特許第6116037号(P6116037)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6116037高温用途のためのサンボルナイト系ガラスセラミックシール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6116037
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】高温用途のためのサンボルナイト系ガラスセラミックシール
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0271 20160101AFI20170410BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20170410BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20170410BHJP
【FI】
   H01M8/02 S
   H01M8/12
   H01M8/02 K
【請求項の数】14
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-505593(P2016-505593)
(86)(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公表番号】特表2016-514886(P2016-514886A)
(43)【公表日】2016年5月23日
(86)【国際出願番号】US2014032192
(87)【国際公開番号】WO2014160948
(87)【国際公開日】20141002
【審査請求日】2015年11月9日
(31)【優先権主張番号】61/806,769
(32)【優先日】2013年3月29日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/836,234
(32)【優先日】2013年6月18日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】593150863
【氏名又は名称】サン−ゴバン セラミックス アンド プラスティクス,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(74)【代理人】
【識別番号】100188857
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 智文
(72)【発明者】
【氏名】シグノ・タデウ・レイス
(72)【発明者】
【氏名】マチウ・シュワルツ
(72)【発明者】
【氏名】モルテザ・ザンディ
(72)【発明者】
【氏名】イエシュワンス・ナレンダー
【審査官】 太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−174674(JP,A)
【文献】 特開2002−167265(JP,A)
【文献】 特表2013−516378(JP,A)
【文献】 特表2010−524193(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0273632(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00 − 8/0297
H01M 8/08 − 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン輸送デバイス要素であって、
a)基板と、
b)前記基板の表面の少なくとも一部をコーティングするシーリング要素において、ケイ酸バリウム相(BaSi21およびBaSi13)、ヘキサセルシアン相(h−BaO・Al・2SiOまたはh−BAS)、およびサンボルナイト相(BaO・2SiOまたはBS)、ならびに残存ガラス相を含み、10体積%未満の残存ガラス相および11〜12.8ppm/℃の熱膨張係数を有する、前記シーリング要素と
を含む、前記イオン輸送デバイス要素。
【請求項2】
SiO:BaOのモル比が、1:1と4:1との間である、請求項1に記載のイオン輸送デバイス要素。
【請求項3】
SiO:Alのモル比が、3:1〜7:1の範囲にある、請求項1に記載のイオン輸送デバイス要素。
【請求項4】
存在するSiOの量が、60.0モル%〜65.0モル%の範囲にある、請求項1に記載のイオン輸送デバイス要素。
【請求項5】
存在するAlの量が、4.0モル%〜10モル%の範囲にある、請求項1に記載のイオン輸送デバイス要素。
【請求項6】
前記シーリング要素が、0.4〜0.6の範囲のガラス安定度値(Kgl)を有する、請求項1に記載のイオン輸送デバイス要素。
【請求項7】
前記イオン輸送デバイスが固体酸化物燃料電池である、請求項1に記載のイオン輸送デバイス要素。
【請求項8】
前記イオン輸送デバイスが酸素輸送膜デバイスである、請求項1に記載のイオン輸送デバイス要素。
【請求項9】
前記シーリング要素が、5%未満の残存ガラス相を有する、請求項1に記載のイオン輸送デバイス要素。
【請求項10】
前記シーリング要素が、2%未満の残存ガラス相を有する、請求項1に記載のイオン輸送デバイス要素。
【請求項11】
シールコーティングをイオン輸送デバイスに適用する方法であって、
a)ケイ酸バリウム相(BaSi21およびBaSi13)、ヘキサセルシアン相(BaAlSi)、サンボルナイト相(BaSi)、および残存ガラス相を加熱時に形成するガラス組成物を形成する工程と、
b)前記ガラス組成物を粉砕して、500nmと10ミクロンとの間の範囲の平均粒径(d50)を有するガラス粉末を生成する工程と、
c)前記ガラス粉末をバインダおよび液体と混合してスラリーを形成する工程と;
d)前記イオン輸送デバイスの表面の少なくとも一部を前記スラリーでコーティングする工程と、
e)10体積%未満の残存ガラス相および10.5〜12.8ppm/℃の熱膨張係数(CTE)を有する結晶構造を有する前記イオン輸送デバイスにシールコーティングを形成するために、コーティングされたイオン輸送デバイスを加熱および焼結する工程と
を含む方法。
【請求項12】
前記コーティングされたイオン輸送デバイスを焼結させることが、前記コーティングされたイオン輸送デバイスを、800℃〜900℃の範囲の温度で2〜4時間の範囲の時間にわたって焼結させることを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記コーティングされたイオン輸送デバイスを加熱して、結晶構造を有するシールコーティングを形成することが、前記コーティングされたイオン輸送デバイスを、2〜6時間の時間で900℃〜1000℃の温度に加熱することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記コーティングされたイオン輸送デバイスを、2〜8時間の時間で1000℃〜1100℃の温度に加熱して、前記シールコーティング内の残りのガラスの体積%を低減させることをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、固体酸化物燃料電池に関し、特に、固体酸化物燃料電池スタックまたは酸素輸送膜用途のための改良されたガラスセラミックシールに関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物燃料電池(SOFC)は、化学反応によって電気を発生するデバイスである。図1は、複数の積層された「セル」を含む従来のSOFCアセンブリを示しており、各セルが、アノード層102、カソード層104、および電解質層106を含んでいる。燃料電池は、その電解質材料によって典型的には特徴付けられ、SOFCは、固体酸化物またはセラミック電解質を有している。
