特許第6115979号(P6115979)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6115979
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】SMNタンパク質の発現を検出する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20170410BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20170410BHJP
   G01N 33/49 20060101ALI20170410BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20170410BHJP
   C07K 14/435 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   G01N33/68
   G01N33/48 P
   G01N33/48 M
   G01N33/49 K
   C12Q1/02
   C07K14/435
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-511649(P2016-511649)
(86)(22)【出願日】2015年4月3日
(86)【国際出願番号】JP2015060662
(87)【国際公開番号】WO2015152410
(87)【国際公開日】20151008
【審査請求日】2016年11月9日
(31)【優先権主張番号】特願2014-76985(P2014-76985)
(32)【優先日】2014年4月3日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591173198
【氏名又は名称】学校法人東京女子医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000173913
【氏名又は名称】公益財団法人微生物化学研究会
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100162422
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 将
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 加代子
(72)【発明者】
【氏名】荒川 玲子
(72)【発明者】
【氏名】荒川 正行
(72)【発明者】
【氏名】野本 明男
【審査官】 西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】 特表平06−501106(JP,A)
【文献】 Jonathan J. Cherry,Enhancement of SMN protein levels in amouse model of spinal muscular atrophyusing novel drug‐like c,EMBO Molecular Medicine,John Wiley & Sons, Inc.,2013年 7月14日,vol.5/issue 7,p1103-1118
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
G01N 21/64
C07K 14/435
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SMNタンパク質の発現を検出する方法であって、
血液由来の有核細胞を含むサンプル中のSMNタンパク質を標識する工程、
前記サンプル中の前記有核細胞の核を標識する工程、
前記有核細胞中の核及びSMNタンパク質が標識されている細胞集団を選別する工程、並びに
前記選別した細胞集団について、SMNタンパク質に対する標識に基づいてSMNタンパク質の発現を検出する工程
を含む、前記検出方法。
【請求項2】
前記SMNタンパク質を標識する工程が、SMNタンパク質を第1の蛍光色素により標識することを含み、かつ、前記SMNタンパク質の発現を検出する工程が、前記第1の蛍光色素が発する蛍光強度を測定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記SMNタンパク質を標識する工程が、SMNタンパク質を第1の蛍光色素により標識することを含み、かつ、前記核を標識する工程が、核を第2の蛍光色素により標識することを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞集団を選別する工程が、前記第1の蛍光色素が発する第1の蛍光強度と、前記第2の蛍光色素が発する第2の蛍光強度とを同一装置内で測定すること、並びに測定した第1及び第2の蛍光強度を二次元座標上で表すことを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞集団を選別する工程及び前記SMNタンパク質の発現を検出する工程が、イメージングフローサイトメトリーにより行われる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記血液由来の有核細胞を含むサンプルが、血液中の赤血球を溶血させ、次いで遠心分離により沈殿させた有核細胞を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
SMNタンパク質を検出する方法であって、
血液を遠心分離して血液由来の有核細胞を含むサンプルを準備する工程、
前記血液由来の有核細胞を含むサンプル中のSMNタンパク質を標識する工程、
前記サンプル中の前記有核細胞の核を標識する工程、
前記有核細胞中の核及びSMNタンパク質が標識されている細胞集団を選別する工程、並びに
前記選別した細胞集団について、SMNタンパク質に対する標識に基づいてSMNタンパク質の発現を検出する工程
を含む、前記検出方法。
【請求項8】
前記血液が被験者から得られたものであり、
前記SMNタンパク質の発現を検出する工程が、SMNタンパク質発現量を測定することを含み、
前記SMNタンパク質発現量を、以下の(a)〜(c)より選択されるコントロールと比較する工程を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の検出方法:
(a) 前記被験者が小児期発症SMA患者である場合には、前記コントロールは、正常者又は保因者から得られる血液を用いること以外は、前記被験者から得られた血液を用いてSMNタンパク質発現量を測定した方法と同様にして測定したSMNタンパク質発現量であり、
(b) 前記被験者が正常者又は保因者である場合には、前記コントロールは、小児期発症SMA患者から得られる血液を用いること以外は、前記被験者から得られた血液を用いてSMNタンパク質発現量を測定した方法と同様にして測定したSMNタンパク質発現量であり、又は
