【実施例1】
【0016】
(軸受装置の構成)
まず、
図1、
図4及び
図5を用いて本発明の半割スラスト軸受8を備える軸受装置1の全体構成を説明する。
図1、
図4及び
図5に示すように、シリンダブロック2の下部に軸受キャップ3を取り付けて構成された軸受ハウジング4には、両側面間を貫通する円形孔である軸受孔5が形成されており、側面における軸受孔5の周縁には円環状凹部である受座6、6が形成されている。軸受孔5には、クランク軸のジャーナル部11を回転自在に支承する半割軸受7、7が円筒状に組み合わされて嵌合されている。受座6には、クランク軸のスラストカラー12を介して軸線方向力Fを受ける半割スラスト軸受8、8が円環状に組み合わされて嵌合されている。
【0017】
すなわち、本実施例の軸受装置1は、内燃機関のクランク軸としてのジャーナル部11と、クランク軸の径方向力を支承する一対の半割軸受7、7と、クランク軸の軸線方向力を支承する二対(4つ)の半割スラスト軸受8、8、8、8と、一対の半割軸受7、7を保持するために貫通形成される保持孔としての軸受孔5と半割スラスト軸受8、8、8、8を配置するために両側面に形成される受座6、6とを有する軸受ハウジング4と、を備えている。
【0018】
そして、軸受ハウジングの両側面の受座6、6のうち、クランク軸の軸線方向力が入力される側とは反対側の側面(
図5では左側)の受座6には、後述する逆くさび面82を備える2つの半割スラスト軸受8、8が円環状に組み合わされて配置されている。
【0019】
このように、本実施例の軸受装置1においては、軸受ハウジング4の両方の側面の受座6、6うち、軸線方向力Fが入力される側とは反対側、換言すると、変速機から遠い側、又は、クランク軸の回転力の出力側とは反対側、の受座6に、後述する逆くさび面82を備える半割スラスト軸受8を1つ又は2つ配置するようになっている。
【0020】
(半割スラスト軸受の構成)
次に、
図2〜
図7を用いて実施例の半割スラスト軸受8の構成について説明する。本実施例の半割スラスト軸受8は、鋼製の裏金層に、薄い軸受合金層を接着させたバイメタルによって、半円環形状の平板に形成されるものである。半割スラスト軸受8は、軸受合金層によって構成された側面である摺動面81(すなわち軸受面)と、この摺動面81と同じ側面に、クランク軸のジャーナル部11の回転方向(
図2の円弧状の矢印方向)に向かって壁厚が薄くなるように形成される逆くさび面82とを備えている。この他、半割スラスト軸受8は、スラストリリーフ(不図示)を両端近傍に有することもできる。
【0021】
本実施例の逆くさび面82は、
図2の正面図に示すように、半割スラスト軸受8の周方向の両端面の略中央に1つ配置されている。ただし、逆くさび面82の位置は、略中央に限定されず、両端近傍以外であればどのような位置に配置してもよい。
【0022】
さらに、逆くさび面82は、1つの半割スラスト軸受8に少なくとも1つ配置すればよく、1つの半割スラスト軸受8に複数配置することもできる。
図8に示すように、1つの半割スラスト軸受8に少なくとも3つの逆くさび面82、・・・を配置することが好ましい。
図8では、3つの逆くさび面82、・・・が、それぞれ45度、90度、135度の位置に配置されている。
【0023】
本実施例の逆くさび面82の正面形状は、2本の半径と、その間にある同心円をなす大小2つの円の円弧と、によって囲まれる扇形状(扇面形状)に形成されている。逆くさび面82の周方向の範囲を規定する円周角度(中心角度)θは、5°〜35°とすることが好ましい。なお、複数の逆くさび面82、・・・を配置する場合には、それぞれの逆くさび面82を上記範囲とすることが好ましい。
【0024】
ここにおいて、逆くさび面82の正面形状は、上述したような扇形状でなくてもよく、例えば、平行な2つの線分と、その間にある同心円をなす大小2つの円の円弧と、によって囲まれる形状であってもよい。
【0025】
逆くさび面82は、
図3の側面図に示すように、クランク軸の回転方向に向かって直線的に(線形に)半割スラスト軸受8の壁厚が薄くなるように形成される。ただし、逆くさび面82は、クランク軸の回転方向に向かって曲線的に壁厚が薄くなるようにされて曲面を形成するものであってもよい。また、逆くさび面82は、摺動面81からの深さは、半径方向には内径側から外径側の全長にわたって一定となるように形成される。逆くさび面82の摺動面81からの最深部の深さD1は、0.005mm〜0.075mmとすることが好ましい。
