0073】
始めに、ステップS10の周波数特性補正方式選択処理では、係数演算部30内の周波数特性補正方式選択部14によって、全チャンネルの周波数特性の分析結果から周波数特性補正方式を決定する処理が行われる。次に、ステップS20の周波数特性補正処理では、係数演算部30内の周波数特性補正部11によって、イコライザEQ1〜EQ8の周波数特性を調整する処理が行われる。次に、ステップS30のチャンネル間レベル補正処理では、係数演算部30内のチャンネル間レベル補正部12によって、各チャンネルに設けられているチャンネル間アッテネータATG1〜ATG8の減衰率を調節する処理が行われる。次に、ステップS40の遅延特性補正処理では、係数演算部30内の遅延特性補正部13によって、全チャンネルの遅延回路DLY1〜DLY8の遅延時間を調整する処理が行われる。
【0074】
次に、各処理段階の動作を順に詳述する。まず、
図9を参照して、
図8のステップS10の周波数特性補正方式選択処理について説明する。
図9は、周波数特性補正方式選択処理を示すフローチャートである。
【0075】
まず、全てのチャンネルについてチャンネル間レベル補正処理を行う(ステップS101)。この処理は、全てのチャンネルのイコライザEQの周波数特性をフラット(イコライザ係数をすべて0)に調整した状態にて行う。具体的には、まず、信号処理部20において、スイッチSW11をオンにすると同時にスイッチSW12をオフとすることにより、1つのチャンネル(例えばFLチャンネル)に測定用信号DN(ピンクノイズ)が供給され、その測定用信号DNがスピーカ6FLから出力される。マイクロホン8はその信号を集音し、増幅器9及びA/D変換器10を通じて集音データDMが係数演算部30内のチャンネル間レベル補正部12へ供給される。チャンネル間レベル補正部12では、レベル検出部12aが集音データDMの音圧レベルを検出し、調整量決定部12bへ送る。調整量決定部12bは、目標レベルテーブル12cに予め設定されている所定の音圧レベルと一致するようにチャンネル間アッテネータATG1の調整信号SG1を生成し、チャンネル間アッテネータATG1へ供給する。こうして、1つのチャンネルのレベルが所定のレベルと一致するように補正される。この処理を各チャンネルに対して順に行い、全てのチャンネルについてレベル補正が完了した時点で、処理はステップS102に進む。
【0076】
ここで、ステップS101にてレベル補正を行う理由について説明する。レベル補正を行わない場合は、通常、チャンネル間のレベルが一致していない場合が多い。他方で、以降の処理で行われるチャンネル間の周波数特性比較では、チャンネル間の各周波数帯域のレベル差からチャンネル間の周波数特性が異なるか否かが判定される。したがって、レベル補正を行わないと、チャンネル間のレベルが一致していないため、チャンネル間の周波数特性比較において、同じ周波数特性のカーブを持つチャンネル同士であってもチャンネル間の周波数特性が異なると誤判定される可能性が高くなる。以上のことから、以降の処理で行われるチャンネル間の周波数特性比較においてチャンネル間の周波数特性が異なるか否かを正確に判定するために、ステップS101にてレベル補正を事前に行っている。
【0077】
続いて、ステップS102以降において、各チャンネルに対して周波数特性の分析が行われる。具体的には、1つのチャンネル(例えばFLチャンネル)から測定用信号DNを出力し(ステップS102)、マイクロホン8でこれを集音する(ステップS103)。集音データDMは信号処理回路2中の周波数特性補正方式選択部14に供給され、バンドパスフィルタ14aによって周波数分割されて補正方式決定部14cに供給される。このため、補正方式決定部14cには、各周波数帯域のレベルを示すデータ[PxJ]が供給される。補正方式決定部14cに供給されたデータ[PxJ]は一時的にメモリ14dに格納される(ステップS104)。