特許第6115928号(P6115928)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6115928
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】規制部材
(51)【国際特許分類】
   F02F 1/14 20060101AFI20170424BHJP
   F01P 3/02 20060101ALI20170424BHJP
【FI】
   F02F1/14 D
   F02F1/14 Z
   F01P3/02 A
【請求項の数】13
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-566375(P2016-566375)
(86)(22)【出願日】2015年12月22日
(86)【国際出願番号】JP2015085777
(87)【国際公開番号】WO2016104478
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2017年1月16日
(31)【優先権主張番号】特願2014-258239(P2014-258239)
(32)【優先日】2014年12月22日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087664
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 宏行
(74)【代理人】
【識別番号】100143926
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 公敏
(74)【代理人】
【識別番号】100149504
【弁理士】
【氏名又は名称】沖本 周子
(72)【発明者】
【氏名】牧野 耕治
【審査官】 櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−071039(JP,A)
【文献】 特開昭63−008018(JP,A)
【文献】 特開2012−007478(JP,A)
【文献】 特開2000−345838(JP,A)
【文献】 特開2007−162473(JP,A)
【文献】 特開2007−247590(JP,A)
【文献】 特開平08−296495(JP,A)
【文献】 特開2007−107426(JP,A)
【文献】 特開2002−266695(JP,A)
【文献】 特開2004−019472(JP,A)
【文献】 特開2005−030297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/14
F01P 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダブロックに設けられた冷却水流路に、その開口部から挿入されて配置される規制部材であって、
前記冷却水流路に配置可能な形状に形成された剛性を有する支持体と、
前記支持体に支持されるとともに、前記冷却水流路を流通する冷却水の流れを規制する規制部と、を備え、
前記規制部は、前記冷却水流路を流通する冷却水と接触することによって、圧縮された状態から復元可能なセルロース系スポンジを含んで構成されていることを特徴とする規制部材。
【請求項2】
請求項1に記載の規制部材において、
前記規制部は、前記セルロース系スポンジにおける前記冷却水流路の壁面と対面する少なくとも一部の面に被覆された前記セルロース系スポンジよりも強度が大である保護材をさらに含んで構成されていることを特徴とする規制部材。
【請求項3】
請求項2に記載の規制部材において、
前記保護材は、弾性を有する材料からなることを特徴とする規制部材。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の規制部材において、
前記支持体及び圧縮された状態における前記規制部の厚みの総和は、前記冷却水流路の幅よりも小さいことを特徴とする規制部材。
【請求項5】
請求項4に記載の規制部材において、
圧縮された状態から復元した前記規制部の表面が前記冷却水流路の対向壁面に当接するように設定されていることを特徴とする規制部材。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の規制部材において、
前記支持体は、前記内燃機関に設けられるシリンダボア壁の外形状に沿うように形成された円弧部を含み、
前記規制部は、前記円弧部に固着されていることを特徴とする規制部材。
【請求項7】
請求項6に記載の規制部材において、
前記支持体は、複数の前記円弧部と、隣接する前記円弧部同士を接続する接続部とを備えており、
前記規制部は、前記接続部を跨がないように複数の前記円弧部それぞれに分割して設けられていることを特徴とする規制部材。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の規制部材において
前記規制部は、隣接する状態で少なくともその一部が前記冷却水流路の深さ方向に重なるように複数設けられたことを特徴とする規制部材。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の規制部材において、
前記規制部は、前記支持部材のシリンダボア側であって、前記内燃機関のピストンが上死点にあるときに最も燃焼室に近いピストンリングの位置よりもクランクシャフト側に設けられていることを特徴とする規制部材。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載の規制部材において、
前記支持体は、樹脂からなるとともに、その一部が前記規制部に含浸して固着していることを特徴とする規制部材。
【請求項11】
請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載の規制部材において、
前記セルロース系スポンジは、パルプ由来のセルロースと補強繊維とからなることを特徴とする規制部材。
【請求項12】
