特許第6116150号(P6116150)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6116150
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】レトルト耐性麺
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20170410BHJP
【FI】
   A23L7/109 A
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-168026(P2012-168026)
(22)【出願日】2012年7月30日
(65)【公開番号】特開2013-176350(P2013-176350A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2015年7月2日
(31)【優先権主張番号】特願2012-18617(P2012-18617)
(32)【優先日】2012年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000228
【氏名又は名称】江崎グリコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 一也
(72)【発明者】
【氏名】柿本 大輔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 信之
【審査官】 西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−215803(JP,A)
【文献】 特開平07−039334(JP,A)
【文献】 特開2011−000013(JP,A)
【文献】 でん粉製品の知識,1996年,初版第1刷,pp.116-119,122-123,172-173,186-189
【文献】 澱粉科学の事典,2003年,初版第1刷,p.196-197,418-419,508-509
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/109
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性グルテンと膨潤度10未満のデンプンと膨潤度10以上のデンプンを含むレトルト耐性麺であって、レトルト耐性麺全体に対し乾燥重量で、活性グルテン15〜30重量%、膨潤度10未満のデンプン50〜85重量%、膨潤度10以上のデンプン〜35重量%を含む、レトルト耐性麺。
【請求項2】
膨潤度10未満のデンプン60〜75重量%、膨潤度10以上のデンプン5〜20重量%を含む、請求項1に記載のレトルト耐性麺。
【請求項3】
膨潤度10未満のデンプンが、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン、リン酸架橋デンプン、湿熱処理デンプン、ハイアミロースデンプン、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、熱抑制デンプンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のレトルト耐性麺。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レトルト耐性麺に関する。
【背景技術】
【0002】
低カロリーの麺類としてコンニャクを使用した麺類は多数知られているが、コンニャクはうどんなどの麺類とは食感が大きく異なり、麺類の代替品としては食感の点で難があった。
【0003】
デンプンを使用した麺類として、特許文献1〜4が知られている。
【0004】
特許文献1は、デンプンと熱凝固性蛋白素材を使用しているが、レトルト処理はしていない。ここでのデンプンは高い架橋度は求められておらず、通常加熱でアルファ化する素材であるので、レトルト耐性はないものである。
【0005】
特許文献2は、小麦グルテンとリン酸架橋デンプンを使用した麺類を開示しているが、このリン酸架橋デンプンは通常加熱で十分にアルファ化するデンプンであり、レトルト処理前には蒸し処理が必要であり、通常の茹で処理をすると食感が低下し、麺の表面の崩れや茹でどけ、つゆの濁りが生じるなどの問題がある。
【0006】
特許文献3は、穀粉とレジスタントスターチを含む麺類を開示しているが、穀粉含量が高いためレトルト耐性のない麺類となる。
【0007】
特許文献4は、耐性デンプンを含むデンプン混合物を用いた成型食品を開示しているが、レトルト耐性の食品は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10-215803
【特許文献2】特開2011-13
【特許文献3】特開平10-313804
【特許文献4】特開2011-182664
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、レトルト処理を行っても麺の食感を維持できるレトルト耐性麺を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下のレトルト耐性麺を提供するものである。
項1. 活性グルテンと膨潤度10未満のデンプンを含むレトルト耐性麺。
項2. 前記レトルト耐性麺が、乾燥重量で、活性グルテン15〜30重量%程度と膨潤度10未満のデンプン50〜85重量%程度を含む、項1に記載のレトルト耐性麺。
項3. 膨潤度10以上のデンプンをさらに含む項1又は2に記載のレトルト耐性麺。
