特許第6115169号(P6115169)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6115169
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】樹脂製保持器
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/46 20060101AFI20170410BHJP
   F16C 33/56 20060101ALI20170410BHJP
   F16C 33/38 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   F16C33/46
   F16C33/56
   F16C33/38
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-25231(P2013-25231)
(22)【出願日】2013年2月13日
(65)【公開番号】特開2014-152899(P2014-152899A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2015年11月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211695
【氏名又は名称】中西金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(72)【発明者】
【氏名】南山 竜也
(72)【発明者】
【氏名】園田 伸一
(72)【発明者】
【氏名】出井 一義
(72)【発明者】
【氏名】山本 喜芳
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 禎啓
【審査官】 中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−070926(JP,A)
【文献】 特開昭60−098220(JP,A)
【文献】 特開2007−056930(JP,A)
【文献】 特開2007−209593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/46
F16C 33/38
F16C 33/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に離間した一対の円環部を、転動体であるころ又は玉の外周面に摺接する複数の柱部により繋ぎ、前記ころ又は玉を収容するポケット孔が隣り合う前記柱部間に周方向等分に形成された形状を成す、前記円環部の軸方向外側面に、内径側周壁及び外径側周壁並びに前記周壁を繋ぐリブにより形成される周方向繰り返し形状の肉盗み部が設けられた、ガラス繊維や炭素繊維等の強化材を充填するとともに、エラストマーを配合した熱可塑性樹脂を射出成形して製作される樹脂製保持器
であって、
前記柱部の全ての軸方向長さの中央部内面側を前記射出成形のゲート位置とし、
前記エラストマーの配合率を5重量%〜15重量%とし、
前記リブが、前記一対の円環部の前記柱部が繋がる箇所に設けた柱部径方向リブ、隣接する前記柱部径方向リブ間の周方向中央に設けたポケット部中央径方向リブ、並びに前記内径側周壁及び前記ポケット部中央径方向リブとの交線と前記外径側周壁及び前記柱部径方向リブとの交線を繋ぐ斜め方向リブからなることを特徴とする樹脂製保持器。
【請求項2】
軸方向に離間した一対の円環部を、転動体であるころ又は玉の外周面に摺接する複数の柱部により繋ぎ、前記ころ又は玉を収容するポケット孔が隣り合う前記柱部間に周方向等分に形成された形状を成す、前記円環部の軸方向外側面に、内径側周壁及び外径側周壁並びに前記周壁を繋ぐリブにより形成される周方向繰り返し形状の肉盗み部が設けられた、ガラス繊維や炭素繊維等の強化材を充填するとともに、エラストマーを配合した熱可塑性樹脂を射出成形して製作される樹脂製保持器であって、
前記柱部の全ての軸方向長さの中央部内面側を前記射出成形のゲート位置とし、
前記エラストマーの配合率を5重量%〜15重量%とし、
