特許第6115319号(P6115319)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6115319タイヤ用ゴム組成物および空気入りタイヤ
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  • 特許6115319-タイヤ用ゴム組成物および空気入りタイヤ 図000018
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6115319
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物および空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 53/02 20060101AFI20170410BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20170410BHJP
   C08L 45/02 20060101ALI20170410BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20170410BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20170410BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   C08L53/02
   C08L9/06
   C08L45/02
   C08K3/36
   C08K3/04
   B60C1/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2013-112328(P2013-112328)
(22)【出願日】2013年5月28日
(65)【公開番号】特開2014-231550(P2014-231550A)
(43)【公開日】2014年12月11日
【審査請求日】2016年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】串田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】芦浦 誠
【審査官】 井津 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−162620(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/105362(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/073838(WO,A1)
【文献】 特開2011−111489(JP,A)
【文献】 特開2006−124601(JP,A)
【文献】 特開平07−179669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/16
C08C 19/00−19/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が100,000〜3,000,000であるジエン系ゴム(A)と、シリカ(B)と、軟化点が60〜180℃の芳香族変性テルペン樹脂(C)と、重量平均分子量が2,000〜20,000である低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(D)とを含有し、
前記ジエン系ゴム(A)が、共役ジエン系ゴム(A1)を含み、
前記共役ジエン系ゴム(A1)が、共役ジエン系重合体鎖(a1)と、変性剤(a2)との反応により得られる、3以上の前記共役ジエン系重合体鎖(a1)が前記変性剤(a2)を介して結合してなる構造体(a)を5質量%以上含み、
前記共役ジエン系重合体鎖(a1)が、一方の端にイソプレン単位を70質量%以上含有するイソプレンブロックを有し、他方の端に活性末端を有し、
前記共役ジエン系重合体鎖(a1)における前記イソプレンブロック以外の部分のスチレン単位含有量が、35〜45質量%であり、
前記変性剤(a2)が、エポキシ基および/またはヒドロカルビルオキシシリル基を有し、前記エポキシ基と、前記ヒドロカルビルオキシシリル基に含まれるヒドロカルビルオキシ基との合計数が3以上である、変性剤であり、
前記ジエン系ゴム(A)の平均ガラス転移温度が、−35℃以上であり、
前記共役ジエン系ゴム(A1)の含有量が、前記ジエン系ゴム(A)の含有量に対して、30質量%以上であり、
前記シリカ(B)の含有量が、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して、60〜170質量部であり、
前記芳香族変性テルペン樹脂(C)の含有量が、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して、10〜50質量部であり、
前記低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(D)の含有量が、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して、5〜100質量部である、タイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
さらに、窒素吸着比表面積が100〜400m2/gであるカーボンブラックを含有し、
前記低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(D)のスチレン単位含有量が、20〜40質量%であり、
前記低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(D)のブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量が、40〜70%である、請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
競技ウェットタイヤに用いられる、請求項1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のタイヤ用ゴム組成物を用いて製造した空気入りタイヤ。
【請求項5】
競技ウェットタイヤである、請求項4に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物および空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両走行時の安全性の面から、ウェットグリップ性能(ウェット路面での制動性能)の向上が求められている。これに対し、タイヤのトレッド部を構成するゴム成分に、シリカを配合して、ウェットグリップ性能を向上させる方法が知られている。
しかし、シリカはゴム成分との親和性が低く、また、シリカ同士の凝集性が高いため、ゴム成分に単にシリカを配合してもシリカが分散せず、ウェットグリップ性能を向上させる効果が十分に得られないという問題があった。
【0003】
このようななか、特許文献1には、イソプレンブロックを有する共役ジエン系ゴムを含有するゴム組成物が開示されている。特許文献1によると、上記組成物を用いることで、シリカとゴムとの親和性が良好となり、ウェットグリップ性を向上させることができる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2011/105362号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、近年、安全性等の向上のために、タイヤのウェットグリップ性能のさらなる向上が望まれている。特に、競技ウェットタイヤには、極めて高いレベルのウェットグリップ性能が求められている。
また、タイヤ(特に競技ウェットタイヤ)には上記ウェットグリップ性能に加えて、剛性や耐摩耗性などの種々の特性が要求される。
本発明者が特許文献1に記載のゴム組成物について検討したところ、ウェットグリップ性能、剛性および耐摩耗性のうち少なくともいずれかの特性が昨今求められているレベルを満たさないもとのとなることが明らかになった。
そこで、本発明は、上記実情を鑑みて、タイヤにしたときにウェットグリップ性能、剛性および耐摩耗性に優れたタイヤ用ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、特定の共役ジエン系ゴムと、シリカと、特定の芳香族変性テルペン樹脂と、低分子量スチレン−ブタジエン共重合体とを併用することで、タイヤにしたときにウェットグリップ性能、剛性および耐摩耗性に優れたタイヤ用ゴム組成物が得られることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0007】
(1) 重量平均分子量が100,000〜3,000,000であるジエン系ゴム(A)と、シリカ(B)と、軟化点が60〜180℃の芳香族変性テルペン樹脂(C)と、重量平均分子量が2,000〜20,000である低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(D)とを含有し、
上記ジエン系ゴム(A)が、共役ジエン系ゴム(A1)を含み、
上記共役ジエン系ゴム(A1)が、共役ジエン系重合体鎖(a1)と、変性剤(a2)との反応により得られる、3以上の上記共役ジエン系重合体鎖(a1)が上記変性剤(a2)を介して結合してなる構造体(a)を5質量%以上含み、
上記共役ジエン系重合体鎖(a1)が、一方の端にイソプレン単位を70質量%以上含有するイソプレンブロックを有し、他方の端に活性末端を有し、
上記共役ジエン系重合体鎖(a1)における上記イソプレンブロック以外の部分のスチレン単位含有量が、35〜45質量%であり、
上記変性剤(a2)が、エポキシ基および/またはヒドロカルビルオキシシリル基を有し、上記エポキシ基と、上記ヒドロカルビルオキシシリル基に含まれるヒドロカルビルオキシ基との合計数が3以上である、変性剤であり、
上記ジエン系ゴム(A)の平均ガラス転移温度が、−35℃以上であり、
上記共役ジエン系ゴム(A1)の含有量が、上記ジエン系ゴム(A)の含有量に対して、30質量%以上であり、
上記シリカ(B)の含有量が、上記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して、60〜170質量部であり、
上記芳香族変性テルペン樹脂(C)の含有量が、上記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して、10〜50質量部であり、
上記低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(D)の含有量が、上記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して、5〜100質量部である、タイヤ用ゴム組成物。
(2) さらに、窒素吸着比表面積が100〜400m2/gであるカーボンブラックを含有し、
上記低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(D)のスチレン単位含有量が、20〜40質量%であり、
上記低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(D)のブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量が、40〜70%である、上記(1)に記載のタイヤ用ゴム組成物。
(3) 競技ウェットタイヤに用いられる、上記(1)または(2)に記載のタイヤ用ゴム組成物。
(4) 上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載のタイヤ用ゴム組成物を用いて製造した空気入りタイヤ。
(5) 競技ウェットタイヤである、上記(4)に記載の空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0008】
