(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記水中移動装置が前記回転をするように前記推力発生部を制御するときと前記水中移動装置が前記回転をしながら並進するように前記推力発生部を制御するときの少なくとも一方のときに、前記水中移動装置が上昇する方向の推力を前記水平スラスタに発生させる請求項1に記載の水中移動装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明による水中移動装置は、水中での移動(水中遊泳)と、移動対象となる物体の床面や壁面での移動(走行)とが可能である。そして、装置の下面が床面から壁面を向くように回転して床面または水面から壁面に移動する際に、下面が床面から壁面を向く90度の回転動作の終了後に並進動作によって壁面へ接面するのではなく、推力発生部(スラスタ)の制御により回転動作中に並進しながら壁面へ接面するので、安定して床面または水面から壁面に移動することができる。
【0012】
本発明の好適な一実施例による水中移動装置を、
図1〜
図8を用いて以下に説明する。以下に述べる実施例は、水中移動装置が水中重量を有する場合の例であり、床面から浮上して壁面に接面する。本実施例は、水中移動装置が水中重量を有しない場合、すなわち、水中重量が中性浮力に調整されている水中移動装置の場合にも適用することができる。水中重量が中性浮力に調整されている水中移動装置は、水面に浮上しており、水面から沈んで壁面に接面するので、上下の移動方向を反対にすれば、本実施例の説明を適用できる。
【0013】
図1A、
図1Bは、本実施例による水中移動装置の全体システム構成図である。本実施例では、一例として、水中移動装置が原子炉建屋の燃料プールを検査する場合を示す。
図1Aは、水中移動装置のうち、燃料プール内に配置される構成要素を示し、
図1Bは、水中移動装置のうち、オペレーションフロアに配置される構成要素を示す。水中移動装置は、オペレーションフロアにいる操作員により操作される。
【0014】
図1Aに示すように、原子炉建屋の燃料プール1には、燃料を収納した燃料ラック2が貯蔵されている。燃料プール1や燃料ラック2は、水中移動装置5の移動対象となる物体であり、水中移動装置5は、燃料プール1の床面3と壁面4や燃料ラック2の健全性を調査する。なお、
図1Aでは、水中移動装置5の2つの態様、すなわち、床面3に接面している場合と壁面4に接面している場合を示している。水中移動装置5には、ケーブル6が接続されている。
【0015】
図1Bに示すように、水中移動装置5は、ケーブル6の送出しと巻取りを行うケーブルドラム7、制御装置8、電源9、表示装置10、クローラ用コントローラ11a、スラスタ用コントローラ11bを備える。これらは、オペレーションフロアに配置される。
【0016】
図2Aは、燃料プール1の床面3に接面している状態の水中移動装置5を上から見た上面図であり、
図2Bは、この状態の水中移動装置5を前から見た正面図である。
【0017】
水中移動装置5は、
図2A、
図2Bに示すように、制御ボックス12(詳細は後述する)の左右両側に走行部であるクローラ13a、13bを備え、制御ボックス12の上部に浮力体14を備える。
【0018】
さらに、水中移動装置5は、制御ボックス12と浮力体14とに連通して設けられた穴に垂直スラスタ15a、15b、15c、15dを備え、制御ボックス12の左右の上方に水平スラスタ16a、16bを備える。垂直スラスタ15a〜15dは、床面3に垂直な方向への推力発生部であり、水平スラスタ16a、16bは、床面3に水平な方向への推力発生部である。本実施例では、垂直スラスタ15aは水中移動装置5の右前側に、垂直スラスタ15bは水中移動装置5の左前側に、垂直スラスタ15cは水中移動装置5の右後側に、垂直スラスタ15dは水中移動装置5の左後側に、水平スラスタ16aは水中移動装置5の右側に、水平スラスタ16bは水中移動装置5の左側に、それぞれ設けられている。推力発生部である垂直スラスタ15a〜15dと水平スラスタ16a、16bが発生した推力により、水中移動装置5は、回転動作と並進動作を行って移動することができる。
【0019】
