特許第6116411号(P6116411)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6116411
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】水中移動装置及びその移動方法
(51)【国際特許分類】
   B63C 11/00 20060101AFI20170410BHJP
   B63B 39/14 20060101ALI20170410BHJP
   B63C 11/48 20060101ALI20170410BHJP
   G21C 19/07 20060101ALN20170410BHJP
   G21C 17/003 20060101ALN20170410BHJP
   G21C 19/02 20060101ALN20170410BHJP
   G21F 9/22 20060101ALN20170410BHJP
   G21F 9/28 20060101ALN20170410BHJP
【FI】
   B63C11/00 E
   B63B39/14
   B63C11/00 D
   B63C11/48 B
   !G21C19/06 A
   !G21C17/00 E
   !G21C19/02 J
   !G21F9/22 Q
   !G21F9/28 501B
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-141231(P2013-141231)
(22)【出願日】2013年7月5日
(65)【公開番号】特開2015-13573(P2015-13573A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2016年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】森 勇人
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮介
(72)【発明者】
【氏名】岡田 聡
(72)【発明者】
【氏名】原 和正
(72)【発明者】
【氏名】菊地 敏一
【審査官】 加藤 信秀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−011888(JP,A)
【文献】 特開平09−058584(JP,A)
【文献】 特開平08−233981(JP,A)
【文献】 特開2006−224863(JP,A)
【文献】 米国特許第03999423(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63C 11/00
B63B 39/14
B63C 11/48
G21C 17/003
G21C 19/02
G21C 19/07
G21F 9/22
G21F 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中での移動と物体の壁面と床面での移動とが可能な水中移動装置であって、
前記水中移動装置を回転動作と並進動作の少なくとも一方により移動させるための推力を発生する推力発生部と、
前記推力発生部を制御する制御部と、
前記水中移動装置の位置、ピッチ角、ロール角、及びヨー角を求める計測器と、
前記水中移動装置の位置、ピッチ角、ロール角、及びヨー角が予め設定した範囲内に収まっているかどうかを確認する回転動作判断部と、
回転動作中の前記水中移動装置のピッチ角またはロール角が予め設定した90度未満の角度に達したかどうかを判定する壁面接面判断部と、を備え、
前記推力発生部は、前記水中移動装置を前記床面から浮上させる推力を発生することができる複数の垂直スラスタと、前記垂直スラスタの推力の発生方向と垂直な方向へ推力を発生する複数の水平スラスタとを備え、
前記回転動作判断部が、前記水中移動装置の位置、ピッチ角、ロール角、及びヨー角が予め設定した範囲内に収まっていることを確認したら、前記制御部は、一部の前記垂直スラスタの推力の向きと残りの他の前記垂直スラスタの推力の向きとが互いに逆で、前記水中移動装置がピッチ角またはロール角が変化して下面が前記床面から前記壁面を向く回転をするように前記推力発生部を制御し、
前記壁面接面判断部が、前記回転の動作中の前記水中移動装置のピッチ角またはロール角が予め設定した前記90度未満の角度に達したと判定したら、前記制御部は、前記一部の前記垂直スラスタの推力を逆向きにし、前記水中移動装置が前記回転をしながら並進するように前記推力発生部を制御する、
ことを特徴とする水中移動装置。
【請求項2】
前記壁面接面判断部が、前記回転の動作中の前記水中移動装置のピッチ角またはロール角が予め設定した前記90度未満の角度に達したと判定したら、前記制御部は、前記一部の前記垂直スラスタの推力を逆向きにし、前記水中移動装置が前記回転をしながら並進するように前記推力発生部を制御して、前記水中移動装置を前記物体の前記壁面に接面させる請求項1に記載の水中移動装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記水中移動装置が前記回転をするように前記推力発生部を制御するときと前記水中移動装置が前記回転をしながら並進するように前記推力発生部を制御するときの少なくとも一方のときに、前記水中移動装置が上昇する方向の推力を前記水平スラスタに発生させる請求項1に記載の水中移動装置。
【請求項4】
水中での移動と物体の壁面と床面での移動とが可能な水中移動装置の移動方法であって、
前記水中移動装置は、前記水中移動装置を前記床面から浮上させる推力を発生することができる複数の垂直スラスタと、前記垂直スラスタの推力の発生方向と垂直な方向へ推力を発生する複数の水平スラスタとを備え、
前記水中移動装置の位置、ピッチ角、ロール角、及びヨー角が予め設定した範囲内に収まるように、前記水中移動装置を制御するホバリング工程と、
前記水中移動装置の位置、ピッチ角、ロール角、及びヨー角が予め設定した範囲内に収まっていることを確認する回転動作実行判定工程と、
