(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6115403
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】圧力勾配型プラズマガン
(51)【国際特許分類】
C23C 14/32 20060101AFI20170410BHJP
H05H 1/24 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
C23C14/32 H
H05H1/24
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-175547(P2013-175547)
(22)【出願日】2013年8月27日
(65)【公開番号】特開2015-45038(P2015-45038A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2016年6月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】園部 勝
(72)【発明者】
【氏名】高井 健志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 嗣紀
【審査官】
末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−262835(JP,A)
【文献】
特開昭58−102440(JP,A)
【文献】
米国特許第06137231(US,A)
【文献】
特開2002−313600(JP,A)
【文献】
特開2007−193950(JP,A)
【文献】
米国特許第04297615(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
H05H 1/24−1/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードに接続される基体と、前記基体に一端が気密接続され他端部に開口部を有する筒状のカソード保護管と、を有し、前記カソード保護管内に、前記基体側より、前記基体のガス源連通穴に連通する貫通穴を有するガス誘導管と、前記ガス誘導管と離隔して前記カソード保護管の軸心を直角方向面で遮断する補助電極平板と、前記補助電極平板の前記開口部側に設けられ、前記開口部と同芯の開口を有する主電極と、が順次配設され、前記補助電極平板の外縁部には、該外縁部を貫通又は切り欠くガス導入口が設けられ、前記補助電極平板と前記主電極との距離が前記補助電極平板と前記主電極との間でグロー放電可能な距離にされていることを特徴とする圧力勾配型プラズマガン。
【請求項2】
前記補助電極平板と前記主電極との距離は、前記主電極の開口径の2倍以下0.3倍以上となるようにされていることを特徴とする請求項1記載の圧力勾配型プラズマガン。
【請求項3】
前記補助電極平板の材料の耐熱温度が前記主電極の材料の耐熱温度より低い材料であることを特徴とする請求項1又は2記載の圧力勾配型プラズマガン。
【請求項4】
前記ガス誘導管がセラミックスであることを特徴とする請求項1又は2又は3記載の圧力勾配型プラズマガン。
【請求項5】
前記補助電極板の中央に主電極板に向かって突起部が設けられていることを特徴とする請求項1又は2又は3又は4記載の圧力勾配型プラズマガン。
【請求項6】
前記突起形状は前記軸心を軸とする円錐形状であることを特徴とする請求項5記載の圧力勾配型プラズマガン。
【請求項7】
前記補助電極平板は円盤の一部が複数か所切欠かれた形状であって、前記円盤の外縁部が前記カソード保護管内周面に固定され、前記切欠かれた部分と前記カソード保護管内周面とで、前記ガス導入口が形成されていることを特徴とする請求項5又は6記載の圧力勾配型プラズマガン。
【請求項8】
前記補助電極平板と前記ガス導入口は一体成型され、前記補助電極平板の外縁部の周方向の複数か所が前記主電極側に折り曲げ延出され、前記補助電極平板の延出部端が前記主電極に当接かつ軸方向に位置決め固定され、前記延出部と前記カソード保護管内周面とで、前記ガス導入口が形成されていることを特徴とする請求項5又は6記載の圧力勾配型プラズマガン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビームを発生させるための圧力勾配型プラズマガンに関し、特に補助電極の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
