(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6115433
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】油圧装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/02 20060101AFI20170410BHJP
【FI】
F16H61/02
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-205572(P2013-205572)
(22)【出願日】2013年9月30日
(65)【公開番号】特開2015-68478(P2015-68478A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082337
【弁理士】
【氏名又は名称】近島 一夫
(72)【発明者】
【氏名】平井 信行
(72)【発明者】
【氏名】山口 雅路
(72)【発明者】
【氏名】兵藤 芳充
(72)【発明者】
【氏名】土田 建一
(72)【発明者】
【氏名】深谷 直幸
【審査官】
尾形 元
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−174259(JP,A)
【文献】
特開2010−175039(JP,A)
【文献】
特開2004−036667(JP,A)
【文献】
特開2009−144874(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/00
F16H 61/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの動力により駆動される機械式ポンプと、
電力により駆動される電気式ポンプと、
車両の発進時において接続している第1の摩擦係合要素用の第1の油圧サーボと、
前記第1の油圧サーボとは別に設けられる第2の摩擦係合要素用の第2の油圧サーボと、
前記機械式ポンプに基づく油圧を調圧する調圧バルブと、
前記機械式ポンプに基づく油圧により、前記調圧バルブに連通する第1の入力ポートと前記第1の油圧サーボに連通する出力ポートとを連通する第1の状態と、前記機械式ポンプが停止することにより、前記電気式ポンプに連通する第2の入力ポートと前記出力ポートとを連通する第2の状態と、に切換える切換えバルブと、
該切換えバルブが前記第1の状態にある場合、前記電気式ポンプからの油路に連通し、設定圧以上の油圧を排出する排出バルブと、
を備えてなる油圧装置において、
前記電気式ポンプからの油路における前記排出バルブの上流側には、オリフィスが配置され、
前記第2の油圧サーボからのドレーン油路は、前記電気式ポンプからの油路における前記オリフィスと前記排出バルブとの間に連通し、
前記オリフィスの上流側の前記油路の油圧を、前記設定圧より高い所定圧に保持する、
ことを特徴とする油圧装置。
【請求項2】
前記オリフィスは、複数のオリフィスを直列に連通したオリフィス群である、
請求項1記載の油圧装置。
【請求項3】
前記切換えバルブは、前記第1の状態において前記電気式ポンプ及び前記排出バルブに連通するドレーンポート及び閉塞状態にある第3の入力ポートを有し、該第1の状態において、閉塞状態にある前記第2の入力ポートに、前記第1の入力ポート及び閉塞状態にある前記第3の入力ポートから油圧が洩れ込み、前記オリフィス上流側の前記油路を前記所定圧に保持してなる、
請求項1又は2記載の油圧装置。
【請求項4】
前記第1の油圧サーボは、ドライブレンジにおいて油圧が供給され、
前記第2の油圧サーボは、リバースレンジにおいて油圧が供給される、
請求項1ないし3のいずれか記載の油圧装置。
【請求項5】
リバースレンジポートとドレーンポートと元圧ポートとを有し、リバースレンジにおいては前記リバースレンジポート及び前記元圧ポートを連通させ、リバースレンジ以外においては前記リバースレンジポート及び前記ドレーンポートを連通させるマニュアルバルブを備え、