前記回転動作実行判定工程で、前記水中移動装置の位置、ピッチ角、ロール角、及びヨー角が予め設定した範囲内に収まっていることを確認した後で、一部の前記垂直スラスタの推力の向きと残りの他の前記垂直スラスタの推力の向きとを互いに逆にして、前記水中移動装置にピッチ角またはロール角が変化して下面が前記床面から前記壁面を向く回転をさせる回転動作工程と、
回転動作中の前記水中移動装置のピッチ角またはロール角が予め設定した90度未満の角度に達したかどうかを判定する壁面接面実行判定工程と、
前記壁面接面実行判定工程で、前記回転の動作中の前記水中移動装置のピッチ角またはロール角が予め設定した前記90度未満の角度に達したと判定した後で、前記一部の前記垂直スラスタの推力を逆向きにして、前記回転をさせながら前記水中移動装置を並進させる壁面接面工程と、
を備えることを特徴とする水中移動装置の移動方法。
【請求項5】
前記壁面接面工程では、前記一部の前記垂直スラスタの推力を逆向きにして、前記回転をさせながら前記水中移動装置を並進させ、前記水中移動装置を前記物体の前記壁面に接面させる請求項4に記載の水中移動装置の移動方法。
【請求項6】
前記回転動作工程と前記壁面接面工程の少なくとも一方では、前記水平スラスタが、前記水中移動装置に上昇する方向の推力を与える請求項4に記載の水中移動装置の移動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中遊泳と床面や壁面での走行が可能な水中移動装置とその移動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原子力発電所の原子炉建屋の燃料プールの調査装置として、水中遊泳と、移動対象となる物体の床面や壁面の走行とが可能な遊泳型の水中移動装置が使用されている。水中移動装置は、装置の下面を床面に向けた状態で、床面を走行したり水面や水中に浮上したりすることができる。水中移動装置で撮影した映像を検査員が目視で観察して評価する際には、映像の揺れが問題になる。そのため、物体の床面や壁面に静止することができ、安定した映像の撮影が可能な水中移動装置が望まれている。
【0003】
特許文献1には、水中移動装置の例として、発電所の海水の取排水路として設けられた暗渠の路面清掃を行う水中ロボットが開示されている。この水中ロボットは、矩形状の水路の床面から壁面に移動する際に、スラスタの自動制御により、装置の下面を床面に向けた状態で暗渠中央部まで浮上し、90度回転して、下面を壁面に向けた状態で並進して壁面に接面する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−11888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の水中移動装置は、特許文献1に開示されているように、移動対象となる物体の床面または水面からその物体の壁面に接面する際に、装置の下面が床面から壁面を向くように90度回転し、この状態のままで並進する必要がある。燃料プールで使用する水中移動装置は、物体の床面と壁面の走行以外に遊泳も行う必要があるので、装置の下面が床面を向いた状態で安定するように重心と浮心を設定する。このため、装置の下面を壁面に向けた状態では、姿勢が安定しないので、スラスタの推力により安定した姿勢を維持する必要がある。従来技術のように、装置の下面を壁面に向けた状態で壁面に向かって並進する際には、姿勢の安定制御と並進動作を同時に行う必要があるが、これらを両立させるのは極めて困難である。このように、従来の水中移動装置には、移動対象となる物体の床面または水面からその物体の壁面に接面する際に、姿勢が非常に不安定で制御が困難になるという課題が存在する。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、安定して床面または水面から壁面に移動することが可能な水中移動装置とその移動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による水中移動装置は、次のような特徴を備える。
【0008】
水中での移動と物体の壁面と床面での移動とが可能な水中移動装置であって、前記水中移動装置を回転動作と並進動作の少なくとも一方により移動させるための推力を発生する推力発生部と、前記推力発生部を制御する制御部と、前記水中移動装置の位置、ピッチ角、ロール角、及びヨー角を求める計測器と、前記水中移動装置の位置、ピッチ角、ロール角、及びヨー角が予め設定した範囲内に収まっているかどうかを確認する回転動作判断部と、前記水中移動装置のピッチ角またはロール角が予め設定した角度に達したかどうかを判定する壁面接面判断部とを備える。前記回転動作判断部が、前記水中移動装置の位置、ピッチ角、ロール角、及びヨー角が予め設定した範囲内に収まっていることを確認したら、前記制御部は、前記水中移動装置がピッチ角またはロール角が変化する回転をするように前記推力発生部を制御する。前記壁面接面判断部が、前記水中移動装置のピッチ角またはロール角が予め設定した角度に達したと判定したら、前記制御部は、前記水中移動装置が前記回転をしながら並進するように前記推力発生部を制御する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、安定して床面または水面から壁面に移動することが可能な水中移動装置とその移動方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】本発明の実施例による水中移動装置の全体システム構成図であり、燃料プール内に配置される構成要素を示す図。
図1B】本発明の実施例による水中移動装置の全体システム構成図であり、オペレーションフロアに配置される構成要素を示す図。
図2A】燃料プールの床面に接面している状態の水中移動装置の上面図。
図2B】燃料プールの床面に接面している状態の水中移動装置の正面図。
図3】水中移動装置が床面から壁面に移動する手順を示す図。
図4】水中移動装置の機能ブロック図。