前記リブが、前記一対の円環部の前記柱部が繋がる箇所に設けた柱部径方向リブ、隣接する前記柱部径方向リブ間の周方向中央に設けたポケット部中央径方向リブ、前記柱部径方向リブ及び前記ポケット部中央径方向リブ間の周方向中央に設けたポケット部柱部寄り径方向リブ、前記内径側周壁及び前記ポケット部中央径方向リブとの交線と前記外径側周壁及びポケット部柱部寄り径方向リブとの交線を繋ぐ斜め方向リブ、並びに前記外径側周壁及びポケット部柱部寄り径方向リブとの交線と前記内径側周壁及び前記柱部径方向リブとのとの交線とを繋ぐ斜め方向リブからなることを特徴とする樹脂製保持器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒ころ軸受、円錐ころ軸受、球面ころ軸受若しくは針状ころ軸受等のころ軸受又は深溝玉軸受若しくはアンギュラ玉軸受等の玉軸受に用いられる、ガラス繊維や炭素繊維等の強化材を充填するとともに、耐衝撃性等を向上するためにエラストマーを配合した熱可塑性樹脂を射出成形して製作される保持器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ころ軸受は、玉軸受よりもラジアル荷重の負荷能力が大きく、転動体として円筒状のころ(円筒ころ)が組み込まれた円筒ころ軸受は、高速回転に適していることから、旋盤、フライス盤及びマシニングセンタ等の工作機械主軸等の回転支持部に、転動体として円錐台状のころ(円錐ころ)が組み込まれた円錐ころ軸受は、ラジアル荷重及びアキシャル(スラスト)荷重の合成荷重を支持することができることから、自動車及び鉄道車輌並びに建設機械等の各種機械装置における駆動装置、歯車減速装置及び動力伝達装置等の回転支持部に広く使用されている。
【0003】
このようなころ軸受に用いられる、ガラス繊維や炭素繊維等の強化材を充填した熱可塑性樹脂を射出成形した樹脂製保持器は、鋼板をプレス成形した金属製保持器に対して軽量性及び量産性に優れること並びに金属磨耗粉等の発生が無いこと等の長所がある反面、金属製保持器よりも強度及び剛性が劣ることから、強度及び剛性を高める必要がある。
このような観点から、強度及び剛性を高めるために製品寸法を大型化しながら、ボイド等の発生を抑制して強度及び寸法精度の低下を阻止するように工夫したころ軸受用樹脂製保持器として、円環部や柱部に肉盗み部を設けて肉厚を薄くし、かつ肉厚を略均一化したものがある(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【0004】
また、射出成形における溶融樹脂の流れを円環部内の合流部で乱すように肉盗み部のデザインを工夫することにより、さらに強度及び精度を向上する発明がされている(特願2012−220261号。以下において、この先願に係る発明を「先願発明」という。)。
さらに、耐衝撃性や耐油性を高めるために、ガラス繊維や炭素繊維等の強化材に加えてエラストマーを配合した熱可塑性樹脂を射出成形して製作される保持器がある(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−287033号公報
【特許文献2】特開2006−070926号公報
【特許文献3】特許第3128264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ガラス繊維や炭素繊維等の強化材を充填した熱可塑性樹脂を射出成形して製作される保持器において、特許文献1及び2のような樹脂製保持器よりも、先願発明のように溶融樹脂の流れを円環部内の合流部で乱すように肉盗み部のデザインを工夫した樹脂製保持器の方が、溶融樹脂の合流部に径方向に対して直線的なウェルドライン(ウェルド面)が形成されなくなり、ウェルドラインがジグザグ状になるため、強度及び精度を向上することができる。
しかし、特許文献3のような、ガラス繊維や炭素繊維等の強化材を充填するとともに、エラストマーを配合した熱可塑性樹脂を射出成形して製作される樹脂製保持器に対して、先願発明のようなデザインの工夫を施した場合、却って強度が低下してしまうことが実験により明らかになった。
【0007】
