特許第6115596号(P6115596)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6115596エアフィルタ用濾材、フィルタパック、エアフィルタユニット、およびエアフィルタ用濾材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6115596
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】エアフィルタ用濾材、フィルタパック、エアフィルタユニット、およびエアフィルタ用濾材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/16 20060101AFI20170410BHJP
   B01D 71/32 20060101ALI20170410BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20170410BHJP
   B01D 63/14 20060101ALI20170410BHJP
   B01D 46/52 20060101ALI20170410BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20170410BHJP
   B32B 5/32 20060101ALI20170410BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20170410BHJP
   C08J 9/28 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   B01D39/16 E
   B01D39/16 C
   B01D71/32
   B01D69/12
   B01D63/14
   B01D46/52 A
   B01D69/00
   B32B5/32
   B32B27/30 D
   C08J9/28 102
   C08J9/28CEW
【請求項の数】14
【全頁数】43
(21)【出願番号】特願2015-145306(P2015-145306)
(22)【出願日】2015年7月22日
(65)【公開番号】特開2016-123972(P2016-123972A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2015年12月22日
(31)【優先権主張番号】特願2014-266290(P2014-266290)
(32)【優先日】2014年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】阪野 竜巳
(72)【発明者】
【氏名】乾 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 吉之
【審査官】 増田 健司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−94717(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/157647(WO,A1)
【文献】 特開2006−331722(JP,A)
【文献】 特開2009−136863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/16
B01D 46/52
B01D 63/14
B01D 69/00
B01D 69/12
B01D 71/32
B32B 5/32
B32B 27/30
C08J 9/28
D04H 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体中の塵を捕集するエアフィルタ用濾材であって、
フッ素樹脂を主として含む第1の多孔膜と、
フッ素樹脂を主として含み、前記第1の多孔膜よりも気流の下流側に配置されている第2の多孔膜と、
前記第1の多孔膜よりも気流の上流側に配置され、気流中の塵の一部を捕集するプレ捕集材と、
を備え、
前記プレ捕集材は、空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失が15Pa以上55Pa未満であり、粒子径0.3μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの前記粒子の捕集効率が25%以上80%未満であり、厚みが0.4mm以下であり、次式:PF値={−log((100−捕集効率(%))/100)}/(圧力損失(Pa)/1000)で定められるPF値が7以上15以下であり、
前記第1の多孔膜と前記第2の多孔膜を積層したときのPF値に対する前記プレ捕集材のPF値の割合である「プレ捕集材のPF値/第1の多孔膜と第2の多孔膜を積層したときのPF値」の値が、0.20以上0.45以下であ
エアフィルタ用濾材は、個数中位径0.25μmのポリアルファオレフィン粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で連続通風し、圧力損失が250Pa分だけ上昇したときの前記ポリアルファオレフィン粒子の保塵量が40g/m2以上である、
エアフィルタ用濾材。
【請求項2】
気体中の塵を捕集するエアフィルタ用濾材であって、
フッ素樹脂を主として含む第1の多孔膜と、
フッ素樹脂を主として含み、前記第1の多孔膜よりも気流の下流側に配置されている第2の多孔膜と、
前記第1の多孔膜よりも気流の上流側に配置され、気流中の塵の一部を捕集するプレ捕集材と、
を備え、
前記プレ捕集材は、空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失が15Pa以上55Pa未満であり、粒子径0.3μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの前記粒子の捕集効率が25%以上80%未満であり、厚みが0.4mm以下であり、次式:PF値={−log((100−捕集効率(%))/100)}/(圧力損失(Pa)/1000)で定められるPF値が7以上15以下であり、
前記第1の多孔膜と前記第2の多孔膜を積層したときのPF値に対する前記プレ捕集材のPF値の割合である「プレ捕集材のPF値/第1の多孔膜と第2の多孔膜を積層したときのPF値」の値が、0.20以上0.45以下であり、
エアフィルタ用濾材は、
空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失が200Pa未満であり、
粒子径0.3μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの前記粒子の捕集効率が99.97%以上である、
エアフィルタ用濾材。
【請求項3】
エアフィルタ用濾材は、個数中位径0.25μmのポリアルファオレフィン粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で連続通風し、圧力損失が250Pa分だけ上昇したときの前記ポリアルファオレフィン粒子の保塵量が40g/m2以上である、
請求項2に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項4】
前記第1の多孔膜よりも気流の上流側に配置され、前記第1の多孔膜を支持する上流通気性支持材をさらに備えた、
請求項1から3のいずれか1項に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項5】
前記第2の多孔膜よりも気流の下流側に配置され、前記第2の多孔膜を支持する下流通気性支持材をさらに備えた、
請求項1から4のいずれか1項に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項6】
空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失は、前記第2の多孔膜よりも前記第1の多孔膜の方が小さく、
粒子径0.3μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの前記粒子の捕集効率は、前記第1の多孔膜よりも前記第2の多孔膜の方が高い、
請求項1からのいずれか1項に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項7】
前記第1の多孔膜は、
前記圧力損失が30Pa以上90Pa以下であり、
前記捕集効率が95%以上99%以下であり、
個数中位径0.25μmのポリアルファオレフィン粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で連続通風し、圧力損失が250Pa分だけ上昇したときの前記ポリアルファオレフィン粒子の保塵量が25g/m2以上35g/m2以下である、
請求項1からのいずれか1項に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項8】
前記第1の多孔膜と前記第2の多孔膜を積層したときのPF値に対する前記プレ捕集材のPF値の割合である「プレ捕集材のPF値/第1の多孔膜と第2の多孔膜を積層したときのPF値」の値が、0.20以上0.38以下である、
請求項1からのいずれか1項に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項9】
前記第1の多孔膜および前記第2の多孔膜は、繊維化し得るポリテトラフルオロエチレンと、繊維化しない非熱溶融加工性成分と、融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分と、から主としてなる、
請求項1からのいずれか1項に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載のエアフィルタ用濾材を備え、
前記エアフィルタ用濾材が山折りおよび谷折りが交互に繰り返されたジグザグ形状に加工されて構成されているフィルタパック。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか1項に記載のエアフィルタ用濾材または請求項10に記載のフィルタパックと、
前記エアフィルタ用濾材または前記フィルタパックを保持する枠体と、
を備えたエアフィルタユニット。
【請求項12】
気体中の塵を捕集するエアフィルタ用濾材の製造方法であって、
(a)フッ素樹脂を主として含む、第1の多孔膜および第2の多孔膜を得るステップと、
(b)前記第1の多孔膜を前記第2の多孔膜よりも気流の上流側に配置するステップと、
(c)気流中の塵の一部を捕集するプレ捕集材を前記第1の多孔膜よりも気流の上流側に配置するステップと、
を備え、
前記プレ捕集材は、空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失が15Pa以上55Pa未満であり、粒子径0.3μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの前記粒子の捕集効率が25%以上80%未満であり、厚みが0.4mm以下であり、次式:PF値={−log((100−捕集効率(%))/100)}/(圧力損失(Pa)/1000)で定められるPF値が7以上15以下であり、
前記第1の多孔膜と前記第2の多孔膜を積層したときのPF値に対する前記プレ捕集材のPF値の割合である「プレ捕集材のPF値/第1の多孔膜と第2の多孔膜を積層したときのPF値」の値が、0.20以上0.45以下であり、
前記第1の多孔膜と前記第2の多孔膜と前記プレ捕集材とが、熱ラミネートされることで一体化するステップをさらに備えている、
エアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項13】
前記第1の多孔膜を支持する上流通気性支持材を前記第1の多孔膜よりも気流の上流側に配置するステップをさらに備えた、
請求項12に記載のエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項14】
前記第2の多孔膜を支持する下流通気性支持材を前記第2の多孔膜よりも気流の下流側に配置するステップをさらに備えた、
請求項12または13に記載のエアフィルタ用濾材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアフィルタ用濾材、フィルタパック、エアフィルタユニット、およびエアフィルタ用濾材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
HEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)の基準を満たすエアフィルタ用濾材として、ガラス濾材と呼ばれる、ガラス繊維を用いて作製された濾材が知られている。HEPAグレードのガラス濾材は、粒子径0.3μmの粒子の捕集効率が99.97%と高い捕集効率を有している反面、圧力損失が高い。
【0003】
このようなガラス濾材に代わる低圧力損失のHEPAフィルタとして、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を延伸して作られるPTFE多孔膜を用いた濾材が知られている。PTFE多孔膜は、ガラス濾材と比べ、高い捕集効率と低い圧力損失とを備え、捕集効率と圧力損失のバランスに優れている。
【0004】
例えば、以下の特許文献1(特開2013−52320号公報)や特許文献2(特開2013−63424号公報)においては、形状保持部材によって保持されて用いられるエアフィルタユニットの圧力損失を抑制するために、PTFE多孔膜の上流側にメルトブローン不織布を設け、さらにその上流側にスパンボンド不織布からなる通気性カバー層を設けたエアフィルタ用濾材を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−52320号公報
【特許文献2】特開2013−63424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、濾材を長寿命なものにするため、濾材の保塵量を高めることが求められている。例えば、エアフィルタユニットをガスタービンの吸気用途に用いる場合には、保塵量が少ないことで、ガスタービンの定期検査を待たずにエアフィルタが目詰まりしてしまうことがある。このように目詰まりが生じると、エアフィルタを交換するためだけにガスタービンの稼動を停止せざるを得なくなり、ロスが大きくなっている。
【0007】
これに対して、上述の特許文献1および特許文献2に記載のエアフィルタは、捕集効率が高く、圧力損失も低いものの、保塵量については不足しており、保塵量のより一層の向上が求められている。
【0008】
本発明は、捕集効率が高く圧力損失が低いだけでなく、保塵量も高いエアフィルタ用濾材、フィルタパック、エアフィルタユニット、および、そのようなエアフィルタ用濾材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本件発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、フッ素樹脂を主として含む多孔膜を2層と、上流側の特定の物性のプレ捕集材と、を設け、プレ捕集材のPF値/第1の多孔膜と第2の多孔膜を積層したときのPF値を特定の範囲とすることで、捕集効率が高く圧力損失が低いだけでなく保塵量も高くすることが可能になることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
