特許第6115307号(P6115307)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6115307
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】ハイブリッド電動車両及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/08 20060101AFI20170410BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20170410BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20170410BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20170410BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20170410BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20170410BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20170410BHJP
   B60K 6/485 20071001ALI20170410BHJP
   B60K 6/54 20071001ALI20170410BHJP
【FI】
   F01N3/08 B
   B60W10/00 102
   B60W10/06
   B60W10/08
   B60W10/02
   F02D29/00 G
   B60K6/48
   B60K6/485
   B60K6/54
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-107308(P2013-107308)
(22)【出願日】2013年5月21日
(65)【公開番号】特開2014-227889(P2014-227889A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 治雄
(72)【発明者】
【氏名】小泉 芳久
【審査官】 二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−090723(JP,A)
【文献】 特開2009−113581(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/140262(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00− 3/38
F01N 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン及び走行モータの少なくとも一方を駆動源とするハイブリッドシステムと、前記エンジンの排気管に上流側から順に介設された還元剤供給手段及びSCR触媒からなる排ガス浄化システムとを備えたハイブリッド電動車両であって、
前記ハイブリッドシステム及び排ガス浄化システムを制御する制御手段は、
前記SCR触媒への還元剤の吸着量が予め設定された下限値よりも少ないときは、前記エンジンのエンジントルクを一定としつつ、前記エンジンの駆動力の一部を走行モータの駆動力で代替させ、
前記SCR触媒への還元剤の吸着量が予め設定された上限値よりも多いときは、前記エンジンのエンジントルクを一定としつつ、前記エンジンの駆動力の一部により走行モータを駆動して発電させることを特徴とするハイブリッド電動車両。
【請求項2】
前記SCR触媒への還元剤の吸着量が予め設定された上限値よりも多いときは、前記還元剤の吸着量が前記上限値以下になるまで、前記エンジンの駆動力の一部により走行モータを駆動して発電させる請求項1に記載のハイブリッド電動車両。
【請求項3】
前記SCR触媒への還元剤の吸着量が予め設定された上限値よりも多く、かつ前記エンジンの駆動力を減少させる要求が発せられたときに、前記エンジンの駆動力の一部により走行モータを駆動して発電させる請求項1又は2に記載のハイブリッド電動車両。
【請求項4】
前記SCR触媒への還元剤の吸着量が予め設定された下限値よりも少ないときは、前記エンジンの駆動力の一部を走行モータの駆動力で代替させるとともに、前記還元剤供給手段からの還元剤の供給量を増加させる請求項1〜3のいずれか1項に記載のハイブリッド電動車両。
【請求項5】
前記SCR触媒への還元剤の吸着量が予め設定された上限値よりも多いときは、前記エンジンの駆動力の一部により走行モータを駆動して発電させるとともに、前記還元剤供給手段からの還元剤の供給量を低下させる請求項1〜4のいずれか1項に記載のハイブリッド電動車両。
【請求項6】
前記還元供給手段から供給される還元剤がアンモニア又は炭化水素である請求項1〜5のいずれか1項に記載のハイブリッド電動車両。