真空プラズマ成膜装置等においては、電子ビームにより、ハース上の成膜材料を加熱し、溶融又は蒸発あるいは昇華させ、基板上に金属やセラミック薄膜を成膜する。かかる電子ビーム又はプラズマを発生させるプラズマガンの1つに圧力勾配型プラズマガンがある。圧力勾配型プラズマガンの例としては、特許文献1の
図6及び従来技術の段落0002においては、主電極と補助電極とからなる電極構造を採用することにより、低電圧かつ大電流の高効率放電を目的とするものが開示されている。圧力勾配型プラズマガンを備えるプラズマ成膜装置では、カソード領域内の圧力を成膜室内の圧力よりも高くするようカソード領域内と成膜室内との間に圧力勾配を形成させることにより、主電極及び補助電極等へのプラズマの直撃が緩和されるので、プラズマによる主電極及び補助電極等の損傷が防止される。このように、圧力勾配型プラズマガンを備えるプラズマ成膜装置によれば、主電極及び補助電極等の損傷が防止されるので、所望の成膜品質を長期間に渡り安定して確保することができると記載されている。
【0003】
より詳述すると、
図4に示すように、従来の圧力勾配型プラズマガン51は、図示しないカソードに接続される基体10に一端20bが気密接続され他端部20aに開口部21を有する筒状のカソード保護管20が設けられている。このカソード保護管20内に、基体10側より、基体のガス源連通穴10aに連通する貫通穴12aを有するガス誘導管52が開口部21に向かってカソード保護管と同軸に設けられている。ガス誘導管52の先端部52bには、ガス誘導管の先端部外周が貫通する開口40aを備えた円盤状の主電極40が設けられており、主電極40とカソード保護管の開口部21との間に放電空間41を形成している。また、主電極40の開口40aから突出するガス誘導管52の先端部52bが補助電極となる。なお、各部材の材料は、使用温度、価格、加工性等の観点から、カソード保護管はモリブデン又はタングステン材、ガス誘導管はタンタル、主電極は6ホウ化ランタンが多用される。
【0004】
かかる従来の圧力勾配型プラズマガン51の放電は次のように行われる。
図5(a)に示すように放電開始直後、すなわち補助電極52bおよび主電極40が十分に加熱されていない状態では印加用補助電極13と距離が一番近いカソード保護管20の他端部20aとの間でグロー放電によるプラズマ42が発生する。そして、グロー放電により空間41に十分な電子が供給されると、開口40aより突出するガス誘導管の先端部52bが補助電極として中空放電を始め、
図5(b)に示すようにプラズマ43が発生するようになる。さらに、放電開始から数十秒が経過すると補助電極52bからの熱輻射により主電極40の温度が上がる。すると主電極40から十分な量の熱電子が放出され、プラズマ放電は
図5(c)に示すように主電極40からの熱電子放電によるプラズマが支配的になる。これにより、安定した高圧のプラズマ46を発生させ、アノード側に引き込み制御して、成膜材料等のターゲットを加熱する。
【0005】
しかし、このものは、補助電極52bは筒又は管状であり、かつ、主電極40の中心の開口40aを貫通しており、主電極の中央から熱電子が放出されないため、プラズマの放出効率を悪化させているという問題があった。また、特許文献1に記載はないが、主放電中の主電極の温度は2000℃近くなるため、
図6の楕円で囲んだ部分に示すように、主電極放電中に放電空間に暴露された補助電極(ガス導入管の先端)52bの消耗が激しいという問題があった。
【0006】
そこで、特許文献1においては、ガス誘導管の先端を後退させ、主電極及び放電空間からガス導入管の先端を離隔した。結果として補助電極を無くしている。さらに、主電極形状をカソード保護管の軸心を直角方向面で遮断する貫通穴のない平板状とした。さらに、ガスをカソード保護管他端と主電極間との間の放電空間に導くため、主電極とカソード保護管内周面との間にガス導入穴を設けるようにした。また、ガス導入管の後退によりなくなる補助電極の代替のため、主電極外縁のガス導入穴近傍から放電空間に向かって突出する突出部を設けてそれを補助電極の代替としている。
【0007】
また、特許文献2においては、ガス導入管の先端を後退させるとともに、フィラメントを設けて補助電極とし、フィラメントを加熱して積極的に熱電子を発生させ、放電持続能力を増している。さらに、主電極を2枚設け、放電空間を複数とし、実効的な主電極の面積を増やし、主放電中のプラズマ放電効率を改善している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−262835号公報
