特許第6115290号(P6115290)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6115290
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】ヒートポンプ装置および給湯装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/155 20060101AFI20170410BHJP
   H02M 7/12 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   H02M3/155 K
   H02M7/12 P
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-93337(P2013-93337)
(22)【出願日】2013年4月26日
(65)【公開番号】特開2014-217200(P2014-217200A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004709
【氏名又は名称】株式会社ノーリツ
(74)【代理人】
【識別番号】100099977
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 章吾
(74)【代理人】
【識別番号】100104259
【弁理士】
【氏名又は名称】寒川 潔
(72)【発明者】
【氏名】井上 清晴
(72)【発明者】
【氏名】井上 信之
【審査官】 麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−79050(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/099918(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/12
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒体を圧縮する圧縮機を備えたヒートポンプ装置において、
交流電源から電力供給を受ける力率改善回路部と、前記力率改善回路部から電力供給を受けて前記圧縮機をインバータ制御するインバータ回路部と、前記力率改善回路部の目標出力電圧と前記力率改善回路部の出力電圧との差に基づいて、前記力率改善回路部のスイッチング素子の導通期間をフィードバック制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記交流電源の瞬時電圧低下を検出すると、前記フィードバック制御を停止させて、前記スイッチング素子の導通期間をその制御範囲の上限値または上限値付近の固定値に制御する制御構成を備えていることを特徴とするヒートポンプ装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記フィードバック制御の停止中に、前記交流電源の瞬時電圧低下の解消を検出すると、前記フィードバック制御を再開する制御構成を備えていることを特徴とする請求項1に記載のヒートポンプ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のヒートポンプ装置の熱媒体と熱交換を行う熱交換器を備えたことを特徴とする給湯装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はヒートポンプ装置および給湯装置に関し、より詳細には、ヒートポンプ装置を用いて温水を生成する給湯装置におけるヒートポンプ装置の圧縮機用電源の回路技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒートポンプ装置を備えた給湯装置が提供されている。この種の給湯装置は、周知のとおり、ヒートポンプ装置で高温化させた冷媒(熱媒体)との熱交換によって温水を生成するように構成されていることから、ヒートポンプ装置には冷媒を圧縮して高温化させるコンプレッサ(圧縮機)と、このコンプレッサ(具体的には、コンプレッサを駆動させる電動モータ)を動作させるための電源回路が備えられている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
図4は、このようなヒートポンプ装置に備えられる電源回路の回路構成の一例を示している。図4に示すように、ヒートポンプ装置に備えられる電源回路は、商用電源などの交流電源1を元電源としてコンプレッサ2を動作させるように構成されており、力率改善回路部3と、インバータ回路部4と、制御部5とを主要部として備えている。そして、制御部5が、交流電源1のゼロクロスを検出して力率改善回路部3を動作させるとともに、その動作中は、力率改善回路部3の出力電圧が所定の目標出力電圧(コンプレッサ2の緒元に応じて決定される既定値)となるように力率改善回路部3のスイッチング素子をフィードバック制御するように構成されている。
