特許第6116108号(P6116108)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6116108
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】永久磁石同期機
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/27 20060101AFI20170410BHJP
【FI】
   H02K1/27 501K
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-42948(P2016-42948)
(22)【出願日】2016年3月7日
(62)【分割の表示】特願2012-130357(P2012-130357)の分割
【原出願日】2012年6月8日
(65)【公開番号】特開2016-105696(P2016-105696A)
(43)【公開日】2016年6月9日
【審査請求日】2016年4月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】515294031
【氏名又は名称】ジョンソンコントロールズ ヒタチ エア コンディショニング テクノロジー(ホンコン)リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 暁史
(72)【発明者】
【氏名】丸山 恵理
(72)【発明者】
【氏名】湧井 真一
【審査官】 上野 力
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−211796(JP,A)
【文献】 特開平05−236685(JP,A)
【文献】 特開平06−038415(JP,A)
【文献】 特開2010−022156(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0224558(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子と固定子から構成される永久磁石同期機であって、前記回転子は、
径方向内側に凸となるよう構成される永久磁石と、
前記永久磁石が配設される磁石収容孔と、
前記磁石収容孔の径方向外側に位置する回転子鉄心と、
前記回転子鉄心の極間側、且つ、前記磁石収容孔の径方向外側に位置するリブと、を備え、
前記永久磁石同期機の運転停止中における前記永久磁石と前記回転子鉄心との間の遠心力方向における隙間は、前記永久磁石同期機の運転停止中における前記永久磁石と前記リブとの間の遠心力方向における隙間より狭い永久磁石同期機。
【請求項2】
前記永久磁石は中央部と、前記中央部の両端に位置する側部と、を有し、
前記永久磁石は少なくとも2箇所の屈曲点を有し、
前記中央部は前記2箇所の屈曲点の間に位置することを特徴とする請求項1に記載の永久磁石同期機。
【請求項3】
前記永久磁石は中央部と、前記中央部の両端に位置する側部と、を有し、
前記中央部の磁化方向に対して垂直方向における前記中央部の長さは、前記側部の磁化方向に対して垂直方向における前記側部の長さよりも長いことを特徴とする請求項1又は2に記載の永久磁石同期機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は永久磁石同期機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
永久磁石同期機では、回転子に永久磁石を埋設するInterior Permanent Magnet(以下「IPM」という。)構造が広く採用されている。IPM構造の永久磁石同期機に埋設する永久磁石に、安価でかつ安定調達が可能なフェライト磁石が採用され始めている。
【0003】
しかしながら、永久磁石の性能は残留磁束密度と保持力という2つの物理量で表され、フェライト磁石の残留磁束密度及び保持力は、ネオジウム磁石の約1/3である。従って、現在広く使用されているネオジウム磁石をフェライト磁石に置き換えた場合、著しい性能の低下を招くことになる。
【0004】