(c) 前記被験者がSMAの治療薬又は治療候補薬を投与された者である場合には、前記コントロールは、前記SMAの治療薬又は治療候補薬の投与前の前記被験者から得られた血液を用いること以外は、前記投与後の前記被験者から得られた血液を用いてSMNタンパク質発現量を測定した方法と同様にして測定したSMNタンパク質発現量である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サバイバルモーターニューロン(SMN)タンパク質の発現を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脊髄性筋萎縮症(SMA)は、脊髄前角細胞の病変によって引き起こされる筋萎縮症であり、体幹や四肢の筋力低下及び筋萎縮を特徴とする下位運動ニューロン徴候を示す。SMAは、発症年齢と重症度によってI型からIV型に分類され、生後6ヶ月までに発症するI型:重症型(ウェルドニッヒ・ホフマン病とも言う)、1歳6ヶ月までに発症するII型:中間型(デュボヴィッツ病とも言う)、及び1歳6ヶ月以降に発症するIII型:軽症型(クーゲルベルグ・ウェランダー病とも言う)が、小児期発症SMAである。一方、20歳以降に発症するIV型は、成人発症SMAである。
I型SMAは、SMAの約30%を占めており、6ヶ月以下で発症する。その症状は極めて深刻で、生涯座位保持不可能であり、人工呼吸を使わずに2歳以上生存できることは稀である。II型SMAは、生涯起立及び歩行は不可能であり、III型SMAは、自立歩行を獲得するものの、次第に転びやすい、歩けない又は立てないという症状が現れる。しかしながら、依然としてSMAの根本治療法は確立しておらず、SMAは国が指定する難病のうちの1つである。
【0003】
多くの小児期発症SMAの原因遺伝子は、5番染色体長腕5q13に存在するSMN1遺伝子である。多くの小児期発症SMAでは、SMN1遺伝子の欠失又は変異が認められ、小児期発症SMAは常染色体劣性遺伝性疾患として認識されている。SMN1遺伝子からは、SMNタンパク質が発現され、SMNタンパク質が運動ニューロンの形成等に関与していると考えられている。
また、SMN1遺伝子が存在する5番染色体の同領域には、SMN1遺伝子とコーディング領域の塩基が1つだけ異なるSMN2遺伝子が存在している。小児期発症SMA患者では、SMN1遺伝子が欠失又は変異し、SMN1遺伝子由来のSMNタンパク質が低下している一方で、SMN2遺伝子は正常に機能している。そのため、小児期発症SMA患者においても、SMN2遺伝子由来のSMNタンパク質は発現しており、このSMN2遺伝子由来のSMNタンパク質の発現量に応じて、症状の重症度が異なると考えられている。
しかしながら、SMN1遺伝子の転写産物は全長SMNmRNAであるのに対し、SMN2遺伝子の転写産物は、SMN1遺伝子から転写される全長SMNmRNAの量を100%とすると、全長SMNmRNAがおよそ10%であり、エクソン7の欠失が認められる短縮型SMNmRNAがおよそ90%である。短縮型SMNmRNAは非機能的なタンパク質に翻訳され、全長SMNmRNAのみが正常にSMNタンパク質に翻訳されるため、SMN1遺伝子が欠失又は変異している小児期発症SMA患者においては、SMNタンパク質の発現量が正常者に比べて低く、正常者の10%〜20%ほどしかない。そのため、SMN1遺伝子が欠失又は変異することにより、筋力低下及び筋萎縮が生じることとなる。
【0004】
SMN1遺伝子が欠失している小児期発症SMA患者において、SMN2遺伝子は、SMN1遺伝子に置き換わって存在することがある。この場合、SMN2遺伝子は1つの染色体上に2コピー存在することとなり、SMN2遺伝子由来のSMNタンパク質の発現量もコピー数に応じて多くなる。小児期発症SMA患者において、SMN2遺伝子由来のSMNタンパク質の発現量が増えれば増えるほど、症状は軽くなることがわかっている。
以上のように、SMNタンパク質の発現量は、小児期発症SMAと密接に関連しており、SMNタンパク質は、小児期発症SMAの診断のためや、薬剤の効果を的確に判断するための有用なバイオマーカーとなる可能性があると考えられている。しかしながら、小児期発症SMA患者においても、SMNタンパク質の発現自体は認められ、SMNタンパク質を小児期発症SMAの有用なバイオマーカーとして利用するためには、正常者と患者とを比較した場合のSMNタンパク質発現レベルの差異を検出できるほどの鋭敏さが必要となる。
また、小児期発症SMAは常染色体劣性遺伝性疾患であり、1対の常染色体のうちの一方においてのみSMN1遺伝子が欠失又は変異している場合には、何ら筋力低下及び筋萎縮の症状は現れず、保因者ということになる。保因者においては、患者よりもSMNタンパク質の発現量は高いものの、保因者と患者との間では、正常者と患者との間のSMNタンパク質の発現量の差ほど大きな差があるわけではないと考えられる。従って、SMNタンパク質を小児期発症SMAの有用なバイオマーカーとして利用するためには、保因者と患者とを比較した場合のSMNタンパク質発現レベルの差異を検出できるほどの更なる鋭敏さが必要となる。
【0005】
実際に、末梢血単核球細胞を用いた、ELISA法によるSMNタンパク質の定量解析が試みられている(Dione T. Kobayashi et al., Plos one, November 2012, Vol.7, Issue 11, e50763, Evaluation of Peripheral Blood Mononuclear Cell Processing and Analysis for Survival Motor Neuron Protein)。しかしながら、Kobayashiらは、小児期発症SMA患者と保因者との間において、ELISA法ではSMNタンパク質発現レベルに有意差が認められないという結果が得られたことを報告している。更に、Kobayashiらは、SMNタンパク質発現レベルは、SMAの診断において信頼性のある指標とはならないとさえ開示している。
また、ELISA法によるSMNタンパク質の定量解析においては、末梢血単核球細胞(PBMC)を用いることを必要とし、患者らから得られた血液サンプルを遠心分離するなどの手間がかかる上に、細胞の収率も低下する。そのため、PBMCを用いるELISA法によるSMNタンパク質の定量では、必要とされる採血量も増大する。
【0006】
上述のとおり、従来技術では、SMNタンパク質を小児期発症SMAの有用なバイオマーカーとして利用するためには様々な問題があり、SMAの根本治療法の確立に対して大きな障害となっていた。
また、全血(末梢血)や、全血中の赤血球を溶血させて得たもの等の血液サンプルを用いて、正常者と小児期発症SMA患者を比較した場合のSMNタンパク質発現レベルの差異を検出することができる、信頼性のあるSMNタンパク質の検出方法も、これまで報告されていない。
【発明の概要】
【0007】
従来は、小児期発症SMA患者と正常者との間において、及び/又は小児期発症SMA患者と保因者との間において、SMNタンパク質発現レベルの差異を検出することができる、血液細胞サンプルを用いた信頼性のあるSMNタンパク質発現の検出方法は見出されていなかった。