【0003】
SOFCの作動の際、酸化剤、通常は空気が、カソード104によって画定される複数のエアチャネル108を通って供給される一方で、燃料、例えば水素ガス(H)は、アノード102によって画定される複数の燃料チャネル110を通って供給される。典型的には、酸化剤および燃料チャネルは、互いに直角で配向している。アノードおよびカソード層は、電解質層106によって分かれている。作動の際、酸化剤は、カソードにおいて酸素イオンに還元される。これらの酸素イオンは、固体酸化物電解質を通ってアノードに拡散することができ、ここで、これらのイオンは、燃料を電気化学的に酸化することができる。この反応において、副生成物の水、ならびに2つの電子が放出される。これらの電子は、アノードを通って外部回路(図示せず)に輸送され、次いで、カソードに戻り、外部回路において電気エネルギー源を付与している。
【0004】
外部回路における電子の流れは、約1ボルトのオーダーで電位を供給する。より大きな電圧を発生させるために、燃料電池は、「相互接続」接合し直接隣接するセルを通って電流を伝導させる多数の個々のセルから構成される「スタック」で典型的には配置される。図1のスタックの設計は、平板または「平面」SOFCであり、3つの別個の「セル」が、繰り返し配列で配置されて示されている。隣接するセルは、各セルが発生する電気が合わされ得るように直列に各セルを接続する働きをする相互接続112によって分離されている。
【0005】
平面SOFC構成は、他のタイプの燃料電池よりも多くの利点を有するが、燃料−酸化剤の混合を防止しかつスタックを電気的に絶縁するのに適切なシーリングを付与することが難しい。シール漏れは、不十分なデバイス性能(燃料電池不良を含む)、コストのかかるデバイスメンテナンス、および安全関連の問題をもたらす可能性がある。平面SOFCでは、シーラントがセルの他の全ての要素に接触するため、厳しい要件にさらされる。好適なシーリング材料は、非導電性でなければならず、また、SOFCの非常に高い作動温度(典型的には800〜850℃)で機能することができ、酸化および還元両方の環境、ならびに作動の際にSOFC内で発生する反応ガスに耐性を有することが可能でなければならない。
【0006】
シーリング材料は、高温および繰り返される熱サイクルで、長時間の稼働に耐え抜くことが可能でなければならない。シーリング材料は、セル要素の熱膨張率と異なる率で膨張するとき、シーリング材料がクラッキングするか、またはセル要素のクラッキングを引き起こすかのいずれかであり得る。結果として、シール材およびスタック要素の熱膨張係数(CTE)は、SOFCの作動の際にシーラントとセルとの間の熱応力を回避するために、可能な限り近く保たれている。
【0007】
ガラスセラミックスは、最も有望なシーラントの1つである、なぜなら、ガラスの結晶化(すなわち、結晶の性質、形状および体積分率)を制御することによって、材料のCTEを調整して、セル要素、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、ランタンストロンチウムチタネート(LST)、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)、および酸化ニッケル−YSZ複合体などのCTEと一致させることができるからである。また、ガラスセラミックスは、機械的堅牢性、セル作動温度における長期安定性、電気的絶縁挙動、セル要素の良好な湿潤、ならびに、ペーストに分散されたガラスフリット粉末としてまたは後に焼結および結晶化の熱処理に付されるテープキャストシートとしてシールされる表面への容易な適用を示す。
【0008】
本発明の譲受人に譲渡されている、「Thin,Fine Grained and Fully Dense Glass−Ceramic Seal for SOFC stack」に関する、Pariharらによる米国特許出願第2011/0200909号は、サンボルナイト(BaO.2SiO)結晶相、ヘキサセルジアン(BaO.Al.2SiO)結晶相、および残存ガラス相を含むシールを教示している。ガラスセラミックスのサンボルナイト含有率の増加が、結果としてのCTEの増加をもたらして、SOFCスタックとの良好な一致を付与することができる一方で、結晶化後に高いサンボルナイト含有率を有する母材ガラスは、最適な焼結挙動を示さず、結果として、熱処理(焼結+結晶化)後に多孔質のシール層を生ずる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そのため、固体酸化物燃料電池スタックのための改良されたガラスセラミックシールが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、概して、イオン輸送デバイス、例えば固体酸化物燃料電池スタックまたは酸素輸送膜用途のためのガラスセラミックシールを対象とする。本発明の好ましい実施形態は、SOFCセル/スタックの全体のCTE(好ましくは、約11〜12.8ppm/℃)と厳密に一致するのに十分高い熱膨張係数、良好な焼結挙動、および非常に少ない残存ガラス相(シールの安定性に寄与する)を示す、バリウム−アルミニウム−シリカ系をベースとしたガラスセラミックシーラント材を含む。
【0011】
上記は、後に続く本発明の詳細な説明をより良好に理解することができるように、本発明の特徴および技術的利点をむしろ広範に概説している。以下に、本発明のさらなる特徴および利点を説明する。開示されている概念および具体的な実施形態は、本発明の同じ目的を実行するために他の構造を修飾または設計するための基礎として容易に利用され得ることが当業者に認識されるべきである。また、かかる等価の構造は、添付の特許請求の範囲に記載されている本発明の精神および範囲から逸脱しないことも当業者に理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本開示は、より良好に理解され得、その多くの特徴および利点が添付の図を参照することによって当業者に明らかになる。
図1図1は、複数の積層された「セル」を含む従来のSOFCアセンブリを示す。
図2図2は、本発明の実施形態によるガラスセラミックシーラント材によってコーティングされたSOFCアセンブリを示す。