1つのチャンネルについて周波数特性分析が完了すると、全てのチャンネルについて周波数特性分析が完了したか否かのチェックが行われる(ステップS105)。全てのチャンネルについて周波数特性分析が完了していない場合は(ステップS105:No)、次のチャンネルについて同様に周波数特性分析が行われる(ステップS102〜S104)。そして、全てのチャンネルについて周波数特性分析が完了すると(ステップS105:Yes)、次に、メモリ14dに格納された各チャンネルの周波数特性の分析結果[PxJ]から、周波数特性補正方式を決定するためにチャンネル間の周波数特性比較が行われる。
【0078】
チャンネル間の周波数特性比較においては、まず左右チャンネル間の周波数特性比較が行われる(ステップS106)。左右チャンネル間の周波数特性比較の結果、左右チャンネル間の周波数特性が異なると判断された場合(ステップS107:Yes)、つまり左右チャンネル間の周波数特性が類似していない(言い換えると相関がない)と判断される場合、周波数補正方式を第1補正方式に設定し(ステップS108)、処理は
図8のメインルーチンへ戻る。他方で、左右チャンネル間の周波数特性が異ならないと判断された場合は(ステップS107:No)、つまり左右チャンネル間の周波数特性が類似している(言い換えると相関がある)と判断される場合、前後チャンネル間の周波数特性比較が行われる(ステップS109)。
【0079】
そして、前後チャンネル間の周波数特性比較の結果、前後チャンネル間の周波数特性が異なると判断された場合は(ステップS110:Yes)、つまり前後チャンネル間の周波数特性が類似していない(言い換えると相関がない)と判断される場合、周波数補正方式を第2補正方式に設定し(ステップS111)、処理は
図8のメインルーチンへ戻る。他方で、前後チャンネル間の周波数特性が異ならないと判断された場合は(ステップS110:No)、つまり前後チャンネル間の周波数特性が類似している(言い換えると相関がある)と判断される場合、周波数補正方式を第3補正方式に設定し(ステップS112)、処理は
図8のメインルーチンへ戻る。
【0080】
ここで、
図10を参照して、チャンネル間の周波数特性比較の手法について説明する。
図10で示す手法は、チャンネル間の周波数特性に相関があるか否かを判断する手法の一例に相当する。なお、
図10では、チャンネル間の周波数特性の差分を計算することを、実線矢印にて示している。
【0081】
図10(A)は、左右チャンネル間の周波数特性比較の一例を説明するための図である。まず、左右一対のチャンネル間にてデータ[PxJ]の差分の絶対値[DyJ]を計算する。「x」はチャンネル番号1〜8であり、「J」は周波数帯域番号1〜9であり、「y」はチャンネル間の番号である。この例では、「y=1〜3」であり、FLチャンネルとFRチャンネル、SLチャンネルとSRチャンネル、及びSBLチャンネルとSBRチャンネルの3つの左右チャンネル間について、差分の絶対値[DyJ]が計算される。次に、計算された絶対値[DyJ]の最大値Dmaxを求め、最大値Dmaxと所定の閾値TH
LRとを比較する。最大値Dmaxが閾値TH
LRより大きい場合には、周波数特性が左右チャンネル間で異なると判断され(
図9のステップS107:Yes)、最大値Dmaxが閾値TH
LR以下である場合には、周波数特性が左右チャンネル間で異ならないと判断される(
図9のステップS107:No)。
【0082】
図10(B)は、前後チャンネル間の周波数特性比較の一例を説明するための図である。まず、前後のチャンネル間にてデータ[PxJ]の差分の絶対値[DyJ]を計算する。「x」はチャンネル番号1〜8であり、「J」は周波数帯域番号1〜9であり、「y」はチャンネル間の番号である。この例では、「y=1〜3」であり、CチャンネルとFL/FRチャンネル、FL/FRチャンネルとSL/SRチャンネル、及びSL/SRチャンネルとSBL/SBRチャンネルの3つの前後チャンネル間について、差分の絶対値[DyJ]が計算される。より詳しくは、左右一対のFL/FRチャンネル、SL/SRチャンネル及びSBL/SBRチャンネルについては、データ[PxJ]ではなく、左右一対のチャンネルの周波数特性を合成(平均化)したデータ[P’zJ]を用いる(
