(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
メルトフローレート(JIS K7210準拠、230℃、2.16kg荷重)が0.5〜100g/10分であり、プロピレン系(共)重合体成分(A)とプロピレン/エチレンランダム共重合体成分(B)がチーグラー触媒により製造される請求項1に記載の放射線滅菌される医療向け部材用プロピレン系樹脂組成物。
【背景技術】
【0002】
プロピレン系重合体は、その優れた安全衛生性や成形加工性、力学特性、ガスバリヤー性の特徴を生かし、各種の医療器具の部材に使用されている。そして、その滅菌方法もEOG(エチレンオキサイド)滅菌や高圧蒸気滅菌、放射線滅菌などが行われているが、特に近年は、効率面等から放射線滅菌の要望が高まっている。
一方、放射線滅菌にて、プロピレン系重合体は、分子切断等により、製品の衝撃強度が著しく低下することが知られている。医療用部材において、使用時等に破損することは避けるべきことであり、特に、透明性が求められるシリンジやダイアライザーでは、透明性と耐衝撃性の両立を追求した検討が行われ、さまざまな工夫がなされてきている。
【0003】
医療器具の例として、以下にダイアライザーの例を説明する。
腎臓の機能が低下すると、人工腎臓と呼ばれる装置で、血液から水分や老廃物を取り出すとともに、血液が酸性にならないような調節が行なわれる。一般に、これを人工透析と言う。その概念を
図1に、血液をきれいにするダイアライザーの例を
図2に示す。
【0004】
図1において、透析を受ける人の腕1の血管に針を刺し、血液ポンプ3で連続的に血液を取り出す。血液ポンプ3は、ローラーを柔らかいチューブ2に押しつけながら回転することによって血液を一方向へ送ることができる。そして、血液をきれいにする部分が、ダイアライザー5と呼ばれる用具である。ダイアライザー5に空気が入ると効率が悪くなり、また透析を受ける人の安全を守るために、空気が入らないようにエアートラップ4と呼ばれる筒がダイアライザーの前後に取り付けられている。ダイアライザー5では、半透膜を介して、血液から過剰な水や老廃物を排出し、血液をきれいにすることができる。その際、コンソール6という調節装置によって、透析液が正確にダイアライザー5へ送られ、内部の水や老廃物が混じった透析液が外部へ運び出される。コンソール6には各種の警報も付いており、安全に人工透析ができるようになっている。
【0005】
ダイアライザー5は、長さが30cmほどの円筒状のプラスチック製容器で構成されており、その中には、
図2に示すように、半透膜であるホローファイバー11という極めて細い糸が1万本程度、該容器に対し平行に束ねて収められている。ホローファイバー11はマカロニのように中心部に穴があいており、その穴の中を血液が流れ、ホローファイバー11の外側を透析液が流れている。ホローファイバー11は水や老廃物を、透析液へと通すように作られているので、連続的に血液を送ることによって血液をきれいにすることができる。
また、ダイアライザー5は、円筒状の外筒12と外筒12に蓋をするためのヘッダー13とから構成されている。両側のヘッダー13同士は、ホローファイバー11と結合しており、一方のヘッダー13の血液流入口7から血液が流れ込み、ホローファイバー11の中を血液が流れる際、血液中の水や老廃物がホローファイバー11の外側である透析液へ排出され、その後、もう一方のヘッダー13の血液流出口8から血液が流れ出る構造となっている。また、外筒12には、透析液の流入口9と透析液の流出口10が設けられており、ダイアライザー5内に透析液を循環させることにより水や老廃物を取り出す構造となっている。
【0006】
現在、このようなダイアライザーの外筒やヘッダー部分は、ポリカーボネート樹脂を素材とするものが主流である(例えば、特許文献1、2参照)。ポリカーボネート樹脂は、透明性や耐衝撃性に優れているため、ダイアライザーが稼動中、内部の状態が見えやすく安心して使用できる点、運搬や使用時において壊れ難いという点で優位な素材である。しかし、その反面、ポリカーボネート樹脂は、成形する前に乾燥工程を必要とするため作業効率が悪く、融点が高いため成形温度が高くエネルギー効率が悪いといった問題や、原料に起因する化学物質の溶出による悪影響の懸念や、高価格であるという問題も含んでいた。
【0007】
そのため、ポリカーボネート樹脂に代わる、優れた耐衝撃性、透明性および成形性を有し、透析型人工腎臓装置承認基準のうち、透析液供給部及び透析液回路の品質及び試験法
1(2)を満足し得る素材が望まれているのが現状である。さらに、人工透析用部材は、使い捨ての注射筒などと異なり、血液と長い時間接触する為、滑剤などの溶出する成分が含まれていると好ましくなく、透析型人工腎臓装置承認基準を満足する必要がある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の医療向け部材用プロピレン系樹脂組成物は、エチレン含有量が0〜5重量%であるプロピレン系(共)重合体成分(A)を40〜95重量%と、エチレン含有量が10〜30重量%であるプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(B)を5〜60重量%の割合で含み、プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(B)とプロピレン系(共)重合体成分(A)の極限粘度の比([η]B/[η]A)が0.5〜1.3の範囲にあるプロピレン系ブロック共重合体100質量部に対し、前記一般式(1)で示される造核剤を0.01〜0.6重量部含有することを特徴とする。