また、水中移動装置5は、制御ボックス12の前面に水中カメラ17を備え、水中カメラ17の周囲には照明となるLEDが配置されている。水中カメラ17の左右に計測器であるソナー18a、18bを備える。ソナー18a、18bは、距離l
dだけ離れているとする。
【0020】
水中移動装置5は、図示しないモータがクローラ13a、13bを回転駆動することにより、床面3上を走行することができる。この走行の駆動力は、水中移動装置5の水中重量によって生じる床面3とクローラ13a、13bとの間の摩擦力である。また、垂直スラスタ15a〜15dの推力によりクローラの摩擦力を大きくして走行することも可能である。
【0021】
水中移動装置5は、垂直スラスタ15a〜15dの推力により、床面3から水中に浮上し、浮上した状態で水平スラスタ16a、16bの推力が追加されることにより、前後進と旋回の遊泳動作をすることができる。そして、後で詳述するが、水中移動装置5は、水中で浮上した状態で、垂直スラスタ15a〜15dと水平スラスタ16a、16bとが制御されることにより、水中移動装置5の下面が床面3から壁面4を向くような回転動作を行いながら並進し、壁面4に接面する。壁面4に接面した水中移動装置5は、垂直スラスタ15a〜15dの推力により壁面4に押し付けられて壁面4とクローラ13a、13bとの間に摩擦力が生じ、クローラ13a、13bが回転駆動すると、壁面4上を走行することができる。
【0022】
水中移動装置5に接続されたケーブル6は、遊泳時の水中移動装置5の移動を妨げないように中性浮力化されることが望ましく、直径を細くするために2芯の電源線と通信線の各1本で構成されるほうがよい。
【0023】
このような移動機能を備えた水中移動装置5を用いて、水中カメラ17が撮影した映像を基に、燃料プール1の床面3や壁面4の目視検査を行う。ソナー18a、18bは、これから詳述する水中移動装置5の床面3から壁面4への移動に際し、水中移動装置5と壁面4との距離の測定に使用する。
【0024】
図3〜
図8を用いて、水中移動装置5が、姿勢を回転しながら(すなわち、水中移動装置5の下面が床面3から壁面4を向くように回転しながら)、床面3から壁面4に接面する方法について説明する。
図3は、水中移動装置5が床面3から壁面4に移動する手順を示す図である。
図4は、水中移動装置5の機能ブロック図である。
図5は、水中移動装置5が床面3から壁面4に移動する際の制御パラメータを設定する画面(パラメータ設定画面50)を示す図である。
図6A〜
図6Gは、水中移動装置5が床面3から壁面4に移動する際の各手順における水中移動装置5の動作を説明する図である。
図7A、
図7Bは、水中移動装置5のヨー角及び水中移動装置5と壁面4との距離を測定する方法を説明する図であり、水中移動装置5の上面図である。
図7Bは、
図7Aのうち、水中移動装置5の一部と壁面4を拡大して示している。
図8は、
図3に示した手順のうち、ホバリング工程と回転動作実行判定工程の詳細を示す図である。
【0025】
図4に示したように、水中移動装置5の制御装置8は、パラメータ設定部21、データ送受信部22、及びデータ記憶部23を備え、水中移動装置5の制御ボックス12は、データ送受信部24、スラスタ制御部25、回転動作判断部26、壁面接面判断部27、クローラ制御部28を備える。スラスタ制御部25は、垂直スラスタ用サーボアンプ30a、30b、30c、30dと水平スラスタ用サーボアンプ31a、31bを制御し、クローラ制御部28は、クローラ用サーボアンプ29a、29bを制御する。垂直スラスタ15a〜15dは、それぞれ垂直スラスタ用サーボアンプ30a〜30dにより駆動され、水平スラスタ16a、16bは、それぞれ水平スラスタ用サーボアンプ31a、31bにより駆動される。クローラ13a、13bは、それぞれクローラ用サーボアンプ29a、29bにより駆動される。
【0026】
また、水中移動装置5の制御ボックス12は、計測器である水深計32、傾斜計x33a、及び傾斜計y33bをさらに備える。さらに、水中移動装置5の制御ボックス12は、映像取得部34を備え、映像取得部34は、水中カメラ17が撮影した映像を取得する。この映像は、表示装置10で表示され、検査員が観察することができる。また、図示しないが、水中カメラ17は、状況に応じて、水中移動装置の上面や後方に追加してもよい。
【0027】