図10(B)中の矩形領域参照)。「z」は左右一対のチャンネル番号であり、この例では「z=1〜3」である。次に、計算された絶対値[DyJ]の最大値Dmaxを求め、最大値Dmaxと所定の閾値TH
FBとを比較する。最大値Dmaxが閾値TH
FBより大きい場合には、周波数特性が前後チャンネル間で異なると判断され(
図9のステップS110:Yes)、最大値Dmaxが閾値TH
FB以下である場合には、周波数特性が前後チャンネル間で異ならないと判断される(
図9のステップS110:No)。
【0083】
このようなチャンネル間の周波数特性比較は、チャンネル間で周波数帯域のどこか一箇所でもレベル差の大きいところがあると、聴覚上チャンネル間で音色の不一致を感じるということを前提としている。そのため、周波数帯域におけるレベルの差分の絶対値[DyJ]についての最大値Dmaxを求めた上で、最大値Dmaxと所定の閾値TH
LR、TH
FBとを比較するという処理を採用している。
【0084】
なお、周波数帯域(例えば低域、中域、高域の3つの帯域)ごとに別々に最大値Dmaxを求めて、帯域ごとに異なる値を有する閾値TH
LR、TH
FBを用いて、チャンネル間の周波数特性比較を行っても良い。こうするのは、定圧波やマイクロホン8に対するスピーカ6の向きの影響が帯域により異なるからである。この場合にも、得られた複数の最大値Dmaxの中で1つでも閾値TH
LR、TH
FBよりも大きな値が存在すれば、左右チャンネル間又は前後チャンネル間で周波数特性が異なると判断される。
【0085】
また、上記では、前後チャンネル間の周波数特性を比較するに当たって、CチャンネルとFL/FRチャンネル、FL/FRチャンネルとSL/SRチャンネル、及びSL/SRチャンネルとSBL/SBRチャンネルの3つの前後チャンネルを用いていたが(
図10(B)参照)、これらに加えて、FL/FRチャンネルとSBL/SBRチャンネル、CチャンネルとSL/SRチャンネル、及びCチャンネルとSBL/SBRチャンネルの3つの前後チャンネルを更に用いても良い。
【0086】
また、上記では、差分の絶対値[DyJ]の最大値Dmaxと閾値TH
LR、TH
FBとを比較することで、チャンネル間の周波数特性を比較する方法を例示したが、この方法を用いることに限定はされない。比較対象となっているチャンネル間の周波数特性の相関関係(周波数振幅レベルの相関関係)が分かれば、最大値Dmaxと閾値TH
LR、TH
FBとを比較する方法以外にも種々の方法を適用することができる。他の1つの例では、チャンネル間のデータ[PxJ]の相関値などを用いることができる。
【0087】
次に、
図11を参照して、
図8のステップS20の周波数特性補正処理について説明する。
図11は、周波数特性補正処理を示すフローチャートである。
【0088】
まず、同位相グループが存在するか否かが判断される(ステップS201)。同位相グループが存在すると判断された場合(ステップS201:Yes)、処理はステップS202に進む。
図9の周波数特性補正方式選択処理にて、第2補正方式又は第3補正方式が設定された場合には、同位相グループが存在すると判断される。一方で、同位相グループが存在しないと判断された場合(ステップS201:No)、処理はステップS208に進む。
図9の周波数特性補正方式選択処理にて、第1補正方式が設定された場合には、同位相グループが存在しないと判断される。
【0089】