【請求項7】
エンジン及び走行モータの少なくとも一方を駆動源とするハイブリッドシステムと、前記エンジンの排気管に上流側から順に介設された還元剤供給手段及びSCR触媒からなる排ガス浄化システムとを備えたハイブリッド電動車両の制御方法であって、
前記SCR触媒への還元剤の吸着量が予め設定された下限値よりも少ないときは、前記エンジンのエンジントルクを一定としつつ、前記エンジンの駆動力の一部を走行モータの駆動力で代替させ、
前記SCR触媒への還元剤の吸着量が予め設定された上限値よりも多いときは、前記エンジンのエンジントルクを一定としつつ、前記エンジンの駆動力の一部により走行モータを駆動して発電させることを特徴とするハイブリッド電動車両の制御方法。
【請求項8】
前記SCR触媒への還元剤の吸着量が予め設定された上限値よりも多いときは、前記還元剤の吸着量が前記上限値以下になるまで、前記エンジンの駆動力の一部により走行モータを駆動して発電させる請求項7に記載のハイブリッド電動車両の制御方法。
【請求項9】
前記SCR触媒への還元剤の吸着量が予め設定された上限値よりも多く、かつ前記エンジンの駆動力を減少させる要求が発せられたときに、前記エンジンの駆動力の一部により走行モータを駆動して発電させる請求項7又は8に記載のハイブリッド電動車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイブリッド電動車両及びその制御方法に関し、更に詳しくは、NOxの浄化率を低下させることなく、燃費を改善することができるハイブリッド電動車両及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃費向上と環境対策などの観点から、内燃機関が発生する駆動力の一部を、バッテリーを電源とする走行モータで代替するハイブリッド電動車両(以下「HEV」という。)が注目されている。
【0003】
このHEVにおける内燃機関にディーゼルエンジンを用いる場合には、従来の車両と同じく、ディーゼルエンジンの排ガスに含有される粒子状物質(PM)や窒素酸化物(NOx)などの有害物質を除去するための浄化システムが必要となる。前者のPMについては、セラミックス製のハニカム状多孔体のフィルタによりPMを捕集するPM捕集フィルターなどが実用化されている。また、後者のNOxについては、還元剤と選択還元型触媒(以下、「SCR触媒」という。)とを用いる還元剤SCRシステムが注目されている。
【0004】
この還元剤SCRシステムは、排ガス中に供給された尿素水から分解生成したアンモニア又は未燃燃料の炭化水素(HC)を、SCR触媒の存在下で還元剤として作用させるSCR反応により、排ガス中のNOxを浄化するものである。SCR触媒としては、鉄イオン交換アルミノシリケートや銅イオン交換アルミノシリケートなどのゼオライト触媒が広く用いられており、このゼオライト触媒を含むスラリーをセラミックハニカムなどの担体に塗布したもの、あるいはその成型体をSCRコンバータとして排気管に装着して使用するようになっている。
【0005】
しかし、上記のSCR触媒は、浄化すべきNOx量に対して適切な量の還元剤が吸着していないとNOxの浄化率が低下するため、排ガス中のNOxの大部分が浄化されずに大気中に放出されるおそれがある。
【0006】
ここで、一般にディーゼルエンジンにおいては、NOxの発生量の減少と燃費とはトレードオフの関係にあることが知られている。そのため、上記のようなSCR触媒におけるNOxの浄化率の低下に応じて、ディーゼルエンジンのNOxの発生量を減少させようとすると、燃費が悪化してしまうことになる。
【0007】
このような問題を解決するために、HEVの発電要求時において、エンジンを有害物質の排出が少なくなる動作範囲内に規制し、かつその範囲内で得られた電力をエンジンの出力アシストに利用することで、排気組成及び燃費を改善する制御装置が提案されている(特許文献1を参照)。
【0008】
しかしながら、上記の制御装置では、HEVの発電要求時にのみ制御を行うため、NOxの排出量の低減及び燃費の改善にかかる効果は十分なものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−37008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、燃費を悪化させることなく、NOxの浄化率を向上することができるハイブリッド電動車両及びその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成する本発明のハイブリッド電動車両は、エンジン及び走行モータの少なくとも一方を駆動源とするハイブリッドシステムと、前記エンジンの排気管に上流側から順に介設された還元剤供給手段及びSCR触媒からなる排ガス浄化システムとを備えたハイブリッド電動車両であって、前記ハイブリッドシステム及び排ガス浄化システムを制御する制御手段は、前記SCR触媒への還元剤の吸着量が予め設定された下限値よりも少ないときは、前記エンジンのエンジントルクを一定としつつ、前記エンジンの駆動力の一部を走行モータの駆動力で代替させ、前記SCR触媒への還元剤の吸着量が予め設定された上限値よりも多いときは、前記エンジンのエンジントルクを一定としつつ、前記エンジンの駆動力の一部により走行モータを駆動して発電させることを特徴とするものである。
