特許第6115488号(P6115488)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6115488
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/20 20160101AFI20170410BHJP
【FI】
   H02P6/20
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-14981(P2014-14981)
(22)【出願日】2014年1月29日
(65)【公開番号】特開2015-142464(P2015-142464A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2016年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】下野 聖仁
【審査官】 尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−207868(JP,A)
【文献】 特開2010−011539(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0315492(US,A1)
【文献】 特開2011−200068(JP,A)
【文献】 特開2013−138559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/00− 6/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータとステータを有する同期モータを制御するモータ制御装置であって、
前記同期モータの起動開始前に、前記ロータを位置決めする位置決め通電を行うための位置決め通電電圧を設定して電圧指令を生成する電圧指令生成部と、
前記電圧指令生成部から出力された電圧指令に基づいて3相のPWM信号を生成するPWM生成部と、
直流電源から供給された直流電力を前記PWM信号により3相の交流電力に変換して前記同期モータへ供給するインバータと、
前記ステータの巻線に流れる相電流を検出する検出部と、
前記検出部によって検出された前記同期モータの相電流に基づいて、3相の前記相電流(Iu、Iv、Iw)を算出し回転座標系の2相電流(Iγ、Iδ)に変換する3相−2相変換部と、
前記3相−2相変換部から出力された2相電流のうちδ軸電流Iδを検出し、前記δ軸電流Iδが所定の電流値以上且つ所定の時間連続して流れた場合前記ロータが位置決めされたと判定する位置決め判定処理部とを備えることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記位置決め判定処理部で前記ロータが位置決めされていないと判定された場合、
前記位置決め通電電圧の位相である位置決め通電角度θに所定角度φを加えて新たな通電角度θを設定して前記電圧指令生成部に出力する位置決め通電角度設定部をさらに備え、
前記位置決め通電角度設定部は、位置決め通電時に新たに設定された位置決め通電角度θを用いて、前記位置決め通電を行うことを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記位置決め判定処理部で前記ロータが位置決めされていないと判定し続けた場合、前記位置決め通電角度設定部で設定される位置決め通電角度θが所定の角度になるまで前記位置決め通電を繰り返し行うことを特徴とする請求項2に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期モータを駆動するモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のモータ制御装置では、位置センサレス駆動を行う同期モータを起動する際に、停止しているロータ(回転子)の位置が分からない状態でモータを起動させるとモータがうまく起動しない虞がある。そこで、特許文献1では、ロータの位置を予め定めた所定の位置に位置決めする位置決め通電を行ってからモータを起動させるようにしている。