【0026】
そして、本実施例の半割スラスト軸受8では、逆くさび面82のクランク軸の回転方向の先側の端部と摺動面81との間に、段差面83が形成されている。つまり、半割スラスト軸受8の壁厚は、クランク軸の回転方向に向かって、逆くさび面82で徐々に薄くなり、段差面83を介して非連続的に増加し、もとの半割スラスト軸受8の厚さに戻る。段差面83は、摺動面81に対して略直交するように形成されているため、逆くさび面82に対しては鋭角をなすようになっている。
【0027】
(作用)
次に、
図4〜
図7を用いて、本実施例の半割スラスト軸受8の作用を説明する。
【0028】
(給油作用)
軸受装置1においては、オイルポンプ(不図示)から加圧されて吐出された潤滑油は、シリンダブロック2の内部油路から半割軸受7の壁を貫通する貫通孔72を通り、半割軸受7の内周面の潤滑油溝71に供給される。潤滑油溝71内に供給された潤滑油は、一部は主軸受の内周面に供給され、一部はジャーナル部表面の図示しないクランク軸の内部油路の開口に侵入してクランクピン側へ送られ、一部は主軸受を構成する一対の半割軸受7、7のクラッシュリリーフ73表面とクランク軸のジャーナル部11表面との間の隙間を通じて、主軸受の幅方向両端から外部へ流出する。
【0029】
主軸受(半割軸受7)の幅方向両端から外部へ流出した潤滑油は、主に半割スラスト軸受8の摺動面81とクランク軸のスラストカラー12表面との間の隙間に流れる。
【0030】
クランク軸と変速機とがクラッチにより遮断された状態から接続された直後、軸方向のトルク反力が発生し、クランク軸にはクランク軸の回転力の出力側の端部から軸線方向力Fが衝撃的に入力し、クランク軸は出力側とは反対方向に変位する。そして、半割スラスト軸受8の摺動面81は、この軸線方向力Fを最大荷重として受けることになる。
【0031】
この際、潤滑油に異物が混入していると、クランク軸からの軸線方向力Fが衝撃的に半割スラスト軸受8の摺動面に加わる瞬間に、主軸受表面とジャーナル部表面との間の潤滑油に混入した異物は、潤滑油ともに変速機とは反対側の側面に配置される半割スラスト軸受8の摺動面81とクランク軸のスラストカラー12面との間に押し流される。
【0032】
(異物排出作用)
摺動面81とスラストカラー12との隙間に送られた異物は、
図6、7に示すように、潤滑油とともに逆くさび隙間(摺動面81の延長線と逆くさび面82との間の隙間)に侵入する。逆くさび隙間内に侵入した異物(
図6、7では、黒丸で示される)は、逆くさび隙間をクランク軸の表面(スラストカラー12の表面)に付随して流れる潤滑油とともに回転方向の先側へ向かって流れる。
【0033】
逆くさび面82は、
図6に示すように、回転方向の先側に向かってスラストカラー12の表面から離れるため、逆くさび隙間内を逆くさび面82の表面に沿って流れる潤滑油の油流は、回転方向の先側ほど次第に弱くなる。このため、潤滑油に混入した異物は、
図7に示すように、逆くさび隙間内を流れる間に、半割スラスト軸受8の外径側の端部から外部へ流出する潤滑油とともに外部へ排出されるようになる。
【0034】
異物の一部は、逆くさび隙間の回転方向の先側の端部にまで到達してしまうものの、逆くさび面82と摺動面81との間には段差面83が形成されているため、段差面83によって先側の摺動面81への異物の侵入が阻止され、異物は潤滑油とともに、半割スラスト軸受8の外径側の端部の隙間から外部へ排出される。
【0035】
なお、本実施例とは異なり、
図13に示すように、クランク軸の回転方向の先側に向って仮想摺動面に次第に近接する構成の「くさび面」を形成し、摺動面に隣接してクランク軸の回転方向の先側に向かって体積が次第に減少する「くさび隙間」を形成した場合には、隙間内を流れる潤滑油は流体力学的なくさび作用を受けて圧力が上昇し、周方向先側への流れが強められる。このため、このような「くさび隙間」を形成した場合には、異物が混入すると、摺動面が平滑である従来の半割スラスト軸受と比べても、異物は潤滑油とともに摺動面に送られやすくなるといえる。
【0036】
(効果)
次に、本実施例の半割スラスト軸受8の効果を列挙して説明する。
【0037】
(1)本実施例の半割スラスト軸受8は、内燃機関のクランク軸の軸線方向力を受ける半円環形状の半割スラスト軸受8であって、クランク軸を軸線方向に支承する摺動面81と、クランク軸の回転方向に向かって壁厚が薄くなるように形成される逆くさび面82と、を一方の側面に備えている。
【0038】