【0016】
以下、本発明の医療向け部材用プロピレン系樹脂組成物の構成成分および医療用部材について、詳細に説明する。
なお、本明細書において、「〜」とは、特に断りのない限り、その前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0017】
(1)プロピレン系ブロック共重合体
本発明の医療向け部材用プロピレン系樹脂組成物に用いるプロピレン系ブロック共重合体は、エチレン含有量が0〜5重量%であるプロピレン系(共)重合体成分(A)を40〜95重量%と、エチレン含有量が10〜30重量%であるプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(B)を5〜60重量%の割合で含むプロピレン系ブロック共重合体であって、プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(B)とプロピレン系(共)重合体成分(A)との極限粘度比[η]B/[η]Aが0.5〜1.3の範囲にあるプロピレン系ブロック共重合体である。
【0018】
このようなプロピレン系ブロック共重合体は、いわゆるブロック共重合体と通称されているものであり、プロピレン系(共)重合体成分(A)とプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(B)のブレンド状態にあり、双方が重合で結合しているものではない。
【0019】
本発明で用いられる上記プロピレン系ブロック共重合体は、結晶性であるプロピレン系(共)重合体成分(A)と低結晶性であるプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(B)とからなる。
プロピレン系(共)重合体成分(A)は、上記のとおり、エチレン含有量が0〜5重量%であり、プロピレン単独重合体であっても、プロピレンを主体とし、エチレンとの共重合体であっても、それらを2種以上含む混合物であってもよい。但し、プロピレン系(共)重合体成分(A)のエチレン量が5重量%を超えると、剛性不足や成形性悪化の懸念が生じるため、5重量%までが好ましい。プロピレンと共重合されるものとして、エチレン以外にもブテン−1やヘキセン−1が挙げられるが、エチレンが物性バランスにおいて好適である。
【0020】
プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(B)は、エチレン含有量が10〜30重量%である。プロピレン単位の含有量が90重量%を超える場合、成形品である医療用部材の低温耐衝撃性が不十分となり、一方、30重量%未満の場合には、医療用部材の透視性および透明性が低下する。プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(B)中のエチレン含有量は、好ましくは15〜28重量%であり、より好ましくは20〜25重量%である。
【0021】
プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(B)は、135℃のテトラリン中で測定した極限粘度[η]Bが0.5〜2.0dl/gであることが好ましく、より好ましくは1.3〜2.0dl/gの範囲にあることが好ましい。
【0022】
プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(B)の極限粘度[η]Bとプロピレン系(共)重合体成分(A)の極限粘度[η]Bの比[η]B/[η]Aは、0.3〜1.3の範囲にあることが必要である。[η]B/[η]Aがこのような範囲にあることで、透明性が良好となる。[η]B/[η]Aは、好ましくは0.4〜1.2である。なお、[η]B及び[η]Aは、135℃のテトラリン中で同一の条件にて測定される。
【0023】
本発明で用いられるプロピレン系ブロック共重合体は、JIS K7210(230℃、2.16kg荷重)に準拠したメルトフローレートが0.5〜100g/10分であることが好ましく、5〜50g/10分がより好ましく、さらには10〜30g/10分好ましい。メルトフローレートが0.5g/10分未満では、成形不良が発生する懸念があり、メルトフローレートが100g/10分を超えると、耐衝撃性など物性低下の懸念が生じる。
なお、過酸化物によってメルトフローレートを調整してペレット化する際、跳ね上げ倍率が10倍を超えると、ペレット形状が歪になる等の不具合が発生する恐れがあり、跳ね上げ倍率は好ましくは6倍以内であり、更に好ましくは4倍以内である。過酸化物によってメルトフローレートを調整する場合は、調整前のプロピレン系ブロック共重合体のメルトフローレートは、0.5〜12g/10分がよく、好ましくは3〜10g/10分である。この範囲では製造を行いやすく、物性バランスも良好となる。
【0024】
本発明で用いるプロピレン系ブロック共重合体の製造方法としては、上記の諸特性を満足すればいかなる方法で製造してもよい。プロピレン系(共)重合体成分(A)とプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(B)を別々に重合したものを混合装置で混合してもよいが、プロピレン系(共)重合体成分(A)を重合する工程とプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(B)を重合する工程からなる多段重合により製造することがこのましい。