前記マニュアルバルブの前記リバースレンジポートは、前記第2の油圧サーボに連通され、
前記マニュアルバルブの前記ドレーンポートは、前記第2の油圧サーボの前記ドレーン油路を介して、前記オリフィスと前記排出バルブとの間に連通される、
請求項4記載の油圧装置。
【請求項6】
リバースレンジ以外における前記第2の油圧サーボのドレーン油路の油圧は、前記排出バルブの設定圧である、
請求項4又は5記載の油圧装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排出バルブを有する油圧装置に係り、詳しくはエンジンにより走行する車両用の油圧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アイドルストップ機能付きの自動車に搭載され、エンジンの動力により作動する機械式ポンプと、電力で駆動される電磁ポンプと、上記機械式ポンプからの吐出圧を調圧するリニアソレノイドバルブSL1と、機械式ポンプからの油圧(モジュレータ圧)により作動して、発進時に接続するC1クラッチの油圧サーボへの供給圧を上記リニアソレノイドバルブからの出力圧(調圧)と上記電磁ポンプの吐出圧との何れかに切換える切換えバルブと、を備えた油圧装置が案出されている。上記切換えバルブは、リニアソレノイドバルブに連通する第1の入力ポートと、電磁ポンプに連通する第2の入力ポート、C1クラッチ用油圧サーボに連通する出力ポートの外、電磁ポンプからの油圧をチェックバルブ(排出バルブ)に連通するドレーンポートを備えている(特許文献1参照)。
【0003】
Dレンジにおけるエンジン回転時は、機械式ポンプに基づくモジュレータ圧が上記切換えバルブのスプールに作用して、上記第1の入力ポートと出力ポートとを連通する第1の状態となり、機械式ポンプに基づくリニアソレノイドバルブからの調圧がC1クラッチ用油圧サーボに供給される。アイドルストップ状態にあっては、機械式ポンプが停止され、上記モジュレータ圧が発生せず、切換えバルブは、第2の入力ポートと出力ポートとを連通する第2の状態となり、アイドルストップ時に駆動される電磁ポンプからの所定油圧(ストロークエンド圧)がC1クラッチ用油圧サーボに供給され、該C1クラッチ係合直前の状態に保持されて次回の発進に備える。
【0004】
上記切換えバルブのドレーンポートには、開圧を高くしたチェックバルブ(排出バルブ)が連通されており、上記第1の状態において、該ドレーンポートは電磁ポンプに連通される。また、該切換えバルブは、バルブボディとスプールとの間から入力ポートに油圧の洩れ込みを生じる。
【0005】
機械式ポンプに基づく油圧がC1クラッチ用油圧サーボに供給されている第1の状態にあって、上記洩れ込みによる油圧は第1の入力ポートから、電磁ポンプの油圧供給油路に作用し、該油路が、ドレーンポートを介して上記チェックバルブに連通していることにより、該油路の油圧は、上記開圧の高いチェックバルブの設定圧に保持されると共に、過大な油圧になることが防止されている。
【0006】
なお、上記電磁ポンプに代えて、電気モータによりポンプを駆動する電動ポンプを用いてもよく、該電磁ポンプ及び電動ポンプを含めて、電気に駆動されるポンプを電気式ポンプと定義する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−122560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記油圧装置は、開圧を高くしたチェックバルブを特別に設計して、上記切換えバルブのドレーンポートに設置する必要がある。
【0009】
このため、上記電気式ポンプのためのチェックバルブ(排出バルブ)は、特別なものとなって共通化できず、コストアップの原因となると共に、特別に設置する必要があり、そのためのスペースが必要となる。
【0010】