図3図3は、本発明の実施形態によるシーラント材を焼成するための、種々の加熱プロファイルとCTEとの関係のグラフ表示である。
図4図4は、LSM基板と、本発明の実施形態に従って作製されたシーラント材との間の熱応力を示すグラフである。
図5図5は、21%の残存ガラスを生ずる典型的な2工程焼成プロセスを用いて作製された従来技術のシーラント材を示すSEM顕微鏡写真である。
図6図6は、2%の残存ガラスを生ずる、本発明の実施形態による3工程焼成プロセスによって作製されたシーラント材を示すSEM顕微鏡写真である。
図7図7は、空気中、850℃で6000時間にわたって2つの異なる3工程加熱サイクルによって形成された実施形態によるシールの長期熱安定性を示すグラフである。
図8図8は、3工程焼結サイクル(850℃2時間+960℃2時間+1050℃2時間)でシールした、本明細書における実施形態による系Aおよび系BのガラスのXRD分析の結果を示すグラフである。
【0013】
添付の図は、スケール通りに描かれることは意図されていない。図において、種々の図に示されている同一または略同一の各要素は、同様の数字によって表されている。明確さのために、全ての図において、全ての要素について標識していない場合がある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態は、イオン輸送デバイス、例えば固体酸化物燃料電池(SOFC)システムにおいて用いられ得る。SOFCは、低放出および低ノイズ作動で高効率の発電の可能性を付与する。SOFCはまた、電気効率、コジェネレーション効率、および燃料加工の簡素さの好ましい組み合わせも付与すると見られる。SOFCの使用の一例は、住居または他の建造物におけるものである。SOFCは、住居を加熱するのに用いられる同じ燃料、例えば天然ガスを用いることができる。SOFCシステムは、発電して住居に電力を供給するように長時間にわたって運転することができ、過剰量が発電されると、過剰分は、電気グリッドに供され得る。また、SOFCシステムにおいて発生した熱は、住居に熱水を提供するのに用いられ得る。SOFCは、電気サービスが信頼できないまたは存在しないエリアにおいて特に有用であり得る。
【0015】
固体酸化物燃料電池(SOFC)におけるガラスセラミックシールは、燃料電池のフレームと燃料電池に含有される電解質との間の堅牢な気密シールを提供することが意図される。シーリング材料は、高温(典型的には800〜850℃)での長時間の供給、酸化および還元雰囲気において作動の際に繰り返される熱サイクル、ならびに作動の際にSOFC内で発生する反応ガス(H、CO、CO、HO、CH、NO、SOを含む)との接触に耐え抜くことが可能でなければならない。
【0016】
シーリング材料は、CTEがSOFCセル/スタック要素のCTEから離れすぎていると、シーリング材料がクラッキングする場合があるか、またはセル/スタック要素においてクラックを発生させる場合があるかのいずれかである。かかるクラッキングは、シーリングプロセス、すなわち、作動の前に行われる、SOFCセル/スタックにおけるシール材の熱処理(焼結および結晶化)の際、および燃料電池/スタックの作動に関連する熱サイクリングの際の両方で起こり得る。後者に関しては、作動中の、セル/スタックまたはシーラントのクラッキングが、短期間および長期間の両方において起こり得る(すなわち、作動の際に作動状態もしくは安定な温度に至るまでの最初の加熱の際、またはSOFC設備のシャットダウン後の冷却/再加熱の際)。シーリング材料またはSOFCセル/スタックによって経験される不良は、例えば、シーラントとセル/スタック要素との間の過剰な熱膨張ミスマッチ、およびSOFC作動状態でのSOFCセル/スタックにおける非熱的に安定なシーラントの使用に原因があり得る。
【0017】
SOFC作動の際またはシャットダウンおよび再始動操作の際のシーラントとセル/スタックとの間の熱応力を低減させるために、シール材の熱膨張係数(CTE)は、SOFCセル/スタックのCTEに可能な限り一致させるように適合され得る。このことは、シーラントの組成を変更することによって達成され得る。一般的な解決策は、熱応力を最小にするために、SOFCセル/スタックの全体のCTEと厳密に一致するCTEを有するガラスセラミックシールを設計することである。ゼロの熱応力が一般に望ましいが、SOFCセル/スタックとシールとの間の熱応力をゼロに維持するのは困難である。異なるセラミック酸化物(LSM、NiドープトYSZ、YSZ)の相から構成されているSOFCセル/スタックにおいて、SOFCセル/スタック要素自体の間で発生する引張応力は望ましくない、なぜなら、セラミック材料があまり高い引張強度を有さないからである。いくらかの熱応力が典型的には存在するということを考えて、出願人らは、シールのCTEがSOFCセル/スタックのCTEと比較して引張よりもむしろ圧縮を結果として生じさせると、SOFCセル/スタックにとってより有益であるということを発見した。そのため、有益な小さな応力をSOFC要素に付与するためには、シール層を、最小応力(例えば、シールとスタックとの間のCTEミスマッチが0ppm/℃超であるが;3ppm/℃以下、または1ppm/℃以下でさえある)下に保つことが高度に望ましい。
【0018】
本発明の実施形態は、所望の焼結性およびCTEを達成するという点において非常に有利な挙動を有するシーラント組成物およびかかる組成物を形成する方法を提供し、これらは、シーラントとSOFCセラミック要素との間のCTEミスマッチに起因したSOFCセル/スタックにおける熱応力を最小にすることによって、SOFC寿命を長くすることに寄与する。本発明によるシーラントは、シールが高CTE材料、例えば酸素輸送膜、H輸送膜、セラミック膜反応器間で必要とされる種々のイオン輸送デバイスに、または高温電気分解による使用のために適用され得る。
【0019】
本発明の好ましい実施形態は、バリウム−アルミニウム−シリカ系をベースとしたガラスセラミックシーラント材を含むことができる。より詳細に以下に記載されているように、かかるシーラント材は、SOFCセル/スタックの全体のCTE(好ましくは、約11〜12.8ppm/℃)と厳密に一致するのに十分高い熱膨張係数、良好な焼結挙動、および非常に少ない残存ガラス相(シールの安定性に寄与する)を示すことができる。
【0020】
本明細書に記載のシール材および方法はまた、SOFCおよび非SOFC用途の両方において、高CTE(例えば、約10ppm/℃超)を有する2つの構造、材料または基板間で結合を形成するためにも用いられ得る。例えば、本発明によるガラスセラミックシール層は、SOFCスタックと、ガスを当該スタックに送達するためのマニホールドとの間の結合を形成するのに用いられ得る。本発明によるガラスセラミックシール材はまた、電気化学システムにおける可能性のある用途、構造用途などでのセラミック、金属、金属−セラミックスの結合を含めた、非SOFC用途で種々の高CTE材料を結合するのにも用いられ得る。
【0021】
