特許第6116089号(P6116089)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6116089
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】無人搬送車の駆動システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/26 20060101AFI20170410BHJP
   B60K 6/46 20071001ALI20170410BHJP
   B60L 11/18 20060101ALI20170410BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   B60W10/26 900
   B60K6/46
   B60L11/18 AZHV
   B60W10/08 900
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-286307(P2012-286307)
(22)【出願日】2012年12月27日
(65)【公開番号】特開2014-128983(P2014-128983A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2015年2月9日
【審判番号】不服2016-6021(P2016-6021/J1)
【審判請求日】2016年4月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】角田 憲哉
【合議体】
【審判長】 伊藤 元人
【審判官】 槙原 進
【審判官】 松下 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−153938(JP,A)
【文献】 特開2006−049198(JP,A)
【文献】 特開平07−131905(JP,A)
【文献】 特開平08−126116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 -10/30
B60W 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン、前記エンジンの駆動力で発電可能であるとともに、前記エンジンを回転させる第1発電電動機、走行に用いられるとともに、回生制動を行うことにより発電可能な第2発電電動機、及び前記第1発電電動機と前記第2発電電動機に電力を供給可能であるとともに前記第2発電電動機にて発生し得る回生電力により充電可能な蓄電装置を有する無人搬送車の駆動システムであって、
前記無人搬送車の始動時に、前記蓄電装置の内部抵抗を導出する内部抵抗導出部と、
前記無人搬送車の積載重量を把握する重量把握部と、
前記無人搬送車の走行パターンを把握する走行パターン把握部と、
前記積載重量及び前記走行パターンに基づいて、予め定められた特定区間における前記蓄電装置の電力変動量を推定する推定部と、
前記推定部により推定された前記電力変動量と前記蓄電装置の内部抵抗とに基づいて、前記蓄電装置の電圧の変動量を算出する電圧変動量算出部と、
前記無人搬送車が前記特定区間に到達する前に、前記蓄電装置の電圧を、前記電圧変動量算出部により算出された前記蓄電装置の電圧の変動量と前記蓄電装置の電圧の許容範囲とに基づいて設定される目標電圧に近づけるように調整する電圧調整部と、
を備えていることを特徴とする無人搬送車の駆動システム。
【請求項2】
前記第1発電電動機は、前記蓄電装置の電力を用いて前記エンジンを回転可能に構成されており、
前記内部抵抗導出部は、前記エンジンの回転が調整されることにより生じる前記蓄電装置の電流の変動に対する前記蓄電装置の電圧の変動を測定し、その測定結果から前記蓄電装置の内部抵抗を導出する請求項に記載の無人搬送車の駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無人搬送車の駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、有人のハイブリッド車両においては、当該ハイブリッド車両に搭載されている蓄電装置の電圧を制御することが行われている。