(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6115414
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】膜電極構造体および膜電極構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/02 20160101AFI20170410BHJP
H01M 8/0271 20160101ALI20170410BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20170410BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20170410BHJP
【FI】
H01M8/02 E
H01M8/02 S
H01M4/88 K
!H01M8/10
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-183134(P2013-183134)
(22)【出願日】2013年9月4日
(65)【公開番号】特開2015-50154(P2015-50154A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年8月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】嶺岸 隆行
【審査官】
高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−81115(JP,A)
【文献】
特開2009−81118(JP,A)
【文献】
特開2012−74235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 4/88
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス拡散層にガスケットを取り付け一体化してなるシート状部材を形成する第一工程と、
一対の前記シート状部材を重ね合わせ、前記両シート状部材の周縁部の周方向の一部を接合する第二工程と、
電解質膜およびその電解質膜を挟んで配された一対の触媒層を有する膜電極接合体を、前記接合された一対のシート状部材の間に挟み込み、前記両シート状部材の周縁部の周方向の残部を接合して、前記膜電極接合体を前記一対のシート状部材の中に封止する第三工程と、
を備えることを特徴とする膜電極構造体の製造方法。
【請求項2】
前記膜電極接合体は、前記一対の触媒層が前記電解質膜の両面の周縁部を除く部分に配されており、前記一対の触媒層の周縁部の外周側に、前記一対の触媒層の周縁部を周方向にわたって囲む接合体用ガスケットが配されていることを特徴とする請求項1に記載の膜電極構造体の製造方法。
【請求項3】
前記第一工程において前記ガス拡散層に取り付ける前記ガスケットは封止用ガスケットであり、前記第一工程においては、前記ガス拡散層の外周を囲むように前記封止用ガスケットを配した後、前記ガス拡散層と前記封止用ガスケットに跨るように一体化用ガスケットを配して、前記一体化用ガスケットにより前記ガス拡散層と前記封止用ガスケットを一体化することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の膜電極構造体の製造方法。
【請求項4】
前記シート状部材は略矩形をなしており、前記第二工程において、前記シート状部材の周縁部に配されている前記封止用ガスケットのうち対向する2辺のみを接合して、前記一対のシート状部材を接合することを特徴とする請求項3に記載の膜電極構造体の製造方法。
【請求項5】
前記封止用ガスケットが熱可塑性樹脂で構成されており、前記一体化用ガスケットが熱硬化性樹脂で構成されており、前記第二工程において前記封止用ガスケットのうち対向する2辺のみを溶着させて接合することを特徴とする請求項4に記載の膜電極構造体の製造方法。
【請求項6】
前記封止用ガスケットのうち対向する2辺のみを溶断により溶着させることを特徴とする請求項5に記載の膜電極構造体の製造方法。
【請求項7】
前記第三工程において、前記封止用ガスケットのうち前記第二工程で溶着されなかった部分を溶着することにより、前記膜電極接合体を前記一対のシート状部材の中に封止することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の膜電極構造体の製造方法。