即ち、特許文献1では、位置決め通電を行うことにより、ロータが所定の位置に位置決めされたことを前提として、次の起動シーケンスに移行するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−207868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術にあっては、ロータの位置決め通電を行ってもロータが所定の位置に位置決めがされていないと、制御軸であるγ−δ軸と、実軸であるd−q軸との間に大きなずれがある状態で、モータの起動シーケンスが開始されることになるため、起動制御が正しく行われず、モータが起動できないことが想定される。特に、ロータの位置が所定の位置である電気角0度の位置と、その所定の位置に対して電気角で180度の位置にある場合は、位置決め通電を行ってもロータが回転しない。つまり、この電気角180度の位置にロータがある場合は位置決め通電を行ってもロータを所定の位置に位置決めすることができないため、従来のように位置決め通電によりロータが所定の位置に位置決めされたと想定して起動運転を行うと、起動制御が正しく行われず、起動成功率が低下するという問題がある。
【0005】
また、ロータが所定の位置に位置決めされていない状態でモータを起動するとロータが滑らかに回転しないため、起動運転時に振動が生じ、モータやモータを搭載した機器本体に対し振動によりダメージを与えるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、同期モータの起動運転時における起動成功率が高く、起動運転時の振動を低減することができるモータ制御装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の第1の側面にかかるモータ制御装置は、ロータとステータを有する同期モータを制御するモータ制御装置であって、前記同期モータの起動開始前に、前記ロータを位置決めする位置決め通電を行うための位置決め通電電圧を設定して電圧指令を生成する電圧指令生成部と、前記電圧指令生成部から出力された電圧指令に基づいて3相のPWM信号を生成するPWM生成部と、直流電源から供給された直流電力を前記PWM信号により3相の交流電力に変換して前記同期モータへ供給するインバータと、前記ステータの巻線に流れる相電流を検出する検出部と、前記検出部によって検出された前記同期モータの相電流に基づいて、3相の前記相電流(Iu、Iv、Iw)を算出し回転座標系の2相電流(Iγ、Iδ)に変換する3相−2相変換部と、前記3相−2相変換部から出力された2相電流のうちδ軸電流Iδを検出し、前記δ軸電流Iδが所定の電流値以上且つ所定の時間連続して流れた場合前記ロータが位置決めされたと判定する位置決め判定処理部とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明にかかるモータ制御装置は、上記の発明において、前記位置決め判定処理部で前記ロータが位置決めされていないと判定された場合、前記位置決め通電電圧の位相である位置決め通電角度θに所定角度φを加えて新たな通電角度θを設定して前記電圧指令生成部に出力する位置決め通電角度設定部をさらに備え、前記位置決め通電角度設定部は、位置決め通電時に新たに設定された位置決め通電角度θを用いて、前記位置決め通電を行うことを行うことを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかるモータ制御装置は、上記の発明において、前記位置決め判定処理部で前記ロータが位置決めされていないと判定し続けた場合、前記位置決め通電角度設定部で設定される位置決め通電角度θが所定の角度になるまで前記位置決め通電を繰り返し行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかるモータ制御装置は、位置検出センサを持たない同期モータの起動成功率の向上と共に、起動時における振動低減を図ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施の形態にかかるモータ制御装置の構成を示す図である。
図2図2は、実施の形態におけるU−V−W固定座標系とγ−δ座標系とd−q座標系との関係を示す図である。
図3図3は、実施の形態における起動開始前の位置決め通電処理を説明するための図である。
図4図4は、実施の形態における起動運転時の処理フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明にかかるモータ制御装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0013】