例えば、特許文献1には、複数の電池セルの内部抵抗の違いに起因したセル電圧のばらつきを補正することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−227995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、本発明者らは、作業者が運転を行うことなく予め定められた走行経路を走行する無人搬送車(AGV)を優れた環境性と経済性から、エンジンとエンジンの駆動力で発電する発電電動機と発電電動機に電力を供給可能であるとともに発電電動機にて発生する回生電力により充電可能な蓄電装置を有するハイブリッドにすることに着目した。この場合、無人搬送車には、有人のハイブリッド車両と異なり、走行パターンが予め定められているとともに積載重量の変動幅が広いといった特性がある。そして、このような特性は、蓄電装置の電圧制御に影響を与える。
【0005】
例えば、大型の無人搬送車においては、積載時と非積載時とで車両重量が約3〜4倍異なる場合がある。すると、回生電力量等の変動幅が広くなり、その結果蓄電装置の電圧が許容範囲外となり、寿命が短くなるといった不都合が生じ得る。かといって、許容範囲が広い蓄電装置を採用する構成にあっては、コストや大型化の観点から好ましくない。また、蓄電装置の電圧が許容範囲外とならないように、蓄電装置の充放電を強制的に中断する構成にあっては、無人搬送車に搭載されているエンジンの負担が大きくなったり、取得可能な電力が取得できなかったりといった不都合が生じ得る。
【0006】
以上の通り、無人搬送車特有の上記特性は、蓄電装置の電圧に影響を与えるにも関わらず、無人搬送車における蓄電装置の電圧制御については、何ら着目されていないのが実情である。
【0007】
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、蓄電装置の電圧制御を好適に行うことができる無人搬送車の駆動システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する無人搬送車の駆動システムは、エンジン、前記エンジンの駆動力で発電可能であるとともに、前記エンジンを回転させる第1発電電動機、走行に用いられるとともに、回生制動を行うことにより発電可能な第2発電電動機、及び前記第1発電電動機と前記第2発電電動機に電力を供給可能であるとともに前記第2発電電動機にて発生し得る回生電力により充電可能な蓄電装置を有する無人搬送車の駆動システムであって、前記無人搬送車の始動時に、前記蓄電装置の内部抵抗を導出する内部抵抗導出部と、前記無人搬送車の積載重量を把握する重量把握部と、前記無人搬送車の走行パターンを把握する走行パターン把握部と、前記積載重量及び前記走行パターンに基づいて、予め定められた特定区間における前記蓄電装置の電力変動量を推定する推定部と、前記推定部により推定された前記電力変動量と前記蓄電装置の内部抵抗とに基づいて、前記蓄電装置の電圧の変動量を算出する電圧変動量算出部と、前記無人搬送車が前記特定区間に到達する前に、前記蓄電装置の電圧を、前記電圧変動量算出部により算出された前記蓄電装置の電圧の変動量と前記蓄電装置の電圧の許容範囲とに基づいて設定される目標電圧に近づけるように調整する電圧調整部と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
かかる構成によれば、特定区間における蓄電装置の電力変動量を推定するパラメータとして、無人搬送車において変動幅が広くなり易い積載重量が含まれていることにより、推定部による推定精度の向上を図ることができる。
【0010】
また、推定部により推定された電力変動量と内部抵抗とに基づいて蓄電装置の電圧の変動量を算出し、無人搬送車が特定区間に到達する前に、その算出された蓄電装置の電圧の変動量と蓄電装置の電圧の許容範囲とに基づいて設定される目標電圧に近づくように蓄電装置の電圧を調整することにより、特定区間における蓄電装置の電圧を許容範囲内に収めることができる。これにより、蓄電装置の電圧制御を好適に行うことができる。
特に、無人搬送車の始動時に内部抵抗を導出することにより、内部抵抗のばらつきを把握することができる。これにより、内部抵抗のばらつきに起因する蓄電装置の電圧の変動を把握することを通じて、蓄電装置の電圧制御を、より好適に行うことができる。
【0011】
なお、「特定区間における前記蓄電装置の電力変動量」とは、例えば特定区間が加速区間等である場合には、無人搬送車の走行を補助するのに要するアシスト電力量であり、例えば特定区間が減速区間等である場合には、回生電力量である。
