特許第6115638号(P6115638)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6115638X線管装置およびフィラメントの調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6115638
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】X線管装置およびフィラメントの調整方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/06 20060101AFI20170410BHJP
   H05G 1/34 20060101ALI20170410BHJP
   H01J 1/15 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   H01J35/06 C
   H01J35/06 L
   H05G1/34 C
   H01J1/15 Z
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-526045(P2015-526045)
(86)(22)【出願日】2013年7月9日
(86)【国際出願番号】JP2013068756
(87)【国際公開番号】WO2015004732
(87)【国際公開日】20150115
【審査請求日】2015年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100093056
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100142930
【弁理士】
【氏名又は名称】戸高 弘幸
(74)【代理人】
【識別番号】100175020
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 知彦
(74)【代理人】
【識別番号】100180596
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 要
(72)【発明者】
【氏名】冨田 定
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−015045(JP,A)
【文献】 特開平02−260354(JP,A)
【文献】 特開2000−011854(JP,A)
【文献】 特開平09−102640(JP,A)
【文献】 特表2009−536777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/06
H01J 1/15
H05G 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を発生するX線管装置であって、
複数の通電経路を有するフィラメントと、
前記複数の通電経路に流れる各電流の少なくとも1つの電流値を、前記フィラメントの電子の放出範囲が最大となる電流値と、前記フィラメントの電子の放出範囲が最小となる電流値とを含む範囲内の任意の電流値に調整することで前記フィラメントの電子の放出範囲を、前記最大の放出範囲と前記最小の放出範囲とを含む範囲内の任意の放出範囲に調整する調整部と
を備える、X線管装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線管装置において、
前記フィラメントが、第1〜第4の通電加熱用の脚部と、
前記第1の脚部および前記第2の脚部に電気的に接続された外側電子出射面と、
前記第3の脚部、前記第4の脚部および前記外側電子出射面に電気的に接続された内側電子出射面とを含み、
前記調整部が、前記外側電子出射面に、前記第1の脚部と前記第2の脚部との間に流れる電流を流し、前記内側電子出射面に、前記第1の脚部と前記第2の脚部との間に流れる電流と、前記第3の脚部と前記第4の脚部との間に流れる電流とを流し、前記第1の脚部と前記第2の脚部との間に流れる電流の電流値と、前記第3の脚部と前記第4の脚部との間に流れる電流の電流値との少なくとも1つを調整する、
X線管装置。
【請求項3】
請求項2に記載のX線管装置において、
