特許第6115698号(P6115698)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6115698-玉軸受用冠型保持器 図000002
  • 特許6115698-玉軸受用冠型保持器 図000003
  • 特許6115698-玉軸受用冠型保持器 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6115698
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】玉軸受用冠型保持器
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/41 20060101AFI20170410BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   F16C33/41
   F16C19/06
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-146655(P2012-146655)
(22)【出願日】2012年6月29日
(65)【公開番号】特開2014-9748(P2014-9748A)
(43)【公開日】2014年1月20日
【審査請求日】2015年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】多田 和人
(72)【発明者】
【氏名】岡島 正和
【審査官】 塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−287032(JP,A)
【文献】 実開昭56−040223(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/41
F16C 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向及び一方の軸方向に開口部を有し、内外輪軌道面を転動する複数の玉をそれぞれ保持する複数のポケットと、前記複数のポケット間を結合する柱部と、前記ポケットの周囲の周面に沿って形成されたポケット径方向面と、前記ポケットの軸方向開口部と反対側に延出する環状部と、前記環状部の径方向面と前記柱部の径方向面とを接続する壁面部と、前記環状部の径方向面と前記ポケット径方向面とを接続する傾斜面と、を有し、前記傾斜面と前記壁面部とは互に隣接し、前記傾斜面の軸方向幅が前記ポケット径方向面の軸方向幅の50%以上にされている玉軸受用冠型保持器であって、前記傾斜面と前記環状部の径方向面とは径方向に設けられた微少壁面で接続されており、前記微少壁面及び傾斜面が前記壁面部と互いに隣接している玉軸受用冠型保持器
【請求項2】
前記傾斜面及び前記壁面部は、前記環状部の径方向内外面の両方に形成されている請求項1記載の玉軸受用冠型保持器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース潤滑の転がり玉軸受に適した冠型保持器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばカーエアコンのプーリー軸受、中間プーリー用軸受等の自動車補助機器用の軸受に使用されるころがり軸受(玉軸受あるいはボール軸受)では軽量化や、高速高温下における長寿命が要求される。かかるころがり軸受にあっては、メンテナンスの観点からグリース潤滑が行われる。かかるグリース潤滑においては、低トルク化、グリースの保持、グリースの漏れの低減、軽量化、遠心力の影響を抑えること等が要求される。
【0003】
そこで、特許文献1の転がり玉軸受では、径方向及び一方の軸方向に開口部を有し、内外輪軌道面を転動する複数の玉をそれぞれ保持する複数のポケットを有する、いわゆる冠型保持器について記載されている。この冠型保持器は、複数のポケット間を結合する柱部の内外周面の両周面部に、軸方向のポケットの軸方向開口部と反対側(一端面側)に向かって傾斜する傾斜面を設けて、軸方向側に開口する凹部を形成し、その凹部にグリースを保持できるグリース溜まりを形成している。
【0004】
しかし、柱部の反ポケット開口側に凹部を形成するのみでは、ポケットから凹部へのグリースの供給が困難である。そこで、特許文献2においては、ポケットと凹部との間に切り欠き部を設け、凹部へのグリースの供給あるいは保持を促進している。また、凹部容量を大きくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−269465号公報
【特許文献2】特開2011−226635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2のように、切り欠きを設けると強度が低下するという問題があった。また、冠型保持器のポケット開口部先端の変形量が増大するという問題もある。また、基油のポケットの供給については切り欠き部以外では従来と同様であり、必ずしも潤滑性を満足できるものではなかった。本発明の課題は、かかる問題点に鑑みて、強度の低下を少なくし、かつグリースの保持性能、さらには基油の潤滑性を向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては、径方向及び一方の軸方向に開口部を有し、内外輪軌道面を転動する複数の玉をそれぞれ保持する複数のポケットと、前記複数のポケット間を結合する柱部と、前記ポケットの周囲の周面に沿って形成されたポケット径方向面と、前記ポケットの軸方向開口部と反対側に延出する環状部と、前記環状部の径方向面と前記柱部の径方向面とを接続する壁面部と、前記環状部の径方向面と前記ポケット径方向面とを接続する傾斜面と、を有し、前記傾斜面と前記壁面部とは互に隣接し、前記傾斜面の軸方向幅が前記ポケット径方向面の軸方向幅の50%以上にされている玉軸受用冠型保持器であり、前記傾斜面と前記環状部の径方向面とは径方向に設けられた微小壁面で接続されており、前記微小壁面及び傾斜面が前記壁面部と互いに隣接させた玉軸受用冠型保持器を提供することにより前述した課題を解決した。