図5】水中移動装置が床面から壁面に移動する際のパラメータ設定画面を示す図。
図6A】水中移動装置が床面から壁面に移動する際の各手順における水中移動装置の動作を説明する図であり、位置を定めた水中移動装置を示す図。
図6B】水中移動装置が床面から壁面に移動する際の各手順における水中移動装置の動作を説明する図であり、浮上を開始するために垂直スラスタが発生した推力を示す図。
図6C】水中移動装置が床面から壁面に移動する際の各手順における水中移動装置の動作を説明する図であり、水中移動装置が水深の目標値まで浮上した状態を示す図。
図6D】水中移動装置が床面から壁面に移動する際の各手順における水中移動装置の動作を説明する図であり、水中移動装置が回転しているところを示す図。
図6E】水中移動装置が床面から壁面に移動する際の各手順における水中移動装置の動作を説明する図であり、水中移動装置が回転しながら壁面へ接面しているところを示す図。
図6F】水中移動装置が床面から壁面に移動する際の各手順における水中移動装置の動作を説明する図であり、水中移動装置が壁面へ接面するところを示す図。
図6G】水中移動装置が床面から壁面に移動する際の各手順における水中移動装置の動作を説明する図であり、水中移動装置が壁面に接面している状態を示す図。
図7A】水中移動装置のヨー角及び水中移動装置と壁面との距離を測定する方法を説明する図。
図7B図7Aのうち、水中移動装置の一部と壁面を拡大して示す図。
図8図3に示した手順のうち、ホバリング工程と回転動作実行判定工程の詳細を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明による水中移動装置は、水中での移動(水中遊泳)と、移動対象となる物体の床面や壁面での移動(走行)とが可能である。そして、装置の下面が床面から壁面を向くように回転して床面または水面から壁面に移動する際に、下面が床面から壁面を向く90度の回転動作の終了後に並進動作によって壁面へ接面するのではなく、推力発生部(スラスタ)の制御により回転動作中に並進しながら壁面へ接面するので、安定して床面または水面から壁面に移動することができる。
【0012】
本発明の好適な一実施例による水中移動装置を、図1図8を用いて以下に説明する。以下に述べる実施例は、水中移動装置が水中重量を有する場合の例であり、床面から浮上して壁面に接面する。本実施例は、水中移動装置が水中重量を有しない場合、すなわち、水中重量が中性浮力に調整されている水中移動装置の場合にも適用することができる。水中重量が中性浮力に調整されている水中移動装置は、水面に浮上しており、水面から沈んで壁面に接面するので、上下の移動方向を反対にすれば、本実施例の説明を適用できる。
【0013】
図1A図1Bは、本実施例による水中移動装置の全体システム構成図である。本実施例では、一例として、水中移動装置が原子炉建屋の燃料プールを検査する場合を示す。図1Aは、水中移動装置のうち、燃料プール内に配置される構成要素を示し、図1Bは、水中移動装置のうち、オペレーションフロアに配置される構成要素を示す。水中移動装置は、オペレーションフロアにいる操作員により操作される。
【0014】
図1Aに示すように、原子炉建屋の燃料プール1には、燃料を収納した燃料ラック2が貯蔵されている。燃料プール1や燃料ラック2は、水中移動装置5の移動対象となる物体であり、水中移動装置5は、燃料プール1の床面3と壁面4や燃料ラック2の健全性を調査する。なお、図1Aでは、水中移動装置5の2つの態様、すなわち、床面3に接面している場合と壁面4に接面している場合を示している。水中移動装置5には、ケーブル6が接続されている。
【0015】
図1Bに示すように、水中移動装置5は、ケーブル6の送出しと巻取りを行うケーブルドラム7、制御装置8、電源9、表示装置10、クローラ用コントローラ11a、スラスタ用コントローラ11bを備える。これらは、オペレーションフロアに配置される。
【0016】
図2Aは、燃料プール1の床面3に接面している状態の水中移動装置5を上から見た上面図であり、図2Bは、この状態の水中移動装置5を前から見た正面図である。
【0017】
水中移動装置5は、図2A図2Bに示すように、制御ボックス12(詳細は後述する)の左右両側に走行部であるクローラ13a、13bを備え、制御ボックス12の上部に浮力体14を備える。
【0018】
さらに、水中移動装置5は、制御ボックス12と浮力体14とに連通して設けられた穴に垂直スラスタ15a、15b、15c、15dを備え、制御ボックス12の左右の上方に水平スラスタ16a、16bを備える。垂直スラスタ15a〜15dは、床面3に垂直な方向への推力発生部であり、水平スラスタ16a、16bは、床面3に水平な方向への推力発生部である。本実施例では、垂直スラスタ15aは水中移動装置5の右前側に、垂直スラスタ15bは水中移動装置5の左前側に、垂直スラスタ15cは水中移動装置5の右後側に、垂直スラスタ15dは水中移動装置5の左後側に、水平スラスタ16aは水中移動装置5の右側に、水平スラスタ16bは水中移動装置5の左側に、それぞれ設けられている。推力発生部である垂直スラスタ15a〜15dと水平スラスタ16a、16bが発生した推力により、水中移動装置5は、回転動作と並進動作を行って移動することができる。
【0019】
また、水中移動装置5は、制御ボックス12の前面に水中カメラ17を備え、水中カメラ17の周囲には照明となるLEDが配置されている。水中カメラ17の左右に計測器であるソナー18a、18bを備える。ソナー18a、18bは、距離lだけ離れているとする。
【0020】
水中移動装置5は、図示しないモータがクローラ13a、13bを回転駆動することにより、床面3上を走行することができる。この走行の駆動力は、水中移動装置5の水中重量によって生じる床面3とクローラ13a、13bとの間の摩擦力である。また、垂直スラスタ15a〜15dの推力によりクローラの摩擦力を大きくして走行することも可能である。
【0021】