請求項1〜請求項11に記載の規制部材において、
前記セルロース系スポンジは、圧縮された状態における体積が、圧縮されていない状態の体積の1%〜30%となるように圧縮されていることを特徴とする規制部材。
【請求項13】
請求項6に記載の規制部材において、
前記規制部は、前記円弧部のシリンダボア側の面及び前記シリンダボアとは反対側の面にそれぞれ固着されていることを特徴とする規制部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のシリンダブロックに設けられた冷却水流路(ウォータジャケット)に挿入されて用いられる規制部材に関する。
【背景技術】
【0002】
前記内燃機関のウォータジャケットには、流通する冷却水の流れ(流量、流速等)を規制するための規制部材としてのスペーサが開口部から挿入されて配置される。スペーサを開口部よりウォータジャケット内に挿入する際、挿入荷重をなくして組付け性を向上することが望まれる。特許文献1〜4には、ウォータジャケットに挿入する前は、厚みが小さく、挿入後は厚みが大きくなって、所定の冷却水の流れの規制がなされるようにしたスペーサが開示されている。これら特許文献に開示されたスペーサをウォータジャケットに挿入する際の挿入荷重をなくして組付け性を向上させる構成は、概ね以下のように大別される。
a)発泡ゴムをバインダー(水溶性物質)によって圧縮状態に固定し、ウォータジャケット内を流通する冷却水(不凍液:LLC)によってバインダーが溶け、非圧縮の状態に戻るように構成されたスペーサ(特許文献1,2参照)。
b)発泡ゴムをバインダー(熱可塑性物質)によって圧縮状態に固定し、前記冷却水の温度によってバインダーが軟化、或いは、融解して、非圧縮の状態に戻るように構成されたスペーサ(特許文献1,2,4参照)。
c)エラストマーに吸水性高分子材料を配合し、前記冷却水を吸収して膨張させるように構成したスペーサ(特許文献3参照)。
d)ばね部材によって支持させ、挿入前はばね部材を圧縮させておき、挿入後ばね部材を復元させるように構成したスペーサ(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3967636号公報
【特許文献2】特許第4149322号公報
【特許文献3】特許第4465313号公報
【特許文献4】特許第5593136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記a)〜d)のように構成されるスペーサは、それぞれ以下のような課題を内包する。
a),b)の場合、製造工程で発泡ゴムをバインダーの溶液やエマルジョン中に含浸させる必要があるため、含浸液の管理や、環境への配慮が必要である。また、LLC中にバインダー成分が混入し、LLCの成分に影響を及ぼす場合がある。
c)の場合、水膨潤性エラストマーの膨張方向を規制するため、芯材に水膨潤性エラストマーを一体加工する必要があり、製造上複雑な工程が必要とされる。また、LLC中に吸水性高分子材料が流出し、LLCの成分に影響を及ぼす場合がある。
d)の場合、ばね部材の圧縮・復元作用を用いるため、ばね部材を圧縮状態に維持し、また、この圧縮状態を解放するための機械的な機構を組み込む必要があり、構造的に複雑となる。
【0005】
本発明は、前記に鑑みなされたもので、簡易に作製可能で、冷却水や環境に対して悪影響を及ぼさない新規な規制部材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る規制部材は、前記冷却水流路に配置可能な形状に形成された剛性を有する支持体と、前記支持体に支持されるとともに、前記冷却水流路を流通する冷却水の流れを規制する規制部と、を備え、前記規制部は、前記冷却水流路を流通する冷却水と接触することによって、圧縮された状態から復元可能なセルロース系スポンジを含んで構成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る規制部材によれば、当該規制部材を冷却水流路に配置する際、規制部を圧縮状態にしておけば、荷重が作用しない状態で冷却水流路への挿入が可能となる。これによって、規制部材のシリンダブロックに対する組付け性が向上する。そして、規制部は、冷却水流路に冷却水が流通した際に冷却水に接触して圧縮状態から復元するため、冷却水流路の壁面に近接又は接触するようになり、これによって、冷却水を規制する機能が発揮される。また、規制部を構成するセルロース系スポンジは、加圧した状態で乾燥させるとセルロース分子間が水素結合して圧縮状態に維持される一方、この状態から冷却水に晒されると水分子がセルロース分子間の水素結合を解離して圧縮状態から復元する特性を有する。したがって、バインダー溶液やエマルジョン等を使用せずに規制部を圧縮状態に保つことができるため、規制部の加工工程を簡素化することができ、また、冷却水や環境に対する悪影響も生じる懸念がない。
【0008】
本発明に係る規制部材において、前記規制部は、前記セルロース系スポンジにおける前記冷却水流路の壁面と対面する少なくとも一部の面に被覆された前記セルロース系スポンジよりも強度が大である保護材をさらに含んで構成されているものとしても良い。
これによれば、当該規制部材を冷却水流路に挿入する際に、開口部の縁部や壁面に規制部材が触れても、規制部の傷付きを抑制することができる。また、冷却水流路内に配置された状態で、内燃機関の振動や水流によっても、規制部材の摩耗や損傷を抑制することができる。
この場合、前記保護材は、弾性を有する材料からなるものとしても良い。これによれば、弾性を有する保護材によって規制部の表面を被覆するため、規制部は前記保護材を介して冷却水流路の壁面に密着し易くなる。したがって、冷却水の流れを堰き止める要求がある場合には、確実にその要求に応えることができる。
【0009】
本発明に係る規制部材において、前記支持体及び圧縮された状態における前記規制部の厚みの総和は、前記冷却水流路の幅よりも小さいものとしても良い。
これによれば、当該規制部材を冷却水流路内に挿入する際に荷重を受けないようにすることができる。
【0010】
