【文献】
J. Microw. Power Electromagn. Energy (2007) vol.41, no.2, p.41-2-36〜41-2-44
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
真空度調整手段が、気体を前記密封容器内に流入させる開口部と、当該密封容器内に流入させる気体の流入量を調整する流入量調整手段と、を有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の生体物質の脱水装置。
前記制御手段は、前記入熱手段と電気的に接続され、前記生体物質への単位時間当たりの入熱量が一定となるように当該入熱手段を制御する、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の生体物質の脱水装置。
脱水対象物である生体物質を密封容器に収納し、前記密封容器内を吸引して当該密封容器内の真空度を上昇させるとともに、前記生体物質に所要の熱量を入熱する第1工程と、
前記生体物質の質量を測定し、得られた測定値から当該生体物質の単位時間当りの質量低下速度を算出するとともに、前記単位時間当りの質量低下速度が所要の範囲内となるように、前記密封容器内の真空度を調整する第2工程と、
前記第2工程よりも前記密封容器内の真空度を上昇させる第3工程と、を備える、生体物質の脱水方法。
脱水対象物である生体物質を密封容器に収納し、前記密封容器内を吸引して当該密封容器内の真空度を上昇させるとともに、前記生体物質に所要の熱量を入熱する第1工程と、
前記生体物質の温度を測定し、得られた測定値から当該生体物質の単位時間当りの温度低下速度を算出するとともに、前記単位時間当りの温度低下速度が所要の範囲内となるように、前記密封容器内の真空度を調整する第2工程と、
前記第2工程よりも前記密封容器内の真空度を上昇させる第3工程と、を備える、生体物質の脱水方法。
脱水対象物である生体物質を密封容器に収納し、前記密封容器内を吸引して当該密封容器内の真空度を上昇させるとともに、前記生体物質に所要の熱量を入熱する第1工程と、
前記生体物質の質量及び温度を測定し、得られた測定値から当該生体物質の単位時間当りの質量低下速度及び温度低下速度を算出するとともに、前記単位時間当たりの温度低下速度が所要の範囲内の場合に、前記単位時間当りの質量低下速度が所要の範囲内となるように、前記密封容器内の真空度を調整する第2工程と、
前記第2工程よりも前記密封容器内の真空度を上昇させる第3工程と、を備える、生体物質の脱水方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された脱水方法では、ウニ生殖腺のような魚介類の生殖腺または魚卵の卵塊等、皮膜を有した粒状物質で粒子内に高粘性液体を有する生体物質を脱水処理の対象とした場合に、例えば1kPa未満といった高真空度の条件を用いて脱水処理を行うと、生体物質の上記皮膜が破損してしまう場合があった。
【0006】
一方、特許文献1に開示された脱水方法において、例えば10kPa〜1kPaといった中真空度の条件を用いて脱水処理を行うと、生体物質の皮膜の破損を抑制することが可能となるが、長い処理時間を必要とし、処理効率が著しく低下してしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、生体物質を破損させることがなく、かつ、処理効率を著しく低下させることがない生体物質の脱水装置及び脱水方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、脱水対象物である生体物質を収納可能な密封容器と、
前記密封容器内を吸引して当該密封容器内の真空度を上昇させる真空吸引手段と、
前記密封容器内に気体を導入して真空度を調整する真空度調整手段と、
前記生体物質に所要の熱量を入熱する入熱手段と、
前記生体物質の質量を測定する質量測定手段と、
少なくとも、前記質量測定手段及び前記真空度調整手段と電気的に接続された制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記生体物質の質量の測定値から当該生体物質の単位時間当りの質量低下速度を算出するとともに、前記単位時間当りの質量低下速度が所要の範囲内となるように、前記真空度調整手段及び真空吸引手段の少なくとも一方を制御して前記密封容器内の真空度を調整する、生体物質の脱水装置である。
【0009】
請求項2に係る発明は、脱水対象物である生体物質を収納可能な密封容器と、
前記密封容器内を吸引して当該密封容器内の真空度を上昇させる真空吸引手段と、
前記密封容器内に気体を導入して真空度を調整する真空度調整手段と、
前記生体物質に所要の熱量を入熱する入熱手段と、
前記生体物質の温度を測定する温度測定手段と、
少なくとも、前記温度測定手段及び前記真空度調整手段と電気的に接続された制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記生体物質の温度の測定値から当該生体物質の単位時間当りの温度低下速度を算出するとともに、前記単位時間当りの温度低下速度が所要の範囲内となるように、前記真空度調整手段及び真空吸引手段の少なくとも一方を制御して前記密封容器内の真空度を調整する、生体物質の脱水装置である。
【0010】
請求項3に係る発明は、脱水対象物である生体物質を収納可能な密封容器と、
前記密封容器内を吸引して当該密封容器内の真空度を上昇させる真空吸引手段と、
前記密封容器内に気体を導入して真空度を調整する真空度調整手段と、
前記生体物質に所要の熱量を入熱する入熱手段と、
前記生体物質の温度を測定する温度測定手段と、
前記生体物質の質量を測定する質量測定手段と、