このため、逆くさび面82によって形成される逆くさび隙間により、潤滑油に混入する異物が、軸受外部に排出されて半割スラスト軸受8の摺動面81が損傷を生じにくくなる。
【0039】
(2)逆くさび面82のクランク軸の回転方向の先側の端部と摺動面81との間に、段差面83が形成されることによって、段差面83まで到達した異物の先側の摺動面81への侵入を阻止して排出しやすくなる。
【0040】
(3)逆くさび面82の最深部の摺動面81からの深さD1は、0.005mm〜0.075mmとすることによって、潤滑油の漏れ量を抑制しつつ異物の排出性を向上させることができる。
【0041】
すなわち、逆くさび面82の深さD1が0.005mm未満になると、クランク軸表面と逆くさび面82の離間が不十分となるため、逆くさび隙間を流れる油流を弱める効果が不十分となる。一方、深さD1が、0.075mmを超えると、逆くさび隙間の半割スラスト軸受8の外径側の端部から外部へ漏れ出る油量が多くなりすぎる。
【0042】
(4)逆くさび面82の周方向の範囲を規定する円周角度θは、5°〜35°にすることによって、異物の排出性が良好になる。
【0043】
すなわち、円周角度θが5°未満になると、逆くさび面82(逆くさび隙間)の長さが短すぎるため、逆くさび隙間に侵入した異物を含む油流を弱める効果が不十分となりやすい。一方、円周角度θが35°を超えると、逆くさび面82の長さが長くなり、逆くさび面82の軸回転方向の後方側に近い領域は軸表面に対して近接しすぎるため、逆くさび隙間に侵入した潤滑油の油流を弱める効果がほとんどなくなり、単に半割スラスト軸受の摺動面の面積を減少させることになる。
【0044】
ここにおいて、逆くさび面82の深さをD1とし、円周角度をθとしたときに、円周角度θごとの壁厚の減少率(D1/θ)(深さの増加率)が、0.0075〜0.015(mm/°)を満たすようにすると、異物排出性を有しながらも、過度な潤滑油の漏れ量も少なくできるため、特に好ましい。
【0045】
(5)本実施例の軸受装置1は、内燃機関のクランク軸としてのジャーナル部11と、クランク軸の径方向力を受ける一対の半割軸受7、7と、クランク軸の軸線方向力を受ける半割スラスト軸受8、8、8、8と、一対の半割軸受7、7を保持するために貫通形成される保持孔としての軸受孔5と半割スラスト軸受8、8、8、8を配置するために両側面に形成される受座6、6とを有する軸受ハウジング4と、を備えている。そして、軸受ハウジング4の両側面の受座6、6のうち、クランク軸の軸線方向力が入力される側とは反対側の側面の受座6には、上述したいずれかの1つ又は2つの半割スラスト軸受8が配置されている。
【0046】
このように、クランク軸の軸線方向力が入力される側とは反対側の側面の受座6に、上述したいずれかの1つ又は2つの半割スラスト軸受8を配置すれば、逆くさび面82によって形成される逆くさび隙間によって、潤滑油に混入する異物が、軸受外部に排出されて半割スラスト軸受8の摺動面81が損傷を生じにくくなる。
【0047】
ここで、クランク軸の軸線方向力Fの入力側には、本発明の逆くさび面82を有する半割スラスト軸受8を配置してもよいし、従来型の逆くさび面を有しない半割スラスト軸受を配置してもよい。
【0048】
軸受ハウジング4のクランク軸の軸線方向力Fが入力される側の側面の受座6にも、本発明の半割スラスト軸受8と同一形状の半割スラスト軸受が嵌め込まれることによって、両側面の半割スラスト軸受を共通の構成にできるうえ、誤組み付けを防止できるという効果がある。
【0049】
なお、入力側にも本発明の半割スラスト軸受8と同一形状の半割スラスト軸受を適用すると、クランク軸の回転方向が上述した実施例の説明とは逆になる。このため、同一形状の半割スラスト軸受の逆くさび面は、回転方向に向かって壁厚が厚くなる「くさび面」を形成することになる。しかし、軸線方向力Fの入力側の半割スラスト軸受には異物が送られ難い構造となっているため、摺動面が損傷する可能性は低い。さらに、「くさび面」によって、軸線方向力Fの入力側の半割スラスト軸受の摺動面への潤滑油の供給量を多くできるという効果もある。
【実施例2】
【0050】
以下、
図9〜
図12を用いて、実施例1とは別形態の半割スラスト軸受8B、8Cについて説明する。なお、実施例1で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0051】
(構成)