水中移動装置5の位置は、ソナー18a、18bと水深計32により求めることができ、水中移動装置5のロール角とピッチ角は、それぞれ傾斜計x33aと傾斜計y33bにより求めることができる。水中移動装置5のヨー角は、後述するように、ソナー18a、18bの測定値から求めることができる。また、図示しないが、水中移動装置5の両側面にそれぞれソナーを配置し、壁面との距離を測定して、燃料プール1内での位置を認識することも可能であるし、ソナーを水中移動装置5の前面と同様に側面に2箇所配置して、ヨー角と壁面との距離を測定することも可能である。
【0028】
図5に示したようにパラメータ設定画面50は、スラスタ推力指令値設定部51と計測器目標値設定部55を有する。パラメータ設定画面50は、制御装置8が表示装置10に表示する。
【0029】
水中移動装置5が床面3から壁面4に移動して接面する手順を説明する。本実施例では、水中移動装置5が、前面が壁面4を向いている状態から下面が壁面4を向く状態へ回転して(すなわち、ピッチ角が変化して前面が上を向くように回転して)壁面4へ接面する場合を例に挙げて説明する。水中移動装置5が、一方の側面が壁面4を向いている状態から下面が壁面4を向く状態へ回転して(すなわち、ロール角が変化して一方の側面が上を向くように回転して)壁面4へ接面する場合には、必要に応じてピッチ角とロール角との読み替えなどをして回転の向きを読み替えることで、以下の説明を適用することができる。
【0030】
初めに、
図3に示すパラメータ設定工程100では、操作員が、
図5に示すパラメータ設定画面50を介して、
図4に示す制御装置8のパラメータ設定部21に、水中移動装置5が床面3から壁面4に移動する際の制御パラメータとして、各スラスタの推力の指令値と、水中移動装置5が備える計測器の目標値と許容誤差を設定する。
【0031】
図5を用いて、具体的な設定項目について説明する。操作員は、パラメータ設定画面50のスラスタ推力指令値設定部51に、水中移動装置5の浮上時、回転時、及び接面時における、垂直スラスタ15a〜15dと水平スラスタ16a、16bの推力の指令値52〜54を、それぞれ設定する。水中移動装置5の浮上時とは、水中移動装置5が床面3から浮上するときのことであり、回転時とは、水中移動装置5の下面が床面3から壁面4を向くように回転、すなわち、水中移動装置5のピッチ角またはロール角が変化するように回転(以下、単に「回転」と称する)するときのことであり、接面時とは、水中移動装置5が壁面4へ接面するときのことである。
【0032】
さらに、操作員は、パラメータ設定画面50の計測器目標値設定部55に、水中移動装置5が壁面4に接面する位置の水深、水中移動装置5が水中で浮上したホバリング時の水中移動装置5のロール角、ピッチ角、ヨー角、及び水中移動装置5と壁面4との距離のそれぞれについて、目標値56a、57a、58a、59a、及び60aと、許容誤差56b、57b、58b、59b、及び60bを設定する。水中移動装置5と壁面4との距離の目標値60aは、できるだけ小さいほうが好ましい。これは、壁面4からできるだけ近い位置で水中移動装置5を回転させて壁面4へ接面させるためである。
【0033】
また、操作員は、水中移動装置5が回転動作中に壁面4への接面動作を開始するときの角度(接面開始角度61)を、計測器目標値設定部55に設定する。本実施例では、水中移動装置5が、ピッチ角が変化するように回転して壁面4へ接面するので、接面開始角度61は、水中移動装置5のピッチ角である。水中移動装置5が、ロール角が変化するように回転して壁面4へ接面する場合には、接面開始角度61は、水中移動装置5のロール角とする。いずれの場合も、接面開始角度61は、90度未満である。
【0034】
パラメータ設定画面50を介して制御装置8(
図4を参照)のパラメータ設定部21に設定された各制御パラメータは、データ送受信部22が、データ記憶部23と水中移動装置5の制御ボックス12のデータ送受信部24とに送る。データ送受信部24は、送られた各制御パラメータを、スラスタ制御部25、回転動作判断部26、壁面接面判断部27、及びクローラ制御部28に送る。
【0035】
次に、