以下に示すように、本発明によれば、タイヤにしたときにウェットグリップ性能、剛性、および耐摩耗性に優れたタイヤ用ゴム組成物、および、そのようなタイヤ用ゴム組成物を用いた空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の空気入りタイヤの実施態様の一例を表すタイヤの部分断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明のタイヤ用ゴム組成物、および、本発明のタイヤ用ゴム組成物を用いた空気入りタイヤについて説明する。
【0011】
[タイヤ用ゴム組成物]
本発明のタイヤ用ゴム組成物(以下、本発明の組成物ともいう)は、重量平均分子量が100,000〜3,000,000であるジエン系ゴム(A)と、シリカ(B)と、軟化点が60〜180℃の芳香族変性テルペン樹脂(C)と、重量平均分子量が2,000〜20,000である低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(D)とを含有し、上記ジエン系ゴム(A)が、共役ジエン系ゴム(A1)を含む。
ここで、上記共役ジエン系ゴム(A1)は、共役ジエン系重合体鎖(a1)と、変性剤(a2)との反応により得られる、3以上の上記共役ジエン系重合体鎖(a1)が上記変性剤(a2)を介して結合してなる構造体(a)を5質量%以上含む。
また、上記共役ジエン系重合体鎖(a1)は、一方の端にイソプレン単位を70質量%以上含有するイソプレンブロックを有し、他方の端に活性末端を有する。
また、上記共役ジエン系重合体鎖(a1)における上記イソプレンブロック以外の部分のスチレン単位含有量は、35〜45質量%である。
また、上記変性剤(a2)は、エポキシ基および/またはヒドロカルビルオキシシリル基を有し、上記エポキシ基と、上記ヒドロカルビルオキシシリル基に含まれるヒドロカルビルオキシ基との合計数が3以上である、変性剤である。
また、上記ジエン系ゴム(A)の平均ガラス転移温度は、−35℃以上である。
また、上記共役ジエン系ゴム(A1)の含有量は、上記ジエン系ゴム(A)の含有量に対して、30質量%以上であり、上記シリカ(B)の含有量は、上記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して、60〜170質量部であり、上記芳香族変性テルペン樹脂(C)の含有量は、上記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して、10〜50質量部であり、上記低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(D)の含有量は、上記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して、5〜100質量部である。
【0012】
本発明の組成物は、後述する構造体(a)を所定量含有する共役ジエン系ゴム(A1)と、シリカ(B)と、芳香族変性テルペン樹脂(C)と、低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(D)とを併用するため、タイヤにしたときにウェットグリップ性能、剛性および耐摩耗性のいずれについても優れた特性を示すタイヤ用ゴム組成物となると考えられる。
【0013】
その理由は明らかではないが、およそ以下のとおりと推測される。
後述するように、構造体(a)は、イソプレンブロックを有し、イソプレンブロック以外の部分のスチレン単位含有量が特定の範囲である共役ジエン系重合体鎖(a1)が、特定の官能基を有する変性剤(a2)を介して結合した構造を有する。
本発明の組成物は、上記構造体(a)を含む所定量の共役ジエン系ゴム(A1)と、上記低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(D)とを併用するため、共役ジエン系ゴム(A1)と低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(D)との架橋により機械的物性(剛性、耐摩耗性など)に優れた三次元網目構造が形成され、さらに、三次元網目構造中の、イソプレンブロック、および、変性剤(a2)の特定の官能基、がシリカと相互作用してシリカの分散性を向上させ、結果として、優れたウェットグリップ性能、剛性、持続性および耐摩耗性を示すものと考えられる。
特に、共役ジエン系重合体鎖(a1)におけるイソプレンブロック以外の部分のスチレン単位含有量を特定の範囲とすることによって、スチレン単位同士のパッキングにより、機械的物性が向上するものと考えられる。このことは、スチレン単位含有量が特定の範囲から外れた後述する比較例4と比較して、スチレン単位含有量が特定の範囲である本願実施例はいずれも剛性および耐摩耗性が優れることからも推測される。
【0014】
以下、本発明の組成物に含有される各成分について詳述する。
【0015】
〔ジエン系ゴム(A)〕
本発明の組成物に含有されるジエン系ゴム(A)は、後述する共役ジエン系ゴム(A1)を含む。上記ジエン系ゴム(A)は、後述するとおり、共役ジエン系ゴム(A1)以外のその他のゴム成分を含んでもよい。
【0016】
上記ジエン系ゴム(A)の重量平均分子量は、100,000〜3,000,000である。すなわち、ジエン系ゴム(A)に含まれる各ゴム成分(共役ジエン系ゴム(A1)など)の重量平均分子量は、100,000〜3,000,000である。各ゴム成分の重量平均分子量は、100,000〜2,000,000であることが好ましく、300,000〜1,500,000であることがより好ましい。なお、本願における重量平均分子量(Mw)は、テトラヒドロフランを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算により測定したものとする。
【0017】
上記ジエン系ゴム(A)の平均ガラス転移温度(以下、平均Tgともいう)は−35℃以上である。ジエン系ゴム(A)が上記特定の平均Tgを有するため、本発明の組成物を用いたタイヤはウェットグリップ性能および剛性のバランスに優れる。ジエン系ゴム(A)の平均Tgは、−30〜−10℃であることが好ましい。
ジエン系ゴム(A)の平均Tgは、各ゴム成分のTgに各ゴム成分の質量%をそれぞれ掛け合わせて足し合わせたものである。なお、各ゴムのTgは、示差走査熱量計(DSC)を用いて20℃/分の昇温速度で測定し、中点法にて算出したものである。
【0018】
共役ジエン系ゴム(A1)は、後述する共役ジエン系重合体鎖(a1)と、後述する変性剤(a2)との反応により得られる、3以上の共役ジエン系重合体鎖(a1)が変性剤(a2)を介して結合してなる後述する構造体(a)を5質量%以上含むものである。
【0019】
<共役ジエン系重合体鎖(a1)>
共役ジエン系ゴム(A1)に含まれる構造体(a)を形成するのに使用される共役ジエン系重合体鎖(a1)は、共役ジエン単量体単位を含んでなる重合体鎖であって、一方の端にイソプレンブロックを有し、他方の端に活性末端(重合活性末端またはリビング成長末端)を有するものであれば、特に限定されない。
【0020】
上記共役ジエン系重合体鎖(a1)は、不活性溶媒中で、イソプレンまたはイソプレンを所定量含んでなるイソプレン混合物を、重合開始剤を用いてリビング重合することにより、活性末端(重合活性末端またはリビング成長末端)を有するイソプレンブロックを形成させ、次いで、ブタジエン単量体およびスチレン単量体を含んでなる単量体混合物を、活性末端を有するイソプレンブロックに結合させ、引き続きリビング重合することにより得ることができる。
【0021】
イソプレンブロックは、イソプレンの単独重合体、または、イソプレンと他の単量体(モノマー)との共重合体であり、イソプレン単位の含有量が70質量%以上のポリイソプレンである。イソプレンブロック中のイソプレン単位の含有量は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0022】
上述のとおり、上記共役ジエン系重合体鎖(a1)は、一方の端に上記イソプレンブロックを有する。共役ジエン系重合体鎖(a1)の鎖中にさらにイソプレンブロックを有してもよい。両方の端にイソプレンブロックを有し、そのうちの一方の端のイソプレンブロックが活性末端を有してもよいが、活性末端ではない方の端にのみイソプレンブロックを有するのが生産性の観点から好ましい。
【0023】
イソプレンブロックの重量平均分子量は、特に制限されないが、強度がより優れる理由から、好ましくは500〜25,000、より好ましくは1,000〜15,000であり、特に好ましくは1,500〜10,000である。
【0024】
イソプレンブロックの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布は、特に制限されないが、生産性の観点から、好ましくは1.0〜1.5、より好ましくは1.0〜1.4、特に好ましくは1.0〜1.3である。
【0025】
イソプレンブロックを得るために用いるイソプレンと共重合し得るその他の単量体としては、イソプレンと共重合可能なものであれば特に限定されず、例えば、1,3−ブタジエン、スチレン、α−メチルスチレンなどを用いることができる。これらの中でも、スチレンが好ましい。イソプレンブロック中、その他の単量体単位の含有量は、30質量%未満であり、20質量%未満であることが好ましく、10質量%未満であることがより好ましく、イソプレン単位以外の単量体を含有していないことが特に好ましい。
【0026】
イソプレン(またはイソプレン混合物)の重合に用いられる不活性溶媒としては、溶液重合において通常使用されるものであって、重合反応を阻害しないものであれば、特に制限なく使用できる。その具体例としては、例えば、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、2−ブテンなどの鎖状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘキセンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;などが挙げられる。不活性溶媒の使用量は特に制限されないが、通常、全単量体(イソプレンおよびその他の単量体)の濃度が1〜50質量%になるような量であり、好ましくは10〜40質量%になるような量である。
【0027】
イソプレンブロックを合成する際の重合開始剤としては、イソプレン(またはイソプレン混合物)をリビング重合させて、活性末端を有する重合体鎖を与えることができるものであれば、特に限定されないが、例えば、有機アルカリ金属化合物および有機アルカリ土類金属化合物、ならびにランタン系列金属化合物などを主触媒とする重合開始剤が好ましく使用される。有機アルカリ金属化合物の具体例としては、例えば、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、ヘキシルリチウム、フェニルリチウム、およびスチルベンリチウムなどの有機モノリチウム化合物;ジリチオメタン、1,4−ジリチオブタン、1,4−ジリチオ−2−エチルシクロヘキサン、1,3,5−トリリチオベンゼン、および1,3,5−トリス(リチオメチル)ベンゼンなどの有機多価リチウム化合物;ナトリウムナフタレンなどの有機ナトリウム化合物;カリウムナフタレンなどの有機カリウム化合物;などが挙げられる。また、有機アルカリ土類金属化合物としては、ジ−n−ブチルマグネシウム、ジ−n−ヘキシルマグネシウム、ジエトキシカルシウム、ジステアリン酸カルシウム、ジ−t−ブトキシストロンチウム、ジエトキシバリウム、ジイソプロポキシバリウム、ジエチルメルカプトバリウム、ジ−t−ブトキシバリウム、ジフェノキシバリウム、ジエチルアミノバリウム、ジステアリン酸バリウム、およびジケチルバリウムなどが挙げられる。ランタン系列金属化合物を主触媒とする重合開始剤としては、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウムおよびガドリニウムなどのランタン系列金属と、カルボン酸、およびリン含有有機酸などとからなるランタン系列金属の塩を主触媒とし、これと、アルキルアルミニウム化合物、有機アルミニウムハイドライド化合物、および有機アルミニウムハライド化合物などの助触媒とからなる重合開始剤が挙げられる。これらの重合開始剤のなかでも、有機モノリチウム化合物および有機多価リチウム化合物を用いることが好ましく、有機モノリチウム化合物を用いることがより好ましく、n−ブチルリチウムを用いることが特に好ましい。なお、有機アルカリ金属化合物は、予め、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジベンジルアミン、ピロリジン、ヘキサメチレンイミン、およびヘプタメチレンイミン(好ましくは、ピロリジン、ヘキサメチレンイミン、およびヘプタメチレンイミン)などの第2級アミンと反応させて、有機アルカリ金属アミド化合物として使用してもよい。これらの重合開始剤は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