特許文献1は、永久磁石を埋め込む収容孔が径方向内側に凸状である永久磁石埋め込み回転子を開示している。特許文献1によれば、磁石磁束の発生面積を大きくするとともに、永久磁石の径方向外側の鉄心断面積を大きくすることで、リラクタンストルクを積極的に活用して性能の向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3507680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の径方向内側に凸状である永久磁石収容孔の形状では、回転子の回転による遠心力、急加速及び急停止による慣性力によって、永久磁石が永久磁石収容孔内を移動する。そして、遠心力及び慣性力を永久磁石の極間側端部で集中して受け、永久磁石の破断及び材料特性の劣化を招くおそれがある。
【0007】
本発明は、永久磁石の破断及び材料特性の劣化を抑制する永久磁石同期機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明の永久磁石同期機は、回転子と固定子から構成される永久磁石同期機であって、回転子は、径方向内側に凸となるよう構成される永久磁石と、永久磁石が配設される磁石収容孔と、磁石収容孔の径方向外側に位置する回転子鉄心と、回転子鉄心の極間側、且つ、磁石収容孔の径方向外側に位置するリブと、を備え、永久磁石同期機の運転停止中における永久磁石と回転子鉄心との間の遠心力方向における隙間は、永久磁石同期機の運転停止中における永久磁石とリブとの間の遠心力方向における隙間より狭い。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、永久磁石の破断及び材料特性の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1の実施例による永久磁石同期機の全体図。
図2】本発明の第1の実施例による永久磁石同期機の1極分の部分断面図。
図3】本発明の第1の実施例による永久磁石同期機の1極分の部分断面図。
図4】本発明の第1の実施例の他形態による永久磁石同期機の1極分の部分断面図。
図5】本発明の第2の実施例による永久磁石同期機の1極分の部分断面図。
図6】本発明の第2の実施例による永久磁石同期機の1極分の部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明の第1の実施例における永久磁石同期機の全体図である。永久磁石同期機は回転子1と固定子30から構成される。回転子1は、径方向内側に凸となるよう構成された永久磁石収容孔4と、永久磁石収容孔4の径方向外側に位置する回転子鉄心2と、回転子鉄心2の極間側で、且つ、永久磁石収容孔4の径方向外側に位置するリブ6を有している。
【0013】
図2は、本発明の第1の実施例における永久磁石同期機の1極分の部分断面図である。永久磁石収容孔4には永久磁石3が配設される。永久磁石収容孔4と隣の極の永久磁石収容孔4とは、連結部11で連結される。また、永久磁石3は1極につき周方向に少なくとも2箇所の屈曲点42を有する。屈曲点42の間には磁化方向に対して垂直に伸びる中央部40が設けられている。また、屈曲点42を始端として極の端部側に向けて伸びる少なくとも2つの側部41が設けられている。
【0014】
このような永久磁石3の形状は、U字形状と同様に磁石磁束発生面の表面積を大きくすることができるとともに、永久磁石3の径方向外側の鉄心断面積が大きくなるのでリラクタンストルクを積極的に活用することができる。
【0015】
しかし、永久磁石3には、回転子1の回転による遠心力、急加速及び急停止による慣性力が働く。この遠心力や慣性力によって、永久磁石3は永久磁石収容孔4内部で移動する。
【0016】
フェライト磁石は焼成工程で成形体にうねりが発生するため、このうねり部分に相当する厚みを切削加工で除去する影響により、寸法公差が数百μmと大きくなる。フェライト磁石はうねりが大きく、希土類磁石の場合よりも数倍大きなクリアランスが生じるケースが珍しくない。また、フェライト磁石は希土類磁石に比べ残留磁束密度が低く、回転子鉄心2との磁気吸引力が弱い。そのため、フェライト磁石は希土類磁石に比べて永久磁石収容孔4内部で移動しやすく、永久磁石の破断及び材料特性の劣化を引き起こしやすい。
【0017】
そこで、本実施例では、極間側端部クリアランスの径方向における幅T1を中央部40と径方向外側の回転子鉄心2aとの間の径方向における隙間T3、又は、側部41と径方向外側の回転子鉄心2aとの間の径方向における隙間T2より長くしている。
【0018】
この構成により、永久磁石3の極間側端部がリブ6と接触する前に、中央部40又は側部41が回転子鉄心2に接触するため、永久磁石3の極間側端部がリブ6に接触するのを回避することができる。従って、特定箇所に集中して遠心力が加わることを回避して、永久磁石3の破断および材料特性の劣化を確実に防止することができる。
【0019】