本発明は、小児期発症SMA患者と正常者との間において、及び/又は小児期発症SMA患者と保因者との間において、SMNタンパク質発現レベルの差異を検出することができる、血液細胞サンプルを用いた信頼性のあるSMNタンパク質の発現を検出する方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、SMNタンパク質の発現を検出する細胞について、血液細胞中から特定の細胞集団を選別して、その細胞集団においてSMNタンパク質の発現を検出することで、SMNタンパク質発現レベルの検出感度を高められることを新たに見出した。
本発明の一態様において、SMNタンパク質の発現を検出する方法であって、
血液由来の有核細胞を含むサンプル中のSMNタンパク質を標識する工程、
前記サンプル中の前記有核細胞の核を標識する工程、
前記有核細胞中の核及びSMNタンパク質が標識されている細胞集団を選別する工程、並びに
前記選別した細胞集団について、SMNタンパク質に対する標識に基づいてSMNタンパク質の発現を検出する工程
を含む、前記検出方法が提供される。
【0009】
本発明の一態様では、SMNタンパク質発現の検出方法において、血液由来の有核細胞を含むサンプル中のSMNタンパク質を標識する工程が、SMNタンパク質を第1の蛍光色素により標識することを含み、かつ、SMNタンパク質の発現を検出する工程が、前記第1の蛍光色素が発する蛍光強度を測定することを含む。
本発明の一態様では、SMNタンパク質発現の検出方法において、血液由来の有核細胞を含むサンプル中のSMNタンパク質を標識する工程が、SMNタンパク質を第1の蛍光色素により標識することを含み、かつ、血液由来の有核細胞を含むサンプル中の有核細胞の核を標識する工程が、核を第2の蛍光色素により標識することを含む。
本発明の一態様では、SMNタンパク質発現の検出方法において、有核細胞中の核及びSMNタンパク質が標識されている細胞集団を選別する工程が、第1の蛍光色素が発する第1の蛍光強度と、第2の蛍光色素が発する第2の蛍光強度とを同一装置内で測定すること、並びに測定した第1及び第2の蛍光強度を二次元座標上で表すことを含む。
本発明の一態様では、SMNタンパク質発現の検出方法において、有核細胞中の核及びSMNタンパク質が標識されている細胞集団を選別する工程及びSMNタンパク質の発現を検出する工程が、イメージングフローサイトメトリーにより行われる。
本発明の一態様では、SMNタンパク質発現の検出方法において、血液由来の有核細胞を含むサンプルが、血液中の赤血球を溶血させ、次いで遠心分離により沈殿させた有核細胞を含む。
【0010】
本発明の一態様において、SMNタンパク質を検出する方法であって、
血液を遠心分離して血液由来の有核細胞を含むサンプルを準備する工程、
前記血液由来の有核細胞を含むサンプル中のSMNタンパク質を標識する工程、
前記サンプル中の前記有核細胞の核を標識する工程、
前記有核細胞中の核及びSMNタンパク質が標識されている細胞集団を選別する工程、並びに
前記選別した細胞集団について、SMNタンパク質に対する標識に基づいてSMNタンパク質の発現を検出する工程
を含む、前記検出方法が提供される。
【0011】
本発明の一態様によれば、正常者及び/又は保因者に対する、小児期発症SMA患者におけるSMNタンパク質発現量の差異を検出することができる。即ち、本発明によれば、小児期発症SMA患者と正常者との間において、及び/又は小児期発症SMA患者と保因者との間において、SMNタンパク質発現レベルの差異を検出することができる、信頼性のあるSMNタンパク質の発現を検出する方法を提供することができる。
また、本発明の一態様によれば、血液約500μLでSMNタンパク質の発現の検出が可能であり、SMAの治療薬又は治療候補薬の試験においてSMNタンパク質をバイオマーカーとする際、特に、小児の患者から血液を採取する際に有益な方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、正常者から得られた末梢血単核球細胞由来のリンパ芽球を用いて、イメージングフローサイトメトリーにより測定した蛍光強度をプロットしたグラフを表す。縦軸は、核染色剤の発する蛍光強度を表し、横軸は、SMNタンパク質標識試薬の発する蛍光強度を表す。
図2図2は、I型SMA患者から得られた末梢血単核球細胞由来のリンパ芽球を用いて、イメージングフローサイトメトリーにより測定した蛍光強度をプロットしたグラフを表す。縦軸は、核染色剤の発する蛍光強度を表し、横軸は、SMNタンパク質標識試薬の発する蛍光強度を表す。
図3図3は、正常者から得られた末梢血単核球細胞由来のリンパ芽球を用いてイメージングフローサイトメトリーにより測定した、SMNタンパク質標識試薬の発する蛍光強度と、I型SMA患者から得られた末梢血単核球細胞由来のリンパ芽球を用いてイメージングフローサイトメトリーにより測定した、SMNタンパク質標識試薬の発する蛍光強度との比較を示すグラフを表す。縦軸は、相対頻度を表し、横軸は、SMNタンパク質標識試薬の発する蛍光強度を表す。
図4図4は、正常者、保因者及びI型SMA患者から得られた血液において赤血球を溶血させて得たサンプルを用いてイメージングフローサイトメトリーにより測定した、SMNタンパク質標識試薬の発する蛍光強度の比較を示すグラフを表す。縦軸は、頻度を表し、横軸は、SMNタンパク質標識試薬の発する蛍光強度を表す。
図5図5は、正常者から得られた血液において赤血球を溶血させて得たサンプルを用いて、イメージングフローサイトメトリーにより測定した蛍光強度をプロットしたグラフを表す。縦軸は、核染色剤の発する蛍光強度を表し、横軸は、表面積を表す。この図5で示される実験では、84203個の細胞をイメージングフローサイトメトリーに用いたところ、核が染色され、かつ表面積を保っている細胞として73842個の細胞を抽出した(図中、hoechstで示される)。
図6図6は、正常者から得られた血液において赤血球を溶血させて得たサンプルを用いて、イメージングフローサイトメトリーにより測定した蛍光強度をプロットしたグラフを表す。縦軸は、側方散乱(SSC)を表し、横軸は、抗CD45抗体に結合した蛍光色素の発する蛍光強度を表す。
図7図7は、正常者から得られた血液において赤血球を溶血させて得たサンプルを用いて、イメージングフローサイトメトリーにより測定した、クラスターごとのSMNタンパク質標識試薬の発する蛍光強度の比較を示すグラフを表す。縦軸は、相対頻度を表し、横軸は、SMNタンパク質標識試薬の発する蛍光強度を表す。
図8図8は、正常者から得られた血液において赤血球を溶血させて得たサンプルを用いて、イメージングフローサイトメトリーにより測定した蛍光強度をプロットしたグラフを表す。縦軸は、抗CD66abce抗体に結合した蛍光色素の発する蛍光強度を表し、横軸は、抗CD33抗体に結合した蛍光色素の発する蛍光強度を表す。
図9図9は、正常者から得られた血液において赤血球を溶血させて得たサンプルを用いて、イメージングフローサイトメトリーにより測定した蛍光強度をプロットしたグラフを表す。縦軸は、SMNタンパク質標識試薬の発する蛍光強度を表し、横軸は、抗CD66abce抗体に結合した蛍光色素の発する蛍光強度を表す。