前記内側電子出射面には、前記第1の脚部と前記第2の脚部との間に流れる電流と、前記第3の脚部と前記第4の脚部との間に流れる電流とが同一方向に流れる、X線管装置。
【請求項4】
複数の通電経路を有したフィラメントにおける電子の放出範囲を調整する調整方法であって、
前記複数の通電経路に流れる各電流の少なくとも1つの電流値を、前記フィラメントの電子の放出範囲が最大となる電流値と、前記フィラメントの電子の放出範囲が最小となる電流値とを含む範囲内の任意の電流値に調整することで前記フィラメントの電子の放出範囲を、前記最大の放出範囲と前記最小の放出範囲とを含む範囲内の任意の放出範囲に調整する調整ステップを含む、フィラメントの調整方法。
【請求項5】
請求項4に記載のフィラメントの調整方法において、
前記フィラメントが、第1〜第4の通電加熱用の脚部と、
前記第1の脚部および前記第2の脚部に電気的に接続された外側電子出射面と、
前記第3の脚部、前記第4の脚部および前記外側電子出射面に電気的に接続された内側電子出射面とを含み、
前記調整ステップが、前記外側電子出射面に、前記第1の脚部と前記第2の脚部との間に流れる電流を流し、前記内側電子出射面に、前記第1の脚部と前記第2の脚部との間に流れる電流と、前記第3の脚部と前記第4の脚部との間に流れる電流とを流し、前記第1の脚部と前記第2の脚部との間に流れる電流の電流値と、前記第3の脚部と前記第4の脚部との間に流れる電流の電流値との少なくとも1つを調整する、
フィラメントの調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、X線管装置およびフィラメントの調整方法に係り、特に、複数の通電経路を有したフィラメントにおける電子の放出範囲を調整する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
通電するための複数の通電経路を有したフィラメントとして、4本の通電加熱用の脚部を備えた平板フィラメント(「平板エミッタ」とも呼ばれる)を例に採って説明する。従来の平板フィラメントの構造について、図6および図7を参照して説明する。図6および図7は、従来の平板フィラメントの概略平面図である。図6は、長方形の形状を有した平板フィラメントであり、図7は、円形の形状を有した平板フィラメントである。
【0003】
図6図7に示すように、電子線出射面101(図6では長方形の形状を有した電子線出射面101、図7では円形の形状を有した電子線出射面101)の付け根に4本の通電加熱用の脚部102〜105を有している。通常は、脚部102〜105を図中の破線箇所で90°に折り曲げて、脚部102〜105からそれぞれ通電することで、電子線出射面101を加熱し、電子線出射面101から熱電子を放出させる。電子線出射面101から放出した熱電子が、陽極のターゲット(図示省略)に衝突することで、X線を発生する。
【0004】
脚部102〜105のうち、脚部102,103(図中では「A」,「B」で表記)は、電子線出射面101の全面の領域を通電加熱して電子線を出射する大焦点用の全灯に用いられる全灯通電加熱用脚部102,103である。一方、脚部102〜105のうち、脚部104,105(図中では「C」,「D」で表記)は、電子線出射面101の全面よりも狭い領域(図中の右上斜線のハッチングで示された領域を参照)のみを通電加熱して電子線を出射する小焦点用の半灯に用いられる半灯通電加熱用脚部104,105である。
【0005】
すなわち、電子線出射面101の全面の領域を加熱する場合には、全灯通電加熱用脚部102,103(A,B)から通電して全面を加熱する。一方、部分的に点灯して電子の放出範囲を制限して、焦点を小さくする場合には、半灯通電加熱用脚部104,105(C,D)から通電して、図中の右上斜線のハッチングで示された領域のみを点灯させて加熱する。全灯の場合には通電経路はA→Aの付け根→Dの付け根→Cの付け根→Bの付け根→Bとなり、半灯の場合には通電経路はD→Dの付け根→Cの付け根→Cとなる。このようにして、通電経路を変えることで平板フィラメントの点灯範囲を調整する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−15045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、4本の通電加熱用の脚部を備えた平板フィラメント(平板エミッタ)では、全面の領域を加熱する場合および部分的に点灯する場合の2通りだけとなり、焦点寸法が2通りだけの切替となる。また、フィラメントが複数の通電経路を有するのであれば、4本以外の本数の通電加熱用の脚部を備えてもよい。したがって、切替の対象となる焦点寸法の種類を多くするのであれば、4本以上の本数の通電加熱用の脚部を備えればよいが、構造が複雑化してしまう。
