【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「新エネルギー技術研究開発 革新的太陽光発電技術研究開発(革新型太陽電池国際研究拠点整備事業)ポストシリコン超高効率太陽電池の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
N. Kakuda et al.,"Sb-mediated growth of high-density InAs quantum dots and GaAsSb embedding growth by MBE",Applied Surface Science,2008年,Vol.254,p.8050-8053,DOI:10.1016/j.apsusc.2008.03.017
【文献】
J. Rihani et al.,"Abnormal optical behaviour of InAsSb quantum dots grown on GaAs substrate by molecular beam epitaxy",Materials Science and Engineering C,2008年,Vol.28,p.918-922
【文献】
J. Rihani et al.,"Antimony incorporation in InAs quantum dots grown on GaAs substrate by molecular beam epitaxy",Physica E,2008年,Vol.40,p.550-555
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
太陽エネルギーの有効利用を考えると、量子ドットの面内密度をさらに向上して中間バンドを利用した光デバイスの実現が望まれる。そこで、本発明は量子ドット間のコアレッセンスを抑制しつつ、従来以上に高密度な量子ドット配列を実現する量子ドットの形成方法と、これを利用した太陽電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の第1の側面として、高密度の量子ドットの形成方法を提供する。この方法は、
GaAsバッファ層上にInAs層を成長する際に、前記InAs層の成長が3次元成長に移行する前の濡れ層の段階で、アンチモン(Sb)を供給圧力2.0×10
-7〜3.6×10
-7 Torrで導入してInAsSb濡れ層を成長し、
前記InAsSb濡れ層が0.5分子層(ML)〜1.5ML成長したところで前記Sbの導入を停止して引き続きInAs層を成長してInAs量子ドットを形成する、
工程を含む。
【0010】
良好な実施例では、InAsSb濡れ層およびInAs量子ドットの成長温度は、460〜470℃である。
【0011】
たとえば、成長温度が460℃のとき、Sbの供給圧力が3.6×10
-7 TorrでInAsSb濡れ層を1.0〜1.5ML成長して、InAs量子ドットを、8.0×10
11cm
-2〜1.0×10
12cm
-2の面内密度で形成する。
【0012】
別の例では、成長温度が470℃のときに、Sbの供給圧力が2.2×10
-7〜3.5×10
-7 Torrの範囲で、InAsSb濡れ層を0.8ML〜1.5ML成長して、InAs量子ドットを6.0×10
11cm
-2〜7.6×10
11cm
-2の面内密度で形成する。
【0013】
本発明の第2の側面では、上述した量子ドットを利用した太陽電池を提供する。太陽電池は、透明電極と、第1導電型の半導体層と、第2導電型の半導体層と、前記第1導電型の半導体層と前記第2導電型の半導体層の間に位置する光吸収層と、前記透明電極と反対側の面に位置する電極と、を含み、
前記光吸収層は、GaAsバッファ層と、
前記GaAsバッファ層上に形成されたInAsSb濡れ層及び前記InAsSb濡れ層上に成長したInAs量子ドットを含む量子ドット層と、
前記量子ドット層を覆うGaAs中間層と、
を含み、前記量子ドット層と前記GaAs中間層は、交互に1層以上積層されている。
【0014】
良好な構成例として、光吸収層のInAs量子ドットの面内密度は4.0×10
11cm
-2〜1.0×10
12cm
-2である。
【0015】