水中移動装置5は、垂直スラスタ15a〜15dの推力により、床面3から水中に浮上し、浮上した状態で水平スラスタ16a、16bの推力が追加されることにより、前後進と旋回の遊泳動作をすることができる。そして、後で詳述するが、水中移動装置5は、水中で浮上した状態で、垂直スラスタ15a〜15dと水平スラスタ16a、16bとが制御されることにより、水中移動装置5の下面が床面3から壁面4を向くような回転動作を行いながら並進し、壁面4に接面する。壁面4に接面した水中移動装置5は、垂直スラスタ15a〜15dの推力により壁面4に押し付けられて壁面4とクローラ13a、13bとの間に摩擦力が生じ、クローラ13a、13bが回転駆動すると、壁面4上を走行することができる。
【0022】
水中移動装置5に接続されたケーブル6は、遊泳時の水中移動装置5の移動を妨げないように中性浮力化されることが望ましく、直径を細くするために2芯の電源線と通信線の各1本で構成されるほうがよい。
【0023】
このような移動機能を備えた水中移動装置5を用いて、水中カメラ17が撮影した映像を基に、燃料プール1の床面3や壁面4の目視検査を行う。ソナー18a、18bは、これから詳述する水中移動装置5の床面3から壁面4への移動に際し、水中移動装置5と壁面4との距離の測定に使用する。
【0024】
図3図8を用いて、水中移動装置5が、姿勢を回転しながら(すなわち、水中移動装置5の下面が床面3から壁面4を向くように回転しながら)、床面3から壁面4に接面する方法について説明する。図3は、水中移動装置5が床面3から壁面4に移動する手順を示す図である。図4は、水中移動装置5の機能ブロック図である。図5は、水中移動装置5が床面3から壁面4に移動する際の制御パラメータを設定する画面(パラメータ設定画面50)を示す図である。図6A図6Gは、水中移動装置5が床面3から壁面4に移動する際の各手順における水中移動装置5の動作を説明する図である。図7A図7Bは、水中移動装置5のヨー角及び水中移動装置5と壁面4との距離を測定する方法を説明する図であり、水中移動装置5の上面図である。図7Bは、図7Aのうち、水中移動装置5の一部と壁面4を拡大して示している。図8は、図3に示した手順のうち、ホバリング工程と回転動作実行判定工程の詳細を示す図である。
【0025】
図4に示したように、水中移動装置5の制御装置8は、パラメータ設定部21、データ送受信部22、及びデータ記憶部23を備え、水中移動装置5の制御ボックス12は、データ送受信部24、スラスタ制御部25、回転動作判断部26、壁面接面判断部27、クローラ制御部28を備える。スラスタ制御部25は、垂直スラスタ用サーボアンプ30a、30b、30c、30dと水平スラスタ用サーボアンプ31a、31bを制御し、クローラ制御部28は、クローラ用サーボアンプ29a、29bを制御する。垂直スラスタ15a〜15dは、それぞれ垂直スラスタ用サーボアンプ30a〜30dにより駆動され、水平スラスタ16a、16bは、それぞれ水平スラスタ用サーボアンプ31a、31bにより駆動される。クローラ13a、13bは、それぞれクローラ用サーボアンプ29a、29bにより駆動される。
【0026】
また、水中移動装置5の制御ボックス12は、計測器である水深計32、傾斜計x33a、及び傾斜計y33bをさらに備える。さらに、水中移動装置5の制御ボックス12は、映像取得部34を備え、映像取得部34は、水中カメラ17が撮影した映像を取得する。この映像は、表示装置10で表示され、検査員が観察することができる。また、図示しないが、水中カメラ17は、状況に応じて、水中移動装置の上面や後方に追加してもよい。
【0027】
水中移動装置5の位置は、ソナー18a、18bと水深計32により求めることができ、水中移動装置5のロール角とピッチ角は、それぞれ傾斜計x33aと傾斜計y33bにより求めることができる。水中移動装置5のヨー角は、後述するように、ソナー18a、18bの測定値から求めることができる。また、図示しないが、水中移動装置5の両側面にそれぞれソナーを配置し、壁面との距離を測定して、燃料プール1内での位置を認識することも可能であるし、ソナーを水中移動装置5の前面と同様に側面に2箇所配置して、ヨー角と壁面との距離を測定することも可能である。
【0028】
図5に示したようにパラメータ設定画面50は、スラスタ推力指令値設定部51と計測器目標値設定部55を有する。パラメータ設定画面50は、制御装置8が表示装置10に表示する。
【0029】
水中移動装置5が床面3から壁面4に移動して接面する手順を説明する。本実施例では、水中移動装置5が、前面が壁面4を向いている状態から下面が壁面4を向く状態へ回転して(すなわち、ピッチ角が変化して前面が上を向くように回転して)壁面4へ接面する場合を例に挙げて説明する。水中移動装置5が、一方の側面が壁面4を向いている状態から下面が壁面4を向く状態へ回転して(すなわち、ロール角が変化して一方の側面が上を向くように回転して)壁面4へ接面する場合には、必要に応じてピッチ角とロール角との読み替えなどをして回転の向きを読み替えることで、以下の説明を適用することができる。
【0030】
初めに、図3に示すパラメータ設定工程100では、操作員が、図5に示すパラメータ設定画面50を介して、図4に示す制御装置8のパラメータ設定部21に、水中移動装置5が床面3から壁面4に移動する際の制御パラメータとして、各スラスタの推力の指令値と、水中移動装置5が備える計測器の目標値と許容誤差を設定する。
【0031】
図5を用いて、具体的な設定項目について説明する。操作員は、パラメータ設定画面50のスラスタ推力指令値設定部51に、水中移動装置5の浮上時、回転時、及び接面時における、垂直スラスタ15a〜15dと水平スラスタ16a、16bの推力の指令値52〜54を、それぞれ設定する。水中移動装置5の浮上時とは、水中移動装置5が床面3から浮上するときのことであり、回転時とは、水中移動装置5の下面が床面3から壁面4を向くように回転、すなわち、水中移動装置5のピッチ角またはロール角が変化するように回転(以下、単に「回転」と称する)するときのことであり、接面時とは、水中移動装置5が壁面4へ接面するときのことである。
【0032】