図10図10は、正常者から得られた血液において赤血球を溶血させて得たサンプルを用いて、イメージングフローサイトメトリーにより測定した蛍光強度をプロットしたグラフを表す。縦軸は、SMNタンパク質標識試薬の発する蛍光強度を表し、横軸は、抗CD3抗体に結合した蛍光色素の発する蛍光強度を表す。
図11図11は、正常者から得られた血液において赤血球を溶血させて得たサンプルを用いて、イメージングフローサイトメトリーにより測定した蛍光強度をプロットしたグラフを表す。縦軸は、SMNタンパク質標識試薬の発する蛍光強度を表し、横軸は、抗CD19抗体に結合した蛍光色素の発する蛍光強度を表す。
図12図12は、正常者から得られた血液において赤血球を溶血させて得たサンプルを用いて、イメージングフローサイトメトリーにより測定した蛍光強度をプロットしたグラフを表す。縦軸は、SMNタンパク質標識試薬の発する蛍光強度を表し、横軸は、抗CD14抗体に結合した蛍光色素の発する蛍光強度を表す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のSMNタンパク質の発現を検出する方法では、被験者から得た血液に由来するサンプルが用いられる。血液サンプルは、患者への侵襲が少なく、試料として最も適している。被検者は、例えば、小児期発症SMA患者、保因者、又は小児期発症SMA患者でも保因者でもない者(正常者)であり、特に限定されるものではない。小児期発症SMA患者には、I型SMA患者、II型SMA患者及びIII型SMA患者が含まれる。
本発明の方法に用いられる、被験者から得た血液に由来するサンプルは、血液由来の有核細胞を含むものであればよい。本発明の方法に用いられる、被験者から得た血液に由来するサンプルは、血液由来の有核細胞を含むように処理したものである限り、被験者から得た血液をどのように処理したものであってもよい。例えば、本発明の方法に用いられる血液由来の有核細胞を含むサンプルとして、被験者から得た血液を遠心分離し、末梢血単核球細胞(PBMC)として分離したものや、血液中の赤血球を溶血させ、次いで遠心分離により沈殿させて得た有核細胞を含むものを使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
本発明の方法において、被験者から得た血液を処理して血液由来の有核細胞を含むサンプルを得るために、本発明の技術分野において従来知られている技術を用いることができる。
本発明の方法において、被験者から得た血液を処理して血液由来の有核細胞を含むサンプルを得る方法としては、細胞の収率が良く、できるだけ細胞を傷つけない方法が好ましい。例えば、血液中の赤血球を溶血させ、次いで遠心分離により沈殿させた有核細胞を分離する方法(溶血法)では、被験者からの採血量が少なくてすみ、かつ血液細胞に対して与えるストレスも小さい。そのため、本発明の方法において、溶血法を用いて、被験者から得た血液を処理して血液由来の有核細胞を含むサンプルを得ることが好ましい。特に、SMAの治療薬又は治療候補薬の試験においてSMNタンパク質をバイオマーカーとして利用する際に、溶血法を用いれば、小児の患者等からの採血量が少なくてすむため有利である。
また、本発明の方法において、血液由来の有核細胞を含むサンプルとして、上記の通り従来知られている技術により血液由来の有核細胞を分離した後、細胞をリンパ芽球化したものを含むサンプルを使用してもよい。リンパ芽球化の処理についても、本発明の技術分野において従来知られている技術を用いることができる。
【0015】
本発明の方法の一実施態様では、血液を遠心分離して血液由来の有核細胞を含むサンプルを準備する工程を含む。血液の遠心分離は、例えば、約1400〜約3200rpmで、約5〜約20分間行うことができる。
血液を遠心分離して血液由来の有核細胞を含むサンプルを準備する工程が、溶血法による有核細胞の分離を含む場合、溶血剤による溶血後の遠心分離は約1400〜約2300rpmで、約5〜約8分間行うことが好ましい。
血液を遠心分離して血液由来の有核細胞を含むサンプルを準備する工程が、PBMCの分離を含む場合、ヘパリン管に採血してフィコール液と重層した後、若しくは血液をBDバキュテイナ(登録商標)CPTTM単核球分離用採血管に入れた後、遠心分離は約2000〜約3200rpmで、約15〜約20分間行うことが好ましい。
血液を遠心分離して血液由来の有核細胞を含むサンプルを準備する工程は、本発明の技術分野において従来知られている技術を用いて行うことができる。
本発明の方法において用いられる、被験者由来の血液の量は、SMNタンパク質の発現が可能な量であればよく、特に限定されないが、例えば、約0.5mL以上、好ましくは約1mL以上であり、約3mL以下、好ましくは約2mL以下である。なお、従来の、末梢血単核球細胞(PBMC)を用いた、ELISA法によるSMNタンパク質の定量解析では、少なくとも4mLの血液量が必要とされる。従って、本発明の一実施態様では、必要とされる血液量が少ない点で有利である。
【0016】
本発明のSMNタンパク質の発現を検出する方法は、血液由来の有核細胞を含むサンプル中のSMNタンパク質を標識する工程を含む。
SMNタンパク質は、SMAの原因遺伝子であるSMN遺伝子により発現されるタンパク質であり、運動ニューロンの形成等に関与していると考えられている。SMN遺伝子には、SMN1遺伝子とSMN2遺伝子が存在する。両者ともに5番染色体長腕5q13に存在しており、SMN2遺伝子は、SMN1遺伝子とコーディング領域の塩基が1つだけ異なっている。しかしながら、正常なSMNタンパク質に翻訳される、SMN1遺伝子から転写される全長SMNmRNAの量を100%とすると、SMN2遺伝子の転写産物は、全長SMNmRNAがおよそ10%であり、エクソン7の欠失が認められる短縮型SMNmRNAがおよそ90%である。短縮型SMNmRNAからは非機能的なタンパク質が生成され、運動ニューロンの形成には役立たない。
本発明の方法において、血液由来の有核細胞を含むサンプル中のSMNタンパク質を標識するために、本発明の技術分野において従来知られている技術を用いることができる。ここで、SMNタンパク質の標識は、全長SMNmRNAから翻訳される正常なSMNタンパク質を標識できるものであればよいが、短縮型SMNmRNAから翻訳される非機能的なタンパク質をも標識するものであっても構わない。
【0017】
本発明の方法において用いられるSMNタンパク質を標識する方法としては、例えば、標識試薬と結合した抗SMN抗体を使用することや、標識試薬の結合していない一次抗体としての抗SMN抗体を使用後、標識試薬と結合した二次抗体を使用することが挙げられるが、これらに限定されるものではない。標識試薬には、例えば、酵素、色素、蛍光色素、ビオチン、放射性物質、各種ペプチド、アミノ酸リンカーが含まれるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、標識試薬は蛍光色素であり、例えば、フルオレセイン、ローダミン、クマリン、イミダゾール誘導体、インドール誘導体、Cy3、Cy5、Cy5.5、Cy7、APC、PE、DyLight、AlexaFluor等が挙げられる。