少なくとも、前記温度測定手段、前記質量測定手段及び前記真空度調整手段と電気的に接続された制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記生体物質の質量の測定値から当該生体物質の単位時間当りの質量低下速度を算出し、前記生体物質の温度の測定値から当該生体物質の単位時間当りの温度低下速度を算出するとともに、前記単位時間当りの温度低下速度の値が所要の範囲内である場合に、前記単位時間当りの質量低下速度が所要の範囲内となるように、前記真空度調整手段及び真空吸引手段の少なくとも一方を制御して前記密封容器内の真空度を調整する、生体物質の脱水装置である。
【0011】
請求項4に係る発明は、真空度調整手段が、気体を前記密封容器内に流入させる開口部と、当該密封容器内に流入させる気体の流入量を調整する流入量調整手段と、を有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の生体物質の脱水装置である。
【0012】
請求項5に係る発明は、前記開口部に、窒素ガス導入管が接続されている、請求項4に記載の生体物質の脱水装置である。
【0013】
請求項6に係る発明は、前記流入量調整手段が、前記窒素ガス導入管に設けられた流量調整弁である、請求項5に記載の生体物質の脱水装置である。
【0014】
請求項7に係る発明は、前記制御手段が、前記入熱手段と電気的に接続され、前記生体物質への単位時間当たりの入熱量が一定となるように当該入熱手段を制御する、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の生体物質の脱水装置である。
【0015】
請求項8に係る発明は、前記密封容器内の真空度を測定する真空度測定手段をさらに備える、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の生体物質の脱水装置である。
【0016】
請求項9に係る発明は、前記入熱手段が、マイクロ波照射装置である、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の生体物質の脱水装置である。
【0017】
請求項10に係る発明は、前記生体物質が、魚介類の生殖腺または卵塊である、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の生体物質の脱水装置である。
【0018】
請求項11に係る発明は、脱水対象物である生体物質を密封容器に収納し、前記密封容器内を吸引して当該密封容器内の真空度を上昇させるとともに、前記生体物質に所要の熱量を入熱する第1工程と、
前記生体物質の質量を測定し、得られた測定値から当該生体物質の単位時間当りの質量低下速度を算出するとともに、前記単位時間当りの質量低下速度が所要の範囲内となるように、前記密封容器内の真空度を調整する第2工程と、
前記第2工程よりも前記密封容器内の真空度を上昇させる第3工程と、を備える、生体物質の脱水方法である。
【0019】
請求項12に係る発明は、脱水対象物である生体物質を密封容器に収納し、前記密封容器内を吸引して当該密封容器内の真空度を上昇させるとともに、前記生体物質に所要の熱量を入熱する第1工程と、
前記生体物質の温度を測定し、得られた測定値から当該生体物質の単位時間当りの温度低下速度を算出するとともに、前記単位時間当りの温度低下速度が所要の範囲内となるように、前記密封容器内の真空度を調整する第2工程と、
前記第2工程よりも前記密封容器内の真空度を上昇させる第3工程と、を備える、生体物質の脱水方法である。
【0020】
請求項13に係る発明は、脱水対象物である生体物質を密封容器に収納し、前記密封容器内を吸引して当該密封容器内の真空度を上昇させるとともに、前記生体物質に所要の熱量を入熱する第1工程と、
前記生体物質の質量及び温度を測定し、得られた測定値から当該生体物質の単位時間当りの質量低下速度及び温度低下速度を算出するとともに、前記単位時間当たりの温度低下速度が所要の範囲内の場合に、前記単位時間当りの質量低下速度が所要の範囲内となるように、前記密封容器内の真空度を調整する第2工程と、
前記第2工程よりも前記密封容器内の真空度を上昇させる第3工程と、を備える、生体物質の脱水方法である。
【0021】
請求項14に係る発明は、前記第2工程において、前記密封容器内に気体を導入して真空度を調整する、請求項11乃至13のいずれか一項に記載の生体物質の脱水方法である。
【0022】
請求項15に係る発明は、前記気体が窒素である、請求項14に記載の生体物質の脱水方法である。
【0023】
請求項16に係る発明は、前記生体物質への単位時間当たりの入熱量を一定とする、請求項11乃至15のいずれか一項に記載の生体物質の脱水方法である。
【0024】
請求項17に係る発明は、前記生体物質の温度範囲が、−5〜40度の範囲内とする、請求項11乃至16のいずれか一項に記載の生体物質の脱水方法である。
【0025】
請求項18に係る発明は、前記生体物質への入熱が、マイクロ波照射方式により行う、請求項11乃至17のいずれか一項に記載の生体物質の脱水方法である。
【0026】
請求項19に係る発明は、前記生体物質が、魚介類の生殖腺または卵塊である、請求項11乃至18のいずれか一項に記載の生体物質の脱水方法である。
【発明の効果】
【0027】
本発明の脱水装置及び脱水方法によれば、脱水対象である生体物質の質量及び温度の少なくともいずれか一方を測定し、その単位時間当たりの低下速度が所要の範囲内となるように真空度を調整しながら脱水処理を行うため、生体物質を破損させることなく、かつ、処理効率を著しく低下させることなく生体物質の脱水処理を行うことができる。ここで、生体物質を収納する密封容器内に気体を導入することにより、真空度の調整を容易に行うことができる。また、密封容器内に導入する気体として窒素ガスを用いれば、脱水処理中の品質劣化をより抑えることができる。