そこで、排出バルブ(チェックバルブ)の上流側にオリフィスを配置し、上記排出バルブを共通化すると共に他の油路に兼用して用いることを可能とし、もって上述した課題を解決した油圧装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本
油圧装置(1)は、エンジンからの動力により駆動される機械式ポンプと、
電力により駆動される電気式ポンプ(3)と、
車両の発進時において接続している
第1の摩擦係合要素用の
第1の油圧サーボ(C−1)と、
前記第1の油圧サーボ(C−1)とは別に設けられる第2の摩擦係合要素用の第2の油圧サーボ(B−2)と、
前記機械式ポンプに基づく油圧を調圧する調圧バルブ(SL1)と、
前記機械式ポンプに基づく油圧により、前記調圧バルブ(SL1)に連通する第1の入力ポート(5a)と前記
第1の油圧サーボ(C−1)に連通する出力ポート(5c)とを連通する第1の状態(右半位置)と、前記機械式ポンプが停止することにより、前記電気式ポンプ(3)に連通する第2の入力ポート(5b)と前記出力ポート(5c)とを連通する第2の状態(左半位置)と、に切換える切換えバルブ(5)と、
該切換えバルブが前記第1の状態にある場合、前記電気式ポンプからの油路(9b,5d,5e)に連通し、設定圧以上の油圧を排出する排出バルブ(12)と、
を備えてなる油圧装置(1)において、
前記電気式ポンプ(3)からの油路(11)における前記排出バルブ(12)の上流側に
は、オリフィス(13)
が配置され、
前記第2の油圧サーボ(B−2)からのドレーン油路(15)は、前記電気式ポンプ(3)からの油路(11)における前記オリフィス(13)と前記排出バルブ(12)との間に連通し、
前記オリフィス(13)
の上流側の前記油路(9a,9b)の油圧を、前記設定圧より高い所定圧に保持
する、
ことを特徴とする油圧装置にある。
【0012】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これにより特許請求の範囲に記載の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0013】
本
油圧装置によると、機械式ポンプに基づく油圧が
第1の摩擦係合要素用
の第1の油圧サーボに供給されている第1の状態にあって、第2の入力ポートを含む電気式ポンプからの油路には、オリフィスを介在することにより排出バルブの設定圧より高い所定圧に保持され、アイドリングストップの後の次回発進時に、上記油圧サーボの油圧を係合圧に向けて速やかにかつ滑らかに立ち上げて、違和感なく素早く発進できるものでありながら、オリフィスを介在しているので、排出バルブは、開圧設定圧の低い共通設計のものを用いることが可能となり、部品の共通化(モジュラー化)によるコストダウンを図ることができる。
【0014】
また、該排出バルブの共通化により、該排出バルブは、他の油圧サーボ等の油路に兼用して用いることが可能となる。この際、該排出バルブは、Dレンジにおいて油圧がドレーンされる他の油路に連通して、Dレンジにおける該排出バルブの機能と干渉することはなく、上記他の油路への空気の吸込み等を防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、自動車に搭載される自動変速機用油圧装置の要部を切取った概略図であるが、自動変速機は、特許文献1の
図1及び
図2に示すもの、又はFR用の自動変速機であってもよい。該自動変速機は、Dレンジにおける発進時には係合するC1クラッチ
(第1の摩擦係合要素)及びリバース(R)レンジにおいて油圧が供給されるリバースブレーキB2
(第2の摩擦係合要素)の外、多くのクラッチ及びブレーキからなる摩擦係合要素を備えており、これら摩擦係合要素の係合及び解放することにより、エンジン(内燃エンジン)からの動力を伝動経路を変更して変速し(例えば前進6速、後進1速)、駆動車輪に伝達する。
【0017】
油圧装置1は、マニュアルバルブ2、電磁ポンプ3、切換えバルブ(C1リレーバルブ)5の外、調圧バルブであるリニアソレノイドバルブSL1を有する。マニュアルバルブ2は、運転者の操作により、パーキング(P)レンジ、リバース(R)レンジ、ニュートラル(N)レンジ及びドライブ(D)レンジに切換えられ、ライン圧
