特許第6115678号(P6115678)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6115678炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6115678
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20170410BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20170410BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   H01L29/78 652C
   H01L29/78 652J
   H01L29/78 652T
   H01L29/78 653A
   H01L29/78 658A
【請求項の数】14
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2016-165172(P2016-165172)
(22)【出願日】2016年8月25日
【審査請求日】2016年10月18日
(31)【優先権主張番号】特願2016-17568(P2016-17568)
(32)【優先日】2016年2月1日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 将伸
(72)【発明者】
【氏名】脇本 節子
【審査官】 綿引 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−283540(JP,A)
【文献】 特開2015−072999(JP,A)
【文献】 特開2012−069933(JP,A)
【文献】 特開2012−253276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/336
H01L 29/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素基板のおもて面に設けられた第1導電型の第1エピタキシャル成長層と、
前記第1エピタキシャル成長層の、前記炭化珪素基板側に対して反対側に設けられた第2導電型の第2エピタキシャル成長層と、
前記第2エピタキシャル成長層の内部に選択的に設けられた、前記第2エピタキシャル成長層よりも不純物濃度の高い第2導電型の第1半導体領域と、
前記第2エピタキシャル成長層の内部の、前記第1半導体領域よりも浅い位置に選択的に設けられた第1導電型の第2半導体領域と、
前記第2半導体領域、前記第1半導体領域および前記第2エピタキシャル成長層を貫通して前記第1エピタキシャル成長層に達するトレンチと、
前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極と、
前記第2半導体領域および前記第2エピタキシャル成長層に接する第1電極と、
炭化珪素基板の裏面に設けられた第2電極と、
を備え、
前記第1半導体領域は、前記第2エピタキシャル成長層よりも不純物濃度の高い複数のピークで深さ方向に高低差をもつ山型が複数存在する第2導電型不純物濃度プロファイルを有することを特徴とする炭化珪素半導体装置。
【請求項2】
前記第2導電型不純物濃度プロファイルは、前記第2エピタキシャル成長層と前記第1エピタキシャル成長層との境界で不純物濃度が急峻に低下していることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項3】
前記第2導電型不純物濃度プロファイルの不純物濃度の前記ピークは、前記第2エピタキシャル成長層と前記第1エピタキシャル成長層との境界よりも前記第1電極側に位置することを特徴とする請求項1または2に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項4】
前記第1半導体領域は、前記炭化珪素基板のおもて面に平行な方向に一様に設けられていることを特徴とする請求項1〜のいずれか一つに記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項5】
前記第1エピタキシャル成長層の内部に、前記第1エピタキシャル成長層よりも不純物濃度の高い第1導電型の第3半導体領域をさらに備え、
前記第3半導体領域は、前記第2エピタキシャル成長層に接し、かつ前記第2エピタキシャル成長層との境界から前記トレンチの底面よりも前記第2電極側に深い位置に達することを特徴とする請求項1〜のいずれか一つに記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項6】
前記第3半導体領域の内部に選択的に設けられ、前記トレンチの底面を覆う第2導電型の第4半導体領域をさらに備えることを特徴とする請求項に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項7】
前記第4半導体領域は、前記トレンチの底面から深さ方向に前記第3半導体領域を貫通することを特徴とする請求項に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項8】
隣り合う前記トレンチ間において前記第3半導体領域の内部に、前記第2エピタキシャル成長層に接するように設けられた第2導電型の第5半導体領域をさらに備えることを特徴とする請求項5〜7のいずれか一つに記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項9】
前記第5半導体領域は、深さ方向に前記第3半導体領域を貫通することを特徴とする請求項に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項10】
炭化珪素基板のおもて面に第1導電型の第1エピタキシャル成長層を形成する第1工程と、
前記第1エピタキシャル成長層の上に、第2導電型の第2エピタキシャル成長層を形成する第2工程と、
イオン注入により、前記第2エピタキシャル成長層の内部に、前記第2エピタキシャル成長層よりも不純物濃度の高い第2導電型の第1半導体領域を選択的に形成する第3工程と、
前記第2エピタキシャル成長層の内部の、前記第1半導体領域よりも浅い位置に第1導電型の第2半導体領域を選択的に形成する第4工程と、
前記第2半導体領域、前記第1半導体領域および前記第2エピタキシャル成長層を貫通して前記第1エピタキシャル成長層に達するトレンチを形成する第5工程と、
前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極を形成する第6工程と、
前記第2半導体領域および前記第2エピタキシャル成長層に接する第1電極を形成する第7工程と、
前記炭化珪素基板の裏面に第2電極を形成する第8工程と、
を備え、
前記第3工程では、複数段のイオン注入により、前記第2エピタキシャル成長層よりも不純物濃度の高い複数のピークで深さ方向に高低差をもつ山型が複数存在する第2導電型不純物濃度プロファイルを有する前記第1半導体領域を形成することを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記第3工程では、イオン注入面よりも深い位置に前記第2導電型不純物濃度プロファイルの不純物濃度の前記ピークが形成される加速電圧で前記イオン注入を行うことを特徴とする請求項1記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記第3工程の後、前記第4工程の前に、前記第2エピタキシャル成長層の上に第2導電型の第3エピタキシャル成長層を形成する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記第3工程では、イオン注入面以下の深さ位置に前記第2導電型不純物濃度プロファイルの不純物濃度の前記ピークが形成される加速電圧で前記イオン注入を行うことを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記第3工程では、前記第2エピタキシャル成長層と前記第1エピタキシャル成長層との境界よりも前記第1電極側の深さ位置に前記第2導電型不純物濃度プロファイルの不純物濃度の前記ピークが形成される加速電圧で前記イオン注入を行うことを特徴とする請求項1〜1のいずれか一つに記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に代わる次世代の半導体材料として期待されている。炭化珪素を半導体材料に用いた半導体素子(以下、炭化珪素半導体装置とする)は、シリコンを半導体材料に用いた従来の半導体素子と比較して、オン状態における素子の抵抗を数百分の1に低減可能であることや、より高温(200℃以上)の環境下で使用可能なこと等、様々な利点がある。これは、炭化珪素のバンドギャップがシリコンに対して3倍程度大きく、シリコンよりも絶縁破壊電界強度が1桁近く大きいという材料自体の特長による。
【0003】
炭化珪素半導体装置としては、現在までに、ショットキーバリアダイオード(SBD:Schottky Barrier Diode)、プレーナゲート構造やトレンチゲート構造の縦型MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:絶縁ゲート型電界効果トランジスタ)が製品化されている。
【0004】
トレンチゲート構造は、炭化珪素からなる半導体基体(以下、炭化珪素基体とする)に形成したトレンチ内にMOSゲート(金属−酸化膜−半導体からなる絶縁ゲート)を埋め込んで、トレンチ側壁に沿った部分をチャネル(反転層)として利用した3次元構造である。このため、同じオン抵抗(Ron)の素子同士で比べた場合、トレンチゲート構造は、炭化珪素基体上に平板状にMOSゲートを設けたプレーナゲート構造よりも素子面積(チップ面積)を圧倒的に小さくすることができ、将来有望なデバイス構造といえる。
【0005】
従来の炭化珪素半導体装置の構造について、トレンチゲート構造の縦型MOSFETを例に説明する。図27は、従来の炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。図27に示す従来の炭化珪素半導体装置は、炭化珪素からなる半導体基体(以下、炭化珪素基体とする)100のおもて面(p型ベース領域104側の面)側に一般的なトレンチゲート構造のMOSゲートを備える。炭化珪素基体(半導体チップ)100は、炭化珪素からなるn+型支持基板(以下、n+型炭化珪素基板とする)101上にn-型ドリフト領域102、n型電流拡散領域103およびp型ベース領域104となる各炭化珪素層を順にエピタキシャル成長させてなる。
【0006】
n型電流拡散領域103には、トレンチ107の底面全体を覆うように第1p型領域111が選択的に設けられている。第1p型領域111は、n-型ドリフト領域102に達する深さで設けられている。また、n型電流拡散領域103には、隣り合うトレンチ107間(メサ部)に、第2p型領域112が選択的に設けられている。第2p型領域112は、p型ベース領域104に接し、かつn-型ドリフト領域102に達する深さで設けられている。符号105,106,108,109,113〜115は、それぞれn+型ソース領域、p++型コンタクト領域、ゲート絶縁膜、ゲート電極、層間絶縁膜、ソース電極およびドレイン電極である。
【0007】