【請求項8】
電解質膜およびその電解質膜を挟んで配された一対の触媒層を有する膜電極接合体と、前記膜電極接合体の全体を覆う封止層と、を備える膜電極構造体であって、
前記封止層は、前記膜電極接合体を挟んで配された一対のガス拡散層と、前記膜電極接合体の周縁部および前記一対のガス拡散層の周縁部を周方向にわたって囲む封止用ガスケットと、前記封止用ガスケットと前記ガス拡散層とに跨るように配され前記封止用ガスケットと前記ガス拡散層を一体化する一体化用ガスケットと、を備えることを特徴とする膜電極構造体。
【請求項9】
前記一対の触媒層は前記電解質膜の両面の周縁部を除く部分に配されており、前記一対の触媒層の周縁部の外周側に、前記一対の触媒層の周縁部を周方向にわたって囲む接合体用ガスケットが配されていることを特徴とする請求項8に記載の膜電極構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池における膜電極構造体および膜電極構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素などの燃料と酸素などの酸化剤を反応させ、これに伴う化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する燃料電池は、使用する電解質の種類によって、アルカリ形、リン酸形、固体高分子形、溶融炭酸塩形、固体酸化物形などに分類される。固体高分子形燃料電池(polymer electrolyte fuel cell;PEFC)は、他の燃料電池と比べて起動までの時間が短く、また、低温環境下での作動が可能で高出力密度であり、小型化・軽量化が可能であることから、携帯用電源、家庭用電源および車載用動力源としての応用が期待されている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜の両面上に一対の触媒層を積層した膜電極接合体をガス拡散層で狭持した構成の膜電極構造体(Membrane Electrolyte Assembly;MEA)を、一対のセパレータで挟持したものである。一方のセパレータは、膜電極構造体の一方の触媒層に水素を含有する燃料ガスを供給するガス流路が形成されており、他方のセパレータは、他方の触媒層に酸素を含有する酸化剤ガスを供給するガス流路が形成されている。この膜電極構造体を一対のセパレータで挟持したものを単電池(セル)と呼び、燃料電池を構成する単位となる。
【0004】
膜電極構造体には、ガスケットが含まれる場合がある。膜電極構造体の一部を構成するガスケットには、電解質膜を支持し、酸素リークおよび水素リークの抑制と電解質膜の湿度維持に寄与することが求められている。プロセスコストの観点から、部品数が少なく組み立てが容易な膜電極構造体が望まれており、積層により作製可能な膜電極構造体は、製造上有利である。
【0005】
固体高分子形燃料電池は、出力密度の増大と燃料電池全体のコンパクト化を目的として、単電池(セル)を複数枚積層(以下、「スタック」と称する。)して用いられる。スタックする枚数は、必要な電力により異なり、一般的な携帯電気機器のポータブル電源では数枚から10枚程度、コジェネレーション用定置型電気および温水供給機では60枚から90枚程度、自動車用途では250枚から400枚程度である。高出力化するためにはスタック枚数を増やすことが必要となるため、単電池(セル)のコストが燃料電池全体のコストに大きく影響する。また、プロセスコストの観点から、固体高分子形燃料電池の膜電極構造体には、部品数が少なく組み立てが容易であることが望まれている。
【0006】
従来の膜電極構造体では、電解質膜の保護、酸素リークおよび水素リークの抑制のために、電解質膜の周縁部を封止した構造がとられている(例えば特許文献1を参照)。特許文献1には、膜電極構造体を形成した後、射出成形等の工法により、エラストマーのような液状シーリング材を用いて樹脂モールドを行い、電解質膜の周縁部の外周を包み込むことで封止する技術が記載されている。
また、上記の封止形態と異なる他の電解質膜の周縁部の封止法も知られている(例えば特許文献2を参照)。特許文献2には、ガスケット上に、周縁部に溶着層を備える補強シートを形成し、溶着層と膜電極構造体を溶着させることで電解質膜の周縁部を封止する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−92924号公報
