(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6115911
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】生物育成用ブロック及び生物育成方法
(51)【国際特許分類】
A01K 61/77 20170101AFI20170410BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20170410BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20170410BHJP
C04B 14/02 20060101ALI20170410BHJP
C04B 18/16 20060101ALI20170410BHJP
C04B 111/40 20060101ALN20170410BHJP
【FI】
A01K61/00 313
C04B38/00 301A
C04B28/02
C04B14/02 Z
C04B18/16
C04B111:40
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-246673(P2012-246673)
(22)【出願日】2012年11月8日
(65)【公開番号】特開2014-93967(P2014-93967A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2015年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000230940
【氏名又は名称】日本原子力発電株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】512289669
【氏名又は名称】株式会社岡本組
(73)【特許権者】
【識別番号】592179067
【氏名又は名称】株式会社ガイアート
(74)【代理人】
【識別番号】100117514
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 敦朗
(72)【発明者】
【氏名】岡本 明
(72)【発明者】
【氏名】山本 正樹
(72)【発明者】
【氏名】竹井 利公
(72)【発明者】
【氏名】山本 啓
【審査官】
竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−006625(JP,A)
【文献】
特開2006−057449(JP,A)
【文献】
特開2005−034140(JP,A)
【文献】
実開平02−033826(JP,U)
【文献】
特開2002−058382(JP,A)
【文献】
特開平06−185034(JP,A)
【文献】
登録実用新案第011051(JP,Z2)
【文献】
特開平04−194111(JP,A)
【文献】
特開2002−034384(JP,A)
【文献】
特開平02−046247(JP,A)
【文献】
実公昭47−009655(JP,Y1)
【文献】
国際公開第2005/001209(WO,A1)
【文献】
米国特許第05564369(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/70 − 61/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に連続空隙を有する多孔質セメント硬化体で形成されたブロック本体と、
前記ブロック本体の内部に形成された空間であって、前記連続空隙を通じて、前記ブロック本体の外表面に連通する収納部と、
前記収納部に収納される生物育成用添加材と、
前記ブロック本体の外表面に穿設された棲息用孔と
を備え、
前記棲息用孔は、その内径が、奥行き方向にしたがって小さく形成されている
ことを特徴とする生物育成用ブロック。
【請求項2】
内部に連続空隙を有する多孔質セメント硬化体で形成されたブロック本体と、
前記ブロック本体の内部に形成された空間であって、前記連続空隙を通じて、前記ブロック本体の外表面に連通する収納部と、
前記収納部に収納される生物育成用添加材と、
前記ブロック本体の外表面に穿設された棲息用孔と
を備え、
前記棲息用孔には、前記ブロック本体の外表面に開口する流通孔が連通されている
ことを特徴とする生物育成用ブロック。
【請求項3】
内部に連続空隙を有する多孔質セメント硬化体で形成されたブロック本体と、
前記ブロック本体の内部に形成された空間であって、前記連続空隙を通じて、前記ブロック本体の外表面に連通する収納部と、
前記収納部に収納される生物育成用添加材と、
前記ブロック本体の外表面に穿設された棲息用孔と
を備え、
前記棲息用孔は、前記ブロック本体内部において、前記収納部に連通されている
ことを特徴とする生物育成用ブロック。