図3に示す準備位置設定工程110では、クローラ用コントローラ11aは、パラメータ設定工程100で設定したヨー角の目標値59aと、水中移動装置5と壁面4との距離の目標値60aとに従って、クローラ13a、13bを制御する指令を発する。制御装置8は、クローラ用コントローラ11aの指令を、データ送受信部22と制御ボックス12内のデータ送受信部24を介して、クローラ制御部28に送る。クローラ制御部28は、この指令をクローラ用サーボアンプ29a、29bに送り、左右のクローラ13a、13bを制御して、水中移動装置5に床面3を走行させる。そして、クローラ制御部28は、後述する方法で測定した水中移動装置5のヨー角θと、水中移動装置5と壁面4との距離lを、設定した目標値59a、60a(許容誤差59b、60bを考慮した目標値)の範囲内に収まるように左右のクローラ13a、13bを制御して、水中移動装置5の位置を定める。
【0036】
図6Aは、このようにして位置(ヨー角θと、壁面4との距離l)を定めた水中移動装置5を示している。水中移動装置5は、前面が壁面4に面している。この水中移動装置5の位置を定める際のヨー角θの測定は、水中移動装置5の前面に備えられたソナー18a、18bを用いて行う。なお、上述したように、壁面4からできるだけ近い位置で水中移動装置5を回転させて壁面4へ接面させるために、水中移動装置5と壁面4との距離の目標値60aをできるだけ小さい値にするのが好ましい。従って、水中移動装置5と壁面4との距離lも、できるだけ小さくするのが好ましい。
【0037】
図7Aと
図7Bの水中移動装置5の上面図に示すように、ソナー18a、18b間の距離をl
d、ソナー18aが測定した壁面4との距離をl
1、ソナー18bが測定した壁面4との距離をl
2とすると、ヨー角θは式(1)で求められる。
【0039】
本実施例では、ヨー角θの原点及び符号は、
図7Aに示すように、壁面4に平行な角度がゼロ度であり、上から見て時計周りをプラスとするように定めた。しかし、ヨー角θの原点及び符号は、これに限るものではなく、任意に定義することができる。式(1)も、ヨー角θの原点及び符号の定義に応じて、変更することができる。
【0040】
水中移動装置5と壁面4との距離lは、ヨー角θと、ソナー18aの測定値l
1と、ソナー18bの測定値l
2とを用いて、式(2)で求められる。
【0042】
ただし、水中移動装置5と壁面4との距離lは、水中移動装置5におけるソナー18a、18bの左右方向の中心の位置と壁面4との距離とした。また、図示しないが、ソナー18a、18bの代わりに超音波のアレイセンサを用いて任意の2素子を使用して、上記の式(1)、式(2)の値を求めることも可能である。
【0043】
次に、
図3に示す垂直移動工程120では、スラスタ用コントローラ11bは、垂直スラスタ15a〜15dを制御する指令を発する。制御装置8は、スラスタ用コントローラ11bの指令を、データ送受信部22と制御ボックス12内のデータ送受信部24を介して、スラスタ制御部25に送る。スラスタ制御部25は、この指令を垂直スラスタ用サーボアンプ30a〜30dに送り、垂直スラスタ15a〜15dを駆動して、水中移動装置5が床面3から浮上するような推力を発生させる。
【0044】
図6Bは、垂直スラスタ15a〜15dが発生した推力41a〜41dを示している。図中の推力41a〜41dの矢印は、推力を付加する方向を示している。垂直スラスタ15a〜15dは、推力41a〜41dをそれぞれ発生する。推力41a〜41dにより、水中移動装置5は床面3からの浮上を開始する。
【0045】
水中移動装置5は、最終的に、パラメータ設定工程100で設定した浮上時における垂直スラスタ15a〜15dの推力の指令値52に基づく推力42a〜42dで、パラメータ設定工程100で設定した水中移動装置5が壁面4に接面する位置の水深の目標値56aまで浮上する。
【0046】
図6Cは、水中移動装置5が、垂直スラスタ15a〜15dの推力42a〜42dにより、水深の目標値56aまで浮上した状態を示している。
【0047】
なお、水中重量が中性浮力に調整されている水中移動装置の場合には、垂直移動工程120で、水中移動装置5は、水面から水深の目標値56aまで沈む。
【0048】
次に、
図3に示すホバリング工程130では、スラスタ制御部25は、水中移動装置5の壁面4に接面する位置の水深、水中移動装置5が水中で浮上したホバリング時の水中移動装置5のロール角、ピッチ角、ヨー角θ、及び水中移動装置5と壁面4との距離lのそれぞれが、パラメータ設定工程100で設定した目標値56a、57a、58a、59a、及び60a(許容誤差56b、57b、58b、59b、及び60bを考慮した目標値)の範囲内に収まるように、水中移動装置5の水中での位置と姿勢を定める。