【特許文献2】特許4359597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1のものでは、従来のものに対してガス誘導管の先端の消耗は無くなるものの、新たに設けた主電極外縁の突出部を放電しやすい突起状にすると、主電源側が高熱となるので、突起部が消耗しやすくなるという新たな問題があった。また、ガス導入口を主電極外縁に設けるので、導入口の形状、面積計算、放電空間内でのガスの流れも複雑になり、放電空間への安定したガス供給が困難となる虞れがある。また、外縁に損耗が発生して、形状が変化すると放電空間内の圧力勾配が大きく変化し安定した放電条件を得るのが困難である。
【0010】
一方、主電極の外縁に突起部を設け、中央の貫通穴を遮断したので、主電極全体としての電極面積を増加できる。しかし、突起部は主電極の外縁となるため、カソード保護管の他端の開口部との距離は主電極の中心部より長くなるので、放電初期の補助電極としての機能が低下する等の問題があった。
【0011】
また、特許文献2においては、主電極の面積を大きくできるが、タングステンフィラメントを追加するため構造、制御も複雑となる。さらには、フィラメント加熱の為の別電源が必要である等の問題があった。さらに、特許文献2の二枚の主電極の基体側を特許文献1のものにおきかえることも考えられるが、この場合はフィラメントを取り付けることはできない。また、カソード保護管が長くなり、装置が大きくなるという問題があった。さらには、前述した特許文献1の問題点を解消できない。
【0012】
本発明の課題は、前述した問題点に鑑みて、簡単な構造で、ガス誘導管の消耗がなく、代替された補助電極の消耗が少なく、安定したプラズマを持続できる圧力勾配型プラズマガンを提供し、プラズマガンのメンテナンス費用を削減すると同時に高価なプラズマ真空成膜装置の稼働率向上を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明においては、カソードに接続される基体と、前記基体に一端が気密接続され他端部に開口部を有する筒状のカソード保護管と、を有し、前記カソード保護管内に、前記基体側より、前記基体のガス源連通穴に連通する貫通穴を有するガス誘導管と、前記ガス誘導管と離隔して前記カソード保護管の軸心を直角方向面で遮断する補助電極平板と、前記補助電極平板の前記開口部側に設けられ、前記開口部と同芯の開口を有する主電極と、が順次配設され、前記補助電極平板の外縁部には、該外縁部を貫通又は切り欠くガス導入口が設けられ、前記補助電極平板と前記主電極との距離が前記補助電極平板と前記主電極との間でグロー放電可能な距離にされている圧力勾配型プラズマガンを提供することにより前述した課題を解決した。
【0014】
即ち、主電極の開口に近接して補助電極平板を配置し、補助電極外周側から主電極開口にガスを通過させ、主電極と補助電極平板の間でグロー放電を可能とした。これにより、主電極の開口内部および主電極裏面の一部、補助電極平板を主電極の加熱のための初期グロー放電加熱源として用いることができる。さらに、主電極及び主電極の開口内部および主電極裏面の一部を主プラスマ放電時のプラズマ放電面積として用いることができる。また、主電極及び補助電極平板とガス誘導管は離隔されている。
【0015】
主電極と補助電極平板の間でグロー放電を可能とするために、請求項2記載の発明においては、前記補助電極平板と前記主電極との距離は、前記主電極の開口径の2倍以下0.3倍以上とした。なお、この値は具体例としての好ましい値であり、グロー放電を可能にする絶対条件ではない。さらに、請求項3記載の発明においては、前記補助電極平板の材料の耐熱温度が前記主電極の材料の耐熱温度より低い材料とした。主電極の材質は、一般に6ホウ化ランタン(LaB6)が多用されるが、本発明の補助電極平板は高温にさらされる部位が少ないので、従来のガス誘導管と同様のタンタルでよい。また、ガス誘導管は補助電極としての役割は不要なので、カソード保護管と同様なモリブデン、タングステン等の材料でよい。
【0016】
また、ガス誘導管の全長が従来に対して短くなるため、グロー放電に好適な圧力を得るため、管の内径を従来に対して細い管を用いたほうがよい。さらに、ガス誘導管は熱電子を放出する必要がない。そこで、請求項4に記載の発明においては、前記ガス誘導管をセラミックス材料とした。また、請求項5に記載の発明においては、前記補助電極板の中央に主電極板に向かって突起部が設けられている圧力勾配型プラズマガンとした。突起部を設けることにより、初期グロー放電の発生を容易にする。また、請求項6に記載の発明においては、前記突起形状は前記軸心を軸とする円錐形状とした。
【0017】