本発明に係る規制部材において、圧縮された状態から復元した前記規制部の表面が前記冷却水流路の対向壁面に当接するように設定されているものとしても良い。
これによれば、規制部が冷却水に接触して復元した際は、規制部が冷却水流路の対向壁面に当接するから、冷却水の流れを堰き止める要求がある場合には、その要求により確実に応えることができる。
【0011】
本発明に係る規制部材において、前記支持体は、前記内燃機関に設けられるシリンダボア壁の外形状に沿うように形成された円弧部を含み、前記規制部は、前記円弧部に固着されているものとしても良い。
これによれば、規制部をシリンダボア壁の外形状に沿うに形成された円弧部に固着させているので、冷却水流路内を流通する冷却水の流れ(流量、流速等)を堰き止めるよう規制し、シリンダボア壁の温度を適正にコントロールすることができる。
この場合、前記支持体は、複数の前記円弧部と、隣接する前記円弧部同士を接続する接続部とを備えており、前記規制部は、前記接続部を跨がないように複数の前記円弧部のそれぞれに分割して設けられているものとしても良い。
これによれば、規制部が接続部を跨がないように分割して設けられているので、規制部が圧縮された状態から復元する際に引っ張られる等して復元を阻害することを防ぐことができる。
【0012】
本発明に係る規制部材において、前記規制部は、隣接する状態で少なくともその一部が前記冷却水流路の深さ方向に重なるように複数設けられたものとしても良い。
これによれば、規制部が複数分割して設けられることで生じる規制部と規制部との隙間に水の流れが発生する等、意図しない方向へ冷却水が流れることを防止することができる。
【0013】
本発明に係る規制部材において、前記規制部は、前記支持部材のシリンダボア側であって、前記内燃機関のピストンが上死点にあるときに最も燃焼室に近いピストンリングの位置よりもクランクシャフト側に設けられているものとしても良い。
これによれば、ピストンが上死点に達した時の燃焼室側を流れる冷却水の流通流量を増やすことができる。つまり、シリンダボア壁において高温になり易い側の冷却性を上げる一方、シリンダボア壁において高温になり難い側の冷却性を下げることができ、シリンダボア壁を適正に冷却することができる。
本発明に係る規制部材において、前記支持体は、樹脂からなるとともに、その一部が前記規制部に含浸して固着しているものとしても良い。
また、本発明に係る規制部材において、前記セルロース系スポンジは、パルプ由来のセルロースと補強繊維とからなるものとしても良い。
さらに、本発明に係る規制部材において、前記セルロース系スポンジは、圧縮された状態における体積が、圧縮されていない状態の体積の1%〜30%となるように圧縮されているものとしても良い。
そして、本発明に係る規制部材において、前記規制部は、前記円弧部のシリンダボア側の面及び前記シリンダボアとは反対側の面にそれぞれ固着されているものとしても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る規制部材によれば、簡易に作製可能で、冷却水や環境に対して悪影響を及ぼすことがない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る規制部材の一実施形態を示し、内燃機関におけるシリンダブロックのウォータジャケットに挿入した状態を示す概略的平面図である。
図2図1におけるX−X線矢視部を模式的に示す拡大断面図である。
図3】同実施形態の規制部材を内燃機関のウォータジャケットに組付ける過程を模式的に示す図であり、(a)は当該スペーサをウォータジャケットに挿入した状態を示し、(b)はウォータジャケット内に冷却水が流通した時の当該スペーサの状態を示す図である。
図4】(a)は同実施形態における規制部材の支持体に対する支持構造の一例を示す要部の平面図であり、(b)は(a)におけるY−Y線矢視断面図である。
図5】同支持構造の別の例を示す要部の横断平面図である。
図6】同支持構造のさらに別の例を示す要部の横断平面図である。
図7】同支持構造のさらに別の例を示す要部の横断平面図である。
図8】同支持構造のさらに別の例を示す要部の横断平面図である。
図9】同支持構造のさらに別の例を示す要部の横断平面図である。
図10】(a)(b)は、本発明に係る規制部材の他の実施形態の要部の横断面図を模式的に示し、(a)は当該規制部材を内燃機関のウォータジャケットに配置した状態を、(b)はさらにウォータジャケット内に冷却水が流通した状態を、それぞれ示す。
図11】(a)(b)は、本発明に係る規制部材のさらに他の実施形態の要部の横断面図を模式的に示し、(a)は当該規制部材を内燃機関のウォータジャケットに配置した状態を、(b)はさらにウォータジャケット内に冷却水が流通した状態を、それぞれ示す。
図12】同実施形態における規制部材の固着状態の一例を示し、図1におけるZ−Z線矢視部を模式的に示す斜視断面図である。
図13】同実施形態における規制部材の固着状態の他の一例を示し、図1におけるZ−Z線矢視部を模式的に示す斜視断面図である。
図14】(a)(b)は、同実施形態における規制部材の固着状態の更に他の一例を示し、図1におけるZ−Z線矢視部を模式的に示す斜視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態について、図1図14を参照して説明する。図1図3は本発明に係る規制部材の一実施形態を示し、図1は同実施形態の規制部材としてのスペーサを内燃機関におけるシリンダブロックのウォータジャケットに挿入した状態を示している。図1に示すシリンダブロック1は、3気筒の自動車用エンジン(内燃機関)を構成するものであり、3個のシリンダボア2…が隣接状態で直列に連なるように設けられている。1a…はシリンダヘッド9(図2参照)をシリンダブロック1に合体締結させるためのボルト(不図示)用挿通孔である。3個のシリンダボア2…の周囲には、オープンデッキタイプのウォータジャケット(冷却水流路)3が一連に形成されている。シリンダブロック1には、このウォータジャケット3に通じる冷却水(不凍液も含む)導入口4と冷却水排出口5とが設けられている。冷却水排出口5は不図示のラジエータに配管接続され、ラジエータのアウトレット側は、ウォータポンプ(不図示)を介して冷却水導入口4に配管接続される。これによって、ウォータジャケット3とラジエータとの間で冷却水が循環するように構成される。なお、シリンダヘッド9にもウォータジャケット(不図示)が設けられる場合は、シリンダブロック1のウォータジャケット3と、シリンダヘッド9のウォータジャケットとが連通するよう構成される。この場合は、シリンダブロック1には前記冷却水排出口5がなくても良く、シリンダヘッド9に冷却水排出口が設けられ、これにラジエータに通じる配管が接続される。