【特許文献2】特開2009−81118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、樹脂モールドに用いられるエラストマーは、ガスケットとしては高価であり、さらに、電解質膜の周縁部を包み込むようにガスケットを配置するためには、射出成形等の工程をとる必要があるため、特許文献1の技術は大量生産には不向きである。
また、ガスケット上に、周縁部に溶着層を備える補強シートを形成する工法では、ガスケットの他に補強シートおよび溶着層が必要であり、部品数の増加が避けられないため、特許文献2の技術は、プロセスコストの観点から不利である。
このように、従来の膜電極構造体における電解質膜の周縁部の封止には、部品数が多い、組み立てが複雑である、価格が高い、および、大量生産には不向きであるという問題点があった。
そこで、本発明は、上記のような従来技術が有する問題点を解決するため、少ない部品数や工数で電解質膜の周縁部を封止した膜電極構造体および膜電極構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するため、本発明の一態様に係る膜電極接合体の製造方法は、ガス拡散層にガスケットを取り付け一体化してなるシート状部材を形成する第一工程と、一対の前記シート状部材を重ね合わせ、前記両シート状部材の周縁部の周方向の一部を接合する第二工程と、電解質膜およびその電解質膜を挟んで配された一対の触媒層を有する膜電極接合体を、前記接合された一対のシート状部材の間に挟み込み、前記両シート状部材の周縁部の周方向の残部を接合して、前記膜電極接合体を前記一対のシート状部材の中に封止する第三工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
上記膜電極構造体の製造方法において、前記膜電極接合体は、前記一対の触媒層が前記電解質膜の両面の周縁部を除く部分に配されており、前記一対の触媒層の周縁部の外周側に、前記一対の触媒層の周縁部を周方向にわたって囲む接合体用ガスケットが配されていてもよい。
また、上記膜電極構造体の製造方法は、前記第一工程において前記ガス拡散層に取り付ける前記ガスケットは封止用ガスケットであり、前記第一工程においては、前記ガス拡散層の外周を囲むように前記封止用ガスケットを配した後、前記ガス拡散層と前記封止用ガスケットに跨るように一体化用ガスケットを配して、前記一体化用ガスケットにより前記ガス拡散層と前記封止用ガスケットを一体化してもよい。
【0011】
また、上記膜電極構造体の製造方法は、前記シート状部材は略矩形をなしており、前記第二工程において、前記シート状部材の周縁部に配されている前記封止用ガスケットのうち対向する2辺のみを接合して、前記一対のシート状部材を接合してもよい。
また、上記膜電極構造体の製造方法において、前記封止用ガスケットが熱可塑性樹脂で構成されており、前記一体化用ガスケットが熱硬化性樹脂で構成されており、前記第二工程において前記封止用ガスケットのうち対向する2辺のみを溶着させて接合してもよい。
また、上記膜電極構造体の製造方法は、前記封止用ガスケットのうち対向する2辺のみを溶断により溶着させてもよい。
また、上記膜電極構造体の製造方法は、前記第三工程において、前記封止用ガスケットのうち前記第二工程で溶着されなかった部分を溶着することにより、前記膜電極接合体を前記一対のシート状部材の中に封止してもよい。
【0012】
また、本発明の一態様に係る膜電極接合体は、電解質膜およびその電解質膜を挟んで配された一対の触媒層を有する膜電極接合体と、前記膜電極接合体の全体を覆う封止層と、を備える膜電極構造体であって、前記封止層は、前記膜電極接合体を挟んで配された一対のガス拡散層と、前記膜電極接合体の周縁部および前記一対のガス拡散層の周縁部を周方向にわたって囲む封止用ガスケットと、前記封止用ガスケットと前記ガス拡散層とに跨るように配され前記封止用ガスケットと前記ガス拡散層を一体化する一体化用ガスケットと、を備えることを特徴とする。
上記膜電極接合体は、前記一対の触媒層は前記電解質膜の両面の周縁部を除く部分に配されており、前記一対の触媒層の周縁部の外周側に、前記一対の触媒層の周縁部を周方向にわたって囲む接合体用ガスケットが配されていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の膜電極構造体の製造方法によれば、膜電極接合体と、ガス拡散層およびガスケットが一体化された一対のシート状部材を重ね合わせて接合したものを別々の工程で製造することが可能であり、膜電極構造体の積層にかかる工程を簡略化することが可能である。そのため、本発明の膜電極構造体の製造方法は、大量生産に向いており、膜電極構造体を簡易且つ安価に製造することができる。
