特許第6116110号(P6116110)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6116110チップレスRFIDへの適用のための印刷された導電性金属マーキングを作成するためのガルバニックプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6116110
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】チップレスRFIDへの適用のための印刷された導電性金属マーキングを作成するためのガルバニックプロセス
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/31 20060101AFI20170410BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20170410BHJP
   H05K 3/18 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   C23C18/31 Z
   H01B13/00 503D
   H05K3/18 F
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2008-293596(P2008-293596)
(22)【出願日】2008年11月17日
(65)【公開番号】特開2009-127130(P2009-127130A)
(43)【公開日】2009年6月11日
【審査請求日】2011年11月11日
【審判番号】不服2015-10619(P2015-10619/J1)
【審判請求日】2015年6月4日
(31)【優先権主張番号】11/943,774
(32)【優先日】2007年11月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596170170
【氏名又は名称】ゼロックス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ナヴィーン チョプラ
(72)【発明者】
【氏名】ピーター エム カズマイヤー
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク ジェイ ラリス
(72)【発明者】
【氏名】ポール エフ スミス
【合議体】
【審判長】 板谷 一弘
【審判官】 鈴木 正紀
【審判官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−42135(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/014861(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00
H01B 13/00
H05K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に金属配線パターンを印刷する方法であって、
第1の溶媒、及び、第2の金属イオンを酸化する第1の金属イオンを含有する第1の金属イオン溶液を基板に直接印刷する工程であって、第1の金属イオンは銅(II)である工程と、
第2の溶媒、及び、第1の金属イオンを還元する第2の金属イオンを含有する第2の金属イオン溶液を基板に直接印刷する工程であって、第2の金属イオンはクロム(II)である工程と、
基板上のガルバニック反応により、印刷された第1の金属イオン溶液、及び、第2の金属イオン溶液を反応させ、第1の金属イオンが還元された固体の金属を基板上に沈殿させて、基板上に金属配線を形成する工程であって、固体の金属は、5nmから7nmの寸法を有する金属ナノ粒子である工程と、
を含み、
第1の金属イオン溶液または第2の金属イオン溶液の少なくとも1つは、加熱されたプリントヘッドを用いて、溶媒が基板に接触することで凝固する流動可能な状態で基板上に印刷され、
金属ナノ粒子をアニールして導電性の金属配線を作り出すためにさらなるエネルギが不要で、
第2の金属イオンは、第1の金属イオンよりも低い還元電位を有する、方法。
