【実施例】
【0029】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
実施例1:リンパ芽球を用いたSMNタンパク質発現の検出
(1)リンパ芽球化処理
正常者から得た血液サンプルを、ヘパリン管に採取後、フィコール液と重層し、2000rpmで、15分間遠心分離して、末梢血単核球細胞を分離し、採取した。次いで、EBウイルスを用いたトランスフォーム法により、リンパ芽球化処理を行った。
I型SMA患者から得た血液サンプルについても、正常者から得た血液サンプルと同様の処理を行った。
【0031】
(2)SMNタンパク質発現の測定
上記(1)より得られた、正常者の末梢血単核球細胞由来リンパ芽球を遠沈管内に採取し、4%パラホルムアルデヒド-リン酸緩衝液で細胞を固定した。次いでリン酸緩衝液で細胞を洗浄後、500 x gで5分間遠心分離を行い、上清を除去した。細胞膜透過試薬として、BD Phosflow
TM Perm Buffer II(BD Biosciences) を加え、30分間氷上に静置した。次いで、BD pharmingen Stain Buffer (BD Biosciences) で細胞を洗浄した後、1次抗体:Purified Mouse Anti-SMN (Mouse monoclonal antibody, clone8/SMN, BD Biosciences) を添加して室温で60分間反応を行った。
その後、リン酸緩衝液で細胞を洗浄し、2次抗体(AlexaFluor 488 goat anti-mouse IgG (H+L), highly cross-absorbed, Life Technology)を添加し、遮光後室温で60分間反応を行った。リン酸緩衝液で洗浄後、Hoechst 33342(Molecular Probes)を添加し、細胞内の核を染色した。更に、リン酸緩衝液で細胞を洗浄した後、イメージングフローサイトメトリー(FlowSight(登録商標)、Amnis)にてSMNタンパク質発現を測定した。
上記(1)より得られた、I型SMA患者の末梢血単核球細胞由来リンパ芽球についても、正常者の場合と同様にSMNタンパク質の発現を測定した。
【0032】
なお、正常者について、1万個の細胞をイメージングフローサイトメトリーに用いたが、細胞の形態を保っているものに焦点を絞り、8970個の細胞を抽出し、更にその中から、アスペクト比(縦横比)と表面積を保っている6302個の細胞について、
図1で示される解析を行った。また、同様の操作を再度行い、合計2万個の細胞をイメージングフローサイトメトリーに用いた。
I型SMA患者についても、1万個の細胞をイメージングフローサイトメトリーに用いたが、細胞の形態を保っているものに焦点を絞り、8549個の細胞を抽出し、更にその中から、アスペクト比(縦横比)と表面積を保っている4569個の細胞について、
図2で示される解析を行った。また、同様の操作を再度行い、合計2万個の細胞をイメージングフローサイトメトリーに用いた。
SMNタンパク質の発現強度の解析は、それぞれ
図1及び
図2で示される細胞集団1(population 1)を選別して行った。
図1及び
図2で示される細胞集団は、正常者、I型SMA患者ともに、1万個の細胞を用いて得られたものである。一方、
図3のグラフは、正常者、I型SMA患者ともに、それぞれ2万個の細胞から選別した細胞集団について蛍光強度の分布を示したものである。
なお、細胞集団1では、核及びSMNタンパク質が十分に蛍光標識されていることから、細胞集団1はインタクトな細胞群であると考えられる。一方、細胞集団2(population 2)では、核が十分に蛍光標識されているとは言えず、細胞集団2はインタクトな細胞群とは判断できず、傷ついた細胞又は死細胞群であると考えられる。
図1及び
図2中の、各細胞集団1及び2の細胞数は下記表1及び表2に記載の通りである。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
図3で示される蛍光強度について、解析した細胞数及び蛍光強度のメジアンを下記表3に示す。
図3及び表3においては、正常者、I型SMA患者ともに、それぞれ合計2万個の細胞をイメージングフローサイトメトリーに用いて得られた結果を示す。
【表3】
【0036】
以上の結果から、正常コントロール(全体)とI型SMA患者(全体)を比較すると、正常コントロールでは、I型SMA患者の約6倍のSMNタンパク質発現が認められた。従って、本発明の方法によれば、SMNタンパク質の発現を鋭敏に検出することができる。