【0028】
また、生体物質への入熱をマイクロ波照射によって行えば、生体物質に損傷を与えることなく脱水することができる。
特に、本発明は、生体物質が皮膜を有した粒状物質で粒子内に高粘性液体を有する、魚介類の生殖腺または卵塊のような場合に、より有効となる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を適用した一実施形態である生体物質の脱水装置及び脱水方法について、図面を用いて詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0031】
<事前検討>
先ず、本発明者らは、ウニ生殖腺のような魚介類の生殖腺または魚卵の卵塊等、皮膜を有した粒状物質で粒子内に高粘性液体を有する生体物質を脱水処理の対象とし、上記特許文献1に記載された従来の脱水装置及び脱水方法を用いて脱水処理を行って、問題点を明らかにした。ここで、上記特許文献1に記載された従来の脱水方法とは、サンプル(ウニ)を真空チャンバー内に収納した後、一定のマイクロ波出力(オンオフ照射)及び一定の真空度を用いたマイクロ波減圧乾燥である。
【0032】
(検証試験1)
また、具体的な脱水処理の条件は、下記の通りである。
・真空チャンバー内の真空度:高真空(度)
(真空ポンプの能力一杯に運転し、真空度を調整しない状態、例えば、1kPa未満等)
・マイクロ波出力:100W
(ただし、マイクロ波の照射開始は、真空ポンプの運転開始から1分後から)
・処理時間:15分
【0033】
図2は、上記特許文献1に記載された従来の脱水方法を用いて脱水処理を行った際のサンプル温度の変化を示す図である。また、
図2の横軸は、処理開始からの経過時間を示しており、縦軸はサンプル温度を示している。
図2に示すように、従来の脱水処理を開始してからのサンプル(ウニ)の温度変化は、脱水処理開始(真空ポンプの運転開始)から3つの時間帯(1)〜(3)でそれぞれ異なる挙動を示す。なお、上記3つの時間帯については、以下のように定義する。
(1)第1区分:真空チャンバー内の圧力降下の初期段階で、処理対象物の水分蒸発(すなわち、質量減少)に影響のない時間帯
(2)第2区分:処理対象物の温度が比較的高く、かつ、処理対象物の温度低下が確認できる時間帯
(3)第3区分:処理対象物の温度が比較的低く、かつ、処理対象物の温度がほぼ一定となる時間帯
【0034】
ところで、上述したように、上記特許文献1に記載された従来の脱水方法では、一定のマイクロ波出力(オンオフ照射)と一定の真空度において脱水処理が行われている。そのため、脱水処理中のサンプル温度は、マイクロ波による加熱と水分蒸発による冷却とのバランスにより決定されることになる。
【0035】
図2を参照すると、第2区分(
図2中に示す時間帯(2))では、サンプル温度が降下している。すなわち、第2区分は、水分蒸発による冷却がマイクロ波による入熱を上回った状態である。これに対して、第3区分(
図2中に示す時間帯(3)では、サンプル温度の降下が見られずに一定である。すなわち、第3区分は、水分蒸発による冷却とマイクロ波による入熱とのバランスが取れた状態である。ここで、マイクロ波による入熱は、第2区分と第3区分とは同一の条件であるので、第2区分に比較して第3区分では水分の蒸発速度が低下していることが確認できる。
【0036】
また、下表1に、従来の脱水方法における3つの時間帯での運転条件(真空度)、サンプル(ウニ)の温度及び重量の挙動を示す。
【表1】
【0037】
従来の脱水方法及び上記運転条件を用いて脱水処理を行った結果、
図2及び表1中に示す第2区分において処理対象物であるウニの皮膜の破損が確認された。
【0038】
(検証試験2)
そこで、本発明者らは、第2区分及び第3区分における運転条件(真空度)を見直した場合についても検討した。具体的には、見直した運転条件は、下記の通りである。
・真空チャンバー内の真空度:中真空(度)
(真空ポンプの能力一杯の運転による高真空の状態に気体を導入し、真空度を調整した状態、例えば、10kPa〜1kPa等)
【0039】
また、下表2に、運転条件を見直した場合における3つの時間帯での運転条件(真空度)、サンプル(ウニ)の温度及び重量の挙動を示す。
【表2】
【0040】
従来の脱水方法及び第2区分及び第3区分の運転条件を見直して脱水処理を行った結果、表2中に示す第2区分において真空チャンバー内の真空度を5kPa程度に減少することにより、処理対象物であるウニの皮膜の破損を抑制する可能性を見出した。しかしながら、第3区分において真空チャンバー内の真空度を5kPa程度に減少することにより、第3区分での脱水速度が著しく低下することが確認された。
【0041】
上記検証試験の結果から、本発明者らは以下の知見を得て、本発明を完成させたものである。
(1)処理対象物が、ウニや魚卵など、皮膜を有した粒状物質で粒子内に高粘性液体を有する生体試料である場合、第2区分において水分の蒸発速度が速いと、皮膜が破損するおそれがある。すなわち、対象物の損傷は、第2区分の運転条件に起因する。
(2)上記生体試料の皮膜の破損を抑えるために、第2区分の真空度の運転条件を中真空度とし、当該運転条件のまま第3区分も処理すると、蒸発速度が著しく低下する。このため、より長い処理時間を必要とし、処理効率が低下することがある。すなわち、処理効率の低下は、第3区分の運転条件に起因する。
【0042】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の生体物質の脱水装置の一実施形態であるマイクロ波減圧脱水装置の一例を示す構成図である。以下、