さらに、操作員は、パラメータ設定画面50の計測器目標値設定部55に、水中移動装置5が壁面4に接面する位置の水深、水中移動装置5が水中で浮上したホバリング時の水中移動装置5のロール角、ピッチ角、ヨー角、及び水中移動装置5と壁面4との距離のそれぞれについて、目標値56a、57a、58a、59a、及び60aと、許容誤差56b、57b、58b、59b、及び60bを設定する。水中移動装置5と壁面4との距離の目標値60aは、できるだけ小さいほうが好ましい。これは、壁面4からできるだけ近い位置で水中移動装置5を回転させて壁面4へ接面させるためである。
【0033】
また、操作員は、水中移動装置5が回転動作中に壁面4への接面動作を開始するときの角度(接面開始角度61)を、計測器目標値設定部55に設定する。本実施例では、水中移動装置5が、ピッチ角が変化するように回転して壁面4へ接面するので、接面開始角度61は、水中移動装置5のピッチ角である。水中移動装置5が、ロール角が変化するように回転して壁面4へ接面する場合には、接面開始角度61は、水中移動装置5のロール角とする。いずれの場合も、接面開始角度61は、90度未満である。
【0034】
パラメータ設定画面50を介して制御装置8(図4を参照)のパラメータ設定部21に設定された各制御パラメータは、データ送受信部22が、データ記憶部23と水中移動装置5の制御ボックス12のデータ送受信部24とに送る。データ送受信部24は、送られた各制御パラメータを、スラスタ制御部25、回転動作判断部26、壁面接面判断部27、及びクローラ制御部28に送る。
【0035】
次に、図3に示す準備位置設定工程110では、クローラ用コントローラ11aは、パラメータ設定工程100で設定したヨー角の目標値59aと、水中移動装置5と壁面4との距離の目標値60aとに従って、クローラ13a、13bを制御する指令を発する。制御装置8は、クローラ用コントローラ11aの指令を、データ送受信部22と制御ボックス12内のデータ送受信部24を介して、クローラ制御部28に送る。クローラ制御部28は、この指令をクローラ用サーボアンプ29a、29bに送り、左右のクローラ13a、13bを制御して、水中移動装置5に床面3を走行させる。そして、クローラ制御部28は、後述する方法で測定した水中移動装置5のヨー角θと、水中移動装置5と壁面4との距離lを、設定した目標値59a、60a(許容誤差59b、60bを考慮した目標値)の範囲内に収まるように左右のクローラ13a、13bを制御して、水中移動装置5の位置を定める。
【0036】
図6Aは、このようにして位置(ヨー角θと、壁面4との距離l)を定めた水中移動装置5を示している。水中移動装置5は、前面が壁面4に面している。この水中移動装置5の位置を定める際のヨー角θの測定は、水中移動装置5の前面に備えられたソナー18a、18bを用いて行う。なお、上述したように、壁面4からできるだけ近い位置で水中移動装置5を回転させて壁面4へ接面させるために、水中移動装置5と壁面4との距離の目標値60aをできるだけ小さい値にするのが好ましい。従って、水中移動装置5と壁面4との距離lも、できるだけ小さくするのが好ましい。
【0037】
図7A図7Bの水中移動装置5の上面図に示すように、ソナー18a、18b間の距離をl、ソナー18aが測定した壁面4との距離をl、ソナー18bが測定した壁面4との距離をlとすると、ヨー角θは式(1)で求められる。
【0038】
【数1】
【0039】
本実施例では、ヨー角θの原点及び符号は、図7Aに示すように、壁面4に平行な角度がゼロ度であり、上から見て時計周りをプラスとするように定めた。しかし、ヨー角θの原点及び符号は、これに限るものではなく、任意に定義することができる。式(1)も、ヨー角θの原点及び符号の定義に応じて、変更することができる。
【0040】
水中移動装置5と壁面4との距離lは、ヨー角θと、ソナー18aの測定値lと、ソナー18bの測定値lとを用いて、式(2)で求められる。
【0041】
【数2】
【0042】
ただし、水中移動装置5と壁面4との距離lは、水中移動装置5におけるソナー18a、18bの左右方向の中心の位置と壁面4との距離とした。また、図示しないが、ソナー18a、18bの代わりに超音波のアレイセンサを用いて任意の2素子を使用して、上記の式(1)、式(2)の値を求めることも可能である。
【0043】
次に、図3に示す垂直移動工程120では、スラスタ用コントローラ11bは、垂直スラスタ15a〜15dを制御する指令を発する。制御装置8は、スラスタ用コントローラ11bの指令を、データ送受信部22と制御ボックス12内のデータ送受信部24を介して、スラスタ制御部25に送る。スラスタ制御部25は、この指令を垂直スラスタ用サーボアンプ30a〜30dに送り、垂直スラスタ15a〜15dを駆動して、水中移動装置5が床面3から浮上するような推力を発生させる。
【0044】
図6Bは、垂直スラスタ15a〜15dが発生した推力41a〜41dを示している。図中の推力41a〜41dの矢印は、推力を付加する方向を示している。垂直スラスタ15a〜15dは、推力41a〜41dをそれぞれ発生する。推力41a〜41dにより、水中移動装置5は床面3からの浮上を開始する。
【0045】
水中移動装置5は、最終的に、パラメータ設定工程100で設定した浮上時における垂直スラスタ15a〜15dの推力の指令値52に基づく推力42a〜42dで、パラメータ設定工程100で設定した水中移動装置5が壁面4に接面する位置の水深の目標値56aまで浮上する。
【0046】
図6Cは、水中移動装置5が、垂直スラスタ15a〜15dの推力42a〜42dにより、水深の目標値56aまで浮上した状態を示している。
【0047】
なお、水中重量が中性浮力に調整されている水中移動装置の場合には、垂直移動工程120で、水中移動装置5は、水面から水深の目標値56aまで沈む。
【0048】
次に、図3に示すホバリング工程130では、スラスタ制御部25は、水中移動装置5の壁面4に接面する位置の水深、水中移動装置5が水中で浮上したホバリング時の水中移動装置5のロール角、ピッチ角、ヨー角θ、及び水中移動装置5と壁面4との距離lのそれぞれが、パラメータ設定工程100で設定した目標値56a、57a、58a、59a、及び60a(許容誤差56b、57b、58b、59b、及び60bを考慮した目標値)の範囲内に収まるように、水中移動装置5の水中での位置と姿勢を定める。