このようなトレンチゲート構造の縦型MOSFETとして、不純物濃度の異なるp型半導体層を順にエピタキシャル成長させた2層構造のp型ベース層を備えた装置が提案されている(例えば、下記特許文献1(第0030段落、第1図)および下記特許文献1(第0060段落、第9図)参照。)。下記特許文献1,2では、p型ベース層を構成する各p型半導体層のうち、高不純物濃度のp型半導体層でパンチスルーを抑制し、低不純物濃度のp型半導体層でオン抵抗を低減させている。また、トレンチゲート構造の縦型MOSFETにおいて、n型半導体層の上面に、Al(アルミニウム),B(ホウ素)イオンなどの不純物イオン(p型)を注入し、p型半導体層を形成する技術が提案されている(例えば、下記特許文献3(第0028段落)参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012−099601号公報
【特許文献2】特開2015−072999号公報
【特許文献3】特開2014−241435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した従来構造では、p型ベース領域104をエピタキシャル成長で形成することで結晶性の良好なチャネルが得られ、高キャリア移動度による低オン抵抗化が可能であるが、炭化珪素層のエピタキシャル成長での不純物濃度制御が非常に難しい。現在のエピタキシャル成長技術での不純物濃度のばらつきは、所定期間内に製造(作製)されるすべての製品を一単位とする製品単位(半導体ウエハ面内、製造プロセスのバッチ処理内、バッチ処理間すべてを含む)で±30%となってしまう。p型ベース領域104のp型不純物濃度のばらつきが±30%である場合、ゲート閾値電圧Vthのばらつきが大きくなるという問題がある。また、トレンチゲート構造の縦型MOSFETを製造(作製)する場合、ドレイン−ソース間でのリーク電流(漏れ電流)により不良(以下、リーク不良とする)となる不良チップが多く発生し、歩留りが低下するという問題がある。
【0010】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、低オン抵抗を維持した状態でゲート閾値電圧のばらつきを低減することができ、かつリーク不良を低減することができる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、次の特徴を有する。炭化珪素基板のおもて面に、第1導電型の第1エピタキシャル成長層が設けられている。前記第1エピタキシャル成長層の、前記炭化珪素基板側に対して反対側に、第2導電型の第2エピタキシャル成長層が設けられている。前記第2エピタキシャル成長層の内部に、前記第2エピタキシャル成長層よりも不純物濃度の高い第2導電型の第1半導体領域が選択的に設けられている。前記第2エピタキシャル成長層の内部の、前記第1半導体領域よりも浅い位置に、第1導電型の第2半導体領域が選択的に設けられている。トレンチは、前記第2半導体領域、前記第1半導体領域および前記第2エピタキシャル成長層を貫通して前記第1エピタキシャル成長層に達する。前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介してゲート電極が設けられている。第1電極は、前記第2半導体領域および前記第2エピタキシャル成長層に接する。第2電極は、炭化珪素基板の裏面に設けられている。前記第1半導体領域は、前記第2エピタキシャル成長層よりも不純物濃度の高いピークで深さ方向に高低差をもつ山型の第2導電型不純物濃度プロファイルを有する。
【0012】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第1半導体領域は、前記第2エピタキシャル成長層よりも不純物濃度の高い複数のピークで深さ方向に高低差をもつ山型が複数存在する第2導電型不純物濃度プロファイルを有することを特徴とする。
【0013】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第2導電型不純物濃度プロファイルの不純物濃度は、前記第2エピタキシャル成長層と前記第1エピタキシャル成長層との境界で不純物濃度が急峻に低下していることを特徴とする。
【0014】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第2導電型不純物濃度プロファイルの不純物濃度の前記ピークは、前記第2エピタキシャル成長層と前記第1エピタキシャル成長層との境界よりも前記第1電極側に位置することを特徴とする。
【0015】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第1半導体領域は、前記炭化珪素基板のおもて面に平行な方向に一様に設けられていることを特徴とする。
【0016】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第1エピタキシャル成長層の内部に、前記第1エピタキシャル成長層よりも不純物濃度の高い第1導電型の第3半導体領域をさらに備える。前記第3半導体領域は、前記第2エピタキシャル成長層に接し、かつ前記第2エピタキシャル成長層との境界から前記トレンチの底面よりも前記第2電極側に深い位置に達することを特徴とする。
【0017】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第3半導体領域の内部に選択的に設けられ、前記トレンチの底面を覆う第2導電型の第4半導体領域をさらに備えることを特徴とする。
【0018】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第4半導体領域は、前記トレンチの底面から深さ方向に前記第3半導体領域を貫通することを特徴とする。
【0019】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、隣り合う前記トレンチ間において前記第3半導体領域の内部に、前記第2エピタキシャル成長層に接するように設けられた第2導電型の第5半導体領域をさらに備えることを特徴とする。
【0020】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第5半導体領域は、深さ方向に前記第3半導体領域を貫通することを特徴とする。
【0021】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、次の特徴を有する。炭化珪素基板のおもて面に、第1導電型の第1エピタキシャル成長層が設けられている。前記第1エピタキシャル成長層の内部に、第2導電型の第1半導体領域が選択的に設けられている。前記第1エピタキシャル成長層の内部の、前記第1半導体領域よりも浅い位置に、第1導電型の第2半導体領域が選択的に設けられている。トレンチは、前記第2半導体領域および前記第1半導体領域を貫通して前記第1エピタキシャル成長層に達する。前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介してゲート電極が設けられている。第1電極は、前記第2半導体領域および前記第1エピタキシャル成長層に接する。第2電極は、炭化珪素基板の裏面に設けられている。前記第1半導体領域は、複数のピークで深さ方向に高低差をもつ山型が複数存在する第2導電型不純物濃度プロファイルを有する。
【0022】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記複数のピークの中で、前記第1電極側のピークが、前記第2電極側のピークより不純物濃度が高いことを特徴とする。
【0023】
また、上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、次の特徴を有する。まず、炭化珪素基板のおもて面に第1導電型の第1エピタキシャル成長層を形成する第1工程を行う。次に、前記第1エピタキシャル成長層の上に、第2導電型の第2エピタキシャル成長層を形成する第2工程を行う。次に、イオン注入により、前記第2エピタキシャル成長層の内部に、前記第2エピタキシャル成長層よりも不純物濃度の高い第2導電型の第1半導体領域を選択的に形成する第3工程を行う。次に、前記第2エピタキシャル成長層の内部の、前記第1半導体領域よりも浅い位置に第1導電型の第2半導体領域を選択的に形成する第4工程を行う。次に、前記第2半導体領域、前記第1半導体領域および前記第2エピタキシャル成長層を貫通して前記第1エピタキシャル成長層に達するトレンチを形成する第5工程を行う。次に、前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極を形成する第6工程を行う。次に、前記第2半導体領域および前記第2エピタキシャル成長層に接する第1電極を形成する第7工程を行う。次に、前記炭化珪素基板の裏面に第2電極を形成する第8工程を行う。前記第3工程では、前記第2エピタキシャル成長層よりも不純物濃度の高いピークで深さ方向に高低差をもつ山型の第2導電型不純物濃度プロファイルを有する前記第1半導体領域を形成する。
【0024】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第3工程では、複数段のイオン注入により、前記第2エピタキシャル成長層よりも不純物濃度の高い複数のピークで深さ方向に高低差をもつ山型が複数存在する第2導電型不純物濃度プロファイルを有する前記第1半導体領域を形成することを特徴とする。
【0025】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第3工程では、イオン注入面よりも深い位置に前記第2導電型不純物濃度プロファイルの不純物濃度の前記ピークが形成される加速電圧で前記イオン注入を行うことを特徴とする。
【0026】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第3工程の後、前記第4工程の前に、前記第2エピタキシャル成長層の上に第2導電型の第3エピタキシャル成長層を形成する工程をさらに含むことを特徴とする。
【0027】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第3工程では、イオン注入面以下の深さ位置に前記第2導電型不純物濃度プロファイルの不純物濃度の前記ピークが形成される加速電圧で前記イオン注入を行うことを特徴とする。
【0028】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第3工程では、前記第2エピタキシャル成長層と前記第1エピタキシャル成長層との境界よりも前記第1電極側の深さ位置に前記第2導電型不純物濃度プロファイルの不純物濃度の前記ピークが形成される加速電圧で前記イオン注入を行うことを特徴とする。
【0029】
また、上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、次の特徴を有する。まず、炭化珪素基板のおもて面に第1導電型の第1エピタキシャル成長層を形成する第1工程を行う。次に、イオン注入により、前記第1エピタキシャル成長層の内部に、第2導電型の第1半導体領域を選択的に形成する第2工程を行う。次に、前記第1エピタキシャル成長層の内部の、前記第1半導体領域よりも浅い位置に第1導電型の第2半導体領域を選択的に形成する第3工程を行う。次に、前記第2半導体領域および前記第1半導体領域を貫通して前記第1エピタキシャル成長層に達するトレンチを形成する第4工程を行う。次に、前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極を形成する第5工程を行う。次に、前記第2半導体領域および前記第1エピタキシャル成長層に接する第1電極を形成する第6工程を行う。次に、前記炭化珪素基板の裏面に第2電極を形成する第7工程を行う。前記第3工程では、複数段のイオン注入により、複数のピークで深さ方向に高低差をもつ山型が複数存在する第2導電型不純物濃度プロファイルを有する前記第1半導体領域を形成する。