【0049】
水中移動装置5の水深、ロール角、及びピッチ角は、それぞれ、制御ボックス12内の水深計32、傾斜計x33a、及び傾斜計y33bで測定する。水中移動装置5のヨー角θと壁面4との距離lは、上述したように、ソナー18a、18bの測定値から求める。
【0050】
スラスタ制御部25は、上記の計測器の測定値と測定値から求めた値のそれぞれがパラメータ設定工程100で設定した目標値56a〜60a(許容誤差56b〜60bを考慮した目標値)の範囲内に収まるように、垂直スラスタ用サーボアンプ30a〜30dと水平スラスタ用サーボアンプ31a、31bに推力の指令を送り、垂直スラスタ15a〜15dと水平スラスタ16a、16bの推力を調整する。スラスタ制御部25は、フィードバック制御を行い、計測器の測定値と測定値から求めた値が目標値56a〜60a(許容誤差56b〜60bを考慮した目標値)の範囲内に収まるように、水中移動装置5の位置と姿勢を定め、水中移動装置5を水中で浮上させる。
【0051】
計測器の測定値と測定値から求めた値が目標値56a〜60a(許容誤差56b〜60bを考慮した目標値)の範囲内に収まっているか否かの判定は、スラスタ制御部25が行わなくてもよい。すなわち、スラスタ制御部25と各計測器との間にホバリング判定部を設けて、ホバリング判定部でこの判定を行ってもよい。
【0052】
ホバリング工程130が終了すると、回転動作実行判定工程140に移行する。ホバリング工程130と回転動作実行判定工程140の詳細については、
図8を用いて説明する。
【0053】
図8は、ホバリング工程130と回転動作実行判定工程140の詳細を示す図である。初めにホバリング工程130の詳細について説明し、次に回転動作実行判定工程140の詳細について説明する。
【0054】
ロール角確認工程131aにおいて、スラスタ制御部25は、傾斜計x33aで測定した水中移動装置5のロール角の測定値αが目標値α
0から許容誤差Δαの範囲内に収まっているかどうかを判定する。測定値αが目標値α
0から許容誤差Δαの範囲内に収まっていない場合は、垂直スラスタ制御工程131bに移行する。
【0055】
垂直スラスタ制御工程131bでは、スラスタ制御部25は、(測定値α−目標値α
0)の値と許容誤差Δαの値との差に応じて、垂直スラスタ用サーボアンプ30a〜30dに指令を送り、垂直スラスタ15a〜15dの推力を変更する。このとき、水中移動装置5の右側にある垂直スラスタ15aと15cの推力を互いに同じ割合で変更し、水中移動装置5の左側にある垂直スラスタ15bと15dの推力を互いに同じ割合で変更する。そして、垂直スラスタ15a、15cと垂直スラスタ15b、15dとは、推力の変更方向が逆方向である。垂直スラスタ15a〜15dの推力の変更は、測定値αと目標値α
0との差が許容誤差Δα以下になるまで行う。
【0056】
ロール角の測定値αが目標値α
0から許容誤差Δαの範囲内に収まっていれば、すなわち、測定値αと目標値α
0との差が許容誤差Δα以下であれば、ピッチ角確認工程132aに移行する。
【0057】
ピッチ角確認工程132aにおいて、スラスタ制御部25は、傾斜計y33bで測定した水中移動装置5のピッチ角の測定値βが目標値β
0から許容誤差Δβの範囲内に収まっているかどうかを判定する。測定値βが目標値β
0から許容誤差Δβの範囲内に収まっていない場合は、垂直スラスタ制御工程132bに移行する。
【0058】
垂直スラスタ制御工程132bでは、スラスタ制御部25は、(測定値β−目標値β
0)の値と許容誤差Δβの値との差に応じて、垂直スラスタ用サーボアンプ30a〜30dに指令を送り、垂直スラスタ15a〜15dの推力を変更する。このとき、水中移動装置5の前側にある垂直スラスタ15aと15bの推力を互いに同じ割合で変更し、水中移動装置5の後側にある垂直スラスタ15cと15dの推力を互いに同じ割合で変更する。そして、垂直スラスタ15a、15bと垂直スラスタ15c、15dとは、推力の変更方向が逆方向である。垂直スラスタ15a〜15dの推力の変更は、測定値βと目標値β
0との差が許容誤差Δβ以下になるまで行う。