【0049】
水中移動装置5の水深、ロール角、及びピッチ角は、それぞれ、制御ボックス12内の水深計32、傾斜計x33a、及び傾斜計y33bで測定する。水中移動装置5のヨー角θと壁面4との距離lは、上述したように、ソナー18a、18bの測定値から求める。
【0050】
スラスタ制御部25は、上記の計測器の測定値と測定値から求めた値のそれぞれがパラメータ設定工程100で設定した目標値56a〜60a(許容誤差56b〜60bを考慮した目標値)の範囲内に収まるように、垂直スラスタ用サーボアンプ30a〜30dと水平スラスタ用サーボアンプ31a、31bに推力の指令を送り、垂直スラスタ15a〜15dと水平スラスタ16a、16bの推力を調整する。スラスタ制御部25は、フィードバック制御を行い、計測器の測定値と測定値から求めた値が目標値56a〜60a(許容誤差56b〜60bを考慮した目標値)の範囲内に収まるように、水中移動装置5の位置と姿勢を定め、水中移動装置5を水中で浮上させる。
【0051】
計測器の測定値と測定値から求めた値が目標値56a〜60a(許容誤差56b〜60bを考慮した目標値)の範囲内に収まっているか否かの判定は、スラスタ制御部25が行わなくてもよい。すなわち、スラスタ制御部25と各計測器との間にホバリング判定部を設けて、ホバリング判定部でこの判定を行ってもよい。
【0052】
ホバリング工程130が終了すると、回転動作実行判定工程140に移行する。ホバリング工程130と回転動作実行判定工程140の詳細については、図8を用いて説明する。
【0053】
図8は、ホバリング工程130と回転動作実行判定工程140の詳細を示す図である。初めにホバリング工程130の詳細について説明し、次に回転動作実行判定工程140の詳細について説明する。
【0054】
ロール角確認工程131aにおいて、スラスタ制御部25は、傾斜計x33aで測定した水中移動装置5のロール角の測定値αが目標値αから許容誤差Δαの範囲内に収まっているかどうかを判定する。測定値αが目標値αから許容誤差Δαの範囲内に収まっていない場合は、垂直スラスタ制御工程131bに移行する。
【0055】
垂直スラスタ制御工程131bでは、スラスタ制御部25は、(測定値α−目標値α)の値と許容誤差Δαの値との差に応じて、垂直スラスタ用サーボアンプ30a〜30dに指令を送り、垂直スラスタ15a〜15dの推力を変更する。このとき、水中移動装置5の右側にある垂直スラスタ15aと15cの推力を互いに同じ割合で変更し、水中移動装置5の左側にある垂直スラスタ15bと15dの推力を互いに同じ割合で変更する。そして、垂直スラスタ15a、15cと垂直スラスタ15b、15dとは、推力の変更方向が逆方向である。垂直スラスタ15a〜15dの推力の変更は、測定値αと目標値αとの差が許容誤差Δα以下になるまで行う。
【0056】
ロール角の測定値αが目標値αから許容誤差Δαの範囲内に収まっていれば、すなわち、測定値αと目標値αとの差が許容誤差Δα以下であれば、ピッチ角確認工程132aに移行する。
【0057】
ピッチ角確認工程132aにおいて、スラスタ制御部25は、傾斜計y33bで測定した水中移動装置5のピッチ角の測定値βが目標値βから許容誤差Δβの範囲内に収まっているかどうかを判定する。測定値βが目標値βから許容誤差Δβの範囲内に収まっていない場合は、垂直スラスタ制御工程132bに移行する。
【0058】
垂直スラスタ制御工程132bでは、スラスタ制御部25は、(測定値β−目標値β)の値と許容誤差Δβの値との差に応じて、垂直スラスタ用サーボアンプ30a〜30dに指令を送り、垂直スラスタ15a〜15dの推力を変更する。このとき、水中移動装置5の前側にある垂直スラスタ15aと15bの推力を互いに同じ割合で変更し、水中移動装置5の後側にある垂直スラスタ15cと15dの推力を互いに同じ割合で変更する。そして、垂直スラスタ15a、15bと垂直スラスタ15c、15dとは、推力の変更方向が逆方向である。垂直スラスタ15a〜15dの推力の変更は、測定値βと目標値βとの差が許容誤差Δβ以下になるまで行う。
【0059】
ピッチ角の測定値βが目標値βから許容誤差Δβの範囲内に収まっていれば、すなわち、測定値βと目標値βとの差が許容誤差Δβ以下であれば、水深確認工程133aに移行する。
【0060】
水深確認工程133aにおいて、スラスタ制御部25は、水深計32で測定した水中移動装置5の水深の測定値hが目標値hから許容誤差Δhの範囲内に収まっているかどうかを判定する。測定値hが目標値hから許容誤差Δhの範囲内に収まっていない場合は、垂直スラスタ制御工程133bに移行する。
【0061】
垂直スラスタ制御工程133bでは、スラスタ制御部25は、(測定値h−目標値h)の値と許容誤差Δhの値との差に応じて、垂直スラスタ用サーボアンプ30a〜30dに指令を送り、垂直スラスタ15a〜15dの推力を変更する。このとき、垂直スラスタ15a〜15dの推力を互いに同じ割合で変更する。垂直スラスタ15a〜15dの推力の変更は、測定値hと目標値hとの差が許容誤差Δh以下になるまで行う。
【0062】
水深の測定値hが目標値hから許容誤差Δhの範囲内に収まっていれば、すなわち、測定値hと目標値hとの差が許容誤差Δh以下であれば、ヨー角確認工程134aに移行する。
【0063】
ヨー角確認工程134aにおいて、スラスタ制御部25は、ソナー18a、18b間の距離lと、ソナー18aが測定した壁面4との距離lと、ソナー18bが測定した壁面4との距離lとから、式(1)を用いてヨー角θを求める。そして、求めたヨー角θが目標値θから許容誤差Δθの範囲内に収まっているかどうかを判定する。求めたヨー角θが目標値θから許容誤差Δθの範囲内に収まっていない場合は、水平スラスタ制御工程134bに移行する。
【0064】