【請求項2】
基板に金属配線パターンを印刷する方法であって、
第1の溶媒、及び、第1の金属イオンを含有する均一の第1の塩溶液を印刷する工程であって、第1の金属イオンは銅(II)である工程と、
第2の溶媒、及び、均一の第1の塩溶液を還元する第2の金属イオンを含有する均一の第2の塩溶液を印刷する工程であって、第2の金属イオンはクロム(II)である工程と、
基板上のガルバニック反応により、印刷された均一の第1の塩溶液及び第2の塩イオン溶液を反応させ、第1の金属イオンを5nmから7nmの寸法を有する固体の金属ナノ粒子として沈殿させる工程と、
を含み、
金属ナノ粒子をアニールして導電性の金属配線パターンを作り出すためにさらなるエネルギが不要で、
第2の金属イオンは、第1の金属イオンよりも低い還元電位を有し、
第1の塩溶液または第2の塩溶液の少なくとも1つは基板上に直接印刷され、
第1の塩溶液と第2の塩溶液の印刷は、第1の塩溶液と第2の塩溶液とを基板に接触すると凝固する流動可能な状態で基板上に印刷する加熱されたプリントヘッドを用いて実行される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種類の塩溶液が互いの上面に所望のパターンに印刷される印刷プロセスを用い、自然に起こる(spontaneous)ガルバニック反応を引き起こし、2種類の塩溶液の界面で還元金属粒子の沈殿および堆積に至る、チップレスRFIDへの適用において共振アンテナとして用いられる、基板に配線パターンを印刷するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高周波識別(RFID)技術が、情報を格納および伝達するための装置として多大な人気を博している。RFID技術は、目的物の上に設置されたタグトランスポンダ、および、タグを読み取り識別するためのリーダ(本明細書において質問器(interrogator)とも称される)を活用する。RFID技術は「アクティブ」タグまたは「パッシブ」タグのいずれかを用いるとして広く分類される。アクティブタグは局所電源(バッテリなど)を有するため、アクティブタグは質問器に読み取られる信号を送る。アクティブタグは長い信号範囲を有する。それに対して、「パッシブ」タグは内部電源を持たない。それどころか、パッシブタグはリーダから電力を引き出し、パッシブタグはリーダから信号を受け取ると情報を再送信またはトランスポンドする。パッシブタグの信号範囲はずっと狭い(一般に20フィート(6.096メートル)未満)。
【0003】
通常、両分類のタグは、一般に集積回路またはシリコンチップの形態の電子回路を有する。回路は識別データを格納し、リーダへ通信する。チップに加えて、タグにはチップと電気的に接続されたある種のアンテナが含まれる。アクティブタグはそのタグ自身の電源からリーダと通信するアンテナを内蔵する。パッシブタグに関して、アンテナは、リーダを源とする無線周波数(RF)エネルギを電力へ変換するための変換器としての役割を果たす。その後、チップにエネルギが与えられ、リーダとの通信機能(communication function)を実行する。
【0004】
他方、チップレスRFIDタグは、集積回路も個々の電子部品、例えばトランジスタなども有さない。この特徴により、チップレスRFIDタグは従来のRFIDタグよりも安いコストで基板の上に直接印刷することを可能にする。
【0005】
実際問題として、RFID技術は、材料に対して光信号が有するよりもはるかに大きい透過特性を有する無線周波数を用いており、バーコードラベルよりも一層不利な環境状況下で作動する。したがって、RFIDタグは塗装、水、汚れ、埃、人体、コンクリートを通過して、またはタグの付いた物品自体を通過して読み取られることが可能である。RFIDタグは在庫管理、有料道路での車の自動識別、セキュリティシステム、電子アクセスカード、キーレスエントリなどに用いることができる。
【0006】