【0059】
ピッチ角の測定値βが目標値β
0から許容誤差Δβの範囲内に収まっていれば、すなわち、測定値βと目標値β
0との差が許容誤差Δβ以下であれば、水深確認工程133aに移行する。
【0060】
水深確認工程133aにおいて、スラスタ制御部25は、水深計32で測定した水中移動装置5の水深の測定値hが目標値h
0から許容誤差Δhの範囲内に収まっているかどうかを判定する。測定値hが目標値h
0から許容誤差Δhの範囲内に収まっていない場合は、垂直スラスタ制御工程133bに移行する。
【0061】
垂直スラスタ制御工程133bでは、スラスタ制御部25は、(測定値h−目標値h
0)の値と許容誤差Δhの値との差に応じて、垂直スラスタ用サーボアンプ30a〜30dに指令を送り、垂直スラスタ15a〜15dの推力を変更する。このとき、垂直スラスタ15a〜15dの推力を互いに同じ割合で変更する。垂直スラスタ15a〜15dの推力の変更は、測定値hと目標値h
0との差が許容誤差Δh以下になるまで行う。
【0062】
水深の測定値hが目標値h
0から許容誤差Δhの範囲内に収まっていれば、すなわち、測定値hと目標値h
0との差が許容誤差Δh以下であれば、ヨー角確認工程134aに移行する。
【0063】
ヨー角確認工程134aにおいて、スラスタ制御部25は、ソナー18a、18b間の距離l
dと、ソナー18aが測定した壁面4との距離l
1と、ソナー18bが測定した壁面4との距離l
2とから、式(1)を用いてヨー角θを求める。そして、求めたヨー角θが目標値θ
0から許容誤差Δθの範囲内に収まっているかどうかを判定する。求めたヨー角θが目標値θ
0から許容誤差Δθの範囲内に収まっていない場合は、水平スラスタ制御工程134bに移行する。
【0064】
水平スラスタ制御工程134bでは、スラスタ制御部25は、(求めたヨー角θ−目標値θ
0)の値と許容誤差Δθの値との差に応じて、水平スラスタ用サーボアンプ31a、31bに指令を送り、水平スラスタ16a、16bの推力を変更する。このとき、水平スラスタ16a、16bの推力を互いに同じ割合で変更する。ただし、水平スラスタ16aと水平スラスタ16bとは、推力の変更方向が逆方向である。水平スラスタ16a、16bの推力の変更は、求めたヨー角θと目標値θ
0との差が許容誤差Δθ以下になるまで行う。
【0065】
求めたヨー角θが目標値θ
0から許容誤差Δθの範囲内に収まっていれば、すなわち、求めたヨー角θと目標値θ
0との差が許容誤差Δθ以下であれば、壁面間距離確認工程135aに移行する。
【0066】
壁面間距離確認工程135aにおいて、スラスタ制御部25は、ソナー18aが測定した壁面4との距離l
1と、ソナー18bが測定した壁面4との距離l
2と、求めたヨー角θとから、式(2)を用いて、水中移動装置5と壁面4との距離l(壁面間距離l)を求める。そして、求めた壁面間距離lが目標値l
0から許容誤差Δlの範囲内に収まっているかどうかを判定する。求めた壁面間距離lが目標値l
0から許容誤差Δlの範囲内に収まっていない場合は、水平スラスタ制御工程135bに移行する。
【0067】
水平スラスタ制御工程135bでは、スラスタ制御部25は、(求めた壁面間距離l−目標値l
0)の値と許容誤差Δlの値との差に応じて、水平スラスタ用サーボアンプ31a、31bに指令を送り、水平スラスタ16a、16bの推力を変更する。このとき、水平スラスタ16a、16bの推力を互いに同じ割合で同じ方向に変更する。水平スラスタ16a、16bの推力の変更は、求めた壁面間距離lと目標値l
0との差が許容誤差Δl以下になるまで行う。もちろん、工程131b〜135bにおいて、それぞれ測定値と目標値との差が無くなるまで各スラスタの制御を行ってもよい。
【0068】
求めた壁面間距離lが目標値l
0から許容誤差Δlの範囲内に収まっていれば、すなわち、求めた壁面間距離lと目標値l
0との差が許容誤差Δl以下であれば、回転動作実行判定工程140に移行する。
【0069】
なお、以上のホバリング工程130において、ロール角確認工程131aとピッチ角確認工程132aの順序は、逆でもよい。
【0070】