ある実施形態によると、本発明のシーラントは、3つの相:ケイ酸バリウム相(BaSi21およびBaSi13)、ヘキサセルシアン相(h−BaO.Al.2SiOまたはh−BAS)、ならびにサンボルナイト相(BaO.2SiOまたはBS)の複合混合物において結晶化することが見出されているバリウム−アルミナ−シリカ系をベースとすることができる。これらの相は、それぞれ、10ppm/℃、8.0ppm/℃、および13.0ppm/℃付近のCTEをそれぞれ有する。最終のガラスセラミックシールにおける3つの相の相対百分率は、(1)母材ガラスの組成、ならびに(2)適用される熱処理(焼結および結晶化の両方を含む)によって決定される。かかるガラスセラミックスのサンボルナイト含有率の増加は、結果としてのCTEの増加をもたらし、シーラントのCTEを、より高い平均CTE(例えば、平均12〜12.5ppm/℃のCTE)を有するSOFCスタック設計に適応させることを可能尾にする。しかし、ガラスセラミックの最終のサンボルナイト含有率が高すぎると、ガラス状化合物の焼結挙動が悪影響を受ける。本発明の好ましい実施形態において、サンボルナイト含有率は、約60体積%〜約90体積%、より好ましくは、約85体積%〜90体積%の範囲である。
【0022】
より詳細に以下に記載されているように、ガラスセラミックシーラント材は、例えば、本明細書に記載の適量(モル%)の予備焼成アルミナ(Al)、炭酸バリウム(BaCO)、およびシリカ(SiO)を含有する粉末混合物を溶融することによって調製され得る。いくつかの好ましい実施形態において、例えば水酸化バリウム、石英、湿潤アルミナなどの種々の出発原料を用いることができる。得られた材料は、再凝固されて、0.5〜10ミクロン、より好ましくは0.7〜4ミクロンの範囲の平均粒径を有し、d5が約5ミクロン、d50が約1ミクロン、d90が約0.5ミクロンであるような粒度分布を有するガラス粉末に破砕されてよい。ガラス粉末は、バインダおよび液体と混合されてスラリーを形成することができ、また、スプレーにより適用されて、図2に示すようにSOFCスタックの表面をコーティングすることができる。最適な焼成条件(後述)でシーリング後、ガラスセラミックがセラミック要素に結合して、アノード、電解質、およびカソード(ニッケル−YSZ、YSZ、およびLa−SrMnO−LSMからそれぞれ形成され得る)間に気密シールを形成することにより、漏れ止めシールによって燃料ガスを酸素ガスストリームから分離する。
【0023】
本発明の好ましい実施形態は、存在するSiOの量が、約60〜65モル%、好ましくは、約62〜63モル%、より好ましくは、約62.3モル%であるバリウム−アルミナ−シリカシーラントを含む。存在するBaOの量は、約25〜35モル%、好ましくは、約30〜32モル%、より好ましくは、約31.2モル%である。存在するAlの量は、約3〜15モル%、好ましくは、約5〜10モル%、より好ましくは、約6.5モル%である。存在するTiOおよびZrOの量は、0〜4モル%である。SiO:BaOのモル比は、好ましくは、約1:1と約4:1との間、より好ましくは、約2:1である。SiO:Alのモル比は、好ましくは、約1:1と約10:1との間、約3:1と約6:1との間、より好ましくは、約4.8:1である。
【0024】
後述する熱サイクルに関連して、本発明の実施形態は、残存ガラスが10%未満、例えば5%未満、3%未満、2%未満、または1%未満でさえある安定なガラスセラミックシールを提供することができる。また、本発明の実施形態は、約11〜12.8ppm/℃のCTEを提供することができる。かかるシールは、酸素輸送膜(OTM)−例えば、約11ppm/℃のCTEを有するOTM、またはSOFCセル/スタック−例えば約12.0ppm/℃の平均CTEを有するSOFCでの使用に特に有用である。
【0025】
好適なCTE値に加えて、本発明によるSOFCシール用途に好適なシール材は、無孔の漏れ止めシールを形成するのに用いられ得るような良好な焼結性も示すべきである。ガラスセラミック材料では、通常、ガラス転移温度(T)を超えてガラス成形体を加熱する際、焼結および結晶化プロセス間で競争がある。所与の加熱速度における所与のガラス粉末に関しての焼結および結晶化開始温度間の差が大きいほど、結晶化前の焼結が容易である。
【0026】
示差走査熱量測定(DSC)は、ガラス転移温度(T)、ガラス結晶化開始温度(T)、および溶融温度(T)を含めた、ガラスサンプルの加熱の際の種々の熱事象の発生を特定する技術として広く用いられている。ガラス粉末の焼結は、ガラス転移温度(T)を僅かに超える温度で始まり、結晶化開始温度(T)で大幅に減速する。そのため、Δ(T−T)として表される基準は、所与の加熱速度における所与の組成のガラス粉末成形体の焼結性に関する良好な指標である。
【0027】
本発明の好ましい実施形態のガラス組成物は、ガラス結晶化温度(T)とガラス転移温度(T)との間の差が、約20℃/分の加熱速度で、約100℃と約400℃との間の範囲内、好ましくは、約150℃超、より好ましくは、約160℃超であることができる。
【0028】
ガラスの焼結性を決定する別の方法は、上記のようにDSC分析を用いて、ガラスの熱的特性を用いて決定することができるHruebyパラメータ(Kgl=[(T−T)/(T−T)])の使用によるものである。より高いKgl値を有するガラスは、より低い結晶化傾向を有し、これによりガラスの焼結をより容易にする。本発明の好ましい実施形態のシール材は、約0.4超、より好ましくは、約0.5超、またはより好ましくは、約0.6超のKgl値さえも有することができる。いくつかの実施形態において、シール材のKglの上限値は約0.9である。
【0029】
一実施形態において、本発明は、セラミック基板、例えば、典型的な平面SOFCにおいて用いられるセラミック材料のうち1種以上に適用されるシール材を対象とする。標準のSOFCを形成するのに用いられる典型的なセラミック材料として、NiOおよびイットリア安定化ジルコニア(YSZ)複合体(アノードを形成するのに用いられる)、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)(カソードを形成するのに用いられる)、YSZ(電解質層を形成するのに用いられる)、ならびにランタンストロンチウムチタネート(LST)(相互接続層を形成するのに用いられる)が挙げられる。これらの材料について膨張率測定分析によって測定されたCTE値を表1に列挙する。
【表1】
【0030】
本発明の好ましい実施形態によるシーラントでの使用に好適なガラスは、本明細書に記載の適量(モル%)の予備焼成アルミナ(Al)、炭酸バリウム(BaCO)、およびシリカ(SiO)を含有する粉末混合物を溶融することによって調製され得る。この溶融は、約1500℃と約1600℃との間の範囲内の温度において、ジュール加熱された白金坩堝において行われ得る。溶融物は、約1時間と約3時間との間の時間にわたって精製され得、次いで水急冷され、結果としてガラスフリットを生ずることができる。得られたガラスフリットは、0.5〜10ミクロン、より好ましくは0.7〜4ミクロンの範囲の平均粒径を有し、d90が約5ミクロン、d50が約1ミクロン、d5が約0.5ミクロンであるような粒度分布を有するガラス粉末を生成するように、遊星型ボールミル粉砕されて、篩い分けされ得る。
