特許第6115653号(P6115653)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6115653タービン軸におけるシャフトとインペラとの溶接方法、タービン軸、および、溶接装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6115653
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】タービン軸におけるシャフトとインペラとの溶接方法、タービン軸、および、溶接装置
(51)【国際特許分類】
   F02B 39/00 20060101AFI20170410BHJP
   F01D 5/04 20060101ALI20170410BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   F02B39/00 R
   F02B39/00 T
   F02B39/00 Q
   F01D5/04
   F01D25/00 X
   F01D25/00 F
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-557813(P2015-557813)
(86)(22)【出願日】2015年1月9日
(86)【国際出願番号】JP2015050436
(87)【国際公開番号】WO2015107981
(87)【国際公開日】20150723
【審査請求日】2016年3月3日
(31)【優先権主張番号】特願2014-5152(P2014-5152)
(32)【優先日】2014年1月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】村田 健吉
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 康介
(72)【発明者】
【氏名】根崎 孝二
(72)【発明者】
【氏名】三浦 雄一
(72)【発明者】
【氏名】貝原 正一郎
【審査官】 津田 健嗣
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−202575(JP,A)
【文献】 特開2012−57577(JP,A)
【文献】 特開2013−170487(JP,A)
【文献】 特開2011−112039(JP,A)
【文献】 特開2014−177933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 39/00
F01D 5/04
F01D 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸方向に窪んだ内部穴が形成された環状の対象面が、シャフトおよびインペラのいずれか一方に設けられ、前記対象面に対向する対向部と、前記対向部から中心側に連続して形成され前記内部穴に臨む非対向部とを有する対向面が、前記シャフトおよび前記インペラのいずれか他方に設けられ、前記シャフトおよび前記インペラは互いの嵌合によって互いの相対的な位置を規定する構造を持たないタービン軸におけるシャフトとインペラとの溶接方法であって、
前記対象面および前記対向面を面接触状態で回転軸方向に対向配置する工程と、
前記対象面および前記対向面に対し、溶融深さが前記対向部よりも中心側に到達する条件に基づいて、前記シャフトの径方向外側から径方向内側に向かってビーム照射して、前記対象面と前記対向面とを溶接する工程と、
を含むことを特徴とするタービン軸におけるシャフトとインペラとの溶接方法。
【請求項2】
前記対向面の非対向部には、回転軸方向に突出して前記内部穴に挿入されるとともに、前記内部穴の内周面に対して前記シャフトの径方向に離隔する突出部が設けられ、
前記溶接する工程において、溶融深さが前記内部穴の内周面と前記突出部の外周面との間に位置するように、ビーム照射することを特徴とする請求項1に記載のタービン軸におけるシャフトとインペラとの溶接方法。
【請求項3】
前記対向面の非対向部には、回転軸方向に窪むとともに、前記内部穴よりも小径の小径穴が設けられ、
前記溶接する工程において、溶融深さが前記内部穴の内周面と前記小径穴の内周面との間に位置するように、ビーム照射することを特徴とする請求項1に記載のタービン軸におけるシャフトとインペラとの溶接方法。
【請求項4】
前記対象面と前記対向面とを溶接する工程は、減圧環境下において、前記ビーム照射としてレーザ光を照射することで遂行されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のタービン軸におけるシャフトとインペラとの溶接方法。
【請求項5】
