【実施例】
【0049】
以下、具体例を挙げて本発明の複合負極活物質体、負極および非水電解質二次電池を説明する。
【0050】
(試料1)
先ず、市販のSiO粉末をボールミルに入れて、Ar雰囲気下で、回転数450rpmで20時間ミリングした。その後、不活性ガス雰囲気中で、900℃の温度下で、2時間加熱処理を行った。これにより、SiO粉末が不均化されて、粒子状のケイ素酸化物(SiO
x)が得られた。このSiO
xについて、CuKαを使用したX線回折(XRD)測定を行ったところ、単体ケイ素と二酸化ケイ素とに由来する特有のピークが確認された。このことから、SiO
xには単体ケイ素と二酸化ケイ素が生成していること、つまり、SiO
xが不均化されていることがわかった。SiO
xの平均粒径D50は、5μm以下であった。
【0051】
粒子状をなす上記のSiO
xをケイ素粒として用いた。このケイ素粒の表面に、先ず、遷移金属層を設けた。具体的には、1gのケイ素粒をスパッタリング装置(キヤノントッキ製 SPM−302)の真空チャンバに配置した。また、ターゲットとしてのTaおよびCを、それぞれ当該真空チャンバ内に配置した。そして、1.4Paまで真空引きをおこなった。その後、1Pa程度になるように真空チャンバ内にArガスを流通させつつ、
ケイ素粒を収納した容器を回転もしくは振動させることでケイ素粒を流動させて、Taをターゲットとしてスパッタリングをおこなった。ケイ素粒に最大で約10nmのTaスパッタ膜を成膜した後、続けてCをターゲットとしたスパッタリングをおこなった。このときのCスパッタ膜の膜厚は最大で約5nmであった。以上の工程で、負極活物質(SiO
x)からなるケイ素粒上に遷移金属層(Taスパッタ膜)が設けられ、当該遷移金属層上にCコート層(Cスパッタ膜)が設けられている複合負極活物質体を得た。なお、試料1においては、ケイ素粒すなわちSiO
xの質量を100質量%としたときに、0.5質量%のCを含むとともに、3.0質量%のTaを含む。
【0052】
上記の複合負極活物質体と黒鉛(SMG)とアセチレンブラック(AB)とポリアミドイミド(PAI)とを、複合負極活物質体:SMG:AB:PAI=45:40:5:10(質量比)となるように量りとり、混合した。そして、得られた混合物(つまり負極合材)を、ドクターブレードを用いて、集電体である銅箔の片面に成膜した。得られた集電体―負極合材の成膜体を、80℃で0.5時間溶媒を蒸発させるために乾燥し、次いで、所定の圧力でプレスして所定形状に打ち抜いた。その後、200℃で2時間真空乾燥し、その後放冷した。これにより、集電体表面に負極活物質層が固定されてなる負極(評価極)が得られた。
【0053】
対極としては、金属リチウム箔を用いた。なお、対極の直径はφ13.0mmであり、評価極の直径はφ11.0mmであった。対極と評価極との間に、セパレータとしてのポリプロピレン多孔質膜(厚さ25μm)を挟み込んで、電極体電池とした。この電極体電池を電池ケース(宝泉株式会社製CR2032コインセル)に収容した。電池ケースには、さらに、電解液を注入した。電解液としては、支持電解質としてのLiPF
6を有機溶媒に1mol/lの濃度で溶解させたものを用いた。有機溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを30:70(体積比)で混合したものを用いた。電解液を注入した後に電池ケースを密閉して、試料1の非水電解質二次電池を得た。
【0054】
(試料2)
試料2の負極は、遷移金属層に代えて遷移金属窒化物層(TaNスパッタ膜)を設けたこと以外は試料1の負極と同じものである。試料2の負極の製造方法は、スパッタリングのターゲットとして、Taに代えてTaNを用いたこと以外は試料1の負極の製造方法と同じである。試料2の非水電解質二次電池は、負極以外は試料1の非水電解質二次電池と同じものである。
【0055】
試料2の負極の製造方法においては、スパッタリングの際に、真空チャンバを1.4Paまで真空引きし、その後、1Pa程度になるように真空チャンバ内にArガスを流通させつつ、TaNをターゲットとしてスパッタリングをおこなった。ケイ素粒に最大約10nmのTaNスパッタ膜を成膜した後、続けてCをターゲットとしたスパッタリングをおこなった。このときのCスパッタ膜の膜厚は最大約5nmであった。以上の工程で、負極活物質(SiO