そこで本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、ガラス繊維や炭素繊維等の強化材を充填するとともに、エラストマーを配合した熱可塑性樹脂を射出成形して製作される樹脂製保持器において、強度及び精度を向上することができる肉盗み部のデザインを見出す点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の発明者らは、ガラス繊維や炭素繊維等の強化材を充填するとともに、エラストマーを配合した熱可塑性樹脂を射出成形して製作される樹脂製保持器に適した肉盗み部のデザインを見出すために、様々な実験及び解析を行った。
その結果、
(1)エラストマーを配合しないガラス繊維や炭素繊維等の強化材を充填した熱可塑性樹脂(以下において、「エラストマー非配合繊維強化樹脂」という。)では、ウェルドの有無による強度差が大きいのに対し、エラストマーを配合したガラス繊維や炭素繊維等の強化材を充填した熱可塑性樹脂(以下において、「エラストマー配合繊維強化樹脂」という。)では、ウェルドの有無による強度差が小さい、
(2)厚みによる強度差を比較すると、エラストマー非配合繊維強化樹脂では、薄い方が強く、エラストマー配合繊維強化樹脂では、厚い方が強い、
(3)エラストマー配合繊維強化樹脂はウェルド強度が相対的に弱く、先願発明のようにウェルドラインをジグザグ状にしても、ジグザグ状になったウェルドの通りに破断するため、エラストマー配合繊維強化樹脂では、ウェルド断面積が大きい方が有利である、
という知見を得た。
【0009】
本願の発明者らは、これらの知見に基づいて、エラストマー配合繊維強化樹脂において強度及び精度の向上を図るための肉盗み部のデザインを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明に係る樹脂製保持器は、前記課題解決のために、軸方向に離間した一対の円環部を、転動体であるころ又は玉の外周面に摺接する複数の柱部により繋ぎ、前記ころ又は玉を収容するポケット孔が隣り合う前記柱部間に周方向等分に形成された形状を成す、前記円環部の軸方向外側面に、内径側周壁及び外径側周壁並びに前記周壁を繋ぐリブにより形成される周方向繰り返し形状の肉盗み部が設けられた、ガラス繊維や炭素繊維等の強化材を充填するとともに、エラストマーを配合した熱可塑性樹脂を射出成形して製作される樹脂製保持器であって、前記柱部の全ての軸方向長さの中央部内面側を前記射出成形のゲート位置とし、前記エラストマーの配合率を5重量%〜15重量%とし、前記リブが、前記一対の円環部の前記柱部が繋がる箇所に設けた柱部径方向リブ、隣接する前記柱部径方向リブ間の周方向中央に設けたポケット部中央径方向リブ、並びに前記内径側周壁及び前記ポケット部中央径方向リブとの交線と前記外径側周壁及び前記柱部径方向リブとの交線を繋ぐ斜め方向リブからなることを特徴とする。
また、本発明に係る樹脂製保持器は、前記課題解決のために、軸方向に離間した一対の円環部を、転動体であるころ又は玉の外周面に摺接する複数の柱部により繋ぎ、前記ころ又は玉を収容するポケット孔が隣り合う前記柱部間に周方向等分に形成された形状を成す、前記円環部の軸方向外側面に、内径側周壁及び外径側周壁並びに前記周壁を繋ぐリブにより形成される周方向繰り返し形状の肉盗み部が設けられた、ガラス繊維や炭素繊維等の強化材を充填するとともに、エラストマーを配合した熱可塑性樹脂を射出成形して製作される樹脂製保持器であって、前記柱部の全ての軸方向長さの中央部内面側を前記射出成形のゲート位置とし、前記エラストマーの配合率を5重量%〜15重量%とし、前記リブが、前記一対の円環部の前記柱部が繋がる箇所に設けた柱部径方向リブ、隣接する前記柱部径方向リブ間の周方向中央に設けたポケット部中央径方向リブ、前記柱部径方向リブ及び前記ポケット部中央径方向リブ間の周方向中央に設けたポケット部柱部寄り径方向リブ、前記内径側周壁及び前記ポケット部中央径方向リブとの交線と前記外径側周壁及びポケット部柱部寄り径方向リブとの交線を繋ぐ斜め方向リブ、並びに前記外径側周壁及びポケット部柱部寄り径方向リブとの交線と前記内径側周壁及び前記柱部径方向リブとのとの交線とを繋ぐ斜め方向リブからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