第1の観点に係るエアフィルタ用濾材は、気体中の塵を捕集するエアフィルタ用濾材であって、第1の多孔膜と、第2の多孔膜と、プレ捕集材と、を備えている。第1の多孔膜は、フッ素樹脂を主として含む。第2の多孔膜は、フッ素樹脂を主として含み、第1の多孔膜よりも気流の下流側に配置されている。プレ捕集材は、第1の多孔膜よりも気流の上流側に配置され、気流中の塵の一部を捕集する。プレ捕集材は、空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失が15Pa以上55Pa未満であり、粒子径0.3μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの粒子の捕集効率が25%以上80%未満であり、厚みが0.4mm以下であり、次式:PF値={−log((100−捕集効率(%))/100)}/(圧力損失(Pa)/1000)で定められるPF値が7以上15以下である。第1の多孔膜と第2の多孔膜を積層したときのPF値に対するプレ捕集材のPF値の割合である「プレ捕集材のPF値/第1の多孔膜と第2の多孔膜を積層したときのPF値」の値が、0.20以上0.45以下である。エアフィルタ用濾について、個数中位径0.25μmのポリアルファオレフィン粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で連続通風し、圧力損失が250Pa分だけ上昇したときのポリアルファオレフィン粒子の保塵量が40g/m2以上である。
【0011】
なお、プレ捕集材の上記PF値は、7以上13以下であることが好ましい。
【0012】
このエアフィルタ用濾材では、捕集効率が高く圧力損失が低いだけでなく、保塵量も高めることが可能になる。
【0013】
第2の観点に係るエアフィルタ用濾材は、気体中の塵を捕集するエアフィルタ用濾材であって、第1の多孔膜と、第2の多孔膜と、プレ捕集材と、を備えている。第1の多孔膜は、フッ素樹脂を主として含む。第2の多孔膜は、フッ素樹脂を主として含み、第1の多孔膜よりも気流の下流側に配置されている。プレ捕集材は、第1の多孔膜よりも気流の上流側に配置され、気流中の塵の一部を捕集する。プレ捕集材は、空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失が15Pa以上55Pa未満であり、粒子径0.3μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの粒子の捕集効率が25%以上80%未満であり、厚みが0.4mm以下であり、次式:PF値={−log((100−捕集効率(%))/100)}/(圧力損失(Pa)/1000)で定められるPF値が7以上15以下である。第1の多孔膜と第2の多孔膜を積層したときのPF値に対するプレ捕集材のPF値の割合である「プレ捕集材のPF値/第1の多孔膜と第2の多孔膜を積層したときのPF値」の値が、0.20以上0.45以下である。エアフィルタ用濾材について、空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失が200Pa未満であり、粒子径0.3μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの粒子の捕集効率が99.97%以上である。
【0014】
なお、プレ捕集材の上記PF値は、7以上13以下であることが好ましい。
【0015】
このエアフィルタ用濾材では、捕集効率が高く圧力損失が低いだけでなく、保塵量も高めることが可能になる。
【0016】
第3観点に係るエアフィルタ用濾材は、第2観点に係るエアフィルタ用濾材であって、エアフィルタ用濾について、個数中位径0.25μmのポリアルファオレフィン粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で連続通風し、圧力損失が250Pa分だけ上昇したときのポリアルファオレフィン粒子の保塵量が40g/m2以上である。
【0017】
観点に係るエアフィルタ用濾材は、第1観点から第3観点のいずれかに係るエアフィルタ用濾材であって、上流通気性支持材をさらに備えている。上流通気性支持材は、第1の多孔膜よりも気流の上流側に配置され、第1の多孔膜を支持する。
【0018】
なお、プレ捕集材は、第1の多孔膜よりも気流の上流側に配置されていればよく、上流通気性支持材よりも気流の上流側に配置されていてもよいし、上流通気性支持材よりも気流の下流側に配置されていてもよい。
【0019】
このエアフィルタ用濾材は、上流側における強度を向上させることが可能になる。
【0020】
観点に係るエアフィルタ用濾材は、第1観点から観点のいずれかに係るエアフィルタ用濾材であって、下流通気性支持材をさらに備えている。下流通気性支持材は、第2の多孔膜よりも気流の下流側に配置され、第2の多孔膜を支持する。
【0021】
このエアフィルタ用濾材は、下流側における強度を向上させることが可能になる。
【0022】
観点に係るエアフィルタ用濾材は、第1観点から第観点のいずれかに係るエアフィルタ用濾材であって、空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失は第2の多孔膜よりも第1の多孔膜の方が小さく、粒子径0.3μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの粒子の捕集効率は第1の多孔膜よりも第2の多孔膜の方が高い。
【0023】
このエアフィルタ用濾材は、捕集効率が高く圧力損失が低いだけでなく、保塵量をさらに高めることが可能になる。
【0024】
観点に係るエアフィルタ用濾材は、第1観点から第観点のいずれかに係るエアフィルタ用濾材であって、第1の多孔膜は、圧力損失が30Pa以上90Pa以下であり、捕集効率が95%以上99%以下であり、個数中位径0.25μmのポリアルファオレフィン粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で連続通風し圧力損失が250Pa分だけ上昇したときのポリアルファオレフィン粒子の保塵量が25g/m2以上35g/m2以下である。
【0025】
このエアフィルタ用濾材は、捕集効率が高く圧力損失が低いだけでなく、保塵量をさらに高めることが可能になる。
【0026】
観点に係るエアフィルタ用濾材は、第1観点から第観点のいずれかに係るエアフィルタ用濾材であって、第1の多孔膜と第2の多孔膜を積層したときのPF値に対するプレ捕集材のPF値の割合である「プレ捕集材のPF値/第1の多孔膜と第2の多孔膜を積層したときのPF値」の値が、0.20以上0.38以下である。
【0027】
このエアフィルタ用濾材は、保塵量を高めた場合であっても、圧力損失を低く抑えることが可能となる。
【0028】
観点に係るエアフィルタ用濾材は、第1観点から第観点のいずれかに係るエアフィルタ用濾材であって、第1の多孔膜および第2の多孔膜は、繊維化し得るポリテトラフルオロエチレンと、繊維化しない非熱溶融加工性成分と、融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分と、から主としてなる。
【0029】
従来の繊維化し得るPTFE(高分子量PTFE)のみから主として構成されるPTFE多孔膜では、繊維径の細い微細なフィブリルを多く含んでおり、繊維1本当たりの表面積が大きく、捕集効率が高い反面、膜厚が比較的薄く、繊維同士の重なりが多いために多くの微粒子を保塵することができず、繊維1本当たりの捕集効率の高さが有効に発揮されていない。
【0030】
これに対して、このエアフィルタ用濾材は、繊維化し得るポリテトラフルオロエチレンと、繊維化しない非熱溶融加工性成分と、融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分と、の3成分を主として含んで構成されているため、従来のPTFE多孔膜と比べて、比較的太い繊維により空隙を多くして膜厚を増やすことで保塵量を高めることが可能になっている。
【0031】
第10観点に係るエアフィルタパックは、第1観点から第9観点のいずれかに係るエアフィルタ用濾材を備え、エアフィルタ用濾材が山折りおよび谷折りが交互に繰り返されたジグザグ形状に加工されて構成されている。なお、「フィルタパック」は、特に限定されるものではないが、例えば、フラットなシート状のものではなく、山折りおよび谷折りを交互に行うことで折り畳まれたジグザグ形状であり、任意の枠体に収容可能となるように整形されているものであってよい。
【0032】
第11観点に係るエアフィルタユニットは、第1観点から第9観点のいずれかに係るエアフィルタ用濾材または第10観点に係るフィルタパックと、エアフィルタ用濾材またはフィルタパックを保持する枠体と、を備えている。
【0033】
第12観点に係るエアフィルタ用濾材の製造方法は、気体中の塵を捕集するエアフィルタ用濾材の製造方法であって、フッ素樹脂を主として含む、第1の多孔膜および第2の多孔膜を得るステップと、第1の多孔膜を第2の多孔膜よりも気流の上流側に配置するステップと、気流中の塵の一部を捕集するプレ捕集材を第1の多孔膜よりも気流の上流側に配置するステップと、を備えている。プレ捕集材は、空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失が15Pa以上55Pa未満であり、粒子径0.3μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの粒子の捕集効率が25%以上80%未満であり、厚みが0.4mm以下であり、次式:PF値={−log((100−捕集効率(%))/100)}/(圧力損失(Pa)/1000)で定められるPF値が7以上15以下である。第1の多孔膜と第2の多孔膜を積層したときのPF値に対するプレ捕集材のPF値の割合である「プレ捕集材のPF値/第1の多孔膜と第2の多孔膜を積層したときのPF値」の値が、0.20以上0.45以下である。そして、当該製造方法は、第1の多孔膜と第2の多孔膜とプレ捕集材とが、熱ラミネートされることで一体化するステップをさらに備えている。
【0034】
なお、プレ捕集材の上記PF値は、7以上13以下であることが好ましい。
【0035】
このエアフィルタ用濾材の製造方法によれば、捕集効率が高く圧力損失が低いだけでなく、保塵量も高めたエアフィルタ用濾材を得ることが可能になる。
【0036】
第13観点に係るエアフィルタ用濾材の製造方法は、第12観点に係るエアフィルタ用濾材の製造方法であって、第1の多孔膜を支持する上流通気性支持材を第1の多孔膜よりも気流の上流側に配置するステップをさらに備えている。
【0037】
なお、プレ捕集材は、第1の多孔膜よりも気流の上流側に配置すればよく、上流通気性支持材よりも気流の上流側に配置してもよいし、上流通気性支持材よりも気流の下流側に配置してもよい。
【0038】
このエアフィルタ用濾材の製造方法によれば、得られるエアフィルタ用濾材の上流側における強度を向上させることが可能になる。
【0039】
第14観点に係るエアフィルタ用濾材の製造方法は、第12観点または第13観点に係るエアフィルタ用濾材の製造方法であって、第2の多孔膜を支持する下流通気性支持材を第2の多孔膜よりも気流の下流側に配置するステップをさらに備えている。
【0040】
このエアフィルタ用濾材の製造方法によれば、得られるエアフィルタ用濾材の下流側における強度を向上させることが可能になる。
【発明の効果】
【0041】
本発明に係るエアフィルタ用濾材、フィルタパック、または、エアフィルタユニットによれば、捕集効率が高く圧力損失が低いだけでなく、保塵量も高めることが可能になる。
【0042】
また、本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法によれば、捕集効率が高く圧力損失が低いだけでなく、保塵量も高めたエアフィルタ用濾材を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本実施形態に係る5層構造の濾材の層構成を示す概略断面図である。
図2】変形例に係る6層構造の濾材の層構成を示す概略断面図である。
図3】変形例に係る3層構造の濾材の層構成を示す概略断面図である。
図4】本実施形態のフィルタパックの外観斜視図である。
図5】本実施形態のエアフィルタユニットの外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、エアフィルタ用濾材(以降、単に濾材ともいう)、フィルタパック、エアフィルタユニット、およびエアフィルタ用濾材の製造方法について、実施形態を例に挙げて説明する。
【0045】
(1)エアフィルタ用濾材
図1に、本実施形態に係る5層構造のエアフィルタ用濾材1の概略断面図を示す。
【0046】
エアフィルタ用濾材1は、気体中の塵を捕集するエアフィルタ用濾材であって、気流の上流側から順に、プレ捕集材10と、任意の上流通気性支持材21と、第1の多孔膜31と、第2の多孔膜32と、任意の下流通気性支持材22と、を備えている。
【0047】
第1の多孔膜31は、フッ素樹脂を主として含んでいる。第2の多孔膜32は、フッ素樹脂を主として含み、第1の多孔膜31よりも気流の下流側に互いに隣接するように配置されている。上流通気性支持材21は、第1の多孔膜31よりも気流の上流側に配置され、第1の多孔膜31を支持する。下流通気性支持材22は、第2の多孔膜32よりも気流の下流側に配置され、第2の多孔膜32を支持する。プレ捕集材10は、第1の多孔膜31よりも気流の上流側(本実施形態では、上流通気性支持材21よりも気流の上流側)に配置され、気流中の塵の一部を捕集する。プレ捕集材10は、空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失が15Pa以上55Pa未満であり、粒子径0.3μmのNaClの捕集効率が25%以上80%未満であり、厚みが0.4mm以下であり、次式:PF値={−log((100−捕集効率(%))/100)}/(圧力損失(Pa)/1000)で定められるPF値が7以上15以下である。第1の多孔膜31と第2の多孔膜32を積層したときのPF値に対するプレ捕集材10のPF値の割合である「プレ捕集材10のPF値/第1の多孔膜31と第2の多孔膜32を積層したときのPF値」の値が、0.20以上0.45以下である。
【0048】
以下、各層および各層間の関係について具体的に説明する。
【0049】
(2)多孔膜
第1の多孔膜31および第2の多孔膜32はいずれも、主としてフッ素樹脂を含んで構成されており、図示しないフィブリル(繊維)とフィブリルに接続されたノード(結節部)とを有する多孔質な膜構造を有している。
【0050】
ここで、「主として」とは、複数種類の成分を含有する場合にはフッ素樹脂が最も多く含有されていることを意味する。第1の多孔膜31および第2の多孔膜32は、例えば、構成成分全体の50重量%を超えてフッ素樹脂が含有されていてもよい。すなわち、第1の多孔膜31および第2の多孔膜32は、フッ素樹脂と異なる成分を50重量%未満含有してもよい。
【0051】
フッ素樹脂と異なる成分としては、例えば、後述する繊維化しない非溶融加工性成分(B成分)である無機フィラーが挙げられる。第1の多孔膜31は気流の上流側(図1の上方)に配され、第2の多孔膜32は、第1の多孔膜31よりも気流の下流側(図1の下方)に配される。
【0052】
第1の多孔膜31と第2の多孔膜32とは、互いに同じ膜構造を有していてもよいし、互いに異なる膜構造を有していてもよい。
【0053】