x)からなるケイ素粒上に遷移金属窒化物層(TaNスパッタ膜)が設けられ、当該遷移金属窒化物層上にCコート層(Cスパッタ膜)が設けられている複合負極活物質体を得た。なお、試料2の負極における複合負極活物質体は、ケイ素粒すなわちSiO
xの質量を100質量%としたときに、0.5質量%のCを含むとともに、3.0質量%のTaを含む。
【0056】
(試料3)
試料3の負極は、遷移金属層に代えて遷移金属窒化物層(TaN反応性スパッタ膜)を設けたこと以外は試料1の負極と同じものである。試料3の非水電解質二次電池は、負極以外は試料1の非水電解質二次電池と同じものである。試料3の負極の製造方法は、スパッタリングのターゲットとしてTaを用いている点では試料1の負極の製造方法と同じであるが、反応性スパッタによりTaNスパッタ膜を形成する点で試料1の負極の製造方法と異なる。
【0057】
詳しくは、試料3の負極の製造方法においては、スパッタリングの際に、真空チャンバを1.4Paまで真空引きし、その後、1Pa程度になるように真空チャンバ内に窒素ガスを流通させつつ、Taをターゲットとしてスパッタリングをおこなった。ケイ素粒上でTaと窒素ガスとが反応してTaNが生成し、ケイ素粒に最大で約10nmのTaNスパッタ膜が成膜された。その後、窒素ガスに代えてArガスを真空チャンバ内に流通させつつ、Cをターゲットとしたスパッタリングをおこなった。このときのCスパッタ膜の膜厚は最大で約5nmであった。以上の工程で、負極活物質(SiO
x)からなるケイ素粒上に遷移金属窒化物層(TaN反応性スパッタ膜)が設けられ、当該遷移金属窒化物層上にCコート層(Cスパッタ膜)が設けられている複合負極活物質体を得た。なお、試料3の負極における複合負極活物質体は、ケイ素粒すなわちSiO
xの質量を100質量%としたときに、0.5質量%のCを含むとともに、3.0質量%のTaを含む。
【0058】
(試料4)
試料4の負極は、複合負極活物質体における遷移金属層がTiスパッタ膜であること以外は試料1の負極と同じものである。また、試料4の非水電解質二次電池は、負極以外は試料1の非水電解質二次電池と同じものである。
【0059】
なお、試料4の負極における複合負極活物質体は、ケイ素粒すなわちSiO
xの質量を100質量%としたときに、0.5質量%のCを含むとともに、3.0質量%のTiを含む。
【0060】
(試料5)
試料5の負極は、遷移金属層に代えて遷移金属窒化物層(TiNスパッタ膜)を設けたこと以外は試料1の負極と同じものである。試料5の非水電解質二次電池は、負極以外は試料1の非水電解質二次電池と同じものである。試料5の負極の製造方法は、スパッタリングのターゲットとしてTiを用いたこと以外は試料2の負極の製造方法と同じである。
【0061】
なお、試料5の負極における複合負極活物質体は、ケイ素粒すなわちSiO
xの質量を100質量%としたときに、0.5質量%のCを含むとともに、3.0質量%のTiを含む。
【0062】
(試料6)
試料6の負極は、遷移金属層に代えて遷移金属窒化物層(TiN反応性スパッタ膜)を設けたこと以外は試料1の負極と同じものである。試料6の非水電解質二次電池は、負極以外は試料1の非水電解質二次電池と同じものである。試料6の負極の製造方法は、スパッタリングのターゲットとしてTiを用いたこと以外は試料3の負極の製造方法と同じである。
【0063】
なお、試料6の負極における複合負極活物質体は、ケイ素粒すなわちSiO
xの質量を100質量%としたときに、0.5質量%のCを含むとともに、3.0質量%のTiを含む。
【0064】
(試料7)
試料7の負極は、複合負極活物質体における遷移金属層がWスパッタ膜であること以外は試料1の負極と同じものである。また、試料7の非水電解質二次電池は、負極以外は試料1の非水電解質二次電池と同じものである。
【0065】
なお、試料7の負極における複合負極活物質体は、ケイ素粒すなわちSiO
xの質量を100質量%としたときに、0.5質量%のCを含むとともに、3.0質量%のWを含む。
【0066】
(試料8)
試料8の負極は、遷移金属層に代えて遷移金属窒化物層(WNスパッタ膜)を設けたこと以外は試料1の負極と同じものである。試料8の非水電解質二次電池は、負極以外は試料1の非水電解質二次電池と同じものである。試料8の負極の製造方法は、スパッタリングのターゲットとしてWを用いたこと以外は試料2の負極の製造方法と同じである。