以上のような本発明に係る樹脂製保持器によれば、エラストマー配合繊維強化樹脂を射出成形して製作される保持器において、(ア)円環部内における溶融樹脂の合流部が、隣接する柱部径方向リブ間の周方向中央に設けたポケット部中央径方向リブ内に位置するので、ウェルドラインがリブを横断しないことからウェルド断面積が大きくなるため、強度が向上すること、(イ)斜め方向リブが内径側周壁及びポケット部中央径方向リブとの交線に繋がる、あるいは、斜め方向リブが内径側周壁及びポケット部中央径方向リブとの交線に繋がるとともに、斜め方向リブが内径側周壁及び柱部径方向リブとのとの交線に繋がるので、応力が大きくなるウェルド内径部が厚くなるため、さらに強度が向上すること、(ウ)周方向繰り返し形状の肉盗み部が形成されるので、精度及び強度をバランスよく向上させながら、材料を削減することができるため軽量化及びコスト削減も実現することができること、等の顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態1に係る樹脂製保持器(円筒ころ軸受用樹脂製保持器)の斜視図である。
図2】(a)同じく平面図、(b)同じく要部拡大平面図である。
図3】(a)同じく要部拡大平面図、(b)は(a)の矢視X−X断面図である。
図4】(a)は本発明の実施の形態2に係る樹脂製保持器(円筒ころ軸受用樹脂製保持器)の平面図、(b)同じく要部拡大平面図である。
図5】引張強度試験の説明図である。
図6】(a)は比較例2の樹脂製保持器の要部拡大平面図、(b)は(a)の矢視X1−X1断面図である。
図7】(a)は比較例3の樹脂製保持器の要部拡大平面図、(b)は(a)の矢視X2−X2断面図である。
図8】(a)は比較例4の樹脂製保持器の要部拡大平面図、(b)は(a)の矢視X3−X3断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明の実施の形態を添付図面に基づき詳細に説明するが、本発明は、添付図面に示された形態に限定されず特許請求の範囲に記載の要件を満たす実施形態の全てを含むものである。
なお、本発明の実施の形態に係る樹脂製保持器である円筒ころ軸受用樹脂製保持器を円筒ころ軸受に装着した際における軸受の軸方向を軸方向、径方向を径方向とし、本発明の実施の形態に係る樹脂製保持器である円筒ころ軸受用樹脂製保持器において、軸方向を鉛直にした状態で側方から見た図を正面図とする。
本発明における樹脂製保持器の射出成形に用いる、ガラス繊維や炭素繊維等の強化材を充填するとともに、エラストマーを配合した熱可塑性樹脂は、例えば、ナイロン66にガラス繊維を25重量パーセント添加し、スチレン系熱可塑性エラストマーを10重量%配合した樹脂材料を使用することができるが、熱可塑性樹脂の種類、強化繊維の種類及び充填率、並びにエラストマーの種類及び配合率は上記例に限定されるものではない。
なお、エラストマー(加硫ゴム及び熱可塑性エラストマー)の配合率は、エラストマーを配合することよる耐衝撃性等の向上効果や樹脂製保持器の機械的特性を考慮すると、5重量%〜15重量%が好ましい。
また、本発明の樹脂製保持器は比較的大型のものであり、その大きさは、例えば、内径は150mm以上、外径は300mm以下、高さは100mm以下のものである。
【0013】
(実施の形態1)
図1の斜視図に示すように、本発明の実施の形態1に係る樹脂製保持器である円筒ころ軸受用樹脂製保持器1は、軸方向に離間した一対の円環部2,3を、転動体である図示しない円筒ころの外周面に摺接する複数の柱部4,4,…により繋ぎ、円筒ころを収容するポケット孔P,P,…が隣り合う柱部4,4間に周方向等分に形成された形状を成し、すなわち図1の例では、14本の柱部4,4,…及び14個のポケットP,P,…があり、円環部2,3の軸方向外側面2A,3Aには、それぞれに内径側周壁5及び外径側周壁6並びに周壁5,6を繋ぐリブRにより形成される周方向繰り返し形状の肉盗み部が設けられており、14本全ての柱部4,4,…の軸方向長さの中央部内面側をゲート位置G,G,…として、ガラス繊維や炭素繊維等の強化材を充填するとともに、エラストマーを配合した熱可塑性樹脂を射出成形して製作される。
【0014】