【0031】
得られる粉末の粒度分布(PSD)および比表面積(SSA)は、例えば、Horiba(Horiba Instruments,Inc.,Irvine,CA)LA920レーザー散乱PSD分析装置およびMicromeritics(Micromeritics Instrument Corp.,Norcross,GA)Tri−Star ASAP 2000 SSA分析装置を用いてそれぞれ決定され得る。
【0032】
ガラス粉末は、ポリマー性バインダおよび有機溶媒と混合されて、ガラス粒子のスラリーを生成することができる。このスラリーは、次いで、種々の技術、例えば、エアースプレー、プラズマスプレー、およびスクリーン印刷などによって固体酸化物セラミック部分または他の好適な基板に薄層として堆積され得る。好ましい技術は、エアースプレーである。次いで、コーティングされた基板(「サンプル」)が、注意深く制御された条件下に加熱されて、ガラス層を焼結および結晶化し、薄い、無孔の、高度に結晶化された漏れないシール層を基板上に形成することができる。
【0033】
シール材を焼結および結晶化するための加熱は、典型的な2段階焼成プロセスに中間結晶化加熱工程が添加された3段階プロセスで好ましくは行われるが、いくつかの実施形態においては、2段階または1段階プロセスさえも用いられ得る。2つ以上の中間結晶化加熱工程が用いられてもよい。本明細書に記載の加熱段階は、サンプル、例えばSOFCスタックを、従来のオーブンまたは炉において3MPa未満の圧力で加熱することによって実施され得る。3段階プロセスの第1工程において、シール材は、約800〜850℃の温度で約2〜4時間にわたってコーティング基板を加熱することによって焼結および緻密化を経る。
【0034】
次に、サンプルが、約2〜6時間の時間で約895〜960℃の温度に加熱されて、シール材が核形成および結晶化を経ることを可能にする。この中間加熱段階(2部結晶化プロセスにおける第1工程)は、シール材の溶融が起こらない、シーリング材料の融点よりも十分に離れて低くあるべきである。この加熱工程は、上記3つの相:BaSi21およびBaSi13のケイ酸バリウム相(約10ppm/℃のCTEを有する)、h−BaO.Al.2SiOまたはh−BASのヘキサセルシアン相(約8ppm/℃のCTEを有する)、ならびにH−サンボルナイトBaO.2SiOまたはBSの相(約13.5ppm/℃のCTEを有する);の全体的な微細構造の形成を引き起こす。重要なことに、ケイ酸バリウム相は、895℃で結晶化し始め、ヘキサセルシアン相は、約950℃で結晶化し始める。また、この中間工程の持続は、ケイ酸バリウムおよびヘキサセルシアン相の結晶化の継続を助ける。このように、この中間結晶化工程は、ケイ酸バリウムおよびヘキサセルシアン相の結晶化を開始および助成するのに重要である。この中間工程を省略する加熱サイクルは、最終のシールにおいて密度がより低く結晶化相の百分率がより小さいシールを生じ易いことに注意されたい。有意なことに、この結晶化工程は、不規則な構造を示す単斜晶系高温サンボルナイト多形(H−サンボルナイト)の多くの極めて微細な結晶の結晶凝集体からなるスフェルライト結晶形成を通して主に進行する。いくつかの実施形態において、2つ以上の中間結晶化加熱段階が用いられてよい。中間結晶化加熱工程は、最終のシールにおけるより大きな結晶化相百分率、およびより小さな残存ガラス相百分率に寄与する。
【0035】
最後に、サンプルは、約2〜8時間の時間で約1000〜1100℃の温度に加熱されて、シール材が微細構造の強化を経ることを可能にし、結果として、L−サンボルナイト多形の形成およびL−サンボルナイト対H−サンボルナイト比の漸進的増加をもたらすことができる。同時に、H+Lサンボルナイト対他の相の比もまた、この最終の加熱期間の際に漸進的増加を示すが、残存ガラスの百分率は漸進的に低減される。結果として、シール材のCTEが有意に増加する。好ましい実施形態において、残存ガラスの百分率は、20体積%から1体積%未満まで減少し得るが、CTEは、約10ppm/℃から約12.5ppm/℃まで上昇する。
【0036】
サンプルにおけるシールコーティングは、室温で約1ミクロンと約500ミクロンとの間の範囲で加熱した後の厚さを有し得る。いくつかの実施形態において、サンプルにおけるシールコーティングは、室温で約10ミクロンと約250ミクロンとの間の範囲で加熱した後の厚さを有し得る。他の実施形態において、サンプルにおけるシールコーティングは、室温で約20ミクロンと約100ミクロンとの間の範囲で加熱した後の厚さを有し得る。
【0037】
さらに、シール厚さは、コーティング−乾燥−コーティング−乾燥−焼成またはコーティング−乾燥−焼成−コーティング−乾燥−焼成アプローチを繰り返し用いてシールの厚さを増大させることにより、具体的な目的に適合するように制御され得る。ガラススラリーコートは、乾燥されてよく、連続するコートが、乾燥したガラス粉末に繰り返し堆積されて、所望の厚さを得ることができる。それぞれの連続するコートについて、前のコートを乾燥させた後で別のコートを適用することが好ましく、次いで、複数のコートシールを単一の熱処理において一緒に焼成することができる。代替的には、シール材の追加の層を既に焼成されたシール層の上部に堆積することができ、プロセスを複数回繰り返して所望のシール厚さを達成することができる。
【0038】
上記方法は、バインダを除去した後、コーティングサンプルを、約1時間と約24時間との間の範囲の時間で約300℃と約500℃との間の範囲の温度に加熱することによって、サンプルを焼結させることをさらに含むことができる。
【0039】
結晶化工程の際に形成される結晶のサイズが小さいほど、得られるシールの機械的特性がより良好である。結晶サイズは、Δ(T−T)の値を決定する出発ガラスの組成によって、および出発ガラス粉末の粒子のサイズによって決定される。好ましい実施形態において、形成される結晶の大部分が、<5ミクロンのサイズであり、より好ましくは、形成される結晶の大部分が、<1ミクロンのサイズである。
【実施例】
【0040】
種々のサンプルのガラス粉末混合物を、原料粉末を溶融することによって、例えば、これらを約1550〜1700℃の温度の電気オーブンまたはSheffield炉内のPt−Rh坩堝に1〜3時間置くことによって調製した。ガラス溶融物を恒久的に撹拌し、適切なガラス均質性を確保した。溶融後、ガラスを水中で急冷し、0.1〜10mのガラス状粒子を形成した。サンプルのガラスフリットの組成を表2に示す。
【表2】
【0041】