【0008】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、任意の大きさの焦点を得ることができるX線管装置およびフィラメントの調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
X線管装置は、複数の通電経路を有するフィラメントと、前記複数の通電経路に流れる各電流の少なくとも1つの電流値を、前記フィラメントの電子の放出範囲が最大となる電流値と、前記フィラメントの電子の放出範囲が最小となる電流値とを含む範囲内の任意の電流値に調整することで前記フィラメントの電子の放出範囲を、前記最大の放出範囲と前記最小の放出範囲とを含む範囲内の任意の放出範囲に調整する調整部とを備える。
【0010】
複数の通電経路に流れる各電流の少なくとも1つの電流値を、フィラメントの電子の放出範囲が最大となる電流値と、フィラメントの電子の放出範囲が最小となる電流値とを含む範囲内の任意の電流値に調整することで、フィラメントの一部分の領域の温度、他の領域の温度を適切に設定する。当該電流値と電子の放出範囲とは非線形の関係であるので、電流値を調整することで、フィラメントの電子の放出範囲を、最大の放出範囲と最小の放出範囲とを含む範囲内の任意の放出範囲に自在に調整することができ、全体を加熱した場合と部分的に加熱した場合とのそれぞれの焦点の間での任意の大きさの焦点を得ることができる。
【0011】
前記フィラメントは、第1〜第4の通電加熱用の脚部と、前記第1の脚部および前記第2の脚部に電気的に接続された外側電子出射面と、前記第3の脚部、前記第4の脚部および前記外側電子出射面に電気的に接続された内側電子出射面とを含む。前記調整部は、前記外側電子出射面に、前記第1の脚部と前記第2の脚部との間に流れる電流を流し、前記内側電子出射面に、前記第1の脚部と前記第2の脚部との間に流れる電流と、前記第3の脚部と前記第4の脚部との間に流れる電流とを流し、前記第1の脚部と前記第2の脚部との間に流れる電流の電流値と、前記第3の脚部と前記第4の脚部との間に流れる電流の電流値との少なくとも1つを調整する。
【0012】
前記内側電子出射面には、前記第1の脚部と前記第2の脚部との間に流れる電流と、前記第3の脚部と前記第4の脚部との間に流れる電流とが同一方向に流れる。
【0013】
複数の通電経路に流れる各電流の電流値を同期させて調整するのが好ましい。もちろん、必ずしも各電流の電流値を同期させる必要はなく、個々に電流値を調整してもよい。
【発明の効果】
【0014】
この発明に係るX線管装置およびフィラメントの調整方法によれば、複数の通電経路に流れる各電流の少なくとも1つの電流値を、フィラメントの電子の放出範囲が最大となる電流値と、フィラメントの電子の放出範囲が最小となる電流値とを含む範囲内の任意の電流値に調整することでフィラメントの電子の放出範囲を、最大の放出範囲と最小の放出範囲とを含む範囲内の任意の放出範囲に自在に調整することができ、全体を加熱した場合と部分的に加熱した場合とのそれぞれの焦点の間での任意の大きさの焦点を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例に係るX線装置のブロック図である。
図2】実施例に係るX線管装置の概略図である。
図3】実施例に係る平板フィラメントの概略平面図および周辺の回路図である。
図4図3とは別の形状を有する実施例に係る平板フィラメントの概略平面図および周辺の回路図である。
図5】全灯通電加熱用脚部・半灯通電加熱用脚部に流れる電流値の組み合わせと、電子の放出範囲との対応関係を表したテーブルである。
図6】従来の平板フィラメントの概略平面図である。
図7図6とは別の形状を有する従来の平板フィラメントの概略平面図である。