プロピレン系重合体の極限粘度を調整する方法は、水素もしくは他の公知の分子量調整剤で行うことができ、重合時に供給する水素ガスの量を調整することにより行われる。
【0025】
使用する触媒は、立体規則性触媒が好ましい。立体規則性触媒としてはメタロセン触媒などもあるが、物性バランスにおいて、チーグラー触媒を使用することが好ましい。
【0026】
チーグラー触媒としては、三塩化チタン、四塩化チタン、トリクロロエトキシチタン等のハロゲン化チタン化合物、これらハロゲン化チタン化合物とハロゲン化マグネシウムに代表されるマグネシウム化合物との接触物等の、遷移金属成分とアルキルアルミニウム化合物又はそれらのハロゲン化物、水素化物、アルコキシド等の有機金属成分との2成分系触媒、更にそれらの成分に窒素、炭素、リン、硫黄、酸素、ケイ素等を含む電子供与性化合物を加えた3成分系触媒等が挙げられる。三塩化チタン系触媒の1例としては、Solvey触媒が挙げられる。
【0027】
プロピレン系ブロック共重合体の製造方法としては、上記触媒の存在下に、不活性溶媒を用いたスラリー法、溶液法、実質的に溶媒を用いない気相法や、あるいは重合モノマーを溶媒とするバルク重合法等が挙げられる。
【0028】
例えば、スラリー重合法の場合には、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の不活性炭化水素又は液状モノマー中で行うことができる。重合温度は、通常−80〜+150℃であり、好ましくは40〜120℃である。重合圧力は、1〜60気圧が好ましい。
【0029】
(2)造核剤
本発明で用いるプロピレン系樹脂組成物に用いられる造核剤は、下記一般式(1)で表されるものである。
【0031】
上記式中、nは、0〜2の整数であり、R
1〜R
5は、同一または異なって、それぞれ水素原子もしくは炭素数が1〜20のアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、カルボニル基、ハロゲン基およびフェニル基であり、R
6は炭素数が1〜20のアルキル基である。
【0032】
本発明においては、透明性に優れている点、及び成形収縮率の異方性が少ない点で、上記一般式(1)で表される造核剤が好ましい。成形収縮率の異方性とは、射出成形により得た成形品の流れ方向とそれに対して垂直方向の収縮率の差のことである。この異方性が著しいと、医療用部材、例えば、ダイアライザーの外筒は円筒形状である場合が多いが、射出成形によって得られた成形品は正確な円形状が得られにくくなり、円柱形状が曲がってしまう恐れがある。
【0033】
上記一般式(1)中、nが0〜2の整数であり、R
1、R
2、R
4及びR
5が水素原子であり、R
3は、水素原子もしくは炭素数が1〜20のアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、カルボニル基、ハロゲン基およびフェニル基であり、R
6が炭素数1〜20のアルキル基であるものが好ましい。
【0034】
一般式(1)で表される造核剤としては、下記の化学式(2)で示されるミリケン・アンド・カンパニー社製の透明造核剤で商品名「ミラッドNX8000」として市販されているものが挙げられる。この透明造核剤は、透明性が優れるばかりでなく、低溶出性にも優れているので特に好ましい。
【0036】
上記造核剤の配合量は、上記プロピレン系ブロック共重合体100質量部に対し、0.01〜0.6重量部であり、好ましくは0.1〜0.5重量部であり、より好ましくは、0.2〜0.3重量部である。造核剤の配合量が、0.01重量部未満では十分な効果が得られ難く、0.6重量部を超えて用いると、さらなる性能の向上が期待できないばかりか溶出し易くなり好ましくない。
【0037】
(3)その他の成分
本発明に用いられるプロピレン系樹脂組成物には、前記プロピレン系ブロック共重合体および前記造核剤の他に、本発明の効果を阻害しない範囲で、公知の樹脂用配合剤、例えば、中和剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、有機染料、帯電防止剤、スリップ剤、脂肪酸金属塩等の分散剤、着色剤、充填剤、オレフィン系エラストマー等をそれ自体公知の処方で配合させることができる。
【0038】
但し、放射線滅菌を行うにあたり、放射線滅菌後の着色の観点から、一般にフェノール系酸化防止剤は添加しない方が好ましく、通常はリン系酸化防止剤を0.01〜0.2重量%(例えばADEKA社製商品名「アデガスタブ2112」等)と、ヒンダードアミン系紫外線安定剤(略称:HALS、例えばBASFジャパン社製商品名「TINUVIN622LD」)0.01〜0.2重量%を組み合わせた処方で放射線照射に対応させることが好ましい。
【0039】
中和剤の具体例としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムなどの金属脂肪酸塩、DHT−4A(商品名:協和化学工業(株)製、下記一般式(3)で表されるマグネシウムアルミニウム複合水酸化物塩)、ミズカラック(商品名:水澤化学工業(株)製、下記一般式(4)で表されるリチウムアルミニウム複合水酸化物塩)などが挙げられる。特に、ダイアライザーなど長期接液する部材として用いる場合には、接触する液体に溶出しないDHT−4Aやミズカラックが有利である。
Mg
1−xAl
x(OH)
2(CO
3)
x/2・mH
2O ・・・(3)
(式(3)中、xは0≦x≦0.5であり、mは3以下の数である。)
[Al
2Li(OH)
6]
