(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6116489
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】マップとしての空間周波数表現
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20170410BHJP
A61B 5/05 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
A61B5/05 380
A61B5/05ZDM
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-557183(P2013-557183)
(86)(22)【出願日】2012年3月7日
(65)【公表番号】特表2014-507241(P2014-507241A)
(43)【公表日】2014年3月27日
(86)【国際出願番号】IB2012000414
(87)【国際公開番号】WO2012120358
(87)【国際公開日】20120913
【審査請求日】2015年3月6日
(31)【優先権主張番号】13/042,268
(32)【優先日】2011年3月7日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507237668
【氏名又は名称】アキュイタス・メディカル・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ファー,ランス・ダブリュ
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ,ティモシー・ダブリュ
(72)【発明者】
【氏名】スターン,ジョナサン・エヌ
【審査官】
荒井 隆一
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−517134(JP,A)
【文献】
特表2008−526430(JP,A)
【文献】
特開平04−275685(JP,A)
【文献】
特開2007−307202(JP,A)
【文献】
特開2001−250106(JP,A)
【文献】
Surya Chundru et al.,Novel MR Fine Texture Spectroscopy Technique Enabling Visualization of Fine Structures: Fibrosis detection in chronic Liver Disease,Proceedings of ISMRM,2012年 5月11日,Vol.20,p.1306
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01R 33/20−33/64
G06T 1/00
JMEDPlus(JDreamIII)
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標本からデータを得て解析し表現する方法であって、
前記標本から、プリズムの一部または全体を構成することのできる前記標本の所定領域に沿った位置に対する信号を取得するステップと;
解析および表現することを所望する前記標本の構造的特徴部より長く、前記標本の前記所定領域よりも短いセグメント長を選択するステップと;
前記選択したセグメント長を使用し,前記標本の前記所定領域に沿った隣接するかまたは重なるセグメントの各々に対する前記信号の空間周波数解析を実施して、各セグメント内の空間周波数の範囲にわたる空間周波数に対する値を得るステップと;
各セグメントの前記空間周波数解析を特徴付けて、前記標本の前記所定領域に沿った各セグメントの表現を形成するステップと;
複数のプリズムの一部または全部に対して前記すべてのステップを実施して、前記セグメントの前記空間周波数の2次元表現を形成することと;
前記2次元表現を前記領域の別の画像の上に重ねて、前記空間周波数と前記画像との間の関係を示すことと
を含む、方法。
【請求項2】
前記空間周波数解析の結果は、位相及び振幅値の両方で構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記空間周波数解析の結果は、実数値及び虚数値の両方で構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
各セグメントの前記表現は、グレースケール表現として表示される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