回転軸方向に窪んだ内部穴が形成された環状の対象面が、シャフトおよびインペラのいずれか一方に設けられ、前記対象面に対向する対向部と、前記対向部から中心側に連続して形成され前記内部穴に臨む非対向部とを有する対向面が、前記シャフトおよび前記インペラのいずれか他方に設けられ、前記シャフトおよび前記インペラは互いの嵌合によって互いの相対的な位置を規定する構造を持たないタービン軸における、前記シャフトと前記インペラとを溶接する溶接装置であって、
前記対象面および前記対向面を面接触状態で回転軸方向に対向配置するチャック部と、
前記対象面および前記対向面に対し、溶融深さが前記対向部よりも中心側に到達するように、前記シャフトの径方向外側から径方向内側に向かってビーム照射して、前記対象面と前記対向面とを溶接する溶接部と、
を備えることを特徴とする溶接装置。
【請求項6】
タービン軸であって、
互いの嵌合によって互いの相対的な位置を規定する構造を持たず、溶接によって互いに接合するシャフト及びインペラ
を備え、
前記シャフトおよび前記インペラのいずれか一方は、回転軸方向に窪んだ内部穴が形成された環状の対象面を含み、
前記シャフトおよび前記インペラのいずれか他方は、前記対象面に対向する対向部と、前記対向部から中心側に連続して形成され前記内部穴に臨む非対向部とを有する対向面を含み、
前記対象面および前記対向面の前記対向部の溶接に伴って溶融し、その後固化した溶融部位は、前記対象面と前記対向部の接合部から前記非対向部に到達している
ことを特徴とするタービン軸。
【請求項7】
前記対向面は、前記非対向部に形成され前記回転軸方向に突出する突出部を含み、
前記突出部の外周面は、前記内部穴の内周面に対して前記非対向部を挟んで前記シャフトの径方向に離隔しており、
前記溶融部位における径方向内側の端部は、前記非対向部に位置していることを特徴とする請求項6に記載のタービン軸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービン軸におけるシャフトとインペラとの溶接方法、タービン軸、および、溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の過給機は、ベアリングハウジングと、ベアリングハウジングに回転自在に支持されたタービン軸と、タービン軸の一端に設けられたタービンインペラと、タービン軸の他端に設けられたコンプレッサインペラとを備える。過給機はエンジンに接続され、エンジンから排出される排気ガスによってタービンインペラを回転させるとともに、このタービンインペラの回転によって、シャフトを介してコンプレッサインペラを回転させる。こうして、過給機は、コンプレッサインペラの回転に伴い空気を圧縮してエンジンに送出する。
【0003】
タービン軸は、シャフトとタービンインペラの溶接によって構成される。溶接手段としては、特許文献1に示されているように、例えば、レーザ溶接や電子ビーム溶接などが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−137099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、過給機の小型化が求められている。この要望に対応しつつ、エンジン容量に合わせた出力を確保するため、タービン軸を、より高速に回転させることが求められている。
【0006】
そこで、上記のタービン軸の溶接において、溶接条件を適切に設定し、溶接品質をさらに向上することが望まれる。
【0007】
本発明の目的は、タービン軸の溶接品質を向上することが可能なタービン軸におけるシャフトとインペラとの溶接方法、タービン軸、および、溶接装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、回転軸方向に窪んだ内部穴が形成された環状の対象面が、シャフトおよびインペラのいずれか一方に設けられ、対象面に対向する対向部と、対向部から中心側に連続して形成され内部穴に臨む非対向部とを有する対向面が、シャフトおよびインペラのいずれか他方に設けられ、シャフトおよびインペラは互いの嵌合によって互いの相対的な位置を規定する構造を持たないタービン軸におけるシャフトとインペラとの溶接方法であって、対象面および対向面を面接触状態で回転軸方向に対向配置する工程と、対象面および対向面に対し、溶融深さが対向部よりも中心側に到達する条件に基づいて、シャフトの径方向外側から径方向内側に向かってビーム照射して、対象面と対向面とを溶接する工程と、を含むことを要旨とする。
【0009】
対向面の非対向部には、回転軸方向に突出して内部穴に挿入されるとともに、内部穴の内周面に対してシャフトの径方向に離隔する突出部が設けられ、溶接する工程において、溶融深さが内部穴の内周面と突出部の外周面との間に位置するように、ビーム照射してもよい。
【0010】
対向面の非対向部には、回転軸方向に窪むとともに、内部穴よりも小径の小径穴が設けられ、溶接する工程において、溶融深さが内部穴の内周面と小径穴の内周面との間に位置するように、ビーム照射してもよい。
