(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
有害金属を含有する汚染土壌に前記有害金属を不溶化する不溶化処理剤を添加して混合し、前記汚染土壌中の有害金属を不溶化する汚染土壌の有害金属不溶化処理方法であって、
前記有害金属が、鉛、ヒ素、カドミウム、及びホウ素から選ばれた少なくとも1種の金属であり、
前記不溶化処理剤が、アルカリ成分と、一般式Fe(OH)x(SO4)1.5-x/2(但し、xは0<x<3)又は一般式Fe(OH)y(SO4)1-y/2(但し、yは0<y<2)で表される水酸化鉄クラスターとを含む酸化水酸化鉄含有製鋼スラグであることを特徴とする汚染土壌の有害金属不溶化処理方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来においても、幾つかの不溶化処理技術が知られており、その1つとして、高炉スラグ及び鉄塩を用いる技術が知られている(特許文献1)。この従来法では、有害金属として六価クロム及び/又はヒ素を対象にして、高炉スラグ及び鉄塩(硫酸第一鉄及び/又は塩化第二鉄)とを含有し、かつ、該高炉スラグよりもアルカリ度の高い材料を実質的に含有しないものを該有害金属の不溶化資材として用いている。しかしながら、この特許文献1の実施例には、陰イオン性重金属である六価クロムやヒ素についての不溶化の例が記載されているだけで、陽イオン性重金属である鉛やカドミウム等に対する不溶化効果については記載されていない。
【0008】
また、重金属を含む有害物質の溶出低減材として、高炉徐冷スラグ及び製鋼スラグを用いる技術が知られている(特許文献2)。この従来法では、還元性硫黄化合物を多く含む高炉徐冷スラグを用いるため、土壌と混合した後に、還元雰囲気になると硫化水素が発生する可能性があり、環境保全の面で問題となる虞がある。
【0009】
そこで、本発明者らは、鉄鋼スラグの中でも、製鋼スラグが高炉スラグに比べて有害金属の不溶化能力が高いことに着目し、更に、この製鋼スラグに水酸化鉄クラスターを添加し、混合することにより、酸化水酸化鉄含有製鋼スラグが得られ、この酸化水酸化鉄含有製鋼スラグに含まれるアルカリ成分及び酸化水酸化鉄が有害金属の不溶化処理に有効であることを突き止め、本発明を完成した。
【0010】
従って、本発明では、上記のような従来技術の問題点を解決するために、製鋼スラグを用いて汚染土壌に含まれる陽イオン性重金属及び陰イオン性重金属の両方を不溶化できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、次の(1)〜(6)である。
(1) 有害金属を含有する汚染土壌に前記有害金属を不溶化する不溶化処理剤を添加して混合し、前記汚染土壌中の有害金属を不溶化する汚染土壌の有害金属不溶化処理方法であって、
前記有害金属が鉛、ヒ素、カドミウム、及びホウ素から選ばれた少なくとも1種の金属であり、
前記不溶化処理剤が、アルカリ成分
と、一般式Fe(OH)x(SO4)1.5-x/2(但し、xは0<x<3)又は一般式Fe(OH)y(SO4)1-y/2(但し、yは0<y<2)で表される水酸化鉄クラスターとを含む酸化水酸化鉄含有製鋼スラグであることを特徴とする汚染土壌の有害金属不溶化処理方法。
(2) 有害金属を含有する汚染土壌に前記有害金属を不溶化する不溶化処理剤を添加して混合し、前記汚染土壌中の有害金属を不溶化する汚染土壌の有害金属不溶化処理方法であって、
前記有害金属が、鉛、ヒ素、カドミウム、及びホウ素から選ばれた少なくとも1種の金属であり、
前記不溶化処理剤が、アルカリ成分と、一般式Fe(OH)x(SO4)1.5-x/2(但し、xは0<x<3)又は一般式Fe(OH)y(SO4)1-y/2(但し、yは0<y<2)で表される水酸化鉄クラスターとを混合してなる酸化水酸化鉄含有製鋼スラグであることを特徴とする汚染土壌の有害金属不溶化処理方法。
【0012】