各セグメントの前記表現は、モノクロ表現として表示される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
各セグメントの前記表現は、カラー表現として表示される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
各セグメントの前記表現は、疑似カラー表現として表示される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
各セグメントの前記表現は、カラー表現として表示され、各カラーは、同じ強度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
各セグメントの前記表現は、カラー及びカラー強度の両方に変化のあるカラー表現として表示される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
各セグメントの前記表現は、当該各セグメントについての前記空間周波数解析の第2の空間周波数範囲に関する前記空間周波数解析の特徴に対する、当該各セグメントについての前記空間周波数解析の第1の空間周波数範囲に関する前記空間周波数解析の特徴に基づく、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
各セグメントの前記表現は、当該各セグメントについての前記空間周波数解析の第1の空間周波数範囲に関する前記空間周波数解析の特徴と、当該各セグメントについての前記空間周波数解析の第2の空間周波数範囲に関する前記空間周波数解析の特徴との比率に基づく、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記プリズムは任意の断面形状を有し、かつ標本の細長い領域である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2009年2月20日出願の米国仮特許出願第61/154,030号の利益を特許請求する2010年2月22日出願の米国特許出願第12/710,065号の一部継続出願である。
【技術分野】
【0002】
本発明は、構造変化がみられる身体領域などだがこれに限定されない、複雑な生物学的構造および物理的構造の診断評価およびモニタリングの分野に関する。この構造変化は、疾患過程での変化(例えば血管形成)または様々な機能状態間でみられる変化(例えば、妊娠前、妊娠中および妊娠後の乳腺)などだがこれに限定されない。
【背景技術】
【0003】
用語の解説:以下の用語は、本明細書全体を通して使用するものである。
【0004】
1.プリズム:プリズムとは、細長いボリュームの物質であり、この物質を基に信号を測定する。この信号は、プリズム沿いの位置に応じて変化する。本明細書で全体的に記載しているプリズムの形態は、長方形の断面を有するが、通常この形態は、任意の断面形状を含んでいてよい。このほか、本明細書で全体的に記載している信号測定は、現在のMRI技術を修正したものだが、当業者に自明の通り、信号は、他の技術を使用してプリズムのボリュームから収集されてもよい。
【0005】
2.プロファイル:プロファイルとは、プリズム内の単一方向に沿った位置に応じた信号である。信号強度の異なる物質から採取されるプロファイルは、一般に一定ではなく、プリズム内の位置に応じて信号を生成する物質の量の測定値を表すものである。例として、これは、物質の有無、または物質の密度とすることができる。しかし、物質の特性をいくつでも測定できるが、位置に対する信号が、プリズムに沿った位置に応じた何らかの物理的特性の測定値を提供する、突出した点は除く。当業者に自明の通り、プロファイルは、位置とともに変化する任意の測定可能な物理的特性を表すことができる。
【0006】
3.セグメント:位置に応じたプロファイル信号の変化に関する測定を実施するために、有限の範囲のプロファイルの一部を使用する。このプロファイル部分は、プロファイルの全長以下とすることができ、「セグメント」と称する。
【0007】
4.空間周波数:信号処理分野では、信号の周波数成分を推定する多くの技術が存在する。一般にこのような信号は、時間とともに変化する。時間ではなく位置に応じて変化する信号にこのような技術を適用する場合、周波数成分に相当するものは、プロファイルに沿った空間変化の周波数の測定値である。これを考察するために、これを「空間周波数」と称する。
【0008】
5.空間周波数スペクトル:空間周波数スペクトルとは、前記プロファイルのセグメントの空間周波数成分を表すものである。空間周波数に応じてセグメント内に存在する信号の相対量または絶対量をグラフで示すものである。
【0009】