【0011】
対象面と対向面とを溶接する工程は、減圧環境下において、ビーム照射としてレーザ光を照射することで遂行されてもよい。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様に係る溶接方法を用いて形成されたタービン軸である。
【0013】
本発明の第3の態様は、回転軸方向に窪んだ内部穴が形成された環状の対象面が、シャフトおよびインペラのいずれか一方に設けられ、対象面に対向する対向部と、対向部から中心側に連続して形成され内部穴に臨む非対向部とを有する対向面が、シャフトおよびインペラのいずれか他方に設けられ、シャフトおよびインペラは互いの嵌合によって互いの相対的な位置を規定する構造を持たないタービン軸における、シャフトとインペラとを溶接する溶接装置であって、対象面および対向面を面接触状態で回転軸方向に対向配置するチャック部と、対象面および対向面に対し、溶融深さが対向部よりも中心側に到達するように、シャフトの径方向外側から径方向内側に向かってビーム照射して、対象面と対向面とを溶接する溶接部と、を備えることを要旨とする。
【0014】
本発明の第4の態様はタービン軸であって、互いの嵌合によって互いの相対的な位置を規定する構造を持たず、溶接によって互いに接合するシャフト及びタービンインペラを備え、シャフトおよびインペラのいずれか一方は、回転軸方向に窪んだ内部穴が形成された環状の対象面を含み、シャフトおよびインペラのいずれか他方は、対象面に対向する対向部と、対向部から中心側に連続して形成され内部穴に臨む非対向部とを有する対向面を含み、対象面および対向面の対向部の溶接に伴って溶融し、その後固化した溶融部位は、対象面と対向部の接合部から非対向部に到達していることを要旨とする。
【0015】
対向面は、非対向部に形成され回転軸方向に突出する突出部を含んでもよい。突出部の外周面は、内部穴の内周面に対して非対向部を挟んでシャフトの径方向に離隔してもよい。溶融部位における径方向内側の端部は、非対向部に位置してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、タービン軸の溶接品質を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1(a)及び図1(b)は、本発明の一実施形態に係るタービン軸を説明するための図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る溶接装置の概略図である。
図3図3は、本発明の一実施形態に係る溶接方法を説明するためのフローチャートである。
図4図4(a)〜図4(c)は、溶融深さについて説明するための図である。
図5図5(a)〜図5(d)は、それぞれ本発明の一実施形態の第1〜第4変形例を説明するための図である。
図6図6(a)及び図6(b)は、図5(c)に示す第3変形例に対する比較例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の一実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎない。従って、これらは、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0019】
(タービン軸1)
図1(a)及び図1(b)は、タービン軸1を説明するための図である。図1(a)は、シャフト2とタービンインペラ3(インペラ)が溶接される前の側面図である。図1(b)は、タービンインペラ3とシャフト2が溶接されたタービン軸1の側面図である。
【0020】
図1(a)に示すように、シャフト2は、回転軸方向の一端に位置するとともにタービンインペラ3に対向する一端面2a(対向面)を有する。一端面2aには、回転軸方向に突出する突出部2bが形成されている。
【0021】
また、タービンインペラ3は、ハブ3aと、ハブ3aの外周面に配された複数の羽根3bとを備える。ハブ3aの底面3c(対象面)には、内部穴(凹部)3dが形成されている。内部穴3dは、シャフト2の軸方向に窪んでいる。内部穴3dの内径は、シャフト2の突出部2bの外径よりも大きい。従って、突出部2bは、内部穴3dに挿入可能である。
【0022】
図1(b)に示すように、シャフト2の突出部2bは、タービンインペラ3の内部穴3dに挿入され、シャフト2の一端面2aがタービンインペラ3の底面3cに当接する。この当接を維持した状態で、一端面2aと底面3cの外周にビーム照射して溶接することで、タービンインペラ3はシャフト2に接合し、タービン軸1形成される。以下、シャフト2とタービンインペラ3を溶接する溶接装置について説明する。
【0023】
(溶接装置100)