【請求項4】
前記生物育成用添加材は、腐植酸鉄又は、腐植酸を生成する物質と鉄分とを配合した材料を、透水性の素材で形成された袋体に封入してなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の生物育成用ブロック。
【請求項5】
前記ブロック本体は、複数の単位ブロック体に分割可能であり、
前記単位ブロック体の側面には、隣接する他の単位ブロック体に接する箇所に溝部が形成され、
前記棲息用孔は、隣接する単位ブロックの前記溝部同士を当接させることにより形成される
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の生物育成用ブロック。
【請求項6】
海中や水中に沈設される生物育成用ブロックを用いた生物育成方法であって、
前記生物育成用ブロックの本体を、内部に連続空隙を有する多孔質セメント硬化体で形成するとともに、前記ブロック本体の内部に、前記連続空隙を通じて前記ブロック本体の外表面に連通する空間である収納部を設けるとともに、前記ブロック本体の外表面に棲息用孔を穿設し、前記棲息用孔の内径を奥行き方向にしたがって小さく形成し、
前記生物育成用ブロックを海中や水中に沈設するとともに、前記収納部に生物育成用添加材を収納する
ことを特徴とする生物育成方法。
【請求項7】
海中や水中に沈設される生物育成用ブロックを用いた生物育成方法であって、
前記生物育成用ブロックの本体を、内部に連続空隙を有する多孔質セメント硬化体で形成するとともに、前記ブロック本体の内部に、前記連続空隙を通じて前記ブロック本体の外表面に連通する空間である収納部を設けるとともに、前記ブロック本体の外表面に棲息用孔を穿設し、前記棲息用孔に前記ブロック本体の外表面に開口する流通孔を連通させ、
前記生物育成用ブロックを海中や水中に沈設するとともに、前記収納部に生物育成用添加材を収納する
ことを特徴とする生物育成方法。
【請求項8】
海中や水中に沈設される生物育成用ブロックを用いた生物育成方法であって、
前記生物育成用ブロックの本体を、内部に連続空隙を有する多孔質セメント硬化体で形成するとともに、前記ブロック本体の内部に、前記連続空隙を通じて前記ブロック本体の外表面に連通する空間である収納部を設けるとともに、前記ブロック本体の外表面に棲息用孔を穿設し、前記棲息用孔を前記ブロック本体内部において前記収納部に連通させ、
前記生物育成用ブロックを海中や水中に沈設するとともに、前記収納部に生物育成用添加材を収納する
ことを特徴とする生物育成方法。
【請求項9】
前記生物育成用添加材は、腐植酸鉄又は、腐植酸を生成する物質と鉄分とを配合した材料を、透水性の素材で形成された袋体に封入してなることを特徴とする請求項6乃至8のいずれかに記載の生物育成方法。
【請求項10】
前記ブロック本体は、複数の単位ブロック体に分割可能であり、
前記単位ブロック体の側面には、隣接する他の単位ブロック体に接する箇所に溝部が形成され、
前記棲息用孔は、隣接する単位ブロックの前記溝部同士を当接させることにより形成される
ことを特徴とする請求項6乃至9のいずれかに記載の生物育成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海や海岸、河川、河川岸等において、微生物、小動物、植物等の生物の棲息に適する環境を形成し、これらの生物の繁殖を促進するための生物育成用ブロック及び生物育成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自然保護の観点から、海岸ないしは河岸の近傍を、微生物、小動物、植物等の生物の棲息に適する環境にし、これらの生物の繁殖を促進するともに、これらの生物により自然環境の改善を図るといった目的の下、海岸や河川等に生物育成用ブロックを設置する試みがなされている。
【0003】
本来、コンクリートブロックでは、生物はその内部に入り込むことは不可能であり、またその表面に付着ないしは滞留することもかなり困難であり、海中や水中の生物の棲息に適したものとはいえないことから、生物育成用ブロックに適した材料として、内部に連続空隙を有する多孔質セメント硬化体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような多孔質セメント硬化体でブロックを形成すれば、生物がブロック内に入り込むことが可能となり、かつ生物がブロック表面に容易に付着ないしは滞留することができる。
【0004】
ところで、海中や水中に棲息する各種生物を付着させ、また微生物や小動物類を内部に棲息させるためには、ブロックの材料には適度な鉄元素の含有量が必要であり、そのような目的のセメント硬化体として、特許文献2に開示されたものがある。この特許文献2に開示されたセメント硬化体では、比重の高い鉄系の骨材を用いることによって、比重の高い連続空隙を有するセメント硬化体を作成し、海藻類の付着を促進し、藻場の育成を含む多様性生物の棲息場を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−221371号公報