重合開始剤の使用量は、目的とする分子量に応じて決定すればよいが、イソプレン(またはイソプレン混合物)100g当り、好ましくは4〜250mmol、より好ましくは30〜200mmol、特に好ましくは40〜100mmolの範囲である。
【0029】
イソプレン(またはイソプレン混合物)を重合するに際し、重合温度は、通常、−80〜150℃、好ましくは0〜100℃、より好ましくは20〜90℃の範囲である。
【0030】
イソプレンブロックにおけるイソプレン単量体単位中のビニル結合含有量(以下、単に「イソプレン単量体単位中のビニル結合含有量」ともいう)を調節するために、重合に際し、不活性有機溶媒に極性化合物を添加することが好ましい。極性化合物としては、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、2,2−ジ(テトラヒドロフリル)プロパンなどのエーテル化合物;テトラメチルエチレンジアミンなどの第三級アミン;アルカリ金属アルコキシド;ホスフィン化合物;などが挙げられる。これらの中でも、エーテル化合物、第三級アミンが好ましく、その中でも、重合開始剤の金属とキレート構造を形成し得るものがより好ましく、2,2−ジ(テトラヒドロフリル)プロパン、テトラメチルエチレンジアミンが特に好ましい。極性化合物の使用量は、目的とするビニル結合含有量に応じて決定すればよく、重合開始剤1molに対して、好ましくは0.1〜30mol、より好ましくは0.5〜10molの範囲で調節すればよい。極性化合物の使用量がこの範囲にあると、上記イソプレン単量体単位中のビニル結合含有量の調節が容易であり、かつ重合開始剤の失活による不具合も発生し難い。
【0031】
イソプレン単量体単位中のビニル結合含有量は、低転がり抵抗性およびウェットグリップ性能がより優れる理由から、好ましくは21〜85質量%、より好ましくは50〜80質量%、さらに好ましくは70〜80質量%である。なお、イソプレンブロックにおけるイソプレン単量体単位中のビニル結合含有量とは、イソプレンブロックにおける、イソプレン単量体単位中の1,2−ビニル結合の単位と、3,4−ビニル結合の単位との合計の割合(質量%)である。
【0032】
共役ジエン系重合体鎖(a1)における上記イソプレンブロック以外の部分は、スチレン単量体と他の単量体との共重合体鎖である。なかでも、スチレン単量体とブタジエン単量体との共重合体鎖であることが好ましい。
上記スチレン単量体としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2−エチルスチレン、3−エチルスチレン、4−エチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン、ジメチルアミノメチルスチレン、およびジメチルアミノエチルスチレンなどを挙げることができる。これらの中でも、スチレン、α−メチルスチレン、および4−メチルスチレンが好ましく、スチレンがより好ましい。これらのスチレン単量体は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
また、上記ブタジエン単量体としては、特に限定されないが、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン(2−メチル−1,3−ブタジエン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエンなどが挙げられる。これらの中でも、1,3−ブタジエン、またはイソプレンを用いることが好ましく、1,3−ブタジエンを用いることがより好ましい。これらのブタジエン単量体は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
上記ブタジエン単量体以外の他の単量体としては、例えば、ビニルナフタレンなどのスチレン単量体以外の芳香族ビニル単量体;1,3−ペンタジエン、および1,3−ヘキサジエンなどのブタジエン単量体以外の共役ジエン単量体;アクリロニトリル、およびメタクリロニトリルなどのα,β−不飽和ニトリル;アクリル酸、メタクリル酸、および無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸または酸無水物;メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、およびアクリル酸ブチルなどの不飽和カルボン酸エステル;1,5−ヘキサジエン、1,6−へプタジエン、1,7−オクタジエン、ジシクロペンタジエン、および5−エチリデン−2−ノルボルネンなどの非共役ジエンなどを挙げることができる。ブタジエン単量体以外の他の単量体の使用量は、共役ジエン系重合体鎖(a1)においてイソプレンブロック以外の部分を得るために用いる全単量体中、10質量%以下とするのが好ましく、5質量%以下とするのがより好ましく、4〜0質量%とするのが特に好ましい。
【0035】
共役ジエン系重合体鎖(a1)におけるイソプレンブロック以外の部分のスチレン単位含有量は、35〜45質量%である。なかでも、ウェットグリップ性能および剛性がより優れる理由から、36〜42量%であることが好ましい。スチレン単位含有量が35質量%未満であると、タイヤにしたときに剛性および耐摩耗性が不十分となる。なお、共役ジエン系重合体鎖(a1)におけるイソプレンブロック以外の部分のスチレン単位含有量とは、イソプレンブロック以外の部分に対するスチレン単量体単位の割合(質量%)のタイヤ用ゴム組成物における平均値を表す。
【0036】
共役ジエン系重合体鎖(a1)におけるイソプレンブロック以外の部分がブタジエン単量体単位を有する場合、イソプレンブロック以外の部分におけるブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量(以下、単に「ブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量」ともいう)は特に制限されないが、30〜70%であることが好ましい。なお、イソプレンブロック以外の部分におけるブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量とは、イソプレンブロック以外の部分における、ブタジエン単量体単位中の1,2−ビニル結合の単位の割合(%)である。例えば、イソプレンブロック以外の部分に10個のブタジエン単量体単位が存在し、そのうち、6個のブタジエン単量体単位が1,2ビニル結合の単位である場合、ブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量は60%(=6÷10×100%)である。
ブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量を調節するためには、イソプレンブロックにおけるイソプレン単位中のビニル結合含有量の調節時と同様、重合に際し、不活性有機溶媒に極性化合物を添加することが好ましい。ただし、イソプレンブロックの合成時に、不活性有機溶媒に、イソプレンブロック以外の部分におけるブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量を調節するのに十分な量の極性化合物を添加している場合は、新たに極性化合物を添加しなくてもよい。ブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量を調節するために用いられる極性化合物についての具体例は、上述のイソプレンブロックの合成に用いられる極性化合物と同様である。極性化合物の使用量は、目的とするビニル結合含有量に応じて決定すればよく、重合開始剤1molに対して、好ましくは0.01〜100mol、より好ましくは0.1〜30molの範囲で調節すればよい。極性化合物の使用量がこの範囲にあると、ブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量の調節が容易であり、かつ、重合開始剤の失活による不具合も発生し難い。
【0037】
共役ジエン系重合体鎖(a1)においてイソプレンブロック以外の部分の重合に用いられる不活性溶媒については、上述のイソプレンブロックの合成に用いられる不活性溶媒と同様である。
【0038】
共役ジエン系重合体鎖(a1)においてイソプレンブロック以外の部分の合成に用いられる重合開始剤としては上述した活性末端を有するイソプレンブロックをそのまま用いる。重合開始剤の使用量は、目的とする分子量に応じて決定すればよいが、単量体(混合物)100g当り、通常、0.1〜5mmol、好ましくは0.2〜2mmol、より好ましくは0.3〜1.5mmolの範囲である。
【0039】
共役ジエン系重合体鎖(a1)においてイソプレンブロック以外の部分を重合するに際し、重合温度は、通常、−80〜150℃一、好ましくは0〜100℃、より好ましくは20〜90℃の範囲である。重合様式としては、回分式、連続式など、いずれの様式をも採用できる。なかでも、結合のランダム性を制御しやすい点で、回分式が好ましい。
【0040】
上記イソプレンブロック以外の部分における結合様式は、例えば、ブロック状、テーパー状、またはランダム状など種々の結合様式とすることができる。これらの中でも、ランダム状が好ましい。上記イソプレンブロック以外の部分が、スチレン単量体とブタジエン単量体との共重合体鎖であって、スチレン単量体とブタジエン単量体との結合様式をランダム状にする場合、重合系内において、スチレン単量体とブタジエン単量体との合計量に対するスチレン単量体の比率が高くなりすぎないように、ブタジエン単量体またはブタジエン単量体とスチレン単量体とを、連続的または断続的に重合系内に供給して重合することが好ましい。
【0041】
共役ジエン系重合体鎖(a1)の重量平均分子量は、特に限定されないが、1,000〜2,000,000が好ましく、10,000〜1,500,000がより好ましく、100,000〜1,000,000が特に好ましい。共役ジエン系重合体鎖(a1)の重量平均分子量が上記範囲内にあるとき、タイヤの強度がより良好となる。なお、重量平均分子量の測定方法は上述のとおりである。
【0042】
共役ジエン系重合体鎖(a1)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布は、好ましくは1.0〜3.0、より好ましくは1.0〜2.5、特に好ましくは1.0〜2.2である。この分子量分布の値(Mw/Mn)が上記範囲内にあると、共役ジエン系ゴム(A1)の製造が容易となる。なお、数平均分子量の測定方法は上述した重量平均分子量と同様である。
【0043】
共役ジエン系重合体鎖(a1)は、上述したように、不活性溶媒中、まず重合開始剤を用いてイソプレン(またはイソプレン混合物)をリビング重合させることにより、活性末端を有するイソプレンブロックを形成し、次いで、このイソプレンブロックを新たな重合開始剤として用いて、スチレン単量体、ブタジエン単量体などの単量体をリビング重合させることにより得ることができる。この際、スチレン単量体、ブタジエン単量体などの単量体の溶液中にイソプレンブロックを加えてもよいし、イソプレンブロックの溶液中にスチレン単量体、ブタジエン単量体などの単量体を加えてもよいが、スチレン単量体、ブタジエン単量体などの単量体の溶液中にイソプレンブロックを加えることが好ましい。また、スチレン単量体、ブタジエン単量体などの単量体の重合転化率が通常95%以上になった時点で、新たにイソプレン(またはイソプレン混合物)を添加することにより、共役ジエン系重合体鎖(a1)の活性末端側にもイソプレンブロックを形成させることができる。このイソプレン(またはイソプレン混合物)の使用量は、初めの重合反応に使用した重合開始剤1molに対して、好ましくは10〜100mol、より好ましくは15〜70mol、特に好ましくは20〜35molである。