6.カラー周波数:カラー周波数とは、可視光の周波数であり、可視光は関連する波長を有するため、ヒトがディスプレイデバイスで見ると色が見える。カラー周波数は、異なる色からなる連続体を形成する。
【0010】
7.カラー周波数スペクトル:ディスプレイデバイス上のある点の場合、表示される最終色は、1つ以上のカラー周波数を組み合わせたものから形成される。カラー周波数およびこれに対応する強度(絶対強度および相対強度)は、ディスプレイ上のその点の感知色および輝度を決定する。したがって、ディスプレイデバイス上の様々な点に表示される異なる色スペクトルには、一般に異なる感知色および輝度があり、これが基本的なカラー周波数スペクトル中の差を示す。
【0011】
8.ビン(Bin):空間周波数スペクトルをカラー周波数スペクトルとしてエンコードする場合、空間周波数グループは、その対応する大きさを組み合わせることで(この一例が大きさの和)1つにまとめられることができ、空間周波数をグループ化するごとに、「ビン(Bin)」と称するものを形成する。
【0012】
9.カラーマップ:カラーマップとは、1次元以上の図であり、このカラーマップ内では、図内の点に色が割り当てられる。本明細書に記載する好適な実施形態では、このカラーマップは、2次元の図の形態をとることができ、この図においてカラー周波数は、空間周波数をエンコードするために使用される。
【0013】
生物学的構造は、非疾患状態から疾患状態へ変化する際、または異なる機能状態間で変化する際に、サイズ、形状または構成が変化することがある。このような構造の多くは、大きな臨床的関心の対象である。例えば、血管形成過程では、血管の数および間隔が変化し、血管は、正常組織内の構成とは異なる構成になることがある。このような構造を迅速かつ生体内で調査する能力は、切望されている技能である。同じように、岩層のような物理的構造も、空間的または時間的に構造内に変化が起きることがある。
【0014】
例えば乳管または血管などの解剖学的構造の場合、対象となる多くのこのような構造のサイズは極めて小さく、現在の生体内イメージング技術、例えば核磁気共鳴画像法(MRI)を用いるイメージングは困難または不可能である。
【0015】
本来は3次元の技術であるMRIは、一般に3次元に変化する構造上の細部の測定に非常に適している。そのため、このような3次元構造を定量化し、表示する能力は、望ましい技能である。
【0016】
しかしながら、多くのより小さい物理的構造および生物学的構造を測定する必要のある高解像度のMRI画像診断は、患者の位置決定および安定化にも長時間の検査にも慎重を要する。さらに、高磁場システムを要することがある。このような高磁場システムにはおよそ200万ドルかかり、放射線専門家が監督する厳密に制御した環境に収容する必要がある。
【0017】
MRIは、フーリエ展開という数学を発展させたものに基づいており、このフーリエ展開は、1次元の繰り返し波形(例えば、線形位置に応じた信号の振幅)を、適切な係数(k値)を有し周期が縮小している(周波数が増加している)一連の正弦波形の和で表すことができるというものである。
【0018】
MRIでは、イメージングの対象物(身体部分)は、3次元の物体である。1次元におけるk値の基本概念は、2次元または3次元に拡大されることができる。ここで、一連のk値ではなく、k値の2次元または3次元マトリクスがあり、各k値は、試料内の特定の空間周波数および方向を表す。
【0019】
フーリエ解析では、k値から所望の波形(時変信号に対しては振幅対時間またはMRIの場合は画像強度対位置)への変換は、フーリエ変換を用いて達成される。簡単に言えば、このフーリエ変換は、周波数領域と時間領域との間で変換するための公知の手段である(時変信号の場合)。画像に関しては、MRIの場合のように、フーリエ変換は、空間周波数領域(一連の正弦波形およびその係数であり、k空間と呼ばれる)と、イメージングした各々のボリュームに対する信号強度の空間的配置(ボクセル)との間で変換するのに使用される。k値が所与の周期を含む正弦波形に対する係数である時変信号の場合と同様に、MRIの場合のk値は、所与の波長を含む正弦波形に対する係数である(この場合、波長は空間周波数に反比例する、すなわち、長い波長が低空間周波数である)。
【0020】