【特許文献2】特許3037890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献2に記載のセメント硬化体では、鉄分が溶出し酸化鉄になってしまうと、その酸化鉄が沈降してしまい、粗骨材中の鉄分が消失されて、鉄分による藻場育成機能が失われるという問題がある。また、錆び始めで生ずるのが、二価の鉄イオンであり、これは直ぐに酸化して酸化鉄となってしまい、藻類の育成に有効ではないという問題もあった。
【0007】
そこで、本発明は、上記のような問題を解決するものであり、藻類の育成に有効な、腐植酸鉄又は、「腐植酸を生成する物質と鉄分」を長期にわたって保持し、海や海岸の近傍ないしは河川や河岸の近傍等に生物の繁殖に適した環境をつくることができる生物育成用ブロック及び生物育成方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、内部に連続空隙を有する多孔質セメント硬化体で形成されたブロック本体と、ブロック本体の内部に形成された空間であって、前記連続空隙を通じて、前記ブロック本体の外表面に連通する収納部と、収納部に収納される生物育成用添加材とを備えることを特徴とする。
【0009】
そして、本発明の他の形態は、海中や水中に沈設される生物育成用ブロックを用いた生物育成方法であって、
前記生物育成用ブロックの本体を、内部に連続空隙を有する多孔質セメント硬化体で形成するとともに、前記ブロック本体の内部に、前記連続空隙を通じて、前記ブロック本体の外表面に連通する空間である収納部を設け、
前記生物育成用ブロックを海中や水中に沈設するとともに、前記収納部に生物育成用添加材を収納する
ことを特徴とする。
【0010】
これらの本発明によれば、連続空隙を有することによって、微生物がブロック内に入り込むことが可能となるとともに、藻類などがブロック表面に容易に付着ないしは滞留することができ、収納部に収納された生物育成用添加材からの栄養分が、連続空隙を通じて供給されることによって生物の育成を促進することができる。詳述すると、ブロック本体は、例えば、空隙率が15%以上のポーラスコンクリート等の多孔質セメント硬化体により形成されているとともに、収納部内に藻場形成や魚介類に必要な生物育成用添加材を格納できることから、収納部内の生物育成用添加材が、連続空隙や収納部開口を通じて、内部から外へ拡散するため、海藻等の植物の根付きが良好であるとともに、連続空隙により線虫やプランクトンが住み着く空間となる。また、生物育成用添加材が消費されたときは、収納部に再補給することができ、生物の育成環境を持続することが可能となる。さらに、多孔性セメント硬化体としては、骨材として再生骨材を使用したポーラスコンクリートを用いることができるため、廃コンクリートから生成される再生骨材の利用を拡大し、環境保護にも貢献できる。
【0011】
上記発明において、生物育成用添加材は、腐植酸鉄又は、「腐植酸を生成する物質と鉄分」を配合した材料を、透水性の素材で形成された袋体に封入してなることが好ましい。この場合には、袋体により腐植酸鉄又は、腐植酸を生成する物質と鉄分とを長期にわたって収納部内に保持することができ、生物の繁殖に適した環境をつくることができる。なお、この「腐植酸を生成する物質」としては、例えば、腐植土、間木片チップ、落葉、廃材、伐材チップが挙げられ、鉄分としては廃鉄筋、鉄筋、鉄球、砂鉄などが挙げられる。また、「袋体」としては、麻袋や土壌袋などの繊維系素材から形成されたものの他、多孔性のプラスチックやビニル等の樹脂製容器などを用いることもできる。
【0012】
上記発明において、ブロック本体の外表面に穿設された棲息用孔を有する
。これにより、棲息用孔としての横孔を設けることにより、そこを魚類の住み処とすることができ、さらに魚類等の生物を集めることができる。さらに、この棲息用孔は、漁礁に生じる波の圧力を軽減することができ、海中でのブロック本体の滑動や転倒を防止する。なお、ここで、「穿設」とは、凹部や溝部のようにブロック本体の反対側まで貫通しない孔を形成する場合の他、ブロック本体の一側面から反対側面まで貫通するような孔を形成する場合が含まれる。
【0013】
上記発明において、棲息用孔は、その内径が、奥行き方向にしたがって小さく形成されて
おり、ブロック本体の外表面に開口する流通孔が連通されている
。これにより、棲息用孔を奥に行くほど絞り込まれた横孔とすることにより、棲息用孔に衝突した水圧や波圧を奥行き方向に高めることができる。また、棲息用孔の内部から外部に通じる流通孔を設けることにより、棲息用孔から外部への流れや各孔の開口部付近における渦流を発生させることができ、棲息用孔内に棲息している微生物や、海藻に付着している生物を海中や水中に舞上げることができ、それらを捕食する生物が集まることを期待することができる。