図2(a)の平面図、図2(b)及び図3(a)の要部拡大平面図、並びに図3(b)の断面図に示すように、リブRは、円環部2,3の柱部4,4,…が繋がる箇所に設けた柱部径方向リブ7,7,…、隣接する柱部径方向リブ7,7間の周方向中央に設けたポケット部中央径方向リブ8A、並びに内径側周壁5及びポケット部中央径方向リブ8Aとの交線と外径側周壁6及び柱部径方向リブ7との交線を繋ぐ斜め方向リブ9からなる。
このようなリブRの構成によれば、図2に示すように、円環部2(円環部3も同様。)内における溶融樹脂の合流部Wが、隣接する柱部径方向リブ7,7間の周方向中央に設けたポケット部中央径方向リブ8B内に位置するので、ウェルドラインがリブを横断しないことからウェルド断面積が大きくなる。
また、斜め方向リブ9が内径側周壁5及びポケット部中央径方向リブ8Aとの交線に繋がるので、応力が大きくなるウェルド内径部が厚くなっている。
【0015】
図1及び図2に示すように、円筒ころ軸受用樹脂製保持器1を平面視又は底面視した際に視認される、内径側周壁5及び外径側周壁6並びに周壁5,6を繋ぐリブRにより形成される周方向繰り返し形状の肉盗み部は、直角三角形状の肉盗み部を組み合わせた形状となっている。
また、図3に示すように、柱部径方向リブ7、ポケット部中央径方向リブ8A、斜め方向リブ9、内径側周壁5及び外径側周壁6の肉厚(幅)T1並びに底壁の肉厚T2は、肉厚が2mm未満である場合は溶融樹脂の流動性が低下する懸念があるため、肉厚は2mmないし3mm程度が目安になる。
さらに、図2(b)に示す隅部の曲率半径は、肉厚T1(図3参照。)の25%以上、75%以下とするのが一般的であり、例えば肉厚T1=2mmとすると、0.5mm以上、1.5mm以下とするのが好ましく、本実施の形態では、r=0.5mmとしている。
【0016】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係る樹脂製保持器である円筒ころ軸受用樹脂製保持器は、実施の形態1に係る円筒ころ軸受用樹脂製保持器1とリブR(周方向繰り返し形状の肉盗み部)のみが異なっているため、主にリブRの形状について説明する。
図4(a)の平面図及び図4(b)の要部拡大平面図に示すように、
リブRは、円環部2,3の柱部4,4,…が繋がる箇所に設けた柱部径方向リブ7,7,…、隣接する柱部径方向リブ7,7間の周方向中央に設けたポケット部中央径方向リブ8A、柱部径方向リブ7及びポケット部中央径方向リブ8B間の周方向中央に設けたポケット部柱部寄り径方向リブ8B、内径側周壁5及びポケット部中央径方向リブ8Aとの交線と外径側周壁6及びポケット部柱部寄り径方向リブ8Bとの交線を繋ぐ斜め方向リブ9A、並びに外径側周壁6及びポケット部柱部寄り径方向リブ8Bとの交線と内径側周壁5及び柱部径方向リブ7とのとの交線とを繋ぐ斜め方向リブ9Bからなる。
【0017】
このようなリブRの構成によれば、図4に示すように、円環部2(円環部3も同様。)内における溶融樹脂の合流部Wが、隣接する柱部径方向リブ7,7間の周方向中央に設けたポケット部中央径方向リブ8B内に位置するので、ウェルドラインがリブを横断しないことからウェルド断面積が大きくなる。
また、斜め方向リブ9Aが内径側周壁5及びポケット部中央径方向リブ8Aとの交線に繋がり、斜め方向リブ9Bが内径側周壁5及び柱部径方向リブ7とのとの交線に繋がるので、応力が大きくなるウェルド内径部が厚くなっている。
実施の形態1と同様に、円筒ころ軸受用樹脂製保持器を平面視又は底面視した際に視認される、内径側周壁5及び外径側周壁6並びに周壁5,6を繋ぐリブRにより形成される周方向繰り返し形状の肉盗み部は、図4に示すように直角三角形状の肉盗み部を組み合わせた形状となっている。
【0018】
<実験例>
以下に示す実施例及び比較例の全てにおいて、樹脂材料をナイロン66にガラス繊維を25重量パーセント添加するとともに、エラストマーを10重量%配合したものとし、14点ゲートの射出成形により、外径が194.2mm、内径が168.4mm、高さが10.7mmの円環部のみを製作して円環部試験片Aとし、この試験片について、外径真円度、引張強度及び重量を測定した。なお、引張強度については、図5に示すように半円状の治具B1,B2を試験片Aの内径にセットした状態で引張試験機を用いて行った。
【0019】
(実施例1)