【0067】
なお、試料8の負極における複合負極活物質体は、ケイ素粒すなわちSiO
xの質量を100質量%としたときに、0.5質量%のCを含むとともに、3.0質量%のWを含む。
【0068】
(試料9)
試料9の負極は、遷移金属層に代えて遷移金属窒化物層(WN反応性スパッタ膜)を設けたこと以外は試料1の負極と同じものである。試料9の非水電解質二次電池は、負極以外は試料1の非水電解質二次電池と同じものである。試料9の負極の製造方法は、スパッタリングのターゲットとしてWを用いたこと以外は試料3の負極の製造方法と同じである。
【0069】
なお、試料9の負極における複合負極活物質体は、ケイ素粒すなわちSiO
xの質量を100質量%としたときに、0.5質量%のCを含むとともに、3.0質量%のWを含む。
【0070】
(試料10)
試料10の負極は、複合負極活物質体にCコート層、遷移金属窒化物層および遷移金属層を設けなかったこと以外は試料1の負極と同じものである。また、試料10の非水電解質二次電池は、負極以外は試料1の非水電解質二次電池と同じものである。
【0071】
(試料11)
試料11の負極は、複合負極活物質体に遷移金属窒化物層および遷移金属層を設けなかったこと、および、Cコート層の量以外は試料10の負極と同じものである。また、試料11の非水電解質二次電池は、負極以外は試料1の非水電解質二次電池と同じものである。
【0072】
なお、試料11の負極における複合負極活物質体は、ケイ素粒すなわちSiO
xの質量を100質量%としたときに、0.25質量%のCを含む。
【0073】
(試料12)
試料12の負極は、複合負極活物質体に遷移金属窒化物層および遷移金属層を設けなかったこと以外は試料1の負極と同じものである。また、試料12の非水電解質二次電池は、負極以外は試料1の非水電解質二次電池と同じものである。
【0074】
なお、試料12の負極における複合負極活物質体は、ケイ素粒すなわちSiO
xの質量を100質量%としたときに、0.5質量%のCを含む。
【0075】
(試料13)
試料13の負極は、複合負極活物質体に遷移金属窒化物層および遷移金属層を設けなかったこと、および、Cコート層の量以外は試料1の負極と同じものである。また、試料13の非水電解質二次電池は、負極以外は試料1の非水電解質二次電池と同じものである。
【0076】
なお、試料13の負極における複合負極活物質体は、ケイ素粒すなわちSiO
xの質量を100質量%としたときに、1.0質量%のCを含む。
【0077】
(試料14)
試料14の負極は、複合負極活物質体に遷移金属窒化物層および遷移金属層を設けなかったこと、および、Cコート層の量以外は試料1の負極と同じものである。また、試料14の非水電解質二次電池は、負極以外は試料1の非水電解質二次電池と同じものである。
【0078】
なお、また、試料14の負極における複合負極活物質体は、ケイ素粒すなわちSiO
xの質量を100質量%としたときに、1.5質量%のCを含む。
【0079】
(試料15)
試料15の負極は、複合負極活物質体に遷移金属窒化物層および遷移金属層を設けなかったこと、および、Cコート層の量以外は試料1の負極と同じものである。また、試料15の非水電解質二次電池は、負極以外は試料1の非水電解質二次電池と同じものである。
【0080】
なお試料15の負極における複合負極活物質体は、ケイ素粒すなわちSiO
xの質量を100質量%としたときに、3.0質量%のCを含む。
【0081】
(試料16)
試料16の負極は、複合負極活物質体に遷移金属窒化物層および遷移金属層を設けなかったこと、および、Cコート層の量以外は試料1の負極と同じものである。また、試料16の非水電解質二次電池は、負極以外は試料1の非水電解質二次電池と同じものである。
【0082】
なお、試料16の負極における複合負極活物質体は、ケイ素粒すなわちSiO
xの質量を100質量%としたときに、5.0質量%のCを含む。
【0083】
試料1〜16の複合負極活物質体におけるCコート層および遷移金属窒化物層の組成および量を以下の表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
(導電性評価試験)