【0013】
上記無人搬送車の駆動システムについて、前記第1発電電動機は、前記蓄電装置の電力を用いて前記エンジンを回転可能に構成されており、前記内部抵抗導出部は、前記エンジンの回転が調整されることにより生じる前記蓄電装置の電流の変動に対する前記蓄電装置の電圧の変動を測定し、その測定結果から前記蓄電装置の内部抵抗を導出すると好ましい。かかる構成によれば、エンジンの回転が調整されることにより、蓄電装置に接続されている負荷の抵抗が調整され、蓄電装置の電流が変動する。そして、その電流の変動に対する蓄電装置の電圧の変動を測定することにより、蓄電装置の内部抵抗を導出する。これにより、エンジン等の既存の構成を用いて、内部抵抗を好適に導出することができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、蓄電装置の電圧制御を好適に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】無人搬送車の駆動システムが適用されるコンテナターミナルの模式図。
図2】無人搬送車の駆動システムを示す概念図。
図3】無人搬送車の構成を示すブロック図。
図4】車載コンピュータにて実行される走行制御処理を示すフローチャート。
図5】(a)は無人搬送車の速度の変動を示すグラフであり、(b)は蓄電装置の電圧の変動を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、無人搬送車の駆動システムを港湾のコンテナターミナルに適用した一実施形態について説明する。
先ず、コンテナターミナルの全体像について説明する。図1に示すように、コンテナターミナルには、コンテナ船S付近に配置され、コンテナの積み降ろしを行うガントリークレーンC1と、コンテナ設置場に配置され、コンテナの積み降ろしを行うラバータイヤクレーンC2とが設けられている。
【0017】
また、コンテナターミナルにおいては、無人搬送車(AGV)11が誘導ライン等の誘導部によって規定された走行経路Rを予め定められた方向(例えば反時計回り)で周回する。無人搬送車11は、コンテナを積載可能に構成されており、コンテナ船S付近及びコンテナ設置場間のコンテナの搬送を行う。例えば、ガントリークレーンC1にてコンテナが無人搬送車11に積まれた場合には、無人搬送車11はそのコンテナをコンテナ設置場に搬送する。そして、無人搬送車11がコンテナ設置場に到着すると、そのコンテナはラバータイヤクレーンC2にて降ろされる。コンテナが降ろされた後は、無人搬送車11は再度ガントリークレーンC1に向けて走行する。なお、本実施形態では、走行経路Rは傾斜がなく平坦であるとする。
【0018】
次に、上記のように周回する無人搬送車11の駆動システム10について説明する。図2に示すように、無人搬送車11の駆動システム10は、無人搬送車11に搭載された車載コンピュータ21と、当該車載コンピュータ21と無線通信可能な運行管理コンピュータ22とを備えている。運行管理コンピュータ22は、車載コンピュータ21に各種指令を送信することにより、無人搬送車11の走行を制御する。また、運行管理コンピュータ22は、ガントリークレーンC1及びラバータイヤクレーンC2の駆動制御を行う。
【0019】
次に、無人搬送車11の具体的な構成について説明する。本実施形態の無人搬送車11は、所謂シリーズ方式のハイブリッド車両である。詳細には、図3に示すように、無人搬送車11は、エンジン31と、そのエンジン31の駆動力によって発電可能な第1発電電動機(第1モータジェネレータ)32と、第1発電電動機32に接続された発電インバータ33とを備えている。さらに、無人搬送車11は、発電インバータ33に接続された蓄電装置34と、蓄電装置34及び発電インバータ33に接続された走行インバータ35と、走行インバータ35に接続された第2発電電動機(第2モータジェネレータ)36とを備えている。なお、図3では、走行インバータ35と第2発電電動機36は、1つのみ例示したが、実際には無人搬送車11の車軸の数に応じてそれぞれ複数設けられる。各インバータ33,35は、直流電力が入力された場合には交流電力に変換して出力し、交流電力が入力された場合には直流電力に変換して出力する。
【0020】
第1発電電動機32は、そのロータがエンジン31の駆動軸に連結されており、エンジン31の駆動軸の回転にともなってロータが回転することにより、交流電力を発生させる。一方、第1発電電動機32は、交流電力が入力された場合、エンジン31を回転させることで、負荷として動作することも可能である。