ステップS202では、同位相グループに属する複数のチャンネルについてチャンネル間レベル補正処理を行う。なお、ここでは、FLチャンネルとFRチャンネルとが同位相グループである場合を例に挙げる。ステップS202の処理は、チャンネル間レベル補正の対象となるチャンネルのイコライザEQの周波数特性をフラット(イコライザ係数をすべて0)に調整した状態にて行う。具体的には、まず、信号処理部20において、スイッチSW11をオンにすると同時にスイッチSW12をオフとすることにより、1つのチャンネル(例えばFLチャンネル)に測定用信号DN(ピンクノイズ)が供給され、その測定用信号DNがスピーカ6FLから出力される。マイクロホン8はその信号を集音し、増幅器9及びA/D変換器10を通じて集音データDMが係数演算部30内のチャンネル間レベル補正部12へ供給される。チャンネル間レベル補正部12では、レベル検出部12aが集音データDMの音圧レベルを検出し、調整量決定部12bへ送る。調整量決定部12bは、目標レベルテーブル12cに予め設定されている所定の音圧レベルと一致するようにチャンネル間アッテネータATG1の調整信号SG1を生成し、チャンネル間アッテネータATG1へ供給する。こうして、1つのチャンネルのレベルが所定のレベルと一致するように補正される。この処理を、各チャンネルに対して順に行い、同位相グループに属する全てのチャンネルについてレベル補正が完了した時点で、処理はステップS203に進む。
【0090】
ここで、ステップS202にてレベル補正を行う理由について説明する。レベル補正を行わない場合は、通常、同位相グループに属する複数チャンネル間のレベルが一致していない場合が多い。そのため、レベル補正を行わないと、以降の処理で行われる周波数特性補正時にレベルの高い特定のチャンネルの特性が支配的となり、チャンネル間で平等の測定ができなくなる場合がある。以上のことから、以降の処理で行われる周波数特性補正を正確に行うために、ステップS202にてレベル補正を事前に行っている。
【0091】
ステップS202の処理によりFLチャンネルとFRチャンネルとのレベルが一致すると、ステップS203以降において、それらのチャンネルに対して同時に周波数特性補正が行われる。具体的には、同位相グループに属するチャンネル、即ちFLチャンネルとFRチャンネルとから同時に測定用信号DNを出力し(ステップS203)、マイクロホン8でこれを集音して集音データDMを信号処理回路2へ入力する(ステップS204)。信号処理回路2中の周波数特性補正部11は、集音データDMに基づいてイコライザEQ1及びEQ2の特性を調整するためのイコライザ係数SF1及びSF2を演算し(ステップS205)、それぞれイコライザEQ1及びEQ2へ供給してFLチャンネル及びFRチャンネルの周波数特性を補正する(ステップS206)。これにより、FLチャンネル及びFRチャンネルの周波数特性は、所望の特性に設定される。また、FLチャンネル及びFRチャンネルは同一の補正パラメータ(イコライザ係数)により補正されるので、両チャンネルの位相は相互に一致する。よって、FLチャンネルとFRチャンネルとの間の位相を相互一致させ、かつ、両チャンネルをほぼ所望の周波数特性に設定することができる。
【0092】
なお、上記の例ではFLチャンネルとFRチャンネルとを同位相グループとしているが、同位相グループとして選択するチャンネルの数及び組み合わせは様々に設定可能である。 こうして、1グループの同位相チャンネルについて周波数特性補正が完了すると、他に同位相グループがあるか否かがチェックされる(ステップS207)。他に同位相グループがある場合には(ステップS207:No)、次の同位相グループについて同様に周波数特性補正が行われる(ステップS202〜S206)。
【0093】
一方で、他に同位相グループがない場合には(ステップS207:Yes)、つまり全ての同位相チャンネルのグループについて周波数特性補正が完了すると、ステップS208以降において、残りのチャンネル、即ち同位相グループに属しない独立チャンネルについて周波数特性補正を行う。まず、独立チャンネルが存在するか否かが判断される(ステップS208)。独立チャンネルが存在しないと判断された場合(ステップS208:No)、処理は