(実施の形態)
実施の形態にかかるモータ制御装置1について図1を用いて説明する。図1は本発明によるモータ制御装置の位置決め通電処理にかかわる構成を主に示している。モータ制御装置1は、PWM変調による制御信号を生成し同期モータであるモータMを制御する。モータMは、例えば、PMSM(永久磁石同期モータ)であり、永久磁石を有し回転するロータと、ステータコイルを有しロータを回転させるための回転磁界を発生するステータを備える。同期モータの駆動においては、ロータの回転とステータコイルが発生する回転磁界を同期させる必要があるため、ロータの位置(回転位置)検出をすることが必要である。上記のように、モータMが位置検出センサを持たない同期モータの場合には位置センサレス制御が必要である。
【0014】
モータ制御装置1は、位置検出センサを持たない同期モータ(以下、同期モータとする)Mを指令回転数で回転させるようにベクトル制御する定常運転を行う。モータ制御装置1は、同期モータMを起動する際に、この定常運転ではなく、まず、起動用に設けられた起動運転モードで同期モータMの起動運転を行い、その後、起動運転モードから定常運転モードへ移行して、定常運転モードで同期モータMの定常運転を行う。
【0015】
従来は上記した起動運転モードにおいて、位置センサレス制御を行う同期モータMを起動する際に、ロータの位置決め通電を行った後、ロータが所定の位置に位置決めされたことを前提として起動運転モードに入っていた。
【0016】
しかしながら、位置決め通電を行ってもロータが回転せずに所定の位置に位置決めされていない場合は、モータが起動しなかったり、起動しても振動が発生したりする虞があった。
そこで、本実施の形態では、位置センサレス制御を行う同期モータの起動時における問題として、位置決め通電後、位置決めされたことを前提に起動運転モードに入るのではなく、位置決め通電後にロータが回転して所定の位置に位置決めされたことを確認してから起動運転モードに入るようにする。
【0017】
すなわち、本実施の形態では、位置決め通電後に位置決め判定を行い、ロータが回転して位置決めされたと判定した場合のみ起動運転モードに入る。この位置決め判定は、位置決め通電後「ロータが回転して所定の位置に停止した」ことを「位置決めされた」と判定する。具体的には、位置決め通電を行い、ロータが回転しない場合は、流れる電流は全てγ軸(d軸)電流として流れ、δ軸(q軸)電流は流れず、ロータが回転した場合は、誘起電圧がq軸方向に発生し、その結果γ軸電流だけでなくδ軸(q軸)電流も流れ、ロータが停止するとδ軸電流は流れ無くなることを利用し、「ロータが回転した後、停止した」すなわち「位置決めされた」と判定するものである。このように、位置決め通電によってロータが回転した後、停止したことが分かれば、ロータは所定の位置に位置決めされていると判断できるので、その時点で同期モータMの起動運転を行えば同期モータMの起動成功率が向上すると共に、起動時における振動の低減を図ることができる。
【0018】
また、本実施の形態では、位置決め判定の演算量を低減するために、実際の磁束位置(d軸位置)の推定が必要なd−q回転座標系を用いずに、実際の磁束位置の推定を行なわない制御軸であるγ−δ回転座標系を用いている。図2に、同期モータMのステータ(固定子)のU相、V相、W相の3相巻線が発生する磁界の向きに対応したUVW固定座標系とロータに同期して回転するd−q回転座標系、ステータが発生する回転磁界に同期して回転するγ−δ回転座標系との関係を示す。
【0019】
d軸は、同期モータMにおけるロータの磁極Nの向きとし、d軸から回転方向へ電気角90[deg]ずらした軸をq軸とする。ステータが発生する回転磁界に対してこのd−q軸に対応した座標軸をγ−δ軸とし、α軸(U相軸)からγ軸までの回転角をθeとする。ここでα軸はUVW固定座標系を3相−2相変換により2相の固定座標系に変換したα−β固定座標系の軸で、α軸をU軸と同じ方向にとっている。そして、γ軸とd軸のずれ、すなわち位相差Δθとし、ロータは角速度ωeで反時計回りに回転している。
【0020】
起動運転ではモータ制御装置1は、ロータの位置を推定しない場合、モータの起動運転時における起動成功率が高く、また、起動運転時の振動を低減するために、起動前の位置決め通電によりロータの初期位置を所定の位置に位置決めする必要がある。本発明のモータ制御装置1では、図3に示すように、特定相通電による位置決め制御を行う。
【0021】