【0021】
第2発電電動機36は走行に用いられるものである。詳細には、第2発電電動機36は、そのロータが車軸に連結されており、走行インバータ35を介して、発電インバータ33(第1発電電動機32)及び蓄電装置34の少なくとも一方から電力が入力された場合には、車軸を回転させる。一方、第2発電電動機36は、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能を有しており、無人搬送車11の減速時等において回生制動を行うことにより発電する。第1発電電動機32及び第2発電電動機36が発電電動部に対応する。
【0022】
なお、第2発電電動機36と車軸との間にはクラッチ(図示略)が設けられており、車載コンピュータ21は、クラッチの制御を行うことが可能に構成されている。
蓄電装置34は、内部抵抗を有する。蓄電装置34は、例えばニッケル水素電池やリチウムイオン電池で構成され、発電インバータ33を介して第1発電電動機32に電力を供給可能であるとともに、走行インバータ35を介して第2発電電動機36に電力を供給可能となっている。また、蓄電装置34は、各発電電動機32,36にて発電された電力が各インバータ33,35を介して入力されることにより充電される。
【0023】
ちなみに、蓄電装置34のSOC(充電状態、充電率)には、蓄電装置34が劣化しにくい許容範囲が設定されている。許容範囲は、蓄電装置34の仕様等によって予め設定されており、下限値及び上限値が設定されている。
【0024】
同様に、蓄電装置34の電圧には、蓄電装置34が劣化しにくい許容範囲が設定されている。許容範囲は、蓄電装置34の仕様等によって予め設定されており、上限値及び下限値が設定されている。
【0025】
車載コンピュータ21は、蓄電装置34の充放電を制御することにより、無人搬送車11の加減速を好適に行うよう構成されている。例えば、加速時には、車載コンピュータ21は、エンジン31の駆動によって第1発電電動機32にて発電し、その発電された電力を第2発電電動機36に供給させるとともに、蓄電装置34の放電を行い、その放電電力を第2発電電動機36に供給させて無人搬送車11の走行、詳細には力行を補助する。なお、第2発電電動機36に供給される蓄電装置34の放電電力をアシスト電力と言う。
【0026】
一方、減速時には、車載コンピュータ21は、第2発電電動機36にて発生した回生電力を蓄電装置34に供給させ、蓄電装置34の充電を行う。
無人搬送車11は、蓄電装置34の電圧や電流を測定する蓄電センサ37を備えている。蓄電センサ37は、測定された蓄電装置34の電圧等を車載コンピュータ21に送信する。また、無人搬送車11は、当該無人搬送車11の積載重量(荷重)を測定するとともに、その測定結果を車載コンピュータ21に送信する重量把握部としての荷重センサ38を備えている。これにより、車載コンピュータ21は、蓄電装置34の電圧及び電流と、積載重量とを把握可能となっている。
【0027】
ここで、運行管理コンピュータ22は、無人搬送車11を走行させる場合、走行指令とともに、無人搬送車11の加減速のパターンが設定された走行パターンを車載コンピュータ21に送信する。車載コンピュータ21は、運行管理コンピュータ22から上記走行指令及び走行パターンを受信した場合には、受信した走行パターンに従って無人搬送車11を走行させる。
【0028】
走行パターンには、走行経路Rを走行する無人搬送車11の走行距離、走行速度及び加速度等が設定されており、無人搬送車11は加減速を繰り返しながら走行するように設定されている。例えば、走行経路R中、コーナ部分の走行速度は、直線部分の走行速度よりも低く設定されている。つまり、走行経路Rには、特定区間として加速区間と減速区間とが設定されている。そして、車載コンピュータ21は、走行パターンを把握することを通じて、無人搬送車11が加速区間及び減速区間に到達するよりも前のタイミングにて加速区間及び減速区間を把握することができる。
【0029】
ここで、蓄電装置34の内部抵抗及び許容範囲(下限値、上限値)は、蓄電装置34の内部抵抗が初期値である無人搬送車11が走行パターンに従って走行した場合に、蓄電装置34の電圧が許容範囲内に収まるように設定されている。しかしながら、無人搬送車11に積載されるコンテナの積載重量によっては、蓄電装置34の電圧が許容範囲外となる場合がある。また、蓄電装置34の充放電の繰り返しや製造上のばらつき等によって、蓄電装置34の内部抵抗には、ばらつきが生じ得る。この場合、内部抵抗のばらつき具合によっては、蓄電装置34の電圧が許容範囲外となる場合が生じ得る。