第1の多孔膜31および第2の多孔膜32に用いられるフッ素樹脂は、1種類の成分からなってもよく、2種以上の成分からなってもよい。また、2種以上の成分からなるフッ素樹脂としては、例えば、繊維化し得るPTFE(以降、A成分ともいう)、繊維化しない非熱溶融加工性成分(以降、B成分ともいう)、および融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分(以降、C成分ともいう)の3成分の混合物が挙げられる。第1の多孔膜31は、好ましくは、これら3種の成分の組み合わせからなる。これら3種の成分からなる第1の多孔膜31は、従来の繊維化し得るPTFE(高分子量PTFE)多孔膜と比べ、空隙が多く、膜厚の厚い膜構造を有していることで、気体中の微粒子を濾材の厚み方向の広い領域で捕集でき、これにより、保塵量を向上させることができる。このような観点からは、第1の多孔膜31だけでなく第1の多孔膜31および第2の多孔膜32の両方が、これら3種の成分からなることがより好ましい。これにより、濾材1全体の厚みを十分に確保でき、保塵量がより向上する。
【0054】
以下、上記3種の成分についてより詳細に説明する。なお、第1の多孔膜31および第2の多孔膜32のいずれにも該当する内容に関しては、これらを区別することなく、単に「多孔膜」との表現を使って説明する。
【0055】
(2−1)A成分:繊維化し得るPTFE
繊維化し得るPTFEは、例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)の乳化重合、または懸濁重合から得られた高分子量PTFEである。ここでいう高分子量とは、多孔膜作成時の延伸の際に繊維化しやすく、繊維長の長いフィブリルが得られるものであって、標準比重(SSG)が、2.130〜2.230であり、溶融粘度が高いため実質的に溶融流動しない大きさの分子量をいう。繊維化し得るPTFEのSSGは、繊維化しやすく、繊維長の長いフィブリルが得られる観点から、2.130〜2.190が好ましく、2.140〜2.170が更に好ましい。SSGが高すぎると、A〜Cの各成分の混合物の延伸性が悪化するおそれがあり、SSGが低すぎると、圧延性が悪化して、多孔膜の均質性が悪化し、多孔膜の圧力損失が高くなるおそれがある。また、繊維化しやすく、繊維長の長いフィブリルが得られる観点から、乳化重合で得られたPTFEが好ましい。標準比重(SSG)は、ASTM D 4895に準拠して測定される。
【0056】
繊維化性の有無、すなわち、繊維化し得るか否かは、TFEの重合体から作られた高分子量PTFE粉末を成形する代表的な方法であるペースト押出しが可能か否かによって判断できる。通常、ペースト押出しが可能であるのは、高分子量のPTFEが繊維化性を有するからである。ペースト押出しで得られた未焼成の成形体に実質的な強度や伸びがない場合、例えば伸びが0%で、引っ張ると切れるような場合は繊維化性がないとみなすことができる。
【0057】
上記高分子量PTFEは、変性ポリテトラフルオロエチレン(以下、変性PTFEという)であってもよいし、ホモポリテトラフルオロエチレン(以下、ホモPTFEという)であってもよいし、変性PTFEとホモPTFEの混合物であってもよい。ホモPTFEは、特に限定されず、特開昭53−60979号公報、特開昭57−135号公報、特開昭61−16907号公報、特開昭62−104816号公報、特開昭62−190206号公報、特開昭63−137906号公報、特開2000−143727号公報、特開2002−201217号公報、国際公開第2007/046345号パンフレット、国際公開第2007/119829号パンフレット、国際公開第2009/001894号パンフレット、国際公開第2010/113950号パンフレット、国際公開第2013/027850号パンフレット等で開示されているホモPTFEなら好適に使用できる。中でも、高い延伸特性を有する特開昭57−135号公報、特開昭63−137906号公報、特開2000−143727号公報、特開2002−201217号公報、国際公開第2007/046345号パンフレット、国際公開第2007/119829号パンフレット、国際公開第2010/113950号パンフレット等で開示されているホモPTFEが好ましい。
【0058】
変性PTFEは、TFEと、TFE以外のモノマー(以下、変性モノマーという)とからなる。変性PTFEには、変性モノマーにより均一に変性されたもの、重合反応の初期に変性されたもの、重合反応の終期に変性されたものなどが挙げられるが、特にこれらに限定されない。変性PTFEは、例えば、特開昭60−42446号公報、特開昭61−16907号公報、特開昭62−104816号公報、特開昭62−190206号公報、特開昭64−1711号公報、特開平2−261810号公報、特開平11−240917、特開平11−240918、国際公開第2003/033555号パンフレット、国際公開第2005/061567号パンフレット、国際公開第2007/005361号パンフレット、国際公開第2011/055824号パンフレット、国際公開第2013/027850号パンフレット等で開示されているものを好適に使用できる。中でも、高い延伸特性を有する特開昭61−16907号公報、特開昭62−104816号公報、特開昭64−1711号公報、特開平11−240917、国際公開第2003/033555号パンフレット、国際公開第2005/061567号パンフレット、国際公開第2007/005361号パンフレット、国際公開第2011/055824号パンフレット等で開示されている変性PTFEが好ましい。
【0059】
変性PTFEは、TFEに基づくTFE単位と、変性モノマーに基づく変性モノマー単位とを含む。変性モノマー単位は、変性PTFEの分子構造の一部分であって変性モノマーに由来する部分である。変性PTFEは、変性モノマー単位が全単量体単位の0.001〜0.500重量%含まれることが好ましく、好ましくは、0.01〜0.30重量%含まれる。全単量体単位は、変性PTFEの分子構造における全ての単量体に由来する部分である。
【0060】
変性モノマーは、TFEとの共重合が可能なものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)等のパーフルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン(CTFE)等のクロロフルオロオレフィン;トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン(VDF)等の水素含有フルオロオレフィン;パーフルオロビニルエーテル;パーフルオロアルキルエチレン(PFAE)、エチレン等が挙げられる。用いられる変性モノマーは1種であってもよいし、複数種であってもよい。
【0061】
パーフルオロビニルエーテルは、特に限定されず、例えば、下記一般式(1)で表されるパーフルオロ不飽和化合物等が挙げられる。
【0062】
CF2=CF−ORf・・・(1)
式中、Rfは、パーフルオロ有機基を表す。
【0063】
本明細書において、パーフルオロ有機基は、炭素原子に結合する水素原子が全てフッ素原子に置換されてなる有機基である。上記パーフルオロ有機基は、エーテル酸素を有していてもよい。
【0064】
パーフルオロビニルエーテルとしては、例えば、上記一般式(1)において、Rfが炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基であるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)が挙げられる。パーフルオロアルキル基の炭素数は、好ましくは1〜5である。PAVEにおけるパーフルオロアルキル基としては、例えば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられる。PAVEとしては、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)が好ましい。
【0065】
上記パーフルオロアルキルエチレン(PFAE)は、特に限定されず、例えば、パーフルオロブチルエチレン(PFBE)、パーフルオロヘキシルエチレン(PFHE)等が挙げられる。
【0066】
変性PTFEにおける変性モノマーとしては、HFP、CTFE、VDF、PAVE、PFAE及びエチレンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0067】
ホモPTFEは、特に、繊維化しやすく、繊維長の長いフィブリルが得られる観点から、繊維化し得るPTFEの50重量%を超えて含有されていることが好ましい。
【0068】
なお、繊維化し得るPTFEは、上記した成分を複数組み合わせたものであってよい。
【0069】
繊維化し得るPTFEは、多孔膜の繊維構造を維持する観点から、多孔膜の50重量%を超えて含有されているのが好ましい。
【0070】
(2−2)B成分:繊維化しない非熱溶融加工性成分
繊維化しない非熱溶融加工性成分は、主に結節部において非繊維状の粒子として偏在し、繊維化し得るPTFEが繊維化されるのを抑制する働きをする。
【0071】
繊維化しない非熱溶融加工性成分としては、例えば、低分子量PTFE等の熱可塑性を有する成分、熱硬化性樹脂、無機フィラー、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0072】
熱可塑性を有する成分は、融点が320℃以上であり、溶融粘度が高い方が好ましい。例えば低分子量PTFEは溶融粘度が高いため,融点以上の温度で加工しても結節部に留まることができる。本明細書において、低分子量PTFEとは、数平均分子量が60万以下、融点が320℃以上335℃以下、380℃での溶融粘度が100Pa・s〜7.0×105Pa・sのPTFEである(特開平10−147617号公報参照)。
【0073】
低分子量PTFEの製造方法としては、TFEの懸濁重合から得られる高分子量PTFE粉末(モールディングパウダー)またはTFEの乳化重合から得られる高分子量PTFE粉末(ファインパウダー)と特定のフッ化物とを高温下で接触反応させて熱分解する方法(特開昭61−162503号公報参照)や、上記高分子量PTFE粉末や成形体に電離性放射線を照射する方法(特開昭48−78252号公報参照)、また連鎖移動剤とともにTFEを直接重合させる方法(国際公開第2004/050727号パンフレット,国際公開第2009/020187号パンフレット,国際公開第2010/114033号パンフレット等参照)等が挙げられている。低分子量PTFEは、繊維化し得るPTFEと同様、ホモPTFEであってもよく、前述の変性モノマーが含まれる変性PTFEでもよい。
【0074】
低分子量PTFEは繊維化性が無い。繊維化性の有無は、上述した方法で判断できる。低分子量PTFEは、ペースト押出しで得られた未焼成の成形体に実質的な強度や伸びがなく、例えば伸びが0%で、引っ張ると切れる。
【0075】
低分子量PTFEは、特に限定されないが、380℃での溶融粘度が1000Pa・s以上であることが好ましく、5000Pa・s以上であることがより好ましく、10000Pa・s以上であることがさらに好ましい。このように、溶融粘度が高いと、多孔膜の製造時に、C成分として繊維化しない熱溶融加工可能な成分が溶融しても、繊維化しない非熱溶融加工性成分は結節部に留まることができ、繊維化を抑えることができる。
【0076】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ、シリコーン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリイミド、フェノール、およびこれらの混合物等の各樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂は、後述する共凝析の作業性の観点から、未硬化状態で水分散された樹脂が望ましく用いられる。これら熱硬化性樹脂は、いずれも市販品として入手することもできる。
【0077】
無機フィラーとしては、タルク、マイカ、ケイ酸カルシウム、ガラス繊維、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭素繊維、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、およびこれらの混合物等が挙げられる。中でも、繊維化しうる高分子量のPTFEとの親和性および比重の点から、タルクが好ましく用いられる。無機フィラーは、多孔膜の製造時に安定な分散体を形成できる観点から、粒子径3μm以上20μm以下のものが好ましく用いられる。粒子径は、平均粒径であり、レーザー回折・散乱法によって測定される。これら無機フィラーは、いずれも市販品として入手することもできる。
【0078】
なお、繊維化しない非溶融加工性成分は、上記した成分を複数組み合わせたものであってよい。
【0079】
繊維化しない非熱溶融加工性成分は、多孔膜の1重量%以上50重量%以下含有されることが好ましい。繊維化しない非熱溶融加工性成分の含有量が50重量%以下であることで、多孔膜の繊維構造を維持させやすい。繊維化しない非熱溶融加工性成分は、好ましくは20重量%以上40重量%以下含有され、より好ましくは30重量%含有される。20重量%以上40重量%以下含有されることで、繊維化し得るPTFEの繊維化をより有効に抑えることができる。
【0080】
(2−3)C成分:融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分
融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分(以下、繊維化しない熱溶融加工可能な成分ともいう)は、溶融時に流動性を有することにより、多孔膜の製造時(延伸時)に溶融して結節部において固まることができ、多孔膜全体の強度を高めて、後工程で圧縮等されることがあってもフィルタ性能の劣化を抑えることができる。
【0081】
繊維化しない熱溶融加工可能な成分は,380℃において10000Pa・s未満の溶融粘度を示すことが好ましい。なお、繊維化しない熱溶融加工可能な成分の融点は、示差走査熱量計(DSC)により昇温速度10℃/分で融点以上まで昇温して一度完全に溶融させ、10℃/分で融点以下まで冷却した後、10℃/分で再び昇温したときに得られる融解熱曲線のピークトップとする。
【0082】
繊維化しない熱溶融加工可能な成分としては、熱溶融可能なフルオロポリマー、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル、ポリアミド等の各樹脂、あるいはこれらの混合物であり、多孔膜の製造時の延伸温度における溶融性、流動性を十分に発揮しうるものが挙げられる。中でも、多孔膜製造時の延伸温度での耐熱性に優れ、耐薬品性に優れる点から、熱溶融可能なフルオロポリマーが好ましい。熱溶融可能なフルオロポリマーは、下記一般式(2)
RCF=CR2・・・(2)
(式中、Rはそれぞれ独立して、H、F、Cl、炭素原子1〜8個のアルキル、炭素原子6〜8個のアリール、炭素原子3〜10個の環状アルキル、炭素原子1〜8個のパーフルオロアルキルから選択される。この場合に、全てのRが同じであってもよく、また、いずれか2つのRが同じで残る1つのRがこれらと異なってもよく、全てのRが互いに異なってもよい。)で示される少なくとも1種のフッ素化エチレン性不飽和モノマー、好ましくは2種以上のモノマー、から誘導される共重合単位を含むフルオロポリマーが挙げられる。
【0083】
一般式(2)で表される化合物の有用な例としては、限定されないが、フルオロエチレン、VDF、トリフルオロエチレン、TFE、HFP等のパーフルオロオレフィン、CTFE、ジクロロジフルオロエチレン等のクロロフルオロオレフィン、PFBE、PFHE等の(パーフルオロアルキル)エチレン、パーフルオロ−1,3−ジオキソールおよびその混合物等が挙げられる。