なお、
図3におけるR2及びR3は、正常コントロールとI型SMA患者で発現量が重なっている領域を外してゲートをかけて、蛍光強度を比較したものであり、2群間の差を示すためのものである。
また、縦軸の頻度の値については、相対頻度であり、全細胞集団のうちの蛍光強度を有する細胞集団の比率により相対化したものを用いた。
【0037】
実施例2:溶血法を用いたSMNタンパク質発現の検出
(1)溶血処理
正常者から採血を行い、血液2mLをヘパリン管に採取し、転倒混和させた。次いで、血液0.5mLを遠沈管に取り、溶血・固定液として、BD Phosflow
TM Lyse/Fix Buffer (BD Biosciences) を加え、37℃で10分間静置後、2300rpmで8分間遠心分離し、上清を除去後、リン酸緩衝液で細胞を洗浄し、血液由来の有核細胞を含むサンプルを得た。
保因者及びI型SMA患者についても、正常者の場合と同様に溶血法により血液由来の有核細胞を含むサンプルを調製した。
【0038】
(2)SMNタンパク質発現の測定
上記(1)より得られた、正常者の有核細胞に、細胞膜透過試薬として、BD Phosflow
TM Perm Buffer II(BD Biosciences) を加え、30分間氷上に静置した。次いで、BD pharmingen Stain Buffer (BD Biosciences) で細胞を洗浄した後、Milli-Mark
TM(抗SMN抗体:Anti-SMN-FITC clone 2B1、Millipore)を添加して室温で60分間反応を行った。
その後、リン酸緩衝液で細胞を洗浄し、Hoechst 33342(Molecular Probes)を添加し、細胞内の核を染色した。更に、リン酸緩衝液で細胞を洗浄した後、イメージングフローサイトメトリー(FlowSight(登録商標)、Amnis)にてSMNタンパク質発現を測定した。
上記(1)より得られた、保因者及びI型SMA患者のサンプルについても、正常者の場合と同様にSMNタンパク質の発現を測定した。
また、SMNタンパク質の発現強度の解析は、正常者、保因者及びI型SMA患者につき、それぞれ1万個の細胞を用いた以外は、上記実施例1と同様に、核及びSMNタンパク質が十分に蛍光標識されているインタクトな細胞群について行った。その結果を
図4に示す。
また、
図4で示される蛍光強度について、解析した細胞数及び蛍光強度のメジアンを下記表4に示す。
【表4】
【0039】
以上の結果より、正常者、保因者及びI型SMA患者におけるSMNタンパク質の発現に明らかな差が認められた。従って、本発明の方法によれば、正常者、保因者及び小児期発症SMA患者におけるSMNタンパク質発現量の差異を検出することができる。
【0040】
実施例3:表面抗原マーカーを用いて分類したクラスターごとのSMNタンパク質発現の検出
以下の染色プロトコールに従って、サンプルを調製した。
1.正常者から得た末梢血2mLをチューブに取り、末梢血2mL中に、PBSで5μg/mLに希釈したHoechst 33342(Molecular Probes)100μL及びFc受容体ブロッキング試薬(Clear Back, MTG-001, MBL)80μLとなるように試薬を添加した。
2.チューブに栓をし、暗所にて室温で15分間ゆっくりと回転させた。
3.このように処理した末梢血を、4つの15mLコニカルチューブに500μLずつ入れた。
4.各チューブに、以下の表5に従って5μLの蛍光色素標識抗体(BioLegend社、BD Biosciences社、MERCK社より購入)を加えた。
【表5】
モノクローナル抗体のクローン:
CD66a/c/e(ASL-32), CD66b(G10F5), CD34(581), CD25(M-A251), CD33(WM53),
CD123(6H6), CD3(UCHT1), CD45(HI30), CD11c(3.9), CD19(SJ25C1), CD14(M5E2)
(CD123, CD34, CD11c, CD25, HLA-DRについては本願においてデータは示されていない。)
PE:フィコエリスリン
PE-Cy5:フィコエリスリン−シアニン5
BV:ブリリアントバイオレット
【0041】
5.暗所にて室温で60分間インキュベートした。
6.37℃の水浴で温めた溶血・固定液(BD Phosflow
TM Lyse/Fix Buffer)10mLを各チューブに加えた(8〜10回逆さにしてよく混合した)。
7.37℃の水浴で10分間インキュベートした。