また、請求項7に記載の発明においては、前記補助電極平板は円盤の一部が複数か所切欠かれた形状であって、前記円盤の外縁部が前記カソード保護管内周面に固定され、前記切欠かれた部分と前記カソード保護管内周面とで、前記ガス導入口が形成されている圧力勾配型プラズマガンとした。ガス導入口はドリル穴加工等でもよいが、切削屑等の発生の少ない切り欠き形状とする。
【0018】
さらに、請求項8記載の発明においては、前記補助電極平板と前記ガス導入口は一体成型され、前記補助電極平板の外縁部の周方向の複数か所が前記主電極側に折り曲げ延出され、前記補助電極平板の延出部端が前記主電極に当接かつ軸方向に位置決め固定され、前記延出部と前記カソード保護管内周面とで、前記ガス導入口が形成されている圧力勾配型プラズマガンとした。即ち、補助電極平板の外縁を折り曲げることにより、位置決めとガス導入口を同時に形成した。
【発明の効果】
【0019】
本発明においては、主電極の開口に近接して補助電極平板を配置し、補助電極外周側から主電極開口にガスを通過させ、主電極の開口内部および主電極裏面の一部、補助電極平板を初期グロー放電加熱源、主電極及び主電極の開口内部および主電極裏面の一部をプラズマ放電面積として用いるので、放電効率のよい圧力勾配型プラズマガンを提供するものとなった。また、プラズマ放電面積が増えるため、主電極の温度が低下し、主電極の消耗時間を延長することができ、長寿命となった。
【0020】
また、ガス誘導管の先端を主電極の開口から突出することなく、離隔させたので、主電極による高熱の影響がなくガス誘導管の先端の損傷はない。さらに、ガス誘導管を通じての熱の逃げが無い。ガス誘導管からの熱の逃げがないので、速やかに所定温度に達することができ、プラズマ点火時間を短縮する効果も得られる。また、補助電極平板外縁から中央に向けて安定して流れるガスを開口に導入できるので、プラズマがより安定する。
【0021】
さらに、補助電極平板は主電極と離隔、後退しているので、主電極による高熱の影響が少ないので、補助電極平板の消耗も少ない。このように、本発明によれば、安定したプラズマを持続できるものとなった。さらに、消耗品は主電極がほとんどであり、さらなる長寿命化を得ることが可能となり、生産設備の点検交換周期延長によるランニングコスト低減を図ることができる。この効果をさらに高めるためには主電極の厚さを増やすと尚良く、設定した圧力条件で中空放電が維持されるように貫通孔および補助電極板との距離を最適化されればなお良い。
【0022】
なお、特許文献1のものでは、補助電極をなくし、主電極を開口のない平板としただけなので、本発明のような主電極の開口内部および主電極裏面の一部を熱電子供給源として用いることができないので、本発明のような効率的な放電面積を増すことはできない。また、特許文献2の2つの主電極の基体側を特許文献1のような電極平板としても、電極間が広いので、カソード保護管長さが長く装置が大きくなるという問題は解決しない。また、高額な6ホウ化ランタン等の主電極を複数枚用いなくても同等の効果を得ることが可能となる。
【0023】
請求項2記載の発明においては、補助電極平板と主電極との距離を主電極の開口径の2倍以下0.3倍以上としてグロー放電を発生し易くしたので、所定温度への立ち上がりが早くなる。また、請求項3記載の発明においては、補助電極平板の材料をタンタル(Ta)等とし、主電極の材料の6ホウ化ランタン等の耐熱温度より低い材料としたので、低コストとなる。さらには、ガス誘導管が熱電子を放出する必要がなくなるため、ガス誘導管の材料にモリブデン(Mo)、タングステン(W)に加えてセラミック等の耐熱素材を採用することも可能となり、より低コストで長寿命にすることができる(請求項4)。
【0024】
さらに、請求項5に記載の発明においては、補助電極板の中央に突起部を設け、初期グロー放電の発生を容易にしたので、安定して早期に所定温度に達することができる。また、請求項6に記載の発明においては、突起形状を円錐形状としたので、放電をさらに誘導し易くできる。
【0025】
また、請求項7に記載の発明においては、補助電極平板のガス導入口は円盤の一部を切欠かいた切削屑等の発生の少ない形状とし、さらに、請求項8記載の発明においては、補助電極平板の外縁を折り曲げて補助電極平板とガス導入口を一体成型したので、低コスト、環境にも優しいものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施の形態における圧力勾配型プラズマガンの(a)は断面図、(b)は内部を透視する斜視図である。
【
図2】本発明の圧力勾配型プラズマガンの電極からのプラズマ放出状態を示す(a)は印加直後、(b)は遷移状態、(c)は主放電状態の部分断面図である。
【
図3】本発明に他の実施の形態における圧力勾配型プラズマガンの(a)は断面図、(b)は内部を透視する斜視図である。