RFIDアンテナは、導電性金属インクを用いて基板上に直接印刷され得る。あるいは、金属繊維を直接基板の中に組み入れてもよい。例えば、Inkode Corpによる一つのチップレスRFID技術では、紙へ埋め込まれた、埋め込みアルミニウム繊維が用いられている。アルミニウム繊維は適当な波長(1/4波長)に切断され、製紙プロセスの間に完成紙料(furnish)添加剤として紙繊維の中に組み込まれる必要がある。したがって、Inkode法は費用がかかり、単調である。
【0007】
微粒子金属材料はRFID印刷インクに用いられ得るが、インク用途におけるナノ微粒子金属材料の優れた特性により、より優れた製品が生み出される。一般に用いられるナノ材料は、金、銀、ニッケルおよび、特に銅である。ニッケルは比較的低い導電性のために(銅や銀の導電性より約1/4倍の低さ)、非常に限られた範囲の導電性インクに用いられてきた。金および銀は良好な導電性をもたらすことができるが、比較的高価である。銅は低価格で(銀の価格の約1%)良好な導電性をもたらす。残念ながら、銅は容易に酸化され、その酸化物は非導電性である。
【0008】
銅が、ガルバニック列中で銅よりも高電位の金属のガルバニック作用によって銅塩の溶液に堆積し得ることは公知である。ガルバニックプロセスは2種類の試薬間の自然に起こる化学反応を用いて電気を発生させる。プロセスは陽極の試薬から陰極の試薬への電子の流れを伴い、電子受容試薬の還元および電子供与試薬の酸化をもたらす。一般に、銅は、銅よりも還元電位の低い任意の金属(通常は卑金属と言われる)のガルバニック作用により銅塩の溶液から沈殿する。例えば、亜鉛金属(標準還元電位が−0.76V)およびアルミニウム金属(標準還元電位が−1.68V)は、銅金属(標準還元電位が+0.34V)よりも還元電位が低い。故に、亜鉛およびアルミニウムの両方の金属は銅イオン塩溶液から金属銅を沈殿させることができる。
【0009】
Barnesらに対する米国特許第3,084,063号には銅を基板上へ堆積させるためにガルバニックプロセスを用いる方法が記載されているが、Barnesの方法には、粉末形態の沈殿金属の液体懸濁液を圧力下で流れる第二銅塩の溶液の制限された乱流に注入すること、そして次に、相当な量の金属銅を沈殿させるために十分な相互作用が混合物の中で起こるよりも前に、混合物の水滴が表面に達するような方法で、混合物を銅張りされる表面に噴霧することが含まれる。Barnesが記載するように、通常の環境下で、銅の堆積は沈殿金属を第二銅塩溶液と混合させてから約20秒後に始まる。したがって、この時間が経過する前に混合物を噴霧しなければならない。さらに、Barnesはナノ粒子金属の使用に言及していない。
【0010】
【特許文献1】米国特許第3,084,063号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、チップレスRFIDタグを製造するためのより安価な方法に対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
基板に金属配線パターンを印刷する方法であって、還元半反応を受ける金属イオンを含有する第1の塩溶液を印刷する工程と、前記第1の塩溶液と接触して酸化半反応を受ける酸化剤を含む第2の塩溶液を印刷し、その結果前記第1の塩溶液の前記金属イオンの還元が生じる工程と、ガルバニック反応により前記第1の塩溶液および第2の塩溶液を反応させ、前記第1の塩溶液中の還元金属イオンを基板上に固体として沈殿させる工程と、を含む、方法である。
【0013】
基板に金属配線パターンを印刷するためのシステムであって、基板に印刷するためのインクジェットプリンタと、還元半反応を受ける金属イオンを含む第1の塩溶液を含有する第1のインク供給リザーバと、還元半反応を受ける酸化剤を含む第2の塩溶液を含有する第2のインク供給リザーバと、を含み、前記第1の塩溶液および第2の塩溶液が相互に接触して印刷され、ガルバニック反応によって反応させることができ、前記第1の塩溶液の還元された前記金属イオンが基板上に固体として沈殿し、金属配線を形成する、システムである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、チップレスRFIDへの適用において、うち1種類が金属イオンを含む2種類の塩溶液の印刷プロセスを用いて、共振アンテナとしての使用のための配線パターンを基板に印刷する方法を提供する。2種類の塩溶液は、所望のパターン中で互いの上面に印刷され、自然に起こるガルバニック反応を引き起こし、2種類の塩溶液の界面で還元金属粒子の沈殿および堆積に至る。