(3) 前記不溶化処理剤が、製鋼スラグに水酸化鉄クラスター〔Fe(OH)
x(SO
4)
1.5-x/2、但し、xは0<x<3〕を添加し混合して得られた酸化水酸化鉄含有製鋼スラグである
(2)に記載の汚染土壌の有害金属不溶化処理方法。
(4) 前記製鋼スラグ中への
前記水酸化鉄クラスターの添加量が、製鋼スラグのf-CaO含有割合をA質量%として、製鋼スラグ1kg当りに対して20×A/[56.08×(3−x)][mol]以上4/(3−x)[mol]以下である
(3)に記載の汚染土壌の有害金属不溶化処理方法。
【0013】
(5)前記汚染土壌中に、有害金属不溶化処理後の土壌のpHが6.9〜7.8となるように不溶化処理剤を添加する
(1)〜(4)のいずれかに記載の汚染土壌の有害金属不溶化処理方法。
(6)前記不溶化処理剤の添加量が、汚染土壌100質量部に対して、10〜25質量部である
(5)に記載の汚染土壌の有害金属不溶化処理方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アルカリ成分及び酸化水酸化鉄を含む酸化水酸化鉄含有製鋼スラグを、不溶化処理剤として、有害金属、特に、陽イオン性重金属(例えば、鉛)及び/又は陰イオン性重金属(例えば、ヒ素)で汚染された土壌に添加し、混合することによって、有害金属(特に、鉛及び/又はヒ素)で汚染された土壌を不溶化させることができ、汚染土壌の有効活用を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、有害金属を含有する汚染土壌に、アルカリ成分及び酸化水酸化鉄を含む酸化水酸化鉄含有製鋼スラグを不溶化処理剤として混合し、該酸化水酸化鉄含有製鋼スラグ中のアルカリ成分及び酸化水酸化鉄により有害金属を不溶化させるものである。
【0017】
ここで、本発明において、「不溶化」とは、汚染土壌に不溶化処理剤等を添加し、混合することによって、汚染土壌に含まれる重金属を溶出し難い状態にすることであって、環境庁告示46号及び環境省告示19号に従って測定された不溶化処理済み汚染土壌からの重金属の溶出量及び含有量が環境基準値以下になるように、汚染土壌を処理することである。
【0018】
また、本発明において、「有害金属」とは、土壌汚染対策法で規制対象となっている重金属等を指すが、本発明においては、これらの重金属の内、特に鉛及び/又はヒ素が不溶化処理の主たる対象である。鉛及び/又はヒ素を主たる対象とした理由は、土壌環境基準を超過した汚染土壌の多くが鉛及び/又はヒ素で汚染されているためである(非特許文献1)。
【0019】
本発明においては、このように主として鉛及び/又はヒ素で汚染されている汚染土壌を不溶化処理の主たる対象としているが、処理対象として特に好適な汚染土壌は、鉛及び/又はヒ素の含有量が土壌含有量基準(鉛:150mg/kg、ヒ素:150mg/kg)を超過せず、かつ、鉛及び/又はヒ素の溶出量が土壌溶出量基準(鉛:0.01mg/L、ヒ素:0.01mg/L)を超過し、かつ、鉛及び/又はヒ素の溶出量は第二溶出量基準(鉛:0.3mg/L、ヒ素:0.3mg/L)を超過しない汚染土壌である。なお、鉛、ヒ素等の有害金属の含有量及び溶出量は、環境省告示19号及び環境庁告示46号に従って測定され、その方法は次の通りである。
【0020】
環境省告示19号では、カドミウム、水銀、セレン、鉛、ヒ素、フッ素、ホウ素の含有量の測定方法について、次のように説明されている。