本発明の方法において用いられる、標識試薬と結合した抗SMN抗体または一次抗体として用いる抗SMN抗体は、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体であってもよく、市販品を利用することができる。例えば、抗SMN抗体の市販品としては、Millipore社のMilli-MarkTMや、BD社、Abcam社、Sigma-Aldrich社から提供される抗体等が挙げられる。
【0018】
本発明のSMNタンパク質の発現を検出する方法は、血液由来の有核細胞を含むサンプル中の有核細胞の核を標識する工程を含む。核を標識する方法としては、本発明の技術分野において従来知られている技術を用いることができる。例えば、核を標識する方法として、蛍光色素による標識、細胞核特異的蛋白質を認識する抗体による標識等が挙げられる。
本発明の方法において、血液由来の有核細胞を含むサンプル中の有核細胞の核を標識するために蛍光色素を用いる場合、例えば、試薬として、Hoechst 33342、Hoechst 33258、4, 6-diamino-2-phenylindole(DAPI)、Propidium iodide(PI)、蛍光標識抗ヒストン抗体、蛍光標識抗ラミン抗体等が挙げられる。
【0019】
本発明のSMNタンパク質の発現を検出する方法は、有核細胞中の核及びSMNタンパク質が標識されている細胞集団を選別する工程を含む。有核細胞中の核及びSMNタンパク質が標識されている細胞集団とは、本明細書に記載の通り核及びSMNタンパク質が標識された細胞の集団のことである。
本発明の方法の一実施態様では、有核細胞中の核及びSMNタンパク質が標識されている細胞集団は、インタクトな細胞(生細胞)を100%、95%以上、90%以上、85%以上、80%以上、75%以上、70%以上、65%以上、60%以上、55%以上又は50%以上含む集団である。
本発明の方法の一実施態様では、有核細胞中の核及びSMNタンパク質が標識されている細胞集団は、本明細書の下記実施例1に記載の通り核及びSMNタンパク質を蛍光色素により標識し、その蛍光強度を下記実施例1に記載の通り検出した場合、核の蛍光強度が約1×105以上であり、かつSMNタンパク質の蛍光強度が約1×103以上である細胞を含む集団である。このような細胞は、インタクトな細胞であると認められる。
また、顕微鏡観察にて細胞の形態を保っており、かつアスペクト比(縦横比)と表面積を保っている細胞は、インタクトな細胞であると認められる。
インタクトな細胞の判別又はインタクトな細胞を含む細胞集団の判別は、有核細胞中の核及びSMNタンパク質の標識方法によってその基準が異なるが、使用される標識試薬に基づく有核細胞中の核及びSMNタンパク質の検出結果に基づき適宜行うことができる。
本発明の方法において、検出の対象となる有核細胞は、リンパ球、単球、顆粒球、造血系幹細胞及び血管内皮前駆細胞を含むことが好ましい。
【0020】
本明細書において、SMNタンパク質を標識する蛍光色素を第1の蛍光色素と言い、核を標識する蛍光色素を第2の蛍光色素と言う場合がある。
本発明の方法の一実施態様では、有核細胞中の核及びSMNタンパク質が標識されている細胞集団を選別する工程は、第1の蛍光色素が発する第1の蛍光強度と、第2の蛍光色素が発する第2の蛍光強度とを同一装置内で測定することを含む。また、本発明の方法の一実施態様では、有核細胞中の核及びSMNタンパク質が標識されている細胞集団を選別する工程は、第1の蛍光色素が発する第1の蛍光強度と、第2の蛍光色素が発する第2の蛍光強度とを同一装置内で測定すること、並びに測定した第1及び第2の蛍光強度を二次元座標上で表すことを含む。この場合、二次元座標上で細胞集団を選別すれば十分であり、物理的に細胞集団を選別することは必ずしも必要ではない。第1の蛍光色素が発する第1の蛍光強度と、第2の蛍光色素が発する第2の蛍光強度とを同一装置内で逐次的に測定することで、操作の迅速性を担保することができる。また、二次元座標上で細胞集団を選別することでも、操作の迅速性を担保することができる。
【0021】
上述したとおり、本発明の方法に用いられる、被験者から得た血液に由来するサンプルは、血液由来の有核細胞を含むものであればよい。しかしながら、全血(末梢血)中にはあらゆる有核細胞が含まれるため、全血は、多様性に富む、いわば不均一な細胞集団を含むものと言える。また、ヒトの血液細胞分画は常に変動するものであるため、血液細胞分画の揺らぎによる血中SMNタンパク質発現量への影響を最小限に抑えることが好ましい。
そこで、本発明の方法においては、1以上の表面抗原マーカーを用いて、血液中の有核細胞を複数のクラスターに分類し、クラスターごとにSMNタンパク質発現量を測定することもできる。このように、本発明の方法は、1以上の表面抗原マーカーを用いて血液中の有核細胞を複数のクラスター、例えば2〜4つのクラスター、に分類し、当該クラスターから所定の細胞集団を選別する工程を含んでもよい。これにより、血液細胞分画の揺らぎによる血中SMNタンパク質発現量への影響を低減することができるため有利である。
なお、本発明の方法は、有核細胞中の核及びSMNタンパク質が標識されている細胞集団を選別する工程を含むものであるが、この選別工程の前、間又は後に、クラスターから所定の細胞集団を選別する工程を含み得る。例えば、本発明の方法は、有核細胞中の核及びSMNタンパク質が標識されている細胞集団を選別する工程であって、前記細胞集団は、1以上の表面抗原マーカーを用いて当該有核細胞から分類された複数のクラスター、例えば2〜4つのクラスター、から選別される、前記工程を含み得る。
【0022】
本発明の方法において用いることのできる表面抗原マーカーは、特に限定されるものではないが、例えば、CD45、CD66、CD14、CD3、CD19、CD33、CD123、CD34、CD11c、CD25、HLA-DR等が挙げられる。本発明の方法において、表面抗原マーカーは、単独でも、2種以上を一緒に用いてもよい。このような表面抗原マーカーのうち、CD45は汎血球マーカー、CD66は好中球マーカー、CD3はT細胞マーカー、CD19はB細胞マーカー、CD14は単球マーカーとして一般に知られている。
また、本発明の方法において、側方散乱(SSC)に基づき、血液中の有核細胞を複数のクラスター、例えば2〜4つのクラスター、に分類してもよい。本発明の方法の一実施態様では、1以上の表面抗原マーカーを用い、かつ側方散乱(SSC)に基づき、血液中の有核細胞を複数のクラスター、例えば2〜4つのクラスター、に分類することができる。例えば、本発明の方法は、有核細胞中の核及びSMNタンパク質が標識されている細胞集団を選別する工程であって、前記細胞集団は、1以上の表面抗原マーカーを用い、かつ側方散乱(SSC)に基づき当該有核細胞から分類された複数のクラスター、例えば2〜4つのクラスター、から選別される、前記工程を含み得る。
