(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を用いて実施の形態について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。
[1.構成]
[1−1.全体構造]
図3に示すように、本実施形態にかかるカム構造10は、車両に搭載されるエンジン(何れも図示略)の動弁機構1を構成する部品の一つであり、エンジンのクランクシャフト(図示略)と連動して回転するカムシャフト20と、カムシャフト20に組み付けられるカムローブ30とを備えている。
【0020】
動弁機構1は、カム構造10と、カム構造10によって駆動される有蓋円筒型のタペット11と、図示しないシリンダヘッドに固定される固定部12と、タペット11と固定部12との間に介設されたスプリング13とを備えて構成されている。タペット11はバルブリフターとも呼ばれ、カムシャフト20の回転運動を往復運動に変換するものである。タペット11には、エンジンの各気筒における吸気バルブ又は排気バルブ(以下、バルブ2という)の基端部が接続されている。タペット11の頂面の中心線上には、カムシャフト20の軸心が位置している。なお、動弁機構1の動作については後述する。
【0021】
図1(a)及び(b)に示すように、カムシャフト20は中空のパイプで構成され、エンジンのクランクシャフトからタイミングチェーンやタイミングベルト(何れも図示略)を介して回転が伝達されて回転する。カムシャフト20の中空内部には、オイルポンプ(図示略)で圧送されたエンジンオイル(潤滑油,以下、単にオイルという)が流通する。
【0022】
カムシャフト20は、支持部40によりエンジン本体に支持されており、支持部40に対して回転する。そのため、カムシャフト20の支持部40が取り付けられる部分には、カムシャフト20の外周面と支持部40の内周面との接触部にオイルを供給するための貫通孔部44が設けられている。カムシャフト20の中空内部を流通するオイルは、この貫通孔部44を通じてカムシャフト20と支持部40との接触部に供給され、この接触部を潤滑する。
【0023】
カムシャフト20の軸方向には、バルブ2を開閉するためのカムローブ30が、バルブ2の個数に応じて複数固定されている。カムローブ30は、何れも同様の構成を有しているため、ここでは一つのカムローブ30を示し、その構造について説明する。
【0024】
カムローブ30は、カム本体であるベースカム31と、ベースカム31に取り付けられるローラ32とから構成される。ベースカム31は、ベース円部31aとバルブリフト部31bとから形成されており、外周面が周方向全体に亘って連続している。ベース円部31aは、ベースカム31の円形の部分を意味し、中央にカムシャフト20が取り付けられる円形の孔部31h(以下、カムシャフト取付孔31hという)が形成されている。言い換えると、ベース円部31aは、カムシャフト20(カムシャフト取付孔31h)の軸心からの距離が一定の部分に対応する。なお、ベース円部31aとタペット11の頂面との間には僅かな隙間が設けられており、バルブ2の不要な開閉動作が防止される。
【0025】
バルブリフト部31bは、ベース円部31aから突出した部分であり、タペット11を押圧してバルブ2を開閉動作させる部分である。
図1(b)には、ベース円部31aとバルブリフト部31bとの境界線を二点鎖線で示している。バルブリフト部31bの
図1(b)における右側は、カムローブ30が図中の矢印Cの方向に回転したときにベース円部31aの次にタペット11の頂面に対向する部分であり、バルブリフトの立上り部31b
1(バルブ2が開く側)である。
【0026】
反対に、バルブリフト部31bの
図1(b)における左側は、カムローブ30が図中の矢印Cの方向に回転したときに、ローラ32がタペット11の頂面に対向した後にタペット11の頂面に対向する部分であり、バルブリフトの立下り部31b
2(バルブ2が閉じる側)である。バルブリフト部31bの立上り部31b
1及び立下り部31b
2の各基端部31dは、ベース円部31aとバルブリフト部31bとの境界線上にある。
【0027】
バルブリフト部31bは、その先端部(カムトップ部)31cに切欠部31nを有する。切欠部31nは、バルブリフト部31bの先端部31cからベース円部31aの一部にかけて、ベースカム31の幅方向(カムシャフト20が挿通される方向)の中間部(ここでは中心)に、立上り部31b