示差走査熱量測定(DSC)測定を、Netzsch(Netzsch GmbH,Selb,Germany)DSC 404C装置を用いて約20および5℃/分の加熱速度でPt−Rh坩堝において室温から1350℃まで実施し(加熱速度は各図において正確に記されている)、各サンプルの測定を、ベースライン取得およびサファイア校正のランに先立って行った。ガラスフリットの焼結挙動を、アルゴン雰囲気および5gの負荷の適用下で室温から1100℃まで5℃/分で加熱してSetaram(SETARAM,Inc.,Newark,CA)SETSYS熱機械分析計(TMA)によって研究した。ベースライン補正をこれら測定に適用した。ガラス粉末サンプルを1400kgの負荷下で7×1×0.8cmのスチール製ダイを用いてコールドプレスして棒材を形成し、その後、これを、800、850、900、950、1000、1050および1100℃(5℃/分の加熱および冷却速度)において2時間の恒温からなる種々の熱処理に付した。
【0042】
DSCによる熱分析は、ガラス転移温度(T)、ガラス結晶化反応開始温度(T、および結晶相の溶融温度または系において起こる任意の吸熱過程(T)の決定を可能にする。系A〜Fについてのこれらの点の温度値を各サンプルについてのΔ(T−T)およびHruebyパラメータ(Kgl)値と一緒に以下の表3に列挙する。
【表3】
【0043】
上記3段階焼成プロセスを用いてガラス系A〜Cのガラスから得たガラスセラミックにおいて熱膨張測定を行った。系A〜CについてのCTE値を表5および表6にまとめる。
【表4】
【0044】
表2〜4に示す値から、ガラス系Bは、最大のΔ(T−T)およびKgl値のうちの1つを有しながらも、最高のCTEを有するため、シーリング用途に最も望ましいと思われる。ガラス系Bは、それゆえ、良好な焼結性を依然として維持しながら、基板のCTE値を、例えば12〜12.5の範囲のCTEを有するSOFCにさらに一致させ易い。
【0045】
表3に示すDSC熱分析値を、異なる出発ガラス粉末粒径を有する系Bの3つの異なる配合について以下の表5に列挙する。
【表5】
【0046】
ガラス系Bのさらに綿密な実験は、種々の温度および加熱時間における、上記第3加熱工程の際のサンプル特性の変化を示す。以下の表6は、まず、(2段階焼成プロセスのみを用いて)本明細書に記載の3段階プロセスを用いずに作製したガラス系Bの特性を示す。次いで、種々の加熱パラメータにおいて第3加熱工程(段階3)を用いて作製したガラスBの特性を示す。この表は、それぞれ異なる加熱プロファイルについての、最終CTE値(ppm/℃)、CTE測定の標準偏差(STDEV)、および残存ガラスの百分率を示す。表6に示すように、温度が上昇し、かつ/または加熱時間が増加すると、サンプル材料におけるサンボルナイトを基準にした結晶相の量が増加するため、同時に残存ガラスの百分率が減少しながら、CTEの増加をもたらす。
【表6】
【0047】
図3は、系Bの組成についての、加熱過程とCTEとの関係のグラフ表示である。グラフは、4つの異なる温度/時間プロファイルについての最終加熱工程後のCTE値を示す。中実の色棒(各対の左側)に示されているサンプルについて、サンプルを、図3に示されている、850℃で2時間加熱する最初の加熱段階、続いての最終加熱段階を有する2段階焼成プロセスを用いて処理した。ハッシュ状の棒(各対の右側)に示されているサンプルについて、サンプルを、図3に示されている、850℃で2時間加熱する最初の加熱段階、960℃で2時間加熱する第2段階、続いての最終加熱段階を有する3段階焼成プロセスを用いて処理した。図3に示すように、3段階焼成プロセスにより、焼成サンプルについて有意により高いCTE値が得られた。最終加熱工程(またはより早い加熱工程)に用いる温度は、サンプル材料、厚さ、ならびに所望の最終CTEおよび結晶フラクションに応じて調整される必要がある場合がある。
【0048】
図4は、LSM基板と、2段階プロセスを用いて焼成された上記系Bの組成物(「STD」としてx軸上に示される)および異なる3段階加熱プロファイルを用いて焼成された組成物Bとの間の熱応力のグラフを示す。図4に示すように、第3の加熱プロファイル(1050℃で4時間)により、約−1MPaの熱応力による圧縮下でシールが生じる。
【0049】
本発明の好ましい実施形態はまた、従来技術のシールと比較してかなり低減された残存ガラス百分率も示す。より低い残存ガラス百分率は、時間とともにより安定であるシールを生じるという点で望ましい。例えば、図7は、SOFC作動条件において6000時間超で2つの異なる3工程加熱サイクルによってシールされた系Bについての長期熱安定性を示す。図5は、サンプルを850℃で2時間加熱し、続いて960℃で2時間の最終加熱段階を行う2工程の最終加熱段階を用いて作製した従来技術のシールを示すSEM顕微鏡写真である。図5に示したサンプルを作製するのに用いたシーラント材および最終加熱プロセスにより、21%の残存ガラスを有するシールが得られた。対照的に、図6は、系Bの組成(上記)、ならびに850℃で2時間の最初の焼結加熱工程、960℃で2時間の中間結晶化加熱工程、および1050℃で2時間の最終結晶化加熱工程からなる最終加熱プロファイルを用いて作製した本発明によるシールを示す。図6に示したサンプルを作製するのに用いたシーラント材および最終加熱プロセスにより、わずか2%の残存ガラスを有するシールが得られた。表6に示すように、3段階加熱サイクルにおいて1050℃の最終加熱工程をさらに2時間延長することにより(合計4時間)、1%未満の残存ガラス相を有するシールが得られた。
【0050】
漏れ速度試験
上記ガラス系Bから得られたガラスセラミックディスクにおいて、ヘリウム漏れ速度試験を実施した。ディスクは直径1インチ(2.54cm)であり、これを、ワックスシールで周囲をシールした容器に置いた。容器の内側からディスクの一方の端部に真空を適用し、ディスクの反対側にヘリウムを供給し、ディスクの面積に正規化した。漏れ試験を室温で実施した。ヘリウムに関する漏れ試験結果は、5.6×10−10mbarL/Scmであった。換算すると8.8×10−9sccsであり、これは、3.3×10−9sccsの水素漏れ速度に相当する。
【0051】

項1:イオン輸送デバイス要素であって:
a)基板と;
b)基板表面の少なくとも一部をコーティングするシーリング要素において、ケイ酸バリウム相(BaSi21およびBa3Si5O13)、ヘキサセルシアン相(h−BaO.Al.2SiOまたはh−BAS)およびサンボルナイト相(BaO.2SiOまたはBS)、ならびに残存ガラス相を含み、約10体積%未満、約6体積%未満、約2体積%未満、または約1体積%未満の残存ガラス相、および約11〜12.8ppm/℃の熱膨張係数を有する、上記シーリング要素と
を含む、上記イオン輸送デバイス要素。
【0052】
項2:イオン輸送デバイス要素であって:
a)基板と;
基板表面の少なくとも一部をコーティングするシーリング要素において:
i)残存ガラス相と;
ii)ケイ酸バリウム相および/またはヘキサセルシアン相と;
iii)サンボルナイト相と
を含み、約10体積%未満、約6体積%未満、約2体積%未満、または約1体積%未満の残存ガラス相、および約11〜12.8ppm/℃の熱膨張係数を有する、上記シーリング要素と
を含む、上記イオン輸送デバイス要素。
【0053】
項3:SiO:BaOのモル比が、約1:1〜約4:1、約1.5:1および約2.5:1、または約2:1である、上記項のいずれかに記載のシーリング要素。