今日のMRI技術は、画像を取得するために多くの方法を使用するものである。実質的には、この技術はすべて、k空間係数を収集し、後にこれを1つの画像(または3D取得の場合は一連の画像)にフーリエ変換することに依存している。最も単純に抽象化すると、これは、イメージングする部分を強磁場に置き、水素原子核の共鳴周波数に調整したパルス化した高周波電磁信号を試料に送信することで試料内の水素原子核を励起することによって達成される。このパルスは、この核の共鳴周波数で核共鳴を開始させる。次に、試料内のどこから信号が始まるのかという情報を得るために、励起された水素原子のスピンは、その励起で取得中の所望のk空間データに相当する位相エンコードと周波数エンコードを組み合わせたものを用いてエンコードされる。(ここでは、位相および周波数は、水素原子核の共鳴周波数および位相に相当する)。これは、磁場を空間的かつ時間的に変調することによって達成され、これに応じて核の共鳴周波数を空間的に変化させ、その位相を変調する。その後、励起した試料の水素原子核から信号が戻され、k空間値は、その信号から抽出される。励起、エンコードおよび信号取得からなるこの過程は、試料内の所望の特徴部を分解するのに十分に高い空間周波数を用いて(フーリエ級数を構成するように適切に選択された)k空間値の全体的なマトリクスが取得されるまで繰り返される。最後に、k値のマトリクスは、フーリエ変換されて1つの画像または複数の画像が作成される。現在使用されている技術であるMRIシステムでは、このテーマの多くの変形例と拡大例がある。1つの手法では、周波数エンコードを用いてこれらの2Dスライスの各々に対してk値を生成する。
【0021】
信号処理分野では、時間周波数表現と呼ばれる時変信号のスペクトラルコンテンツを測定する技術が存在する。このような例の1つが、スペクトログラムである。スペクトログラムでは、スペクトル密度が信号に沿って時間とともにどのように変化するのかを示す図が生成される。スペクトル密度の測定値は、一連のバンドパスフィルタによって生じるか、あるいは、より多くの場合、短時間フーリエ変換(STFT)を信号に適用することによって生じる。STFT法の場合、所与の時間点に対して表示されるスペクトル密度は、通常、ある期間にわたってこの期間の両側に広がる領域(セグメント)のフーリエ変換から導き出される。
【0022】
米国特許公報第2006/0155186−A1号および米国特許公報第2007/0167717−A1号には、MRI技術を用いて3次元試料内の特定の場所および方向から空間周波数スペクトルを生成する技術が記載されている。これらの2つの特許公報は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0023】
米国特許公報第2007/0167717−A1には、現在のMRI技術を局在化したNMR分光法向けに修正したものを用いて、3次元試料内の特定の場所から空間周波数スペクトルを取得する方法が記載されている。この革新技術は、最も単純に抽象化すると、現在のNMR分光法のパルスシーケンスに対して勾配を読み出す方法の使用を追加し、その後の空間周波数解析のために、結果として生じたエコーを記録することである。このような技術は、選択した領域からスペクトルを生成するか、または試料の領域に対する結果の画像を生成する。このような方法は、骨梁の構造を解析するのに適用できるほか、生理的過程または疾患過程が原因で空間周波数パワースペクトルに差がある場合の疾患を解析または診断するのにも適用できる。様々な実施形態が開示されている。しかし、この適用例には、空間周波数パワースペクトルのカラー周波数へのエンコードが開示されていないため、これを「カラーマップ」として描くことができる。この適用例には、これを試料内の1つ以上のボリュームに適用して、対象物の1つの構造または複数の構造を表す画像を生成することも含まれていない。さらに、この適用例には、複数のカラーマップを同じ領域だが異なる方向および/またはその後の時間点に広げて使用することは含まれておらず、これによって、構造の異方性および時間的進展に関する情報を、望ましい方法で容易に評価し可視化することが可能になるであろう。
【0024】
空間周波数データのマッピングは、現時点では実施されていないため、先行技術はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】米国特許公報第2006/0155186−A1号
【特許文献2】米国特許公報第2007/0167717−A1号
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】信号およびそれに関連するスペクトログラムを示す図である。この信号は、3つの異なる領域を含んでいる。領域1は、1つの周波数のみを含み、領域2は、2つの異なる周波数を合わせたものを含み、領域3は、3つの異なる周波数を合わせたものを含んでいる。スペクトログラムは、周波数の空間分布を示し、1つの周波数、2つの異なる周波数および3つの異なる周波数を含むこれらの領域は、明確に示されている。
【