風乾させたスラグを2mm以下に破砕し、得られた破砕品を6g以上量り採って試料とし、試料(単位g)と溶媒(1mol/L-塩酸)(単位mL)とを質量体積比3%の割合で混合した試料液を、ポリエチレン製容器等(測定対象物質が吸着又は溶出せず、かつ、溶媒の1.5倍以上の容積を持つ容器)に入れて蓋をし、振とう機(予め、振とう回数を毎分200回に、振とう幅を4cm以上5cm以下に調整したもの)にセットし、室温(概ね25℃)及び常圧(概ね1気圧)の条件下に2時間連続して振とうする。振とう終了後、試料液を10分から30分程度静置した後、必要に応じ遠心分離し、上澄み液を孔径0.45μmのメンブランフィルターでろ過してろ液を採取し、測定対象物質の濃度を定量する。六価クロムについては、溶媒として、純水に炭酸ナトリウム0.005mol〔炭酸ナトリウム(無水物):0.53g〕及び炭酸水素ナトリウム0.01mol(炭酸水素ナトリウム:0.84g)を溶解して1Lとしたものを用いて、他の溶出条件は前述と同じ溶出条件にてろ液を準備し、六価クロムの濃度を定量する。なお、風乾させたスラグの質量とこれを105℃で約4時間乾燥させて得られたスラグの質量とを測定して風乾させたスラグに含まれる水分量を求め、105℃で約4時間乾燥させたスラグ1kgに含まれる測定対象物質の含有量(単位:mg/kg)を計算する。
【0021】
環境省告示46号では、鉛、ヒ素、カドミウム、六価クロム、フッ素、ホウ素、総水銀、セレンの溶出量の測定方法については、風乾させたスラグを2mm以下に破砕し、得られた破砕品を試料とし、試料(単位g)と溶媒(純水に塩酸を加え、水素イオン濃度指数が5.8以上6.3以下となるように調整したもの;単位mL)
とを、質量体積比10%の割合で、かつ、その混合液が500mL以上となるように混合し、得られた試料液を、ポリエチレン製容器等(測定対象物質が吸着又は溶出せず、かつ、溶媒の1.5倍以上の容積を持つ容器)に入れて蓋をし、振とう機(予め振とう回数を毎分200回に、振とう幅を4cm以上5cm以下に調整したもの)にセットし、室温(概ね25℃)及び常圧(概ね1気圧)の条件下に6時間連続して振とうする。振とう終了後、試料液を10分から30分程度静置した後、毎分約3000回転で20分間遠心分離した後の上澄み液を孔径0.45μmのメンブランフィルターでろ過してろ液を採取し、測定対象物質の濃度を定量し、溶出量(mg/L)とする。
【0022】
本発明においては、不溶化処理剤としてアルカリ成分及び酸化水酸化鉄を含む酸化水酸化鉄含有製鋼スラグが用いられるが、「製鋼スラグ」としては、少なくとも2種類のアルカリ成分、f-CaO〔CaO又はCa(OH)
2〕及びケイ酸カルシウムを含み、f-CaOの大半が製鋼スラグに含まれるケイ酸カルシウムやケイ酸カルシウム以外のスラグ鉱物相マトリックス中に分散している構造を有するものであり、例えば溶銑予備処理スラグ、転炉スラグ、二次精錬スラグ、電気炉スラグ等が例示され、また、「酸化水酸化鉄」とは、FeOOHの化学組成を有する物質であり、例えば、FeOOHの化学組成を有する非晶質の物質やゲータイト等の結晶質の物質が存在し、更に、「アルカリ成分」については、主として、製鋼スラグ中に元々含まれているf-CaOやケイ酸カルシウムを始めとして、製鋼スラグの種類によっては含まれているカルシウムアルミネート、カルシウムフェライト、炭酸カルシウム等を意味し、更には必要に応じて補足的に添加される試薬等の水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム等を挙げることができる。
【0023】
本発明において、アルカリ成分及び酸化水酸化鉄を含む酸化水酸化鉄含有製鋼スラグについては、それがどのような方法で調製されたものでもよいが、例えば、以下の第1〜第3の方法等を例示することができる。
すなわち、第1の方法は、製鋼スラグに水酸化鉄クラスターを添加して混合し、製鋼スラグ中に酸化水酸化鉄を生成させる方法である。ここで、水酸化鉄クラスターは、鉄塩を部分中和した時に生成する鉄の多核ヒドロキソ錯体であり、例えば日鉄鉱業株式会社のポリテツ(登録商標)等の一般式Fe(OH)
x(SO
4)
1.5-x/2(但し、xは0<x<3)で表される鉄(III)の塩や、一般式Fe(OH)
y(SO
4)
1-y/2(但し、yは0<y<2)で表される鉄(II)の塩等が例示される。
【0024】
また、第2の方法は、製鋼スラグに硫酸第一鉄(FeSO