【0015】
本発明は、還元半反応(reduction half-reaction)を受ける金属イオンを含有する第1の塩溶液を印刷すること、第1の塩溶液に接するように酸化半反応(oxidized half-reaction)を受けるイオンを含有する第2の塩溶液を印刷すること、ならびに第1の塩溶液と第2の塩溶液とを反応させ、その結果第1の塩溶液の金属イオンの還元をもたらし、第1の溶液の還元金属イオンを固体として沈殿させることを含み、固体沈殿物が基板上に堆積して、自然に起こるガルバニック反応によって基板上に金属配線が形成される、ガルバニックプロセスにより基板に金属配線パターンを印刷するための方法に関する。
【0016】
本発明はまた、還元半反応を受ける金属イオンを含有する第1の塩溶液、酸化半反応を受けるイオンを含有する第2の塩溶液、2種類の塩溶液がその上に印刷される基板を含むシステムであって、それにより2種類の塩溶液を互いの上面に印刷し、反応させ、第1の溶液の還元金属イオンを固体として沈殿させ、その際、固体沈殿物は基板上に堆積し、自然に起こるガルバニック反応によって基板上に金属配線を形成するシステムに関する。
【0017】
本発明の利点は多数ある。本発明のある実施の形態は金属前駆体の均一な溶液を用いているので、粒子状物質の印刷に関連する問題、例えば溶液中にインクの中に沈降するかまたはプリンタヘッドを詰まらせる固体粒子の存在などを回避する。加えて、導電性の高いインクを基板にアニールする必要がない。金属粒子を共にアニールし、かつ導電性の形状を創り出すためにさらなるエネルギを必要としないため、これは特に有利である。その結果として、精巧かつ/または感温性の基板(例えば、例としてプラスチックフィルムなど)への導電性パターンの形成が可能であるため、多種多様な基板が使用に適し得る。加えて、本開示は導電性インクで印刷するよりも安いコストまたはより高い収率を提供することができる。
【0018】
一般に、本発明は、金属配線パターンが、電気的な適用を含む様々な適用、例えば、例としてチップレスRFIDへの適用における共振アンテナとして使用され得る、基板に金属配線パターンを印刷するための方法およびシステムを提供する。それに加えて、たとえ結果として得られるパターンが導電性でないとしても、印刷された金属パターンが装飾目的に使用され得ることは明白である。金属配線パターンは、一般に、複数の塩溶液が相互作用して堆積した金属配線を形成するガルバニックプロセスにより形成される。一実施形態では、本方法は一般に還元半反応を受ける金属イオンを含有する第1の塩溶液を印刷すること、および第1の溶液の上面で酸化半反応を受けるイオンを含有する第2の塩溶液を印刷することを含む。次に、第1の塩溶液および第2の塩溶液を反応させ、第1の塩溶液の還元金属イオンをナノ粒子の固体として基板上に堆積させ、それにより、自然に起こるガルバニック反応によって、金属ナノ粒子固体が基板上に金属配線を形成する。プロセスをこれから詳細に説明する。
【0019】
本発明は、本明細書に記載される特定の実施形態に限定されるものでなく、いくつかの成分およびプロセスはこの開示に基づいて当業者により変更され得る。本明細書において用いられる専門用語は、特定の実施形態を説明する目的のためだけのものであって、限定を意図するものではない。
【0020】
以下の本明細書および特許請求の範囲において、単数形には、その内容に明確に別段の指示のない限り、複数形が含まれる。
【0021】
第1の工程は第1の塩溶液を基板に印刷することを伴う。任意の適した材料を第1の塩溶液に用いてもよい。第1の塩溶液は、一般に、適した担体材料(carrier material)中に金属イオンを含み得る。第2の塩溶液と反応させると金属イオンは還元反応を受けて基板に堆積する金属ナノ粒子固体を形成し得る。
【0022】