項4. 膨潤度10以上のデンプンがレトルト耐性麺に0〜35重量%程度含まれる、項3に記載のレトルト耐性麺。
項5. 膨潤度10未満のデンプンが、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン、リン酸架橋デンプン、湿熱処理デンプン、ハイアミロースデンプン、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、熱抑制デンプンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1〜4のいずれか1項に記載のレトルト耐性麺。
【発明の効果】
【0011】
本発明のレトルト耐性麺は、レトルト処理を行っても十分に硬さ、弾力のある良好な食感を有する。
【0012】
本発明のレトルト耐性麺は、一般的な方法で製造できるので、例えば、パウチ入りカレーうどんなどの常温流通商品の提供が可能になる。また、長期間の保存が可能な、遊離ブドウ糖の量が少なく血糖値の上昇を低減させた麺類を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
活性グルテン(バイタルグルテンともいう)は、粉末状になった状態のグルテンを意味し、加水により速やかに元の粘弾性を持ったグルテンを生じるものを指す。活性グルテンを得るための乾燥法として、フラッシュ乾燥、スプレー乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などが挙げられ、いずれの乾燥法を用いて製造してもよい。スプレー乾燥製造された活性グルテンが好ましい。
【0014】
本発明は、活性グルテンと共に膨潤度10未満のデンプン(以下、本明細書で「低膨潤度デンプン」ということがある)を使用することを特徴とする。
【0015】
低膨潤度デンプンとしては、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン、リン酸架橋デンプン、湿熱処理デンプン、ハイアミロースデンプン、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、熱抑制デンプンなどが挙げられる。これらのうち架橋デンプンは、修飾基による架橋度が高いほど、膨潤度は小さくなる。低膨潤度デンプンの膨潤度は、好ましくは0〜8、より好ましくは0〜5である。
【0016】
本発明のレトルト耐性麺は、さらに膨潤度10以上のデンプン(以下、本明細書で「高膨潤度デンプン」ということがある)を使用することができる。高膨潤度デンプンとしては、未加工デンプン、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酢酸デンプン、酸化デンプン、漂白デンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン及びリン酸化モノエステル化リン酸架橋デンプンなどが挙げられる。これらのうち架橋デンプンは、修飾基による架橋度が低いため、膨潤度が大きい。また、デンプンを多く含む小麦粉などの穀粉を高膨潤度デンプンとして使用することもできる。
【0017】
高膨潤度デンプンの膨潤度は、好ましくは10〜100、より好ましくは20〜100であり、より好ましくは30〜100である。膨潤度が高いほどレトルト耐性は低下する傾向にあり、食感、加工適性は向上する傾向にある。
【0018】
本発明のレトルト耐性麺が低膨潤度デンプンと高膨潤度デンプンを併用する場合、低膨潤度デンプンは、レトルト耐性麺全体に対し、乾燥重量で、50〜85重量%程度、好ましくは60〜75重量%程度であり、高膨潤度デンプンは、レトルト耐性麺全体に対し、乾燥重量で、0〜30重量%程度、好ましくは5〜20重量%程度である。また、低膨潤度デンプンと高膨潤度デンプンを併用する場合、低膨潤度デンプンと高膨潤度デンプンの重量比は、85:0〜50:35、好ましくは75:5〜60:20である。低膨潤度デンプンのみであってもよいが、食感と加工適性をより向上させるためには高膨潤度デンプンを併用するのが好ましい。
【0019】
デンプンの膨潤度は、以下の方法で測定することができる。
「試料1.0gをイオン交換水100mlに分散し、90℃で30分間加熱後30℃に冷却する。次いで、この糊化液を遠心分離(3000rpm、10分間)してゲル層と上澄み層に分け、ゲル層の質量を測定して、これをAとする。次に質量測定したゲル層を乾固(105℃、恒量)して質量を測定してこれをBとし、A/Bで膨潤度を表す。」
本発明のレトルト耐性麺は、さらに添加剤として卵白、乳蛋白、大豆蛋白などの動植物蛋白質類や、食物由来のセルロース及びヘミセルロースなどの食物繊維、オリゴ糖、エリスリトール、還元デキストリン、ポリデキストロースなどの難消化性糖質、キサンタンガム、グアガム、カラギーナン、カードラン、寒天、コンニャク、ゼラチン、タマリンドガム、アルギン酸、ジェランガムなどの増粘多糖類、難消化性デキストリン、乳化剤(例えばグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、酵素処理レシチンなど)、有機酸(クエン酸、乳酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、アジピン酸など)、無機酸(リン酸、炭酸、塩酸、硫酸など)、アルカリ金属(ナトリウム、カリウムなど)又はアルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウムなど)の塩類などを1種又は2種以上含んでいてもよい。添加剤の合計量は乾燥重量で麺全体の10重量%以下、好ましくは5重量%以下である。