4)を添加し、製鋼スラグ中の水酸化カルシウム〔Ca(OH)
2〕と反応させ、更に、空気中でエイジングさせて生成した水酸化第一鉄〔Fe(OH)
2〕を酸化させて酸化水酸化鉄を生成させる方法である。
更に、第3の方法は、製鋼スラグに水酸化第一鉄を添加し、空気中でエイジングさせて水酸化第一鉄を酸化させ、酸化水酸化鉄を生成させる方法である。
【0025】
なお、上記酸化水酸化鉄含有製鋼スラグの調製に用いられる製鋼スラグについては、原則としてこの製鋼スラグから溶出する成分や製鋼スラグに含まれる成分が土壌環境基準を超えてはならないが、超える場合であっても、酸化水酸化鉄を生成させた酸化水酸化鉄含有製鋼スラグにおいて土壌環境基準を超えなければよい。
【0026】
ところで、製鋼スラグから供給されるアルカリ成分には、主としてf-CaOとケイ酸カルシウムの2種類のスラグ鉱物相があるが、ケイ酸カルシウムは、大量に土壌に添加しても、土壌のpHを10以上に上げることはなく、更に長期的にアルカリ成分を供給できるという特徴があり、これに対して、f-CaOは土壌のpHを10以上に上げるため、場合によっては鉛やヒ素等のアルカリ可溶性の有害金属を再溶出させることがある。このため、不溶化処理剤として、酸化水酸化鉄含有製鋼スラグではなく未処理の製鋼スラグを用いた場合には、未処理の製鋼スラグから供給されるアルカリ成分が多くなり過ぎ、例えば、汚染土壌のpHが10以上の高いpH領域になって、鉛やヒ素等の有害金属が再溶出し易くなったり、また、製鋼スラグから溶出するアルカリ成分そのものが環境に悪影響を与えることも懸念される。
【0027】
そこで、土壌のpHを10以上に上げないためには、製鋼スラグに含まれるケイ酸カルシウムやケイ酸カルシウム以外のスラグ鉱物相マトリックス中に分散している、反応性の高いf-CaOを予め中和すればよいが、この観点から、本発明では、反応性の高いf-CaO由来のアルカリ成分を予め中和するためにも、酸化水酸化鉄含有製鋼スラグの調製方法については、製鋼スラグに水酸化鉄クラスターを添加して混合し、製鋼スラグ中に酸化水酸化鉄を生成させる上記第1の方法が好ましい。
【0028】
以下に、酸化水酸化鉄含有製鋼スラグを調製する上記第1の方法について、水酸化鉄クラスターとして一般式Fe(OH)
x(SO
4)
1.5-x/2(但し、xは0<x<3)で表される鉄(III)塩を用いる場合を例にして、より詳細に説明する。
製鋼スラグに対する水酸化鉄クラスターの添加量は、該製鋼スラグ中のf-CaO含有割合をA質量%とすると、製鋼スラグ1kg当たりに対して、20×A/[56.08×(3−x)][mol]以上4/(3−x)[mol]以下であるのが望ましい。
【0029】
ここで、製鋼スラグ中のf-CaOと水酸化鉄クラスターとの反応は、次のような反応式(1)で表すことができ、f-CaOの内のCaOは水和してCa(OH)
2になった後に反応する。
Fe(OH)
x(SO
4)
1.5-x/2+(1.5−x/2)Ca(OH)
2
→ FeOOH+(1.5−x/2)CaSO
4+H
2O……(1)
【0030】
ここで、製鋼スラグ1kg当たりに含まれるf-CaO量は10×A[g]であり、CaOの分子量は56.08であるので、10×Aをモル量に換算すると10×A/56.08[mol]となる。CaOが水和してCa(OH)
2になり、反応式(1)に従って、Fe(OH)
x(SO
4)
1.5-x/2と反応する時、10×A/56.08[mol]のCa(OH)
2は、20×A/{56.08×(3−x)}[mol]のFe(OH)
x(SO
4)
1.5-x/2と反応することになる。
【0031】
つまり、製鋼スラグに対する水酸化鉄クラスター〔Fe(OH)
x(SO
4)