また、永久磁石3は、回転子1の急加速及び急停止による慣性力によって回転方向に移動する。隙間T3が隙間T2より狭い場合、遠心力によって中央部40と回転子鉄心2は接触するが、側部41と回転子鉄心2は接触するとは限らない。つまり、急加速及び急停止による慣性力によって側部41と回転子鉄心2が接触したり離れたりする可能性がある。
【0020】
そこで、本実施例では中央部40と径方向外側の回転子鉄心2aとの間の径方向における隙間T3を、側部41と径方向外側の回転子鉄心2aとの間の径方向における隙間T2よりも長くしている。この構成によれば、遠心力によって側部41が径方向外側の回転子鉄心2aへの接触を維持でき、慣性力によって側部41と回転子鉄心2が接触したり離れたりすることを防止することができる。
【0021】
このように、側部41と回転子鉄心2とを面接触させて遠心力や慣性力を分散させることで、特定箇所に集中して遠心力や慣性力が加わることを回避することができる。そのため、永久磁石3の破断及び材料特性の劣化を抑制することができる。
【0022】
なお、側部41を直線形状にすることで、側部41と回転子鉄心2との磁気吸引力を一様にすることができるため、側部41と回転子鉄心2とをより確実に面接触させることができる。
【0023】
図3に示すように、永久磁石3の極間側の端部の長さをリブ6の長さよりも短くし、角を削る構成にしてもよい。この構成によれば、永久磁石3の極間側の端部の角がリブ6に接触するのをより確実に回避することができる。
【0024】
さらに、図3に示すように、永久磁石3の極間側の端部に、中央部40の磁化方向50に対して垂直となる面44を設けてもよい。中央部40の磁化方向50に対して垂直となる面44を底にして永久磁石3を置くことができ、永久磁石3を加工しやすくすることができる。
【0025】
また、中央部40の磁化方向50に対して平行となる面43を設けてもよい。
【0026】
さらに、永久磁石3が永久磁石収容孔4との接触面上をスライドして移動するのを屈曲点42によって阻止することができる。なお、本実施例では永久磁石3が2箇所の屈曲点42を有する場合について説明したが、永久磁石3のスライドを阻止する構造であれば、1箇所の屈曲点42のみ有する構造や、屈曲点42を有さずに突起や摩擦等によってスライドを阻止する構造であってもよい。
【0027】
また、永久磁石3の極間側の端部を円弧形状で構成することによって、遠心力や慣性力を分散させることができる。
【0028】
また、屈曲点42と回転子鉄心2との接触点45及び接触点46を円弧形状で構成することによって、遠心力や慣性力を分散させることができる。
【0029】
さらに、屈曲点42と回転子鉄心2との接触点45における径方向外側の回転子鉄心2aの円弧の半径を永久磁石3の円弧の半径より大きくすることで、屈曲点42と回転子鉄心2との接触点45における永久磁石3と回転子鉄心2との接触を回避することができる。
【0030】
また、屈曲点42と回転子鉄心2との接触点46における径方向内側の回転子鉄心2bの円弧の半径を永久磁石3の円弧の半径より小さくすることで、屈曲点42と回転子鉄心2との接触点46における永久磁石3と回転子鉄心2との接触を回避することができる。
【0031】
以上のように、永久磁石収容孔4内のフェライト磁石のガタつきを抑えることができ、騒音発生を抑制するとともに、磁石の破断および材料特性の劣化を防止することが可能となる。
【0032】
なお、図4に示すように、永久磁石3を径方向外側の回転子鉄心2aと径方向内側の回転子鉄心2bを別々に構成する分割コアであっても、同様の効果を得ることができる。
【0033】
径方向外側の回転子鉄心2aと永久磁石3の接触面、及び、径方向内側の回転子鉄心2bと永久磁石3の接触面をそれぞれ接着剤で接着固定する方法や、径方向外側の回転子鉄心2aと径方向内側の回転子鉄心2bの断面の一部に軸方向に貫通するボルト穴を設けるとともに、軸方向端部に肉厚の当て板を構造部材として設け、ボルト穴を通るボルトで回転子鉄心2と永久磁石3が一体となるよう締結する方法などが挙げられる。このような構成とすることで、構造体として設けられていたリブ6を削除できるため、永久磁石3からリブ6への漏れ磁束を低減して、トルク及び永久磁石同期機の効率を向上させることができる。
【0034】
なお、1極あたりの永久磁石3を周方向に分割して構成することも可能であるが、隣接する磁石の間に生じるクリアランス及び永久磁石の寸法公差に相当する分の磁束発生面積が消失するため、結果的に性能低下を招く。このため、永久磁石3は周方向に分割することなく一体で構成することが望ましい。