【0044】
<変性剤(a2)>
本発明で使用される共役ジエン系ゴム(A1)は、以上のようにして得られる共役ジエン系重合体鎖(a1)の活性末端と、エポキシ基および/またはヒドロカルビルオキシシリル基を有し、上記エポキシ基と、上記ヒドロカルビルオキシシリル基に含まれるヒドロカルビルオキシ基(−OR:ここでRは炭化水素基またはアリール基)との合計数が3以上である変性剤(a2)とが反応してなる後述する構造体(a)を5質量%以上含む。
【0045】
本明細書において「変性剤」とは、1分子中に、共役ジエン系重合体鎖(a1)の活性末端と反応する官能基を有する化合物である。ただし、含有する上記官能基は、シリカと親和性を有するものに限る。本発明において、上記官能基は、エポキシ基、または、ヒドロカルビルオキシシリル基に含まれるヒドロカルビルオキシ基である。
【0046】
本発明の共役ジエン系ゴム(A1)に含有される構造体(a)を形成するのに用いられる変性剤(a2)は、エポキシ基および/またはヒドロカルビルオキシシリル基を有し、エポキシ基と、ヒドロカルビルオキシシリル基に含まれるヒドロカルビルオキシ基との合計数が3以上である変性剤であれば、特に限定されない。すなわち、変性剤(a2)としては、分子中に3以上のエポキシ基を有するものや、分子中にヒドロカルビルオキシシリル基を有し、ヒドロカルビルオキシシリル基においてケイ素原子と結合しているヒドロカルビルオキシ基が分子中に3以上含まれているものを用いることができ、それに加えて、分子中にエポキシ基およびヒドロカルビルオキシシリル基の両方を有し、1分子内において、エポキシ基と、ヒドロカルビルオキシシリル基においてケイ素原子と結合しているヒドロカルビルオキシ基との合計数が3以上のものを用いることもできる。なお、分子中にヒドロカルビルオキシシリル基を有し、ヒドロカルビルオキシシリル基においてケイ素原子と結合しているヒドロカルビルオキシ基が分子中に2以上含まれているという場合、1つのヒドロカルビルオキシ基を有するケイ素原子が2以上含まれているもの、同一のケイ素原子に2以上のヒドロカルビルオキシ基を有するもの、およびこれらの組合せを指す。なお、ヒドロカルビルオキシシリル基のケイ素原子にヒドロカルビルオキシ基以外の有機基が結合している場合、この有機基については特に制限はない。
【0047】
なお、共役ジエン系重合体鎖(a1)が、エポキシ基を有する変性剤(a2)と反応する場合は、変性剤(a2)における少なくとも一部のエポキシ基が開環することにより、エポキシ基が開環した部分の炭素原子と共役ジエン系重合体鎖(a1)の活性末端との結合が形成されると考えられる。また、共役ジエン系重合体鎖(a1)が、ヒドロカルビルオキシシリル基を有する変性剤(a2)と反応する場合は、変性剤(a2)のヒドロカルビルオキシシリル基における少なくとも一部のヒドロカルビルオキシ基が脱離することにより、変性剤(a2)が含有するケイ素原子と共役ジエン系重合体鎖(a1)の活性末端との結合が形成されると考えられる。
【0048】
エポキシ基と、ヒドロカルビルオキシシリル基に含まれるヒドロカルビルオキシ基との合計数が3以上である変性剤(a2)を用いることにより、3以上の上記共役ジエン系重合体鎖(a1)が上記変性剤(a2)を介して結合してなる構造体(a)を有する共役ジエン系ゴム(A1)を得ることができる。合計数の上限は特に制限されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。
【0049】
変性剤(a2)に含まれるヒドロカルビルオキシシリル基としては、例えば、メトキシシリル基、エトキシシリル基、プロポキシシリル基、ブトキシシリル基などのアルコキシシリル基、ならびにフェノキシシリル基などのアリールオキシシリル基が挙げられる。これらの中でも、アルコキシシリル基が好ましく、エトキシシリル基がより好ましい。
【0050】
また、変性剤(a2)に含まれるヒドロカルビルオキシシリル基に含まれるヒドロカルビルオキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基およびブトキシ基などのアルコキシ基、ならびにフェノキシ基などのアリールオキシ基が挙げられる。これらの中でも、アルコキシ基が好ましく、エトキシ基がより好ましい。
【0051】
変性剤(a2)は、低転がり抵抗性およびウェットグリップ性能がより優れる理由から、ポリオルガノシロキサンであることが好ましい。
【0052】
変性剤(a2)の好適な態様としては、下記式(1)で表されるポリオルガノシロキサン、下記式(2)で表されるポリオルガノシロキサン、および下記式(3)で表されるポリオルガノシロキサン、ならびに下記式(4)で表されるヒドロカルビルオキシシランなどが挙げられる。なかでも、下記式(1)で表されるポリオルガノシロキサン、下記式(2)で表されるポリオルガノシロキサン、および下記式(3)で表されるポリオルガノシロキサンであることが好ましく、下記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンであることがより好ましい。
【0053】
【化1】
【0054】
上記式(1)中、R1〜R8は、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜12のアリール基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。上記式(1)中、X1およびX4は、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数6〜14のアリールオキシ基、もしくはエポキシ基を含有する炭素数4〜12の基、または、炭素数1〜6のアルキル基、もしくは炭素数6〜12のアリール基であり、X1およびX4は同一であっても相違していてもよい。上記式(1)中、X2は、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数6〜14のアリールオキシ基、またはエポキシ基を含有する炭素数4〜12の基である。上記式(1)中、X3は、2〜20のアルキレングリコールの繰返し単位を含有する基である。上記式(1)中、mは3〜200の整数、nは0〜200の整数、kは0〜200の整数である。
【0055】
【化2】
【0056】
上記式(2)中、R9〜R16は、炭素数1〜6のアルキル基、または炭素数6〜12のアリール基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。上記式(2)中、X5〜X8は、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数6〜14のアリールオキシ基、またはエポキシ基を含有する炭素数4〜12の基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。
【0057】
【化3】
【0058】
上記式(3)中、R17〜R19は、炭素数1〜6のアルキル基、または炭素数6〜12のアリール基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。上記式(3)中、X9〜X11は、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数6〜14のアリールオキシ基、またはエポキシ基を含有する炭素数4〜12の基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。上記式(3)中、sは1〜18の整数である。
【0059】
【化4】
【0060】
上記式(4)中、R20は、炭素数1〜12のアルキレン基である。上記式(4)中、R21〜R29は、炭素数1〜6のアルキル基、または炭素数6〜12のアリール基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。上記式(4)中、rは1〜10の整数である。
【0061】
上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、R1〜R8、X1およびX4で表される炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、およびシクロヘキシル基などが挙げられる。炭素数6〜12のアリール基としては、例えば、フェニル基、およびメチルフェニル基などが挙げられる。これらのなかでも、ポリオルガノシロキサン自体の製造の観点から、メチル基、およびエチル基が好ましい。
【0062】
上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、X1、X2、およびX4で表される炭素数1〜5のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、およびブトキシ基などが挙げられる。なかでも、共役ジエン系重合体鎖(a1)の活性末端との反応性の観点から、メトキシ基、およびエトキシ基が好ましい。
【0063】
上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、X1、X2、およびX4で表される炭素数6〜14のアリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、およびトリルオキシ基などが挙げられる。
【0064】
上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、X1、X2、およびX4で表されるエポキシ基を含有する炭素数4〜12の基としては、下記式(5)で表される基が挙げられる。
【0065】
【化5】
【0066】
上記式(5)中、Z1は、炭素数1〜10のアルキレン基またはアルキルアリーレン基であり、Z2はメチレン基、硫黄原子、または酸素原子であり、Eはエポキシ基を有する炭素数2〜10のヒドロカルビル基(炭化水素基)である。上記式(5)中、*は結合位置を表す。
【0067】
上記式(5)で表される基において、Z2が酸素原子であるものが好ましく、Z2が酸素原子であり、かつ、Eがグリシジル基であるものがより好ましく、Z1が炭素数3のアルキレン基であり、Z2が酸素原子であり、かつ、Eがグリシジル基であるものが特に好ましい。
【0068】
上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、X1およびX4としては、上記の中でも、エポキシ基を含有する炭素数4〜12の基、または炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、また、X2としては、上記の中でも、エポキシ基を含有する炭素数4〜12の基が好ましく、X1およびX4が炭素数1〜6のアルキル基であり、かつ、X2がエポキシ基を含有する炭素数4〜12の基であることがより好ましい。
【0069】
上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、X3、すなわち2〜20のアルキレングリコールの繰返し単位を含有する基としては、下記式(6)で表される基が好ましい。
【0070】
【化6】
【0071】
上記式(6)中、tは2〜20の整数であり、Pは炭素数2〜10のアルキレン基またはアルキルアリーレン基であり、Rは水素原子またはメチル基であり、Qは炭素数1〜10のアルコキシ基またはアリールオキシ基である。上記式(6)中、*は結合位置を表す。これらの中でも、tが2〜8の整数であり、Pが炭素数3のアルキレン基であり、Rが水素原子であり、かつ、Qがメトキシ基であるものが好ましい。
【0072】