【0030】
これに対して、車載コンピュータ21は、積載重量や蓄電装置34の内部抵抗を考慮した蓄電装置34の電圧制御を行いつつ、無人搬送車11を走行させる走行制御処理を実行する。図4を用いて走行制御処理について説明する。なお、走行制御処理は、車載コンピュータ21にて定期的に実行される処理である。
【0031】
先ず、ステップS101では、無人搬送車11を始動させるか否かを判定する。具体的には、運行管理コンピュータ22から走行指令を受信しているか否かを判定する。なお、走行指令は、定期的、例えば毎日所定の時刻に運行管理コンピュータ22から送信されるものである。
【0032】
走行指令を受信していない場合には、そのまま本走行制御処理を終了する一方、走行指令を受信している場合には、ステップS102及びステップS103にて、開放電圧(OCV)の決定処理を実行する。
【0033】
具体的には、ステップS102では、蓄電装置34の電圧を測定する。続くステップS103では、上記ステップS102にて測定された電圧を開放電圧として、車載コンピュータ21に設けられた記憶領域に記憶させる。
【0034】
開放電圧を決定した後は、ステップS104〜ステップS107にて、蓄電装置34の内部抵抗の導出処理を実行する。詳細には、先ずステップS104にて、蓄電装置34において一定の電流が流れる定電流放電を開始する。この場合、車載コンピュータ21は、蓄電装置34から放電された電力を、第1発電電動機32に供給するよう制御する。第1発電電動機32は上記蓄電装置34の放電電力を用いてエンジン31を回転させる。なお、定電流放電を行う場合には、クラッチを接続されていない状態にする。
【0035】
そして、ステップS105では、蓄電装置34の電圧を測定する。ここで、車載コンピュータ21は、定電流放電中、所定のタイミングで、エンジン31の回転数を制御することにより定電流値を変動させ、それぞれの定電流値における電圧を測定する。
【0036】
電圧測定後は、ステップS106にて放電を終了させる。そして、ステップS107では、測定結果に基づいて、ステップS103にて決定した開放電圧を切片とするI−Vプロットを作成し、そのI−Vプロットの傾きから内部抵抗を導出し、その導出された内部抵抗を車載コンピュータ21の所定の記憶領域に記憶させておく。なお、ステップS104〜ステップS107の処理が内部抵抗導出部に対応する。
【0037】
ステップS107の処理を終了した後は、ステップS108〜ステップS117にてパターン走行を行う。
先ず、ステップS108では、走行指令とともに受信した走行パターンに基づいて走行を開始する。その後、特定区間(加減速区間)よりも前のタイミングであって無人搬送車11が定速で走行する定速区間にてステップS109〜ステップS116の処理を実行する。なお、定速区間においては、回生電力は発生せず、アシスト電力量は「0」又は加速時よりも小さくなっている。
【0038】
先ずステップS109では、荷重センサ38により無人搬送車11の積載重量を把握する。そして、ステップS110では走行パターンを把握して、特定区間の距離(又は加減速時間)や加速度等を把握する。ステップS110の処理が走行パターン把握部に対応する。
【0039】
続くステップS111では、上記走行パターン及び積載重量に基づいて回生電力量又はアシスト電力量を推定する。詳細には、例えば減速区間の前においては、当該減速区間にて発生する回生電力量を推定し、加速区間の前においては、当該加速区間にて無人搬送車11の走行(力行)を補助するのに要するアシスト電力量を推定する。ステップS111の処理が推定部に対応する。
【0040】
その後、ステップS112では、現時点における開放電圧を推定する。詳細には、電流の積算値と電池容量との商からSOCの変動量を算出する。そして、当該変動量と、ステップS103にて設定された開放電圧の初期値とから、現状のSOCを推定し、現状のSOCから現状の開放電圧を推定する。
【0041】
現状の開放電圧を推定した後は、ステップS113にて、上記ステップS111にて推定された回生電力量又はアシスト電力量と、ステップS112にて推定された開放電圧とに基づいて、特定区間における蓄電装置34の電流、すなわち回生電流又はアシスト電流を算出する。