【0035】
また、永久磁石3の屈曲点42の間には、磁化方向に対して垂直に伸びる直線部分を設けているが、径方向内側に凸となるよう湾曲しても良いし、径方向内側に凸となるよう複数の直線部分で構成してもよい。
【0036】
また、永久磁石3には、フェライト磁石のような保持力、残留磁束密度が比較的低い永久磁石を使用する。
【0037】
また、回転子鉄心2は軸方向に積み重ねた積層鋼板で構成しても良いし、圧粉磁心などで構成しても良いし、アモルファス金属などで構成しても良い。
【0038】
また、本発明は、内転型回転子に限定されるものではなく、外転型回転子にも適用が可能である。
【実施例2】
【0039】
図5に本発明の第2の実施例による永久磁石同期機の1極分の部分断面図を示す。中央部40の磁化方向に対して垂直方向における中央部40の長さW1は、側部41の磁化方向に対して垂直方向における側部41の長さW2よりも長い。この構成により、永久磁石3に働く回転方向の慣性力を低減することができる。
【0040】
原理について、図6を用いて詳しく説明する。回転子1の急停止・脱調時には、図6に示すように永久磁石3に回転方向の力である慣性力60が印加される。このとき、慣性力60が最も集中するのは屈曲点42と回転子鉄心2との接触点45であり、屈曲点42と回転子鉄心2との接触点45での応力の大きさは、屈曲点42と回転子鉄心2との接触点45から慣性力60の作用点までの距離と、慣性力60との積、すなわち曲げモーメントで表すことができる。
【0041】
つまり、屈曲点42と回転子鉄心2との接触点45から慣性力60の作用点までの距離の合計値を短くすることで、屈曲点42と回転子鉄心2との接触点45に加わる曲げモーメントを低減することができる。
【0042】
したがって、図5に示すように、W2の長さをW1よりも小さくし、曲げモーメントを極力小さくすることで、屈曲点42と回転子鉄心2との接触点45への応力集中を低減でき、永久磁石3の破断および材料特性の劣化を抑制することができる。
【0043】
以上説明したように、本願発明の永久磁石同期機は、回転子と固定子から構成される永久磁石同期機であって、回転子は、径方向内側に凸となるよう構成される永久磁石3と、永久磁石3が配設される永久磁石収容孔4と、永久磁石収容孔4の径方向外側に位置する径方向外側の回転子鉄心2aと、径方向外側の回転子鉄心2aの極間側、且つ、永久磁石収容孔4の径方向外側に位置するリブ6と、を備え、永久磁石3は中央部40と、中央部40の両端に位置する側部41と、を有し、中央部40と永久磁石収容孔4との間の径方向における隙間は側部41とリブ6との間の径方向における隙間より狭い。
【0044】
また、本願発明の永久磁石同期機は、側部41と永久磁石収容孔4との間の径方向における隙間は、側部41とリブ6との間の径方向における隙間より狭い。
【0045】
また、本願発明の永久磁石同期機は、永久磁石3は少なくとも2箇所の屈曲点42を有し、中央部40は2箇所の屈曲点42の間に位置する。
【0046】
また、本願発明の永久磁石同期機は、中央部40と永久磁石収容孔4との間の径方向における隙間は、側部41と永久磁石収容孔4との間の径方向における隙間より狭い。
【0047】
また、本願発明の永久磁石同期機は、側部41及び永久磁石収容孔4は、側部41の磁化方向に対して垂直なリブ面を有し、側部41のリブ面は永久磁石収容孔4のリブ面より小さい。
【0048】
また、本願発明の永久磁石同期機は、側部41は中央部40の磁化方向に対して垂直な面を有する。
【0049】
また、本願発明の永久磁石同期機は、永久磁石3は、中央部40と側部41とを接続する円弧部を有し、永久磁石収容孔4は、円弧部を収容する円弧収容部を有し、円弧部の径方向外側の径は円弧収容部の径方向外側の径よりも小さい。
【0050】
また、本願発明の永久磁石同期機は、中央部40の磁化方向に対して垂直方向における中央部40の長さW1は、側部41の磁化方向に対して垂直方向における側部41の長さW2よりも長い。
【符号の説明】
【0051】
1 回転子
2a 径方向外側の回転子鉄心
2b 径方向内側の回転子鉄心
3 永久磁石
4 永久磁石収容孔
5 シャフト孔
6 リブ
11 連結部
30 固定子
40 中央部
41 側部
42 屈曲点
43 中央部40の磁化方向50に対して平行となる面
44 中央部40の磁化方向50に対して垂直となる面
45、46 屈曲点42と回転子鉄心2との接触点
50 極の中央部の磁化方向
60 慣性力
図1
図2
図3
図4
図5
図6