【0004】
このように構成される力率改善回路部3は、交流電源1の交流電圧を整流する整流回路(図示せず)と、この整流回路で整流された整流電圧を昇圧する昇圧型の力率改善回路とを備えている。図5は、このうちの力率改善回路の回路構成の一例を示している。図5において、6は上記整流回路で整流された整流電圧(直流電圧源)を示しており、7は昇圧コイル(リアクタ)、8はブリッジダイオード(整流器)、9はIGBT(スイッチング素子)、10は整流ダイオード、11は平滑コンデンサ、12は出力電圧センサ、13は力率改善回路の出力電流(直流電流源)を示している。
【0005】
この図5に示す力率改善回路は、IGBT9のオン/オフを繰り返す(IGBT9をスイッチングさせる)ことによって出力電圧を昇圧させるようになっており、その出力電圧が所定の目標出力電圧となるように制御部5がフィードバック制御を行っている。すなわち、制御部5は、力率改善回路の出力電圧(出力電圧センサ12の検出電圧)が所定の目標出力電圧となるように、IGBT9をスイッチングさせるPWM信号のオン期間(IGBT9の導通期間)を制御している。
【0006】
図6は、このフィードバック制御の制御モデルを示しており、この図6に示すように、制御部5は、力率改善回路の目標出力電圧(図示例では280V)と出力電圧センサ12の検出電圧Voutとを比較して両者の差を演算する比較器15と、この比較器15の出力に基づいてフィードバック制御量を演算するPI制御器(比例・積分制御器)16と、PI制御器16の演算結果に応じたPWM信号を発生させるパルス発生器17とを備えている。なお、図6において、18はPWM信号を生成するための鋸波を発生させる信号発生器を、19はPI制御器16の演算結果に応じた基準信号を発生させる信号発生器をそれぞれ示しており、パルス発生器17は、両信号を比較することによってPI制御器16の演算結果に応じたPWM信号を生成して、IGBT9の制御端子に入力するように構成されている。
【0007】
そして、この力率改善回路の出力電圧Voutがインバータ回路部4に入力され、インバータ回路部4においてコンプレッサ2を動作させる交流電力が生成され、この交流電力によってコンプレッサ2の電動モータの回転数を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−247985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、このように力率改善回路の出力電圧をフィードバック制御する従来の構成では、たとえば、図7(a)に示すように、交流電源1の電圧が瞬間的に低下する瞬時電圧低下(図示例では電圧が50%に低下)が発生すると、力率改善回路部3の出力電圧が、図7(b)に示すように、徐々に低下し、コンプレッサ2が動作を継続できなくなる場合があった。
【0010】
すなわち、交流電源1の瞬時電圧低下が発生すると、IGBT9の導通期間(PWM信号のオン期間)中に昇圧コイル7に蓄えられる電気エネルギが半減するため、エネルギ不足によって力率改善回路の出力電圧Voutが低下する(図2(b)参照)。このとき、制御部5は、図7(d)に示すように、PWM信号のオン期間を徐々に広げるように動作する(PWM信号のオン期間の広がりに伴って、図7(c)に示すように、整流ダイオード10に流れる電流が上昇する)が、インバータ回路部4の出力電圧が上昇に転じるまでには時間がかかるため、その間に、インバータ回路部4の出力電圧がコンプレッサ2の停止電圧(すなわち、コンプレッサ2の回転を維持させるために必要な電圧。たとえば、220V)を下回ってしまい、コンプレッサ2の動作が停止する場合があった。しかも、このようにしてコンプレッサ2の動作が一旦停止してしまうと、仮に交流電源1の電圧が瞬時に回復したとしてもコンプレッサ2の再起動に時間がかかるという問題もある。
【0011】
また、このような瞬時電圧低下に伴うコンプレッサ2の動作停止は、ヒートポンプ式の給湯装置においてはヒートポンプ装置による温水の生成(貯湯タンク内の湯水の沸き上げ)ができなくなることを意味する。特に、ヒートポンプ装置以外の温水生成手段(たとえば、ガス燃焼装置などの補助熱源機)を備えていない給湯装置においては、交流電源1の瞬時電圧低下によって温水の生成がまったくできなくなるという問題があった。