一実施形態では、第1の塩溶液は、銅、アルミニウム、マグネシウム、マンガン、亜鉛、クロム、鉛、カドミウム、コバルト、ニッケル、金、銀、プラチナ、スズ、パラジウム、インジウム、鉄、タングステン、モリブデン、ルテニウム、ビスマスのイオン、その他の適した金属イオン、またはその混合物を含み得る。これらの金属イオンは、例えば、適した金属塩を溶媒または担体液(液体キャリア)の中へ混和させることによりもたらされ得る。例えば、金属塩は、金属硫酸塩、金属ハロゲン化物(例えば、金属塩化物または金属臭化物など)、金属硝酸塩、金属酢酸塩、金属亜硝酸塩、金属酸化物、金属炭酸塩、金属水酸化物、金属シュウ酸塩、金属ピラゾリルボレート、金属アジド、金属フルオロボレート、金属カルボン酸塩、金属ハロゲンカルボキシレート、金属ヒドロキシカルボキシレート、金属アミノカルボキシレート、芳香族カルボン酸金属塩、ニトロ置換芳香族カルボン酸金属塩および/またはフルオロ置換芳香族カルボン酸金属塩、金属芳香族カルボン酸塩、金属ニトロ置換芳香族カルボン酸塩および/または金属フルオロ置換芳香族カルボン酸塩、金属β−ジケトナート、金属スルホン酸塩、などの形態で提供され得る。
【0023】
例示的な実施形態では、第1の溶液中の金属イオンは、銅(II)イオンとして提供され得る。これらのイオンは、例えば、硫酸銅、塩化銅、硝酸銅、または酢酸銅などの金属を組み込むことによりもたらされ得る。当然、その他の金属およびその他の金属塩も用いてもよい。
【0024】
実施形態では、金属ナノ粒子のサイズは約5ナノメートル〜約100ナノメートルである。より具体的には、金属ナノ粒子のサイズは約20ナノメートル〜約60ナノメートルである。さらにより具体的には、金属ナノ粒子のサイズは約5ナノメートル〜約7ナノメートルである。
【0025】
任意の適した溶媒または担体液を第1の塩溶液を調製するために用いてもよい。溶媒または担体液は極性であっても非極性(無極性)であってもよい。本開示において有用な溶媒としては、アミン、アミド、アルコール、水、ケトン、不飽和炭化水素、飽和炭化水素、鉱酸、有機酸および有機塩基が挙げられる。例えば、適した溶媒としては、アルコール、アミン、アミド、水、ケトン、エーテル、アルデヒドおよびアルケン、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジエチレングリコールブチルエーテル(DEGBE)、エタノールアミン、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、などが挙げられる。
【0026】
一部の例では、溶媒は高融点溶媒、例えば約30℃〜約100℃の融点を有するものなどであってもよい。この実施形態では、熱せられたインクジェットヘッドを用いて、溶媒が基板に接触すると凝固する流動可能な状態の中で、前駆体組成物を堆積させることができる。それに続く加工は、その他の手段により溶媒を除去し、次に材料を最終製品に変え、それによって分解を保持する(retaining resolution)ことができる。この実施形態における好ましい溶媒は、蝋、高分子(量)脂肪酸、アルコール、アセトン、N−メチル−2−ピロリドン、トルエン、テトラヒドロフラン、などである。あるいは、前駆体組成物は、基板が組成物の凝固点よりも低い温度に保たれる室温では液体であってもよい。
【0027】
溶媒は、低融点溶媒であってもよい。低い融点は、前駆体組成物が基板上で乾くまで液体としてとどまらねばならない場合に必要である。この実施形態における好ましい低融点溶媒はDMAcであり、その融点は約−20℃である。
【0028】
加えて、溶媒は低蒸気圧溶媒であってもよい。低い蒸気圧は、インクジェットヘッド、注射器、あるいはその他の道具での蒸発が目詰まりなどの問題を引き起こす場合には、組成物の可使時間を有利に延長させる。この実施形態に従う好ましい溶媒はテルピネオールである。その他の低蒸気圧溶媒としては、ジエチレングリコール、エチレングリコール、ヘキシレングリコール、N−メチル−2−ピロリドン、およびトリ(エチレングリコール)ジメチルエーテルが挙げられる。
【0029】
溶媒は、高蒸気圧溶媒、例えば、少なくとも約1kPaの蒸気圧を有するものなどであってもよい。高い蒸気圧は乾燥による溶媒の迅速な除去を可能にする。高蒸気圧溶媒としては、アセトン、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、エタノール、メタノール、2−ブタノン、ならびに水が挙げられる。