1.5-x/2〕の添加量は、該製鋼スラグ中にf-CaOがA質量%含まれる場合、製鋼スラグ1kg当たりに対して、20×A/{56.08×(3−x)}[mol]となる。また、水酸化鉄クラスターの添加量は20×A/{56.08×(3−x)}[mol]以上でもよく、この場合には生成される酸化水酸化鉄の量がより多くなり、鉛及びヒ素等の有害金属の不溶化能を増強できる。製鋼スラグ1kgから供給できるアルカリ成分は、f-CaO及びケイ酸カルシウムから供給できるアルカリ成分を合わせると、多くの場合8〜10mol/kgである。
【0032】
このアルカリ成分全量を水酸化鉄クラスターで中和してしまうと、酸化水酸化鉄含有製鋼スラグから供給できるアルカリ成分が殆ど無くなるので、約半分の4mol/kgを中和すれば、酸化水酸化鉄をより多く生成させ、かつ、酸化水酸化鉄含有製鋼スラグから供給できるアルカリ成分を温存できるので好ましい。製鋼スラグ1kg当たりに対して、4molのアルカリ成分を中和するためには、反応式(1)よりFe(OH)
x(SO
4)
1.5-x/2を4/(3−x)[mol]添加すればよい。
【0033】
なお、製鋼スラグに対する水酸化鉄クラスターの添加量は、製鋼スラグのpH緩衝曲線に基づいて決定してもよい。pH緩衝曲線は、次のようにして描くことができる。気密性の高いポリ容器に、0.1mm以下に粉砕した製鋼スラグ10gと塩酸100mLとを入れる。塩酸の濃度は、製鋼スラグ1kgに対して1〜15molの塩酸を(1mol刻みで)供給できるように調整する。ポリ容器の蓋を閉め密閉し、ポリ容器を常温(概ね20℃)常圧(概ね1気圧)で振とう機(振とう回数が毎分約200回、振とう幅が4cm以上5cm以下)を用いて、15日間連続して振とうする。振とう終了後、溶液のpHを測定し、
図1のように製鋼スラグのpH緩衝曲線〔横軸が製鋼スラグに対する酸添加量(塩酸添加量)であって縦軸が溶液のpHであり、f-CaOによるpH緩衝領域A、ケイ酸カルシウムによるpH緩衝領域B、及びウスタイト等によるpH緩衝領域Cが存在する。〕を描き、f-CaOやケイ酸カルシウムを中和するのに必要な酸添加量を求める。こうして求めた酸添加量に相当するFe(OH)
x(SO
4)
1.5-x/2を製鋼スラグに添加してもよい。
【0034】
以上から、製鋼スラグに対する水酸化鉄クラスターの添加量は、水酸化鉄クラスターが一般式Fe(OH)
x(SO
4)
1.5-x/2(但し、xは0<x<3)で表される鉄(III)塩である場合、該製鋼スラグ中のf-CaO含有割合をA質量%とすると、製鋼スラグ1kg当たりに対して、20×A/{56.08×(3−x)}[mol]以上4/(3−x)[mol]以下であるのが望ましいと言える。なお、製鋼スラグに対する水酸化鉄クラスターの添加量が少な過ぎると、製鋼スラグ中のf-CaOが十分に中和されずに残り、汚染土壌のpHが鉛及びヒ素の不溶化に適さない高アルカリ性(例えば、pHが10以上)になるため、不溶化効果を発揮できず、また、製鋼スラグに対する水酸化鉄クラスターの添加量が多過ぎると、f-CaOだけではなくケイ酸カルシウムの大部分が中和され、酸化水酸化鉄含有製鋼スラグから汚染土壌に対して、アルカリ成分を十分にかつ長期的に供給できず、不溶化効果を発揮できないという問題が生じる。
【0035】
本発明においては、このようにして作製されてアルカリ成分及び酸化水酸化鉄を含む酸化水酸化鉄含有製鋼スラグを用いて汚染土壌中の有害金属を不溶化処理するものであり、酸化水酸化鉄含有製鋼スラグを汚染土壌に混合し、酸化水酸化鉄含有製鋼スラグ中のアルカリ成分及び酸化水酸化鉄により汚染土壌中の有害金属、特に鉛及び/又はヒ素を不溶化する。
ここで、以下に、有害金属の不溶化メカニズムを説明する。
【0036】
陽イオンで処理する金属である鉛やカドミウム等の不溶化メカニズムは、酸化水酸化鉄含有製鋼スラグから供給されるアルカリ成分によって、製鋼スラグと水酸化鉄クラスターが反応して生成した酸化水酸化鉄や、土壌に元々含まれる土壌鉱物(例えば、酸化水酸化鉄の一つであるゲータイト(FeOOH)等)の表面に存在するヒドロキシ基等の官能基から水素イオンの解離が促進され、水素イオンが解離した官能基に鉛イオンやカドミウムイオンが吸着するという表面錯形成反応によるものであり、土壌のpHが7〜9付近において不溶化効果が発揮される。