【0084】
また、フルオロポリマーは、少なくとも1種類の上記一般式(2)で示されるモノマーと、
上記一般式(1)および/または下記一般式(3)
2C=CR2・・・(3)
(式中、Rは、それぞれ独立して、H、Cl、炭素原子1〜8個のアルキル基、炭素原子6〜8個のアリール基、炭素原子3〜10個の環状アルキル基から選択される。この場合に、全てのRが同じであってもよく、また、いずれか2以上のRが同じでこれら2以上のRと残る他のRとが異なってもよく、全てのRが互いに異なってもよい。前記他のRは、複数ある場合は互いに異なってよい。)で示される少なくとも1種の共重合性コモノマーとの共重合から誘導されるコポリマーも含み得る。
【0085】
一般式(1)で表される化合物の有用な例としては、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)が挙げられる。このPAVEとしては、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)が好ましい。
【0086】
一般式(3)で表される化合物の有用な例としては、エチレン、プロピレン等が挙げられる。
【0087】
フルオロポリマーのより具体的な例としては、フルオロエチレンの重合から誘導されるポリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン(VDF)の重合から誘導されるポリフッ化ビニリデン(PVDF)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)の重合から誘導されるポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、2種以上の異なる上記一般式(2)で示されるモノマーの共重合から誘導されるフルオロポリマー、少なくとも1種の上記一般式(2)のモノマーと、少なくとも1種の上記一般式(1)および/または少なくとも1種の上記一般式(3)で示されるモノマーの共重合から誘導されるフルオロポリマーが挙げられる。
【0088】
かかるポリマーの例は、VDFおよびヘキサフルオロプロピレン(HFP)から誘導される共重合体単位を有するポリマー、TFEおよびTFE以外の少なくとも1種の共重合性コモノマー(少なくとも3重量%)から誘導されるポリマーである。後者の種類のフルオロポリマーとしては、TFE/PAVE共重合体(PFA)、TFE/PAVE/CTFE共重合体、TFE/HFP共重合体(FEP)、TFE/エチレン共重合体(ETFE)、TFE/HFP/エチレン共重合体(EFEP)、TFE/VDF共重合体、TFE/VDF/HFP共重合体、TFE/VDF/CTFE共重合体等、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0089】
なお、繊維化しない熱溶融加工可能な成分は、上記した成分を複数組み合わせたものであってよい。
【0090】
繊維化しない熱溶融加工可能な成分の多孔膜における含有量は、0.1重量%以上20重量%未満であることが好ましい。20重量%未満であることで、繊維化しない熱溶融加工可能な成分が多孔膜中の結節部以外の部分にも分散して多孔膜の圧力損失が高くなることが抑制される。また、20重量%未満であることで、後述する伸長面積倍率が40倍以上の高倍率での延伸を行いやすくなる。繊維化しない熱溶融加工可能な成分の多孔膜における含有量が0.1重量%以上であることで、後工程において圧縮力等が与えられたとしても多孔膜のフィルタ性能の劣化を十分に抑えやすくなる。繊維化しない熱溶融加工可能な成分の多孔膜における含有量は、15重量%以下であるのが好ましく、10重量%以下であるのがより好ましい。また、繊維化しない熱溶融加工可能な成分の多孔膜における含有量は、多孔膜の強度を確保する観点から、0.5重量%以上であるのが好ましい。中でも、5重量%程度であるのが特に好ましい。
【0091】
繊維化しない熱溶融加工可能な成分の含有率は、伸長面積倍率40倍以上800倍以下での延伸を良好に行うために、10重量%以下であるのが好ましい。
【0092】
上記説明した3種の成分からなる多孔膜では、フィブリルは主にA成分からなり、結節部はA〜Cの成分からなる。このような結節部は、多孔膜中で比較的大きく形成され、これにより厚みの厚い多孔膜が成形される。また、このような結節部は、繊維化しない熱溶融加工可能な成分を含むことで比較的固く、多孔膜を厚み方向に支える柱のような役割を果たすため、通気性支持材の積層や、後述するプリーツ加工などの後工程において厚み方向の圧縮力等を受けることがあっても多孔膜のフィルタ性能が低下することを抑えることが可能になる。
【0093】
(2−4)多孔膜の他の性質
第1の多孔膜31および第2の多孔膜32は、次式に従って求まる充填率が1%以上20%以下であることが好ましく、2%以上10%以下であることがより好ましい。
【0094】
充填率(%)={1−(多孔膜中の空隙体積/多孔膜の体積)}×100
第1の多孔膜31と第2の多孔膜32の各平均孔径は、1.6μmを超えることが好ましく、第1の多孔膜31の平均孔径が3.0μm以上3.9μm以下であり、第2の多孔膜32の平均孔径が1.6μmを超え3.0μm未満であることがより好ましい。これにより、第1の多孔膜31の保塵量を第2の多孔膜32の保塵量より大きくしやすくなり、濾材1全体の保塵量を向上させやすくなる。
【0095】
平均孔径は、ASTM F316−86に準じて測定される。平均孔径は、平均流路径ともいう。
【0096】
第1の多孔膜31の膜厚は、保塵量および捕集効率を高める観点から、10μmを超えることが好ましく、40μmを超えることがより好ましい。第1の多孔膜31の膜厚の上限値は、特に限定されないが、例えば100μmであってよい。また、第2の多孔膜32の膜厚は、例えば、第2の多孔膜32が上記3種の成分からなる場合は、10μmを超えるのが好ましく、40μmを超えるのがより好ましい。第2の多孔膜32の膜厚の上限値は、特に限定されないが、例えば100μmであってよい。
【0097】
膜厚は、測定対象を5枚重ねて全体の膜厚を測定し、その値を5で割った数値を1枚の膜厚とした。
【0098】
第1の多孔膜31と第2の多孔膜32とは、保塵量が等しくてもよいし異なっていてもよい。濾材1の捕集効率が高いままに濾材1の保塵量を大幅に向上させる観点から、第1の多孔膜31の保塵量と第2の多孔膜32の保塵量とに差を設け、第1の多孔膜31の保塵量が第2の多孔膜32の保塵量よりも大きいことが好ましい。
【0099】
なお、保塵量は、個数中位径0.25μmのポリアルファオレフィン(PAO)粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で連続通風し、圧力損失が250Pa分だけ上昇したときの前記ポリアルファオレフィン粒子の保塵量をいい、以降の説明で、単に保塵量ともいう。
【0100】
第1の多孔膜31の保塵量と第2の多孔膜32の保塵量との比較は、例えば、1枚の多孔膜の10〜50箇所で測定した保塵量の平均値を用いて行うことができる。各測定箇所における保塵量は、ポリアルファオレフィン粒子を用いて後述する要領に従って測定される。特に限定されないが、第1の多孔膜31の保塵量は、例えば、25g/m2以上35g/m2以下である。
【0101】
本実施形態の濾材1において、第1の多孔膜31の圧力損失と第2の多孔膜32の圧力損失とは互いに等しくてもよいし異なっていてもよいが、圧力損失が低く捕集効率が高い物性を維持させたたままで保塵量を高める観点から、第1の多孔膜31の圧力損失が第2の多孔膜32の圧力損失よりも小さいことが好ましい。
【0102】
また、第1の多孔膜31の捕集効率と第2の多孔膜32の捕集効率とは互いに等しくてもよいし異なっていてもよいが、圧力損失が低く捕集効率が高い物性を維持させたたままで保塵量を高める観点から、第2の多孔膜32の捕集効率のほうが第1の多孔膜31の捕集効率よりも高いことが好ましい。
【0103】
このように、第1の多孔膜31の圧力損失を第2の多孔膜32の圧力損失よりも小さくし、第2の多孔膜32の捕集効率を第1の多孔膜31の捕集効率がよりも高くすることで、上流側の第1の多孔膜31では、微粒子を捕集し過ぎることなく、ある程度下流側に通過させることが可能になる。さらに、下流側の第2の多孔膜32では、十分な捕集を行うことが可能になる。これにより、濾材1の厚み方向の広域にわたって捕集を行うことができ、上流側の層で早期に目詰りが生じることを抑制できる。
【0104】
なお、圧力損失は、空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失をいい、以降の説明では、単に圧力損失ともいう。
【0105】
なお、捕集効率は、特に断った場合を除いて、粒子径0.3μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの前記粒子の捕集効率をいい、以降の説明で単に捕集効率ともいう。
【0106】
第1の多孔膜31の圧力損失と第2の多孔膜32の圧力損失の比較は、例えば、1枚の多孔膜の10〜50箇所で測定した圧力損失の平均値を用いて行うことができる。各測定箇所における圧力損失は、後述する要領に従って測定される。第1の多孔膜31の圧力損失と第2の多孔膜32の圧力損失との差の大きさは、特に限定されないが、例えば10Pa以上130Pa以下であってよい。また、特に限定されないが、第1の多孔膜31の圧力損失は、30Pa以上90Pa以下でよく、40Pa以上80Pa以下でもよい。第2の多孔膜32の圧力損失は、40Pa以上160Pa以下でよく、50Pa以上100Pa以下でもよい。
【0107】
第1の多孔膜31の捕集効率と第2の多孔膜32の捕集効率の比較は、例えば、1枚の多孔膜の10〜50箇所で測定した捕集効率の平均値を用いて行うことができる。各測定箇所における捕集効率は、粒子径0.3μmのNaCl粒子を用いて後述する要領に従って測定される。特に限定されないが、第1の多孔膜31の捕集効率は、例えば、95%以上99%以下であり、第2の多孔膜32の捕集効率は、例えば、99%以上99.99%以下である。
【0108】
上述のように、上流側の第1の多孔膜31と下流側の第2の多孔膜とを異ならせたことで保塵量を高められる理由は、第1の多孔膜が第2の多孔膜よりも平均孔径が広がっていることで、微粒子を下流側に流せるためであると考えられる。すなわち、上流側層である第1の多孔膜31の平均孔径が広がり、粗になった(具体的には、平均孔径が3.0μm以上3.9μm以下)ことで、微粒子を濾材1の深さ(厚み)方向に通過させ、濾材1の厚み方向により広い範囲で捕集が行われるようになり、その結果、保塵量を向上させることができたものと考えられる。特に、上記3種の成分を用いて作製した第1の多孔膜31および第2の多孔膜32を用いた場合は、厚みを稼げるため、捕集可能な厚み方向の領域を確保でき、保塵量が高められたとものと考えられる。
【0109】
第1の多孔膜31および第2の多孔膜32は、例えば、後述するエアフィルタ用濾材の製造方法に含まれる多孔膜を作製する方法に従って作製される。
【0110】
(3)通気性支持材
上流通気性支持材21は、第1の多孔膜31の上流側に配置されており、第1の多孔膜31を支持する。このため第1の多孔膜31の膜厚が薄い等で自立が困難であっても、上流通気性支持材21の支持により第1の多孔膜31を立たせることが可能になる。
【0111】
下流通気性支持材22は、第2の多孔膜32の下流側に配置されており、第2の多孔膜32を支持する。なお、下流通気性支持材22は、濾材1の最下流側層を構成するように配置されている。第2の多孔膜32も同様に、膜厚が薄い等で自立が困難であっても、下流通気性支持材22の支持により第2の多孔膜32を立たせることが可能になる。
【0112】
上流通気性支持材21および下流通気性支持材22の材質及び構造は、特に限定されないが、例えば、不織布、織布、金属メッシュ、樹脂ネットなどが挙げられる。なかでも、強度、捕集性、柔軟性、作業性の点からは熱融着性を有する不織布が好ましい。不織布は、構成繊維の一部または全てが芯/鞘構造を有する不織布、低融点材料からなる繊維の層と高融点材料からなる繊維の層の2層からなる2層不織布、表面に熱融着性樹脂が塗布された不織布が好ましい。このような不織布としては、例えば、スパンボンド不織布が挙げられる。また、芯/鞘構造の不織布は、芯成分が鞘成分よりも融点が高いものが好ましい。例えば、芯/鞘の各材料の組み合わせとしては、例えば、PET/PE、高融点ポリエステル/低融点ポリエステルが挙げられる。2層不織布の低融点材料/高融点材料の組み合わせとしては、例えば、PE/PET、PP/PET、PBT/PET、低融点PET/高融点PETが挙げられる。表面に熱融着性樹脂が塗布された不織布としては、例えばPET不織布にEVA(エチレン酢酸ビニル共重合樹脂)が塗布されたもの、PET不織布にオレフィン樹脂が塗布されたものが挙げられる。
【0113】
不織布の材質は、特に限定されず、ポリオレフィン(PE、PP等)、ポリアミド、ポリエステル(PET等)、芳香族ポリアミド、またはこれらの複合材などを用いることができる。
【0114】
上流通気性支持材21は、加熱により上流通気性支持材21の一部が溶融することで、或いはホットメルト樹脂の溶融により、アンカー効果を利用して、或いは反応性接着剤等の接着を利用して、第1の多孔膜31に接合することができる。また、下流通気性支持材22も、同様に第2の多孔膜32に対して接合することができる。
【0115】
上流通気性支持材21と下流通気性支持材22とは、同種のものであってもよく、異なる種類のものであってもよい。
【0116】
上流通気性支持材21および下流通気性支持材22は、いずれも上述した多孔膜と比較すると、圧力損失、捕集効率および保塵量のいずれも極めて低く、実質的に0とみなすこともできるものであってもよい。
【0117】
上流通気性支持材21および下流通気性支持材22の各圧力損失は、例えば、いずれも、10Pa以下であることが好ましく、5Pa以下であることがより好ましく、1Pa以下であることがさらに好ましい。
【0118】
また、上流通気性支持材21および下流通気性支持材22の粒子径0.3μmのNaClの各捕集効率は、例えば、いずれも実質的に0あるいは略0とみなすことができるものであってもよい。
【0119】
また、上流通気性支持材21および下流通気性支持材22の各厚みは、例えば、いずれも、0.3mm以下であることが好ましく、0.25mm以下であることがより好ましい。
【0120】
また、上流通気性支持材21および下流通気性支持材22の各目付は、例えば、いずれも、20g/m2以上50g/m2以下であることが好ましい。
【0121】
(4)プレ捕集材
プレ捕集材10は、第1の多孔膜31よりも上流側(本実施形態では、上流通気性支持材21の上流側)に配置されており、気流中の塵の一部を捕集することができる。
【0122】
プレ捕集材10は、圧力損失が15Pa以上55Pa未満であり、捕集効率が25%以上80%未満であり、厚みが0.4mm以下であり、PF値が7以上15以下である。
【0123】
プレ捕集材10は、特に限定されないが、メルトブローン法、エレクトロスピニング法、海島法およびこれらのハイブリット法の1つにより製造された繊維材料で構成された不織布あるいは繊維層構造体であることが好ましい。ハイブリット法には、例えば、メルトスピニング法あるいはエレクトレットブローン法が含まれる。海島法は、例えば、複数の吐出口から吐出させることで繊維を構成する場合において、吐出経路によって原料に違いを設け、一部の原料によって海部分を構成させ、他の異なる原料によって島部分を構成させ、断面が海島構造となるようにする方法である。ここで、海島の二成分または複数成分のポリマーを紡糸し、後加工にて海成分を溶かすことで、島部分を残して繊維とすることができる。なお、吐出経路による原料の組み合わせにより、かさ密度やストレッチ性等を調節することが可能である。