本発明の方法の一実施態様では、顆粒球の細胞集団又は顆粒球を含む細胞集団を選別することを含み得る。本発明の方法の一実施態様では、単球の細胞集団又は単球を含む細胞集団を選別することを含み得る。本発明の方法の一実施態様では、B細胞の細胞集団又はB細胞を含む細胞集団を選別することを含み得る。本発明の方法の一実施態様では、T細胞の細胞集団又はT細胞を含む細胞集団を選別することを含み得る。
【0023】
本発明のSMNタンパク質の発現を検出する方法は、有核細胞中の核及びSMNタンパク質の標識に基づいて選別した細胞集団について、SMNタンパク質に対する標識に基づいてSMNタンパク質の発現を検出する工程を含む。
本発明の方法においては、上記のように特定の細胞集団を選別して、その細胞集団においてSMNタンパク質の発現を検出することで、SMNタンパク質発現レベルの検出感度を高めることを可能にする。また、本発明の方法において、特定の細胞集団を選別する際に参照するSMNタンパク質に対する標識に基づく検出データを、当該選別した細胞集団についてSMNタンパク質に対する標識に基づいてSMNタンパク質の発現を検出する際に使用することができる。
【0024】
本発明の方法の一実施態様では、有核細胞中の核及びSMNタンパク質が標識されている細胞集団を選別する工程と、当該選別した細胞集団について、SMNタンパク質に対する標識に基づいてSMNタンパク質の発現を検出する工程は、フローサイトメトリーにより行われる。フローサイトメトリーは迅速な処理に適している。
本発明の方法の一実施態様では、有核細胞中の核及びSMNタンパク質が標識されている細胞集団を選別する工程と、当該選別した細胞集団について、SMNタンパク質に対する標識に基づいてSMNタンパク質の発現を検出する工程は、イメージングフローサイトメトリーにより行われる。イメージンングフローサイトメトリーは、細胞写真を同時に撮影するために、蛍光取得スピードが一般的なフローサイトメトリーよりも遅く設定される。そのために、より詳細な解析が可能となる。
なお、フローサイトメトリー及びイメージンングフローサイトメトリーは、市販の装置を使用して、メーカーの取扱説明書に従って行えばよい。
【0025】
本発明のSMNタンパク質の発現を検出する方法は、被検者、例えば、小児期発症SMA患者、保因者、及び正常者間、具体的には小児期発症SMA患者と保因者間又は小児期発症SMA患者と正常者間でSMNタンパク質の発現を比較する工程を含んでもよい。比較により、小児期発症SMA患者と保因者、小児期発症SMA患者と正常者の間でSMNタンパク質の発現量に差異が認められることで、小児期発症SMA患者、保因者、及び正常者をそれぞれ分類することができる。
また、本発明のSMNタンパク質の発現を検出する方法は、小児期発症SMAを治療するための薬剤をスクリーニングする方法において用いることもできる。
本発明の方法において、リン酸緩衝液等の試薬で細胞を洗浄する工程等、通常、細胞におけるタンパク質発現を検出する際に行われる操作を適宜行うことができる。
【0026】
また、本発明のSMNタンパク質の発現を検出する方法においては、検出対象となった前記血液が被験者から得られたものであり、前記SMNタンパク質の発現を検出する工程が、SMNタンパク質発現量を測定することを含み、前記SMNタンパク質発現量をコントロールと比較する工程を含んでもよい。ここで、コントロールとは、以下の(a)〜(c)より選択され得る:
(a) 前記被験者が小児期発症SMA患者である場合には、前記コントロールは、正常者又は保因者から得られる血液を用いること以外は、前記被験者から得られた血液を用いてSMNタンパク質発現量を測定した方法と同様にして測定したSMNタンパク質発現量であり、
(b) 前記被験者が正常者又は保因者である場合には、前記コントロールは、小児期発症SMA患者から得られる血液を用いること以外は、前記被験者から得られた血液を用いてSMNタンパク質発現量を測定した方法と同様にして測定したSMNタンパク質発現量であり、又は
(c) 前記被験者がSMAの治療薬又は治療候補薬を投与された者である場合には、前記コントロールは、前記SMAの治療薬又は治療候補薬の投与前の前記被験者から得られた血液を用いること以外は、前記投与後の前記被験者から得られた血液を用いてSMNタンパク質発現量を測定した方法と同様にして測定したSMNタンパク質発現量である。
【0027】
ここで、「同様にして測定した」とは、SMNタンパク質発現量を比較する上で、SMNタンパク質発現量の測定に実質的に影響を与えない程度の変更は許されるものと解され、例えば、細胞を洗浄する工程などまで完全に一致することは意味しない。
SMNタンパク質発現量を測定することは、検量線法など、本発明の技術分野において従来知られている技術を用いて適宜行うことができる。
なお、本発明の一実施態様は、上記のような比較の工程を含み、かつ比較の結果に基づいて被験者を診断する工程を含むことで、小児期発症SMAを診断する方法に関すると言うこともできる。また、本発明の一実施態様は、上記のような比較の工程を含み、かつ比較の結果に基づいて小児期発症SMAの治療薬又は治療候補薬を選択する工程を含むことで、小児期発症SMAの治療薬又は治療候補薬のスクリーニング方法に関すると言うこともできる。
【0028】
従来、末梢血単核球細胞(PBMC)を用いた、ELISA法によるSMNタンパク質の定量解析が試みられていたが(Dione T. Kobayashi et al., Plos one, November 2012, Vol.7, Issue 11, e50763, Evaluation of Peripheral Blood Mononuclear Cell Processing and Analysis for Survival Motor Neuron Protein)、ELISA法は、細胞をつぶして解析することとなる点、治療薬投与前後で、同時に解析する必要があるため、細胞の保存、凍結又は融解処理によるSMNタンパク質分解が起こり得る点、及び死細胞、細胞外のSMNタンパク質も同時に検出することとなる点において欠点を有していた。また、PBMCは、CD4+及びCD8+T細胞(約65%)、B細胞及びナチュラルキラー細胞(約28%)、CD14+単球、顆粒球、樹状細胞(合計約7%)で構成されているが、血液中で主要な構成成分である顆粒球は、比重が重く、遠心の際に下層に沈むため、比重により上層となるPBMCにはほとんど含まれない。
これに対して、本発明のSMNタンパク質の発現を検出する方法によれば、細胞の形状を保ったまま解析が可能であり、即日、検体処理が可能であり(即ち、凍結又は融解処理が不要であり)、また、生きた細胞内のSMNタンパク質のみを検出することが可能である。また、本発明のSMNタンパク質の発現を検出する方法において、全血細胞を対象として、表面抗原マーカーを用いてクラスターに分類した上でSMNタンパク質の解析を行えば、所望の細胞集団(血液細胞分画)についてSMNタンパク質の解析を行うことができ、血液細胞分画の揺らぎによるSMNタンパク質発現量への影響を抑えることができる。
【実施例】