【0030】
第2の工程は第2の塩溶液を基板の上に印刷することを伴う。本発明の実施の形態における第2の塩溶液に関して、任意の適した材料が使用されてよく、一般に適した担体材料中の還元剤を含む。第2の塩溶液は一般に、第1の塩溶液と反応させると酸化半反応を受け、第1の塩溶液中の金属イオンを還元させる還元剤を含み得る。第2の塩溶液中の還元剤は、イオン金属種または任意のその他の還元剤であってもよい。イオン金属種を第2の塩溶液中で還元剤として用いる場合、実施形態ではいかなる金属粒子を全く使用が回避されるように、元素金属を全く使用しないことが実施形態において望まれる。例えば、酸化半反応の時にAl/Al3++3e-を使用することがアルミニウム粒子に必要とされるが、あまり望ましくはない。
【0031】
第2の塩溶液はしたがって述べられた酸化半反応を受ける任意の適した金属イオンを含み得る。第2の塩溶液での使用に適した金属イオンは、第1の塩溶液と第2の塩溶液の間での相互作用が正の標準還元電位を生じるように、第1の塩溶液での使用に適した任意の金属イオンから選定することができる。第2の塩溶液中の金属イオンは、例えば、適した金属塩を溶媒または担体液の中へ混和させることによりもたらされ得る。例えば、金属塩は、金属硫酸塩、金属ハロゲン化物(例えば、金属塩化物または金属臭化物など)、金属硝酸塩、金属酢酸塩、金属亜硝酸塩、金属酸化物、金属炭酸塩、金属水酸化物、金属シュウ酸塩、金属ピラゾリルボレート、金属アジド、金属フルオロボレート、金属カルボン酸塩、金属ハロゲンカルボキシレート、金属ヒドロキシカルボキシレート、金属アミノカルボキシレート、芳香族カルボン酸金属塩、ニトロ置換芳香族カルボン酸金属塩および/またはフルオロ置換芳香族カルボン酸金属塩、金属芳香族カルボン酸塩、金属ニトロ置換芳香族カルボン酸塩および/または金属フルオロ置換芳香族カルボン酸塩、金属β−ジケトナート、金属スルホン酸塩、などの形態で提供され得る。
【0032】
例示的な実施形態では、第2の塩溶液中の金属イオンは鉄(II)、スズ(II)、鉛(II)、またはクロム(II)イオンとして提供され得る。これらのイオンは、例えば、Cr(OH)2、Fe(OH)2、Sn(OH)2、またはPb(OH)2などの金属塩を組み込むことにより提供され得る。当然、その他の金属、およびその他の金属塩を用いてもよい。
【0033】
任意の適した溶媒または担体液を、第2の塩溶液を調製するために用いることができる。第2の塩溶液を調製するために適した溶媒または担体液は、第1の塩溶液を調製するために適した任意の溶媒または担体液から選定されてもよいが、実施形態では、そのような溶媒の同定は必要ではなく、異なる材料を用いることもできる。
【0034】
第1の塩溶液、第2の塩溶液、または両方の塩溶液へ随意に添加することのできるその他の材料には、保湿剤、粘度調整剤および界面活性剤(surface tension modifier)(例えば、ポリマーのような増粘剤または界面活性剤など)が含まれる。塩溶液のインクジェット印刷に好ましい粘度範囲は1〜100cP(ミリパスカル秒)、好ましくは1〜10cP(ミリパスカル秒)である。
【0035】
したがって、2種類の塩溶液は、酸化還元電位が自然に起こるガルバニック反応を可能にして金属配線を作り出すように選択される。例示的な実施形態では、第1の塩溶液および第2の塩溶液は銅(II)およびクロム(III)の塩をそれぞれ含む。2種類の金属の標準的な還元電位を下に示す:
【0036】
[化1]
Cu2++2e→Cu E=+0.34V (1)
Cr3++1e→Cr2+=−0.42V (2)
【0037】
したがって、クロムを逆に酸化させ、電荷を平衡させることにより、本開示の反応は次のように表わされる:
【0038】
[化2]
Cu2++2Cr2+→Cu+2Cr3+=+0.76V (3)
【0039】
正の電池電位は自然に起こるプロセスを示す。ギブズの自由エネルギにて算出すると−146kJとなる。
【0040】