図2は、溶接装置100の概略図である。図2においては、制御信号の流れを破線の矢印で示す。図2に示す第1保持部102は、不図示のアクチュエータで駆動する三つ爪102aを有するチャック装置などで構成される。第1保持部102は、ターンテーブル104上に配される。そして、第1保持部102は、シャフト2における、一端面2aと反対側の端部を三つ爪102aが挟み込むことでシャフト2を把持する。また、第1保持部102は、不図示のモータの出力軸に固定されており、把持したシャフト2の回転軸周りに回転する。
【0024】
第2保持部106(チャック部)は、アクチュエータ(図示せず)で駆動する三つ爪106aを有するチャック装置などで構成される。第2保持部106は、タービンインペラ3におけるハブ3aのボス部3eを三つ爪106aが挟み込むことでタービンインペラ3を把持する。
【0025】
第2保持部106は、ロボットアーム(図示せず)に固定されている。ロボットアームの駆動により、第2保持部106は、タービンインペラ3を把持した状態で、タービンインペラ3をシャフト2の一端面2a側に搬送する。
【0026】
溶接部108は、発振器108a、光ファイバ108b、集光部108cを有する。発振器108aが、レーザ媒体(図示せず)の励起により光を発生させる。発生した光は、光ファイバ108bを介して集光部108cに導かれ、集光部108cで集光されながら溶接部分に照射される。
【0027】
制御部110は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路で構成される。制御部110は、第1保持部102、ターンテーブル104、第2保持部106、溶接部108の他、溶接装置100が備えるロボットアーム、アクチュエータ、モータの駆動を制御する。
【0028】
(溶接方法)
続いて、溶接装置100を用いたタービン軸1におけるシャフト2とタービンインペラ3との溶接方法について説明する。図3は、本実施形態の溶接方法を説明するためのフローチャートである。初めに、ターンテーブル104において、第1保持部102は、第2保持部106と対向しない退避位置に配されている。そして、制御部110は、不図示のロボットアームを制御して、第1保持部102にシャフト2を設置する。
【0029】
第1保持部102は、三つ爪102aを駆動してシャフト2を把持する。そして、ターンテーブル104が回転し、シャフト2が第2保持部106に近づくと、第2保持部106は、三つ爪106aを駆動して、タービンインペラ3のボス部3eを把持し、タービンインペラ3をシャフト2の一端面2a側に搬送して設置する(S200)。
【0030】
そして、第2保持部106は、タービンインペラ3の底面3cの径方向の中心、または、タービンインペラ3の重心に対応する径方向の位置、および、シャフト2の一端面2aの中心を一致させた状態で、底面3cおよび一端面2aを面接触状態で回転軸方向に対向配置する(S202)。ここで、底面3cにおけるタービンインペラ3の重心に対応する径方向の位置は、予めタービンインペラ3の重心位置を計測して特定することができる。なお、後述するように、シャフト2及びタービンインペラ3はインロー構造を共有していない。従って、溶接における両者の相対的な位置は、第1保持部102と第2保持部106によって規定される。
【0031】
さらに、ターンテーブル104が回転し、シャフト2およびタービンインペラ3が溶接部108に近づく。そして、溶接部108は、底面3cおよび一端面2aに対し、後述する溶融深さとなるように、シャフト2の径方向外側から径方向内側に向かってビーム照射する(S204)。
【0032】
このとき、第1保持部102がモータによって回転し、シャフト2およびタービンインペラ3は、シャフト2の回転軸周りに回転する。こうして、底面3cと一端面2aの外周を全周に亘ってレーザ光が走査し、底面3cと一端面2aとが溶接される。
【0033】
続いて、本実施形態の溶接方法および溶接装置100において、溶接部108が底面3cおよび一端面2aに対してビーム照射するときの溶融深さについて詳述する。
【0034】
図4(a)〜図4(c)は、溶融深さについて説明するための図である。図4(a)は、溶接前のシャフト2およびタービンインペラ3について、図1(b)の破線部Aのシャフト2の軸中心を含む断面を示している。
【0035】
図4(a)に示すように、シャフト2の一端面2aは、対向部2cと非対向部2dを有している。対向部2cは、一端面2aにおけるシャフト2の径方向の中心と、底面3cにおける径方向の中心、または、タービンインペラ3の重心に対応する径方向の位置に一致させた状態で対向させたとき(同軸対向状態)、タービンインペラ3の底面3cと対向して面接触する部位である。
【0036】
一方、非対向部2dは、上記の同軸対向状態でタービンインペラ3の底面3cと対向しない部位であって、対向部2cから中心側に連続して形成され、且つ内部穴3dに臨む部位である。底面3cは、その内径側に形成される内部穴3dによって環状となっている。この形状により、非対向部2dが形成される。