【0012】
また、上記の目的を達成する本発明のハイブリッド電動車両の制御方法は、エンジン及び走行モータの少なくとも一方を駆動源とするハイブリッドシステムと、前記エンジンの排気管に上流側から順に介設された還元剤供給手段及びSCR触媒からなる排ガス浄化システムとを備えたハイブリッド電動車両の制御方法であって、前記SCR触媒への還元剤の吸着量が予め設定された下限値よりも少ないときは、前記エンジンのエンジントルクを一定としつつ、前記エンジンの駆動力の一部を走行モータの駆動力で代替させ、前記SC
R触媒への還元剤の吸着量が予め設定された上限値よりも多いときは、前記エンジンのエンジントルクを一定としつつ、前記エンジンの駆動力の一部により走行モータを駆動して発電させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のハイブリッド電動車両及びその制御方法によれば、エンジンのエンジントルクを走行モータにより低下又は増加させることにより、NOx発生量に対してSCR触媒の吸着量を適正に制御するようにしたので、ハイブリッド電動車両におけるNOxの浄化率を向上することができる。また、エンジンの駆動力の一部により走行モータを駆動する時には、そのエンジンにおける燃料消費の増加分に相当するエネルギーを電力としてバッテリに蓄えるので、車両の燃費が悪化することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態からなるハイブリッド電動車両の構成図である。
図2】本発明の実施形態からなるハイブリッド電動車両の制御方法を説明するフロー図である。
図3】本発明の別の実施形態からなるハイブリッド電動車両の制御方法を説明するフロー図である。
図4】本発明の実施形態からなるハイブリッド電動車両の構成図の別の例である。
図5】本発明の実施形態からなるハイブリッド電動車両の構成図の更に別の例である。
図6】ハイブリッド電動車両の運転領域の区分の例を模式的に示すグラフである。
図7】SCR触媒への還元剤の吸着量が不足している場合の実施例におけるハイブリッド電動車両の運転領域の変位を示すグラフである。
図8図7における経時変化を示すグラフである。
図9】SCR触媒への還元剤の吸着量が過剰であり、かつディーゼルエンジンの出力を減少させる要求があった場合の実施例におけるハイブリッド電動車両の運転領域の変位を示すグラフである。
図10図9における経時変化を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態からなるハイブリッド電動車両を示す。このハイブリッド電動車両(以下、「HEV」という。)1Aは、左右一対の駆動輪2、2に駆動力を伝達する出力軸3に、変速機4を介して連結するディーゼルエンジン5及び走行モータ6と、その走行モータ6にインバータ7を通じて電気的に接続するバッテリー8とを有するハイブリッドシステム9を備えている。変速機4とディーゼルエンジン5との間には、湿式多板クラッチ10及び流体継手11が順に設けられている。また、変速機4と走行モータ6との間には、駆動力を断接するモータ用クラッチ12が介設されている。
【0017】
更に、このHEV1Aは、ディーゼルエンジン5の排ガスGが流れる排気管13の途中に介設されたSCRコンバータ14と、そのSCRコンバータ14の上流側に設置された尿素水又は未燃燃料の噴射ノズル15とを有する排ガス浄化システム16を備えている。太径のSCRコンバータ14内には、ゼオライト触媒からなるSCR触媒17が格納されている。なお、通常は、ディーゼルエンジン5と噴射ノズル15との間に、酸化触媒(DOC)及び/又はPM捕集フィルター(図示せず)を設けるようにする。また、SCRコンバータ14の下流側にDOC(図示せず)を設ける場合もある。
【0018】
上記のハイブリッドシステム9及び排ガス浄化システム16は、制御手段であるECU18に信号線(一点鎖線で示す)を通じて接続されている。
【0019】
このようなHEV1AにおけるECU18による制御方法を、図2に基づいて以下に説明する。
【0020】
ECU18は、ディーゼルエンジン5の出力と噴射ノズル15からの還元剤の供給量とから、SCR触媒17への還元剤の算出吸着量Kを求め(S10)、その算出吸着量Kが予め設定された下限値未満であるかを判定する(S12)。この予め設定された下限値は、ディーゼルエンジン5やSCR触媒17の仕様などにより決定されるが、例えば普通自動車では0.1〜0.3g/lの範囲、好ましくは0.2g/lとなる。
【0021】