塩溶液が印刷される順序は相互に交換可能である。したがって、実施形態では、第1の溶液(還元される金属イオンを含有する溶液)が基板に印刷され、それに続いて第2の溶液(還元剤を含有する溶液)が印刷される。あるいは、還元剤を含有する溶液がまず基板に印刷され、それに続いて還元される金属イオンを含有する溶液が印刷される。さらに他の実施形態では、第1の溶液および第2の溶液を同時に印刷することが可能である。例えば、第1の溶液および第2の溶液は、それらが基板表面に接触する際だけ重なり合い相互作用するように、または、基板表面への堆積に先立ってプリンタヘッドから注入される前か後のいずれかにそれらが重なり合い相互作用するように、印刷することができる。
【0041】
任意の適した印刷方法を用いて塩溶液を基板に印刷することができる。例えば、印刷方法は、インクジェット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、輪転グラビア印刷、ならびにフレキソ印刷、などである。特定の実施形態では、用いられる方法はインクジェット印刷である。第1の溶液および第2の溶液はそれぞれ、例えば、別々の供給タンクまたは供給リザーバから同一または別々のインクジェットノズルを通して、二色印刷または多色印刷がそのようなプリンタで行われるのと同じように排出される。
【0042】
その上、2種類の塩溶液は、プリンタヘッドが基板上を1回目に通過する間に1種類の塩溶液を印刷し、次にその後の基板上の2回目の通過の間に第2の塩溶液を印刷する、2回通過プロセスによって印刷することができる。あるいは、基板の上をプリンタヘッドが単一回通過する間に2種類の塩溶液を印刷してもよい。これは、当分野に公知の任意の方法によって達成されてもよい。例えば、各塩溶液は別々のリザーバに蓄えられ得る。印刷システムは各塩溶液を別々に基板に送り、2種類の溶液が相互に作用する。さらに、塩溶液は基板へ同時にまたは連続して送られる。
【0043】
2種類の塩溶液は、1)一方の塩溶液がもう一方の塩溶液と完全に重なり合う、もしくは、2)2種類の塩溶液が部分的に重なり合う、というような方法で印刷することができる。当然、金属配線は2種類の塩溶液の界面、すなわち、2種類の塩溶液が重なり合うか混合される場所でのみ形成される。したがって、基板上の2種類の塩溶液の重複部分の程度または幅を調整することにより、得られる印刷金属配線の幅を調整することが可能となり得る。このことにより、プリンタの解像度よりも小さな幅、例えば、溶液を印刷するために用いられるインクジェットノズルよりも小さな幅などを有する金属配線の印刷が可能となり得る。
【0044】
実施形態では、個々の印刷金属配線の大きさは所望のアンテナの種類により決まる。例えば、導電繊維アンテナを形成するためには、繊維は、約4μm〜約6μmの厚さ、約0.1mm〜約2mmの幅、および約5mm〜約10mmの長さの範囲の寸法を有し得る。繊維の長さは共振周波数により決まる。共振回路長λおよび周波数に関する方程式は、λ=c/周波数で表され、式中、cは光の速度である。したがって、例えば、25GHzの共振回路に対して、波長は12mmである。後方散乱反射アンテナとして機能するには、繊維が、1/4波長、すなわち3mmであることが好ましい。同様に、およそ約10GHz〜約100GHzの周波数の1/2の波長寸法の共振回路はとても小さいので、それらは多数の目標物を独自に識別するために用いられ得る。その他の種類のアンテナ、例えばHFコイルやUHF扇形アンテナなどに関して、繊維の厚さは約5μm〜約50μm、幅は約0.1mm〜約1mmである。当然、繊維の長さは周波数の機能によって変化する。
【0045】
好ましい実施形態では、インクは、約0.01μm〜約5μmの版厚(print thickness)および約10Ω/m〜約10,000Ω/mの耐刷性を有する金属配線を提供するために印刷される。
【0046】
[基板]
印刷構造を形成するために任意の適した基板を用いてもよい。例えば、適した基板としては、限定されるものではないが、紙、グラスアート紙、ボンド紙、板紙、クラフト紙、段ボール、半合成紙またはプラスチックシート、例えばポリエステルシートもしくはポリエチレンシートなどが挙げられる。これらの様々な基板は、それらの自然状態、例えばコーティングされていない紙などの状態で提供されてもよいし、または、それらは改質された形態で、例えばコート紙もしくは表面加工紙または段ボール、印刷紙もしくは印刷された段ボール、などの形態で提供されてもよい。