図1を参照して、本発明の生体物質の脱水装置及び脱水方法の実施の形態について説明する。
【0043】
先ず、
図1を参照して、本発明の生体物質の脱水装置の一実施形態であるマイクロ波減圧脱水装置2の一例の構成について説明する。
【0044】
図1に示すように、マイクロ波減圧脱水装置(生体物質の脱水装置)2は、真空チャンバー(密封容器)3と、その真空チャンバー3内に配設され、脱水対象物としての生体試料(生体物質)1が載置されるトレイ31と、真空チャンバー3内を所要の真空状態に保つための真空ポンプ(真空吸引手段)41と、真空チャンバー3内の真空状態(圧力)を測定するための真空計(真空度測定手段)42と、真空チャンバー3内の生体試料1に照射するためのマイクロ波を発生させるマイクロ波発振器51と、そのマイクロ波発振器51の出力を調整するためのマイクロ波出力調整器52と、生体試料1の表面および内部の温度を測定するための、例えば蛍光式光ファイバ式温度計等の温度センサー(温度測定手段)53と、生体試料1の質量を測定するための、例えばロードセル等の質量計(質量測定手段)6と、真空チャンバー3に設けられた開口部71と、その開口部71に接続された窒素ガス導入管72と、その窒素ガス導入管72に設けられた流量調整弁(流入量調整手段)73と、少なくとも、真空計42、マイクロ波出力調整器52、温度センサー53、質量計6及び流量調整弁73と電気的に接続された制御盤(制御手段)8と、を備えて概略構成されている。
【0045】
生体試料1としては、皮膜を有した粒状物質で粒子内に高粘性液体を有する生体物質、具体的には、魚介類の生殖腺または卵塊、好ましくはウニ生殖腺を脱水対象物とすることができるが、他の食品を脱水対象物としても構わない。
【0046】
真空チャンバー3は、その内部の空間に脱水対象物である生体試料1を収納可能であって、かつ密封が可能な容器(密封容器)である。また、真空チャンバー3は、生体試料1の収納及び取り出しが可能であって、真空チャンバー3内の真空度(圧力)を5kPa以下、好ましくは1kPa以下に維持することが可能であることが好ましい。真空チャンバー3の材質はマイクロ波を透過及び吸収しない材料であれば特に限定されず、金属等が使用可能である。
【0047】
トレイ31は、真空チャンバー3内への配設が可能であり、生体試料1の載置が可能であれば、金属等のマイクロ波を反射する材料や含水材等のマイクロ波を吸収する材料を除き、特に限定されるものではない。
【0048】
真空ポンプ41は、真空チャンバー3内の気体を吸引して真空チャンバー3内の真空度を上昇させる装置である。この真空ポンプ41は、真空チャンバー3内を所要の真空状態に保つことが可能であれば、特に限定されるものではなく、例えばロータリーポンプ等を用いることができる。また、真空ポンプ41として、主ポンプと補助ポンプとを併用してもよい。ここで、上記所要の真空状態としては、真空チャンバー3内の真空度(圧力)が、5kPa以下、好ましくは1kPa以下であることが好ましい。また、真空ポンプ41は、その吸引能力の最大値付近の運転条件を一定に保つことが可能であることが好ましい。さらに、真空ポンプ41は、その吸引能力の範囲内で、運転条件を運転中に変更可能であっても良い。
【0049】
真空計42は、真空チャンバー3内の真空状態(真空度、圧力)を測定することが可能であれば、特に限定されるものではない。また、真空計42は、後述する制御盤8と電気的に接続されており、その真空計42の測定値を電気信号として当該制御盤8に送信可能とされている。
【0050】
マイクロ波発振器51は、真空チャンバー3内の生体試料1にマイクロ波を照射して、生体試料1に所要の熱量を入熱する装置である。また、マイクロ波出力調整器52は、マイクロ波発振器51の出力を調整する装置である。このマイクロ波出力調整器52は、上記マイクロ波出力調整器52及び後述する制御盤8と電気的に接続されており、制御盤8から送信された出力調整信号に基づいてマイクロ波発振器51に出力信号を送信する。
【0051】
例えば、マイクロ波出力調整器52によってマイクロ波発振器51を制御して、生体試料1に対してマイクロ波をオンオフ照射することにより、生体試料1に対するマイクロ波による入熱量を一定にすることができる。このように、生体試料1への入熱をマイクロ波照射によって行う構成となっているため、生体試料1に損傷を与えることなく脱水処理を行うことができる。
【0052】
なお、本実施形態のマイクロ波減圧脱水装置2は、上記マイクロ波発振器51と上記マイクロ波出力調整器52とを有するマイクロ波照射装置(入熱手段)5を備えている。ただし、マイクロ波照射装置5の構成は、一例を示すものであって、これに限定されるものではない。
【0053】
温度センサー53は、チャンバー3内において生体試料1の表面および内部の温度を測定することが可能であれば、特に限定されるものではない。また、温度センサー53は、後述する制御盤8と電気的に接続されており、その温度センサー53の測定値を電気信号として当該制御盤8に送信可能とされている。
【0054】
質量計6は、真空チャンバー3内に収納された生体試料1の、脱水処理の前後及び脱水処理中の質量を測定可能なものであれば、特に限定されるものではないが、具体的にはロードセル方式の質量計であり、誤差精度5%以内のものが好ましい。本実施形態のマイクロ波減圧脱水装置2では、
図1中には、真空チャンバー3内に設置されるとともに、生体試料1を載置するトレイ31と一体化した質量計6の構成例が示されている。この質量計3によれば、脱水処理の前後及び脱水処理中の、トレイ31に載置された生体試料1の総質量の測定が可能とされている。なお、
図1では真空チャンバー3の底面に載置した方式の質量計を図示したが、天井面から吊り下げる形式のものであってもよい。
【0055】