試料10〜15の負極について、導電率(S/cm)を測定した。具体的には、試料10〜15の負極を20mm×50mmに切断したものを測定試料として準備した。三菱化学株式会社製の測定装置(MCP−T610)を用い、この測定試料の負極活物質側から針をあて、四探針法により導電率(S/cm)を測定した。測定結果を
図2および
図3に示す。なお、
図2および
図3は、Cコート層の量(炭素含有量)と導電率との関係を表すグラフである。
図3に示すように、炭素(C)含有量が0.25質量%以上であれば導電率は十分に高くなる。この導電率は、
図2に示すように、C含有量100質量%(つまり、炭素そのもの)に近い値である。なお、C含有量が0.25質量%を超える場合には、負極の導電率は炭素そのものの導電率にさらに近づき、0.5質量で炭素そのものの導電率とほぼ同じになる。このため、導電率を考慮すると、複合負極活物質体に含まれるC量(Cコート層量)は、ケイ素粒の質量を100質量%としたときに、0.25質量%以上であれば良く、0.3質量%以上であるのが好ましく、0.5質量%以上であるのがより好ましいといえる。
【0086】
(充放電試験)
試料1〜16の各非水電解質二次電池について、充電終止電圧0.8Vまで0.2mAで定電流定電圧(CC−CV)充電をおこなった後、放電終止電圧0.08Vまで0.2mAで定電流定電圧放電をおこなった。試料1〜試料10および試料12の非水電解質二次電池については、この充放電を50サイクル繰り返した。初回充放電の結果を基に、試料10〜試料16の非水電解質二次電池について初期効率を算出した。初期効率は、初期放電容量を初期充電容量で除した値の百分率であり、(初期放電容量/初期充電容量)×100で求められる。試料10〜試料16の非水電解質二次電池の初期効率を表すグラフを
図4に示す。
図4に示すように、複合負極活物質体のC含有量が0.1質量%以上であれば、非水電解質二次電池の初期効率は、ケイ素粒の表面全面をCコート層で覆った試料16の初期効率と同等の値になる。また、複合負極活物質体のC含有量が0.05質量%以上であれば、非水電解質二次電池の初期効率は、試料16の初期効率に近い値になる。つまり、初期効率を考慮すると、複合負極活物質体のC含有量は0.05質量%以上であるのが好ましく、0.1質量%以上であるのがより好ましい。そして、初期効率の面から考えると、複合負極活物質体のC含有量は0.1質量%あれば十分だといえる。換言すると。初期効率を考慮すると、複合負極活物質体のC含有量は0.05質量%以上であるのが好ましく、0.1質量%以上であるのがより好ましい。そして、初期効率の面から考えると、複合負極活物質体の炭素含有量は0.1質量%あれば十分だといえる。
【0087】
試料1〜試料10および試料12の非水電解質二次電池について、50サイクル経過後の容量維持率を算出した。容量維持率(%)は、(50サイクル経過時の充電容量/初期充電容量)×100で求められる。試料1〜試料10および試料12の非水電解質二次電池における容量維持率を表2に示す。
【0088】
【表2】
【0089】
表2に示すように、Cコート層とケイ素粒との間に遷移金属層を介在させた試料1、試料4および試料7の非水電解質二次電池のサイクル特性(容量維持率)は、ケイ素粒上にCコート層のみを設けた試料12の非水電解質二次電池のサイクル特性に比べて優れている。
【0090】
また、各々の金属種について、ケイ素粒上に遷移金属窒化物層を設けた非水電解質二次電池とケイ素粒上に遷移金属層を設けた非水電解質二次電池とを比較すると、ケイ素粒上に遷移金属窒化物層を設けた非水電解質二次電池の方がサイクル特性に優れる。このことから、単なる遷移金属層でなく遷移金属窒化物層をケイ素粒とCコート層との間に介在させることで、サイクル特性がさらに向上することがわかる。これは、これは、Cコート層とケイ素粒の表面との間に遷移金属窒化物層が介在することで、Cコート層とケイ素粒との密着性がより向上し、ケイ素粒からのCコート層の剥離が抑制されたためだと考えられる。また、表2に示す結果から、初期容量の面から考えると、遷移金属窒化物層の少なくとも一部をTaで構成するのが特に好ましいことがわかる。
【0091】
(その他)
本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。