本実施例のモータ制御装置1では、例えば、図3に示すように、U軸の位置を所定の位置としd軸とU軸が一致するように位置決め通電を行う。
【0022】
次に、本発明による位置決め通電の実施の形態にかかるモータ制御装置1の構成について図1を用いて具体的に説明する。図1は、モータ制御装置1の構成を示す図である。図1において、γ軸電圧指令値をVγ*とし、δ軸電圧指令値をVδ*とする(*は指令値を表す)。
【0023】
モータ制御装置1は、インバータ10、生成部20、及び検出部80を備え、同期モータのセンサレス制御を行なう。
【0024】
インバータ10は、図示しない直流電源から直流電力を受け、3相(U相、V相、W相)のPWM信号Up,Un,Vp,Vn,Wp,Wnを生成部20から受ける。インバータ10は、例えば図示しない6個のスイッチング素子を有し、3相のPWM信号Up〜Wnに従って、各々のスイッチング素子を所定のタイミングでスイッチング動作させることで3相の交流信号U、V、Wを生成し同期モータMへ供給することにより、同期モータMを駆動する。
【0025】
検出部80は、U相、V相、W相の3相のうち2相の電流を検出する。具体的には、検出部80は、電流センサ81、及び電流センサ82を含む。電流センサ81は、U相の電流iuを検出し、電流センサ82は、W相の電流iwを検出し、生成部20へ出力する。
【0026】
生成部20は、速度指令ωm*を外部(例えば、上位のコントローラ)から受け、検出部80から2相の電流iu,iwを受ける。生成部20は、2相の電流iu,iwから残りの1相の電流ivを算出して、速度指令ωm*、3相の電流iu,iv,iwに基づいて、3相のPWM信号Up〜Wnを生成する。例えば、生成部20は、モータMにおけるロータが速度指令ωm*に従って回転するように、3相のPWM信号Up〜Wnを生成する。
【0027】
具体的には、生成部20は、3相−2相変換部21、PWM生成部23、電流指令生成部30、電圧指令生成部40を有する。
【0028】
3相−2相変換部21は、同期モータMを駆動する際に検出部80で検出した2相の電流iu、iwから残りの1相の電流ivを関係式「iv=−iu−iw」を用いて算出し、固定座標系(UVW座標系)における電流ベクトル(iu,iv,iw)を回転座標系(γ−δ座標系)における電流ベクトル(iγ,iδ)または、d−q座標系における電流ベクトル(id,iq)へ変換する。なお、回転座標系は位置決め通電を行なう時はγ−δ座標系を、起動運転からはγ−δ座標系とd−q座標系とが一致しているとしてd−q座標系を用いる。
【0029】
電流指令生成部30は、速度指令ωm*と3相−2相変換部21から受けた2相電流(id,iq)からd軸電流指令id*、q軸電流指令iq*を生成し、電圧指令生成部40へ出力する。
【0030】
具体的には、電流指令生成部30は、位置・速度推定器31、減算器32、d軸電流設定器33、q軸電流設定器34、減算器35、減算器36を備える。
【0031】
位置・速度推定器31は、d軸電流id、q軸電流iqを3相−2相変換部21から受け、後述するd軸電圧指令Vd*、q軸電圧指令Vq*を電圧設定器50から受ける。位置・速度推定器31は、d軸電流id、q軸電流iq、d軸電圧指令Vd*、q軸電圧指令Vq*に基づいて、電気的な推定角速度ωe及び回転座標系の位相角θdqをそれぞれ推定する。位置・速度推定器31は、電気的な推定角速度ωeを1/Pn変換器37へ出力し、位相角θdqを3相−2相変換部21及び2相−3相変換部22へ出力する。
【0032】
1/Pn変換器37は、電気的な推定角速度ωeを位置・速度推定器31から受ける。1/Pn変換器37は、例えば電気的な推定角速度ωeに1/Pn(Pnは極対数)を乗算することにより、電気的な推定角速度ωeをモータMにおけるロータの機械的な推定角速度ωmに変換する。1/Pn変換器37は、機械的な推定角速度ωmを減算器32へ出力する。
【0033】
減算器32は、機械的な推定角速度ωmを1/Pn変換器37から受け、速度指令ωm*を外部(例えば、上位のコントローラ)から受ける。減算器52は、速度指令ωm*から推定角速度ωmを減算して速度偏差Δωを求め、求められた速度偏差Δωをq軸電流設定器34へ出力する。
【0034】
q軸電流設定器34は、速度偏差Δωを減算器32から受ける。q軸電流設定器34は、速度偏差Δωをゼロに近づけるように、q軸電流指令iq*を設定する。q軸電流設定器34は、設定したq軸電流指令iq*を減算器36へ出力する。