なお、脱水処理中の質量計6による生体試料1の質量の測定は、連続して測定(連続測定)しても良いし、所要の間隔で測定(間欠測定)しても良い。また、質量計6は、後述する制御盤8と電気的に接続されており、その質量計6の測定値を電気信号として当該制御盤8に送信可能とされている。
【0056】
開口部71は、気体を真空チャンバー3内に流入させるために、真空チャンバー3の周壁の一部に設けられた気体流入口(気体導入口)である。本実施形態のマイクロ波減圧脱水装置2では、
図1に示すように、この開口部71に窒素ガス導入管72の一端が接続されており、真空チャンバー3内に窒素ガスを導入可能とされている。また、窒素ガス導入
管72の他端は、図示略の窒素ガス供給源と接続されている。
【0057】
流入調整弁73は、真空チャンバー3内に流入させる窒素ガスの流入量を調整するために、窒素ガス導入管72の経路の途中に設けられている。この流入調整弁73は、後述する制御盤8と電気的に接続されており、制御盤8から送信された制御信号に基づいて調整弁の開度を制御する。
【0058】
なお、本実施形態のマイクロ波減圧脱水装置2では、上記開口部71と上記流入調整弁73とにより、真空度調整機構(真空度調整手段)を構成している。具体的には、真空チャンバー3内の真空度を低くする必要が生じた際、制御盤8から真空度調整機構を構成する流入調整弁73に対して制御信号が送信される。流入調整弁73は、送信された制御信号に基づいて調整弁を開放する。これにより、窒素ガスが開口部71を経て真空チャンバー3内に流入するため、真空チャンバー3内の真空度が所要の値まで低下させることが可能となる。
【0059】
本実施形態のマイクロ波減圧脱水装置2によれば、真空度調整機構が、真空チャンバー3内の真空度を調整するために当該真空チャンバー3内に流入させる気体として窒素ガスを用いる構成であるため、脱水処理中の生体試料1の品質劣化をより抑えることができる。
【0060】
なお、真空度調整機構の構成は、一例を示すものであって、これに限定されるものではない。例えば、真空チャンバー3内の真空度を調整するために当該真空チャンバー3内に流入させる気体は、露点管理や対象物の酸化防止、衛生管理の観点から、窒素ガスを用いることが好ましい。これに対して、空気を用いてもよい場合には、真空度調整機構は、
図1に示す開口部71と、この開口部71を閉塞するとともに、制御盤8から制御信号が送信された際に開口部71の開度を制御する開閉弁と、を有するシンプルな構成としてもよい。
【0061】
制御盤8は、例えば、ROM、RAM及び外部入力インターフェース等が接続されたCPU(Central Processing Unit)等を有する演算部であり、真空チャンバー3に設けられた真空計42、温度センサー53及び質量計6と電気的に接続されるとともに、マイクロ波照射装置5を構成するマイクロ波出力調整器52及び真空度調整機構を構成する流入調整弁73とも電気的に接続されている。また、制御盤8には、温度センサー53による生体試料1の温度の測定値から単位時間当りの温度低下速度を算出するプログラムや、質量計6による生体試料1の質量の測定値から単位時間当りの質量低下速度を算出するプログラム、生体試料1への単位時間当たりの入熱量が一定となるようにマイクロ波出力調整器52のマイクロ波発振器51への出力調整信号の大きさを制御するためのデータ(テーブル)や、真空チャンバー3内を所要の真空度にするために必要な窒素ガスの流入量とする流入調整弁73の制御データ等が格納されている。さらに、制御盤8には、入力部又は操作ボタン等の入力手段(図示略)が設けられている。
【0062】
次に、
図1を参照して、マイクロ波減圧脱水装置2を用いた本実施形態の脱水方法について、以下に詳細に説明する。
【0063】
(第1工程)
第1工程は、脱水対象物である生体試料1を真空チャンバー3に収納し、この真空チャンバー3内を吸引して当該真空チャンバー3内の真空度を上昇させるとともに、生体試料1に所要の熱量を入熱する工程(ステップ)である。
【0064】
具体的には、
図1に示すように、まず、その生体試料1を真空チャンバー3内のトレイ31上に載置する(すなわち、真空チャンバー3内に収納する)。次いで、真空チャンバー3内の圧力を減圧すべく、真空ポンプ41を運転する。この際、真空チャンバー3内の圧力の調整(言い換えると、真空度の調整)は行わずに、真空ポンプ41の能力に応じた圧力(例えば、1kPa未満)になるまでの運転(減圧)を開始する。
【0065】
真空ポンプ41の運転開始と並行して、温度センサー53により生体試料1の表面および内部の温度測定を開始するとともに、質量計6により生体試料1の質量測定を開始する。そして、真空ポンプ41の運転開始(すなわち、真空チャンバー3内の減圧開始)の例えば1分経過後から、マイクロ波発振器51により、例えば出力10W〜1500Wの範囲内のマイクロ波を生成して、トレイ31上の生体試料1に照射を開始する。
【0066】
ここで、生体試料1へのマイクロ波照射の開始時間は、特に限定されるものではなく、任意に設定することができる。例えば、真空ポンプ41の作動開始と同時にマイクロ波の照射を開始してもよい。また、真空計42の表示に基づき、真空チャンバー3内の圧力が所望値に到達した時間を基準としてもよい。さらには、温度センサー53の表示に基づき、生体試料1の温度低下が開始した時間に照射を開始してもよい。
【0067】
なお、生体試料1へのマイクロ波照射は、単位時間当たりの生体試料1への入熱量が一定となるとともに、脱水処理の開始から終了までの間、生体試料1の表面および内部の温度が所要の範囲に収まるように制御する。具体的には、制御盤8は、マイクロ波出力調整器52のマイクロ波発振器51への出力調整信号を制御してマイクロ波出力のオンオフ制御を行う。より具体的には、水分含有率や形状により入熱量が異なるが、1W〜300Wとする。