【0012】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、交流電源の瞬時電圧低下が発生したときでもコンプレッサの動作を継続できるヒートポンプ装置を提供することにより、瞬時電圧低下が発生しても沸き上げ動作を継続できる給湯装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に記載のヒートポンプ装置は、熱媒体を圧縮する圧縮機を備えたヒートポンプ装置において、交流電源から電力供給を受ける力率改善回路部と、上記力率改善回路部から電力供給を受けて上記圧縮機をインバータ制御するインバータ回路部と、上記力率改善回路部の目標出力電圧と上記力率改善回路部の出力電圧との差に基づいて、上記力率改善回路部のスイッチング素子の導通期間をフィードバック制御する制御部とを備え、上記制御部は、上記交流電源の瞬時電圧低下を検出すると、上記フィードバック制御を停止させて、上記スイッチング素子の導通期間をその制御範囲の上限値または上限値付近の固定値に制御する制御構成を備えていることを特徴とする。
【0014】
この請求項1に記載のヒートポンプ装置では、交流電源の瞬時電圧低下が発生すると、力率改善回路部のフィードバック制御が停止し、スイッチング素子の導通期間が制御範囲の上限値または上限値付近の固定値となるので、力率改善回路部の出力電圧は、図2(b)に示すように、即座に上昇する。そのため、この請求項1に記載のヒートポンプ装置によれば、交流電源の瞬時電圧低下によってインバータ回路部の出力電圧が圧縮機の停止電圧(すなわち、圧縮機の回転を維持させるために必要な電圧)を下回ることが回避されるので、コンプレッサの動作を継続させることができる。
【0015】
本発明の請求項2に記載のヒートポンプ装置は、請求項1に記載のヒートポンプ装置において、上記制御部は、上記フィードバック制御の停止中に、上記交流電源の瞬時電圧低下の解消を検出すると、上記フィードバック制御を再開する制御構成を備えていることを特徴とする。
【0016】
この請求項2に記載のヒートポンプ装置によれば、交流電源の瞬時電圧低下によって力率改善回路部のフィードバック制御が停止しているときに、交流電源の瞬時電圧低下が解消すると、制御部がそれを検知して、力率改善回路部のフィードバック制御を自動的に再開させるので、交流電源の瞬時電圧低下の解消後はヒートポンプ装置を通常動作に自動復帰させることができる。
【0017】
本発明の請求項3に記載の給湯装置は、請求項1または2に記載のヒートポンプ装置の熱媒体と熱交換を行う熱交換器を備えたことを特徴とする。
【0018】
この請求項3に記載の給湯装置によれば、交流電源の瞬時電圧低下が発生しても圧縮機による熱媒体の圧縮を行うことができるので、交流電源の瞬時電圧低下が発生しても温水の生成が可能な給湯装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、力率改善回路部のスイッチング素子の導通期間をフィードバック制御する制御部が、交流電源の瞬時電圧低下を検出すると、フィードバック制御を停止させて、スイッチング素子の導通期間をその制御範囲の上限値または上限値付近の固定値に制御するので、インバータ回路部の出力電圧が圧縮機の停止電圧(すなわち、圧縮機の回転を維持させるために必要な電圧)を下回るのが回避され、コンプレッサの動作を継続させることができる。
【0020】
また、本発明の給湯装置によれば、交流電源の瞬時電圧低下が発生しても温水の生成が可能な給湯装置を提供することができる。そのため、ヒートポンプ装置以外の温水生成手段を備えていない給湯装置において、交流電源の瞬時電圧低下により温水の生成ができなくなるという事態が解消される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係るヒートポンプ装置の力率改善回路の制御モデルを示す説明図である。
図2】同ヒートポンプ装置における瞬時電圧低下時の状態を示す波形図であり、図2(a)は交流電源の電圧波形を、図2(b)は力率改善回路部の出力電圧波形を、図2(c)は力率改善回路の整流ダイオードの電流波形を、図2(d)は力率改善回路を制御するPWM信号波形をそれぞれ示している。
図3】同ヒートポンプ装置を用いた給湯装置の概略構成を示す説明図である。
図4】ヒートポンプ装置に備えられる電源回路の回路構成の一例を示すブロック図である。
図5】同電源回路に備えられる力率改善回路の回路構成の一例を示す回路図である。
図6】従来のヒートポンプ装置における力率改善回路の制御モデルを示す説明図である。
図7】従来のヒートポンプ装置における瞬時電圧低下時の状態を示す波形図であり、図7(a)は交流電源の電圧波形を、図7(b)は力率改善回路部の出力電圧波形を、図7(c)は力率改善回路の整流ダイオードの電流波形を、図7(d)は力率改善回路を制御するPWM信号波形をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明に係るヒートポンプ装置は、上述した従来のヒートポンプ装置の電源回路の制御構成を改変したものであって、同電源回路の基本構成は上述した従来のヒートポンプ装置のものと共通する。したがって、構成が共通する部分には同一の符号を付すものとする。