【0014】
上記発明において、棲息用孔は、ブロック本体内部において、収納部に連通されている
。これにより、収納部内の生物育成用添加材により生じた腐植酸鉄等の栄養分を、棲息用孔に直接送り込むことができ、棲息用孔における藻類やプランクトン等の生物の育成をより確実に促進することができ、さらに魚類等の生物を集めることができる。
【0015】
上記発明において、前記ブロック本体は、複数の単位ブロック体に分割可能であり、前記単位ブロック体の側面には、隣接する他の単位ブロック体に接する箇所に溝部が形成され、前記棲息用孔は、隣接する単位ブロックの前記溝部同士を当接させることにより形成される
。これにより、単位ブロック体の側面に溝部を設けるだけで、単位ブロックを積み上げた際に棲息用孔を形成することができ、ブロック本体に棲息用孔を穿設する場合に比べて、製造作業を容易なものとすることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上述べたように、この発明によれば、ブロック本体及びその周囲に、藻類の育成に有効な腐植酸鉄又は、「腐植酸を生成する物質と鉄分」を長期にわたって保持することができ、海や海岸の近傍ないしは河川や河岸の近傍等に、生物の繁殖に適した環境をつくることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1実施形態に係る生物育成用ブロックの全体構成を示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態の変更例に係る生物育成用ブロックの全体構成を示す斜視図である。
【
図3】第2実施形態に係る生物育成用ブロックの全体構成を示す斜視図である。
【
図4】第2実施形態に係る生物育成用ブロックの全体構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【
図5】第3実施形態に係る生物育成用ブロックの全体構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)及び(c)はその側面図である。
【
図6】第3実施形態に係る生物育成用ブロックの全体構成を示す図であり、(a)は、蓋体のみを示す平面図であり、(b)は、
図5に示すA−A断面図である。
【
図7】実施例である海洋試験の概要を示す説明図である。
【
図8】実施例である海洋試験(本発明に係る供試体)の試験結果を示す水中写真である。
【
図9】実施例である海洋試験(比較用の普通コンクリートによる供試体)の試験結果を示す水中写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1実施形態]
以下に添付図面を参照して、本発明に係る生物育成用ブロック及び生物育成方法の第1実施形態を詳細に説明する。
図1(a)は、本実施形態に係る生物育成用ブロックの全体構成を示す斜視図であり、(b)は、生物育成用ブロックを構成する多孔質セメント硬化体の拡大図であり、(c)は、生物育成用ブロックの断面図である。
【0019】
(生物育成用ブロック)
図1(a)に示すように、本実施形態に係る生物育成用ブロック100は、いわゆる漁礁ブロックであり、ブロック本体1の内部に収納部2が設けられているとともに、ブロック本体1の外表面に多数の棲息用孔3を有する。
【0020】
ブロック本体1は、矩形状のコンクリートブロックであり、
図1(b)に示すように、このコンクリートブロック内部において、骨材間の空隙が相互に連通して形成された連続空隙を有する多孔質セメント硬化体で形成されている。このブロック本体1の材料としては、空隙率が15%以上のポーラスコンクリート等の多孔質セメント硬化体を使用し、この多孔質セメント硬化体の骨材としては、廃コンクリートから生成される再生骨材を配合したポーラスコンクリートを用いることができる。
【0021】
収納部2は、ブロック本体1の内部に形成され、ブロック本体1の外表面に連通する空間であり、収納部2に生物育成用添加材4が収納される。この収納部2は、本実施形態では、有底の円筒形状をなしているが、ブロック本体1を上下に貫通させてもよい。なお、
図1(c)に示すように、多孔質セメント硬化体の連続空隙は、ブロック本体1のコンクリート部分に隈無く存在し、収納部2や棲息用孔3の内側から、ブロック本体1の外表面へと連通するとともに、収納部2や棲息用孔3を相互に連通させている。
【0022】
また、本実施形態において、収納部2には、収納部2の上部開口を閉塞するための蓋体22が取付けられる。この蓋体22は、例えば、ポーラスコンクリート等で形成され、下方に向けてテーパー形状を形成したり、或いは段差部を設けるなどして、前記収納部の上部開口に嵌合されるようになっている。
【0023】