【0030】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第3工程では、前記複数のピークの中で、前記第1電極側のピークが、前記第2電極側のピークより不純物濃度が高い第2導電型不純物濃度プロファイルを有する前記第1半導体領域を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明にかかる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法によれば、低オン抵抗を維持した状態でゲート閾値電圧のばらつきを低減することができる。かつ、リーク不良を低減することができ、歩留りを高くすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
図2図1の要部の不純物濃度プロファイルを示す特性図である。
図3】実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
図4】実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
図5】実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
図6】実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
図7】実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
図8】実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
図9】実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
図10】実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
図11】実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
図12】実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
図13】実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
図14】実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
図15】実施の形態2にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
図16】実施の形態2にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
図17】実施の形態2にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
図18】実施の形態3にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
図19】実施の形態4にかかる炭化珪素半導体装置の要部の不純物濃度プロファイルを示す特性図である。
図20】実施の形態5にかかる炭化珪素半導体装置の要部の不純物濃度プロファイルを示す特性図である。
図21】実施の形態6にかかる炭化珪素半導体装置の要部の不純物濃度プロファイルを示す特性図である。
図22】実施例1にかかる炭化珪素半導体装置のドレイン・ソース間でのリーク電流の発生頻度を示す特性図である。
図23】従来例の炭化珪素半導体装置のドレイン・ソース間でのリーク電流の発生頻度を示す特性図である。
図24】実施例2にかかる炭化珪素半導体装置のゲート閾値電圧Vthのばらつきを示す特性図である。
図25】比較例1,2の炭化珪素半導体装置のp型ベース領域の条件を示す説明図である。
図26】比較例1,2の炭化珪素半導体装置のゲート閾値電圧Vthとオン抵抗との関係を示す特性図である。
図27】従来の炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および−は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0034】
(実施の形態1)
本発明にかかる半導体装置は、シリコンよりもバンドギャップが広い半導体(以下、ワイドバンドギャップ半導体とする)を用いて構成される。ここでは、ワイドバンドギャップ半導体として例えば炭化珪素(SiC)を用いた半導体装置(炭化珪素半導体装置)の構造を例に説明する。図1は、実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。図1には、2つの単位セル(素子の機能単位)のみを示し、これらに隣接する他の単位セルを図示省略する(図18においても同様)。図1に示す実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置は、炭化珪素からなる半導体基体(炭化珪素基体:半導体チップ)10のおもて面(p型ベース領域4側の面)側にMOSゲートを備えたMOSFETである。
【0035】
炭化珪素基体10は、炭化珪素からなるn+型支持基板(n+型炭化珪素基板)1上にn-型ドリフト領域2およびp型ベース領域4となる各炭化珪素層(第1,2エピタキシャル成長層)21,22を順にエピタキシャル成長させてなる。MOSゲートは、p型ベース領域4、n+型ソース領域(第2半導体領域)5、p++型コンタクト領域6、トレンチ7、ゲート絶縁膜8およびゲート電極9で構成される。具体的には、n-型炭化珪素層21のソース側(ソース電極16側)の表面層には、p型ベース領域4に接するようにn型領域(以下、n型電流拡散領域(第3半導体領域)とする)3が設けられている。n型電流拡散領域3は、キャリアの広がり抵抗を低減させる、いわゆる電流拡散層(Current Spreading Layer:CSL)である。このn型電流拡散領域3は、例えば、基体おもて面(炭化珪素基体10のおもて面)に平行な方向(以下、横方向とする)に一様に設けられている。n型電流拡散領域3を設けなくてもよいが、n型電流拡散領域3を設けることによりオン抵抗および耐圧を向上させることができる。
【0036】
-型炭化珪素層21の、n型電流拡散領域3以外の部分がn-型ドリフト領域2である。n型電流拡散領域3の内部には、第1,2p+型領域(第4,5半導体領域)11,12がそれぞれ選択的に設けられている。第1p+型領域11は、トレンチ7の底面および底面コーナー部を覆うように設けられている。トレンチ7の底面コーナー部とは、トレンチ7の底面と側壁との境界である。第1p+型領域11は、p型ベース領域4とn型電流拡散領域3との界面よりもドレイン側に深い位置から、n型電流拡散領域3とn-型ドリフト領域2との界面に達しない深さで設けられている。第1p+型領域11を設けることで、トレンチ7の底面付近に、第1p+型領域11とn型電流拡散領域3との間のpn接合を形成することができる。
【0037】
第2p+型領域12は、隣り合うトレンチ7間(メサ部)に、第1p+型領域11と離して、かつp型ベース領域4に接するように設けられている。第2p+型領域12は、その一部をトレンチ7側に延在させて部分的に第1p+型領域11と接していてもよい。また、第2p+型領域12は、p型ベース領域4とn型電流拡散領域3との界面から、n型電流拡散領域3とn-型ドリフト領域2との界面に達しない深さで設けられている。第2p+型領域12を設けることで、隣り合うトレンチ7間において、トレンチ7の底面よりもドレイン側に深い位置に、第2p+型領域12とn型電流拡散領域3との間のpn接合を形成することができる。このように第1,2p+型領域11,12とn型電流拡散領域3とでpn接合を形成することで、ゲート絶縁膜8のトレンチ7底面の部分に高電界が印加されることを防止することができる。
【0038】
p型炭化珪素層22の内部には、互いに接するようにn+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6がそれぞれ選択的に設けられている。p++型コンタクト領域6の深さは、例えばn+型ソース領域5よりも深くてもよい。p型炭化珪素層22の、n+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6以外の部分がp型ベース領域4である。p型ベース領域4の内部には、p型不純物のイオン注入により形成されたp+型領域(以下、高濃度インプラ領域(第1半導体領域)とする)13が設けられている(ハッチング部分)。
【0039】
高濃度インプラ領域13は、p型ベース領域4のチャネルが形成される部分を含むように、例えば横方向に一様に設けられている。p型ベース領域4のチャネルが形成される部分とは、p型ベース領域4の、トレンチ7の側壁に沿った部分である。符号4a,4bは、それぞれ、p型ベース領域4のうち、高濃度インプラ領域13よりもドレイン側の部分(以下、第1p型ベース部とする)およびソース側の部分(以下、第2p型ベース部とする)である。第1,2p型ベース部4a,4bは、高濃度インプラ領域13よりも不純物濃度が低い。
【0040】
これら第1,2p型ベース部4a,4bおよび高濃度インプラ領域13でp型ベース領域4が構成される。第1,2p型ベース部4a,4bおよび高濃度インプラ領域13の、トレンチ7の側壁に沿った部分に、オン時にn型の反転層(チャネル)が形成される。図1,2には、高濃度インプラ領域13の配置を明確にするために所定厚さt1の高濃度インプラ領域13を図示するが、高濃度インプラ領域13は、p型不純物のイオン注入により形成されたガウス分布状のp型不純物濃度プロファイル(不純物濃度分布)31を有する部分である(図2参照)。
【0041】
具体的には、高濃度インプラ領域13は、p型ベース領域4を構成するp型炭化珪素層22よりも不純物濃度の高いピーク13aで深さ方向に高低差をもつ山型のp型不純物濃度プロファイル31を有する。すなわち、p型不純物濃度プロファイル31は、p型ベース領域4の内部にピーク13aを有し、当該ピーク13aの位置から基体両主面側(ソース側およびドレイン側)にそれぞれ所定の傾きで不純物濃度が低下している。高濃度インプラ領域13のピーク13aの深さ位置は、n+型ソース領域5とp型ベース領域4との界面の深さ位置以上で、かつp型ベース領域4とn型電流拡散領域3との界面の深さ位置未満の範囲内である。
【0042】
好ましくは、高濃度インプラ領域13のピーク13aの深さ位置は、n+型ソース領域5とp型ベース領域4との界面から、p型ベース領域4の厚さt2の80%程度深さ(=0.8×t2)までの範囲内に位置することが好ましく、n+型ソース領域5とp型ベース領域4との界面から、p型ベース領域4の厚さt2の10%から70%程度深さの範囲内に位置してもよい。その理由は、低オン抵抗化とゲート閾値電圧Vthのばらつき低減とのトレードオフ関係がより改善されるからである。p型ベース領域4の厚さt2とは、n+型ソース領域5とp型ベース領域4との界面から、p型ベース領域4とn型電流拡散領域3との界面までの厚さである。