nX・mH
2O ・・・(4)
(式(4)中、Xは無機または有機のアニオンであり、nはアニオン(X)の価数であり、mは3以下である。)
【0040】
但し、ダイアライザーの本体は円柱状に形状をしている場合が多く、この場合、良好な離型性が必要となり、その際は中和剤として離型性効果もあるステアリン酸カルシウムなどを使用するとよい。一般に用いられる滑剤であるオレイン酸アミドやエルカ酸アミドなどは溶出しやすいので好ましくない。ステアリン酸カルシウムなどの添加量としては、0.03〜0.25重量%がよく、より好ましくは0.08〜0.12重量部が良好である。0.03重量部未満では離型性効果が充分でなく、0.25重量部を超えると射出成形時に金型汚染が発生する場合があり好ましくない。
【0041】
安定剤(酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤)としては、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−フォスファイト、ジ−ステアリル−ペンタエリスリトール−ジ−フォスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−フォスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレン−ジ−フォスフォナイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)−4,4’−ビフェニレン−ジ−フォスフォナイト、6−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンズ[d,f][1.3.2]ジオキサホスフェピン等のリン系酸化防止剤、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、テトラキス[メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)]メタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ハイドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ハイドロキシベンジル)イソシアヌレート等のフェノール系酸化防止剤、ジ−ステアリル−ββ’−チオ−ジ−プロピオネート、ジ−ミリスチル−ββ’−チオ−ジ−プロピオネート、ジ−ラウリル−ββ’−チオ−ジ−プロピオネート等のチオ系酸化防止剤、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等の紫外線吸収剤、n−ヘキサデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピぺリジル)セバケート、コハク酸ジメチル−2−(4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジル)エタノール縮合物、ポリ{[6−〔(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ〕−1,3,5−トリアジン−2,4ジイル]〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕ヘキサメチレン〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕}、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン−2,4−ビス〔N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ〕−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物等の光安定剤、放射線処理で変色がなく耐NOxガス変色性が良好な化学式(5)や一般式(6)で表されるアミン系酸化防止剤、化学式(7)等のビタミンE系酸化防止剤を挙げることができる。
【0045】
過酸化物としては、例えば、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカルボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカルボネート、ジ(2−メトキシエチル)パーオキシジカルボネート、ジ(メトキシイソプロピル)パーオキシジカルボネート、ジ(2−メチルヘキシル)パーオキシジカルボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシパイバレート、3,5,5−トリメチルヘキサノールパーオキサイド、オクタノールパーオキサイド、デカノールパーオキサイド、ラウロールパーオキサイド、ステアロールパーオキサイド、プロピオニルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)、ベンゾキシパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサノン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサノン、t−ブチルパーオキシマレイン酸、琥珀酸オキサイド、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート、シクロヘキサノンパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカルボネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルジパーオキシフタレート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バラレート、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキシド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−イソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロキシパーオキサイド、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、クメンハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
【0046】
(4)プロピレン系樹脂組成物の製造方法
本発明の医療向け部材用プロピレン系樹脂組成物は、前記プロピレン系ブロック共重合体と前記造核剤、及び、必要に応じて配合する他の樹脂用配合剤の各成分をヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、リボンブレンダー等を用いて配合し、通常の単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、プラベンダー、ロール等で190〜260℃の温度範囲で溶融混練することにより得ることができる。
【0047】
(5)医療用部材
本発明の医療用部材は、上記プロピレン系樹脂組成物を、例えば射出成形法、押出成形法、ブロー成形法など各種の成形法によって成形することにより得られる。
医療用部材としては、人工透析用の部材、ディスポーザブルシリンジ、プレフィルドシリンジ等の各種シリンジ類、薬液容器、真空採血管、輸血用フィルター等が好ましく例示される。
【0048】
前述したように、医療用部材は近年、放射線滅菌が施されることが多くなっているが、本発明の樹脂組成物からなる医療用部材は、放射線滅菌後も製品の衝撃強度と透明性の低下が極めて少ないので、放射線滅菌する医療部材として好適に利用でき、特に透明性と耐衝撃性の両方が重視される人工透析用部材やシリンジとして好適である。
【0049】
人工透析用部材としては、ダイアライザーの外筒やヘッダー及びその関連部材を挙げることができる。人工透析用部材は、放射線滅菌(電子線やγ線など)が施され、放射線としては、γ線や電子線を挙げることができ、本発明による人工透析用部材には、1〜50KGyの照射が行われていることが好ましく、5〜30KGyの照射がされていることがより好ましい。照射量が、1KGy未満では十分な効果が得られ難く、50KGyを超えて用いると、放射線照射後の物性低下が著しくなり、良好な製品が得られなくなる恐れがある。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載により何ら限定されるものではない。
各実施例及び比較例において用いた各成分、物性測定法は、以下の通りである。
【0051】
[物性測定法]
(1)エチレン含有量:
13C−NMRにより組成を検定したエチレン−プロピレンランダムコポリマーを基準物質として733cm
−1の特性吸収体を用いる赤外分光法により、ランダムコポリマー中のエチレン含量を測定した。ペレットをプレス成形により約500ミクロンの厚さのフィルムとしたものを用いた。
(2)極限粘度(単位:dl/g):
溶媒としてテトラリン(テトラヒドロナフタリン)を用い、135℃の温度条件下、自動粘度測定装置を使用し測定した。
(3)MFR:
JIS K7210に準拠して、230℃、2.16Kg荷重に準拠して測定した。
【0052】
(4)ヘイズ値:
厚さ1mmのシート片を用いて、通常の滅菌せずにJIS K7136に準拠して測定し、更に別途、25KGyのγ線を照射し、1週間後JIS K7136に準拠して測定した。
(5)曲げ弾性率:
通常の滅菌せずにJIS K7171に準拠して測定し、更に別途、試験片に25KGyのγ線を照射し、1週間後JIS K7171に準拠して23℃で測定した。
(6)シャルピー衝撃値:
通常の滅菌せずにJIS K7111に準拠して測定し、更に別途、試験片に25KGyの電子線を照射し、1週間後JIS K7111に準拠して23℃と0℃で測定した。
【0053】
(7)透析型人工腎臓装置承認基準のうち、透析液供給部及び透析液回路の品質及び試験法
透析型人工腎臓装置承認基準のうち、透析液供給部及び透析液回路の品質及び試験法 1(2)に従って、ペレットにγ線25KGyを照射したのちに測定を実施した。なお、溶出試験結果の基準は、以下の(i)〜(vii)であり、これらを全て満たしたものが「適合」となる。
(i)外観:無色燈明、異物なし
(ii)あわだち:3分以内に消失
(iii)pH:ブランクとの差が1.5以下
(iv)亜鉛:標準溶液以下
(v)過マンガン酸カリウム還元性物質:標準溶液との過マンガン酸カリウム消費量の差1.0ml以下
(vi)蒸発残留物:1.0mg以下
(vii)紫外吸収スペクトル:0.1以下
【0054】
[使用材料]
<プロピレン系ブロック共重合体>
本発明での規定を満たすプロピレン系ブロック共重合体として、以下のPP1〜PP6を使用した。
・プロピレン系ブロック共重合体(PP1):