【実施例】
【0016】
発明者は、上記の問題を解決するために鋭意研究した結果、次のような知見を得た。
【0017】
すなわち、通電経路を増やすという発想を変えて、通電経路を制御するパラメータについて着目してみた。そこで、通電経路を制御するパラメータのうち、フィラメントの温度について着目してみた。フィラメントの温度は通電加熱する領域において実際には均一ではなく温度勾配があることが判明した。また、フィラメントにおける不均一な温度分布に応じて電子の放出範囲が決定されることも判明した。
【0018】
一方、これまで、通電する電流値の設定はONかOFFの切替により行われており、ONにおける最大電流値かOFFにおける0[A]しか設定されていなかった。フィラメントにおいて温度勾配が発生しているのを鑑みれば、通電する電流値と電子の放出範囲とは非線形の関係であることが考えられる。そこで、通電する電流値と電子の放出範囲とが非線形の関係であることを逆に利用して、通電する電流値を微調整すれば、電子の放出範囲を微調整することができ、ひいては任意の大きさの焦点を得ることができるという知見を得た。
【0019】
以下、図面を参照してこの発明の実施例を説明する。図1は、実施例に係るX線装置のブロック図であり、図2は、実施例に係るX線管装置の概略図であり、図3および図4は、実施例に係る平板フィラメントの概略平面図および周辺の回路図である。本実施例では、平板フィラメントがX線管装置に用いられる場合を例に採って説明するとともに、X線透視装置やX線撮影装置などのX線装置にX線管装置が組み込まれる場合を例に採って説明する。
【0020】
本実施例に係るX線装置は、図1に示すように、被検体Mを載置する天板1と、その被検体Mに向けてX線を照射するX線管装置2と、被検体Mを透過したX線を検出するフラットパネル型X線検出器(FPD)3とを備えている。なお、X線検出器については、上述したFPD以外にも、イメージインテンシファイアなどに例示されるように特に限定されない。X線管装置2は、この発明におけるX線管装置に相当する。
【0021】
X線管装置2は、外囲器21および外囲器21に収容される陰極22や陽極24を備えている。主として陰極22は平板フィラメント11および集束電極23で構成されている。本実施例に係る平板フィラメントの具体的な構成については、図3図4で後述する。なお、X線管装置2については、図2に示すような電子線Bの光軸に対して直交方向からX線を取り出すタイプに限定されず、電子線Bの光軸に沿って平行にX線を透過させたタイプであってもよい。
【0022】
その他に、外囲器21周辺において、X線管装置2は、図2に示すように、電源25,26(図3図4も参照)と可変抵抗器27,28(図3図4も参照)を備えている。電源25,26については、特に限定されない。交流電源であってもよいし、直流電源であってもよい。可変抵抗器27,28は、この発明における調整部に相当する。
【0023】
図1の説明に戻って、X線装置は、画像処理部4と高電圧発生部5とを備えている。その他にもモニタや記憶媒体や入力部(いずれも図示省略)などの構成を備えているが、これらの構成については、特徴部分あるいは特徴部分に関連した構成でないので、その説明については省略する。
【0024】
X線管装置2はX線を発生し、天板1に載置された被検体Mに向けてX線を照射する。FPD3は、X線管装置2から発生し被検体Mを透過したX線を検出する。FPD3は、画素に対応したX線検出素子(図示省略)が2次元マトリックス状に配置されて構成されている。画像処理部4は、FPD3で検出されたX線に基づく画像処理を行ってX線画像を取得する。具体的には、X線検出素子で検出されたX線に基づく画素値を各々の画素に対応付けて並べることでX線画像を出力する。このときに、画像処理部4は様々な画像処理をX線画像に対して施す。
【0025】
撮影を行う場合には、通常の線量でX線管装置2から被検体MにX線を1回照射して、画像処理部4にて取得されたX線画像を出力する。透視を行う場合には、撮影のときよりも少ない線量でX線管装置2から被検体MにX線を連続的に照射し、画像処理部4にてそれぞれ取得された各々のX線画像をモニタ(図示省略)に連続的に出力する。また、断層撮影を行う場合には、X線管装置2やFPD3、被検体Mの少なくともいずれか一方を移動させて、X線管装置2やFPD3を被検体Mに対して相対的に移動させながら、X線管装置2から被検体MにX線を連続的に照射し、画像処理部4にてそれぞれ取得された各々のX線画像に対して再構成処理を行い、断層画像を出力する。
【0026】
高電圧発生部5は、X線管装置2に管電圧や管電流を付与してX線を発生させるように制御する。本実施例では、高電圧発生部5は同期回路を備えており、複数(本実施例では2つ)の通電経路に流れる各電流の電流値を同期させて調整する。具体的には、高電圧発生部5は、可変抵抗器27,28(図2図4を参照)を同時に制御することで、互いに同期させて可変抵抗器27を流れる電流値と可変抵抗器28を流れる電流値とをそれぞれ調整する。なお、後述するように、一方の電流値を固定した状態で他方の電流値のみを可変にして調整してもよく、各電流の少なくとも1つの電流値を調整すればよい。
【0027】
図2に示すように、外囲器21は、平板フィラメント11や集束電極23や陽極24を収容する。電子線Bが陽極24に衝突して発生したX線(図2では「Xray」で表記)を透過させて外囲器21の外部に引き出す窓(図示省略)が外囲器21に設けられている。陰極22は、図3あるいは図4に示すような平板フィラメント11および集束電極23(図2を参照)で主として構成されており、平板フィラメント11の電子線出射面から出射する電子線Bを陽極24上に集束させる。
【0028】
平板フィラメント11は、図3あるいは図4に示すような構造である。図3は、長方形の形状を有した平板フィラメントであり、図4は、円形の形状を有した平板フィラメントである。電子線出射面(図3では長方形の形状を有した電子線出射面、図4では円形の形状を有した電子線出射面)の付け根に4本の通電加熱用の脚部12〜15を有している。脚部12〜15を図中の破線箇所で90°に折り曲げて、脚部12〜15からそれぞれ通電することで、電子線出射面を加熱し、電子線出射面から熱電子を放出させる。電子線出射面から放出された熱電子(図2の電子線Bを参照)が、陽極24に衝突することで、X線を発生する。
【0029】
脚部12〜15のうち、第1の脚部12および第2の脚部13(図中では「A」,「B」で表記)は、電子線出射面の全面の領域を通電加熱して電子線Bを出射する大焦点用の全灯に用いられる全灯通電加熱用脚部12,13である。一方、脚部12〜15のうち、第3の脚部14および第4の脚部15(図中では「C」,「D」で表記)は、電子線出射面の全面よりも狭い領域(内側電子出射面)(図中の右上斜線のハッチングで示された領域を参照)のみを通電加熱して電子線Bを出射する小焦点用の半灯に用いられる半灯通電加熱用脚部14,15である。脚部12、13は外側電子出射面(右上斜線のハッチングで示された領域以外の領域)に電気的に接続され、脚部14、15および外側電子出射面は、内側電子出射面に電気的に接続されている。
【0030】
すなわち、電子線出射面の全面の領域を加熱する場合には、全灯通電加熱用脚部12,13(A,B)を通電して全面を加熱する。一方、部分的に点灯して電子の放出範囲を制限して、焦点を小さくする場合には、半灯通電加熱用脚部14,15(C,D)を通電して、図中の右上斜線のハッチングで示された領域のみを点灯させて加熱する。全灯の場合には通電経路はA→Aの付け根→Dの付け根→Cの付け根→Bの付け根→Bとなり、半灯の場合には通電経路はD→Dの付け根→Cの付け根→Cとなる。このようにして、通電経路を変えることで平板フィラメント11の加熱範囲(点灯範囲)を調整する。
【0031】
本実施例の場合には、外側電子出射面に、第1の脚部12と第2の脚部13との間に流れる電流を流し、内側電子出射面に、第1の脚部12と第2の脚部13との間に流れる電流と、第3の脚部14と前記第4の脚部15との間に流れる電流とを同一方向に流し、第1の脚部12と第2の脚部13との間に流れる電流の電流値と、第3の脚部14と第4の脚部15との間に流れる電流の電流値とをそれぞれ調整することにより、電子の放出範囲を調整する。平板フィラメント11の周辺に可変抵抗器27,28を備えており、可変抵抗器27は電源25に電気的に接続され、可変抵抗器28は電源26に電気的に接続されている。電源25は、全灯通電加熱用脚部12,13(A,B)の間を通電するための電源であり、電源26は、半灯通電加熱用脚部14,15(C,D)の間を通電するための電源である。