図2】空間周波数スペクトルの一例を示すグラフである。
【
図3】空間周波数データをカラー周波数データにエンコードする様子を示すグラフである。使用しているカラー周波数は可視域にあるため、ヒトの解釈用に表示することができる。変換関数自体は、所望するどのような変換関数であってもよく、例えば、疾患の進行過程を表す周波数または周波数範囲に特定色を割り当てる関数であってもよい。
【
図4】カラーマップから得た赤、緑および青のカラーチャンネルを示す図であり、生成画像にエンコードされた構造情報を示す。この場合、データは、9個の平行で水平なプリズムの集合からなる。
【
図5】(再度グレースケールで色付けした)カラーマップの一例を示す図である。この図は、任意の所与の点における色が、その点の周囲の領域で構造情報をエンコードする様子を示す。
【
図6】同じ領域の2つのカラーマップから得た緑チャンネルだが、プリズムがそれぞれの場合で異なる方向に走っている図である。各マップ内の同等の場所にある色の差が、その場所に存在する構造の異方性を示している。
【
図7】物質の試料(99)中を走るプリズムの集合(98)を示す図である。このプリズムのうちの1つの長さ(97)に沿ったプロファイルは(100)である。プロファイルの様々なセグメント(103)から、現れる複合色(102)を割り当てることで、カラーマップ(101)を生成できる。
【
図8】カラーマップ(111)およびそれに関連する基準画像(110)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
前述したように、本出願は、2009年2月20日出願の米国仮特許出願第61/154,030号の利益を特許請求する2010年2月22日出願の米国特許出願第12/710,065号の一部継続出願である。これらの先の出願には、生体試料または身体試料の構造情報を表す方法が記載されている。本方法では、試料内の空間分布を表す時間周波数は、データのカラー表現に変換される。さらに、データを収集する本方法は方向に敏感であるため、試料の構造的異方性に関する情報もデータからエンコードできる。本方法を試料内の1つ以上の領域に適用することで、存在する構造の量的測定値を明確に示すマップを生成することが可能になる。
【0028】
好適な実施形態では、米国特許公報第2007/0167717−A1号に開示されている方法を使用して、物質の試料ボリューム内の方向に沿った位置に対して存在する信号生成物質の測定値を生み出し、本明細書ではこの物質を「プリズム」と称する。好適な実施形態では、この試料ボリュームは、長方形のスティックまたはロッドであってよいが、実際には、任意の形状を形成するボリュームまたは領域を潜在的に使用してもよい。好適な実施形態では、この測定は、現在のMRI技術を修正したものを使用して実施されるが、当業者に自明の通り、他の技術を用いてプリズムのボリューム内の構造の空間分布に関して収集した情報に対し、以下に記載する解析を行ってもよい。
【0029】
実際、ボリューム内の位置を含む物質の量を測定すると、ボリューム内の位置に応じて変化する信号が生じる。この信号の大きさは、プリズム内に含まれる物質の何らかの測定値を表している。例として、これは、物質の有無、または物質の密度である可能性がある。しかし、物質の特性を任意の数だけ測定できるが、位置に対する信号が、プリズムに沿った位置に応じた何らかの物理的特性の測定値を提供する、突出した点は除く。この位置に対する信号を「プロファイル」と称し、当業者に自明の通り、この信号は、位置に応じて測定可能な任意の物理的特性を表すことができる。好適な実施形態では、この測定値は、プリズムに沿った位置を含む磁気共鳴信号強度とすることができる。
【0030】
通常、信号処理技術は、何らかの信号が時間とともに変化するのを測定するものである。この技術を使用して、信号全体の長さよりも短くてよい信号領域を選択できるとともに、この領域内の信号を調査することができる。この調査を実施する対象である領域を、「関心領域」または「ROI」と称する。プロファイルデータの場合、同じ技術をこの情報に容易に適用できるが、信号の変化は、時間ではなく位置に応じて起こる。信号処理分野では、信号の周波数成分を推定する多くの技術が存在する。時間ではなく位置に応じて変化する信号にこのような技術を適用する場合、周波数成分に相当するものは、プロファイルに沿った空間変化の周波数の測定値である。これを考察するために、これを「空間周波数」と称する。信号の周波数成分を推定するために使用する技術は、一般に、信号中に存在する周波数分布の何らかの測定値をもたらすか、あるいは所与の周波数で存在する信号量を推定するものである。好適な実施形態では、プロファイルの領域に存在する空間周波数の量および分布の推定値を算出する信号処理技術を適用することにより、プロファイルの空間周波数成分の測定値を生成する。この空間周波数の量および分布の推定値を、「空間周波数スペクトル」と称する。