【0124】
メルトブローン法では、溶融されたポリマーを押出機によってノズルから吐出させながら、加熱された空気をノズルに沿うように吹き出すことで、糸を形成させる。ここで、ノズルからの単位時間当たりのポリマーの吐出量や加熱された空気の吹き出し速度等を調節することにより、より径の細い糸を得ることができる。また、当該糸の物性は、用いるポリマーの溶融粘度によっても変化させることができる。
【0125】
プレ捕集材10の圧力損失は、濾材1全体の圧力損失を低く抑える観点から、15Pa以上55Pa未満である。
【0126】
プレ捕集材10の塵の捕集効率は、25%以上80%未満であり、40%以上80%未満であることがより好ましい。プレ捕集材10の捕集効率が低すぎると、第1の多孔膜31や第2の多孔膜32の捕集負荷が高くなってしまい塵による目詰まりが早期に生じてしまう。また、プレ捕集材10の捕集効率が高すぎるとプレ捕集材10自体の目詰まりが無視できなくなり、やはり早期に目詰まりが生じてしまう。
【0127】
プレ捕集材10の厚さは、例えば0.4mm以下である。プレ捕集材10の厚さが0.4mmを超える場合、エアフィルタユニット60の構造に起因した圧力損失(構造抵抗)が大きくなってしまう。
【0128】
プレ捕集材10のPF値は、第1の多孔膜31や第2の多孔膜32への捕集負荷を抑えるためのプレ捕集材10の捕集効率と、濾材全体の圧力損失を抑えるためのプレ捕集材10の圧力損失と、のバランスを良好にして濾材全体の保塵量を高める観点から、7以上15以下であり、7以上13以下であることがより好ましい。ここで、PF値は、以下の式により定められる。
【0129】
PF値={−log((100−捕集効率(%))/100)}/(圧力損失(Pa)/1000)
プレ捕集材10の繊維材料の材質は、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアミド(PA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリフッ化ビリニデン(PVdF)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリウレタン(PU)、およびこれらの混合物等が挙げられる。
【0130】
プレ捕集材10の不織布あるいは繊維層構造体における平均繊維径は、0.8μm以上2.0μm未満であることが好ましい。平均繊維径が0.8μmより小さい場合には、捕集効率は上昇するが、繊維が密な配置となるため、プレ捕集材10における圧力損失が大きく上昇してしまう。一方、平均繊維径が2μm以上の場合には、捕集効率を維持するために目付を大きくすると、プレ捕集材10の厚さが厚くなってしまい、プレ捕集材10における圧力損失が上昇してしまう。なお、この場合、目付は例えば5g/m2以上50g/m2以下であることが好ましい。繊維径は、小さすぎれば繊維間隔が密になりプレ捕集材の自体の目詰まりも無視できなくなり、また大きければ単位繊維あたりの捕集効率が低下するので、プレ捕集材10に必要な捕集効率を得るためには目付、厚みが大きくなってしまい構造抵抗が大きくなってしまうので好ましくない。
【0131】
また、プレ捕集材10が上記不織布である場合、繊維径分布の広がりを示す幾何標準偏差が、好ましくは2.5以下であり、より好ましくは2.0以下である。これは、幾何標準偏差が大きすぎると、単位繊維あたりの捕集効率が低い繊維の割合が増え、プレ捕集材に必要な捕集効率を得るためには目付、厚みを大きくする必要が出てくるためである。
【0132】
なお、平均繊維径は、次のようにして定まる。まず、試験サンプルの表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で1000〜5000倍で撮影し、撮影した1画像上で直交した2本の線を引き、これらの線と交わった繊維の像の太さを繊維径として得る。ここで、測定する繊維数は200本以上とする。こうして得られた繊維径について、横軸に繊維径、縦軸に累積頻度を採って対数正規プロットし、累積頻度が50%となる値を平均繊維径とする。繊維径の分布を表す幾何標準偏差は、上述の対数正規プロットの結果から、累積頻度50%の繊維径と累積頻度84%の繊維径を読み取り下記式より算出して得られる。
【0133】
幾何標準偏差[−]=累積頻度84%繊維径/累積頻度50%繊維径
(5)濾材全体
第1の多孔膜31と第2の多孔膜32を積層したときのPF値に対するプレ捕集材10のPF値の割合である「プレ捕集材10のPF値/第1の多孔膜31と第2の多孔膜32を積層したときのPF値」の値が、0.20以上0.45以下であり、より好ましくは0.20以上0.38以下である。濾材1全体において、プレ捕集材10と、第1の多孔膜31および第2の多孔膜32との関係を当該範囲とすることで、プレ捕集材10において目詰まりが早期に生じない程度にプレ捕集材10における塵の捕集を可能とし、下流側の第1の多孔膜31や第2の多孔膜32に対する捕集負担を適度に軽減させることができ、厚み方向における広い範囲でより多くの塵の捕集が可能となる。
【0134】
なお、ここで、上流通気性支持材21と第1の多孔膜31と第2の多孔膜32と下流通気性支持材22とが積層された状態でのPF値は、実質的に、第1の多孔膜31と第2の多孔膜32とが積層された状態でのPF値に等しい。これは、上流通気性支持材21、下流通気性支持材22が、圧力損失や捕集効率に実質的に寄与しないためである。
【0135】
また、濾材1の圧力損失は、200Pa未満であることが好ましく、70Pa以上195Pa以下であることがより好ましい。濾材1の圧力損失は、このような範囲にあることで、ガラス濾材からなるHEPAフィルタと比べ低く抑えられる。
【0136】
また、濾材1の捕集効率は、99.97%以上であることが好ましい。このような捕集効率を満たす濾材は、HEPAグレードのフィルタとして用いることができる。
【0137】
また、濾材1の保塵量は、40g/m2以上であることが好ましい。本実施形態の濾材1は、捕集効率と圧力損失のバランスを高いレベルで維持したままで、保塵量を大幅に(ガラス濾材の保塵量と同等以上に)向上させることが可能となっている。
【0138】
本実施形態の濾材1では、濾材1全体の圧力損失が200Pa未満となるような第1の多孔膜31と第2の多孔膜32とプレ捕集材10とを備え、捕集効率が99.97%以上であるという物性を維持しながら、保塵量を40g/m2以上に高めることが可能になっている。
【0139】
(6)変形例
(6−1)
図2を参照して、本実施形態のエアフィルタ用濾材1の変形例について説明する。
【0140】
上記エアフィルタ用濾材1では、気流の上流側から順に、プレ捕集材10と、任意の上流通気性支持材21と、第1の多孔膜31と、第2の多孔膜32と、任意の下流通気性支持材22と、を備えた5層構造の濾材の例を説明した。
【0141】
これに対して、例えば、図2に示すような6層構造のエアフィルタ用濾材2としてもよい。
【0142】
エアフィルタ用濾材2は、エアフィルタ用濾材1と同様に、気流の上流側から順に、プレ捕集材10と、任意の上流通気性支持材21と、第1の多孔膜31と、第2の多孔膜32と、任意の下流通気性支持材22と、を備えており、第1の多孔膜31と第2の多孔膜32との間に任意の中流通気性支持材23をさらに備えている。
【0143】
このエアフィルタ用濾材2において、プレ捕集材10と、上流通気性支持材21と、第1の多孔膜31と、第2の多孔膜32と、下流通気性支持材22とは、いずれも上記エアフィルタ用濾材1のものと同様である。
【0144】
中流通気性支持材23としては、上述した上流通気性支持材21や下流通気性支持材22と同様に通気性支持材の欄で説明したものを用いることができる。上流通気性支持材21と下流通気性支持材22と中流通気性支持材23とは、同種のものであってもよく、異なる種類のものであってもよい。
【0145】
当該エアフィルタ用濾材2の構成であっても、上記エアフィルタ用濾材1と同様に、圧力損失が200Pa未満で捕集効率が99.97%以上であるという物性を維持しながら、保塵量を40g/m2以上に高めることが可能になっている。
【0146】
なお、エアフィルタ用濾材1およびエアフィルタ用濾材2では、用いられる多孔膜の数は2つである場合を例に挙げて説明したが、これに限られず、3つ以上であってもよい。この場合には、複数の多孔膜は、気流の下流側から上流側にかけて、圧力損失の大きさが順に小さくなるよう配置されることが好ましい。
【0147】
(6−2)
上記エアフィルタ用濾材1では、気流の上流側から順に、プレ捕集材10と、任意の上流通気性支持材21と、第1の多孔膜31と、第2の多孔膜32と、任意の下流通気性支持材22と、を備えた5層構造の濾材の例を説明した。
【0148】
これに対して、例えば、図3に示すような3層構造のエアフィルタ用濾材3としてもよい。
【0149】
エアフィルタ用濾材2は、エアフィルタ用濾材1と同様に、気流の上流側から順に、プレ捕集材10と、第1の多孔膜31と、第2の多孔膜32と、を備えている。
【0150】
このエアフィルタ用濾材2において、プレ捕集材10と、第1の多孔膜31と、第2の多孔膜32とは、いずれも上記エアフィルタ用濾材1のものと同様である。
【0151】
エアフィルタ用濾材3は、上記エアフィルタ用濾材1と比べて、任意の上流通気性支持材21および任意の下流通気性支持材22が設けられていない点で、強度が弱く、自立しにくい構造ではあるが、用いられる場所の構造や設置環境によっては強度が求められないこともあり、エアフィルタ用濾材として用いることができる。
【0152】
当該エアフィルタ用濾材3の構成であっても、上記エアフィルタ用濾材1と同様に、圧力損失が200Pa未満で捕集効率が99.97%以上であるという物性を維持しながら、保塵量を40g/m2以上に高めることが可能になっている。
【0153】
なお、エアフィルタ用濾材3においても、用いられる多孔膜の数は2つに限定されず、3つ以上であってもよい。この場合には、複数の多孔膜は、気流の下流側から上流側にかけて、圧力損失の大きさが順に小さくなるよう配置されることが好ましい。
【0154】
(7)用途の例
エアフィルタ用濾材は、例えば次のような用途に用いられる。
【0155】
ULPAフィルタ(Ultra low Penetration Air Filter)(半導体製造用)、HEPAフィルタ(病院、半導体製造用)、円筒カートリッジフィルタ(産業用)、バグフィルタ(産業用)、耐熱バグフィルタ(排ガス処理用)、耐熱プリーツフィルタ(排ガス処理用)、SINBRAN(登録商標)フィルタ(産業用)、触媒フィルタ(排ガス処理用)、吸着剤付フィルタ(HDD組込み用)、吸着剤付ベントフィルタ(HDD組込み用)、ベントフィルタ(HDD組込み用等)、掃除機用フィルタ(掃除機用)、汎用複層フェルト材、ガスタービン用カートリッジフィルタ(ガスタービン向け互換品用)、クーリングフィルタ(電子機器筐体用)等の分野;
凍結乾燥用の容器等の凍結乾燥用材料、電子回路やランプ向けの自動車用換気材料、容器キャップ向け等の容器用途、電子機器向け等の保護換気用途、医療用換気用途等の換気/内圧調整分野。
【0156】
(8)フィルタパック
次に、図4を参照して、本実施形態のフィルタパックについて説明する。
【0157】
図4は、本実施形態のフィルタパック40の外観斜視図である。
【0158】
フィルタパック40は、上記説明したエアフィルタ用濾材(例えば、エアフィルタ用濾材1やエアフィルタ用濾材2等)を備えている。フィルタパック40のエアフィルタ用濾材は、山折りおよび谷折りが交互に繰り返されたジグザグ形状に加工(プリーツ加工)された加工済み濾材である。プリーツ加工は、例えば、ロータリー式折り機によって行うことができる。濾材の折り幅は、特に限定されないが、例えば25mm以上280mm以下である。フィルタパック40は、プリーツ加工が施されていることで、エアフィルタユニットに用いられた場合の濾材の折り込み面積を増やすことができ、これにより、捕集効率の高いエアフィルタユニットを得ることができる。
【0159】
フィルタパック40は、濾材のほか、エアフィルタユニットに用いられた場合のプリーツ間隔を保持するためのスペーサ(不図示)をさらに備えていてもよい。スペーサの材質は特に限定されないが、ホットメルト樹脂を好ましく用いることができる。
【0160】
(9)エアフィルタユニット
次に、図5を参照して、エアフィルタユニット60について説明する。
【0161】
図5は、本実施形態のエアフィルタユニット60の外観斜視図である。
【0162】
エアフィルタユニット60は、上記説明したエアフィルタ用濾材またはフィルタパックと、エアフィルタ用濾材またはフィルタパックを保持する枠体50と、を備えている。言い換えると、エアフィルタユニットは、濾材が枠体に保持されるように作製されてもよいし、フィルタパック40が枠体50に保持されるように作製されてもよい。図5に示すエアフィルタユニット60は、フィルタパック40と枠体50を用いて作製したものである。
【0163】
枠体50は、例えば、板材を組み合わせてあるいは樹脂を成形して作られ、フィルタパック40と枠体50の間は好ましくはシール剤によりシールされる。シール剤は、フィルタパック40と枠体50の間のリークを防ぐためのものであり、例えば、エポキシ、アクリル、ウレタン系などの樹脂製のものが用いられる。
【0164】
フィルタパック40と枠体50とを備えるエアフィルタユニット60は、平板状に延在する1つのフィルタパック40を枠体50の内側に収納するように保持させたミニプリーツ型のエアフィルタユニットであってもよく、平板状に延在するフィルタパックを複数並べて枠体に保持させたVバンク型エアフィルタユニットあるいはシングルヘッダー型エアフィルタユニットであってもよい。
【0165】
一方、濾材と枠体とを備えるエアフィルタユニットは、濾材を交互に折り返した波型形状にするとともに、交互に折り返されて形成された濾材の谷部に、例えばコルゲート加工されたセパレータが配置されたセパレータ型のエアフィルタユニットであってもよい。
【0166】
(10)エアフィルタ用濾材の製造方法
次に、本実施形態のエアフィルタ用濾材の製造方法について説明する。
【0167】
本実施形態の濾材の製造方法は、気体中の塵を捕集するエアフィルタ用濾材の製造方法であって、
(a)フッ素樹脂を主として含む、第1の多孔膜および第2の多孔膜を得るステップと、
(b)前記第1の多孔膜を前記第2の多孔膜よりも気流の上流側に配置するステップと、
(c)気流中の塵の一部を捕集するプレ捕集材を前記第1の多孔膜よりも気流の上流側に配置するステップと、
を備え、
前記プレ捕集材は、空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失が15Pa以上55Pa未満であり、粒子径0.3μmのNaClの捕集効率が25%以上80%未満であり、厚みが0.4mm以下であり、次式:PF値={−log((100−捕集効率(%))/100)}/(圧力損失(Pa)/1000)で定められるPF値が7以上15以下であり、
前記第1の多孔膜と前記第2の多孔膜を積層したときのPF値に対する前記プレ捕集材のPF値の割合である「プレ捕集材のPF値/第1の多孔膜と第2の多孔膜を積層したときのPF値」の値が、0.20以上0.45以下であり、
前記第1の多孔膜と前記第2の多孔膜と前記プレ捕集材とが、熱ラミネートされることで一体化するステップをさらに備えている。
【0168】