【0054】
項4:SiO:Alのモル比が、約3:1〜約7:1または約4:1〜6:1である、上記項のいずれかに記載のシーリング要素。
【0055】
項5:存在するSiOの量が、約60.0モル%〜約65.0モル%の範囲にある、上記項のいずれかに記載のシーリング要素。
【0056】
項6:存在するAlの量が、約4.0モル%〜約10モル%の範囲にある、上記項のいずれかに記載のシーリング要素。
【0057】
項7:室温で約1ミクロン〜約500ミクロンの範囲にある厚さを有する、上記項のいずれかに記載のシーリング要素。
【0058】
項8:室温で約10ミクロン〜約250ミクロンの範囲にある厚さを有する、上記項のいずれかに記載のシーリング要素。
【0059】
項9:室温で約20ミクロン〜約100ミクロンの範囲にある厚さを有する、上記項のいずれかに記載のシーリング要素。
【0060】
項10:ガラス結晶化温度とガラス転移温度との間の差が、約5℃/分の加熱速度で約200℃〜約300℃の範囲、約5℃/分の加熱速度で約190℃と約250℃との間、または約5℃/分の加熱速度で約200℃未満である、上記項のいずれかに記載のシーリング要素。
【0061】
項11:ガラス安定度値(Kgl)が、0.4と0.6との間の範囲、0.5と0.7との間の範囲、0.4超、0.5超、または0.6超である、上記項のいずれかに記載のシーリング要素。
【0062】
項12:イオン輸送デバイスが固体酸化物燃料電池である、上記項のいずれか。
【0063】
項13:イオン輸送デバイスが酸素輸送膜デバイスである、上記項のいずれか。
【0064】
項14:固体酸化物燃料電池であって:
a)複数のサブセルにおいて、それぞれが:
i)酸素ガス源と流体連通しているカソードと;
ii)燃料ガス源と流体連通しているアノードと;
iii)カソードとアノードとの間の固体電解質と
を含む、上記サブセルと;
b)複数のサブセルの外側表面に適用され、カソード、アノード、および電解質間の気密シールを形成して燃料ガスを酸素ガスから分離するシールコーティングにおいて、ケイ酸バリウム相(Ba5Si8O21およびBa3Si5O13)、ヘキサセルシアン相(h−BaO.Al.2SiOまたはh−BAS2)およびサンボルナイト相(BaO.2SiOまたはBS2)、ならびに残存ガラス相を含み、シーリング要素が10体積%未満の残存ガラス相および約10.5〜12.8または11〜12.2ppm/℃の熱膨張係数(CTE)を有している、上記シールコーティングと
を含む、上記固体酸化物燃料電池。
【0065】
項15:約11ppm/℃、または約12.0〜12.5ppm/℃のCTEを有する、項14に記載の固体酸化物燃料電池。
【0066】
項16:シールコーティングが、固体酸化物燃料電池のCTEより約2ppm/℃以内だけ小さい、固体酸化物燃料電池のCTEより約1ppm/℃以内だけ大きい、または1ppm/℃未満以内の固体酸化物燃料電池のCTEであるCTEを有する、項15に記載の固体酸化物燃料電池。
【0067】
項17:シールコーティングをイオン輸送デバイスに適用する方法であって:
a)ケイ酸バリウム相(Ba5Si8O21およびBa3Si5O13)、ヘキサセルシアン相(BaAl2SiO8)、サンボルナイト相(BaSi2O5)、ならびに残存ガラス相を加熱時に形成するガラス組成物を形成する工程と;
b)ガラス組成物を粉砕して、約500nmと約10μmとの間の範囲の平均粒径(d50)を有するガラス粉末を生成する工程と;
c)ガラス粉末をバインダおよび液体と混合してスラリーを形成する工程と;
d)イオン輸送デバイスの表面の少なくとも一部をスラリーでコーティングする工程と;
e)10体積%未満の残存ガラス相および約10.5〜約12.8ppm/℃、または約11〜約12.2ppm/℃の熱膨張係数(CTE)を有する結晶構造を有するイオン輸送デバイスにシールコーティングを形成する工程と
を含む、上記方法。
【0068】
項18:結晶構造を有するイオン輸送デバイスにシールコーティングを形成することが、コーティングされたイオン輸送デバイスを焼結させること、およびコーティングされたイオン輸送デバイスを加熱して、結晶構造を有するシールコーティングを形成することを含む、項17に記載の方法。
【0069】
項19:コーティングされたイオン輸送デバイスを焼結させることが、コーティングされたイオン輸送デバイスを、約800℃と約900℃との間の範囲の温度で約2から4時間までの間の範囲の時間にわたって焼結させることを含む、項17に記載の方法。
【0070】
項20:コーティングされたイオン輸送デバイスを加熱して、結晶構造を有するシールコーティングを形成することが、コーティングされたイオン輸送デバイスを、約2〜6時間の時間で約900℃〜約1000℃の温度に加熱することを含む、項17に記載の方法。
【0071】
項21:コーティングされたイオン輸送デバイスを、約2〜8時間の時間で約1000℃〜約1100℃の温度に加熱して、CTEおよびL−サンボルナイト対H−サンボルナイト比を増加させ、シールコーティング内の残りのガラスの体積%を低減させることをさらに含む、項20に記載の方法。
【0072】
項22:コーティングされたイオン輸送デバイスを約2〜8時間の時間で約1000℃〜約1100℃の温度に加熱することで、60〜90%、75〜90%、75%超または85%超のサンボルナイト濃度を有するコーティングを生じさせる、項20に記載の方法。
【0073】
項23:シールコーティングをイオン輸送デバイスに適用する方法であって:
ケイ酸バリウム相、ヘキサセルシアン相、サンボルナイト相、および残存ガラス相を形成するガラス組成物を形成する工程と;
ガラス組成物を粉砕してガラス粉末を生成する工程と;
ガラス粉末をバインダおよび液体と混合してスラリーを形成する工程と;
イオン輸送デバイスの表面の少なくとも一部をスラリーでコーティングする工程と;
イオン輸送デバイスに
(i)ガラス転移温度を超えるがシーリング材料のガラス結晶化開始温度未満である最初の加熱工程において、コーティングされたイオン輸送デバイスを焼結させること;
(ii)コーティングされたイオン輸送デバイスを、ガラス結晶化開始温度を超えるが、シール材の溶融が起こらない、シーリング材料の融点よりも十分に離れた低い第1結晶化温度まで加熱することにより、シールコーティングを結晶化すること;および
(iii)第1結晶化温度を超えてシーリング材料の溶融温度よりも僅かに低い最終結晶化温度まで、コーティングされたイオン輸送デバイスを加熱することによって、シールコーティングの結晶化を完了すること
によって、シールコーティングを形成する工程と
を含む、上記方法。
【0074】
項24:コーティングされたイオン輸送デバイスを焼結させることが、コーティングされたイオン輸送デバイスを焼結させること、およびコーティングされたイオン輸送デバイスを加熱して、結晶構造を有するシールコーティングを形成することを含む、項23に記載の方法。
【0075】