図8のメインルーチンへ戻る。これに対して、独立チャンネルが存在すると判断された場合(ステップS208:Yes)、ステップS209以降において独立チャンネルについて周波数特性補正を行う。具体的には、1つの独立チャンネルから測定用信号DNを出力し(ステップS209)、マイクロホン8でこれを集音する(ステップS210)。信号処理回路2中の周波数特性補正部11は、集音データDMに基づいて、当該独立チャンネルに用いるイコライザ係数SFを演算し(ステップS211)、イコライザEQへ供給して当該独立チャンネルの周波数特性を補正する(ステップS212)。
【0094】
こうして、1つの独立チャンネルについて周波数特性補正が完了すると、全ての独立チャンネルについて周波数特性補正が完了したか否かのチェックが行われる(ステップS213)。全ての独立チャンネルについて周波数特性補正が完了していない場合は(ステップS213:No)、次の独立チャンネルについて同様に周波数特性補正が行われる(ステップS209〜S212)。そして、全てのチャンネルについて周波数特性補正が完了すると(ステップS213:Yes)、処理は
図8のメインルーチンへ戻る。
【0095】
なお、
図9の周波数特性補正方式選択処理が終了した時点で、周波数特性補正方式選択部14内のメモリ14dには全チャンネル分の各周波数帯域のレベルを示すデータ[PxJ]が格納されているため、このデータ[PxJ]を
図11の周波数特性補正処理で用いても良い。そうした場合、ステップS202〜S205の帯域毎の分析、及びステップS209〜S211の帯域毎の分析を省略することができ、処理時間を短縮することが可能となる。但し、同位相グループの周波数特性補正については、ステップS205のイコライザ係数の設定の前に、同位相グループに属する全てのチャンネルのデータ[PxJ]についての平均値[P’zJ]を求める処理を追加することとなる。
【0096】
次に、
図12を参照して、
図8のステップS30のチャンネル間レベル補正処理について説明する。
図12は、チャンネル間レベル補正処理を示すフローチャートである。なお、チャンネル間レベル補正処理は、先の周波数特性補正処理により設定されたグラフィックイコライザGEQの周波数特性を上記周波数特性補正処理で調整した状態に維持して行われる。
【0097】
まず、信号処理部20において、スイッチSW11をオンにすると同時にスイッチSW12をオフとすることにより、1つのチャンネル(例えばFLチャンネル)に測定用信号DN(ピンクノイズ)が供給され、その測定用信号DNがスピーカ6FLから出力される(ステップS301)。マイクロホン8はその信号を集音し、増幅器9及びA/D変換器10を通じて集音データDMが係数演算部30内のチャンネル間レベル補正部12へ供給される(ステップS302)。チャンネル間レベル補正部12では、レベル検出部12aが集音データDMの音圧レベルを検出し、調整量決定部12bへ送る。調整量決定部12bは、目標レベルテーブル12cに予め設定されている所定の音圧レベルと一致するようにチャンネル間アッテネータATG1の調整信号SG1を生成し、チャンネル間アッテネータATG1へ供給する(ステップS303)。こうして、1つのチャンネルのレベルが所定のレベルと一致するように補正される。この処理を、各チャンネルに対して順に行い、全てのチャンネルについてレベル補正が完了した時点で(ステップS304:Yes)、処理は
図8のメインルーチンへ戻る。
【0098】
次に、
図13を参照して、
図8のステップS40の遅延特性補正処理について説明する。
図13は、遅延特性補正処理を示すフローチャートである。
【0099】