【0023】
すなわち、このヒートポンプ装置は、コンプレッサ2を動作させる電源として、商用電源などの交流電源1を元電源とする電源回路を備えており、この電源回路は、図4に示すように、力率改善回路部3と、インバータ回路部4と、制御部5とを主要部として構成されている。
【0024】
力率改善回路部3は、図示しない整流回路と、この整流回路で整流された整流電圧を昇圧する昇圧型の力率改善回路とで構成されており、力率改善回路は、図5に示すように、昇圧コイル7と、ブリッジダイオード8と、IGBT(スイッチング素子)9と、整流ダイオード10と、平滑コンデンサ11と、出力電圧センサ12とを備えている。
【0025】
インバータ回路部4は、コンプレッサ2のインバータ制御を行うインバータ回路を備えて構成される。この種のインバータ回路の構成自体は周知であるので、ここではその詳細な説明は省略するが、コンプレッサ2の電動モータの回転数はこのインバータ回路部4によって制御されるようになっている。
【0026】
制御部5は、力率改善回路部3の制御を行う制御装置であって、制御中枢としてマイコン(図示せず)を備えている。このマイコンには、力率改善回路部3の制御に関連して、交流電源1のゼロクロスを検出するゼロクロス信号が入力されるようになっており(図4参照)、制御部5はゼロクロスのタイミングに合わせて、後述する力率改善回路部3の制御を行うように構成されている。
【0027】
図1は、制御部5による力率改善回路部3(具体的には、力率改善回路部3に備えられる力率改善回路)の制御モデルを示している。この図1に示すように、本実施形態では、ヒートポンプ装置の制御部5には、上述した比較器15、PI制御器16、パルス発生器17、鋸波の信号発生器18および基準信号の信号発生器19に加えて、交流電源1の瞬時電圧低下を検出する瞬時電圧低下検出手段20と、IGBT9の導通期間を変更する第2基準信号を発生させる第2基準信号発生器21と、パルス発生器17に与える基準信号の切り替えを行う制御切替器22とが備えられている。
【0028】
瞬時電圧低下検出手段20は、力率改善回路の目標出力電圧(図示例では280V)と、力率改善回路の出力電圧Voutの差があらかじめ設定された所定値X(たとえば、X=30V)以上になると、制御切替器22の接点を第2基準信号発生器21側に切り換えるSW信号を出力するように構成されている。
【0029】
すなわち、交流電源1に瞬時電圧低下が発生すると、それに伴って力率改善回路の出力電圧Voutが低下するので、瞬時電圧低下検出手段20は、この出力電圧Voutの低下から交流電源1の瞬時電圧低下を検出するように構成されている。なお、この所定値Xは、交流電源1の瞬時電圧低下が検出可能な値であればよく、瞬時電圧低下検出手段20で検出する瞬時電圧低下の規模に応じて適宜変更可能である。
【0030】
第2基準信号発生器21は、IGBT9の導通期間をその制御範囲の上限値Yまたは上限値Y付近の固定値に制御するための第2基準信号を生成する信号発生器であって、本実施形態では、この第2基準信号は、パルス発生器17から出力されるPWM信号のデューティー比を40%にする信号を発生するように構成されている。
【0031】
ここで、このIGBT9の制御範囲は、IGBT9の緒元との関係で決定される。すなわち、IGBT9に流れる電流は、IGBT9の入力電圧とIGBT9の導通期間を乗じた値を更に昇圧コイル7のインダクタンスで除した値と比例関係にあることから、IGBT9の導通期間に制御範囲を設定することで、IGBT9に流れる電流を制限することができる。そのため、この上限値Yには、IGBT9が過電流とならない範囲の最大値が用いられる。なお、IGBT9に流れる電流が大きければ大きいほど、後述する力率改善回路の出力電圧Voutの低下を抑制する効果が高くなるので、第2基準信号は、IGBT9の導通期間をその制御範囲(つまり、過電流とならない範囲)の上限値Yまたはその上限値Y付近とする信号が用いられる。
【0032】
しかして、このように構成されたヒートポンプ装置では、交流電源1に瞬時電圧低下が発生すると、瞬時電圧低下検出手段20が瞬時電圧低下を検出して、制御切替器22を第2基準信号発生器側に切り替える。これにより、PI制御器16によるフィードバック制御が停止されるとともに、パルス発生器17からは、IGBT9の導通期間をその制御範囲の上限値Yまたは上限値Y付近の固定値に制御するPWM信号が出力される(図2(d)のP1参照)。なお、本実施形態では、瞬時電圧低下検出手段20から出力されるSW信号をPI制御器16の積分器にも入力するように構成しており、これによりPI制御器16のフィードバック制御を停止させるようにしている。