一方、陰イオンで処理する金属であるヒ素やホウ素等の不溶化メカニズムは、該酸化水酸化鉄や該土壌鉱物の表面に存在するヒドロキシ基等への亜ヒ酸イオン(ヒ素(III))、ヒ酸イオン(ヒ素(V))やホウ素イオンの吸着反応によるものであり、土壌のpHが6〜9付近において不溶化効果が発揮される。
【0037】
そして、汚染土壌中の有害金属を不溶化する際における酸化水酸化鉄含有製鋼スラグと汚染土壌との混合割合は、不溶化処理剤として使用する酸化水酸化鉄含有製鋼スラグの調製方法や処理対象の汚染土壌に含まれる鉛及び/又はヒ素等の不溶化対象物の含有量によっても異なるが、汚染土壌100質量部に対して、通常5質量部以上30質量部以下であり、例えば、製鋼スラグに水酸化鉄クラスターを添加し混合する前記第1の方法で得られた酸化水酸化鉄含有製鋼スラグを用いる場合には、好ましくは10質量部以上25質量部以下、より好ましくは20質量部以上25質量部以下であり、かつ、有害金属不溶化処理後の土壌のpHが6.9以上7.8以下、好ましくは7.5以上7.8以下になるような混合割合が望ましい。混合割合がこの範囲である理由は、前述した不溶化メカニズムに基づき、有害金属不溶化処理後の汚染土壌のpHが6.9〜7.8の領域において、鉛及び/又はヒ素の不溶化が起こるためであり、このpH領域になる酸化水酸化鉄含有製鋼スラグの混合割合が、汚染土壌100質量部に対して、通常5質量部以上30質量部以下、好ましくは10質量部以上25質量部以下である。
【0038】
また、酸化水酸化鉄含有製鋼スラグと汚染土壌との混合方法については、酸化水酸化鉄含有製鋼スラグと汚染土壌とが均一に混合すればよく、特に混合方法の制限は無い。例えば、ユンボ(バックホー等)を用いて、酸化水酸化鉄含有製鋼スラグと汚染土壌とをよく撹拌、混合させる方法等を挙げることができる。
【0039】
以上のように、本発明では、不溶化処理剤としてアルカリ成分及び酸化水酸化鉄を含む酸化水酸化鉄含有製鋼スラグを用い、該酸化水酸化鉄含有製鋼スラグを主として鉛及び/又はヒ素で汚染された汚染土壌に均一に添加し、混合することによって、該酸化水酸化鉄含有製鋼スラグ中のアルカリ成分及び酸化水酸化鉄により鉛及び/又はヒ素を不溶化処理する。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0041】
〔人工汚染土壌A〜Nの調製〕
汚染土壌を人工的に作製した。日本には関東ローム等の火山灰層が広域的に分布しており、火山灰が風化した土壌には黒ボク土等が多く含まれるので、本発明では日本国土の多くを占めている黒ボク土を人工的な汚染土壌の作製に用いた。
【0042】
黒ボク土1kg(乾燥質量)当たり、硝酸鉛を鉛として140mg、亜ヒ酸ナトリウム(ヒ素(III))をヒ素として70mg添加・混合し、人工汚染土壌Aを作製した。
黒ボク土1kg(乾燥質量)当たり、硝酸鉛を鉛として70mg、亜ヒ酸ナトリウム(ヒ素(III))をヒ素として40mg添加・混合し、人工汚染土壌Bを作製した。
【0043】
黒ボク土1kg(乾燥質量)当たり、硝酸鉛を鉛として140mg、ヒ酸水素ナトリウム(ヒ素(V))をヒ素として70mg添加・混合し、人工汚染土壌Cを作製した。
黒ボク土1kg(乾燥質量)当たり、硝酸鉛を鉛として70mg、ヒ酸水素ナトリウム(ヒ素(V))をヒ素として40mg添加・混合し、人工汚染土壌Dを作製した。
【0044】
黒ボク土1kg(乾燥質量)当たり、硝酸鉛を鉛として140mg添加・混合し、人工汚染土壌Eを作製した。
黒ボク土1kg(乾燥質量)当たり、硝酸鉛を鉛として70mg添加・混合し、人工汚染土壌Fを作製した。
【0045】
黒ボク土1kg(乾燥質量)当たり、亜ヒ酸ナトリウム(ヒ素(III))をヒ素として70mg添加・混合し、人工汚染土壌Gを作製した。