【0035】
減算器36は、q軸電流指令iq*をq軸電流設定器34から受け、q軸電流iqを3相−2相変換部21から受ける。減算器36は、q軸電流指令iq*からq軸電流iqを減算してq軸電流偏差Δiqを求め、求めたq軸電流偏差Δiqを電圧指令生成部40へ出力する。
【0036】
d軸電流設定器33は、d軸電流指令id*を予め定められた値(例えば、固定値)で生成して減算器35へ出力する。
【0037】
減算器35は、d軸電流指令id*をd軸電流設定器33から受け、d軸電流idを3相−2相変換部21から受ける。減算器35は、d軸電流指令id*からd軸電流idを減算してd軸電流偏差Δidを求め、求めたd軸電流偏差Δidを電圧指令生成部40へ出力する。
【0038】
電圧指令生成部40は、電流指令生成部30からのd軸電流偏差Δid、q軸電流偏差Δiqに応じて、d軸電圧指令Vd*、q軸電圧指令Vq*を求める。電圧指令生成部40は、求めたd軸電圧指令Vd*、q軸電圧指令Vqを3相の電圧指令(Vu*、Vv*、Vw*)に変換してPWM生成部23へ出力する。
【0039】
具体的には、電圧指令生成部40は、電圧設定部50、2相−3相変換部22を備える。
【0040】
電圧設定部50は、δ(q)軸電圧設定部51、γ(d)軸電圧設定部52を備える。γ(d)軸電圧設定部52は、減算器35から受けたd軸電流偏差Δidに応じて(例えば、d軸電流偏差Δidをゼロに近づけるように)d軸電圧指令Vd*を設定する。δ(q)軸電圧設定部51は、減算器36から受けるq軸電流偏差Δiqに応じて(例えば、q軸電流偏差Δiqをゼロに近づけるように)q軸電圧指令Vq*を設定する。電圧設定部50は、設定したd軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*を位置・速度推定器31及び2相−3相変換部22へ出力する。
【0041】
2相−3相変換部22は、電圧設定部から受けた2相のd軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*を3相の電圧指令(Vu*、Vv*、Vw*)に変換して、PWM生成部23へ出力する。
【0042】
PWM生成部23は、2相−3相変換部22から受けた3相の電圧指令(Vu*,Vv*,Vw*)に基づいて、3相(U相、V相、W相)のPWM信号Up,Un,Vp,Vn,Wp,Wnを生成して、インバータ10へ出力する。
【0043】
以上が、同期モータのセンサレス制御を行なうモータ制御装置の構成の説明である。ここからは本発明の位置決め制御に関する説明をする。位置決め制御にかかわる位置決め手段60の構成としては、上記生成部20の中の3相−2相変換部21と電圧指令生成部40の他に位置決め判定処理部61、位置決め制御部62、及び位置決め通電角度設定部63を備え、電流指令生成部30は使用しない。
【0044】
また、電圧指令生成部40に備えられた位置決め通電の電圧指令(Vγ*,Vδ*)を設定する電圧設定部50と、電圧設定部50で設定された回転座標系γ−δの電圧指令(Vγ*,Vδ*)を3つの固定座標系UVWの電圧指令(Vu*,Vv*,Vw*)に変換する2相−3相変換部22を位置決め手段60として使用する。
【0045】
電圧設定部50は、同期モータMの起動運転開始前に同期モータのロータの位置決め通電に用いる2相電圧指令(Vγ*,Vδ*)を設定する。電圧設定部50は、δ(q)軸電圧設定部51及びγ(d)軸電圧設定部52を有する。なお、位置決め通電の際、γδ軸電圧指令として電圧指令の設定が行なわれる。
【0046】
γ(d)軸電圧設定部52は、位置決め通電によりロータを回転させるために必要な回転座標系(γ−δ座標系)上での電圧ベクトル(以下、位置決め通電電圧ベクトルと記載する)のγ成分Vγを発生させるγ軸電圧指令Vγ*を2相−3相変換部22へ出力する。γ軸電圧Vγは固定の電圧で、γ軸電圧指令Vγ*は同期モータMの静止負荷を駆動するために十分な大きさのトルクを得るγ軸電圧を発生させる電圧指令として予め設定されている。
【0047】
δ(q)軸電圧設定部51は、回転座標系(γ−δ座標系)上で位置決め通電電圧ベクトルのδ成分Vδを予め定められた値(0V)とするδ軸電圧指令Vδ*を2相−3相変換部22へ出力する。
【0048】
このように、電圧設定部50のγ軸電圧設定部52とδ軸電圧設定部51では、同期モータMを起動する前に、例えば、Vδ*=0、Vγ*=(予め定められた値)とした位置決め通電用の電圧が設定される。