上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、mは、機械的強度がより優れる理由から、好ましくは20〜150、より好ましくは30〜120の整数である。
【0073】
上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、nは、好ましくは0〜150の整数、より好ましくは0〜120の整数である。また、上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、kは、好ましくは0〜150の整数、より好ましくは0〜120の整数である。
【0074】
上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、m、n、およびkの合計数は、400以下であることが好ましく、300以下であることがより好ましく、250以下であることが特に好ましい。m、n、およびkの合計数が400以下であるとポリオルガノシロキサン自体の製造が容易になると共に、その粘度が高くなりすぎず、取り扱いも容易となる。
【0075】
上記式(2)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、R9〜R16の具体例および好適な態様は、上記式(1)中のR1〜R8と同様である。また、上記式(2)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、X5〜X8の具体例および好適な態様は、上記式(1)中のX2と同様である。
【0076】
上記式(3)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、R17〜R19の具体例および好適な態様は、上記式(1)中のR1〜R8と同様である。また、上記式(3)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、X9〜X11の具体例および好適な態様は、上記式(1)中のX2と同様である。
【0077】
上記式(4)で表されるヒドロカルビルオキシシランにおいて、R20で表される炭素数1〜12のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、およびプロピレン基などが挙げられる。これらの中でも、プロピレン基が好ましい。
上記式(4)で表されるヒドロカルビルオキシシランにおいて、R21〜R29の具体例および好適な態様は、上記式(1)中のR1〜R8と同様である。
【0078】
上記式(4)で表されるヒドロカルビルオキシシランの具体例としては、N,N−ビス(トリメチルシリル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノエチルトリメトキシシラン、およびN,N−ビス(トリメチルシリル)アミノエチルトリエトキシシランなどを挙げることができる。これらの中でも、N,N−ビス(トリメチルシリル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランおよびN,N−ビス(トリメチルシリル)−3−アミノプロピルトリエトキシシランを用いることが好ましい。
【0079】
変性剤(a2)の他の例としては、テトラメトキシシランなどのテトラアルコキシシラン化合物;ビス(トリメトキシシリル)メタンなどのヘキサアルコキシシラン化合物;メチルトリエトキシシランなどのアルキルアルコキシシラン化合物;ビニルトリメトキシシランンなどのアルケニルアルコシキシシラン化合物;フェニルトリメトキシシランなどのアリールアルコキシシラン化合物;トリエトキシクロロシランなどのハロゲノアルコキシシラン化合物;3−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシブチルプロピルトリメトキシシラン、ビス(3−グリシドキシプロピル)ジメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物;ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィドなどの硫黄含有アルコキシシラン化合物;ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)メチルアミンなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物;トリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートなどのイソシアネート基含有アルコキシシラン化合物;テトラグリシジル−1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンなどのエポキシ基含有化合物;などが挙げられる。
【0080】
変性剤(a2)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0081】
変性剤(a2)の使用量は、特に限定されないが、重合反応に使用した重合開始剤のモル数に対する、共役ジエン系重合体鎖(a1)の活性末端と反応する変性剤(a2)中の、エポキシ基と、ヒドロカルビルオキシシリル基に含まれるヒドロカルビルオキシ基との合計のモル数の割合が、通常、0.1〜5であり、機械的強度がより優れる理由から、0.5〜3であることが好ましい。
【0082】
共役ジエン系重合体鎖(a1)は、上述の変性剤(a2)を反応させる前に、本発明の効果を阻害しない範囲で、重合停止剤、変性剤(a2)以外の重合末端変性剤、およびカップリング剤などを重合系内に添加して、共役ジエン系重合体鎖(a1)の活性末端の一部を不活性化してもよい。
【0083】
このとき用いられる重合末端変性剤およびカップリング剤としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、N−フェニル−2−ピロリドン、およびN−メチル−ε−カプロラクタムなどのN−置換環状アミド類;1,3−ジメチルエチレン尿素、および1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノンなどのN−置換環状尿素類;4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、および4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンなどのN−置換アミノケトン類;ジフェニルメタンジイソシアネ−ト、および2,4−トリレンジイソシアネートなどの芳香族イソシアネート類;N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミドなどのN,N−ジ置換アミノアルキルメタクリルアミド類;4−N,N−ジメチルアミノベンズアルデヒドなどのN−置換アミノアルデヒド類;ジシクロヘキシルカルボジイミドなどのN−置換カルボジイミド類;N−エチルエチリデンイミン、N−メチルベンジリデンイミンなどのシッフ塩基類;4−ビニルピリジンなどのピリジル基含有ビニル化合物;四塩化錫、四塩化ケイ素、ヘキサクロロジシラン、ビス(トリクロロシリル)メタン、1,2−ビス(トリクロロシリル)エタン、1,3−ビス(トリクロロシリル)プロパン、1,4−ビス(トリクロロシリル)ブタン、1,5−ビス(トリクロロシリル)ペンタン、および1,6−ビス(トリクロロシリル)ヘキサンなどのハロゲン化金属化合物;などが挙げられる。これらの中でも、カップリング効率がより優れる理由から、ハロゲン化金属化合物をカップリング剤として用いることが好ましく、1分子中に5以上のケイ素−ハロゲン原子結合を有するハロゲン化ケイ素化合物をカップリング剤として用いることがより好ましく、1,6−ビス(トリクロロシリル)ヘキサンを用いることが特に好ましい。
【0084】
カップリング剤の使用量は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に制限されず、例えば、1分子中に5以上のケイ素−ハロゲン原子結合を有するハロゲン化ケイ素化合物の場合、その使用量は、機械的強度がより優れる理由から、重合反応に使用した重合開始剤のモル数に対する、ハロゲン化ケイ素化合物のケイ素−ハロゲン原子結合のmol数の割合が、0.001〜0.25であることが好ましく、0.01〜0.2であることがより好ましい。
【0085】
上記カップリング剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0086】
共役ジエン系重合体鎖(a1)を含有する溶液に、変性剤(a2)およびカップリング剤などを添加する際には、反応を良好に制御する観点から、それらを不活性溶媒に溶解して重合系内に添加することが好ましい。その溶液濃度は、1〜50質量%の範囲とすることが好ましい。
【0087】
<共役ジエン系ゴム(A1)>
本発明の組成物に含有される共役ジエン系ゴム(A1)は、共役ジエン系重合体鎖(a1)と、変性剤(a2)とが反応することにより得られる共役ジエン系ゴムであり、具体的には、3以上の共役ジエン系重合体鎖(a1)が変性剤(a2)を介して結合してなる構造体(a)を5質量%以上含有するものである。
【0088】
共役ジエン系重合体鎖(a1)と変性剤(a2)との反応は、例えば、共役ジエン系重合体鎖(a1)を含有する溶液に、変性剤(a2)を添加することにより行なうことができる。変性剤(a2)およびカップリング剤などを添加する時期は、特に限定されないが、共役ジエン系重合体鎖(a1)における重合反応が完結しておらず共役ジエン系重合体鎖(a1)を含有する溶液がイソプレン等の単量体を含有している状態、より具体的には、共役ジエン系重合体鎖(a1)を含有する溶液が、好ましくは100ppm以上、より好ましくは300〜50,000ppmの単量体を含有している状態で、この溶液に変性剤(a2)およびカップリング剤などを添加することが望ましい。変性剤(a2)およびカップリング剤などの添加を行なうことにより、共役ジエン系重合体鎖(a1)と重合系中に含まれる不純物との副反応を抑制して、反応を良好に制御することが可能となる。
【0089】
共役ジエン系ゴム(A1)を得るにあたり、変性剤(a2)およびカップリング剤などを2種以上併用する場合において、それらを重合系に添加する順序は特に限定されない。変性剤(a2)と、1分子中に5以上のケイ素−ハロゲン原子結合を有するカップリング剤としてのハロゲン化ケイ素化合物とを併用する場合においても、その添加順序は、特に限定されないが、カップリング剤の添加を変性剤(a2)の添加より先に行なうことが好ましい。このような順序で添加を行なうことにより、カップリング剤を介して得られる高分岐共役ジエン系ゴムが得られやすくなり、その高分岐共役ジエン系ゴムを用いて得られるタイヤは、操縦安定性がより優れる。
【0090】
変性剤(a2)およびカップリング剤などを反応させるときの条件としては、温度が、通常、0〜100℃、好ましくは30〜90℃の範囲であり、それぞれの反応時間が、通常、1〜120分、好ましくは2〜60分の範囲である。
【0091】
共役ジエン系重合体鎖(a1)に変性剤(a2)を反応させた後は、メタノールなどのアルコール、または水を添加して活性末端を失活させることが好ましい。
【0092】
共役ジエン系重合体鎖(a1)の活性末端を失活させた後、所望により、フェノール系安定剤、リン系安定剤、イオウ系安定剤などの老化防止剤、クラム化剤、およびスケール防止剤などを重合溶液に添加した後、直接乾燥およびスチームストリッピングにより重合溶液から重合溶媒を分離して、共役ジエン系ゴム(A1)を回収する。なお、重合溶液から重合溶媒を分離する前に、重合溶液に伸展油を混合し、共役ジエン系ゴム(A1)を油展ゴムとして回収してもよい。
【0093】
共役ジエン系ゴム(A1)を油展ゴムとして回収する場合に用いる伸展油としては、例えば、パラフィン系、芳香族系およびナフテン系の石油系軟化剤、植物系軟化剤、ならびに脂肪酸などが挙げられる。石油系軟化剤を用いる場合には、多環芳香族の含有量が3%未満であることが好ましい。この含有量は、IP346の方法(英国のTHE INSTITUTE PETROLEUMの検査方法)により測定される。伸展油を使用する場合、その使用量は、共役ジエン系ゴム(A1)100質量部に対して、通常、5〜100質量部、好ましくは10〜60質量部、より好ましくは20〜50質量部である。