【0033】
このようにして、IGBT9を制御するPWM信号のオン期間が一気に制御範囲の上限値Yまたは上限値Y付近の固定値に変更されることで、整流ダイオード10に流れる電流が一気に増加し(図2(c)参照)、図2(b)に示すように、力率改善回路の出力電圧Voutも上昇する。そして、この出力電圧Voutの上昇に伴って、インバータ回路部4の出力電圧も即座に上昇に転じることとなる。
【0034】
そのため、本実施形態に示すヒートポンプ装置では、交流電源1に瞬時電圧低下が発生しても、瞬時電圧低下によってインバータ回路部4の出力電圧がコンプレッサ2の停止電圧(コンプレッサ2の回転を維持させるために必要な電圧。たとえば、220V)を下回る前に上昇に転じて、インバータ回路部4の出力電圧がコンプレッサ2の停止電圧を下回ることが回避される。つまり、ヒートポンプ装置の動作は停止することなく動作を継続することとなる。
【0035】
そして、この制御によって力率改善回路の出力電圧Voutが上昇し、力率改善回路の出力電圧Voutと力率改善回路の目標出力電圧との差が上記所定値X未満になると、瞬時電圧低下検出手段20は、SW信号の出力を停止して、制御切替器22の接点をPI制御器16側に切り替えて、PI制御器16による通常制御(フィードバック制御)を再開させる。
【0036】
なお、この通常制御への復帰は、力率改善回路の出力電圧Voutと力率改善回路の目標出力電圧との差が上記所定値X未満になると直ちに行うように構成することも可能であるが、本実施形態では、瞬時電圧低下検出手段20によるこの判定値にヒステリシス(たとえば、10Vのヒステリシス)を設けて、力率改善回路の出力電圧Voutと力率改善回路の目標出力電圧との差が上記所定値Xよりも小さい第2所定値Z(たとえば、20V)以下となることを条件に通常制御に復帰するようにしている。
【0037】
次に、本発明に係るヒートポンプ装置を用いた給湯装置を図3に基づいて説明する。
図3は、ヒートポンプ式の給湯装置の概略構成を示している。この図3に示すヒートポンプ式の給湯装置100は、図示しない給湯栓に温水を供給する給湯機能と、図示しない浴槽内の湯水を追い焚きするふろ追い焚き機能を有する給湯装置であって、ヒートポンプ装置101と、貯湯タンク102とを主要部として構成される。
【0038】
ヒートポンプ装置101は、大気中の熱を利用して温水を生成する自然冷媒ヒートポンプ装置であって、その基本的な構成は周知である。すなわち、このヒートポンプ装置101には、空気中の熱を熱媒体に取り込む蒸発器(図示せず)と、その熱媒体を圧縮するコンプレッサ(図示せず)と、圧縮によって高温化された熱媒体と貯湯タンク102から供給される湯水との熱交換を行う熱交換器(図示せず)とを主要部として備えており、この圧縮機の電源回路として、上述した力率改善回路部3、インバータ回路部4および制御部5を備えている。
【0039】
一方、貯湯タンク102は、ヒートポンプ装置101の熱交換器で生成された温水を貯留するためのタンクであって、このタンク内の温水を用いて上述した給湯機能やふろ追い焚き機能が実現されるようになっている(詳細は後述する)。
【0040】
貯湯タンク102は、図示のように、縦長形状の中空タンクで構成されており、ヒートポンプ装置101の熱交換器の出湯側(HP出力)に接続されたヒートポンプ温水戻り管103がこの貯湯タンク102の上部に接続されている。なお、104はヒートポンプ装置101から出湯する温水の温度を検出する温度センサを示している。また、この貯湯タンク102にはその高さ方向に複数の温度センサ(図示せず)が備えられており、貯湯タンク102内の湯水の温度分布が検出できるようになっている。
【0041】
貯湯タンク102の下部には、沸上げ切替弁106を介して、一方が上記ヒートポンプ温水戻り管103に接続され、他方がヒートポンプ装置101の熱交換器の入水側(HP入力)に接続されたヒートポンプ温水往き管105が接続されている。また、貯湯タンク102の下部には、この他に、後述する入水管112から分岐された補水管113が接続されており、貯湯タンク102内の湯水が出湯されたときには、この補水管113を介して、給水圧により貯湯タンク102に補水ができるようになっている。
【0042】
沸上げ切替弁106は、ヒートポンプ温水往き管105の接続先を切り替える流路切替弁であって、この沸上げ切替弁106によって貯湯タンク102をヒートポンプ装置101の熱交換器の入水側(HP入力)と連通させることで、ヒートポンプ装置101と貯湯タンク102との間に沸上げ用の循環流路が形成されるようになっている。107は循環ポンプであり、この循環ポンプ107を動作させることによって、沸上げ用の循環流路内の湯水が強制循環されて、ヒートポンプ装置101で生成された温水が貯湯タンク102に貯留されるようになっている。