【0032】
通電する電流値(通電電流)は、半灯通電加熱用脚部14,15(C,D)から通電した場合に9[A]程度で十分な電子放出が得られる条件とする。この条件の場合には、全灯通電加熱用脚部12(A)から13(B)に向けて9[A]程度の電流を流し、半灯通電加熱用脚部14,15(C,D)において0[A]に設定することで、電子線出射面11の全面から電子放出し、最も大きい焦点サイズとなる。電子線出射面11の全面に9Aの電流が流れるからである。一方、全灯通電加熱用脚部12(A)から13(B)に向けて6[A]程度の電流を流し、半灯通電加熱用脚部15(D)から14(C)に向けて3[A]程度の電流を流すことで、内側電子出射面(Dの付け根・Cの付け根間の領域)には十分な電子放出が得られる9[A]が流れ、外側電子出射面(Aの付け根・Dの付け根間の領域,Cの付け根・Bの付け根間の領域)には電子放出されない範囲の最高温度となる6Aの電流が流れるので、その結果、最も小さい焦点サイズとなる。
【0033】
全灯通電加熱用脚部12(A)から13(B)に向けて9[A]〜6[A]程度の電流を流し、半灯通電加熱用脚部15(D)から14(C)に向けて0[A]〜3[A]程度の電流を流せば、内側電子出射面(Dの付け根・Cの付け根間の領域)には十分な電子放出が得られる9[A]が流れる。平板フィラメントにおいて温度勾配が発生しており、通電する電流値と電子の放出範囲とは非線形の関係であることが考えられる。
【0034】
全灯通電加熱用脚部12(A)から13(B)に向けて6[A]程度の電流を流し、半灯通電加熱用脚部15(D)から14(C)に向けて3[A]程度の電流を流すことで、最も小さい焦点サイズとなる場合には、全灯通電加熱用脚部12(A)から13(B)に向けて9[A]〜6[A]程度の電流を流し、半灯通電加熱用脚部15(D)から14(C)に向けて0[A]〜3[A]程度の電流を流せば、少なくとも内側電子出射面には電子の放出範囲が確保される。そして、上述の範囲内における各電流値に応じて内側電子出射面から外側電子出射面までの範囲で電子の放出範囲が微調整される。従って、焦点のサイズを、最も大きい焦点・最も小さい焦点の間の大きさに調整することができる。
【0035】
そのために、高電圧発生部5(図1を参照)は、可変抵抗器27,28を同時に制御することで、互いに同期させて可変抵抗器27を流れる電流値を9[A]〜6[A]程度に設定し可変抵抗器28を流れる電流値を0[A]〜3[A]程度に設定する。これによって、可変抵抗器27は全灯通電加熱用脚部12,13(A,B)に流れる電流を9[A]〜6[A]程度の電流値に調整し、この調整に同期して可変抵抗器28は半灯通電加熱用脚部14,15(C,D)に流れる電流を0[A]〜3[A]程度の電流値に調整する。
【0036】
なお、透視や撮影前に予め図5に示すテーブルを作成するのが好ましい。図5は、全灯通電加熱用脚部・半灯通電加熱用脚部に流れる電流値の組み合わせと、電子の放出範囲との対応関係を表したテーブルである。例えば、最も大きい焦点が0.75[mm]で、最も小さい焦点が0.5[mm]とする。透視や撮影前に、可変抵抗器27,28を制御し、可変抵抗器27,28を流れる電流値をそれぞれ設定し、そのときの放出範囲を測定して、電流値の組み合わせ(図5では「A,Bの電流値」、「C,Dの電流値」と表記)と電子の放出範囲とを対応付けてテーブルを作成する。図5(a)は、各々の電流値を同期させた同期用のテーブルである。つまり、「A,Bの電流値」、「C,Dの電流値」のそれぞれを変更する。図5(b)は、一方の電流値を固定した状態で他方の電流値のみを可変にしたときのテーブルである。
【0037】
図5に示すテーブルを作成したら、透視や撮影時に高電圧発生部(図1を参照)はテーブルを参照して目的に応じた電子の放出範囲に対応する電流値をそれぞれ読み出す。読み出された電流値に設定されるように可変抵抗器27,28を制御することで、可変抵抗器27,28に流れる各電流の少なくとも1つの電流値を調整する。
【0038】