【0043】
すなわち、高濃度インプラ領域13のピーク13aは、基体おもて面からn型電流拡散領域3よりも浅く、n型電流拡散領域3と離した深さ位置に位置する。高濃度インプラ領域13のピーク13aの深さ位置がn+型ソース領域5とp型ベース領域4との界面の深さ位置である場合、高濃度インプラ領域13はn+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6に接し、第2p型ベース部4bは設けられていない。高濃度インプラ領域13を形成するためのp型不純物のイオン注入によるp型不純物濃度プロファイルの詳細な説明については後述する。
【0044】
高濃度インプラ領域13は、異なる深さ位置に複数の不純物濃度のピーク13aを有していてもよい。この場合、高濃度インプラ領域13のすべての不純物濃度のピーク13aの深さ位置が上述した範囲内に位置すればよい。高濃度インプラ領域13を形成するためのイオン注入により、p型ベース領域4には、エピタキシャル成長のみの場合よりも部分的に結晶構造にみだれ(例えば転位などの欠陥)が生じている。このため、p型ベース領域4は、不純物をイオン注入されていないエピタキシャル成長のみで構成された場合(すなわち図27に示す従来構造)と部分的に膜質が異なる。
【0045】
トレンチ7は、基体おもて面からn+型ソース領域5、高濃度インプラ領域13およびp型ベース領域4を貫通してn型電流拡散領域3に達する。トレンチ7の内部には、トレンチ7の側壁に沿ってゲート絶縁膜8が設けられ、ゲート絶縁膜8の内側にゲート電極9が設けられている。ゲート電極9のソース側端部は、基体おもて面から外側に突出していてもいなくてもよい。ゲート電極9は、図示省略する部分でゲートパッド(不図示)に電気的に接続されている。層間絶縁膜14は、トレンチ7に埋め込まれたゲート電極9を覆うように基体おもて面全面に設けられている。
【0046】
ソース電極(第1電極)16は、層間絶縁膜14に開口されたコンタクトホールを介してn+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6に接するとともに、層間絶縁膜14によってゲート電極9と電気的に絶縁されている。ソース電極16と層間絶縁膜14との間に、例えばソース電極16からゲート電極9側への金属原子の拡散を防止するバリアメタル15が設けられていてもよい。ソース電極16上には、ソースパッド17が設けられている。炭化珪素基体10の裏面(n+型ドレイン領域となるn+型炭化珪素基板1の裏面)には、ドレイン電極(第2電極)18が設けられている。
【0047】
次に、高濃度インプラ領域13を形成するためのp型不純物のイオン注入によるp型不純物濃度プロファイルについて説明する。図2は、図1の切断線A−A'における不純物濃度プロファイルを示す特性図である。図2の横軸は基体おもて面(ソース電極16と炭化珪素基体10との界面)からの深さであり、縦軸は不純物濃度である。図2には、高濃度インプラ領域13を形成するためのp型不純物のイオン注入によるp型不純物濃度プロファイル31の他に、n+型ソース領域5を形成するためのn型不純物のイオン注入によるn型不純物濃度プロファイル32を示す。図2では、n型不純物(n型ドーパント)をリン(P)とし、p型不純物(p型ドーパント)をアルミニウム(Al)としている。
【0048】
図2に示すように、n-型炭化珪素層21上にエピタキシャル成長させたp型ベース領域4となるp型炭化珪素層22の不純物濃度(バックグラウンドの不純物濃度)は、約4×1016atoms/cm3である。n+型ソース領域5を形成するためのn型不純物のイオン注入により、p型炭化珪素層22には、比較的浅い深さ位置にp型炭化珪素層22よりも不純物濃度の高いピーク32aをもつn型不純物濃度プロファイル32が形成される。n型不純物濃度プロファイル32は、ピーク32aの位置からドレイン側に所定の傾きで不純物濃度が低下している。基体おもて面(p型炭化珪素層22の、n-型炭化珪素層21側に対して反対側の面)からn型不純物濃度プロファイル32とp型不純物濃度プロファイル31との交点30aまでの部分がn+型ソース領域5である。n型不純物濃度プロファイル32のピーク32aは、n+型ソース領域5の不純物濃度プロファイルのピーク5aである。
【0049】
また、高濃度インプラ領域13を形成するためのp型不純物のイオン注入により、p型炭化珪素層22には、n型不純物濃度プロファイル32のピーク32aよりも基体おもて面から深い位置に不純物濃度のピーク31aをもつp型不純物濃度プロファイル31が形成される。p型不純物濃度プロファイル31のピーク31aは、高濃度インプラ領域13の不純物濃度プロファイルのピーク31aである。また、p型不純物濃度プロファイル31は、ピーク31aの位置からソース側およびドレイン側にそれぞれ所定の傾きで山型に不純物濃度が低下している。かつ、p型不純物濃度プロファイル31は、p型炭化珪素層22とn-型炭化珪素層21との界面30bで不純物濃度が急峻に低下し、当該界面30bからドレイン側に所定の傾きで不純物濃度が低下している。p型不純物濃度プロファイル31のピーク31aの不純物濃度は、例えば、6×1017atoms/cm3である。
【0050】
このようなp型不純物濃度プロファイル31は、p型ベース領域4となるp型炭化珪素層22をエピタキシャル成長させた後に、高濃度インプラ領域13を形成するためのp型不純物をイオン注入を行うことにより得られる。従来構造(図27参照)のようにエピタキシャル成長のみでp型ベース領域104を構成する場合では不純物濃度制御が難しく、p型不純物濃度プロファイル31は得られない。n型不純物濃度プロファイル32とp型不純物濃度プロファイル31との交点30aから、p型炭化珪素層22とn-型炭化珪素層21との界面30bまでの部分がp型ベース領域4である。p型炭化珪素層22とn-型炭化珪素層21との界面30bよりもドレイン側に深い部分は、n型電流拡散領域3およびn-型ドリフト領域2となるn-型炭化珪素層21である。
【0051】
p型ベース領域4となるp型炭化珪素層22の不純物濃度は、例えば1×1016atoms/cm3以上2×1017atoms/cm3以下程度の範囲内であることが望ましく、この範囲内であれば上記例示と同様の効果が得られる。また、p型不純物濃度プロファイル31のピーク31aの不純物濃度は、2×1016atoms/cm3以上5×1018atoms/cm3以下程度の範囲内であることが望ましい。p型不純物濃度プロファイル31のピーク31aの不純物濃度がp型炭化珪素層22の不純物濃度よりも高く設定されていれば、上記例示と同様の効果が得られる。また、チャネル長Lを0.6μmとしたが、これに限らず、チャネル長Lは0.3μm以上1μm以下であることが望ましい。チャネル長Lは、n型不純物濃度プロファイル32とp型不純物濃度プロファイル31との交点30aから、p型炭化珪素層22とn-型炭化珪素層21との界面30bまでの長さである。
【0052】
次に、実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法について説明する。図3〜14は、実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。まず、図3に示すように、n+型ドレイン領域となるn+型炭化珪素基板1を用意する。次に、n+型炭化珪素基板1のおもて面に、上述したn-型炭化珪素層21となるn-型炭化珪素層21aをエピタキシャル成長させる。次に、フォトリソグラフィおよびp型不純物のイオン注入により、n-型炭化珪素層21aの表面層に、第1p+型領域11およびp+型領域(以下、p+型部分領域とする)12aをそれぞれ選択的に形成する。このp+型部分領域12aは、第2p+型領域12の一部である。
【0053】
次に、図4に示すように、n-型炭化珪素層21a全体にn型不純物をイオン注入し、n-型炭化珪素層21aの表面層全体にn型領域(以下、n型部分領域とする)3aを形成する。このn型部分領域3aは、n型電流拡散領域3の一部である。このとき、n型部分領域3aの深さを第1p+型領域11よりも深くし、第1p+型領域11およびp+型部分領域12aのドレイン側(n+型炭化珪素基板1側)全体をn型部分領域3aで覆う。n-型炭化珪素層21aの、n型部分領域3aよりもドレイン側の部分がn-型ドリフト領域2となる。n型部分領域3aと、第1p+型領域11およびp+型部分領域12aと、の形成順序を入れ替えてもよい。イオン注入は、室温(200℃未満)でも高温(200℃から500℃程度)でもよい。室温でイオン注入する場合はレジスト膜をマスクとして用い、高温でイオン注入する場合には酸化膜をマスクとして用いる(後述のイオン注入は全て同様とする)。
【0054】
次に、図5に示すように、n-型炭化珪素層21a上に、上述したn-型炭化珪素層21となるn-型炭化珪素層21bをエピタキシャル成長させる。次に、図6に示すように、フォトリソグラフィおよびp型不純物のイオン注入により、n-型炭化珪素層21bの、p+型部分領域12aに対向する部分に、p+型部分領域12aに達する深さでp+型部分領域12bを選択的に形成する。p+型部分領域12bの幅および不純物濃度は、例えばp+型部分領域12aと略同じである。p+型部分領域12a,12bが深さ方向(縦方向)に連結されることで、第2p+型領域12が形成される。
【0055】
次に、図7に示すように、n-型炭化珪素層21b全体にn型不純物をイオン注入し、n-型炭化珪素層21b全体に、n型部分領域3aに達する深さでn型部分領域3bを形成する。n型部分領域3bの不純物濃度は、n型部分領域3aと略同じであってもよい。n型部分領域3a,3bが深さ方向に連結されることで、n型電流拡散領域3が形成される。p+型部分領域12bとn型部分領域3bとの形成順序を入れ替えてもよい。次に、図8に示すように、n-型炭化珪素層21上に、p型炭化珪素層22をエピタキシャル成長させる。ここまでの工程により、n+型炭化珪素基板1上にn-型炭化珪素層21およびp型炭化珪素層22を順に堆積した炭化珪素基体(半導体ウエハ)10が形成される。
【0056】
次に、図9に示すように、p型炭化珪素層22の内部の所定深さに所定厚さt1で高濃度インプラ領域13が形成されるように、p型炭化珪素層22全体にp型不純物をイオン注入する。これにより、例えば、p型炭化珪素層22のうち、高濃度インプラ領域13よりもドレイン側の部分が上述した第1p型ベース部4aとなり、高濃度インプラ領域13よりもソース側(n+型炭化珪素基板1側に対して反対側)の部分が上述した第2p型ベース部4bとなる。第1,2p型ベース部4a,4bおよび高濃度インプラ領域13でp型ベース領域4が形成される。
【0057】
次に、図10に示すように、フォトリソグラフィおよびn型不純物のイオン注入により、p型炭化珪素層22の表面層にn+型ソース領域5を選択的に形成する。n+型ソース領域5は、高濃度インプラ領域13に接していてもよい。次に、図11に示すように、フォトリソグラフィおよびp型不純物のイオン注入により、p型炭化珪素層22の表面層に、n+型ソース領域5に接するようにp++型コンタクト領域6を選択的に形成する。すなわち、n+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6は、第2p型ベース部4bの内部にそれぞれ選択的に形成される。n+型ソース領域5とp++型コンタクト領域6との形成順序を入れ替えてもよい。イオン注入が全て終わった後に、活性化アニールを施す。活性化アニール温度は、例えば1500℃から1900℃で施すことが望ましい。活性化アニールの際には、表面に例えばC(カーボン)膜をスパッタ法などで形成してアニールすることが望ましい。