また、InAsSb濡れ層の膜厚は0.5〜1.5ML,InAs量子ドットの高さは1.6〜3.0nmである。
【発明の効果】
【0016】
S−Kモード成長を利用して非常に高密度な量子ドットを効率的に形成することができる。量子ドットの面内高密度化による中間バンドの発生を利用して、エネルギー変換効率の高い太陽電池を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下で図面を参照して、面内密度を大幅に向上する量子ドットの形成手法を説明する。
<第1実施形態>
面内密度の高い量子ドット構造では、量子ドット内の電子の波動関数が面内結合し、エネルギー準位の多重化(中間バンド化)が生じる。この中間バンド化を利用した光ナノデバイスの新しい展開が期待されている。
【0019】
第1実施形態では、InAs量子ドットを形成する際のInAs濡れ層の成長段階でアンチモン(Sb)を導入することにより、6.5×10
11cm
-2以上という従来にない高い面内密度でInAs量子ドットの自己形成を実現する。
【0020】
図1は、高密度の量子ドットの形成方法を説明するための概略図である。GaAs(001)基板11上に、分子線エピタキシャル成長(MBE)によりGaAsバッファ層12を200〜250nmの膜厚に形成する。このときの基板温度は590℃、成長速度は0.130±0.001nm/sである。
【0021】
次に、S−K成長モードを利用して470℃でInAs層15を成長する。InAsは下地バッファ層12のGaAsと格子定数が異なる。そのため、エピタキシャル成長による2次元成長がある程度に達した時点で、歪エネルギーが膜の弾性限界を超えて自己組織化による3次元成長へと移行する。3次元成長に移行する前の2次元成長の段階の結晶膜を「濡れ層(wetting layer)」と呼ぶ。
【0022】
このInAsの濡れ層の成長段階で所定の条件の下にSbを導入する。Sbが添加されたInAs濡れ層を便宜上「InAsSb濡れ層13」と称する。InAsSb濡れ層13が0.5〜1.5分子層(ML)に成長したところで、Sbの供給を止めて、引き続きInAsを成長する。上述のように、下地GaAsとの格子定数の違いに起因するInAsの歪エネルギーにより、InAsSb濡れ層13上に三次元のInAs量子ドット14が自己成長する。このInAsSb濡れ層13とInAs量子ドット14を合わせて、InAs層(または量子ドット層)15とする。
【0023】
InAsSb濡れ層13を含めてInAs層15のトータルの成長量は1.5〜5.0MLである。InAsSb濡れ層13に偏析するSb原子による表面エネルギーの低下により、量子ドットの成長過程で、隣接する量子ドット14同士のコアレッセンスが抑制される。
【0024】
この形成方法によると、面内密度が4.0×10
11cm
-2以上という高密度のInAs量子ドット配列が実現する。特に、InAsSb濡れ層13の成長量を1.0ML以上とした場合、あるいはInAsSb濡れ層13の成長量が1.0ML未満であってもSbの供給圧力を増やした場合は、InAs量子ドット14の面内密度を6.0×10
11cm
-2以上に高めることができる。以下で、これを詳述する。
【0025】
図2は、InAsSn濡れ層13の成長量と、InAs量子ドットの面内密度との関係を示すグラフである。試料の共通する成長条件として、GaAsバッファ層12の成長温度が590℃、InAsSb濡れ層13の成長温度が470℃、Asの供給量(圧力)は7.3×10
-6 Torr、Sbの供給量(圧力)はほぼ一定の2.1±0.1×10
-7 Torrに設定し、InAsSb濡れ層13の成長量を0ML〜1.0MLに変化させた。このグラフから、InAs量子ドットの面内密度と、InAsSb濡れ層13の成長量との間にリニアな相関関係があることがわかる。なお、InAsSbの成長温度とAsの供給圧力は装置の関係で多少のばらつきを含む。
【0026】
図3は、
図2の各測定点に対応するInAs量子ドットのAFM画像である。
図3(a)はInAsSb濡れ層13を成長しない場合、すなわちInAs濡れ層(2次元成長層)13の段階でSbを導入せずに、そのまま3次元成長に移行させる場合(サンプル1)を示す。