【0068】
また、生体試料1の表面および内部の温度は、脱水処理の開始から終了までの間、−5℃〜+40℃の範囲に収まるように制御することが好ましく、−5℃〜+10℃の範囲に収まるように制御することがより好ましい。ここで、上記温度が−5℃未満であると、凍結するおそれがあるために好ましくない。一方、上記温度が40℃を超えると、微生物増殖やタンパク質変性による品質劣化が生じるために好ましくない。これに対して、温度範囲が−5℃〜+40℃の範囲であると、生体試料1を凍結させることなく、かつ品質を維持しつつ脱水処理を行うことができ、−5℃〜+10℃の範囲であると、鮮度保持の観点で有利であるためより好ましい。
【0069】
なお、第1工程は、真空チャンバー3内の圧力降下の初期段階で、生体試料1の水分蒸発(すなわち、質量減少)に影響のない時間帯(すなわち、上述した第1区分)に実施することが好ましい。
【0070】
(第2工程)
次に、第2工程は、生体試料1の質量を測定し、得られた測定値から当該生体試料1の単位時間当りの質量低下速度を算出するとともに、この単位時間当りの質量低下速度が所要の範囲内となるように、真空チャンバー3内の真空度を調整する工程(ステップ)である。
【0071】
ここで、第2工程の開始時間(すなわち、第1工程の終了時間)は、真空チャンバー内3内が所要の圧力(真空度)に到達したことを真空計42で検知した時点である。
具体的には、第2工程は、まず、
図1に示すように、制御盤8において質量計6から得られた生体試料1の質量の測定値から単位時間当たりの質量低下速度を算出する。次に、制御盤8により、算出した単位時間当たりの質量低下速度が所要の範囲に維持されるように、真空チャンバー3内の圧力調整(すなわち、真空度調整)を開始する。
【0072】
ここで、真空チャンバー3内の圧力は、
図1に示すように、開口部71と流入調整弁73とを有して構成される真空度調整機構の制御によって行う。具体的には、制御盤8は、真空計42の値を確認しつつ、制御信号を流入調整弁73に送信して、調整弁の開度を制御し、真空チャンバー3内への窒素ガスの流入量(導入量)を調整する。これにより、真空チャンバー3内の圧力(真空度)を、生体試料1の単位時間当たりの質量低下速度が所要の範囲内となるように調整する。
【0073】
このように、本実施形態の脱水方法によれば、窒素導入管72及び開口部71を介して窒素ガスを真空チャンバー3内に流入させることにより、真空チャンバー3内の圧力(すなわち、真空度)を低下させることができる。
【0074】
なお、生体試料1の単位時間当たりの質量低下速度の範囲は、脱水処理対象物によって適正な範囲が異なる。具体的には、例えば、生体試料1がウニである場合には、質量低下速度を0.1〜1.0%/分の範囲におさまるように真空チャンバー3内の圧力(真空度)を制御することが好ましい。
【0075】
また、真空チャンバー3内の圧力の調整(真空度の調整)方法は、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、
図1に示すように、開口部71と流入調整弁73とによって構成される真空度調整機構(真空度調整手段)を用いることなく、制御盤8によって真空ポンプ41の出力を直接制御することにより真空チャンバー3内を減圧してもよい。また、真空ポンプ41の出力制御と窒素ガスの供給とを併用する構成としてもよい。
【0076】
なお、第2工程において、真空チャンバー3内の圧力(真空度)は、100kPa〜1kPaの間で調整することが好ましく、10kPa〜1kPaの間で調整することがより好ましい。真空チャンバー3内の圧力が、100kPaを超えると、生体試料1の蒸発速度が著しく遅くなってしまい、処理効率が低下するので好ましくない。また、1kPa未満とすると、高出力の真空ポンプ41及び密封性の高い真空チャンバー3が必要となるため、装置コストが上昇するために好ましくない。これに対して、100kPa〜1kPaの間であれば、処理効率と装置コストの両面でメリットがある。さらに、10kPa〜1kPaの間であれば、上記効果をさらに高めることができる。
【0077】
このように、本実施形態の脱水方法では、第2工程において、生体試料1の単位時間当たりの質量減少速度によって水分の蒸発速度を監視(モニター)するとともに、真空チャンバー3内の圧力(真空度)調整によって生体試料1の蒸発速度を制御することにより、生体試料1の皮膜破壊の課題を解決することができる。
【0078】
なお、第2工程は、処理対象物である生体試料1の温度が比較的高く、かつ、生体試料1の温度低下が確認できる時間帯(すなわち、
図2に示す第2区分に対応する)に実施することが好ましい。
【0079】
(第3工程)
第3工程は、処理効率を向上させるべく、第2工程よりも真空チャンバー3内の圧力(真空度)を上昇させて脱水処理を行う工程(ステップ)である。
【0080】
ここで、第3工程の開始時間(すなわち、第2工程の終了時間)は、脱水処理対象物である生体試料1の質量が所要値に到達したことを質量計6で検知した時点である。
具体的には、第3工程は、
図1に示すように、制御盤8において質量計6から得られた生体試料1の質量の測定値が所要値に到達したことを検知した時点で、真空チャンバー3内への窒素ガスの流入を停止する。すなわち、制御盤8は、制御信号を流入調整弁73に送信して、調整弁を閉塞する。これにより、真空チャンバー3内の圧力は、圧力調整を停止するため、真空ポンプ41の能力を上限として所要の圧力になるまで減少する。
【0081】
したがって、本実施形態の脱水方法では、第3工程において、真空チャンバー3内を再び減圧させることによって生体試料1の蒸発速度を回復させることにより、生体試料1の処理効率低下の課題を解決することができる。