算出吸着量Kが下限値未満である場合には、走行モータ6を回転駆動し、かつモータ用クラッチ12を接続することで、ディーゼルエンジン5の駆動力の一部を走行モータ6の駆動力でアシストする(S14)。この操作により、ディーゼルエンジン5のエンジントルクが減少するため、燃料消費が抑制されるとともに、排ガスGの温度が下降し、かつNOxの発生量が低下する。排ガスGの温度が下降すると、SCR触媒17の温度の上昇が抑制される。SCR触媒17は、温度が低下すると吸着可能な還元剤の量が増加するため、還元剤の吸着が促進される。それと同時に、ディーゼルエンジン5のNOx発生量が低下するため、SCR触媒17への還元剤の吸着量が不足している場合でも、NOxの浄化率を向上することができる。
【0022】
この走行モータ6による駆動力のアシストは、SCR触媒17への還元剤の吸着量が過剰にならないように、算出吸着量Kが下限値以上になると停止される(S20)。
【0023】
また、還元剤の算出吸着量Kが下限値以上である場合には、更に算出吸着量Kが予め設定された上限値超であるかを判定する(S22)。この予め設定された上限値は、ディーゼルエンジン5やSCR触媒17の仕様により決定されるが、例えば普通自動車では0.4〜0.6g/lの範囲、好ましくは0.5g/lとなる。
【0024】
算出吸着量Kが上限値超であるときには、モータ用クラッチ12を接続し、かつ走行モータ6を発電機として使用してインバータ7を通じてバッテリー8を充電する(S24)。この操作により、ディーゼルエンジン5のエンジントルクが増加するため、燃料消費が促進されるとともに、排ガスGの温度が上昇し、かつNOxの発生量が増加する。排ガスGの温度が上昇すると、SCR触媒17の温度が増加して、吸着している還元剤が揮発して吸着量が低下する。また、NOx発生量が増加するので、SCR触媒17に吸着している還元剤が消費されて更に吸着量が低下する。従って、SCR触媒17に還元剤が過剰に吸着している場合でも、NOxの浄化率を向上させることができる。また、HEV1Aから外気への還元剤の放出(還元剤スリップ)を抑制することもできる。
【0025】
なお、ディーゼルエンジン5における燃料消費の増加分に相当するエネルギーは、電力となってバッテリー8に蓄えられるので、車両の燃費が悪化することはない。
【0026】
この走行モータ6による発電及び充電は、SCR触媒17への還元剤の吸着量が大きく減少することがないように、還元剤の算出吸着量Kが上限値以下になると停止される(S30)。
【0027】
以上のようなECU18による制御を行うことで、燃費を悪化させることなく、NOxの浄化率を向上することができるのである。
【0028】
図3は、本発明の別の実施形態からなるハイブリッド電動車両の制御方法を示す。
【0029】
この実施形態では、上記のステップS22において算出吸着量Kが上限値超であるときに、ディーゼルエンジン5の出力を減少させる要求の有無を確認し(S23)、その要求があったときにモータ用クラッチ12を接続し、かつ走行モータ6を発電機として使用してバッテリー8を充電する(S24)ようにしている。ディーゼルエンジン5の出力を減少させる要求としては、走行中のアクセルオフなどの操作が例示される。
【0030】
このように、ディーゼルエンジン5の出力を減少させる要求の有無を確認するのは、ディーゼルエンジン5の出力が低下すると、排ガスGの温度が下降し、かつNOxの発生量が低下するため、SCR触媒17へ還元剤が過剰に吸着していると、還元剤が消費されることなくそのままHEV1Aから外気へ放出される還元剤スリップが発生するおそれがあるからである。
【0031】
従って、このようにステップS23の制御を行うことで、HEV1Aからの還元剤スリップをより効果的に抑制することができる。
【0032】
上記のいずれの実施形態においても、ステップS12において算出吸着量Kが下限値よりも少ないときは、噴射ノズル15からの還元剤の供給量を増加させることが望ましい。また、上記のステップS22において算出吸着量Kが上限値超であるときには、噴射ノズル15からの還元剤の供給量を低下させることが望ましい。
【0033】
そのようにすることで、SCR触媒17への還元剤の吸着量の増減を促進することができるので、NOxの浄化率を更に向上することができる。
【0034】
なお、上記のHEV1Aでは、ディーゼルエンジン5と走行モータ6とを並列に配置ししているが、車両の構成はこれに限るものではなく、例えばディーゼルエンジン5と走行モータ6とを直列に配置したHEV1B(図4を参照)や、走行モータ6を一対の駆動輪2、2にそれぞれ直接的に接続したHEV1C(図5を参照)などでも良い。なお、図4、5のような、モータ用クラッチ12が不要となる構成の場合には、ECU18はモータ用クラッチ12を断接する代わりに走行モータ6の駆動力を入切する制御を行うことになる。
【実施例】
【0035】
本発明の実施形態からなるHEV1Aの制御方法(実施例)と、従来技術の制御方法(比較例)との比較を図6〜11に示す。なお、これらの図においては、実施例を実線で、比較例を点線で、それぞれ示す。