(元圧)を、Rレンジライン圧ポート
(リバースレンジポート)2r,Dレンジライン圧ポート2dに切換えて供給する。
図1は、Dレンジ状態を示し、Rレンジライン圧ポート2rがドレーンポート2a,2bに連通し、Dレンジライン圧ポート2dがライン圧ポート
(元圧ポート)2lに連通し、連通ポート2cが閉塞状態にある。Rレンジにあっては、上記リバースブレーキ用油圧サーボ
(第2の油圧サーボ)B−2に連通するRレンジライン圧ポート2rにライン圧が供給されると共に該ポート2rとドレーンポート2a,2bが閉塞される。Nレンジにあっては、Rレンジライン圧ポート2rがドレーンポート2a,2bに連通し、Dレンジライン圧ポート2dがドレーン状態にあり、連通ポート2cがドレーン状態にある。
【0018】
エンジン(内燃エンジン)の動力により駆動される機械式ポンプ(図示せず)を備えており、該機械式ポンプの吐出圧は、ライン圧に調圧され、該ライン圧が上記マニュアルバルブ2に供給されると共に、上記リニアソレノイドバルブSL1に供給される。該リニアソレノイドバルブSL1は、制御部にて演算された目標トルク等による電気信号により制御され、入力されたライン圧を所定油圧に調圧して出力する。
【0019】
電気式ポンプを構成する電磁ポンプ3は、例えば特許文献1の
図5に示すように、電力により電磁力を発生するソレノイドと、該ソレノイドにより往復動するピストンとを有しており、該ピストンの往復動によりオイル溜りのオイルを吸入口3aから吸込み、吐出ポート3bから吐出する。
【0020】
前記切換えバルブ5は、バルブボディに摺動自在に嵌挿されたスプール6を有しており、スプールの一(上)端に制御油室5uが配置され、スプールの他(下)端にスプリング7が縮設されている。上記制御油室5uには、ライン圧をモジュレータバルブにより所定割合に減圧したモジュレータ圧PMODが供給される。従って、エンジンが駆動されて機械式ポンプが作動している状態にあっては、上記機械式ポンプに基づくモジュレータ圧PMODが制御油室5uに供給されて、スプール6が右半位置にある第1の状態となり、アイドリングストップによりエンジンが停止された状態では、モジュレータ圧が発生せず、スプリング7によりスプール6が左半位置にある第2の状態となる。
【0021】
また、前記切換えバルブ5は、機械式ポンプに基づく前記リニアソレノイドバルブSL1からの調圧が供給される第1の入力ポート5aと、前記電磁ポンプ3の吐出ポート3bに油路9aを介して連通する第2の入力ポート5bと、前記Dレンジにおける発進時(1速〜4速)には係合状態にあるC1クラッチ用油圧サーボ
(第1の油圧サーボ)C−1に連通する出力ポート5cと、を有する。更に、上記切換えバルブ5は、電磁ポンプ3の吐出ポート3bから油路9bを介して連通する連通ポート5dと、ドレーンポート5eと、フェール時にDレンジライン圧P
Dに基づく油圧が供給される第3の入力ポート5fと、を有している。また、上記電磁ポンプ3の吐出ポート3bは、油路9cを介してマニュアルバルブ2の連通ポート2cに連通している。
【0022】
なお、
図1において、ラウンド矩形状に描かれたポート5f,5dは、同一円周上に位置するポート5b,5eに対して位相を90度異ならせて配置されていることを示す。また、第3の入力ポート5fには、Dレンジライン圧P
Dがチェックバルブ10を介して供給されている。
【0023】
前記ドレーンポート5eには油路11を介して排出バルブを構成するチェックバルブ12が配置されている。該チェックバルブ12は、スプリングに付勢されたプラグを有しており、油路11の油圧が上記スプリングにより設定された設定圧以下の場合は、該油路11の油圧を保持し、設定圧を超えた余剰圧は排出される。該油路11には、複数個のオリフィス13a,13b,13c,13dを直列に連通したオリフィス(群)13が介在している。これらオリフィス13a〜13dは、所定径の細孔を有する共通化されたオリフィスであり、1個のオリフィスの圧力降下量は小さくても多段に重ねることにより、相当の大きな降下圧力が得られる。これにより、上記チェックバルブ12は、設定圧の小さな共通化(モジュラー化)されたチェックバルブを用いても、上記オリフィス群の上流側であるドレーンポート5eでの油圧は上記チェックバルブ12の設定圧よりかなり高い所定圧を得ることができる。