回転動作判定工程140では、回転動作判断部26は、新たに測定した傾斜計x33a、傾斜計y33b、水深計32、及びソナー18a、18bの測定値と測定値から求めた値に対して、ホバリング工程130の各工程131a、132a、133a、134a、135aで行った判定を再度行う。回転動作判断部26は、この判定を再度行うことにより、これらの測定値と測定値から求めた値が目標値からの許容誤差の範囲内に収まっていることを確認する。
【0071】
各計測器の測定値と測定値から求めた値が目標値からの許容誤差の範囲内に収まっていない場合は、工程131a、132a、133a、134a、135aのうち、範囲に収まっていない測定値または測定値から求めた値についての工程へ移行し、移行した工程からホバリング工程130をやり直す。範囲に収まっていない測定値または測定値から求めた値が複数存在する場合は、これらの測定値または測定値から求めた値についての工程のうち最も先に行う工程へ移行し、移行した工程からホバリング工程130をやり直す。
【0072】
全ての測定値と測定値から求めた値が許容誤差の範囲内に収まっている場合は、回転動作判断部26は、水中移動装置5のホバリングが安定しており、水中移動装置5が壁面4に接面するための回転動作の実行が可能であると判断する。そして、回転動作判断部26は、スラスタ制御部25に、水中移動装置5の回転動作を開始する指令を送信し、回転動作工程150(
図3参照)に移行する。
【0073】
図3に示す回転動作工程150では、スラスタ制御部25は、パラメータ設定工程100で設定した回転時における垂直スラスタ15a〜15dと水平スラスタ16a、16bの推力の指令値53を、垂直スラスタ用サーボアンプ30a〜30dと水平スラスタ用サーボアンプ31a、31bに送り、垂直スラスタ15a〜15dと水平スラスタ16a、16bの推力を変更する。この推力の変更により、水中移動装置5は、回転動作を開始する。
【0074】
図6Dは、水中移動装置5が、垂直スラスタ15a〜15dの推力43a〜43dと水平スラスタ16a、16bの推力44a、44bにより、回転しているところを示す図である(水平スラスタ16bの推力44bは図示せず)。水中移動装置5は、前面が壁面4に面しているので、前側にある(壁面4に近い位置にある)垂直スラスタ15a、15bの推力43a、43bは、推力42a、42bと同方向の上向きであり、後側にある(壁面4から遠い位置にある)垂直スラスタ15c、15dの推力43c、43dは、推力42c、42dと逆方向の下向きである。
【0075】
垂直スラスタ15c、15dが推力の向きを上向きから下向きに反転させるときには、垂直スラスタ15c、15dの推力の大きさは、減少していき、一時的にゼロになって増加していく。垂直スラスタ15c、15dの推力が減少している間に、水中移動装置5は、水中重量により落下してしまうおそれがある。回転動作中の水中移動装置5の落下を防ぐために、スラスタ制御部25は、水平スラスタ16a、16bに、水中移動装置5が上昇する方向の推力44a、44bを発生させ、水中移動装置5に上昇する方向の推力を与える。
【0076】
水中移動装置5が回転動作を開始すると、壁面接面実行判定工程160に移行する。なお、水中移動装置5の回転動作中でも、傾斜計y33bは、水中移動装置5のピッチ角65(
図6Dを参照)を測定する。
【0077】
壁面接面実行判定工程160では、壁面接面判断部27は、回転動作中の水中移動装置5のピッチ角65を監視して、ピッチ角65がパラメータ設定工程100で設定した接面開始角度61に達したかどうかを判定する。ピッチ角65が接面開始角度61に達すると、壁面接面判断部27は、スラスタ制御部25に壁面4への接面を開始する指令を送る。スラスタ制御部25は、壁面4への接面を開始する指令を壁面接面判断部27から受け取ると、壁面接面工程170に移行する。上述したように、接面開始角度61は90度未満であるので、水中移動装置5は、下面を壁面4に向ける前(下面と壁面4が平行になる前)に、壁面4への接面を開始する。
【0078】
なお、水中移動装置5が、ロール角が変化するように回転して壁面4へ接面する場合には、壁面接面実行判定工程160において、ロール角がパラメータ設定工程100で設定した接面開始角度61に達したかどうかを判定する。
【0079】