【
図4】従来の圧力勾配型プラズマガンの(a)は断面図、(b)は内部を透視する斜視図である。
【
図5】従来の圧力勾配型プラズマガンの電極からのプラズマ放出状態を示す(a)は印加直後、(b)は遷移状態、(c)は主放電状態の部分断面説明図である。
【
図6】従来の圧力勾配型プラズマガンの補助電極管の損傷状態を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、図においては、圧力勾配型プラズマガンの主要な構成要素のみを抜粋して模式的に示しており、その他の構成要素は省略している。また、従来の説明で述べたと同様な構成については同符号を付し、説明の一部又は全部を省略する。
図1(a)、(b)に示すように、本発明の実施の形態の圧力勾配型プラズマガン1は、図示しないカソードに接続される基体10と、この基体一端が気密接続され他端部20aに開口部21を有する筒状のカソード保護管20と、カソード保護管を取り囲み一端が気密接続され他端にガン開口11aを有するガラス管11を有している。さらに、ガラス管のガン開口11aには、図示しない電磁コイル、永久磁石等が配置され、プラズマガン1で発生するプラズマを成膜容器内のターゲットあるいは基板等に照射等できるようにされている。
【0028】
カソード保護管20内の基体側20bに支持部材22が嵌挿されている。支持部材端面側22aは基体10側に嵌挿固定され、支持部材22が基体10に対しカソード保護管20を保持する。支持部材22の中心貫通穴22bは、基体10に設けられた図示しないガス源(アルゴンガスボンベ等)に連通するガス源連通穴10aに連通している。また、支持部材22の中心貫通穴22bに管状のガス誘導管12の一端(基体側)12cが挿入され、ガス導入管の他端(先端)12bが支持仕切り板23により保持される。支持仕切り板23はカソード保護管内の中程20cに外周縁23aで固定されている。支持仕切り板23中央に支持穴23bが開けられガス導入管12の先端12bが突出又はつら面になるようにされる。
【0029】
ガス誘導管12の先端12bと離隔してカソード保護管20の軸心を直角方向面で遮断する補助電極平板30が設けられている。補助電極平板30の外縁は、カソード保護管の内周面20dと同径の4箇所の円弧状の外縁部30aと切り欠かれた部分(切り欠き部)30bとが交互に4箇所設けられている。カソード保護管の内周面20dと切り欠き部30bとで、ガス導入口35が形成されている。なお、補助電極平板30は正方形のタンタル板の四隅をカソード保護管の内周面に合わせて切除又は成形することにより容易に製作できる。カソード保護管20の開口部21側に補助電極平板30に隣接してカソード保護管の内周面20dに嵌合する環状部材24が設けられている。
【0030】
環状部材24に隣接して、主電極40がカソード保護管20の開口部21側に設けられている。主電極の形状は従来と同様、貫通穴40aを備えた円盤状である。また、主電極40とカソード保護管20の開口部21との間に放電空間41が形成されている。また、
図2(b)の符号dで示す補助電極平板30と主電極40との距離は、補助電極平板と主電極との間でグロー放電可能な距離にされている。この距離は補助電極平板と主電極との間に環状部材24を挟持させることにより所定の距離に保たれる。なお、カソード保護管20、開口部21、ガス誘導管12、支持仕切り板23の支持穴23b、主電極40の開口40a等は、ほぼ同芯(同軸)にされている。
【0031】
基体10、カソード保護管20、ガス誘導管21、補助電極平板30、主電極40等は、直接又は適宜な配線を介して、図示しない直流電源の負極と電気的に接続されている。また、外部とは気密となるようにされている。また、開口部21を除くカソード保護管20の内外及び基体10との間、カソード保護管20内と主電極40外周又は環状部材24の外周、及び支持仕切り板23外周は気密であるのが好ましい。主電極40の材料は耐熱温度が高く、電子放出力が大きな6ホウ化ランタン(LaB6)を用いる。また、補助電極平板は6ホウ化ランタンより低温度でグロー放電を発生し易いタンタル(Ta)を用いる。カソード保護管は従来と同様モリブデン(Mo)又はタングステン(W)である。ガス誘導管はタンタルである必要はなくなり、モリブデン又はタングステン等よく、セラミックスでもよい。
【0032】
かかる本発明の実施の形態における圧力勾配型プラズマガン1をプラズマ成膜装置に用いた場合のプラズマについて説明する。
図2(a)に示すように、従来と同様にパッシェンの法則に従って、カソード保護管20の他端部20aからグロー放電42が開始される。グロー放電により、十分な量の電子が供給されると、引き続き