黒ボク土1kg(乾燥質量)当たり、亜ヒ酸ナトリウム(ヒ素(III))をヒ素として40mg添加・混合し、人工汚染土壌Hを作製した。
【0046】
黒ボク土1kg(乾燥質量)当たり、ヒ酸水素ナトリウム(ヒ素(V))をヒ素として70mg添加・混合し、人工汚染土壌Iを作製した。
黒ボク土1kg(乾燥質量)当たり、ヒ酸水素ナトリウム(ヒ素(V))をヒ素として40mg添加・混合し、人工汚染土壌Jを作製した。
【0047】
黒ボク土1kg(乾燥質量)当たり、ホウ酸をホウ素として3600mg添加・混合し、人工汚染土壌Kを作製した。
黒ボク土1kg(乾燥質量)当たり、ホウ酸をホウ素として1800mg添加・混合し、人工汚染土壌Lを作製した。
【0048】
黒ボク土1kg(乾燥質量)当たり、塩化カドミウムをカドミウムとして140mg添加・混合し、人工汚染土壌Mを作製した。
黒ボク土1kg(乾燥質量)当たり、塩化カドミウムをカドミウムとして70mg添加・混合し、人工汚染土壌Nを作製した。
【0049】
作製した人工汚染土壌A〜Nを大気中で養生し、土壌に含まれる水分がある程度なくなったら、霧吹きで均一に水を吹きかけ、よく混合する操作を繰り返し、室温で約2ヵ月間養生した。
【0050】
人工汚染土壌の作製に用いた黒ボク土及び養生した人工汚染土壌A〜Nについて、鉛及びヒ素の含有量及び溶出量を、それぞれ環境省告示19号及び環境庁告示46号に従って測定した(表1及び表2)。養生した人工汚染土壌A〜Nのいずれについても、鉛、ヒ素、ホウ素及びカドミウムの含有量は土壌含有量基準(鉛:150mg/kg、ヒ素:150mg/kg、ホウ素:4000mg/kg、カドミウム:150mg/kg)を超過せず、また、鉛、ヒ素、ホウ素及びカドミウムの溶出量は土壌溶出量基準(鉛:0.01mg/L、ヒ素:0.01mg/L、ホウ素:1mg/L、カドミウム:0.01mg/L)を超過していた。なお、溶出量は第二溶出量基準(鉛:0.3mg/L、ヒ素:0.3mg/L、ホウ素:30mg/L、カドミウム:0.3mg/L)以下であった。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
〔酸化水酸化鉄含有転炉スラグA及びBの調製〕
製鋼スラグとして転炉スラグを、水酸化鉄クラスターとしてポリテツ(登録商標、日鉄鉱業株式会社製商品名)を用いた。なお、ポリテツは液体で、ポリテツに含まれているFe(OH)
x(SO
4)
1.5-x/2はx=0.24の組成である。含まれているFeはほぼ全て3価であり、その含有量は11w/w%以上である。なお、ポリテツに含まれる鉛及びヒ素濃度は、0.005mg/L未満及び0.005mg/L未満であった。
【0054】
また、転炉スラグの成分組成を表3に示す。この転炉スラグには、f-CaOが2.98質量%含まれ、ケイ酸カルシウムとして2CaO・SiO
2が含まれる。
更に、転炉スラグの鉛及びヒ素の溶出量及び含有量を、環境庁告示46号及び環境省告示19号に従って測定した。結果を表4に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
【表4】
【0057】
転炉スラグに対するFe(OH)
x(SO
4)
1.5-x/2の添加量は、製鋼スラグ1kg当りに対して、20×A/{56.08×(3−x)}[mol]以上4/(3−x)[mol]以下に従って計算し、A=2.98、x=0.24であるので、0.385mol以上1.449mol以下と計算された。ポリテツ中には11w/w%以上の3価のFeが含まれるので、0.385mol、1.449molのFe(OH)
x(SO
4)
1.5-x/2に相当するポリテツの量は、それぞれ0.20kg、0.74kgと計算される。従って、転炉スラグ1kgに対してポリテツ0.20kg、0.74kgを添加・混合し、酸化水酸化鉄を生成させた転炉スラグ(以下、「酸化水酸化鉄含有転炉スラグ」と記す。)として酸化水酸化鉄含有転炉スラグA(転炉スラグ1kg当りポリテツ0.20kg添加)と酸化水酸化鉄含有転炉スラグB(転炉スラグ1kg当りポリテツ0.74kg添加)とを作製した。