【0031】
本発明は、物理的構造または生物学的構造を可視化するための、先行技術よりも遙かに簡易で洗練された対策である。例として、この構造は、軟組織構造を含む体内構造などである。
【0032】
この実施形態では、時間周波数表現(例えばスペクトログラム)を使用してプロファイルデータを表す。スペクトログラムでは、プロファイルに沿った距離に応じてスペクトル密度がどのように変化するのかを示す図が生成される。MRIデータは一般にデジタル式に表現されるため、スペクトル密度を測定する好適な方法は、プロファイルからの短時間フーリエ変換(STFT)の計算を経て行われる。スペクトログラムの一例を
図1に示す。この適用例における時変信号に相当するものはプロファイルであり、このプロファイルは、距離に応じて変化する。この場合、時間周波数表現は、プロファイルに沿った距離に応じたスペクトル密度の変化を示す。
【0033】
そのため、スペクトログラムの距離軸に沿った各点は、その点の周囲にある程度広がる材料領域のスペクトル密度を示す。スペクトログラムの最も一般的な形では、プロファイルに沿った各点は、一連の「空間周波数」からなる空間周波数スペクトルを有し、それぞれのスペクトルが、それに関連する「大きさ」を含み、この大きさは、その空間周波数値で存在する構造の相対比または絶対比を示す。これを
図2に示す。この大量のデータを有意に表示するために、空間周波数には対応する「カラー周波数」を割り当て、変換関数を使用して、各空間周波数の「大きさ」のデータポイントをカラー周波数の「強度」としてエンコードする。これを
図3に示す。これらのカラー周波数を組み合わせ、これらのカラー周波数に関連する強度で重みを付けることで、最終的な複合色の値が生じ、この値が、スペクトログラムの距離軸に沿ったその位置に対する全空間周波数を表す。これは、プロファイルに沿って1つ増加するごとに実施されて、距離に対する色の線形図を生成する。
【0034】
空間周波数スペクトルは、次のような多くの方法でカラー周波数にエンコードされてよい:a)各空間周波数を所与のカラー周波数にエンコードして、カラー周波数が空間周波数と同数になるようにする、b)空間周波数グループをこれよりも数の少ない空間周波数グループに組み入れることによって、カラー周波数の数を減らすことができる(これを「ビン」と称する)、またはc)フルセットの代わりに空間周波数のサブセット(連続したサブセット、または空間周波数範囲にわたって分布するサブセットを選択したもの)を使用し、これらのサブセットにカラー周波数を割り当てる。
【0035】
所与の空間周波数に対応するカラー周波数の強度は、所与の周波数での空間周波数スペクトルの大きさの相対値または絶対値から計算される。空間周波数の大きさのカラー周波数強度への変換は、線形的なものとすることができるか、あるいは別の伝達関数を含んでいてもよい。このほか、個々のカラー周波数は、同じかまたは互いに異なる伝達関数を含んでいてもよい。一連の伝達関数は、調査対象の特定構造に左右される空間周波数データの表現を高めるために、様々なものがある。
【0036】
プロファイルのセグメントの空間周波数スペクトルから生じる複合色は、次の多くの方法で表現されることができる;a)空間周波数スペクトルを生成するために使用したセグメントの中間点で、プロファイルに沿った点に割り当てる、b)空間周波数スペクトルの生成に使用したセグメントの広がりを示すために、強度に重みを付けた(例えば、周波数解析に使用した同じ窓関数で重みを付けた)プロファイルに沿った点の範囲に割り当てる。
【0037】
1つ以上のプリズムをこのように解析し、関心領域を十分にカバーするように構成することができる。これは、重なっているかまたは重なっていない平行なプリズムアレイ、関心領域中に様々な角度をなして位置するプリズムなどを含むがこれに限定されない。
【0038】
空間周波数データに色を割り当てることで、「カラーマップ」を生成することができ、このカラーマップによって、空間周波数データの空間分布を、対象の解剖学的特徴部に照らし合わせて解釈することができる。カラーマップから得た赤、緑および青のチャンネルの一例を
図4に示す。
【0039】
空間周波数の解析技術は、方向に敏感である。したがって、同じ関心領域を異なる角度で通過するプリズムの場合、所与の領域にわたる角度に応じた空間周波数分布に関する情報は、このデータを正確に解析し、解釈することで確実なものにすることができる。生物学的構造またはその他の構造は、異方性である可能性があるため、この方法によって、所与の解剖領域(疾患領域など)における構造の異方性に関する有益な情報を得ることができる。この方法で異方性を強調表示できる手法の一例を