【0014】
また、本発明の膜電極構造体の製造方法によれば、膜電極接合体を、上記一対のシート状部材を重ね合わせて接合したものの間に挟み込み、該一対のシート状部材の中に封止するため、露出する電解質膜の周縁部が封止され、酸素リークおよび水素リークの防止性に優れた膜電極構造体を少ない部品数で製造することができる。
さらに、本発明の膜電極構造体は、ガス拡散層と封止用ガスケットが一体化用ガスケットで一体化されたものを用いて、膜電極接合体とガス拡散層の積層および電解質膜の周縁部の封止が行われているので、酸素リークおよび水素リークの防止性に優れるとともに製造に要する部品数が少なく、安価である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る膜電極構造体を備える固体高分子形燃料電池の単電池の概略断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る膜電極構造体の概略上面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る膜電極構造体の概略断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る膜電極構造体の製造方法の第1工程を示す概略断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る膜電極構造体の製造方法の第2工程を示す概略断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る膜電極構造体の製造方法の第3工程を示す概略上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の膜電極構造体および膜電極構造体の製造方法に係る実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
<固体高分子形燃料電池について>
図1は、本発明の一実施形態に係る膜電極構造体を備える固体高分子形燃料電池の単電池の概略断面図である。
図1に示すように、固体高分子形燃料電池の単電池100は、膜電極構造体20と、この膜電極構造体20を挟持する一対のセパレータ30とを備える。
【0017】
<膜電極構造体について>
次に、本実施形態に係る膜電極構造体20の構成について、
図2および3を用いて説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る膜電極構造体20の概略上面図であり、
図3は、
図2の膜電極構造体20のI−I線に沿った概略断面図である。
図3に示すように、膜電極構造体20は、膜電極接合体24と、膜電極接合体24の外方に配されて膜電極接合体24の全体を覆う封止層29とを備える。
膜電極接合体24は、電解質膜21と、この電解質膜21を挟んで配されたカソード側触媒層22aおよびアノード側触媒層22bと、接合体用ガスケット23a,23bとを備える。
【0018】
封止層29は、ガス拡散層28a,28bと、封止用ガスケット26と、カソード側触媒層22a側に配された一体化用ガスケット27aと、アノード側触媒層22b側に配された一体化用ガスケット27bとを備える。
電解質膜21、カソード側触媒層22aおよびアノード側触媒層22bは、略矩形をなしており、電解質膜21の幅寸法および長さ寸法は、カソード側触媒層22aおよびアノード側触媒層22bの幅寸法および長さ寸法より大きく形成されている。
【0019】
カソード側触媒層22aは、電解質膜21の一方の面(
図3において上面)の周縁部を除く部分に配されており、アノード側触媒層22bは、電解質膜21の他方の面(
図3において下面)の周縁部を除く部分に配されている。接合体用ガスケット23aは、カソード側触媒層22aの周縁部の外周側に、カソード側触媒層22aの周縁部を周方向にわたって囲むように配されている。つまり、接合体用ガスケット23aは、電解質膜21の面上のカソード側触媒層22aが配されていない部分に、カソード側触媒層22aの周縁部と隙間なく密着するように配されていることが好ましい。