【0047】
随意に、さらなる処理工程、例えば上塗り、乾燥およびすすぎのいずれかなどの工程を、単独にまたは組み合わせて、印刷工程の次に行ってもよい。
【0048】
随意の上塗り工程では、任意の適した上塗りは、印刷処理が完了した後に適用される。例えば、適した上塗りは、それらを摩耗、薬品による腐食、などから保護するためなど、印刷金属配線を被覆および保護するために適用され得る。そのように適用される場合、上塗りは所望の厚さのもの、不透明なもの、透明なもの、などのいずれかであってもよい。
【0049】
加えて、随意の乾燥工程が、基板への金属の沈殿および堆積の後に続いてもよい。金属沈殿物は80℃にて約5分間乾燥される。
【0050】
最後に、随意のすすぎ工程が、基板への金属の沈殿および堆積または乾燥工程の後に続いてもよい。そのようなすすぎ工程により過剰試薬を除去することができる。すすぎ工程での使用に適当な溶液は、例えば、水、アセトン、メタノール、エタノール、グリコール、およびヘキサンが挙げられる。
【0051】
実施形態では、2種類の塩溶液を約30分間反応させ、それに続いて未反応の金属塩を除去するために水でのすすぎ、それに続いて残りの水を除去するために低沸点の水混和性溶媒(例えばエタノールやアセトンなど)でのすすぎをそれぞれ1分間行う。元の金属塩が水以外の溶媒(例えばエチレングリコールなど)中に混合されている場合、水洗浄より前にエチレングリコールで1分間すすぐことが必要である。
【0052】
本発明の実施の形態に係る印刷プロセスは多くの分野においてその適用の可能性がある。本発明の実施の形態に係る印刷プロセスを用いて、電気相互接続ならびに電気部品および電子部品を含む電子回路システムおよび電気回路システムを製造することができる。さらに、本発明の実施の形態に係る印刷プロセスを用いて、レジスタ、コンデンサ、誘導子、およびRFIDタグならびに電気回路を含む電気部品を印刷することができる。加えて、本発明の実施の形態に係る印刷プロセスを用いてマイクロ波ストリップライン構造を柔軟な基板の上に直接印刷してマイクロ波集積回路(MIC)およびマイクロ波アンテナを形成することができる。このガルバニックプロセスを用いて、例えば、HFコイル、UHF扇形アンテナ、および繊維を含む任意の種類のアンテナを印刷することが実現可能であることに留意すべきである。
【0053】
実施例が本明細書の以降に説明され、本開示を実践する際に利用され得る異なる組成物と条件を例証する。全ての比率が、別に指定のない限り重量により表される。しかし、本発明が多くの種類の組成物を用いて実践され得ること、および、上記開示した実施の形態に従い、かつ以下に示すように、多くの異なる用途を有し得ることは明白である。
【実施例】
【0054】
10mL容量フラスコに、25mgのCuSO4・5H2Oを脱イオン水に溶かし、最終Cu2+塩濃度が10mMの10mL溶液とした。同様に、Cu(NO32の10mM溶液も23mgのCu(NO32を10mLの脱イオン水へ溶かすことにより調製した。両方の溶液は淡い青色であった。
【0055】
10mL容量フラスコに、7.8mgの[Cr(OAc)2,H2O]2を脱イオン水に溶かし、最終Cr2+塩濃度が10mMの10mL溶液とした。同様に、CrCl2の10mM溶液も12.3mgのCrCl2を10mLの脱イオン水に溶かすことにより調製した。両方の溶液は深いスミレ色(deep violet)であった。
【0056】
Dimatixプリンタカートリッジに、Cu2+塩溶液(その調製例は上に記載されている)を装填し、光沢のあるコート紙にラインを印刷した。このカートリッジを取り外し、2番目のDimatixプリンタカートリッジにCr2+塩溶液(その調製例は上に記載されている)を装填し、プリンタに差し込んだ。最初のプリンタCu2+ラインはCr2+塩溶液で刷り重ねられた。刷り重ねられたラインは、茶/オレンジ色になり、純粋な銅フィルムからのメッキを示す。溶媒残留物を蒸発除去させ、結果として銅でできた乾燥したライン形状(dried line features)が得られる。