1から立下り部31b
2までを貫通するように切り欠いて形成された空間である。ベースカム31に欠成された切欠部31nの幅方向両側には、対向する一対のヨーク部31y,31yが形成される。対向する一対のヨーク部31y,31yは、
図1(b)に示すように軸方向から見て切欠部31nと同一形状をなし、
図1(a)に示すように軸方向に直交する方向から見て同一の幅を有している。
【0028】
対向する一対のヨーク部31y,31yには、幅方向に貫通した孔部31m,31mが一直線上に設けられている。孔部31mは、その中心軸がベース円部31aに形成されたカムシャフト取付孔31hの軸心と平行になるように形成されている。この孔部31mには、ローラ32をベースカム31に取り付けるためのローラシャフト33が挿通され、かしめによりベースカム31に組み付けられて固定される。以下、この孔部31mをローラシャフト取付孔31mという。
【0029】
ローラ32は、ベースカム31に対して回転自在となるように、バルブリフト部31bの先端部31cに形成された切欠部31nに設けられる。ローラ32は、その中心にローラシャフト33が挿通される貫通孔32hを有し、この貫通孔32hがベースカム31のヨーク部31y,31yに形成されたローラシャフト取付孔31mと重なるように切欠部31nに配置される。このときローラ32は、二つのヨーク部31y,31yとの隙間が略同等となるように、切欠部31nの幅方向中心部に配置される。そして、カムシャフト20の中心軸(カムシャフト取付孔31hの中心軸)と平行になるように、ローラシャフト33がローラシャフト取付孔31mと貫通孔32hとに挿通され、ローラ32がベースカム31に取り付けられる。
【0030】
ローラ32は、外周面の一部がバルブリフト部31bの先端部31cの外周面よりも外側に突出するように取り付けられる。また、ローラ32の外周面と対向する切欠部31nの対向面31fは、ローラ32側(バルブリフト部31bの先端側)に曲がった曲面形状をなし、対向面31fの曲率半径はローラ32の外周面の曲率半径よりも大きく設定されている。
【0031】
ローラ32は、ベースカム31に固定されたローラシャフト33に対して回転する。そのため、ローラ32の貫通孔32hの内周面とローラシャフト33の外周面との接触面は滑りながら動く部分(摺動部)となり、適切な潤滑が必要となる。そこで本カム構造10は、この摺動部へ潤滑油としてのオイルを供給するためのオイル通路34を備えている。
【0032】
[1−2.オイル通路の構造]
次に、本実施形態に係るカム構造10のオイル通路34について、
図1(a),(b)及び
図2を用いて説明する。オイル通路34は、カムシャフト20の中空内部を流通するオイルをローラ32の摺動部へ供給するための流路であり、カムローブ30がカムシャフト20に組み付けられた状態でカムシャフト20の中空内部とベースカム31に形成された切欠部31nとが連通するように設けられている。つまり、カムシャフト20とベースカム31とには、予めオイル通路34を構成する部分がそれぞれ形成されており、カムシャフト20とカムローブ30とが組み付けられることで一つの流路(すなわちオイル通路34)を形成するようになっている。
【0033】
本実施形態のオイル通路34は、流路断面積の異なる二つの部分から構成されている。一つは、ローラ32側へ供給されるオイルの流量を制限するための絞り部34aであり、もう一つは、オイルを蓄えておくための油溜り部34bである。絞り部34aはカムシャフト20に設けられており、油溜り部34bはベースカム31に設けられている。
【0034】
絞り部34aは、カムシャフト20の外周面を貫通する貫通孔として形成されており、一端がカムシャフト20の中空内部に開口し、他端がカムシャフト20の外周面に開口している。絞り部34aは、油溜り部34bよりもカムシャフト20の中空内部側(オイル通路34の上流側)に設けられ、カムシャフト20の中空内部からローラ32側へ供給されるオイルが最初に流入してくる部分である。絞り部34aの流路断面積は、油溜り部34bの流路断面積よりも小さく形成されている。なお、絞り部34aの流路断面積は、上記したカムシャフト20と支持部40との接触部を潤滑するための貫通孔部44の流路断面積よりも小さい。
【0035】