(a)のステップで用いられるフッ素樹脂には、上記説明したエアフィルタ用濾材に用いたのと同様のものが用いられる。なお、第1の多孔膜および第2の多孔膜は、フッ素樹脂と異なる他の成分をさらに含有させていてもよい。
【0169】
なお、プレ捕集材の上記PF値は、7以上13以下であることが好ましい。
【0170】
また、(d)前記第1の多孔膜を支持する上流通気性支持材を前記第1の多孔膜よりも気流の上流側に配置するステップをさらに備えていてもよい。そして、前記第1の多孔膜と前記第2の多孔膜と前記上流通気性支持材と前記プレ捕集材とが、熱ラミネートされることで一体化するステップをさらに備えていてもよい。
【0171】
また、(e)前記第2の多孔膜を支持する下流通気性支持材を前記第2の多孔膜よりも気流の下流側に配置するステップをさらに備えていてもよい。そして、前記第1の多孔膜と前記第2の多孔膜と前記下流通気性支持材と前記プレ捕集材とが、熱ラミネートされることで一体化するステップをさらに備えていてもよい。
【0172】
さらに、上記(d)および(e)のステップをさらに備え、前記第1の多孔膜と前記第2の多孔膜と前記上流通気性支持材と前記下流通気性支持材と前記プレ捕集材とが、熱ラミネートされることで一体化するステップをさらに備えていてもよい。
【0173】
ここで、(a)のステップで、上記説明した3種の成分を用いて第1の多孔膜および第2の多孔膜を作製する方法を例に挙げて説明する。
【0174】
上記説明したA〜Cの3種の成分の形態は、特に限定されず、例えば、後述する組成物、混合粉末、成形用材料である。まず、多孔膜の原料となる組成物、混合粉末、成形用材料について説明する。
【0175】
組成物、混合粉末、成形用材料はいずれも、上記した、A成分、B成分、C成分を含み、C成分を、全体の0.1重量%以上20重量%未満含有する。A成分、B成分、C成分はそれぞれ、多孔膜について上述した、繊維化し得るPTFE、繊維化しない非熱溶融加工性成分、繊維化しない熱熔融加工可能な成分と同様である。
【0176】
成形用材料は、例えば、気体中の微粒子を捕集するフィルタ用濾材に用いられる多孔膜を成形するための多孔膜成形用材料である。
【0177】
多孔膜の原料の形態は、後述する混合粉末であってもよく、粉末でない混合物であってもよく、また、後述する成形用材料あるいは組成物であってもよい。混合粉末としては、例えば、後述する実施例で用いられる共凝析によって得られるファインパウダーや、3種の原料のうち2種を共凝析で混合し、もう1種の成分を混合機を用いて混合した粉体、3種の原料を混合機で混合した粉体などが挙げられる。粉末でない混合物としては、例えば、多孔体(例えば多孔膜)等の成形体、3種の成分を含む水性分散体が挙げられる。
【0178】
成形用材料は、組成物を成形するために、加工のための調整を行ったものをいい、例えば、加工助剤(液体潤滑剤等)等を添加したもの、粒度を調整したもの、予備的な成形を行ったものである。成形用材料は、例えば、上記3種の成分に加え、公知の添加剤等を含んでもよい。公知の添加剤としては、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンブラック等の炭素材料、顔料、光触媒、活性炭、抗菌剤、吸着剤、防臭剤等が挙げられる。
【0179】
組成物は、種々の方法により製造することができ、例えば、組成物が混合粉末である場合、A成分の粉末、B成分の粉末、およびC成分の粉末を一般的な混合機等で混合する方法、A成分、B成分、およびC成分をそれぞれ含む3つの水性分散液を共凝析すること(上記ステップa))によって共凝析粉末を得る方法、A成分、B成分、C成分のいずれか2成分を含む水性分散液を予め共凝析することにより得られた混合粉末を残る1成分の粉末と一般的な混合機等で混合する方法、等により製造できる。このような方法であれば、いずれの製法であっても、好適な延伸材料を得ることができる。なかでも、3種の異なる成分が均一に分散し易い点で、組成物は、A成分、B成分、およびC成分をそれぞれ含む3つの水性分散液を共凝析することにより得られるものであることが好ましい。
【0180】
共凝析によって得られる混合粉末のサイズは、特に限定されず、例えば、平均粒径が100μm以上1000μm以下であり、300μm以上800μm以下であることが好ましい。この場合、平均粒径は、JIS K6891に準拠して測定される。共凝析によって得られる混合粉末の見掛密度は、特に限定されず、例えば、0.40g/ml以上0.60g/ml以下であり、0.45g/ml以上0.55g/ml以下であることが好ましい。見掛密度は、JIS K6892に準拠して測定される。
【0181】
上記共凝析の方法としては、例えば、
(i)A成分の水性分散液、B成分の水性分散液、およびC成分の水性分散液を混合した後に凝析する方法、
(ii)A成分、B成分、C成分のうちいずれか1つの成分の水性分散液に、残る2成分の粉末を添加した後に凝析する方法、
(iii)A成分、B成分、C成分のうちいずれか1つの成分の粉末を、残る2成分の水性分散液を混合した混合水性分散液に添加した後に凝析する方法、
(iv)予めA成分、B成分、C成分のうちいずれか2つの成分の各水性分散液を混合した後に凝析させて得られた2成分の混合粉末を、残る1成分の水性分散液に添加した後に凝析する方法、
が挙げられる。
【0182】
上記共凝析の方法としては、3種の成分が均一に分散し易い点で、上記(i)の方法が好ましい。
【0183】
上記(i)〜(iv)の方法による共凝析では、例えば、硝酸、塩酸、硫酸等の酸;塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等の金属塩;アセトン、メタノール等の有機溶剤、のいずれかを添加して凝析させることが好ましい。
【0184】
上記A成分の混合前の形態は、特に限定されないが、上述の繊維化し得るPTFEの水性分散液であってもよいし、粉体であってもよい。粉末(特に、上述のファインパウダー)としては、例えば、三井・デュポンフロロケミカル社製「テフロン6−J」(以下テフロンは登録商標)、「テフロン6C−J」、「テフロン62−J」等、ダイキン工業社製「ポリフロンF106」、「ポリフロンF104」、「ポリフロンF201」、「ポリフロンF302」等(以下ポリフロンは登録商標)、旭硝子社製「フルオンCD123」、「フルオンCD1」、「フルオンCD141」、「フルオンCD145」等(以下フルオンは登録商標)、デュポン社製「Teflon60」、「Teflon60 X」、「Teflon601A」、「Teflon601 X」、「Teflon613A」、「Teflon613A X」、「Teflon605XT X」、「Teflon669 X」等が挙げられる。ファインパウダーは、TFEの乳化重合から得られる繊維化し得るPTFEの水性分散液(重合上がりの水性分散液)を凝析、乾燥することで得てもよい。
【0185】
繊維化し得るPTFEの水性分散液としては、上述の重合上がりの水性分散液であってもよいし、市販品の水性分散液であってもよい。重合上がりの繊維化し得るPTFE水性分散液の好ましい作製方法としては、ホモPTFEを開示するものとして列挙した上記公報等に開示されている作製方法が挙げられる。市販品の繊維化し得るPTFEの水性分散液としては、ダイキン工業社製「ポリフロンD−110」、「ポリフロンD−210」、「ポリフロンD−210C」、「ポリフロンD−310」等、三井・デュポンフロロケミカル社製「テフロン31−JR」、「テフロン34−JR」等、旭硝子社製「フルオンAD911L」、「フルオンAD912L」、「AD938L」等の水性分散液が挙げられる。市販品の繊維化し得るPTFEの水性分散液はいずれも、安定性を保つために、水性分散液中のPTFE 100重量部に対して、非イオン性界面活性剤等を2〜10重量部添加しているため、共凝析によって得られる混合粉末に非イオン性界面活性剤が残留しやすく、多孔体が着色する等の問題を起こすおそれがある。このため、繊維化し得るPTFEの水性分散液としては、重合上がりの水性分散液が好ましい。
【0186】
B成分の混合前の形態は、特に限定されないが、B成分が低分子量PTFEである場合、混合前の形態は特に限定されないが、水性分散体であってもよいし、粉体(一般的にPTFEマイクロパウダー、またはマイクロパウダーと呼ばれる)であってもよい。低分子量PTFEの粉体としては、例えば、三井・デュポンフロロケミカル社製「MP1300−J」等、ダイキン工業社製「ルブロンL−5」、「ルブロンL−5F」等(以下ルブロンは登録商標)、旭硝子社製「フルオンL169J」、「フルオンL170J」、「フルオンL172J」等、喜多村社製「KTL−F」、「KTL−500F」等が挙げられる。
【0187】
低分子量PTFEの水性分散液としては、上述のTFEの乳化重合から得られた重合上がりの水性分散液であってもよいし、市販品の水性分散液であってもよい。また、マイクロパウダーを界面活性剤を使うなどして水中に分散したものも使用できる。重合上がりの繊維化し得るPTFE水性分散液の好ましい作製方法としては、特開平7−165828号公報、特開平10−147617号公報、特開2006−063140号公報、特開2009−1745号公報、国際公開第2009/020187号パンフレット等に開示されている作製方法が挙げられる。市販品の繊維化し得るPTFEの水性分散液としては、ダイキン工業社製「ルブロンLDW−410」等の水性分散液が挙げられる。市販品の低分子量PTFEの水性分散液は安定性を保つために、水性分散液中のPTFE 100重量部に対して、非イオン性界面活性剤等を2〜10重量部添加しているため、共凝析によって得られる混合粉末に非イオン性界面活性剤が残留しやすく、多孔体が着色する等の問題を起こすおそれがある。このため、低分子量PTFEの水性分散液としては、重合上がりの水性分散液が好ましい。
【0188】
また、B成分として無機フィラーを用いる場合も混合前の形態は特に限定されないが、水性分散体が好ましい。無機フィラーとしては、日本タルク株式会社製「タルクP2」、富士タルク工業社製「LMR−100」等が挙げられる。これらは適宜シランカップリング剤などによる表面処理等を施し水中に粉体を分散して用いられる。中でも、水への分散性の理由から、ジェットミルによる2次粉砕品(「タルクP2」など)が好ましく用いられる。
【0189】
C成分としては、例えば、FEP,PFAなどのフッ素樹脂の他,アクリル,ウレタン,PET等の各樹脂が挙げられる。混合前の形態は特に限定されないが水性分散体が好ましい。水性分散体は、乳化重合によって得られる樹脂の場合は、その重合上がり分散体をそのまま使えるほか,樹脂粉を界面活性剤などを使い、水分中に分散した物も使用できる。C成分は、多孔膜において0.1重量%以上20重量%未満含有されるよう、所定量が水中に分散されて水性分散体が調製される。
【0190】
共凝析の方法は、特に限定されないが、3つの水性分散体を混合したのち機械的な撹拌力を作用させるのが好ましい。
【0191】
共凝析後は、脱水、乾燥を行なって、液体潤滑剤(押出助剤)を混合し、押出を行う。液体潤滑剤としては、PTFEの粉末の表面を濡らすことが可能であり、共凝析により得られた混合物をフィルム状に成形した後に除去可能な物質であるものであれば、特に限定されない。例えば、流動パラフィン、ナフサ、ホワイトオイル、トルエン、キシレンなどの炭化水素油、アルコール類、ケトン類、エステル類などが挙げられる。
【0192】
共凝析により得られた混合物は、液体潤滑剤と混合された後、従来公知の方法で押出、圧延されることにより、フィルム状物に成形される。押出は、ペースト押出、ラム押出等により行えるが、好ましくはペースト押出により行われる。ペースト押出により押し出されたシート状の押出物は、加熱下、例えば40℃以上80℃以下の温度条件の下、カレンダーロール等を用いて圧延される。得られるフィルム状の圧延物の厚さは、目的の多孔膜の厚さに基づいて設定され、通常100μm以上400μm以下である。
【0193】
次いで、圧延物である未焼成フィルムから液体潤滑剤が除去される。液体潤滑剤の除去は、加熱法又は抽出法により、或いはこれらの組み合わせにより行われる。加熱法による場合の加熱温度は、繊維化しない熱溶融加工性成分の融点より低ければ特に限定されず、例えば、100℃以上250℃以下である。
【0194】
液体潤滑剤が除去された圧延物は、繊維化しない熱溶融加工性成分の融点以上かつ繊維化しない非熱溶融加工性成分の分解温度以下の温度下で延伸される。この過程で繊維化しない熱溶融加工性成分が溶融し、後に結節部において固まることで、多孔膜の厚み方向の強度が強化される。この時の延伸温度は、延伸を行う炉の温度、又は圧延物を搬送する加熱ローラの温度によって設定されてもよく、或いは、これらの設定を組み合わせることで実現されてもよい。
【0195】
延伸は、第1の方向への延伸と、好ましくは、第1の方向と直交する第2の方向への延伸とを含む。多孔膜をエンボス加工されたエアフィルタ用濾材に用いる場合は、第2の方向への延伸も行うのが好ましい。本実施形態では、第1の方向は、圧延物の長手方向(縦方向)であり、第2の方向は、圧延物の幅方向(横方向)である。
【0196】
前記圧延物は40倍以上800倍以下の伸長面積倍率で延伸される。第1の方向への延伸速度は、好ましくは10%/秒以上600%/秒以下であり、より好ましくは10%/秒以上150%/秒以下である。延伸時の温度は、好ましくは200℃以上350℃以下、より好ましくは280℃以上310℃以下である。
【0197】
第2の方向への延伸速度は、好ましくは10%/秒以上600%/秒以下である。延伸時の温度は、好ましくは200℃以上400℃以下、より好ましくは250℃以上350℃以下である。第2の方向への延伸は、第1の方向への延伸と同時又は別に行なってよい。
【0198】
前記圧延物(フッ素樹脂未焼成物ともいう)の延伸に関して、延伸時の温度、延伸倍率、延伸速度が延伸物の物性に影響を与えることが知られている。フッ素樹脂未焼成物のS−Sカーブ(引張張力と伸びの関係を示すグラフ)は、他の樹脂とは異なる特異な特性を示す。通常、樹脂材料は伸びに伴って引張張力も上昇する。弾性領域の範囲、破断点などは、材料、評価条件によって異なる一方で、引張張力は、伸び量に伴って上昇傾向を示すのが極めて一般的である。これに対してフッ素樹脂未焼成物は、引張張力は、ある伸び量においてピークを示した後、緩やかな減少傾向を示す。このことは、フッ素樹脂未焼成物には、「延伸された部位よりも延伸されていない部位の方が強くなる領域」が存在することを示している。
【0199】
このことを延伸時の挙動に置き換えると、一般的な樹脂の場合、延伸時は、延伸面内で最も弱い部分が伸び始めるが、延伸された部分の方が延伸されていない部分より強くなるため、次に弱い未延伸部が延伸されていくことで、延伸された領域が広がって、全体的に延伸される。一方、フッ素樹脂未焼成物の場合、伸び始める部分が、上記「延伸された部位よりも延伸されていない部位の方が強くなる領域」に差し掛かると、既に伸びた部分が更に延伸され、この結果、延伸されなかった部分がノード(結節部、未延伸部)として残る。延伸速度が遅くなると、この現象は顕著になり、より大きいノード(結節部、未延伸部)が残る。このような現象を延伸時に利用することにより、種々の用途に応じて延伸体の物性調整が行われている。
【0200】
本実施形態では、より低密度の延伸体を得ることが好ましく、低延伸速度を特に第1の延伸に適用することが有効である。ここで、大きいノード(結節部、未延伸部)を残し、低充填率の成形体を得ようとする場合、従来のPTFEのみを原料とした場合は、第1の延伸の延伸速度を150%/秒以下、好ましくは80%/秒以下とし、第2の方向への延伸を500%/秒以下とする必要がある。しかし、このようにして得られた成形体の低充填率構造は外力によって容易に損なわれる。