【0029】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
実施例1:リンパ芽球を用いたSMNタンパク質発現の検出
(1)リンパ芽球化処理
正常者から得た血液サンプルを、ヘパリン管に採取後、フィコール液と重層し、2000rpmで、15分間遠心分離して、末梢血単核球細胞を分離し、採取した。次いで、EBウイルスを用いたトランスフォーム法により、リンパ芽球化処理を行った。
I型SMA患者から得た血液サンプルについても、正常者から得た血液サンプルと同様の処理を行った。
【0031】
(2)SMNタンパク質発現の測定
上記(1)より得られた、正常者の末梢血単核球細胞由来リンパ芽球を遠沈管内に採取し、4%パラホルムアルデヒド-リン酸緩衝液で細胞を固定した。次いでリン酸緩衝液で細胞を洗浄後、500 x gで5分間遠心分離を行い、上清を除去した。細胞膜透過試薬として、BD PhosflowTM Perm Buffer II(BD Biosciences) を加え、30分間氷上に静置した。次いで、BD pharmingen Stain Buffer (BD Biosciences) で細胞を洗浄した後、1次抗体:Purified Mouse Anti-SMN (Mouse monoclonal antibody, clone8/SMN, BD Biosciences) を添加して室温で60分間反応を行った。
その後、リン酸緩衝液で細胞を洗浄し、2次抗体(AlexaFluor 488 goat anti-mouse IgG (H+L), highly cross-absorbed, Life Technology)を添加し、遮光後室温で60分間反応を行った。リン酸緩衝液で洗浄後、Hoechst 33342(Molecular Probes)を添加し、細胞内の核を染色した。更に、リン酸緩衝液で細胞を洗浄した後、イメージングフローサイトメトリー(FlowSight(登録商標)、Amnis)にてSMNタンパク質発現を測定した。
上記(1)より得られた、I型SMA患者の末梢血単核球細胞由来リンパ芽球についても、正常者の場合と同様にSMNタンパク質の発現を測定した。
【0032】
なお、正常者について、1万個の細胞をイメージングフローサイトメトリーに用いたが、細胞の形態を保っているものに焦点を絞り、8970個の細胞を抽出し、更にその中から、アスペクト比(縦横比)と表面積を保っている6302個の細胞について、図1で示される解析を行った。また、同様の操作を再度行い、合計2万個の細胞をイメージングフローサイトメトリーに用いた。
I型SMA患者についても、1万個の細胞をイメージングフローサイトメトリーに用いたが、細胞の形態を保っているものに焦点を絞り、8549個の細胞を抽出し、更にその中から、アスペクト比(縦横比)と表面積を保っている4569個の細胞について、図2で示される解析を行った。また、同様の操作を再度行い、合計2万個の細胞をイメージングフローサイトメトリーに用いた。
SMNタンパク質の発現強度の解析は、それぞれ図1及び図2で示される細胞集団1(population 1)を選別して行った。図1及び図2で示される細胞集団は、正常者、I型SMA患者ともに、1万個の細胞を用いて得られたものである。一方、図3のグラフは、正常者、I型SMA患者ともに、それぞれ2万個の細胞から選別した細胞集団について蛍光強度の分布を示したものである。
なお、細胞集団1では、核及びSMNタンパク質が十分に蛍光標識されていることから、細胞集団1はインタクトな細胞群であると考えられる。一方、細胞集団2(population 2)では、核が十分に蛍光標識されているとは言えず、細胞集団2はインタクトな細胞群とは判断できず、傷ついた細胞又は死細胞群であると考えられる。図1及び図2中の、各細胞集団1及び2の細胞数は下記表1及び表2に記載の通りである。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
図3で示される蛍光強度について、解析した細胞数及び蛍光強度のメジアンを下記表3に示す。図3及び表3においては、正常者、I型SMA患者ともに、それぞれ合計2万個の細胞をイメージングフローサイトメトリーに用いて得られた結果を示す。
【表3】
【0036】
以上の結果から、正常コントロール(全体)とI型SMA患者(全体)を比較すると、正常コントロールでは、I型SMA患者の約6倍のSMNタンパク質発現が認められた。従って、本発明の方法によれば、SMNタンパク質の発現を鋭敏に検出することができる。
なお、図3におけるR2及びR3は、正常コントロールとI型SMA患者で発現量が重なっている領域を外してゲートをかけて、蛍光強度を比較したものであり、2群間の差を示すためのものである。
また、縦軸の頻度の値については、相対頻度であり、全細胞集団のうちの蛍光強度を有する細胞集団の比率により相対化したものを用いた。
【0037】
実施例2:溶血法を用いたSMNタンパク質発現の検出
(1)溶血処理
正常者から採血を行い、血液2mLをヘパリン管に採取し、転倒混和させた。次いで、血液0.5mLを遠沈管に取り、溶血・固定液として、BD PhosflowTM Lyse/Fix Buffer (BD Biosciences) を加え、37℃で10分間静置後、2300rpmで8分間遠心分離し、上清を除去後、リン酸緩衝液で細胞を洗浄し、血液由来の有核細胞を含むサンプルを得た。
保因者及びI型SMA患者についても、正常者の場合と同様に溶血法により血液由来の有核細胞を含むサンプルを調製した。
【0038】
(2)SMNタンパク質発現の測定
上記(1)より得られた、正常者の有核細胞に、細胞膜透過試薬として、BD PhosflowTM Perm Buffer II(BD Biosciences) を加え、30分間氷上に静置した。次いで、BD pharmingen Stain Buffer (BD Biosciences) で細胞を洗浄した後、Milli-MarkTM(抗SMN抗体:Anti-SMN-FITC clone 2B1、Millipore)を添加して室温で60分間反応を行った。
その後、リン酸緩衝液で細胞を洗浄し、Hoechst 33342(Molecular Probes)を添加し、細胞内の核を染色した。更に、リン酸緩衝液で細胞を洗浄した後、イメージングフローサイトメトリー(FlowSight(登録商標)、Amnis)にてSMNタンパク質発現を測定した。
上記(1)より得られた、保因者及びI型SMA患者のサンプルについても、正常者の場合と同様にSMNタンパク質の発現を測定した。
また、SMNタンパク質の発現強度の解析は、正常者、保因者及びI型SMA患者につき、それぞれ1万個の細胞を用いた以外は、上記実施例1と同様に、核及びSMNタンパク質が十分に蛍光標識されているインタクトな細胞群について行った。その結果を図4に示す。
また、図4で示される蛍光強度について、解析した細胞数及び蛍光強度のメジアンを下記表4に示す。
【表4】
【0039】
以上の結果より、正常者、保因者及びI型SMA患者におけるSMNタンパク質の発現に明らかな差が認められた。従って、本発明の方法によれば、正常者、保因者及び小児期発症SMA患者におけるSMNタンパク質発現量の差異を検出することができる。