【0037】
突出部2bは、一端面2aの非対向部2dに形成される。突出部2bは、内部穴3dに挿入される。また、突出部2bは、内部穴3dの内周面3fに対して非対向部2dを挟んでシャフト2の径方向に離隔する。すなわち、シャフト2とタービンインペラ3は、インロー構造(spigot (joint) structure)を持っていない。ここで、インロー構造とは、凹部と凸部に代表されるように、2つの部材の互いの嵌合によって互いの相対的な位置を規定する構造をいう。インロー構造を共有する2つの部材では、例えば、一方の部材の内周面に対して、他方の部材の外周面が相対的に摺動しながら挿入される(嵌合される)ことで両者の相対的な位置決めが成される。
【0038】
図4(b)、図4(c)は、シャフト2及びタービンインペラ3に対するビーム照射に伴って、一旦溶融した後に固化した部位(溶融部位)Bをクロスハッチングで示している。ビーム照射によって深溶け込み型の溶接(key-hole welding, key-hole mode welding)がなされるとき、キーホールが形成される。ここで、深溶け込み型の溶接は、パワー密度が比較的高く、幅よりも深さが大きい溶融池ができる溶接であって、キーホールは、この溶融池において溶融した金属が蒸発し、蒸発した金属が表面から離散するときの反力で生じる窪みである。
【0039】
本実施形態においては、図4(b)に示すように、部位Bの溶融深さが対向部2cよりも中心側に到達する。即ち、部位Bは、対象面3cと対向部2cの接合部から非対向部2dに到達する。具体的には、部位Bにおける、シャフト2の径方向内側(図4中、下側)の端部は、突出部2bの外周面2eと内部穴3dの内周面3fとの間に位置する、一端面2aの非対向部2dに位置する。つまり、この端部は、突出部2bの外周面2eまでは達していない。一方、図4(c)に示す比較例においては、部位Bにおける、シャフトS1の径方向内側(図4中、下側)の端部が、突出部S1bの外周面S1eよりもシャフトS1の径方向内側まで到達している。すなわち、キーホールが突出部S1bの外周面S1eよりもシャフトS1の径方向内側まで到達している。
【0040】
比較例においては、非対向部2dから突出部S1bまで連続して溶融されている。したがって、溶融の結果、突出部S1bの外周面S1eに滞留する金属の流量が多い。溶融金属が突出部S1bの外周面S1e上に滞留して固化したとき、溶接条件によっては、クラックと同じような形状が形成されてしまう(疑似クラック)可能性がある。また、溶接中の雰囲気ガス(例えば空気)を巻き込むことで、溶接部位にポロシティ(空孔)が形成されてしまう可能性もある。このようにして疑似クラックやポロシティが形成されると、その発生部位によっては、溶接部位の強度が低下してしまうおそれがある。このため、種々の溶接条件をさらに厳しく管理する必要が生じる。
【0041】
ここで、シャフト2とタービンインペラ3は異なる金属で構成することができる。例えば、シャフト2がSCMやSCrなどのクロム鋼、タービンインペラ3が耐熱性、耐酸化性に優れたNi基超合金などで形成されている。
【0042】
そこで、本実施形態では、溶接部108は、底面3cおよび一端面2aに対し、溶融深さが内部穴3dの内周面3fと突出部2bの外周面2eとの間に位置するように、シャフト2の径方向外側から径方向内側に向かってビーム照射する。詳細には、このような溶接となるように、溶接処理と溶接後の溶接部位の分析とを繰り返す等をして適切な溶接条件を特定し、特定された溶接条件に従って溶接を行う。即ち、上述した所望の溶融深さが得られる溶接条件に基づいて(換言すれば当該条件を用いて)溶接を行う。この溶接条件は例えば、データとして制御部110に保存されており、溶接開始時に読み出されて溶接の制御に用いられる。
【0043】
その結果、突出部2bに滞留する金属の流量が少なく、比較例のような疑似クラックやポロシティが形成されにくい。そのため、溶接品質を向上することが可能となる。
【0044】
また、仮に、内周面3fを突き抜けたビームの一部が突出部2bに到達して突出部2bの一部を溶融しても、非対向部2d側に照射されたビームは、突出部2bまでは到達しない。そのため、非対向部2dから突出部2bまで溶融部分が連続することはない。
【0045】
図5(a)〜図5(d)は、それぞれ本実施形態の第1〜第4変形例を説明するための図である。第1変形例においては、図5(a)に示すように、突出部2bに対向穴12fが形成されている。対向穴12fは、回転軸方向に窪むとともに、内部穴3dに対向する。
【0046】
第2変形例においては、図5(b)に示すように、一端面2aの非対向部2dに環状溝22fが形成されている。環状溝22fは、一端面2aの対向部2cよりも、回転軸方向に窪むとともに突出部2bの周囲に環状に形成されている。
【0047】