【0024】
上記オリフィス群13とチェックバルブ12との間の油路11から分岐(11a)して、油路15が連通しており、該油路15は、前記マニュアルバルブ2のドレーンポート2a,2bに連通している。従って、上記チェックバルブ12は、Dレンジ発進時におけるチェックバルブと、リバースブレーキ用油圧サーボB−2用のチェックバルブを兼用している。
【0025】
本油圧装置1は、以上のような構成からなるので、エンジンが回転して機械式ポンプが駆動されている状態では、ライン圧に基づくモジュレータ圧PMODが制御油室5uに供給され、切換えバルブ5は第1の状態(右半位置)にある。この状態では、上記機械式ポンプに基づくライン圧がリニアソレノイドバルブ(調圧バルブ)SL1により適宜調圧され、該調圧が第1の入力ポート5aに導かれ、更に出力ポート5cを通ってC1クラッチ用油圧サーボC−1に供給される。これにより、C1クラッチは係合状態にあって、車両は発進する。
【0026】
切換えバルブ5の第1の状態(右半位置)にあっては、第2の入力ポート5b及び第3の入力ポート5fは共に閉塞状態にあるが、両入力ポート5b,5fは、同一円周上にあって近接した位置にあり、第3の入力ポート5fのDレンジライン圧P
Dに基づく油圧は、第2の入力ポート5bに洩れ込み、該入力ポート5bに比較的高い油圧が作用する。この状態では、切換えバルブ5は、連通ポート5dとドレーンポート5eが連通しており、かつマニュアルバルブ2の連通ポート2cは閉塞している。従って、電磁ポンプ3の吐出側の油路9a,9c,9b、第2の入力ポート5bは、連通ポート5d及びドレーンポート5eを通って油路11に連通しており、該油路11が複数のオリフィス13を介してチェックバルブ12に連通しているので、該チェックバルブ12の設定圧より相当高い所定圧に保持されている。
【0027】
信号等により車両が停止すると、エンジンストップが機能してエンジンが停止し、従って機械式ポンプは停止して、上記モジュレータ圧PMOD及びリニアソレノイドバルブSL1の調圧は、その元圧がなくなって立ち上がらない。従って、切換えバルブ5は、スプリング7によりスプール6が左半位置にある第2の状態となる。この状態で、制御部からの信号により電磁ポンプ3が駆動されて、該電磁ポンプ3は吸入口3aからオイルを吸込んで吐出ポート3bから吐出され、該吐出圧は、油路9a、第2の入力ポート5b及び出力ポート5cを介してC1クラッチ用油圧サーボC−1に供給される。これにより、該油圧サーボC−1は、C1クラッチが係合する直前の油圧(ストロークエンド圧)に保持され、次回のエンジン始動による車両の発進に備える。
【0028】
なお、この状態では、連通ポート5dとドレーンポート5eとが閉塞されており、電磁ポンプ3の吐出圧がチェックバルブ12により漏れることはない。
【0029】
アイドリングストップ状態からエンジンを始動して車両を発進する際、エンジン始動に伴う機械式ポンプの駆動により、モジュレータ圧PMODが立上り、切換えバルブ5は第1の状態(右半位置)となる。これにより、リニアソレノイドバルブSL1からの油圧が、第1の入力ポート5a及び出力ポート5cを介してC1クラッチ用油圧サーボC−1に供給され、車両は、滑らかにかつ素早く発進する。この際、電磁ポンプ3は、停止するが、油路9a,9bの残圧は、連通ポート5dとドレーンポート5eが連通することにより、オリフィス群13、油路11を通ってチェックバルブ12から排出される。また、該油路11からの残圧の排出に際して、該残圧が油路15を介してマニュアルバルブ2のドレーンポート2a,2bに作用しても、チェックバルブ12の設定圧で保持されているため、リバース
ブレーキ用油圧サーボB−2に影響を及ぼすことはない。