上記生物育成用添加材4は、腐植酸鉄又は、「腐植酸を生成する物質と鉄分」であり、例えば木片チップ及び鉄を配合した材料を、透水性の素材で形成された袋体に封入して構成されている。具体的に、腐植酸を生成する物質としては、例えば、腐植土、間伐材チップ、落葉、廃材、伐剤チップが挙げられ、鉄分としては、例えば廃鉄筋、鉄筋、鉄球、砂鉄などが挙げられる。ここで、腐植酸鉄とは、フルボ酸等の有機物と結合した鉄であり、カルボキシル基やカルボニル基などの官能基によって鉄原子を挟み込んだ構造をなし、水溶性を有する物質である。また、枯れ葉や落ち葉は海中や水中で放置されることにより、分解されるとともに発酵や化学反応を起こし、タンニン酸や酒石酸、アミノ酸が発生し、これらに含まれるカルボキシル基やカルボニル基等が、鉄が腐食する際に生じる鉄イオンや、既に酸化した酸化鉄から鉄イオンを取り込み、鉄の錯体を含む腐植酸鉄が生成される。この腐植酸鉄により、生物が吸収しやすい形で鉄分を供給することができ、生物の成育を促すこととなる。
【0024】
また、袋体としては、
図1(a)の40に示すように、麻袋や土壌袋などの繊維系素材から形成されたものの他、
図1(a)の41に示すように、多孔41aを多数有するプラスチックやビニル等の樹脂製容器などを用いることもできる。また、これらの繊維系素材や、樹脂製容器は、海中や水中で分解される素材であってもよい。
【0025】
上記棲息用孔3は、ブロック本体1の外表面に穿設された、魚類等の生物の住み処となる孔であり、本実施形態では、その内径が、奥行き方向にしたがって小さく形成された円錐形状や角錐形状をなしている。なお、本実施形態において、棲息用孔3の穿設としては、
図1にも示すように、凹部や溝部のようにブロック本体1の反対側まで貫通しない孔を形成する場合の他、ブロック本体1の一側面から反対側面まで貫通するような孔を形成する場合が含まれる。また、この棲息用孔3を形成する方法としては、ブロック本体1を、型枠で成形する際に、円錐形の型を用いてもよく、また、ブロック本体1の硬化後にドリル等で穿設してもよい。なお、この棲息用孔3の形状としては、奥行き方向に径が小さくなる形状であれば、上述した円錐形状や角錐形状に限られず他の多角錐形状や、多段形状であってもよい。
【0026】
なお、この棲息用孔3の変更例としては、
図2に示す生物育成用ブロック200のように、棲息用孔3から、ブロック本体1の外表面に開口する流通孔5を連通させてもよい。この場合には、棲息用孔を奥に行くほど絞り込まれた横孔とすることにより、棲息用孔に衝突した水圧や波圧を奥行き方向に高めることができる。また、棲息用孔の内部から外部に通じる流通孔を設けることにより、棲息用孔から外部への流れや各孔の開口部付近における渦流を発生させることができ、棲息用孔内に棲息している微生物や、海藻に付着している生物を海中や水中に舞上げることができ、それらを捕食する生物が集まることを期待することができる。
【0027】
(生物育成方法)
以上の構成を有する生物育成用ブロック100(又は200)を用いることによって、本発明の生物育成方法を実施することができる。先ず、空隙率が15%以上(本実施形態では、21%〜30%)、圧縮強度が10N/?以上(本実施形態では、12N/?)のポーラスコンクリート等の多孔質セメント硬化体によって、ブロック本体1を形成する。この多孔質セメント硬化体の骨材として、再生骨材を使用したポーラスコンクリートを用いることができ、廃コンクリートから生成される再生骨材を有効利用することができる。なお、添加剤の影響で強度が低下する可能性もあることから、水結合材比を24%程度とし、空隙率を25%程度を確保する。
【0028】
このとき、ブロック本体1の内部に、ブロック本体1の外表面に連通する収納部2を形成するとともに、ブロック本体1の側部に棲息用孔3を形成する。これらの収納部2及び棲息用孔3を形成する方法としては、ブロック本体1を、型枠で成形する際に、円筒形や円錐形の型で抜いてもよく、また、ブロック本体1の硬化後にドリル等で穿設してもよい。
【0029】
そして、このように製造された生物育成用ブロック100を海中や水中に沈設するとともに、収納部2に生物育成用添加材4を収納する。この沈設の方法としては、予め、生物育成用ブロック100を海中や水中に沈設した後に,収納部2内に生物育成用添加材4を収納してもよいし、予め、沈設前の生物育成用ブロック100の収納部2内に生物育成用添加材4を収納し、その状態で、生物育成用ブロック100を海中や水中に沈めるようにしてもよい。
【0030】
また、生物育成用添加材4内の養分が溶出した後は、定期的にこれを交換若しくは補充する。この交換・補充の方法としては、水中作業により、生物育成用ブロック100の収納部2内の生物育成用添加材4の残留物などを撤去した後、新たな生物育成用添加材4を追加・補充する。
【0031】
(作用・効果)