【0043】
そして、この給湯装置100は、給湯機能に関して、貯湯タンク102の上部に高温の温水を取り出すための高温出湯管108と、貯湯タンク102の中間部に中間温度の温水を取り出すための中間温出湯管109とが接続され、これら両管108,109の先端が中温混合弁110を介して湯水混合弁111の温水入力側に接続されている。
【0044】
湯水混合弁111は、温水と常温の水とを混合して所望温度の温水を生成するための混合弁であって、その常温水入力側は、図示しない上水道と接続された入水管112が接続されており、この入水管112から供給される水と、中温混合弁110で混合された温水とが混合されて、給湯管114を介して図示しない給湯栓に供給されるようになっている。
【0045】
なお、上記入水管112には、入水温度を検出する入水温度センサ115が設けられ、給湯管114には、給湯水量を検出する給湯水量センサ116、給湯水量を調節する給湯水量調整弁117、給湯温度を検出する給湯温度センサ118が設けられており、これらのセンサ類や貯湯タンク102の温度センサの検出値などに基づいて、上記中温混合弁110および湯水混合弁111の混合比率が制御され、給湯栓に所望の温度の温水が供給されるようになっている。
【0046】
また、給湯管114から分岐された配管119は、浴槽に温水を落とし込む(湯張りをする)ための注湯管であって、この注湯管119は後述するふろ往き管123に接続され、浴槽への温水の落とし込みができるようになっている。なお、この注湯管119には、注湯水量を検出する注湯水量センサ120と、注湯動作時に開弁する注湯開閉弁121が備えられている。
【0047】
一方、ふろ追い焚き機能に関しては、貯湯タンク102内に、当該貯湯タンク102内に貯留する温水と熱交換を行うふろ追い焚き用の熱交換器122が備えられており、このふろ追い焚き用の熱交換器122の出湯側に浴槽に温水を吐出させる吐出口(図示せず)と連通するふろ往き管123が接続され、その入水側に浴槽内の湯水を吸い込む吸込口(図示せず)と連通するふろ戻り管124が接続され、浴槽とふろ追い焚き用の熱交換器122との間に追い焚き用の循環流路が形成されている。125は循環ポンプを示しており、ふろ追い焚き時にはこの循環ポンプ125を動作させることによって、浴槽内の湯水を熱交換器122に強制循環させて浴槽内の湯水の追い焚きが行われるようになっている。
【0048】
このように、給湯装置100は、ヒートポンプ装置101で生成される温水を利用して給湯機能やふろ追い焚き機能を実現するように構成されているが、本実施形態に示す給湯装置100は、ヒートポンプ装置101のコンプレッサの電源回路に、上述した電源回路を備えていることから、コンプレッサを動作させる元電源の交流電源に瞬時電圧低下が発生しても、コンプレッサの動作を停止させることなく継続させることができる。そのため、貯湯タンク102内の湯水の沸き上げ中に交流電源の瞬時電圧低下が発生しても、沸き上げ動作を停止させることなく、貯湯タンク102内の湯水の沸き上げを行うことができる。したがって、ヒートポンプ装置101以外の温水生成手段(補助熱源機)を有しない給湯装置において、沸き上げ中断による沸き上げの遅れが起きるのを防止することができる。
【0049】
なお、上述した実施形態は本発明の好適な実施態様を示すものであって、本発明はこれに限定されることなく発明の範囲内で種々の設計変更が可能である。
【0050】
たとえば、上述した実施形態では、力率改善回路部3のスイッチング素子としてIGBT9を用いた場合を示したが、IGBT以外のスイッチング素子(たとえば、MOSFETなど)を用いるように構成することも可能である。
【0051】
また、上述した実施形態では、ヒートポンプ装置を給湯装置100の温水生成用に用いた場合を示したが、本発明のヒートポンプ装置は給湯装置以外の装置(たとえば、空調装置など)のヒートポンプ装置として用いることも可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 交流電源
2 コンプレッサ(圧縮機)
3 力率改善回路部
4 インバータ回路部
5 制御部
7 昇圧コイル
8 ブリッジダイオード
9 IGBT(スイッチング素子)
10 整流ダイオード
11 平滑コンデンサ
12 力率改善回路の出力電圧センサ
100 給湯装置
101 給湯装置のヒートポンプ装置
102 貯湯タンク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7