【0036】
本実施例では、図6に示すような、HEV1Aに要求されている運転に必要な負荷(以下、「要求負荷」という。)の領域を模式的に区分したマップを説明に用いる。このマップ例では、ディーゼルエンジン5のエンジン回転数とエンジントルクとをパラメータとしている。
【0037】
高負荷領域は、HEV1Aの発進時などのアクセルを大きく踏み込む場合が該当し、また低負荷領域は、HEV1Aの緩やかな加速時などのアクセルをわずかに踏む込む場合が該当する。更に、高負荷領域の中央部には、ディーゼルエンジン5の排ガス温度が触媒温度を活性化温度域にする領域(以下、「最適排ガス温度運転領域」という。)が存在する。なお、回生領域は、HEV1Aの制動時などが該当し、回生エネルギーで走行モータ6が発電し、この発電された電力でインバータ7を通じてバッテリー8が充電される。
【0038】
(1)SCR触媒17への還元剤の吸着量が不足している場合
図7に示すように、HEV1Aへの要求負荷が高負荷領域内で出発点(四角印)から到着点(丸印)へ上昇する場合を想定する。
【0039】
図8に示すように、時刻t0〜t1にかけてアクセルが大きく踏み込まれると、比較例ではエンジントルクが上昇するに伴ってNOx発生量が増加し、その後一定となる。この時、SCR触媒17に吸着している還元剤が多く消費されて、吸着量の上昇率が抑えられるため、初期の還元剤の吸着量が少ないと、NOx発生量に対して還元剤の吸着量が不足する。そのため、SCR触媒17におけるNOxの浄化率は低くなり、HEV1Aから外気へのNOx排出量は増加する。その後、時刻t2〜t4の間で、還元剤の吸着量が追いつくので、NOx排出量は一定となる。
【0040】
これに対して実施例では、時刻t1において走行モータ6によるアシストが開始されてエンジントルクが一定となり、NOx発生量は比較例よりも低いレベルで一定となる。従って、SCR触媒17に吸着している還元剤の消費が少なくなって、比較例よりも吸着量の上昇率が高くなるため、初期の還元剤の吸着量が少くても、NOx発生量に対して十分な還元剤の吸着量を確保できる。
【0041】
時刻t4〜t5にかけては、還元剤の吸着量が十分なレベルになっているため、走行モータ6によるアシストを停止するので、実施例ではNOx発生量が増加し、NOx排出量が増加する。しかし、還元剤の吸着量が十分であるため、NOxの排出量は比較例よりも小さくなる。
【0042】
なお、還元剤の吸着量は過剰ではないた、実施例及び比較例共に還元剤スリップは発生しない。
【0043】
このときのディーゼルエンジン5の運転状態の移行は、図7に示すように、実施例では、走行モータ6によるアシストを行うことで、最適排ガス温度運転領域を経由するようになる。
【0044】
(2)SCR触媒17への還元剤の吸着量が過剰であり、かつディーゼルエンジン5の出力を減少させる要求があった場合
図9に示すように、HEV1Aへの要求負荷が高負荷領域内の出発点(四角印)から低負荷領域内の到着点(丸印)へ下降する場合を想定する。
【0045】
図10に示すように、時刻t0〜t1にかけて一定走行を行い、その後に時刻t1〜t2にかけてアクセルオフになると、比較例では時刻t2までエンジントルクが下降した後に一定となる。そのため、NOx発生量は、エンジントルクの低下後に一定となるので、SCR触媒17への還元剤の吸着量の低下率は小さくなる。このとき、還元剤の吸着量が上限値を超えると、HEV1Aから余剰の還元剤が排出されるようになる。NOx発生量は、時刻t2において一定となるので、その後のNOx排出量も一定となる。
【0046】
これに対して実施例では、時刻t1において走行モータ6による発電が開始されてエンジントルクが低下せずに一定のままとなるため、NOx発生量も時刻t1〜t3の間では、比較例よりも高いレベルで一定となる。しかし、SCR触媒17への還元剤の吸着量が過剰であるため、NOx発生量に対して還元剤が吸着量が十分なレベルとなるので、NOxの浄化率は維持される。また、還元剤の吸着量が過剰であっても、吸着している還元剤が多く消費されるため、還元剤スリップの発生を防止できる。
【0047】
時刻t3〜t4にかけて走行モータ6による発電を停止しても、還元剤の吸着量が適切なレベルになっているので、還元剤スリップは発生しない。
【0048】
このときのディーゼルエンジン5の運転状態の移行は、図9に示すように、実施例では、HEV1Aの運転状態は高負荷領域内の高いレベルで一定に推移した後に、最適排ガス温度運転領域を通過するようになる。
【符号の説明】
【0049】
1A〜1C HEV
5 ディーゼルエンジン
6 走行モータ
9 ハイブリッドシステム
12 モータ用クラッチ
13 排気管
15 噴射ノズル
16 排ガス浄化システム
17 SCR触媒
18 ECU
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10