【0058】
人工汚染土壌A〜Nに対して、酸化水酸化鉄含有転炉スラグA又は酸化水酸化鉄含有転炉スラグBをそれぞれ0〜70mass%の割合で添加して混合し、人工汚染土壌A〜Nの不溶化処理を行った。この不溶化処理直後の人工汚染土壌A〜Nのいずれかと酸化水酸化鉄含有転炉スラグA又は酸化水酸化鉄含有転炉スラグBとの混合物(以下、「不溶化処理直後のスラグ混合物」という。)の鉛及びヒ素の溶出量を環境庁告示46号に従って測定し、検液(環境庁告示46号の溶出液)のpHも測定した。
結果を表5〜表18に示す。
【0059】
表5〜表18に示す結果から明らかなように、人工汚染土壌A〜Nの鉛及びヒ素の溶出量が土壌溶出量基準を超過しなくなる酸化水酸化鉄含有転炉スラグの添加量は、人工汚染土壌100質量部に対して10〜25質量部であり、人工汚染土壌のpH(検液のpH)は6.9〜7.8であった。なお、混合物の鉛及びヒ素の含有量を環境省告示19号に従って測定したが、いずれの不溶化処理直後のスラグ混合物についても、含有量は土壌含有量基準値を超過しなかった。
【0060】
一方、溶出量基準を超過した不溶化処理直後のスラグ混合物については、酸化水酸化鉄含有転炉スラグの添加量が少量の場合には、作製した混合物のpHが鉛及び/又はヒ素の不溶化処理に十分なほど上昇しなかったことが原因であり、また、該添加量が多量の場合には、アルカリ成分の供給量が多くなり、両性元素である鉛やヒ素が再溶出したことが原因であると考えられた。
【0061】
【表5】
【0062】
【表6】
【0063】
【表7】
【0064】
【表8】
【0065】
【表9】
【0066】
【表10】
【0067】
【表11】
【0068】
【表12】
【0069】
【表13】
【0070】
【表14】
【0071】
【表15】
【0072】
【表16】
【0073】
【表17】
【0074】
【表18】
【0075】
更に、上記で作製した不溶化処理直後のスラグ混合物について、その長期的な不溶化効果の安定性を評価するために、スラグ混合物の一部をそれぞれステンレスバットに入れ、室温で30日間、90日間、180日間、及び360日間
、スラグ混合物に含まれる水分がある程度なくなったら、霧吹きで均一に水を
吹きかけてよく混合する操作を繰り返しながら、大気中にて養生した後、鉛及びヒ素の溶出量を環境庁告示46号に従って測定した。
結果を表19〜54に示す。
【0076】
表19〜54に示す結果から明らかなように、いずれの長期養生後のスラグ混合物についても、土壌溶出量基準を超過せず、不溶化効果が長期的に安定であることが判った。なお、これら長期養生後のスラグ混合物の鉛、ヒ素、ホウ素及びカドミウムの含有量を環境省告示19号に従って測定したが、いずれのスラグ混合物についても、含有量は土壌含有量基準値を超過しなかった。
【0077】
【表19】
【0078】
【表20】
【0079】
【表21】
【0080】
【表22】
【0081】
【表23】
【0082】
【表24】
【0083】
【表25】
【0084】
【表26】
【0085】
【表27】
【0086】
【表28】
【0087】
【表29】
【0088】
【表30】
【0089】
【表31】
【0090】
【表32】
【0091】
【表33】
【0092】
【表34】
【0093】
【表35】
【0094】
【表36】
【0095】
【表37】
【0096】
【表38】
【0097】
【表39】
【0098】
【表40】
【0099】
【表41】
【0100】
【表42】
【0101】
【表43】
【0102】
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【0110】
【表52】
【0111】
【表53】
【0112】
【表54】