実施の形態1の周方向繰り返し形状の肉盗み部(例えば、図2及び図3参照。)とし、肉厚T1を2mm、肉厚T2を3mmとした円環部試験片Aを用いた。
【0020】
(実施例2)
実施の形態2の周方向繰り返し形状の肉盗み部(図4参照。)とし、肉厚を実施の形態1と同じとした円環部試験片Aを用いた。
【0021】
(比較例1)
肉盗み部がない円環部試験片Aを用いた。
【0022】
(比較例2)
図6(a)の要部拡大平面図及び図6(b)の断面図に示す径方向リブがあり、斜め方向リブがない円環部試験片Aを用いた。
【0023】
(比較例3)
図7(a)の要部拡大平面図及び図7(b)の断面図に示す径方向リブがあり、斜め方向リブがない円環部試験片Aを用いた。
【0024】
(比較例4)
図8(a)の要部拡大平面図及び図8(b)の断面図に示す径方向リブがなく、斜め方向リブがあるトラス形状(特願2012−220261号明細書の実施の形態1の図5(b)に相当))の円環部試験片Aを用いた。
【0025】
(実験結果及び考察)
表1に示す測定結果から、肉盗み部を設けない比較例1では、強度(引張強度)は比較的高くなるが、精度(外径真円度)が低くなるとともに重量が重くなる(最重量である)ことが分かる。
また、先願発明のトラス形状であり、溶融樹脂の流れを円環部内の合流部で乱すように肉盗み部のデザインを工夫した比較例4では、精度は比較的高くなるとともに重量は軽くなる(最軽量である)が、強度がかなり低くなることが分かる。
さらに、合流部が径方向リブ内にある比較例2では、精度及び強度並びに重量が比較例1及び4の中間となっており、合流部が径方向リブ内にある比較例3が、比較例の中では精度及び強度が高く、重量も比較的軽いことが分かる。
さらにまた、これらの比較例に対して、実施例の方が精度及び強度がともに高く、実施例1は、重量が比較例4に次いで軽く、実施例2は、最も強度が高いことが分かる。
【0026】
【表1】
【0027】
以上のように実施例の円環部の形態が、強度及び精度のバランスが良く、比較的軽量である理由は、ガラス繊維や炭素繊維等の強化材を充填するとともに、エラストマーを配合した熱可塑性樹脂を射出成形して製作される保持器において、(ア)図2及び図4に示すように、円環部2,3内における溶融樹脂の合流部Wが、隣接する柱部径方向リブ7,7間の周方向中央に設けたポケット部中央径方向リブ8A内に位置する(実施の形態1・実施例1及び実施の形態2・実施例2)ので、ウェルドラインがリブを横断しないことからウェルド断面積が大きくなるため、強度が向上すること、(イ)図2に示すように、斜め方向リブ9が内径側周壁5及びポケット部中央径方向リブ8Aとの交線に繋がる(実施の形態1・実施例1)、あるいは、図4に示すように、斜め方向リブ9Aが内径側周壁5及びポケット部中央径方向リブ8Aとの交線に繋がるとともに、斜め方向リブ9Bが内径側周壁5及び柱部径方向リブ7とのとの交線に繋がる(実施の形態2・実施例2)ので、応力が大きくなるウェルド内径部が厚くなるため、さらに強度が向上すること、特に実施の形態2・実施例2では、実施の形態1・実施例1よりもウェルド内径部が厚くなっているので、最も強度が高い結果となっていること、(ウ)周方向繰り返し形状の肉盗み部が形成されるので、精度及び強度をバランスよく向上させながら、材料を削減して軽量化を図ることができるためであると考えられる。
【0028】
以上の説明においては、円筒ころ軸受用樹脂製保持器1について説明したが、本発明は円錐ころ軸受、球面ころ軸受、針状ころ軸受等のころ軸受用樹脂製保持器に対しても適用することができるとともに、深溝玉軸受、アンギュラ玉軸受等の玉軸受用樹脂製保持器に対しても適用することができる。
【符号の説明】
【0029】
A 円環部試験片
B1,B2 治具
G ゲート位置
P ポケット孔
R リブ
T1,T2 肉厚
W 合流部(ウェルド位置)
1 円筒ころ軸受用樹脂製保持器
2,3 円環部
2A,3A 軸方向外側面
4 柱部
5 内径側周壁
6 外径側周壁
7 柱部径方向リブ
8A ポケット部中央径方向リブ
8B ポケット部柱部寄り径方向リブ
9,9A,9B 斜め方向リブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8