【0201】
本実施形態では、繊維化しない非熱溶融加工性成分が存在することにより、低延伸速度による上記現象がより顕著になる。この結果、適用できる延伸速度の範囲として、第1の延伸の延伸速度を600%/秒以下、好ましくは150%/秒以下、第2の方向への延伸を600%/秒以下まで拡げることができる。また、繊維化しない熱溶融加工可能な成分が存在することで、その構造を後加工の後も維持できる。
【0202】
こうして得られた多孔膜は、機械的強度、寸法安定性を得るために、好ましくは熱固定される。熱固定の際の温度は、PTFEの融点以上又はPTFEの融点未満であってよく、好ましくは250℃以上400℃以下である。
【0203】
なお、多孔膜としてPTFE多孔膜を作製する場合は、公知の方法を用いることができる。
【0204】
なお、第1の多孔膜とは異なる物性の第2の多孔膜を得る場合には、第1の多孔膜の作製時よりも第2の多孔膜の作製時の方がフッ素樹脂100重量部に対する液体潤滑剤の量が減るように変更することで、得られる多孔膜の平均孔径を小さくすることができ、圧力損失が第1の多孔膜よりも大きく捕集効率が第1の多孔膜よりも高い第2の多孔膜を得ることができる。この場合、フッ素樹脂100重量部に対する液体潤滑剤の量の差(液体潤滑剤量差または助剤量差)が、1重量部以上4重量部以下であることが好ましい。助剤量差が1重量部以上であることで、2つの多孔膜の間で適度な平均孔径の差を生じさせることができる。助剤量差が4重量部以下であることで、延伸の均一性が悪化するのを抑制できる。延伸の均一性とは、延伸加工によって作成された多孔膜において、捕集効率、圧力損失等の特性のバラつきが少なく、多孔膜全体にわたってこれら特性が均一になっていることをいう。液体潤滑剤量差は、例えば、2重量部である。
【0205】
第1の多孔膜の作製時および第2の多孔膜の作製時に用いられる液体潤滑剤の量は、それぞれ、フッ素樹脂100重量部に対して30重量部以上37重量部以下であることが好ましい。30重量部以上用いることで、圧力損失を低くでき、濾材全体として圧力損失を200Pa未満にすることができる。また、37重量部以下用いることで、後述する生テープの成形性を確保でき、第1の多孔膜の孔径が大きくなりすぎて微粒子が捕集されずに通過して下流側に流れ、下流側の第2の多孔膜の負担が大きくなりすぎることを抑制できる。
【0206】
特に、第1の多孔膜の作製時に用いられる液体潤滑剤量は、フッ素樹脂100重量部に対し、例えば34〜36重量部であることが好ましい。例えば、液体潤滑剤量差1〜4重量部を満たす範囲で、第2の多孔膜を作製するのに31〜34重量部用いるのに対し、第1の多孔膜を作製するのに34〜36重量部用いることで、濾材の保塵量を大幅に高めることができる。
【0207】
第1の多孔膜、第2の多孔膜は、公知の方法で、未焼成フィルム(以降、生テープともいう)を作製し、その後二軸延伸することで作製することができる。
【0208】
なお、2つの多孔膜の平均孔径の差を生じさせることは、上記3種の成分の配合比を、2枚の多孔膜の間で異ならせることで達成させてもよい。
【0209】
なお、圧力損失が15Pa以上55Pa未満であり、捕集効率が25%以上80%未満であり、厚みが0.4mm以下であり、PF値が7以上15以下であるプレ捕集材に対して、「プレ捕集材のPF値/第1の多孔膜と第2の多孔膜を積層したときのPF値」の値を0.20以上0.45以下とすることが可能な物性を有する第1の多孔膜および第2の多孔膜が仮に販売されているのであれば、当該多孔膜を商業的に入手してもよい。
【0210】
(b)、(c)、(d)、(e)の各ステップにおいて、配置する手法は特に限定されない。
【0211】
第1の多孔膜と第2の多孔膜とプレ捕集材とが、熱ラミネートされることで一体化するステップは、特に限定されず、1回の熱ラミネートにより第1の多孔膜と第2の多孔膜とプレ捕集材との全てを一体化させる場合だけでなく、互いに隣り合うもの同士を熱ラミネートによって一体化させ、これを繰り返すことで第1の多孔膜と第2の多孔膜とプレ捕集材との全てを一体化させるようにしてもよい。
【0212】
第1の多孔膜と第2の多孔膜と上流通気性支持材とプレ捕集材とが、熱ラミネートされることで一体化するステップは、特に限定されず、1回の熱ラミネートにより第1の多孔膜と第2の多孔膜と上流通気性支持材とプレ捕集材との全てを一体化させる場合だけでなく、互いに隣り合うもの同士を熱ラミネートによって一体化させ、これを繰り返すことで第1の多孔膜と第2の多孔膜と上流通気性支持材とプレ捕集材との全てを一体化させるようにしてもよい。
【0213】
下流通気性支持材の一体化は、上流通気性支持材と同様である。
【0214】
図1に示す5層構造のエアフィルタ用濾材1における各層の積層方法は、特に限定されない。例えば、第1の多孔膜と第2の多孔膜を接合させる場合には、第1の多孔膜および第2の多孔膜となる各生テープをそれぞれ作製し、別々に乾燥した後、これらを重ねて二軸延伸(縦延伸、横延伸)を行うことで接合させることができる。この場合、第1の多孔膜と第2の多孔膜は、重ねた状態で延伸を行うごとに加熱され、熱が計2回加わるので、2枚の多孔膜は良好に接着し、後の加工によって2枚の多孔膜が境界で剥離すること等が抑えられる。また、この方法に代えて、縦延伸後に、2枚の多孔膜となる2枚のフィルムを重ねて横延伸することでも接合できる。また、多孔膜同士の接合は、PTFEの融点付近まで加熱することでも可能である。そして、上流通気性支持材、下流通気性支持材としては、上述した不織布、織布、金属メッシュ、樹脂ネット等を用いることができる。ここで、上流通気性支持材として不織布等を用いる場合は、加熱による上流通気性支持材の一部溶融又はホットメルト樹脂の溶融によるアンカー効果を利用して、或いは反応性接着剤等を用いた接着を利用して、上流通気性支持材を第1の多孔膜に接合させることができる。下流通気性支持材も、同様にして第2の多孔膜に対して接合させることができる。また、プレ捕集材として不織布等を用いる場合にも、加熱によるプレ捕集材の一部溶融又はホットメルト樹脂の溶融によるアンカー効果を利用して、或いは反応性接着剤等を用いた接着を利用して、プレ捕集材を上流通気性支持材に接合させることができる。
【0215】
図2に示す6層構造のエアフィルタ用濾材2における各層の積層方法は、特に限定されない。例えば、2枚の多孔膜をそれぞれ作製し、そのうちの1枚の多孔膜を上流通気性支持材と中流通気性支持材とによって挟み、熱ラミネートすることで3層構造体を得ることができる。そして、当該3層構造体に対して残る一方の多孔膜を、横延伸をしながら熱ラミネートすること接合させることができる。当該第2の多孔膜に対してさらに下流通気性支持材を熱ラミネートすることで、第2の多孔膜に対して下流通気性支持材を接合させることができる。また、プレ捕集材として不織布等を用いる場合にも、加熱によるプレ捕集材の一部溶融又はホットメルト樹脂の溶融によるアンカー効果を利用して、或いは反応性接着剤等を用いた接着を利用して、プレ捕集材を上流通気性支持材に接合させることができる。
【0216】
図3に示す3層構造のエアフィルタ用濾材3における各層の積層方法は、特に限定されない。例えば、上述した第1の多孔膜と第2の多孔膜を接合させる場合には、5層構造のエアフィルタ用濾材1の場合と同様にして接合させることが可能である。そして、プレ捕集材として不織布等を用いる場合にも、加熱によるプレ捕集材の一部溶融又はホットメルト樹脂の溶融によるアンカー効果を利用して、或いは反応性接着剤等を用いた接着を利用して、プレ捕集材を第1の多孔膜の上流側に接合させることができる。
【0217】
なお、貼り合わせにより得られるエアフィルタ用濾材の膜厚は、第1の多孔膜、第2の多孔膜、上流通気性支持材、下流通気性支持材、プレ捕集材、(エアフィルタ用濾材2の場合にはさらに中流通気性支持材)に対して圧力が加わるため、各膜厚の単純な合計にはならず、各膜厚の単純な合計の85%以上100%以下の範囲に収まることになる。
【実施例】
【0218】
以下、実施例および比較例を示して、本発明を具体的に説明する。
【0219】
(実施例1)
SSGが2.160のPTFE水性分散体(PTFE−A)66.5重量%(ポリマー換算)、380℃におけるフローテスター法を用いて測定される溶融粘度が20000Pa・sの低分子量PTFE水性分散体(PTFE−B)28.5重量%(ポリマー換算)、および融点が215℃のFEP水性分散体5重量%(ポリマー換算)、を混合し、凝析剤として1%硝酸アルミニウム水溶液500mlを添加し、攪拌することにより共凝析を行った。そして、生成した粉をふるいを用いて水切りをした後、さらに、熱風乾燥炉で135℃で18時間乾燥し、上記3成分の混合粉末を得た。
【0220】
次いで、混合粉末100重量部あたり、液体潤滑剤(押出助剤)として炭化水素油(出光興産社製「IPソルベント2028」)を20℃において35重量部を加えて混合した。次に、得られた混合物をペースト押出装置を用いて押し出してシート形状の成形体を得た。ペースト押出装置の先端部には、短手方向長さ2mm×長手方向長さ150mmの矩形状の押出口が形成されたシートダイを取り付けた。このシート形状の成形体を70℃に加熱したカレンダーロールによりフィルム状に成形しフッ素樹脂フィルムを得た。このフィルムを200℃の熱風乾燥炉に通して炭化水素油を蒸発除去し、平均厚さ300μm、平均幅150mmの帯状の未焼成フッ素樹脂フィルム(第1の生テープ)を得た。また、液体潤滑剤の混合量を33重量部とした点を除き、第1の生テープと同様にして、平均厚さ300μm、平均幅150mmの帯状の未焼成フッ素樹脂フィルム(第2の生テープ)を得た。
【0221】
次に、第1の生テープと第2の生テープを重ねて、長手方向(縦方向)に延伸倍率6.5倍に延伸した。延伸温度は300℃であった。次に、重ねて延伸した生テープを、連続クリップできるテンターを用いて幅方向(横方向)に延伸倍率13.5倍に延伸し、熱固定を行った。このときの延伸温度は290℃、熱固定温度は390℃であった。これにより、第1の多孔膜31と第2の多孔膜32が重なった複層多孔膜を得た。
【0222】
図1に示す上流通気性支持材21、下流通気性支持材22として、PETを芯に、PEを鞘に用いた芯/鞘構造の繊維からなるスパンボンド不織布(平均繊維径20μm、目付40g/m2、厚さ0.2mm)を用いた。
【0223】
得られた複層多孔膜を、第1の多孔膜31側に配置された上流通気性支持材21としてのスパンボンド不織布と、第2の多孔膜32側に配置された下流通気性支持材22としてのスパンボンド不織布と、で挟み、ラミネート装置を用いて熱融着により接合し、実施例1のフッ素樹脂積層体を得た。
【0224】
プレ捕集材10として、平均繊維径が1.6μmの繊維であるPPからなるメルトブローン不織布(目付30g/m2、厚さ0.25mm)を用いた。
【0225】
上記実施例1のフッ素樹脂積層体と、上流通気性支持材21側に配置されたプレ捕集材10であるメルトブローン不織布とを、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)ホットメルト接着剤を2g/m2使用して、110℃で熱ラミネートを行い、図1に示す層構成を有するエアフィルタ用濾材1を得た。濾材1の厚さは0.68mmであった。
【0226】
濾材1は、圧力損失が170Paであり、捕集効率が99.991%であった。熱ラミネートによる圧力損失の上昇はなかった。この圧力損失および捕集効率は、概ねプレ捕集材10と第1の多孔膜31と第2の多孔膜32による特性である。
【0227】
作製した濾材1を、ロータリー式折り機で260mm毎に山折り、谷折りになるようにプリーツ加工を行い、図4に示すようなジグザグ形状の加工済み濾材をつくった。この後、アルミニウム板をコルゲート加工したセパレータを濾材1の谷部に挿入し、縦590mm×横590mmのフィルタパック40を得た。このときのプリーツ数は79であった。
【0228】
得られたフィルタパック40を外寸610mm×610mm(縦×横)、内寸580mm×580mm(縦×横)、奥行き290mmのアルミニウム製の枠体50に固定した。フィルタパックの周囲をウレタン接着剤で枠体50と接着してシールして、エアフィルタユニット60を得た。
【0229】
(実施例2)
実施例1の第1の多孔膜31と第2の多孔膜32との間に、実施例1とは目付や厚みが異なる上流通気性支持材21、下流通気性支持材22としてのスパンボンド不織布と、中流通気性支持材23としてのスパンボンド不織布をさらに設け、熱ラミネートさせた点(図2に示す濾材2の構成とした点)以外は、実施例1と同様である。
【0230】
具体的には、実施例1の第2の生テープを縦方向、横方向に延伸して得られる第2の多孔膜32を、下流通気性支持材22と中流通気性支持材23とで挟み、ラミネート装置を用いて熱融着により接合し、実施例2の第1フッ素樹脂積層体を得た。さらに、実施例1の第1の生テープを縦方向、横方向に延伸して得られる第1の多孔膜31を、実施例2の第1フッ素樹脂積層体と上流通気性支持材21とで挟み、ラミネート装置を用いて熱融着により接合し、実施例2の第2フッ素樹脂積層体を得た。そして、プレ捕集材10であるメルトブローン不織布と、実施例2の第2フッ素樹脂積層体とを、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)ホットメルト接着剤を使用しつつ、ラミネート装置を用いて110℃で熱ラミネートを行うことで接合し、図2に示す層構成を有するエアフィルタ用濾材2を得た。
【0231】
また、プリーツ加工によるフィルタパック40やエアフィルタユニット60を得る工程は実施例1と同様である。
【0232】
(実施例3)
実施例1のプレ捕集材10としてのメルトブローン不織布の代わりに、平均繊維径が1.7μmの繊維であるPPからなるメルトブローン不織布(目付10g/m2、厚さ0.07mm)を用いた点以外は、実施例1と同様である。この実施例3では、目付が小さいメルトブローン不織布を用いている。
【0233】
(実施例4)
実施例1のプレ捕集材10としてのメルトブローン不織布の代わりに、平均繊維径が1.8μmの繊維であるPPからなるメルトブローン不織布(目付50g/m2、厚さ0.37mm)を用いた点以外は、実施例1と同様である。この実施例4では、目付が大きく厚みのあるメルトブローン不織布を用いている。
【0234】
(実施例5)
実施例2の第1の多孔膜31の代わりに、実施例2の第2の多孔膜32と同じ物性を有する多孔膜を用いた点以外は、実施例2と同様である。
【0235】
(実施例6)
実施例1の第1の多孔膜31の代わりに、実施例1の第2の多孔膜32と同じ物性を有する多孔膜を用いた点、および、実施例1の上流通気性支持材21、下流通気性支持材22としてのスパンボンド不織布の代わりに、スパンボンド不織布(平均繊維径20μm、目付30g/m2、厚さ0.16mm)を用いた点以外は、実施例1と同様である。
【0236】
(実施例7)
実施例1の上流通気性支持材21としてのスパンボンド不織布を用いなかった点以外は、実施例1と同様である。
【0237】
具体的には、実施例1と同様に、第1の生テープと第2の生テープを重ねて、長手方向(縦方向)に延伸し、幅方向(横方向)に延伸し、熱固定を行うことで、第1の多孔膜31と第2の多孔膜32が重なった複層多孔膜を得た。そして、実施例1と同様の下流通気性支持材22としてのスパンボンド不織布を、複層多孔膜の第2の多孔膜32側に対して配置し、ラミネート装置を用いて熱融着により接合し、実施例7のフッ素樹脂積層体を得た。そして、実施例1と同様のプレ捕集材10を、実施例7のフッ素樹脂積層体の第1の多孔膜31側に対して、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)ホットメルト接着剤を2g/m2使用して、110℃で熱ラミネートを行うことで接合させ、実施例7のエアフィルタ用濾材を得た。