図6に示す。
【0040】
このように、1つ以上のプリズムからなる連続集合体を同じ解剖領域から収集することができる。一般に、さらに多くのプリズムの集合体は、最初の集合体に対して様々な角度を向いていることがある。連続する時間点でデータを収集することにより、データを収集した各時間点でカラーマップを生成することができ、データは、画像の連続または映像アニメーションとして表示される。このようにすることで、時間の経過とともに起きる構造内の変化を可視化することが可能になる。
【0041】
以下は、標本内の位置の関数として空間周波数とその大きさをそれぞれ表す色調および強度を含む、空間周波数のカラーマップを生成する方法のステップごとの説明である。この簡潔な説明は、この方法の基本的な実施例を示すものである。
図7を参照すると、第1のステップは、プリズム(97、98)からなる1つのアレイに沿った位置に対する信号の大きさ(プロファイル)を取得するステップである。
図7では、アレイは、断面が正方形の隣接するプリズムからなる平行なアレイとして示されている。一般に、プリズムの断面は任意のもので、解析用の標本(99)の領域を適切にカバーするために選定した構成のものとすることができる。次のステップは、各々のプロファイル(100)の複数のセグメントを解析するステップである。セグメント長(103)は、所望の構造的特徴部が見えるには十分に長い(例えば、その構造的特徴部の波長よりも長い)が、プリズムより短くなるように、部分的に選定される。
【0042】
選定したセグメント長を用いて、解析用の標本(99)の領域の各セグメントにおける空間周波数の分布を表示したいと所望する数だけ、隣接するまたは重なるセグメントに対して空間周波数解析を実施する。これらの各々のセグメントに対し、色分布は空間周波数の範囲と関連し、各色はそれぞれの周波数に対応し、各色の強度は、それぞれの空間周波数の大きさと関連している。そのため、多色および強度は、伝達関数を基に計算される。多色およびその強度は、色の組み合わせおよび各セグメントに対するそれぞれの色の大きさを表す。
図3を参照すると、この伝達関数は、多くの形式をとることができる。この例では、空間周波数スペクトル内に存在する高空間周波数の強度は、高周波数の色(例えば青)に対する強度に寄与し、低空間周波数は、中間の連続体を含む低周波数の色(例えば赤)に寄与する。再度
図3を参照すると、これは、複合した多色スペクトルをもたらし、このスペクトルが、プリズム(102)に沿った適切な場所で表示されて、プリズム(101)に沿った位置の関数として空間周波数分布を表す、1次元で色をマッピングした表現をもたらす。
図7による図解は、解析したセグメントの中間点の複合色を描く様子を示し、これに対して色は、解析したセグメントの全長に対応して分布する形で描かれることができる。これは、中間点で最大となって両端に向かって強度がテーパ状になるような重みを付けた形であってよい。次に、色が
図8の(111)に示すようなマップを生成するように、1次元で色をマッピングした画像(101)を適切な相対的関係でアレイ状にすることで、2次元マップを生成する。これに対して、複合色は崩れてその色成分になることがあり、三原色の各色のマップを提供するように、各色成分用のマップを提供する。カラーマップとして同じ規模かつ同じ向きで示される基準画像(110)(磁気共鳴画像またはその他の様式)を追加することで、解析する標本に対するカラーマップを解釈するための空間基準が提供される。
【0043】
標本から取得した信号に関する空間周波数解析の実施結果は、信号を取得した対象である領域のうちの選択したセグメントに限定し、スペクトル周波数の1つ以上の範囲に限定したとしても、振幅値および位相値として、または実数部および虚数部の値として表現されてよい複素数値をもたらすことがある。出力値を提供するために使用した際に空間周波数解析から得られた実際の値は、一般にどのように使用するとしても、どの値がより多くの情報を提供するのか、あるいはより容易に所望の情報を示すのかによって異なり、振幅、位相、実数部または虚数部についての単一の解析を含むこともあれば、2つ以上の解析を含んで、各解析がこれらの値のうちの1つにそれぞれ対応することもある。
【0044】
そのため、(