第1変形例および第2変形例のいずれにおいても、上記の実施形態と同様、溶接部108は、底面3cおよび一端面2aに対し、溶融深さが内部穴3dの内周面3fと突出部2bの外周面2eとの間に位置するように、シャフト2の径方向外側から径方向内側に向かってビーム照射する。そのため、疑似クラックやポロシティが形成されにくく、溶接品質を向上することが可能となる。なお、溶接時に溶融粒子(所謂スパッタ(spatter))が発生した場合でも、外周面2eが溶融微粒子を受け止める。これにより、溶融粒子の飛散が防止される。また、溶融微粒子が外周面2e上に留まるので、固化した溶融粒子の衝突による異音の発生も抑制される。
【0048】
また、第2変形例においては、環状溝22fが形成されている。従って、溶融した金属が環状溝22fにも広がる。その結果、溶融した金属の厚みが薄くなり、さらに、疑似クラックやポロシティが形成されにくくなる。
【0049】
第3変形例においては、図5(c)に示すように、一端面2aの非対向部2dに内部穴3dよりも小径の小径穴32fが設けられている。小径穴32fは、一端面2aから回転軸方向に窪んでいる。この場合、シャフト2とタービンインペラ3を溶接する工程において、溶融深さが内部穴3dの内周面3fと小径穴32fの内周面32gとの間に位置するように、ビーム照射する。
【0050】
図6(a)及び図6(b)は、第3変形例に対する比較例を説明するための図である。図6(a)に示す比較例では、部位Bにおける、シャフトS2の径方向内側(図6中、下側)の端部が、内部穴T2dの内周面T2fまで達していない。この場合、対向面S2aおよび対象面T2cにおいて溶接された面積が、第3変形例と比べて小さくなり、十分な溶接強度を確保できないおそれがある。
【0051】
一方、図6(b)に示す比較例では、部位Bにおける、シャフトS2の径方向内側(図6中、下側)の端部は、小径穴S2fの内周面S2gよりも径方向内側まで到達している。そのため、溶融した金属が対向面S2aに留まらずに、内部穴T2dおよび小径穴S2fに垂れ落ちてしまう可能性がある。その結果、タービン軸の回転方向の重心が偏ってしまうおそれがある。
【0052】
第3変形例においては、図5(c)に示すように、シャフト2とタービンインペラ3を溶接する工程において、溶融深さが内部穴3dの内周面3fと小径穴32fの内周面32gとの間に位置するようにビーム照射する。そのため、溶接品質を向上することが可能となる。
【0053】
第4変形例においては、図5(d)に示すように、上述した実施形態で示されていた突出部2bが設けられていない。また、第3変形例の小径穴32fも設けられていない。しかしながら、第1〜第3変形例と同じく、溶接部108は、底面3cおよび一端面2aに対し、溶融深さが対向部2cよりも中心側に到達するように、シャフト2の径方向外側から径方向内側に向かってビーム照射して、底面3cと一端面2aとを溶接する。そのため、図6(a)に示す比較例と同様、溶融した後に固化した部位Bにおける、シャフト2の径方向内側(図6中、下側)の端部が、内部穴3dの内周面3fまで到達しないといった事態を回避し、溶接品質の向上を図ることが可能となる。
【0054】
上述した実施形態および変形例では、内部穴3dが形成された環状の底面3cが、タービンインペラ3に設けられ、底面3cに対向する一端面2aがシャフト2に設けられている場合について説明した。しかし、内部穴が形成された環状の対象面が、タービンインペラに設けられ、対象面に対向する対向面がシャフトに設けられていてもよい。
【0055】
また、上述した実施形態および変形例では、溶接装置100は、レーザ溶接によってシャフト2とタービンインペラ3とを溶接する場合について説明したが、溶接装置は、電子ビーム溶接によってシャフト2とタービンインペラ3とを溶接してもよい。
【0056】
電子ビーム溶接の場合、タービンインペラ3におけるハブ3aの底面3c(対象面)と、シャフト2の一端面2a(対向面)とを溶接する溶接工程は、減圧環境下において行われる。一方、レーザ溶接の場合、溶接工程は、一般的には、大気圧下において行われる。しかし、本発明の溶接工程では、大凡真空となる減圧環境下においてビーム照射としてレーザ光を照射することにより、相乗的に溶接品質を向上できる。すなわち、空気など、溶接中の雰囲気ガスの溶融金属への巻き込みが一層抑制され、ポロシティの抑制効果がさらに高められる。
【0057】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0058】
なお、本明細書の溶接方法における各工程は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、タービン軸におけるシャフトとインペラとの溶接方法、タービン軸、および、溶接装置に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6