【0020】
接合体用ガスケット23bは、アノード側触媒層22bの周縁部の外周側に、アノード側触媒層22bの周縁部を周方向にわたって囲むように配されている。つまり、接合体用ガスケット23bは、電解質膜21の面上のアノード側触媒層22bが配されていない部分に、アノード側触媒層22bの周縁部と隙間なく密着するように配されていることが好ましい。
接合体用ガスケット23a,23bは電解質膜21よりも剛性が強いため、上記のような構成により、後述する一対のシート状部材の間に膜電極接合体24を引き込む際に、膜電極接合体24を折れ曲がることなく容易に引き込むことができる。よって、膜電極構造体20を容易に製造することができる。
【0021】
封止用ガスケット26は、膜電極接合体24の周縁部およびガス拡散層28a,28bの周縁部を周方向にわたって囲むように配されている。この時、電解質膜21および接合体用ガスケット23a,23bの周縁部が、封止用ガスケット26と隙間なく密着していることが好ましい。このような構成により、電解質膜21を保護しつつ、酸素リークおよび水素リークを抑制することができる。また、電解質膜21をより強固に支持することができる。
一体化用ガスケット27aは、ガス拡散層28aの両面のうち膜電極接合体24に対向する面とは反対側の面の周縁部と、この周縁部に隣接する封止用ガスケット26の表面とに跨るように配されている。
また、一体化用ガスケット27bは、ガス拡散層28bの両面のうち膜電極接合体24に対向する面とは反対側の面の周縁部と、この周縁部に隣接する封止用ガスケット26の表面とに跨るように配されている。
【0022】
ガス拡散層28a,28bは膜電極接合体24を挟んで配されており、ガス拡散層28aはカソード側触媒層22aの上に積層され、また、ガス拡散層28bはアノード側触媒層22bの上に積層されている。
ガス拡散層28a,28bは略矩形をなしており、その幅寸法および長さ寸法は、カソード側触媒層22aおよびアノード側触媒層22bの幅寸法および長さ寸法よりも大きく形成されている。このような構成により、一体化用ガスケット27a,27bをカソード側触媒層22aおよびアノード側触媒層22bに重なることなく配置することができる。また、膜電極接合体24を後述する一対のシート状部材に引き込む際に、カソード側触媒層22aおよびアノード側触媒層22bをガス拡散層27a,27bの幅寸法および長さ寸法内に重ねることが容易となる。
【0023】
次に、本実施形態に係る膜電極構造体20の材料について説明する。
電解質膜21は、固体高分子形燃料電池に一般的に用いられるものでよい。例えば、フッ素系電解質膜や炭化水素電解質膜が好適に使用でき、特にフッ素系電解質膜が望ましい。
カソード側触媒層22aおよびアノード側触媒層22bについても、固体高分子形燃料電池に一般的に用いられるものでよい。例えば、白金または白金と他の金属(例えばルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、鉄(Fe)等)との合金の微粒子(平均粒径は10nm以下が望ましい。)が表面に担持されたカーボンブラックなどの導電性炭素微粒子(平均粒径は20〜100nm程度が望ましい。)と、パーフルオロスルホン酸樹脂溶液などの高分子溶液とが、適当な溶剤(エタノールなど)中で均一に混合された触媒インクにより作製されるものが使用できる。
【0024】
封止用ガスケット26は、熱可塑性樹脂の中で固体高分子形燃料電池に一般的に用いられるものでよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミド(PI)等が使用できる。
一体化用ガスケット27a、27bは熱硬化性樹脂の中で固体高分子形燃料電池に一般的に用いられるものでよい。例えば、エポキシ樹脂(EP)、フェノール樹脂(PF)、ポリイミド(PI)、不飽和ポリエステル(UP)等が使用できる。
【0025】
接合体用ガスケット23a,23bは、熱可塑性樹脂の中で固体高分子形燃料電池に一般的に用いられるものでよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミド(PI)等が使用できる。
ガス拡散層28a,28bは、少なくともガス透過性(通気性)と導電性を有するものであれば、固体高分子形燃料電池に一般的に用いられるものでよい。例えば、炭素材料によって構成された織布、不織布(炭素繊維を交絡させることによって得られるフェルト等)、ペーパー類(カーボンペーパー等)等が汎用される。