項25:コーティングされたイオン輸送デバイスを焼結させることが、コーティングされたイオン輸送デバイスを、約800℃と約900℃との間の範囲の温度で約2〜4時間の範囲の時間にわたって焼結させることを含む、項23〜24のいずれかに記載の方法。
【0076】
項26:コーティングされたイオン輸送デバイスを第1結晶化温度まで加熱することが、約2〜6時間の時間で約900℃〜約1000℃の温度に加熱することを含む、項23〜25のいずれかに記載の方法。
【0077】
項27:コーティングされたイオン輸送デバイスを最終結晶化温度まで加熱することが、約2〜8時間の時間で約1000℃〜約1100℃の温度に加熱して、CTEおよびL−サンボルナイト対H−サンボルナイト比を増加させ、シールコーティング内の残りのガラスの体積%を低減させることを含む、項23〜26のいずれかに記載の方法。
【0078】
項28:コーティングされたイオン輸送デバイスを、約2〜8時間の時間で約1000℃〜約1100℃の温度に加熱することで、60〜90%、75〜90%、75%超または85%超のサンボルナイト濃度を有するコーティングを生じさせる、項23〜27のいずれかに記載の方法。
【0079】
項29:コーティングされたイオン輸送デバイスを最終結晶化温度まで加熱することによって、シールコーティングの結晶化を完了する工程の前に、1つ以上の追加の結晶化加熱工程をさらに含む、項23〜28のいずれかに記載の方法。
【0080】
項30:イオン輸送デバイスが固体酸化物燃料電池である、項17〜29のいずれかに記載の方法。
【0081】
項31:イオン輸送デバイスが酸素輸送膜デバイスである、項17〜29のいずれかに記載の方法。
【0082】
本発明のシール構造および方法を固体酸化物燃料電池に関して以下に記載するが、同じまたは同様のシール構造および方法が、支持フレームにセラミックシートをシールする必要性が存在する他の用途に用いられ得ることが理解されるべきである。本明細書に記載のシール材および方法はまた、高CTE(例えば、約10ppm/℃超)を有する2つの構造、材料または基板間で結合を形成するためにも用いられ得る。例えば、本発明によるガラスシール層は、SOFCスタックと、ガスを当該スタックに送達するマニホールドとの間の結合を形成するのに用いられ得る。本発明によるガラスシール材はまた、電気化学システムにおける可能性のある用途、構造用途などでのセラミック、金属、金属−セラミックスの結合を含めた、非SOFC用途で種々の高CTE材料を結合するのにも用いられ得る。いくつかの非SOFC用途では、本発明によるガラスシール材によって付与されるシールが、非気密シールであってよい。
【0083】
本発明は、広範な利用可能性を有しており、記載されているように、上記例において示した多くの利益を提供することができる。実施形態は、具体的な用途に応じて大幅に変動するが、あらゆる実施形態が、本発明によって達成可能である全ての利点を提供し、全ての目的を満足するというものではない。明細書全体または実施例において先に記載したアクティビティの全てが必要であるわけではないこと、ならびに具体的なアクティビティの一部が必要でない場合があること、および1つ以上のさらなるアクティビティが上記に加えて実施され得ることに注意されたい。また、さらには、アクティビティが記載されている順序は、必ずしも、これらが実施される順序ではない。
【0084】
上記明細書において、具体的な実施形態を参照して概念を記載している。しかし、当業者は、以下の特許請求の範囲に記載されている発明の範囲から逸脱することなく、種々の修飾および変更がなされ得ることを認識する。しがたって、明細書および図は、制限的な意味よりもむしろ例示的であるとみなされるべきであり、全てのかかる修飾が、本発明の範囲内に含まれることが意図される。当業者は、明細書を読んだ後に、別個の実施形態の文脈において本明細書に記載されているある一定の特徴が、明確さのために、単一の実施形態において組み合わせて提供されてもよいことを認識する。反対に、単一の実施形態の文脈において記載されている種々の特徴が、簡潔さのために、別個にまたは任意のサブ組み合わせにおいて提供されてもよい。さらに、範囲で記述されている値への言及は、当該範囲内の各値およびあらゆる値を含む。
【0085】
本明細書において用いられているとき、用語「シール」、「シーラント」および「シーリング」は、本明細書に記載の本発明の実施形態による硬化または非硬化材料およびこれらの等価物を称するのに互換的に用いられる。本明細書において用いられているとき、用語「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(has)」、「有する(having)」またはこれらの任意の他の変形は、非排他的な包含をカバーすることが意図される。例えば、特徴のリストを含むプロセス、方法、物品または装置は、必ずしもこれらの特徴のみに限定されないが、かかるプロセス、方法、物品または装置に関して明確に列挙されていないまたはこれらに固有の他の特徴を含んでいてよい。さらに、反対であることが明確に記述されていない限り、「または(or)」は、包括的な−または、および排他的な−または、を称する。例えば、条件AまたはBは、以下のいずれか1つによって満たされる:Aが真(または存在する)およびBが偽(または存在しない)、Aが偽(または存在しない)およびBが真(または存在する)、ならびにAおよびBの両方が真(または存在する)。また、「1つ(a)」または「1つ(an)」の使用は、本明細書に記載の要素および構成成分を記載するのに利用される。このことは、単に便宜上行われ、本発明の範囲の一般の意味を付与するためのものである。この記載は、1または少なくとも1を含むと読まれるべきであり、他のことを意味することが明確でない限り、複数も含んでいる。
【0086】
課題に対しての利益、他の利点、および解決手段を具体的な実施形態に関連して先に記載している。しかし、課題に対しての利益、他の利点、解決手段、および任意の利益、利点または解決手段を生じさせるまたはより明白にすることができる任意の特徴は、任意または全ての特許請求の範囲の厳密な、所要のまたは必須の特徴とであると解釈されてはならない。
【0087】
本発明およびその利点を詳細に記載したが、添付の特許請求の範囲によって定義されている本発明の精神および範囲から逸脱することなく本明細書に記載の実施形態について種々の変更、置換および改変がなされ得ることが理解されるべきである。また、本出願の範囲は、本明細書に記載の事項、手段、方法および工程のプロセス、機械、製造、組成の特定の実施形態に限定されることは意図されていない。当業者が、本発明の開示から容易に認識するように、本明細書に記載の対応する実施形態と実質的に同じ機能を実施し、または実質的に同じ結果を達成する、現在存在するまたは後に開発される事項、手段、方法または工程のプロセス、機械、製造、組成は、本発明に従って利用されてよい。したがって、添付の特許請求の範囲は、その範囲内に、事項、手段、方法または工程のプロセス、機械、製造、組成を含むことが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8