壁面接面工程170では、スラスタ制御部25は、パラメータ設定工程100で設定した接面時における垂直スラスタ15a〜15dと水平スラスタ16a、16bの推力の指令値54を、垂直スラスタ用サーボアンプ30a〜30dと水平スラスタ用サーボアンプ31a、31bに送り、垂直スラスタ15a〜15dと水平スラスタ16a、16bの推力を変更する。この推力の変更により、水中移動装置5は、回転しながら壁面4へ向かって並進し、壁面4への接面動作を開始する。
【0080】
図6Eは、水中移動装置5が、垂直スラスタ15a〜15dの推力45a〜45dと水平スラスタ16a、16bの推力46a、46bにより、回転しながら壁面4へ接面しているところを示す図である(水平スラスタ16bの推力46bは図示せず)。
図6Eに示すように、垂直スラスタ15a、15bの推力45a、45bは、
図6Dに示した推力43a、43bとは逆向きに指令値54の値を目指して加速中であり、垂直スラスタ15c、15dの推力45c、45dは、
図6Dに示した推力43c、43dと同じ向きであり、指令値54の値に達している。水中移動装置5は、下面が床面3から壁面4を向くように回転しながら、壁面4へ向かって並進し、壁面4に接面しようとしている。水平スラスタ16a、16bの推力46a、46bは、水中移動装置5の落下を防ぐためのもので、
図6Dに示した推力44a、44bと同じように、水中移動装置5が上昇する方向の推力である。水平スラスタ16a、16bの推力46a、46bは、推力44a、44bと同程度または大きくすることが望ましい。
【0081】
図6Fは、水中移動装置5が、垂直スラスタ15a〜15dの推力47a、47b、45c、45dと水平スラスタ16a、16bの推力46a、46bにより、壁面4へ接面するところを示す図である(水平スラスタ16bの推力46bは図示せず)。
図6Fに示すように、垂直スラスタ15a、15bの推力47a、47bは、指令値54の値に達しており、水中移動装置のピッチ角65はほぼ90度に達しており、水中移動装置5は、わずかな並進移動で壁面4に接面する状態である。ここで、水中移動装置5のピッチ角65が90度に達したときに、垂直スラスタ15a、15bの推力47a、47bが指令値54に達していない場合でも、水中移動装置5と壁面4との距離はわずかであり、水中移動装置5が接面することは可能である。
【0082】
図6Gは、水中移動装置5が壁面4に接面している状態を示す図である。水中移動装置5は、垂直スラスタ15a〜15dの推力47a、47b、45c、45dにより壁面4に押し付けられて、壁面4に接面している。接面したときに水平スラスタ16a、16bは駆動を停止する。このようにして、水中移動装置5は、壁面4に安定して接面することができる。ここで、水中移動装置5は、垂直スラスタ15a、15bの推力47a、47bが指令値54に達していない場合でも、壁面4に接面することが可能である。
【0083】
以上説明した回転動作工程150、壁面接面実行判定工程160、及び壁面接面工程170は、連続して行われる一連の工程であり、水中移動装置5は、水中に浮上している状態(ホバリング状態)から回転しながら壁面4へ向かって並進し、壁面4に接面する。
【0084】
なお、上述したように、水中移動装置5は、壁面4からできるだけ近い位置で回転して壁面4へ接面するのが好ましい。そこで、水中移動装置5は、
図6A〜
図6Cにおいて壁面4との距離lをゼロとし、前面(または一方の側面)が壁面4に接触した状態から回転し始めることもできる。水中移動装置5が、前面(または一方の側面)が壁面4に接触した状態から回転し始めるようにするには、パラメータ設定工程100で設定する水中移動装置5と壁面4との距離の目標値60aをゼロとすればよい。このようにすると、水中移動装置5は、壁面4に向かって並進する必要がほとんどなく、より安定して壁面4に接面することができる。
【0085】
本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種種の変形が可能であり、それらも本発明に含まれることはいうまでもない。上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。
【0086】
また、各図面において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを記載しており、必ずしも製品として必要な全ての制御線や情報線を記載しているとは限らない。