一方、油溜り部34bは、一端が切欠部31nの対向面31fに開口し、他端がカムシャフト取付孔31hに開口している。つまり、油溜り部34bはカムシャフト取付孔31hから切欠部31nの対向面31fまでを貫通する貫通孔として形成されている。油溜り部34bは、絞り部34aを流通してきたオイルが流入してローラ32側へ漏れ出ていく部分であるとともに、オイルの粘度によってローラ32側へ漏出しなかったオイルが蓄えられる部分でもある。なお、カムシャフト20とカムローブ30との組み付け時には、これら絞り部34aと油溜り部34bとが連通状態となって一つのオイル通路34を形成するように組み付けられる。
【0036】
[2.作用・動作]
まず、本カム構造10を備えた動弁機構1の動作について、
図3を用いて説明する。
図3に示すように、エンジンのクランクシャフトと連動してカムシャフト20が矢印Cの方向に回転すると、カムシャフト20とともにカムローブ30が回転する。このとき、ベースカム31のベース円部31aがタペット11の頂面と対向している間(すなわち
図3の状態となる前)は、上記のようにベース円部31aとタペット11の頂面との間に隙間が設けられているため、ベース円部31aからタペット11への押圧力は生じない。したがって、バルブ2は開閉動作をせず、スプリング13の弾性力により全閉状態に保持される。
【0037】
その後、カムローブ30がさらに回転して、タペット11の頂面がベースカム31のベース円部31aからバルブリフト部31bに乗り移ると、タペット11はバルブリフト部31bに押圧される。このため、スプリング13の弾性力に抗して、バルブ2がタペット11とともに押し下げられて開き始める(バルブリフトが立ち上がり始める)。
【0038】
さらにカムローブ30が回転し、タペット11の頂面がバルブリフト部31bからローラ32に乗り移って
図3の状態となると、ローラ32がタペット11の頂面上を図中の矢印Dの方向に回転しながら移動する。つまり、ローラ32がタペット11を押圧することになる。これにより、スプリング13の弾性力に抗してバルブ2がさらに押し下げられ、バルブリフトが増加し、ついには最大のバルブリフトとなる。
【0039】
その後は、反対にタペット11の頂面がローラ32からバルブリフト部31bに乗り移り、スプリング13の弾性力によりバルブ2は押し上げられて閉まり始める(バルブリフトが立ち下がり始める)。そして、タペット11の頂面がバルブリフト部31bからベース円部31aに乗り移ると、タペット11への押圧力はなくなり、バルブ2は全閉となる。動弁機構1は、このような動作をカムシャフト20の回転中に繰り返す。
【0040】
次に、カム構造10におけるローラ32の摺動部への潤滑について、
図4(a)〜(c)を用いて説明する。
図4(a)に示すように、エンジンオイルの油圧が高い場合は、オイルポンプにより圧送されたオイルは、図中白抜き矢印で示すようにカムシャフト20の中空内部を流通し、矢印で示すようにオイル通路34を通って切欠部31nに供給される。
【0041】
ローラ32は、タペット11の頂面に乗り移ると回転するため、
図4(b)に示すように、ローラ32の回転によるくさび効果によって、切欠部31nに供給されたオイルがローラ32の内周面とローラシャフト33の外周面との間に引き込まれる。これにより、ローラ32の内周面とローラシャフト33の外周面との間に油膜Fが形成され、この油膜Fによってローラ32の摺動部の摩擦が低減される。
【0042】
ここで、オイル通路34の上流側(すなわち、カムシャフト20の中空内部側)には流路断面積の小さい絞り部34aが設けられているため、この絞り部34aによりオイルの流量が制限される。このため、オイルポンプの能力が比較的高くエンジンオイルの油圧が高い場合に、大量のオイルがローラ32側へ供給されて油圧が低下してしまうことを防いで、適度な量のオイルを切欠部31nに供給することができる。また、絞り部34aの下流側に位置する油溜り部34bには、切欠部31nに漏出しきらなかったオイルが蓄えられる。
【0043】
油溜り部34bに蓄えられたオイルは、アイドル運転時や始動時のようにエンジンの回転速度が極低回転であり、エンジンオイルの油圧が低い場合に活用される。
図4(c)に示すように、エンジンオイルの油圧が低い場合であってもオイルポンプにより圧送されたオイルは、図中白抜き矢印で示すようにカムシャフト20の中空内部を流通するが、オイル通路34の絞り部34aを通過することができない。