【0094】
共役ジエン系ゴム(A1)は、3以上の共役ジエン系重合体鎖(a1)が変性剤(a2)を介して結合された構造体(a)を5質量%以上含有してなり、より好ましくは5〜40質量%含有してなり、特に好ましくは10〜30質量%含有してなるものである。
最終的に得られた共役ジエン系ゴム(A1)の全量に対する、3以上の共役ジエン系重合体鎖(a1)が変性剤(a2)を介して結合された構造体(a)の割合を「3分岐以上のカップリング率(質量%)」(以下、単にカップリング率ともいう)として表す。これは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(ポリスチレン換算)により測定することができる。ゲルパーミエーションクロマトグラフィ測定により得られたチャートより、全溶出面積(s1)に対する、分子量の最も小さいピークが示すピークトップ分子量の2.8倍以上のピークトップ分子量を有するピーク部分の面積(s2)の比(s2/s1)を3分岐以上のカップリング率とする。なお、変性剤(a2)以外のカップリング剤などを変性前に添加した場合には、変性剤(a2)を添加する前にサンプルを採取し、GPCを測定しておくことで、カップリング剤のみと結合した共役ジエン系重合体鎖の割合の補正を行うことができる。
【0095】
共役ジエン系ゴム(A1)の重量平均分子量は、上述のとおり、100,000〜3,000,000である。好ましくは100,000〜2,000,000、より好ましくは300,000〜1,500,000の範囲である。重量平均分子量の測定方法は上述のとおりである。
【0096】
共役ジエン系ゴム(A1)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布は、特に限定されないが、好ましくは1.1〜3.0、より好ましくは1.2〜2.5、特に好ましくは1.3〜2.2である。この分子量分布の値(Mw/Mn)が3.0以下であると、得られるタイヤの低転がり抵抗性がより優れたものとなる。なお、数平均分子量の測定方法は上述した重量平均分子量と同様である。
【0097】
共役ジエン系ゴム(A1)のムーニー粘度(ML1+4(100℃))も、特に限定されないが、通常、20〜100、好ましくは30〜90、より好ましくは40〜85の範囲である。なお、共役ジエン系ゴム(A1)を油展ゴムとする場合は、その油展ゴムのムーニー粘度を上記の範囲とすることが好ましい。
【0098】
共役ジエン系ゴム(A1)の含有量は、ジエン系ゴム(A)の含有量に対して、30質量%以上である。なかでも、ウェットグリップ性能および剛性がより優れる理由から、50〜100質量%であるのが好ましい。
共役ジエン系ゴム(A1)の含有量がジエン系ゴム(A)の含有量に対して30質量%未満であると、ウェットグリップ性能が不十分となる。
【0099】
<その他のゴム成分>
上述のとおり、本発明の組成物に含有されるジエン系ゴム(A)は、共役ジエン系ゴム(A1)以外のその他のゴム成分を含んでもよい。
上記その他のゴム成分としては特に制限されないが、その具体例としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム(例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR))、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br−IIR、Cl−IIR)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられる。上記その他のゴム成分は、1種のゴム成分を単独で用いても、2種以上のゴム成分を併用してもよい。
本発明の組成物がSBRを含有する場合、SBRのスチレン単位含有量の好適な態様は、上述した共役ジエン系重合体鎖(a1)におけるイソプレンブロック以外の部分と同じである。
【0100】
〔シリカ(B)〕
本発明の組成物に含有されるシリカ(B)は特に限定されず、タイヤ等の用途でゴム組成物に配合されている従来公知の任意のシリカを用いることができる。
上記シリカ(B)としては、例えば、湿式シリカ、乾式シリカ、ヒュームドシリカ、珪藻土などが挙げられる。上記シリカ(B)は、1種のシリカを単独で用いても、2種以上のシリカを併用してもよい。
【0101】
上記シリカ(B)は、タイヤにしたときにウェットグリップ性能および耐摩耗性がより優れる理由から、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)吸着比表面積が100〜300m2/gであることが好ましく、140〜260m2/gであることがより好ましい。
ここで、CTAB吸着比表面積は、シリカがシランカップリング剤との吸着に利用できる表面積の代用特性であり、シリカ表面へのCTAB吸着量をJIS K6217−3:2001「第3部:比表面積の求め方−CTAB吸着法」にしたがって測定した値である。
【0102】
本発明の組成物において、上記シリカ(B)の含有量は、上記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して、60〜170質量部であり、タイヤにしたときにウェットグリップ性能および低転がり抵抗性がより優れ、また、混合加工性が優れる理由から、65〜145質量部であることが好ましく、70〜140質量部であることがより好ましい。
シリカ(B)の含有量がジエン系ゴム(A)100質量部に対して60質量部未満であると、ウェットグリップ性能が不十分となる。また、シリカ(B)の含有量がジエン系ゴム(A)100質量部に対して170質量部を超えると、剛性および耐摩耗性が不十分となる。
【0103】
〔芳香族変性テルペン樹脂(C)〕
本発明の組成物に含有される芳香族変性テルペン樹脂(C)は、軟化点が60〜180℃の芳香族変性テルペン樹脂であれば特に制限されない。
ここで、軟化点は、JIS K7206:1999に準拠して測定されたビカット軟化点である。
【0104】
本発明の組成物において、上記芳香族変性テルペン樹脂(C)の含有量は、上記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して、10〜50質量部であり、ウェットグリップ性能および剛性がより優れる理由から、10〜40質量部であることが好ましい。
芳香族テルペン樹脂(C)の含有量がジエン系ゴム(A)100質量部に対して50質量部を超えると、剛性および耐摩耗性が不十分となる。
【0105】
〔低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(D)〕
本発明の組成物に含有される低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(D)は、重量平均分子量が2,000〜20,000の低分子量スチレン−ブタジエン共重合体であれば特に制限されない。重量平均分子量を求める方法は上述したジエン系ゴム(A)と同様である。
上記低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(D)の重量平均分子量は、得られるタイヤのウェットグリップ性能、剛性および耐摩耗性がより優れる理由から、3,000〜10,000であることが好ましい。
低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(D)のスチレン単位含有量は、20〜40質量%であることが好ましい。
また、低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(D)のブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量は、40〜70%であることが好ましい。
【0106】
上記低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(D)の含有量は、上記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して5〜100質量部であり、得られるタイヤのウェットグリップ性能、剛性および耐摩耗性がより優れる理由から、10〜90質量部であることが好ましく、40〜70質量%であることがより好ましい。
低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(D)の含有量が上記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して100質量部を超えると、剛性および耐摩耗性が不十分となる。
【0107】
〔任意成分〕
本発明の組成物には、必要に応じて、その効果や目的を損なわない範囲でさらに添加剤を含有することができる。
上記添加剤としては、例えば、シランカップリング剤、シリカ(B)以外の充填剤(例えば、カーボンブラック)、酸化亜鉛(亜鉛華)、ステアリン酸、老化防止剤、加工助剤、アロマオイル、プロセスオイル、液状ポリマー、芳香族変性テルペン樹脂(C)以外のテルペン樹脂、熱硬化性樹脂、加硫剤、加硫促進剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤が挙げられる。
【0108】
本発明の組成物は、加工性の観点から、カーボンブラックを含有するのが好ましい。
本発明の組成物に含有されるカーボンブラックは、特に限定されず、例えば、SAF−HS、SAF、ISAF−HS、ISAF、ISAF−LS、IISAF−HS、HAF−HS、HAF、HAF−LS、FEF等の各種グレードのものを使用することができる。
上記カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、得られるタイヤの耐摩耗性がより優れる理由から、100〜400m2/gであることが好ましく、110〜320m2/gであることがより好ましい。
ここで、窒素吸着比表面積(N2SA)は、カーボンブラック表面への窒素吸着量をJIS K6217−2:2001「第2部:比表面積の求め方−窒素吸着法−単点法」にしたがって測定した値である。
【0109】
カーボンブラックの含有量は特に制限されないが、上記ジエン系ゴム(A)100質量部に対して1〜20質量部であることが好ましい。
【0110】
<シランカップリング剤>
本発明の組成物は、シリカの分散性がより優れる理由から、シランカップリング剤を含有するのが好ましい。
上記シランカップリング剤としては、具体的には、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイル−テトラスルフィド、トリメトキシシリルプロピル−メルカプトベンゾチアゾールテトラスルフィド、トリエトキシシリルプロピル−メタクリレート−モノスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイル−テトラスルフィド等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0111】
また、上記シランカップリング剤の好適な態様としては、例えば、メルカプト基および加水分解性基を有するメルカプト系シランカップリング剤が挙げられる。
上記加水分解性基としては、例えば、アルコキシ基、フェノキシ基、カルボキシル基、アルケニルオキシ基などが挙げられる。なかでも、シリカの分散性がより優れる理由から、アルコキシ基であることが好ましい。加水分解性基がアルコキシ基である場合、アルコキシ基の炭素数は、1〜16であることが好ましく、1〜4であることがより好ましい。炭素数1〜4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などが挙げられる。
【0112】
上記メルカプト系シランカップリング剤の好適な態様としては、ポリエーテル鎖を有するメルカプト系シランカップリング剤、および/または、ポリシロキサン構造(−Si−O−)を有するメルカプト系シランカップリング剤などが挙げられる。