本実施例によれば、複数(本実施例では2つ)の通電経路に流れる各電流の少なくとも1つの電流値を調整することで、フィラメント(本実施例では平板フィラメント11)の一部分の領域の温度、他の領域の温度を適切に設定する。当該電流値と電子の放出範囲とは非線形の関係であるので、電流値を調整することで、フィラメント(平板フィラメント11)の電子の放出範囲を自在に調整することができ、全体を加熱した場合と部分的に加熱した場合とのそれぞれの焦点の間での任意の大きさの焦点を得ることができる。
【0039】
本実施例に係るフィラメントの調整方法において、例えば図5(a)のテーブルを参照して複数(2つ)の通電経路に流れる各電流の電流値を同期させて調整するのが好ましい。もちろん、必ずしも各電流の電流値を同期させる必要はなく、例えば図5(b)のテーブルを参照して個々に電流値を調整してもよい。
【0040】
この発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0041】
(1)フィラメントを用いたX線管装置の具体的な構成については特に限定されない。例えば、陽極がそれを収容する外囲器と一体となって回転する外囲器回転型医用X線管や、それ以外の医用X線管や、工業用の大焦点X線管に適用することができる。
【0042】
(2)上述した実施例では、X線管装置に適用したが、X線を発生せずに電子線を出射する電子源に適用してもよい。
【0043】
(3)X線装置については、被検体を診断する医用X線装置であってもよいし、非破壊検査装置に用いられる工業用X線装置であってもよい。
【0044】
(4)上述した実施例では、フィラメント(実施例では平板フィラメント)がX線管装置に用いられる場合を例に採って説明するとともに、X線透視装置やX線撮影装置などのX線装置にX線管装置が組み込まれる場合を例に採って説明したが、X線管装置単体、フィラメント単体を調整する場合も同様である。
【0045】
(5)上述した実施例では、平板フィラメントを例に採って説明したが、必ずしも電子線出射面が平板状である必要はない。ただし、平板状の電子線出射面を有した平板フィラメントの方が、平板フィラメントを水平面に固定することができ、焦点を精度良く制御することができる。
【0046】
(6)上述した実施例では、フィラメント(実施例では平板フィラメント)において2つの通電経路を有していたが、複数であれば3つ以上であってもよい。例えば、特許文献1:特開2012−15045号公報の図4に示すように3つの通電経路を有するフィラメントに適用してもよい。つまり、少なくとも2つの通電経路からなり、フィラメントは、少なくとも第1〜第4の通電加熱用の脚部と、第1の脚部および第2の脚部に電気的に接続された外側電子出射面と、第3の脚部、第4の脚部および外側電子出射面に電気的に接続された内側電子出射面とを含み、調整部が、外側電子出射面に、第1の脚部と第2の脚部との間に流れる電流を流し、内側電子出射面に、第1の脚部と第2の脚部との間に流れる電流と、第3の脚部と第4の脚部との間に流れる電流とを流し、第1の脚部と第2の脚部との間に流れる電流の電流値と、第3の脚部と第4の脚部との間に流れる電流の電流値との少なくとも1つを調整するように構成すればよい。
【0047】
(7)上述した実施例では、調整部は可変抵抗器27,28であったが、電流値を調整する構成であれば、可変抵抗器に限定されない。例えばキャパシタンス(静電容量)やリアクタンス等を調整部に採用してもよい。その他にも、変圧器(トランス)の一次側電流を調整して平板フィラメント11に通電する二次電流を調整してもよい。
【0048】
(8)上述した実施例では、同期させる構成は高電圧発生部5(が有する同期回路)であったが、各々の電流値を同期させて調整する構成であれば、高電圧発生部5に限定されない。また、トリガに応じて同期させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上のように、この発明は、X線透視装置やX線撮影装置などのX線装置に適している。
【符号の説明】
【0050】
2 … X線管装置
3 … フラットパネル型X線検出器(FPD)
4 … 画像処理部
5 … 高電圧発生部
11 … 平板フィラメント
22 … 陰極
27,28 … 可変抵抗器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7