【0042】
その後、ステップS114では、ステップS107にて導出された内部抵抗と、上記ステップS113にて算出された蓄電装置34の電流とに基づいて、蓄電装置34の電圧の変動量を算出(導出)する。詳細には、例えば減速区間の前においては電圧上昇量を算出し、加速区間の前においては電圧降下量を算出する。ステップS112〜ステップS114の処理が、電圧変動量算出部に対応する。
【0043】
そして、ステップ115では、蓄電装置34の許容範囲を考慮して目標電圧を設定する。例えば、減速区間の前においては、蓄電装置34の電圧の上限値から電圧上昇量を差し引いた電圧、又はそれよりも低い電圧を目標電圧として設定する。また、例えば加速区間の前においては、蓄電装置34の電圧の下限値に対して電圧降下量を加算した電圧、又はそれよりも高い電圧を目標電圧として設定する。
【0044】
ステップS116では、無人搬送車11が特定区間に到達するまでに、蓄電装置34の電圧が上記ステップS115にて設定された目標電圧に近づくよう蓄電装置34の電圧を調整する。詳細には、蓄電装置34のSOCが上記目標電圧に対応した目標SOCに近づくように蓄電装置34の充放電の制御を行う。なお、ステップS116の処理は、SOCの調整処理とも言える。当該ステップS116の処理が電圧調整部に対応する。
【0045】
なお、加速区間の前の定速区間において現状の電圧が目標電圧よりも高い場合には、蓄電装置34の充放電を行わず、減速区間の前の定速区間において現状の電圧が目標電圧よりも低い場合には、蓄電装置34の充放電を行わない。
【0046】
その後、ステップS117では、無人搬送車11が特定区間に到達した場合の加減速時処理を実行する。具体的には、例えば減速区間においては回生電力を蓄電装置34に供給し、加速区間においては蓄電装置34に蓄電されている電力を走行インバータ35に供給する。この場合、蓄電装置34の電圧が許容範囲内に収まるように電力制御を行う。詳細には、例えば減速中に蓄電装置34の電圧が上限値に到達した場合には、蓄電装置34の充電を中断し、残りの回生電力を第1発電電動機32に供給する。同様に、例えば加速中に蓄電装置34の電圧が下限値に到達した場合には、蓄電装置34の放電を中断する。
【0047】
無人搬送車11の加減速が終了した後は、ステップS118に進み、パターン走行が終了したか否かを判定する。パターン走行が終了していない場合にはステップS109に戻る一方、パターン走行が終了した場合には、本走行制御処理を終了する。
【0048】
次に、図5を用いて本実施形態の作用について説明する。図5(a)は、無人搬送車11の速度の変動(走行パターン)を示すグラフであり、図5(b)は、蓄電装置34の電圧の変動を示すグラフである。なお、説明の便宜上、減速区間Td及びその前における蓄電装置34の電圧について説明する。
【0049】
図5(a)に示すように、t1〜t8のタイミングにて、無人搬送車11の走行パターンが、加速、定速及び減速のいずれかに切り換わる。これに対応させて、図5(b)に示すように、蓄電装置34の電圧が変動する。この場合、図5(b)の2点鎖線に示すように、内部抵抗にばらつきがない場合、詳細には内部抵抗が初期値から変動していない場合には、蓄電装置34の電圧は許容範囲内に収まっている。
【0050】
ここで、例えば図5(b)の1点鎖線及び区間Xに示すように、蓄電装置34の内部抵抗にばらつきが生じた場合、減速中に蓄電装置34の電圧が上限値に達し、蓄電装置34が回生電力を吸収しきれない事態が生じ得る。特に、内部抵抗が高くなると、電圧の上昇量が大きくなり易いため、上記事態が発生し易い。
【0051】
これに対して、図5(b)の実線に示すように、減速区間Tdの前にて、蓄電装置34の電圧を事前に下げる事前調整区間Tprが設けられていることにより、減速中に蓄電装置34の電圧が上限値を超えることが回避されている。このため、減速区間Tdにて発生した回生電力が全て蓄電装置34の充電に用いられている。また、事前調整区間Tprにおいては、無人搬送車11は蓄電装置34の電力を用いて走行し、第1発電電動機32の発電量が小さくなる。
【0052】
なお、加速区間Taの前としてのt4のタイミングからt5のタイミングまでの定速区間においては、蓄電装置34の電圧が上限値となっている。当該蓄電装置34の電圧は、t5のタイミングまでに近づけるべき目標電圧よりも高い。このため、蓄電装置34の電圧調整が行われなくても、t5のタイミングからt6のタイミングまでの加速区間Taにおける力行がアシストされる。