【0017】
ウォータジャケット3における隣接するシリンダボア2,2間の部分には、互いに接近して対をなすくびれ部3a…が形成されている。くびれ部3a…の溝幅はウォータジャケット3の他の円弧部3bの溝幅より大とされている。そして、ウォータジャケット3の溝側壁面は、シリンダボア2側の内壁面3cとシリンダボア2とは反対側の内壁面3dとの両壁面3c,3dにより構成される。規制部材としての本実施形態のスペーサ6は、図1に示すように、ウォータジャケット3内に、その開口部30から挿入されて配置可能な筒状の形状とされたスペーサ本体(支持体)7と、このスペーサ本体7に支持された規制部8とを備えている。スペーサ本体7は剛性を有し、図例では硬質合成樹脂の成型体からなる。また、本実施形態の規制部8は、冷却水と接触することによって圧縮された状態から復元可能なセルロース系スポンジ81と、該セルロース系スポンジ81の表面に被覆されたゴム材からなる保護材82とを含んで構成されている。保護材82は、セルロース系スポンジ81の表面のうち、スペーサ本体7に支持される側とは反対側の全面を被覆している。セルロース系スポンジ81とは、パルプ由来のセルロースと、補強繊維として加えられた天然繊維(例えば、綿等)とからなる天然素材である。なお、セルロースは、親水基(OH基)を有しており、化学的に水分になじみ易い性質を有する。また、セルロース系スポンジ81は、多孔質の素材である。セルロース系スポンジ81は、前記従来例の発泡ゴムのようにバインダーを用いることなく、加圧した状態で乾燥させるとセルロース分子間が水素結合して圧縮状態に維持される一方、この状態から冷却水に晒されると水分子がセルロース分子間の水素結合を解離して圧縮状態から復元する特性を有する。
【0018】
本実施形態のスペーサ6は、前記スペーサ本体7と、該スペーサ本体7の内面7e(シリンダボア2側の面)であって、ウォータジャケット3の前記円弧部3bに相当する部位(図例では6箇所)に一体とされた前記規制部8…とを備えている。図2に示すようなスペーサ6は、以下の要領で製造される。即ち、市場で入手可能な発泡状態のセルロース系スポンジの原材を厚み方向に圧縮して乾燥し、シート状体となす。具体例としては、セルロース系スポンジの原材をプレスローラにて加圧及び加熱することで、シート状となす。このシート状体の片面にゴムシートからなる保護材82を接着剤等で固着一体とする。ゴムシートからなる保護材82は、セルロース系スポンジ81より強度(特に、靱性及び耐擦過性等)が大であり好ましく採用されるが、ゴムシートに代え、樹脂シートや金属シートも保護材82として採用可能である。そして、保護材82が固着一体とされたセルロース系スポンジのシート状体を所定形状に裁断する一方、スペーサ本体7は射出成型によって別個に作製する。その後接着剤によって規制部8をスペーサ本体7の所定位置に固着させるか、スペーサ本体7の対応箇所を熱溶融させ、この部位に規制部8を熱溶着させるようにしても良い。さらに、図4図9に示すような支持構造によって、規制部8をスペーサ本体7に一体化させるようにしても良い。図4図9に示す支持構造については後記する。またさらに、規制部8をスペーサ本体7に一体化する方法としては、上述に限定されず、インサート成型により一体成型しても良い。その一例として、以下成型方法が挙げられる。まず発泡状態のセルロース系スポンジからなる発泡体を厚み方向に圧縮してシート状態となし、このシート状態に圧縮された発泡体を乾燥させた後、発泡体の片面に接着剤を塗布し、表面状態を改質させる。その後、成型装置における下型のキャビティの所定位置に発泡体を配置し、上型を型締めし、溶融状態の樹脂をキャビティ内に射出してインサート成型する。そして、脱型工程を経て、樹脂によるスペーサ本体7に、圧縮状態の発泡体、すなわち規制部8が一体に形成されたスペーサ6を得ることができる。このように形成されたスペーサ6においては、スペーサ本体7の樹脂の一部が規制部8に含浸し、スペーサ本体7に規制部8が固着している。なお、このインサート成型による製造工程も、上述に限定されるものではない。
【0019】
このようにして得られたスペーサ6は、スペーサ本体7と、スペーサ本体7の内面7eに固着一体とされた規制部8…とによって構成される。この場合、規制部8…におけるセルロース系スポンジ81は、未だ圧縮前の状態に復元しておらず、スペーサ本体7の内面7eに沿うように固着されている。また、スペーサ本体7及び規制部8の厚みの総和dは、セルロース系スポンジ81が圧縮された状態で、ウォータジャケット3の幅Dよりも小さく設定される(図3(a)参照)。そして、スペーサ6は、ウォータジャケット3の開口部30から挿入されてウォータジャケット3内に配置される。この挿入の際には、前記厚みの総和dがウォータジャケット3の幅Dよりも小さくされていることにより、当該スペーサ6の挿入荷重を小さくすることができる。冷却水がウォータジャケット3に冷却水導入口4から導入されてウォータジャケット3を流通すると、各規制部8のセルロース系スポンジ81が、冷却水に晒され、水分子がセルロース分子間の水素結合を解離して圧縮状態から復元する。この復元によって、規制部8…の片面(保護材82が一体とされている側の面)が、ウォータジャケット3内のシリンダボア壁2a側内壁面(対向壁面)3cに当接する。図2において、2点鎖線で示す規制部8はセルロース系スポンジ81が圧縮された状態であることを、実線で示す規制部8はセルロース系スポンジ81が復元した状態を、それぞれ示す。