【0049】
2相−3相変換部(γ−δ/UVW)22は、後述する位置決め通電角度設定部63により設定された角度θと、電圧設定部50により設定された回転座標系(γ−δ座標系)上の位置決め通電電圧ベクトルを用いて固定座標系(UVW座標系)における位置決め通電電圧ベクトルを生成する。
【0050】
具体的には、2相−3相変換部22は、回転座標系(γ−δ座標系)における位置決め電圧ベクトル(Vγ,Vδ)、すなわちγ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令Vδ*を電圧設定部50から受ける。2相−3相変換部22は、後述する位置決め通電角度θを位置決め通電角度設定部63から受ける。2相−3相変換部22は、例えば、次の数式1〜数式3により、回転座標系(γ−δ座標系)における2相位置決め通電電圧ベクトル(Vγ,Vδ)を固定座標系(UVW座標系)における3相位置決め通電電圧ベクトル(Vu,Vv,Vw)へ変換する。
Vu=(√(2/3))×{Vγ×cosθ−Vδ×sinθ} ・・・数式1
Vv=(√(1/2)×Vγ+√(1/6)×Vδ)×sinθ
+(√(1/2)×Vδ−√(1/6)×Vγ)×cosθ・・・数式2
Vw=(√(1/6)×Vδ−√(1/2)×Vγ)×sinθ
−(√(1/6)×Vγ+√(1/2)×Vδ)×cosθ・・・数式3
【0051】
2相−3相変換部22は、回転座標系(γ−δ座標系)から固定座標系(UVW座標系)に変換した位置決め通電電圧ベクトル(Vu,Vv,Vw)をPWM生成部23へ出力する。
【0052】
PWM生成部23は、2相−3相変換部22により変換された位置決め通電電圧ベクトルに対応した3相のU、V、W(θは固定値となる)電圧をインバータ10を介して同期モータMへ供給することにより、同期モータMに位置決め通電を行う。
【0053】
具体的には、PWM生成部23は、固定座標系(UVW座標系)における位置決め通電電圧ベクトル(Vu,Vv,Vw)、すなわちU相電圧指令Vu*、V相電圧指令Vv*、W相電圧指令Vw*を2相−3相変換部22から受ける。PWM生成部23は、U相電圧指令Vu*、V相電圧指令Vv*、W相電圧指令Vw*に基づいてPWM信号を生成してインバータ10へ供給する。これにより、PWM生成部23は、インバータ10を介して同期モータMに位置決め通電を行う。
【0054】
3相−2相変換部21は、同期モータMを駆動する際に検出部80で検出した2相の電流iu、iwから残りの1相の電流ivを関係式「iv=−iu−iw」を用いて算出し、固定座標系(UVW座標系)における電流ベクトル(iu,iv,iw)を回転座標系(γ−δ座標系)における電流ベクトル(iγ,iδ)へ変換する。
【0055】
3相−2相変換部21は、U相の電流iuの検出値を電流センサ81から受け、W相の電流iwの検出値を電流センサ82から受ける。また、3相−2相変換部21は、位置決め通電角度θを後述する位置決め通電角度設定部63から受ける。3相−2相変換部21は、例えば、次の数式4及び数式5により、固定座標系(UVW座標系)における電流ベクトル(iu,iv,iw)を回転座標系(γ−δ座標系)における電流ベクトル(iγ,iδ)へ変換する。
iγ=(√2){iu×cos(θ+π/6)−iw×sinθ} ・・・数式4
iδ=−(√2){iu×sin(θ+π/6)+iw×cosθ}・・・数式5
【0056】
3相−2相変換部21は、変換した回転座標系(γ−δ座標系)における電流ベクトルのδ成分、すなわちδ軸電流Iδを算出して後述する位置決め判定処理部61へ出力する。
【0057】
位置決め判定処理部61は、後述する位置決め制御部62が起動運転開始前に位置決め通電を行う際に、3相−2相変換部21から出力されるδ軸電流Iδの絶対値(Iδは直流)が所定の電流値以上で且つ所定の時間連続して流れたか否かを判断して、ロータが位置決めされたか否かを判定する。これは、ロータが回転しない場合は、流れる電流が全てγ軸(d軸)電流Iγとして流れ、δ軸(q軸)電流Iδは流れず、ロータが回転した場合は、γ軸電流Iγだけでなくδ軸電流Iδも流れるが(δ軸電流Iδはプラスだけでなく、マイナスの場合も考えられる)、ロータが停止するとδ軸電流Iδが流れ無くなることを利用している。具体的には、位置決め判定処理部61は、3相−2相変換部21から出力されるδ軸電流Iδの電流値を検出して、その検出した電流値の絶対値が所定の電流値以上且つ所定の時間連続して流れた後、流れなくなると、「ロータが回転して停止した」、すなわち所定の位置にロータが「位置決めされた」と判定する。なお、所定の電流値、所定の時間については、実際に使用されるモータの定格やモータの負荷などにより実験結果に基づいて設定される。