【0030】
アイドリングストップによるエンジン停止から次回の車両の発進までの時間が短い状況にあっても、上述したように、電磁ポンプ3の吐出側油路9a,9b,9cは、前記オリフィス群13及びチェックバルブ12により所定圧に保持されており、電磁ポンプの吐出圧は、速やかに立上り、また例え該吐出圧が立上る前の状態にあっても、上記所定圧からエンジン始動による機械式ポンプの油圧が素早く立上り、滑らかにかつ違和感なくC1クラッチを係合して発進する。
【0031】
切換えバルブ5が第2の状態(
左半位置)にスティックしたフェール状態では、Dレンジライン圧P
Dがチェックバルブ10を介して第3の入力ポート5fに導かれ、出力ポート5cを介してC1クラッチ用油圧サーボC−1に供給されて、車両を発進することが可能となる。
【0032】
また、マニュアルバルブ2をR(リバース)レンジに操作した状態では、
Rレンジライン圧ポート2r及びライン圧ポート2lが連通し、ライン圧がRレンジライン圧ポート2rを介してリバースブレーキ用油圧サーボB−2に供給される。また、マニュアルバルブ2をRレンジから他レンジ、例えばN又はDレンジに操作すると、Rレンジライン圧ポート2rはドレーンポート2a,2bに連通して、油圧サーボB−2の油圧は、ポート2r,2a,2b及び油路15を介してチェックバルブ12から排出される。これにより、油圧サーボB−2の油圧は、チェックバルブ12の設定圧に保持され、該油圧サーボB−2への油圧供給を滑らかにかつ素早く行うことが可能となると共に、該油圧サーボB−2への空気の吸込みを防止できる。
【0033】
以上説明したように、本実施の形態の油圧装置1によると、機械式ポンプに基づく油圧がC1クラッチ用油圧サーボC−1に供給されている第1の状態にあって、第2の入力ポート5bを含む電磁ポンプ3からの油路11は、オリフィス13を介在することによりチェックバルブ12の設定圧より高い所定圧に保持される。このため、アイドリングストップの後の次回発進時に、C1クラッチ用油圧サーボC−1の油圧を係合圧に向けて速やかにかつ滑らかに立ち上げて、違和感なく素早く発進できるものでありながら、オリフィス13を介在しているので、チェックバルブ12は、開圧設定圧の低い共通設計のものを用いることが可能となり、部品の共通化(モジュラー化)によるコストダウンを図ることができる。
【0034】
また、チェックバルブ12の共通化により、チェックバルブ12は、例えば、リバースブレーキ用油圧サーボB−2等の油路15に兼用して用いることが可能となる。この際、チェックバルブ12は、Dレンジにおいて油圧がドレーンされる他の油路に連通して、Dレンジにおけるチェックバルブ12の機能と干渉することはなく、上記他の油路15への空気の吸込み等を防止できる。
【0035】
また、本実施の形態の油圧装置1では、オリフィス13は、複数のオリフィス13a〜13dを直列に連通したオリフィス群である。このため、1個のオリフィスにあっては、加工上又は信頼性上その孔径に限定があり、圧力降下を十分にとって所定圧を設定することが困難であるが、複数のオリフィスを直列に連通してオリフィス群として用いるので、共通設計したオリフィスで用いて第2の入力ポート5bに所定圧を確保することができる。
【0036】
また、本実施の形態の油圧装置1では、切換えバルブ5は、第1の状態において電磁ポンプ3及びチェックバルブ12に連通するドレーンポート5e及び閉塞状態にある第3の入力ポート5fを有し、該第1の状態において、閉塞状態にある第2の入力ポート5bに、第1の入力ポート5a及び閉塞状態にある第3の入力ポート5fから油圧が洩れ込み、オリフィス13の上流側の油路9a,9bを所定圧に保持してなる。
【0037】
これにより、本実施の形態の油圧装置1によると、フェール等に際して、ライン圧に基づく油圧が供給される第3の入力ポート5fを切換えバルブ5に備え、該切換えバルブ5における第3の入力ポート5fから第2の入力ポート5bに油圧の洩れ込みにより、電磁ポンプ3が駆動されていない状態にあっても、オリフィス13及びチェックバルブ12により電磁ポンプ3からの油路9a,9bに所定圧を確保することができる。