まず、1つのチャンネル(例えばFLチャンネル)について、SW11をオンにすると同時にSW12をオフとして、測定用信号DNをスピーカ6から出力する(ステップS401)。次に、出力された測定用信号DNをマイクで集音し、集音データDMが係数演算部30内の遅延特性補正部13に入力される(ステップS402)。遅延特性補正部13内では、遅延量演算部13aがそのチャンネルの遅延量を演算により求め、一時的にメモリ13cに記憶する(ステップS403)。この処理が他の全てのチャンネルについて実行される。全てのチャンネルについて処理が完了した時点で(ステップS404:Yes)、メモリ13cには全てのチャンネルの遅延量が記憶されることになる。次に、係数演算部13bはメモリ13cの記憶内容に基づいて、全てのチャンネルのうち最大遅延量を有するチャンネルを基準とし、他の全てのチャンネルの信号が同時に受聴位置RVに到達するように各チャンネルの遅延回路DLY1〜DLY8の係数を決定し、各遅延回路DLYに供給する(ステップS405)。そして、遅延特性補正処理が完了する。こうして、周波数特性、チャンネル間レベル及び遅延特性が補正され、自動音場補正が完了する。
【0100】
[本実施例の作用・効果]
以上説明した本実施例によれば、ユーザの視聴環境での各チャンネルの周波数特性を分析した結果に基づいて、周波数特性補正方式を選択して設定する。これにより、ユーザの視聴環境にとって最適な周波数特性補正方式を自動で設定することができる。具体的には、ユーザの視聴環境が音色の均一さと音像定位とのバランスにおいて最良となるような周波数特性補正方式を自動で設定することができる。
【0101】
また、本実施例によれば、最適な周波数特性補正方式を自動で設定するため、ユーザは、視聴環境にとって最適な周波数特性補正方式を見つけるために周波数特性補正方式を変えて自動音場補正を何度も繰り返す必要はない。加えて、ユーザは、視聴環境を的確に把握したり、用意された周波数特性補正方式を適切に理解したりする必要もない。
【0102】
[変形例]
上記した実施例では、同位相グループのチャンネルの組み合わせとして3つの例を示したが(
図7(A)〜(C)参照)、これ以外にも、同位相グループのチャンネルの組み合わせは適宜設定可能である。また、上記の実施例では、そのような3つの組み合わせについて用いる3つの周波数特性補正方式(第1乃至第3補正方式)を示したが、これ以外の同位相グループのチャンネルの組み合わせを用いた場合には、その組み合わせごとに用いる最適な周波数特性補正方式を設定すれば良い。
【0103】
また、上記した実施例では、左右チャンネル間の周波数特性及び前後チャンネル間の周波数特性の両方を比較していたが(例えば
図9参照)、左右チャンネル間の周波数特性及び前後チャンネル間の周波数特性のうちのいずれか一方のみを比較しても良い。例えば、左右チャンネル間の周波数特性のみを比較する場合には、左右チャンネル間の周波数特性が異なる場合には周波数補正方式を第1補正方式に設定し、左右チャンネル間の周波数特性が異ならない場合には周波数補正方式を第2補正方式に設定しても良い。他方で、例えば、前後チャンネル間の周波数特性のみを比較する場合には、前後チャンネル間の周波数特性が異なる場合には周波数補正方式を第1補正方式に設定し、前後チャンネル間の周波数特性が異ならない場合には周波数補正方式を第3補正方式に設定しても良い。
【0104】
また、上記した実施例では、周波数特性補正部11がバンドパスフィルタ11a及び係数テーブル11bを有すると共に、周波数特性補正方式選択部14がバンドパスフィルタ14a及び係数テーブル14bを有していたが(
図5(A)及び(B)参照)、1つのバンドパスフィルタ及び係数テーブルのみを設け、周波数特性補正方式選択部14と周波数特性補正部11とで当該バンドパスフィルタ及び当該係数テーブルを共有しても良い。これにより、DSPプログラムのサイズを縮小することができる。
【0105】
[適用例]
本発明は、例えばAVレシーバやホームシアターシステムなどに適用することができる。