水平スラスタ制御工程134bでは、スラスタ制御部25は、(求めたヨー角θ−目標値θ)の値と許容誤差Δθの値との差に応じて、水平スラスタ用サーボアンプ31a、31bに指令を送り、水平スラスタ16a、16bの推力を変更する。このとき、水平スラスタ16a、16bの推力を互いに同じ割合で変更する。ただし、水平スラスタ16aと水平スラスタ16bとは、推力の変更方向が逆方向である。水平スラスタ16a、16bの推力の変更は、求めたヨー角θと目標値θとの差が許容誤差Δθ以下になるまで行う。
【0065】
求めたヨー角θが目標値θから許容誤差Δθの範囲内に収まっていれば、すなわち、求めたヨー角θと目標値θとの差が許容誤差Δθ以下であれば、壁面間距離確認工程135aに移行する。
【0066】
壁面間距離確認工程135aにおいて、スラスタ制御部25は、ソナー18aが測定した壁面4との距離lと、ソナー18bが測定した壁面4との距離lと、求めたヨー角θとから、式(2)を用いて、水中移動装置5と壁面4との距離l(壁面間距離l)を求める。そして、求めた壁面間距離lが目標値lから許容誤差Δlの範囲内に収まっているかどうかを判定する。求めた壁面間距離lが目標値lから許容誤差Δlの範囲内に収まっていない場合は、水平スラスタ制御工程135bに移行する。
【0067】
水平スラスタ制御工程135bでは、スラスタ制御部25は、(求めた壁面間距離l−目標値l)の値と許容誤差Δlの値との差に応じて、水平スラスタ用サーボアンプ31a、31bに指令を送り、水平スラスタ16a、16bの推力を変更する。このとき、水平スラスタ16a、16bの推力を互いに同じ割合で同じ方向に変更する。水平スラスタ16a、16bの推力の変更は、求めた壁面間距離lと目標値lとの差が許容誤差Δl以下になるまで行う。もちろん、工程131b〜135bにおいて、それぞれ測定値と目標値との差が無くなるまで各スラスタの制御を行ってもよい。
【0068】
求めた壁面間距離lが目標値lから許容誤差Δlの範囲内に収まっていれば、すなわち、求めた壁面間距離lと目標値lとの差が許容誤差Δl以下であれば、回転動作実行判定工程140に移行する。
【0069】
なお、以上のホバリング工程130において、ロール角確認工程131aとピッチ角確認工程132aの順序は、逆でもよい。
【0070】
回転動作判定工程140では、回転動作判断部26は、新たに測定した傾斜計x33a、傾斜計y33b、水深計32、及びソナー18a、18bの測定値と測定値から求めた値に対して、ホバリング工程130の各工程131a、132a、133a、134a、135aで行った判定を再度行う。回転動作判断部26は、この判定を再度行うことにより、これらの測定値と測定値から求めた値が目標値からの許容誤差の範囲内に収まっていることを確認する。
【0071】
各計測器の測定値と測定値から求めた値が目標値からの許容誤差の範囲内に収まっていない場合は、工程131a、132a、133a、134a、135aのうち、範囲に収まっていない測定値または測定値から求めた値についての工程へ移行し、移行した工程からホバリング工程130をやり直す。範囲に収まっていない測定値または測定値から求めた値が複数存在する場合は、これらの測定値または測定値から求めた値についての工程のうち最も先に行う工程へ移行し、移行した工程からホバリング工程130をやり直す。
【0072】
全ての測定値と測定値から求めた値が許容誤差の範囲内に収まっている場合は、回転動作判断部26は、水中移動装置5のホバリングが安定しており、水中移動装置5が壁面4に接面するための回転動作の実行が可能であると判断する。そして、回転動作判断部26は、スラスタ制御部25に、水中移動装置5の回転動作を開始する指令を送信し、回転動作工程150(図3参照)に移行する。
【0073】
図3に示す回転動作工程150では、スラスタ制御部25は、パラメータ設定工程100で設定した回転時における垂直スラスタ15a〜15dと水平スラスタ16a、16bの推力の指令値53を、垂直スラスタ用サーボアンプ30a〜30dと水平スラスタ用サーボアンプ31a、31bに送り、垂直スラスタ15a〜15dと水平スラスタ16a、16bの推力を変更する。この推力の変更により、水中移動装置5は、回転動作を開始する。
【0074】
図6Dは、水中移動装置5が、垂直スラスタ15a〜15dの推力43a〜43dと水平スラスタ16a、16bの推力44a、44bにより、回転しているところを示す図である(水平スラスタ16bの推力44bは図示せず)。水中移動装置5は、前面が壁面4に面しているので、前側にある(壁面4に近い位置にある)垂直スラスタ15a、15bの推力43a、43bは、推力42a、42bと同方向の上向きであり、後側にある(壁面4から遠い位置にある)垂直スラスタ15c、15dの推力43c、43dは、推力42c、42dと逆方向の下向きである。
【0075】
垂直スラスタ15c、15dが推力の向きを上向きから下向きに反転させるときには、垂直スラスタ15c、15dの推力の大きさは、減少していき、一時的にゼロになって増加していく。垂直スラスタ15c、15dの推力が減少している間に、水中移動装置5は、水中重量により落下してしまうおそれがある。回転動作中の水中移動装置5の落下を防ぐために、スラスタ制御部25は、水平スラスタ16a、16bに、水中移動装置5が上昇する方向の推力44a、44bを発生させ、水中移動装置5に上昇する方向の推力を与える。
【0076】
水中移動装置5が回転動作を開始すると、壁面接面実行判定工程160に移行する。なお、水中移動装置5の回転動作中でも、傾斜計y33bは、水中移動装置5のピッチ角65(図6Dを参照)を測定する。
【0077】
壁面接面実行判定工程160では、壁面接面判断部27は、回転動作中の水中移動装置5のピッチ角65を監視して、ピッチ角65がパラメータ設定工程100で設定した接面開始角度61に達したかどうかを判定する。ピッチ角65が接面開始角度61に達すると、壁面接面判断部27は、スラスタ制御部25に壁面4への接面を開始する指令を送る。スラスタ制御部25は、壁面4への接面を開始する指令を壁面接面判断部27から受け取ると、壁面接面工程170に移行する。上述したように、接面開始角度61は90度未満であるので、水中移動装置5は、下面を壁面4に向ける前(下面と壁面4が平行になる前)に、壁面4への接面を開始する。