図3(b)は、InAsSb濡れ層13を0.59ML成長した場合(サンプル2)、
図3(c)は、InAsSb濡れ層13を0.75ML成長した場合(サンプル3)、
図3(d)は、InAsSb濡れ層13を1.0ML成長した場合(サンプル4)をそれぞれ示す。サンプル2〜4から、InAs量子ドット14のサイズと形状が均一な状態を保ちつつ、面内密度が向上していることがわかる。
【0027】
サンプル1でInAs層15の濡れ層にSbを導入しない場合は、InAs量子ドットの面内密度は2.2×10
11cm
-2である。これに対して、サンプル2では面内密度が4.2×10
11cm
-2、サンプル3では面内密度が4.5×10
11cm
-2、サンプル4では面内密度が6.0×10
11cm
-2に向上する。
図2のグラフから、
(1)InAsSb濡れ層13の成長量を0.5ML以上とすることで、InAs量子ドットの面内密度を4.0×10
11cm
-2以上に高めることができること、および
(2)InAsSb濡れ層13の成長量を1.0ML程度、あるいはそれ以上にすることで、InAs量子ドットの面内密度が6.0×10
11cm
-2以上になり得ること、
がわかる。
【0028】
図4は、
図2の各測定点における詳細な成長条件を示す表である。GaAsバッファ層12の成長温度と成長速度、InAsSb濡れ層13の成長温度、InAs層15の成長速度、及びAs供給量は、誤差の範囲内で一定である。Sbの供給停止後のInAs層の成長量は、濡れ層13を含めたInAs層15のトータルの成長量が2.18〜2.21MLの範囲に収まるように調整されている。
【0029】
図4のSb供給条件と、
図2のグラフに基づくなら、InAsSb濡れ層13の成長量を1.0ML程度に固定した場合、Sbの供給量(圧力)を調整することで、InAs量子ドット14の面内密度がさらに高くなることが合理的に予測される。逆にいうと、InAsSb濡れ層13の成長量を1.0MLよりも小さくした場合でも、Sb供給量(圧力)を適切に調整することで、InAs量子ドットの面内密度を、濡れ層13の成長量が1.0MLのときと同程度に高く維持できることが予測される。これについての測定結果は、
図6を参照して後述する。
【0030】
図5は、InAsSb濡れ層13の成長量と、InAs量子ドット14の平均高さ(左側の縦軸)及びInAs量子ドット14の水平方向のサイズ(右側の縦軸)との関係をプロットしたグラフである。成長条件は
図4に示したとおりである。InAsSb濡れ層13の成長量を増大すると、InAs量子ドット14の平均高さは減少するが、2.5nm〜3.0nmの間、より具体的には2.8nm〜3.0nmの間で一定になると考えられる。他方、InAs量子ドット14の水平方向のサイズ(径)は、InAsSb濡れ層13の成長量が1.0MLまでの範囲では、成長量の増加に従って小さくなる。しかし、水平方向サイズもある地点で一定になると予想される。
【0031】
図6は、InAsSb濡れ層13の成長量を0.75ML〜0.79MLの範囲に維持して、Sb供給量(圧力)とInAs量子ドット14の密度の関係をプロットしたグラフである。Sb供給圧力を高めることによって、InAsSb濡れ層13の成長量が1.0MLより小さい場合でも、InAs量子ドット14の面内密度が6.5×10
11cm
-2近傍まで高められることがわかる。
【0032】
図7は、
図6の各測定点でのInAs量子ドット14のAFM画像、
図8は、
図6の各測定点での成長条件を示す表である。
図7(a)はSbの供給圧力を2.2×10
-7 Torrとした場合(サンプル11)、
図7(b)はSbの供給圧力を2.3×10
-7 Torrとした場合(サンプル12)、
図7(c)はSbの供給圧力を2.8×10
-7 Torrとした場合(サンプル13)を示す。InAsSbの成長温度は470℃、Asの供給圧力は7.3×10
-6 Torrであるが、装置によるばらつきを多少含む。
【0033】
図8を参照して
図7(b)のサンプル12と
図7(c)のサンプル13を比較すると、同じ成長量(ML)のInAsSb濡れ層13であっても、Sb供給圧力を増やすことによって、InAs量子ドット14の均一性を保ったまま、面内密度と量子ドットサイズを向上できることがわかる。
図8の結果と