【0053】
以上詳述した本実施形態によれば以下の優れた効果を奏する。
(1)積載重量及び走行パターンに基づいて、特定区間における蓄電装置34の電力変動量、詳細にはアシスト電力量又は回生電力量を推定し、その推定された電力変動量と内部抵抗とに基づいて電圧の変動量を算出する構成とした。そして、無人搬送車11が特定区間に到達する前に、その算出された電圧の変動量に基づいて蓄電装置34の電圧の調整を行う構成とした。これにより、特定区間において蓄電装置34の電圧が許容範囲外となることを抑制しつつ、減速区間Tdにおいては回生電力を全て充電に用いることができ、加速区間Taにおいては力行をアシストすることができる。よって、蓄電装置34の長寿命化及び燃費の向上等を図ることができる。
【0054】
特に、無人搬送車11はコンテナ等を積載する関係上、積載重量の変動幅が自動車等の通常の車両と比較して広いため、積載重量の変動に伴う回生電力量等の変動幅が広くなり易い。また、無人搬送車11は、通常の車両と異なり、走行パターンが予め定められている。
【0055】
この点、本実施形態では、上記に示した無人搬送車11の特有の特性に着目して、回生電力量又はアシスト電力量を推定する際に積載重量及び走行パターンを考慮する構成を採用することにより、回生電力量又はアシスト電力量の推定精度の向上を図ることができる。これにより、蓄電装置34の電圧制御を、より好適に行うことができる。
【0056】
(2)電圧の変動量と蓄電装置34の許容範囲とに基づいて目標電圧を設定し、特定区間に到達する前に蓄電装置34の電圧が目標電圧に近づくように蓄電装置34の電圧を調整する構成とした。例えば減速区間Tdの前では、蓄電装置34の電圧の上限値から電圧の変動量を差し引いた値を目標電圧として設定し、その目標電圧に近づくように電圧の調整を行う構成とした。これにより、特定区間の途中において蓄電装置34の電圧が上限値又は下限値に到達してしまうことに起因して、回生電力を全て吸収できなかったり、力行をアシストしきれなかったりする事態を回避することができる。
【0057】
(3)無人搬送車11が始動する度に、内部抵抗を導出する構成とした。これにより、内部抵抗にばらつきを好適に把握することができる。よって、その内部抵抗のばらつきを考慮して、蓄電装置34の電圧の変動量を算出することができる。したがって、内部抵抗にばらつきが生じている場合であっても、上記(1)及び(2)に示した効果を奏する。
【0058】
(4)車載コンピュータ21は、走行を開始する前に、エンジン31の回転を調整することにより、蓄電装置34の電力が供給される負荷の抵抗を変動させる構成とした。これにより、蓄電装置34の電流が変動する。そして、車載コンピュータ21は、その電流変動に対する電圧変動を蓄電センサ37にて測定することにより、内部抵抗を導出する構成とした。これにより、エンジン31等の既存の構成を用いて、I−Vプロットを作成することができ、それを通じて内部抵抗を導出することができる。
【0059】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 蓄電装置34の内部抵抗が温度に応じて変動することに着目し、蓄電装置34の温度を検出する温度センサを設け、その温度センサの検出結果から内部抵抗を補正する構成としてもよい。
【0060】
○ 運行管理コンピュータ22は、走行経路Rの傾斜に関する傾斜情報を所定の記憶領域に記憶させておく構成としてもよい。そして、運行管理コンピュータ22は、走行パターンに加えて、走行経路Rの傾斜情報を車載コンピュータ21に送信する構成としてもよい。この場合、車載コンピュータ21は、ステップS111の処理を実行する前にて、減速区間Td又は加速区間Taにおける傾斜を把握する。そして、車載コンピュータ21は、ステップS111にて、積載重量、走行パターン及び傾斜に基づいて回生電力量又はアシスト電力量を推定する構成としてもよい。これにより、回生電力量又はアシスト電力量の推定精度の更なる向上を図ることができる。
【0061】
○ 実施形態では、特定区間として加速区間Ta及び減速区間Tdが設定されていたが、これに限られず、要は蓄電装置34の充電が行われる区間及び蓄電装置34の放電が行われる区間が設定されていればよい。例えば、蓄電装置34の充電が行われる区間として下り傾斜している下り区間が設定されていてもよく、蓄電装置34の放電が行われる区間として上り傾斜している上り区間が設定されていてもよい。