ここで、ポリエーテル鎖とは、エーテル結合を2以上有する側鎖であり、その具体例としては、例えば、構造単位−Ra−O−Rb−を合計して2個以上有する側鎖が挙げられる。ここで、上記構造単位中、RaおよびRbは、それぞれ独立して、直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基、直鎖状もしくは分岐状のアルケニレン基、直鎖状もしくは分岐状のアルキニレン基、または、置換もしくは無置換のアリーレン基を表す。なかでも、直鎖状のアルキレン基であることが好ましい。
【0113】
上記ポリエーテル鎖を有するメルカプト系シランカップリング剤の好適な態様としては、例えば、下記式(E2)で表される化合物が挙げられる。
【0114】
【化7】
【0115】
上記式(E2)中、R21は、炭素数1〜8のアルコキシ基を表し、なかでも、炭素数1〜3のアルコキシ基が好ましい。炭素数1〜3のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基などが挙げられる。なお、lが2である場合の複数あるR21はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
上記式(E2)中、R22は、炭素数4〜30の直鎖状のポリエーテル基を表す。ポリエーテル基とは、エーテル結合を2以上有する基であり、その具体例としては、例えば、構造単位−Ra−O−Rb−を合計して2個以上有する基が挙げられる。RaおよびRbの定義および好適な態様は、上述したRaおよびRbと同じである。なお、mが2である場合の複数あるR22はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
炭素数4〜30の直鎖状のポリエーテル基の好適な態様としては、下記式(E5)で表される基が挙げられる。
【0116】
【化8】
【0117】
上記式(E5)中、R51は、直鎖状のアルキル基、直鎖状のアルケニル基、または、直鎖状のアルキニル基を表し、なかでも直鎖状のアルキル基が好ましい。上記直鎖状のアルキル基としては、炭素数1〜20の直鎖状のアルキル基が好ましく、炭素数8〜15の直鎖状のアルキル基がより好ましい。炭素数8〜15の直鎖状のアルキル基の具体例としては、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基などが挙げられ、なかでもトリデシル基が好ましい。
上記式(E5)中、R52は、直鎖状のアルキレン基、直鎖状のアルケニレン基、または、直鎖状のアルキニレン基を表し、なかでも直鎖状のアルキレン基が好ましい。上記直鎖状のアルキレン基としては、炭素数1〜2の直鎖状のアルキレン基が好ましく、エチレン基がより好ましい。
上記式(E5)中、pは、1〜10の整数を表し、3〜7であることが好ましい。
上記式(E5)中、*は、結合位置を示す。
【0118】
上記式(E2)中、R23は、水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す。
上記式(E2)中、R24は炭素数1〜30のアルキレン基を表し、なかでも炭素数1〜12のアルキレン基が好ましく、炭素数1〜5のアルキレン基がより好ましい。炭素数1〜5のアルキレン基の具体例としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基などが挙げられる。
上記式(E2)中、lは1〜2の整数を表し、1であることが好ましい。上記式(E2)中、mは1〜2の整数を表し、2であることが好ましい。nは0〜1の整数を表し、0であることが好ましい。l、mおよびnはl+m+n=3の関係式を満たす。
【0119】
一方、上記ポリシロキサン構造を有するメルカプト系シランカップリング剤の好適な態様としては、例えば、下記式(E3)で表される繰り返し単位および下記式(E4)で表される繰り返し単位を有する共重合物が挙げられる。
【0120】
【化9】
【0121】
上記式(E3)および(E4)中、R31およびR41は、それぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキレン基を表し、その具体例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基などが挙げられる。なかでも、プロピレン基が好ましい。複数あるR31およびR41はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
上記式(E3)および(E4)中、R32およびR42は、それぞれ独立に、直鎖状もしくは分岐状の炭素数1〜30のアルキレン基、直鎖状もしくは分岐状の炭素数2〜30のアルケニレン基、または、直鎖状もしくは分岐状の炭素数2〜30のアルキニレン基を表し、なかでも、炭素数3〜20のものが好ましい。R32が末端である場合、R32は、水素原子、直鎖状もしくは分岐状の炭素数1〜30のアルキル基、直鎖状もしくは分岐状の炭素数2〜30のアルケニル基、または、直鎖状もしくは分岐状の炭素数2〜30のアルキニル基を表し、なかでも、炭素数3〜20のものが好ましい。R42が末端である場合、R42の定義、具体例および好適な態様は、上記R32と同じである。複数あるR32およびR42はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
上記式(E3)および(E4)中、R33およびR43は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、直鎖状もしくは分岐状の炭素数1〜30のアルキル基、直鎖状もしくは分岐状の炭素数2〜30のアルケニル基、直鎖状もしくは分岐状の炭素数2〜30のアルキニル基、直鎖状もしくは分岐状の炭素数1〜30のアルキル基であって末端に水酸基もしくはカルボキシル基を有するもの、または、直鎖状もしくは分岐状の炭素数2〜30のアルケニル基であって末端に水酸基もしくはカルボキシル基を有するものを表す。R43は、末端に水酸基を有する基であることが好ましい。R32およびR33は、R32とR33とで環を形成していてもよい。R42およびR43は、R42とR43とで環を形成していてもよい。複数あるR33およびR43はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
34は、炭素数1〜13のアルキル基を表し、なかでも、炭素数3〜10のアルキル基が好ましい。炭素数3〜10のアルキル基の具体例としては、たとえばヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などが挙げられる。複数あるR34はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0122】
本発明の組成物において、上記シランカップリング剤の含有量は、シリカの分散性がより優れる理由から、上記シリカ(D)の含有量に対して0.5〜20質量%であることが好ましく、1〜18質量%であることがより好ましく、2〜15質量%であることがさらに好ましい。
【0123】
〔タイヤ用ゴム組成物の製造方法〕
本発明の組成物の製造方法は特に限定されず、その具体例としては、例えば、上述した各成分を、公知の方法、装置(例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなど)を用いて、混練する方法などが挙げられる。
また、本発明の組成物は、従来公知の加硫または架橋条件で加硫または架橋することができる。
【0124】
[空気入りタイヤ]
本発明の空気入りタイヤは、上述した本発明の組成物を用いて製造した空気入りタイヤである。なかでも、本発明の組成物をタイヤトレッドに用いて製造した空気入りタイヤであることが好ましい。
図1に、本発明の空気入りタイヤの実施態様の一例を表すタイヤの部分断面概略図を示すが、本発明の空気入りタイヤは図1に示す態様に限定されるものではない。
【0125】
図1において、符号1はビード部を表し、符号2はサイドウォール部を表し、符号3はタイヤトレッド部を表す。
また、左右一対のビード部1間においては、繊維コードが埋設されたカーカス層4が装架されており、このカーカス層4の端部はビードコア5およびビードフィラー6の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されて巻き上げられている。
また、タイヤトレッド3においては、カーカス層4の外側に、ベルト層7がタイヤ1周に亘って配置されている。
また、ビード部1においては、リムに接する部分にリムクッション8が配置されている。
【0126】
本発明の空気入りタイヤは、例えば従来公知の方法に従って製造することができる。また、タイヤに充填する気体としては、通常のまたは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを用いることができる。
【0127】
本発明の空気入りタイヤはウェットグリップ性能、剛性および耐摩耗性に優れるため、特に競技ウェットタイヤに好適である。
【実施例】
【0128】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0129】
<合成例1:共役ジエン系ゴムA11>
窒素置換された100mlアンプル瓶に、シクロヘキサン28gおよびテトラメチルエチレンジアミン8.6mmolを添加し、さらに、n−ブチルリチウム6.1mmolを添加した。次いで、イソプレン8.0gをゆっくりと添加し、60℃のアンプル瓶内で120分反応させることにより、イソプレンブロック(開始剤1とする)を得た。この開始剤1について、重量平均分子量、分子量分布、およびイソプレン単量体単位中のビニル結合含有量を測定した。測定結果を第1表に示す。なお、測定方法は後述のとおりである。
【0130】
次に、撹拌機付きオートクレーブに、窒素雰囲気下、シクロヘキサン4000g、1,3−ブタジエン444.1gおよびスチレン260.9g、テトラメチルエチレンジアミン0.18gを仕込んだ後、開始剤1を全量加え、40℃で重合を開始した。重合反応中の最高温度は60℃であった。重合転化率が95%から100%の範囲になったことを確認してから、次いで、1,6−ビス(トリクロロシリル)ヘキサン0.08mmolを20質量%濃度のシクロヘキサン溶液の状態で添加し、10分間反応させた。さらに、下記式(11)で表されるポリオルガノシロキサンA0.027mmolを20質量%濃度のキシレン溶液の状態で添加し、30分間反応させた。その後、重合停止剤として、使用したn−ブチルリチウムの2倍モルに相当する量のメタノールを添加して、共役ジエン系ゴムを含有する溶液を得た。この溶液に、老化防止剤として、イルガノックス1520L(チバスペシャリティーケミカルズ社製)を、100質量部の共役ジエン系ゴムに対して0.15質量部添加した後、スチームストリッピングにより溶媒を除去し、60℃で24時間真空乾燥して、固形状の共役ジエン系ゴムを得た。得られた共役ジエン系ゴムを共役ジエン系ゴムA11とする。
【0131】
【化10】
【0132】
上記式(11)中、X1、X4、R1〜R3およびR5〜R8はメチル基である。上記式(11)中、mは80、kは120である。上記式(11)中、X2は下記式(12)で表される基である。
【0133】
【化11】
【0134】
上記式(12)中、*は結合位置を表す。
【0135】
共役ジエン系ゴムA11について、重量平均分子量、分子量分布、カップリング率、イソプレンブロック以外の部分のスチレン単位含有量、イソプレンブロック以外の部分におけるブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量、および、ムーニー粘度を測定した。測定結果を第2表に示す。なお、測定方法は後述のとおりである。
【0136】
(重量平均分子量、分子量分布およびカップリング率)
重量平均分子量、分子量分布およびカップリング率(共役ジエン系ゴム(A1)に対する構造体(a)の割合(質量%))については、ゲルパーミエーションクロマトグラフィにより、ポリスチレン換算の分子量に基づくチャートを得て、そのチャートに基づいて求めた。なお、ゲルパーミエーションクロマトグラフィの具体的な測定条件は、以下のとおりである。
【0137】
・測定器:HLC−8020(東ソ一社製)