【0044】
そのため、この場合は油溜り部34bに蓄えられたオイルが、ローラ32とタペット11との接触時(すなわち、切欠部31nが油溜り部34bの下方に位置するとき)に、切欠部31nへ漏れ出す。そして、
図4(b)に示すくさび効果により、上記と同様、ローラ32の摺動部に油膜Fが形成されて摩擦が低減される。すなわち、油溜り部34bは、エンジンオイルの油圧変動の有無にかかわらず、過不足なく安定したオイル供給を実現するためのバッファー(変化を均すもの)として機能する。
【0045】
[3.効果]
したがって、本実施形態に係るカム構造10によれば、カムシャフト20の中空内部とベースカム31の切欠部31nとを連通するオイル通路34の絞り部34aによって、ローラ32側に供給されるオイルの流量を制限することができ、エンジンオイルの油圧低下を防止することができる。これにより、オイルポンプの駆動仕事を低減することができ、さらに燃費を向上させることができる。
【0046】
また、オイル通路34に絞り部34aを設けることで、アイドル運転時や始動時のようにエンジンの回転速度が低くエンジンオイルの油圧が低い場合に、カムシャフト20の中空内部を流通するオイルがオイル通路34に流入できない(絞り部34aを通過できない)場合が生じうる。これに対して、本カム構造10であれば、オイル通路34の油溜り部34bにオイルを蓄えることができるため、このような油圧低下時であっても油溜り部34bから切欠部31nへオイルを供給することができる。これにより、エンジンオイルの油圧低下を防止しながら、ローラ32の摺動部の摩擦を低減することができる。
【0047】
また、流路断面積の異なる絞り部34aと油溜り部34bとが、それぞれカムシャフト20とベースカム31とに形成されているため、カムシャフト20とカムローブ30とを圧入等で組み付ける場合に、カムシャフト20の軸方向の精度の高低にかかわらず、オイル流通性を確保することができる。つまり、組付け性の向上と潤滑性の向上とを両立することができる。また、カムシャフト20とベースカム31とにそれぞれ絞り部34aと油溜り部34bとを形成するため、容易に加工することができる。
【0048】
特に本実施形態では、油溜り部34bがカムシャフト取付孔31hと切欠部31nとにそれぞれ開口するようにベースカム31に形成された貫通孔である。また、絞り部34aがカムシャフト20の外周面を貫通する貫通孔である。そして、これら二つの貫通孔が組み合わされて一つのオイル通路34を構成するため、加工が容易であるとともに、オイル通路34を形成するための工数を抑制することができる。
【0049】
また、カムシャフト20の支持部40が取り付けられる部分には、カムシャフト20の外周面と支持部40の内周面との接触部にオイルを供給するための貫通孔部44が設けられており、カムシャフト20と支持部40との接触部にはこの貫通孔部44を通じてオイルが供給される。なお、カムシャフト20と支持部40とは強く接触しているため、貫通孔部44を絞り部34aの流路断面積よりも大きく形成することでカムシャフト20と支持部40との接触部の摩擦を確実に低減することができる。なお、カムシャフト20と支持部40との接触部は、ローラ32の摺動部に比べて接触が強いため、オイル漏れがほとんど発生せずエンジンオイルの油圧は低下し難い。
【0050】
[4.変形例]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
例えば、カム構造10に設けられるオイル通路34の変形例を
図5及び
図6に示す。これらは、上述したカム構造10のうちオイル通路34の形状のみが異なるため、同一の構成については上記の実施形態と同一の符号を付して説明は省略する。
【0051】
[4−1.第一変形例]
図5に示すように、この変形例(第一変形例)にかかるカム構造10のオイル通路35は、ローラ32側へ供給されるオイルの流量を制限するための絞り部35aと、オイルを蓄えておくための油溜り部35bとに加え、絞り部35aにオイルを供給する給油部35cを備えている。絞り部35a及び給油部35cはカムシャフト20に設けられ、油溜り部35bはベースカム31に設けられている。なお、油溜り部35bは上記実施形態の油溜り部34bと同一であるため、その説明は省略する。
【0052】