【0020】
図2は、スペーサ6がシリンダブロック1のウォータジャケット3内に配置され、シリンダブロック1の上面にシリンダヘッド9が、シリンダブロック1の下面にオイルパン10がそれぞれ一体に締結された状態を示している。さらに、図2は、シリンダボア2とオイルパン10間にピストン11が組み込まれた状態を示している。シリンダヘッド9は、シリンダヘッドガスケット9aを介してウォータジャケット3の開口部30が閉塞されるようにシリンダブロック1に一体に締結される。この締結状態では、シリンダボア2の上側開口部上に燃焼室9bが位置付けられる。シリンダボア2内には、複数(図例では3個)のピストンリング11a,11b,11cを有するピストン11が、シリンダボア壁2aの内面を摺接してその軸方向に沿って往復動可能に設けられる。このピストン11の往復動は、コンロッド11d及びクランクピン11eを介してクランクシャフト11fの軸回転運動(1点鎖線)に変換される。図2は、ピストン11が上死点にある状態を示している。そして、規制部8は、スペーサ6がウォータジャケット3内に配置された状態で、スペーサ本体7のシリンダボア2側であって、ピストン11が上死点にあるときに最も燃焼室9bに近いピストンリング11aの位置よりウォータジャケット3の深さ方向に沿ってクランクシャフト11f側に位置するように設けられている。
【0021】
前記のように構成されるエンジン(内燃機関)が作動すると、燃焼室9bによる熱によってシリンダボア壁2aが加熱される。シリンダボア壁2aの温度が高くなり過ぎると、ピストンリング11a,b,cに付着するオイルの粘性が下がり、これによってオイルが流出して、ピストン11の前記シリンダボア2内での前記往復摺接運動が円滑になされなくなる。然るに、ウォータジャケット3内には、前記冷却水が流通しているから、シリンダボア壁2aの過熱が抑制され、前記オイルの流出を抑えて、ピストン11の円滑な往復動が維持される。そして、ウォータジャケット3内には、規制部8を備えたスペーサ6が配置されているから、ウォータジャケット3内を流通する冷却水の流れ(流量、流速等)を堰き止めるよう規制し、シリンダボア壁2aの温度が適正にコントロールされる。特に、規制部8は、スペーサ本体7に対して前記のような位置関係となるように設けられているから、燃焼室9bに近い側では、冷却水の流量が大となり、燃焼室9bに近い側のシリンダボア壁2aの過熱が効果的に抑制される。また、規制部8の存在により、ウォータジャケット3内での冷却水の流通が規制され、オイルパン10側のシリンダボア壁2aの過冷却も抑制される。即ち、シリンダボア壁2aにおいて高温になり易い側の冷却性を上げる一方、シリンダボア壁2aにおいて高温になり難い側の冷却性を下げることができ、シリンダボア壁2aを適正に冷却することができる。
【0022】
図3(a)(b)は、本実施形態のスペーサ6をウォータジャケット3に組付ける過程を模式的に示している。図3(a)は前記のように作製されたスペーサ6を、ウォータジャケット3に、その開口部30から挿入して配置した状態を示している。スペーサ本体7及び規制部8の厚みの総和dが、前記のように設定されているから、規制部8がウォータジャケット3の開口部30の縁部や内壁面3c,3dに干渉することなく、荷重が作用しない状態でスペーサ6のウォータジャケット3内への挿入が可能とされる。また、セルロース系スポンジ81の表面は保護材82で被覆されているから、この挿入の際に、規制部8の表面が、開口部30の縁部や前記内壁面3c,3dに触れても、セルロース系スポンジ81の表面の傷付きが抑えられる。そして、図3(b)に示すように、シリンダブロック1にシリンダヘッド9が締結一体とされ、ウォータジャケット3に冷却水wが流通すると、前記のとおりセルロース系スポンジ81が圧縮状態から復元し、規制部8(保護材82)の表面がウォータジャケット3のシリンダボア2側内壁(対向壁面)3cに当接する。このように規制部8の表面が対向壁面3cに当接した状態では、セルロース系スポンジ81の表面は保護材82で被覆されているから、エンジンの振動や水流によっても、規制部8の摩耗や損傷を抑制することができる。しかも、保護材82は弾性を有するゴム材からなるから、規制部8は保護材82を介してウォータジャケット3の対向壁面3cに密着し易くなる。したがって、冷却水wの流れを堰き止める要求がある場合には、確実にその要求に応えることができる。また、さらに、化学薬品等を使用せずに規制部8を圧縮状態に保つことができるため、規制部8の加工工程を簡素化することができる。また、冷却水wや環境に対する悪影響も生じる懸念がなく、しかも、セルロース系スポンジ81は天然素材からなるから、安価に入手することができる上に、自然環境に悪影響を及ぼすことなく、廃棄処理等も焼却等によって容易に行うことができる。さらに、スペーサ本体7と規制部8とは面同士で結合されており、スペーサ本体7に対する規制部8の位置を安定させることができる。因みに、従来のように、バインダーを用いて発泡ゴムを圧縮状態に固定する場合は、発泡ゴムの表面がバインダーで被覆されることになり、バインダーがスペーサ本体と発泡ゴムとの界面に介在する。このようなスペーサが冷却水に晒されると、スペーサ本体と発泡ゴムとの界面に介在するバインダーも冷却水に晒されて、バインダーが冷却水に溶け出し、スペーサ本体と発泡ゴムとの接着強度が低下する懸念がある。これに対して、セルロース系スポンジを用いる場合は、このような懸念が生じない。
【0023】
図4(a)(b)は、同実施形態における規制部8のスペーサ本体(支持体)7に対する支持構造の一例を示す。この例では、規制部8は、前記例のようにスペーサ本体7に固着一体とされず、スペーサ本体7のウォータジャケット3の深さ方向に沿った上下端部において、4個のクリップ12…によって、規制部8をスペーサ本体7とともに厚み方向に挟んでスペーサ本体7に支持させるようにしている。このようにクリップ12…によって規制部8をスペーサ本体7に支持させてなるスペーサ6も、前記例と同様にシリンダブロック1のウォータジャケット3内に配置される。そして、この配置状態で、冷却水がウォータジャケット3に流通され、規制部8のセルロース系スポンジ81が冷却水に接すると、図4(b)の2点鎖線で示すように、セルロース系スポンジ81が、クリップ12…で挟まれた部分を除いて、圧縮前の状態に復元する。これによって、規制部8の表面がウォータジャケット3のシリンダボア2側内壁面3c(図2図3(b)参照)に当接する。したがって、本例のスペーサ6も前記例と同様の作用・効果を奏する。