以上説明した本実施形態によれば、連続空隙を有することによって、微生物がブロック内に入り込むことが可能となり、かつ藻類などがブロック表面に容易に付着ないしは滞留することができるとともに、収納部2に収納された生物育成用添加材4からの栄養分が、連続空隙を通じてブロック全体に行き渡り、ブロック内またはその周囲における生物の育成を促進することができる。
【0032】
詳述すると、ブロック本体1は、例えば、空隙率が15%以上のポーラスコンクリート等の多孔質セメント硬化体により形成されているとともに、収納部2内に藻場形成や魚介類に必要な生物育成用添加材を格納できることから、収納部2内の生物育成用添加材が、収納部2の開口や連続空隙を通じて内部から外へ拡散するため、ブロック表面における海藻等の植物の根付きが良好であるとともに、栄養分が豊富な連続空隙が、線虫やプランクトンが住み着くのに好適な空間となる。
【0033】
また、生物育成用添加材が消費されたときは、収納部に再補給することができ、生物の育成環境を持続することが可能となる。さらに、多孔性セメント硬化体として、骨材として再生骨材を使用したポーラスコンクリートを用いることができるため、廃コンクリートから生成される再生骨材の利用を拡大し、環境保護にも貢献できる。
【0034】
さらに、本実施形態では、生物育成用添加材として、間伐材チップと廃鉄筋などが含まれる腐植土及び鉄を配合した材料を用い、これらを透水性の麻袋や土壌袋などの繊維系素材で形成された袋体に封入して用いることから、腐植土と鉄により腐植酸鉄又は腐植酸を生成する物質を長期にわたって収納部内に保持することができ、生物の繁殖に適した環境をつくることができる。
【0035】
また、本実施形態では、ブロック本体の外表面に棲息用孔3としての横孔を設けることにより、そこを魚類の住み処とすることができ、さらに魚類等の生物を集めることができる。さらに、この棲息用孔3は、漁礁に生じる波の圧力を軽減することもでき、海中でのブロック本体の滑動や転倒を防止することができる。特に、棲息用孔3は、その内径が、奥行き方向にしたがって小さく形成された円錐形状をなしていることから、棲息用孔に衝突した水圧や波圧を奥行き方向に高めることができ、棲息用孔3内の圧力を高めることにより、これと連通する連続空隙内に棲息している微生物を、ブロック表面全体にから噴出させて周囲に舞い上がらせることができる。また、同時に空隙内に残る微生物の死骸を空隙外へ噴出させ、空隙が閉塞するのを防止して空隙を維持し、自浄作用を持たせることができる。
【0036】
さらに、棲息用孔3の内部から外部に通じる流通孔5を設けることにより、棲息用孔3から外部への流れや各孔の開口部付近における渦流を発生させることができ、棲息用孔内に棲息している微生物や、海藻に付着している生物を海中や水中に舞上げることができ、それらを捕食する生物が集まることを期待することができる。
【0037】
[第2実施形態]
次いで、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では、上述した第1実施形態における棲息用孔3の他、これに形状及び構造に変更を加えた連通棲息用孔30をさらに備えることを要旨とする。なお、本実施形態において、上述した第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付し、その機能等は特に言及しない限り同一であり、その説明は省略する。
【0038】
図3は、第2実施形態に係る生物育成用ブロック300を示す斜視図であり、
図4(a)は、その上面図、
図4(b)は正面図、
図4(c)は側面図である。図に示したように、連通棲息用孔30は、ブロック本体1の下部に設けられた収納部2に連通された大型の棲息用孔であり、角度の浅い凹部であり、緩やかな円錐形状をなす拡開部31と、細長の円錐形状をなす棲息用孔32bと、棲息用孔32bと収納部2に連通した流通路33とを備える。
【0039】
棲息用孔32bは、ブロック本体1の底面近くにおいて、収納部2を挟んだ両側に配置されている。そして、棲息用孔32bは、ブロック本体1の一方の側面から、反対側の側面に貫通された孔であり、拡開部31の中央に形成された大径孔32aから、反対側の側面に形成された小径孔32cへと繋がっており、大径孔32aから小径孔32cへとその内径が、奥行き方向にしたがって小さくなるように形成されている。また、棲息用孔32bの中途において、流通路33によって収納部2の下部に通じている。
【0040】
また、本実施形態では、収納部2は、ブロック本体1の上下に貫通されており、底部側の開口部に下方から嵌め込まれた底板21で塞がれている。生物育成用添加材4を収納部2に収納する際には、ブロック本体1底部を底板21で塞いだ後に上部開口部から生物育成用添加材4を投入してもよいし、下方の開口部から生物育成用添加材4を押し込んだ後、下方から底板21で塞ぐようにしてもよい。
【0041】