給油部35cは、カムシャフト20の外周面を貫通する貫通孔として形成されており、一端がカムシャフト20の中空内部に開口し、他端がカムシャフト20の外周面に開口している。給油部35cは、絞り部35a及び油溜り部35bよりもカムシャフト20の中空内部側(オイル通路35の最上流部)に設けられ、カムシャフト20の中空内部からローラ32側へ供給されるオイルが最初に流入してくる部分である。給油部35cの大きさは任意であり、後述する絞り部35aの溝幅と同等か、溝幅よりもやや大きいことが好ましい。また、給油部35cの周方向位置も任意であり、カムローブ30の向きに関わらず加工が可能である。
【0053】
絞り部35aは、少なくとも給油部35cと油溜り部35bとの間においてカムシャフト20の外周面に凹設された溝である。なおここでは、カムシャフト20の外周面を一周するように形成された環状溝として構成されている。溝の大きさ(つまり、溝の幅及びカムシャフト20の外周面からの深さ)は、絞り部35aの流路断面積に相当し、油溜り部35bの流路断面積よりも小さくなるように設定されている。
【0054】
給油部35cは、絞り部35aの一部と重なる位置に穿孔されている。カムシャフト20とカムローブ30との組み付け時には、カムシャフト20の外周面に形成された溝としての絞り部35aが油溜り部35bと重なり、給油部35c,絞り部35a及び油溜り部35bによって一つのオイル通路35が形成されるように組み付けられる。
【0055】
つまり、本変形例にかかるカム構造10のオイル通路35は、上流側(カムシャフト20の中空内部側)から給油部35c,絞り部35a,油溜り部35bの順に設けられており、カムシャフト20の中空内部を流通するオイルは、給油部35cを通って絞り部35aへ流入し、カムシャフト20の外周面の絞り部35aで流量が制限され、油溜り部35bへ流れる。そして、油溜り部35bから切欠部31nにオイルが供給されて、ローラ32の摺動部に油膜が形成される。
【0056】
したがって、本変形例にかかるカム構造10によれば、上記実施形態と同様、カムシャフト20の中空内部とベースカム31の切欠部31nとを連通するオイル通路35の絞り部35aによって、ローラ32側に供給されるオイルの流量を制限することができ、エンジンオイルの油圧低下を防止することができる。また、オイル通路35の油溜り部35bにオイルを蓄えることができるため、エンジンオイルの油圧低下時であっても油溜り部35bから切欠部31nへオイルを供給することができる。これにより、エンジンオイルの油圧低下を防止しながら、ローラ32の摺動部の摩擦を低減することができる。
【0057】
また、本変形例においても、カムシャフト20に絞り部35aが設けられ、ベースカム31に油溜り部35bが設けられているため、容易に加工することができる。
さらに、ここでは絞り部35aがカムシャフト20の外周面に凹設された溝であるため、上記実施形態のように絞り部34aを貫通孔として形成する場合と比較して、絞り部35aを形成する回転方向位置をカムローブ30の向きに合わせる必要がない。また、給油部35cの回転方向位置も任意に設定可能であるため、オイル通路35の加工をより簡単にすることができる。
【0058】
なお、ここでは絞り部35aがカムシャフト20の外周面を一周するように溝が形成されているが、少なくとも給油部35cと油溜り部35bとの間において絞り部35aが形成されていればよい。また、カムシャフト20の外周面ではなく、ベースカム31に形成されていてもよい。つまり、絞り部35aが、少なくとも給油部35cと油溜り部35bとの間において、ベースカム31に形成されたカムシャフト取付孔31hに凹設された溝として構成されていてもよい。このように構成されたオイル通路35であっても、上記した効果と同様の効果を得ることができる。
【0059】
[4−2.第二変形例]
図6に示すように、この変形例(第二変形例)にかかるカム構造10のオイル通路36は、ローラ32側へ供給されるオイルの流量を制限するための絞り部36aと、オイルを蓄えておくための油溜り部36bと、絞り部36aにオイルを供給する給油部36cとを備えて構成されている。給油部36cはカムシャフト20に設けられ、絞り部36a及び油溜り部36bはベースカム31に設けられている。
【0060】