8.500 x g、室温で5分間、遠心分離した。
9.ディスポーザブルピペットを用いて上清を除去した。
10.10mLPBS(-)で細胞を再懸濁し、上記8と同様に遠心分離し、上清を除去した。
11.細胞膜透過試薬(BD Phosflow
TM Perm/Wash Buffer I)1mLで細胞を再懸濁し、室温で20分間インキュベートした。
12.上記8と同様に遠心分離し、2mLのFBS/NaN
3含有PBS(BD stain buffer 554656)で細胞を2回洗浄した。
13.細胞懸濁液を2つの1.5mLマイクロチューブに等容量で入れた。このとき、1つのチューブにおいて、およそ5 x 10
5 cells/45μLであった。
14.5μLのFITC結合抗ヒトSMNモノクローナル抗体(2B1)又はFITC結合抗マウスIgG1抗体(MOPC21;アイソタイプコントロール)で染色し、暗所にて氷上で45分間インキュベートした。
15.上記8と同様に遠心分離し、200μLのFBS/NaN
3含有PBSで2回洗浄した。
16.50μLのFBS/NaN
3含有PBSで再懸濁した。
【0042】
上記のとおり得られたサンプルについて、イメージングフローサイトメトリー(FlowSight(登録商標)、Amnis)にてSMNタンパク質発現を測定した。
図5で示されるのと同様に、核が染色され、かつ表面積を保っている細胞をまず抽出した。このように抽出した73601個の細胞について、側方散乱(SSC)とCD45を用いて4つのクラスターに分類した(
図6;R1〜R4)。各クラスターの細胞数は下記表6に記載のとおりである。
【表6】
【0043】
更に、各クラスター間の境界がより明らかになるように調整した後、各クラスターにおけるSMNタンパク質標識試薬の発する蛍光強度を比較した(
図7)。
図7で示される蛍光強度について、解析した細胞数及び蛍光強度の幾何平均を下記表7に示す。
【表7】
【0044】
次に、R1のクラスターについて、CD33及びCD66abceを用いて更に細胞集団を選別した(
図8)。その結果、SMNタンパク質が標識されているR1のクラスター(細胞数:30198個)中の99.5%(細胞数:30060個)が、CD33+CD66abce+細胞(好中球様細胞)であることがわかった。このCD33+CD66abce+細胞におけるSMNタンパク質標識試薬の発する蛍光強度の解析を行った(
図9)。SMNタンパク質標識試薬の発する蛍光強度の幾何平均は33679.5であった。
【0045】
同様に、R2のクラスターについて、CD3及びSMNタンパク質を用いて、又はCD19及びSMNタンパク質を用いて更に細胞集団を選別し、SMNタンパク質標識試薬の発する蛍光強度の解析を行った(
図10、
図11)。その結果、SMNタンパク質が標識されているR2のクラスター(細胞数:12882個)中の63.6%(細胞数:8197個)が、CD3+細胞(T細胞)であり、9.55%(細胞数:1230個)が、CD19+細胞(B細胞)であることがわかった。また、
図10で示される、CD3+細胞におけるSMNタンパク質標識試薬の発する蛍光強度の幾何平均は1782.23であり、
図11で示される、CD19+細胞におけるSMNタンパク質標識試薬の発する蛍光強度の幾何平均は2103.25であった。
【0046】
次に、R3のクラスターについて、CD14及びSMNタンパク質を用いて更に細胞集団を選別し、SMNタンパク質標識試薬の発する蛍光強度の解析を行った(
図12)。その結果、SMNタンパク質が標識されているR3のクラスター(細胞数:4088個)中の61%(細胞数:2495個)が、CD14+細胞(単球様細胞)であることがわかった。また、CD14+細胞におけるSMNタンパク質標識試薬の発する蛍光強度の幾何平均は13606.79であった。
【0047】
これらの結果を総合すると、ユビキタスなタンパク質であるSMNタンパク質は、血液細胞において、顆粒球(好中球、好塩基球、好酸球)>単球>B細胞・T細胞の順に発現量が高いことが判明した。従って、PBMCを用いた、従来のELISA法によるSMNタンパク質の定量解析では、SMNタンパク質発現量の高い顆粒球についてはほとんど分析できないことから、SMNタンパク質発現について十分な解析が行えないものと考えられる。一方で、本発明の方法によれば、SMNタンパク質発現量の高い顆粒球を含めた血液細胞について解析を行うことができ、また、顆粒球のみに焦点を当てた解析を行うこともでき、本発明の方法がSMNタンパク質発現の検出に優れていることがわかる。