【0020】
本発明のレトルト耐性麺は、活性グルテンと低膨潤度デンプン、必要に応じて高膨潤度デンプン及び上記のような添加剤、水を適量配合し、ピンミキサー、縦型ミキサーなどのミキサーで混合してシート状に成型し、切断することで製造することができる。また前述同様にミキサーで混合しパスタマシン等で押し出し成型したもの、その他定法により成型したものも、もちろん製造することができる。形状は、うどんや中華麺のような線状でもよいが、パスタ類のような中空状や貝殻形状、わんたん、餃子や焼売の皮、ラビオリの皮などでもよい。ただし、レトルト水餃子等のように中具を包んでスープに浮かべたレトルト食品の場合には、スープ中で皮の接合がはずれ餃子等の形状がくずれてしまう可能性があるので、接合部を強くする必要がある。例えば、トランスグルタミナーゼを配合した食品加工用接着剤を使用することで、レトルト水餃子等のように中具を包んでスープに浮かべたレトルト食品にも対応できる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことはいうまでもない。なお、以下において、配合量は特に説明のない限り、重量基準で表す。
【0022】
(実施例1)デンプン混合物中に占める膨潤度10未満のデンプンの割合を変え、レトルト耐性麺を製造し評価を実施した。膨潤度10未満のデンプンには、ファイバージムRW(グリコ栄養食品株式会社製、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン)を用い、膨潤度10以上のデンプンには、ケミスター200(グリコ栄養食品株式会社製、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン)を用いた。活性グルテンにはA-グルK(グリコ栄養食品株式会社製、スプレー乾燥グルテン)を使用した。混合には真空ピンミキサーを用い、真空度700mmHgで、高速8分間、さらに低速4分間混合した後、ロール製麺により圧延し、切り出すことで生麺を得た。これを10分間茹でた後、レトルト処理に供した。レトルト処理は、100gの茹で終えた麺を180gの水またはカレーソースとともにアルミパウチに密封し、123℃ 25分でおこなった。これを40℃で2週間保存した後に、麺の組織、食感を評価した。表1に配合および評価を記載した。評価は、パネラー5名で実施した。その結果、配合(i)〜(iii)は、良好な成形性・食感であった。膨潤度10未満のデンプンとして、ファイバージムRWの替わりに日食ロードスター(日本食品化工株式会社製、湿熱処理コーンスターチ)を使用した場合も、(i)〜(iii)は、良好な成形性・食感であった。
【0023】
【表1】
【0024】
〔評価〕 ・成型性 5(良い)← 3(通常並) →1(悪い)
・膨潤 5(少ない)← 3(通常並) →1(多い)
・コシ 5(強い)← 3(通常並) →1(弱い)
・つるみ 5(良好)← 3(通常並) →1(悪い)
・総合評価 5(良好)← 3(通常並) →1(悪い)
【0025】
(実施例2)デンプン混合物中に占める膨潤度10未満のデンプンと膨潤度10以上のデンプンの割合を80:20とし、使用する膨潤度10以上のデンプンの種類を変えて、実施例1と同様にレトルト耐性麺を製造し評価を実施した。膨潤度10以上のデンプンには、ケミスター220(グリコ栄養食品株式会社製、酢酸デンプン(高膨潤度デンプン))、RK−08(グリコ栄養食品株式会社製、リン酸架橋デンプン(高膨潤度デンプン))、ケミスター300S(グリコ栄養食品株式会社製、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン(高膨潤度デンプン))、小麦粉(強力粉)を用いた。結果を表2に配合および評価を記載した。その結果、配合(iv)〜(vii)は、いずれも良好な成形性・食感であった。
【0026】
【表2】
【0027】
(実施例3)使用する活性グルテンの配合量および種類を変えて、実施例2と同様にレトルト耐性麺を製造し評価を実施した。膨潤度10以上のデンプンにはケミスター200を使用し、活性グルテンには、A-グルRS(グリコ栄養食品株式会社製、スプレー乾燥グルテン)、A-グルWP(グリコ栄養食品株式会社製、フラッシュ乾燥グルテン)、を用いた。表3に配合および評価を記載した。さらに、卵白や増粘多糖類を添加した時の結果もあわせて表3に記載した。その結果、いずれの配合も良好な成形性・食感であった。
【0028】
【表3】
【0029】
※乾燥卵白:キューピータマゴ株式会社製、「乾燥卵白Cタイプ」。
※増粘多糖類:キサンタンガム製剤。大日本住友製薬株式会社製、「エコーガムF」。
【0030】
(実施例4)
表4の配合で餃子の皮を作成した。混合には縦型ミキサー(フック)を用い12分間混合した後、ロール製麺により0.8mm厚に圧延し、打ち抜き成型することで餃子の皮を得た。これに中具を配置し、餃子皮の周縁部にトランスグルタミナーゼ(味の素株式会社製「アクティバTG-B強着タイプ」)を含む溶液を塗布した後、餃子に成型した。この成形品を3時間室温に置いた後、中華スープとともにレトルトパウチに密封し、123℃ 25分でレトルト処理を行なった。その結果、餃子の形状が維持されたレトルト水餃子が製造できた。これを40℃で2週間保存した後に、食感、形状を評価した。評価はパネラー5名で実施した。その結果、食感は良好であり、形状も維持されていた。
【0031】
【表4】
【0032】
※A-グルSS:グリコ栄養食品株式会社製、スプレー乾燥グルテン。