【0062】
○ 実施形態では、内部抵抗を導出する際、エンジン31の回転数を制御することにより、蓄電装置34の電流を変動させる構成としたが、これに限られず、例えば、別途可変抵抗を設け、その可変抵抗に接続した状態で放電を行いつつ、可変抵抗の抵抗を可変させる構成としてもよい。要は、I−Vプロットを作成することができれば、その具体的な構成は任意である。
【0063】
○ ステップS113では、回生電力量又はアシスト電力量と開放電圧とに基づいて、回生電流又はアシスト電流を算出する構成としたが、これに限られず、回生電力量又はアシスト電力量と内部抵抗とに基づいて、回生電流又はアシスト電流を算出する構成としてもよい。
【0064】
○ 実施形態では、走行を開始する前に内部抵抗を導出する構成としたが、これに限られず、走行中に内部抵抗を導出する構成としてもよい。但し、内部抵抗の導出精度を考慮すれば、走行前に導出する方が好ましい。
【0065】
○ また、内部抵抗の導出処理の実行タイミングは、無人搬送車11が始動する場合に限られず、任意である。例えば、前回の無人搬送車11の稼働が終了してから予め定められた時間が経過した場合に行う構成としてもよいし、予め定められた時刻に定期的に行う構成としてもよい。
【0066】
○ 実施形態では、荷重センサ38を用いて積載重量を測定する構成であったが、積載重量を把握する構成は任意である。例えば、加速時に要した電力量から積載重量を推定する構成としてもよいし、運行管理コンピュータ22から無線通信で取得する構成としてもよいし、ガントリークレーンC1又はラバータイヤクレーンC2にて測定された測定結果を取得する構成であってもよい。
【0067】
○ 実施形態では、蓄電装置34は、ニッケル水素電池やリチウムイオン二次電池であったが、これに限られず、例えば電気二重層キャパシタ等であってもよい。
○ 無人搬送車11の停車中は、無人搬送車11は、エンジン31を停止し、蓄電装置34の電力のみを使用して待機する構成としてもよい。
【0068】
○ 無人搬送車11の前方の信号が赤信号である場合、又は前方の無人搬送車11が減速している場合には、事前に蓄電装置34の放電を行う構成としてもよい。
○ 実施形態では、車載コンピュータ21が一連の制御を行う構成であったが、これに限られず、複数の制御部が各種制御を行う構成であってもよい。つまり、エンジン31及び各発電電動機32,36の制御主体は任意である。
【0069】
○ 実施形態では、運行管理コンピュータ22が各クレーンC1,C2の駆動制御を行う構成であったが、これに限られず、別の管理コンピュータがこれらの駆動制御を行う構成であってもよい。
【0070】
○ 実施形態では、第2発電電動機36は2つ設けられていたが、これに限られず、3つ以上であってもよいし、1つであってもよい。
○ 加速区間の前の定速区間において現状の電圧が目標電圧よりも高い場合に、目標電圧に近づくように蓄電装置34の放電を行う構成としてもよいし、減速区間の前の定速区間において現状の電圧が目標電圧よりも低い場合には、目標電圧に近づくように蓄電装置34の充電を行う構成としてもよい。
【0071】
○ 実施形態では、無人搬送車11は、エンジン31の駆動力によって発電可能な第1発電電動機32と、無人搬送車11を走行させるとともに回生電力を発生可能な第2発電電動機36とを区別して備えている所謂シリーズ方式のハイブリッド車両であったが、これに限られない。例えば、両者の機能を1つの発電電動機にて実行する所謂パラレル方式等の他の方式のハイブリッド車両であってもよい。要は、無人搬送車11は、エンジン31、エンジン31の駆動力によって発電可能なものであって無人搬送車11を走行させるとともに回生電力を発生可能な発電電動部、及び蓄電装置34を備えているものであれば、その具体的な構成については任意である。
【0072】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について以下に記載する
【0073】
(ロ)前記電圧調整部は、前記蓄電装置の充放電を制御することにより、前記蓄電装置の電圧を調整する請求項1又は請求項2に記載の無人搬送車の駆動システム。
【符号の説明】
【0075】
10…無人搬送車の駆動システム、11…無人搬送車、21…車載コンピュータ、31…エンジン、32…第1発電電動機、34…蓄電装置、36…第2発電電動機。
図1
図2
図3
図4
図5