このような本実施形態に係る生物育成用ブロック300によれば、拡開部31を設けたことにより、魚類などが内部に入り込みやすくなるとともに、漁礁面に作用する水圧や波圧を棲息用孔32b内の圧力を高めるために利用することができ、これと連通する連続空隙内に棲息している微生物を、ブロック表面全体にから噴出させて周囲に舞い上がらせることができ、より確実に魚類等の生物を集めることができる。さらには、拡開部31及び円錐形状の棲息用孔32bにより、漁礁面に生じる波の圧力を軽減することもでき、海中でのブロック本体の滑動や転倒を防止することができる。
【0042】
また、流通孔33により、収納部2内において、生物育成用添加材4から生じた腐植酸鉄等の栄養分が、棲息用孔32b内に直接送り込まれ、棲息用孔32bにおける藻類やプランクトン等の生物の育成をより確実に促進することができ、さらに魚類等の生物を集めることができる。
【0043】
特に、棲息用孔32bは、その内径が、奥行き方向にしたがって小さく形成された円錐形状をなしていることから、棲息用孔32bに衝突した水圧や波圧を奥行き方向に高めることができる。そして、棲息用孔32bが反対方向へ貫通していることにより、流通孔5を通じて棲息用孔32b内に供給された栄養分が、棲息用孔3から外部への流れや各孔の開口部付近で発生した渦流により、生物育成用ブロック300の周囲に拡散させることができる。この結果、棲息用孔内に棲息している微生物や、海藻に付着している生物を海中や水中に舞上げることができ、それらを捕食する生物が集まることを期待することができる。
【0044】
[第3実施形態]
次いで、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態では、上述した第1実施形態及び第2実施形態におけるブロック本体1が、複数の単位ブロック体10に分割可能であることを要旨とする。
図5は、第3実施形態に係る生物育成用ブロック400を示す図であり、
図5(a)は、その上面図、
図5(b)は側面図、
図5(c)は正面図である。また、
図6は、蓋ブロック19を含む生物育成用ブロック400の図であり、
図6(a)は、蓋ブロック19の上面図であり、
図6(b)は、
図5(a)のAA断面図である。
【0045】
本実施形態に係る生物育成用ブロック400も、いわゆる漁礁ブロックであり、上述した第1実施形態及び第2実施形態と同様に、内部に収納部11が設けられているとともに、外表面に多数の棲息用孔13を有する。
【0046】
詳述すると、本実施形態に係る生物育成用ブロック400は、複数の単位ブロック10が多数、上下・左右に積み上げられて多段に構築されており、最上段の単位ブロック10には、それらの内部の収納部11の上部開口を、それぞれ閉塞する蓋ブロック19が載置されている。そして、各単位ブロック体10の側面には、隣接する他の単位ブロック体10に接する箇所に溝部10aが形成され、隣接する単位ブロック10の溝部10a同士を当接させることにより、棲息用孔13が形成されている。
【0047】
単位ブロック体10は、このコンクリートブロック内部において、骨材間の空隙が相互に連通して形成された連続空隙を有する多孔質セメント硬化体で形成されているとともに、矩形状のコンクリートブロックの上下の四辺部分に溝部10aを設けた形状をしている。また、この単位ブロック本体10の材料としても、空隙率が15%以上のポーラスコンクリート等の多孔質セメント硬化体を使用することができ、この多孔質セメント硬化体の骨材としては、廃コンクリートから生成される再生骨材を配合したポーラスコンクリートを用いることができる。
【0048】
収納部11は、単位ブロック体10の内部に形成され、前記連続空隙を通じてブロック本体の外表面に連通する空間であり、収納部11に生物育成用添加材40が収納される。この収納部11は、本実施形態では、上部に開口を有する有底の矩形状をなしているが、ブロック本体10を上下に貫通させてもよい。なお、本実施形態では、この収納部11には、ブロック10の底部を貫通する連通孔12が穿設されている。また、この単位ブロック体10を構成する多孔質セメント硬化体の連続空隙は、ブロック本体10のコンクリート部分に隈無く存在し、収納部11からブロック本体10の外表面へと連通するとともに、収納部11や棲息用孔13を相互に連通させている。
【0049】
また、本実施形態において、収納部2には、収納部2の上部開口を閉塞するための蓋体22が取付けられる。この蓋体22は、例えば、ポーラスコンクリート等で形成され、下方に向けてテーパー形状を形成したり、或いは段差部を設けるなどして、前記収納部の上部開口に嵌合されるようになっている。
【0050】
上記生物育成用添加材40は、上述した第1実施形態及び第2実施形態と同様に、腐植酸鉄又は腐植酸を生成する物質を、透水性の素材で形成された袋体に封入して構成されている。なお、本実施形態では、収納部40内に、ワイヤーやロープ等の緊結部材40aが取付けられており、これにより生物育成用添加材40を固定し、浮き上がるのを防止するようになっている。