【0058】
次に、図12に示すように、フォトリソグラフィおよびエッチングにより、n+型ソース領域5、第1,2p型ベース部4a,4bおよび高濃度インプラ領域13を貫通して、n型電流拡散領域3の内部の第1p+型領域11に達するトレンチ7を形成する。トレンチ形成時のマスクには酸化膜を用いる。また、トレンチエッチング後に、トレンチ7のダメージを除去するための等方性エッチングや、トレンチ7の底部およびトレンチ7の開口部の角を丸めるための水素アニールを施してもよい。等方性エッチングと水素アニールはどちらか一方のみを行ってもよい。また、等方性エッチングを行った後に水素アニールを行ってもよい。次に、図13に示すように、炭化珪素基体10のおもて面(p型炭化珪素層22の表面)およびトレンチ7の内壁に沿ってゲート絶縁膜8を形成する。次に、トレンチ7に埋め込むように例えばポリシリコン(poly−Si)を堆積しエッチングすることで、トレンチ7の内部にゲート電極9となるポリシリコンを残す。その際、エッチバックしてポリシリコンを基体表部より内側に残すようにエッチングしてもよく、パターニングとエッチングを施すことでポリシリコンが基体表部より外側に突出していてもよい。
【0059】
次に、図14に示すように、ゲート電極9を覆うように、炭化珪素基体10のおもて面全面に層間絶縁膜14を形成する。層間絶縁膜14は、例えば、NSG(None−doped Silicate Glass:ノンドープシリケートガラス)、PSG(Phospho Silicate Glass)、BPSG(Boro Phospho Silicate Glass)、HTO(High Temperature Oxide)、あるいはそれらの組み合わせで形成される。次に、層間絶縁膜14およびゲート絶縁膜8をパターニングしてコンタクトホールを形成し、n+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6を露出させる。次に、層間絶縁膜14を覆うようにバリアメタル15を形成してパターニングし、n+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6を再度露出させる。次に、n+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6に接するように、ソース電極16を形成する。ソース電極16は、バリアメタル15を覆うように形成されてもよいし、コンタクトホール内にのみ残してもよい。
【0060】
次に、コンタクトホールを埋め込むようにソースパッド17を形成する。ソースパッド17を形成するために堆積した金属層の一部をゲートパッドとしてもよい。n+型炭化珪素基板1の裏面には、ドレイン電極18のコンタクト部にスパッタ蒸着などを用いてニッケル(Ni)膜、チタン(Ti)膜などの金属膜を形成する。この金属膜は、Ni膜、Ti膜を複数組み合わせて積層してもよい。その後、金属膜がシリサイド化してオーミックコンタクトを形成するように、高速熱処理(RTA:Rapid Thermal Annealing)などのアニールを施す。その後、例えばTi膜、Ni膜、金(Au)を順に積層した積層膜などの厚い膜を電子ビーム(EB:Electron Beam)蒸着などで形成し、ドレイン電極18を形成する。
【0061】
上述したエピタキシャル成長およびイオン注入においては、n型不純物(n型ドーパント)として、例えば、炭化珪素に対してn型となる窒素(N)やリン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)などを用いればよい。p型不純物(p型ドーパント)として、例えば、炭化珪素に対してp型となるホウ素(B)やアルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)などを用いればよい。このようにして、図1に示すMOSFETが完成する。
【0062】
以上、説明したように、実施の形態1によれば、エピタキシャル成長させたp型ベース領域の内部にイオン注入により高濃度インプラ領域を設けることで、p型ベース領域の内部に深さ方向に不純物濃度の異なる山型の不純物濃度プロファイルが形成される。かつ、p型ベース領域の内部にイオン注入により高濃度インプラ領域を設けることで、p型ベース領域の内部に部分的に結晶構造のみだれが生じる。これにより、従来構造(図25参照)のようにエピタキシャル成長層のみで構成された深さ方向に不純物濃度プロファイルが一様なp型ベース領域よりもドレイン−ソース間でのリーク電流を低減することができる。これにより、所定期間内に製造されるすべての製品(半導体チップ)を一単位とする製品単位で、ドレイン−ソース間でのリーク不良による不良チップが低減され、歩留りを高くすることができる。所定期間内に製造されるすべての製品とは、半導体ウエハ面内、製造プロセスの各バッチ処理内、およびバッチ処理間のすべての製造工程が完了するまでの期間内に製造されるすべての製品である。プロセスのバッチ処理内およびバッチ処理間において製品単位で生じる悪影響には、例えば、製造設備の状態や、半導体ウエハのロットなどに起因する特性変動による悪影響も含まれる。また、半導体ウエハ面内のみで製造されるすべての製品を一単位とする製品単位とする場合には、さらに歩留りを高くすることができる。
【0063】
また、一般的に、チャネルのキャリア濃度のばらつきが小さいほどゲート閾値電圧のばらつきを小さくすることができるが、炭化珪素のエピタキシャル成長では不純物濃度制御が難しく、チャネルのキャリア濃度のばらつきが大きくなる。このため、エピタキシャル成長層のみでp型ベース領域を構成した従来構造(図27参照)では、チャネルのキャリア濃度のばらつきが大きく、ゲート閾値電圧のばらつきが大きい。それに対して、実施の形態1によれば、p型ベース領域の内部に高濃度インプラ領域を設けることで、ゲート閾値電圧のばらつきは、p型ベース領域よりも不純物濃度の高い高濃度インプラ領域の不純物濃度のばらつきに律速される。イオン注入で形成した高濃度インプラ領域の不純物濃度のばらつきは、エピタキシャル成長のみ形成した領域の不純物濃度のばらつきよりも格段に小さい。このため、p型ベース領域の内部に高濃度インプラ領域を設けることで、エピタキシャル成長のみでp型ベース領域を構成した従来構造よりもゲート閾値電圧のばらつきを小さくすることができる。また、実施の形態1によれば、エピタキシャル成長させたp型炭化珪素層をp型ベース領域とするため、エピタキシャル成長層の特長から結晶性の良好なチャネルが得られ、高キャリア移動度による低オン抵抗化が可能である。
【0064】
また、実施の形態1によれば、n型炭化珪素基板上にp型ベース領域となるp型炭化珪素層をエピタキシャル成長させた市販の炭化珪素基体を用いた場合であっても、p型ベース領域の内部にイオン注入により高濃度インプラ領域を形成することで上述した同様の効果が得られる。
【0065】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法について説明する。図15〜17は、実施の形態2にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。実施の形態2にかかる炭化珪素半導体装置の構造は、実施の形態1と同様である(図1,2参照)。実施の形態2にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、p型ベース領域4を形成するための工程が実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法と異なる。具体的には、p型ベース領域4となるp型炭化珪素層22(22a,22b)を、高濃度インプラ領域13を形成するためのイオン注入工程を挟んで、2回に分けてエピタキシャル成長させている。
【0066】
より具体的には、まず、実施の形態1と同様に、n+型炭化珪素基板1を用意し、n型電流拡散領域3の形成工程までの工程を順に行う(図3〜7参照)。次に、図15に示すように、n-型炭化珪素層(第1エピタキシャル成長層)21上に、上述したp型炭化珪素層22となるp型炭化珪素層(第2エピタキシャル成長層)22aをエピタキシャル成長させる。p型炭化珪素層22aの厚さは、第1p型ベース部4aおよび高濃度インプラ領域13の総厚さと同じ厚さとする。次に、図16に示すように、p型炭化珪素層22a全体にp型不純物をイオン注入し、p型炭化珪素層22aの表面層全体に所定厚さt1の高濃度インプラ領域13を形成する。p型炭化珪素層22aの、高濃度インプラ領域13よりもドレイン側の部分が第1p型ベース部4aとなる。このとき、p型炭化珪素層22aの、高濃度インプラ領域13よりもソース側に第2p型ベース部4bとなる部分が形成されてもよい。
【0067】
次に、図17に示すように、p型炭化珪素層22a上(すなわち高濃度インプラ領域13上)に、上述したp型炭化珪素層22となるp型炭化珪素層(第3エピタキシャル成長層)22bをエピタキシャル成長させる。このp型炭化珪素層22bが第2p型ベース部4bとなる。このとき、p型炭化珪素層22はエピタキシャル成長のみで形成され深さ方向に一様な不純物濃度プロファイルとなるが、実施の形態1と同様に高濃度インプラ領域13が不純物濃度のピーク13aを有していればよい。p型炭化珪素層22bをエピタキシャル成長させるときに不純物濃度を制御し、深さ方向に所定の傾きで不純物濃度が高くなる不純物濃度プロファイルを形成してもよい。これにより、第1,2p型ベース部4a,4bおよび高濃度インプラ領域13からなるp型ベース領域4が形成される。
【0068】
また、ここまでの工程により、n+型炭化珪素基板1上にn-型炭化珪素層21およびp型炭化珪素層22を順に堆積した炭化珪素基体(半導体ウエハ)10が形成される。その後、実施の形態1と同様に、n+型ソース領域5の形成工程以降の工程を順に行うことで(図10〜14参照)、図1に示すMOSFETが完成する。
【0069】
以上、説明したように、実施の形態2によれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、従来、イオン注入面から深い位置に不純物が達するようにイオン注入を行うには、例えば、高加速エネルギーでイオン注入(メガインプラ)可能な特別な製造装置が必要であったり、イオン注入に時間がかかるなどの問題がある。それに対して、実施の形態2によれば、複数回に分けてエピタキシャル成長させ、それぞれのp型炭化珪素層の厚さに基づいて高濃度インプラ領域の深さ位置を自由に決定することができる。このため、メガインプラ可能な特別な製造装置を用いることなく、ベース領域の内部において基体おもて面側から深い位置に高濃度インプラ領域を形成することができる。
【0070】
(実施の形態3)
次に、実施の形態3にかかる炭化珪素半導体装置の構造について説明する。図18は、実施の形態3にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。実施の形態3にかかる炭化珪素半導体装置が実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置と異なる点は、n型電流拡散領域3とn-型ドリフト領域2との界面よりもドレイン側に達する深さで第1,2p+型領域11,12が設けられている点である。