【0238】
(実施例8)
実施例1の上流通気性支持材21および下流通気性支持材22としてのスパンボンド不織布を用いなかった点以外は、実施例1と同様である。
【0239】
具体的には、実施例1と同様に、第1の生テープと第2の生テープを重ねて、長手方向(縦方向)に延伸し、幅方向(横方向)に延伸し、熱固定を行うことで、第1の多孔膜31と第2の多孔膜32が重なった複層多孔膜を得た。そして、実施例1と同様のプレ捕集材10を、複層多孔膜の第1の多孔膜31側に対して、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)ホットメルト接着剤を2g/m2使用して、110℃で熱ラミネートを行うことで接合させ、図3に示す層構成を有するエアフィルタ用濾材3を得た。
【0240】
(実施例9)
実施例1のプレ捕集材10としてのメルトブローン不織布の代わりに、平均繊維径が0.32μmの繊維であるポリプロピレン(PP)からなるメルトブローン不織布(目付0.7g/m2、厚み0.002mm)を用いた点以外は、実施例1と同様である。
【0241】
(比較例1)
実施例1と同様の第1の多孔膜31、第2の多孔膜32、上流通気性支持材21、下流通気性支持材22を用い、「第1の多孔膜31と第2の多孔膜32が重なった複層多孔膜」を、上流通気性支持材21としてのスパンボンド不織布と、下流通気性支持材22としてのスパンボンド不織布とで挟み、ラミネート装置を用いて熱融着により接合し、フッ素樹脂積層体を得た。
【0242】
こうして得られたフッ素樹脂積層体は、圧力損失が131Paであり、捕集効率が99.997%であった。この圧力損失および捕集効率は、上流通気性支持材21、下流通気性支持材22は実質的に寄与しないため、概ね、第1の多孔膜31および第2の多孔膜32による特性である。
【0243】
また、プリーツ加工によるフィルタパック40やエアフィルタユニット60を得る工程は実施例1と同様である。
【0244】
(比較例2)
平均分子量650万のPTFEファインパウダー(ダイキン工業株式会社製「ポリフロンファインパウダーF106」)1kg当たり押出液状潤滑剤として炭化水素油(出光興産株式会社製「IPソルベント2028」)を20℃において33.5質量%加えて混合した。次に、得られた混合物をペースト押出装置を用いて押し出して丸棒形状の成形体を得た。この丸棒形状の成型体を70℃に加熱したカレンダーロールによりフィルム状に成形しPTFEフィルムを得た。このフィルムを250℃の熱風乾燥炉に通して炭化水素油を蒸発除去し、平均厚さ200μm、平均幅150mmの帯状の未焼成PTFEフィルムを得た。次に、未焼成PTFEフィルムを長手方向に延伸倍率5倍で延伸した。延伸温度は250℃であった。次に、延伸した未焼成フィルムを連続クリップできるテンターを用いて幅方向に延伸倍率32倍で延伸し、熱固定を行った。このときの延伸温度は290℃、熱固定温度は390℃であった。これにより、PTFE多孔膜(充填率が4.0%、平均繊維径が0.069μm、厚さ0.009mm)を得た。
【0245】
通気性支持層として、PETを芯に、PEを鞘に用いた芯/鞘構造の繊維からなるスパンボンド不織布(平均繊維径20μm、目付け40g/m2、厚さ0.20mm)を用いた。
【0246】
得られたPTFE多孔膜の両面に、上流通気性支持材21および下流通気性支持材22としての上記スパンボンド不織布を、ラミネート装置を用いて熱融着により接合して、PTFE積層体を得た。こうして得られたPTFE積層体は、上述した測定方法によれば、圧力損失が118Paであり、捕集効率が99.998%であった。この圧力損失及び捕集効率は、略PTFE多孔膜の特性である。
【0247】
また、プリーツ加工によるフィルタパック40やエアフィルタユニット60を得る工程は実施例1と同様である。
【0248】
(比較例3)
比較例2のPTFE積層体に対してプレ捕集材10をさらに設けた点以外は、比較例2と同様である。
【0249】
ここで、プレ捕集材10としては、平均繊維径が1.6μmの繊維であるPPからなるメルトブローン不織布(目付30g/m2、厚さ0.25mm)を用いた。比較例2のPTFE積層体と、プレ捕集材10であるメルトブローン不織布とを、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)ホットメルト接着剤を2g/m2使用して、110℃で熱ラミネートを行い、PP積層体(厚さ0.14mm)を得た。
【0250】
これにより、4層構成を有するエアフィルタ用濾材を得た。濾材の厚さは0.569mmであった。
【0251】
また、プリーツ加工によるフィルタパック40やエアフィルタユニット60を得る工程は実施例1と同様である。
【0252】
(比較例4)
ガラス濾材は、例えば、特開2007−7586号公報、特開平5−123513号公報、特許第3014440号公報に記載された方法を用いて製造することができる。
【0253】
ガラス濾材は、ガラス繊維を水中に分散したスラリーから、水中のガラス繊維を抄紙機を用いて搬送して抄くことができる。抄紙機としては、一般紙や湿式不織布を製造するためのもの、例えば、長網抄紙機、円網抄紙機、傾斜ワイヤー式抄紙機等のうちの同一又は異種の2機を組み合わせたコンビネーションマシンが用いられる。バインダによる繊維同士の結合は、バインダを直接ガラス繊維上に付着させることでなされてもよく、バインダを溶剤に溶かしたバインダ溶液にガラス繊維を含浸させ、乾燥させることでなされてもよい。バインダは、アクリル樹脂、フェノール樹脂等、公知のものが用いられる。
【0254】
上述のようなガラス濾材としては、比較例4では、北越製紙社製S320MのHEPAフィルタ濾材を用いた。
【0255】
また、プリーツ加工によるフィルタパック40やエアフィルタユニット60を得る工程は実施例1と同様である。
【0256】
(比較例5)
プレ捕集材10を設けていない点以外は、実施例5と同様である。
【0257】
具体的には、実施例5の各層の物性を備える第1の多孔膜31、第2の多孔膜32、上流通気性支持材21、下流通気性支持材22、中流通気性支持材23を用い、実施例2の第2フッ素樹脂積層体の積層工程と同様に積層させることで、比較例5のエアフィルタ濾材を得た。
【0258】
また、プリーツ加工によるフィルタパック40やエアフィルタユニット60を得る工程は実施例1と同様である。
【0259】
(比較例6)
実施例1のプレ捕集材10としてのメルトブローン不織布の代わりに、PF値が大きいメルトブローン不織布(目付2g/m2、厚み0.02mm)を用いた点以外は、実施例1と同様である。
【0260】
(比較例7)
実施例1のプレ捕集材10としてのメルトブローン不織布の代わりに、PF値が大きいメルトブローン不織布(目付32g/m2、厚み0.26mm)を用いた点、実施例1の上流通気性支持材21としてのスパンボンド不織布の代わりに目付や厚みが異なる上流通気性支持材21を用いた点(実施例2の上流通気性支持材と同様)、実施例1の下流通気性支持材22としてのスパンボンド不織布の代わりに目付や厚みが異なる下流通気性支持材22を用いた点(実施例2の下流通気性支持材と同様)以外は、実施例1と同様である。
【0261】
(比較例8)
実施例1のプレ捕集材10としてのメルトブローン不織布の代わりに、PF値が小さいメルトブローン不織布(目付28g/m2、厚み0.23mm)を用いた点、実施例1の上流通気性支持材21としてのスパンボンド不織布の代わりに目付や厚みが異なる上流通気性支持材21を用いた点(実施例2の上流通気性支持材と同様)、実施例1の下流通気性支持材22としてのスパンボンド不織布の代わりに目付や厚みが異なる下流通気性支持材22を用いた点(実施例2の下流通気性支持材と同様)以外は、実施例1と同様である。
【0262】
(圧力損失)
濾材の測定サンプルを、直径100mmのフィルタホルダにセットし、コンプレッサで入口側を加圧し、流速計で空気の透過する流量を5.3cm/秒に調整した。そして、この時の圧力損失をマノメータで測定した。
【0263】
(粒子径0.3μmのNaCl粒子の捕集効率)
JIS B9928 附属書5(規定)NaClエアロゾルの発生方法(加圧噴霧法)記載の方法に準じて、アトマイザーで発生させたNaCl粒子を、静電分級器(TSI社製)で、粒子径0.3μmに分級し、アメリシウム241を用いて粒子帯電を中和した後、透過する流量を5.3cm/秒に調整し、パーティクルカウンター(TSI社製、CNC)を用いて、測定試料である濾材の前後での粒子数を求め、次式により捕集効率を算出した。
【0264】
捕集効率(%)=(CO/CI)×100
CO=測定試料が捕集したNaCl 0.3μmの粒子数
CI=測定試料に供給されたNaCl 0.3μmの粒子数
(PF値)
粒子径0.3μmのNaCl粒子を用いて、濾材の圧力損失及び捕集効率(粒子径0.3μmのNaCl粒子の捕集効率)とから、次式に従いPF値を求めた。
【0265】
PF値={−log((100−捕集効率(%))/100)}/(圧力損失(Pa)/1000)
なお、100−捕集効率(%)の値は、透過率(%)として知られる値である。
【0266】
(ポリアルファオレフィンの保塵量)
ポリアルファオレフィン(PAO)粒子(液体粒子)透過時の圧力損失上昇試験で評価した。即ち、PAO粒子を含んだ空気を有効濾過面積50cm2のサンプル濾材に流速5.3cm/秒で連続通風したときの圧力損失を差圧計(U字管マノメータ)で経時的に測定し、圧力損失が250Pa分だけ上昇したときに、濾材に保持されているPAO粒子の濾材の単位面積当たりの重量である保塵量(g/m2)を求めた。なお、PAO粒子は、ラスキンノズルで発生させたPAO粒子(個数中位径0.25μm)を用い、PAO粒子の濃度は、約100万〜600万個/cm3とした。
【0267】
HEPA濾材に関して、保塵量の定義がないが、フィルタの初期圧力損失は一般的にHEPAユニットでは約250Pa以下とされており、フィルタの交換時期としては、一般的にフィルタの初期圧力損失の2倍を超えた時点が推奨されている。また、標準的なHEPA用ガラス濾材の初期圧力損失は約250〜300Paである。そのため、濾材の保塵量評価のための上記試験の終点を、圧力損失が250Pa分だけ上昇した時点とした。
【0268】
(平均孔径)
ASTM F316−86の記載に準じて測定される平均孔径(mean flow pore size)を多孔膜の平均孔径(平均流路径)とした。実際の測定は、コールターポロメータ(Coulter Porometer)[コールター・エレクトロニクス(Coulter Electronics)社(英国)製]で測定を行った。
【0269】
(多孔膜の膜厚)
膜厚計(1D−110MH型、ミツトヨ社製)を使用し、測定対象を5枚重ねて全体の膜厚を測定し、その値を5で割った数値を1枚の膜厚とした。
【0270】
(多孔膜以外の接合前の各層の膜厚及び濾材全体の膜厚)
ABSデジマチックインジケータ(ミツトヨ社製、ID−C112CX)をゲージスタンドに固定し、測定対象に0.3Nの荷重をかけたときの厚さの値を読み取った。
【0271】
各実施例および各比較例のエアフィルタ用濾材(フィルタパックやエアフィルタユニットとする前の状態のもの)について、各エアフィルタ用濾材の作製に用いられた各材の物性と合わせて、以下の表1、表2、表3、表4、表5に示す。
【0272】
【表1】
【0273】
【表2】
【0274】
【表3】
【0275】
【表4】
【0276】
【表5】
表1〜表5から分かるように、いずれの実施例においても、濾材全体の圧力損失を200Pa以下に抑えつつ、濾材全体の捕集効率を99.97%以上に維持させた場合であっても、濾材全体の保塵量を40g/m2以上にすることができるという、これまでに無い保塵量を達成できていることが分かる。
【0277】
ここで、例えば、実施例1と比較例1はいずれも第1の多孔膜と第2の多孔膜を備えており、実施例1は比較例1の濾材全体に対して上流側にプレ捕集材10をさらに設けた構造となっている。ここで、比較例1の濾材全体のPF値(34.5)に対する実施例1のプレ捕集材10のPF値(7.7)の割合(7.7/34.5=0.223)が0.20以上0.45以下の範囲内にあるため、プレ捕集材10において目詰まりが早期に生じない程度にプレ捕集材10における塵の捕集を可能とし、下流側の第1の多孔膜31や第2の多孔膜32に対する捕集負担を適度に軽減させることができており、厚み方向における広い範囲でより多くの塵の捕集が可能となっており、保塵量を高めることが可能となっている。
【0278】
また、プレ捕集材としてよりPF値の高いもの(PF値14.2)を採用した実施例9であっても、十分な保塵量を達成することができたが、さらにPF値を高めたプレ捕集材を用いた比較例6や比較例7(それぞれPF値17.2、PF値16.2)では、保塵量は40g/m2を下回った。これは、比較例6や比較例7の例では、プレ捕集材によって集塵の多くを捕集できるものの、プレ捕集材自体の目詰まりが生じやすく、より下流側の第1の多孔膜や第2の多孔膜を十分に活用しきることができていない(第1の多孔膜や第2の多孔膜に目詰まりが生じるよりも先にプレ捕集材に目詰まりが生じている)ものと思われる。
【0279】
他方で、PF値が低いプレ捕集材を用いた比較例8(PF値4.6)であっても、保塵量は40g/m2を下回った。これは、比較例8の例では、プレ捕集材における目詰まりを抑制できているものの、より下流側の第1の多孔膜や第2の多孔膜に負担が集中することにより、第1の多孔膜や第2の多孔膜における目詰まりが早期に生じているものと思われる。
【0280】
なお、ここで、比較例1の濾材全体のPF値(34.5)は、上流通気性支持材21および下流通気性支持材22が圧力損失や捕集効率に実質的に影響を与えないため、実質的に第1の多孔膜31および第2の多孔膜32による寄与分に等しい。したがって、比較例1の濾材全体のPF値に対する実施例1のプレ捕集材のPF値の割合は、実質的に、実施例1の第1の多孔膜と第2の多孔膜を積層したときのPF値に対する実施例1のプレ捕集材のPF値の割合に等しい。
【0281】
また、第2の多孔膜よりも第1の多孔膜の方が圧力損失が小さく捕集効率が低い実施例1、実施例2と、第1の多孔膜と第2の多孔膜の物性が等しい実施例5、実施例6と、をそれぞれ比べると、上流側の多孔膜と下流側の多孔膜とで特定の差を設けた方が、より保塵量を増大させることができていることが分かる。
【0282】
また、実施例3、実施例4を比較すると、プレ捕集材10の目付を高めて厚みを増すと、圧力損失が増大するものの保塵量をより高めることができることが分かる。また、プレ捕集材10の目付を下げて厚みも薄くすると、圧力損失を抑制できることができることが分かる。
【0283】
また、実施例7では上流通気性支持材21が省略されており、実施例8では上流通気性支持材21および下流通気性支持材22の両方が省略されているが、これらの例であっても、十分な保塵量を達成できていることが分かる。
【0284】
以上、エアフィルタ用濾材、フィルタパック、エアフィルタユニット、およびエアフィルタ用濾材の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしたものも含まれる。
【符号の説明】
【0285】
1 エアフィルタ用濾材
2 エアフィルタ用濾材
3 エアフィルタ用濾材
10 プレ捕集材
21 上流通気性支持材
22 下流通気性支持材
23 中流通気性支持材
31 第1の多孔膜
32 第2の多孔膜
40 フィルタパック
50 枠体
60 エアフィルタユニット
図1
図2
図3
図4
図5