図4の結果を合わせると、Sbの供給圧力を2.2×10
-7〜2.8×10
-7 Torrの範囲で調整して、InAsSb濡れ層を0.7ML〜1.0ML成長した場合、InAs量子ドット14は6.0×10
11cm
-2〜6.5×10
11cm
-2の面内密度で成長することがわかる。
【0034】
図9は、第1実施形態のInAs量子ドット14のフォトルミネッセンス発光スペクトルを測定するための試料構造を示す概略図である。GaAs(001)基板11上にGaAsバッファ層12を、成長温度590℃、成長速度0.130nm/秒で膜厚210nmに形成した。その後、Sbの供給圧力2.2×10
-7 Torr、Asの供給圧力7.3×10
-6 Torr、成長温度470℃にて、InAsSb濡れ層13を0.77ML成長した。Sbの供給を止めて、さらにInAsを1.41ML成長することによって(InAs層15のトータルの成長量は2.18ML)、InAs量子ドット14を形成した。このときのInAs量子ドット14の面内密度は4.5×10
11cm
-2である。このInAs量子ドット14を膜厚60nmのGaAsキャップ層16で埋め込んだ。
【0035】
図10は、
図9の試料のフォトルミネッセンス発光スペクトルである。発光スペクトルは急峻なピークを有さず、広い波長範囲に拡がっている。ピーク波長は955〜960nm、FWHM(Full Width at Half Maximum)は86.8meVである。これはInAs量子ドット14が非常に高密度に成長しているため、閉じ込められた電子の波動関数が隣接する量子ドット間で面内結合(多重)し、複数のエネルギー準位が生成されるためと考えられる。
【0036】
従来のシングル接合(PN接合)の太陽電池では、光吸収層のバンドギャップエネルギーを超える振動数の光のみを吸収するので、バンドギャップエネルギー以下の光を利用することができなかった。これに対して、本発明の第1実施形態の高密度InAs量子ドットを太陽電池の光吸収層に適用した場合、エネルギー準位が多重して帯状の準位を構成する。太陽光スペクトルのうち従来は利用されなかった帯域の光も吸収することが可能になり、透過損失が低減し、エネルギー変換効率が向上する。
【0037】
図11(a)は、第1実施形態のInAs量子ドット14を利用した太陽電池20の概略構成図である。太陽電池20は、透明電極29と、p型半導体層28と、光吸収層27と、n型半導体層22と、裏面電極21を含む。光吸収層27では、InAs量子ドット14を含むInAs層15が、GaAs中間層26を介して複数積層されている。InAs層15は、InAsSb濡れ層13とInAs量子ドット14を含む。InAs量子ドット14の面内密度は4.0×10
11〜6.5×10
11cm
-2である。InAs量子ドット14の高さは2.8〜3.0nmである。GaAs中間層26の成長量は0.25〜1.5MLである。InAs量子ドット14は、水平面内で非常に高密度に位置するので、
図11(b)に示すように、隣接するInAs量子ドット間の電子的結合により量子ドット層の面内に中間バンドを形成する。従来の技術では量子ドット層を垂直方向に100層以上も積層して、垂直方向に波動関数を結合させていたが、第1実施形態のInAs量子ドットは広い範囲で横方向に結合できるので、多大な数の層を積層することなく効率的に中間バンドを発生させることができる。
【0038】
このような太陽電池を製造する場合、たとえば、n型GaAs基板22上に、図示しないn型半導体層を成長する。n型半導体層は、たとえば任意のn型不純物原子をドープしたGaAs層である。その後、InAsSb濡れ層13を470℃で0.5〜1.5ML、より好ましくは0.6〜1.0ML成長し、Sbの供給を停止して、引き続きInAsを成長する。これによりInAs量子ドット14を形成する。InAs量子ドットを(In)GaAs(SbN)中間層26で埋め込む。InAsSb濡れ層の形成から(In)GaAs(SbN)中間層26の形成までを所望の回数繰り返す。これにより、InAs量子ドット層が、量子ドットの面内密度4.0×10
11〜6.5×10
11cm