【0040】
実施例3:表面抗原マーカーを用いて分類したクラスターごとのSMNタンパク質発現の検出
以下の染色プロトコールに従って、サンプルを調製した。
1.正常者から得た末梢血2mLをチューブに取り、末梢血2mL中に、PBSで5μg/mLに希釈したHoechst 33342(Molecular Probes)100μL及びFc受容体ブロッキング試薬(Clear Back, MTG-001, MBL)80μLとなるように試薬を添加した。
2.チューブに栓をし、暗所にて室温で15分間ゆっくりと回転させた。
3.このように処理した末梢血を、4つの15mLコニカルチューブに500μLずつ入れた。
4.各チューブに、以下の表5に従って5μLの蛍光色素標識抗体(BioLegend社、BD Biosciences社、MERCK社より購入)を加えた。
【表5】
モノクローナル抗体のクローン:
CD66a/c/e(ASL-32), CD66b(G10F5), CD34(581), CD25(M-A251), CD33(WM53),
CD123(6H6), CD3(UCHT1), CD45(HI30), CD11c(3.9), CD19(SJ25C1), CD14(M5E2)
(CD123, CD34, CD11c, CD25, HLA-DRについては本願においてデータは示されていない。)

PE:フィコエリスリン
PE-Cy5:フィコエリスリン−シアニン5
BV:ブリリアントバイオレット
【0041】
5.暗所にて室温で60分間インキュベートした。
6.37℃の水浴で温めた溶血・固定液(BD PhosflowTM Lyse/Fix Buffer)10mLを各チューブに加えた(8〜10回逆さにしてよく混合した)。
7.37℃の水浴で10分間インキュベートした。
8.500 x g、室温で5分間、遠心分離した。
9.ディスポーザブルピペットを用いて上清を除去した。
10.10mLPBS(-)で細胞を再懸濁し、上記8と同様に遠心分離し、上清を除去した。
11.細胞膜透過試薬(BD PhosflowTM Perm/Wash Buffer I)1mLで細胞を再懸濁し、室温で20分間インキュベートした。
12.上記8と同様に遠心分離し、2mLのFBS/NaN3含有PBS(BD stain buffer 554656)で細胞を2回洗浄した。
13.細胞懸濁液を2つの1.5mLマイクロチューブに等容量で入れた。このとき、1つのチューブにおいて、およそ5 x 105 cells/45μLであった。
14.5μLのFITC結合抗ヒトSMNモノクローナル抗体(2B1)又はFITC結合抗マウスIgG1抗体(MOPC21;アイソタイプコントロール)で染色し、暗所にて氷上で45分間インキュベートした。
15.上記8と同様に遠心分離し、200μLのFBS/NaN3含有PBSで2回洗浄した。
16.50μLのFBS/NaN3含有PBSで再懸濁した。
【0042】
上記のとおり得られたサンプルについて、イメージングフローサイトメトリー(FlowSight(登録商標)、Amnis)にてSMNタンパク質発現を測定した。
図5で示されるのと同様に、核が染色され、かつ表面積を保っている細胞をまず抽出した。このように抽出した73601個の細胞について、側方散乱(SSC)とCD45を用いて4つのクラスターに分類した(図6;R1〜R4)。各クラスターの細胞数は下記表6に記載のとおりである。
【表6】
【0043】
更に、各クラスター間の境界がより明らかになるように調整した後、各クラスターにおけるSMNタンパク質標識試薬の発する蛍光強度を比較した(図7)。図7で示される蛍光強度について、解析した細胞数及び蛍光強度の幾何平均を下記表7に示す。
【表7】
【0044】
次に、R1のクラスターについて、CD33及びCD66abceを用いて更に細胞集団を選別した(図8)。その結果、SMNタンパク質が標識されているR1のクラスター(細胞数:30198個)中の99.5%(細胞数:30060個)が、CD33+CD66abce+細胞(好中球様細胞)であることがわかった。このCD33+CD66abce+細胞におけるSMNタンパク質標識試薬の発する蛍光強度の解析を行った(図9)。SMNタンパク質標識試薬の発する蛍光強度の幾何平均は33679.5であった。
【0045】
同様に、R2のクラスターについて、CD3及びSMNタンパク質を用いて、又はCD19及びSMNタンパク質を用いて更に細胞集団を選別し、SMNタンパク質標識試薬の発する蛍光強度の解析を行った(図10図11)。その結果、SMNタンパク質が標識されているR2のクラスター(細胞数:12882個)中の63.6%(細胞数:8197個)が、CD3+細胞(T細胞)であり、9.55%(細胞数:1230個)が、CD19+細胞(B細胞)であることがわかった。また、図10で示される、CD3+細胞におけるSMNタンパク質標識試薬の発する蛍光強度の幾何平均は1782.23であり、図11で示される、CD19+細胞におけるSMNタンパク質標識試薬の発する蛍光強度の幾何平均は2103.25であった。
【0046】
次に、R3のクラスターについて、CD14及びSMNタンパク質を用いて更に細胞集団を選別し、SMNタンパク質標識試薬の発する蛍光強度の解析を行った(図12)。その結果、SMNタンパク質が標識されているR3のクラスター(細胞数:4088個)中の61%(細胞数:2495個)が、CD14+細胞(単球様細胞)であることがわかった。また、CD14+細胞におけるSMNタンパク質標識試薬の発する蛍光強度の幾何平均は13606.79であった。
【0047】
これらの結果を総合すると、ユビキタスなタンパク質であるSMNタンパク質は、血液細胞において、顆粒球(好中球、好塩基球、好酸球)>単球>B細胞・T細胞の順に発現量が高いことが判明した。従って、PBMCを用いた、従来のELISA法によるSMNタンパク質の定量解析では、SMNタンパク質発現量の高い顆粒球についてはほとんど分析できないことから、SMNタンパク質発現について十分な解析が行えないものと考えられる。一方で、本発明の方法によれば、SMNタンパク質発現量の高い顆粒球を含めた血液細胞について解析を行うことができ、また、顆粒球のみに焦点を当てた解析を行うこともでき、本発明の方法がSMNタンパク質発現の検出に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
SMAは、依然として根本治療法が確立しておらず、国が指定する難病のうちの1つである。本発明は、SMAの治療法となり得る方法の評価のための利用に極めて有用である。例えば、本発明の方法を、SMAの治療薬又は治療候補薬の評価に用いることができ、SMAの治療薬又は治療候補薬のスクリーニングに用いることができる。また、本発明は、SMAの診断における利用にも有益である。
従って、本発明により、難病のうちの1つであるSMAの診断技術及び治療技術の格段の進展が見込まれる。
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