【0071】
具体的には、第1p+型領域11は、トレンチ7の底面から深さ方向にn型電流拡散領域3を貫通し、かつn-型ドリフト領域2内に突出している。第2p+型領域12は、p型ベース領域4とn型電流拡散領域3との界面から深さ方向にn型電流拡散領域3を貫通し、かつn-型ドリフト領域2内に突出している。第1,2p+型領域11,12のドレイン側端部の深さ位置は、n型電流拡散領域3とn-型ドリフト領域2との界面と同じ深さ位置であってもよい。
【0072】
実施の形態3にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法において、第1p+型領域11と、第2p+型領域12の一部となるp+型部分領域12aと、の各深さを、n型電流拡散領域3の一部となるn型部分領域3aよりも深くすればよい。
【0073】
以上、説明したように、実施の形態3によれば、第1,2p+型領域の深さによらず、実施の形態1,2と同様の効果を得ることができる。
【0074】
(実施の形態4)
次に、実施の形態4にかかる炭化珪素半導体装置について説明する。実施の形態4にかかる炭化珪素半導体装置の構造は、実施の形態1と同様である(図1参照)。実施の形態4にかかる炭化珪素半導体装置は、高濃度インプラ領域13の不純物濃度プロファイル41が実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置と異なる。具体的には、p型不純物濃度プロファイル41は、p型不純物の2回のイオン注入により形成された2つのガウス分布形状を有する(図19参照)。
【0075】
より具体的には、高濃度インプラ領域13は、p型ベース領域4を構成するp型炭化珪素層22よりも不純物濃度の高いピーク13b、13cで深さ方向に高低差をもつ山型が2つ存在するp型不純物濃度プロファイル41を有する。すなわち、p型不純物濃度プロファイル41は、p型ベース領域4の内部にピーク13b、13cを有し、当該ピーク13b、13cのそれぞれの位置から基体両主面側(ソース側およびドレイン側)にそれぞれ所定の傾きで不純物濃度が低下している。高濃度インプラ領域13のピーク13b、13cのそれぞれの深さ位置は、実施の形態1のピーク13aと同様の深さ位置にあることが好ましい。
【0076】
次に、高濃度インプラ領域13を形成するためのp型不純物のイオン注入によるp型不純物濃度プロファイル41を詳細に説明する。図19は、実施の形態4にかかる炭化珪素半導体装置の場合の図1の切断線A−A'における不純物濃度プロファイルを示す特性図である。なお、図19は、高濃度インプラ領域13のピーク41bの深さ位置がn+型ソース領域5とp型ベース領域4との界面の深さ位置であり、高濃度インプラ領域13はn+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6に接し、第2p型ベース部4bが設けられていない場合のp型不純物濃度プロファイル41を示す。ここで、ピーク41bは、高濃度インプラ領域13のピーク41b、41cのうち、深さ位置がn+型ソース領域5に近い位置にあるものである。
【0077】
以下、図19の説明において、図2と重複する説明を省略する。図19の横軸は基体おもて面からの深さであり、縦軸は不純物濃度である。図19には、高濃度インプラ領域13を形成するためのp型不純物のイオン注入によるp型不純物濃度プロファイル41の他に、n+型ソース領域5を形成するためのn型不純物のイオン注入によるn型不純物濃度プロファイル42を示す。n+型ソース領域5を形成するためのn型不純物のイオン注入により、p型炭化珪素層22には、n型不純物濃度プロファイル42が形成される。基体おもて面からn型不純物濃度プロファイル42とp型不純物濃度プロファイル41との交点40aまでの部分がn+型ソース領域5である。
【0078】
また、高濃度インプラ領域13を形成するためのp型不純物のイオン注入により、p型炭化珪素層22には、n型不純物濃度プロファイル42のピーク42aよりも基体おもて面から深い位置に不純物濃度のピーク41b、41cをもつp型不純物濃度プロファイル41が形成される。p型不純物濃度プロファイル41のピーク41b、41cは、それぞれ高濃度インプラ領域13の不純物濃度プロファイルのピーク13b、13cである。また、p型不純物濃度プロファイル41は、ピーク41b、41cの位置からソース側およびドレイン側にそれぞれ所定の傾きで山型に不純物濃度が低下している。かつ、p型不純物濃度プロファイル41は、p型炭化珪素層22とn-型炭化珪素層21との界面40bで不純物濃度が急峻に低下し、当該界面40bからドレイン側に所定の傾きで不純物濃度が低下している。
【0079】
このようなp型不純物濃度プロファイル41は、p型不純物濃度プロファイル31と同様にp型不純物のイオン注入を行うことにより得られ、エピタキシャル成長のみでは、得られない。また、p型炭化珪素層22の不純物濃度およびp型不純物濃度プロファイル41のピーク41b、41cの不純物濃度は、それぞれ実施の形態1のp型炭化珪素層22の不純物濃度およびp型不純物濃度プロファイル31のピーク31aと同様な値であることが好ましい。また、実施の形態4では、p型不純物濃度プロファイル41がピーク41b、41cをもつ場合を示したが、2つより多くのピークを有しても良い。
【0080】
次に、実施の形態4にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法について説明する。実施の形態4にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、高濃度インプラ領域13を形成するための工程が実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法と異なる。具体的には、高濃度インプラ領域13を形成するためのイオン注入工程で、2回に分けてイオン注入を行っている。
【0081】
より具体的には、まず、実施の形態1と同様に、n+型炭化珪素基板1を用意し、p型炭化珪素層22の形成工程までの工程を順に行う(図3〜8参照)。次に、p型炭化珪素層22の内部の所定深さに所定厚さt1で高濃度インプラ領域13が形成されるように、p型炭化珪素層22全体にp型不純物を、2回イオン注入する(図9参照)。このイオン注入は、異なる加速電圧でイオン注入を行い、イオン種がp型炭化珪素層22の内部の異なる深さに注入されるように行う。例えば、1回目のイオン注入ではp型不純物濃度プロファイル41のピーク41bに対応する深さにイオン種が注入されるように加速電圧を調整する。また、2回目のイオン注入ではp型不純物濃度プロファイル41のピーク41cに対応する深さにイオン種が注入されるように加速電圧を調整する。また、加速電圧の順序を逆にしても良い。つまり、1回目のイオン注入で、ピーク41cに対応する深さにイオン種が注入されるように加速電圧を調整し、2回目のイオン注入で、ピーク41bに対応する深さにイオン種が注入されるように加速電圧を調整しても良い。これにより、例えば、p型炭化珪素層22のうち、高濃度インプラ領域13よりもドレイン側の部分が上述した第1p型ベース部4aとなり、高濃度インプラ領域13よりもソース側(n+型炭化珪素基板1側に対して反対側)の部分が上述した第2p型ベース部4bとなる。第1,2p型ベース部4a,4bおよび高濃度インプラ領域13でp型ベース領域4が形成される。また、ここでは、高濃度インプラ領域13を2回のイオン注入により形成したが、2回より多くのイオン注入により形成してもかまわない。また、p型不純物濃度プロファイル41を有する高濃度インプラ領域13は、p型の異なる複数種類のイオン種をイオン注入することにより、形成することもできる。
【0082】
その後、実施の形態1と同様に、n+型ソース領域5の形成工程以降の工程を順に行うことで(図10〜14参照)、実施の形態4にかかるMOSFETが完成する。
【0083】
以上、説明したように、実施の形態4によれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。実施の形態4では、実施の形態1の高濃度インプラ領域13を2回のイオン注入により形成したが、実施の形態2および実施の形態3の高濃度インプラ領域13も2回のイオン注入により形成することができる。この場合も、実施の形態2および実施の形態3と同様の効果を得ることができる。
【0084】
(実施の形態5)
次に、実施の形態5にかかる炭化珪素半導体装置について説明する。実施の形態5にかかる炭化珪素半導体装置の構造は、実施の形態1と同様である(図1参照)。実施の形態5にかかる炭化珪素半導体装置は、高濃度インプラ領域13の不純物濃度プロファイル51が実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置と異なる。具体的には、p型不純物濃度プロファイル51は、実施の形態4と同様にp型不純物の2回のイオン注入により形成された2つのガウス分布形状を有する(図20参照)。
【0085】
図20は、実施の形態5にかかる炭化珪素半導体装置の場合の図1の切断線A−A'における不純物濃度プロファイルを示す特性図である。図20における、p型不純物濃度プロファイル51、n型不純物濃度プロファイル52、ピーク51b、51c、交点50aおよび界面50bは、それぞれ、図19のp型不純物濃度プロファイル41、n型不純物濃度プロファイル42、ピーク41b、41c、交点40aおよび界面40bと同様であるため説明を省略する。
【0086】
p型不純物濃度プロファイル41は、界面40bで不純物濃度が急峻に低下しているが、p型不純物濃度プロファイル51は、ピーク51cの位置からドレイン側に所定の傾きで不純物濃度が低下している。また、ソース側のピーク51bはゲート閾値電圧Vthを決定する因子であり、ピーク51bの不純物濃度が高いほど、ゲート閾値電圧Vthを上げる(高くする)ことができる。ドレイン側のピーク51cは短チャネル効果を決定する因子であり、ピーク51cの位置がn型電流拡散領域3に近いほど、短チャネル効果を抑制することができる。
【0087】
次に、実施の形態5にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法を説明する。実施の形態5にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、第1p型ベース部4a、第2p型ベース部4bおよび高濃度インプラ領域13を形成するための工程が実施の形態4にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法と異なる。具体的には、p型炭化珪素層22をエピタキシャル成長させる代わりに、n型炭化珪素層22’をエピタキシャル成長させる。n型炭化珪素層22’にp型の不純物のイオン注入により、p型に打ち返すことにより、第1p型ベース部4a、第2p型ベース部4bおよび高濃度インプラ領域13を形成する。
【0088】
より具体的には、まず、実施の形態1と同様に、n+型炭化珪素基板1を用意し、n型電流拡散領域3の形成工程までの工程を順に行う(図3〜7参照)。次に、n-型炭化珪素層21上に、n型炭化珪素層22’をエピタキシャル成長させる。n型炭化珪素層22’は、p型炭化珪素層22と同様の位置に形成されるため、図示を省略する。ここまでの工程により、n+型炭化珪素基板1上にn-型炭化珪素層21およびn型炭化珪素層22’を順に堆積した炭化珪素基体(半導体ウエハ)10が形成される(図8参照)。