図2(b)に示すように、従来のプラズマ成膜装置のガス誘導管の先端を補助電極とした中空放電に代えて、補助電極平板30と主電極40の間にグロー放電(補助放電)43が発生する。これは、主電極と補助電極平板との間の間隙dがグリム型の電極構造を形成し、補助放電が開始されるものと推察する。この補助放電により、主電極40が加熱される。
【0033】
次いで、主電極40が加熱されると、熱電子が放出され、加熱も促進され、高温状態で主電極40による主放電が開始される。そして、
図2(c)に示すように、圧力勾配型プラズマガン1(カソード保護管20内)に対して、供給されるルゴン(Ar)ガス44がガス誘導管12、支持仕切り板23と補助電極平板30との間、補助電極平板の外縁のガス導入口35、補助電極平板30と主電極40との間、主電極40の開口40a、放電室41、カソード保護管の他端部20aの開口部21を順次通過して、成膜装置内に導入され、これに合わせて、プラズマ成膜装置が備える成膜室内(図示せず)に向けてプラズマ45が放出される。
【0034】
この際、従来のガス誘導管の先端を補助電極の一部とした場合は、主電極40の開口40aを閉ざしてしまう。これに対して、本実施の形態においては、主電極の開口40aにより、主電極40の円環状領域40bに加えて、開口40aの内周および、主電極40の裏側の一部40cからも熱電子が放出される。これにより、従来の主電極の円環状領域40bの面積よりも高い効率で、プラズマが放出される。また、ガス誘導管12の先端12bの損傷はなく、補助電極平板30も主電極40とは離隔しているので、損傷も少なく、また、アルゴンガスの流路や、放電面積の変化が少なく安定したプラズマを供給できる。
【0035】
次に、本発明の他の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図3に示すように本発明の他の実施の形態は、補助電極平板を一体とし、さらに中心部に突起を設けたものであり、補助電極平板及び環状部材とが異なり他の構成は同一である。従来例、前述した実施の形態と同様な構成については、同符号を付し、説明の一部又全部を省略する。
図3に示すように、本発明の他の実施の形態の圧力勾配型プラズマガン2には、補助電極平板31の中央、主電極40の開口40aと同軸上に開口に向かって円錐状の突起部32が設けられている。突起部の高さは好ましくは補助電極平板と主電極の間隙(
図2(b)符号d)より短い。これにより、主電極40の高温でのプラズマ放電の突起部32への影響を少なくする。
【0036】
補助電極平板31の外縁部31aはカソード保護管20の内周面20dの内径とほぼ同径の外径を有しており、外縁部がカソード保護管の内周面に固定されている。外縁部31a間の4箇所が主電極側に折り曲げられ延出部31bを形成している。また、折り曲げ(延出部)31bとカソード保護管の内周面20dとでガス導入口35を形成している。折り曲げ(延出部)端31cを主電極後面40cに当接させ、前述した環状部材24の代わりとし、主電極40と補助電極平板30との距離(
図2(b)符号d)を保持するように軸方向に位置決め固定される。
【0037】
なお、補助電極平板31は、円形の外縁部に8箇所の切り込みを入れ、一つおきに4箇所の部分を主電極側に折り曲げたり、または一体で成型、鋳造等してもよい。また、主電極40の固定および主電極周囲からのガス導入と中空放電を防止するために、主電極押さえリング25を配置している。主電極押さえリング25を設置しない場合は、アルゴンガスの漏れによる放電のため主電極外周の損耗が発生する。主電極外周の損耗は圧力勾配を大きく変化させるため、放電条件の変わらない安定した長寿命放電を得るためには好ましくない。
【0038】
かかる他の実施の形態では、
図2と同様に放電が行われるが、さらに、補助電極平板30の中央の突起部32の突起による付加による補助放電推移時間が短縮、または補助電極の実効的な表面積増加によって、補助放電の際に主電極を効率良く加熱することができる。これにより、主電極40を加熱する際の消費電力を抑制することが可能になると共に、プラズマの放出開始までの待機時間を短縮することが可能になる。
【符号の説明】
【0039】
1、2 圧力勾配型プラズマガン。
10 基体
10a 基体のガス源連通穴
12 ガス誘導管
12a 貫通穴
20 カソード保護管
20a 他端部
20b 一端
20d カソード保護管内周面
21 開口部
30、31 補助電極平板
30a、31a 外縁部
30b 切り欠き部(切り欠かれた部分)
31b 折り曲げ延出部
31c 折り曲げ延出部端
32 突起部
35 ガス導入口
40 主電極
40a (主電極の)開口