【0082】
なお、第3工程は、処理対象物である生体試料1の温度が比較的低く、かつ、生体試料1の温度がほぼ一定となる時間帯(すなわち、図に示す第3区分に対応する)に実施することが好ましい。
【0083】
また、第3工程の終了時間(すなわち、本実施形態の脱水方法の終了時間)は、脱水処理対象物である生体試料1の質量が所要値に到達したことを質量計6で検知した時点である。
【0084】
以上説明したように、本実施形態のマイクロ波減圧脱水装置2によれば、真空チャンバー3内のトレイ31と一体化された質量計6、真空チャンバー3の周壁に設けられた開口部71と開口部71に接続された窒素ガス導入管72に設けられた流入調整弁73とを有する真空度調整機構及び質量計6及び流入調整弁73と電気的に接続された制御盤8を備えている。この制御盤8により、質量系6による生体試料1の質量の測定値から単位時間当たりの質量低下速度を算出し、その単位時間当たりの質量低下速度が所要の範囲内となるように、流入調整弁73を制御して真空チャンバー3内に所要の窒素ガスを流入させる。このように、真空チャンバー3内への窒素ガスの流入量を制御することで、真空チャンバー3内の圧力(真空度)を調整しながら生体試料1の脱水処理を行うことができる。これにより、皮膜等を破損させることなく、かつ、処理効率を著しく低下させることなく生体試料1の脱水処理を行うことができる。
【0085】
また、真空チャンバー3内に導入する気体として窒素ガスを用いるため、脱水処理中の生体試料1の品質劣化をより抑えることができる。
【0086】
また、脱水処理中における生体試料1への入熱をマイクロ波照射によって行うため、生体試料1に損傷を与えることなく脱水することができる。
特に、生体試料1が、ウニ等の皮膜を有した粒状物質で粒子内に高粘性液体を有する、魚介類の生殖腺または卵塊のような場合に、より有効となる。
【0087】
本実施形態の脱水方法によれば、脱水対象である生体試料1の質量を測定し、その単位時間当たりの質量低下速度を算出する。そして、上記単位時間当たりの質量低下速度が所要の範囲から外れる時間帯(第2区分)において、当該が所要の範囲内に維持するように真空チャンバー3内の圧力(真空度)を調整しながら脱水処理を行うため、生体試料1を破損させることがない。一方、上記単位時間当たりの質量低下速度が所要の範囲から外れる時間帯(第2区分)以外の時間帯(すなわち、第3区分)において、真空チャンバー3内の圧力を再び減圧させることによって生体試料1の蒸発速度を回復させることにより、生体試料1の処理効率を著しく低下させることなく脱水処理を行うことができる。
【0088】
また、生体試料1を収納する真空チャンバー3内に気体を導入することにより、真空チャンバー3内の圧力(真空度)の調整を容易に行うことができる。さらに、真空チャンバー3内に導入する気体として窒素ガスを用いれば、脱水処理中の品質劣化をより抑えることができる。
【0089】
<第2の実施形態>
次に、本発明を適用した第2の実施形態について説明する。第2実施形態では、上述した第1実施形態のマイクロ波減圧脱水装置2を用いることが可能な点で共通するが、生体物質の脱水方法において異なる構成となっている。このため、
図1を用いて本実施形態の生体物質の脱水方法について説明する。したがって、本実施形態のマイクロ波減圧脱水装置2ついては、説明を省略する。
【0090】
本実施形態の生体物質の脱水方法では、水分の蒸発速度の監視(モニター)を、生体試料1の単位時間当たりの質量減少速度に代えて、生体試料1の単位時間当たりの温度減少速度で行う構成となっている。したがって、第1工程及び第3工程については上述した第1の実施形態と同一であるため、説明を省略する。
【0091】
(第2工程)
本実施形態において、第2工程は、生体試料1の温度(表面および内部)を測定し、得られた温度の測定値から当該生体試料1の単位時間当りの温度低下速度を算出するとともに、この単位時間当りの温度低下速度が所要の範囲内となるように、真空チャンバー3内の真空度を調整する工程(ステップ)である。
【0092】
ここで、第2工程の開始時間(すなわち、第1工程の終了時間)は、上述した第1実施形態と同様である。
具体的には、第2工程は、まず、
図1に示すように、制御盤8において温度センサー53から得られた生体試料1の温度の測定値から単位時間当たりの温度低下速度を算出する。次に、制御盤8により、算出した単位時間当たりの温度低下速度が所要の範囲に維持されるように、真空チャンバー3内の圧力調整(真空度調整)を開始する。
【0093】
ここで、真空チャンバー3内の圧力調整の方法は、上述した第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。真空チャンバー3内の圧力(真空度)は、生体試料1の単位時間当たりの温度低下速度が所要の範囲内となるように調整する。
【0094】
なお、生体試料1の単位時間当たりの温度低下速度の範囲は、質量の場合と同様に、脱水処理対象物によって適正な範囲が異なる。具体的には、例えば、生体試料1がウニである場合には、温度低下速度を20℃/分〜0.1℃/分の範囲におさまるように真空チャンバー3内の圧力(真空度)を制御することが好ましい。
【0095】
このように、第2実施形態の脱水方法によれば、第2工程において、生体試料1の単位時間当たりの温度減少速度によって水分の蒸発速度を監視(モニター)するとともに、上述した第1実施形態と同様に、真空チャンバー3内の圧力(真空度)調整によって生体試料1の蒸発速度を制御することにより、生体試料1の皮膜破壊の課題を解決することができる。
【0096】
<第3の実施形態>