【0024】
図5は、同実施形態における規制部8のスペーサ本体(支持体)7に対する支持構造の別の例を示す。この例では、スペーサ本体7の周方向に沿って規制部8の周方向長さに略等しい間隔を空けて厚み方向に貫く一対の縦長スリット状透孔7a,7aが開設されている。この透孔7a,7aに貫装された一対の縦長クリップ12,12によって、規制部8におけるセルロース系スポンジ81の周方向両端部をスペーサ本体7とともに厚み方向に挟み、これによって、スペーサ本体7に規制部8を支持させるようにしている。このようにクリップ12,12によって規制部8をスペーサ本体7に支持させてなるスペーサ6も、前記例と同様にシリンダブロック1のウォータジャケット3内に配置される。そして、この配置状態で、冷却水がウォータジャケット3に流通され、規制部8のセルロース系スポンジ81が冷却水に接すると、2点鎖線で示すように、セルロース系スポンジ81が、クリップ12,12で挟まれた部分を除いて、圧縮前の状態に復元する。これによって、規制部8の表面がウォータジャケット3のシリンダボア2側内壁面3c(同上)に当接する。したがって、本例のスペーサ6も前記例と同様の作用・効果を奏する。
【0025】
図6は、同実施形態における規制部8のスペーサ本体(支持体)7に対する支持構造のさらに別の例を示す。この例では、スペーサ本体7のシリンダボア2側内面に周方向に沿って規制部8の周方向長さに略等しい間隔を空けて互いに向き合うように一対の縦長鉤型支持片7b,7bが突設されている。この鉤型支持片7b,7bによって、規制部8におけるセルロース系スポンジ81の周方向両端部をスペーサ本体7とともに厚み方向に挟み、これによって、規制部8をスペーサ本体7に支持させるようにしている。このように鉤型支持片7b,7bによって規制部8をスペーサ本体7に支持させてなるスペーサ6も、前記例と同様にシリンダブロック1のウォータジャケット3内に配置される。そして、この配置状態で、冷却水がウォータジャケット3に流通され、規制部8のセルロース系スポンジ81が冷却水に接すると、2点鎖線で示すように、セルロース系スポンジ81が、鉤型支持片7b,7bで挟まれた部分を除いて、圧縮前の状態に復元する。これによって、規制部8の表面がウォータジャケット3のシリンダボア2側内壁面3c(同上)に当接する。したがって、本例のスペーサ6も前記例と同様の作用・効果を奏する。
【0026】
図7は、同実施形態における規制部8のスペーサ本体(支持体)7に対する支持構造のさらに別の例を示す。この例では、スペーサ本体7のシリンダボア2側内面に周方向に沿って規制部8の周方向長さに略等しい間隔を空けて厚み方向に貫く一対の縦長スリット状透孔7c,7cが開設されている。この透孔7c,7cに規制部8におけるセルロース系スポンジ81の周方向両端部を、シリンダボア2側から差し込み、さらに互いに反方向に折り曲げることによって、規制部8をスペーサ本体7に支持させるようにしている。このように透孔7c,7cを介し規制部8をスペーサ本体7に支持させてなるスペーサ6も、前記例と同様にシリンダブロック1のウォータジャケット3内に配置される。そして、この配置状態で、冷却水がウォータジャケット3に流通され、規制部8のセルロース系スポンジ81が冷却水に接すると、2点鎖線で示すように、セルロース系スポンジ81におけるシリンダボア2側の部分が、圧縮前の状態に復元する。これによって、規制部8の表面がウォータジャケット3のシリンダボア2側内壁面3c(同上)に当接する。したがって、本例のスペーサ6も前記例と同様の作用・効果を奏する。
【0027】
図8は、同実施形態における規制部8のスペーサ本体(支持体)7に対する支持構造のさらに別の例を示す。この例では、スペーサ本体7のシリンダボア2側内面に周方向に沿って縦横に間隔を空けて4個の柱状突起7d…が設けられている。また、規制部8には、この突起7d…に対応する位置に、この突起7d…の外径と略同径の貫通孔8a…が設けられている。そして、スペーサ本体7の突起7d…を規制部8の貫通孔8a…に貫通させ、その突出端を熱かしめすることによって、規制部8をスペーサ本体7に支持させるようにしている。このように突起7d…の熱かしめを介し規制部8をスペーサ本体7に支持させてなるスペーサ6も、前記例と同様にシリンダブロック1のウォータジャケット3内に配置される。そして、この配置状態で、冷却水がウォータジャケット3に流通され、規制部8のセルロース系スポンジ81が冷却水に接すると、2点鎖線で示すように、セルロース系スポンジ81におけるシリンダボア2側の部分が、圧縮前の状態に復元する。これによって、規制部8の表面がウォータジャケット3のシリンダボア2側内壁面3c(同上)に当接する。したがって、本例のスペーサ6も前記例と同様の作用・効果を奏する。
【0028】
図9は、同実施形態における規制部8のスペーサ本体(支持体)7に対する支持構造のさらに別の例を示す。この例では、スペーサ本体7のシリンダボア2側内面に規制部8を添わせた状態で、スペーサ本体7及び規制部8を厚み方向に貫く4個のリベット14…によって規制部8をスペーサ本体7に一体に支持させるようにしている。このようにリベット14…を介し規制部8をスペーサ本体7に支持させてなるスペーサ6も、前記例と同様にシリンダブロック1のウォータジャケット3内に配置される。そして、この配置状態で、冷却水がウォータジャケット3に流通され、規制部8のセルロース系スポンジ81が冷却水に接すると、2点鎖線で示すように、セルロース系スポンジ81におけるシリンダボア2側の部分が、圧縮前の状態に復元する。これによって、規制部8の表面がウォータジャケット3のシリンダボア2側内壁面3c(同上)に当接する。したがって、本例のスペーサ6も前記例と同様の作用・効果を奏する。