【0058】
位置決め制御部62は、位置決め通電を行い、位置決め判定処理部61でロータが位置決めされたと判定されると、その時点で起動運転を開始する。つまり、ロータが所定の位置に位置決めされれば、高い起動成功率で起動させることができ、振動の少ないスムーズな起動運転が可能になる。
【0059】
また、位置決め制御部62は、位置決め判定処理部61でロータが位置決めされていないと判定されると(位置決め通電開始後、δ軸電流Iδが所定の電流値で所定の時間連続して流れなかった場合)、ロータが回転していないか、回転したとしても所定の位置に位置決めされていない虞があるため、位置決め通電電圧ベクトルの位相(通電角度θ)を変更して、再度位置決め通電を行う。位置決め制御部62は、再度の位置決め通電で位置決めされたと判定されれば、その時点で起動運転を開始するが、位置決めされていないと判定された場合は、さらに位置決め通電電圧ベクトルの位相を変更して位置決め通電を所定回数リトライ(繰り返す)ようにする。この位置決め通電のリトライ回数は、設計仕様に応じて任意の回数に設定することができる。
【0060】
位置決め通電角度設定部63は、位置決め通電処理を行う際の位置決め通電電圧の位相を決定するための位置決め通電角度θを設定する。位置決め通電角度θは、図2で示すα軸(U軸)からγ軸までの回転角θeに相当する。位置決め制御部62は、位置決め判定処理部61でロータが位置決めされたと判定されなければ、位置決め通電角度設定部63に対して位置決め通電角度θの変更を指示し位置決め通電をリトライする。位置決め通電角度設定部63は、位置決め制御部62から位置決め通電角度θの変更指示を受けると、変更指示前の位置決め通電角度θに所定角度φを加えて新たな位置決め通電角度θを設定し、2相−3相変換部22と3相−2相変換部21にそれぞれ出力する。所定角度φは、ロータを回転させた後に停止させた位置決めする必要があるため、前の位置決め通電角度θから所定量離れた位相(例えば、φ=90°やφ=120°など)となるように設定することが望ましい。また、位置決め通電のリトライ回数は、このφとの関係で、ロータの1回転の電気角が例えば2極の同期モータの場合360°、4極の同期モータの場合720°であるので、その1回転の電気角を超えるまでリトライを繰り返すようにしても良い。
【0061】
本発明による位置決め通電処理を含めた同期モータの起動プロセスをフローにまとめると、図4となる。起動プロセスが開始されると、位置決め制御部62は、位置決め通電角度設定部63に対して位置決め通電角度を初期設定(θ=0°)するように指示し(ステップS1)、この位置決め通電角度θを用いて位置決め通電処理を開始する(ステップS2)。位置決め通電処理を行うと、検出部80は、同期モータMのU相の電流iuとW相の電流iwの2相の電流を検出し、3相−2相変換部21へ出力する。3相−2相変換部21は、3相の固定座標系(UVW座標系)の電流ベクトルの成分iuとW相の電流iwを2相の回転座標系(γ−δ座標系)における電流ベクトルに変換しそのδ成分であるδ軸電流Iδを位置決め判定処理部61へ出力する。位置決め判定処理部61は、位置決め通電開始後δ軸電流Iδが所定の電流値以上で且つ所定の時間連続して流れたか否かを監視し位置決めされたか否かを判定する(ステップS3)。位置決め判定処理部61で位置決め通電開始後δ軸電流Iδが所定の電流値以上で且つ所定の時間連続して流れ位置決めされたと判定された場合(ステップS3でYes)、位置決め制御部62はその判定結果を受けて起動運転を開始し(ステップS6)、起動プロセスが終了すると定常運転に移行する。位置決め判定処理部61で位置決め通電開始後δ軸電流Iδが所定の電流値以上で且つ所定の時間連続して流れず位置決めされなかったと判定された場合(ステップS3でNo)、位置決め制御部62はその判定結果を受けて位置決め通電角度設定部63に対して位置決め通電角度θの再設定を指示する。位置決め通電角度設定部63は、位置決め通電角度θに所定角度φを加えた新たな位置決め通電角度θを設定する(ステップS4)。