-2を維持して垂直方向に自己整合的に積層される。その上に、p型半導体層28を形成する。p型半導体層28は、たとえばGaAs層であり、任意のp型不純物原子がドープされている。p型半導体層28上に、ITO透明電極29を形成する。図示はしないが、透明電極には、あらかじめ所定の位置にAg、Auなどの金属材料で取り出し電極を埋め込んでおいてもよい。n型GaAs基板の裏面には、蒸着等により電極21を形成する。
【0039】
図12は、
図11の太陽電池20のバンド構造を説明する模式図である。pn接合半導体層の中の量子ドット14の存在により、たとえば量子ドットの伝導帯に中間バンドが形成され、pn接合半導体の価電子帯と伝導帯の間(禁制帯(Eg))に、量子ドットの中間バンドが局在する。太陽光が太陽電池20の光吸収層27に入射すると、たとえばλ1、λ2、λ3の3種類の波長帯の光に対して、電子が伝導帯へと励起される(価電子帯に正孔が生成される)。
【0040】
禁制帯のエネルギーギャップを超える振動数の光λ1に対して、電子は価電子帯から伝導帯へ直接励起される。より長い波長の光λ2に対して、電子は価電子帯から量子ドットの中間バンドへ励起される。さらに長い波長の光λ3に対して、電子は量子ドットの中間バンドから伝導帯へ飛び出すことができる。多数の量子井戸が近接する場合、隣接する量子井戸間で波動関数が結合し、本来は離散的なエネルギー準位が多重化されて帯状になる(中間バンド)。中間バンドの存在により、バンドギャップ差による損失が低減され、太陽電池20のエネルギー変換効率を高めることができる。
【0041】
本発明の面内密度を有する量子ドット層15を10層積層した場合、従来の、垂直方向へ100層積層することによって達成していたのと同程度の量子ドット密度を、十分の一の積層数で実現できることを意味する。したがって、太陽電池の製造工程を大幅に縮小することが可能になる。
【0042】
以上述べたように、本発明の量子ドットの形成方法によれば、6.0×10
11cm
-2以上の面内高密度で均一な量子ドットを形成することができる。このような量子ドットを適用した太陽電池は、少ない積層数でエネルギー変換効率を向上することができる。
<第2実施形態>
第2実施形態では、InAsSb濡れ層の厚さや、Sb供給圧力をさらに変化させ、また、InAs量子ドット成長時の基板温度を下げることで、1.0×10
12cm
-2の面内密度を実現する。
【0043】
図13は、第2実施形態のInAs量子ドットの成長条件を示す図である。
図1と同様の構成で、分子線エピタキシー(MBE)法により、基板温度590℃で、GaAs(001)基板11上にGaAsバッファ層12を成長する。バッファ層12の成長条件は、成長速度0.13nm/秒、膜厚200nmである。その後、温度条件を2通りにしてInAs量子ドット14を成長する。
【0044】
成長条件Aでは、GaAsバッファ層12上にInAsSb濡れ層13を0.6〜1.5ML成長した後、InAs量子ドット14を470℃で成長した。このときのInAs量子ドット14とInAsSb濡れ層13のトータルの厚さは、2.2〜2.6MLである。
【0045】
成長条件Bでは、GaAsバッファ層12上にInAsSb濡れ層13を1.0〜1.5ML成長した後、InAs量子ドット14を460℃で成長した。このときのInAs量子ドット14とInAsSb濡れ層13のトータルの厚さは、2.2MLである。
【0046】
なお、第1実施形態と同様に、InAs量子ドット14は、GaAsバッファ層12上にInとAsを連続して供給し、量子ドット成長時の濡れ層の段階のみにSbを供給することでInAsSb濡れ層13を形成している。そのため、便宜上、InAsSb濡れ層13とInAs量子ドット14を合わせてInAs層(または量子ドット層)15と称する。
【0047】
図14(A)は、成長条件AにおけるInAs量子ドット14の面内密度のSb供給圧力依存性を示す。
図14(B)は、同じく成長条件AにおけるInAs量子ドット14の高さのSb供給圧力依存性を示す。
【0048】
図14(A)および
図14(B)で、丸印はInAsSb濡れ層13の厚さを1.25MLとした場合、四角印はInAsSb濡れ層13の厚さを0.75MLとした場合のデータである。
図14(A)からわかるように、470℃の成長条件では、InAsSb濡れ層13を1.25MLとした場合、Sb供給圧力の増加につれて、InAs量子ドットの面内密度が増大する。