【0029】
図10(a)(b)は、本発明に係る規制部材の他の実施形態を示す。この例の規制部材6も前記例と同様にウォータジャケット3内に配置されるスペーサであって、当該規制部材としてのスペーサ6は、前記例と同様のスペーサ本体(支持体)7と、このスペーサ本体7に支持された規制部8とを備えている。規制部8は、スペーサ本体7の内面7eに固着されたゴム製リップ83と、ゴム製リップ83のスペーサ本体7に対する固着基部83aとスペーサ本体7の内面7eとの間に設けられたセルロース系スポンジ81とによって構成される。リップ83は、固着基部83aから折れ曲がり他側辺部83bが冷却水の流通方向aに対向するとともに、他側辺部83bがシリンダボア2側の内壁面3cに接しないように形成されている。セルロース系スポンジ81は、圧縮された状態でリップ83及びスペーサ本体7の少なくとも一方の間に固着一体に設けられている。本実施形態のスペーサ6においては、図10(b)に示すように、ウォータジャケット3内に冷却水が流通すると、セルロース系スポンジ81は、圧縮前の状態に復元し、リップ83をシリンダボア2側に押し出す。その結果、リップ83は、ウォータジャケット3の内壁面3cに近づくように弾性変形し、最終的に他側辺部83b側の部分がウォータジャケット3の内壁面3cに弾接する。これによって、規制部8は、その付近における冷却水の流通を規制するようになる。
【0030】
図11(a)(b)は、本発明に係る規制部材のさらに他の実施形態を示す。この例の規制部材6も、前記例と同様にウォータジャケット3内に配置されるものであるが、ウォータジャケット3における冷却水導入口4から冷却水排出口5までの最短経路に配置されて、この部分での冷却水の流通を堰き止めるべく機能するものである。当該規制部材6は、支持体としての樹脂製の柱状芯材9と、該芯材9の外周面を覆うように支持された規制部8とを備えている。規制部8は芯材9の外周面を覆うように接着剤で固着一体とされた圧縮状態のセルロース系スポンジ81によって構成されている。芯材9はウォータジャケット3の深さ方向に沿って下向きに先細状となる棒状体からなる。そして、当該規制部材6が配置されるウォータジャケット3の両内壁面3c,3dには、それぞれが対向関係の凹部3ca,3daが形成されており、規制部材6はこの凹部3ca,3daに両側部が嵌り込むようにして、ウォータジャケット3内に位置付けられる。この場合、芯材9の幅寸法t1は、ウォータジャケット3の溝幅寸法t2より大とされ、圧縮状態のセルロース系スポンジ81を含む幅寸法t3は、凹部3ca,3da間の最大幅t4より小とされている。そして、ウォータジャケット3に冷却水が流通されると、図11(b)に示すようにセルロース系スポンジ81が圧縮状態から復元して、凹部3ca,3daの内面に当接する。これにより、冷却水導入口4から最短経路で冷却水排出口5に向かおうとする冷却水の流通が遮断される。そのため、冷却水導入口4から導入された冷却水は矢印a(流通方向)に示すようにウォータジャケット3の略全周を一方向に略一周した後、冷却水排出口5からシリンダヘッド(不図示)側に排出されることになる。
【0031】
図12図14は、同実施形態における規制部の固着状態の様々な例を示す。これらの例では、インサート成型によりスペーサ本体7に規制部8が固着一体とされている例について説明する。ただし、図1図3の実施形態のように接着剤により規制部8をスペーサ本体7に固着させるようにしてもよいし、図4図9に示して説明した支持構造を用いて規制部8をスペーサ本体7に支持させるようにしても良い。なお、図12図14では、共通する部分には共通の符号を付し、共通する説明は省略する。また図12図14では、詳細に示していないが、規制部8は、上述と同様に冷却水と接触することによって圧縮された状態から復元可能なセルロース系スポンジ81を含んで構成されたものを採用している。また、図12図14の実施形態では、セルロース系スポンジ81の表面を被覆するゴム材からなる保護材82を含む規制部8を採用してもよい。さらに図12図14は、図1におけるZ−Z線矢視部を模式的に示す斜視断面図であり、いずれもスペーサ本体7の内面7eに規制部8を固着した例を示しているが、規制部8の大きさや形状、固着されている枚数等はこれらに限定されるものではない。また、スペーサ本体7の外面に規制部8を固着してもよいし、スペーサ本体7の内面7e及び外面の両方に規制部8を固着してもよい。例えば、図2に示す例のように、ウォータジャケット3の深さ方向クランクシャフト11f側に固着するようにしてもよい。
【0032】
図12に示すように、スペーサ本体7は、シリンダボア壁2aの外形状に沿うように形成された円弧部70と、ウォータジャケット3のくびれ部3aの外形状に沿うように内向きに突出して形成された接続部71とを有している。隣接して固着される規制部8の端部8b,8bは、直線状に形成され、接続部71の部分に端部8b,8bが固着されないように一定の隙間を空けて固着されている。円弧部70は、シリンダボア2の数に応じて形成され、円弧部70と円弧部70との間に接続部71が形成されている。円弧部70は、シリンダボア2側の内壁面3cに沿うような曲面状の内周面70a(内面7e)と、シリンダボア2とは反対側の外側内壁面3dに沿うような曲面状の外周面(不図示)とを備えている。図12において、規制部8は、接続部71を跨がないように複数の円弧部70,70,70のそれぞれに分割して設けられているものとしても良い。
このように規制部8が接続部71を跨がないように分割して設けられているものとすれば、規制部8が圧縮された状態から復元する際に引っ張られる等して復元が阻害されることを防ぐことができる。
なお、隣接して固着される規制部8の端部8b,8bの形状等は図例に限定されるものではない。
【0033】
図13は、図12とは規制部8が、1つの接続部71を跨ぐようにして設けられている点で異なる例である。規制部8が多くとも1つしか接続部71を跨がないように構成した場合には、規制部8をスペーサ本体7に一体成形する際に規制部8にしわがよること、或いは規制部8が破損することを抑制できる。またこの例においても隣接して固着される規制部8の端部8b,8bの形状等は図例に限定されるものではない。