本実施例の半割スラスト軸受8B(8C)は、実施例1の半割スラスト軸受8と同様に、軸受ハウジングの両側面の受座6、6のうち、少なくともクランク軸の軸線方向力が入力される側とは反対側の側面の受座6に配置される。半割スラスト軸受8B、8Cの逆くさび面82の断面形状も、
図11、12に示すように、クランク軸の回転方向に向かって直線的に薄くなるように形成される。
【0052】
そして、本実施例の半割スラスト軸受8B、8Cでは、逆くさび面82のクランク軸の回転方向の先側の端部と摺動面81との間に、円弧状の油溝面84が形成されている。
【0053】
油溝面84は、逆くさび面82の異物排出性に影響しないように、逆くさび面82の軸回転方向の先側に形成される。なお、本実施例では、油溝面84が円弧状に形成される場合について説明したが、これに限定されるものではなく、その他の形状であってもよい。
【0054】
図11に示す半割スラスト軸受8Bと
図12に示す半割スラスト軸受8Cとでは、最深部の位置が異なっている。
図11の半割スラスト軸受8Bでは、逆くさび面82の最も先側の最深部が、油溝面84の最深部と一致するように配置されている。
図12の半割スラスト軸受8Cでは、逆くさび面82の最深部と、油溝面84の最深部とが一致しておらず、油溝面84の最深部のほうが深い位置にある。
【0055】
摺動面81から油溝面84の最深部DPまでの深さGDは、最小で逆くさび面82の深さD1以上とし、最大で1mm以下とする。つまり、深さGDが逆くさび面82の深さD1未満であると、油溝を半割スラスト軸受8B、8Cの周方向に流れる油流に伴って、異物が摺動面へ送られやすくなる。一方、深さGDが、1mmを超えると、油溝の半割スラスト軸受8B、8Cの外径側の端部から外部へ漏れる潤滑油量が多くなる。また、油溝面84の周方向の長さGLは、1mm〜5mmとする。
【0056】
また、油溝面84の最深部DPまでの深さGDと、油溝面84の最深部DPから油溝の摺動面側の端部との間の長さ(位置DPと摺動面側の端部の直線距離ではなく、半割スラスト軸受8B、8Cの仮想摺動面上での周方向の長さ)GL’(実施例3の
図11の構成では、GL’=GLとなる)との関係は、GL’/GD=0.5〜1.0とすることが好ましい。
【0057】
(作用・効果)
次に、本実施例の半割スラスト軸受8B、8Cの作用・効果を列挙して説明する。
【0058】
逆くさび面82のクランク軸の回転方向の先側の端部と摺動面81との間に、潤滑油を供給するための油溝面84が形成されることによって、異物排出性を高めつつ、潤滑油の供給性を高めることができる。すなわち、油溝面84によって半割スラスト軸受8B(8C)の内周側から潤滑油を供給しやすくなるとともに、逆くさび面82によって半割スラスト軸受8B(8C)の外周側から異物を排出しやすくなる。
【0059】
この場合、油溝面84の最深部DPまでの深さGDと、油溝面84の最深部DPから油溝の摺動面側の端部との間の長さGL’との関係は、GL’/GD=0.5〜1.0の範囲に設定することによって、油溝内を流れる潤滑油が流体力学的くさび作用の影響を受けにくく、油溝内に侵入した異物が摺動面へ送られることを抑制できる。
【0060】
なお、
図9、10に示すように、位置決め及び回転止めのために、半径方向外側に突出する突出部89を備える半割スラスト軸受8Bに、本発明を適用することもできる。また、半割スラスト軸受8Bの摺動面81と反対側の背面の周方向両端部には、テーパーTをつけて背面リリーフを形成することもできる。さらに、半割スラスト軸受8B、8Cの摺動面81の周方向両端部にはスラストリリーフを形成することもできる。半割スラスト軸受8B、8Cの円周方向長さは、実施例1に示す通常の半割スラスト軸受8よりも所定の長さS1だけ短くすることもできるし、周方向端部近傍において内周辺を半径Rの円弧状に切り欠くこともできる。
【0061】
この他の構成および作用効果については、実施例1と略同様であるため説明を省略する。
【0062】
以上、図面を参照して、本発明の実施例1、2を詳述してきたが、具体的な構成は、これらの実施例1、2に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0063】
例えば、本発明の半割スラスト軸受8は、クランク軸の軸線方向力の入力側(変速機側)とは反対側に配置される構成が好ましいが、本発明の半割スラスト軸受8を、クランク軸の軸線方向力の入力側(変速機側)と、入力側とは反対側の両側に配置したり、クランク軸の軸線方向力Fの入力側(変速機側)のみに配置することもできる。