【0008】
即ち、冠型保持器において、ポケットの軸方向開口部と反対側に延出する環状部の径方向面と柱部の径方向面とを接続する壁面部とで、従来と同様の凹部を形成し油溜まりとす
る。さらに、環状部の径方向面とポケット径方向面とを接続する傾斜面を設ける。傾斜面とすることにより、強度低下及び抵抗が少ない。なお、従来例では面取りが為されているが、加工上の面取りであり、その大きさも小さい。これに対して、本発明においては、傾斜面の幅をポケット径方向面の幅の50%以上とし、傾斜面を大きくして強度低下及び抵抗を減じた。
【0009】
凹部及び傾斜面は、使用条件により、外周方向面又は内周方向面の一方に形成できるが、より好ましくは前記傾斜面及び前記壁面部は、前記環状部の径方向内外面の両方に形成するのが好ましい(請求項2)。
【0010】
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、環状部の径方向面と壁面部とで、従来と同様の凹部を形成し油溜まりとし、グリースの保持を確実に行える。さらに、環状部の径方向面と従来より大きな傾斜面とで、強度低下及び抵抗を少なくしたので、ポケット背面の流路を確保し、径方向のグリース等の潤滑油の流れをスムースにするものとなった。これにより、強度の低下を少なくし、軽量化し、かつグリースの保持性能、さらには基油の潤滑性を向上するものとなった。また、遠心力による変形も少ないものとなった。
【0012】
請求項2に記載の発明においては、傾斜面及び壁面部を環状部の径方向内外面の両方に形成したので、玉軸受の使用条件に左右されにくい潤滑性を確保するものとなった。
【0013】
また、微少壁面を設ける事により、射出成形等の樹脂成形時にバラツキのない安定した保持器を提供できるので、設計が容易で、品質の高いものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態を示す玉軸受用冠型保持器を内外輪、ボール等と組み合 わせて玉軸受として組み立てた状態を示す部分拡大断面図である。
図2】本発明の実施の形態を示す玉軸受用冠型保持器の(a)は正面図、(b)は (a)のA−A線断面図、(c)は背面図である。
図3】本発明の実施の形態を示す玉軸受用冠型保持器の(a)はポケット側から見 た斜視図、(b)は環状部側から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1に示すように、玉(ボール)軸受1は、外周に軌道面2を有する内輪3と、内周に軌道面4を有する外輪5と、内外輪の軌道面間を転動する複数の鋼球(ボール)6を有している。ボール6の間隔を保ち内外輪3,5を玉6を介してスムースに回転させるための冠型保持器7が内外輪間に設けられている。外輪の内径側端部にオイルシール装着溝8が設けられており、オイルシール9の外周9aが嵌着されている。オイルシール9の内周にはリップ9bが設けられており、リップ先端が内輪外径側端のシール溝10に接触してグリース等の漏れを防ぐ。この構造は一般的なシール付き玉軸受である。
【0016】
本発明の実施の形態の冠型保持器7は、径方向の開口部11,12及び反オイルシール9側に軸方向開口部13を有し、ポケット14を有する。ポケット14はそれぞれの玉6がスムースにすべり回転保持できるような内球面の一部を形成する。図1〜3に示すように、かかる複数のポケット14のポケット間は柱部15で結合されている。また、ポケットの径方向開口部11,12の周囲には径方向面16,17が形成されている。径方向面16,17に連接して、ポケット間を結ぶ柱部にも径方向の内外周面に沿って柱部の径方向面18,19が形成されている。
【0017】
ポケット14の軸方向開口部13と反対側に環状部20が延出している。環状部20は冠型保持器7の径方向幅中央に位置している。環状部20の径方向内外周面の環状部の径方向面21,22と柱部の径方向面18,19とはそれぞれ壁面部23,24によって接続されている。また、環状部の径方向面21,22の径方向に微少壁面25,26が設けられている。さらに、微少壁面は壁面部23,24に接続されている。微少壁面25,26の径方向高さhは0.5mmから2mm程度である。
【0018】
微少壁面25,26と前述したポケット径方向面16,17との間は傾斜面27,28で接続されている。傾斜面27,28の両端はそれぞれ隣接する壁面部23,24に接続されている。傾斜面の軸方向幅Wはポケット径方向面の軸方向幅Sと同寸法である。
【0019】
かかる冠型保持器7によれば、壁面部23,24、環状部の径方向面21,22、微少壁面25,26、傾斜面27,28の壁面部側とで、凹部29,30を形成し、グリース溜まりとする。さらに、傾斜面27,28を大きく取るようにしたので、図1の矢印31に示すように、玉軸受1の回転に伴う遠心力により、グリースあるいは基油は傾斜面27,28を経て容易に移動する。また、径方向内側凹部29、外側凹部30にも効率的にグリースが溜まる、また、凹部より基油がポケット14に供給される。
【0020】
このように、グリース溜まりの凹部29,30を確保しながら、環状部20と傾斜面27,28とにより、強度を確保しながらグリース油の流れを容易にした。これにより、軽量化を図り、潤滑性を向上させ、冠型保持器の変形等を防止して低トルク等の玉軸受冠型保持器となった。また、微少壁面を形成することにより寸法額保、製造も容易である。
【符号の説明】
【0021】
1 玉(ボール)軸受
2 内輪軌道面
3 外輪軌道面
6 玉(ボール)
7 玉軸受用冠型保持器
11、12 径方向開口部
13 軸方向開口部
14 ポケット
15 柱部
16、17 ポケット径方向面
18、19 柱部の径方向面
20 環状部
21、22 環状部の径方向面
23、24 壁面部
25、26 微少壁面
27、28 傾斜面
S ポケット径方向面の軸方向幅
W 傾斜面の軸方向幅

図1
図2
図3