【0026】
次に、本実施形態に係る膜電極構造体の製造方法を、
図4〜
図6を用いて説明する。
まず、
図4に示すように、第1工程では、ガス拡散層28a,28bに封止用ガスケット26a,26bを取り付けて一体化する。具体的には、まず、ガス拡散層28a,28bの外周を囲むように封止用ガスケット26a,26bを配する。
【0027】
次に、ガス拡散層28a,28bと封止用ガスケット26a,26bに跨るように一体化用ガスケット27a,27bを配して一体化し、シート状部材10を形成する。具体的には、一体化用ガスケット27a,27bを、封止用ガスケット26a,26bの片面の全て、および、ガス拡散層28a,28bの周縁部にかけて配し、半硬化させることにより、一体化したシート状部材10を作製する。
この時、一体化用ガスケット27a,27bを配した側からシート状部材10を見ると、封止用ガスケット26a,26bは、一体化用ガスケット27a,28bに覆われて目視できないようになっている。
【0028】
第2工程では、第1工程で作製された2つのシート状部材10を重ね合わせ、両シート状部材10の封止用ガスケット26a,26bの周縁部の周方向の一部を接合して、一対のシート状部材を接合しシート状部材接合体を作製する。具体的には、
図4および5に示すように、封止用ガスケット26a,26bが配された面を内側にして一対のシート状部材10,10を対向させ、各シート状部材10,10の内側の周縁部のうち対向する2辺のみを接合する。接合された部分は、封止用ガスケット26a,26bが一体化する(
図5においては符号26で示してある)。接合は、例えば、溶断による溶着により行われる。また、第1工程において、一体化用ガスケット27a,27bを半硬化させることによりシート状部材10を作製しているため、第2工程においてシート状部材接合体を作製する際に容易に溶断することができる。
【0029】
第3工程では、膜電極接合体24を、第2工程において作製したシート状部材接合体のシート状部材10の間に挟み込み封止する。
図6を用いて説明する。
まず、電解質膜21を挟んで配したカソード側触媒層22aおよびアノード側触媒層22bの周縁部の外周側に、該周縁部を周方向にわたって囲む接合体用ガスケット23a,23bを配してなる膜電極接合体24を用意する(
図6(a)を参照)。本実施形態の膜電極接合体24においては、カソード側触媒層22aの周縁部の外周面と接合体用ガスケット23aとが、また、アノード側触媒層22bの周縁部の外周面と接合体用ガスケット23bとが隙間なく密着していることが望ましい。これにより、電解質膜21をより強固に支持することができる。
【0030】
この膜電極接合体24を、第2工程において作製したシート状部材接合体の間に引き込み挟み込む(
図6(b)を参照)。膜電極接合体24をシート状部材接合体の中央に挟み込んだら、第2工程において溶着した部分以外の封止用ガスケット26a,26bを熱プレスすることにより溶着して封止層29を形成し、膜電極接合体24を封止層29の中に封止する。
図6(c)は、膜電極接合体24が封止層29の中に封止された状態を示している。膜電極構造体20の上面には本来一体化用ガスケット27aが見えており、一体化用ガスケット27aの下側に位置する封止用ガスケット26は視認できないが、
図6(c)においては、説明の便宜上、一体化用ガスケット27aの図示を省略している。
この時、電解質膜21の周縁部の外周面、および、接合体用ガスケット23a,23bの周縁部の外周面が、溶融固化後の封止用ガスケット26と隙間なく密着していることが望ましい。これにより、電解質膜21を、より強固に支持することができるからである。
【0031】
このように、本実施形態に係る膜電極構造体20の製造方法によれば、膜電極接合体24と、封止層29とを別々の工程で製造することが可能であり、膜電極構造体20の積層にかかる工程を簡略化することが可能である。そのため、膜電極構造体20を簡易且つ安価に製造することができる。さらに、膜電極接合体24の表裏に配される各シート状部材10を封止層29として一度に形成することができるため、製造工程の簡略化が可能となる。
【0032】
また、各シート状部材10を積層する際の表裏のズレ、すなわち、積層後のガス拡散層28a,28b同士の位置ズレを防ぐことができる。