【0078】
なお、水中移動装置5が、ロール角が変化するように回転して壁面4へ接面する場合には、壁面接面実行判定工程160において、ロール角がパラメータ設定工程100で設定した接面開始角度61に達したかどうかを判定する。
【0079】
壁面接面工程170では、スラスタ制御部25は、パラメータ設定工程100で設定した接面時における垂直スラスタ15a〜15dと水平スラスタ16a、16bの推力の指令値54を、垂直スラスタ用サーボアンプ30a〜30dと水平スラスタ用サーボアンプ31a、31bに送り、垂直スラスタ15a〜15dと水平スラスタ16a、16bの推力を変更する。この推力の変更により、水中移動装置5は、回転しながら壁面4へ向かって並進し、壁面4への接面動作を開始する。
【0080】
図6Eは、水中移動装置5が、垂直スラスタ15a〜15dの推力45a〜45dと水平スラスタ16a、16bの推力46a、46bにより、回転しながら壁面4へ接面しているところを示す図である(水平スラスタ16bの推力46bは図示せず)。図6Eに示すように、垂直スラスタ15a、15bの推力45a、45bは、図6Dに示した推力43a、43bとは逆向きに指令値54の値を目指して加速中であり、垂直スラスタ15c、15dの推力45c、45dは、図6Dに示した推力43c、43dと同じ向きであり、指令値54の値に達している。水中移動装置5は、下面が床面3から壁面4を向くように回転しながら、壁面4へ向かって並進し、壁面4に接面しようとしている。水平スラスタ16a、16bの推力46a、46bは、水中移動装置5の落下を防ぐためのもので、図6Dに示した推力44a、44bと同じように、水中移動装置5が上昇する方向の推力である。水平スラスタ16a、16bの推力46a、46bは、推力44a、44bと同程度または大きくすることが望ましい。
【0081】
図6Fは、水中移動装置5が、垂直スラスタ15a〜15dの推力47a、47b、45c、45dと水平スラスタ16a、16bの推力46a、46bにより、壁面4へ接面するところを示す図である(水平スラスタ16bの推力46bは図示せず)。図6Fに示すように、垂直スラスタ15a、15bの推力47a、47bは、指令値54の値に達しており、水中移動装置のピッチ角65はほぼ90度に達しており、水中移動装置5は、わずかな並進移動で壁面4に接面する状態である。ここで、水中移動装置5のピッチ角65が90度に達したときに、垂直スラスタ15a、15bの推力47a、47bが指令値54に達していない場合でも、水中移動装置5と壁面4との距離はわずかであり、水中移動装置5が接面することは可能である。
【0082】
図6Gは、水中移動装置5が壁面4に接面している状態を示す図である。水中移動装置5は、垂直スラスタ15a〜15dの推力47a、47b、45c、45dにより壁面4に押し付けられて、壁面4に接面している。接面したときに水平スラスタ16a、16bは駆動を停止する。このようにして、水中移動装置5は、壁面4に安定して接面することができる。ここで、水中移動装置5は、垂直スラスタ15a、15bの推力47a、47bが指令値54に達していない場合でも、壁面4に接面することが可能である。
【0083】
以上説明した回転動作工程150、壁面接面実行判定工程160、及び壁面接面工程170は、連続して行われる一連の工程であり、水中移動装置5は、水中に浮上している状態(ホバリング状態)から回転しながら壁面4へ向かって並進し、壁面4に接面する。
【0084】
なお、上述したように、水中移動装置5は、壁面4からできるだけ近い位置で回転して壁面4へ接面するのが好ましい。そこで、水中移動装置5は、図6A図6Cにおいて壁面4との距離lをゼロとし、前面(または一方の側面)が壁面4に接触した状態から回転し始めることもできる。水中移動装置5が、前面(または一方の側面)が壁面4に接触した状態から回転し始めるようにするには、パラメータ設定工程100で設定する水中移動装置5と壁面4との距離の目標値60aをゼロとすればよい。このようにすると、水中移動装置5は、壁面4に向かって並進する必要がほとんどなく、より安定して壁面4に接面することができる。
【0085】
本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種種の変形が可能であり、それらも本発明に含まれることはいうまでもない。上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。
【0086】
また、各図面において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを記載しており、必ずしも製品として必要な全ての制御線や情報線を記載しているとは限らない。
【符号の説明】
【0087】
1…燃料プール、2…燃料ラック、3…床面、4…壁面、5…水中移動装置、6…ケーブル、7…ケーブルドラム、8…制御装置、9…電源、10…表示装置、11a…クローラ用コントローラ、11b…スラスタ用コントローラ、12…制御ボックス、13a、13b…クローラ、14…浮力体、15a、15b、15c、15d…垂直スラスタ、16a、16b…水平スラスタ、17…水中カメラ、18a、18b…ソナー、21…パラメータ設定部、22…データ送受信部、23…データ記憶部、24…データ送受信部、25…スラスタ制御部、26…回転動作判断部、27…壁面接面判断部、28…クローラ制御部、29a、29b…クローラ用サーボアンプ、30a、30b、30c、30d…垂直スラスタ用サーボアンプ、31a、31b…水平スラスタ用サーボアンプ、32…水深計、33a…傾斜計x、33b…傾斜計y、34…映像取得部、50…パラメータ設定画面、51…スラスタ推力指令値設定部、55…計測器目標値設定部。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図6G
図7A
図7B
図8