【0049】
InAsSb濡れ層13の厚さを1.25MLとした場合、Sb供給圧力が2.2×10
-7TorrでInAs量子ドットの面内密度は、6.4×10
11cm
-2、ドット高さが2.1nmとなる。これは、InAsSb濡れ層13の厚さが0.75MLのときに、Sb供給圧力を2.8×10
-7Torrにして得られる結果とほぼ同様である。
【0050】
また、InAsSb濡れ層13の厚さが1.25MLのときに、Sb供給圧力を2.8×10
-7Torrにすると、InAs量子ドットの面内密度は7.13×10
11cm
-2となり、Sb供給圧力が3.5×10
-7Torrでは、InAs量子ドットの面内密度は7.6×10
11cm
-2になる。Sb供給圧力をさらに大きくすることで、InAs量子ドットの面内密度はさらに高くなることが予想される。
【0051】
InAsSb濡れ層13を0.75MLとした場合でも、Sb供給圧力を2.3×10
-7Torr以上とすることで、InAs量子ドットの面内密度を、6×10
11cm
-2以上にすることができる。
【0052】
図14(B)では、Sb供給圧力の増加にともなって、InAs量子ドットの高さが減少するが、1.6nm付近で飽和する傾向にあることがわかる。
【0053】
図15(A)および
図15(B)は、InAsSb濡れ層14の膜厚を0.5ML〜1.5MLの範囲で変化させたときのInAs量子ドットの面内密度と、ドット高さをそれぞれ示す。白丸、白四角、白菱形は、InAs量子ドットの成長温度が470℃のときのSb供給圧力に応じた面内密度とドット高さを示す。黒丸は、InAs量子ドットの成長温度が460℃、Sb供給圧力が3.6×10
-7TorrのときのInAs量子ドットの面内密度とドット高さを示す。
【0054】
成長温度470℃の場合、InAsSb濡れ層の膜厚を増加させると、InAs量子ドットの面内密度は増加するが、InAs量子ドットの面内密度は6.0×10
11cm
-2〜7.5×10
11cm
-2の範囲にとどまり、それ以上の密度の上昇が見込まれない。
【0055】
そこで、新たなパラメータとして、InAs量子ドットの成長時の基板温度を460℃に下げ、Sb供給圧力を3.6×10
-7Torrにしたところ、InAs量子ドットの面内密度は8.0×10
11cm
-2を越えることがわかった。特に、InAsSb濡れ層13を1.25MLに成長したときは、1.0×10
12cm
-2の面内密度が実現できる。このときのInAsSb濡れ層13とInAs量子ドット14を合わせたトータルのInAs層(量子ドット層)15の厚さは2.2MLである。
【0056】
図16(A)および
図16(B)は、InAsSb濡れ層13の厚さを1.25MLに固定し、成長温度(基板温度)が470℃と460℃で、InAs量子ドットの面内密度とドット高さをそれぞれ比較する図である。
【0057】
図14〜
図16の結果を合わせると、基板温度が460℃でSb供給圧力をさらに増大する、InAs層15の総成長量を2.2MLより小さくする、あるいはInAs量子ドット成長時の基板温度を460℃よりも下げる等により、InAs量子ドットの面内密度はさらに向上すると期待される。
【0058】
図17は、面内密度が1.0×10
12cm
-2のときのInAs量子ドットのAFM画像である。面内密度を10
12のオーダーまで増大させても、均一なInAs量子ドットが得られる。
【0059】
図18は、InAs量子ドットの水平方向のドットサイズ(径)と面内密度の関係を示す図であり、InAs量子ドットをInAsSb濡れ層13上に成長したときと、GaAsSbバッファ層上に成長したときを比較している。
【0060】
GaAsSbバッファ層と比較して、InAsSb濡れ層13を導入することで、微少2次元島の形成密度が高まり、3次元核形成が促進されたことで、InAs量子ドットが高密度化したと考えられる。InAs量子ドットの高密度化にもかかわらず、量子ドットの均一性が維持されていることは、
図17からも理解される。
【0061】
このような均一かつ高密度な量子ドットを太陽電池に適用することで、第1実施形態と同様に、少ない積層数でエネルギー変換効率を向上することができる。