【0038】
また、本実施の形態の油圧装置1では、C1クラッチ用油圧サーボC−1は、ドライブレンジにおいて油圧が供給され、リバースブレーキ用油圧サーボB−2は、リバースレンジにおいて油圧が供給される。このため、ドレーン油路15がオリフィス13とチェックバルブ12との間に連通されるリバースブレーキ用油圧サーボB−2に、リバースレンジにおいて油圧が供給されるので、リバースブレーキ用油圧サーボB−2は、Dレンジにあっては、チェックバルブ12の設定圧で保持されるようになる。これにより、たとえアイドリングストップ停止による再始動時に、電磁ポンプ3からの油圧がチェックバルブ12に作用しても、リバースブレーキ用油圧サーボB−2の動作に影響を及ぼすことはない。
【0039】
また、本実施の形態の油圧装置1では、Rレンジライン圧ポート2rとドレーンポート2a,2bとライン圧ポート2lとを有し、リバースレンジにおいてはRレンジライン圧ポート2r及びライン圧ポート2lを連通させ、リバースレンジ以外においてはRレンジライン圧ポート2r及びドレーンポート2a,2bを連通させるマニュアルバルブ2を備え、マニュアルバルブ2のRレンジライン圧ポート2rは、リバースブレーキ用油圧サーボB−2に連通され、マニュアルバルブ2のドレーンポート2a,2bは、リバースブレーキ用油圧サーボB−2の油路15を介して、オリフィス13とチェックバルブ12との間に連通される。このため、リバースレンジにおいてはマニュアルバルブ2によって切り換えられたリバースレンジ圧をリバースブレーキ用油圧サーボB−2に供給することができると共に、リバースレンジ以外においてはリバースブレーキ用油圧サーボB−2からの油圧をマニュアルバルブ2を介してドレーンすることができるようになる。
【0040】
また、本実施の形態の油圧装置1では、リバースレンジ以外におけるリバースブレーキ用油圧サーボB−2の油路15の油圧は、チェックバルブ12の設定圧である。このため、油路11からの残圧が油路15を介してマニュアルバルブ2のドレーンポート2a,2bに作用しても、チェックバルブ12の設定圧で保持されているため、リバースブレーキ用油圧サーボB−2に影響を及ぼすことはない。
【0041】
なお、上述した切換えバルブ5は、電磁ポンプ3からの吐出圧を第2の入力ポート5bと連通ポート5dに分岐して作用しているが、これは、特許文献1の図7に示すように、1個の油路でもよく、また1個の切換えバルブ5により、C1クラッチ用油圧サーボC−1への供給圧の切換えと、チェックバルブ12への排出を行っているが、これは、特許文献1の図8に示すように、チェックバルブ12の排出を別のバルブで行ってもよい。電磁ポンプ3に代えて、電動モータにより駆動される電動ポンプを用いてもよく、またチェックバルブ12は、チェックバルブの外、チェックボール等の他の排出バルブでもよく、この際排出バルブの設定圧は、略々0となる等の低い油圧でもよい。また、チェックバルブ12に連通する油路15は、Rレンジにおいて油圧が供給されるB2ブレーキ用油圧サーボB−2に限らず、Dレンジにおいてドレーンされる他の油圧サーボ等の他の油路でもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 油圧装置
2 マニュアルバルブ
2a,2b ドレーンポート
2r Rレンジライン圧ポート
(リバースレンジポート)
3
電磁ポンプ(電気式ポンプ)
5 切換えバルブ
5a 第1の入力ポート
5b 第2の入力ポート
5c 出力ポート
5d 連通ポート
5e ドレーンポート
5f 第3の入力ポート
5u 制御油室
9a,9b,9c 油路
11 油路
12
チェックバルブ(排出バルブ)
13 オリフィス(群)
13a〜13d オリフィス
15 油路(ドレーン油路)
C−1
C1クラッチ用油圧サーボ(第1の油圧サーボ)
B−2
リバースブレーキ用油圧サーボ(第2の油圧サーボ)
SL1 リニアソレノイドバルブ(調圧バルブ)