位置決め通電角度設定部63が指示している位置決め通電角度θが同期モータのロータ1回転の電気角の360°(同期モータが2極の場合)以上か否かを判断し(ステップS5)、360°未満であれば(ステップS5でNo)、その位置決め通電角度θを2相−3相変換部22と3相−2相変換部21に出力してステップS2に戻る。位置決め制御部62は、位置決め判定処理部61の判定が位置決めされたとなるか(ステップS3でYes)、位置決め通電角度θが360°以上になるまで、位置決め通電処理を所定回数繰り返す。位置決め制御部62は、位置決め判定処理部61の判定が位置決めされたとならずに(ステップS3でNo)、位置決め通電角度θが360°以上になった(ステップS5でYes)場合は、エラーとして判断して起動プロセスを停止する(ステップS7)。
【0062】
以上のように、本実施の形態では、電圧設定部50が同期モータMの起動開始前に位置決め通電用の電圧指令を設定し、第1の変換部としての2相−3相変換部22で電圧設定部50から出力された2相γ−δ回転座標系上の位置決め通電電圧ベクトル(電圧指令)を3相UVW固定座標系における位置決め通電電圧ベクトルに変換し、駆動部10が第1の変換部としての2相−3相変換部22により変換され出力された位置決め通電電圧ベクトルに対応した電圧で同期モータMを駆動し、第2の変換部としての3相−2相変換部21で駆動部10から同期モータMを駆動する際の3相UVW固定座標系における電流ベクトルを2相γ−δ回転座標系における電流ベクトルへ変換し、その変換された電流ベクトルのうちδ成分のδ軸電流Iδが位置決め判定処理部61で所定の電流値以上で且つ所定の時間連続して流れると、同期モータMのロータが位置決めされたと判定し、それ以外の場合は位置決めされていないと判定する。位置決め制御部62は、電圧設定部50で設定された電圧を用いて同期モータMのロータを位置決めする位置決め通電を行い、位置決め判定処理部61でロータが位置決めされたと判定されると、前記同期モータの起動運転を開始する。これにより、起動運転開始前の位置決め通電後にロータが所定位置に位置決めされたか否かが判定できるので、同期モータをスムーズに起動することが可能となり、起動成功率が向上すると共に、起動時における振動を低減することができる。
【0063】
また、本実施の形態では、位置決め制御部62は、位置決め判定処理部61でロータが位置決めされていないと判定されると、そのときの位置決め通電角度θに所定角度φを加えた新たな位置決め通電角度θを用いて生成した位置決め通電電圧ベクトルにより再度位置決め通電を行い、位置決め判定処理部61で同期モータMのロータの位置決め判定を行う。これにより、位置決め通電を行って位置決めされていないと判定されても、所定量離れた電圧位相φをもつ位置決め通電電圧ベクトル用いて位置決め通電をリトライするので、位置決めを確実に行うことができ、同期モータの起動成功率を向上させることができる。
【0064】
また、本実施の形態では、位置決め制御部62は、位置決め判定処理部61でロータが位置決めされたと判定されるか、位置決め通電角度設定部63で設定される位置決め通電角度θが所定の電気角になるまで位置決め通電を繰り返す。これにより、位置決め通電角度を一通り試してみて、それでもロータが位置決めされたと判定されない場合は、ロータロック状態にある可能性があるため、必要以上に位置決め通電の繰り返しを防止することができる。
【0065】
なお、本実施の形態では、相電流を検出する方法として、2つの電流センサを用いて3相の相電流を算出しているが、電流センサを3つ用いて3相の相電流を検出したり、または、インバータの母線電流を検知する1シャント方式でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上のように、本発明にかかるモータ制御装置は、同期モータの制御に有用である。
【符号の説明】
【0067】
1 モータ制御装置
10 インバータ
20 生成部
21 3相−2相変換部
22 2相−3相変換部
23 PWM生成部
30 電流指令生成部
31 位置・速度推定器
32 減算器
33 d軸電流設定器
34 q軸電流設定器
35 減算器
36 減算器
37 1/Pn変換器
40 電圧指令生成部
50 電圧設定部
51 δ(q)軸電圧設定部
52 γ(d)軸電圧設定部
60 位置決め手段
61 位置決め判定処理部
62 位置決め制御部
63 位置決め通電角度設定部
80 検出部
81 電流センサ
82 電流センサ
図1
図2
図3
図4