【0034】
図14(a)、(b)は、複数固着された規制部8が、隣接する状態で設けられ、少なくともその一部がウォータジャケット3の深さ方向に重なるように複数設けられた例を示している。この場合も、規制部8が2以上の接続部71を跨ぐことがないようにスペーサ本体7に固着される。
図14(a)に示す例は、隣接する規制部8の向き合う端部8b,8bが段差状に形成されており、隣接する規制部8同士が重なり合わないように互い違いに一定の隙間を空けて固着されている。図14(b)に示す例は、隣接する規制部8の向き合う端部8b,8bが傾斜状に形成されており、隣接する規制部8同士が重なり合わないように一定の隙間を空けて固着されている。
これによれば、規制部8が複数分割して設けられることで生じる規制部8と規制部8との隙間に水の流れが発生する等、意図しない方向へ冷却水が流れることを防止することができる。
なお、隣接する規制部8の向き合う端部8b,8bの形状は、図例に限定されるものではなく、例えば波形状であってもよいし、一方を凹状、他方を凸状としてもよい。また隣接する規制部8の向き合う端部8b,8b同士が重なり合わなければ、互い違いに突出した延出部が形成されているものであってもよい。また、図14(a)、(b)で示す規制部8の端部8bの形状は、1つの接続部71を跨ぐような規制部8を複数設けた構成に適用されているが、接続部71を跨らず、1つの円弧部70に複数の規制部8を設けるような場合に適用してもよい。
【0035】
なお、セルロース系スポンジ81として、種々の種類のものが挙げられるが、特に限定されない。例えば、気泡の大きさが非常に小さい微粒品、気泡の大きさが小程度の小粒品、気泡の大きさが中程度の中粒品のいずれを用いても良い。これらの気泡の大きさはセルロース系スポンジの作製過程で使用される結晶ぼう硝の粒度によって決定される。またセルロース系スポンジ81は、圧縮状態の体積が非圧縮状態の体積の1%〜30%となるように圧縮してもよく、好ましくは、2%〜15%となるように圧縮してもよい。またセルロース系スポンジ81は、非圧縮状態における平均孔径が0.1mm〜3.5mmとされたものとしてもよく、好ましくは、0.5mm〜1.0mmとされたものとしてもよい。また、セルロース系スポンジ81は、非圧縮状態かつ乾燥状態における見掛比重が0.02g/cc(2×10kg/m3〜0.06g/cc(6×10kg/m3)とされたものとしてもよく、好ましくは、0.035g/cc(3.5×10kg/m3)〜0.045g/cc(4.5×10kg/m3)とされたものとしてもよい。さらに、セルロース系スポンジ81は、セルロースと補強繊維とからなるものに限らず、セルロース単独で構成されるものであっても良い。また、セルロース系スポンジ81とは、セルロース自体からなるスポンジの他、セルロース誘導体、例えば、セルロースエ−テル類、セルロースエステル類等からなるスポンジ、あるいはこれらの混合物からなるスポンジのいずれから選ばれるものであっても良い。
そしてまた、実施形態ではセルロース系スポンジ81の片面(スペーサ本体7に支持される側とは反対側の面)の全面に保護材82が被覆されている例について述べたが、保護材82は当該片面の一部に被覆されるものであっても良い。この部分的な被覆の態様は、横縞状、縦縞状、波形状、斑点状、その他の態様が可能であり、保護材82がウォータジャケット3における対向壁面3cに当接しても、セルロース系スポンジ81の露出面が当該対向壁面3cに当接しないような態様とすることが望ましい。また、例えば、セルロース系スポンジ81がある程度靱性や耐擦過性を備えており、そのセルロース系スポンジ81の性能だけで満足できるような要求仕様の場合には、保護材82で被覆しないようにしても良い。さらに、規制部8の断熱性能をより高めるために、セルロース系スポンジ81の片面(スペーサ本体7に支持される側とは反対側の面)にセルロース系スポンジよりも断熱性の高い(熱伝導率の低い)断熱層を設けても良い。
そして、スペーサ本体7が合成樹脂の成型体からなる例について述べたが、金属など、セルロース系スポンジ81より剛性を有するものであれば、他の材料からなるものであっても良い。また、スペーサ本体7における規制部8を固着させる位置は、目的に応じて適宜変更しても良い。例えば、ウォータジャケット3のくびれ部3aに相当するスペーサ本体7の内面7eの部位に規制部8を固着しても良い。また、スペーサ本体7は、ウォータジャケット3の全体の形状に整合する筒状体としているが、ウォータジャケット3内の適所に配置可能ないわゆる部分スペーサを構成するものであっても良い。つまり、規制部8を支持する支持体として機能を果たすことができるのであればどのような形状であっても良い。さらに、圧縮された状態から復元した規制部8の表面が当接する対向壁面が、ウォータジャケット3のシリンダボア2側の内壁面3cとしたが、これに限らず、外側内壁面3dであっても良い。この場合は、規制部8がスペーサ本体7の外側面(シリンダボア2とは反対側の面)に支持されることになる。さらにまた、本発明のスペーサが適用される内燃機関として、3気筒のエンジンを例示したが、これに限らず他の気筒数のエンジンにも適用可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 シリンダブロック
2 シリンダボア
3 ウォータジャケット(冷却水流路)
3c,3d ウォータジャケットの内壁面(壁面、対向壁面)
30 開口部
6 スペーサ(規制部材)
7 スペーサ本体(支持体)
8 規制部
81 セルロース系スポンジ
82 保護材
9 芯材(支持体)
11 ピストン
11a 最も燃焼室に近いピストンリング
11f クランクシャフト
d 圧縮された状態における規制部の厚みの総和
D ウォータジャケット(冷却水流路)の幅
w 冷却水
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14