【0089】
次に、n型炭化珪素層22’の内部の所定深さに所定厚さt1で高濃度インプラ領域13が形成されるように、n型炭化珪素層22’全体にp型不純物を、2回イオン注入する(図9参照)。このイオン注入は、実施の形態4と同様の方法で行う。ただし、実施の形態5では、n型炭化珪素層22’をp型に打ち返すため、イオン注入における不純物の注入量は実施の形態4よりも多くなる。n型炭化珪素層22’の厚さは、チャネル長Lと、n+型ソース領域5の厚さ(0.3μm以上0.5μm以下程度)と、の総和である。このため、注入深さの異なる2回のイオン注入で形成される2つのp型領域が重なることにより、n型炭化珪素層22’は、p型に打ち返されて、p型炭化珪素層22となる。このp型炭化珪素層22のうち、高濃度インプラ領域13よりもドレイン側の部分が上述した第1p型ベース部4aとなり、高濃度インプラ領域13よりもソース側(n+型炭化珪素基板1側に対して反対側)の部分が上述した第2p型ベース部4bとなる。第1,2p型ベース部4a,4bおよび高濃度インプラ領域13でp型ベース領域4が形成される。また、実施の形態4と同様に、2回より多くのイオン注入により形成してもかまわない。p型不純物濃度プロファイル51はボックスプロファイル(深さ方向に均一な不純物濃度プロファイル)に近いプロファイルであってもよく、イオン注入の回数は、例えば2回から5回の範囲が好ましい。この場合、p型不純物濃度プロファイル51には、ソース側のピーク51bとドレイン側のピーク51cとの間に1つ以上のピークが形成される。また、実施の形態4と同様に、p型不純物濃度プロファイル51を有する高濃度インプラ領域13は、p型の異なる複数種類のイオン種をイオン注入することにより、形成することもできる。
【0090】
その後、実施の形態1と同様に、n+型ソース領域5の形成工程以降の工程を順に行うことで(図10〜14参照)、実施の形態5にかかるMOSFETが完成する。
【0091】
以上、説明したように、実施の形態5によれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、実施の形態2と同様に、n型炭化珪素層22’を2回に分けてエピタキシャル成長させることもできる。この場合、実施の形態2と同様の効果を得ることができる。
【0092】
(実施の形態6)
次に、実施の形態6にかかる炭化珪素半導体装置について説明する。実施の形態6にかかる炭化珪素半導体装置の構造は、実施の形態1と同様である(図1参照)。実施の形態6にかかる炭化珪素半導体装置は、高濃度インプラ領域13の不純物濃度プロファイル61が実施の形態5にかかる炭化珪素半導体装置と異なる。具体的には、p型不純物濃度プロファイル61は、p型不純物の2回のイオン注入により形成された、高さが異なる2つのガウス分布形状を有する(図21参照)。
【0093】
より具体的には、高濃度インプラ領域13は、p型ベース領域4を構成するp型炭化珪素層22よりも不純物濃度の高いピーク13b、13cで深さ方向に高低差をもち、深さ位置が異なる山型が2つ存在するp型不純物濃度プロファイル61を有する。すなわち、p型不純物濃度プロファイル61は、p型ベース領域4の内部にピーク13b、13cを有し、ピーク13b、13cの深さ位置が異なる。また、p型不純物濃度プロファイル51は、当該ピーク13b、13cのそれぞれの位置から基体両主面側(ソース側およびドレイン側)にそれぞれ所定の傾きで不純物濃度が低下している。高濃度インプラ領域13のピーク13b、13cのどちらか一つの深さ位置は、実施の形態1のピーク13aと同様の深さ位置にあることが好ましい。
【0094】
次に、高濃度インプラ領域13を形成するためのp型不純物のイオン注入によるp型不純物濃度プロファイル61を詳細に説明する。図21は、実施の形態6にかかる炭化珪素半導体装置の場合の図1の切断線A−A'における不純物濃度プロファイルを示す特性図である。図21における、p型不純物濃度プロファイル61、n型不純物濃度プロファイル62、ピーク61b、61c、交点60aおよび界面60bは、それぞれ、図19のp型不純物濃度プロファイル41、n型不純物濃度プロファイル42、ピーク41b、41c、交点40aおよび界面40bと同様であるため説明を省略する。
【0095】
また、p型不純物濃度プロファイル61は、p型不純物濃度プロファイル51と同様にピーク51cの位置からドレイン側に所定の傾きで不純物濃度が低下している。また、p型不純物濃度プロファイル61のピーク61b,61cの深さ位置は、p型不純物濃度プロファイル51のピーク51b,51cと同様である。ソース側のピーク61bの不純物濃度は、ドレイン側のピーク61cの不純物濃度より高い。具体的には、ドレイン側のピーク61cの不純物濃度は、ソース側のピーク61bの不純物濃度の10%〜70%であることが好ましい。
【0096】
また、実施の形態6では、p型不純物濃度プロファイル61が2つのピーク61b、61cをもつ場合を示したが、2つより多くのピークを有しても良い。この場合、ソース側に最も近いピークの不純物濃度が、ドレイン側に最も近いピークの不純物濃度より高い。具体的には、ドレイン側に最も近いピークの不純物濃度は、ソース側に最も近いピークの不純物濃度の10%〜70%であることが好ましい。また、ソース側に最も近いピークとドレイン側に最も近いピーク以外のピークの不純物濃度は、均等であってもよいし、ドレイン側に近づくにつれて徐々に不純物濃度が低くなっていてもよい。
【0097】
次に、実施の形態6にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法について説明する。実施の形態6にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、イオン注入の工程が実施の形態5にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法と異なる。具体的には、イオン注入により、ピーク61bが、ピーク61cより不純物濃度が高いp型不純物濃度プロファイル61を有する高濃度インプラ領域13を形成する。
【0098】
より具体的には、まず、実施の形態5と同様に、n+型炭化珪素基板1を用意し、n型炭化珪素層22’の形成工程までの工程を順に行う(図3〜8参照)。次に、n型炭化珪素層22’の内部の所定深さに所定厚さt1で高濃度インプラ領域13が形成されるように、n型炭化珪素層22’全体にp型不純物を、2回イオン注入する(図9参照)。このイオン注入は、異なる加速電圧でイオン注入を行い、イオン種がn型炭化珪素層22’の内部の異なる深さに注入されるように行う。この際、n型炭化珪素層22’の内部の浅い位置(ソース側に近い)における不純物濃度が深い位置(ドレイン側に近い)における不純物濃度より高くなるようにイオン注入を行う。
【0099】
これにより、実施の形態5と同様に、n型炭化珪素層22’は、p型に打ち返されて、p型炭化珪素層22となり、p型炭化珪素層22のうち、高濃度インプラ領域13よりもドレイン側の部分が上述した第1p型ベース部4aとなり、高濃度インプラ領域13よりもソース側(n+型炭化珪素基板1側に対して反対側)の部分が上述した第2p型ベース部4bとなる。第1,2p型ベース部4a,4bおよび高濃度インプラ領域13でp型ベース領域4が形成される。また、実施の形態4と同様に、2回より多くのイオン注入により形成してもかまわない。イオン注入の回数は、実施の形態5と同様に、例えば、2回から5回の範囲が好ましい。また、実施の形態4と同様に、p型不純物濃度プロファイル61を有する高濃度インプラ領域13は、p型の異なる複数種類のイオン種をイオン注入することにより、形成することもできる。
【0100】
その後、実施の形態1と同様に、n+型ソース領域5の形成工程以降の工程を順に行うことで(図10〜14参照)、実施の形態6にかかるMOSFETが完成する。
【0101】
以上、説明したように、実施の形態6によれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、実施の形態6によれば、p型不純物濃度プロファイルは、ソース側のピークの不純物濃度がドレイン側のピークの不純物濃度より高い。これにより、ゲート閾値電圧およびゲート閾値電圧のばらつきを変えることなく、オン抵抗を低減することができる。これは、ソース側のピークの不純物濃度により、ゲート閾値電圧を決定し、ドレイン側のピークの不純物濃度を、短チャネル効果を抑制できる程度の低い不純物濃度にすることで、チャネル抵抗の上昇を抑えることができるためである。ここで、短チャネル効果とは、チャネル長を短くすることにより、ゲート閾値電圧が急激に低下してしまうことである。また、実施の形態2と同様に、n型炭化珪素層22’を2回に分けてエピタキシャル成長させることもできる。この場合、実施の形態2と同様の効果を得ることができる。
【0102】
(実施例1)
次に、ドレイン・ソース間でのリーク電流の発生頻度について検証した。図22は、実施例1にかかる炭化珪素半導体装置のドレイン・ソース間でのリーク電流の発生頻度を示す特性図である。図23は、従来例の炭化珪素半導体装置のドレイン・ソース間でのリーク電流の発生頻度を示す特性図である。図22,23の縦軸には1枚の半導体ウエハ面内でのリーク電流の発生頻度を示し、横軸には1枚の半導体ウエハ面内から形成される各製品(半導体チップ)のドレイン・ソース間でのリーク電流Iddsの大きさ(電流値)を示す。図22,23の横軸には、ドレイン・ソース間でのリーク電流Iddsが1×10-8A以下である場合を「〜1×10-8A」と示す。ドレイン・ソース間でのリーク電流Iddsが1×10xAより大きく1×10x+1A以下である場合を「〜1×10x+1A」と示す(x=−8〜−4)。ドレイン・ソース間でのリーク電流Iddsが1×10-3Aよりも大きい場合を「1×10-3A〜」と示す。
【0103】
まず、上述した実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法にしたがって、p型ベース領域4の内部に高濃度インプラ領域13を備えたMOSFETチップ(図1参照)を1枚の半導体ウエハから複数個作製した(以下、実施例とする)。比較として、エピタキシャル成長のみでp型ベース領域104を構成した従来構造のMOSFETチップ(図27参照)を1枚の半導体ウエハから複数個作製した(以下、従来例1とする)。そして、実施例および従来例1ともに複数のMOSFETチップのドレイン・ソース間でのリーク電流Iddsを測定した。その結果を図22,23に示す。図22,23に示す結果より、実施例においては、p型ベース領域4の内部に高濃度インプラ領域13による不純物濃度プロファイル(図2参照)を形成することで、ドレイン・ソース間でのリーク電流Iddsの発生頻度およびリーク電流Iddsの大きさを従来例1よりも大幅に低減することができることが確認された。
【0104】
(実施例2)
次に、ゲート閾値電圧Vthのばらつきについて検証した。図24は、実施例2にかかる炭化珪素半導体装置のゲート閾値電圧Vthのばらつきを示す特性図である。図24の横軸にはチャネルのキャリア濃度のばらつきの標準偏差σを示し、縦軸にはゲート閾値電圧Vth=5Vで設計した場合のゲート閾値電圧Vthのばらつきを示す。実施例2では、実施例1、従来例1に加え、上述した実施の形態4および実施の形態6にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法にしたがって、p型ベース領域4の内部に高濃度インプラ領域13を備えたMOSFETチップを1枚の半導体ウエハから複数個作製した(以下、実施例2とする)。上述した実施例1、実施例2および従来例1のゲート閾値電圧Vthのばらつきを測定した結果を図24に示す。