給油部36cは、上記の第一変形例と同様、カムシャフト20の外周面を貫通する貫通孔として形成されており、一端がカムシャフト20の中空内部に開口し、他端がカムシャフト20の外周面に開口している。給油部36cは、絞り部36a及び油溜り部36bよりもカムシャフト20の中空内部側(オイル通路36の最上流部)に設けられ、カムシャフト20の中空内部からローラ32側へ供給されるオイルが最初に流入してくる部分である。給油部36cは、後述する絞り部36aの流路断面積よりも大きい。
【0061】
絞り部36a及び油溜り部36bは、何れもベースカム31に形成され、一つの貫通孔を構成する。つまり、一端がカムシャフト取付孔31hに開口し、他端が切欠部31nに開口するようにベースカム31に形成された貫通孔が、長手方向で異なる径を有する段付き孔となっている。絞り部36aは、この段付き孔のうちカムシャフト20の中空内部側に位置し、カムシャフト取付孔31hに開口する。
【0062】
油溜り部36bは、絞り部36aよりもローラ32側に位置し、絞り部36aよりも流路断面積が大きく、切欠部31nに開口する。カムシャフト20とカムローブ30との組み付け時には、給油部36cと絞り部36aとが連通するように回転方向位置が合わせられる。すなわち、給油部36c,絞り部36a及び油溜り部36bによって一つのオイル通路36が形成されるように組み付けられる。
【0063】
つまり、本変形例にかかるカム構造10のオイル通路36は、上流側(カムシャフト20の中空内部側)から給油部36c,絞り部36a,油溜り部36bの順に設けられており、カムシャフト20の中空内部を流通するオイルは、給油部36cを通って絞り部36aへ流入し、絞り部36aで流量が制限され、油溜り部36bへ流れる。そして、油溜り部36bから切欠部31nにオイルが供給されて、ローラ32の摺動部に油膜が形成される。
【0064】
したがって、本変形例にかかるカム構造10によれば、上記実施形態と同様、カムシャフト20の中空内部とベースカム31の切欠部31nとを連通するオイル通路36の絞り部36aによって、ローラ32側に供給されるオイルの流量を制限することができ、エンジンオイルの油圧低下を防止することができる。また、オイル通路36の油溜り部36bにオイルを蓄えることができるため、エンジンオイルの油圧低下時であっても油溜り部36bから切欠部31nへオイルを供給することができる。これにより、エンジンオイルの油圧低下を防止しながら、ローラ32の摺動部の摩擦を低減することができる。
【0065】
また、本変形例にかかるカム構造10によれば、カムローブ30のみの追加加工で従来のカム構造を本発明のカム構造10に変化させることができる。そのため、製造コストを削減することができる。さらに、本変形例のオイル通路36は、カムローブ30に絞り部36aが設けられているため、絞り部36aの流路長さをカムシャフト20の外周面の厚みと異なる長さに設定することができる。つまり、絞り部36aで制限されるオイルの絞り量を調整することができる。また、上記実施形態や第一変形例で示した油溜り部34b,35bに比べて、油溜り部36bの容積を小さくすることができる。
【0066】
[4−3.その他]
上記実施形態及び各変形例では、ベースカム31に形成された切欠部31nが、バルブリフト部31bの先端部31cの幅方向中間部のうち中央に位置している場合を例示しているが、切欠部31nの位置は中央に限られず、片寄って設けられていてもよい。また、切欠部31nがバルブリフト部31bの先端部31cからベース円部31aの一部にかけて形成されているベースカム31を例示しているが、バルブリフト部31bのみを欠成して設けられていてもよい。また、切欠部31nの対向面31fの形状も上記したものに限られず、平面であってもよい。
【0067】
また、ベースカム31の具体的な形状(リフト量及び作用角)はエンジンの仕様により適宜設定可能である。また、ローラ32の大きさやローラ32のベースカム31に対する突出量も図示したものに限られず、適宜設定可能である。
【0068】
また、上記実施形態及び各変形例では、ローラ32がベースカム31に固定されたローラシャフト33に対して回転するカム構造10を説明したが、ローラ32とローラシャフト33とが固定され、ローラシャフト33がベースカム31に対して回転するカム構造であってもよい。また、ローラ32がローラシャフト33に対して回転自在であり、さらにローラシャフト33もベースカム31に対して回転自在であってもよい。このような場合であっても、切欠部31nにオイルが供給されることにより摺動部に油膜が形成され、摩擦を低減することができる。