・カラム:GMH−HR−H(東ソ一社製)2本を直列に連結した
・検出器:示差屈折計RI−8020(東ソ一社製)
・溶離夜:テトラヒドロフラン
・カラム温度:40℃
【0138】
ここで、カップリング率は、全溶出面積(s1)に対する、分子量の最も小さいピークが示すピークトップ分子量の2.8倍以上のピークトップ分子量を有するピーク部分の面積(s2)の比(s2/s1)である。
【0139】
(スチレン単位含有量およびビニル結合含有量)
スチレン単位含有量およびビニル結合含有量については、1H−NMRにより測定した。
【0140】
(ムーニー粘度)
ムーニー粘度(ML1+4(100℃))については、JIS K6300−1:2001に準じて測定した。
【0141】
<合成例2:共役ジエン系ゴムA12>
合成例1と同様の手順に従って、開始剤1を得た。
次に、撹拌機付きオートクレーブに、窒素雰囲気下、シクロヘキサン4000g、1,3−ブタジエン446.2gおよびスチレン261.0g、テトラメチルエチレンジアミン0.10gを仕込んだ後、開始剤1を全量加え、40℃で重合を開始した。重合反応中の最高温度は60℃であった。重合転化率が95%から100%の範囲になったことを確認してから、次いで、1,6−ビス(トリクロロシリル)ヘキサン0.08mmolを20質量%濃度のシクロヘキサン溶液の状態で添加し、10分間反応させた。さらに、上記式(11)で表されるポリオルガノシロキサンA0.027mmolを20質量%濃度のキシレン溶液の状態で添加し、30分間反応させた。その後、重合停止剤として、使用したn−ブチルリチウムの2倍モルに相当する量のメタノールを添加して、共役ジエン系ゴム1を含有する溶液を得た。この溶液に、老化防止剤として、イルガノックス1520L(チバスペシャリティーケミカルズ社製)を、100質量部の共役ジエン系ゴム1に対して0.15質量部添加した後、スチームストリッピングにより溶媒を除去し、60℃で24時間真空乾燥して、固形状の共役ジエン系ゴムを得た。得られた共役ジエン系ゴムを共役ジエン系ゴムA12とする。
共役ジエン系ゴムA12について、重量平均分子量、分子量分布、カップリング率、イソプレンブロック以外の部分のスチレン単位含有量、イソプレンブロック以外の部分におけるブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量、および、ムーニー粘度を測定した。測定結果を第2表に示す。なお、測定方法は上述のとおりである。
【0142】
<合成例3:共役ジエン系ゴムX>
合成例1と同様の手順に従って、開始剤1を得た。
次に、撹拌機付きオートクレーブに、窒素雰囲気下、シクロヘキサン4000g、1,3−ブタジエン483.5gおよびスチレン211.5g、テトラメチルエチレンジアミン0.18gを仕込んだ後、開始剤1を全量加え、40℃で重合を開始した。重合反応中の最高温度は60℃であった。重合転化率が95%から100%の範囲になったことを確認してから、次いで、1,6−ビス(トリクロロシリル)ヘキサン0.08mmolを20質量%濃度のシクロヘキサン溶液の状態で添加し、10分間反応させた。さらに、上記式(11)で表されるポリオルガノシロキサンA0.027mmolを20質量%濃度のキシレン溶液の状態で添加し、30分間反応させた。その後、重合停止剤として、使用したn−ブチルリチウムの2倍モルに相当する量のメタノールを添加して、共役ジエン系ゴム1を含有する溶液を得た。この溶液に、老化防止剤として、イルガノックス1520L(チバスペシャリティーケミカルズ社製)を、100質量部の共役ジエン系ゴム1に対して0.15質量部添加した後、スチームストリッピングにより溶媒を除去し、60℃で24時間真空乾燥して、固形状の共役ジエン系ゴムを得た。得られた共役ジエン系ゴムを共役ジエン系ゴムXとする。
共役ジエン系ゴムXについて、重量平均分子量、分子量分布、カップリング率、イソプレンブロック以外の部分のスチレン単位含有量、イソプレンブロック以外の部分におけるブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量、および、ムーニー粘度を測定した。測定結果を第2表に示す。なお、測定方法は上述のとおりである。
【0143】
【表1】
【0144】
【表2】
【0145】
<実施例1〜3、比較例1〜10>
下記第3表に示す成分を、下記第3表に示す割合(質量部)で配合した。
具体的には、まず、下記第3表に示す成分のうち硫黄および加硫促進剤を除く成分を、1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーを用いて5分間混合し、150±5℃に達したときに放出し、室温まで冷却してマスターバッチを得た。さらに、上記バンバリーミキサーを用いて、得られたマスターバッチに硫黄および加硫促進剤を混合し、タイヤ用ゴム組成物を得た。
第3表中、SBR1、SBR2およびSBR4については、上段の値は油展品の量(単位:質量部)であり、下段の値はゴム成分の正味の量(単位:質量部)である。
また、第3表中、「ジエン系ゴムの平均Tg(℃)」は、ジエン系ゴム(重量平均分子量:100,000〜3,000,000)の平均Tg(℃)を表す。平均Tgの算出方法は上述のとおりである。
【0146】
<評価用加硫ゴムシートの作製>
調製したタイヤ用ゴム組成物(未加硫)を、金型(15cm×15cm×0.2cm)中、160℃で20分間プレス加硫して、加硫ゴムシートを作製した。
【0147】
<tanδ(0℃)>
上述のとおり作製した加硫ゴムシートについて、JIS K6394:2007に準拠し、粘弾性スペクトロメーター(岩本製作所社製)を用いて、伸張変形歪率10%±2%、振動数20Hz、温度0℃の条件でtanδ(0℃)を測定した。
結果を第3表に示す。結果は比較例1のtanδ(0℃)を100とする指数で表した。指数が大きいほどtanδ(0℃)が大きく、タイヤにしたときにウェットグリップ性能に優れる。
【0148】
<300%モジュラス>
上述のとおり作製した加硫ゴムシートについて、JIS K6251:2010に準拠し、JIS3号ダンベル型試験片(厚さ2mm)を打ち抜き、温度20℃、引張り速度500mm/分の条件で300%モジュラス(300%変形時の応力)を測定した。
結果を第3表に示す。結果は比較例1の300%モジュラスを100とする指数で表した。指数が大きいほど300%モジュラスが大きく、タイヤにしたときに剛性に優れる。
【0149】
<耐摩耗性>
上述のとおり作製した加硫ゴムシートについて、JIS K6264−1、2:2005に準拠し、ランボーン摩耗試験機(岩本製作所製)を用いて、温度20℃、スリップ率50%の条件で摩耗減量を測定した。
結果を第3表に示す。結果は比較例1の摩耗量を100として、次式により指数化したものを表した。指数が大きいほど摩耗量が小さく、タイヤにしたときに耐摩耗性に優れる。
耐摩耗性=(比較例1の摩耗量/試料の摩耗量)×100
【0150】
【表3】
【0151】
【表4】
【0152】
【表5】
【0153】
上記第3表に示されている各成分の詳細は以下のとおりである。
・SBR1:E581(油展品(SBR100質量部に対して油展オイル37.5質量部を含む。SBR中のSBRの正味は72.7質量%。)、スチレン含有量:37質量%、ビニル結合量:42%、Tg:−27℃、重量平均分子量:1,260,000、旭化成社製)
・SBR2:E680(油展品(SBR100質量部に対して油展オイル37.5質量部を含む。SBR中のSBRの正味は72.7質量%。)、スチレン含有量:35質量%、ビニル結合量:64%、Tg:−13℃、重量平均分子量:1,470,000、旭化成社製)
・共役ジエン系ゴムA11:上述のとおり製造された共役ジエン系ゴムA11
・共役ジエン系ゴムA12:上述のとおり製造された共役ジエン系ゴムA12
・共役ジエン系ゴムX:上述のとおり製造された共役ジエン系ゴムX
・SBR3:Nipol NS616(スチレン含有量:23質量%、ビニル結合量:70%、Tg:−23℃、重量平均分子量:510,000、日本ゼオン社製)
・SBR4:タフデン1834(油展品(SBR100質量部に対して油展オイル37.5質量部を含む。SBR中のSBRの正味は72.7質量%。)、スチレン含有量:19質量%、ビニル結合量:10%、Tg:−71℃、重量平均分子量:700,000、旭化成社製)
・シリカ:Zeosil 1165MP(CTAB比表面積=159m2/g、ローディア社製)
・カーボンブラック:シースト9(N2SA=142m2/g、東海カーボン社製)
・シランカップリング剤:Si69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニックデグサ社製)
・樹脂1:YSレジンTO−125(芳香族変性テルペン樹脂、軟化点:125℃、ヤスハラケミカル社製)
・樹脂2:YSポリスターT160(芳香族変性テルペン樹脂、軟化点:160℃、ヤスハラケミカル社製)
・オイル:エキストラクト4号S(昭和シェル石油社製)
・低分子量SB共重合体:RICON100(Tg:−15℃、重量平均分子量:4,500、スチレン単位含有量:25質量%、ブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量:60%、Cray Valley社製)
・亜鉛華:酸化亜鉛3種(正同化学工業社製)
・ステアリン酸:ビーズステアリン酸YR(日油社製)
・硫黄:金華印油入微粉硫黄(鶴見化学工業社製)
・加硫促進剤1:ノクセラーD(加硫促進剤DPG、大内新興化学工業社製)
・加硫促進剤2:ノクセラーCZ−G(加硫促進剤CBS、大内新興化学工業社製)
【0154】
第3表から分かるように、所定量の共役ジエン系ゴム(A1)と、シリカ(B)と、芳香族テルペン樹脂(C)と、低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(D)とを併用する本願実施例はいずれも優れたウェットグリップ性能、剛性および耐摩耗性を示した。
【0155】
一方、共役ジエン系ゴム(A1)を含有しない比較例1は、ウェットグリップ性能、剛性および耐摩耗性が不十分であった。
また、ジエン系ゴムの平均ガラス転移温度が−35℃未満である比較例3は、ウェットグリップ性能および剛性が不十分であった。
また、共役ジエン系重合体鎖におけるイソプレンブロック以外の部分のスチレン単位含有量が35質量%未満である比較例4は、剛性および耐摩耗性が不十分であった。
また、芳香族テルペン樹脂(C)を含有しない比較例7は、ウェットグリップ性能が不十分であった。
また、低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(D)を含有しない比較例10は、ウェットグリップ性能が不十分であった。
【0156】
共役ジエン系ゴム(A1)と、シリカ(B)と、芳香族テルペン樹脂(C)と、低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(D)とを併用するが、共役ジエン系ゴム(A1)の含有量がジエン系ゴム(A)の含有量に対して30質量%未満である比較例2は、ウェットグリップ性能が不十分であった。
同様に、(A)〜(D)を併用するが、シリカ(B)の含有量がジエン系ゴム(A)100質量部に対して60質量部未満である比較例5は、ウェットグリップ性能が不十分であった。
同様に、(A)〜(D)を併用するが、シリカ(B)の含有量がジエン系ゴム(A)100質量部に対して170質量部を超える比較例6は、剛性および耐摩耗性が不十分であった。
同様に、(A)〜(D)を併用するが、芳香族テルペン樹脂(C)の含有量がジエン系ゴム(A)100質量部に対して50質量部を超える比較例8は、剛性および耐摩耗性が不十分であった。
同様に、(A)〜(D)を併用するが、低分子量スチレン−ブタジエン共重合体(D)の含有量がジエン系ゴム(A)100質量部に対して100質量部を超える比較例9は、剛性および耐摩耗性が不十分であった。
【符号の説明】
【0157】
1 ビード部
2 サイドウォール部
3 タイヤトレッド部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 リムクッション
図1