【0051】
上記棲息用孔13は、本実施形態においても、その内径が、奥行き方向にしたがって小さく形成された円錐形状や角錐形状をなしているとともに、上下に連通する縦孔14が形成あれ、上下に位置する棲息用孔13を相互に接続している。なお、この縦孔14も、各単位ブロック13の四隅に扇状の溝部を形成し、隣接する単位ブロック13の溝部同士を付き合わせることにより形成されている。
【0052】
(作用・効果)
以上説明した本実施形態によれば、上述した第1実施形態及び第2実施形態と同様に、連続空隙を有することによって、微生物が単位ブロック体10内に入り込むことが可能となり、かつ藻類などが単位ブロック体10表面に容易に付着ないしは滞留することができるとともに、収納部11に収納された生物育成用添加材40からの栄養分が、連続空隙を通じてブロック全体に行き渡り、ブロック内またはその周囲における生物の育成を促進することができる。
【0053】
特に、本実施形態では、ブロック本体を複数の単位ブロック体10に分割可能とし、棲息用孔13を、隣接する単位ブロック体10の溝部10a同士を当接させることにより形成するため、単位ブロック10を積み上げた際に棲息用孔13を形成することができ、ブロック本体内部に棲息用孔を穿設する場合に比べて、製造作業を容易なものとすることができる。
【0054】
また、本実施形態においても、ブロック本体に棲息用孔13としての横孔を設けることにより、そこを魚類の住み処とすることができ、さらに魚類等の生物を集めることができる。さらに、この棲息用孔13は、漁礁に生じる波の圧力を軽減することもでき、海中でのブロック本体の滑動や転倒を防止することができる。
【0055】
棲息用孔13は、その内径が、奥行き方向にしたがって小さく形成された円錐形状をなしていることから、棲息用孔に衝突した水圧や波圧を奥行き方向に高めることができ、棲息用孔3内の圧力を高めることにより、これと連通する連続空隙内に棲息している微生物を、ブロック表面全体にから噴出させて周囲に舞い上がらせることができる。さらに、上下の棲息用孔13を相互に連通させる流通孔14を設けることにより、棲息用孔13から外部への流れや各孔の開口部付近における渦流を発生させることができ、棲息用孔内に棲息している微生物や、海藻に付着している生物を海中や水中に舞上げることができ、それらを捕食する生物が集まることを期待することができる。
【実施例】
【0056】
次いで、本発明の実施例について以下に説明する。本実施例では、海洋試験において、本発明の構成を備える供試体(100mm×100mm×400mm)と、普通のコンクリートにより形成された供試体との比較を行った。具体的には、
図7に示すように、海面付近に配置された浮き桟橋から、矩形状に形成した各供試体を海ロープによって海中に吊下し、一定の調査期間(13ヶ月間)における生物(藻や微生物等)付着状況を目視及び水中写真により観察した。
【0057】
本発明の供試体として、普通ポルトランドセメントを用いて再生粗骨材を硬化させたものを多孔質セメント硬化体としてブロック本体を形成し、内部の収納部に生物育成用添加材を封入したものを製作した。具体的には、本発明の供試体として、ブロック本体の中心に直径5cmの空洞を貫通させて収納部とし、その中に長さ35cmのD13鉄筋と腐葉土及び木片チップを封入し、ブロック本体と同様の配合で形成した蓋体により収納部を封止した。収納部に封入した生物育成用添加材は、腐葉土と木片チップを質量比で1:1の割合で、140g分を配合した。一方、比較用の供試体として、普通ポルトランドセメントを用いて、川砂及び砕石を骨材としたプレーンコンクリートでブロック本体を形成したものを製作した。具体的には、骨材の最大寸法を20mmとし、スランプ8+2.5cm、細骨材率46.1%のプレーンコンクリートでブロック本体を、内部に収納部を設けることなく形成した。
【0058】
試験結果を
図8及び
図9に示す。
図8は、本発明に係る供試体の試験結果を示す水中写真であり、
図9は、比較用のプレーンコンクリートで形成した供試体の試験結果を示す水中写真である。本発明に係る供試体は、
図8に示すように、試験期間(13ヶ月)が経過した後、供試体の表面に海草類が多く発生しているのが観察された。一方、プレーンコンクリートで形成した供試体は、
図9に示すように、藻類が殆ど付着していないのが観察された。これにより、本発明が、生物の繁殖に適した環境を形成するために有効なことが検証された。
【符号の説明】
【0059】
1…ブロック本体
2…収納部
3…棲息用孔
4…生物育成用添加材
5…流通孔
21…底板
22…蓋体
30…連通棲息用孔
31…拡開部
32a…大径孔
32b…棲息用孔
32c…小径孔
33…流通路
100,200,300…生物育成用ブロック