さらに、封止用ガスケット26を溶着する際に、ガス拡散層28a,28bもあわせて熱プレスすることにより、ガス拡散層28aとカソード側触媒層22a、および、ガス拡散層28bとアノード側触媒層22bの密着性が向上するので、発電性能の向上がなされる。
また、シート状部材接合体の2辺が開口しているため、剛性のない膜電極接合体24であっても引き込むことで、シート状部材接合体内に膜電極接合体24を容易に配することができる。
【0033】
さらに、封止用ガスケット26および一体化用ガスケット27a,27bにより、これらガスケットとガス拡散層28a,28bとの間に隙間を生じることなく、封止層29を作製することができる。さらに、膜電極接合体24を、封止層29の中に隙間なく配して封止することか可能であるため、電解質膜21の周縁部を封止し、酸素ガスおよび水素ガスのリーク防止に優れた膜電極構造体を、少ない部品数で提供することができる。
【実施例】
【0034】
以下に、具体的な実施例により、本発明の膜電極構造体の製造方法を説明する。なお、本実施例は本発明の一実施形態の実施例であり、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0035】
[膜電極接合体の作成]
白金触媒を担持したカーボンと、パーフルオロカーボンスルホン酸(デュポン株式会社製のNafion(登録商標)溶液を用いた。)と、スルホン酸基が導入された無定形炭素とを溶媒(水、1−プロパノ−ル、2−プロパノ−ルを1:1:1(体積比)の比率で混合した混合溶媒)中で混合し、遊星型ボールミル(FRITSCH社製のPulverisette7)を用いた。また、ボールミルのポットおよびボールはジルコニア製のものを用いた。)を用いて分散処理を行い、触媒インクを作製した。触媒インク中の固形分含有量は10質量%であった。
【0036】
上記のように作製した触媒インクを転写基材上に塗布して乾燥し、触媒層を形成した。このとき、単位面積あたりの触媒層の白金(Pt)の質量が0.4mg/cm
2となるように触媒層を形成した。得られた触媒層は転写基材ごと50mm四方の正方形状に打ち抜き、転写シートとした。
続いて、電解質膜として、デュポン株式会社製のナフィオン(登録商標)XLを用い、触媒層が電解質膜の両面に向き合うように2つの転写シートで電解質膜を挟持した。その後、これら2つの転写シートで挟まれた電解質膜を130℃で加熱するとともに、加圧下で10分間保持するホットプレスを行うことにより膜電極接合体を得た。
【0037】
[シート状部材接合体の作製]
打ち抜きにより60mm四方の正方形孔を形成した枠状のガスケットフィルムの前記孔内に、60mm四方のマイクロポーラス層(MPL)処理カーボンペーパーを配置し、ガスケットフィルム上とMPL処理カーボンペーパー周縁部(外縁から内側1cmの範囲内)に、スクリーン印刷によりフルオロエーテルタイプの接着剤を35μm厚さになるよう塗布した。次に、70℃で5分間加熱することにより接着剤を半硬化させ、ガスケットフィルムとMPL処理カーボンペーパーからなるシート状部材を作製した。続いて、該シート状部材の前記ガスケットフィルムとMPL処理カーボンペーパーが対向するように、2つのシート状部材を配して、対向する2辺を溶断シーラーにより溶断し、接合された一対のシート状部材であるシート状部材接合体を得た。
次に、シート状部材接合体の開口部から膜電極接合体を引き込んで、MPL処理カーボンペーパーと、膜電極接合体の触媒層とが重なるように、シート状部材接合体の中に配した。これを130℃で加熱するとともに、加圧下で10分間保持するホットプレスを行うことにより本発明における膜電極構造体を得た。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は固体高分子形燃料電池、特に燃料電池自動車や家庭用燃料電池などにおける、固体高分子形燃料電池単セルやスタックに好適に活用することができる。
【符号の説明】
【0039】
100・・・単電池(セル)
10・・・シート状部材
20・・・膜電極構造体
21・・・電解質膜
22a・・・カソード側触媒層
22b・・・アノード側触媒層
23a・・・接合体用ガスケット
23b・・・接合体用ガスケット
24・・・膜電極接合体
26・・・封止用ガスケット
26a・・・封止用ガスケット
26b・・・封止用ガスケット
27a・・・一体化用ガスケット
27b・・・一体化用ガスケット
28a・・・ガス拡散層
28b・・・ガス拡散層
29・・・封止層
30・・・セパレータ