次に、本発明を適用した第3の実施形態について説明する。第3実施形態では、上述した第1及び第2実施形態のマイクロ波減圧脱水装置2を用いることが可能な点で共通するが、生体物質の脱水方法において異なる構成となっている。このため、
図1を用いて本実施形態の生体物質の脱水方法について説明する。したがって、本実施形態のマイクロ波減圧脱水装置2ついては、説明を省略する。
【0097】
本実施形態の生体物質の脱水方法では、第2工程の開始時点(すなわち、第1工程の終了時点)及び終了時点(すなわち、第3工程の開始時点)の判断方法が、上述した第1及び第2実施形態と異なっている。したがって、第1〜第3工程の具体的な方法については上述した第1の実施形態と同一であるため、説明を省略する。
【0098】
(第2工程の開始時点)
本実施形態では、第2工程の開始時点は、
図2に示すように、脱水処理開始時間からの経過時間と、温度センサー53による生体試料1の温度の測定値とのグラフにおいて、サンプル温度が低下に転ずる時点(すなわち、
図2中に示す時間帯(1)と時間帯(2)との境界)である。具体的には、温度センサー53による温度の測定値から、制御盤8によって単位時間当たりの温度低下速度を算出し、この単位時間当たりの温度低下速度の値が、最初にマイナスに転じた時点から判断する。
【0099】
(第2工程の終了時点)
一方、第2工程の終了時点は、
図2に示すように、脱水処理開始時間からの経過時間と、温度センサー53による生体試料1の温度の測定値とのグラフにおいて、サンプル温度の低下が緩和する時点(すなわち、
図2中に示す時間帯(2)と時間帯(3)との境界)である。具体的には、温度センサー53による温度の測定値から、制御盤8によって単位時間当たりの温度低下速度を算出し、この単位時間当たりの温度低下速度の値が、例えば0℃/minに到達した時点から判断する。
【0100】
このように、第3実施形態の脱水方法によれば、上述した事前検討において知得した処理開始からの経過時間とサンプル温度との関係における第2区分の時間帯(
図2中に示す時間帯(2))を正確に把握することができ、第2工程の圧力調整を適切に行うことができる。
【0101】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上記第1実施形態に示したマイクロ波減圧脱水装置2では、生体物質への入熱手段としてマイクロ波照射装置5を適用しているが、生体物質を所要の熱量を入熱することができるものであれば、これに限定されるものではない。例えば、生体物質への入熱手段として、トレイ31に組み込まれた(あるいは一体化した)ヒータを適用してもよいし、真空チャンバー3内にトレイ31の周囲を取り囲むように設置されたヒータを適用してもよい。
【0102】
また、上記第1及び第2の実施形態では、第2工程の開始時点(すなわち、第1工程の終了時点)及び終了時点(すなわち、第3工程の開始時点)、さらには第3工程の終了時点の判断基準として、真空チャンバー3内の圧力(真空度)や生体試料1の重量が用いられるが、これに限定されるものではない。例えば、上述の判断基準として、生体試料1の「脱水率」を用いても良い。具体的には、第3工程の終了時点(すなわち、脱水処理全体の終了時点)の目安としては、脱水対象物(ここでは生体試料1)の質量比で3〜50%が好適である。
【0103】
ここで、本明細書における「脱水率」とは、次式(1)により得られた値をいう。
脱水率(%)=[(脱水処理前の対象物質量)−(脱水処理後の対象物質量)]/(脱水処理前の対象物質量)×100 ・・・(1)
【0104】
以下に、具体的な実施例を示す。
(実施例1)
図1に示すマイクロ波減圧脱水装置2を用いて、サンプル(ウニ)100gの脱水処理を行った。具体的な脱水処理の内容を以下に説明する。
【0105】
先ず、第1工程では、サンプル(ウニ)を真空チャンバー3内に収納し、トレイ31上に載置した。次に、真空ポンプ41の運転を開始して、真空チャンバー3内の減圧を開始した。なお、第1工程では、真空チャンバー3内の圧力調整(真空度調整)は行わなかった。そして、真空ポンプ41の運転開始1分後から、サンプル(ウニ)へのマイクロ波照射を開始した。また、マイクロ波の照射条件は、出力100W、照射開始は、真空ポンプの運転開始から1分後からの連続照射とした。さらに、
【0106】
次に、真空チャンバー3内の真空度が5kPaに到達したことを真空計42によって検知した時点から、第2工程を行った。
第2工程では、水分の蒸発速度の監視を、サンプル(ウニ)の単位時間当たりの質量減少速度によって行った。また、第2工程における真空チャンバー3内の圧力(真空度)調整によるサンプルの質量減少速度は、1.1g/minの条件を用いた。さらに、真空チャンバー3内の圧力(真空度)調整は、真空ポンプ41の運転条件を一定としたまま、真空チャンバー3への窒素ガスの供給量を制御して行った。
【0107】
次に、サンプル(ウニ)の質量が、96g(脱水率4%)に到達したことを質量計6によって検知した時点から第3工程を行った。
第3工程に移行した時点で、真空チャンバー3内への窒素ガスの供給を停止、すなわち、真空チャンバー3内の圧力(真空度)調整を停止した。同時に、真空ポンプ41の運転を継続することによって真空チャンバー3内の圧力を減圧し、高真空(1kPa)を維持した。
【0108】
次に、サンプル(ウニ)の質量が、90g(脱水率10%)に到達したことを質量計6によって検知した時点で第3工程を終了した。本発明のマイクロ波減圧脱水装置2を用いた脱水方法によれば、ウニのサンプルを脱水率10%まで脱水するのに要する時間は、17分であった。なお第1工程〜第3工程における条件を、下表3に示す。
【表3】
【0109】
また、真空チャンバー3内の圧力を大気圧に戻した後、真空チャンバー3内から脱水処理後のウニのサンプルを取り出して状態を確認したところ、皮膜の破損は見られなかった。