図3に示すような)空間周波数または空間周波数範囲を表すために一般に色を使用し、空間周波数スペクトルの大きさ(それぞれの位相とは無関係の振幅)を表示色の強度としてマッピングする方式に加えて、空間周波数スペクトルの特徴を色もしくは強度またはこの両方として表示する(マッピングする)、その他の多数の望ましい手法がある。その他の手法の1つは、対象(例えば、初期段階の肝線維症に関連する特徴的な波長)の空間周波数範囲を識別し、この空間周波数範囲内の(平均)振幅またはその他の値(例えば、グレースケールの白黒または特定色)を、選定したモノクロ表示の強度としてマッピングする(表示する)という手法である。この手法は、標本の同じ領域の他の画像の上に重ねた半透明のオーバーレイとして描いた場合に、特に有益となる。これは、このオーバーレイを正確な縮尺にして行われ、オーバーレイに表示された空間周波数データが、このオーバーレイを上に重ねる他の画像の領域からのものになるようにする。
【0045】
もう1つの手法は、マップに表示された色が強度を表す「疑似カラー」方式を使用するという手法である。このほか、スペクトルの特徴で決まるものとは異なる組織タイプを示すために色を使用してもよい。例えば、疾患の特徴がある構造の空間周波数範囲を赤にし、健康な構造を緑にする。もちろん逆に、これには、空間周波数解析の結果を解析するアルゴリズムを作成して、健康な構造に対して何が疾患を来たしたものであるかを結論付けることが求められる。これは、単純に赤または緑の表示であってよいが、何らかの疾患領域にある重みの付いた2色の混合色になることの方が多い。
【0046】
さらに他の1つの手法は、ハイパースペクトルイメージングなどであるが、これに限定されない分野のスペクトル解析技術を使用して、マップとして表示できる測定基準を開発するという手法である。このような測定基準は、サンプリングした領域に対するスペクトルと1つ以上の基準スペクトルとの比較結果、または領域内のスペクトルを種類ごとに自動分類した結果を表すことができる。基準スペクトルをいつ使用しても、その基準スペクトルは、疾患の進行または寛解をより迅速に強調表示するために、初期から同じ構造のスペクトルであることがあり、またはこのスペクトルを含むことがある。
【0047】
本明細書の他の部分に開示したように、空間周波数スペクトルの様々な周波数帯の1つ以上の特徴を表示するマップを生成することのほか、標本内の空間周波数スペクトルの突出した特徴部がある場所から別の場所まで変化しているという他の特徴を表すマップを生成することができる。疾患状態は、2つ以上の異なるセンチネルの空間周波数範囲で空間周波数を解析した結果の比率を特徴とすることがあり、例えば、健康な組織(構造)であれば、小さい波長と大きい波長の構造的特徴部の量が比較的同等である可能性があるのに対し、疾患を来たした組織であれば、小さい方の特徴部に対して大きい方の構造が2倍以上あることがある。各範囲に対する平均は、この目的に使用されることがある。他の1つの例は、構造が異方性である場合のものである(すなわち、試料内で方向が異なると、異なる空間周波数[波長]が表示される)。この場合、平行以外の方向を向いた複数のプリズムからのスペクトルを使用してマップを生成できる。
【0048】
このように、空間周波数解析は、特定の標本では、周波数範囲または対象の範囲に限定されることがあり、空間周波数解析から得られる値は、単純に振幅もしくは大きさ、または振幅および位相、または実数部および虚数部であってよい。これらのいずれであっても、カラーまたはモノクロでの出力または表示(マッピング)に使用でき、何らかの他のアルゴリズムに従って直接または比率もしくは差の通りに使用できる。少なくともいくつかの場合において、標本の所定領域に沿った位置に対する信号が取得され、解析を所望する標本の構造的特徴部よりも長く、標本のそれぞれの領域よりも短いセグメント長が選択され、領域に沿った隣接するまたは重なるセグメントの各々に関する空間周波数解析が行われ、単独または基準スペクトルと一緒のその空間周波数解析の結果は、各セグメントのスペクトル解析を特徴付けるために使用され、図(標本の領域に沿った各セグメントの特徴を表したもの)を形成し、グレースケールもしくはモノクロ(固定色)、または固定強度のカラーバリエーションもしくは色の組み合わせおよび色の強度で表示して出力し、典型的には、単独で、または出所は異なるが標本の領域が同じである縮尺した画像として、画像のオーバーレイ(またはアンダーレイ)を視覚的に感知できる表示を形成する。
【0049】
本明細書では、限定する目的ではなしに、本発明の特定の好適な実施形態を開示し、説明してきたが、本明細書の形式および細部には、本発明の精神および範囲を逸脱しない限り様々な変更を加えてよいことは、当業者には理解されるであろう。したがって、添付の特許請求の範囲が、このような変形例を包含するために、先行技術に照らして可能な限り広義に解釈されることを意図している。