【0105】
図24に示す結果より、従来例1では、1枚の半導体ウエハ面内で、標準偏差の平均値±3σに入るp型ベース領域104の不純物濃度のばらつきが±30%であることが確認された。また、標準偏差の平均値±3σに入るゲート閾値電圧Vthが3.5V〜6.5Vの範囲でばらついていることが確認された。
【0106】
一方、実施例1においては、1枚の半導体ウエハ面内で、標準偏差の平均値±3σに入るp型ベース領域4の不純物濃度のばらつきが従来例1と同様に±30%であるが、高濃度インプラ領域13の不純物濃度のばらつきが±10%であることが確認された。また、標準偏差の平均値±3σに入るゲート閾値電圧Vthを4.4V〜5.6Vの範囲内に抑制することができることが確認された。
【0107】
同様に、実施例2においては、実施の形態4および実施の形態6の両方で、1枚の半導体ウエハ面内で、標準偏差の平均値±3σに入るp型ベース領域4の不純物濃度のばらつきが従来例1と同様に±30%であるが、高濃度インプラ領域13の不純物濃度のばらつきが±10%であることが確認された。また、標準偏差の平均値±3σに入るゲート閾値電圧Vthを4.35V〜5.65Vの範囲内に抑制することができることが確認された。これにより、p型ベース領域4の内部に高濃度インプラ領域13を形成することで、ゲート閾値電圧Vthのばらつきが高濃度インプラ領域13の不純物濃度のばらつきに律速されることがわかる。
【0108】
また、図示省略するが、上述した実施の形態5にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法にしたがって作製したMOSFETチップにおいても、実施例2と同様の効果が得られることが発明者により確認されている。
【0109】
(実施例3)
次に、高濃度インプラ領域13のピーク13aの好適な深さ位置について検証した。図25は、比較例1,2の炭化珪素半導体装置のp型ベース領域の条件を示す説明図である。図25の横軸は基体おもて面からの深さであり、縦軸は不純物濃度である。図25において深さ=0μmは、ソース電極(不図示)とn+型ソース領域35との界面である。図25は、比較例1,2の炭化珪素半導体装置のゲート閾値電圧Vthとオン抵抗との関係を示す特性図である。従来例2および比較例1,2において、ゲート閾値電圧Vthとオン抵抗(RonA)との関係をシミュレーションした結果を図26に示す。
【0110】
なお、従来例2および比較例1,2では、それぞれ、チャネルのキャリア移動度、および、ゲート閾値電圧Vthのチャネル依存性、が異なるため、ここでは定性的に評価している。従来例2および比較例1,2のチャネルのキャリア移動度は、それぞれ、チャネルのキャリア濃度を2.0×1017/cm3にした場合に合わせた。従来例2および比較例1,2は、それぞれサブスレッショルド電流値も異なるため、ゲート閾値電圧Vthも定性的に評価した。セルピッチ(単位セルの配置間隔)を6.0μmとして、ドレイン電圧Vdを20Vに設定した。
【0111】
従来例2および比較例1,2の条件は、次の通りである。図25(a)に示すように、従来例2は、不純物濃度プロファイルを深さ方向に一様としたp型ベース領域34を備える。p型ベース領域34の厚さt0を0.55μmとし、p型ベース領域34とn型電流拡散領域(不図示)との界面の基体おもて面からの深さDを1.1μmとした。図26には、p型ベース領域34の不純物濃度を1.5×1017/cm3、2.0×1017/cm3、2.5×1017/cm3および3.0×1017/cm3とした条件それぞれでゲート閾値電圧Vthを種々変更し、オン抵抗値を算出した結果を示す。
【0112】
図25(b)に示すように、比較例1は、p型ベース領域34の、ドレイン側の部分(以下、第1部分とする)34aよりもソース側の部分(以下、第2部分とする)34bの不純物濃度を高くした点が従来例2と異なる。図26には、p型ベース領域34の第2部分34bの不純物濃度を2.0×1017/cm3、2.5×1017/cm3および3.0×1017/cm3とした条件それぞれでゲート閾値電圧Vthを種々変更し、オン抵抗値を算出した結果を示す。また、図26には、p型ベース領域34の第1部分34aの不純物濃度を1.0×1017/cm3とした場合と、1.5×1017/cm3とした場合と、をそれぞれ示す。
【0113】
図25(c)に示すように、比較例2は、p型ベース領域34の、ドレイン側の部分(以下、第1部分とする)34cよりもソース側の部分(以下、第2部分とする)34dの不純物濃度を低くした点が従来例2と異なる。図26には、p型ベース領域34の第1部分34cの不純物濃度を2.0×1017/cm3、2.5×1017/cm3および3.0×1017/cm3とした条件それぞれでゲート閾値電圧Vthを種々変更し、オン抵抗値を算出した結果を示す。また、図26には、p型ベース領域34の第2部分34dの不純物濃度を1.0×1017/cm3とした場合と、1.5×1017/cm3とした場合と、をそれぞれ示す。
【0114】
比較例1,2ともに、p型ベース領域34の第1,2部分の厚さt11、t12を同じ0.275μmとした。また、比較例1,2ともにp型ベース領域34の不純物濃度プロファイルを深さ方向に階段状に変化させているが、不純物濃度の高い第2,1部分34b,34cは、イオン注入により形成されるガウス分布状の不純物濃度プロファイルを想定している。すなわち、比較例1,2におけるp型ベース領域34の第2,1部分34b,34cは、本発明の高濃度インプラ領域13を想定している。
【0115】
図26に示す結果より、比較例1(破線41で示す線分)では、従来例2と同程度のオン抵抗特性を維持することができることが確認された。すなわち、本発明において、高濃度インプラ領域13は、可能な限りn+型ソース領域5に近い深さ位置に配置されることが好ましいことがわかる。一方、比較例2(一点鎖線および二点鎖線42で示す線分)では、ゲート閾値電圧Vthの条件を同じにした場合に、従来例2よりもオン抵抗が高くなることが確認された。したがって、本発明において、高濃度インプラ領域13は、基体おもて面から、p型ベース領域4とn型電流拡散領域3との界面の深さに達しない深さ位置(すなわち比較例2よりも浅い深さ)となるようにピーク13aの深さ位置を設定することがよいことがわかる。本実施例ではセルピッチ6μmの場合についてのシミュレーション結果を示したが、セルピッチは例えば1.5μmから10μmであっても同様の効果が得られる。
【0116】
各実施例1〜3においては、p型ベース領域4および高濃度インプラ領域13を形成するp型ドーパント(p型不純物)としてアルミニウムを用いた場合を例に説明しているが、これに限らず、炭化珪素に対してp型となる上記p型ドーパントを用いた場合においても同様の効果が得られる。また、p型ベース領域4をエピタキシャル成長させるときに用いるp型ドーパントと、イオン注入により高濃度インプラ領域13を形成するときに用いるp型ドーパントと、が異なるイオン種であっても、同様の効果が得られる。
【0117】
以上において本発明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であり、上述した各実施の形態において、例えば各部の寸法や不純物濃度等は要求される仕様等に応じて種々設定される。また、上述した各実施の形態では、MOSFETを例に説明しているが、これに限らず、所定のゲート閾値電圧に基づいてゲート駆動制御されることで電流を導通および遮断する種々な炭化珪素半導体装置にも広く適用可能である。ゲート駆動制御される炭化珪素半導体装置として、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)などが挙げられる。また、上述した各実施の形態では、ワイドバンドギャップ半導体として炭化珪素を用いた場合を例に説明しているが、炭化珪素以外の例えば窒化ガリウム(GaN)などのワイドバンドギャップ半導体にも適用可能である。また、各実施の形態では第1導電型をn型とし、第2導電型をp型としたが、本発明は第1導電型をp型とし、第2導電型をn型としても同様に成り立つ。この場合、n型ベース領域の内部に、イオン注入により図2のp型不純物濃度プロファイルと同様の不純物濃度プロファイルでn+型の高濃度インプラ領域を形成すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0118】
以上のように、本発明にかかる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法は、電力変換装置や種々の産業用機械などの電源装置などに使用されるパワー半導体装置に有用であり、特にトレンチゲート構造の炭化珪素半導体装置に適している。
【符号の説明】
【0119】
1 n+型炭化珪素基板
2 n-型ドリフト領域
3 n型電流拡散領域
3a,3b n型部分領域
4,34 p型ベース領域
4a 第1p型ベース部
4b 第2p型ベース部
5,35 n+型ソース領域
5a n+型ソース領域のピーク
6 p++型コンタクト領域
7 トレンチ
8 ゲート絶縁膜
9 ゲート電極
10 炭化珪素基体
11 第1p+型領域
12 第2p+型領域
12a,12b p+型部分領域
13 高濃度インプラ領域
13a,13b,13c 高濃度インプラ領域のピーク
14 層間絶縁膜
15 バリアメタル
16 ソース電極
17 ソースパッド
18 ドレイン電極
21,21a,21b n-型炭化珪素層
22,22a,22b p型炭化珪素層
22’ n型炭化珪素層
30a,40a,50a,60a n型不純物濃度プロファイルとp型不純物濃度プロファイルとの交点
30b,40b,50b,60b p型炭化珪素層とn-型炭化珪素層との界面
31,41,51,61 p型不純物濃度プロファイル
31a,41b,41c,51b,51c,61b,61c p型不純物濃度プロファイルのピーク
32,42,52,62 n型不純物濃度プロファイル
32a,42a,52a,62a n型不純物濃度プロファイルのピーク
34a,34c p型ベース領域の第1部分
34b,34d p型ベース領域の第2部分
L チャネル長
t1 高濃度インプラ領域の厚さ
t2 p型ベース領域の厚さ
【要約】
【課題】低オン抵抗を維持した状態でゲート閾値電圧のばらつきを低減することができ、かつリーク不良を低減することができる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法を提供すること。
【解決手段】トレンチゲート構造の縦型MOSFETにおいて、エピタキシャル成長させたp型炭化珪素層22からなるp型ベース領域4の内部には、チャネルが形成される部分を含むように高濃度インプラ領域13が設けられる。高濃度インプラ領域13は、p型炭化珪素層22へのp型不純物のイオン注入により形成される。高濃度インプラ領域13は、p型のイオン注入により形成され、p型炭化珪素層22よりも高不純物濃度のピーク13aで深さ方向に高低差をもつ山型の不純物濃度プロファイル31を有する。p型ベース領域4には、高濃度インプラ領域13を形成するためのイオン注入により部分的に結晶構造にみだれが生じている。
【選択図】図2
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