エチレン含有量が2.4重量%とするプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A)を86重量%、エチレン含有量が25重量%とするプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(B)を14重量%で、極限粘度比[η]B/[η]Aが1.0でMFR=25g/10分。チーグラー触媒で重合。
・プロピレン系ブロック共重合体(PP2):
エチレン含有量が2.4重量%とするプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A)を90重量%、エチレン含有量が25重量%とするプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(B)を10重量%で、極限粘度比[η]B/[η]Aが1.0でMFR=25g/10分。チーグラー触媒で重合。
・プロピレン系ブロック共重合体(PP3):
エチレン含有量が2.5重量%とするプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A)を94重量%、エチレン含有量が25重量%とするプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(B)を6重量%で、極限粘度比[η]B/[η]Aが1.0でMFR=25g/10分。チーグラー触媒で重合。
・プロピレン系ブロック共重合体(PP4):
エチレン含有量が2.4重量%とするプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A)を80重量%、エチレン含有量が25重量%とするプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(B)を20重量%で、極限粘度比[η]B/[η]Aが1.0でMFR=37g/10分。チーグラー触媒で重合。
・プロピレン系ブロック共重合体(PP5):
エチレン含有量が2.4重量%とするプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A)を90重量%、エチレン含有量が25重量%とするプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(B)を10重量%で、極限粘度比[η]B/[η]Aが0.75でMFR=25g/10分。チーグラー触媒で重合。
・プロピレン系ブロック共重合体(PP6):
エチレン含有量が2.4重量%とするプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A)を90重量%、エチレン含有量が25重量%とするプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(B)を10重量%で、極限粘度比[η]B/[η]Aが1.1でMFR=25g/10分。チーグラー触媒で重合。
【0055】
本発明での規定を満たさないプロピレン系共重合体として、以下のPP7〜PP9を使用した。
・プロピレン系ブロック共重合体(PP7):
エチレン含有量が2.5重量%とするプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A)を99重量%、エチレン含有量が25重量%とするプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(B)を1重量%で、極限粘度比[η]B/[η]Aが1.0でMFR=25g/10分。チーグラー触媒で重合。
・プロピレン−エチレンランダム共重合体(PP8):
エチレン含有量2.5重量%、MFR=25g/10分のプロピレン−エチレンランダム共重合体、チーグラー触媒で重合。
・プロピレン−エチレンランダム共重合体(PP9):
エチレン含有量3.9重量%、MFR=25g/10分のプロピレン−エチレンランダム共重合体、チーグラー触媒で重合。
【0056】
<造核剤>
前記式(2)で示す造核剤であるミリケン社製、商品名「NX8000」を使用した。
<樹脂用配合剤>
・中和剤:
ステアリン酸カルシウム
・フォスファイト系酸化防止剤
「アデガスタブ2112」、(ADEKA社製、商品名)
・ヒンダードアミン系紫外線安定剤
「TINUVIN622LD」、(BASF製、商品名)
【0057】
(実施例1〜6、比較例1〜3)
以下の表1に記載のプロピレン系重合体100重量部に対して、造核剤「NX8000」を0.3重量部、ステアリン酸カルシウムを0.05重量部、「アデガスタブ2112」を0.10重量部および「TINUVIN622LD」を0.05重量部、スーパーミキサーでドライブレンドした後、35ミリ径の2軸押出機を用いて溶融混練した。ダイ出口部温度250℃でダイから押し出しペレット化した。
得られたペレットを射出成形機により、樹脂温度240℃、射出圧力900kg/cm
2及び金型温度40℃で射出成形し、試験片をつくり、物性を測定した。その結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1から明らかなように、実施例1〜6は、透明性があり、放射線滅菌後も耐衝撃性に優れていることが判る。一方、本発明の規定を満たさない比較例1〜3は、透明性はよいものの、放射線滅菌後の耐衝撃性は、実施例に比べて劣る。
また、本発明の規定を満たす配合であれば、透析型人工腎臓装置承認基準のうち、透析液供給部及び透析液回路の品質及び試験法 1(2)に適合し、耐衝撃性に優れていることがわかる。